と、を含み、リチウムニッケル複合酸化物は、リチウムと、ニッケルと、コバルトと、元素Mとを含み、各元素の物質量の比(モル比)が、Li:Ni:Co:M=a:(1−x−y):x:y(ただし、0.95≦a≦1.10、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.10、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、Ti、W、Zr、及び、Alから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、リチウムニッケル複合酸化物の表面の少なくとも一部を非晶質のLiBO
前記熱処理後に得られる正極活物質を水に分散させたときに溶出する、中和滴定法によって測定される水酸化リチウム量が、正極活物質全体に対して、0.01質量%以上0.2質量%未満の範囲となるように調整する、請求項2から請求項4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン、タブレットPCなどの小型情報端末の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な二次電池の開発が要求されている。また、ハイブリット自動車を始めとする電気自動車用の二次電池として、高出力の二次電池の開発も要求されている。このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池は、負極、正極、電解質などで構成され、負極および正極の活物質には、リチウムを脱離および挿入することが可能な材料が用いられている。
【0003】
このようなリチウムイオン二次電池については、現在も研究、開発が盛んに行われているところであるが、中でも、層状またはスピネル型のリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。これまで主に提案されている材料としては、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO
2)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO
2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn
2O
4)などを挙げることができる。
【0004】
このうちリチウムコバルト複合酸化物を用いた電池では、優れた初期容量特性やサイクル特性を得るための開発がこれまで数多く行われてきており、すでにさまざまな成果が得られている。しかしながら、リチウムコバルト複合酸化物は、原料に高価なコバルト化合物を用いるため、このリチウムコバルト複合酸化物を用いる電池の容量あたりの単価は、ニッケル水素二次電池より大幅に高くなり、適用可能な用途はかなり限定される。したがって、携帯電子機器用の小型二次電池についてだけではなく、電力貯蔵用や電気自動車用などの大型二次電池についても、正極活物質のコストを下げ、より安価なリチウムイオン二次電池の製造を可能とすることに対する期待は大きく、その実現は、工業的に大きな意義があるといえる。
【0005】
リチウムイオン二次電池用活物質の新たなる材料としては、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物を挙げることができる、このリチウムニッケル複合酸化物は、リチウムコバルト複合酸化物よりも低い電気化学ポテンシャルを示すため、電解液の酸化による分解が問題になりにくく、より高容量が期待でき、コバルト系と同様に高い電池電圧を示すことから、特に電気自動車向け二次電池の正極活物質として開発が盛んに行われている。
【0006】
ところで、リチウムイオン二次電池の正極は、例えば、正極活物質と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのバインダーや、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの溶剤とを混合して正極合剤ペーストにし、アルミ箔などの集電体に塗布することで形成される。このとき、正極合剤ペースト中の正極活物質からリチウムが遊離した場合、バインダーなどに含まれる水分と反応し水酸化リチウムが生成することがある。この生成した水酸化リチウムとバインダーとが反応し、正極合剤ペーストがゲル化を起こすことがある。正極合剤ペーストのゲル化は、製造工程での操作性の悪さ、歩留まりの悪化を招く。この傾向は、正極活物質であるリチウム遷移金属複合酸化物におけるリチウムが遷移金属に対する化学量論比よりも過剰で、且つ遷移金属に占めるニッケルの割合が高い場合に顕著となる。
【0007】
充放電サイクル特性のさらなる改善を図るためには、例えば、ニッケル、コバルト、マンガンなどの金属元素に対してリチウムを化学量論組成よりも過剰に含有させることが有効である。また、リチウムニッケルコバルト複合酸化物にホウ素を含む化合物を添加することによって、電池特性を改善させることなども提案されている。
【0008】
特許文献1には、少なくとも層状の結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する非水電解液二次電池用正極活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、粒子であるとともに、少なくとも前記粒子の表面にホウ酸リチウムを有する、非水電解液二次電池用正極活物質が提案されている。特許文献1によれば、粒子の表面にホウ酸リチウムが存在することにより、初期放電容量および初期効率を同等に維持しつつ、熱安定性を向上させることができるとしている。
【0009】
特許文献2には、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)およびコバルト(Co)のうちの少なくとも一方とを含む複合酸化物粒子に、硫酸塩およびホウ酸化合物のうちの少なくとも一方を被着する工程と、上記硫酸塩およびホウ酸化合物のうちの少なくとも一方が被着した上記複合酸化物粒子を酸化性雰囲気下で加熱処理する工程と、を有することを特徴とする正極活物質の製造方法が提案されている。特許文献2によれば、二次電池の高容量化と、充放電効率の向上とを実現することが可能な正極活物質を製造することができるとしている。
【0010】
正極合剤ペーストのゲル化を抑制する試みがいくつかなされている。例えば、特許文献3には、リチウム遷移金属複合酸化物からなる正極活物質と、酸性酸化物粒子からなる添加粒子とを含む非水電解液二次電池用正極組成物が提案されている。この正極組成物は、バインダーに含まれる水分と反応して生成した水酸化リチウムが酸性酸化物と優先的に反応し、生成した水酸化リチウムとバインダーとの反応を抑制し、正極合剤ペーストのゲル化を抑制するとしている。また、酸性酸化物は、正極内で導電剤としての役割を果たし、正極全体の抵抗を下げ、電池の出力特性向上に寄与するとしている。
【0011】
また、特許文献4には、リチウムイオン二次電池製造方法であって、正極活物質として、組成外にLiOHを含むリチウム遷移金属酸化物を用意すること;正極活物質1g当たりに含まれるLiOHのモル量Pを把握すること;LiOHのモル量Pに対して、LiOH1モル当たり、タングステン原子換算で0.05モル以上の酸化タングステンを用意すること;および、正極活物質と酸化タングステンとを、導電材および結着剤とともに有機溶媒で混練して正極ペーストを調製すること;を包含する、リチウムイオン二次電池製造方法が提案されている。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質とその製造方法、リチウムイオン二次電池用正極合剤ペーストおよびリチウムイオン二次電池について説明する。なお、本発明は、以下の詳細な説明に限定されるものではない。
【0026】
1.リチウムイオン二次電池用正極活物質
図1は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質100(以下、「正極活物質100」ともいう。)の一例を示す図である。
図1に示すように、正極活物質100は、リチウムニッケル複合酸化物10と、非晶質のLiBO
2(
図1中、符号「LB」で示す。以下、「非晶質LiBO
2」ともいう。)と、を含み、リチウムニッケル複合酸化物10の表面の少なくとも一部を非晶質LiBO
2が被覆する。すなわち、正極活物質100は、非晶質LiBO
2がリチウムニッケル複合酸化物10の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層(LiBO
2層ともいう)を含む。
【0027】
本発明者は、鋭意研究した結果、リチウムニッケル複合酸化物10の粒子表面に非晶質LiBO
2を存在させることにより、この正極活物質100を正極に用いた二次電池の電池容量及び出力特性の低下を抑制と、正極合剤ペーストのゲル化の抑制とを両立させることが可能であることを見出した。以下、正極活物質100の各構成について説明する。
【0028】
(リチウムニッケル複合酸化物)
リチウムニッケル複合酸化物10は、リチウムと、ニッケルと、コバルトと、元素Mとを含み、これらの各元素の物質量の比(モル比)が、Li:Ni:Co:M=a:(1−x−y):x:y(ただし、0.95≦a≦1.10、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.10、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、Ti、W、Zr、及び、Alから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、層状の結晶構造を構成する。また、リチウムニッケル複合酸化物10は、複数の一次粒子が凝集した二次粒子を含む。なお、上記の各元素の物質量の比(各元素の含有量)は、ICP発光分光法により測定することができる。
【0029】
上記モル比中、aの値は、Ni、Co、及び、Mの合計の物質量(Me)に対するLiの物質量の比(Li/Me)を示し、0.95≦a≦1.10である。なお、aの値は、非晶質LiBO
2に含まれるLi量も含む値である。非晶質LiBO
2は、後述するように、熱処理工程(ステップS2、
図2(A)参照)において、ホウ素化合物Bと、リチウムニッケル複合酸化物10a(原料)に含まれるリチウムと、が反応して形成される(
図2(B)参照)。よって、LiBO
2に含まれるLi量を考慮すると、aの値は1以上であってもよく、1を超えてもよい。
【0030】
上記モル比中、ニッケル量を示す(1−x−y)は、0.55≦(1−x−y)≦0.95を満たす。通常、ニッケルを多く含むリチウムニッケル複合酸化物(正極活物質)は、正極合剤ペーストのゲル化が生じやすい傾向があるが、正極活物質100は、ニッケル量を上記範囲とした場合においても、リチウムニッケル複合酸化物10の表面を非晶質LiBO
2で被覆することにより、電極作製時の正極合剤ペーストのゲル化を抑制することができる。
【0031】
上記モル比中、コバルト量を示すxは、0.05≦x≦0.35を満たす。コバルト量が上記範囲である場合、高い電池容量を維持しつつ、サイクル特性に優れる。
【0032】
上記モル比中、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、Ti、W、Zr、及び、Alからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素であり、正極活物質の熱安定性の観点から、Alを含むことが好ましい。また、Mの量を示すyの値は、0≦y≦0.10を満たし、好ましくは0.01≦y≦0.10である。
【0033】
また、リチウムニッケル複合酸化物10は、一般式(1):Li
aNi
1−x−yCo
xM
yO
2+α(ただし、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.10、0.95≦a≦1.10、0≦α≦0.2、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、Ti、W、Zr、及び、Alから選ばれる少なくとも1種の元素)で表されてもよい。なお、上記一般式(1)中の各元素の技術的意義や好ましい範囲は、上記モル比の説明と同様であるため、記載を省略する。
【0034】
(非晶質LiBO
2)
正極活物質100は、リチウムニッケル複合酸化物10の表面の少なくとも一部を非晶質LiBO
2が被覆することにより、正極活物質100を二次電池に用いた際、電池容量の低下、及び、正極抵抗の上昇による出力特性の低下の抑制と、電極作製時の正極合剤ペーストのゲル化の抑制とを両立することができる。
【0035】
なお、通常、異種の化合物でリチウムニッケル複合酸化物10の表面を被覆した場合、正極の反応抵抗(正極抵抗)などの電池特性が低下することがあるが、非晶質LiBO
2はリチウム伝導性が高いため、非晶質LiBO
2でリチウムニッケル複合酸化物10の表面を被覆した場合、二次電池における電池特性(例、電池容量)の低下を抑制することができるだけでなく、正極抵抗を低減することができる。
【0036】
また、非晶質LiBO
2で被覆されたリチウムニッケル複合酸化物10は、正極合剤ペーストのゲル化を抑制することができる。非晶質LiBO
2で被覆されたリチウムニッケル複合酸化物10において、ペーストのゲル化が抑制されるメカニズムの詳細は不明であるが、例えば、正極活物質100の製造工程(
図2(A)参照)において、
図2(B)に示すように、原料として用いられるホウ素化合物Bが、原料として用いられるリチウムニッケル金属複合酸化物10a中の表面に存在する余剰リチウム(例、未反応のリチウム化合物、結晶中のリチウムなど)と反応して、非晶質LiBO
2を形成することにより、ペーストのゲル化が抑制されると考えられる。
【0037】
なお、正極活物質100は、非晶質のLiBO
2以外のホウ酸リチウムを含んでもよいが、非晶質LiBO
2を単独で含むことが好ましい。また、リチウムニッケル複合酸化物10の表面を被覆するホウ酸リチウムとしては、非晶質LiBO
2単独であってもよく、非晶質LiBO
2以外のホウ酸リチウムを含んでもよいが、リチウムニッケル複合酸化物10の表面を、実質的に非晶質LiBO
2のみが被覆することがより好ましい。なお、非晶質LiBO
2以外のホウ酸リチウムとしては、例えば、結晶性のLiB(OH)
4、LiBO
2、Li
3BO
3などが挙げられるが、ゲル抑制の観点から、実質的にLi
3BO
3を含まないことが好ましい。
【0038】
なお、リチウムニッケル複合酸化物10の表面のホウ酸リチウムの存在、及び、結晶性は、ラマン分光法により確認することができる。なお、「実質的に非晶質LiBO
2のみが被覆する」とは、ラマン分光法において、リチウムニッケル複合酸化物10に由来する以外のピークとして、LiBO
2のブロードなピークのみが検出される状態をいい、検出限界以下の他のホウ酸リチウムを少量含んでもよい。
【0039】
非晶質LiBO
2単独の形態でリチウムニッケル複合酸化物10の表面を被覆する場合、より、正極抵抗がより低減され、かつ、正極合剤ペーストのゲル化を抑制することができる。なお、リチウムニッケル複合酸化物10の表面への非晶質LiBO
2の被覆は、例えば、後述する正極活物質の製造方法(
図2(A)参照)により行うことができる。
【0040】
(ホウ素含有量)
正極活物質100に含まれるホウ素(B)の含有量は、正極活物質全体に対して、0.01質量%以上0.1質量%以下であり、好ましくは0.03質量%以上0.06質量%以下である。ホウ素の含有量が上記範囲である場合、正極活物質100を二次電池に用いた際、電池容量、及び、出力特性の低下の抑制と、電極作製時の正極合剤ペーストのゲル化の抑制との両立が可能となる。
【0041】
一方、ホウ素の含有量が0.01質量%未満である場合、電極作製時の正極合剤ペーストのゲル化抑制の効果が十分に得られない。この理由は、リチウムニッケル複合酸化物10の表面に残存する水酸化リチウムを十分に除去できないためであると考えられる。また、ホウ素含有量が0.1質量%を超える場合、二次電池における電池特性が低下することがある。この理由の詳細は不明であるが、リチウムニッケル複合酸化物10の表面に形成される非晶質LiBO
2の層が厚くなり過ぎて、正極の反応抵抗が上昇するためであると考えられる。
【0043】
通常のリチウムニッケル複合酸化物(例、
図2(B)の符号「10a」)の表面には、水酸化リチウム(LiOH)を含む水溶性リチウム化合物(以下、「余剰リチウム」と総称する)が存在する。二次電池を製造する際、正極合剤ペーストがゲル化することがあるが、この理由として、正極合剤ペースト中に含まれる水分中に余剰リチウムが溶出して、ペーストのpH値を上昇させるためであると考えられている。
【0044】
本発明者らは、1)通常のリチウムニッケル複合酸化物10aに残存する余剰リチウムの中でも、特に、正極合剤ペースト中に水酸化リチウム(LiOH)として溶出するリチウムが、正極合剤ペーストのゲル化の一因となること、及び、2)正極活物質100を水へ分散させた場合に水酸化リチウム(LiOH)として溶出するリチウムの量を特定の範囲に制御した場合、正極合剤ペーストのゲル化を抑制できることを見出した。
【0045】
非晶質LiBO
2で被覆されたリチウムニッケル複合酸化物10は、水に分散させたときに、水酸化リチウムとして溶出する量(以下、「余剰水酸化リチウム量」ともいう。)が、正極活物質100全体に対して、好ましくは0.2質量%未満、より好ましくは0.15質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。余剰水酸化リチウム量が上記範囲である場合、正極合剤ペーストのゲル化を抑制することができ、かつ、電池特性の低下を抑制させることができる。
【0046】
一方、余剰水酸化リチウム量が0.2質量%以上である場合、ペーストのゲル化の抑制効果が十分に得られないことがある。この理由は、余剰水酸化リチウムが多く、ゲル化を促進するためと考えられる。また、余剰水酸化リチウム量の下限は、正極活物質100全体に対して、例えば0.01質量%以上であり、0.05質量%以上であってもよく、0.09質量%以上であってもよい。
【0047】
なお、本明細書において、余剰水酸化リチウム量とは、正極活物質100を水に分散させて溶出するリチウム化合物のうち、中和滴定により、第一中和点までに用いた酸の量から測定されるLi量をいい、正極活物質100を分散させたスラリー中に塩化バリウム水溶液を加えて、炭酸塩を一旦沈殿させた際の、第一中和点までに中和されるリチウム化合物がすべて水酸化リチウム(LiOH)に由来するとして、算出される値である。
【0048】
余剰水酸化リチウム量は、具体的には、以下の方法で測定することができる。まず、正極活物質15gを75mlの純水に十分に分散させ、10分間静置した後、上澄み液を50mlの純水で希釈した水溶液を得る。次いで、その水溶液に10%塩化バリウム水溶液を5mL加える。そのようにして得られた水溶液中に溶出したLi量を、塩酸等の酸を用いた中和滴定法によって測定する。中和滴定の際、上澄み液を希釈した水溶液のpHは、2段階で低下する。そして、1段階目が、水酸化リチウムの中和により低下するpHを示す。よって、中和滴定により、第一中和点まで用いた酸の量から算出されるLi量が、水酸化リチウム(LiOH)にすべて由来するとして、余剰水酸化リチウム量を算出する。なお、第一中和点では、例えば、Li
3BO
3も溶出するため、余剰水酸化リチウム量には、Li
3BO
3に由来するリチウムを含む場合もある。
【0049】
非晶質LiBO
2で被覆されたリチウムニッケル複合酸化物10中の余剰水酸化リチウム量は、例えば、後述するリチウムニッケル複合酸化物10の製造工程(
図2(A)参照)において、ホウ素化合物の混合工程(ステップS1)で添加するホウ素化合物の量や、熱処理工程(ステップS2)の熱処理温度を適宜調整することにより、上記範囲に制御することができる。
【0050】
2.リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法
次に、
図2(A)及び(B)を参照して、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法(以下、「正極活物質の製造方法」ともいう。)について説明する。
図2(A)は、本実施形態に係る正極活物質の製造方法の一例を示した図である。
図2(B)は、リチウムニッケル複合酸化物10a(原料)に含まれるリチウムとホウ素化合物Bとの反応の説明図である。本実施形態に係る正極活物質の製造方法により、上述したような表面の少なくとも一部が非晶質LiBO
2で被覆されたリチウムニッケル複合酸化物10を含む正極活物質100を、工業的規模で生産性よく製造することができる。
【0051】
本実施形態の正極活物質の製造方法は、リチウムニッケル複合酸化物10a(原料)と、ホウ素化合物Bとを混合して、ホウ素混合物を得ることと(ステップS1)と、ホウ素混合物を、酸素雰囲気中、300℃以上500℃以下の温度で熱処理して、非晶質LiBO
2で被覆されたリチウムニッケル複合酸化物10を得ること(ステップS2)と、を備える。以下、各ステップについて説明する。
【0052】
[混合工程(ステップS1)]
本実施形態の正極活物質の製造方法では、まず、ホウ素化合物Bと、リチウムニッケル複合酸化物10a(原料)を混合して、ホウ素混合物を得る(ステップS1)。
【0053】
ホウ素化合物Bとしては、リチウムと反応可能なホウ素を含む化合物を用いることができ、例えば、酸化ホウ素(B
2O
3)、ホウ酸(H
3BO
3)、四ホウ酸アンモニウム四水和物((NH
4)2B
4O
7・4H
2O)、五ホウ酸アンモニウム八水和物((NH
4)
2O・5B
2O
3・8H
2O)などが挙げられる。これらの化合物はリチウム塩との反応性が高く、後述する熱処理工程(ステップS2)後、非晶質LiBO
2を形成すると考えられる。これらの化合物の中でも、H
3BO及びB
2O
3から選ばれる少なくとも一つを用いることが好ましい。H
3BO
3及びB
2O
3は酸性を示し、Liとの反応性がより高いので、上記のホウ素化合物Bとして好ましい。
【0054】
ホウ素化合物Bは、ホウ素化合物B中のホウ素(B)が、得られる正極活物質全体に対して、0.01質量%以上0.1質量%以下、好ましくは0.03質量%以上0.06質量%以下となる量で、混合される。
【0055】
リチウムニッケル複合酸化物10a(原料)は、特に限定されず、公知のものを用いることができ、例えば、一般式(1):Li
aNi
1−x−yCo
xM
yO
2+α(ただし、0.95≦a≦1.10、0.05≦x≦0.35、0≦y≦0.10、0≦α≦0.2、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、Ti、W、Zr、及び、Alから選ばれる少なくとも1種の元素)で表されるものを用いることができる。
【0056】
リチウムニッケル複合酸化物10a(原料)の余剰水酸化リチウム量は、原料のリチウムニッケル複合酸化物10a全体に対して、例えば、0.15質量%以上0.25質量%以下であり、好ましくは0.15質量%以上0.21質量%以下である。
【0057】
混合するホウ素化合物Bの量は、最終的に得られる正極活物質100の余剰水酸化リチウム量の上限が、正極活物質100全体に対して、好ましくは0.2質量%未満、より好ましくは0.15質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下となる量に調整することが好ましい。また、混合するホウ素化合物Bの量は、その下限が、正極活物質100全体に対して、例えば0.01質量%以上となる量に設定するのが好ましい。
【0058】
すなわち、本実施形態の製造方法では、後に説明する熱処理後(ステップS2)に得られる正極活物質100を水に分散させたときに溶出する、中和滴定法によって測定される水酸化リチウム量(余剰水酸化リチウム量)が、正極活物質100全体に対して、0.01質量%以上0.2質量%未満の範囲となるように、リチウムニッケル複合酸化物10a(原料)の量および混合するホウ素化合物Bの量を調整するのが好ましい。これにより、得られる正極活物質100は、より、正極合剤ペーストのゲル化を抑制することができ、かつ、電池特性の低下を抑制させることができる。
【0059】
混合工程(ステップS1)において、ホウ素化合物Bとリチウムニッケル複合酸化物10aは、これらを十分混合することが好ましい。混合には、一般的な混合機を使用することができ、例えば、シェーカーミキサーやレーディゲミキサー、ジュリアミキサー、Vブレンダーなどを用いることができ、リチウムニッケル複合酸化物粒子の形骸が破壊されない程度でホウ素化合物Bと十分に混合すればよい。
【0060】
[熱処理工程(ステップS2)]
次に、ホウ素混合物を、酸素雰囲気中、300℃以上で500℃以下の温度で熱処理して、非晶質LiBO
2で被覆されたリチウムニッケル複合酸化物10を得る(ステップS2)。ホウ素化合物Bを含むリチウムニッケル複合酸化物10を熱処理することで、
図2(B)に示すように、リチウムニッケル複合酸化物10表面に残存する水酸化リチウムとホウ素化合物Bを反応させ、非晶質LiBO
2を生成させることができる。なお、ホウ素はリチウムニッケル複合酸化物10内に固溶しにくいため、ホウ素化合物Bとして添加したホウ素の大部分はLiBO
2を形成すると考えられる。
【0061】
熱処理温度は、300℃以上で500℃以下であり、好ましくは300℃以上450℃以下である。焼成温度が上記範囲である場合、LiBO
2層を非晶質の状態で、リチウムニッケル複合酸化物10の表面に均一に被覆することができる。焼成温度が300℃以上である場合、ホウ素化合物Bとリチウムニッケル複合酸化物10表面に残存する水酸化リチウムとが反応して生成したLiB(OH)
4中の水酸基が除去され、非晶質LiBO
2を生成させることができる。これにより、LiBO
2層をリチウムニッケル複合酸化物10の表面に均一に被覆できる。
【0062】
一方、焼成温度が300℃未満である場合、LiB(OH)
4からの水酸基の除去が不十分となり、リチウムイオン伝導性が低く、電池特性がより低下する。また、焼成温度が500℃を超えると、LiBO
2がリチウムニッケル複合酸化物10中のリチウムを引き抜き、Li
3BO
3が生成することにより、リチウムニッケル複合酸化物10の反応抵抗が増加し、電池特性が低下するため好ましくない。
【0063】
熱処理温度での保持時間は、例えば、0.5時間以上5時間以下、好ましくは1時間以上3時間以下程度であり、例えば、1時間以上2時間以下であってもよい。また、熱処理時の雰囲気は、酸素雰囲気であり、例えば、酸素濃度が100容量%の雰囲気とすることが好ましい。
【0064】
上記した製造方法により、本実施形態に係るリチウムニッケル複合酸化物10(正極活物質100)を得ることができる。本実施形態で得られる非晶質LiBO
2で被覆されたリチウムニッケル複合酸化物10(正極活物質100)は、上述したように、中和滴定法により測定される余剰水酸化リチウム量が、正極活物質100全体に対して、好ましくは0.2質量%未満、より好ましくは0.15質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。余剰水酸化リチウム量が上記範囲である場合、正極合剤ペーストのゲル化を抑制することができる。なお、余剰水酸化リチウム量の下限は、正極活物質100全体に対して、例えば0.01質量%以上であることが好ましい。
【0065】
また、例えば、正極活物質100全体に対する、リチウムニッケル複合酸化物10の余剰水酸化リチウム量(質量%)は、原料として用いたリチウムニッケル複合酸化物10a(原料)の余剰水酸化リチウム量(質量%)との差が、0.01質量%以上であってもよく、0.02質量%以上であってもよく、0.05質量%以上であってもよい。
図2(B)に示されるように、原料中の余剰リチウムは、非晶質LiBO
2が形成される際に、Li源として用いられ、その結果、余剰水酸化リチウム量が低減すると考えられる。よって、リチウムニッケル複合酸化物10と原料との余剰水酸化リチウム量の差は、非晶質LiBO
2の反応や被覆の程度を反映していると考えられ、余剰リチウムの量の差が上記範囲である場合、非晶質LiBO
2が、リチウムニッケル複合酸化物10の表面に十分に形成されているといえる。なお、上記の差の上限は、特に限定されないが、例えば、0.15質量%以下である。
【0066】
3.非水系二次電池用正極合剤ペースト
次に、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極合剤ペースト(以下、「正極合剤ペースト」、「ペースト」ともいう。)の製造方法について説明する。本実施形態のペーストは、非晶質LiBO
2で被覆されたリチウムニッケル複合酸化物10(正極活物質100)を含む。よって、ペースト中、リチウムニッケル複合酸化物10(正極活物質100)からのリチウムの溶出が低減され、ペーストのゲル化が抑制される。したがって、ペーストを長期間保存した場合でも、ペーストの粘度変化が少なく、ペーストは高い安定性を有することができる。このようなペーストを用いて正極を製造した場合、安定して優れた特性を有する正極を得ることができ、最終的に得られる二次電池の特性を安定して高いものとすることができる。
【0067】
正極合剤ペーストの構成材料は、上記リチウムニッケル複合酸化物10以外は、特に限定されず、公知の正極合剤ペーストと同等なものを用いることができる。正極合剤ペーストは、例えば、上記リチウムニッケル複合酸化物10、導電材、及び、バインダーを含む。正極合剤ペーストは、さらに溶剤を含んでもよい。正極合剤ペーストは、溶剤を除いた正極合剤の固形分の全質量を100質量部とした場合、例えば、正極活物質の含有量を60〜95質量部、導電材の含有量を1〜20質量部、および、結着剤の含有量を1〜20質量部とすることができる。
【0068】
導電剤としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)や、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料などを用いることができる。
【0069】
バインダー(結着剤)は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸などを用いることができる。
【0070】
なお、正極活物質100に、導電材、および、活性炭を分散させ、必要に応じて、バインダー(結着剤)を溶解する溶剤を添加してもよい。溶剤としては、具体的には、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の有機溶剤を用いることができる。また、正極合剤には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することができる。正極合剤ペーストは、例えば、粉末状の上記酸化物、導電材、および、結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭、粘度調整等の目的の溶剤を添加し、これを混練して作製することができる。
【0071】
4.リチウムイオン二次電池
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池(以下、「二次電池」ともいう。)は、上述した正極活物質を正極材料含む正極を備える。リチウムイオン二次電池は、従来公知のリチウムイオン二次電池と同様の構成要素により構成されることができ、例えば、正極、負極及び非水系電解液を備える。また、二次電池は、例えば、正極、負極、及び固体電解質を備えてもよい。また、二次電池は、リチウムイオンの脱離及び挿入により、充放電を行う二次電池であればよく、例えば、非水系電解液二次電池であってもよく、全固体リチウム二次電池であってもよい。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基に、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良した形態で実施することができる。また、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
【0072】
[構成部材]
(正極)
まず、上記の正極活物質100、導電材および結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合剤ペーストを作製する。正極合剤ペーストは、上述の本実施形態の正極合剤ペーストを用いることができる。
【0073】
得られた正極合剤ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。必要に応じ、電極密度を高めるべく、ロールプレスなどにより加圧することもある。このようにして、シート状の正極を作製することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断などをして、電池の作製に供することができる。なお、正極の作製方法は、上記の方法に限られることなく、他の方法によってもよい。
【0074】
(負極)
負極として、金属リチウムやリチウム合金などを用いてもよい。また、負極として、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合剤を、銅などの金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを用いてもよい。
【0075】
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛およびフェノール樹脂などの有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0076】
(セパレータ)
正極と負極との間には、必要に応じてセパレータを挟み込んで配置する。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
【0077】
(非水系電解質)
非水系電解質としては、非水系電解液を用いることができる。非水系電解液は、例えば、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものを用いてもよい。また、非水系電解液として、イオン液体にリチウム塩が溶解したものを用いてもよい。なお、イオン液体とは、リチウムイオン以外のカチオンおよびアニオンから構成され、常温でも液体状を示す塩をいう。
【0078】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートおよびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いることができる。
【0079】
支持塩としては、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6、LiN(CF
3SO
2)
2、およびそれらの複合塩などを用いることができる。さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
【0080】
また、非水系電解質としては、固体電解質を用いてもよい。固体電解質は、高電圧に耐えうる性質を有する。固体電解質としては、無機固体電解質、有機固体電解質が挙げられる。
【0081】
無機固体電解質として、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質等が用いられる。
【0082】
酸化物系固体電解質としては、特に限定されず、酸素(O)を含有し、かつ、リチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものであれば用いることができる。酸化物系固体電解質としては、例えば、リン酸リチウム(Li
3PO
4)、Li
3PO
4N
X、LiBO
2N
X、LiNbO
3、LiTaO
3、Li
2SiO
3、Li
4SiO
4−Li
3PO
4、Li
4SiO
4−Li
3VO
4、Li
2O−B
2O
3−P
2O
5、Li
2O−SiO
2、Li
2O−B
2O
3−ZnO、Li
1+XAl
XTi
2−X(PO
4)
3(0≦X≦1)、Li
1+XAl
XGe
2−X(PO
4)
3(0≦X≦1)、LiTi
2(PO
4)
3、Li
3XLa
2/3−XTiO
3(0≦X≦2/3)、Li
5La
3Ta
2O
12、Li
7La
3Zr
2O
12、Li
6BaLa
2Ta
2O
12、Li
3.6Si
0.6P
0.4O
4等が挙げられる。
【0083】
硫化物系固体電解質としては、特に限定されず、硫黄(S)を含有し、かつ、リチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものであれば用いることができる。硫化物系固体電解質としては、例えば、Li
2S−P
2S
5、Li
2S−SiS
2、LiI−Li
2S−SiS
2、LiI−Li
2S−P
2S
5、LiI−Li
2S−B
2S
3、Li
3PO
4−Li
2S−Si
2S、Li
3PO
4−Li
2S−SiS
2、LiPO
4−Li
2S−SiS、LiI−Li
2S−P
2O
5、LiI−Li
3PO
4−P
2S
5等が挙げられる。
【0084】
なお、無機固体電解質としては、上記以外のものを用いてよく、例えば、Li
3N、LiI、Li
3N−LiI−LiOH等を用いてもよい。
【0085】
有機固体電解質としては、イオン伝導性を示す高分子化合物であれば、特に限定されず、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、これらの共重合体などを用いることができる。また、有機固体電解質は、支持塩(リチウム塩)を含んでいてもよい。なお、固体電解質を用いる場合は、電解質と正極活物質の接触を確保するため、正極材中にも固体電解質を混合させてもよい。
【0086】
(電池の形状、構成)
二次電池の構成は、特に限定されず、上述したように正極、負極、セパレータ、非水系電解質などで構成されてもよく、正極、負極、固体電解質などで構成されもよい。また、二次電池の形状は、特に限定されず、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。
【0087】
例えば、二次電池が非水系電解液二次電池である場合、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉して、二次電池を完成させる。
【0088】
(特性)
初期放電容量は、実施例で使用したコイン型電池CBAを製作してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm
2としてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を測定した値である。
【0089】
本実施形態における正極抵抗の測定方法を例示すれば、次のようになる。電気化学的評価手法として一般的な交流インピーダンス法にて電池反応の周波数依存性について測定を行うと、溶液抵抗、負極抵抗と負極容量、および正極抵抗と正極容量に基づくナイキストプロットが
図3のように得られる。電極における電池反応は、電荷移動に伴う抵抗成分と電気二重層による容量成分とからなり、これらを電気回路で表すと抵抗と容量の並列回路となり、電池全体としては溶液抵抗と負極、正極の並列回路を直列に接続した等価回路で表される。この等価回路を用いて測定したナイキスト線図に対してフィッティング計算を行い、各抵抗成分、容量成分を見積もることができる。正極抵抗は、得られるナイキストプロットの低周波数側の半円の直径と等しい。よって、作製される二次電池について、交流インピーダンス測定を行い、得られたナイキスト線図に対し等価回路でフィッティング計算することで、正極抵抗を見積もることができる。
【実施例】
【0090】
以下、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例は、以下の装置及び方法を用いた測定結果により評価した。
【0091】
[正極活物質全体の組成]
得られた正極活物質を硝酸で溶解した後、ICP発光分光分析装置(株式会社島津製作所製、ICPS−8100)で測定した。
【0092】
[化合物種同定]
得られた正極活物質をX線回折装置(商品名:X‘Pert PRO、パナリティカル製)およびラマン分光装置(商品名:DXR2、Thermo Fisher Scientific製)により評価した。
【0093】
[正極合剤ペーストの粘度安定性]
正極活物質25.0gと、導電材のカーボン粉1.5gと、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)2.9gと、N−メチル−2ピロリドン(NMP)とを遊星運動混練機により混合し正極合剤ペーストを得た。N−メチル−2ピロリドン(NMP)は、JIS Z 8803:2011に規定される振動粘度計による粘度測定方法により、粘度が1.5〜2.5Pa・sとなるように添加量を調整した。得られた正極合剤ペーストを76時間保管してゲル化の発生状況を目視で評価し、ゲル化が発生していないものを○、ゲル化が発生したものを×とした。
【0094】
[余剰水酸化リチウム量の測定]
得られた正極活物質15gを75mlの純水に分散させた後、10分間静置させ、上澄み液10mlを50mlの純水で希釈し、希釈した液に10%塩化バリウム水溶液を5mL加え、この水溶液中に溶出されたLi量を1mol/リットルの塩酸を加える中和滴定法により測定した。中和滴定では上澄み液の水溶液のpHは2段階で低下する。1段目のpHの低下分が余剰水酸化リチウム分を示すものとし(第一中和点)、第一中和点までの塩酸量から、溶出したLi量(余剰水酸化リチウム量)を算出した。余剰水酸化リチウム量は、正極活物質100を分散させたスラリー中に塩化バリウム水溶液を加えて、炭酸塩を一旦沈殿させた際の、第一中和点までの塩酸量から測定されたLi量が、すべて水酸化リチウム(LiOH)に由来するとして、算出した。
【0095】
[電池特性の評価]
(評価用コイン型電池の作製)
得られた正極活物質70質量%に、アセチレンブラック20質量%及びPTFE10質量%を混合し、ここから150mgを取り出してペレットを作製し、正極とした。負極としてリチウム金属を用い、電解液として、1MのLiClO
4を支持塩とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合溶液(富山薬品工業製)を用い、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス中で、
図4に示すような2032型のコイン型電池CBAを作製した。製造したコイン型電池CBAの性能を、初期放電容量等に基づいて評価した。
【0096】
(初期放電容量)
初期放電容量は、コイン型電池CBAを製作してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(open circuit voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm
2としてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの放電容量を測定し、大気暴露前の初期放電容量とした。
【0097】
(正極抵抗)
コイン型電池CBAを充電電位4.1Vで充電して、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製、1255B)を使用して、交流インピーダンス法により内部抵抗を測定すると、
図3に示すナイキストプロットが得られる。ナイキストプロットは、溶液抵抗、負極抵抗とその容量、及び、正極抵抗とその容量を示す特性曲線の和として表している。得られたナイキストプロットに基づき等価回路を用いてフィッティング計算を行い、正極抵抗の値を算出した。
【0098】
(実施例1)
平均粒径13μmのリチウムニッケル複合酸化物の粒子に、ホウ素化合物H
3BO
3(和光純薬製)を得られる正極活物質に対してホウ素量が0.03質量%となる量を添加し、ホウ素混合物を形成した。混合は、シェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて行った。得られたこの混合物を酸素気流中(酸素:100容量%)にて、300℃(熱処理温度)で1時間焼成(熱処理)し、冷却した後に篩掛けして正極活物質を得た。得られた正極活物質は、ホウ素を正極活物質に対して0.03質量%含有し、組成式Li
1.03Ni
0.82Co
0.15Al
0.03O
2で表されるリチウムニッケル複合酸化物であった。
【0099】
得られた正極活物質をラマン分光装置(商品名DXR2、Thermo Fisher Scientific製)で分析したところ、LiBO
2のブロードなピークが検出され、リチウムニッケル複合酸化物の表面上にLiBO
2が非晶質で存在することが確認された。得られた正極活物質等の評価結果を表1及び表2に示す。
【0100】
(実施例2)
ホウ素含有量を正極活物質に対して0.06質量%となるようにH
3BO
3を加えた以外は、実施例1と同様にして正極活物質等を得るとともに評価した。評価結果を表1及び表2に示す。
【0101】
(実施例3)
熱処理温度を450℃とした以外は、実施例1と同様にして正極活物質等を得るとともに評価した。評価結果を表1及び表2に示す。
【0102】
(実施例4)
ホウ素含有量を正極活物質に対して0.06質量%となるようにH
3BO
3を加え、熱処理温度を450℃とした以外は、実施例1と同様にして正極活物質等を得るとともに評価した。評価結果を表1及び表2に示す。
【0103】
(実施例5)
ホウ素含有量を正極活物質に対して0.06質量%となるように、ホウ素化合物B
2O
3を加えた以外は、実施例1と同様にして正極活物質等を得るとともに評価した。評価結果を表1及び表2に示す。
【0104】
(比較例1)
ホウ酸(ホウ素化合物)を添加しない以外は、実施例1と同様にして正極活物質等を得るとともに評価した。評価結果を表1及び表2に示す。
【0105】
(比較例2)
ホウ素含有量を正極活物質に対して0.005質量%となるようにH
3BO
3を加えた以外は、実施例1と同様にして正極活物質等を得るとともに評価した。評価結果を表1及び表2に示す。
【0106】
(比較例3)
熱処理温度を600℃としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質等を得るとともに評価した。評価結果を表1及び表2に示す。
【0107】
(比較例4)
熱処理温度を200℃としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質等を得るとともに評価した。評価結果を表1及び表2に示す。
【0108】
(比較例5)
ホウ素含有量を正極活物質に対して0.2質量%となるようにH
3BO
3を加えた以外は、実施例1と同様にして正極活物質等を得るとともに評価した。評価結果を表1及び表2に示す。
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【0111】
(評価結果)
実施例1〜5、比較例1〜5で得られた正極活物質のX線回折を測定したところ、リチウムニッケル複合酸化物のピークが検出された。また、比較例3ではリチウムニッケル複合酸化物のピーク以外にLi
3BO
3のピークも検出された。また、実施例1〜5、比較例2、5で得られた正極活物質をラマン分光装置で分析したところ、LiBO
2のブロードなピークが検出された。
【0112】
実施例1〜5については、非晶質LiBO
2が表面に均一被覆されており、比較例1〜5と比較して、二次電池の正極に用いた際、いずれも正極抵抗の増加が抑制され、高い電池容量が得られた。また、実施例1〜5で得られた正極活物質は、いずれもペーストのゲル化が抑制された。比較例1については余剰水酸化リチウム量が多く、ペーストがゲル化した。一方、比較例2については、ホウ素量が少ないため余剰水酸化リチウム量が十分に減少せず、ペーストがゲル化した。また、比較例3についてはLi
3BO
3の生成により、リチウムニッケル複合酸化物表面のリチウムが引き抜かれ、正極抵抗が増加したと考えられる。また、比較例4については、LiBO
2が生成せず、十分なリチウムイオン伝導性が得られなかったために、正極抵抗が増加したと考えられる。また、比較例5については、LiBO
2の被覆層が厚く、初期放電容量が低下し、正極抵抗が増加したと考えられる。
【0113】
以上の結果から、本実施形態の正極活物質は、熱処理温度とホウ素原料の添加量を、適正な範囲に設定することにより、正極抵抗の低減による良好な出力特性、及び、高い電池容量と、電極作製時のペーストのゲル化抑制とを両立した正極活物質が得られることが明らかである。