特開2020-121946(P2020-121946A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人北海道大学の特許一覧 ▶ 株式会社浅井ゲルマニウム研究所の特許一覧

特開2020-121946有機ゲルマニウム化合物を有効成分として含有するI型インターフェロン産生抑制剤
<>
  • 特開2020121946-有機ゲルマニウム化合物を有効成分として含有するI型インターフェロン産生抑制剤 図000015
  • 特開2020121946-有機ゲルマニウム化合物を有効成分として含有するI型インターフェロン産生抑制剤 図000016
  • 特開2020121946-有機ゲルマニウム化合物を有効成分として含有するI型インターフェロン産生抑制剤 図000017
  • 特開2020121946-有機ゲルマニウム化合物を有効成分として含有するI型インターフェロン産生抑制剤 図000018
  • 特開2020121946-有機ゲルマニウム化合物を有効成分として含有するI型インターフェロン産生抑制剤 図000019
  • 特開2020121946-有機ゲルマニウム化合物を有効成分として含有するI型インターフェロン産生抑制剤 図000020
  • 特開2020121946-有機ゲルマニウム化合物を有効成分として含有するI型インターフェロン産生抑制剤 図000021
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-121946(P2020-121946A)
(43)【公開日】2020年8月13日
(54)【発明の名称】有機ゲルマニウム化合物を有効成分として含有するI型インターフェロン産生抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/28 20060101AFI20200717BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20200717BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20200717BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20200717BHJP
【FI】
   A61K31/28
   A61P31/04
   A61P31/12
   A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2019-14895(P2019-14895)
(22)【出願日】2019年1月30日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 平成30年7月に、第83回日本インターフェロン・サイトカイン学会学術集会プログラム・抄録集、第94頁、一般演題2−16にて、有機ゲルマニウム化合物Ge−132のI型インターフェロン誘導抑制用途及びRIG−Iとリガンドとの結合減弱用途について公開した。 平成30年7月27日に、第83回日本インターフェロン・サイトカイン学会学術集会、一般演題2−16にて、有機ゲルマニウム化合物Ge−132のI型インターフェロン誘導抑制用途及びRIG−Iとリガンドとの結合減弱用途について公開した。 平成30年11月16日に、ウェブサイト(https://www.asai−ge.co.jp/news/%E5%8C%97%E6%B5%B7%E9%81%93%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E3%81%A8%E3%81%AE%E5%85%B1%E5%90%8C%E7%A0%94%E7%A9%B6%E3%81%AE%E6%88%90%E6%9E%9C%E3%81%8C%E7%99%BA%E8%A1%A8%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%9F/)にて、有機ゲルマニウム化合物Ge−132のI型インターフェロン誘導抑制用途及びRIG−Iとリガンドとの結合減弱用途について公開した。 平成30年12月13日に、食品化学新聞 18.12.13号、第8面にて、有機ゲルマニウム化合物Ge−132のI型インターフェロン誘導抑制用途及びRIG−Iとリガンドとの結合減弱用途について公開した。
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(71)【出願人】
【識別番号】391001860
【氏名又は名称】株式会社浅井ゲルマニウム研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002480
【氏名又は名称】特許業務法人IPアシスト特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 精一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼岡 晃教
(72)【発明者】
【氏名】島田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】中村 宜司
【テーマコード(参考)】
4C206
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA02
4C206JB05
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZB33
4C206ZB35
4C206ZC41
(57)【要約】      (修正有)
【課題】RNAウイルス感染によるI型IFNの産生誘導を効果的に抑制することができる手段の提供。
【解決手段】一般式(I)

の化合物。式中、Rnは特定の基。本化合物若しくはその塩若しくはエステル又はこれらの重合体を有効成分として含有する、I型インターフェロン産生抑制剤。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】
の化合物であって、式中、
R1及びR2は、互いに独立して水素、ハロゲン、ニトロ、ヒドロキシ、シアノ、C1-4アルキル、C1-4ハロアルキル、C2-4アルケニル、C2-4ハロアルケニル、C3-4アルキニル、C3-4ハロアルキニル、C1-4アルコキシ、C1-4ハロアルコキシ、C1-4アルキルチオ、C1-4アルキルスルフィニル若しくはC1-4アルキルスルホニルであるか、又はそれらが結合している2個の炭素原子と共に、4〜10員の単環式若しくは多環式の飽和環、4〜10員の単環式若しくは多環式の部分飽和環、6〜10員の単環式若しくは多環式の芳香環、若しくは5〜10員の単環式若しくは多環式の窒素、酸素及び硫黄から選択される1〜4個の原子を含有するヘテロ環を形成し、
これらの環は、置換されていないか、又はハロゲン、ニトロ、ヒドロキシ、シアノ、オキソ、C1-4アルキル、C1-4ハロアルキル、C2-4アルケニル、C2-4ハロアルケニル、C3-4アルキニル、C3-4ハロアルキニル、C1-4アルコキシ、C1-4ハロアルコキシ、C1-4アルキルチオ、C1-4アルキルスルフィニル及びC1-4アルキルスルホニルよりなる群からの1若しくは複数の置換基により置換されており、
R3は、水素、ハロゲン、ニトロ、ヒドロキシ、シアノ、C1-4アルキル、C1-4ハロアルキル、C2-4アルケニル、C2-4ハロアルケニル、C3-4アルキニル、C3-4ハロアルキニル、C1-4アルコキシ、C1-4ハロアルコキシ、C1-4アルキルチオ、C1-4アルキルスルフィニル又はC1-4アルキルスルホニルである、
前記化合物若しくは薬学的に許容されるその塩若しくはエステル又はこれらの重合体を有効成分として含有する、I型インターフェロン産生抑制剤。
【請求項2】
一般式(I)において、R1及びR2が、いずれも水素であるか、又はそれらが結合している2個の炭素原子と共に、4〜7員の単環式飽和環若しくは6〜10員の多環式飽和環を形成し、前記飽和環は置換されておらず、R3が水素又はC1-4アルキルである化合物若しくは薬学的に許容されるその塩若しくはエステル又はこれらの重合体を有効成分として含有する、請求項1に記載の抑制剤。
【請求項3】
一般式(I)において、R1及びR2がいずれも水素であるか、又はそれらが結合している2個の炭素原子と共に5若しくは6員の単環式飽和環若しくは8員の二環式芳香環を形成し、前記飽和環は置換されておらず、R3が水素である化合物若しくは薬学的に許容されるその塩若しくはエステル又はこれらの重合体を有効成分として含有する、請求項1に記載の抑制剤。
【請求項4】
インターフェロンβの産生抑制剤である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の抑制剤。
【請求項5】
一般式(I)
【化2】
の化合物であって、式中、
R1及びR2は、互いに独立して水素、ハロゲン、ニトロ、ヒドロキシ、シアノ、C1-4アルキル、C1-4ハロアルキル、C2-4アルケニル、C2-4ハロアルケニル、C3-4アルキニル、C3-4ハロアルキニル、C1-4アルコキシ、C1-4ハロアルコキシ、C1-4アルキルチオ、C1-4アルキルスルフィニル若しくはC1-4アルキルスルホニルであるか、又はそれらが結合している2個の炭素原子と共に、4〜10員の単環式若しくは多環式の飽和環、4〜10員の単環式若しくは多環式の部分飽和環、6〜10員の単環式若しくは多環式の芳香環、若しくは5〜10員の単環式若しくは多環式の窒素、酸素及び硫黄から選択される1〜4個の原子を含有するヘテロ環を形成し、
これらの環は、置換されていないか、又はハロゲン、ニトロ、ヒドロキシ、シアノ、オキソ、C1-4アルキル、C1-4ハロアルキル、C2-4アルケニル、C2-4ハロアルケニル、C3-4アルキニル、C3-4ハロアルキニル、C1-4アルコキシ、C1-4ハロアルコキシ、C1-4アルキルチオ、C1-4アルキルスルフィニル及びC1-4アルキルスルホニルよりなる群からの1若しくは複数の置換基により置換されており、
R3は、水素、ハロゲン、ニトロ、ヒドロキシ、シアノ、C1-4アルキル、C1-4ハロアルキル、C2-4アルケニル、C2-4ハロアルケニル、C3-4アルキニル、C3-4ハロアルキニル、C1-4アルコキシ、C1-4ハロアルコキシ、C1-4アルキルチオ、C1-4アルキルスルフィニル又はC1-4アルキルスルホニルである、
前記化合物若しくは薬学的に許容されるその塩若しくはエステル又はこれらの重合体を有効成分として含有する、RIG-IとRNAとの結合の阻害剤。
【請求項6】
一般式(I)において、R1及びR2が、いずれも水素であるか、又はそれらが結合している2個の炭素原子と共に、4〜7員の単環式飽和環若しくは6〜10員の多環式飽和環を形成し、前記飽和環は置換されておらず、R3が水素又はC1-4アルキルである化合物若しくは薬学的に許容されるその塩若しくはエステル又はこれらの重合体を有効成分として含有する、請求項5に記載の阻害剤。
【請求項7】
一般式(I)において、R1及びR2がいずれも水素であるか、又はそれらが結合している2個の炭素原子と共に5若しくは6員の単環式飽和環若しくは8員の二環式芳香環を形成し、前記飽和環は置換されておらず、R3が水素である化合物若しくは薬学的に許容されるその塩若しくはエステル又はこれらの重合体を有効成分として含有する、請求項5に記載の阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ゲルマニウム化合物を有効成分として含有するI型インターフェロン(IFN)産生抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスや細菌等の病原体の感染に対する生体の防御機構として、自然免疫と獲得免疫という2段階の免疫システムが知られている。自然免疫は、病原体が生体に侵入したときに最初に働く免疫システムであり、近年の研究の進展によりその詳細な機構が解明されつつある。
【0003】
RIG-I(retinoic acid-inducible gene-I)は、RNAヘリカーゼ様ドメインを有する細胞質内タンパク質であり、外来RNA例えばRNAウイルスに由来するRNAを認識する。外来RNAを認識したRIG-Iは、I型IFNや炎症性サイトカインの産生を誘導することで抗ウイルス作用を発揮し、自然免疫機構として働くことが知られている。RIG-Iを介して認識されるRNAウイルスには、インフルエンザウイルス、センダイウイルス、日本脳炎ウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、C型肝炎ウイルス、フィロウイルス、西ナイルウイルス、麻疹ウイルス、狂犬病ウイルス、風疹ウイルス等が知られている。
【0004】
RIG-Iによって誘導されるI型IFNは、ウイルス複製抑制及びNK細胞の活性化によるウイルス感染細胞除去に関与するが、一方で過剰に産生されるとウイルス感染による肺炎その他の炎症反応の一因ともなり得る。
【0005】
Ge-132(ポリ-トランス-〔(2-カルボキシエチル)ゲルマセスキオキサン]、レパゲルマニウム、アサイゲルマニウムとも呼ばれる)は、免疫賦活作用、抗腫瘍作用、鎮痛作用といった様々な生理作用を持つ水溶性の有機ゲルマニウム化合物である。Ge-132は、水中では加水分解して単量体である3-(トリヒドロキシゲルミル)プロパン酸(3-trihydroxygermyl propanoic acid、THGP)となる。
【0006】
Ge-132が多彩な生理作用を発揮する作用機序の1つとして、THGPとシス−ジオール含有化合物との相互作用が挙げられる。THGPは、シス−ジオール含有化合物との脱水縮合によりラクトン型のTHGP-シス−ジオール錯体を形成し、当該シス−ジオール含有化合物の生理的機能を制御するものと考えられている(非特許文献1等)。例えば、THGPはアデノシンやATPと錯体を形成することでこれらとP1あるいはP2受容体との結合を阻害し、疼痛を抑制することが報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nakamura et al., Future. Med. Chem., 2015, 7 (10), 1233-1246.
【非特許文献2】Shimada et al., Biol. Trace Elem. Res., "The Organogermanium Compound Ge-132 Interacts with Nucleic Acid Components and Inhibits the Catalysis of Adenosine Substrate by Adenosine Deaminase", [online], Springer, 2017年4月20日, [2018年11月26日検索], インターネット<https://doi.org/10.1007/s12011-017-1020-4>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、RNAウイルス感染によるI型IFNの産生誘導を効果的に抑制することができる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、THGPは外来RNAによる刺激を受けた細胞におけるIFN-βの産生誘導を抑制することができること、当該抑制がRIG-Iと外来RNAとの結合阻害によるものであることを見いだし、下記の各発明を完成させた。
【0010】
(1)
一般式(I)
【化1】
の化合物であって、式中、
R1及びR2は、互いに独立して水素、ハロゲン、ニトロ、ヒドロキシ、シアノ、C1-4アルキル、C1-4ハロアルキル、C2-4アルケニル、C2-4ハロアルケニル、C3-4アルキニル、C3-4ハロアルキニル、C1-4アルコキシ、C1-4ハロアルコキシ、C1-4アルキルチオ、C1-4アルキルスルフィニル若しくはC1-4アルキルスルホニルであるか、又はそれらが結合している2個の炭素原子と共に、4〜10員の単環式若しくは多環式の飽和環、4〜10員の単環式若しくは多環式の部分飽和環、6〜10員の単環式若しくは多環式の芳香環、若しくは5〜10員の単環式若しくは多環式の窒素、酸素及び硫黄から選択される1〜4個の原子を含有するヘテロ環を形成し、
これらの環は、置換されていないか、又はハロゲン、ニトロ、ヒドロキシ、シアノ、オキソ、C1-4アルキル、C1-4ハロアルキル、C2-4アルケニル、C2-4ハロアルケニル、C3-4アルキニル、C3-4ハロアルキニル、C1-4アルコキシ、C1-4ハロアルコキシ、C1-4アルキルチオ、C1-4アルキルスルフィニル及びC1-4アルキルスルホニルよりなる群からの1若しくは複数の置換基により置換されており、
R3は、水素、ハロゲン、ニトロ、ヒドロキシ、シアノ、C1-4アルキル、C1-4ハロアルキル、C2-4アルケニル、C2-4ハロアルケニル、C3-4アルキニル、C3-4ハロアルキニル、C1-4アルコキシ、C1-4ハロアルコキシ、C1-4アルキルチオ、C1-4アルキルスルフィニル又はC1-4アルキルスルホニルである、
前記化合物若しくは薬学的に許容されるその塩若しくはエステル又はこれらの重合体を有効成分として含有する、I型インターフェロン産生抑制剤。
(2) 一般式(I)において、R1及びR2が、いずれも水素であるか、又はそれらが結合している2個の炭素原子と共に、4〜7員の単環式飽和環若しくは6〜10員の多環式飽和環を形成し、前記飽和環は置換されておらず、R3が水素又はC1-4アルキルである化合物若しくは薬学的に許容されるその塩若しくはエステル又はこれらの重合体を有効成分として含有する、(1)に記載の抑制剤。
(3) 一般式(I)において、R1及びR2がいずれも水素であるか、又はそれらが結合している2個の炭素原子と共に5若しくは6員の単環式飽和環若しくは8員の二環式芳香環を形成し、前記飽和環は置換されておらず、R3が水素である化合物若しくは薬学的に許容されるその塩若しくはエステル又はこれらの重合体を有効成分として含有する、(1)に記載の抑制剤。
(4) インターフェロンβの産生抑制剤である、(1)〜(3)のいずれか一項に記載の抑制剤。
(5) 一般式(I)
【化2】
の化合物であって、式中、
R1及びR2は、互いに独立して水素、ハロゲン、ニトロ、ヒドロキシ、シアノ、C1-4アルキル、C1-4ハロアルキル、C2-4アルケニル、C2-4ハロアルケニル、C3-4アルキニル、C3-4ハロアルキニル、C1-4アルコキシ、C1-4ハロアルコキシ、C1-4アルキルチオ、C1-4アルキルスルフィニル若しくはC1-4アルキルスルホニルであるか、又はそれらが結合している2個の炭素原子と共に、4〜10員の単環式若しくは多環式の飽和環、4〜10員の単環式若しくは多環式の部分飽和環、6〜10員の単環式若しくは多環式の芳香環、若しくは5〜10員の単環式若しくは多環式の窒素、酸素及び硫黄から選択される1〜4個の原子を含有するヘテロ環を形成し、
これらの環は、置換されていないか、又はハロゲン、ニトロ、ヒドロキシ、シアノ、オキソ、C1-4アルキル、C1-4ハロアルキル、C2-4アルケニル、C2-4ハロアルケニル、C3-4アルキニル、C3-4ハロアルキニル、C1-4アルコキシ、C1-4ハロアルコキシ、C1-4アルキルチオ、C1-4アルキルスルフィニル及びC1-4アルキルスルホニルよりなる群からの1若しくは複数の置換基により置換されており、
R3は、水素、ハロゲン、ニトロ、ヒドロキシ、シアノ、C1-4アルキル、C1-4ハロアルキル、C2-4アルケニル、C2-4ハロアルケニル、C3-4アルキニル、C3-4ハロアルキニル、C1-4アルコキシ、C1-4ハロアルコキシ、C1-4アルキルチオ、C1-4アルキルスルフィニル又はC1-4アルキルスルホニルである、
前記化合物若しくは薬学的に許容されるその塩若しくはエステル又はこれらの重合体を有効成分として含有する、RIG-IとRNAとの結合の阻害剤。
(6) 一般式(I)において、R1及びR2が、いずれも水素であるか、又はそれらが結合している2個の炭素原子と共に、4〜7員の単環式飽和環若しくは6〜10員の多環式飽和環を形成し、前記飽和環は置換されておらず、R3が水素又はC1-4アルキルである化合物若しくは薬学的に許容されるその塩若しくはエステル又はこれらの重合体を有効成分として含有する、(5)に記載の阻害剤。
(7) 一般式(I)において、R1及びR2がいずれも水素であるか、又はそれらが結合している2個の炭素原子と共に5若しくは6員の単環式飽和環若しくは8員の二環式芳香環を形成し、前記飽和環は置換されておらず、R3が水素である化合物若しくは薬学的に許容されるその塩若しくはエステル又はこれらの重合体を有効成分として含有する、(5)に記載の阻害剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、生体に対して高い安全性を有するTHGP又はその誘導体を利用することで、RNAウイルス感染時に起こるRIG-IとRNAとの結合を特異的に阻害し、I型IFNの産生を抑制すると共にウイルスの複製を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】各濃度のTHGP存在下でRIG-Iと3pRNAとを反応させた後にRNA pull down assay法により回収した3pRNA含有画分のWestern blot(図1a)、及びTHGP固定化カラムに3pRNA、polyI:C又はHT-DNAを通過させた後にカラムから溶出された核酸の濃度(図1b)を示す。図1aの右レーンはpull down assayにおいて添加したGST-RIGタンパク質の1.7%相当量を試料としたものである。
図2】各濃度のTHGPと3pRNAとの混合物をインキュベートした後、3pRNAをアガロースゲル電気泳動で分析した結果を示す。図中のグラフは、THGP無添加試料と比較したTHGP添加試料の3pRNAに相当するバンドの相対濃度を表す。
図3】各濃度のTHGP存在下でRhodamin-3pRNAを取り込ませた細胞の共焦点顕微鏡観察写真の代表例及び顕微鏡観察によりカウントした全細胞に対するRhodamin-3pRNA取込細胞の割合(図3a)、並びにFACSによりカウントした、THGP非存在下でのRhodamin-3pRNA取込細胞に対するTHGP存在下でのRhodamin-3pRNA取込細胞の割合(図3b)を示す。顕微鏡観察写真では、暗い円形状の物体がDAPI染色された細胞核に相当し、明るく見える点状の物体がRhodamin-3pRNAの蛍光に相当する。
図4】各濃度のTHGPで処理した細胞をpoly I:C(図4a)又はEMCV(encephalomyocarditis virus、図4b)で刺激したときのIFN-β遺伝子発現量を示す。
図5】各濃度のTHGPで処理した細胞にインフルエンザウイルスPR8(strain A/Puerto Rico/8/1934H1N1)を感染させたときの細胞のIFN-β遺伝子発現量(図5a)、PR8のNP(Nuclear Protein)遺伝子発現量(図5b)及び培養上清に含まれるウイルス量(図5c)を示す。
図6】3pRNA及びTHGPを経鼻投与したΔβLucマウスの胸部及び頭部におけるIFN-βプロモーター活性を表す蛍光画像及び画像から定量した蛍光強度(図6a)、並びにTHGPを経鼻投与した水疱性口内炎ウイルス感染マウスの感染1日後及び3日後の血清中のIL-6量(図6b)を示す。
図7】THGP誘導体のIFN-βプロモーター活性抑制効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、一般式(I)の化合物若しくは薬学的に許容されるその塩若しくはエステル又はこれらの重合体のうちの少なくとも1を有効成分として含有する、I型インターフェロン産生抑制剤又はRIG-IとRNAとの結合の阻害剤に関する。
【化3】
式中、
R1及びR2は、互いに独立して水素、ハロゲン、ニトロ、ヒドロキシ、シアノ、C1-4アルキル、C1-4ハロアルキル、C2-4アルケニル、C2-4ハロアルケニル、C3-4アルキニル、C3-4ハロアルキニル、C1-4アルコキシ、C1-4ハロアルコキシ、C1-4アルキルチオ、C1-4アルキルスルフィニル若しくはC1-4アルキルスルホニルであるか、又はそれらが結合している2個の炭素原子と共に、4〜10員の単環式若しくは多環式の飽和環、4〜10員の単環式若しくは多環式の部分飽和環、6〜10員の単環式若しくは多環式の芳香環、若しくは5〜10員の単環式若しくは多環式の窒素、酸素及び硫黄から選択される1〜4個の原子を含有するヘテロ環を形成し、
これらの環は、置換されていないか、又はハロゲン、ニトロ、ヒドロキシ、シアノ、オキソ、C1-4アルキル、C1-4ハロアルキル、C2-4アルケニル、C2-4ハロアルケニル、C3-4アルキニル、C3-4ハロアルキニル、C1-4アルコキシ、C1-4ハロアルコキシ、C1-4アルキルチオ、C1-4アルキルスルフィニル及びC1-4アルキルスルホニルよりなる群からの1若しくは複数の置換基により置換されており、
R3は、水素、ハロゲン、ニトロ、ヒドロキシ、シアノ、C1-4アルキル、C1-4ハロアルキル、C2-4アルケニル、C2-4ハロアルケニル、C3-4アルキニル、C3-4ハロアルキニル、C1-4アルコキシ、C1-4ハロアルコキシ、C1-4アルキルチオ、C1-4アルキルスルフィニル又はC1-4アルキルスルホニルである。
【0014】
一般式(I)の化合物において、R1及びR2は、互いに独立して、水素:フッ素、塩素若しくは臭素等のハロゲン;ニトロ;ヒドロキシ;シアノ;直鎖、分岐鎖若しくは環状の炭素数1〜4個のアルキルであるC1-4アルキル;1若しくは複数のハロゲンで置換された直鎖、分岐鎖若しくは環状の炭素数1〜4個のアルキルであるC1-4ハロアルキル;直鎖、分岐鎖若しくは環状の炭素数2〜4個のアルケニルであるC2-4アルケニル;1若しくは複数のハロゲンで置換された直鎖、分岐鎖若しくは環状の炭素数2〜4個のアルケニルであるC2-4ハロアルケニル;直鎖若しくは分岐鎖の炭素数3〜4個のアルキニルであるC3-4アルキニル;1若しくは複数のハロゲンで置換された直鎖若しくは分岐鎖の炭素数3〜4個のアルキニルであるC3-4ハロアルキニル;-O-C1-4アルキルで表されるC1-4アルコキシ;-O-C1-4ハロアルキルで表されるC1-4ハロアルコキシ;-S-C1-4アルキルで表されるC1-4アルキルチオ;-SO-C1-4アルキルで表されるC1-4アルキルスルフィニル;又は-SO2-C1-4アルキルで表されるC1-4アルキルスルホニルであることができる。
【0015】
また、R1及びR2は、それらが結合している2個の炭素原子と共に、4〜10員の単環式若しくは多環式の飽和環、4〜10員の単環式若しくは多環式の部分飽和環、6〜10員の単環式若しくは多環式の芳香環、若しくは5〜10員の単環式若しくは多環式の窒素、酸素及び硫黄から選択される1〜4個の原子を含有するヘテロ環を形成してもよい。
【0016】
4〜10員の単環式又は多環式の飽和環は、環構成原子として4〜10個の炭素原子を有する、1又は複数の環構造を持つ飽和炭素環であって、例として、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、ビシクロオクチル、スピロオクチル等が挙げられる。
【0017】
4〜10員の単環式又は多環式の部分飽和環は、環構成原子として4〜10個の炭素原子を有する、1又は複数の環構造を持つ部分飽和炭素環であって、例として、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘプテニル、シクロオクテニル、ビシクロオクテニル等が挙げられる。
【0018】
6〜10員の単環式又は多環式の芳香環は、環構成原子として6〜10個の炭素原子を有する、1又は複数の環構造を持つ芳香環であって、例として、フェニル、ナフチル、インジル等が挙げられる。
【0019】
5〜10員の単環式又は多環式の窒素、酸素及び硫黄よりなる群から選択される1〜4個の原子を含有するヘテロ環は、環構成原子として6〜10個の原子を有する、1又は複数の環構造を持つ飽和環、部分飽和環又は芳香環であって、環構成原子のうち1〜4個は窒素、酸素及び硫黄よりなる群から独立して選択されるヘテロ原子であり、その他の環構成原子は炭素原子である環である。例として、フラニル、チオフェニル、ピロリル、イミダゾリル、ピラニル、ピリジニル、ピリミジニル、ピラジニル、ピロリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、モルホリニル、インドリル、キノリル、イソキノリル等が挙げられる。
【0020】
R1及びR2により形成される環は、ハロゲン、ニトロ、ヒドロキシ、シアノ、オキソ、C1-4アルキル、C1-4ハロアルキル、C2-4アルケニル、C2-4ハロアルケニル、C3-4アルキニル、C3-4ハロアルキニル、C1-4アルコキシ、C1-4ハロアルコキシ、C1-4アルキルチオ、C1-4アルキルスルフィニル及びC1-4アルキルスルホニルよりなる群からの1又は複数の置換基により置換されていてもよい。それぞれの基の詳細は、R1及びR2の説明において記載されているとおりである。
【0021】
一般式(I)の化合物において、R3は、水素、ハロゲン、ニトロ、ヒドロキシ、シアノ、C1-4アルキル、C1-4ハロアルキル、C2-4アルケニル、C2-4ハロアルケニル、C3-4アルキニル、C3-4ハロアルキニル、C1-4アルコキシ、C1-4ハロアルコキシ、C1-4アルキルチオ、C1-4アルキルスルフィニル又はC1-4アルキルスルホニルである。それぞれの基の詳細は、R1及びR2の説明において記載されているとおりである。
【0022】
本発明において好適に利用される一般式(I)の化合物としては、R1〜R3がいずれも水素である化合物(3-(トリヒドロキシゲルミル)プロパン酸;THGP);R1及びR2が、それらが結合している2個の炭素原子と共に5員の単環式飽和環を形成し、R3が水素である化合物(2-(トリヒドロキシゲルミル)シクロペンタンカルボン酸);R1及びR2が、それらが結合している2個の炭素原子と共に6員の単環式飽和環を形成し、R3が水素である化合物(2-(トリヒドロキシゲルミル)シクロヘキサンカルボン酸);R1及びR2が、それらが結合している2個の炭素原子と共に8員の多環式飽和環、特にビシクロ[2.2.2]オクタンを形成し、R3が水素である化合物(例として3-(トリヒドロキシゲルミル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸)を挙げることができる。
【0023】
本発明は、一般式(I)の化合物の薬学的に許容される塩又はエステルの利用を包含する。かかる塩としては、慣用的な塩基との塩、例えば、アルカリ金属塩(例としてナトリウム塩及びカリウム塩)、アルカリ土類金属塩(例としてカルシウム塩及びマグネシウム塩)、アンモニウム塩、又は有機アミン(例としてエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、DIPEA、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、コリン(2-ヒドロキシ-N,N,N-トリメチルエタンアミニウム)、プロカイン、ジシクロヘキシルアミン、ジベンジルアミン、N-メチルモルフォリン、N-メチルピペリジン、アルギニン、リジン及び1,2-エチレンジアミン)が挙げられる。
【0024】
一般式(I)の化合物の薬学的に許容されるエステルは、一般式(I)のカルボン酸のインビボで加水分解可能なエステルである。かかるエステルとしては、例えばメチル、エチル、tert-ブチルエステル等のC1-4アルキルエステルが好ましい。
【0025】
一般式(I)の化合物は、下に示すように、一般式(II)のアクリル酸誘導体(式中、R1〜R3は、一般式(I)の化合物の説明において記載されているとおりである)とトリクロロゲルマンとのハイドロゲルミレーション、及びその後の加水分解により合成することができる。
【化4】
【0026】
ハイドロゲルミレーション及び加水分解は、当業者に公知の一般的な反応条件で行えばよい。例えば、ハイドロゲルミレーションは濃塩酸、ジエチルエーテル又はクロロホルム等を溶媒として用いて25〜40℃程度の温度で行うことができる。加水分解は、ハイドロゲルミレーションにより得られた化合物を水と共存させることによって、好ましくは中性からアルカリ性の水系溶媒の中で、例えば水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液中で行うことができる。
【0027】
本発明においては、一般式(I)の化合物においてゲルマニウムに結合した3個の水酸基のうちの少なくとも1つ、好ましくは全てがハロゲンで置き換えられた化合物又は薬学的に許容されるその塩若しくはエステルを利用することもできる。上記ハロゲン化物は、一般式(II)のアクリル酸誘導体とハロゲン化ゲルマンとのハイドロゲルミレーションにより合成することができる。上記ハロゲン化物の典型例は、3-(トリクロロゲルミル)プロパン酸、2-(トリクロロゲルミル)シクロペンタンカルボン酸、2-(トリクロロゲルミル)シクロヘキサンカルボン酸及びトリヒドロキシゲルミルビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸である。
【0028】
本発明は、一般式(I)の化合物又は薬学的に許容されるその塩若しくはエステルの重合体の利用を包含する。一般式(I)の化合物の重合体は、一般式(III)
【化5】
で表すことができる。重合体は、THGPからのGe-132の製造と同様に、水溶液に溶解した状態の一般式(I)の化合物又は薬学的に許容されるその塩若しくはエステルを乾燥させて、分子間で脱水縮合を生じさせることにより得ることができる。重合体は、全ての構成単位が同一であっても異なってもよい。前者の重合体は一種類の、後者の重合体は複数種類の一般式(I)の化合物又は薬学的に許容されるその塩若しくはエステルを溶解した水溶液を乾燥させることにより得ることができる。重合反応は可逆的であることから、重合体を水等の水性媒体に溶解することで、一般式(I)の化合物又は薬学的に許容されるその塩若しくはエステルが得られる。
【0029】
一般式(I)の化合物若しくは薬学的に許容されるその塩若しくはエステル又はこれらの重合体は、RIG-IとRNAとの結合を阻害することができ、I型IFNの産生を抑制することができる。本発明におけるI型IFNの産生抑制とは、外来RNAがRIG-Iに結合することで誘導されるI型IFNの産生量を低減させることを意味する。
【0030】
I型IFNの産生抑制は、一般式(I)の化合物若しくは薬学的に許容されるその塩若しくはエステル若しくはこれらの重合体を生体に投与した場合に、又はこれらで細胞を処理した場合に、未処理の場合と比べて、標的細胞におけるI型IFN遺伝子の発現量、又は血中若しくは培養液中に分泌されるI型IFNの量が少ないことにより確認することができる。
【0031】
後述する実施例に示されるように、一般式(I)の化合物の典型例であるTHGPは、RIG-Iと外来RNAとの結合を阻害する機能、及び外来RNAによる細胞刺激、特にRNAウイルス感染によって誘導されるI型IFN、特にIFN-βの産生を抑制する機能を有する。
【0032】
以下の推論に拘束されるものではないが、THGPはシス−ジオール含有化合物と相互作用する性質を有すること、及びRIG-IはRNAの末端に結合することから、THGPがRNAの3'末端側に存在するシス−ジオール構造を認識して結合することでRIG-IとRNAとの結合が阻害され、その結果としてRIG-Iを介したシグナル伝達の下流に存在するI型IFNの産生誘導が抑制されるものと推察される。
【0033】
また、THGPは、ウイルスの複製に抑制的に作用するI型IFNの産生を抑制する一方で、ウイルスの複製そのものを阻害する機能を有する。従って本発明は、一般式(I)の化合物若しくは薬学的に許容されるその塩若しくはエステル又はこれらの重合体のうちの少なくとも1を有効成分として含有するRNAウイルス複製阻害剤を、さらなる態様として提供する。以下の推論に拘束されるものではないが、THGPがRNAウイルスゲノムの3'末端に結合することで、RNA依存的RNAポリメラーゼのウイルスRNAへの結合が妨げられ、RNA複製が抑制されるものと推察される。
【0034】
一般式(I)の化合物若しくはその塩若しくはエステル又はこれらの重合体は、そのまま本発明における抑制剤又は阻害剤として利用してもよく、さらに、薬学的に許容される緩衝剤、安定剤、保存剤、賦形剤その他の成分及び/又は他の有効成分を含む医薬組成物、食品組成物若しくは化粧品組成物の形態で利用してもよい。かかる組成物は、本発明のさらなる態様である。薬学的に許容される成分は当業者において周知であり、当業者が通常の実施能力の範囲内で、例えば第十七改正日本薬局方その他の規格書に記載された成分から製剤の形態に応じて適宜選択して使用することができる。
【0035】
本発明において、抑制剤、阻害剤及びこれらを含有する組成物の形態は任意であるが、経口剤(錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、丸剤、懸濁剤、乳剤、液剤、シロップ剤等)、鼻腔内投与用製剤(点鼻用液剤、噴霧剤等)、注射剤及び外用剤(軟膏剤、貼付剤等)を好ましい例として挙げることができる。
【0036】
抑制剤、阻害剤及びこれらを含有する組成物の投与方法は特に限定されず、剤形に応じて適宜決定される。好ましい実施形態の一つにおいて、抑制剤、阻害剤及びこれらを含有する組成物は、経口的又は非経口的(経鼻、静脈内、筋肉内、皮下、経皮等)に生体に投与される。
【0037】
抑制剤、阻害剤及びこれらを含有する組成物の投与量は、用法、対象の年齢、疾患の種類及び部位その他の条件などに応じて適宜選択されるが、通常成人に対して体重1kgあたり10μg〜1 g、好ましくは50μg〜500 mg、より好ましくは100μg〜200 mgであり、これを1日に1回若しくは複数回に分けて、又は間歇的に投与することができる。
【0038】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
1.実験材料及び方法
1)2-Trichlorogermyl cyclohexanecarboxylic acid(2-(トリクロロゲルミル)シクロヘキサンカルボン酸)及び2-Trihydroxygermyl cyclohexanecarboxylic acid(2-(トリヒドロキシゲルミル)シクロヘキサンカルボン酸)の合成
【化6】
30 mlナス型フラスコに1-シクロへキセン-1-カルボン酸(1.13 g, 9 mmol)を秤量し、容器内を減圧乾燥した。その容器にconc. HCl(3.5 ml)を添加した後、氷冷下でconc. HClに溶解したトリクロロゲルマン(0.93 ml, 10 mmol)をゆっくり滴下し、室温で12時間撹拌した。反応後、析出する固体を吸引ろ過し、残渣をconc. HClで3回洗浄することにより、白色結晶として2-(トリクロロゲルミル)シクロヘキサンカルボン酸(1.15 g, 42%)を得た。
得られた2-(トリクロロゲルミル)シクロヘキサンカルボン酸(306 mg, 1 mmol)を水(5 ml)に溶解しpH 7.0付近になるよう水酸化ナトリウム水溶液(40wt%)を用いて中和することにより、目的の2-(トリヒドロキシゲルミル)シクロヘキサンカルボン酸を得た。
【0040】
2)2-Trichlorogermyl cyclopentanecarboxylic acid(2-(トリクロロゲルミル)シクロペンタンカルボン酸)及び2-Trihydroxygermyl cyclopentanecarboxylic acid(2-(トリヒドロキシゲルミル)シクロペンタンカルボン酸)の合成
【化7】
30 mlナス型フラスコに1-シクロへプテン-1-カルボン酸(1.01 g, 9 mmol)を秤量し、容器内を減圧乾燥した。その容器にconc. HCl(3.5 ml)を添加した後、氷冷下でconc. HClに溶解したトリクロロゲルマン(0.93 ml, 10 mmol)をゆっくり滴下し、室温で12時間撹拌した。反応後、析出する固体を吸引ろ過し、残渣をconc. HClで3回洗浄することにより、白色結晶として2-(トリクロロゲルミル)シクロペンタンカルボン酸(2.05 g, 78%)を得た。
得られた2-(トリクロロゲルミル)シクロペンタンカルボン酸(292 mg, 1 mmol)を水(5 ml)に溶解しpH 7.0付近になるよう水酸化ナトリウム水溶液(40wt%)を用いて中和することにより、目的の2-(トリヒドロキシゲルミル)シクロペンタンカルボン酸を得た。
【0041】
3)3-Trichlorogermyl bicyclo[2.2.2]octane-2-carboxylic acid(3-(トリクロロゲルミル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸)及び3-Trihydrogermyl bicyclo[2.2.2]octane-2-carboxylic acid(3-(トリヒドロキシゲルミル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸)の合成
【化8】
10 mlナス型フラスコにシクロへキサジエン(160 mg, 2.0 mmol)とプロピオン酸(70 mg, 1.0 mmol)を秤量し、容器内をArガスで満たした。その容器にジクロロメタン1mlと触媒としてortho-bromophenyl boronic acid(40 mg, 0.2 mmol)を加え、25℃で48時間撹拌した。得られた反応物はカラムクロマトグラフィー(SiO2)を用いて分離精製した。得られたジエン化合物(600 mg)を酢酸エチル(5ml)に溶かし、5%パラジウム炭素(12mg)触媒存在下で還元した。
【0042】
上記で得られたbicyclo[2.2.2]oct-2-ene-2-carboxylic acid(2.98 g, 9 mmol)を30 mlナス型フラスコに秤量し、容器内を減圧乾燥した。その容器にconc. HCl(3.5 ml)を添加した後、氷冷下でconc. HClに溶解したトリクロロゲルマン(0.93 ml, 10 mmol)をゆっくり滴下し、室温で12時間撹拌した。反応後、析出する固体を吸引ろ過し、残渣をconc. HClで3回洗浄することにより、白色結晶として3-(トリクロロゲルミル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸(655 mg, 22%)を得た。
得られた3-(トリクロロゲルミル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸(292 mg, 1 mmol)を水(5 ml)に溶解しpH 7.0付近になるよう水酸化ナトリウム水溶液(40wt%)を用いて中和することにより、目的の3-(トリヒドロキシゲルミル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸を得た。
【0043】
4)細胞培養
本実験で用いたマウスマクロファージ様細胞株であるRAW264.7細胞、イヌ腎臓尿細管上皮胞由来の細胞株であるMDCK細胞、ヒト胎児腎細胞株であるHEK293T細胞はATCCより購入した。いずれの細胞もDMEM(Dulbecco’s modified eagle medium, Nissui)に0.1%炭酸水素ナトリウム溶液、4 mM L-glutamine(Gibco)、10%FBS(Fetal bovine serum、ウシ胎児血清、Gibco)を加えた培地を製品プロトコルに従って用いて、37℃、CO2濃度5.0%に設定されたインキュベータで培養した。実験に用いる際は前日に、RAW264.7細胞は12 wellプレート(BD Biosciences)に2×105個播種し、MDCK細胞は12 wellプレートに3×105個播種し、HEK293T細胞は12 wellプレート(BD Biosciences)に2×105個播種した。
【0044】
5)THGP及びTHGP誘導体の水溶液の調製
1 gのGe-132(浅井ゲルマニウム研究所)を水酸化ナトリウムで中和し、減菌水に溶解させ、塩酸でpHを7.0に調節した。10 mLにメスアップした後、0.22μmメンブランフィルターによる滅菌を行い、THGP濃度が100 mg/ml、10 mg/ml、1 mg/ml、0.1 mg/ml の各溶液を用意した。同様に、2-(トリクロロゲルミル)シクロペンタンカルボン酸及び2-(トリクロロゲルミル)シクロヘキサンカルボン酸から、2-(トリヒドロキシゲルミル)シクロペンタンカルボン酸及び2-(トリヒドロキシゲルミル)シクロヘキサンカルボン酸の水溶液をそれぞれ調製した。
【0045】
6)THGPによる細胞刺激
THGPによる細胞の刺激は、THGPの最終濃度が2μg/ml、20μg/ml、200μg/ml、2000μg/mlである培養液中で対象細胞を培養することにより行った。
【0046】
7)3pRNA及びタグ付3pRNAの調製
3pRNA(5'-triphosphate RNA)は、Takahashiら(J. Biol. Chem., 2009, Vol. 284, pp. 17465-17474)、Hayakawaら(Nat. Immunol., 2011, Vol. 12, pp.37-44)、Satoら(Immunity, 2015, Vol.42, pp. 123-132)の方法に準じて、MEGAscript(登録商標) T7 Kit(Ambion)を用いて、鋳型DNA(センス鎖:TAATACGACTCACTATAGGGAAACTAAAAGGGAGAAGTGAAAGTG(配列番号1)、アンチセンス鎖:CACTTTCACTTCTCCCTTTTAGTTTCCCTATAGTGAGTCGTATTA(配列番号2))をin vitroにて転写を行った後、ISOGEN(ニッポンジーン)を用いてRNAを精製することで調製した。また、Label IT (登録商標) Biotin Labeling Kit(Mirus)又はLabel IT(登録商標) Nucleic Acid Labeling Kit, CX -Rhodamine(Mirus)を製品プロトコルに従って使用して、ビオチン化3pRNA及びRhodamine -3pRNAを作製した。
【0047】
8)核酸刺激
核酸による細胞刺激は、Lipofectamine 2000 Reagent(Invitrogen)を製品プロトコルに従って使用して、OPTI-MEM(Invitrogen)で希釈した3pRNA又はpolyI:C(Invitrogen)(最終濃度1μg/ml)を対象細胞に取り込ませることで行った。
【0048】
9)定量RT -PCR法
ISOGENを用いたチオシアン酸グアニジンフェノールクロロホルム法にて対象細胞から全RNAの回収を行い、DNase及びRNase freeの水に溶解した。水溶液にDNase I(Invitrogen)を加えて25℃で15分間反応させることでDNase処理を行い、さらに25mM EDTA 1μlを加えて65℃で10分間反応させることでDNase Iを失活させた。その後、ReverTra Ace(登録商標) qPCR RT Kit(Toyobo)を用いてRNAを逆転写し、cDNAを合成した。SYBR(登録商標) Premix Ex TaqTM(Takara)を用いたインターカレーター法で、95℃10秒間の初期変性、95℃5秒間の変性、60℃30秒間のアニーリング及び伸長反応の2ステップを50サイクル行う条件で定量的PCRを行い、StepOnePlusTM Real Real -Time PCR System(Applied Biosystems)で定量し、ΔΔCt法にて解析した。内部標準としてはGapdhを使用した。使用したプライマーの配列を表1に記す。
【表1】
【0049】
10)ウイルス感染
EMCV(encephalomyocarditis virus、東京大学 谷口維紹博士より分与)の場合、培養液をFBSを含まないDMEMに替え、1.0 MOIになるようにEMCVを加えて感染させ、1時間後に培養液に最終濃度が10%になるようにFBSを加えた。インフルエンザウイルスPR8(strain A/Puerto Rico/8/1934H1N1、北海道大学 高田礼人博士より分与)の場合、培養液を0.0005%トリブシンを含むFBSを含まないDMEMに替え、1.0 MOIになるようにPR8を加えて感染させ、1時間後に培養液に最終濃度が10%になるようにFBSを加えた。
【0050】
11)Plaque-forming assay法
RAW264.7細胞に1.0 MOIになるようにPR8を感染させ、24時間後の上清を10-1から10-6に希釈し、MDCK細胞に感染させた。感染から1時間後に上清を除去し、MEM/Bacto Agar/trypsin混合液(1×MEM(Gibco)、0.3%BSA、0.28%NaHCO3、1×MEM Amino Acids Solution(Gibco)、1×MEM Vitamine Liquid(Gibco)、2 mM L Glutamine、1×Penicillin Streptomycin Solution、0.0005%trypsin、0.8%BactoAgar)で細胞を固定し、感染から2日後にプラークの数を数えることで、PR8数を測定した。
【0051】
12)THGPと3pRNAの混和試験
各濃度のTHGPと75μgの3pRNAとを混和し、37℃で30分間インキュベートした。その後、10×Loading bufferを加え、2% アガロースゲルで電気泳動を行った。SYBR Gold nucleic acid gel stain(Molecular probes)で30分間反応させた後、LAS-1000LC(富士フイルム)を用いて発光を測定した。
【0052】
13)FACS
対象細胞を2% FBS-PBSに懸濁し、セルストレーナキャップ付きチューブ(Falcon)に入れた。FACS Cantoll(BD)で細胞中の蛍光を測定し、全部で2000個の細胞を数え、蛍光色素を含んだ細胞の割合を算出した。
【0053】
14)細胞染色・固定・共焦点顕微鏡
12 well -Plate(BD FALCON(登録商標))の底にカバースリップを敷き、その上にRAW264.7細胞を2.0×105個/wellずつ播種し、24時間後に培地にTHGPを加え、さらにRhodamine -3pRNAを加えて刺激を行い、37℃で5時間インキュベートした。4 %パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液(Wako)を用いて室温で10分間インキュベートすることで細胞を固定し、0.2 %Triton -X100を用いて室温で15分間インキュベートすることで細胞膜透過処理を行った。その後、1%BSAを用いて4℃で一晩ブロッキングを行い、Blocking Concentrate(MBL)で10分間静置した。その後、抗体としてStreptavidin、DyLight 649(VEC)を200倍希釈したものを用いて37℃で1時間インキュベートした。松浪スライドグラス(松浪硝子工業株式会社)にSlowfade(登録商標) Gold anti -fade Reagent(Invitrogen)を封入剤として滴下し、その上にカバーガラスを置くことでサンプルを作製した。細胞内局在観察はFV -1000D(OLYMPUS)を用いた。
【0054】
15)リコンビナントRIG-Iの作製
Bac -to -Bac baculovirus expression system(Invitrogen)を使用してグルタチオン-S-トランスフェーゼ(GST)とRIG-Iとの融合タンパク質をコードする遺伝子を発現可能に有するベクターを作製し、Sf -9細胞を形質転換させた。0.25%Gentamicin Reagent Solution(Gibco)及び5.0%FBS(Fetal bovine serum、Gibco)を添加したSf -900TM II SFM(1×)(Gibco)中で形質転換細胞を培養して、前記融合タンパク質を発現させた。培養後の細胞から回収したタンパク質をGlutathione Sepharose 4B(GE HEALTHCARE)に通してGST-RIG-Iを回収し、リコンビナントRIG-Iとして用いた。
【0055】
16)in vitro RNA pull down assay
Lysis buffer(20 mM HEPES、150 mM NaCl、1 mM EDTA、1%NP -40、1 mM PMSF)中で各濃度のTHGPとビオチン化3pRNA 0.1μgを室温で30分間、穏やかに転倒混和した。その後GST-RIG 3μgを加え、さらに室温で1時間転倒混和した。次に、Dynabeads M -280 Streptavidin(Invitrogen)を加え室温で1時間転倒混和し、ビーズをwash buffer(20 mM HEPES、150 mM NaCl、1 mM EDTA、0.5%NP -40)で3回洗浄し、2×sample bufferを20μl加えた後、100℃で5分間ボイルした。これを10%ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS-PAGEにより展開した。SDS-PAGE後のゲルを回収し、PVDFメンブレンに130mAの定電流で70分間トランスファーした後、メンブレンを5%スキムミルクで1時間ブロッキングし、1/1000の濃度の1次抗体(GST(B-14):sc-138(Santa Cruz Biotechnology))を含んだSolution 1(TOYOBO)を加えて4℃で一晩反応させた。その後、メンブレンを10分間×3回洗浄し、1/5000の濃度の2次抗体(Anti-mouse IgG HRP -linked Antibody Cell Signaling Technology)を含んだTBS -Tを加えて1時間反応させた。その後、メンブレンを10分間×3回洗浄し、LAS -4000(GE Healthcare)を用いてPierce(登録商標) Western Blotting Substrate Plus(Thermo SCIENTIFIC)による発光を計測した。
【0056】
17)THGP固定化カラムを用いた吸着試験
THGP固定化カラム(島田康弘、岩手大学大学院連合農学研究科博士学位論文、2016年に準じて作製)を0.7M NaOHで前処理し、RNase freeの水でpH7になるまで水洗した。コントロールとしてRNase freeの水で水洗したGSTビーズ(GE HEALTHCARE)を用いた。50μlの約0.5mg/ml 3pRNA、poly I:C又はニシン精子DNA(HT -DNA)をTHGP固定化カラム又はGSTビーズに添加し、室温で30分間静置した。その後、溶出液中の核酸濃度を、微量紫外可視分光度計Q5000(トミー精工)を用いて測定した。
【0057】
18)マウスへの3pRNA刺激及びTHGPの投与
ΔβLucマウス(IFN -βの遺伝子部分をルシフェラーゼに置換したマウス、Dr. Stefan Lienenklausより入手、Lienenklaus et al. J Immunol, 183, 3229-3236, 2009)への3pRNA刺激は、In vivo jetPEI(Polyplus transfection)を製品プロトコルに従って使用し、3pRNA 10μgをN/P比が10になるようにして経鼻投与することで行った。またTHGPの投与は、NaClを含まないPBSでTHGPを3倍希釈して最終濃度33.33 mg/mlとし、3pRNA刺激の24時間前、3時間前及び3時間後にTHGP溶液を経鼻投与することで行った。
【0058】
19)in vivo Imaging System
VivoGlo TM Luciferin、In Vivo Grade(Promega)を50 mg/mlに調整し、400μlを腹腔に投与し、15分後にIVIS Spectrum(Xenogen)を用いて蛍光測定を行った。
【0059】
20)ELISA
Mouse IL -6 Quantikine ELISA Kit(R&D Systems)を製品プロトコルに従って使用して、2倍に希釈した血清からサンプルを作製し、POWERSCAN4(DSファーマ)を用いて蛍光測定を行った。
【0060】
2.実施例
1)RIG-Iと3pRNAとの結合へのTHGPの影響
RIG-Iと3pRNAとの結合に対するTHGPの影響をin vitro RNA pull down assay法で調べたところ、THGPの存在によってRIG-Iと3pRNAの結合量が減少することが確認された(図1a)。さらに、THGP固定化カラムを用いた吸着試験を3pRNA、poly I:C及びHT -DNAについて行った結果、HT -DNA及びpoly I:Cと比較して、3pRNAがTHGP固定化カラムにより多く吸着することが確認された(図1b)。
【0061】
2)3pRNA分解へのTHGPの影響
THGPと3pRNAを混和してアガロースゲル電気泳動を行った結果、THGPを混和しても3pRNA量は変化しない、即ち分解されないことが確認された(図2)。
【0062】
3)3pRNA細胞内取り込みへのTHGPの影響
RAW264.7細胞の培地にTHGPを加え、Rhodamine-3pRNAで刺激した。刺激から5時間後の細胞を共焦点顕微鏡を用いて観察し、3pRNAを取り込んだ細胞数をカウントし、またFACSを用いて3pRNAを取り込んだ細胞の割合を測定した。その結果、THGP無添加と比較して、3pRNAを取り込んだ細胞の割合に変化は見られなかった(図3)。以上の1)〜3)の結果から、THGPはRIG-Iとそのリガンド3pRNAとの結合を阻害することでRIG-Iシグナルを阻害するものと推察された。
【0063】
4)MDA5経路へのGe-132の影響
RAW264.7細胞の培地に最終濃度が0μg/ml、2μg/ml、20μg/ml、200μg/ml、2000μg/mlのTHGPを加え、24時間後にpoly I:Cで刺激した。刺激から8時間後に細胞から全RNAを回収し、定量的RT -PCR法でmRNA量を測定した。その結果、THGPで前処理をしてもIFN-βのmRNA量の増減は観察されなかった(図4a)。polyI:Cの刺激をMDA5シグナルを活性化させることが知られているEMCVの感染に代えて同様の実験を行った場合も、IFN-βのmRNA量の増減は観察されなかった(図4b)。以上から、RIG-Iとの高い相同性を持ちRNAヘリカーゼ様ドメインを有する細胞内タンパク質であるMDA5との結合を介してIFN-βの発現を誘導することが知られているpoly I:Cと対照的に、THGPはMDA5を介したIFN-βの産生誘導に影響を与えないものと推察された。
【0064】
5)ウイルス複製へのGe-132の影響
RAW264.7細胞を最終濃度が0μg/ml、2μg/ml、20μg/ml、200μg/ml、2000μg/mlのTHGPでそれぞれ24時間前処理した後、1.0 MOIのインフルエンザウイルスPR8を感染させ、24時間後に上清を回収し、MDCK細胞を用いたplaque-forming assay法でウイルス量を測定した。その結果、THGPの存在によりウイルス数は減少傾向にあることが確認された(図5c)。また、感染から24時間時のRAW264.7細胞のIFN-βのmRNAとPR8のNP(Nuclear protein)のmRNAとを定量的RT -PCR法で定量した。その結果、IFN-βのmRNA量とPR8のNPのmRNA量は、THGP濃度依存的に低下する傾向が観察された(図5a,b)。この結果は、THGPがIFN-βの産生誘導を抑制する機能を有し、またRNAウイルスであるPR8の複製又は増殖を抑制する機能を有することを示す。
【0065】
6)マウスへの3pRNA刺激に対するTHGPの影響
ΔβLucマウスに3pRNAを経鼻投与し、3pRNA刺激の前後に計3回THGP(用量134.4 mg/kg体重)又はPBSを経鼻投与した。3pRNA刺激から12時間後及び24時間後にIVIS imaging systemを用いて胸部及び頭部の蛍光を測定してIFN -βのプロモーター活性を定量した。その結果、PBSを投与したマウスと比較して、THGPを投与したマウスではIFN -βプロモーター活性の減弱が観察された(図6a)。
【0066】
また、6週齢の雄性Balb/cマウスに水疱性口内炎ウイルス(VSV、北海道大学 高田礼人博士より分与)を1×107 pfuで20μlのPBSにて感染させた。VSV感染の24時間前、3時間前、3時間後、24時間後、48時間後及び72時間後に、THGP(用量3.8 mg/kg体重、152 mg/kg体重)又はPBSを経鼻投与した。マウスから経時的に血液を採取し、血清中のIL -6タンパク量をELISAで測定した。VSV感染の24時間後及び72時間後の血清中IL -6タンパク量を図6bに示す。PBSを投与したマウスと比較して、THGPを投与したマウスではIL -6のタンパク量が用量依存的に減少することが確認された。
【0067】
7)THGP誘導体のIFN-βプロモーター活性抑制効果の確認
HEK293T細胞に、IFN-βプロモーターの制御下にホタルルシフェラーゼ遺伝子を発現可能に有する発現ベクターp125-Luc(京都大学 藤田尚志博士より分与、Yoneyama et al., J. Biochem. 120: 160-169, 1996)及びウミシイタケルシフェラーゼを恒常的に発現する発現ベクターpRL-TK(Promega)をco-transfectionして24時間培養した後、最終濃度が0μM、1μM、10μM、100μM、1000μMのTHGP又はTHGP誘導体である3-(トリメチルゲルミル)プロパン酸、2-(トリヒドロキシゲルミル)シクロペンタンカルボン酸若しくは2-(トリヒドロキシゲルミル)シクロヘキサンカルボン酸でそれぞれ24時間処理した。次いで3pRNA(最終濃度1μg/mL)を用いて核酸刺激を24時間行った後、Dual-Luciferase Reporter Assay System(Promega)によりホタルルシフェラーゼ及びウミシイタケルシフェラーゼ活性を測定し、IFN -βのプロモーター活性をウミシイタケルシフェラーゼ活性に対するホタルルシフェラーゼ活性の相対値として表した。使用したTHGP誘導体のうち、2-(トリヒドロキシゲルミル)シクロペンタンカルボン酸及び2-(トリヒドロキシゲルミル)シクロヘキサンカルボン酸はTHGPよりもIFN-βプロモーター活性を強く抑制することが確認された(図7、図中のTHGP誘導体1は3-(トリメチルゲルミル)プロパン酸、THGP誘導体2は2-(トリヒドロキシゲルミル)シクロペンタンカルボン酸、THGP誘導体3は2-(トリヒドロキシゲルミル)シクロヘキサンカルボン酸である)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]