【課題】絶縁樹脂層の厚みが薄い場合においても、高い寸法安定性と面内等方性を有し、金属層との接着性に優れた絶縁樹脂層を備え、金属張積層板及び金属層をエッチング後のフィルムにおけるカールも抑制された金属張積層板を提供する。
【解決手段】 絶縁樹脂層と、この絶縁樹脂層の片面に積層された金属層とを備えた金属張積層板であって、絶縁樹脂層が、非熱可塑性ポリイミドによって構成される非熱可塑性ポリイミド層と、非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも一方の面に接して設けられた熱可塑性ポリイミドによって構成される熱可塑性ポリイミド層と、を有する。熱可塑性ポリイミド層は、金属層と非熱可塑性ポリイミド層との間に介在しており、絶縁樹脂層は、厚みが2μm以上15μm以下の範囲内であるとともに、厚み方向の複屈折Δn(xy-z)が0.080〜0.140の範囲内である。
前記金属層をエッチング除去して得られる絶縁樹脂フィルムにおいて、23℃、湿度50%RHの条件下で、24時間調湿後の50mm角の前記絶縁樹脂フィルムを、その中央部の凸面が平らな面上に接するように静置したとき、4角の浮き上がり量の平均値を算出して得られるカール量が、10mm以下である請求項1〜3のいずれかに記載の金属張積層板。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本発明の実施の形態について説明する。
【0027】
<金属張積層板>
本実施の形態の金属張積層板は、絶縁樹脂層と、この絶縁樹脂層の少なくとも片面に積層された金属層とを備えている。なお、本実施の形態の金属張積層板は、絶縁樹脂層の片側に金属層を有する片面金属張積層板であってもよいし、絶縁樹脂層の両側に金属層を有する両面金属張積層板であってもよい。
【0028】
<絶縁樹脂層>
本実施の形態の金属張積層板において、絶縁樹脂層は、非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも一方に熱可塑性ポリイミド層を有する。すなわち、熱可塑性ポリイミド層は、非熱可塑性ポリイミド層の片面又は両面に設けられていてもよい。また、熱可塑性ポリイミド層は、金属層と非熱可塑性ポリイミド層との間に介在している。つまり、金属層は熱可塑性ポリイミド層の面に接して積層される。ここで、非熱可塑性ポリイミドとは、一般に加熱しても軟化、接着性を示さないポリイミドのことであるが、本発明では、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定した、30℃における貯蔵弾性率が1.0×10
9Pa以上であり、360℃における貯蔵弾性率が1.0×10
8Pa以上であるポリイミドをいう。また、熱可塑性ポリイミドとは、一般にガラス転移温度(Tg)が明確に確認できるポリイミドのことであるが、本発明では、DMAを用いて測定した、30℃における貯蔵弾性率が1.0×10
9Pa以上であり、360℃における貯蔵弾性率が1.0×10
8Pa未満であるポリイミドをいう。
【0029】
絶縁樹脂層は、熱可塑性ポリイミド層と非熱可塑性ポリイミド層との2層構造でもよいが、金属層に接している側から、熱可塑性ポリイミド層と非熱可塑性ポリイミド層と熱可塑性ポリイミド層がこの順序で積層された3層構造であることが好ましい。例えば、絶縁樹脂層をキャスト法によって形成する場合では、キャスト面側から熱可塑性ポリイミド層と非熱可塑性ポリイミド層がこの順序で積層された2層構造でもよいし、キャスト面側から熱可塑性ポリイミド層と非熱可塑性ポリイミド層と熱可塑性ポリイミド層がこの順序で積層された3層構造でもよいが、3層構造が好ましい。ここで言う「キャスト面」とはポリイミド層を形成する際における、支持体側の面のことを示す。支持体は、金属張積層板の金属層であっても良いし、ゲルフィルム等を形成する際の支持体であっても良い。なお、絶縁樹脂層においてキャスト面と反対側の面は「ラミネート面」と記述するが、特に記述が無い場合、ラミネート面に金属層が積層されていてもよいし、されていなくても良い。
【0030】
<絶縁樹脂層の厚みと厚み方向の複屈折Δn(xy-z)>
寸法安定性を担保するため、金属張積層板には低CTEの非熱可塑性のポリイミド層を含む場合が多いが、非熱可塑性ポリイミド層のCTEは、厚みが薄くなるほどCTEが低下する傾向にある。この挙動はキャスト法では特に顕著にみられ、理由としては加熱処理の過程で、厚みが薄いほど樹脂層中に存在する溶剤の揮発が促進され、分子の配向が進む事が挙げられる。上記の挙動に伴い、厚みが薄いほど厚み方向の配向差も小さくなると考えられる。
このため、従来技術における厚さ25μm程度のポリイミド層における熱可塑性層・非熱可塑性層の厚み比を薄い絶縁樹脂層にそのまま適用しても、低CTE化するため、金属層と樹脂層のCTEミスマッチが発生し、寸法安定性が悪化する。さらに、熱可塑性層・非熱可塑性層で構成されたポリイミドフィルムの場合は、非熱可塑性層の厚み方向における配向分布が変化するため、従来と同様の熱可塑性層・非熱可塑性層の厚み比ではフィルムにてカールが発生する。
すなわち、極薄の絶縁樹脂層では、回路加工後の寸法安定性とカールの抑制を高める観点から、従来技術とは異なる設計思想が求められる。
【0031】
回路加工後の寸法安定性を高め、カールを抑制するためには、薄化による低CTE化及び厚み方向における配向分布の変化を考慮した上で熱可塑性層・非熱可塑性層の厚み比を制御し、各層のCTEを含めてバランスを取ることが必要であるが、特に薄い領域においては、各層の単離が困難となるため各層のCTEを把握するのは容易ではない。
さらに、絶縁樹脂層をキャスト法で作製する場合、溶剤の抜け方向が一方向であるため、同一材質、同一厚みでも、積層順位によってCTEが異なった値となる。従って、キャスト法で形成された絶縁樹脂層の各層のCTEは、各層と同じ材質、同じ厚みで別途作製されたポリイミドフィルムを測定して得られるCTEの値とは異なってしまう。
【0032】
そこで、各層のバランスについて鋭意検討を行った結果、分子の配向性と熱可塑性層・非熱可塑性層の厚み比を厚み方向の複屈折Δn(xy-z)で評価し、所定範囲に収めることで、寸法安定性とフィルムカールを抑制できることを見出した。ここで、「厚み方向の複屈折Δn(xy-z)」とは、ポリイミドフィルムにおいて面内方向(xy平面)の屈折率Nxyと面内方向に直交する断面方向(z方向)の屈折率Nzの差である。
分子配向が進むほど、面内方向に分子が配列する傾向が強くなるため、Δn(xy-z)は大きくなり、配向が進行していない場合はΔn(xy-z)は小さくなる。また、非熱可塑性層の割合が大きくなるほどΔn(xy-z)も大きくなる。
従って、分子の配向度合いと熱可塑性層・非熱可塑性層の厚み比をΔn(xy-z)で評価し、所定の範囲内に収めることで、寸法安定性を高め、フィルムカールを抑制できる。
【0033】
このような観点から、本実施の形態の金属張積層板は、絶縁樹脂層の厚みが2μm以上15μm以下の範囲内であり、厚み方向の複屈折Δn(xy-z)を0.080以上0.140以下の範囲内に制御する。
絶縁樹脂層の厚みは、使用する目的に応じて、所定の範囲内の厚みに設定することができるが、絶縁樹脂層の厚みが上記下限値に満たないと、電気絶縁性が担保出来ないことや、ハンドリング性の低下により製造工程にて取扱いが困難になるなどの問題が生じることがある。一方、絶縁樹脂層の厚みが上記上限値を超えると、FPC等の回路基板の薄型化や高密度の実装が困難になる。厚みが薄くなるほど既存設計の適用が困難となるため、本発明の効果は、厚みが薄い領域に適用する場合により大きく発揮される。
また、厚み方向の複屈折Δn(xy-z)は0.080未満であると配向が十分に進んでいないため、寸法安定性悪化の原因となり、厚み方向の配向差も発生しやすくなるため、フィルムとしてもカールが発生しやすくなる。一方で、厚み方向の複屈折Δn(xy-z)が0.140を上回るとCTEが過度に低下し、金属箔のCTEとの不整合によって回路加工後の寸法安定性が悪化する。
【0034】
厚み方向の複屈折Δn(xy-z)は、0.090以上0.140以下が好ましく、0.090以上0.130以下がより好ましく、0.090以上0.120以下が最も好ましい。複屈折Δn(xy-z)を上記所定の範囲に収めることで、フィルムとしてのカールの抑制と、金属層と樹脂層のミスマッチよる寸法安定性の低下を抑制し、絶縁樹脂層の厚みが15μm以下、例えば12μm以下の薄膜であっても、回路加工時の良好なハンドリング性と微細配線の寸法精度を担保することができる。
【0035】
絶縁樹脂層の厚みは、15μm以下であり、12μm以下が好ましく、9μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。絶縁樹脂層の厚みが、15μm以下、好ましくは12μm以下、より好ましくは9μm以下、さらに好ましくは5μm以下であることにより、極薄の回路基板の作製が可能になる。従って、薄い筐体内などにおける折畳み配線や多層配線などへの適用の自由度が高くなり、高密度実装が可能となる。
【0036】
また、本実施の形態において、絶縁樹脂層は、平均厚みをTμmとしたとき、厚みのばらつきがT±0.5μmの範囲内であることが好ましく、T±0.3μmの範囲内であることがより好ましい。厚みのばらつきがT±0.5μmを超えると、厚み方向の複屈折Δn(xy-z)の制御が困難となることがある。
【0037】
<熱可塑性層と非熱可塑性層の厚み比率>
従来設計においては、前述した厚み方向の配向差によりラミネート面側の配向が促進されるため、特許文献5(特開2006−306086号公報)のように25μm程度の厚みの場合、ラミネート面側の熱可塑性ポリイミド層の厚みをやや厚くすることで、フィルムとしてのカールを抑制している。しかし、ポリイミド層の厚みが15μm以下、特に12μm以下に薄くなると配向の分布が均一に近くなるため、従来設計に比べるとキャスト面側の熱可塑性ポリイミド層の厚み比率を大きくする必要がある。
このような観点からカールの抑制と回路加工後の寸法安定性を高めるために、片面金属張積層板において、金属層に接する側(キャスト面側)に存在する熱可塑性ポリイミド層の厚みをT1、非熱可塑性ポリイミド層の厚みをT2、金属層とは反対側(ラミネート面側)に存在する熱可塑性ポリイミド層の厚みをT3とした際に、T3/T1が0.8以上1.4未満の範囲内であることが好ましい。特に、絶縁樹脂層の厚みが9μmを超え12μm以下であるとき、T3/T1が0.8以上1.3以下の範囲内であることがより好ましく、絶縁樹脂層の厚みが2μm以上9μm以下であるとき、T3/T1が0.9以上1.3以下の範囲内であることが最も好ましい。
比率T3/T1が0.8未満ではキャスト面側の熱可塑性ポリイミド層の影響が大きくなり過ぎるため、キャスト面側へのフィルムのカールが発生する。一方で、比率T3/T1が1.4以上ではラミネート面側の熱可塑性ポリイミド層の影響が大きくなり過ぎるため、ラミネート面側へのフィルムのカールが発生する。
なお、金属張積層板が、絶縁樹脂層の両側に金属層が積層されている両面金属張積層板である場合には、片側の金属層をエッチングによって除去して2種類の片面金属張積層板を形成したとき、いずれか一方の片面金属張積層板が、上記比率T3/T1の関係を満たしていればよい。
【0038】
さらに、非熱可塑性ポリイミド層と熱可塑性のポリイミド層のバランスとしても、前述した薄化による配向促進により、従来設計よりも熱可塑性のポリイミド層を厚くする必要がある。よって、ポリイミド層に対する熱可塑性ポリイミド層の割合を示す(T1+T3)/(T1+T2+T3)が0.20を上回り0.50以下の範囲内とする。特に、絶縁樹脂層の厚みが9μmを超え12μm以下であるとき、(T1+T3)/(T1+T2+T3)が0.25以上0.50以下の範囲内であることがより好ましく、絶縁樹脂層の厚みが2μm以上9μm以下であるとき、(T1+T3)/(T1+T2+T3)が0.30以上0.50以下の範囲内であることが最も好ましい。
(T1+T3)/(T1+T2+T3)が0.50を越える場合は、非熱可塑性ポリイミド層の厚みが小さすぎるため、絶縁樹脂層のCTEが大きくなって30ppm/Kを超える傾向がある。一方、(T1+T3)/(T1+T2+T3)が0.20以下では、非熱可塑性ポリイミド層の厚みが大きすぎるため、絶縁樹脂層のCTEが小さくなって15ppm/Kを下回る傾向がある。
【0039】
<CTE>
本実施の形態の金属張積層板は、カールの抑制と回路加工後の寸法安定性を高めるために、絶縁樹脂層のCTEが15ppm/K以上30ppm/K以下の範囲内であることが重要であり、好ましくは15ppm/K以上25ppm/K以下の範囲内がよい。CTEが15ppm/K未満であるか、又は30ppm/Kを超えると、金属張積層板としてのカールの発生や、回路加工後の寸法安定性が低下する等不具合が発生する。
【0040】
また、絶縁樹脂層におけるMD方向(長手方向・搬送方向)のCTE(CTE
MD)とTD方向(幅方向)のCTE(CTE
TD)が、下式(i)の関係を満たすことが好ましい。下式(i)を満たす場合、MD方向とTD方向のCTEの平均値(CTE
AVE)に対するMD方向とTD方向のCTEずれが5%以下であり、異方性が少ないことを意味する。絶縁樹脂層のMD方向とTD方向の異方性が大きくなると、寸法安定性に悪影響が出るため、式(i)における左辺の値は小さいほどよい。換言すれば、式(i)を満たす場合は、下式(iii)及び(iv)のいずれも満たす。
|(CTE
MD−CTE
TD)/(CTE
MD+CTE
TD)| ≦ 0.05 … (i)
CTE
AVE=(CTE
MD +CTE
TD)/ 2 …(ii)
|(CTE
MD−CTE
AVE)/(CTE
AVE)| ≦ 0.05 … (iii)
|(CTE
TD−CTE
AVE)/(CTE
AVE)| ≦ 0.05 … (iv)
【0041】
絶縁樹脂層において、非熱可塑性ポリイミド層は低熱膨張性のポリイミド層を構成し、熱可塑性ポリイミド層は高熱膨張性のポリイミド層を構成する。ここで、低熱膨張性のポリイミド層は、CTEが好ましくは0ppm/K以上20ppm/K以下の範囲内、より好ましくは0ppm/K以上15ppm/K以下の範囲内のポリイミド層をいう。また、高熱膨張性のポリイミド層は、CTEが好ましくは35ppm/K以上、より好ましくは35ppm/K以上80ppm/K以下の範囲内、更に好ましくは35ppm/K以上70ppm/K以下の範囲内のポリイミド層をいう。ポリイミド層は、使用する原料の組合せ、厚み、乾燥・硬化条件を適宜変更することで所望のCTEを有するポリイミド層とすることができる。
【0042】
本実施の形態の金属張積層板において、絶縁樹脂層は、熱可塑性もしくは非熱可塑性ポリイミドの溶液又は前駆体の溶液を順次塗布するキャスト法によって形成されたものであることが好ましい。キャスト法の場合、複数のポリイミド層を含む厚さ15μm以下、特に12μm以下の極薄の絶縁樹脂層の作製が容易である。それに対し、例えばテンター法の場合は、厚さ15μm以下、特に12μm以下の絶縁樹脂層を作製するには、薄膜を延伸する必要があることから、破断や亀裂が発生しやすく、技術的ハードルが高い。さらに面内における厚みやCTEにばらつきが生じやすく、MD方向とTD方向のCTEに異方性も生じやすくなる。
【0043】
(非熱可塑性ポリイミド)
本実施の形態において、非熱可塑性ポリイミド層を構成する非熱可塑性ポリイミドは、テトラカルボン酸残基及びジアミン残基を含み、これらはいずれも芳香族基を含むことが好ましい。非熱可塑性ポリイミドに含まれるテトラカルボン酸残基及びジアミン残基が、いずれも芳香族基を含むことで、非熱可塑性ポリイミドの秩序構造を形成しやすくなり、寸法安定性向上に寄与すると考えられる。
【0044】
なお、本発明において、テトラカルボン酸残基とは、テトラカルボン酸二無水物から誘導された4価の基のことを表し、ジアミン残基とは、ジアミン化合物から誘導された2価の基のことを表す。また、「ジアミン化合物」は、末端の二つのアミノ基における水素原子が置換されていてもよく、例えば−NR
3R
4(ここで、R
3,R
4は、独立にアルキル基などの任意の置換基を意味する)であってもよい。
【0045】
本実施の形態の金属張積層板に含まれる非熱可塑性ポリイミドは、全ジアミン残基の100モル部に対して、下記一般式(1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が50モル部以上含まれることが好ましい。
【0046】
【化3】
[式(1)において、Rは独立に、ハロゲン原子、又は炭素数1〜6のハロゲン原子で置換されてもよいアルキル基若しくはアルコキシ基、又は炭素数1〜6の1価の炭化水素基若しくはアルコキシ基で置換されてもよいフェニル基若しくはフェノキシ基を示し、n
1は独立に0〜4の整数、n
2は0〜1の整数を示す。]
【0047】
一般式(1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基は、秩序構造を形成しやすく、低CTE化することから寸法安定性を高めることができる。また、ベンゼン環を2つ以上含むことから、イミド基濃度を下げ、低吸湿化にも寄与する事も寸法安定性を高める上で有利な点である。このような観点から、一般式(1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基は、非熱可塑性ポリイミドに含まれる全ジアミン残基の100モル部に対して、50モル部以上含有することが好ましく、60〜100モル部の範囲内で含有することがより好ましい。50モル部未満ではCTEが増大し、寸法安定性が悪化する。
【0048】
一般式(1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基の好ましい具体例としては、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)、2,2’−ジエチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−EB)、2,2’−ジエトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル(m−EOB)、2,2’−ジプロポキシ−4,4’−ジアミノビフェニル(m−POB)、2,2’−n−プロピル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−NPB)、2,2’−ジビニル−4,4’−ジアミノビフェニル(VAB)、4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(TFMB)、4、4''―ジアミノ−p−テルフェニル(DATP)等のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が挙げられる。これらの中でも、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)、2,2’−ジエチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−EB)、4,4’‐ジアミノ‐2,2’‐ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(TFMB)、4、4''−ジアミノ−p−テルフェニル(DATP)が好適なものとして挙げられ、特に、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)は、秩序構造を形成しやすく、かつイミド基地濃度を下げ、吸湿率を下げることから最も好ましい。
【0049】
また、絶縁樹脂層の弾性率を下げ、伸度及び折り曲げ耐性等を向上させるため、非熱可塑性ポリイミドが、下記の一般式(2)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を含むことが好ましい。
【0051】
ただし、式(2)において、Rは独立に、ハロゲン原子、又は炭素数1〜6のハロゲン原子で置換されてもよいアルキル基若しくはアルコキシ基、又は炭素数1〜6の1価の炭化水素基若しくはアルコキシ基で置換されてもよいフェニル基若しくはフェノキシ基を示し、
Z
1は独立に単結合、−O−、−S−、−CH
2−、−CH(CH
3)−、−C(CH
3)
2−、−CO−、−SO
2−、又は−NH−から選ばれる2価の基を示し、
n
3は独立に0〜4の整数、n
4は0〜2の整数を示す。
ただし、Z
1の少なくとも1つは−O−、−S−、−CH
2−、−CH(CH
3)−、−C(CH
3)
2−、−CO−、−SO
2−、又は−NH−から選ばれる2価の基を示す。
【0052】
一般式(2)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基は、屈曲性の部位を有するので、絶縁樹脂層に柔軟性を付与することができる。このような観点から、一般式(2)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基は、非熱可塑性ポリイミドに含まれる全ジアミン残基の100モル部に対して、1〜50モル部の範囲内で含有することがより好ましく、1〜40モル部の範囲内で含有することが最も好ましい。50モル部を越えて含有するとCTEが増大し、寸法安定性が悪化する。また、含有量が1モル部未満の場合は柔軟性が悪化することから、屈曲特性が悪化する。また、非熱可塑性ポリイミドが、上記一般式(1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基と、一般式(2)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基の両方を含有する場合は、非熱可塑性ポリイミドに含まれる全ジアミン残基の100モル部に対して、一般式(1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基の含有量を50〜99モル部の範囲内とすることがより好ましく、60〜99モル部の範囲内とすることが最も好ましい。
【0053】
一般式(2)で表されるジアミン化合物の好ましい具体例としては、例えば、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、(3,3’-ビスアミノ)ジフェニルアミン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、1,4-ビス(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−Q)、3-[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ベンゼンアミン、3-[3-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ベンゼンアミン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、4,4'-[2-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、4,4'-[4-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、4,4'-[5-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4,4'-(3-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、4-[3-[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]フェノキシ]アニリン、4,4’-[オキシビス(3,1-フェニレンオキシ)]ビスアニリン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル(BAPE)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン(BAPK)、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)等が挙げられる。これらの中でも,一般式(2)中のn
3が0であるものが好ましく、例えば4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−DAPE)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、1,4-ビス(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−Q)、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)が好ましい。
【0054】
ただし、本発明の目的を阻害しない限り、ポリイミドの原料として通常用いられる他のジアミンを併用することも可能である。他のジアミンとしては、例えば、p‐フェニレンジアミン(p−PDA)、m‐フェニレンジアミン(m−PDA)等が挙げられる。
【0055】
非熱可塑性ポリイミドに含まれるテトラカルボン酸残基としては、特に制限はないが、例えば、ピロメリット酸二無水物(PMDA)から誘導されるテトラカルボン酸残基(以下、PMDA残基ともいう。)、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)から誘導されるテトラカルボン酸残基(以下、BPDA残基ともいう。)が好ましく挙げられる。これらのテトラカルボン酸残基は、秩序構造を形成しやすくすることができる。また、PMDA残基は、CTEの制御とガラス転移温度の制御の役割を担う残基である。更に、BPDA残基は、テトラカルボン酸残基の中でも極性基がなく比較的分子量が大きいため、非熱可塑性ポリイミドのイミド基濃度を下げ、絶縁樹脂層の吸湿を抑制する効果も期待できる。このような観点から、PMDA残基及び/又はBPDA残基の合計量が、非熱可塑性ポリイミドに含まれる全テトラカルボン酸残基の100モル部に対して、好ましくは50モル部以上、より好ましくは60〜100モル部の範囲内、最も好ましくは80〜100モル部の範囲内であることがよい。含有量が50モル部未満となるとCTEが増大し、寸法安定性が悪化する。
【0056】
非熱可塑性ポリイミドに含まれる他のテトラカルボン酸残基としては、例えば、2,3',3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、2,3',3,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-、2,3,3',4'-又は3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4'-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3'',4,4''-、2,3,3'',4''-又は2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-又は3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2,7,8-、1,2,6,7-又は1,2,9,10-フェナンスレン-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、2,3,5,6-シクロヘキサン二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,6-又は2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-(又は1,4,5,8-)テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-(又は2,3,6,7-)テトラカルボン酸二無水物、2,3,8,9-、3,4,9,10-、4,5,10,11-又は5,6,11,12-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルメタン二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基が挙げられる。
【0057】
上記酸無水物及びジアミンの種類や、2種以上の酸無水物又はジアミンを使用する場合、それぞれのモル比を選定することにより、非熱可塑性ポリイミドのCTE、靭性、熱膨張性、接着性、ガラス転移温度(Tg)等を制御することができる。また、非熱可塑性ポリイミドにおいて、ポリイミドの構造単位を複数有する場合は、ブロックとして存在しても、ランダムに存在していてもよいが、ランダムに存在することが好ましい。
【0058】
非熱可塑性ポリイミドのイミド基濃度は、35重量%以下であることが好ましい。ここで、「イミド基濃度」は、ポリイミド中のイミド基部(−(CO)
2−N−)の分子量を、ポリイミドの構造全体の分子量で除した値を意味する。イミド基濃度が35重量%を超えると、樹脂自体の分子量が小さくなるとともに、極性基の増加によって低吸湿性も悪化する。上記酸無水物とジアミン化合物の組み合わせを選択することによって、非熱可塑性ポリイミド中の分子の配向性を制御することで、イミド基濃度低下に伴うCTEの増加を抑制し、低吸湿性を担保している。
【0059】
非熱可塑性ポリイミドの重量平均分子量は、例えば10,000〜400,000の範囲内が好ましく、50,000〜350,000の範囲内がより好ましい。重量平均分子量が10,000未満であると、絶縁樹脂層の強度が低下して脆化しやすい傾向となる。一方、重量平均分子量が400,000を超えると、過度に粘度が増加して塗工作業の際に厚みムラ、スジ等の不良が発生しやすい傾向になる。
【0060】
(熱可塑性ポリイミド)
本実施の形態において、熱可塑性ポリイミド層を構成する熱可塑性ポリイミドは、テトラカルボン酸残基及びジアミン残基を含み、これらがいずれも芳香族基を含むことが好ましい。熱可塑性ポリイミドに含まれるテトラカルボン酸残基及びジアミン残基が、いずれも芳香族基を含むことによって、耐熱性を担保することができる。
【0061】
本実施の形態において、熱可塑性ポリイミドに含まれるジアミン残基としては、上記一般式(2)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を含有することが好ましい。一般式(2)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基は、全ジアミン残基の100モル部に対して、50モル部以上であることが好ましく、70〜100モル部の範囲内であることがより好ましく、80〜100モル部の範囲内が最も好ましい。一般式(2)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を、全ジアミン残基の100モル部に対して50モル部以上含むことによって、熱可塑性ポリイミド層に柔軟性と接着性を付与し、金属層に対する接着層として機能させることができる。また、一般式(2)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基の中でも、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−DAPE)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)が特に好ましい。これらのジアミン化合物から誘導されるジアミン残基は屈曲性の部位を有するので、絶縁樹脂層の弾性率を低下させ、柔軟性を付与することができる。
【0062】
本実施の形態において、熱可塑性ポリイミドに含まれる、上記一般式(2)以外のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基としては、例えば、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)、2,2’−ジエチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−EB)、2,2’−ジエトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル(m−EOB)、2,2’−ジプロポキシ−4,4’−ジアミノビフェニル(m−POB)、2,2’−n−プロピル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−NPB)、2,2’−ジビニル−4,4’−ジアミノビフェニル(VAB)、4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(TFMB)、p‐フェニレンジアミン(p−PDA)、m‐フェニレンジアミン(m−PDA)等のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を挙げることができる。
【0063】
熱可塑性ポリイミドに含まれるテトラカルボン酸残基としては、特に制限はないが、例えば、ピロメリット酸二無水物(PMDA)から誘導されるテトラカルボン酸残基(以下、PMDA残基ともいう。)、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)から誘導されるテトラカルボン酸残基(以下、BPDA残基ともいう。)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(以下、BTDA残基ともいう。)が好ましく挙げられる。これらのテトラカルボン酸残基は、秩序構造を形成しやすく、高温環境下での寸法変化率を小さくすることができる。また、PMDA残基は、CTEの制御とガラス転移温度の制御の役割を担う残基である。更に、BPDA残基は、テトラカルボン酸残基の中でも極性基がなく比較的分子量が大きいため、熱可塑性ポリイミドのイミド基濃度を下げ、絶縁樹脂層の吸湿を抑制する効果も期待できる。更に、BTDA残基は適度な屈曲性をもつことから、CTEを大きく増加させることなく柔軟性を付与することができる。このような観点から、PMDA残基、BPDA残基及び/又はBTDA残基の合計量が、熱可塑性ポリイミドに含まれる全テトラカルボン酸残基の100モル部に対して、好ましくは50モル部以上、より好ましくは60〜100モル部の範囲内、最も好ましくは80〜100モル部の範囲内であることがよい。
【0064】
熱可塑性ポリイミドに含まれる他のテトラカルボン酸残基としては、上記非熱可塑性ポリイミドで例示したものと同様の芳香族テトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基が挙げられる。
【0065】
熱可塑性ポリイミドにおいて、上記テトラカルボン酸残基及びジアミン残基の種類や、2種以上のテトラカルボン酸残基又はジアミン残基を含有する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、CTE、引張弾性率、ガラス転移温度等を制御することができる。また、熱可塑性ポリイミドにおいて、ポリイミドの構造単位を複数有する場合は、ブロックとして存在しても、ランダムに存在していてもよいが、ランダムに存在することが好ましい。
【0066】
熱可塑性ポリイミドのイミド基濃度は、35重量%以下であることが好ましい。ここで、「イミド基濃度」は、ポリイミド中のイミド基部(−(CO)
2−N−)の分子量を、ポリイミドの構造全体の分子量で除した値を意味する。イミド基濃度が35重量%を超えると、樹脂自体の分子量が小さくなるとともに、極性基の増加によって低吸湿性も悪化する。上記酸無水物とジアミン化合物の組み合わせを選択することによって、熱可塑性ポリイミド中の分子の配向性を制御することで、イミド基濃度低下に伴うCTEの増加を抑制し、低吸湿性を担保している。
【0067】
熱可塑性ポリイミドの重量平均分子量は、例えば10,000〜600,000の範囲内が好ましく、50,000〜500,000の範囲内がより好ましい。重量平均分子量が10,000未満であると、絶縁樹脂層の強度が低下して脆化しやすい傾向となる。一方、重量平均分子量が600,000を超えると、過度に粘度が増加して塗工作業の際に厚みムラ、スジ等の不良が発生しやすい傾向になる。
【0068】
(非熱可塑性ポリイミド及び熱可塑性ポリイミドの合成)
一般にポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物と、ジアミン化合物を溶媒中で反応させ、ポリアミド酸を生成したのち加熱閉環させることにより製造できる。例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物をほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、0〜100℃の範囲内の温度で30分〜24時間撹拌し重合反応させることでポリイミドの前駆体であるポリアミド酸が得られる。反応にあたっては、生成する前駆体が有機溶媒中に5〜30重量%の範囲内、好ましくは6〜20重量%の範囲内となるように反応成分を溶解する。重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、2−ブタノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、クレゾール等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。また、このような有機溶媒の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応によって得られるポリアミド酸溶液の濃度が5〜30重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0069】
合成されたポリアミド酸は、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、ポリアミド酸は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。ポリアミド酸の溶液の粘度は、500cps〜100,000cpsの範囲内であることが好ましい。この範囲を外れると、コーター等による塗工作業の際にフィルムに厚みムラ、スジ等の不良が発生し易くなる。ポリアミド酸をイミド化させる方法は、特に制限されず、例えば前記溶媒中で、80〜400℃の範囲内の温度条件で1〜24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。
【0070】
<金属層>
金属層を構成する金属としては、例えば、銅、アルミニウム、ステンレス、鉄、銀、パラジウム、ニッケル、クロム、モリブデン、タングステン、ジルコニウム、金、コバルト、チタン、タンタル、亜鉛、鉛、錫、シリコン、ビスマス、インジウム又はこれらの合金などから選択される金属を挙げることができる。金属層は、例えば、スパッタ、蒸着、めっき等の方法で形成することもできるが、接着性の観点から金属箔を用いることが好ましい。導電性の点で特に好ましいものは銅箔である。銅箔は、電解銅箔、圧延銅箔のいずれでもよい。なお、本実施の形態の金属張積層板を連続的に生産する場合には、金属箔として、所定の厚さのものがロール状に巻き取られた長尺状の金属箔が用いられる。
【0071】
金属層は、少なくとも熱可塑性ポリイミド層と接する側の表面に、ニッケル、亜鉛及びコバルトを含む防錆層を有する銅箔であることが好ましい。この場合、銅箔少なくとも熱可塑性ポリイミド層と接する側の表面粗さRzが1.0μm以下であることが好ましく、0.6μm以下であることがより好ましい。銅箔の表面粗さRzが1.0μmを超えると、全体厚さが15μm以下、特に12μm以下である極薄の絶縁樹脂層において、銅箔に接する熱可塑性ポリイミド層が損傷し、絶縁性、ピール強度等に不具合が生じる。
【0072】
本実施の形態の金属張積層板は、金属層をエッチング除去して得られる絶縁樹脂フィルムにおいて、23℃、湿度50%RHの条件下で、24時間調湿後の50mm角の前記絶縁樹脂フィルムを、その中央部の凸面が平らな面上に接するように静置したとき、4角の浮き上がり量の平均値を算出して得られるカール量が、10mm以下であることが好ましく、8mm以下がより好ましく、5mm以下が最も好ましい。カール量が10mmを超えると、ハンドリング性が低下するとともに、回路加工時の寸法精度維持が困難になる。
【0073】
本実施の形態の金属張積層板の幅(つまり、TD方向の長さ)は、470mm以上であることが好ましく、470〜1200mmの範囲内であることがより好ましい。一般に、金属張積層板の幅(つまり、TD方向の長さ)が大きくなるほど、寸法安定性と面内等方性の制御が困難になってばらつきが大きくなる傾向がある。このことから、本発明は、幅が470mm以上である金属張積層板への適用において特に有用であり、発明の効果が大きく発揮されることになる。また、幅が1200mmを越えると面内の寸法安定性や厚みのばらつきが大きくなり、例えばFPC等への加工時に不具合が発生しやすくなり歩留りが悪化する傾向になる。
【0074】
以下、金属張積層板の好ましい実施の形態として、銅層を有する銅張積層板を挙げて、説明する。
【0075】
<銅張積層板>
本実施の形態の銅張積層板は、絶縁樹脂層と、該絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に銅箔等の銅層を備えていればよい。また、絶縁樹脂層と銅層の接着性を高めるために、絶縁樹脂層における銅層に接する層が、熱可塑性ポリイミド層である。絶縁樹脂層は、上記金属張積層板について説明したものと同様の構成を有している。
銅層は、絶縁樹脂層の片面又は両面に設けられている。つまり、本実施の形態の銅張積層板は、片面銅張積層板(片面CCL)でもよいし、両面銅張積層板(両面CCL)でもよい。片面CCLの場合、絶縁樹脂層の片面に積層された銅層を、本発明における「第1の銅層」とする。両面CCLの場合、絶縁樹脂層の片面に積層された銅層を、本発明における「第1の銅層」とし、絶縁樹脂層において、第1の銅層が積層された面とは反対側の面に積層された銅層を、本発明における「第2の銅層」とする。なお、「第2の銅層」は、絶縁樹脂層を基準にして第1の銅層とは反対側に積層された「他の金属層」に相当する。本実施の形態の銅張積層板は、銅層をエッチングするなどして配線回路加工して銅配線を形成し、FPCとして使用される。
【0076】
銅張積層板は、例えばポリイミドの樹脂フィルムを用意し、これに金属をスパッタリングしてシード層を形成した後、例えば銅メッキによって銅層を形成することによって調製してもよい。
【0077】
また、銅張積層板は、ポリイミドの樹脂フィルムを用意し、これに銅箔を熱圧着などの方法でラミネートすることによって調製してもよい。
【0078】
さらに、銅張積層板は、銅箔の上にポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を含有する塗布液をキャストし、乾燥して塗布膜とした後、熱処理してイミド化し、ポリイミド層を形成することによって調製してもよい。キャスト法によって複数のポリイミド層からなる絶縁樹脂層を形成する場合は、ポリアミド酸の塗布液を順次塗布することができる。例えば、ポリイミド層が3層構造である場合は、銅箔上に熱可塑性ポリイミドの前駆体層、非熱可塑性ポリイミドの前駆体層、熱可塑性ポリイミドの前駆体層がこの順に積層されるように順次ポリアミド酸の塗布液を塗布した後、熱処理してイミド化する方法が好ましい。
【0079】
(第1の銅層)
本実施の形態の銅張積層板において、第1の銅層に使用される銅箔(以下、「第1の銅箔」と記すことがある)は、特に限定されるものではなく、例えば、圧延銅箔でも電解銅箔でもよい。
【0080】
第1の銅箔の厚みは、例えば高密度実装や屈曲性が求められる場合においては、好ましくは35μm以下であり、より好ましくは6〜18μmの範囲内がよい。第1の銅箔の厚みが35μmを超えると、銅張積層板(又はFPC)を折り曲げた際の銅層(又は銅配線)に加わる曲げ応力が大きくなることにより耐折り曲げ性が低下することとなる。また、生産安定性及びハンドリング性の観点から、第1の銅箔の厚みの下限値は6μmとすることが好ましい。また、例えばパワーモジュールやLEDの基板等、放熱性が求められる用途においては、第1の銅箔の厚みは、好ましくは18μm以上、より好ましくは18μm〜50μmの範囲内、さらに好ましくは35μm〜50μmの範囲内がよい。放熱性が求められる用途においては、実装されるデバイスの要求電力から、大電流が求められる場合が多く、金属層の厚みを厚くすることが好ましく、金属層の厚みが18μm未満ではデバイスへの供給電流に制限が発生し、50μmを越えると加工性が悪化する傾向になる。
【0081】
また、第1の銅箔の引張弾性率は、例えば、50〜300GPaの範囲内であることが好ましく、70〜250GPaの範囲内がより好ましい。本実施の形態で第1の銅箔として圧延銅箔を使用する場合は、熱処理によってアニールされると、柔軟性が高くなりやすい。従って、銅箔の引張弾性率が上記下限値に満たないと、長尺な第1の銅箔上に絶縁樹脂層を形成する工程において、加熱によって第1の銅箔自体の剛性が低下してしまう。一方、引張弾性率が上記上限値を超えるとFPCを折り曲げた際に銅配線により大きな曲げ応力が加わることとなり、その耐折り曲げ性が低下する。なお、圧延銅箔は、銅箔上に絶縁樹脂層を形成する際の熱処理条件や、絶縁樹脂層を形成した後の銅箔のアニール処理などにより、その引張弾性率が変化する傾向がある。従って、本実施の形態では、最終的に得られた銅張積層板において、第1の銅箔の引張弾性率が上記範囲内にあればよい。
【0082】
第1の銅箔は、特に限定されるものではなく、市販されている圧延銅箔を用いることができる。
【0083】
(第2の銅層)
第2の銅層は、絶縁樹脂層における第1の銅層とは反対側の面に積層されている。第2の銅層に使用される銅箔(第2の銅箔)としては、特に限定されるものではなく、例えば、圧延銅箔でも電解銅箔でもよい。また、第2の銅箔として、市販されている銅箔を用いることもできる。なお、第2の銅箔として、第1の銅箔と同じものを使用してもよい。
【0084】
以上のように、本実施の形態の金属張積層板は、絶縁樹脂層の厚さが15μm以下、好ましくは12μm以下の極薄層でありながら、高い寸法安定性と面内等方性を有し、金属層の接着性に優れた絶縁樹脂層を有しており、カールも抑制されたものである。そのため、回路加工工程、基板積層工程及び部品実装工程の際の環境変化(例えば高温・高圧環境、湿度変化など)による寸法変化やカールが効果的に抑制される。また、絶縁樹脂層の厚さが15μm以下、好ましくは12μm以下であるため、金属張積層板から得られるFPC等の回路基板の高密度実装が可能である。従って、本実施の形態の金属張積層板を回路基板材料として利用することによって、電子機器の微細化への対応が可能であるとともに、回路基板の信頼性と歩留まりの向上を図ることができる。また、絶縁樹脂層が薄く、金属層との接着性も優れていることからパワーモジュールやLEDの基板等、放熱性が求められる用途においても有用である。
【0085】
<回路基板>
本実施の形態の金属張積層板は、主にFPC等の回路基板の材料として有用である。例えば、上記に例示の銅張積層板の銅層を常法によってパターン状に加工して配線層を形成することによって、本発明の一実施の形態であるFPC等の回路基板を製造できる。また、本発明の一実施の形態であるFPC等の回路基板を複数層に積層した多層回路基板やリジッドフレキシブル基板(リジッドFPC)を製造できる。
【0086】
また、本発明の一実施の形態であるFPC等の回路基板は絶縁樹脂層が薄いため、例えばパワーモジュールやLEDの基板等、放熱性が求められる用途においても有用な材料となる。このような用途においては、デバイスへの供給電流を増やすために、金属層の厚みを厚くしてもよい。さらに、放熱性を高めるために絶縁樹脂層の厚みを薄くしてもよい。絶縁樹脂層を薄くする場合、絶縁樹脂層の厚みは好ましくは2μm〜9μmの範囲内、より好ましくは2μm〜5μmの範囲内がよい。絶縁樹脂層の厚みが9μmを越えると放熱性が損なわれ、2μm未満では回路加工時の破れや、FPCとして加工後に絶縁性が担保できなくなるなど不具合が懸念される。
【実施例】
【0087】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0088】
[粘度の測定]
E型粘度計(ブルックフィールド社製、商品名;DV−II+Pro)を用いて、25℃における粘度を測定した。トルクが10%〜90%になるよう回転数を設定し、測定を開始してから2分経過後、粘度が安定した時の値を読み取った。
【0089】
[重量平均分子量の測定]
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(東ソー株式会社製、商品名;HLC−8220GPC)により測定した。標準物質としてポリスチレンを用い、展開溶媒にはN,N−ジメチルアセトアミドを用いた。
【0090】
[貯蔵弾性率の測定]
5mm×20mmのサイズのポリイミドフィルムを、動的粘弾性測定装置(DMA:ユー・ビー・エム社製、商品名;E4000F)を用いて、30℃から400℃まで昇温速度4℃/分、周波数11Hzで測定を行い、30℃における貯蔵弾性率が1.0×10
9Pa以上であり、360℃における貯蔵弾性率が1.0×10
8Pa未満を示すものを「熱可塑性」とし、30℃における貯蔵弾性率が1.0×10
9Pa以上であり、360℃における貯蔵弾性率が1.0×10
8Pa以上を示すものを「非熱可塑性」とした。
【0091】
[熱膨張係数(CTE)の測定]
3mm×20mmのサイズのポリイミドフィルムを、サーモメカニカルアナライザー(Bruker社製、商品名;4000SA)を用い、5.0gの荷重を加えながら一定の昇温速度で30℃から265℃まで20℃/分の速度で昇温させ、更にその温度で10分保持した後、5℃/分の速度で冷却し、250℃から100℃までの平均熱膨張係数(熱膨張係数)を求めた。
【0092】
[銅箔の表面粗度の測定]
銅箔の表面粗度は、AFM(ブルカー・エイエックスエス社製、商品名:Dimension Icon型SPM)、プローブ(ブルカー・エイエックスエス社製、商品名:TESPA(NCHV)、先端曲率半径10nm、ばね定数42N/m)を用いて、タッピングモードで、銅箔表面の80μm×80μmの範囲について測定し、十点平均粗さ(Rz)を求めた。
【0093】
[リタデーションReと厚み方向の複屈折Δn(xy-z)について]
厚み方向の複屈折Δn(xy-z)は、複屈折率計(フォトニックラティス社製、商品名;ワイドレンジ複屈折評価システムWPA−100、測定エリア;MD:20mm×TD:15mm)を用いて測定した。厚み方向の複屈折Δn(xy-z)は、公知の偏光状態制御装置(例えば、特開2016−126804号公報を参考)により、後述するリタデーションReを測定し、その測定結果から算出した。
【0094】
まず、リタデーションReの評価方法について説明する。
図1は、リタデーションReの評価システムの一部を示す説明図である。
リタデーションReの評価システムは、複屈折・位相差評価装置(株式会社フォトニックラティス社製、WPA−100)と、試料に入射する光の入射角θ
1を変更するために試料を回転させる図示しない回転装置によって構成されている。
図1において、符号20は、試料を示し、符号21は、複屈折・位相差評価装置の光源を示し、符号22は、複屈折・位相差評価装置の受光部を示している。光源21が出射する光の波長は、543nmである。試料20は、固定用の枠に支持された状態で、図示しない回転装置に固定されている。
【0095】
リタデーションReは、図示しない回転装置によって、前述の枠に支持された試料20の傾斜角度を変えることによって、試料20に入射する光の入射角θ
1を変化させながら測定した(
図2参照)。入射角θ
1は、0°、±30°、±45°、±60°に変化させてそれぞれの角度でリタデーションReを測定した。
【0096】
次に、厚み方向の複屈折Δn(xy-z)の算出方法について説明する。厚み方向の複屈折Δn(xy-z)は、リタデーションReの測定結果を用いて算出した。前述したリタデーション評価システムを用いて、ポリイミドフィルムを評価すると、入射角θ
1、屈折角θ
2は
図2のように示される。
図2において、符号2はポリイミドフィルムを示し、符号2aはポリイミドフィルム2のラミネート面であり、符号2bはポリイミドフィルム2のキャスト面であり、dはポリイミドフィルムの厚みを示す。ここで、ラミネート面2aに入射する前の光を記号L
1で表し、ポリイミドフィルム2中の光を記号L
2で表し、キャスト面2bから出射した光を記号L
3で表す。X軸、Y軸、Z軸はそれぞれ直交し、XY方向はポリイミドフィルムのラミネート面2aと平行な軸であり、Z方向はポリイミドフィルム2のラミネート面2aと直交する軸であり、厚み方向の軸である。
【0097】
以下の式(A)に示されるように、リタデーションReは、厚みdと厚み方向の複屈折Δn(xy-z)と屈折角θ
2に依存する。屈折角θ
2は入射角θ
1に依存する。従って、複数の入射角θ
1について得られた複数のリタデーションReの実測値から、複屈折Δn(xy-z)を算出することができる。
Re=d・Δn(xy-z)・sin
2θ
2 /cosθ
2 ・・・ (A)
ただし、屈折角θ
2は、フィルム内部でのビームとフィルム法線とのなす角であり、入射角θ
1とは、スネルの法則より、θ
2=sin
−1(sinθ
1/N)の関係となる。ここで、dは膜厚、Nは測定サンプルの屈折率である。
なお、Δn(xy-z)は面内方向の屈折率と厚み方向の屈折率の差であり、
Δn(xy-z)=n
xy−n
zを満たす。
n
xy: 面内方向の屈折率
n
z: 厚み方向の屈折率
【0098】
[カール量の測定]
金属張積層板のサンプルから銅箔をエッチング除去し、ポリイミドフィルムを得た後、50mm×50mmのサイズのポリイミドフィルムを、23℃、50%RH下で24時間調湿後、カールしている方向を上面とし、平滑な台上に設置した。その際のカール量についてノギスを用いて測定を行った。この際、フィルムが基材エッチング面側にカールした場合をプラス表記、反対面にカールした場合をマイナス表記とし、フィルムの4角の測定値の平均をカール量とした。
【0099】
[厚み測定]
幅方向において約90mm離れた5点のポイントについて、金属張積層板のサンプルから銅箔をエッチング除去し、ポリイミドフィルムを得た後に厚みを測定した。5点の厚みの平均値を厚みとし、平均値と各点の差異を厚みばらつきとして評価した。
【0100】
[ピール強度の測定]
金属張積層板のサンプルからの銅箔を幅1.0mm、間隔5.0mmのライン&スペースに回路加工した後、幅;8cm×長さ;4cmに切断し、測定サンプル1を調製した。測定サンプル1のキャスト面側のピール強度を以下の方法で測定した。
テンシロンテスター(東洋精機製作所製、商品名;ストログラフVE−1D)を用いて、測定サンプル1の樹脂層側を両面テープによりアルミ板に固定し、銅箔を180°方向に50mm/分の速度で剥離していき、銅箔が樹脂層から10mm剥離したときの中央強度を求めた。
【0101】
実施例及び比較例に用いた略号は、以下の化合物を示す。
BPDA:3,3',4,4'‐ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BTDA:3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
m‐TB:2,2'‐ジメチル‐4,4'‐ジアミノビフェニル
TPE−R:1,3-ビス(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン
TPE−Q:1,4-ビス(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン
DAPE:4,4'-ジアミノジフェニルエーテル
BAPP:2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン
DMAc:N,N‐ジメチルアセトアミド
【0102】
(合成例1)
窒素気流下で、反応槽に、94.1重量部のm−TB(0.40モル部)及び14.3重量部のTPE−R(0.05モル部)並びに重合後の固形分濃度が7.5重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、29.4重量部のBPDA(0.10モル部)及び87.1重量部のPMDA(0.4モル部)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリイミド前駆体樹脂液aを得た。ポリイミド前駆体樹脂液aの溶液粘度は12,000cps、重量平均分子量は250,000であった。
【0103】
(合成例2)
窒素気流下で、反応槽に、77.8重量部のBAPP(0.19モル部)及び重合後の固形分濃度が6.0重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、2.8重量部のBPDA(0.01モル部)及び39.4重量部のPMDA(0.18モル部)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリイミド前駆体樹脂液bを得た。ポリイミド前駆体樹脂液bの溶液粘度は700cps、重量平均分子量は261,000であった。
【0104】
(合成例3)
窒素気流下で、反応槽に、53.5重量部のDAPE(0.27モル部)及び重合後の固形分濃度が7.0重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、86.7重量部のBTDA(0.27モル部)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリイミド前駆体樹脂液cを得た。ポリイミド前駆体樹脂液cの溶液粘度は1,200cps、重量平均分子量は140,000であった。
【0105】
(合成例4)
窒素気流下で、反応槽に、35.96重量部のm−TB(0.1691モル部)、2.75重量部のTPE−Q(0.0094モル部)及び3.86重量部のBAPP(0.0094モル部)並びに重合後の固形分濃度が15.0重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、20.18重量部のPMDA(0.0925モル部)及び27.26重量部のBPDA(0.0925モル部)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリイミド前駆体樹脂液dを得た。ポリイミド前駆体樹脂液dの溶液粘度は25,000cps、重量平均分子量は220,000であった。
【0106】
(合成例5)
窒素気流下で、反応槽に、5.63重量部のm−TB(0.0265モル部)及び30.96重量部のTPE−R(0.1059モル部)並びに重合後の固形分濃度が15.0重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、8.53重量部のPMDA(0.0391モル部)及び26.88重量部のBPDA(0.0913モル部)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリイミド前駆体樹脂液eを得た。ポリイミド前駆体樹脂液eの溶液粘度は3,000cps、重量平均分子量は120,000であった。
【0107】
(実施例1)
銅箔1(電解銅箔、福田金属箔粉工業社製、商品名;T49−DS―HD2、厚さ;12μm)の粗化処理面(Rz=0.6μm)に、ポリイミド前駆体樹脂液bをダイコーターによって塗工幅500mmで均一に塗布したのち、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。次に、その上に積層するようにポリイミド前駆体樹脂液aをダイコーターによって塗工幅500mmで均一に塗布し、90〜125℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。更に、ポリイミド前駆体樹脂液a層上にポリイミド前駆体樹脂液c をダイコーターによって塗工幅500mmで均一に塗布し、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。この後、室温から320℃ まで段階的な昇温プロセスで約30分かけて熱処理しイミド化させ、3層のポリイミド系樹脂層からなる合計厚み約4.5μm(厚みばらつき±0.3μm以内)の絶縁樹脂層が銅箔1上に形成された金属張積層板1を得た。銅箔1上に塗布したポリイミド前駆体樹脂液の硬化後厚みは、b/a/cの順に、約0.8μm/約2.9μm/約0.8μmである。この金属張積層板1の評価結果は以下のとおりである。
厚み方向複屈折Δn(xy-z);0.113
CTE
MD;20ppm/K
CTE
TD;20ppm/K
フィルムカール量;1.8mm
キャスト面側とラミネート面側の熱可塑性ポリイミド層の厚み比;T3/T1=1.0
熱可塑性層の割合;(T1+T3)/(T1+T2+T3)=0.36
ピール強度;0.6kN/m
【0108】
(実施例2)
銅箔1の粗化処理面に、ポリイミド前駆体樹脂液bをダイコーターによって塗工幅500mmで均一に塗布したのち、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。次に、その上に積層するようにポリイミド前駆体樹脂液aをダイコーターによって塗工幅500mmで均一に塗布し、90〜125℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。更に、ポリイミド前駆体樹脂液a層上にポリイミド前駆体樹脂液b をダイコーターによって塗工幅500mmで均一に塗布し、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。この後、室温から320℃ まで段階的な昇温プロセスで約30分かけて熱処理しイミド化させ、3層のポリイミド系樹脂層からなる合計厚み約11.8μm(厚みばらつき±0.3μm以内)の絶縁樹脂層が銅箔1上に形成された金属張積層板2を得た。銅箔1上に塗布したポリイミド前駆体樹脂液の硬化後厚みは、b/a/bの順に、約1.8μm/約8.0μm/約2.0μmである。この金属張積層板2の評価結果は以下のとおりである。
厚み方向複屈折Δn(xy-z);0.131
CTE
MD;23ppm/K
CTE
TD;23ppm/K
フィルムカール量;-1.0mm
キャスト面側とラミネート面側の熱可塑性ポリイミド層の厚み比;T3/T1=1.1
熱可塑性層の割合;(T1+T3)/(T1+T2+T3)=0.32
ピール強度;0.9kN/m
【0109】
(実施例3)
銅箔1の粗化処理面に、ポリイミド前駆体樹脂液bをダイコーターによって塗工幅500mmで均一に塗布したのち、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。次に、その上に積層するようにポリイミド前駆体樹脂液aをダイコーターによって塗工幅500mmで均一に塗布し、90〜125℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。更に、ポリイミド前駆体樹脂液a層上にポリイミド前駆体樹脂液bをダイコーターによって塗工幅500mmで均一に塗布し、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。この後、室温から320℃ まで段階的な昇温プロセスで約25分かけて熱処理しイミド化させ、3層のポリイミド系樹脂層からなる合計厚み約11.1μm(厚みばらつき±0.3μm以内)の絶縁樹脂層が銅箔1上に形成された金属張積層板3を得た。銅箔1上に塗布したポリイミド前駆体樹脂液の硬化後厚みは、b/a/bの順に、約2.1μm/約6.8μm/約2.2μmである。この金属張積層板3の評価結果は以下のとおりである。
厚み方向複屈折Δn(xy-z);0.138
CTE
MD;27ppm/K
CTE
TD;27ppm/K
フィルムカール量;9.3mm
キャスト面側とラミネート面側の熱可塑性ポリイミド層の厚み比;T3/T1=1.0
熱可塑性層の割合;(T1+T3)/(T1+T2+T3)=0.39
ピール強度;0.9kN/m
【0110】
(参考例1)
銅箔1の粗化処理面に、ポリイミド前駆体樹脂液eをダイコーターによって塗工幅500mmで均一に塗布したのち、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。次に、その上に積層するようにポリイミド前駆体樹脂液dをダイコーターによって塗工幅500mmで均一に塗布し、90〜125℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。更に、ポリイミド前駆体樹脂液d層上にポリイミド前駆体樹脂液eをダイコーターによって塗工幅500mmで均一に塗布し、135℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。この後、室温から320℃ まで段階的な昇温プロセスで約30分かけて熱処理しイミド化させ、3層のポリイミド系樹脂層からなる合計厚み約24.1μm(厚みばらつき±0.3μm以内)の絶縁樹脂層が銅箔1上に形成された金属張積層板4を得た。銅箔1上に塗布したポリイミド前駆体樹脂液の硬化後厚みは、e/d/eの順に、約2.0μm/約19.3μm/約2.8μmである。この金属張積層板4の評価結果は以下のとおりである。
厚み方向複屈折Δn(xy-z);0.142
CTE
MD;23ppm/K
CTE
TD;23ppm/K
フィルムカール量;0.5mm
キャスト面側とラミネート面側の熱可塑性ポリイミド層の厚み比;T3/T1=1.4
熱可塑性層の割合;(T1+T3)/(T1+T2+T3)=0.20
ピール強度;>1.0kN/m
【0111】
(比較例1)
銅箔1にポリイミド前駆体樹脂液aをダイコーターによって塗工幅500mmで均一に塗布し、90〜125℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。この後、室温から280℃まで約5分かけて段階的に昇温しイミド化させ、厚み約5.2μm(厚みばらつき±0.3μm)の絶縁樹脂層が銅箔1上に形成された金属張積層板5を得た。この金属張積層板5の評価結果は以下のとおりである。
厚み方向複屈折Δn(xy-z);0.123
CTE
MD;22ppm/K
CTE
TD;21ppm/K
フィルムカール量;20mm以上(フィルムが丸まり測定不可)
ピール強度;0.2kN/m
【0112】
(比較例2)
銅箔1にポリイミド前駆体樹脂液aをダイコーターによって塗工幅500mmで均一に塗布し、90〜125℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。この後、室温から320℃まで約30分かけて熱処理しイミド化させ、厚み約4.1μm(厚みばらつき±0.3μm)の絶縁樹脂層が銅箔1上に形成された金属張積層板6を得た。この金属張積層板6の評価結果は以下のとおりである。
厚み方向複屈折Δn(xy-z);0.140
CTE
MD;1ppm/K
CTE
TD;1ppm/K
フィルムカール量;2mm
ピール強度;0.3kN/m
【0113】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。