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特開2020-164385クリンカの製造方法及びセメント組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-164385(P2020-164385A)
(43)【公開日】2020年10月8日
(54)【発明の名称】クリンカの製造方法及びセメント組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/48 20060101AFI20200911BHJP
   C04B 7/52 20060101ALI20200911BHJP
【FI】
   C04B7/48
   C04B7/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2019-68827(P2019-68827)
(22)【出願日】2019年3月29日
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 準
(57)【要約】
【課題】より効率的にアルカリ成分及び塩素を除去することができるクリンカの製造方法、及び、該製造方法で製造されたクリンカを用いたセメント組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】クリンカを、大粒径側の粗クリンカ(A1)と、小粒径側の細クリンカ(B1)とに分級する分級工程と、分級された前記粗クリンカ(A1)を水洗する洗浄工程とを有するクリンカの製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリンカを、大粒径側の粗クリンカ(A1)と、小粒径側の細クリンカ(B1)とに分級する分級工程と、
分級された前記粗クリンカ(A1)を水洗する洗浄工程とを有するクリンカの製造方法。
【請求項2】
更に、水洗後の前記粗クリンカ(A1)と、前記細クリンカ(B1)とを混合する混合工程を有する請求項1に記載のクリンカの製造方法。
【請求項3】
前記洗浄工程の前に、前記粗クリンカ(A1)を粉砕する粉砕工程を有する請求項1または請求項2に記載のクリンカの製造方法。
【請求項4】
更に、前記粉砕工程の後の前記粗クリンカ(A1)を、大粒径側の粗クリンカ(A2)と小粒径側の細クリンカ(B2)とに分級する工程を有し、
前記洗浄工程において、前記細粗クリンカ(A2)を水洗する請求項3に記載のクリンカの製造方法。
【請求項5】
更に、前記粉砕工程の後の前記粗クリンカ(A1)を、大径側の粗クリンカ(A1’)と小径側の細クリンカ(B1’)とに分級する工程を有し、
前記粉砕工程で、前記粗クリンカ(A1’)を粉砕し、
前記細クリンカ(B1’)を、大粒径側の粗クリンカ(A2)と小粒径側の細クリンカ(B2)とに分級する、請求項4に記載のクリンカの製造方法。
【請求項6】
前記粗クリンカ(A1)と前記細クリンカ(B1)とに分級する工程において、分級の閾値が4mm以上40mm以下である請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のクリンカの製造方法。
【請求項7】
前記粗クリンカ(A2)と前記細クリンカ(B2)とに分級する工程において、分級の閾値が0.3mm以上3mm以下である請求項4乃至請求項6のいずれか1項に記載のクリンカの製造方法。
【請求項8】
前記粗クリンカ(A1’)と前記細クリンカ(B1’)とに分級する工程において、分級の閾値が3.5mm以上8mm以下である請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載のクリンカの製造方法。
【請求項9】
前記粗クリンカ(A1)と前記細クリンカ(B1)とに分級する工程において、所定の目開きを有する篩を用いる請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載のクリンカの製造方法。
【請求項10】
前記粗クリンカ(A2)と前記細クリンカ(B2)とに分級する工程において、所定の目開きを有する篩を用いる請求項4乃至請求項9のいずれか1項に記載のクリンカの製造方法。
【請求項11】
前記粗クリンカ(A1’)と前記細クリンカ(B1’)とに分級する工程において、所定の目開きを有する篩を用いる請求項5乃至請求項10のいずれか1項に記載のクリンカの製造方法。
【請求項12】
請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載の方法で製造されたクリンカと、石膏とを粉砕し混合するセメント組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリンカの製造方法及びセメント組成物の製造方法に関し、特にポルトランドセメント用クリンカに関する。
【背景技術】
【0002】
セメント組成物に含まれる塩素は、鉄筋や鉄骨等を腐食させる原因となり、コンクリート構造物の耐久性を低下させる原因となることが知られている。また、セメント組成物に含まれるアルカリ成分は、セメント組成物に含有されるアルカリに由来する水酸化アルカリ(NaOH及びKOH)とシリカ鉱物を含有する骨材とが反応するアルカリシリカ反応の原因となる。このアルカリシリカ反応によりコンクリートが膨張し、それに伴いコンクリート構造物にひび割れが発生する。
【0003】
このことから、セメント組成物中に含有されるアルカリ成分及び塩素の低減が望まれている。JIS R 5210:2009「ポルトランドセメント」に、各種ポルトランドセメント中に含有される全アルカリ量及び塩化物イオン量が規定されている。例えば、普通ポルトランドセメントについて、全アルカリ(NaO及びKO)の含有率は、0.75%以下、塩化物イオンの含有量は0.035%以下と規定されている。
【0004】
近年では、クリンカに含まれる成分と同じ成分を含む各種産業廃棄物をクリンカ原料として用いることにより、廃棄物の再利用が盛んに進められている。しかしながら、これらの産業廃棄物には塩素やアルカリ成分が多量に含まれていることから、セメント製造上及びセメント品質上好ましくない。
【0005】
この点に鑑みて、クリンカからアルカリ成分及び塩素を除去し、その濃度を低減させることが検討されている。例えば、特許文献1は、焼成後のクリンカを、クリンカ質量の10倍の質量の水で洗浄することにより、塩素とアルカリ成分とを同時に低減させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許5023763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の手法では、焼成後のクリンカを多量の水で洗浄する必要があり、製造コストが高く、また洗浄効率が悪いことが問題となっていた。更に、洗浄後に水酸化カルシウム量が上昇することが認められ、このクリンカをセメント組成物に使用したときに風化の原因となることも懸念されていた。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、より効率的にアルカリ成分及び塩素を除去することができるクリンカの製造方法、及び、該製造方法で製造されたクリンカを用いたセメント組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、焼成後のクリンカを分級して粒度毎にアルカリ成分及び塩化物イオンの含有率を分析したところ、アルカリ成分及び塩化物イオンは大粒径のクリンカに多く含まれて、小粒径のクリンカ中のアルカリ成分及び塩化物イオンの含有率が低いことを発見した。そして本発明者らは、上記の粒径分布内でのアルカリ成分及び塩素の偏在に着目した結果、本発明を着想するに至った。
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、以下の[1]〜[12]を提供する。
[1]クリンカを、大粒径側の粗クリンカ(A1)と、小粒径側の細クリンカ(B1)とに分級する分級工程と、分級された前記粗クリンカ(A1)を水洗する洗浄工程とを有するクリンカの製造方法。
[2]更に、水洗後の前記粗クリンカ(A1)と、前記細クリンカ(B1)とを混合する混合工程を有する[1]に記載のクリンカの製造方法。
[3]前記洗浄工程の前に、前記粗クリンカ(A1)を粉砕する粉砕工程を有する[1]または[2]に記載のクリンカの製造方法。
[4]更に、前記粉砕工程の後の前記粗クリンカ(A1)を、大粒径側の粗クリンカ(A2)と小粒径側の細クリンカ(B2)とに分級する工程を有し、前記洗浄工程において、前記細粗クリンカ(A2)を水洗する[3]に記載のクリンカの製造方法。
[5]更に、前記粉砕工程の後の前記粗クリンカ(A1)を、大径側の粗クリンカ(A1’)と小径側の細クリンカ(B1’)とに分級する工程を有し、前記粉砕工程で、前記粗クリンカ(A1’)を粉砕し、前記細クリンカ(B1’)を、大粒径側の粗クリンカ(A2)と小粒径側の細クリンカ(B2)とに分級する、[4]に記載のクリンカの製造方法。
[6]前記粗クリンカ(A1)と前記細クリンカ(B1)とに分級する工程において、分級の閾値が4mm以上40mm以下である[1]〜[5]のいずれかに記載のクリンカの製造方法。
[7]前記粗クリンカ(A2)と前記細クリンカ(B2)とに分級する工程において、分級の閾値が0.3mm以上3mm以下である[4]〜[6]のいずれかに記載のクリンカの製造方法。
[8]前記粗クリンカ(A1’)と前記細クリンカ(B1’)とに分級する工程において、分級の閾値が3.5mm以上8mm以下である[5]〜[7]のいずれかに記載のクリンカの製造方法。
[9]前記粗クリンカ(A1)と前記細クリンカ(B1)とに分級する工程において、所定の目開きを有する篩を用いる[1]〜[8]のいずれかに記載のクリンカの製造方法。
[10]前記粗クリンカ(A2)と前記細クリンカ(B2)とに分級する工程において、所定の目開きを有する篩を用いる[4]〜[9]のいずれかに記載のクリンカの製造方法。
[11]前記粗クリンカ(A1’)と前記細クリンカ(B1’)とに分級する工程において、所定の目開きを有する篩を用いる[5]〜[10]のいずれかに記載のクリンカの製造方法。
[12][1]〜[11]のいずれかに記載の方法で製造されたクリンカと、石膏とを粉砕し混合するセメント組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、クリンカからより効率的にアルカリ成分及び塩素を除去することができる。この結果、セメント組成物中のアルカリ成分及び塩素の含有率を低減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係るクリンカの製造方法の一実施形態を示すフロー図である。
図2】本発明に係るクリンカの製造方法の別の実施形態を示すフロー図である。
図3】本発明に係るクリンカの製造方法の別の実施形態を示すフロー図である。
図4】本発明に係るクリンカの製造方法の別の実施形態を示すフロー図である。
図5】本発明に係るセメント組成物の製造方法を実施するための装置の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のクリンカの製造方法及びセメント組成物の製造方法について、詳細に説明する。なお、本明細書中の「AA〜BB」との数値範囲の表記は、「AA以上BB以下」であることを意味する。
【0014】
〔クリンカ〕
本発明の方法によって製造されるクリンカは、セメント組成物の製造に用いられるクリンカであれば限定されないが、特にポルトランドセメント用のクリンカの製造に適している。
【0015】
本発明では、焼成後のクリンカ(以下、「焼成クリンカ」と称する)に対して、下記の工程が実施される。焼成クリンカは、アルカリ成分(NaO及びKO)及び塩化物の他、SO、MnO、TiO、P、SrOなどの種々の微量成分を含んでいても良い。処理クリンカは、下記の工程を実施する前に、予備的に粗粉砕されていても良い。
【0016】
[クリンカの製造方法]
本発明のクリンカの製造方法は、クリンカを、大粒径側の粗クリンカ(A1)と、小粒径側の細クリンカ(B1)とに分級する分級工程と、分級された前記粗クリンカ(A1)を水洗する洗浄工程とを有する。
以下では、分級工程及び洗浄工程による処理が施された後のクリンカを、「処理クリンカ」と称する。
【0017】
図1は、本発明に係るクリンカの製造方法の一実施形態を示すフロー図である。図1のフローは、分級工程(S1)、洗浄工程(S2)及び混合工程(S3)を有する。
以下で、各工程を詳細に説明する。
【0018】
〔分級工程(S1)〕
分級工程(S1)では、分級手段を用い、焼成クリンカを、大粒径側の粗クリンカ(A1)と、小粒径側の細クリンカ(B1)とに分級する。なお、焼成クリンカは不定形であるが、本明細書では分級するクリンカの大きさを区別するために、「大粒径」及び「小粒径」との表現を用いることとする。
【0019】
分級手段としては、公知のものを使用することができ、例えば、振動篩機、ロータップ式篩振動機、トロンメル、グリズリー式スクリーンなどが挙げられる。分級手段は、処理量及び処理クリンカの大きさに応じて適宜選択することができる。例えば、篩を用いた場合は、分級工程(S1)において、クリンカが、所定の目開きの篩上の粗クリンカ(A1)と、該篩を通過したクリンカを細クリンカ(B1)とに分級される。
篩としては、JIS Z 8801−1:2006「試験用ふるい−第1部:金属製網ふるい」に規定されている篩を用いても良いし、貫通孔を有する金属部材であっても良い。貫通孔を有する金属部材としては、金網、エキスパンドメタル、パンチングメタルなどが挙げられる。
【0020】
焼成クリンカ中のアルカリ成分及び塩素の含有量は、クリンカ原料の種類、キルンでの焼成温度、キルン内での原料クリンカの焼成度合いによって変化する。大粒径の焼成クリンカは、キルン内での燃焼が不十分であったため、内部にアルカリ成分及び塩素が残留しやすくなる。これに対し、小粒径の焼成クリンカは、キルン内で十分に燃焼されてアルカリ成分及び塩素が揮発したため、これらの含有量が少ない。すなわち、大粒径の焼成クリンカであるほど、アルカリ成分及び塩素の含有量が高くなる傾向がある。
本発明では、分級工程(S1)で、アルカリ成分あるいは塩素を多く含む粗クリンカ(A1)と、アルカリ成分及び塩素の含有量が比較的少ない細クリンカ(B1)とに分離する。
【0021】
分級の閾値は、焼成クリンカに含有されるアルカリ成分の含有率及び塩素の含有率、後段の洗浄工程(S2)の作業効率(洗浄されるクリンカの量、洗浄水の量)などを考慮して設定されることが好ましい。具体的に、分級工程(S1)における分級の閾値は、4mm以上40mm以下であることが好ましく、5mm以上25mm以下であることがより好ましく、6mm以上15mm以下であることが更に好ましい。
【0022】
焼成クリンカに含有されるアルカリ成分及び塩素に基づいて分級する場合、例えば以下の工程で分級の閾値を設定することができる。
まず、予め焼成クリンカをサンプリングして、該焼成クリンカを分級する。そして、分級粒径が異なるクリンカについて、それぞれJIS R 5202:2010「セメントの化学分析方法」またはJIS R 5204:2002「セメントの蛍光X線分析方法」に準拠して、アルカリ成分の含有量及び塩化物イオンの含有量を算出する。得られたアルカリ成分含有率及び塩化物イオン含有率を、それぞれの目標値に照らし合わせる。アルカリ成分及び塩素成分の含有率の両方が目標値を満たす粒径のクリンカを細クリンカ(B1)とし、それ以外のクリンカ(いずれか一方が目標値を満たさないクリンカ)を粗クリンカ(A1)とする。上記の作業で、細クリンカ(B1)と粗クリンカ(A1)とを分けた分級粒径を分級の閾値と規定する。
【0023】
分級手段として篩を用いる場合、以下の工程で分級の閾値を設定することができる。
サンプリングした焼成クリンカを目開きが異なる複数の篩を用いて分級する。各篩の上部に残留するクリンカについて上記の分析を行い、アルカリ成分及び塩化物イオンの含有率を算出する。そして、アルカリ成分及び塩化物イオンの両方が目標値を満たすクリンカを細クリンカ(B1)、それ以外のクリンカ(いずれか一方が目標値を満たさないクリンカ)を粗クリンカ(A1)とする。上記の作業で、細クリンカ(B1)と粗クリンカ(A1)とを分けた篩の目開きを分級の閾値と規定する。具体的に、アルカリ成分及び塩化物イオンの両方が目標値を満たすクリンカが採取できる篩よりも1段階上の篩の目開きが分級の目開きとなる。
上記の目標値としては、JIS R 5210:2009「ポルトランドセメント」に規定されている、セメント中のアルカリ成分の許容値(0.75%以下)及び塩化物イオンの許容値(0.035%以下)に基づいて設定することができる。例えば、アルカリ成分の目標値を、0.75%、より厳密には0.70%、更に厳密には0.65%と設定する。また、塩化物イオンの目標値を、0.035%、より厳密には0.033%、更に厳密には0.030%と設定する。上記基準により分級の閾値を設定すれば、製造されるセメント組成物中のアルカリ成分及び塩素の含有率を、JIS規格で規定されている数値よりも確実に低減させることができる。
【0024】
また、上述したように、アルカリ成分及び塩素は大粒径のクリンカに多く存在することを考慮して、以下の工程で分級の閾値を設定することもできる。
まず、予め焼成クリンカをサンプリングして、該焼成クリンカを複数の分級粒径で分級する。そして、分級後のクリンカについて、粒度が大きい方から質量割合を積算する。積算質量割合が所定範囲内の数値を満たす時に、最後に積算された粒度の下限値を、「分級の閾値」に設定する。
【0025】
分級手段として篩を用いる場合、以下の工程で分級の閾値を設定することができる。
サンプリングした焼成クリンカを目開きが異なる複数の篩を用いて分級する。各篩の上部に残留するクリンカの質量を測定し、質量割合を算出する。そして、篩目が大きい方から質量割合を積算し、積算質量割合が所定範囲内の数値をなったときに、最後に積算した篩の目開きを「分級の閾値」に設定する。
【0026】
上記の積算質量割合は、具体的に30質量%〜60質量%の範囲内であることが好ましい。この範囲であれば、粗クリンカ(A1)中にアルカリ成分及び塩素成分を多く含むクリンカが含まれることになる。また、後段の洗浄工程(S2)を施すクリンカ量を適正にして、洗浄に必要な水量を低減させることができる。
【0027】
〔洗浄工程(S2)〕
分級工程(S1)で分級された粗クリンカ(A1)は洗浄手段に搬送され、水洗による洗浄工程(S2)が施される。細クリンカ(B1)に対して洗浄工程は実施しない。
【0028】
洗浄手段としては、特に限定されず、公知の手段を採用することができる。例えば、タンク中の水に粗クリンカ(A1)を浸漬する手段、流水に粗クリンカ(A1)を浸漬する手段、粗クリンカ(A1)に水を散布する手段などが挙げられる。流水に浸漬する手段としては、メッシュ状の受け皿上に粗クリンカ(A1)を配置し、流水中に受け皿を浸漬する方法などがある。また、水を散布する手段としては、シャワーなどにより水を散布する方法などがある。
【0029】
洗浄工程(S2)では、粗クリンカ(A1)を水で洗浄する。洗浄水は、水道水、蒸留水など、通常の洗浄に適用される水を用いることができる。
【0030】
洗浄工程(S2)で使用される洗浄水の量は、除去率、製造コストの観点で適宜設定されるが、できる限り少ないことが好ましい。具体的に、洗浄水の量は、粗クリンカ(A1)の質量に対して3〜20倍であることが好ましく、5〜15倍であることがより好ましい。
本発明では粗クリンカ(A1)のみを洗浄するため、全クリンカを洗浄する特許文献1の方法に比べて洗浄させるクリンカ量が少ない。このため、洗浄水の必要量を低減することができるという利点がある。
【0031】
水の温度は特に限定されない。水の温度が高いほど洗浄により除去できるアルカリ成分及び塩素の量は多くなるが、クリンカの水和反応が進む可能性があることを考慮して、適宜設定するとよい。
洗浄工程(S2)の所要時間は、粗クリンカ(A1)量、水温、除去率などを考慮して適宜設定することができる。
【0032】
細クリンカ(B1)及び洗浄後の粗クリンカ(A1)は、処理クリンカとしてセメント組成物の製造に使用される。
【0033】
洗浄後の粗クリンカ(A1)は、水和の進行を抑制するために、洗浄後可能な限り早く水と分離することが好ましい。分離方法としては、濾過、遠心分離、加熱などがある。特に、洗浄工程(S2)の直後に、セメント製造における粉砕機(ミル)に粗クリンカ(A1)を投入すれば、粉砕機内の温度により水分を蒸発させることができるので、製造工程の簡略化及びコスト削減の点で有利である。
【0034】
〔混合工程(S3)〕
本発明のクリンカの製造方法は、水洗後の粗クリンカ(A1)と、細クリンカ(B1)とを混合する混合工程(S3)を更に有していても良い。混合物は、処理クリンカとしてセメント組成物の製造に用いられる。
混合手段としては、公知のものを使用することができる。例えば、混合手段は、処理クリンカを保存するクリンカサイロ、混合ミルなどである。
【0035】
なお、本発明では、混合工程(S3)を省略することが可能である。混合工程(S3)を省略する場合、分級後の細クリンカ(B1)及び水洗後の粗クリンカ(A1)を、それぞれ別にセメント製造における粉砕機に直接投入して、セメント組成物の製造に供することができる。
【0036】
図2は、本発明に係るクリンカの製造方法の別の実施形態を示すフロー図である。図2に示す製造方法は、洗浄工程(S2)の前に更に粉砕工程(S4)を有する。
〔粉砕工程(S4)〕
粉砕工程(S4)では、分級された粗クリンカ(A1)のみを粉砕手段により粉砕する。粉砕手段としては特に限定されず、公知の手段を採用することができる。
【0037】
粉砕工程(S4)で粗クリンカ(A1)を細かくすることにより、クリンカの表面積が増加し、更に水がクリンカ内部に浸透しやすくなる。この結果、後段の洗浄工程(S2)でのアルカリ成分及び塩素の除去率を高めることができる。
【0038】
本発明では粉砕工程(S4)の所要時間は特に制限されないが、粉砕後の粗クリンカ(A1)の大きさや製造に要する時間を考慮して適宜設定するとよい。
【0039】
図3は、本発明に係るクリンカの製造方法の別の実施形態を示すフロー図である。図3に示す製造方法は、粉砕工程(S4)と洗浄工程(S2)との間に、分級工程(S5)を有する。
【0040】
〔分級工程(S5)〕
分級工程(S5)では、分級手段を用い、粉砕後の粗クリンカ(A1)を、大粒径側の粗クリンカ(A2)と、小粒径側の細クリンカ(B2)とに分級する。分級された粗クリンカ(A2)に対して、上述した洗浄工程(S2)が実施されるが、細クリンカ(B2)に対して洗浄工程は実施されない。
【0041】
分級手段としては、分級工程(S1)と同様の公知のものを使用することができる。分級工程(S5)で用いられる分級手段は、処理量及び処理クリンカの大きさに応じて適宜選択することができる。例えば、篩を用いた場合は、分級工程(S5)において、粗クリンカ(A1)が、所定の目開きを有する篩上の粗クリンカ(A2)と、該篩を通過したクリンカを細クリンカ(B2)に分級される。
【0042】
分級工程(S5)での分級の閾値は、後段の洗浄工程(S2)によるアルカリ成分及び塩素の除去率と、クリンカの水和を考慮して設定されることが好ましい。粗クリンカ(A1)自体がアルカリ成分及び塩素の含有率が比較的高いため、粉砕により表面積が大きくなり水が浸透しやすくなったクリンカを、できる限り多く粗クリンカ(A2)として洗浄することで、アルカリ成分及び塩素成分の除去率を高めることができる。従って、分級工程(S5)では、分級工程(S1)よりも分級の閾値を小さくすることが好ましい。一方で、細かいクリンカは水と反応しやすく、処理クリンカ中の水酸化カルシウム量が高くなる可能性が有る。このため、粉砕工程(S4)により細かくなりすぎたクリンカは、分級工程(S5)で細クリンカ(B2)として粗クリンカ(A2)と分離し、洗浄しないことが好ましい。分級工程(S5)を設けることにより、コンクリートとしたときの風化をより効果的に抑制することが可能となる。
具体的に、分級工程(S5)における分級の閾値は、0.3mm以上3mm以下であることが好ましく、0.5mm以上3mm以下であることがより好ましい。
【0043】
図3のフローの場合、混合工程(S3)において、水洗後の粗クリンカ(A2)と、細クリンカ(B1)と、細クリンカ(B2)とが混合される。なお、本発明では、混合工程(S3)を省略し、水洗後の粗クリンカ(A2)、細クリンカ(B1)及び細クリンカ(B2)を、それぞれ別にセメント製造における粉砕機に直接投入して、セメント組成物の製造に供することができる。
【0044】
図4は、本発明に係るクリンカの製造方法の別の実施形態を示すフロー図であり、図3の変形例である。図4に示す製造方法は、粉砕工程(S4)と分級工程(S5)との間に、分級工程(S6)を有する。
【0045】
〔分級工程(S6)〕
分級工程(S6)では、分級手段を用い、粉砕後の粗クリンカ(A1)を、大粒径側の粗クリンカ(A1’)と、小粒径側の細クリンカ(B1’)とに分級する。粗クリンカ(A1’)に対して、再度粉砕工程(S4)が実施される。細クリンカ(B1’)は、更に分級工程(S5)において、粗クリンカ(A2)と細クリンカ(B2)とに分級される。
【0046】
分級手段としては、分級工程(S1)と同様の公知のものを使用することができる。簡便性及び製造コストなどを考慮すると、分級手段として篩を用いることが特に好ましい。篩を用いた場合は、分級工程(S6)において、粗クリンカ(A1)が、所定の目開きを有する篩上の粗クリンカ(A1’)と、該篩を通過したクリンカを細クリンカ(B1’)とに分級される。
【0047】
分級工程(S6)での分級の閾値は、後段の洗浄工程(S2)によるアルカリ成分及び塩素の除去率、分級工程(S5)の分級の閾値を考慮して設定されることが好ましい。分級工程(S6)での分級の閾値は、分級工程(S5)での分級の閾値よりも大きくする。具体的に、分級工程(S5)における分級の閾値は、3.5mm以上8mm以下であることが好ましく、4mm以上7mm以下であることがより好ましく、4.5mm以上6mm以下であることが更に好ましい。
【0048】
分級工程(S6)と粉砕工程(S4)とを繰り返すことにより、洗浄工程(S2)が施されるクリンカ(粗クリンカ(A2))の大きさを調整することができる。比較的大きなクリンカが粗クリンカ(A2)に存在することがなくなるため、洗浄工程(S2)でのアルカリ成分及び塩素の除去率を更に高めることができるので有利である。
【0049】
[セメント組成物の製造方法]
本発明のセメント組成物の製造方法は、上記の方法で製造されたクリンカと、石膏とを粉砕し混合する方法である。
なお、本発明では、JIS規格で規定されている範囲内において、セメントミルにその他の成分を添加してセメント組成物を製造することができる。その他の成分としては、例えば、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカ質混合剤、石灰石などである。
本発明のセメント組成物は、上記の工程によりアルカリ成分及び塩素が低減されたクリンカを用いているため、セメント組成物中のアルカリ成分及び塩素の含有率が低いものとなる。
【0050】
本発明のセメント組成物の製造方法を、図5を用いて説明する。
図5は、本発明に係るセメント組成物の製造方法を実施するための装置の一例を示すブロック図である。図5の装置は、粉砕機106、分級部100、洗浄部104、及び、セメントミル120を有する。分級部100及び洗浄部104が、上述したクリンカの製造方法を実施する構成である。
【0051】
まず、キルンまたはクリンカサイロ(不図示)から焼成クリンカが、搬送手段110(例えばベルトコンベア)によって粉砕機106に供給される。粉砕機106において、焼成クリンカが予備的に粉砕される。予備粉砕された焼成クリンカは、搬送手段112(例えばバケットエレベータ)によって分級部100に搬送される。
【0052】
分級部100は、所定の目開きを有する篩102を備えている。篩102の目開きは、4mm以上40mm以下であることが好ましい。焼成クリンカは搬送手段112から篩の上部に供給され、篩102が振動することにより、焼成クリンカが篩102の目開き以上の大きさを有する粗クリンカ(A1)と、篩102の目開き未満の大きさを有する細クリンカ(B1)とに分級される(分級工程(S1))。
【0053】
粗クリンカ(A1)は、搬送手段114によって篩102から取り出される。搬送手段114の途中に、洗浄部104が設置され、洗浄部104において粗クリンカ(A1)が水洗される(洗浄工程(S2))。搬送手段114は例えばベルトコンベアである。洗浄部104は、ベルトコンベアの上部に設置されるシャワーなどの水散布手段を備える。洗浄部104にシャワーなどの水散布手段を採用することにより、装置を簡便にすることができ、また、装置設置面積を小さくすることができる。
【0054】
図5に示す装置では、搬送手段114は粉砕機106に連結し、水洗された粗クリンカ(A1)は、粉砕機106で粉砕される。粉砕後のクリンカは分級部100に搬送される。分級部100の篩目よりも小さく粉砕されたクリンカは、細クリンカ(B1)として分離される。
【0055】
分級部100から排出された細クリンカ(B1)は、処理クリンカとして搬送手段116(例えば、ベルトコンベア)によりセメントミル120に搬送される。セメントミル120内で、処理クリンカ及び石膏(及びその他の成分)が粉砕されながら混合される。
【0056】
上記装置の変形例として、搬送手段114の洗浄部104より上流側に、粉砕機を別途設けても良い。このような装置構成によれば、分級部100から排出された粗クリンカ(A1)が粉砕され(粉砕工程(S4))、その後洗浄部104で水洗される(洗浄工程(S2))。
【0057】
上記装置の変形例として、搬送手段114の途中経路の粉砕機と洗浄部104との間に、分級機を別途設けても良い。この分級機は、粉砕機から排出された粗クリンカ(A1)に上述した分級工程(S5)を実施し、粗クリンカ(A2)と細クリンカ(B2)とに分離するものである。この変形例では、分級機から排出された粗クリンカ(A2)が洗浄部104に搬送され、細クリンカ(B2)は別の搬送手段によってセメントミル120に搬送される。
この変形例において、搬送手段114の途中経路の粉砕機と洗浄部104との間に分級機を2つ設置し、搬送手段114の上流側の分級機で上述の分級工程(S6)、下流側の分級機で上述の分級工程(S5)を実施する工程とすることもできる。
【0058】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0060】
1.評価方法
1−1.アルカリ成分及び塩素成分の含有率
クリンカ中のアルカリ成分及び塩素成分の含有率を、JIS R 5202:2010「セメントの化学分析方法」に準拠して算出した。
1−2.強熱減量
実施例及び比較例について、JIS R5202:2010「セメントの化学分析方法」に基づいて強熱減量(ig.loss量)を測定した。
【0061】
1−3.モルタル圧縮強さ
各実施例及び比較例のモルタル供試体について、JIS R5201「セメントの物理試験方法」の「11.強さ試験」に準拠して、各材齢でのモルタル圧縮強さを測定した。
【0062】
1−4.凝結試験
各実施例及び比較例のセメント組成物を用いて、JIS R5201「セメントの物理試験方法」に準拠して、凝結試験を行った。
【0063】
2.処理クリンカの製造・評価
異なるロットのクリンカサイロからポルトランドセメント用クリンカ(クリンカX及びクリンカY)を、それぞれ採取した。クリンカX及びクリンカYを、それぞれ目開きが4.75mm、9.5mm、19mmの篩(JIS Z 8801−1:2006「試験用ふるい−第1部:金属製網ふるい」に規定)を用いて分級した。
表1に、各粒度の質量割合、アルカリ成分(RO)及び塩素(塩化物イオン、Cl)の含有率を示す。表1において、「9.5〜19mm」は、大きさが9.5mm以上19mm未満であることを意味し、「4.75〜9.5mm」は、大きさが4.75mm以上9.5mm未満であることを意味する。
【0064】
【表1】
【0065】
クリンカXは、9.5mm以上で積算質量割合が53.2%となる。クリンカYは、9.5mm以上で積算質量割合が43.4%となる。表1の結果から、クリンカX及びクリンカYを、それぞれ、9.5mm以上の粗クリンカ(A1)と、9.5mm以下の細クリンカ(B1)とに分離した。
【0066】
(実施例1)
粗クリンカ(A1)を水で洗浄し、その後110℃で乾燥させた。
【0067】
(実施例2)
クリンカX及びクリンカYの粗クリンカ(A1)を準備し、粗クリンカ(A1)を粉砕した。粉砕した粗クリンカ(A1)を目開きが0.6mm及び4.75mmの篩(JIS Z 8801−1:2006「試験用ふるい−第1部:金属製網ふるい」に規定)を用いて分級した。目開き4.75mmの篩上の粗クリンカ(A1)は、回収して再度粉砕し、最終的に目開き4.75mmの篩上のクリンカの質量を0%とした。該分級により、目開き0.6mmの篩上の粗クリンカ(A2)と、目開き0.6mmの篩を通過した細クリンカ(B2)とを得た。
粗クリンカ(A2)を水で洗浄し、その後110℃で乾燥させた。
【0068】
クリンカXについて、粗クリンカ及び細クリンカの質量割合、アルカリ成分及び塩素成分の含有率を表2に示す。クリンカYについて、粗クリンカ及び細クリンカの質量割合、アルカリ成分及び塩素成分の含有率を表3に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
表2,3に示すように、粗クリンカ(A1)を洗浄することによって、アルカリ成分及び塩素の低減が認められた。特に、粗クリンカ(A2)を洗浄することにより、アルカリ成分及び塩素ともに含有率の低下に大きな効果があることが理解できる。
【0072】
3.セメント組成物の製造
(実施例3)
クリンカサイロからクリンカXを5kg採取した。クリンカXを、JIS Z 8801−1:2006「試験用ふるい−第1部:金属製網ふるい」に規定される目開き9.5mmの篩を用いて分級し、粗クリンカ(A1)と細クリンカ(B1)を得た。
クリンカAの粗クリンカ(A1)に対して、粗クリンカ(A1)の10倍量(26.7L)の純水(25℃)を散布し、粗クリンカ(A1)を洗浄した。洗浄後の粗クリンカ(A1)を110℃で乾燥させた。乾燥後、粗クリンカ(A1)と細クリンカ(B1)とを混合し、実施例3の処理クリンカを製造した。
【0073】
(実施例4)
クリンカサイロからクリンカXを5kg採取し、実施例1と同様に分級した。クリンカAの粗クリンカ(A1)を、ジョークラッシャを用いて粉砕した。粉砕した粗クリンカ(A1)を、目開きが0.6mm及び4.75mmの篩(JIS Z 8801−1:2006「試験用ふるい−第1部:金属製網ふるい」に規定)を用いて、目開き0.6mmの篩上のクリンカを粗クリンカ(A2)とし、該篩を通過したクリンカを細クリンカ(B2)に分級した。目開き4.75mmの篩上のクリンカは再度ジョークラッシャを用いて粉砕し、最終的に目開き4.75mmの篩上のクリンカの質量を0%とした。
クリンカXの粗クリンカ(A2)に対して、粗クリンカ(A2)の10倍量(23.7L)の純水(25℃)を散布し、実施例3と同様の条件で粗クリンカ(A2)を洗浄した。洗浄後の粗クリンカ(A2)を110℃で乾燥させた。乾燥後、粗クリンカ(A2)と、細クリンカ(B1)と、細クリンカ(B2)とを混合し、実施例4の処理クリンカを製造した。
【0074】
(比較例1)
未処理の焼成クリンカ(クリンカX)を、比較例1とした。
【0075】
(比較例2)
クリンカサイロからクリンカXを5kg採取した。クリンカXを分級せずに、全量を実施例3と同様の工程で洗浄した。洗浄では、クリンカに10倍量(50L)の純水(25℃)を散布した。洗浄後のクリンカを110℃で乾燥させて、比較例2の処理クリンカを製造した。
【0076】
(実施例5)
クリンカサイロからクリンカYを5kg採取し、実施例1と同様に分級した。クリンカYの粗クリンカ(A1)に対して、粗クリンカ(A1)の10倍量(21.8L)の純水(25℃)を散布し、実施例3と同様の条件で粗クリンカ(A1)を洗浄した。洗浄後の粗クリンカ(A1)を110℃で乾燥させた。乾燥後、粗クリンカ(A1)と細クリンカ(B1)とを混合し、実施例5の処理クリンカを製造した。
【0077】
(実施例6)
クリンカサイロからクリンカYを5kg採取し、実施例1と同様に分級した。クリンカYの粗クリンカ(A1)を、実施例4と同様の工程で粉砕及び分級を行い、目開き0.6mmの篩上の粗クリンカ(A2)と、該篩を通過した細クリンカ(B2)とを得た。
クリンカYの粗クリンカ(A2)に対して、粗クリンカ(A2)の10倍量(19.4L)の純水(25℃)を散布し、実施例5と同様の条件で粗クリンカ(A2)を洗浄した。洗浄後の粗クリンカ(A2)を110℃で乾燥させた。乾燥後、粗クリンカ(A2)と、細クリンカ(B1)と、細クリンカ(B2)とを混合し、実施例6の処理クリンカを製造した。
【0078】
(比較例3)
未処理の焼成クリンカ(クリンカY)を、比較例3とした。
【0079】
(比較例4)
クリンカYを分級せずに、実施例3と同様の洗浄を実施した。洗浄では、クリンカ(5kg)を10倍量(50L)の純水(25℃)を散布した。洗浄後のクリンカを110℃で乾燥させて、比較例4の処理クリンカを製造した。
【0080】
実施例3〜4、比較例1〜2について、処理クリンカまたはセメントサイロから採取されたクリンカXに、セメント中のSOが2.0%となるように二水石膏(CaSO・2HO、排脱二水石膏)を添加した。ブレーン比表面積が3300cm/gとなるまでボールミルで粉砕・混合し、実施例3〜4及び比較例1〜2のセメント組成物を得た。
実施例5〜6、比較例3〜4について、処理クリンカまたはセメントサイロから採取されたクリンカYに、セメント中のSOが3.0%となるように二水石膏(排脱二水石膏)を添加し、ブレーン比表面積が4600cm/gとなるまでボールミルで粉砕・混合し、実施例5〜6及び比較例3〜4のセメント組成物を得た。
なお、実施例3〜6、比較例2,4については、洗浄工程の実施後直ちにセメント組成物を製造した。
【0081】
4.モルタルの製造
実施例および比較例のセメント組成物から作製したモルタルをそれぞれ、40mm×40mm×160mmの金属型枠に打設し、24時間後に脱型してモルタル供試体を作製した。その後、所定の材齢まで20℃水中で養生して、各実施例及び比較例のモルタル供試体を得た。
【0082】
5.セメント組成物及びモルタルの評価結果
表4に、実施例及び比較例のセメント組成物について、クリンカ中のアルカリ成分及び塩素成分の分析値、強熱減量、洗浄水量を示す。また、表4に、実施例及び比較例のモルタルの強度及び凝結時間を示す。
【0083】
【表4】
【0084】
実施例3、5はいずれも比較例1に対してアルカリ成分及び塩素成分が低減された。また、実施例4,6は、クリンカ全量を洗浄する比較例2に対して洗浄水量を少なくしつつも、同等もしくはそれ以上のアルカリ成分及び塩素成分の除去効果が得られた。また、比較例2に対して強熱減量も小さく、水和が抑制されていると言える。
【0085】
実施例3、4はいずれも比較例2に対してアルカリ成分及び塩素成分が低減された。また、実施例5,6は、クリンカ全量を洗浄する比較例4に対して洗浄水量を少なくしつつも、同等もしくはそれ以上のアルカリ成分及び塩素成分の除去効果が得られた。また、比較例4に対して強熱減量も小さく、水和が抑制されていると言える。
【0086】
実施例3〜6は、比較例1〜4とモルタル強さ及び凝結時間に大きな差がない。すなわち、本発明の製造方法がモルタル(コンクリート)の強度や凝結に影響を与えないと言える。
【符号の説明】
【0087】
100 分級部
102 篩
104 洗浄部
106 粉砕機
120 セメントミル
図1
図2
図3
図4
図5