【実施例】
【0039】
1.実験材料及び方法
1)2-Trichlorogermyl cyclohexanecarboxylic acid(2-(トリクロロゲルミル)シクロヘキサンカルボン酸)及び2-Trihydroxygermyl cyclohexanecarboxylic acid(2-(トリヒドロキシゲルミル)シクロヘキサンカルボン酸)の合成
【化6】
30 mlナス型フラスコに1-シクロへキセン-1-カルボン酸(1.13 g, 9 mmol)を秤量し、容器内を減圧乾燥した。その容器にconc. HCl(3.5 ml)を添加した後、氷冷下でconc. HClに溶解したトリクロロゲルマン(0.93 ml, 10 mmol)をゆっくり滴下し、室温で12時間撹拌した。反応後、析出する固体を吸引ろ過し、残渣をconc. HClで3回洗浄することにより、白色結晶として2-(トリクロロゲルミル)シクロヘキサンカルボン酸(1.15 g, 42%)を得た。
得られた2-(トリクロロゲルミル)シクロヘキサンカルボン酸(306 mg, 1 mmol)を水(5 ml)に溶解しpH 7.0付近になるよう水酸化ナトリウム水溶液(40wt%)を用いて中和することにより、目的の2-(トリヒドロキシゲルミル)シクロヘキサンカルボン酸を得た。
【0040】
2)2-Trichlorogermyl cyclopentanecarboxylic acid(2-(トリクロロゲルミル)シクロペンタンカルボン酸)及び2-Trihydroxygermyl cyclopentanecarboxylic acid(2-(トリヒドロキシゲルミル)シクロペンタンカルボン酸)の合成
【化7】
30 mlナス型フラスコに1-シクロへプテン-1-カルボン酸(1.01 g, 9 mmol)を秤量し、容器内を減圧乾燥した。その容器にconc. HCl(3.5 ml)を添加した後、氷冷下でconc. HClに溶解したトリクロロゲルマン(0.93 ml, 10 mmol)をゆっくり滴下し、室温で12時間撹拌した。反応後、析出する固体を吸引ろ過し、残渣をconc. HClで3回洗浄することにより、白色結晶として2-(トリクロロゲルミル)シクロペンタンカルボン酸(2.05 g, 78%)を得た。
得られた2-(トリクロロゲルミル)シクロペンタンカルボン酸(292 mg, 1 mmol)を水(5 ml)に溶解しpH 7.0付近になるよう水酸化ナトリウム水溶液(40wt%)を用いて中和することにより、目的の2-(トリヒドロキシゲルミル)シクロペンタンカルボン酸を得た。
【0041】
3)3-Trichlorogermyl bicyclo[2.2.2]octane-2-carboxylic acid(3-(トリクロロゲルミル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸)及び3-Trihydrogermyl bicyclo[2.2.2]octane-2-carboxylic acid(3-(トリヒドロキシゲルミル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸)の合成
【化8】
10 mlナス型フラスコにシクロへキサジエン(160 mg, 2.0 mmol)とプロピオン酸(70 mg, 1.0 mmol)を秤量し、容器内をArガスで満たした。その容器にジクロロメタン1mlと触媒としてortho-bromophenyl boronic acid(40 mg, 0.2 mmol)を加え、25℃で48時間撹拌した。得られた反応物はカラムクロマトグラフィー(SiO
2)を用いて分離精製した。得られたジエン化合物(600 mg)を酢酸エチル(5ml)に溶かし、5%パラジウム炭素(12mg)触媒存在下で還元した。
【0042】
上記で得られたbicyclo[2.2.2]oct-2-ene-2-carboxylic acid(2.98 g, 9 mmol)を30 mlナス型フラスコに秤量し、容器内を減圧乾燥した。その容器にconc. HCl(3.5 ml)を添加した後、氷冷下でconc. HClに溶解したトリクロロゲルマン(0.93 ml, 10 mmol)をゆっくり滴下し、室温で12時間撹拌した。反応後、析出する固体を吸引ろ過し、残渣をconc. HClで3回洗浄することにより、白色結晶として3-(トリクロロゲルミル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸(655 mg, 22%)を得た。
得られた3-(トリクロロゲルミル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸(292 mg, 1 mmol)を水(5 ml)に溶解しpH 7.0付近になるよう水酸化ナトリウム水溶液(40wt%)を用いて中和することにより、目的の3-(トリヒドロキシゲルミル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸を得た。
【0043】
4)細胞培養
本実験で用いたマウスマクロファージ様細胞株であるRAW264.7細胞、イヌ腎臓尿細管上皮胞由来の細胞株であるMDCK細胞、ヒト胎児腎細胞株であるHEK293T細胞はATCCより購入した。いずれの細胞もDMEM(Dulbecco’s modified eagle medium, Nissui)に0.1%炭酸水素ナトリウム溶液、4 mM L-glutamine(Gibco)、10%FBS(Fetal bovine serum、ウシ胎児血清、Gibco)を加えた培地を製品プロトコルに従って用いて、37℃、CO
2濃度5.0%に設定されたインキュベータで培養した。実験に用いる際は前日に、RAW264.7細胞は12 wellプレート(BD Biosciences)に2×10
5個播種し、MDCK細胞は12 wellプレートに3×10
5個播種し、HEK293T細胞は12 wellプレート(BD Biosciences)に2×10
5個播種した。
【0044】
5)THGP及びTHGP誘導体の水溶液の調製
1 gのGe-132(浅井ゲルマニウム研究所)を水酸化ナトリウムで中和し、減菌水に溶解させ、塩酸でpHを7.0に調節した。10 mLにメスアップした後、0.22μmメンブランフィルターによる滅菌を行い、THGP濃度が100 mg/ml、10 mg/ml、1 mg/ml、0.1 mg/ml の各溶液を用意した。同様に、2-(トリクロロゲルミル)シクロペンタンカルボン酸及び2-(トリクロロゲルミル)シクロヘキサンカルボン酸から、2-(トリヒドロキシゲルミル)シクロペンタンカルボン酸及び2-(トリヒドロキシゲルミル)シクロヘキサンカルボン酸の水溶液をそれぞれ調製した。
【0045】
6)THGPによる細胞刺激
THGPによる細胞の刺激は、THGPの最終濃度が2μg/ml、20μg/ml、200μg/ml、2000μg/mlである培養液中で対象細胞を培養することにより行った。
【0046】
7)3pRNA及びタグ付3pRNAの調製
3pRNA(5'-triphosphate RNA)は、Takahashiら(J. Biol. Chem., 2009, Vol. 284, pp. 17465-17474)、Hayakawaら(Nat. Immunol., 2011, Vol. 12, pp.37-44)、Satoら(Immunity, 2015, Vol.42, pp. 123-132)の方法に準じて、MEGAscript(登録商標) T7 Kit(Ambion)を用いて、鋳型DNA(センス鎖:TAATACGACTCACTATAGGGAAACTAAAAGGGAGAAGTGAAAGTG(配列番号1)、アンチセンス鎖:CACTTTCACTTCTCCCTTTTAGTTTCCCTATAGTGAGTCGTATTA(配列番号2))をin vitroにて転写を行った後、ISOGEN(ニッポンジーン)を用いてRNAを精製することで調製した。また、Label IT (登録商標) Biotin Labeling Kit(Mirus)又はLabel IT(登録商標) Nucleic Acid Labeling Kit, CX -Rhodamine(Mirus)を製品プロトコルに従って使用して、ビオチン化3pRNA及びRhodamine -3pRNAを作製した。
【0047】
8)核酸刺激
核酸による細胞刺激は、Lipofectamine 2000 Reagent(Invitrogen)を製品プロトコルに従って使用して、OPTI-MEM(Invitrogen)で希釈した3pRNA又はpolyI:C(Invitrogen)(最終濃度1μg/ml)を対象細胞に取り込ませることで行った。
【0048】
9)定量RT -PCR法
ISOGENを用いたチオシアン酸グアニジンフェノールクロロホルム法にて対象細胞から全RNAの回収を行い、DNase及びRNase freeの水に溶解した。水溶液にDNase I(Invitrogen)を加えて25℃で15分間反応させることでDNase処理を行い、さらに25mM EDTA 1μlを加えて65℃で10分間反応させることでDNase Iを失活させた。その後、ReverTra Ace(登録商標) qPCR RT Kit(Toyobo)を用いてRNAを逆転写し、cDNAを合成した。SYBR(登録商標) Premix Ex TaqTM(Takara)を用いたインターカレーター法で、95℃10秒間の初期変性、95℃5秒間の変性、60℃30秒間のアニーリング及び伸長反応の2ステップを50サイクル行う条件で定量的PCRを行い、StepOnePlusTM Real Real -Time PCR System(Applied Biosystems)で定量し、ΔΔCt法にて解析した。内部標準としてはGapdhを使用した。使用したプライマーの配列を表1に記す。
【表1】
【0049】
10)ウイルス感染
EMCV(encephalomyocarditis virus、東京大学 谷口維紹博士より分与)の場合、培養液をFBSを含まないDMEMに替え、1.0 MOIになるようにEMCVを加えて感染させ、1時間後に培養液に最終濃度が10%になるようにFBSを加えた。インフルエンザウイルスPR8(strain A/Puerto Rico/8/1934H1N1、北海道大学 高田礼人博士より分与)の場合、培養液を0.0005%トリブシンを含むFBSを含まないDMEMに替え、1.0 MOIになるようにPR8を加えて感染させ、1時間後に培養液に最終濃度が10%になるようにFBSを加えた。
【0050】
11)Plaque-forming assay法
RAW264.7細胞に1.0 MOIになるようにPR8を感染させ、24時間後の上清を10
-1から10
-6に希釈し、MDCK細胞に感染させた。感染から1時間後に上清を除去し、MEM/Bacto Agar/trypsin混合液(1×MEM(Gibco)、0.3%BSA、0.28%NaHCO3、1×MEM Amino Acids Solution(Gibco)、1×MEM Vitamine Liquid(Gibco)、2 mM L Glutamine、1×Penicillin Streptomycin Solution、0.0005%trypsin、0.8%BactoAgar)で細胞を固定し、感染から2日後にプラークの数を数えることで、PR8数を測定した。
【0051】
12)THGPと3pRNAの混和試験
各濃度のTHGPと75μgの3pRNAとを混和し、37℃で30分間インキュベートした。その後、10×Loading bufferを加え、2% アガロースゲルで電気泳動を行った。SYBR Gold nucleic acid gel stain(Molecular probes)で30分間反応させた後、LAS-1000LC(富士フイルム)を用いて発光を測定した。
【0052】
13)FACS
対象細胞を2% FBS-PBSに懸濁し、セルストレーナキャップ付きチューブ(Falcon)に入れた。FACS Cantoll(BD)で細胞中の蛍光を測定し、全部で2000個の細胞を数え、蛍光色素を含んだ細胞の割合を算出した。
【0053】
14)細胞染色・固定・共焦点顕微鏡
12 well -Plate(BD FALCON(登録商標))の底にカバースリップを敷き、その上にRAW264.7細胞を2.0×10
5個/wellずつ播種し、24時間後に培地にTHGPを加え、さらにRhodamine -3pRNAを加えて刺激を行い、37℃で5時間インキュベートした。4 %パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液(Wako)を用いて室温で10分間インキュベートすることで細胞を固定し、0.2 %Triton -X100を用いて室温で15分間インキュベートすることで細胞膜透過処理を行った。その後、1%BSAを用いて4℃で一晩ブロッキングを行い、Blocking Concentrate(MBL)で10分間静置した。その後、抗体としてStreptavidin、DyLight 649(VEC)を200倍希釈したものを用いて37℃で1時間インキュベートした。松浪スライドグラス(松浪硝子工業株式会社)にSlowfade(登録商標) Gold anti -fade Reagent(Invitrogen)を封入剤として滴下し、その上にカバーガラスを置くことでサンプルを作製した。細胞内局在観察はFV -1000D(OLYMPUS)を用いた。
【0054】
15)リコンビナントRIG-Iの作製
Bac -to -Bac baculovirus expression system(Invitrogen)を使用してグルタチオン-S-トランスフェーゼ(GST)とRIG-Iとの融合タンパク質をコードする遺伝子を発現可能に有するベクターを作製し、Sf -9細胞を形質転換させた。0.25%Gentamicin Reagent Solution(Gibco)及び5.0%FBS(Fetal bovine serum、Gibco)を添加したSf -900TM II SFM(1×)(Gibco)中で形質転換細胞を培養して、前記融合タンパク質を発現させた。培養後の細胞から回収したタンパク質をGlutathione Sepharose 4B(GE HEALTHCARE)に通してGST-RIG-Iを回収し、リコンビナントRIG-Iとして用いた。
【0055】
16)in vitro RNA pull down assay
Lysis buffer(20 mM HEPES、150 mM NaCl、1 mM EDTA、1%NP -40、1 mM PMSF)中で各濃度のTHGPとビオチン化3pRNA 0.1μgを室温で30分間、穏やかに転倒混和した。その後GST-RIG 3μgを加え、さらに室温で1時間転倒混和した。次に、Dynabeads M -280 Streptavidin(Invitrogen)を加え室温で1時間転倒混和し、ビーズをwash buffer(20 mM HEPES、150 mM NaCl、1 mM EDTA、0.5%NP -40)で3回洗浄し、2×sample bufferを20μl加えた後、100℃で5分間ボイルした。これを10%ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS-PAGEにより展開した。SDS-PAGE後のゲルを回収し、PVDFメンブレンに130mAの定電流で70分間トランスファーした後、メンブレンを5%スキムミルクで1時間ブロッキングし、1/1000の濃度の1次抗体(GST(B-14):sc-138(Santa Cruz Biotechnology))を含んだSolution 1(TOYOBO)を加えて4℃で一晩反応させた。その後、メンブレンを10分間×3回洗浄し、1/5000の濃度の2次抗体(Anti-mouse IgG HRP -linked Antibody Cell Signaling Technology)を含んだTBS -Tを加えて1時間反応させた。その後、メンブレンを10分間×3回洗浄し、LAS -4000(GE Healthcare)を用いてPierce(登録商標) Western Blotting Substrate Plus(Thermo SCIENTIFIC)による発光を計測した。
【0056】
17)THGP固定化カラムを用いた吸着試験
THGP固定化カラム(島田康弘、岩手大学大学院連合農学研究科博士学位論文、2016年に準じて作製)を0.7M NaOHで前処理し、RNase freeの水でpH7になるまで水洗した。コントロールとしてRNase freeの水で水洗したGSTビーズ(GE HEALTHCARE)を用いた。50μlの約0.5mg/ml 3pRNA、poly I:C又はニシン精子DNA(HT -DNA)をTHGP固定化カラム又はGSTビーズに添加し、室温で30分間静置した。その後、溶出液中の核酸濃度を、微量紫外可視分光度計Q5000(トミー精工)を用いて測定した。
【0057】
18)マウスへの3pRNA刺激及びTHGPの投与
ΔβLucマウス(IFN -βの遺伝子部分をルシフェラーゼに置換したマウス、Dr. Stefan Lienenklausより入手、Lienenklaus et al. J Immunol, 183, 3229-3236, 2009)への3pRNA刺激は、In vivo jetPEI(Polyplus transfection)を製品プロトコルに従って使用し、3pRNA 10μgをN/P比が10になるようにして経鼻投与することで行った。またTHGPの投与は、NaClを含まないPBSでTHGPを3倍希釈して最終濃度33.33 mg/mlとし、3pRNA刺激の24時間前、3時間前及び3時間後にTHGP溶液を経鼻投与することで行った。
【0058】
19)in vivo Imaging System
VivoGlo TM Luciferin、In Vivo Grade(Promega)を50 mg/mlに調整し、400μlを腹腔に投与し、15分後にIVIS Spectrum(Xenogen)を用いて蛍光測定を行った。
【0059】
20)ELISA
Mouse IL -6 Quantikine ELISA Kit(R&D Systems)を製品プロトコルに従って使用して、2倍に希釈した血清からサンプルを作製し、POWERSCAN4(DSファーマ)を用いて蛍光測定を行った。
【0060】
2.実施例
1)RIG-Iと3pRNAとの結合へのTHGPの影響
RIG-Iと3pRNAとの結合に対するTHGPの影響をin vitro RNA pull down assay法で調べたところ、THGPの存在によってRIG-Iと3pRNAの結合量が減少することが確認された(
図1a)。さらに、THGP固定化カラムを用いた吸着試験を3pRNA、poly I:C及びHT -DNAについて行った結果、HT -DNA及びpoly I:Cと比較して、3pRNAがTHGP固定化カラムにより多く吸着することが確認された(
図1b)。
【0061】
2)3pRNA分解へのTHGPの影響
THGPと3pRNAを混和してアガロースゲル電気泳動を行った結果、THGPを混和しても3pRNA量は変化しない、即ち分解されないことが確認された(
図2)。
【0062】
3)3pRNA細胞内取り込みへのTHGPの影響
RAW264.7細胞の培地にTHGPを加え、Rhodamine-3pRNAで刺激した。刺激から5時間後の細胞を共焦点顕微鏡を用いて観察し、3pRNAを取り込んだ細胞数をカウントし、またFACSを用いて3pRNAを取り込んだ細胞の割合を測定した。その結果、THGP無添加と比較して、3pRNAを取り込んだ細胞の割合に変化は見られなかった(
図3)。以上の1)〜3)の結果から、THGPはRIG-Iとそのリガンド3pRNAとの結合を阻害することでRIG-Iシグナルを阻害するものと推察された。
【0063】
4)MDA5経路へのGe-132の影響
RAW264.7細胞の培地に最終濃度が0μg/ml、2μg/ml、20μg/ml、200μg/ml、2000μg/mlのTHGPを加え、24時間後にpoly I:Cで刺激した。刺激から8時間後に細胞から全RNAを回収し、定量的RT -PCR法でmRNA量を測定した。その結果、THGPで前処理をしてもIFN-βのmRNA量の増減は観察されなかった(
図4a)。polyI:Cの刺激をMDA5シグナルを活性化させることが知られているEMCVの感染に代えて同様の実験を行った場合も、IFN-βのmRNA量の増減は観察されなかった(
図4b)。以上から、RIG-Iとの高い相同性を持ちRNAヘリカーゼ様ドメインを有する細胞内タンパク質であるMDA5との結合を介してIFN-βの発現を誘導することが知られているpoly I:Cと対照的に、THGPはMDA5を介したIFN-βの産生誘導に影響を与えないものと推察された。
【0064】
5)ウイルス複製へのGe-132の影響
RAW264.7細胞を最終濃度が0μg/ml、2μg/ml、20μg/ml、200μg/ml、2000μg/mlのTHGPでそれぞれ24時間前処理した後、1.0 MOIのインフルエンザウイルスPR8を感染させ、24時間後に上清を回収し、MDCK細胞を用いたplaque-forming assay法でウイルス量を測定した。その結果、THGPの存在によりウイルス数は減少傾向にあることが確認された(
図5c)。また、感染から24時間時のRAW264.7細胞のIFN-βのmRNAとPR8のNP(Nuclear protein)のmRNAとを定量的RT -PCR法で定量した。その結果、IFN-βのmRNA量とPR8のNPのmRNA量は、THGP濃度依存的に低下する傾向が観察された(
図5a,b)。この結果は、THGPがIFN-βの産生誘導を抑制する機能を有し、またRNAウイルスであるPR8の複製又は増殖を抑制する機能を有することを示す。
【0065】
6)マウスへの3pRNA刺激に対するTHGPの影響
ΔβLucマウスに3pRNAを経鼻投与し、3pRNA刺激の前後に計3回THGP(用量134.4 mg/kg体重)又はPBSを経鼻投与した。3pRNA刺激から12時間後及び24時間後にIVIS imaging systemを用いて胸部及び頭部の蛍光を測定してIFN -βのプロモーター活性を定量した。その結果、PBSを投与したマウスと比較して、THGPを投与したマウスではIFN -βプロモーター活性の減弱が観察された(
図6a)。
【0066】
また、6週齢の雄性Balb/cマウスに水疱性口内炎ウイルス(VSV、北海道大学 高田礼人博士より分与)を1×10
7 pfuで20μlのPBSにて感染させた。VSV感染の24時間前、3時間前、3時間後、24時間後、48時間後及び72時間後に、THGP(用量3.8 mg/kg体重、152 mg/kg体重)又はPBSを経鼻投与した。マウスから経時的に血液を採取し、血清中のIL -6タンパク量をELISAで測定した。VSV感染の24時間後及び72時間後の血清中IL -6タンパク量を
図6bに示す。PBSを投与したマウスと比較して、THGPを投与したマウスではIL -6のタンパク量が用量依存的に減少することが確認された。
【0067】
7)THGP誘導体のIFN-βプロモーター活性抑制効果の確認
HEK293T細胞に、IFN-βプロモーターの制御下にホタルルシフェラーゼ遺伝子を発現可能に有する発現ベクターp125-Luc(京都大学 藤田尚志博士より分与、Yoneyama et al., J. Biochem. 120: 160-169, 1996)及びウミシイタケルシフェラーゼを恒常的に発現する発現ベクターpRL-TK(Promega)をco-transfectionして24時間培養した後、最終濃度が0μM、1μM、10μM、100μM、1000μMのTHGP又はTHGP誘導体である3-(トリメチルゲルミル)プロパン酸、2-(トリヒドロキシゲルミル)シクロペンタンカルボン酸若しくは2-(トリヒドロキシゲルミル)シクロヘキサンカルボン酸でそれぞれ24時間処理した。次いで3pRNA(最終濃度1μg/mL)を用いて核酸刺激を24時間行った後、Dual-Luciferase Reporter Assay System(Promega)によりホタルルシフェラーゼ及びウミシイタケルシフェラーゼ活性を測定し、IFN -βのプロモーター活性をウミシイタケルシフェラーゼ活性に対するホタルルシフェラーゼ活性の相対値として表した。使用したTHGP誘導体のうち、2-(トリヒドロキシゲルミル)シクロペンタンカルボン酸及び2-(トリヒドロキシゲルミル)シクロヘキサンカルボン酸はTHGPよりもIFN-βプロモーター活性を強く抑制することが確認された(
図7、図中のTHGP誘導体1は3-(トリメチルゲルミル)プロパン酸、THGP誘導体2は2-(トリヒドロキシゲルミル)シクロペンタンカルボン酸、THGP誘導体3は2-(トリヒドロキシゲルミル)シクロヘキサンカルボン酸である)。