【実施例】
【0028】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は実施例に何ら限定されるものではない。
【0029】
なお、実施例中、反応の進行はガスクロマトグラフィー(GC)等を用いて確認し、原料の消失が確認されるまで、又はそれ以上反応が進行しないことが確認されるまで反応を行った。
【0030】
(実施例1:銀ナノ粒子樹脂複合体の調製)
下記スキーム1に基づいて、銀ナノ粒子樹脂複合体(両親媒性ポリマー担持銀ナノ触媒(ARP−Ag))(3)を調製した。なお、スキーム1中、ポリスチレン−ポリエチレングリコールアミノレジン(1)としては、TentaGel S NH
2(商品名、Rapp Polymere社製、アミノ基担持量:0.27mmol/g)を用いた。具体的な実験手順を以下に示す。
【化2】
【0031】
ポリスチレン−ポリエチレングリコールアミノレジン(1)(1.7g,0.46mmol−NH
2)を、1NNaOH溶液(17mL)、水(20mL×3)、アセトン(20mL×3)及び塩化メチレン(20mL×3)で洗い、終夜減圧乾燥した。乾燥後のレジンを含む乾燥メタノール(MeOH)(17mL)に、不活性雰囲気下、ヘキサフルオロリン酸銀(I)(AgPF
6)(140mg,0.55mmol)の乾燥メタノール(5mL)溶液を加えた。反応容器をアルミホイルで覆った後に、混合物を室温、暗条件で2時間振とうした。ジエチルエーテル(70mL)を加えた後に、混合物を更に2時間振とうした。デカンテーションにより溶媒を除いた後に、残った銀錯体(2)をジエチルエーテル(20mL)で洗い、減圧乾燥した。
【0032】
乾燥後の銀錯体(2)を含む水(17mL)に、水素化ホウ素ナトリウム(104mg,2.75mmol)の水(5mL)溶液を加え、反応容器をアルミホイルで覆った後、得られた混合物を室温で5時間振とうした。得られたレジンをろ取し、これを水(20mL×3)及び塩化メチレン(20mL×3)で洗い、減圧乾燥することにより、ARP−Ag(3)を得た。得られたARP−Ag(3)について、以下の分析を行った。
【0033】
ICP分析の結果、得られたARP−Ag(3)における銀元素の含有量は0.256mmol/gであった。
TEM分析の結果、銀ナノ粒子が生成し、ポリマーマトリックス中に分散していることが確認された。銀ナノ粒子の粒径は2〜10nmであり、平均粒径は4.0±1.7nmであった。
XPS分析の結果、それぞれAg 3d
5/2及びAg 3d
3/2に由来する特徴的なピークが367.04及び373.02eVに観察された。ARP−Ag(3)におけるAg 3d
5/2の結合エネルギーは、Ag
2Oの結合エネルギー(367.3eV)に非常に近く、Ag(0)金属の結合エネルギー(368.24eV)よりは低い。したがって、ARP−Ag(3)のポリマーマトリックス中に分散された銀ナノ粒子の酸化数は"+1"(Ag(I))であると判断される。
【0034】
(実施例2)
下記スキーム2に従って、ARP−Ag(3)を触媒として用い、種々のアルデヒド(4)の水素化によるアルコール(5)の合成を検討した。以下、ベンズアルデヒド(4a)をアルデヒド(4)として用いた場合を例として、具体的な操作を以下に示す。
カートリッジにARP−Ag(3)(230mg,0.059mmol Ag)を充填し、フロー式水素化反応システムH−Cube Pro(登録商標)(ThalesNano社製)にセットし、ベンズアルデヒド(4a)(50mM)及び炭酸ナトリウム(1当量)の水(H
2O)溶液を流速0.5mL/分(接触時間:62秒)で流した。100℃、システム圧力40bar(4MPa)の条件で、ガスモジュール(40mL/分)から供給された水素をベンズアルデヒドに作用させて、フロー水素化を行った。得られた反応液を108分間(54mL)回収し、ジエチルエーテルで抽出した(100mL×5)。得られた有機相を合一して、硫酸マグネシウムにより乾燥し、その後単離し、収率99%でベンジルアルコール(5a)を得た。
また、反応条件を以下に示す条件A〜Cに、アルデヒドの濃度及び溶媒を、それぞれ以下に示すa)〜c)及びd)〜j)に変更した他は、ベンズアルデヒド(4a)を用いた場合と同様にして、他のアルデヒド(4)の水素化を行った。その結果を以下に示す。なお、ARP−Ag(690mg,0.177mmol)としては、上記カートリッジを三本つなげたものを用いた。
【化3】
条件A:
ARP−Ag(230mg,0.059mmol),システム圧力40bar,反応温度100℃,流速0.5mL/min(接触時間:62秒)
(なお、アルコール5bの生成の際には、システム圧力を60barとした。)
条件B:
ARP−Ag(230mg,0.059mmol),システム圧力60bar,反応温度120℃,流速0.3mL/min(接触時間:104秒)
条件C:
ARP−Ag(690mg,0.177mmol),システム圧力60bar,反応温度120℃,流速0.3mL/min(接触時間:312秒)
アルデヒド濃度:
a)50mM,b)25mM,c)12.5mM
溶媒:
d)H
2O,e)H
2O/EtOH=7:3,f)H
2O/EtOH=6:4,g)H
2O/EtOH=4:6,h)H
2O/t−BuOH=7:3,i)H
2O/t−BuOH=6:4,j)H
2O/t−BuOH=4:6
【0035】
(実施例3)
上記スキーム2に示した反応のうち、ベンズアルデヒド(4a)からベンジルアルコール(5a)への水素化をバッチ方式で行った。具体的な操作を以下に示す。
ベンズアルデヒド(4a)(1mmol)、炭酸ナトリウム(1mmol)、ARP−Ag(3)(2mol%Ag)及び水(2mL)をオートクレーブに充填した。オートクレーブ内の気体を水素に置換して、40barまで加圧した。オートクレーブ内の内容物を、100℃で2時間攪拌し反応を完結させた後に、触媒をろ取し、ろ液をGC−MSにより分析したところ、ベンジルアルコール(5a)が収率>99%で得られていることが確認された。
【0036】
(実施例4)
下記スキーム3に従って、ARP−Ag(3)を触媒として用い、種々のケトン(6)の水素化によるアルコール(7)の合成を検討した。以下、アセトフェノン(6a)をケトン(6)として用いた場合を例として、具体的な操作を以下に示す。
ARP−Ag(3)(230mg,0.059mmol Ag)を充填したカートリッジを3本準備し(計:690mg,0.177mmol Ag)、これらが連続するようにフロー式水素化反応システムH−Cube Pro(登録商標)(ThalesNano社製)にセットし、アセトフェノン(6a)(12.5mM)及び炭酸ナトリウム(1当量)の水−tert-ブチルアルコール溶液を流速0.3mL/分(接触時間:312秒)で流した。120℃、システム圧力60barの条件で、ガスモジュール(40mL/分)から供給された水素をアセトフェノン(6a)に作用させて、フロー水素化を行った。得られた反応液を167分間(50mL)回収し、酢酸エチルで抽出した(100mL×5)。得られた有機相を合一して、硫酸マグネシウムにより乾燥し、その後単離し、収率86%で1−フェニルエタノール(7a)を得た。
また、反応条件を以下に示す条件A,Bに、溶媒をa)、b)に変更した他は、アセトフェノン(6a)を用いた場合と同様にして、他のケトン(6)の水素化を行った。その結果を以下に示す。
【化4】
条件A:
ARP−Ag(690mg,0.177mmol),システム圧力60bar,反応温度120℃,流速0.3mL/min(接触時間:312秒)
条件B:
ARP−Ag(690mg,0.177mmol),システム圧力40bar,反応温度100℃,流速0.5mL/min(接触時間:186秒)
溶媒:
a)H
2O/t−BuOH=7:3,b)H
2O/t−BuOH=6:4
【0037】
(実施例5)
下記スキーム4に従って、ARP−Ag(3)を触媒として用い、2種の官能基を有する基質(8)の水素化を行い、得られた生成物(9)から本反応の化学選択性を検討した。以下、基質(8a)を基質(8)として用いた場合を例として、具体的な操作を以下に示す。
カートリッジにARP−Ag(3)(230mg,0.059mmol Ag)を充填し、フロー式水素化反応システムH−Cube Pro(登録商標)(ThalesNano社製)にセットし、基質(8)(12.5mM)及び炭酸ナトリウム(1当量)の水−エタノール溶液を流速0.5mL/分で流した。100℃、システム圧力10barの条件で、ガスモジュール(40mL/分)から供給された水素を基質(8a)に作用させて、フロー水素化を行った。得られた反応液を46分間(23mL)回収し、t−ブチルメチルエーテルで抽出した(50mL×5)。得られた有機相を合一して、硫酸マグネシウムにより乾燥し、その後単離し,収率95%で生成物(9a)を得た。
また、反応条件を以下に示す条件A〜Dに、基質の濃度及び溶媒を、それぞれ以下に示すa)〜c)及びd)〜j)に変更した他は、基質(8a)を用いた場合と同様にして、他の基質(8)の水素化を行った。その結果を以下に示す。なお、ARP−Ag(690mg,0.177mmol)としては、上記カートリッジを三本つなげたものを用いた。
【化5】
条件A:
ARP−Ag(230mg,0.059mmol),システム圧力40bar,反応温度100℃,流速0.5mL/min(接触時間:62秒)
条件B:
ARP−Ag(230mg,0.059mmol),システム圧力60bar,反応温度120℃,流速0.3mL/min(接触時間:104秒)
条件C:
ARP−Ag(230mg,0.059mmol),システム圧力10bar,反応温度100℃,流速0.5mL/min(接触時間:62秒)
条件D:
ARP−Ag(690mg,0.177mmol),システム圧力60bar,反応温度120℃,流速0.3mL/min(接触時間:312秒)
アルデヒド濃度:
a)12.5mM,b)25mM,c)10mM
溶媒:
d)H
2O/EtOH=6:4,e)H
2O/EtOH=5:5,f)H
2O/EtOH=4:6,g)H
2O/tBuOH=7:3,h)H
2O/t−BuOH=6:4,i)H
2O/t−BuOH=5:5,j)H
2O/t−BuOH=4:6,k)H
2O
【0038】
実施例5の結果から、ARP−Ag(3)を触媒として用いた水素化によれば、アルデヒドと、アルキン、オレフィン又は芳香族ケトンが併存する基質を用いた場合でも、アルデヒドが優先して還元されることが分かる。また、芳香族ケトンとアルキンが併存する基質を用いた場合には、ケトンが優先して水素化される。
特に、アルキンや末端オレフィンは一般的に水素化に対する反応性が高く、通常アルデヒドを選択的に水素化することは困難である。ここから、ARP−Ag(3)を触媒として用いた水素化は特徴的な化学選択性を示すと言うことができる。
【0039】
(実施例6)
下記スキーム5に従って、ARP−Ag(3)を触媒として用い、種々の基質(8)の水素化を検討した。具体的な操作を以下に示す。
カートリッジにARP−Ag(3)(230mg,0.059mmol Ag)を充填し、フロー式水素化反応システムH−Cube Pro(登録商標)(ThalesNano社製)にセットし、基質(8)(50mM)及び炭酸ナトリウム(1当量)の水−エタノール溶液を流速0.5mL/分で流した。100℃、システム圧力40barの条件で、ガスモジュール(40mL/分)から供給された水素を基質(8)に作用させて、フロー水素化を行った。得られた反応液をGCを用いて分析し、収率を求めた。その結果を以下に示す。
【化6】
なお、基質(8q)を用いた場合には、生成物(9q)及び(9q’)が混合物として得られ、基質(8r)を用いた場合には、生成物(9r)及び(9r’)が混合物として得られた。
【0040】
実施例6の結果から明らかであるように、ARP−Ag(3)を触媒として用いることで、イミノ基、ニトロ基、アジ基、エポキシ基、末端アルキン等の水素化も可能であり、ARP−Ag(3)は水素化触媒として汎用性を有することが確認された。
【0041】
(実施例7)
上記スキーム2に示した反応のうち、ベンズアルデヒド(4a)からベンジルアルコール(5a)への水素化を長時間行い、触媒の耐久性を検討した。
具体的には、実施例2と同条件で2週間(336時間)反応を行い、定期的に反応液を採取しベンジルアルコール(5a)の収率を分析したが、2週間の間、ベンズアルデヒド(4a)はベンジルアルコール(5a)に定量的に転換され、ARP−Ag(3)が長時間連続フロー反応への耐久性に優れることが確認できた。本反応における触媒のTONは少なくとも8560より大きい。
触媒を回収し、ICP分析を行ったところ、2週間の反応後も77%の銀元素がレジン中に残っていた。また、回収された触媒についても、高い触媒活性を有することが確認された。