特開2020-164386(P2020-164386A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友大阪セメント株式会社の特許一覧

特開2020-164386セメント組成物及びセメント組成物の製造方法
<>
  • 特開2020164386-セメント組成物及びセメント組成物の製造方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-164386(P2020-164386A)
(43)【公開日】2020年10月8日
(54)【発明の名称】セメント組成物及びセメント組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/02 20060101AFI20200911BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20200911BHJP
   C04B 14/28 20060101ALI20200911BHJP
   C04B 20/00 20060101ALI20200911BHJP
【FI】
   C04B7/02
   C04B22/14 B
   C04B14/28
   C04B20/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-68828(P2019-68828)
(22)【出願日】2019年3月29日
(11)【特許番号】特許第6638842号(P6638842)
(45)【特許公報発行日】2020年1月29日
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 準
(72)【発明者】
【氏名】山田 曜
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MB12
4G112MB24
(57)【要約】
【課題】モルタルによる評価でコンクリートに使用したときの強度を担保でき、さらにモルタルによる評価でコンクリートの品質管理することができるセメント組成物を提供する。
【解決手段】クリンカと、石膏と、石灰石とを含み、前記石灰石のカルサイトの格子体積が、366.76Å以上368.00Å以下であるセメント組成物。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリンカと、石膏と、石灰石とを含み、
前記石灰石のカルサイトの格子体積が、366.76Å以上368.00Å以下であるセメント組成物。
【請求項2】
前記クリンカが、
ボーグ式で算出された3CaO・SiOの割合が50〜75質量%であり、
ボーグ式で算出された2CaO・SiOの割合が8〜30質量%であり、
ボーグ式で算出された3CaO・Alおよび4CaO・Al・Feの合計の割合が15〜25質量%である、請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項3】
マイクロトラック法による粒度分布が、11μm以上22μm未満の粒子の割合が18.0%以上26.0%以下であり、かつ、22μm以上44μm未満の粒子の割合が31.8%以上38.0%以下である、請求項1または請求項2に記載のセメント組成物。
【請求項4】
ブレーン比表面積が3200cm/g以上3800cm/g以下である請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のセメント組成物。
【請求項5】
クリンカと、石膏と、カルサイトの格子体積が366.76Å以上368.00Å以下である石灰石とを粉砕し混合する工程を含むセメント組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物及びセメント組成物の製造方法に関し、特にポルトランドセメントを用いたセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
モルタルやコンクリートを用いて作製された構造体を使用して建てられた建造物の品質を保証するために、モルタルやコンクリートに用いられるセメント組成物が発現する強度が高いことが必要である。このため、従来から、高い強度を発現する様々なセメント組成物が開発されてきた。
【0003】
そのようなセメント組成物の中に、セメント組成物の粒度分布や比表面積を調整することによって、セメント組成物が発現する強度を高めたセメント組成物が知られている。例えば、特許文献1に記載のセメント含有粉体組成物では、セメント質材料のブレーン比表面積を1500〜3300cm/gとし、かつ、100μm篩残分量が0.5〜40質量%とすることによって、セメント含有粉体組成物が発現する強度を高くしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−166927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、モルタルから作製した供試体を使用してセメント組成物が発現する強度の評価を行っている。そして、モルタルによる評価でセメント組成物が高い強度を発現するのであれば、コンクリートにおいてもセメント組成物は高い強度を発現するとしている。しかしながら、モルタルによる評価で高い強度を発現するとされたセメント組成物が、コンクリートに用いると必ずしも高い強度を発現するとは限らないことが問題となっていた。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、モルタルによる評価でコンクリートに使用したときの強度を担保でき、さらにモルタルによる評価でコンクリートの品質管理することができるセメント組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等が鋭意研究を行った結果、セメント組成物に用いる石灰石のカルサイトの格子体積と、コンクリート/モルタル強度比(セメント組成物から作製したコンクリートの供試体の強度と、同じセメント組成物から作製したモルタルの供試体の強度との比)との間に強い相関があることを見出した。さらに、特定のカルサイトの格子体積を有する石灰石を用いた場合に、同程度のモルタル強度である場合でも該コンクリート/モルタル強度比が高い傾向があり、かつ、コンクリート強度のバラつきが小さくなることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、以下の[1]〜[5]を提供する。
[1]クリンカと、石膏と、石灰石とを含み、前記石灰石のカルサイトの格子体積が、366.76Å以上368.00Å以下であるセメント組成物。
[2]前記クリンカが、ボーグ式で算出された3CaO・SiOの割合が50〜75質量%であり、ボーグ式で算出された2CaO・SiOの割合が8〜30質量%であり、ボーグ式で算出された3CaO・Alおよび4CaO・Al・Feの合計の割合が15〜25質量%である、[1]に記載のセメント組成物。
[3]マイクロトラック法による粒度分布が、11μm以上22μm未満の粒子の割合が18.0%以上26.0%以下であり、かつ、22μm以上44μm未満の粒子の割合が31.8%以上38.0%以下である、[1]または[2]に記載のセメント組成物。
[4]ブレーン比表面積が3200cm/g以上3800cm/g以下である[1]〜[3]のいずれかに記載のセメント組成物。
[5]クリンカと、石膏と、カルサイトの格子体積が366.76Å以上368.00Å以下である石灰石とを粉砕し混合する工程を含むセメント組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、モルタルによる評価でコンクリートに使用したときの強度を担保することができる。また、モルタルによる評価からコンクリート強度を高精度で推定することができるので、コンクリートの品質管理を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】モルタル強度とコンクリート強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のセメント組成物について、詳細に説明する。なお、本明細書中の「AA〜BB」との数値範囲の表記は、「AA以上BB以下」であることを意味する。
【0012】
[セメント組成物]
本発明のセメント組成物は、クリンカと、石膏と、石灰石とを含み、石灰石のカルサイトの格子体積が、366.76Å以上368.00Å以下である。
具体的に、本発明のセメント組成物は、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、または、超早強ポルトランドセメントである。
以下で、上記セメント組成物の各成分について説明する。
【0013】
〔クリンカ〕
本発明のセメント組成物に使用されるクリンカは、3CaO・SiO(略号:CS)、2CaO・SiO(略号:CS)、3CaO・Al(略号:CA)、および4CaO・Al・FeO(略号:CAF)を含む。セメントクリンカは、エーライト(CS)およびビーライト(CS)の主要鉱物と、その主要鉱物の結晶間に存在するアルミネート相(CA)およびフェライト相(CAF)の間隙相などとから構成される。
【0014】
本発明のセメント組成物に使用されるクリンカは、JIS R 5210:2009「ポルトランドセメント」に規定されている品質を満たせば特に限定されるものではないが、ボーグ式で算出された3CaO・SiOの割合が50〜75質量%であり、ボーグ式で算出された2CaO・SiOの割合が8〜30質量%であり、ボーグ式で算出された3CaO・Alおよび4CaO・Al・FeOの合計の割合が15〜25質量%であることが好ましい。
【0015】
<クリンカの製造工程>
本発明のクリンカは、例えば、以下のようにして製造することができる。クリンカ原料としては、Ca、Si、Al、Feなどを含むものであれば、元素単体物、酸化物、炭酸化物などの形態を問わず用いることができ、また、それらの混合物を用いることができる。天然原料の例として、石灰石、粘土、珪石、酸化鉄原料が挙げられ、工業的な原料の例として、上記元素を含む廃棄物原料、高炉スラグ、フライアッシュなどが挙げられる。かかるクリンカ原料の混合割合に関しては、ボーグ式値を満たすクリンカが製造できれば、とくに限定されるものではなく、目的とするボーグ式値に対応した成分組成となるように原料配合を定めることができる。
【0016】
そして、目的とするクリンカが得られるような組成で混合されたクリンカ原料を、下記の焼成条件で焼成し、冷却する。焼成は、通常、電気炉やロータリーキルンなどを用いて行われる。焼成方法としては、たとえば、クリンカ原料を、所定の第1焼成温度および第1焼成時間で加熱して焼成を行う第1焼成工程と、該第1焼成工程後、第1焼成温度から所定の第2焼成温度まで所定の昇温時間をかけて昇温させる昇温工程と、該昇温工程後、第2焼成温度および所定の第2焼成時間で加熱して焼成を行う第2焼成工程と、を含む方法が挙げられる。たとえば、電気炉を用いた場合、クリンカ原料を、1000℃の焼成温度(第1焼成温度)で30分間(第1焼成時間)加熱して焼成を行った後(第1焼成工程)、1450℃(第2焼成温度)まで30分間(昇温時間)かけて昇温させ(昇温工程)、さらに1450℃で15分間(第2焼成時間)加熱して焼成を行った後(第2焼成工程)、焼成物を急冷することにより、クリンカを製造することができる。
【0017】
〔石膏〕
本発明のセメント組成物は石膏を含む。また、本発明における石膏は半水石膏を含む。本発明における石膏は、無水石膏および/または二水石膏をさらに含んでもよい。
セメント組成物の質量に対する石膏のSOに換算した質量の割合は、0.8質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましい。石膏の割合が上記範囲とすることにより、セメント組成物の乾燥収縮を適切にすることができるとともに、セメント組成物が発現する長期強度(たとえば、材齢28日のコンクリートの強度)を高くすることができる。石膏中のSOの割合は、JIS R 5202:2010「ポルトランドセメントの化学分析方法」に準じて測定することができる。セメント組成物中の石膏のSOに換算した質量の割合は、石膏の配合量と石膏に含まれるSOの割合から求めることができる。
【0018】
〔石灰石〕
本発明の石灰石は、カルサイトの格子体積が366.76Å以上368.00Å以下であることを要件とする。なお、本発明において、カルサイトの格子体積は、石灰石のX線回折測定を行い、回折パターンをリートベルト解析して得られた格子定数から算出された値である。
【0019】
石灰石は、主に、モルタルやコンクリートの流動性改善や耐久性および強度向上を目的としてセメント組成物に添加される。一般に、石灰石には微量成分が含まれ、微量成分が石灰石の主成分である炭酸カルシウムの格子中に固溶することによって、カルサイトの格子体積が変化する。主な微量成分はMgOであり、マグネシウムはカルシウムよりもイオン半径が小さいため、MgOの含有率に応じてカルサイトの格子体積が小さくなる傾向がある。石灰石の微量成分の含有量は石灰石の産地よって異なり、そのためカルサイトの格子体積も石灰石の産地に応じて異なる。
石灰石のカルサイトの格子体積は、366.82Å以上であることが好ましい。特に、石灰石のカルサイトの格子体積は、366.90Å以上であることが好ましい。
カルサイトの格子体積が上記範囲である石灰石を用いる効果は後述する。
【0020】
セメント組成物中の石灰石の割合は、JIS R 5210:2009「ポルトランドセメント」に規定されている品質を満たせば、特に制限はないが、石灰石の割合が1.0質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましい。石灰石が上記割合であることにより、セメント組成物が発現する長期強度(例えば、材齢28日のコンクリートの強度)を向上させることができるとともに、セメント組成物の流動性が向上して、コンクリートとしたときの作業性を良好にすることができる。また、上記割合とすることにより、セメント組成物の製造において石灰石、石膏及びクリンカを粉砕混合した結果、セメント組成物中の粒度分布を適切に調整することができる。セメント組成物中の石灰石の割合は、石灰石の配合量により求めることができる。
【0021】
〔その他の成分〕
本発明のセメント組成物には、流動性、水和速度または強度発現の調節用として、フライアッシュ、高炉スラグあるいはシリカフュームなどをさらに添加することができる。また、本発明のセメント組成物に、AE減水剤、高性能減水剤または高性能AE減水剤、とくにポリカル系高性能AE減水剤を添加することにより、コンクリートの流動性および強度をより向上させることができる。
【0022】
〔セメント組成物の製造方法〕
クリンカと、石膏と、カルサイトの格子体積が366.78Å以上368.00Å以下である石灰石とを粉砕し混合する工程を含む。本工程において、クリンカ、石膏及び石灰石を所定の比率で配合し、配合物を粉砕することが好ましい。粉砕は、所望のブレーン比表面積となるように、公知の方法で実施される。粉砕方法としては、慣用の粉砕機であるボールミルを使用した方法などがある。
【0023】
あるいは、本発明では、混合後のブレーン比表面積が所望の数値となるように、予め粉砕されたクリンカ、石膏、及び、石灰石(カルサイト体積が366.76Å以上368.00Å以下)を所定の比率で混合したものを、セメント組成物とすることも可能である。
【0024】
〔セメント組成物の粒度分布〕
本発明のセメント組成物は、マイクロトラック法による粒度分布が、11μm以上22μm未満の粒子の割合が18.0%以上26.0%以下であり、かつ、22μm以上44μm未満の粒子の割合が31.8%以上38.0%以下であることが好ましい。本発明ではカルサイトの格子体積が366.76Å以上368.00Å以下である石灰石を用いることにより、セメント組成物の粒度分布を上記範囲に調整しやすくすることができる。
粒度分布は、より好ましくは、11μm以上22μm未満の粒子の割合が21.0%以上24.0%以下であり、かつ、22μm以上44μm未満の粒子の割合が32.0%以上35.0%以下である。
なお、マイクロトラック法による粒度分布の測定は、JIS R 1629「ファインセラミックス原料のレーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法」に準拠して実施される。
【0025】
〔セメント組成物のブレーン比表面積〕
本発明のセメント組成物のブレーン比表面積は、3200cm/g以上3800cm/g以下であることが好ましい。セメント組成物のブレーン比表面積が上記範囲であると、セメント組成物が発現する長期強度(たとえば、材齢28日のコンクリートの強度)をさらに向上させることができる。また、セメント組成物の流動性が良好にすることができる。なお、ブレーン比表面積とは、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に準拠したブレーン方式により測定した比表面積である。
【0026】
[モルタル及びコンクリート]
本発明のセメント組成物を、水と混合することにより、セメントミルクを作製することができ、水および砂と混合することにより、モルタルを作製することができ、砂および砂利と混合することにより、コンクリートを製造することができる。また、上記セメント組成物からモルタルやコンクリートを作製する際、高炉スラグやフライアッシュなどを添加することもできる。
【0027】
〔コンクリート/モルタル強度比〕
セメント組成物から作製したコンクリートの供試体の強度と、同じセメント組成物から作製したモルタルの供試体の強度との間の比(コンクリート/モルタル強度比)の値は、1に近ければ近いほど好ましい。本発明のセメント組成物は、カルサイトの格子体積が366.76Å以上368.00Å以下の石灰石をセメント組成物に用いることにより、コンクリート/モルタル強度比を0.74以上となる。これは、上記範囲外の石灰石を用いた場合と比較して高い値である。つまり、本発明のセメント組成物は、モルタルでの評価でコンクリート強度を担保することができるものである。
更に本発明のセメント組成物は、コンクリート/モルタル強度比のバラつきを小さくすることができる。すなわち、モルタル強度から推定されるコンクリートの強度(推定値)と実測値との誤差が小さくなる。このため、モルタルでの評価でコンクリート強度を高精度で推定することができる。従って、本発明のセメント組成物は、モルタルでの評価でコンクリートの品質を適切に管理することが可能である。
なお、本発明における「モルタル強度」は、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に準拠して測定される28日モルタル圧縮強度である。本発明における「コンクリート強度」とは、JIS A 1108「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準拠して測定される28日コンクリート圧縮強度である。
【0028】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
1.評価方法
1−1.カルサイトの格子体積
実施例及び比較例の石灰石に対して、粉末X線回析装置(パナリティカル社製、X’Part Powder)を用い、測定条件を、測定範囲:2θ=10〜70°、ステップサイズ:0.017°、スキャンスピード:0.1012°/s、電圧:45kV、電流:40mAとして、X線回折測定を行い、X線回折プロファイルを得た。
上記粉末X線回析装置に備えられた結晶構造解析用ソフトウエア(パナリティカル社製、X’Part High Score Plus version 2.1b)を用い、リートベルト法による解析を行い、得られた格子定数から格子体積を算出した。リートベルト解析の際に、基本結晶構造データの初期値として、ICDD number 50586を使用した。
【0030】
1−2.クリンカ組成
実施例および比較例のセメント組成物におけるクリンカ中のCaO、SiO、AlおよびFeの質量割合を、JIS R 5204:2019「セメントの蛍光X線分析方法」に準拠して算出した。その算出結果を用いて、下記のボーグ式からクリンカの各組成を算出した。
S=(4.07×CaO)−(7.60×SiO)−(6.72×Al)−(1.43×Fe
S=(2.87×SiO)−(0.754×CS)
A=(2.65×Al)−(1.69×Fe
AF=3.04×Fe
【0031】
1−3.セメント組成物中の石膏のSOに換算した質量の割合
実施例および比較例のセメント組成物中の石膏のSOに換算した質量の割合を、石膏の配合量と石膏に含まれるSOの割合から求めた。石膏のSOの割合は、JIS R 5202:2010「ポルトランドセメントの化学分析方法」に準拠して測定した。
【0032】
1−4.ブレーン比表面積
実施例および比較例のセメント組成物のブレーン比表面積値をJIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に準拠して測定した。
【0033】
1−5.粒度分布
実施例及び比較例のセメント組成物の粒度分布を、JIS R 1629「ファインセラミックス原料のレーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法」に準拠して、マイクロトラック法により測定した。測定装置として、マイクロトラック・ベル株式会社製、MT3300EXIIを用いた。分散媒体にはエタノールを使用し、測定前に超音波装置で30秒間の分散を行った。
【0034】
1−6.モルタル強度
JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法:10.5測定」に準拠して、モルタルの圧縮強さを測定した。
【0035】
1−7.コンクリート強度
JIS A 1108「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準拠して28日コンクリート圧縮強度を測定した。
【0036】
2.セメント組成物の作製
2−1.クリンカ
クリンカ原料として、二酸化珪素(関東化学(株)製、試薬1級、SiO)、酸化鉄(III)(関東化学(株)製、試薬特級、Fe)、炭酸カルシウム(キシダ化学(株)製、試薬1級、CaCO)、酸化アルミニウム(関東化学(株)製、試薬1級、Al)、塩基性炭酸マグネシウム(キシダ化学(株)製、試薬特級、約4MgCO・Mg(OH)・5HO)、炭酸ナトリウム(キシダ化学(株)製、無水・特級、NaCO)およびリン酸三カルシウム(キシダ化学(株)製、試薬1級、Ca(PO)を用いた。
【0037】
配合量を適宜変えて配合したクリンカ原料を、電気炉に投入して1000℃で30分間の焼成を行った後、1000℃から1450℃まで30分間かけて昇温させ、さらに1450℃で15分間の焼成を行った後、焼成物を大気中に取り出すことによって急冷して、各実施例、比較例に用いたクリンカを作製した。
【0038】
2−2.セメント組成物の調製
上記作製したセメントクリンカと石膏(半水石膏(関東化学(株)製半水石膏、型番:07108−01(焼石膏 鹿1級))および二水石膏((株)ノリタケカンパニーリミテッド製、型番:生石膏A号))と石灰石とを配合した。そして、配合物を、ブレーン比表面積値が約3000〜約3800cm/gの範囲となるようにボールミルで粉砕して、各実施例および比較例のセメント組成物を作製した。
なお、実施例および比較例のセメント組成物中の石膏のSOに換算した質量の割合は、石膏の配合量を変えることにより、各セメント組成物間で変わるようにした。
実施例及び比較例の石灰石として、産地及びロットが異なる石灰石を複数種類準備した。
【0039】
2−3.モルタル供試体の作製
実施例および比較例のセメント組成物から作製したモルタルをそれぞれ、40mm×40mm×160mmの金属型枠3個に打設し、24時間後に脱型してモルタル供試体を3個ずつ作製した。その後、20℃水中で材齢28日まで養生して、各実施例及び比較例のモルタル供試体を得た。
【0040】
2−4.コンクリート供試体の作製
表1に示す配合割合で、実施例および比較例のセメント組成物、砂(揖斐川産川砂、粒径25〜5mm)、砂利(西島産砕石、粒径5mm以下)、AE減水剤(BASFポゾリス(株)製、商品名:マスターポリーヒード15S)および水を、パン型強制ミキサ(岡三機工(株)製、型番:STR−N2 8H)を用いて均質に混合して、コンクリートを調製した。得られたコンクリートをそれぞれ、φ100mm×高さ200mmの金属型枠3個に打設し、24時間後に脱型してコンクリート供試体を3個ずつ作製した。その後、20℃水中で材齢28日まで養生して、各実施例及び比較例のコンクリート供試体を得た。
【0041】
【表1】
【0042】
表2に、クリンカのボーク式値、石膏量、石灰石量及び粉末度を同一とし、カルサイトの格子体積が異なる石灰石を用いた結果を示す。なお、表2中、「11−22μm」は、粒径が11μm以上22μm未満であることを意味し、「22−44μm」は、粒径が22μm以上44μm未満であることを意味する。
【0043】
【表2】
【0044】
表2の結果から、カルサイトの格子体積が大きくなるほど、コンクリート/モルタル強度比(σc/σm)の値が高く、バラつきが小さくなった。この結果から、カルサイトの格子体積がコンクリート/モルタル強度比に影響すると言える。
また、カルサイトの格子体積が大きいほど、22μm以上44μm未満の粒子の割合が相対的に大きくなり、11μm以上22μm未満の粒子の割合が相対的に小さくなる傾向が見られた。このことから、カルサイトの格子体積とセメント組成物中の粒度分布との間に相関があると考えられた。
【0045】
表3に、実施例4〜19、比較例4〜12の結果を示す。図1に、実施例1〜19及び比較例1〜12のモルタル強度とコンクリート強度の関係を示す。
【0046】
【表3】
【0047】
表2,3によると、実施例はいずれもコンクリート/モルタル強度比が0.74以上となり、比較例よりも高い結果となった。図1によると、実施例は比較例と比べてコンクリート/モルタル強度比のバラつきが小さくなった。このことから、クリンカ組成、石膏量、石灰石量、粉末度を変更した場合でも、カルサイトの格子体積とσc/σmとの間に相関関係があると言える。すなわち、カルサイトの格子体積が366.76Å以上368.00Å以下の石灰石を用いれば、同程度のモルタル強度であっても高いコンクリート強度を得ることができる。また、モルタルでの評価から推定されるコンクリート強度の精度を高くすることができる。
【0048】
また、実施例1〜18はいずれも、11μm以上22μm未満の粒子割合が18.0〜26.0%、かつ、22μm以上44μm未満の粒子割合が31.8〜38.0%であった。この結果から、実施例1〜18はセメント組成物中の粒子の分布が適切であることが、コンクリート/モルタル強度比が向上した要因の1つであると考えられた。
図1