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特開2020-138944高純度固体アルミノキサン及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-138944(P2020-138944A)
(43)【公開日】2020年9月3日
(54)【発明の名称】高純度固体アルミノキサン及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 5/06 20060101AFI20200807BHJP
   C08F 4/6192 20060101ALI20200807BHJP
   C08F 10/00 20060101ALI20200807BHJP
【FI】
   C07F5/06 DCSP
   C08F4/6192
   C08F10/00 510
   C07F5/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2019-36964(P2019-36964)
(22)【出願日】2019年2月28日
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(71)【出願人】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】田中 亮
(72)【発明者】
【氏名】岡島 裕矢
(72)【発明者】
【氏名】塩野 毅
(72)【発明者】
【氏名】▲とく▼久 賢治
(72)【発明者】
【氏名】青木 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 稔
【テーマコード(参考)】
4H048
4J128
【Fターム(参考)】
4H048AA01
4H048AA02
4H048AA03
4H048AB40
4H048BB11
4H048VA20
4H048VA80
4H048VB10
4J128AA01
4J128AB00
4J128AC28
4J128AD05
4J128AD13
4J128BB01B
4J128BC25B
4J128EA01
4J128EB04
4J128EC01
4J128FA02
4J128GA01
4J128GA06
4J128GA19
4J128GB01
(57)【要約】
【課題】従来の固体アルミノキサンと比較して不純物として含まれる有機化合物の含有量を低減した固体アルミノキサンの提供。
【解決手段】(i)一般式(I)で示されるアルミノキサン(以下RAOと表記することがある)単位を含み、

(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基を示し、nは10〜50の整数を示す。)
(ii)アルミニウム含有量が38質量%から47質量%の範囲にあり、
(iii)一般式(II)で示される化合物の含有量が50mg/kg〜10000mg/kgであり、かつ

(iv)アルキル基並びにベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン、テトラリンおよび上記一般(II)で示される化合物を除いた有機化合物成分の含有量が1000mg/kg以下である固体アルミノキサンおよびその製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)一般式(I)で示されるアルミノキサン(以下RAOと表記することがある)単位を含み、
【化1】
(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基を示し、nは10〜50の整数を示す。)
(ii)アルミニウム含有量が38質量%から47質量%の範囲にあり、
(iii)一般式(II)で示される化合物の含有量が50mg/kg〜10000mg/kgであり、かつ
【化2】
(iv)アルキル基並びにベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン、テトラリンおよび上記一般(II)で示される化合物を除いた有機化合物成分の含有量が1000mg/kg以下である固体RAO。
【請求項2】
有機化合物成分が芳香族有機化合物成分であり、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン、テトラリンおよび上記一般(I)で示される化合物を除いた芳香族有機化合物成分の含有量が、100mg/kg以下である、請求項1に記載の固体RAO。
【請求項3】
アルキル基が、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、またはtert−ブチル基である請求項1または2に記載の固体RAO。
【請求項4】
アルキル基がメチル基である請求項1〜3のいずれかに記載の固体RAO。
【請求項5】
30質量%以下のトリアルキルアルミニウム(以下、TRALと表記することがある)を含有する芳香族炭化水素溶媒に、0℃、1気圧において気体である酸素−炭素結合を有する化合物(以下、O−C化合物と表記することがある)を50℃未満の温度で接触させる工程と、接触させた後、50℃〜200℃の範囲の温度で加熱して一般式(I)で示されるRAOとTRALを含有する固体RAOを析出させる工程を含む、固体RAOの製造方法。
【化3】
(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基を示し、nは10〜50の整数を示す。)
【請求項6】
アルキル基が、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、またはtert−ブチル基である請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
アルキル基が、メチル基である請求項5または6に記載の製造方法。
【請求項8】
O−C化合物が一酸化炭素、二酸化炭素、ホルムアルデヒドのいずれかである請求項5〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
O−C化合物が二酸化炭素である請求項5〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれかに記載の固体RAOと、下記一般式(III)で表される遷移金属化合物を触媒成分として含有するオレフィン類の重合用触媒。
【化4】
(式中、Mは遷移金属元素を示し、R5、R6、R7、R8 の内の少なくとも一つはシクロアルカジエニル骨格を有する有機基であり、残りは独立にアルキル基、アルコシキ基、アリーロキシ基、アルキルシリル基、アルキルアミド基、アルキルイミド基、アルキルアミノ基、アルキルイミノ基、又はハロゲン原子を示す。R5、R6、R7、R8 の内、二つ以上がシクロアルカジエニル骨格を有する有機基である場合、シクロアルカジエニル骨格を有する有機基の少なくとも二つは炭素、ケイ素、又はゲルマニウムにより架橋されていても良い。)
【請求項11】
請求項10に記載の触媒を用いてオレフィン類を重合することを含む、ポリオレフィン類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン類の重合に用いられる固体アルミノキサン(以下、アルミノキサンはRAOと表記することがある)およびこの固体RAOを助触媒成分として用いる重合触媒およびポリオレフィン類の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶液RAOは、一般に有機アルミニウム化合物の部分加水分解反応により調製される縮合生成物である。さらに、溶液RAOをアルコール、ケトン、カルボン酸又は二酸化炭素との反応により調製する方法も提案されている(特許文献1〜4)。溶液RAOは、オレフィン重合体の製造において、主触媒となる遷移金属化合物を効率的に活性化する助触媒成分として有用であることが知られている。RAOの中で原料の有機アルミニウム化合物にトリメチルアルミニウム(以下、TMALと表記することがある。)を用いて調製したメチルアルミノキサン(以下、MAOと表記することがある)が、特に優れた助触媒性能を示すことは広く知られている。この組成物は通常トルエンなどの芳香族炭化水素溶媒に溶解した溶液状態で取り扱われる。これを、溶液メチルアルミノキサン(溶液MAO)と称すことがある。
【0003】
溶液MAOは優れた助触媒性能を示す。しかし、MAOが、通常、メタロセン化合物などの主触媒と共に溶媒に溶解した状態で取り扱われるため、生成する重合体のモルフォロジー制御ができない。このため、重合体の取扱いが困難となるだけでなく、重合反応器等への重合体付着いわゆるファウリングが起こり、連続重合反応を阻害する等の問題を抱えている。
【0004】
これらの問題を解決するために、MAOをシリカ、アルミナ、塩化マグネシウムなどの固体状無機担体に担持した担持型固体MAOを調製し、懸濁重合や気相重合に適用する方法が提案されている。固体状無機担体の中でも、表面水酸基量を制御したシリカが担体として最も広く用いられており、工業レベルへの展開に至っている事例も少なくない。(例えば、特許文献2などを参照)
【0005】
前記のシリカ担体は重合体中へ残留し易く、フィルム成形の際のフィッシュアイの原因の一つとなるなど、重合体の性能悪化をもたらすことが知られている。また、上述のような担体を利用した担持型固体MAOは、均一系重合における重合活性と比較した場合、大きな活性低下を示すことも知られている。したがって、上記課題を解決するため、助触媒のMAOが固体状態であるメリットを保持しつつ、均一系重合に匹敵する高活性固体MAOの開発が望まれていた。
【0006】
高活性固体MAOの開発については、シリカなどの担体を用いずにMAO組成物のみで、体積基準のメジアン径が1〜70μmの範囲の比較的微粒子状である固体MAOおよびそれらを効率的に調製する方法が提案されている(特許文献5〜7)。例えば特許文献5で得られた固体MAOの粒子径は比較的均一なもので、オレフィン系重合体を調製する際の重合活性が担体を用いた担持型固体MAOに比べ高いと言う特徴を有する。重合条件によっては、溶液MAO組成物に匹敵する活性を発現する場合がある。すなわち、特許文献5に記載の固体MAOは、高い助触媒性能(活性化剤)と担体の機能を併せ持つ新しい固体状助触媒である。特許文献5に記載の固体MAOより体積基準のメジアン径が小さい5μm未満である、固体MAOについても、その製造方法とともに提案されている(特許文献6)。特許文献6に記載の固体MAOは、粒度分布の均一性が高く、オレフィン系重合体を調製する際の重合活性が高く、かつ反応器のファウリング抑制性が高い。さらに、特許文献5に記載の固体MAOより体積基準のメジアン径が大きい8μm以上である、固体MAOについても、その製造方法とともに提案されている(特許文献7)。
【0007】
上記特許文献5〜7に記載の方法においては、溶液MAO組成物から固体MAOを調製する際の収率が高く、溶液MAO組成物から真空ポンプによる溶媒の除去も必要としない方法を提供することが出来る。
【0008】
固体MAOの調製法としては、溶液MAOへ、窒素−炭素結合を有する化合物や酸素−炭素結合を有する化合物を添加して調製する方法も提案されている(特許文献8、9)。具体的な実施例が示されている化合物は、アミン、アルコール、アルデヒド、カルボン酸である。
【0009】
上記に示した固体MAOの調製法では、溶液MAOの調製または溶液MAOから固体MAOの調製に、アミン、アルコール、アルデヒド、カルボン酸を用いており、固体MAO中に、アミン、アルコール、アルデヒド、カルボン酸由来の化合物が不純物として残存する可能性があった。高品質のポリオレフィン製造においては、原料段階から不純物の低減が望まれており、高純度固体MAOの開発が期待されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2001−502714
【特許文献2】特表2000−505785
【特許文献3】特開2004−182963
【特許文献4】特開2005−263749
【特許文献5】WO2010/055652
【特許文献6】WO2013/146337
【特許文献7】WO2017/175766
【特許文献8】特開2016−037452
【特許文献9】特開2018−076542
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
シリカなどの固体状無機担体を使用せずに、オレフィン多量体、もしくはオレフィン重合体の製造用触媒の助触媒かつ触媒担体として好適で、従来の固体アルミノキサンと比較して不純物として含まれる有機化合物の含有量を低減した高純度固体アルミノキサンの提供。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を続けた。その結果、所定の有機化合物成分の含有量が、所定範囲である不純物の少ない固体アルミノキサンおよびその製造法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
上記課題を解決するための本発明は以下のとおりである。
[1]
(i)一般式(I)で示されるアルミノキサン(RAO)単位を含み、
【化1】
(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基を示し、nは10〜50の整数を示す。)
(ii)アルミニウム含有量が38質量%から47質量%の範囲にあり、
(iii)一般式(II)で示される化合物の含有量が50mg/kg〜10000mg/kgであり、かつ
【化2】
(iv)アルキル基並びにベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン、テトラリンおよび上記一般(II)で示される化合物を除いた有機化合物成分の含有量が1000mg/kg以下である固体RAO。
[2]
有機化合物成分が芳香族有機化合物成分であり、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン、テトラリンおよび上記一般(I)で示される化合物を除いた芳香族有機化合物成分の含有量が、100mg/kg以下である、[1]に記載の固体RAO。
[3]
アルキル基が、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、またはtert−ブチル基である[1]または[2]に記載の固体RAO。
[4]
アルキル基がメチル基である[1]〜[3]のいずれかに記載の固体RAO。
[5]
30質量%以下のトリアルキルアルミニウム(以下、TRALと表記することがある)を含有する芳香族炭化水素溶媒に、0℃、1気圧において気体である酸素−炭素結合を有する化合物(以下、O−C化合物と表記することがある)を50℃未満の温度で接触させる工程と、接触させた後、50℃〜200℃の範囲の温度で加熱して一般式(I)で示されるRAOとTRALを含有する固体RAOを析出させる工程を含む、固体RAOの製造方法。
【化3】
(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基を示し、nは10〜50の整数を示す。)
[6]
アルキル基が、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、またはtert−ブチル基である[5]に記載の製造方法。
[7]
アルキル基が、メチル基である[5]または[6]に記載の製造方法。
[8]
O−C化合物が一酸化炭素、二酸化炭素、ホルムアルデヒドのいずれかである[5]〜[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9]
O−C化合物が二酸化炭素である[5]〜[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10]
[1]〜[4]のいずれかに記載の固体RAOと、下記一般式(III)で表される遷移金属化合物を触媒成分として含有するオレフィン類の重合用触媒。
【化4】
(式中、Mは遷移金属元素を示し、R5、R6、R7、R8 の内の少なくとも一つはシクロアルカジエニル骨格を有する有機基であり、残りは独立にアルキル基、アルコシキ基、アリーロキシ基、アルキルシリル基、アルキルアミド基、アルキルイミド基、アルキルアミノ基、アルキルイミノ基、又はハロゲン原子を示す。R5、R6、R7、R8 の内、二つ以上がシクロアルカジエニル骨格を有する有機基である場合、シクロアルカジエニル骨格を有する有機基の少なくとも二つは炭素、ケイ素、又はゲルマニウムにより架橋されていても良い。)
[11]
[10]に記載の触媒を用いてオレフィン類を重合することを含む、ポリオレフィン類の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来の固体RAOと比較して不純物として含まれる有機化合物の含有量を低減した固体RAOを提供することが出来る。本発明の固体RAOを助触媒として重合に用いると、従来の固体RAOを用いた場合と比較しても同等またそれ以上に高い重合活性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ポリメチルアルミノキサン組成物の1H―NMR測定結果の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[固体アルミノキサン]
本発明の固体アルミノキサンは
(i)一般式(I)で示されるアルミノキサン(RAO)単位を含み、
【化5】
(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基を示し、nは10〜50の整数を示す。)
(ii)アルミニウム含有量が38質量%から47質量%の範囲にあり、
(iii)一般式(II)で示される化合物の含有量が50mg/kg〜10000mg/kgであり、かつ
【化6】
(iv)アルキル基並びにベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン、テトラリンおよび上記一般(II)で示される化合物を除いた有機化合物成分の含有量が1000mg/kg以下である固体アルミノキサンである。
【0017】
本発明の固体RAOは、RAOとトリアルキルアルミニウム(TRAL)を含有する。RAOとTRALの共存状態は必ずしも明らかではないが、上記(ii)を満足する組成比及び存在状態で、RAOとTRALが含まれる。
【0018】
一般式(I)で示されるRAO単位を含むとは、nが上記範囲内の単数(nがある特定の整数)であるRAOまたは複数種類(nが異なる複数の整数)である複数のRAOを含むことを意味する。本発明における高純度固体RAOは、上記RAOを含むものであればRAOの構造が鎖状構造であっても環状構造であっても、また枝分かれ構造であってもよい。
【0019】
RAOやTRALの炭素数1〜10のアルキル基は、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基であり、さらに好ましくはメチル基である。アルキル基がメチル基である場合のRAOはメチルアルミノキサンであり、MAOと表記することがある。同じく、アルキル基がメチル基である場合のTRALはトリメチルアルミニウムであり、TMALと表記することがある。
【0020】
MAOが環状構造をとる場合、アルミニウム含有量の理論量は約46〜47質量%であり、TMAL中のアルミニウム含有量の理論量は約38質量%である。すなわち、固体MAOのアルミニウム含量が46質量%を超えるような場合、固体MAOは環状構造を有するMAOのみからなり、TMALはほとんど存在しないものと推定される。MAOが直鎖状構造をとる場合、一般式(I)のn数によってアルミニウム含有量の理論量は変動するが、環状構造のものに比べ小さくなる。一方、本発明の固体MAOには、環状構造のMAOに加え、線状構造および枝分かれ構造を有するMAOを含んでいるが、TMALよりもアルミニウム含有量が低くなることはない。
【0021】
本発明において調製される固体MAOのアルミニウム含量は、例えば、0.5Nの硫酸水溶液で加水分解した溶液に過剰量のエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを加えた後に、ジチゾンを指示薬とし硫酸亜鉛で逆滴定することにより求めることができる。測定濃度が希薄な場合は、原子吸光分析法を用いて測定を行うこともできる。
【0022】
本発明の固体RAOは、一般式(II)で示される化合物、t−ブチルトルエンの含有量が50mg/kg〜10000mg/kgである。メチル基の位置には特に制限はなく、t−ブチル基に対して、o位、m位、p位の何れであってもよい。t−ブチルトルエンは、積極的に含有させる成分ではなく、TMALとO−C化合物との反応において不可避的に副生する成分であり、不純物が少ない固体RAOを提供すると言う観点からは含有量は少ない方が好ましく、含有量は50mg/kg〜1000mg/kgの範囲が好ましく、50mg/kg〜500mg/kgの範囲がより好ましい。
【化7】
【0023】
本発明の固体RAOは、アルキル基並びにベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン、テトラリンおよび一般式(II)で示される化合物を除いた有機化合物成分の含有量が、1000mg/kg以下である。アルキル基は具体的には一般式(I)で示されるアルミノキサン(RAO)単位に含まれる炭素数1〜10のRで示されるアルキル基である。ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン、テトラリンは、固体RAOを調製する際に溶媒として用いられる可能性がある化合物である。一般式(II)で示される化合物は、前述の通り、TMALとO−C化合物との反応において不可避的に副生する成分である。本発明は、これら成分以外の不純物含有量が少ない固体RAOを提供する物であり、その含有量は、1000mg/kg以下である。
【0024】
一般に固体RAOに含有される可能性がある有機化合物成分(上記で除かれた成分以外の成分)は、固体RAOの製造の過程で副生する成分であることが通常である。例えば、TMALと安息香酸などの芳香族系のO−C化合物を用いる場合には、芳香族有機化合物が固体RAOに含まれる。芳香族有機化合物は、ベンゼンに発がん性があるなど、他の炭化水素化合物と比べて人体に悪影響を及ぼす可能性が懸念されている。食品や医薬品の包装などポリエチレンやポリプロピレンの用途によっては、芳香族化合物の混入が厳密に避けられており、原料としてはごく微量に過ぎない助触媒についても製法や原料段階で含まれないことが求められている。具体的には、染色体異常に陽性を示すTMPIの類縁体(一般式IVで示す)とGHS分類で発がん性区分2のα−メチルスチレンの類縁体(一般式Vで示す)を挙げることができる。
【0025】
【化8】
R1〜R4は、独立に水素、またはC1〜C20のアルキル基
R5、R6は、独立に水素、ハロゲン、またはC1〜C10のアルキル基
R7、R8は、独立に水素、またはC1〜C20のアルキル基
R9は、水素、ハロゲン、またはC1〜C10のアルキル基
【0026】
本発明の固体RAOは、上記芳香族有機化合物成分は、極力含有しないことが好ましく、含有量は、好ましくは500mg/kg以下、より好ましくは100mg/kg以下、さらに好ましくは50mg/kg以下である。
【0027】
本発明の固体RAOは、上記で具体的に示した芳香族有機化合物成分以外の芳香族有機化合物も極力含有しないことが好ましく、アルキル基並びにベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン、テトラリンおよび一般式(II)で示される化合物を除いた芳香族有機化合物成分の含有量も、好ましくは500mg/kg以下、より好ましくは100mg/kg以下、さらに好ましくは50mg/kg以下である。
【0028】
[固体RAOの製造方法]
本発明の固体RAOの製造方法は、30質量%以下のトリアルキルアルミニウム(下、TRAL)を含有する芳香族炭化水素溶媒に、0℃、1気圧において気体である酸素−炭素結合を有する化合物(O−C化合物)を接触させる工程と、接触させた後、50℃〜200℃の範囲の温度で加熱して一般式(I)で示されるRAOとTRALを含有する固体RAOを析出させる工程を含む。
【化9】
(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基を示し、nは10〜50の整数を示す。)
【0029】
一般式(I)で示されるRAO単位を含むとは、nが上記範囲内の単数(nがある特定の整数)であるRAOまたは複数種類(nが異なる複数の整数)である複数のRAOを含むことを意味する。本発明における高純度固体RAOは、上記RAOを含むものであればRAOの構造が鎖状構造であっても環状構造であっても、また枝分かれ構造であってもよい。
【0030】
RAOやTRALの炭素数1〜10のアルキル基は、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基であり、さらに好ましくはメチル基である。アルキル基がメチル基である場合のRAOはメチルアルミノキサンであり、以下、MAOと表記することがある。同じく、アルキル基がメチル基である場合のTRALはトリメチルアルミニウムであり、以下、TMALと表記することがある。
【0031】
0℃、1気圧において気体である酸素−炭素結合を有する化合物はO−C化合物と表示することがあり、その例としては、例えば、一酸化炭素、二酸化炭素、ホルムアルデヒドを挙げることができ、好ましくは二酸化炭素を挙げることができる。
【0032】
本発明の固体RAOを製造する容器は、オートクレーブなど加圧可能な密閉容器であり、窒素やヘリウムやアルゴンなどの不活性気体で置換した後、製造に用いる。
【0033】
TRALを含有する芳香族炭化水素溶媒に、O−C化合物を接触させる方法としては、化合物を逐次添加する方法及び芳香族炭化水素溶媒に溶解した溶液を逐次添加する方法、窒素やヘリウムやアルゴンなどの不活性気体で希釈して逐次添加する方法を挙げることができる。さらに、溶液を霧化して逐次添加することもできる。反応容器に、O−C化合物を芳香族炭化水素溶媒に溶解した溶液を投入し、TRALを含有する芳香族炭化水素溶媒を逐次添加することもできる。
【0034】
芳香族炭化水素溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン、テトラリン、クメン、プロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン、1−フェニルペンタン、1−フェニルヘプタン、1−フェニルオクタン、1,2−ジエチルベンゼン、1,4−ジエチルベンゼン、1,3−ジ−tert−ブチルベンゼン、1,4−ジ−tert−ブチルベンゼン、ジ−n−ペンチルベンゼン、トリ−tert−ブチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、インダン、クロルベンゼン、o−ジクロルベンゼン、m−ジクロルベンゼン、p−ジクロルベンゼンなどを用いることができる。固体RAOに副生物が不純物として残りにくいという観点からは、芳香族炭化水素は、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン、テトラリン、クメン、クロルベンゼンなどであることが好ましい。
【0035】
TRALを含有する芳香族炭化水素溶媒に、O−C化合物を接触させる温度は、−20℃〜50℃未満である。好ましくは0℃〜50℃であり、さらに好ましくは10℃〜30℃である。TRALに対するO−C化合物の接触量は、生成する固体RAOのアルミニウム含有量や残存するアルキル基の量を考慮して適宜決定できる。例えば、TRALのアルミニウム原子に対する酸素原子のモル比(Al:O)が1〜2の範囲であることができ、好ましくは1〜1.5の範囲であり、さらに好ましくは1〜1.2である。
【0036】
TRALを含有する芳香族炭化水素溶媒に、O−C化合物を接触させた後に密閉して加熱する温度は50℃〜200℃である。好ましくは100℃〜150℃であり、さらに好ましくは120℃〜140℃である。加熱することで溶媒中に固体RAOが析出する。析出した固体RAOは、溶媒から分離し、適宜洗浄および乾燥して本発明の固体RAOを得ることができる。
【0037】
[オレフィン類の重合触媒]
本発明は、オレフィン類の重合触媒を包含する。本発明のオレフィン類の重合触媒は、上記本発明の固体RAOと下記一般式(III)で表される遷移金属化合物を触媒成分として含有する。
【化10】
(式中、Mは遷移金属元素を示し、R5、R6、R7、R8 の内の少なくとも一つはシクロアルカジエニル骨格を有する有機基であり、残りは独立にアルキル基、アルコシキ基、アリーロキシ基、アルキルシリル基、アルキルアミド基、アルキルイミド基、アルキルアミノ基、アルキルイミノ基、又はハロゲン原子を示す。R5、R6、R7、R8 の内、二つ以上がシクロアルカジエニル骨格を有する有機基である場合、シクロアルカジエニル骨格を有する有機基の少なくとも二つは炭素、ケイ素、又はゲルマニウムにより架橋されていても良い。)
【0038】
本発明の固体RAOは、オレフィン重合用触媒として公知の触媒と組み合わせて重合触媒として用いることができる。オレフィン重合用触媒としては、例えば、遷移金属化合物を挙げることができる。このような遷移金属化合物は、上記一般式(III)で示されるものであることができる。
【0039】
一般式(II)中のMとしては、具体的にはチタン、ジルコニウム、ハフニウム、クロム、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、ネオジウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウムあるいはイッテルビウムであり、好ましくはチタン、ジルコニウム、クロム、鉄、ニッケルである。
【0040】
前記一般式(III)において、好ましい遷移金属化合物としては、シクロアルカジエニル骨格を有する配位子が1個ないし2個配位したメタロセン化合物である。シクロアルカジエニル骨格を有する配位子としては、たとえばシクロペンタジエニル基、メチルシクロペンタジエニル基、エチルシクロペンタジエニル基、ブチルシクロペンタジエニル基、ジメチルシクロペンタジエニル基、ペンタメチルシクロペンタジエニル基などのアルキル置換シクロペンタジエニル基、インデニル基、フルオレニル基などを例示することができ、シクロアルカジエニル基は2価の置換アルキレン基、置換シリレン基等で架橋されていてもよい。
【0041】
シクロアルカジエニル骨格を有する配位子以外の配位子は、炭素数が1〜20の炭化水素基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルシリル基、アミノ基、イミノ基、ハロゲン原子または水素原子である。炭素数が1〜20の炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などを例示することができ、具体的には、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロビル基、ブチル基などが例示され、シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロへキシル基などが例示され、アリール基としては、フェニル基、トリル基などが例示され、アラルキル基としてはベンジル基などが例示される。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基などが例示され、アリーロキシ基としてはフェノキシ基などが例示される。これらの基にはハロゲン原子などが置換していてもよい。アルキルシリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基などが例示される。ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が例示される。
【0042】
前記一般式(III)中のMがジルコニウムである場合の、シクロアルカジエニル骨格を有する配位子を含む遷移金属化合物について、具体的に化合物を例示する。ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムモノクロリドモノハイドライド、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムモノブロミドモノハイドライド、ビス(シクロペンタジエニル)メチルジルコニウムハイドライド、ビス(シクロペンタジエニル)エチルジルコニウムハイドライド、ビス(シクロペンタジエニル)フェニルジルコニウムハイドライド、ビス(シクロペンタジエニル)べンジルジルコニウムハイドライド、ビス(シクロペンタジエニル)ネオぺンチルジルコニウムハイドライド、ビス(メチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムモノクロリドハイドライド、ビス(インデニル)ジルコニウムモノクロリドハイドライド、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジブロミド、ビス(シクロペンタジエニル)メチルジルコニウムモノクロリド、ビス(シクロペンタジエニル)エチルジルコニウムモノクロリド、ビス(シクロペンタジエニル)シクロヘキシルジルコニウムモノクロリド、ビス(シクロペンタジエニル)フェニルジルコニウムモノクロリド、ビス(シクロペンタジエニル)ベンジルジルコニウムモノクロリド、ビス(メチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、ビス(ジメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、ビス(n−ブチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、ビス(インデニル)ジルコニウムジクロリド、ビス(インデニル)ジルコニウムジブロミド、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジフェニル、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジベンジル、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムモノメトキシモノクロリド、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムモノエトキシモノクロリド、ビス(メチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムモノエトキシモノクロリド、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムモノフエノキシモノクロリド、ビス(フルオレニル)ジルコニウムジクロリドなどが挙げられる。
【0043】
また、前記一般式(III)中のMがジルコニウムであり、シクロアルカジエニル骨格を有する配位子を少なくとも2個以上含み、かつこの少なくとも2個のシクロアルカジエニル骨格を有する配位子がエチレン、プロピレンなどのアルキレン基、イソプロピリデン、ジフェニルメチレンなどの置換アルキレン基、シリレン基、ジメチルシリレンなどの置換シリレン基などを介して結合されている遷移金属化合物について、具体的な化合物を例示する。エチレンビス(インデニル)ジメチルジルコニウム、エチレンビス(インデニル)ジエチルジルコニウム、エチレンビス(インデニル)ジフェニルジルコニウム、エチレンビス(インデニル)メチルジルコニウムモノクロリド、エチレンビス(インデニル)エチルジルコニウムモノクロリド、エチレンビス(インデニル)メチルジルコニウムモノブロミド、エチレンビス(インデニル)ジルコニウムジクロリド、エチレンビス(インデニル)ジルコニウムブロミド、エチレンビス(4,5,6−テトラヒドロ―1−インデニル)ジルコニウムジクロライドなどを挙げることができ、ラセミ体、メソ体およびそれらの混合物であってよい。
【0044】
これらの遷移金属化合物は、均一系重合に際して、1種類のみ使用してもよいし、分子量分布調整等を目的として2種類以上を使用してもよい。また、あらかじめ固体触媒調製を行う場合に際しては、これらの遷移金属化合物を1種類のみ使用してもよいし、分子量分布調整等を目的として2種類以上を使用してもよい。
【0045】
[ポリオレフィン類の製造方法]
本発明は上記本発明の触媒を用いてオレフィン類を重合することを含む、ポリオレフィン類の製造方法を包含する。
【0046】
本発明の固体RAOを用いた均一系重合および本発明の固体RAOを用いて調製された担持触媒を使用する重合は、重合形式として、溶媒を用いる溶液重合やスラリー重合、溶媒を用いないバルク重合や気相重合等のいずれの方法においても適した性能を発揮する。また、連続重合、回分式重合のいずれの方法においても好ましい性能を発揮し、分子量調節剤としての水素なども必要に応じて用いることが出来る。オレフィン類の重合条件は、重合方法に応じて適宜選択することができる。
【0047】
重合に用いられるモノマーについては、オレフィン系モノマーの単独およびそれらの組み合わされた共重合に用いることができるどのような化合物でも良い。具体的には、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−デセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどのα−オレフィン、ビスフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロペンなどのハロゲン置換オレフィン、シクロペンテン、シクロヘキセン、ノルボルネンなどの環状オレフィンが挙げられる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0049】
なお、下記実施例においては、固体MAO組成物の乾燥は、通常、流動パラフィンを入れたシールポットを介し40℃において真空ポンプのフルバキューム下に実施し、シールポットに気泡が認められない時点を以って乾燥の終点とした。
【0050】
[試験方法]
(1)アルミニウム含量
溶液MAO組成物および固体MAO組成物のアルミニウム含量は、基本的に0.5Nの硫酸水溶液で加水分解した溶液に過剰量のエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを加えた後に、ジチゾンを指示薬とし硫酸亜鉛で逆滴定することにより求めた。測定濃度が希薄な場合は、原子吸光分析法を用いて測定を行った。
【0051】
(2)メチル基のモル分率
MAO中のそれぞれの成分のモル分率は、MAOの1H−NMR測定により、それぞれの成分に帰属される面積比から求めた。MAOに由来するメチル基のモル分率をMe(PMAO)と表す。TMALに由来するメチル基のモル分率をMe(TMAL)と表す。以下にMAOの具体的なMe(PMAO)、Me(TMAL)のモル分率の求め方を例示する。
【0052】
まず、重溶媒にはd8−THFを用いてMAOの1H−NMR測定を実施した。1H−NMR測定は日本電子の500MHz NMR測定装置を用い、測定温度24℃で行った。1H−NMRチャートの例を図1に示す。
【0053】
(i) −0.3ppmから−1.2ppm程度に現われるTMALを含むMAOのMe基ピークの全体の積分値を求め、これをI(MAO)とする。
(ii) −1.1ppm付近のTMALに由来するMe基ピークを接線−1により切り出し、その積分値 I(TMAL−Me)を求める。
(iii) (ii)で求めたそれぞれの積分値を、(i)で求めた積分値 I(MAO)から引くとTMALを含まないMAOのみのMe−基の積分値I(PMAO−Me)を求めることができる。I(TMAL−Me)およびI(PMAO−Me)をI(MAO)で割って規格化すると、Me(PMAO)、Me(TMAL)のモル分率を求めることが出来る。
【0054】
なお、それぞれのピークの切り出し方法としては、市販のカーブフィッティングプログラムを用いる方法やベースラインコレクションを用いる方法などにより簡便に行うことが出来る。
また、溶液MAO組成物の分析サンプルは、溶液MAO組成物約0.05mLに対しd8−THFを約0.5mL添加することにより調製した。固体MAOの分析サンプルは、固体MAO組成物10mgに対しd8−THFを0.5mL添加することにより調製した。
【0055】
(3)不純物の分析
固体MAOスラリーを加水分解し、得られた有機層を分析して不純物を定量した。定量法は、ガスクロマトグラフィーによる検量線を用いる方法及びNMRの積分値を用いる方法を、用いた。
【0056】
以下の反応は乾燥窒素ガス雰囲気下に行い、溶媒はすべて脱水および脱気したものを使用した。
【0057】
実施例1
[二酸化炭素による固体MAOの調製]
磁気攪拌子を有する窒素置換した100mLステンレス製オートクレーブに、TMALのトルエン溶液(1.8M、5.0mL、9.0mmol)を導入し、さらに乾燥トルエン10mLで希釈した。この溶液にガス流量計およびシリンジ針を通して所定量の二酸化炭素ガス(100mL(4.2mmol))を20℃で10分かけて流通させた。オートクレーブを密閉した後、攪拌しながらオイルバスで130℃に加熱し、16時間反応させたところ、固体MAOのトルエンスラリーが得られた。
【0058】
実施例2
[二酸化炭素で調製した固体MAOによるプロピレンの重合]
磁気攪拌子を有し、実施例1で調製した固体MAOのトルエンスラリー(Al:9.0mmol、15mL)が入った100mLステンレス製オートクレーブに、乾燥トルエン14mLを導入した。続いてオートクレーブ内部を3秒間減圧し、溶液内に溶け込んでいる窒素ガスを追い出した後。20℃でプロピレンを固体MAOスラリーに導入し、飽和させた。プロピレンを流通させたままrac−エチレンビス(インデニル)ジルコニウム(IV)ジクロリド(3.8mg、9.0μmol)をトルエン3.0mLに溶かした溶液を導入して重合を開始した。重合は20℃で10分間行い、少量の塩酸酸性メタノール溶液を反応器に加えて重合を停止させた。重合溶液を大量の塩酸酸性メタノール溶液に注ぎ込み、重合体を析出させた。重合体の濾別洗浄後に、60℃で6時間減圧乾燥することによりポリプロピレンを得た。DSCを用いて得られたポリプロピレンの融点を測定したところ、147℃であった。実施例2の結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
実施例3
[二酸化炭素で調製した固体MAOに含まれる不純物量]
実施例1と同じ操作で得た反応スラリーを回収し、固体MAO組成物をデカンテーションにより上澄み液を除去した後に、トルエン20mLで2度のデカンテーションによる洗浄操作を行った。得られた固体MAO組成物のアルミニウム濃度は、40wt%であった。得られた固体MAO組成物のMe(TMAL)量を1H−NMRより求めたところ、7.7mol%であった。得られた固体MAOスラリーに含まれる不純物を分析した。固体におけるα−メチルスチレン、t−ブチルベンゼン、1,1,3−トリメチル−3−フェニルインデン(TMPI)、2,4−ジメチル−2,4−ジフェニルペンタン(DMDPP)の量は検出限界以下であり、t−ブチルトルエンの含有量は261mg/kgであった。有機化合物不純物量は332mg/kg未満であった。
【0061】
比較例1
[安息香酸による固体MAOの調製]
磁気攪拌子を有する窒素置換した100mLステンレス製オートクレーブに、安息香酸(366mg,3.0mmol)を乾燥トルエン10mLに溶かした溶液を導入した。この溶液を室温で攪拌しながらTMALのトルエン溶液(1.8M,5.0mL,9.0mmol)を10分かけて滴下した。オートクレーブを密閉した後、攪拌しながらオイルバスで130℃に加熱し、16時間反応させたところ、固体MAOのトルエンスラリーが得られた。
【0062】
比較例2
[安息香酸で調製した固体MAOによるプロピレンの重合]
比較例1で得られた固体MAOスラリーを用いて実施例2と同じ手順でプロピレンの重合を行った。ポリプロピレンの収量は373mg(250kg・molZr−1−1)であった。得られたポリプロピレンの分子量分布を測定したところ、Mn=7100、PDI=1.8であった。DSCを用いて得られたポリプロピレンの融点を測定したところ、144℃であった。
【0063】
比較例3
[安息香酸による固体MAOの調製と含有有機物の分析]
撹拌装置を有する内容積2Lのセパラブルフラスコに、TMAL 240.8g(3.34mol)、トルエン680.5gを入れた。この溶液を15℃にまで冷却し、これに安息香酸176.6g(1.43mol)を溶液の温度が25℃以下になるような速度でゆっくりと添加した。その後50℃で加熱熟成を1時間行った。この時、TMALと安息香酸の酸素原子のモル比は、1.17であった。反応液を70℃で32時間加熱し、その後60℃で6時間加熱することにより、MAO組成物のトルエン溶液を得た。得られた溶液は、ゲル状物のない透明な液体であった。反応液回収後に行ったアルミニウム分析結果より、アルミニウム原子基準で示す反応収率は定量的なものであった。得られた反応液のアルミニウム濃度は、8.67wt%であった。得られた溶液MAO組成物のMe(TMAL)量を1H−NMRより求めたところ、13.1mol%であった。
【0064】
撹拌装置を有する内容積1Lのオートクレーブに上記MAO組成物のトルエン溶液 258.6g(0.831mol−Al)を導入した。その後、300rpmで攪拌しながら120℃で8時間加熱した。加熱中に固体MAOが析出した。
【0065】
反応スラリーを回収し、固体状MAO組成物をデカンテーションにより上澄み液を除去した後に、トルエン200mlで4度のデカンテーションによる洗浄操作を行った。得られた固体MAOスラリーに含まれる不純物を分析すると、固体中の不純物量はα−メチルスチレン505mg/kg、t−ブチルベンゼン495mg/kg、TMPI211mg/kg、DMDPP42mg/kgを含んでいた。全て芳香族化合物であり、有機化合物不純物量は1253mg/kgであった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、オレフィン重合体の製造技術分野に有用である。
図1