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特開2020-131167銀ナノ粒子樹脂複合体及び水素化触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-131167(P2020-131167A)
(43)【公開日】2020年8月31日
(54)【発明の名称】銀ナノ粒子樹脂複合体及び水素化触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 31/26 20060101AFI20200803BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20200803BHJP
   B01J 37/16 20060101ALI20200803BHJP
   C07C 29/145 20060101ALN20200803BHJP
   C07C 33/22 20060101ALN20200803BHJP
   C07C 33/20 20060101ALN20200803BHJP
   C07C 33/46 20060101ALN20200803BHJP
   C07C 31/135 20060101ALN20200803BHJP
   C07C 31/133 20060101ALN20200803BHJP
   C07C 31/125 20060101ALN20200803BHJP
   C07C 43/205 20060101ALN20200803BHJP
   C07C 41/18 20060101ALN20200803BHJP
   C07C 253/30 20060101ALN20200803BHJP
   C07C 255/53 20060101ALN20200803BHJP
   C07C 269/06 20060101ALN20200803BHJP
   C07C 271/28 20060101ALN20200803BHJP
   C07C 33/30 20060101ALN20200803BHJP
   C07C 33/14 20060101ALN20200803BHJP
   C07C 33/025 20060101ALN20200803BHJP
   C07C 45/61 20060101ALN20200803BHJP
   C07C 49/82 20060101ALN20200803BHJP
   C07C 5/08 20060101ALN20200803BHJP
   C07C 15/073 20060101ALN20200803BHJP
   C07C 15/46 20060101ALN20200803BHJP
   C07C 1/20 20060101ALN20200803BHJP
   C07C 209/52 20060101ALN20200803BHJP
   C07C 209/42 20060101ALN20200803BHJP
   C07C 211/45 20060101ALN20200803BHJP
   C07C 211/27 20060101ALN20200803BHJP
   C07C 213/02 20060101ALN20200803BHJP
   C07C 215/76 20060101ALN20200803BHJP
   C07F 7/08 20060101ALN20200803BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20200803BHJP
   C07D 213/30 20060101ALN20200803BHJP
【FI】
   B01J31/26 Z
   B01J35/02 H
   B01J37/16
   C07C29/145
   C07C33/22
   C07C33/20
   C07C33/46
   C07C31/135
   C07C31/133
   C07C31/125
   C07C43/205 B
   C07C41/18
   C07C253/30
   C07C255/53
   C07C269/06
   C07C271/28
   C07C33/30
   C07C33/14
   C07C33/025
   C07C45/61
   C07C49/82
   C07C5/08
   C07C15/073
   C07C15/46
   C07C1/20
   C07C209/52
   C07C209/42
   C07C211/45
   C07C211/27
   C07C213/02
   C07C215/76
   C07F7/08 F
   C07B61/00 300
   C07D213/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-31807(P2019-31807)
(22)【出願日】2019年2月25日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究事業(ACCEL)「超活性固定化触媒開発に立脚した基幹化学プロセスの徹底効率化」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】魚住 泰広
(72)【発明者】
【氏名】大迫 隆男
【テーマコード(参考)】
4C055
4G169
4H006
4H039
4H049
【Fターム(参考)】
4C055AA01
4C055BA02
4C055BA06
4C055BA16
4C055CA01
4C055DA01
4C055FA11
4C055FA32
4C055FA34
4C055FA38
4G169AA03
4G169BA22A
4G169BA22B
4G169BA32A
4G169BC32A
4G169BC32B
4G169CB02
4G169CB70
4G169DA06
4G169EB18Y
4G169EB19
4G169EC27
4G169FB06
4G169FB45
4H006AA02
4H006AC11
4H006AC41
4H006AC52
4H006BE20
4H006BJ20
4H006BJ50
4H006BM10
4H006BM30
4H006BM71
4H006BM72
4H006BN10
4H006BP30
4H006GN00
4H006GP03
4H039CA60
4H039CA71
4H039CB10
4H039CB20
4H039CB40
4H039CF40
4H049VN01
4H049VP01
4H049VQ18
4H049VR24
4H049VS23
4H049VS24
4H049VT04
(57)【要約】
【課題】
末端オレフィン等を有するアルデヒドであっても、アルデヒドを選択的に水素化することが可能であり、且つ耐久性が高い水素化触媒、及びこれに用いられる銀ナノ粒子樹脂複合体を提供すること。
【解決手段】
ポリスチレン−ポリエチレングリコール共重合樹脂と、当該樹脂中に分散された銀ナノ粒子とを備える、銀ナノ粒子樹脂複合体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン−ポリエチレングリコール共重合樹脂と、当該樹脂中に分散された銀ナノ粒子とを備える、銀ナノ粒子樹脂複合体。
【請求項2】
配位基を有するポリスチレン−ポリエチレングリコール共重合樹脂に銀塩を担持させて銀錯体を形成する工程と、形成された銀錯体に還元剤を作用させる工程とを経て製造される、請求項1に記載の銀ナノ粒子樹脂複合体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の銀ナノ粒子樹脂複合体からなる水素化触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀ナノ粒子樹脂複合体及び水素化触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
銀ナノ粒子は、アルデヒドを選択的に水素化するための触媒として知られている。例えば、非特許文献1では、セルロース担持銀−鉄ナノ粒子を触媒として用いることで、炭素−炭素二重結合を有するアルデヒドを水素化した際に、アルデヒドが選択的に水素化されアルコールが生成することが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】ACS Sustainable Chemistry & Engineering2016, 4, 965-973.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、非特許文献1においては、内部オレフィンを有するアルデヒドを用いて水素化の選択性を検討しているが、末端オレフィンやアルキンは内部オレフィンよりも水素化されやすいことが知られている。非特許文献1の触媒では、末端オレフィンやアルキンを有するアルデヒドについて、アルデヒドを選択的に水素化することは難しい。さらに、非特許文献1の触媒は、回収・再利用を繰り返すと失活することが示されており、触媒の耐久性に改善の余地がある。
【0005】
そこで本発明は、末端オレフィン等を有するアルデヒドであっても、アルデヒドを選択的に水素化することが可能であり、且つ耐久性が高い水素化触媒、及びこれに用いられる銀ナノ粒子樹脂複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、鋭意検討を行った結果、ポリスチレン−ポリエチレングリコール共重合樹脂と、当該樹脂中に分散された銀ナノ粒子とを備える、銀ナノ粒子樹脂複合体により、上記課題を解決できることを見出した。
【0007】
かかる銀ナノ粒子樹脂複合体は、配位基を有するポリスチレン−ポリエチレングリコール共重合樹脂に銀塩を担持させて銀錯体を形成する工程と、形成された銀錯体に還元剤を作用させる工程とを経て製造されるものであると好ましい。
【0008】
上記銀ナノ粒子樹脂複合体は水素化触媒として好適に適用できる。かかる水素化触媒は、末端オレフィン等を有するアルデヒドであっても、アルデヒドを選択的に水素化することが可能であり、且つ耐久性が高い。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、末端オレフィン等を有するアルデヒドであっても、アルデヒドを選択的に水素化することが可能であり、且つ耐久性が高い水素化触媒、及びこれに用いられる銀ナノ粒子樹脂複合体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
[銀ナノ粒子樹脂複合体]
本実施形態の銀ナノ粒子樹脂複合体は、ポリスチレン−ポリエチレングリコール共重合樹脂と、当該樹脂中に分散された銀ナノ粒子とを備える。ポリスチレン−ポリエチレングリコール共重合樹脂とは、例えば、ポリスチレン上に、ポリエチレングリコールがグラフト重合されたものであり、本実施形態の銀ナノ粒子樹脂複合体の原料としては、例えば、グラフト重合により導入されたポリエチレングリコール鎖の末端にアミノ基が導入されたポリスチレン−ポリエチレングリコールアミノレジンを用いることができる。ポリスチレンは架橋されていてもよい。
【0012】
ポリスチレン−ポリエチレングリコールアミノレジンは、例えば下記式(α)で表される構造を有する。
【化1】

[式(α)中、Zは架橋基を示し、pは0又は1を示す。]
【0013】
式(α)中、m及びnは、それぞれポリエチレングリコール鎖の繰り返し単位の数を示し、例えば、その分子量が1000〜100000程度となるようなものである。式(α)中、lはポリスチレン由来の繰り返し単位の数を示す。なお、ポリスチレンは、ポリエチレングリコール鎖及びアミノ基を有する式(α)で表される構造の他、置換基を有しないスチレン単位を有していてもよく、架橋されていてもよい。
【0014】
ポリスチレン−ポリエチレングリコールアミノレジンとしては、従来公知のものを用いることができ、例えば、実施例で用いているテンタゲル(TentaGel、商品名)の他、アルゴゲル(ArgoGel、商品名)、ノバゲル(NovaGel、商品名)等を使用することができる。
【0015】
銀ナノ粒子は、金属状銀(Ag(0))であってもよく、1価の銀(Ag(I))であってもよい。後述する方法で製造される銀ナノ粒子は、還元剤を作用させた段階はAg(0)に還元されるが、その後酸化されて酸化銀(AgO)となっていてもよい。
【0016】
銀ナノ粒子の粒径は、通常ナノ粒子と呼ばれるサイズのものであればよいが、例えば平均粒径が1〜100nm程度のものとすることができる。
【0017】
上記銀ナノ粒子樹脂複合体における銀ナノ粒子の担持量は、例えば、銀元素換算で、0.05〜1.0mmol/gとすることができる。
【0018】
[銀ナノ粒子樹脂複合体の製造方法]
上記銀ナノ粒子樹脂複合体の製造方法は特に限定されないが、例えば、配位基を有するポリスチレン−ポリエチレングリコール共重合樹脂に銀塩を担持させて銀錯体を形成する工程と、形成された銀錯体に還元剤を作用させる工程とを経て製造することができる。
【0019】
上記配位基は、銀塩に配位し得るものであれば特に限定されないが、例えば、アミノ基、カルボキシル基、チオール基、ホスフィノ基等が挙げられる。これらの中で、配位した後に還元剤により還元させ易い等の観点から、アミノ基又はカルボキシル基が好ましく、アミノ基がより好ましい。当該アミノ基は、置換又は非置換アミノ基のいずれであってもよい。アミノ基を有するポリスチレン−ポリエチレングリコール共重合樹脂としては、上述のポリスチレン−ポリエチレングリコールアミノレジンを好適に適用できる。
【0020】
銀塩としては、例えば、フッ化銀(I)、酢酸銀(I)、テトラフルオロホウ酸銀(I)、過塩素酸銀(I)、硝酸銀(I)、炭酸銀(I)、シアン化銀(I)、安息香酸銀(I)、銀(I)トリフレート、ヘキサフルオロリン酸銀(I)、ヘキサフルオロアンチモン酸銀(I)、酸化銀(I)、亜硝酸銀(I)、リン酸銀(I)等が挙げられる。
【0021】
配位基を有するポリスチレン−ポリエチレングリコール共重合樹脂に銀塩を担持させる際の条件は、特に限定されないが、銀塩を溶解可能な適切な溶媒(例えば、メタノール)中で行うことができる。なお、形成される銀錯体の分解を避けるため、遮光条件で行うことが望ましい。
【0022】
還元剤としては、例えば、エチレングリコール、ホルムアルデヒド、ヒドラジン、フェニルヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、アスコルビン酸、3−アミノ−1−プロパノール、水素ガス等が挙げられる。
【0023】
銀錯体に還元剤を作用させる際の条件は、特に限定されないが、還元剤を溶解可能な適切な溶媒(例えば水)中で行うことができる。なお、銀錯体の分解を避けるため、遮光条件で行うことが望ましい。
【0024】
(水素化触媒)
上述の銀ナノ粒子樹脂複合体は水素化触媒として好適に適用できる。かかる水素化触媒は、アルデヒドの選択的な水素化に特に優れるとともに、イミノ基、ニトロ基、アジ基、エポキシ基、末端アルキン、芳香族ケトン等の水素化も可能である。
【0025】
上述の銀ナノ粒子樹脂複合体を水素化触媒として用いる際には、バッチ方式、連続フロー方式のいずれも適用することができるが、触媒をカートリッジに充填して、当該カートリッジに原料を流す連続フロー法を適用することが望ましい。上述の銀ナノ粒子樹脂複合体は、特に長時間連続フロー法に適用した場合の耐久性に優れる。
【0026】
上述の銀ナノ粒子樹脂複合体を水素化触媒として用いる際の触媒量は特に限定されないが、銀元素換算で、0.01〜50mol%であると好ましく、0.1〜25mol%であるとより好ましく、0.5〜10mol%であると更に好ましい。ここで、触媒量は、基質の量を基準とした割合である。
【0027】
上述の水素化反応は、水素ガス雰囲気下、加圧条件(例えば1〜10MPa(10〜100bar))で行うことが好ましい。水素化反応の反応温度は、例えば、50〜150℃とすることができる。水素化反応の反応溶媒としては、水を含む溶媒であると好ましく、例えば水、又は水及びアルコール(例えばエタノール)の混合溶媒を適用することができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は実施例に何ら限定されるものではない。
【0029】
なお、実施例中、反応の進行はガスクロマトグラフィー(GC)等を用いて確認し、原料の消失が確認されるまで、又はそれ以上反応が進行しないことが確認されるまで反応を行った。
【0030】
(実施例1:銀ナノ粒子樹脂複合体の調製)
下記スキーム1に基づいて、銀ナノ粒子樹脂複合体(両親媒性ポリマー担持銀ナノ触媒(ARP−Ag))(3)を調製した。なお、スキーム1中、ポリスチレン−ポリエチレングリコールアミノレジン(1)としては、TentaGel S NH2(商品名、Rapp Polymere社製、アミノ基担持量:0.27mmol/g)を用いた。具体的な実験手順を以下に示す。
【化2】
【0031】
ポリスチレン−ポリエチレングリコールアミノレジン(1)(1.7g,0.46mmol−NH)を、1NNaOH溶液(17mL)、水(20mL×3)、アセトン(20mL×3)及び塩化メチレン(20mL×3)で洗い、終夜減圧乾燥した。乾燥後のレジンを含む乾燥メタノール(MeOH)(17mL)に、不活性雰囲気下、ヘキサフルオロリン酸銀(I)(AgPF)(140mg,0.55mmol)の乾燥メタノール(5mL)溶液を加えた。反応容器をアルミホイルで覆った後に、混合物を室温、暗条件で2時間振とうした。ジエチルエーテル(70mL)を加えた後に、混合物を更に2時間振とうした。デカンテーションにより溶媒を除いた後に、残った銀錯体(2)をジエチルエーテル(20mL)で洗い、減圧乾燥した。
【0032】
乾燥後の銀錯体(2)を含む水(17mL)に、水素化ホウ素ナトリウム(104mg,2.75mmol)の水(5mL)溶液を加え、反応容器をアルミホイルで覆った後、得られた混合物を室温で5時間振とうした。得られたレジンをろ取し、これを水(20mL×3)及び塩化メチレン(20mL×3)で洗い、減圧乾燥することにより、ARP−Ag(3)を得た。得られたARP−Ag(3)について、以下の分析を行った。
【0033】
ICP分析の結果、得られたARP−Ag(3)における銀元素の含有量は0.256mmol/gであった。
TEM分析の結果、銀ナノ粒子が生成し、ポリマーマトリックス中に分散していることが確認された。銀ナノ粒子の粒径は2〜10nmであり、平均粒径は4.0±1.7nmであった。
XPS分析の結果、それぞれAg 3d5/2及びAg 3d3/2に由来する特徴的なピークが367.04及び373.02eVに観察された。ARP−Ag(3)におけるAg 3d5/2の結合エネルギーは、AgOの結合エネルギー(367.3eV)に非常に近く、Ag(0)金属の結合エネルギー(368.24eV)よりは低い。したがって、ARP−Ag(3)のポリマーマトリックス中に分散された銀ナノ粒子の酸化数は"+1"(Ag(I))であると判断される。
【0034】
(実施例2)
下記スキーム2に従って、ARP−Ag(3)を触媒として用い、種々のアルデヒド(4)の水素化によるアルコール(5)の合成を検討した。以下、ベンズアルデヒド(4a)をアルデヒド(4)として用いた場合を例として、具体的な操作を以下に示す。
カートリッジにARP−Ag(3)(230mg,0.059mmol Ag)を充填し、フロー式水素化反応システムH−Cube Pro(登録商標)(ThalesNano社製)にセットし、ベンズアルデヒド(4a)(50mM)及び炭酸ナトリウム(1当量)の水(HO)溶液を流速0.5mL/分(接触時間:62秒)で流した。100℃、システム圧力40bar(4MPa)の条件で、ガスモジュール(40mL/分)から供給された水素をベンズアルデヒドに作用させて、フロー水素化を行った。得られた反応液を108分間(54mL)回収し、ジエチルエーテルで抽出した(100mL×5)。得られた有機相を合一して、硫酸マグネシウムにより乾燥し、その後単離し、収率99%でベンジルアルコール(5a)を得た。
また、反応条件を以下に示す条件A〜Cに、アルデヒドの濃度及び溶媒を、それぞれ以下に示すa)〜c)及びd)〜j)に変更した他は、ベンズアルデヒド(4a)を用いた場合と同様にして、他のアルデヒド(4)の水素化を行った。その結果を以下に示す。なお、ARP−Ag(690mg,0.177mmol)としては、上記カートリッジを三本つなげたものを用いた。
【化3】

条件A:
ARP−Ag(230mg,0.059mmol),システム圧力40bar,反応温度100℃,流速0.5mL/min(接触時間:62秒)
(なお、アルコール5bの生成の際には、システム圧力を60barとした。)
条件B:
ARP−Ag(230mg,0.059mmol),システム圧力60bar,反応温度120℃,流速0.3mL/min(接触時間:104秒)
条件C:
ARP−Ag(690mg,0.177mmol),システム圧力60bar,反応温度120℃,流速0.3mL/min(接触時間:312秒)
アルデヒド濃度:
a)50mM,b)25mM,c)12.5mM
溶媒:
d)HO,e)HO/EtOH=7:3,f)HO/EtOH=6:4,g)HO/EtOH=4:6,h)HO/t−BuOH=7:3,i)HO/t−BuOH=6:4,j)HO/t−BuOH=4:6
【0035】
(実施例3)
上記スキーム2に示した反応のうち、ベンズアルデヒド(4a)からベンジルアルコール(5a)への水素化をバッチ方式で行った。具体的な操作を以下に示す。
ベンズアルデヒド(4a)(1mmol)、炭酸ナトリウム(1mmol)、ARP−Ag(3)(2mol%Ag)及び水(2mL)をオートクレーブに充填した。オートクレーブ内の気体を水素に置換して、40barまで加圧した。オートクレーブ内の内容物を、100℃で2時間攪拌し反応を完結させた後に、触媒をろ取し、ろ液をGC−MSにより分析したところ、ベンジルアルコール(5a)が収率>99%で得られていることが確認された。
【0036】
(実施例4)
下記スキーム3に従って、ARP−Ag(3)を触媒として用い、種々のケトン(6)の水素化によるアルコール(7)の合成を検討した。以下、アセトフェノン(6a)をケトン(6)として用いた場合を例として、具体的な操作を以下に示す。
ARP−Ag(3)(230mg,0.059mmol Ag)を充填したカートリッジを3本準備し(計:690mg,0.177mmol Ag)、これらが連続するようにフロー式水素化反応システムH−Cube Pro(登録商標)(ThalesNano社製)にセットし、アセトフェノン(6a)(12.5mM)及び炭酸ナトリウム(1当量)の水−tert-ブチルアルコール溶液を流速0.3mL/分(接触時間:312秒)で流した。120℃、システム圧力60barの条件で、ガスモジュール(40mL/分)から供給された水素をアセトフェノン(6a)に作用させて、フロー水素化を行った。得られた反応液を167分間(50mL)回収し、酢酸エチルで抽出した(100mL×5)。得られた有機相を合一して、硫酸マグネシウムにより乾燥し、その後単離し、収率86%で1−フェニルエタノール(7a)を得た。
また、反応条件を以下に示す条件A,Bに、溶媒をa)、b)に変更した他は、アセトフェノン(6a)を用いた場合と同様にして、他のケトン(6)の水素化を行った。その結果を以下に示す。
【化4】

条件A:
ARP−Ag(690mg,0.177mmol),システム圧力60bar,反応温度120℃,流速0.3mL/min(接触時間:312秒)
条件B:
ARP−Ag(690mg,0.177mmol),システム圧力40bar,反応温度100℃,流速0.5mL/min(接触時間:186秒)
溶媒:
a)HO/t−BuOH=7:3,b)HO/t−BuOH=6:4
【0037】
(実施例5)
下記スキーム4に従って、ARP−Ag(3)を触媒として用い、2種の官能基を有する基質(8)の水素化を行い、得られた生成物(9)から本反応の化学選択性を検討した。以下、基質(8a)を基質(8)として用いた場合を例として、具体的な操作を以下に示す。
カートリッジにARP−Ag(3)(230mg,0.059mmol Ag)を充填し、フロー式水素化反応システムH−Cube Pro(登録商標)(ThalesNano社製)にセットし、基質(8)(12.5mM)及び炭酸ナトリウム(1当量)の水−エタノール溶液を流速0.5mL/分で流した。100℃、システム圧力10barの条件で、ガスモジュール(40mL/分)から供給された水素を基質(8a)に作用させて、フロー水素化を行った。得られた反応液を46分間(23mL)回収し、t−ブチルメチルエーテルで抽出した(50mL×5)。得られた有機相を合一して、硫酸マグネシウムにより乾燥し、その後単離し,収率95%で生成物(9a)を得た。
また、反応条件を以下に示す条件A〜Dに、基質の濃度及び溶媒を、それぞれ以下に示すa)〜c)及びd)〜j)に変更した他は、基質(8a)を用いた場合と同様にして、他の基質(8)の水素化を行った。その結果を以下に示す。なお、ARP−Ag(690mg,0.177mmol)としては、上記カートリッジを三本つなげたものを用いた。
【化5】

条件A:
ARP−Ag(230mg,0.059mmol),システム圧力40bar,反応温度100℃,流速0.5mL/min(接触時間:62秒)
条件B:
ARP−Ag(230mg,0.059mmol),システム圧力60bar,反応温度120℃,流速0.3mL/min(接触時間:104秒)
条件C:
ARP−Ag(230mg,0.059mmol),システム圧力10bar,反応温度100℃,流速0.5mL/min(接触時間:62秒)
条件D:
ARP−Ag(690mg,0.177mmol),システム圧力60bar,反応温度120℃,流速0.3mL/min(接触時間:312秒)
アルデヒド濃度:
a)12.5mM,b)25mM,c)10mM
溶媒:
d)HO/EtOH=6:4,e)HO/EtOH=5:5,f)HO/EtOH=4:6,g)HO/tBuOH=7:3,h)HO/t−BuOH=6:4,i)HO/t−BuOH=5:5,j)HO/t−BuOH=4:6,k)H
【0038】
実施例5の結果から、ARP−Ag(3)を触媒として用いた水素化によれば、アルデヒドと、アルキン、オレフィン又は芳香族ケトンが併存する基質を用いた場合でも、アルデヒドが優先して還元されることが分かる。また、芳香族ケトンとアルキンが併存する基質を用いた場合には、ケトンが優先して水素化される。
特に、アルキンや末端オレフィンは一般的に水素化に対する反応性が高く、通常アルデヒドを選択的に水素化することは困難である。ここから、ARP−Ag(3)を触媒として用いた水素化は特徴的な化学選択性を示すと言うことができる。
【0039】
(実施例6)
下記スキーム5に従って、ARP−Ag(3)を触媒として用い、種々の基質(8)の水素化を検討した。具体的な操作を以下に示す。
カートリッジにARP−Ag(3)(230mg,0.059mmol Ag)を充填し、フロー式水素化反応システムH−Cube Pro(登録商標)(ThalesNano社製)にセットし、基質(8)(50mM)及び炭酸ナトリウム(1当量)の水−エタノール溶液を流速0.5mL/分で流した。100℃、システム圧力40barの条件で、ガスモジュール(40mL/分)から供給された水素を基質(8)に作用させて、フロー水素化を行った。得られた反応液をGCを用いて分析し、収率を求めた。その結果を以下に示す。
【化6】

なお、基質(8q)を用いた場合には、生成物(9q)及び(9q’)が混合物として得られ、基質(8r)を用いた場合には、生成物(9r)及び(9r’)が混合物として得られた。
【0040】
実施例6の結果から明らかであるように、ARP−Ag(3)を触媒として用いることで、イミノ基、ニトロ基、アジ基、エポキシ基、末端アルキン等の水素化も可能であり、ARP−Ag(3)は水素化触媒として汎用性を有することが確認された。
【0041】
(実施例7)
上記スキーム2に示した反応のうち、ベンズアルデヒド(4a)からベンジルアルコール(5a)への水素化を長時間行い、触媒の耐久性を検討した。
具体的には、実施例2と同条件で2週間(336時間)反応を行い、定期的に反応液を採取しベンジルアルコール(5a)の収率を分析したが、2週間の間、ベンズアルデヒド(4a)はベンジルアルコール(5a)に定量的に転換され、ARP−Ag(3)が長時間連続フロー反応への耐久性に優れることが確認できた。本反応における触媒のTONは少なくとも8560より大きい。
触媒を回収し、ICP分析を行ったところ、2週間の反応後も77%の銀元素がレジン中に残っていた。また、回収された触媒についても、高い触媒活性を有することが確認された。