(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-145603(P2020-145603A)
(43)【公開日】2020年9月10日
(54)【発明の名称】導波管変換器
(51)【国際特許分類】
H01P 5/107 20060101AFI20200814BHJP
H01P 5/02 20060101ALI20200814BHJP
【FI】
H01P5/107 B
H01P5/02 603D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-41243(P2019-41243)
(22)【出願日】2019年3月7日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、総務省、「テラヘルツ波デバイス基盤技術の研究開発−300GHz帯シリコン半導体CMOSトランシーバ技術−」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100196380
【弁理士】
【氏名又は名称】森 匡輝
(72)【発明者】
【氏名】高野 恭弥
(72)【発明者】
【氏名】藤島 実
(57)【要約】
【課題】入出力特性を向上させることができる導波管変換器を提供する。
【解決手段】導波管変換器1は、信号を伝送する伝送線路11と、伝送線路11に接続されたプローブ部13とを有する基板10と、プローブ部13を囲むように基板10上に配置され、伝送線路11と電磁的に結合された導波路12aを有する導波管12と、を備える。また、プローブ部13は、伝送線路11と接続された基端部13aから、先端部13bへ向けて広がる扇形である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号を伝送する伝送線路と、前記伝送線路に接続されたプローブ部とを有する基板と、
前記プローブ部を囲むように前記基板上に配置され、前記伝送線路と電磁的に結合された導波路を有する導波管と、を備え、
前記プローブ部は、前記伝送線路と接続された基端部から、先端部へ向けて広がる形状である、
ことを特徴とする導波管変換器。
【請求項2】
前記プローブ部は、扇形であり、前記基端部から前記先端部までの距離が一定である、
ことを特徴とする請求項1に記載の導波管変換器。
【請求項3】
前記基板は、多層基板であり、前記導波路を終端するバックショート部を有する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の導波管変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導波管変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、誘電体基板上の伝送線路と導波管との間で信号を変換する導波管変換器が開発されており、無線通信端末等における情報の送受信に用いられている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】K.Takano, et al., “300-GHz CMOS transmitter module with built-in waveguide transition on a multilayered glass epoxy PCB”, THE 2018 IEEE Radio and Wireless Symposium (RWS2018), p.154-156, Jan. 2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通信機器の発達に伴い、より高い周波数帯域の信号が通信に用いられているが、高周波信号では、反射信号による影響等が大きくなるため、信号経路のインピーダンス整合が重要となる。
【0005】
非特許文献1の導波管変換器では、誘電体基板上に設けられ、信号の送受信を行うプローブとして矩形状プローブが用いられている。プローブが矩形状である場合、導波管変換器へ信号を伝達する伝送線路と導波管との間でインピーダンス整合を取ることは難しいため、導波管変換器の入出力特性を高めることは難しい。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、入出力特性を向上させることができる導波管変換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明に係る導波管変換器は、
信号を伝送する伝送線路と、前記伝送線路に接続されたプローブ部とを有する基板と、
前記プローブ部を囲むように前記基板上に配置され、前記伝送線路と電磁的に結合された導波路を有する導波管と、を備え、
前記プローブ部は、前記伝送線路と接続された基端部から、先端部へ向けて広がる形状である。
【0008】
また、前記プローブ部は、扇形であり、前記基端部から前記先端部までの距離が一定である、
こととしてもよい。
【0009】
また、前記基板は、多層基板であり、前記導波路を終端するバックショート部を有する、
こととしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の導波管変換器によれば、プローブを基端部から先端部へ向けて広がる形状とすることにより、信号の反射特性を改善することができるので、導波管変換器の入出力特性を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態に係る導波管変換器の斜視図である。
【
図3】実施の形態に係るプローブ部の斜視図である。
【
図4】プローブ部が矩形である場合と扇形である場合のSパラメータの例を示すグラフである。
【
図5】プローブ部の平面形状を示す概念図であり、(A)が扇形のプローブ部、(B)が半円形のプローブ部、(C)が円形のプローブ部の図である。
【
図6】プローブ部が扇形である場合と半円形である場合と円形である場合のSパラメータの例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る導波管変換器について、300GHz帯の高周波信号を変換する導波管変換器を例として説明する。
【0013】
本実施の形態に係る導波管変換器1は、
図1の斜視図、
図2の断面図に示すように、基板10と、基板10上に固定される導波管20とを備える。導波管変換器1は、基板10上の伝送線路11と導波管20との間で高周波信号を変換する変換器である。
【0014】
基板10は、
図2に示すように、複数の導体層と誘電体層とを備える多層基板であり、伝送線路11、プローブ部13、バックショート部12を備える。基板10の種類は特に限定されず、例えば、高周波回路基板として一般的に用いられるフッ素樹脂基板、ガラスエポキシ基板等である。本実施の形態では、基板10としてFR4(Flame Retardant Type 4)を用いる。
【0015】
基板10は、
図2に示すように、3つの導体層L1〜L3を備える。導体層L1〜L3は銅製であり、厚みは15μmである。各導体層間の距離、すなわち、誘電体層31、32の厚みは、約50μmである。基板全体の厚みは、約145μmである。
【0016】
図3に示すように、基板10の一方の面の表層である導体層L1は、集積回路の入出力端子(不図示)と導波路20aとの間で信号を伝送する伝送線路11と、伝送線路11に沿ってクリアランス部を挟んで形成され、導体層L1の外形までの大部分を占めるグランド部とを備える。また、導体層L1には、高周波信号が放射される変換部14が形成されている。変換部14内に伝送線路11と接続されたプローブ部13が形成されており、変換部14内の領域は、プローブ部13を除いて導体のない領域となっている。
【0017】
上述のように、伝送線路11の幅方向の両側は、クリアランス部を挟んでグランド部が配置され、コプレーナ線路を構成している。伝送線路11をコプレーナ線路とすることにより、伝送される高周波信号の損失を低減することができる。
【0018】
また、導体層L1と中間層である導体層L2との間に配置された誘電体層31の厚みを増減させることにより、導体層L1と導体層L2との距離を変化させ、伝送線路11の特性インピーダンスを調整することができる。
【0019】
伝送線路11の一方の端部は、
図1に示すように、パッド11aとなっており、図示しない集積回路に高周波信号を入力または出力する信号端子と電気的に接続される。他方の端部は、変換部14の内部に配置されるプローブ部13に接続されており、変換される高周波信号を伝送する。
【0020】
プローブ部13は、
図3に示すように、伝送線路11に接続された基端部13aから、円弧状の先端部13bへ向かって広がる形状であり、本実施の形態に係るプローブ部13は、基端部13aから先端部13bへ向けて広がる扇形に形成されている。扇形の中心角の大きさ、弧の長さ等は特に限定されず、高周波信号の周波数、導波管変換器1の入出力のインピーダンス等に基づいて設定される。なお、プローブ部13の形状は扇形に限定されず、例えば、基端部13aから先端部13bへ向けて広がる三角形であってもよい。また、扇形の一種としての円形であってもよい。
【0021】
本実施の形態では、基端部13aから先端部13bまでの距離は一定となっている。これにより、導波管内への挿入長を一定とし、良好な整合を実現することができる。
【0022】
基板10のバックショート部12は、
図2に一点鎖線で示すように、変換部14の外周部に配置され、導体層L1から導体層L3を接続する貫通ビアであるビア15と導体層L3の終端部16とを含み、内部が誘電体で満たされた領域である。より具体的には、バックショート部12は、ビア15と、導体層L1の変換部14と、導体層L1の変換部14に対応する導体層L3の平面視矩形状の終端部16とで囲まれ、内部が誘電体で満たされた角柱状の領域である。また、変換部14に対応する部分の導体層L2は開口されている。
【0023】
プローブ部13からバックショート部12へと放射された高周波信号は、バックショート部12内の終端部16で反射され、変換部14を通じて、導波管20の導波路20a内へと放射される。これにより、プローブ部13から導波路20aへと向かう信号と、プローブ部13からバックショート部12へと向かい導体層L3の終端部16で反射された信号とが、導波路20a内で重ね合わされる。
【0024】
本実施の形態に係るバックショート部12の深さ、すなわち導体層L1−L3間の距離は、変換される高周波信号の実効波長の1/4に設定されている。これにより、プローブ部13からバックショート部12へと放射され、終端部16で反射された高周波信号は、導波管側へ放射された高周波信号と合成され、導波路20aを通じて放射される高周波信号を強める。
【0025】
導波管20は、
図1に示すように、貫通孔である導波路20aが形成された金属部材であり、基板10の導体層L1上に取り付けられる。また、導波管20は、プローブ部13を囲むように基板10上に配置される。導波管20の材質は、例えばアルミニウム合金である。
【0026】
導波管20に形成された導波路20aの一方の端部は、基板10の変換部14に接続される。これにより、集積回路から出力された高周波信号は、伝送線路11を通じてプローブ部13へ伝送され、プローブ部13で変換された高周波信号は、伝送線路11と電磁的に結合された導波路20aへ放射される。また、導波管20の導波路20aから導波管変換器1へ入力された高周波信号は、導波路20aを通じてプローブ部13で変換される。そして、変換された高周波信号は、伝送線路11を通じて集積回路へと入力される。
【0027】
導波管20は、
図1に示すように、伝送線路11を避けるための線路開口部20bを備える。これにより、導波管20と伝送線路11とが接触することを防止できる。また、プローブ部13から放射された電磁波が線路開口部20bを介して導波管20の外部に漏れることを抑制するため、線路開口部20bの高さは、低く設定されることが好ましい。
【0028】
本実施の形態に係る導波管変換器1は、上述のように構成されており、集積回路から出力された高周波信号が、コプレーナ線路である伝送線路11を介してプローブ部13から放射され、導波路20aへと出力される。また、導波路20aへ入力された高周波信号は、プローブ部13で変換される。そして、変換された高周波信号は、伝送線路11を通じて集積回路へと入力される。
【0029】
図4は、本実施の形態に係る導波管変換器1のSパラメータの例を示すグラフである。本例では、中心角45度、半径0.1mmの本発明に係る扇形のプローブ部13を用いた場合と、従来の矩形状(0.165mm×0.4mm)のプローブ部13を用いた場合とを比較している。また、本例の高周波信号の周波数は310GHzである。
【0030】
Sパラメータの一方の測定基準面であるポート1は、集積回路のハンダバンプと接続される伝送線路11のパッド11aとしている。また、他方の測定基準面であるポート2は、導波管20の上端面、すなわち他の導波管との接続端としている。
【0031】
図4に示されるように、反射損失を示すSパラメータS11、S22は、扇形のプローブ部13を用いた場合の方が、矩形状のプローブ部13を用いた場合に比べて、310GHz付近で小さくなっている。一方、挿入損失を示すSパラメータS21、S12は、扇形のプローブ部13を用いた場合と矩形状のプローブ部13を用いた場合とで大きく異ならない。したがって、本発明に係る扇形のプローブ部13を用いることにより、導波管変換器1における反射信号の影響を低減し、損失の小さい良好な特性を得られることがわかる。
【0032】
また、
図5(A)、(B)、(C)に示すように、中心角の大きさを変化させた場合の導波管変換器1のSパラメータの例を、
図6のグラフに示す。本例では、
図4の例と同じ中心角45度の場合(
図5(A))、半円形すなわち中心角180度の場合(
図5(B))、円形すなわち中心角360度の場合(
図5(C))を比較している。
【0033】
図6に示されるように、反射損失を示すSパラメータS11、S22は、扇形、半円形、円形のいずれのプローブ部13を用いた場合であっても、310GHz付近で小さくなっている。ただし、円形のプローブ部13を用いた場合、損失が小さくなる帯域の中心周波数は、高い周波数へずれている。また、扇形のプローブ部13と半円形のプローブ部13では、損失が小さくなる帯域の中心周波数は概ね等しく、帯域幅は扇形のプローブ部13を用いた場合の方が広い。
【0034】
一方、挿入損失を示すSパラメータS21、S12は、いずれのプローブ部13を用いた場合でも、大きく落ち込んでいない。したがって、プローブ部13の中心角の大きさによらず、本発明に係る扇形のプローブ部13を用いることにより、導波管変換器1における反射信号の影響を低減し、損失の小さい良好な特性を得られることがわかる。
【0035】
以上説明したように、本実施の形態に係る導波管変換器1では、基端部から先端部へ向けて広がるプローブ部13を用いることにより、信号の反射特性を改善し、入出力特性を向上させることができる。また、基板10内にバックショート部12が形成されているので、信号変換特性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、ノイズの影響を受けやすい高周波信号を伝送線路と導波管との間で変換する導波管変換器に好適である。特に、300GHz以上の高周波信号を変換する導波管変換器に好適である。
【符号の説明】
【0037】
1 導波管変換器、10 基板、11 伝送線路、11a パッド、12 バックショート部、13 プローブ部、13a 基端部、13b 先端部、14 変換部、15 ビア、16 終端部、20 導波管、20a 導波路、20b 線路開口部、31,32 誘電体層、L1,L2,L3 導体層