【解決手段】本発明に係るカーボンナノチューブ線材10は、複数のカーボンナノチューブ11aで構成されるカーボンナノチューブ集合体11からなる。また、複数のカーボンナノチューブ11aの平均長さが15μm以上である。また、カーボンナノチューブ線材10において、カーボンナノチューブ線材の外側におけるヘルマンの配向係数が、0.75以上であり、且つ外側におけるヘルマンの配向係数と内側におけるヘルマンの配向係数との差の絶対値が0.05以下である。また、カーボンナノチューブ線材10におけるラマンスペクトルのGバンドに対する結晶性に由来するDバンドの比であるG/D比が70以上である。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、「CNT」ということがある。)は、様々な特性を有する素材であり、多くの分野への応用が期待されている。
【0003】
例えば、CNTは、軽量であると共に、導電性、熱伝導性、機械的強度等の諸特性に優れるため、線材の材料として用いることが考えられる。
【0004】
CNTを線材として使用する場合、CNTの高配向化・高密度化が高導電化に寄与することが知られている。また、アスペクト比が高いCNTは、CNT単体の導電性が高いことも公知であり、高いアスペクト比を有するCNTの使用は高い導電性のCNT線材の作製に有効であると考えられる。しかしながら、アスペクト比が高い、すなわち長いCNTを使用すると、CNT同士の絡まりが強いため、さらなる高導電化、高強度化が期待できる一方で、高配向化が難しい。そのため、高いアスペクト比を有するCNTを高配向化させる技術の開発が望まれている。
【0005】
また、CNT線材の製造方法の1つに、CNTを含む分散液を作製し、その分散液を凝固液(溶剤)中にてノズル等を介して吐出し、固化しながら繊維化する湿式紡糸が知られている。湿式紡糸では、凝固液中でCNT分散液を押出(吐出)して糸状のCNT線材を形成させるため、低粘度のCNT分散液を用いることも可能である。しかしながら、電線用途として高導電性のCNT線を作製するためには、長いCNTを分散させた高濃度のCNT分散液を用いてCNT密度の高い線材を作製する必要がある。また、通常の湿式紡糸で作製したCNTはランダムに配向しているため、高濃度のCNT分散液を用いた場合、CNTが絡まりやすく、配向性がランダムとなる傾向がより顕著になる。さらに、ノズル内での流速の違い、凝固の速さの違い等により、押出の際、糸状のCNT線材の外側と中心部では配向度の差が生じやすく、また、押出により凝固液中に気泡が発生すると、これに起因して空隙率の増大を招き、配向ムラ・密度ムラが生じるおそれがある。そのため、従来の湿式紡糸では、高い配向性を有するCNT線材の作製は困難であった。
【0006】
特許文献1には、長尺でアスペクト比が高いCNTを含む分散液は、CNTが互いに絡み合いネットワーク構造を容易に形成するため、粘度が高く、また、せん断応を加えるとネットワーク構造が解体され、CNT分散液の粘度が下がることが記載されている。しかしながら、CNTの配向性については記載されていない。また、CNT分散液中に導電性を阻害する要因である樹脂が含まれているため、導電性が劣ってしまうことが予想される。
【0007】
非特許文献1には、CNTに高いせん断力を加えて作製した水平配向膜が記載されている。しかしながら、使用したCNTは、平均長さが420nm以下の短いCNTであるため、平均長さが10μm以上の長いCNTを含む配向膜は得られていない。そのため、CNT同士の絡まりは比較的弱く、導電性、強度をさらに向上させる余地がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記事情に鑑み、本発明の目的は、比較的長いカーボンナノチューブを含み、配向性、導電性及び強度に優れたカーボンナノチューブ線材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記問題に対して鋭意検討を行った結果、カーボンナノチューブを含む分散液に高いせん断力を負荷しながらカーボンナノチューブの塗布膜を作製することにより、比較的長いカーボンナノチューブ同士が絡まった状態で、これらがせん断方向に沿って配向されるとの知見を得た。また、得られた塗布膜を、該塗布膜に含まれるカーボンナノチューブの配向方向がカーボンナノチューブ線材の長手方向と平行になるように半乾きの状態でロール状に巻くことで、カーボンナノチューブ線材の外側と内側で配向度の差がほとんどなく、隣り合ったカーボンナノチューブ層同士がカーボンナノチューブのファンデルワールス力により強固に結合するとの知見を得た。このような製法により得られたカーボンナノチューブ線材は、空隙率が少ない上、配向性が高く、さらには、比較的長いカーボンナノチューブ同士が互いに強く絡み合ったネットワーク構造を形成するため、導電性及び強度に優れたカーボンナノチューブ線材が得られることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明の要旨構成は、以下の通りである。
[1] 複数のカーボンナノチューブで構成されるカーボンナノチューブ集合体からなるカーボンナノチューブ線材であって、
前記複数のカーボンナノチューブの平均長さが15μm以上であり、
前記カーボンナノチューブ線材において、前記カーボンナノチューブ線材の円相当半径をR、同心円でR/√2の半径を有する部分の範囲をカーボンナノチューブ線材の内側、同心円で前記カーボンナノチューブ線材の内側を除いた部分の範囲をカーボンナノチューブ線材の外側としたとき、走査型電子顕微鏡で観察し得られた画像を高速フーリエ変換した画像を解析し算出されるヘルマンの配向係数が、前記カーボンナノチューブ線材の外側で0.75以上であり、且つ前記カーボンナノチューブ線材の外側におけるヘルマンの配向係数と前記カーボンナノチューブ線材の内側におけるヘルマンの配向係数との差の絶対値が0.05以下であり、かつ、
前記カーボンナノチューブ線材において、ラマンスペクトルのGバンドに対する結晶性に由来するDバンドの比であるG/D比が70以上であることを特徴とするカーボンナノチューブ線材。
[2] カーボンナノチューブ線材の径方向における任意の断面積に対する空隙率が10%以下である、[1]に記載のカーボンナノチューブ線材。
[3] 密度が1.4g/cm
3以上である、[1]又は[2]に記載のカーボンナノチューブ線材。
[4] 前記G/D比が80以上である、[1]乃至[3]までのいずれかに記載のカーボンナノチューブ線材。
[5] 前記複数のカーボンナノチューブの平均長さが20μm以上60μm以下である、[1]乃至[4]までのいずれかに記載のカーボンナノチューブ線材。
[6] 空隙の分散度が5.0以下である、[1]乃至[5]までのいずれかに記載のカーボンナノチューブ線材。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、比較的長いカーボンナノチューブ同士が互いに強く絡み合った状態で配向し、カーボンナノチューブ線材の外側と内側で配向度の差がほとんどなく、隣り合ったカーボンナノチューブ層同士がカーボンナノチューブのファンデルワールス力により強固に結合している。そのため、高配向化が図れると共に、長いカーボンナノチューブ同士がより高密度で結合する。これにより、比較的長いカーボンナノチューブを含みつつ、配向性、導電性及び強度に優れたカーボンナノチューブ線材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態例に係るカーボンナノチューブ線材について、図面を用いながら詳細に説明する。
【0016】
<カーボンナノチューブ線材>
図1に示されるように、本発明に係るカーボンナノチューブ線材10は、複数のCNT11a,11a,・・・で構成されるCNT集合体11からなる。CNT集合体11は、1層以上の層構造を有する複数のCNT11a,11a,・・・で構成されており、CNT線材10は、CNT集合体11の単数から、または複数が束ねられて形成されている。ここで、CNT線材とはCNTの割合が90質量%以上のCNT線材を意味する。なお、CNT線材におけるCNT割合の算定においては、メッキとドーパントは除かれる。CNT集合体11の長手方向が、CNT線材10の長手方向を形成しているため、CNT集合体11は、線状となっている。CNT線材10における複数のCNT集合体11,11,・・・は、その長軸方向がほぼ揃って配向している。CNT線材10は、1本のCNT線材10からなる素線(単線)である。素線としてのCNT線材10の直径は、特に限定されないが、例えば、0.005mm以上4.0mm以下である。また、複数本のCNT線材10をさらに撚り合わせることにより、CNT線材10の撚り線を形成することができる。
【0017】
ラマン分光法を用いて炭素系の物質を解析すると、ラマンシフト1590cm
−1付近に、Gバンドと呼ばれる、六員環の面内振動に由来するスペクトルのピークが検出される。一方、Dバンドは、ラマンシフト1350cm
−1付近に現れ、欠陥に由来するスペクトルのピークともいえる。CNT線材10における欠陥量の指標として、ラマンスペクトルのGバンドに対する結晶性に由来するDバンドの比であるG/D比が用いられる。G/D比が大きい程、CNT線材10に欠陥が少ないと判断できる。CNT線材10において、G/D比は70以上であり、80以上であることが好ましい。G/D比が70以上であることにより、欠陥が少なく、導電性及び強度に優れたCNT線材10を得ることができる。
【0018】
[CNT集合体]
CNT集合体11は、複数のCNT11aの束であり、CNT11aの長手方向が、CNT集合体11の長手方向を形成している。CNT集合体11における複数のCNT11a,11a,・・・は、その長軸方向がほぼ揃って配向している。CNT集合体11の円相当直径は、例えば、20nm以上1000nm以下であり、より典型的には、20nm以上80nm以下である。
【0019】
[CNT]
CNT集合体11を構成するCNT11aは、単層構造又は複層構造を有する筒状体が糸状に形成された物質であり、単層構造のCNTはSWNT(single-walled nanotube)、複層構造のCNTはMWNT(multi-walled nanotube)と呼ばれる。
図1では、便宜
上、2層構造を有するCNT11aのみを記載しているが、CNT集合体11には、3層構造を有するCNTまたは単層構造の層構造を有するCNTも含まれていてもよく、3層構造を有するCNTまたは単層構造の層構造を有するCNTから形成されていてもよい。但し、CNTが4層構造以上であると、CNTの径のサイズおよび分布が大きくなり、CNT同士が絡みにくくなる。そのため、CNTは、単層構造、2層構造または3層構造であることが好ましく、単層構造または2層構造であることがより好ましく、2層構造であることがさらに好ましい。
【0020】
2層構造を有するCNT11aでは、六角形格子の網目構造を有する2つの筒状体T1、T2が略同軸で配された3次元網目構造体となっており、DWNT(double-walled nanotube)と呼ばれる。構成単位である六角形格子は、その頂点に炭素原子が配された六員環であり、他の六員環と隣接してこれらが連続的に結合している。
【0021】
CNT11aの性質は、上記筒状体のカイラリティ(chirality)に依存する。カイラ
リティは、アームチェア型、ジグザグ型、及びカイラル型に大別され、アームチェア型は金属性、ジグザグ型は半導体性および半金属性、カイラル型は半導体性および半金属性の挙動を示す。従って、CNT11aの導電性は、筒状体がいずれのカイラリティを有するかによって大きく異なる。
【0022】
一方で、半導体性の挙動を示すカイラル型のCNT11aに電子供与性もしくは電子受容性を持つ物質(異種元素)をドープすることにより、カイラル型のCNT11aが金属性の挙動を示すことが分かっている。また、一般的な金属では、異種元素をドープすることによって金属内部での伝導電子の散乱が起こって導電性が低下するが、これと同様に、金属性の挙動を示すCNT11aに異種元素をドープした場合には、導電性の低下を引き起こす。
【0023】
[CNTの長さ]
複数のCNT11a,11a,・・・において、複数のCNT11a,11a,・・・の平均長さ(以下、単に「平均長さ」ともいう)の下限値は15μm以上であり、20μm以上であることが好ましい。平均長さが15μm未満であると、長いCNTが少な過ぎるため、CNT線材10において、長さ方向(長手方向)の導電パスが短く、優れた導電性を得ることが困難である。また、長いCNT同士の繋がりが少ないため、優れた強度を得ることも困難となる。一方、CNTの平均長さが長いほど、高アスペクト比を有するCNT同士が互いに絡まって繋がりを形成しやすい。これにより、CNT線材10の長さ方向(長手方向)に沿って安定して導電性が付与され、また、CNT同士の絡み合いにより強度も向上する。複数のCNT11a,11a,・・・において、平均長さの上限値は特に制限はないが、長いCNT同士が過剰に絡み合うことを抑制するため、平均長さの上限値は120μm以下であることが好ましく、60μm以下であることが好ましい。特に、複数のCNT11a,11a,・・・の平均長さが20μm以上60μm以下であることにより、CNT線材10の長さ方向(長手方向)の導電パスが高まるため、優れた導電性を確保しやすく、また、複数のCNT11a,11a,・・・が一定の方向に適度に配向しやすい長さであるため、後述する配向性を高めることができる。
【0024】
[CNTの径]
複数のCNT11a,11a,・・・において、複数のCNT11a,11a,・・・
の平均径(以下、単に「平均径」ともいう)は特に限定されるものではないが、2.0nm以下であることが好ましい。これにより、高アスペクト比を有するCNTの割合が増大し、長いCNT同士が互いに絡まって繋がったネットワーク構造を形成しやすくなる。複数のCNT11a,11a,・・・において、平均径の下限値は特に制限はないが、1.0nm以上であることが好ましい。
【0025】
[CNTの配向性]
CNT線材10において、複数のCNT11a,11a,・・・の配向性は、ヘルマンの配向係数により評価することができる。
図2にCNT線材10における配向性の測定部分を示す。
図2(a)は、CNT線材10の短軸方向(径方向)の断面図であり、
図2(b)は、CNT線材10の長軸方向(長さ方向)の断面図である。具体的には、CNT線材10において、CNT線材10の円相当半径をR、同心円でR/√2の半径を有する部分の範囲をCNT線材10の内側20、同心円でCNT線材10の内側20を除いた部分、すなわち、R−(R/√2)の厚さを有する中空円部分の範囲をCNT線材10の外側30としたとき、CNT線材10の外側30における配向度と、CNT線材10の外側30における配向度とCNT線材10の内側20における配向度の差を測定する。これらの配向度は、ヘルマンの配向係数によって評価される。CNT線材10において、ヘルマンの配向係数が、CNT線材10の外側30で0.75以上であり、且つCNT線材10の外側30におけるヘルマンの配向係数とCNT線材10の内側20におけるヘルマンの配向係数との差の絶対値が0.05以下であることにより、CNT線材10は高い配向性を有していると判断される。ヘルマンの配向係数の上限値は1未満であり、ヘルマンの配向係数が1に近いほど高い配向性を有していることを意味する。また、CNT線材10の外側30におけるヘルマンの配向係数とCNT線材10の内側20におけるヘルマンの配向係数との差の絶対値が0に近いほど、複数のCNT11a,11a・・・がCNT線材10の外側30と内側20のそれぞれで均一に配向していると判断できる。CNT線材10の外側30におけるヘルマン配向係数および内側20におけるヘルマンの配向係数は、走査型電子顕微鏡で観察し得られた画像(SEM画像)を高速フーリエ変換した画像を解析(FFT解析)して算出される。例えば、イオンミリングを用いてCNT線材10を長軸方向に沿って切断し、その切断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、当該切断面におけるSEM画像のFFT配向解析を行うことでこれらの配向係数を測定できる。
【0026】
CNT線材10の外側30におけるヘルマンの配向係数が0.75以上であることにより、CNT線材10の外側30では、平均長さが15μm以上の複数のCNT11a,11a,・・・がCNT線材10の長軸方向にほぼ揃って配向していると判断できる。すなわち、CNT線材10の外側30には、高い配向性が付与されている。また、CNT線材10の外側30におけるヘルマンの配向係数とCNT線材10の内側20におけるヘルマンの配向係数との差の絶対値が0.05以下であることにより、CNT線材10の外側30と内側20において、複数のCNT11a,11a,・・・が均一に配向されていると判断できる。すなわち、CNT線材10の空隙率が低く、平均長さが15μm以上の複数のCNT11a,11a,・・・がより高密度に配向されている。このように、CNT線材10が所定の配向性を満たすことにより、導電性及び強度に優れたCNT線材10を得ることができる。特に、CNT線材10の外側30におけるヘルマンの配向係数が0.85以上であり、且つCNT線材10の外側30におけるヘルマンの配向係数とCNT線材10の内側20におけるヘルマンの配向係数との差の絶対値が0.03以下であることにより、より配向性に優れたCNT線材10を得ることができ、CNT11aの平均長さが20μm以上60μm以下の場合、効果がより顕著になる。
【0027】
[密度]
CNT線材10は、密度が0.8g/cm
3以上であることが好ましく、1.0g/cm
3以上であることがより好ましく、1.4g/cm
3以上であることがさらに好ましい
。密度が0.8g/cm
3以上であれば、CNT線材10に優れた強度を付与することができ、密度が1.0g/cm
3以上であることにより、より強度を向上させることができ、特に、密度が1.4g/cm
3以上であることにより、顕著に優れた強度が付与される。
【0028】
[CNT線材の製造方法]
CNT11aは、浮遊触媒法(特許第5819888号公報)、基板法(特許第5590603号公報)等の方法により作製することができ、好ましくは浮遊触媒法により作製される。浮遊触媒法の条件は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法により適宜設計することができる。これにより、複数のCNT11a,11a,・・・を含む分散液が作製される。
【0029】
CNT線材10の製造方法は、CNT分散液を作製する工程と、塗布膜を作製する工程と、CNTを線材化する工程を含む。CNT分散液を作製する工程では、例えば、上述の浮遊触媒法で作製した複数のCNT11a,11a,・・・を使用してもよい。CNT分散液には、溶媒としての水と、所定の平均長さを有する複数のCNT11a,11a,・・・と、所定量の分散剤(界面活性剤)とが含まれている。但し、CNT分散液には、導電性が阻害され、配向性を劣化させる要因となるポリビニルピロリドン(PVP)等の樹脂、危険が伴う硫酸、クロロスルホン酸等の強酸は含まない。これらを含む溶液を超音波分散等の分散処理を行うことによりCNT分散液を作製する。CNT分散液中に含まれる複数のCNT11a,11a,・・・の含有量は、水の量(100質量%)に対して0.05質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。また、CNT分散液は、水の量(100質量)に対して0.5質量%以上10質量%以下の分散剤を含んでいる。
【0030】
分散剤として使用される界面活性剤は、特に限定されるものではないが、例えば、陰イオン性界面活性剤等が挙げられ、特にコール酸ナトリウムが好ましい。このような界面活性剤は、1種単独であってもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
CNT線材10が、15μm以上の平均長さを有する複数のCNT11a,11a,・・・から形成されるようにするため、CNT分散液中に含まれる複数のCNT11a,11a,・・・の平均長さは15μm以上である。CNT分散液中に含まれる複数のCNT11a,11a,・・・の大きさは、CNT分散液中で制御してもよく、複数のCNT11a,11a,・・・の作製段階で制御してもよい。このように、CNT分散液は、比較的長い複数のCNT11a,11a,・・・を含むため、ゲル状またはペースト状の比較的高粘度のCNT分散液として存在する。尚、後述する塗布膜の作製工程において負荷する所定のせん断力にはCNT同士の絡まりを解き、高配向化させる効果があるが、CNTの短尺化には影響を与えないことを確認している。したがって、分散液中のCNTの平均長さと塗布膜に含まれるCNTが有する平均長さは実質変化しない。
【0032】
塗布膜を作製する工程では、得られたCNT分散液を、フッ素樹脂等の基材上に所定のせん断力を負荷しながら塗布し、CNT11a,11a,・・・がせん断方向に沿って配向された膜を作製する。所定のせん断力を負荷しつつCNT分散液を塗布する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、バーコーター塗工法等の一般的に公知の方法において、塗布速度を調整することにより、塗布膜に負荷されるせん断力を変更することができる。また、塗布膜の厚さは、その後の乾燥工程における乾燥時間および剥離工程における剥離の容易さの点から、10μm以上1000μm以下であることが好ましく、50μm以上500μm以下であることがより好ましい。
【0033】
CNT分散液は、高いせん断速度域で低粘度を示す。低いせん断速度域では、複数のCNT11a,11a,・・・同士が絡み合っているものの、高いせん断速度域では、せん
断により絡み合いが適度に解れ、せん断方向に沿ってCNTが配向する。これにより、複数のCNT11a,11a,・・・同士が適度に絡まった状態で、これらがせん断方向に沿って配向した高配向膜を得ることができる。塗布膜の形成の際、高いせん断力を負荷させるため、塗布速度は0.001m/s以上5m/s以下であることが好ましい。尚、高いせん断速度とは、低いせん断速度よりも大きいことを意味し、低いせん断速度は、0.1[1/s]以上1[1/s]未満の範囲を意味する。
【0034】
CNTを線材化する工程では、得られた塗布膜を半乾きの状態にし、塗布膜に含まれる複数のCNT11a,11a,・・・の配向方向がCNT線材10の長手方向と平行(同じ方向)になるようにロール状に巻く。例えば、まず、得られた塗布膜を一晩乾燥させる。その後、塗布膜の淵をピンセット等で剥がし、ピンセットを用いて塗布膜をロール状に巻く。ロール状の塗布膜を蒸留水に浸して引き上げ、乾燥させる。乾燥条件は、特に限定されるものではないが、例えば、室温(25℃前後)で1時間〜一晩放置させる自然乾燥が挙げられる。
【0035】
塗布膜に含まれる複数のCNT11a,11a,・・・の配向方向は、得られるCNT線材10の長手方向と平行(同じ)であり、塗布膜の配向性に従いCNT線材10には高配向性が付与される。また、塗布膜を半乾きの状態でロール状に巻き、乾燥させることにより、隣り合ったCNT層同士がCNTのファンデルワールス力により強固に結合する。塗布膜が濡れている状態では、CNT層表面に水層が存在するため、ファンデルワールス力による引力が阻害される。一方、塗布膜が乾燥して水分が抜けることにより、CNTのファンデルワールス力によりCNT層間の距離が縮まり、最終的にはCNT層同士が絡まって、ファンデルワールス力により強固に結合する。また、樹脂等の接着剤を用いることなくCNT層同士が強固に結合するため、導電性も阻害されない。
【0036】
従来の湿式紡糸では、押出で糸状のCNT線材を作製すると、ノズル内での流速の違い、凝固速度の違いにより糸状のCNT線材の外側と内側で密度及び配向度の差が生じやすい。また、押出で糸状のCNT線材を作製する湿式紡糸では、大きな気泡(断面観察において数十μμmの直径)がCNT線材に混入し、空隙率が高くなりやすい。そのため、CNT線材の切断箇所によって、配向ムラ、密度のムラが生じる傾向にあった。これに対し、本発明におけるCNT線材10の製造方法では、一様に作製した塗布膜を巻いて糸状のCNT線材を作製するため、CNT線材10の外側30と内側20で配向度の差が生じにくい。さらに、本発明におけるCNT線材10の製造方法では、CNT線材10内に大きな気泡が混入しにくく、仮にCNT線材10内に気泡が混入しても、配向膜の厚内に存在する数μm程度の大きさに抑えられる。また、せん断力を負荷しながら塗布膜を作製するため、CNT線材10の外側30と内側20で複数のCNT11a,11a,・・・がほぼ均一に配向している。そのため、CNT線材10の切断箇所に応じた、配向ムラ、密度のムラが抑制される。
【0037】
<特性>
[導電性]
本発明に係るCNT線材10は、導電性として、体積抵抗率が8.0×10
−5Ω・cm未満であることが好ましく、4.0×10
−5Ω・cm未満であることがより好ましく、1.0×10
−5Ω・cm未満であることがさらに好ましい。体積抵抗率が8.0×10
−5Ω・cm未満であれば、導電性に優れていると評価できる。
【0038】
[強度]
本発明に係るCNT線材10は、引張強度が100MPa以上であることが好ましく、150MPa以上であることがより好ましく、200MPa以上であることがさらに好ましい。引張強度が100MPa以上であれば、強度に優れていると評価できる。
【0039】
[空隙率]
本発明に係るCNT線材10は、CNT線材10の径方向(短軸方向)における任意の断面積に対する空隙率が10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましい。空隙率が10%以下であれば、CNT線材10において、空隙に起因する導電パスの妨げを抑制することができ、また、局所的に強度が低い箇所が少なくなるため、CNT線材10の強度、耐久性が向上する。
【0040】
[空隙の分散]
本発明に係るCNT線材10は、空隙の分散度が5.0以下であることが好ましく、4.0以下であることがより好ましい。空隙の分散度が5.0以下であれば、CNT線材10において、空隙に起因する導電パスの妨げを抑制することができ、また、局所的に強度が低い箇所が少なくなるため、CNT線材10の強度、耐久性が向上する。尚、CNT線材10における空隙の分散度は、例えば、上記の空隙率を、CNT線材10の径方向における任意の5箇所の断面で測定し、その標準偏差から算出できる。
【0041】
本発明に係るCNT線材は、自動車、電気機器、制御機器等の様々な分野における電力線、信号線としての電線を構成する導体として使用することができ、特に、車両用のワイヤハーネス、モーター等の一般電線の導体としての使用に好適である。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
<CNT線材の作製>
実施例1〜12、比較例1〜7について、以下のようにしてCNT線材を作製した。
【0044】
[実施例1〜12、比較例1、5〜7について]
浮遊触媒法でCNTを作製した。得られたCNTを遠心分離し、さらにフィルタを介して分画することにより、平均長さが異なる複数のCNTサンプルを作製した。分画した複数のCNTサンプルの平均長さをそれぞれ測定した。このように長さが調整された複数のCNTサンプル25mgを、5mlの水と、分散剤として含有量を変化させたコール酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬社製)が溶解されている溶液に加え、超音波分散機(「NR−50M」 マイクロテック・ニチオン社製)により、25(室温)℃で1時間分散処理をし、CNT分散液を作製した。作製したCNT分散液をテフロン(登録商標)板上に数滴滴下し、バーコーターを用いて所定の塗布速度でCNT分散液を塗布し、塗布膜を形成した。得られた塗布膜を25℃で1時間自然乾燥させて半乾きの状態にした後、乾燥した塗布膜の淵をピンセットで剥がして、ピンセットを用いて塗布膜をロール状に巻き、さらに、一晩自然乾燥させることにより、CNT線材を作製した。各実施例及び各比較例における分散剤の含有量、複数のCNTサンプルの平均長さ(CNTの平均長さ)及び塗布速度を表1に示す。尚、表1中、このような製法をロール糸と表記する。
【0045】
[比較例2〜4]
比較例2〜4では、上記のような工程を経て作製したCNT分散液をシリンジに入れ、0.1ml/分の吐出速度でイソプロパノールの凝固液(富士フィルム和光純薬社製)に吐出し、CNTが凝固するまで数分放置し、糸状のCNT紡糸線を作製した。その後、得られた糸状のCNT紡糸線を取り出し、一晩自然乾燥させることにより、CNT線材を作製した。複数のCNTサンプルの平均長さは、上記の実施例1〜12及び比較例1、5〜7と同様にそれぞれ測定した。比較例2〜4における分散剤の含有量及び複数のCNTサンプルの平均長さ(CNTの平均長さ)を表1に示す。尚、表1中、このような製法を湿
式紡糸と表記する。
【0046】
<測定項目>
[CNTの平均長さ]
実施例1〜12および比較例1〜6で使用したCNTの平均長さは、CNT分散液中に存在するCNTを、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いてSEM画像から算出した。具体的には、倍率が10000倍であるSEM画像に存在する任意のCNTの長さを測定した。これを別のCNTでも同様に行い、200本のCNTの長さの平均値を平均長さとして算出した。尚、CNT分散液中に存在するCNTの平均長さとCNT線材に存在するCNTの平均長さは、紡糸の影響を受けないため同等であると評価した。
【0047】
[密度]
CNT線材の密度を測定した。具体的には、超高速・高精度寸法測定器(KEYENCE社製)を用いてCNT線材の素線径を測定し、さらに、ノギスでCNT線材の長さを測定してCNT線材の体積を計算した。得られた体積の値と、分析てんびん(「XP6」 METTLER TOLEDO社製)で測定したCNT線材の重さからCNT線材の密度を算出した。
【0048】
[G/D比]
ラマン分光装置(Thermo Fisher Scientific社製、「ALMEGA XR」)により、励起レーザ:532nm、レーザ強度:10%に減光、対物レンズ:50倍、露光時間:1秒×60回の条件にて測定し、ラマンスペクトルを得た。次に、スペクトル解析ソフト
ウェア(日本分光社製、「Spectra Manager」)により、ラマンスペクトルの1000〜
2000cm
−1のデータを切り出し、この範囲で検出されるピーク群をCurve Fitting
により分離解析を行った。尚、ベースラインは1000cm
−1と2000cm
−1での検出強度を結んだ線とする。このように切り出したラマンスペクトルにおいて、GバンドとDバンドそれぞれのピークトップ高さ(ピークトップからベースラインの値を差し引いた検出強度)を求め、その値からG/D比の値を算出した。
【0049】
[配向性]
CNT線材の円相当半径をR、同心円でR/√2の半径を有する部分の範囲をCNT線材の内側、同心円でR−(R/√2)の厚さを有する中空円部分の範囲をCNT線材の外側として定め、CNT線材の外側におけるヘルマンの配向係数(外側の配向係数)とCNT線材の内側におけるヘルマンの配向係数(内側の配向係数)をそれぞれ測定した。外側の配向係数及び内側の配向係数は、イオンミリングを用いてCNT線材を長軸方向に沿って切断し、その切断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、当該切断面におけるSEM画像をFFT(高速フーリエ変換)処理して配向解析を行うことで算出した。さらに、外側の配向係数と内側の配向係数との差の絶対値(配向係数の内外差)を算出した。
【0050】
<評価項目>
上記のようにして作製したCNT線材について、以下の評価を行った。
【0051】
[空隙率]
イオンミリングを用いてCNT線材の任意の箇所で径方向に沿って切断し、その切断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、当該切断面におけるSEM画像を解析し、切断面内に存在する全空隙の面積の合計を測定した。すなわち、空隙率は、以下の式により算出される。
【0052】
空隙率[%]=(全空隙の面積の和/CNT線材の断面積)×100
【0053】
[空隙の分散度]
上記の空隙率の測定法で、任意に5箇所の切断面に対する空隙率をそれぞれ測定し、その標準偏差を算出した。空隙の分散度が5.0以下であれば、CNT線材の外側と内側とで局所的に大きな空隙はほとんどなく、配向ムラが抑制されていると評価した。
【0054】
[導電性]
CNT線材の導電性の評価として、四端子法により体積抵抗率を測定した。具体的には、抵抗測定機にCNT線材を接続し、四端子法により抵抗測定を実施した。体積抵抗率rは、r=RA/L(R:抵抗、A:CNT線材の断面積、L:測定長さ)の計算式に基づいて算出した。体積抵抗率が1.0×10
−5Ω・cm未満の場合を「◎」、1.0×10
−5Ω・cm以上4.0×10
−5Ω・cm未満の場合を「○」、4.0×10
−5Ω・cm以上8.0×10
−5Ω・cm未満の場合を「△」、8.0×10
−5Ω・cm以上の場合を「×」と評価し、「△」以上であれば、導電性に優れていると評価した。
【0055】
[強度]
CNT線材の強度の評価として、引張強度を測定した。具体的には、CNT線材の引張強度を万能試験機の引張試験により測定した。ロードセルは100Nとし、試験速度は6mm/minで測定した。マイクロスコープで観察し得たCNT線材の直径から断面積を
求めた。引張強度sは、s=F/A(F:試験力、A:CNT線材の断面積)の計算式に基づいて算出した。引張強度が200MPa以上の場合を「◎」、150MPa以上200MPa未満の場合を「○」、100MPa以上150MPa未満の場合を「△」、100MPa未満の場合を「×」と評価し、「△」以上であれば、強度に優れていると評価した。
【0056】
CNT線材の測定および評価結果について、下記表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1に示すように、平均長さが15μm以上のCNTを含む実施例1〜12で作製したCNT線材は、いずれも外側の配向係数が高く、また、配向係数の内外差も低い値を示した。また、空隙率も少なく、空隙の分散度も5.0以下であるため、CNT線材の外側と内側とで局所的に大きな空隙はほとんどなく、配向ムラも抑制されていた。そのため、得られたCNT線材は、平均長さが15μm以上の比較的長いCNTを含みつつ、配向性、導電性及び強度に優れていた。特に、密度が1.4g/cm
3以上である実施例7、10においては、顕著に高い強度を示した。
【0059】
一方、比較例1では、CNTの平均長さが15μm未満であり、長いCNTが少な過ぎるため優れた導電性が得られなかった。また、長いCNT同士の繋がりが少ないため、優れた強度も得られなかった。
【0060】
従来の湿式紡糸によりCNT線材を作製した比較例2〜4では、配向係数の内外差及び空隙率が顕著に高いため、配向ムラが顕著であり、導電性及び強度が劣っていた。
【0061】
比較例5、6では、外側の配向係数が小さく、平均長さが15μm以上のCNTの配向性が低いため、CNT線材に高い導電性を付与することができなかった。
【0062】
比較例7では、G/D比が低いため、欠陥が多く、導電性及び強度が劣っていた。