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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-145947(P2020-145947A)
(43)【公開日】2020年9月17日
(54)【発明の名称】腫瘍を誘導する変異型p53遺伝子
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20200821BHJP
   C07K 14/435 20060101ALI20200821BHJP
   A01K 67/027 20060101ALI20200821BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20200821BHJP
【FI】
   C12N15/12ZNA
   C07K14/435
   A01K67/027
   C12N5/071
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-44844(P2019-44844)
(22)【出願日】2019年3月12日
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100156111
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(72)【発明者】
【氏名】林 利憲
(72)【発明者】
【氏名】竹内 隆
(72)【発明者】
【氏名】梅山 穂乃香
(72)【発明者】
【氏名】中島 美英
(72)【発明者】
【氏名】山本 卓
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 哲史
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA60
4H045AA10
4H045BA10
4H045CA50
4H045EA60
4H045FA74
(57)【要約】      (修正有)
【課題】飼育コストの観点から、大きな負担や問題のない安価な腫瘍モデル動物を提供する。
【解決手段】腫瘍モデル動物は、プロリンリッチドメインとDNA結合ドメインの境界領域のアミノ酸が欠失、置換および/または挿入された変異型p53タンパク質をコードする遺伝子およびその産物を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変異型p53遺伝子であって、配列番号:1に示すアミノ酸配列の97位〜101位からなる領域(Pro−Gly−Thr−Tyr−Asn)またはそれに相当する領域において、1個〜5個のアミノ酸が欠失、置換および/または挿入されている変異型p53タンパク質をコードする遺伝子。
【請求項2】
配列番号:1に示すアミノ酸配列の97位〜101位からなる領域(Pro−Gly−Thr−Tyr−Asn)中のThr−Tyrまたはそれに相当するアミノ酸を欠失している変異型p53タンパク質をコードする請求項1記載の遺伝子。
【請求項3】
請求項1または2記載の遺伝子の産物。
【請求項4】
非ヒト動物のp53遺伝子を改変して、該動物が請求項1または2記載の変異型p53遺伝子を発現、あるいは請求項3記載の産物を産生するようにすることを含む、非ヒト腫瘍モデル動物の製造方法。
【請求項5】
動物がイモリである請求項4記載の方法。
【請求項6】
請求項1または2記載の変異型p53遺伝子あるいは請求項3記載の産物を有する非ヒト腫瘍モデル動物。
【請求項7】
イモリである請求項6記載の動物。
【請求項8】
請求項1または2記載の変異型p53遺伝子を発現、あるいは請求項3記載の産物を産生する細胞。
【請求項9】
イモリの細胞である請求項8記載の細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍発生を誘導する遺伝子、該遺伝子を導入した腫瘍モデル動物などに関する。詳細には、該遺伝子は変異型p53遺伝子である。
【背景技術】
【0002】
医療および創薬分野、特にがんの研究、がんの治療および予防方法の開発、および抗がん剤の研究や開発において、腫瘍モデル動物が用いられている。腫瘍モデル動物としてマウスやラットが頻繁に用いられている(非特許文献1参照)。しかしこれらの動物を研究に供することは、飼育コストの観点から、大きな負担や問題を生じている。また市販の腫瘍モデル動物はそれ自体高価である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】日本チャールスリバー社の総合カタログ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
飼育コストの観点から、大きな負担や問題のない腫瘍モデル動物を作出する必要がある。また安価な腫瘍モデル動物を提供する必要もある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決せんと鋭意研究を重ね、イモリにおいて腫瘍を発生させる遺伝子を同定し、本発明を完成させるに至った。具体的には、本発明者らは、イモリのp53遺伝子のプロリンリッチドメインとDNA結合ドメインとの間の領域を改変し、この変異型p53遺伝子を持つイモリから腫瘍が発生することを確認した。そして、複数の個体から得た腫瘍について、腫瘍を構成する細胞において、上記領域のアミノ酸配列が変異したp53タンパク質を同定した。したがって、本発明は以下のものを提供する。
【0006】
(1)変異型p53遺伝子であって、配列番号:1に示すアミノ酸配列の97位〜101位からなる領域(Pro−Gly−Thr−Tyr−Asn)またはそれに相当する領域において、1個〜5個のアミノ酸が欠失、置換および/または挿入されている変異型p53タンパク質をコードする遺伝子。
(2)配列番号:1に示すアミノ酸配列の97位〜101位からなる領域(Pro−Gly−Thr−Tyr−Asn)中のThr−Tyrまたはそれに相当するアミノ酸を欠失している変異型p53タンパク質をコードする(1)1記載の遺伝子。
(3)(1)または(2)記載の遺伝子の産物。
(4)非ヒト動物のp53遺伝子を改変して、該動物が(1)または(2)記載の変異型p53遺伝子を発現する、あるいは(3)記載の産物を産生するようにすることを含む、非ヒト腫瘍モデル動物の製造方法。
(5)動物がイモリである(4)記載の方法。
(6)(1)または(2)記載の変異型p53遺伝子あるいは(3)記載の産物を有する非ヒト腫瘍モデル動物。
(7)イモリである(6)記載の動物。
(8)(1)または(2)記載の変異型p53遺伝子を発現、あるいは(3)記載の産物を産生する細胞。
(9)イモリの細胞である(8)記載の細胞。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、飼育コストの観点から、大きな負担や問題のない腫瘍モデル動物を作出することができる。また安価な腫瘍モデル動物を提供することもできる。本発明により得られるイモリなどの非ヒト動物は、マウスやラットなどの代替動物として、あるいはこれらを補完する動物として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、イモリ、マウス、ヒト、カエルのp53タンパク質の部分アミノ酸配列のアラインメントを示す。
図2図2は、p53改変イモリ個体における腫瘍発生を示す。AはF0世代個体28の腫瘍、BはF1世代個体16の腫瘍、CはF0世代個体24の腫瘍、DはF0世代個体15の腫瘍、EはF0世代個体4の腫瘍、FはF0世代個体23の腫瘍である。
図3図3は、個体28のp53標的部位の塩基配列を示す。網掛け部分は野生型と同じ塩基であることを示す。ハイフンは欠失を示す。Iは6塩基欠失、IIは15塩基欠失のパターンであることを示す。枠はTALENの結合部位を示す。
図4図4は、個体28のp53標的部位のアミノ酸配列を示す。網掛け部分は野生型と同じアミノ酸であることを示す。ハイフンは欠失を示す。Iは2アミノ酸欠失、IIは5アミノ酸欠失のパターンであることを示す。Xは解析不能であったことを示す。
図5図5は、個体6のp53標的部位の塩基配列を示す。網掛け部分は野生型と同じ塩基であることを示す。ハイフンは欠失を示す。IIIは4塩基欠失、IVは18塩基欠失のパターンであることを示す。
図6図6は、個体6のp53標的部位のアミノ酸配列を示す。網掛け部分は野生型と同じアミノ酸であることを示す。ハイフンは欠失を示す。IIIはフレームシフト変異、IVは6アミノ酸欠失のパターンであることを示す。X、?は解析不能であったことを示す。
図7図7は、個体43のp53標的部位の塩基配列を示す。網掛け部分は野生型と同じ塩基であることを示す。ハイフンは欠失を示す。Vは12塩基欠失、VIは13塩基欠失のパターンであることを示す。
図8図8は、個体43のp53標的部位のアミノ酸配列を示す。網掛け部分は野生型と同じアミノ酸であることを示す。ハイフンは欠失を示す。Vは4アミノ酸欠失、VIはフレームシフト変異のパターンであることを示す。X、?は解析不能であったことを示す。
図9図9は、腫瘍発生個体の腫瘍部位におけるp53の変異パターンをまとめたものである。Aは個体6、43、28のp53標的部位の塩基配列、Bは個体6、43、28のp53標的部位のアミノ酸配列を示す。網掛け部分は野生型と同じ塩基またはアミノ酸であることを示す。ハイフンは欠失を示す。Xは解析不能であったことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、1の態様において、変異型p53遺伝子であって、配列番号:1に示すアミノ酸配列の97位〜101位からなる領域(Pro−Gly−Thr−Tyr−Asn)またはそれに相当する領域において、1個〜5個のアミノ酸が欠失されている、他のアミノ酸に置換されている、および/または挿入されている変異型p53タンパク質をコードする遺伝子を提供する。なお、本明細書においてアミノ酸の標記は3文字法および1文字法を使用するが、いずれも当業者に公知である。
【0010】
様々な動物種のp53遺伝子およびp53タンパク質(本明細書において、これらのうち一方または両方を「p53」ということがある)が公知である。それらの塩基配列およびアミノ酸配列も公知である。p53は、生体ストレスから細胞を保護し、がんを防ぐ作用を有している。ヒトをはじめとする哺乳類、は虫類、両生類など、多くの動物のp53タンパク質のアミノ酸配列およびp53遺伝子の塩基配列が知られている。p53タンパク質は、N末端からC末端方向に、転写活性化ドメイン、プロリンリッチドメイン、DNA結合ドメイン、多量体化ドメインおよび転写抑制ドメインを含んでいる。
【0011】
このたび、本発明者らは、イモリのp53において、ヒトやマウスのp53においてはプロリンリッチドメインとDNA結合ドメインの境界領域に相当する領域(以下、「プロリンリッチドメインとDNA結合ドメインの境界領域」という)が、がんの原因となる変異のホットスポットであることを明らかにした。これまで、がんの原因となるp53の変異について、DNA結合ドメイン内の特定の領域がホットスポットであるという報告が多く、上記領域の変異は注目されていなかった。
【0012】
変異型p53タンパク質は、野生型p53タンパク質のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を有するタンパク質をいう。変異型p53遺伝子は、野生型p53遺伝子の塩基配列とは異なる塩基配列を有する遺伝子をいう。変異型p53遺伝子は、変異型p53タンパク質をコードする。本発明の変異型p53タンパク質は、以下に説明する領域において1個〜5個のアミノ酸の欠失、置換および/または挿入を有するアミノ酸配列を有するタンパク質である。本発明の変異型p53遺伝子は、本発明の変異型p53タンパク質をコードする。1個〜5個とは、1個、2個、3個、4個または5個を意味する。
【0013】
イモリの野生型p53タンパク質のアミノ酸配列を配列番号:1に示す。イモリの野生型p53遺伝子の塩基配列を配列番号:2に示す。本発明の変異型p53タンパク質の例は、配列番号:1のアミノ酸配列中の97位〜101位のアミノ酸からなる領域(Pro−Gly−Thr−Tyr−Asn、本明細書においてPGTYN配列ともいう)において1個〜5個のアミノ酸が欠失されている、他のアミノ酸に置換されている、および/または挿入されているアミノ酸配列を有するp53タンパク質である。この領域は、イモリのp53のプロリンリッチドメインとDNA結合ドメインの境界領域である。例えば、イモリのp53タンパク質のアミノ酸配列中のPGTYN配列においてTYが欠失したアミノ酸配列を有するイモリのp53タンパク質は、本発明の変異型p53タンパク質に含まれる。
【0014】
本発明の変異型p53タンパク質のさらなる例は、イモリ以外の動物のp53タンパク質中のPGTYN配列に相当する領域において、1個〜5個のアミノ酸が欠失または他のアミノ酸に置換されている、イモリ以外の動物の変異型p53タンパク質である。例えば、マウスp53タンパク質では、PGTYN配列に相当する領域のアミノ酸配列はQGNYGである(図1参照)。したがって、QGNYG配列において1個〜5個のアミノ酸が欠失または他のアミノ酸に置換されている、マウスのp53タンパク質は、本発明の変異型p53タンパク質に含まれる。PGTYN配列に相当する領域は、イモリのp53タンパク質のアミノ酸配列と他の動物のp53タンパク質のアミノ酸配列をアラインメントすることにより同定することができる。アラインメントはBLASTPなどの公知の手段を用いて行うことができる。
【0015】
PGTYN配列またはそれに相当する領域におけるアミノ酸欠失は、連続したアミノ酸が欠失されてもよく、とびとびのアミノ酸が欠失されてもよい。PGTYN配列におけるアミノ酸欠失の場合は、例えばPGTYN配列の5個すべてのアミノ酸の欠失、PGTYの欠失、GTYNの欠失、GTYの欠失、TYNの欠失、PGの欠失、TYの欠失、Tの欠失、Yの欠失、PおよびTYNの欠失、P、TおよびNの欠失、PおよびTYの欠失、GおよびYの欠失などが挙げられるが、これらに限定されない。PGTYN配列またはそれに相当する領域において、少なくともTYまたはそれに相当するアミノ酸が欠失することが好ましい。
【0016】
PGTYN配列またはそれに相当する領域におけるアミノ酸置換は、連続したアミノ酸が置換されてもよく、とびとびのアミノ酸が置換されてもよい。PGTYN配列におけるアミノ酸置換の場合は、例えばPGTYN配列の5個すべてのアミノ酸の置換、PGTYの置換、GTYNの置換、GTYの置換、TYNの置換、PGの置換、TYの置換、Tの置換、Yの置換、PおよびTYNの置換、P、TおよびNの置換、PおよびTYの置換、GおよびYの置換などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
PGTYN配列またはそれに相当する領域中の1箇所にアミノ酸が挿入されていてもよく、2箇所以上に挿アミノ酸が挿入されていてもよい。PGTYN配列におけるアミノ酸挿入の場合は、例えば任意のアミノ酸XがTとYの間に挿入されていてもよく、YとNの間に挿入されていてもよい。また例えば任意の2つのアミノ酸XYがPとGの間に挿入されていてもよく、GとTの間に挿入されていてもよい。また例えば任意のアミノ酸X、YがPXGTXYNのように挿入されていてもよい。
【0018】
PGTYN配列またはそれに相当する領域において、アミノ酸の欠失のみが生じてもよく、アミノ酸の置換のみが生じてもよく、あるいはアミノ酸の挿入のみが生じてもよい。さらに、PGTYN配列またはそれに相当する領域において、アミノ酸の欠失、置換、挿入のうち2つまたは3つの組み合わせが生じてもよい。
【0019】
本発明の変異型p53タンパク質は、PGTYN配列またはそれに相当する領域以外の位置または領域において1個ないし複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、付加または修飾されていてもよい。タンパク質中のアミノ酸の欠失、置換、挿入、付加および修飾は公知である。例えば、配列番号:1に示すアミノ酸配列のPGTYN配列中のTYを欠失している変異型p53タンパク質という場合、該変異体p53タンパク質は少なくとも上記TYが欠失していればよく、配列番号:1の上記以外の位置において1個ないし複数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入、付加または修飾をさらに有していてもよい。
【0020】
本発明の変異型p53遺伝子は公知の方法により調製することができる。部位特異的変異導入法とPCRとの組み合わせによって本発明の変異型p53遺伝子を得てもよく、あるいはZFN、TALENあるいはCRISPR/Cas9を用いるゲノム編集技術を用いてp53遺伝子改変動物を得て、該動物から本発明の変異型p53遺伝子をクローニングしてもよい。本発明の変異型p53遺伝子の調製方法は上記方法に限定されない。本発明において、変異型p53遺伝子という場合、2本鎖DNAの形状のもののほか、そのセンス鎖およびそのアンチセンス鎖をいうこともある。
【0021】
本発明は、もう1つの態様において、本発明の変異体p53遺伝子の産物を提供する。本発明の変異体p53遺伝子の産物は、そこから転写されるmRNAなどのRNA、および該mRNAから翻訳されるタンパク質を包含する。
【0022】
本発明は、さらなる態様において、非ヒト動物のp53遺伝子を改変して、該動物が本発明の変異型p53遺伝子を発現、あるいはその産物を産生するようにすることを含む、非ヒト腫瘍モデル動物の製造方法を提供する。
【0023】
本明細書において、「非ヒト腫瘍モデル動物」は、野生型よりも腫瘍化が起こりやすいヒト以外の動物である。非ヒト腫瘍モデル動物は、通常の飼育下において腫瘍を発生させる動物、ならびに化学物質投与や放射線照射、特定の飼料を与える、炎症を引き起こすなどの実験的操作により腫瘍を誘発する動物を包含する。本発明の非ヒト腫瘍モデル動物の動物種はヒト以外のいずれの動物であってもよく、イモリ、カエルなどの両生類、トカゲ、ヤモリなどのは虫類、ニワトリ、ウズラなどの鳥類、メダカなどの魚類、ショウジョウバエ、カイコなどの昆虫、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギなどの哺乳類が例示されるが、これらに限定されない。本発明の非ヒト腫瘍モデル動物の好ましい動物種の例としてはイモリ、カエルなどの両生類、トカゲ、ヤモリなどのは虫類、メダカなどの魚類、マウス、ラットなどの哺乳類が挙げられるが、これらに限定されない。発生させる腫瘍の数は1個〜複数個であり、特に限定されない。腫瘍の発生部位はいずれの部位であってもよい。腫瘍は良性、悪性いずれであってもよい。腫瘍のタイプも固形腫瘍、血液腫瘍、脳神経腫瘍など、いずれのタイプであってもよい。腫瘍の発生時期も幼生期、成熟期など、いずれの時期であってもよい。
【0024】
例えばゲノム編集技術などの公知の手法を用いて非ヒト動物のp53遺伝子を改変し、本発明の変異体p53遺伝子を発現させ、あるいは該遺伝子の産物を産生させることにより、本発明の非ヒト腫瘍モデル動物を作成することができる。ゲノム編集技術を用いる場合、PGTYN配列またはそれに相当するアミノ酸配列をコードするp53遺伝子の領域を標的とした人工酵素(ZFN、TALEN、CRISPR/Cas9など)をDNA、RNAまたはタンパク質の状態で受精卵に注入し、仮親に移植する(動物種によっては孵化させる)ことにより、腫瘍モデル動物を作出してもよい。当業者は、公知の方法を利用して、作出した動物が該遺伝子を発現、あるいはその産物を産生しているかどうかを確認することができる。作出した動物から組織試料を得て、試料中のp53遺伝子をクローニングして塩基配列を調べてもよく、あるいは遺伝子チップを用いて試料中の変異体p53遺伝子を検出してもよい。さらに、動物の外観や動物由来の試料について、動物が実際に腫瘍を有しているかどうかを肉眼(裸眼、ルーペ、顕微鏡)で観察してもよい。
【0025】
本発明は、さらなる態様において、本発明の非ヒト腫瘍モデル動物を交雑させることを含む、非ヒト腫瘍モデル動物の製造方法を提供する。とりわけ、イモリ、カエルなどの両生類、トカゲ、ヤモリなどのは虫類の場合、多くの卵が得られるため、腫瘍モデル動物を大量に得ることができる。
【0026】
本発明は、さらなる態様において、本発明の変異型p53遺伝子を発現、あるいはその産物を産生する細胞を提供する。該細胞は、いずれの動物の細胞であってもよい。当業者は、公知の方法を用いて該細胞を製造することができる。例えば、ゲノム編集技術を用いて該細胞を作製してもよく、ベクター、PEG、パーティクルガンなどの公知の方法を用いて本発明の変異型p53遺伝子を導入することにより該細胞を作成してもよい。本発明の非ヒト腫瘍モデル動物から単離することにより該細胞を得てもよい。該細胞を公知の方法を用いて培養することができる。該細胞の増殖に及ぼす影響を調べることにより抗腫瘍剤のスクリーニングを行ってもよい。培養した該細胞を移植した動物を用いて、例えば腫瘍発生に関する研究、抗腫瘍剤の開発を行ってもよい。
【実施例1】
【0027】
(1)イモリにおけるp53遺伝子改変による腫瘍誘発
TALEN法を用いてp53遺伝子を改変した。イモリp53遺伝子のプロリンリッチドメインとDNA結合ドメインの境界領域を標的としたTALENを設計し、その塩基配列に対応したmRNAを、イベリアトゲイモリの受精卵にマイクロインジェクションすることにより、p53遺伝子が改変されたイモリ10個体(F0世代)を得た。その次世代25個体(F1世代)も得た。これらの個体を経過観察し、10個体において腫瘍の発生を確認した。腫瘍発生時の月齢は生後11ヶ月以降であった。腫瘍あるいは腫瘍化が強く疑われるような異常が発生した部位や組織は膀胱、側腹部、尾部先端部、尾部中央部、背中、肝臓などであった(図2)。
【0028】
(2)腫瘍組織Lysateの調製
腫瘍組織の一部を採取した後、Lysateバッファー(65mM Tris−Cl pH8.8,16.6mM(NHSO,1mM 2−ME,6.7μM EDTA,0.5% Triton X−100/滅菌水)に1/300量の20mg/ml プロテイナーゼKを加えた溶液中で溶解し、Lysateを調製した。
【0029】
(3)遺伝子クローニングおよびサンガー法による配列決定
上の(2)で得られた腫瘍組織Lysateを鋳型にp53遺伝子のプロリンリッチドメインとDNA結合ドメインの境界領域を増幅するプライマーを用いてPCRを行った(1st PCR)。次に、1st PCR産物を鋳型にIn Fusionクローニングに必要な配列を付加したプライマーを用いて増幅を行った(2nd PCR)。このPCR産物をインサートとし、ベクターとライゲーションした後、大腸菌においてトランスフォーメーションを起こさせた。得られた大腸菌をLBプレートに播種し、一晩37℃でインキュベートした。コロニーPCRによって、インサートの挿入が確認された任意のコロニーを、LB液体培地を用いて37℃で一晩振とう培養した。翌日、それぞれのクローンからNucleoSpin Plasmid EasyPureを使用してプラスミドを抽出し、これを鋳型にBig Dye反応系を用いたシークエンシングを行った。
【0030】
(4)p53の変異パターン
サンガー法によりp53遺伝子の塩基配列を調べ、変異部位のアミノ酸配列を決定した。腫瘍が発生した3つの個体(個体28、6および43、いずれもF0世代)のp53の標的部位(プロリンリッチドメインとDNA結合ドメインの境界領域)の塩基配列を図3図5図7に、アミノ酸配列を図4図6図8にそれぞれ示す。個体28のp53の変異パターンは、2アミノ酸欠失(6塩基欠失)および5アミノ酸欠失(15塩基欠失)の2パターンであった。個体6のp53の変異パターンは、4塩基欠失(フレームシフト変異)および6アミノ酸欠失(18塩基欠失)の2パターンであった。個体43のp53の変異パターンは、4アミノ酸欠失(12塩基欠失)および13塩基欠失(フレームシフト変異)の2パターンであった。変異のパターンを図9にまとめた。なお、個体43についてはPGTYN配列中のアミノ酸が置換されているサンプルもあった(図8、リードナンバー16および17)。
【0031】
個体6および43のp53の変異は「フレームシフト変異(ナンセンス変異)」と「数アミノ酸欠失」の2パターンに限定されていたが、個体28では2パターンとも「数アミノ酸欠失」の変異に限定されていた(図9A)。「数アミノ酸欠失」のみの変異でも腫瘍が形成されたことから、「フレームシフト変異(ナンセンス変異)」は腫瘍の形成には関与しておらず、「数アミノ酸欠失」が腫瘍形成の原因であると考えられた。さらに、3個体それぞれのアミノ酸欠失パターンに注目すると、共通の欠失パターンがあることが分かった。個体6はPGTYNF欠失、個体43はPGTY欠失、個体28はTY欠失とPGTYN欠失であり、全てにおいてTYが欠失していた(図9B)。以上のことより、腫瘍が発生するためにはp53遺伝子にTY欠失を含む変異が入る必要があるということが示唆された。また、個体6および43はTYを含む欠失が片側アレルのみであったが腫瘍が発生した。フレームシフト変異が腫瘍形成に関与しないことを踏まえると、少なくとも片側アレルにTY欠失を含む変異が入っていれば、腫瘍が発生すると考えられた。
上記3個体のほかに、腫瘍を発生した個体16について次世代シークエンサーによる解析を行った。変異のパターンはTY欠失とフレームシフト変異の2種類であった。
これらの結果から、腫瘍形成には、プロリンリッチドメインとDNA結合ドメインの境界領域の数アミノ酸が欠失した型のp53が関与していることが示された。さらに、個体43についてはPGTYN配列中にアミノ酸置換が見られるサンプルがあったことから、プロリンリッチドメインとDNA結合ドメインの境界領域のアミノ酸置換も腫瘍形成に関与していると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、腫瘍やがんの発生の研究、抗がん剤の開発等に有用である。したがって、本発明は、生物学や医学の研究分野、および製薬分野などにおいて有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0033】
配列番号:1はイベリアトゲイモリの野生型p53タンパク質のアミノ酸配列を示す。
配列番号:2はイベリアトゲイモリの野生型p53遺伝子の塩基配列を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]