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特開2020-161455リチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-161455(P2020-161455A)
(43)【公開日】2020年10月1日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20200904BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20200904BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20200904BHJP
【FI】
   H01M4/58
   H01M4/36 C
   C01B25/45 Z
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2019-63055(P2019-63055)
(22)【出願日】2019年3月28日
(11)【特許番号】特許第6604451号(P6604451)
(45)【特許公報発行日】2019年11月13日
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100206999
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】小山 将隆
(72)【発明者】
【氏名】野添 勉
(72)【発明者】
【氏名】中別府 哲也
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050FA18
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】充放電末期の入出力特性に優れるリチウムイオン二次電池用正極材料、そのリチウムイオン二次電池用正極材料を含有するリチウムイオン二次電池用正極、および、そのリチウムイオン二次電池用正極を備えたリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料は、LiPOで表わされる中心粒子と、中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含み、走査型電子顕微鏡で撮影され、かつ、全面に隙間なく正極材料粒子が撮像された写真の中で、無作為に選択された横6.0μm×縦4.5μmの範囲を1視野としたとき、結晶子径の10倍以上の長径を有する正極活物質一次粒子が20視野当たり8個以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式LiFe1−y−zPO(但し、AはMn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種、MはMg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.85≦x≦1.1、0≦y≦0.85、0≦z≦0.2)で表わされる中心粒子と、前記中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含み、
表面炭素量が60mg/m以上かつ150mg/m以下、
結晶子径が60nm以上かつ100nm以下、
ラマンスペクトル分析の1580±50cm−1の波数帯域におけるスペクトルのピーク強度(I1580)の1360±50cm−1の波数帯域におけるスペクトルのピーク強度(I1360)に対する比であるR値(I1580/I1360)が0.80以上かつ1.10以下、
走査型電子顕微鏡で撮影され、かつ、全面に隙間なく正極材料粒子が撮像された写真の中で、無作為に選択された横6.0μm×縦4.5μmの範囲を1視野としたとき、結晶子径の10倍以上の長径を有する正極活物質一次粒子が20視野当たり8個以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項2】
前記結晶子径の10倍以上の長径を有する正極活物質一次粒子が20視野当たり2個以下であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項3】
前記結晶子径の10倍以上の長径を有する正極活物質一次粒子を含まないことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項4】
前記表面炭素量が70mg/m以上かつ120mg/m以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項5】
前記R値(I1580/I1360)が0.80以上かつ1.00以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項6】
前記結晶子径が70nm以上かつ90nm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項7】
前記中心粒子がLiFePOからなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項8】
電極集電体と、該電極集電体上に形成された正極合剤層と、を備えたリチウムイオン二次電池用正極であって、
前記正極合剤層は、請求項1〜7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項9】
正極、負極および非水電解質を有するリチウムイオン二次電池であって、
前記正極が、請求項8に記載のリチウムイオン二次電池用正極であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、小型化、軽量化、高容量化が期待される電池として、リチウムイオン二次電池等の非水電解液系の二次電池が提案され、実用に供されている。リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な性質を有する正極および負極と、非水系の電解質とから構成されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の正極は、正極材料およびバインダー等を含む正極材料合剤で形成されている。正極材料としては、例えば、正極活物質粒子と、正極活物質粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含むものが用いられている(例えば、特許文献1参照)。炭素質被膜は、正極活物質の前駆体と炭素質被膜源となる有機化合物とを含むスラリーを乾燥して得た混合物を焼成することにより、正極活物質の表面に形成される。
【0004】
上記の焼成工程において、炭素質被膜源となる有機化合物の配合量を増量することで、正極活物質の一次粒子表面および正極活物質の一次粒子間における炭素を介した電子伝導パス数を増やすことができる。また、上記の混合物を高温で焼成することによって、結晶性が高く電子伝導性に優れた炭素質被膜を形成して、リチウイオン二次電池の正極内部における炭素を介した電子伝導速度を向上し、入出力特性に優れたリチウムイオン二次電池を実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−004371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、炭素質被膜源となる有機化合物の配合量が多い環境下にて、上記の混合物を高温で焼成すると、正極活物質の一次粒子が微細である場合、その一次粒子の表面が、厚い炭素質被膜で覆われた状態となる。すると、表面エネルギーを小さくするために一次粒子間で焼結しようとする力が働く結果、一部の炭素被覆量が少ない正極活物質粒子に対してのみ集中して焼結が進行するため、異常に粗大な一次粒子(異常成長粒子)が生成する。この異常成長粒子が正極材料に含まれると、充放電初期の入出力特性がよくても、充放電末期では微細な粒子はほとんど反応が終わっているため、粗大な粒子のみで電流を取り出さなくてはならなくなる。そのため、充放電末期に正極の抵抗が大きく増大するという課題があった。充放電末期の入出力特性を改善する手法としては、正極活物質の一次粒子の微細化、導電性炭素の増量、有機化合物の焼成温度を高温化することによる炭素導電性の向上等が挙げられる。しかしながら、全ての手法を採用すると、有機化合物の焼成時に異常に粒成長した粒子が一部生成してしまい、充放電末期の入出力特性が悪化する。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、高導電性炭素を多く保持し、充放電末期の入出力特性に優れるリチウムイオン二次電池用正極材料、そのリチウムイオン二次電池用正極材料を含有するリチウムイオン二次電池用正極、および、そのリチウムイオン二次電池用正極を備えたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、一般式LiFe1−y−zPO(但し、AはMn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種、MはMg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.85≦x≦1.1、0≦y≦0.85、0≦z≦0.2)で表わされる中心粒子と、前記中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含み、表面炭素量が60mg/m以上かつ150mg/m以下、結晶子径が60nm以上かつ100nm以下、ラマンスペクトル分析の1580±50cm−1の波数帯域におけるスペクトルのピーク強度(I1580)の1360±50cm−1の波数帯域におけるスペクトルのピーク強度(I1360)に対する比であるR値(I1580/I1360)が0.80以上かつ1.10以下、走査型電子顕微鏡で撮影され、かつ、全面に隙間なく正極材料粒子が撮像された写真の中で、無作為に選択された横6.0μm×縦4.5μmの範囲を1視野としたとき、結晶子径の10倍以上の長径を有する正極活物質一次粒子が20視野当たり8個以下であるリチウムイオン二次電池用正極材料をリチウムイオン二次電池の正極に用いることで、充放電末期の入出力特性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料は、一般式LiFe1−y−zPO(但し、AはMn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種、MはMg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.85≦x≦1.1、0≦y≦0.85、0≦z≦0.2)で表わされる中心粒子と、前記中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含み、表面炭素量が60mg/m以上かつ150mg/m以下、結晶子径が60nm以上かつ100nm以下、ラマンスペクトル分析の1580±50cm−1の波数帯域におけるスペクトルのピーク強度(I1580)の1360±50cm−1の波数帯域におけるスペクトルのピーク強度(I1360)に対する比であるR値(I1580/I1360)が0.80以上かつ1.10以下、走査型電子顕微鏡で撮影され、かつ、全面に隙間なく正極材料粒子が撮像された写真の中で、無作為に選択された横6.0μm×縦4.5μmの範囲を1視野としたとき、結晶子径の10倍以上の長径を有する正極活物質一次粒子が20視野当たり8個以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極は、電極集電体と、該電極集電体上に形成された正極合剤層と、を備えたリチウムイオン二次電池用正極であって、前記正極合剤層は、本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有することを特徴とする。
【0011】
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極および非水電解質を有するリチウムイオン二次電池であって、前記正極が、本発明のリチウムイオン二次電池用正極であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料によれば、リチウムイオン二次電池の正極として用いたときに、充放電末期の入出力特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができるリチウムイオン二次電池用正極材料を得ることができる。
【0013】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極によれば、本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有しているため、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極を用いたリチウムイオン二次電池は、充放電末期の入出力特性に優れる。
【0014】
本発明のリチウムイオン二次電池によれば、正極として、本発明のリチウムイオン二次電池用正極を備えているため、充放電末期の入出力特性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1および比較例1における充放電試験時の電流値2C充電曲線を示す図である。
図2】実施例1におけるリチウムイオン二次電池用正極材料粒子の走査型電子顕微鏡像である。
図3】比較例1におけるリチウムイオン二次電池用正極材料粒子の走査型電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0017】
[リチウムイオン二次電池用正極材料]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料は、一般式LiFe1−y−zPO(但し、AはMn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種、MはMg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.85≦x≦1.1、0≦y≦0.85、0≦z≦0.2)で表わされる中心粒子と、前記中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含み、表面炭素量が60mg/m以上かつ150mg/m以下、結晶子径が60nm以上かつ100nm以下、ラマンスペクトル分析の1580±50cm−1の波数帯域におけるスペクトルのピーク強度(I1580)の1360±50cm−1の波数帯域におけるスペクトルのピーク強度(I1360)に対する比であるR値(I1580/I1360)が0.80以上かつ1.10以下、走査型電子顕微鏡で撮影され、かつ、全面に隙間なく正極材料粒子が撮像された写真の中で、無作為に選択された横6.0μm×縦4.5μmの範囲を1視野としたとき、結晶子径の10倍以上の長径を有する正極活物質一次粒子が20視野当たり8個以下である。
【0018】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料は、ラマンスペクトル分析の1580±50cm−1の波数帯域におけるスペクトルのピーク強度(I1580)の1360±50cm−1の波数帯域におけるスペクトルのピーク強度(I1360)に対する比であるR値(I1580/I1360)が0.80以上かつ1.10以下であり、0.80以上かつ1.00以下であることが好ましい。
【0019】
ここで、ラマン分光スペクトル分析で測定される1580cm−1を中心としたピークは、黒鉛の六角網面が規則正しく積層された状態を示すピークと、有機半導体由来のピークが重なっている。炭化度が進行するほど有機半導体由来のピーク強度が減少していくため、1580cm−1を中心としたピーク強度は炭化の進行に伴い減少する。一方、1360cm−1を中心としたピークは、黒鉛の六角網面の積層の崩れを示すとされている。これにより、上記のR値が0.80以上であると、炭素質被膜が黒鉛の六角網面の積層の乱れを適度に有することで、炭素質被膜中をリチウムが容易に移動しやすい。一方、上記のR値が1.10以下であると、炭素質被膜中の炭化度が充分に進行することで、リチウムイオン二次電池用正極材料として必要な電子伝導性を担保することができる。
【0020】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料は、走査型電子顕微鏡で撮影され、かつ、全面に隙間なく正極材料粒子が撮像された写真の中で、無作為に選択された横6.0μm×縦4.5μmの範囲を1視野としたとき、結晶子径の10倍以上の長径を有する正極活物質一次粒子が20視野当たり8個以下であり、2個以下であることが好ましく、0個、すなわち、結晶子径の10倍以上の長径を有する正極活物質一次粒子を含まないことがより好ましい。
上述の結晶子径の10倍以上の長径を有する正極活物質一次粒子が20視野当たり8個を超えると、充放電末期に異常成長粒子から電流を無理に引き出す頻度が少なくなるため、充放電末期の入出力特性が向上する。
また、結晶子径の10倍以上の長径を有する正極活物質一次粒子が20視野当たり8個以下であり、2個以下であれば、充放電末期に異常成長粒子から電流を無理に引き出す頻度が非常に少なくなるため、充放電末期の入出力特性がより向上する。
さらに、結晶子径の10倍以上の長径を有する正極活物質一次粒子を含まなければ、充放電末期に異常成長粒子から電流を引き出す必要がなく、微細な粒子からのみ電流を引き出すことができるため、充放電末期の入出力特性が著しく向上する。
なお、ここで正極材料粒子とは、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料の粒子のことである。
【0021】
以下、走査型電子顕微鏡による本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料の観察方法について説明する。
走査型電子顕微鏡はどのような機種を用いてもよいが、正極活物質一次粒子の輪郭がはっきりと目視できることができる高性能な機種が好ましい。また、試料は白金やカーボン等の蒸着で導電化してもよく、導電化しなくてもよい。しかしながら、正極活物質一次粒子の導電性が低い場合には、チャージアップで正極活物質一次粒子の輪郭がぼやけるのを防ぐために、白金やカーボン等で蒸着することが好ましい。撮影倍率は、映像として出力される撮像範囲が横6.0μm×縦4.5μm以上であればどのような撮影倍率でもよいが、正極活物質一次粒子の長径をできる限り正確に測定するために、撮像範囲が横6.0μm×縦4.5μmにできる限り近い撮影倍率が好ましい。結晶子径の10倍以上の長径を有する正極活物質一次粒子数を判断するための横6.0μm×縦4.5μmの1領域は無作為に選択され、かつ、横6.0μm×縦4.5μmの1領域内は正極活物質一次粒子で敷き詰められ、下地を含まない領域とする。
【0022】
「正極材料粒子」
正極材料粒子(リチウムイオン二次電池用正極材料の粒子)は、一般式LiFe1−y−zPO(但し、AはMn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種、MはMg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.85≦x≦1.1、0≦y≦0.85、0≦z≦0.2)で表わされる中心粒子と、その中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含む。正極材料粒子は、炭素質被膜で被覆された中心粒子(一次粒子)が凝集した二次粒子である。
【0023】
正極材料粒子の結晶子径は、60nm以上かつ100nm以下であり、70nm以上かつ90nm以下であることが好ましい。
正極材料粒子の結晶子径が60nm未満では、正極材料粒子の比表面積が増えることで必要になる炭素の質量が増加し、リチウムイオン二次電池の充放電容量が低減する。一方、正極材料粒子の結晶子径が100nmを超えると、正極材料粒子内でのリチウムイオンの移動または電子の移動にかかる時間が長くなる。そのため、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が増加して入出力特性が悪化する。
また、正極材料粒子の結晶子径が70nm以上であれば、異常粒子成長が生じ難く、充放電末期の入出力特性が向上するので好ましい。一方、正極材料粒子の結晶子径が90nm以下であれば、正極材料粒子内でのリチウムイオンの移動または電子の移動にかかる時間が短くなり、入出力特性が向上するので好ましい。
【0024】
ここで、正極材料粒子の結晶子径は、X線回折測定により測定した粉末X線回折図形の(020)面の回折ピークの半値幅、および回折角(2θ)を用いて、シェラーの式により算出される。
【0025】
正極材料粒子における表面炭素量、すなわち、中心粒子の表面における炭素量は、60mg/m以上かつ150mg/m以下であり、70mg/m以上かつ120mg/m以下であることが好ましい。
表面炭素量が60mg/m未満では、正極材料粒子間の電子伝導速度が不十分となるため、リチウムイオン二次電池の高速充放電レートにおける放電容量が低くなり、充分な充放電レート性能を実現することができない。一方、表面炭素量が150mg/mを超えると、電気化学的に不活性な物質の重量比率が大きくなるため、正極材料粒子の単位質量当たりのリチウムイオン二次電池の電池容量が必要以上に低下する。
また、表面炭素量が70mg/m以上であれば、正極材料粒子間の電子伝導速度が電池として使用する際の電流速度に十分応答できるレベルとなるので、入出力特性が向上する。一方、表面炭素量が120mg/m以下であれば、正極活物質一次粒子を過剰に炭素で覆ってしまうことによる焼成時の異常粒成長を抑制できるので、入出力特性が向上する。
【0026】
正極材料粒子における表面炭素量は、炭素分析計(炭素硫黄分析装置:EMIA−810W(商品名)、堀場製作所社製)を用いて測定される炭素量[g/g]、および比表面積計を用いて、窒素(N)吸着によるBET法により測定される比表面積[m/g]から下記の式(1)を用いて算出される。
表面炭素量[g/m]=炭素量[g/g]/比表面積[m/g] (1)
【0027】
正極材料粒子の比表面積は、6.0m/g以上かつ30.0m/g以下であることが好ましく、8.0m/g以上かつ25.0m/g以下であることがより好ましい。
比表面積が6.0m/g以上であると、正極材料粒子の粗大化を抑制して、その粒子内におけるリチウムの拡散速度を速くすることができる。これにより、リチウムイオン二次電池の電池特性を改善することができる。一方、比表面積が30.0m/g以下であると、正極内の空隙を少なくすることができ、体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0028】
正極材料粒子の比表面積は、比表面積計を用いて、窒素(N)吸着によるBET法により測定される。
【0029】
(中心粒子)
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を構成する中心粒子は、一般式LiFe1−y−zPO(但し、AはMn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種、MはMg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.85≦x≦1.1、0≦y≦0.85、0≦z≦0.2)で表わされる正極活物質からなる。
なお、希土類元素とは、ランタン系列であるLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの15元素のことである。
【0030】
LiFe1−y−zPOにおいて、0.85≦x≦1.1、0≦y≦0.85、0≦z≦0.2を満たす正極活物質であることが、高放電容量、高エネルギー密度の観点から好ましい。
【0031】
Aについては、MnもしくはCoが、Mについては、Mg、Ca、Co、Ti、Zn、Alが、高い放電電位、高い安全性を実現可能な正極合剤層とすることができる点から好ましい。
【0032】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を構成する中心粒子(一次粒子)の平均粒子径は、30nm以上かつ200nm以下であることが好ましく、40nm以上かつ150nm以下であることがより好ましい。
中心粒子(一次粒子)の平均粒子径が30nm以上であれば、正極内の空隙を少なくすることができ、体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。一方、中心粒子(一次粒子)の平均粒子径が200nm以下であれば、正極材料粒子の粗大化を抑制して、正極材料粒子内におけるリチウムの拡散速度を速くすることができる。これにより、リチウムイオン二次電池の電池特性を改善することができる。
【0033】
中心粒子の一次粒子の形状は特に限定されないが、球状、特に真球状の二次粒子からなる正極活物質を生成し易いことから、中心粒子の一次粒子の形状は球状であることが好ましい。
中心粒子の一次粒子の形状が球状であることで、リチウムイオン二次電池用正極材料と、バインダー樹脂(結着剤)と、溶剤とを混合して、正極材料ペーストを調製する際の溶剤量を低減することができる。また、中心粒子の一次粒子の形状が球状であることで、正極材料ペーストの電極集電体への塗工が容易となる。さらに、中心粒子の一次粒子の形状が球状であれば、中心粒子の一次粒子の表面積が最小となり、正極材料ペーストにおけるバインダー樹脂(結着剤)の配合量を最小限にすることができる。その結果、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を用いた正極の内部抵抗を小さくすることができる。また、中心粒子の一次粒子の形状が球状であれば、正極材料を最密充填し易くなるため、正極の単位体積当たりのリチウムイオン二次電池用正極材料の充填量が多くなる。その結果、正極密度を高くすることができ、高容量のリチウムイオン二次電池が得られる。
【0034】
ここで、中心粒子の一次粒子は、走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)観察により、無作為に測定した200個以上の結晶子の粒子径を個数平均することで求められる。
【0035】
(炭素質被膜)
炭素質被膜は、中心粒子の表面を被覆する。
中心粒子の表面を炭素質被膜で被覆することにより、リチウムイオン二次電池用正極材料の電子伝導性を向上させることができる。
【0036】
炭素質被膜の厚みは、0.2nm以上かつ10nm以下であることが好ましく、0.5nm以上かつ4nm以下であることがより好ましい。
炭素質被膜の厚みが0.2nm以上であると、炭素質被膜の厚みが薄すぎるために所望の抵抗値を有する膜を形成することができなくなることを抑制できる。そして、リチウムイオン二次電池用正極材料としての導電性を確保することができる。一方、炭素質被膜の厚みが10nm以下であると、リチウムイオン二次電池用正極材料の単位質量当たりの電池容量が低下することを抑制できる。
また、炭素質被膜の厚みが0.2nm以上かつ10nm以下であると、リチウムイオン二次電池用正極材料を最密充填し易くなるため、正極の単位体積当たりのリチウムイオン二次電池用正極材料の充填量が多くなる。その結果、正極密度を高くすることができ、高容量のリチウムイオン二次電池が得られる。
中心粒子に対する炭素質被膜の被覆率は60%以上かつ95%以下であることが好ましく、80%以上かつ95%以下であることがより好ましい。炭素質被膜の被覆率が60%以上であることで、炭素質被膜の被覆効果が十分に得られる。
【0037】
中心粒子の一次粒子における炭素被膜の膜厚は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)、エネルギー分散型X線分析装置(Energy Dispersive X−ray microanalyzer、EDX)等を用いて測定される。
【0038】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料によれば、高導電性炭素を多く保持するため、充放電末期の入出力特性に優れるリチウムイオン二次電池を実現することができる。
【0039】
[リチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法(以下、単に「正極材料の製造方法」と言うことがある。)は、一般式LiFe1−y−zPO(但し、AはMn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種、MはMg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.85≦x≦1.1、0≦y≦0.85、0≦z≦0.2)正極活物質からなる中心粒子を含むリチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法であり、リチウム塩、Feを含む金属塩、Aを含む化合物、Mを含む化合物およびリン酸化合物のうち、少なくともリチウム塩、Feを含む金属塩およびリン酸化合物を分散媒中に分散させて分散液を調製し、耐圧容器内で分散液を加熱し、正極活物質の前駆体を得る工程(A)と、正極活物質の前駆体に、炭素質被膜源となる有機化合物を添加して混合物を調製する工程(B)と、混合物を焼成鞘に入れて焼成する工程(C)とを含む。混合物を調製する工程(B)は、正極活物質の前駆体より熱伝導率が高い熱伝導補助物質をさらに添加して混合物を調製する工程である。あるいは、混合物を焼成する工程(C)は、正極活物質の前駆体より熱伝導率が高い熱伝導補助物質を混合物に添加した後、混合物を焼成する工程である。
【0040】
(工程(A))
本実施形態の正極材料の製造方法における工程(A)では、リチウム塩、Feを含む金属塩、Aを含む化合物、Mを含む化合物およびリン酸化合物のうち、少なくともリチウム塩、Feを含む金属塩およびリン酸化合物を分散媒中に分散させて分散液を調製し、耐圧容器内で分散液を加熱し、正極活物質の前駆体を得る。
【0041】
以下に示すモル比で、リチウム塩、Feを含む金属塩、Aを含む化合物、Mを含む化合物およびリン酸化合物を配合する。なお、リチウム塩、Feを含む金属塩およびリン酸化合物は必須の原料であり、Aを含む化合物およびMを含む化合物は所望により添加する原料である。Aは、Mn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種である。Mは、Mg、Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種である。
Li元素に換算したリチウム塩、Fe元素に換算したFeを含む金属塩、A元素に換算したAを含む化合物、M元素に換算したMを含む化合物およびリン元素に換算したリン酸化合物のモル比(Li:Fe:A:M:P)は、好ましくは1以上かつ4以下:0以上かつ1.5以下:0以上かつ1.5以下:0以上かつ0.2以下:1であり、より好ましくは2.5以上かつ3.5以下:0以上かつ1.1以下:0以上かつ1.1以下:0以上かつ0.1以下:1である。
【0042】
例えば、リチウム塩、Feを含む金属塩、Aを含む化合物、Mを含む化合物およびリン酸化合物を、水を主成分とする溶媒に投入し、撹拌および混合して分散液を調製する。
これらの原料を均一に混合する点を考慮すると、それぞれの原料の水溶液を調製し、それらの水溶液を混合することによって分散液を調製することが好ましい。
高純度であり、結晶性が高くかつ非常に微細な中心粒子を得る必要があることから、この分散液における原料のモル濃度は、1.1mol/L以上かつ2.2mol/L以下であることが好ましい。
【0043】
分散液の調製に用いられるリチウム塩としては、例えば、水酸化リチウム(LiOH)等の水酸化物;炭酸リチウム(LiCO)、塩化リチウム(LiCl)、硝酸リチウム(LiNO)、リン酸リチウム(LiPO)、リン酸水素二リチウム(LiHPO)およびリン酸二水素リチウム(LiHPO)等のリチウム無機酸塩;酢酸リチウム(LiCHCOO)、蓚酸リチウム((COOLi))等のリチウム有機酸塩;並びに、これらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
なお、リン酸リチウム(LiPO)は、分散液の調製用のリン酸化合物としても用いることができる。
【0044】
分散液の調製に用いられるFeを含む金属塩としては、例えば、塩化鉄(II)(FeCl)、硫酸鉄(II)(FeSO)および酢酸鉄(II)(Fe(CHCOO))等の鉄化合物またはその水和物;硝酸鉄(III)(Fe(NO)、塩化鉄(III)(FeCl)、クエン酸鉄(III)(FeC)等の3価の鉄化合物;並びにリン酸鉄リチウムからなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0045】
分散液の調製に用いられるAを含む化合物としては、Mn塩、Co塩およびNi塩からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0046】
Mn塩としては、例えば、塩化マンガン(II)(MnCl)、硫酸マンガン(II)(MnSO)、硝酸マンガン(II)(Mn(NO)、酢酸マンガン(II)(Mn(CHCOO))、および、これらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0047】
Co塩としては、例えば、塩化コバルト(II)(CoCl)、硫酸コバルト(II)(CoSO)、硝酸コバルト(II)(Co(NO)、酢酸コバルト(II)(Co(CHCOO))、および、これらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0048】
Ni塩としては、例えば、塩化ニッケル(II)(NiCl)、硫酸ニッケル(II)(NiSO)、硝酸ニッケル(II)(Ni(NO)、酢酸ニッケル(II)(Ni(CHCOO))、および、これらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0049】
分散液の調製に用いられるMを含む化合物としては、Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種の原料物質が好適に用いられる。
【0050】
Mgの原料物質としては、例えば、塩化マグネシウム(II)(MgCl)、硫酸マグネシウム(II)(MgSO)、硝酸マグネシウム(II)(Mg(NO)、酢酸マグネシウム(II)(Mg(CHCOO))、および、これらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0051】
Caの原料物質としては、例えば、塩化カルシウム(II)(CaCl)、硫酸カルシウム(II)(CaSO)、硝酸カルシウム(II)(Ca(NO)、酢酸カルシウム(II)(Ca(CHCOO))、および、これらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0052】
Coの原料物質しては、Co塩が好ましく、例えば、塩化コバルト(II)(CoCl)、硫酸コバルト(II)(CoSO)、硝酸コバルト(II)(Co(NO)、酢酸コバルト(II)(Co(CHCOO))、および、これらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0053】
Srの原料物質としては、例えば、炭酸ストロンチウム(SrCO)、硫酸ストロンチウム(SrSO)および水酸化ストロンチウム(Sr(OH))からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0054】
Baの原料物質としては、例えば、塩化バリウム(II)(BaCl)、硫酸バリウム(II)(BaSO)、硝酸バリウム(II)(Ba(NO)、酢酸バリウム(II)(Ba(CHCOO))、および、これらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0055】
Tiの原料物質としては、例えば、塩化チタン(TiCl、TiCl、TiCl)、酸化チタン(TiO)、および、これらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0056】
Znの原料物質としては、Zn塩が好ましく、例えば、塩化亜鉛(II)(ZnCl)、硫酸亜鉛(II)(ZnSO)、硝酸亜鉛(II)(Zn(NO)、酢酸亜鉛(II)(Zn(CHCOO))、および、これらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0057】
Bの原料物質としては、例えば、ホウ素の塩化物、ホウ素の硫酸化物、ホウ素の硝酸化物、ホウ素の酢酸化物、ホウ素の水酸化物およびホウ素の酸化物等のホウ素化合物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0058】
Alの原料物質としては、例えば、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウムおよび水酸化アルミニウム等のアルミニウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0059】
Gaの原料物質としては、例えば、塩化ガリウム、硫酸ガリウム、硝酸ガリウム、酢酸ガリウムおよび水酸化ガリウム等のガリウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0060】
Inの原料物質としては、例えば、塩化インジウム、硫酸インジウム、硝酸インジウム、酢酸インジウムおよび水酸化インジウム等のインジウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0061】
Siの原料物質としては、例えば、ケイ酸ナトリウムおよびケイ酸カリウム等のケイ酸塩、四塩化珪素(SiCl)、並びに有機ケイ素化合物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0062】
Geの原料物質としては、例えば、塩化ゲルマニウム、硫酸ゲルマニウム、硝酸ゲルマニウム、酢酸ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウムおよび酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0063】
希土類元素の原料物質としては、例えば、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの塩化物、硫酸化物、硝酸化物、酢酸化物、水酸化物および酸化物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0064】
分散液の調製に用いられるリン酸化合物として、例えば、オルトリン酸(HPO)およびメタリン酸(HPO)等のリン酸;リン酸二水素アンモニウム(NHPO)、リン酸水素二アンモニウム((NHHPO)、リン酸アンモニウム((NHPO)、リン酸リチウム(LiPO)、リン酸水素二リチウム(LiHPO)およびリン酸二水素リチウム(LiHPO)等のリン酸塩;並びに、これらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0065】
水を主成分とする溶媒とは、水単独、あるいは水を主成分とし必要に応じてアルコール等の水性溶媒を含む水系溶媒のいずれかである。
水性溶媒としては、リチウム塩、Feを含む金属塩、Aを含む金属塩、Mを含む金属塩、リン酸化合物を溶解させることのできる溶媒であればよく、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類等を挙げることができる。これらの水性溶媒は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0066】
上記の原料を溶媒に分散させる方法としては、上記の原料が溶媒に均一に分散する方法であれば、特に限定されない。
上記の原料を溶媒に分散させる装置としては、例えば、遊星ボールミル、振動ボールミル、ビーズミル、ペイントシェーカーおよびアトライタ等の媒体粒子を高速で攪拌する媒体攪拌型分散装置が好適に用いられる。
【0067】
次いで、調製した分散液を耐圧容器に入れ、所定の温度に加熱し、所定の時間反応させる(水熱反応)。
【0068】
この反応条件は、溶媒の種類または合成する物質に応じて適宜選択される。例えば、溶媒として水を用いる場合、加熱温度は、好ましくは80℃以上かつ374℃以下であり、より好ましくは100℃以上かつ350℃以下である。また、反応時間は、好ましくは30分以上かつ24時間以下であり、より好ましくは30分以上かつ5時間以下である。さらに、反応時の圧力は、好ましくは0.1MPa以上かつ22MPa以下であり、より好ましくは0.1MPa以上かつ17MPa以下である。
【0069】
その後、例えば、降温し得られた反応生成物を水洗することで、正極活物質の前駆体が得られる。
【0070】
(工程(B))
本実施形態の正極材料の製造方法における工程(B)では、上記の正極活物質の前駆体に、炭素質被膜源となる有機化合物を添加して混合物を調製する。
【0071】
正極活物質の前駆体に対する有機化合物の配合量は、この有機化合物の全質量を炭素元素に換算したとき、前駆体100質量部に対して、好ましくは0.15質量部以上15質量部以下であり、より好ましくは0.45質量部以上4.5質量部以下である。
前駆体に対する有機化合物の配合量が0.15質量部以上であると、この有機化合物を熱処理することにより生じる炭素質被膜の中心粒子の表面における被覆率を80%以上にすることができる。これにより、リチウムイオン二次電池の高速充放電レートにおける放電容量を高くすることができ、充分な充放電レート性能を実現できる。一方、前駆体に対する有機化合物の配合量が15質量部以下であると、相対的に活物質の配合比が低下してリチウムイオン二次電池の容量が低くなることを抑制できる。また、前駆体に対する有機化合物の配合量が15質量部以下であると、中心粒子に対する炭素質被膜の過剰な担持により、リチウムイオン二次電池用正極材料の嵩密度が高くなることを抑制できる。なお、リチウムイオン二次電池用正極材料の嵩密度が高くなると、電極密度が低下し、単位体積当たりのリチウムイオン二次電池の電池容量が低下する。
【0072】
混合物の調製に用いられる有機化合物として、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース、デンプン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニル、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、マルトース、スクロース、ラクトース、グリコーゲン、ペクチン、アルギン酸、グルコマンナン、キチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン、アガロース、ポリエーテルおよび多価アルコール等からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
多価アルコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリンおよびグリセリン等が挙げられる。
【0073】
例えば、上記の正極活物質の前駆体と炭素質被膜源となる有機化合物とを溶媒に投入し、前駆体と有機化合物とを溶媒に分散させて、スラリーを調製してもよい。そして、そのスラリーを乾燥することによって、混合物を得てもよい。
【0074】
上記の溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノールおよびジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートおよびγ−ブチロラクトン等のエステル類;ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテルおよびジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトンおよびシクロヘキサノン等のケトン類;ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミドおよびN−メチルピロリドン等のアミド類;並びにエチレングリコール、ジエチレングリコールおよびプロピレングリコール等のグリコール類等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの溶媒の中で、好ましい溶媒は水である。
【0075】
上記のスラリーを調製するとき、必要に応じて分散剤を添加してもよい。
【0076】
前駆体と有機化合物とを、溶媒に分散させる方法としては、前駆体が均一に分散し、かつ有機化合物が溶解または分散する方法であれば、特に限定されない。このような分散に使用する装置としては、例えば、遊星ボールミル、振動ボールミル、ビーズミル、ペイントシェーカー、アトライタ等の媒体粒子を高速で攪拌する媒体攪拌型分散装置が挙げられる。
【0077】
噴霧熱分解法を用いて、上記のスラリーを高温雰囲気中、例えば、110℃以上かつ200℃以下の大気中に噴霧し、乾燥して、混合物の造粒体を生成してもよい。
この噴霧熱分解法では、速やかに乾燥して略球状の造粒体を生成するためには、噴霧の際の液滴の粒子径は、0.01μm以上かつ100μm以下であることが好ましい。
【0078】
(工程(C))
本実施形態の正極材料の製造方法における工程(C)では、混合物を焼成容器に入れて焼成する。
【0079】
焼成容器としては、例えば、カーボン等の熱伝導性に優れる物質からなる焼成容器が好適に用いられる。
TOP温度は、好ましくは700℃以上かつ850℃以下であり、より好ましくは720℃以上かつ830℃以下ある。
TOP温度が700℃以上であると、炭素の結晶化が進行するため、正極活物質一次粒子表面の炭素の電子伝導性を向上することができる。一方、TOP温度が850℃以下であると、混合物の一部が炭素で還元されて純鉄、酸化鉄、リン化鉄等の低価数鉄系不純物が生成してしまうことを抑制できる。
【0080】
TOP温度保持時間は、60分未満が好ましく、30分未満がより好ましい。TOP温度保持時間が60分未満であると、一部の炭素被覆量が少ない正極活物質粒子に対してのみ集中して焼結が進行することによる、異常に粗大な一次粒子(異常成長粒子)の生成を抑制することができる。
【0081】
TOP温度で保持する前に、中間温度保持を加えることが好ましい。中間保持温度は、500℃以上かつ600℃以下であることが好ましい。中間保持温度を500℃以上とすることで、有機化合物が十分に分解し、かつ、炭素の結晶化が進行し、正極活物質一次粒子表面の炭素の電子伝導性を向上することができる。一方、中間保持温度を600℃以下とすることで、一部の炭素被覆量が少ない正極活物質粒子に対してのみ集中して焼結が進行することによる、異常に粗大な一次粒子(異常成長粒子)の生成を抑制することができる。
【0082】
中間温度保持時間は10時間以上とすることが好ましい。中間保持時間を10時間以上とすることで、有機化合物が十分に分解し、かつ、炭素の結晶化が進行し、正極活物質一次粒子表面の炭素の電子伝導性を向上することができる。中間保持時間を長くすることで、より炭素の結晶化を進行させることができるが、生産性の観点から100時間を超える中間温度保持は好ましくない。
【0083】
焼成雰囲気は、好ましくは窒素(N)およびアルゴン(Ar)等の不活性ガスからなる不活性雰囲気または水素(H)等の還元性ガスを含む還元性雰囲気である。混合物の酸化をより抑えたい場合には、焼成雰囲気は還元性雰囲気であることがより好ましい。
【0084】
工程(C)の焼成により、混合物中の正極活物質の前駆体は、リチウムイオン二次電池用正極材料の中心粒子となる。一方、有機化合物は、焼成により分解および反応して、炭素が生成する。そして、この炭素はリチウムイオン二次電池用正極材料の中心粒子の表面に付着して炭素質被膜となる。これにより、リチウムイオン二次電池用正極材料の中心粒子の表面は炭素質被膜により覆われる。
【0085】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法によれば、炭素質被膜源となる有機化合物を焼成する際に、まず中温域で保持し、十分に炭化・脱脂させた後、高温域で短時間保持することにより、表面炭素量が多く、炭素の結晶性が高く、かつ、異常成長粒子を含まないリチウムイオン二次電池用正極材料を得ることができる。
【0086】
[リチウムイオン二次電池用正極]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極(以下、単に「正極」と言うことがある。)は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を含む。より詳細には、本実施形態の正極は、金属箔からなる電極集電体と、その電極集電体上に形成された正極合剤層と、を備え、正極合剤層が、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有するものである。すなわち、本実施形態の正極は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を用いて、電極集電体の一主面に正極合剤層が形成されてなるものである。
本実施形態の正極は、主に、リチウムイオン二次電池用正極として用いられる。
【0087】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を含むため、遷移金属の溶出を大幅に抑制し、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極を用いたリチウムイオン二次電池は、長期のサイクルの安定性および安全性に優れる。
【0088】
[リチウムイオン二次電池用正極の製造方法]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極の製造方法は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を用いて、電極集電体の一主面に正極合剤層を形成できる方法であれば特に限定されない。本実施形態の正極の製造方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
まず、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料と、バインダー樹脂からなる結着剤と、溶媒とを混合して、正極材料ペーストを調製する。この際、本実施形態における正極材料ペーストには、必要に応じて、カーボンブラック等の導電助剤を添加してもよい。
【0089】
「結着剤」
結着剤、すなわち、バインダー樹脂として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂、フッ素ゴム等が好適に用いられる。
【0090】
正極材料ペーストを調製するに当たり用いられる結着剤の配合量は特に限定されないが、例えば、リチウムイオン二次電池用正極材料100質量部に対して、1質量部以上かつ30質量部以下であることが好ましく、3質量部以上かつ20質量部以下であることがより好ましい。
結着剤の配合量が1質量部以上であると、正極合剤層と電極集電体との間の結着性を充分に高くすることができる。これにより、正極合剤層の圧延形成時等において正極合剤層の割れや脱落が生じることを抑制することができる。また、リチウムイオン二次電池の充放電過程において、正極合剤層が電極集電体から剥離し、電池容量および充放電レートが低下することを抑制することができる。一方、結着剤の配合量が30質量部以下であると、リチウムイオン二次電池用正極材料の内部抵抗が低下し、高速充放電レートにおける電池容量が低下することを抑制できる。
【0091】
「導電助剤」
導電助剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、気相成長炭素繊維(VGCF;Vapor Grown Carbon Fiber)およびカーボンナノチューブ等の繊維状炭素からなる群から選択される少なくとも1種が用いられる。
【0092】
「溶媒」
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を含む正極材料ペーストに用いられる溶媒は、結着剤の性質に応じて適宜選択される。溶媒を適宜選択することにより、正極材料ペーストを、電極集電体等の被塗布物に対して塗布し易くすることができる。
溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノールおよびジアセトンアルコール等のアルコール類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートおよびγ−ブチロラクトン等のエステル類;ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテルおよびジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトンおよびシクロヘキサノン等のケトン類;ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミドおよびN−メチル−2−ピロリドン(NMP)等のアミド類;並びに、エチレングリコール、ジエチレングリコールおよびプロピレングリコール等のグリコール類等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0093】
正極材料ペーストにおける溶媒の含有率は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料と結着剤と溶媒の合計質量を100質量%とした場合に、50質量%以上かつ70質量%以下であることが好ましく、55質量%以上かつ65質量%以下であることがより好ましい。
正極材料ペーストにおける溶媒の含有率が上記の範囲内であると、正極形成性に優れ、かつ電池特性に優れた正極材料ペーストを得ることができる。
【0094】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料と、結着剤と、導電助剤と、溶媒とを混合する方法としては、これらの成分を均一に混合できる方法であれば特に限定されない。例えば、ボールミル、サンドミル、プラネタリー(遊星式)ミキサー、ペイントシェーカーおよびホモジナイザー等の混錬機を用いた混合方法が挙げられる。
【0095】
正極材料ペーストを、電極集電体の一主面に塗布して塗膜とし、その後、この塗膜を乾燥し、上記の正極材料と結着剤との混合物からなる塗膜が一主面に形成された電極集電体を得る。
その後、塗膜を加圧圧着し、乾燥して、電極集電体の一主面に正極合剤層を有する正極を作製する。
【0096】
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、非水電解質と、を備え、正極が、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極である。具体的には、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、正極としての本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極と、負極と、セパレータと、非水電解質と、を備えてなる。
本実施形態のリチウムイオン二次電池では、負極、非水電解質およびセパレータは特に限定されない。
【0097】
「負極」
負極としては、例えば、金属Li、天然黒鉛、ハードカーボン等の炭素材料、Li合金およびLiTi12、Si(Li4.4Si)等の負極材料を含むものが挙げられる。
【0098】
「非水電解質」
非水電解質としては、例えば、炭酸エチレン(エチレンカーボネート;EC)と、炭酸エチルメチル(エチルメチルカーボネート;EMC)とを、体積比で1:1となるように混合し、得られた混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を、例えば、濃度1モル/dmとなるように溶解したものが挙げられる。
【0099】
「セパレータ」
セパレータとして、例えば、多孔質プロピレンを用いることができる。
また、非水電解質とセパレータの代わりに、固体電解質を用いてもよい。
【0100】
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、正極として、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極を備えているため、電解液の酸化分解およびガスの発生が抑制され、長期のサイクルの安定性および安全性に優れている。
【実施例】
【0101】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0102】
[実施例1]
「リチウムイオン二次電池用正極材料の合成」
2molのリン酸リチウム(LiPO)と、2molの硫酸鉄(II)(FeSO)とに水を加え、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量8Lの耐圧密閉容器に収容し、140℃にて1時間、水熱合成し、沈殿物を生成した。
次いで、この沈殿物を水洗し、ケーキ状の正極活物質を得た。
次いで、この正極活物質150g(固形分換算)に、有機化合物としてのポリエチレングリコール12gと、純水と、媒体粒子としての直径1mmのジルコニアボールとを用いて、ビーズミルにて1時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。
次いで、このスラリーを160℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、有機物で被覆された正極活物質の前駆体の造粒体を得た。
次いで、得られた正極活物質の前駆体の造粒体を、窒素雰囲気下、昇温速度300℃/時間で550℃まで昇温した後、10時間保持した。その後、昇温速度300℃/時間で800℃まで昇温して、10分間保持したのち、すぐに自然冷却して、炭素質被膜で被覆された実施例1の正極材料1を得た。
【0103】
「リチウムイオン二次電池の作製」
溶媒であるN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)に、正極材料1と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)と、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)とを、ペースト中の質量比で、正極材料1:AB:PVdF:NMP=36:2:2:60となるように加えて、これらを混合し、混練機(商品名:あわとり練太郎、シンキー社製)を用いて、公転2000rpmの条件にて分散モードで10分混練した後、脱泡モードで5分混練し、正極材料ペースト(正極用)を調製した。
この正極材料ペースト(正極用)を、厚さ30μmのアルミニウム箔(電極集電体)の表面に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を真空雰囲気中にて120℃にて12時間乾燥し、アルミニウム箔の表面に正極合剤層を形成した。正極と負極の容量比が1.2(負極/正極)となるように正極合剤層の厚さを調整した。
その後、正極合剤層を、正極密度が1.8g/mLとなるように、所定の圧力にて加圧した後、成形機を用いて正極面積9cmの正方形状に打ち抜き、実施例1の正極を作製した。
【0104】
次いで、溶媒である純水に、負極活物質としての天然黒鉛と、結着剤としてのスチレンブタジエンラテックス(SBR)と、粘度調整材としてカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、ペーストの質量比で、天然黒鉛:SBR:CMC=98:1:1となるように加えて、これらを混合し、負極材料ペースト(負極用)を調製した。
調製した負極材料ペースト(負極用)を、厚さ10μmの銅箔(電極集電体)の表面に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥し、銅箔表面に負極合剤層を形成した。負極合剤層の目付量が4.4mg/cmとなるよう塗布厚を調整した。
その後、負極合剤層を、負極密度が1.42g/mLとなるように、所定の圧力にて加圧した後、成形機を用いて負極面積9.6cmの正方形状に打ち抜き、実施例1の負極を作製した。
【0105】
作製した正極と負極とを、ポリプロピレンからなる厚さ25μmのセパレータを介して対向させ、電解液としての1mol/LのLiPF溶液0.5mLに浸漬した後、ラミネートフィルムにて封止して、実施例1のリチウムイオン二次電池を作製した。LiPF溶液としては、炭酸エチレンと、炭酸エチルメチルとを、体積比で1:1となるように混合したものを用いた。
【0106】
「実施例2」
正極活物質の前駆体の造粒体を焼成する際に、最高温度の保持時間を20分としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の正極材料2を得た。
正極材料2を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0107】
「実施例3」
正極活物質の前駆体の造粒体を焼成する際に、最高温度の保持時間を30分としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の正極材料3を得た。
正極材料3を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0108】
「実施例4」
有機化合物のポリエレングリコールの配合量を10g、正極活物質の前駆体の造粒体を焼成する際に、最高温度の保持時間を0分としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4の正極材料4を得た。
正極材料4を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0109】
「実施例5」
有機化合物のポリエレングリコールの配合量を20g、正極活物質の前駆体の造粒体を焼成する際に、最高温度の保持時間を0分としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例5の正極材料5を得た。
正極材料5を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例5のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0110】
「実施例6」
有機化合物のポリエレングリコールの配合量を25gしたこと以外は実施例4と同様にして、実施例6の正極材料6を得た。
正極材料6を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例6のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0111】
「実施例7」
水熱合成温度を120℃、正極活物質の前駆体の造粒体を焼成する際に、最高温度の保持時間を0分としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例7の正極材料7を得た。
正極材料7を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例7のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0112】
「実施例8」
水熱合成温度を170℃、正極活物質の前駆体の造粒体を焼成する際に、最高温度の保持時間を0分としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例8の正極材料8を得た。
正極材料8を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例8のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0113】
「実施例9」
550℃の保持時間を100時間、正極活物質の前駆体の造粒体を焼成する際に、最高温度の保持時間を0分としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例9の正極材料9を得た。
正極材料9を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例9のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0114】
「実施例10」
正極活物質の前駆体の造粒体を焼成する際に、最高温度を760℃、最高温度の保持時間を0分としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例10の正極材料10を得た。
正極材料10を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例10のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0115】
「実施例11」
正極活物質の前駆体の造粒体を焼成する際に、最高温度を720℃、最高温度の保持時間を0分としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例11の正極材料11を得た。
正極材料11を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例11のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0116】
「比較例1」
550℃の保持時間を0時間、正極活物質の前駆体の造粒体を焼成する際に、最高温度の保持時間を120分としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の正極材料21を得た。
正極材料21を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0117】
「比較例2」
正極活物質の前駆体の造粒体を焼成する際に、最高温度の保持時間を120分としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の正極材料22を得た。
正極材料22を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0118】
「比較例3」
正極活物質の前駆体の造粒体を焼成する際に、最高温度の保持時間を60分としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例3の正極材料23を得た。
正極材料23を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例3のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0119】
「比較例4」
有機化合物のポリエレングリコールの配合量を8g、正極活物質の前駆体の造粒体を焼成する際に、最高温度の保持時間を0分としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例4の正極材料24を得た。
正極材料24を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例4のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0120】
「比較例5」
有機化合物のポリエレングリコールの配合量を30g、正極活物質の前駆体の造粒体を焼成する際に、最高温度の保持時間を0分としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例5の正極材料25を得た。
正極材料25を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例5のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0121】
「比較例6」
水熱合成温度を110℃、正極活物質の前駆体の造粒体を焼成する際に、最高温度の保持時間を0分としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例6の正極材料26を得た。
正極材料26を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例6のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0122】
「比較例7」
水熱合成温度を190℃、正極活物質の前駆体の造粒体を焼成する際に、最高温度の保持時間を0分としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例7の正極材料27を得た。
正極材料27を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例7のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0123】
「比較例8」
550℃の保持時間を100時間、正極活物質の前駆体の造粒体を焼成する際に、最高温度を810℃、最高温度の保持時間を0分としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例8の正極材料28を得た。
正極材料28を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例8のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0124】
「比較例9」
正極活物質の前駆体の造粒体を焼成する際に、最高温度を710℃、最高温度の保持時間を0分としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例9の正極材料29を得た。
正極材料29を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例9のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0125】
[リチウムイオン二次電池用正極材料およびリチウムイオン二次電池の評価]
実施例1〜実施例11および比較例1〜比較例9のリチウムイオン二次電池用正極材料およびリチウムイオン二次電池について、以下の通り、評価を行った。
【0126】
(1) 表面炭素量
表面炭素量は、炭素分析計(炭素硫黄分析装置:EMIA−810W(商品名)、堀場製作所社製)を用いて測定される炭素量[g/g]、および比表面積計を用いて、窒素(N)吸着によるBET法により測定される比表面積[m/g]から下記式を用いて算出される。
表面炭素量[g/m]=炭素量[g/g]/比表面積[m/g]
リチウムイオン二次電池用正極材料の表面炭素量(正極材料粒子における表面炭素量)を表1に示す。
【0127】
(2) リチウムイオン二次電池用正極材料の結晶子径
X線回折測定により測定した粉末X線回折図形の(020)面の回折ピークの半値幅、および回折角(2θ)を用いて、シェラーの式により結晶子径を算出した。結果を表1に示す。
【0128】
(3) ラマンスペクトル
無作為に選択されたリチウムイオン二次電池用正極材料の粉末をラマン分光測定用のプレパラートにスパチュラで耳かき一杯分置き、粉の集合の四隅と中心をそれぞれ測定点の視野として下記条件にて測定を行った。プレパラートに置く測定対象を、別の無作為に選択されたリチウムイオン二次電池用正極材料の粉末に置き換えて、同様の測定を計5回繰り返した。得られたラマンスペクトル分析の分析結果から、1580±50cm−1の波数帯域におけるスペクトルのピーク強度(I1580)と、1360±50cm−1の波数帯域におけるスペクトルのピーク強度(I1360)とから、ピーク強度(I1580)のピーク強度(I1360)に対する比であるR値(I1580/I1360)を算出した。結果を表1に示す。
<測定条件>
機器:NRS−3100
露光時間:50秒
積算回数:10回
中心波数:1300cm−1
スリット:0.01mm×6mm
対物レンズ倍率:100倍
減光器:光学濃度(OD)3
【0129】
(4)20視野当たりの一次粒子数
走査型電子顕微鏡を用いて、リチウムイオン二次電池用正極材料を20000倍にて、撮影した写真において、正極活物質一次粒子で敷き詰められ、下地を撮像に含まない横6.0μm×縦4.5μmの視野を無作為に20視野選択し、結晶子径の10倍以上の長径を有するリチウムイオン二次電池用正極材料粒子の一次粒子が20視野当たりにいくつあるかを数えた。結果を表1に示す。
実施例1について、リチウムイオン二次電池用正極材料粒子の走査型電子顕微鏡像を図2に示す。また、比較例1について、リチウムイオン二次電池用正極材料粒子の走査型電子顕微鏡像を図3に示す。
【0130】
(5)充放電試験
リチウムイオン二次電池を、25℃環境下で、電流値2Cにて電池電圧が3.6Vになるまで定電流充電した後、定電圧充電に切り替え、電流値が0.2Cになるまで3.6V定電圧充電して得られた充電曲線において、全充電容量に対して20%の充電容量となる地点の電圧をSOC20%における充電電圧[V]として評価し、定電圧充電容量を全充電容量で除したのち、100を乗じた値を定電圧充電比率として評価した。
SOC20%における充電電圧が3.30V以下である場合は充放電初期入出力特性を「〇」、3.30Vを超え、かつ、3.33V未満である場合は充放電初期入出力特性を「△」、3.33V以上である場合は充放電初期入出力特性を「×」として評価した。なお、SOC20%における充電電圧の小数点3桁以下は四捨五入した。
定電圧充電比率が4%以下である場合は充放電末期入出力特性を「〇」、4%を超え、かつ、5%以下である場合は充放電末期入出力特性を「△」、5%を超える場合は充放電末期入出力特性を「×」として評価した。なお、充放電末期入出力特性の小数点2桁以下は四捨五入した。
結果を表1に示す。また、実施例1および比較例1における充放電試験時の電流値2C充電曲線を図1に示す。図1に示す曲線は、縦軸を電池電圧〔V〕、横軸をSOC[%](充電容量/全充電容量×100)とした曲線である。
【0131】
【表1】
【0132】
表1の結果から、実施例1〜実施例11と、比較例1、比較例2、比較例3、比較例6および比較例8とを比較すると、結晶子径の10倍以上の長径を有する一次粒子が20視野当たり8個以下であると、充放電末期の入出力特性に優れることが確認された。
また、実施例1〜実施例11と、比較例4および比較例5とを比較すると、表面炭素量が60mg/m以上かつ150mg/m以下であると、充放電初期および充放電末期の入出力特性に優れることが確認された。
また、実施例1〜実施例11と、比較例6および比較例7とを比較すると、結晶子径が60nm以上かつ100nm以下であると、充放電初期および充放電末期の入出力特性に優れることが確認された。
また、実施例1〜実施例11と、比較例8および比較例9とを比較すると、R値(I1580/I1360)が0.80以上かつ1.10以下、充放電初期および充放電末期の入出力特性に優れることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料を用いたリチウムイオン二次電池は、充放電末期の入出力特性に優れるので、移動体用途を初めとするリチウムイオン二次電池の信頼性の進歩に大きく貢献することができる。
図1
図2
図3