細胞膜透過性ペプチド、ETV2(ETS variant 2)遺伝子の塩基配列に結合するDNA結合ペプチド及び転写活性化因子を含む融合ポリペプチドであって、前記塩基配列が、配列番号7に示される塩基配列である、融合ポリペプチド。
DNA結合ペプチドが転写活性化因子様エフェクター(TALE:Transcription Activator Like Effector)である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の融合ポリペプチド。
細胞膜透過性ペプチドが配列番号5に示されるアミノ酸配列を含むペプチドであり、DNA結合ペプチドが配列番号15に示されるアミノ酸配列を含むペプチドであり、かつ転写活性化因子が、VP64、VPR、p300又はGCN5である、請求項5に記載の融合ポリペプチド。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態のみに限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施をすることができる。
【0009】
1.
概要
閉塞性動脈硬化症及び糖尿病性足病変(足潰瘍、足壊疽)は、最終的な治療が四肢切断となり得る深刻な疾患である。現在、これらの疾患に対する血管新生療法の研究が進められているが、四肢切断術を回避することができる有効な治療法は存在しない。
一方、遺伝子発現ベクターを用いて、ETV2遺伝子を線維芽細胞において発現させると、線維芽細胞から血管内皮細胞へリプログラミングできることが報告されている。しかしながら、遺伝子発現ベクターを用いた場合、遺伝子がゲノムに取り込まれる可能性があるため、臨床上より安全性の高い方法が求められている。
本発明は、細胞膜透過性ペプチド、ETV2遺伝子の塩基配列に結合するDNA結合ペプチド及び転写活性化因子を含む融合ポリペプチドであり、遺伝子発現ベクターと異なり、ゲノムに取り込まれる可能性がないため、臨床上より安全性が高い。
本発明の融合ポリペプチドを用いることにより、体細胞から血管新生作用を有する細胞を製造することができる。また、当該細胞を用いることにより、生体内において血管新生を誘導することができ、これにより、壊死を抑制し、運動能力を改善することもできる。
このように、本発明の融合ポリペプチドは、閉塞性動脈硬化症や糖尿病性足病変などの虚血性疾患に対し、従来の方法ではなし得なかった新たな治療方法を可能にするものである。特に、糖尿病性足病変は、今後も患者の増加が予測されているため、これに対して有効な治療法を提供し得る本発明は、臨床上及び産業上極めて有用なものである。
【0010】
2.
融合ポリペプチド
(1)
細胞膜透過性ペプチド
本発明の融合ポリペプチドは、細胞膜透過性ペプチド、ETV2遺伝子の塩基配列に結合するDNA結合ペプチド及び転写活性化因子を含む融合ポリペプチドである。
本発明において、「細胞膜透過性ペプチド」は、細胞膜を通過できるペプチドである限り、そのアミノ酸配列は特に限定されない。被験ペプチドが細胞膜を通過できるか否かは、公知の細胞膜通過評価系を用いて確認することができる(国際公報第2008/108505号)。
【0011】
本発明の融合ポリペプチドに含まれる細胞膜透過性ペプチドには、公知の細胞膜透過性ペプチドを使用することができる(国際公報第2008/108505号、Pharmacol. Ther., 2015, Vol.154, p.78-86、 Database (Oxford), 2012, bas015)。例えば、本発明の融合ポリペプチドに含まれる細胞膜透過性ペプチドとして、アミノ酸配列RI、FI及びRIGCを含み、アミノ酸残基数が25以下であるポリペプチドを使用することができる。1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドに含まれる細胞膜透過性ペプチドとしては、配列番号1に示されるアミノ酸配列(RILQQLLFIHFRIGCRHSRI)を含む若しくはこのアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号2に示されるアミノ酸配列(RILQQLLFIHFRIGCRH)を含む若しくはこのアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号3に示されるアミノ酸配列(RILQQLLFIHFRIGC)を含む若しくはこのアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号5に示されるアミノ酸配列(RIFIHFRIGC)を含む若しくはこのアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号6に示されるアミノ酸配列(RIFIRIGC)を含む若しくはこのアミノ酸配列からなるペプチドが挙げられる。好ましくは、配列番号5に示されるアミノ酸配列(RIFIHFRIGC)を含む若しくはこのアミノ酸配列からなるペプチドである。配列番号5に示されるアミノ酸配列(RIFIHFRIGC)をコードする塩基配列は配列番号4に示す。
【0012】
(2)
DNA結合ペプチド
本発明において、「ETV2遺伝子の塩基配列に結合するDNA結合ペプチド」とは、ETV2遺伝子の転写調節領域に結合するDNA結合ペプチドである。
転写調節領域としては、ETV2遺伝子の発現調節に関与する領域である限り特に限定されるものではなく、例えば、プロモーター領域及びエンハンサー領域が挙げられる。
【0013】
本発明において、「ETV2遺伝子の塩基配列に結合するDNA結合ペプチド」としては、限定されるものではないが、例えば、配列番号7に示される塩基配列に結合するDNA結合ペプチドが挙げられる。
【0014】
本発明において、DNA結合ペプチドについて使用される「結合する」とは、標的の塩基配列のDNAに対して親和性を有することを意味する。また、「結合する」とは、標的の塩基配列に直接結合することだけでなく、標的の塩基配列に結合するポリヌクレオチドに結合することで間接的に標的の塩基配列に結合することも意味する。したがって、本発明の融合ポリペプチドに含まれるDNA結合ペプチドには、標的の塩基配列に直接結合するポリペプチドだけでなく、標的の塩基配列に結合するポリヌクレオチドに結合することで間接的に標的の塩基配列に結合するポリペプチドも含まれる。
【0015】
標的の塩基配列に結合するポリヌクレオチドに結合することで間接的に標的の塩基配列に結合するDNA結合ペプチドとしては、例えば、CRISPR/CAS9(Science、2013、Vol.339、p.819-823)を使用することができる。CRISPR/CAS9を作製する技術は公知であるため、当業者であれば、当該技術に基づいて、標的の塩基配列に結合するように設計されたポリヌクレオチド、及び、当該ポリヌクレオチドに結合するペプチドを作製することができる(Science、2013、Vol.339、p.819-823、Science、2013、Vol.339、p.823-826)。
【0016】
さらに、本明細書において、DNA結合ペプチドについて使用される「結合する」とは、実際に標的の塩基配列に結合することだけでなく、標的の塩基配列に結合するように設計されたことも意味する。したがって、本発明の融合ポリペプチドに含まれるDNA結合ペプチドには、実際に標的の塩基配列に結合するDNA結合ペプチドだけでなく、標的の塩基配列に結合するように設計されたDNA結合ペプチドも含まれる。
【0017】
被験ペプチドが標的の塩基配列又は標的の塩基配列に結合するポリヌクレオチドに結合することができるか否かは、ゲルシフトアッセイやChIP(Chromatin immunoprecipitation)-seqアッセイなどの公知の結合活性測定方法を用いて確認することができる。
【0018】
被験ペプチドが標的の塩基配列に結合するように設計されたか否かは、例えば、標的の塩基配列に結合することが報告されているアミノ酸配列を被験ペプチドが含むかどうかで確認することができる。標的の塩基配列に結合することが報告されているアミノ酸配列として、例えば、Science, 2009, Vol.326, p.1509-1512、Nat.Biotechnol., 2011, Vol.29, p.143-148、特開2015/33365号、及び、Proc.Natl.Acad.Sci.USA., 1997, Vol.94, p.5525-5530に記載のアミノ酸配列が挙げられる。また、被験ペプチドが標的の塩基配列に結合するように設計されたか否かは、上記と同様、ゲルシフトアッセイやChIP-seqmアッセイなどの公知の結合活性測定方法を用いて、被験ペプチドが標的の塩基配列に実際に結合するかどうかを確認してもよい。
【0019】
ETV2遺伝子の塩基配列に結合するように設計されたDNA結合ペプチドとしては、例えば、転写活性化因子様エフェクター(TALE)(Science,2009,Vol.326,p.1509-1512)又はZinc-fingerタンパク質(Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 1996, Vol.93, p.1156-1160)を使用することができる。TALE及びZinc-fingerタンパク質を作製する技術は公知であり(Nat. Biotechnol., 2011, Vol.29, p.143-148、Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 1997,Vol.94, p.5525-5530)、TALEを作製する際には、塩基配列に対する高い結合活性を有するTALEを作製する方法を使用することができる(特開2015/33365号、Platinum Gate TALEN construction protocol(Yamamoto lab)Ver.1.0、インターネット<URL:https://www.addgene.org/static/cms/files/Platinum_Gate_protocol.pdf>)。
TALEの結合領域(標的塩基配列)は、例えば、結合対象となる遺伝子の周辺配列を公知のデータベース(例えばEnsembl genome browserなど)で検索し、そのプロモーターやエンハンサーとして作用することが予想される当該遺伝子の転写開始点から上流(例えば、約1〜500ベースペア(bp)上流、約1〜50000bp上流)の遺伝子領域から、選択することができる。
【0020】
本明細書で使用される「TALE」とは、34アミノ酸からなる構造単位を10〜30個の繰り返し数で連結されたリピート構造(以下、「DNA結合リピート部分」ともいう)を含むペプチドを意味する。本発明において、TALEは、目的とするゲノム上の標的塩基配列に結合するように設計されたDNA結合リピート部分と、チミンに結合するように設計されたアミノ酸配列を含むアミノ末端領域とを含む(RCSB Protein Data Bank、 Molecule of the Month、2014、No.180、Nat. Biotechnol.、2011、Vol.29、p.143-148)。標的塩基配列に結合するように設計されたDNA結合リピート部分のアミノ酸配列及びチミンに結合するように設計されたアミノ酸配列を含むアミノ末端領域のアミノ酸配列としては、例えば、公知のアミノ酸配列を使用することができる(Science、2009、Vol.326、p.1509-1512、Nat. Biotechnol.、2011、Vol.29、p.143-148、特開2015/33365号)。
本発明において、上記「標的塩基配列に結合するように設計されたDNA結合リピート部分」のアミノ酸配列としては、例えば、配列番号9に示されるアミノ酸配列が挙げられるが、これらに限定されない。
また、本発明において、上記「チミンに結合するように設計されたアミノ酸配列を含むアミノ末端領域」のアミノ酸配列としては、例えば、配列番号11に示されるアミノ酸配列が挙げられるが、これに限定されない。
【0021】
本発明において、「ETV2遺伝子の塩基配列に結合するDNA結合ペプチド」としては、限定されるものではないが、例えば、配列番号7に示される塩基配列に結合するTALEが挙げられる。
【0022】
本発明において、「ETV2 遺伝子の塩基配列に結合するDNA結合ペプチド」としては、限定されるものではないが、例えば、配列番号9に示されるアミノ酸配列を含むTALEが挙げられ、好ましくは、配列番号13に示されるアミノ酸配列を含むTALEであり、より好ましくは、配列番号15に示されるアミノ酸配列を含む又はこのアミノ酸配列からなるTALEである。
配列番号9に示されるアミノ酸配列は、標的塩基配列に結合するように設計されたDNA結合リピート部分のアミノ酸配列である。
配列番号13に示されるアミノ酸配列は、(i) チミンに結合するように設計されたアミノ酸配列を含むアミノ末端領域と(ii)標的塩基配列に結合するように設計されたDNA結合リピート部分とを含むアミノ酸配列である。
配列番号15に示されるアミノ酸配列は、(i) チミンに結合するように設計されたアミノ酸配列を含むアミノ末端領域と(ii)標的塩基配列に結合するように設計されたDNA結合リピート部分と(iii) DNA結合リピート部分の下流のカルボキシル末端領域とを含むアミノ酸配列である。
【0023】
(3)
転写活性化因子
本発明において、転写活性化因子としては、本発明の融合ポリペプチドが標的遺伝子の転写を活性化できる限り特に限定されず、例えば、VP64、VPR、p300、GCN5、ヒストンメチル化酵素及びTFIID結合蛋白質などの公知の転写活性化因子を使用することができる(Nucl. Acids Res., 2014, Vol.42, p.4375-4390、Nat. Methods, 2015, Vol.12, p.326-328、EMBO J., 1997, Vol.16, p.555-565、Nature, 2000, Vol.406, p.593-599、Nature, 2000, Vol.405, p.701-704)。1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドに含まれる転写活性化因子は、VP64、VPR、p300又はGCN5であり、好ましくは、VP64である。
VP64のアミノ酸配列を配列番号17に示し、このアミノ酸配列をコードする塩基配列を配列番号16に示す。また、VPRのアミノ酸配列を配列番号19に示し、このアミノ酸配列をコードする塩基配列を配列番号18に示す。
本発明においては、VP64としては、配列番号17に示されるアミノ酸配列のC末端にバリンが付加されたアミノ酸配列を有するもの(VP64V)を用いてもよい。
【0024】
本発明において、転写活性化因子には、転写活性化能を有している限り、野生型だけでなく、改変体も含まれる。
【0025】
本発明の融合ポリペプチドに含まれる転写活性化因子としては、例えば、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性(HAT活性)を有する転写活性化因子を使用することができ、p300及びGCN5のようにHAT活性を有する転写活性化因子を使用する際には、当該転写活性化因子のHAT活性を示すコア領域を含むポリペプチドを使用することもできる。
本発明において、「p300」には、p300のコア領域(「p300CD」)を含むポリペプチドも含まれる。1つの実施形態において、p300のコア領域はAccession No.NP_001420.2のアミノ酸番号1048から1664までのアミノ酸配列からなるポリペプチドである。
また、本発明において、「GCN5」には、GCN5のコア領域(「GCN5CD」)を含むポリペプチドも含まれる。1つの実施形態において、GCN5のコア領域はAccession No.NP_066564.2のアミノ酸番号497から837までのアミノ酸配列からなるポリペプチドである。
p300及びp300のコア領域(p300CD)のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号21及び23に示し、これらのアミノ酸配列をコードする塩基配列をそれぞれ配列番号20及び22に示す。また、GCN5及びGCN5CDのアミノ酸配列をそれぞれ配列番号25及び27に示し、これらのアミノ酸配列をコードする塩基配列をそれぞれ配列番号24及び26に示す。
【0026】
本発明の融合ポリペプチドにおいて、細胞膜透過性ペプチド、ETV2遺伝子の塩基配列に結合するDNA結合ペプチド及び転写活性化因子の位置は、ETV2遺伝子の発現を活性化する活性を有する限り限定されない。好ましくは、細胞膜透過性ペプチドは本発明の融合ポリペプチドのN末端側又はC末端側に位置する。より好ましくは、細胞膜透過性ペプチドは本発明の融合ポリペプチドのN末端側に位置する。1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、N末端側から、細胞膜透過性ペプチド、ETV2遺伝子の塩基配列に結合するDNA結合ペプチド及び転写活性化因子の順に構成される。
【0027】
本発明の融合ポリペプチドに含まれる、細胞膜透過性ペプチド、VP64遺伝子の塩基配列に結合するDNA結合ペプチド及び転写活性化因子が由来する生物種は、限定されるものではなく、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒト、サル、イヌ、ウシ、トリなどが挙げられるが、好ましくは、マウス、ラット、ヒト、サルであり、より好ましくはヒトである。
【0028】
本発明の融合ポリペプチドは、ETV2の発現を活性化することができる限り、細胞膜透過性ペプチドとETV2遺伝子の塩基配列に結合するDNA結合ペプチドと及び転写活性化因子との間にペプチドリンカー等のペプチドを含んでもよい。
【0029】
また、本発明の融合ポリペプチドは、ETV2の発現を増加させることができる限り、本発明の融合ポリペプチドのN末端又はC末端にGlutathione S-transferase(GST)やヒスチジンタグ(Hisタグ)などのペプチドタグを含んでもよい。
本発明において、GSTタグとしては、例えば、配列番号29に示されるアミノ酸配列を含むものが挙げられ、ヒスチジンタグとしては、例えば、配列番号31に示されるアミノ酸配列を含むものが挙げられるが、これに限定されない。
【0030】
また、本発明の融合ポリペプチドは、ETV2の発現を増加させることができる限り、TEVプロテアーゼ認識配列、プレシジョンプロテアーゼ認識配列などのプロテアーゼ認識配列を含んでもよい。本発明の融合ポリペプチドにおけるプロテアーゼ認識配列の位置は限定されない。
本発明において、TEVプロテアーゼ認識配列としては、例えば、配列番号33に示されるアミノ酸配列を含むものが挙げられ、また、プレシジョンプロテアーゼ認識配列としては、例えば配列番号35に示されるアミノ酸配列を含むものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、(i) 配列番号5に示されるアミノ酸配列(RIFIHFRIGC)を含む若しくはこのアミノ酸配列からなる細胞膜透過性ペプチド、(ii) 配列番号15に示されるアミノ酸配列を含むTALE及び(iii) 配列番号17、19、21、23、25又は27に示されるアミノ酸配列(それぞれVP64、VPR、p300、p300CD、GCN5、GCNCDのアミノ酸配列)を含む若しくはこのアミノ酸配列からなる転写活性化因子を含むものである。また、これに加えて、本発明の融合ポリペプチドは、(iv)配列番号33に示されるアミノ酸配列を含むTEVプロテアーゼ認識配列、及び/又は(v)配列番号35に示されるアミノ酸配列を含むプレシジョンプロテアーゼ認識配列をさらに含むものであってもよい。さらに、これに加えて、本発明の融合ポリペプチドは、(vi) 配列番号29に示されるアミノ酸配列を含むGSTタグ又は(vii)配列番号31に示されるアミノ酸配列を含むヒスチジンタグをさらに含むものであってもよい。
【0032】
1つの実施形態において、本発明の融合ポリペプチドは、配列番号37又は39に示されるアミノ酸配列を含む又はこのアミノ酸配列からなるポリペプチドである。
【0033】
また、本発明の融合ポリペプチドには、配列番号37又は39に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのほか、配列番号37又は39に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、若しくは付加され、又はそれらの組合せにより変異されたアミノ酸配列からなり、かつETV2遺伝子の発現を増加させる作用を有するポリペプチドが含まれる。
上記配列番号37又は39に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が、欠失、置換、挿入、若しくは付加され、又はそれらの組合せにより変異されたアミノ酸配列としては、例えば、
(i)配列番号37又は39に示されるアミノ酸配列中の1〜10個(例えば、1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、
(ii)配列番号37又は39に示されるアミノ酸配列中の1〜10個(例えば、1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、
(iii)配列番号37又は39に示されるアミノ酸配列中に1〜10個(例えば、1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、
(iv)配列番号37又は39に示されるアミノ酸配列に1〜10個(例えば、1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、
(v)上記(i)〜(iv)の組合せにより変異されたアミノ酸配列
などが挙げられる。
【0034】
本発明において、「ETV2遺伝子の発現を増加させる作用」とは、細胞においてETV2遺伝子の発現量を増加させる作用を意味する。「ETV2遺伝子の発現を増加させる作用を有する」とは、被験融合ポリペプチドを添加していない培地で培養された細胞のETV2遺伝子の発現量と比較して、被験融合ポリペプチドが10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、好ましくは、50%以上ETV2遺伝子の発現量を増加させる作用を有することを意味する。ETV2遺伝子の発現を増加させる作用は、例えば本発明の融合ペプチドを添加した培地で培養した細胞におけるETV2遺伝子のmRNA量を、公知の方法、例えばReal-time PCRを用いて測定することにより、確認することができる。
【0035】
また、本発明の融合ペプチドには、配列番号37又は39に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのほか、配列番号37又は39に示されるアミノ酸配列と約80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつETV2遺伝子の発現を増加させる作用を有するポリペプチドが含まれる。
【0036】
本明細書における「同一性」とは、EMBOSS NEEDLE program(J.Mol.Biol., 1970, Vol.48, p.443-453)検索によりデフォルトで用意されているパラメータを用いて得られた値Identityを意味する。前記のパラメータは以下のとおりである。
Gap penalty=10
Extend penalty=0.5
Matrix=EBLOSUM62
【0037】
上記の変異を有するポリペプチドを調製するために、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに変異を導入するには、Kunkel法やGapped duplex法等の部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばQuikChange
TM Site-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社製)、GeneTailor
TM Site-Directed Mutagenesis System(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K, Mutan-Super Express Km等:タカラバイオ社製)等を用いて行うことができる。また、「Molecular Cloning, A Laboratory Manual(4th edition)」(Cold Spring Harbor Laboratory Press (2012))等に記載された部位特異的変異誘発法等の方法を用いることができる。
【0038】
本発明の融合ポリペプチドは、本明細書に開示される、細胞膜透過性ペプチド、ETV2遺伝子の塩基配列に結合するDNA結合ペプチド及び転写活性化因子の配列情報に基づいて、当該分野で公知の方法を使用して、当業者によって容易に作製され得る。本発明の融合ポリペプチドは、特に限定されるものではないが、例えば、後述の「7.融合ポリペプチドを生産する方法」に記載の方法に従い製造することができる。
【0039】
3.
ポリヌクレオチド
本発明のポリヌクレオチドには、本発明の融合ポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドが含まれる。
本発明において、細胞膜透過性ペプチドをコードする塩基配列としては、例えば、配列番号4に示される塩基配列を含むものが挙げられ、TALEをコードする塩基配列としては、例えば、配列番号14に示される塩基配列を含むものが挙げられ、転写活性化因子をコードする塩基配列としては、例えば、配列番号16、18、20、22、24又は26に示される塩基配列を含むものが挙げられるが、これに限定されない。また、TEVプロテアーゼ認識配列をコードする塩基配列、プレシジョンプロテアーゼ認識配列をコードする塩基配列としては、それぞれ、例えば、配列番号32に示される塩基配列を含むもの、配列番号34に示される塩基配列を含むものが挙げられるが、これらに限定されない。また、GSTタグをコードする塩基配列、ヒスチジンタグをコードする塩基配列としては、それぞれ、例えば、配列番号28に示される塩基配列を含むもの、配列番号30に示される塩基配列を含むものが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明の融合ポリペプチドをコードする塩基配列としては、例えば、配列番号36又は38に示される塩基配列を含むものが挙げられるが、これに限定されない。
本発明のポリヌクレオチドは、本発明の融合ポリペプチドを発現する宿主の種類に応じて、そのコドンを最適化することができる。この最適化により、宿主における発現量を向上させることができる。
【0040】
本発明のポリヌクレオチドは、その塩基配列に基づき、当該分野で公知の方法を使用して、当業者によって容易に作製され得る。例えば、本発明のポリヌクレオチドは、当該分野で公知の遺伝子合成方法を利用して合成することが可能である。
【0041】
4.
発現ベクター
本発明の発現ベクターには、本発明の融合ポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターが含まれる。
【0042】
本発明のポリヌクレオチドを発現させるために用いる発現ベクターとしては、RNAポリメラーゼ及びヌクレオシド三リン酸を含む反応液中で本発明の融合ポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを発現し、コムギ胚芽抽出液中でこれらによりコードされるポリペプチドを産生できるものである限り、又は、真核細胞(例えば、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母)及び/又は原核細胞(例えば、大腸菌)の各種の宿主細胞中で本発明の融合ポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを発現し、これらによりコードされるポリペプチドを産生できるものである限り、特に制限されるものではない。このような発現ベクターとしては、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、センダイウイルス)等が挙げられ、好ましくは、pEU-E01-MCS(セルフリーサイエンス社)、pCold
TMベクター(タカラバイオ)を使用することができる。
【0043】
本発明の発現ベクターは、本発明のポリヌクレオチドに機能可能に連結されたプロモーターを含み得る。RNAポリメラーゼ及びヌクレオシド三リン酸を含む反応液中で発現させるためのプロモーターとしては、T3プロモーター、T7プロモーター、SP6プロモーターなどが挙げられる。動物細胞で本発明のポリヌクレオチドを発現させるためのプロモーターとしては、例えば、Cytomegalovirus(CMV)、Rous sarcoma virus(RSV)、Simian virus 40(SV40)などのウイルス由来プロモーター、アクチンプロモーター、EF(elongation factor)1αプロモーター、ヒートショックプロモーターなどが挙げられる。細菌(例えば、エシェリキア属菌)で発現させるためのプロモーターとしては、例えば、trpプロモーター、lacプロモーター、λPLプロモーター、tacプロモーター、T3プロモーター、T7プロモーター、SP6プロモーターなどが挙げられる。また、酵母で発現させるためのプロモーターとしては、例えば、GAL1プロモーター、GAL10プロモーター、PH05プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどが挙げられる。
【0044】
RNAポリメラーゼ及びヌクレオシド三リン酸を含む反応液並びにコムギ胚芽抽出液を用いる場合、若しくは、宿主細胞として動物細胞、昆虫細胞、又は酵母を用いる場合、本発明の発現ベクターは、開始コドン及び終止コドンを含み得る。この場合、本発明の発現ベクターは、エンハンサー配列、本発明の融合ポリペプチドをコードする遺伝子の5’側及び3’側の非翻訳領域、分泌シグナル配列、スプライシング接合部、ポリアデニレーション部位、あるいは複製可能単位などを含んでいてもよい。宿主細胞として大腸菌を用いる場合、本発明の発現ベクターは、開始コドン、終止コドン、ターミネーター領域、及び複製可能単位を含み得る。この場合、本発明の発現ベクターは、目的に応じて通常用いられる選択マーカー(例えば、テトラサイクリン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子)を含んでいてもよい。
【0045】
5.
形質転換された宿主細胞
本発明の形質転換された宿主細胞には、本発明の発現ベクターで形質転換された宿主細胞が含まれる。
【0046】
形質転換する宿主細胞としては、使用する発現ベクターに適合し、当該発現ベクターで形質転換されて、タンパク質を発現することができるものである限り、特に限定されるものではない。形質転換する宿主細胞としては、例えば、本発明の技術分野において通常使用される天然細胞又は人工的に樹立された細胞など種々の細胞(例えば、動物細胞(例えば、CHO細胞)、昆虫細胞(例えば、Sf9)、細菌(エシェリキア属菌など)、酵母(サッカロマイセス属、ピキア属など)など)が挙げられ、好ましくは、細菌(エシェリキア属菌など)、CHO細胞、293細胞、NS0細胞等の培養細胞を使用することができる。
宿主細胞を形質転換する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、リン酸カルシウム法、電気穿孔法等を用いることができる。
【0047】
6.
血管新生作用を有する細胞
本発明においては、上記2.に記載された本発明の融合ポリペプチドを含む培地で体細胞を培養することにより、血管新生作用を有する細胞を製造することができる。
本発明において、血管新生作用を有する細胞は、生体内又は生体外で血管新生を誘導する作用を有する細胞を意味する。
また、本発明において、血管新生作用を有する細胞は、血管内皮細胞様細胞であってもよい。本発明において、血管内皮細胞様細胞は、血管内皮細胞のマーカーであるCD31 mRNAの発現量が亢進している細胞を意味する。
【0048】
本発明の血管新生作用を有する細胞の製造方法で使用される培地は、細胞培養の分野において通常使用される培地であれば特に限定されない。また、細胞の種類に応じて、血清を培地に添加することができる。
本発明の製造方法で使用される培養条件は、細胞の種類に応じて当業者が適宜選択することができる。培地に添加される本発明の融合ポリペプチドの濃度は、細胞の種類や細胞数、融合ポリペプチドの転写調節活性等により異なるが、例えば、0.01nM〜10μM程度、好ましくは0.1nM〜5μM程度を用いることができる。
【0049】
7.
融合ポリペプチドを生産する方法
本発明の融合ポリペプチドを生産する方法には、本発明の発現ベクターを用いて、RNAポリメラーゼ及びヌクレオシド三リン酸を含む反応液中で合成したmRNAをコムギ胚芽抽出液と反応させて、融合ポリペプチドを発現させる工程、又は、本発明の形質転換された宿主細胞を培養し、融合ポリペプチドを発現させる工程を包含する、融合ポリペプチドを生産する方法が含まれる。
当該方法で使用されるRNAポリメラーゼ及びヌクレオシド三リン酸を含む反応液並びにコムギ胚芽抽出液としては、例えば、WEPRO7240G Expression Kit(セルフリーサイエンス社)に含まれる試薬が挙げられる。また、当該方法で使用される好ましい宿主細胞としては、上記5.において「形質転換する宿主細胞」として列挙した細胞が挙げられる。
【0050】
形質転換された宿主細胞の培養は公知の方法により行うことができる。培養条件、例えば、温度、培地のpH及び培養時間は、適宜選択される。宿主細胞を培養することにより、本発明の融合ポリペプチドを生産することができる。
【0051】
本発明の融合ポリペプチドを生産する方法は、本発明の発現ベクターを用いて、RNAポリメラーゼ及びヌクレオシド三リン酸を含む反応液中でmRNAを合成する工程、並びに合成したmRNAをコムギ胚芽抽出液と反応させて、融合ポリペプチドを発現させる工程に加えて、さらには、融合ポリペプチドを回収、好ましくは単離又は精製する工程を含むことができる。単離又は精製方法としては、例えば、GSTタグと融合した本発明の融合ポリペプチドをグルタチオンセファロースビーズに結合させた後、過剰な還元型グルタチオンで溶出することによるアフィニティークロマトグラフィーにより精製することができる。
【0052】
また、本発明の融合ポリペプチドを生産する方法は、本発明の形質転換された宿主細胞を培養し、融合ポリペプチドを発現させる工程に加えて、さらには、当該形質転換された宿主細胞から融合ポリペプチドを回収、好ましくは単離又は精製する工程を含むことができる。単離又は精製方法としては、例えば、塩析、溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法、透析、限外濾過、ゲル濾過などの分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーなどの荷電を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動などの等電点の差を利用する方法などが挙げられる。好ましくは、培養上清中に蓄積された融合ポリペプチドは、各種クロマトグラフィーにより精製することができる。
【0053】
本発明の融合ポリペプチドには、本発明の融合ポリペプチドを生産する方法で生産された融合ポリペプチドも含まれる。
【0054】
本発明の方法で使用される培地は、細胞培養の分野において通常使用される培地であれば特に限定されない。また、細胞の種類に応じて、血清を培地に添加することができる。
【0055】
本発明の方法で使用される培養条件は、細胞の種類に応じて当業者が適宜選択することができる。
【0056】
培地に添加される本発明の融合ポリペプチドの濃度は、細胞の種類や細胞数、融合ポリペプチドの転写調節活性等により異なるが、例えば、0.01nM〜10μM程度、好ましくは0.1nM〜5μM程度を用いることができる。
【0057】
本発明の融合ポリペプチドを添加するタイミング及び回数は特に限定されない。本発明の融合ポリペプチドを培地に添加(投与)するタイミングは、例えば、培養開始時に添加してもよく、又は、培養開始後に添加してもよい。培養開始後に本発明の融合ポリペプチドを培地に添加する場合、培養開始から例えば1時間後、5時間後、10時間後、15時間後、24時間後(1日後)、36時間後、48時間後(2日後)、3日後、4日後、5日後、6日後に添加してもよい。
【0058】
本発明の融合ポリペプチドがETV2の発現を増加させることができるか否かは、公知の遺伝子発現量測定方法を用いて確認することができる。遺伝子発現量を測定する方法としては、例えば、Real-Time PCR等の方法が挙げられる。Real-Time PCRを用いる場合、例示的な方法において、TaqMan Fast Advanced Master Mix (サーモフィッシャーサイエンティフィック)を使用することによって、被験融合ポリペプチドがETV2遺伝子の発現を増加させることができるか否かを確認することができる。遺伝子発現量の具体的な評価方法としては、例えば、後述する実施例2に記載されるような方法を用いることができる。
【0059】
8.
組成物
本発明の組成物は、細胞膜透過性ペプチド、ETV2遺伝子の塩基配列に結合するDNA結合ペプチド及び転写活性化因子を含む融合ポリペプチドを含む。あるいは別の態様において、本発明の組成物は、本発明の血管新生作用を有する細胞を含む。本発明の組成物に含まれる融合ポリペプチド又は血管新生作用を有する細胞については、それぞれ、上記「2.本発明の融合ポリペプチド」又は「6.血管新生作用を有する細胞」に記載のとおりである。
本発明の融合ポリペプチド又は血管新生作用を有する細胞を含む組成物は、血管新生を誘導することができるため、血管新生誘導用組成物として使用することができる。
【0060】
本発明の組成物は、細胞培養の培地に添加して使用することができる。また、本発明の組成物は、培地そのものとして使用することもできる。本発明の組成物を培地として使用する場合は、本発明の組成物は、本発明の融合ポリペプチド又は融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのほか、炭素源、ビタミン、無機塩類などの栄養源、及び増殖因子など、通常の細胞培養に必要な成分を含むことができる。
【0061】
また、本発明の組成物は、本発明の融合ポリペプチド若しくは融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、又は本発明の細胞傷害性細胞のほか、本発明の組成物に適する任意の担体(リポソーム、脂質小胞体、ミセル等)、希釈剤、賦形剤、湿潤剤、緩衝剤、懸濁剤、潤滑剤、乳化剤、崩壊剤、吸収剤、保存料、界面活性剤、着色料などを含んでもよい。
【0062】
9.
医薬組成物
本発明の組成物は、壊死の治療又は予防用医薬組成物として使用することができる。また、本発明の組成物は、閉塞性動脈硬化症又は糖尿病性足病変の治療又は予防用医薬組成物として使用することができる。
本発明の医薬組成物には、本発明の血管新生作用を有する細胞又は本発明の融合ポリペプチド及び薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物が含まれる。
本発明の医薬組成物は、当該分野において通常用いられている賦形剤、即ち、薬剤用賦形剤や薬剤用担体等を用いて、通常使用される方法によって調製することができる。これら医薬組成物の剤型の例としては、例えば、注射剤、点滴用剤等の非経口剤が挙げられ、静脈内投与、門脈内投与又は皮下投与等により投与することができる。製剤化にあたっては、薬学的に許容される範囲で、これら剤型に応じた賦形剤、担体、添加剤等を使用することができる。薬学的に許容される賦形剤としては、例えば、生理食塩水や緩衝液が挙げられる。また、必要に応じて、培養細胞の栄養源となる成分を含めることができる。
【0063】
本発明の医薬組成物の治療又は予防の対象となる壊死は、四肢の虚血により生じるものであれば限定されるものではない。また、本発明の医薬組成物の治療又は予防の対象としては、限定されるものではなく、例えば、閉塞性動脈硬化症、糖尿病性足病変(足潰瘍若しくは足壊疽)が挙げられ、特に糖尿病性足病変は今後、増加する可能性が考えられる。
【0064】
本発明には、本発明の血管新生作用を有する細胞又は本発明の融合ポリペプチドの治療有効量を投与する工程を包含する、壊死、閉塞性動脈硬化症又は糖尿病性足病変(足潰瘍若しくは足壊疽)を予防又は治療する方法が含まれる。また、本発明には、壊死、閉塞性動脈硬化症又は糖尿病性足病変(足潰瘍若しくは足壊疽)の予防又は治療に使用するための、本発明の血管新生作用を有する細胞又は本発明の融合ポリペプチドが含まれる。さらに、本発明には、壊死、閉塞性動脈硬化症又は糖尿病性足病変(足潰瘍若しくは足壊疽)の予防又は治療用医薬組成物の製造における、本発明の血管新生作用を有する細胞又は本発明の融合ポリペプチドの使用が含まれる。
【0065】
本発明の血管新生作用を有する細胞を、壊死、閉塞性動脈硬化症又は糖尿病性足病変(足潰瘍若しくは足壊疽)の予防又は治療に用いる場合において、患者に投与する細胞の個数は、当業者であれば患者の症状、性別、年齢等によって適宜設定することができるが、1回投与分の量として、例えば、約1×10
4〜1×10
11個、好ましくは約1×10
6〜1×10
10個である。
【0066】
10.
試薬、キット
本発明の融合ポリペプチド、これをコードするポリヌクレオチド、発現ベクター、血管新生作用を有する細胞又はこれらのいずれかを含む組成物は、試薬又はキットの形態で使用することができる。例えば、本発明は、ETV2を発現する細胞の培養液に添加することで、当該細胞におけるETV2の発現を増加させることができるため、ETV2の発現を増加させるための試薬又はキットとして使用することができる。また、本発明の融合ポリペプチド及びこれを含む組成物は、血管新生を誘導することができるため、血管新生作用を有する細胞、例えば血管内皮細胞様細胞の培養に用いるための添加試薬又はキットとして使用することができる。
【0067】
本発明の試薬又はキットには、本発明の融合ポリペプチド又はこれを含む組成物のほか、緩衝液、希釈用溶液、細胞培養用培地、培養用プレート、その他の細胞培養に必要な製品、使用説明書などを含めることができる。
【0068】
本発明についてさらに理解を得るために参照する特定の実施例をここに提供するが、これらは例示目的とするものであって、本発明を限定するものではない。
【0069】
[実施例]
市販のキット又は試薬等を用いた部分については、特に断りのない限り添付のプロトコールに従って実験を行った。また、便宜上、濃度mol/LをMとして表す。
本実施例において、細胞膜透過性ペプチド(NTP)、TALE及び転写活性化因子を含む融合ポリペプチドは、「NTP-TALE-Activator」又は「NTP-ATF(Artificial transcription factor)」ともいう。
本実施例において、ETV2標的NTP-ATFに対するコントロールタンパク質としては、17個の塩基をランダムに並べたスクランブル配列を標的とするTALEを含むNTP-ATF(図中、「SCR」と表記する)を用いた。
また、本実施例においては、本発明のETV2標的NTP-ATFを用いて製造した細胞を「ETV細胞」といい、コントロールタンパク質で処理した細胞を「SCR細胞」ともいう。
【実施例1】
【0070】
NTP-TALE-Activatorの作製
1.発現プラスミドの作製
(1)
発現プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEVの作製
発現プラスミドpEU-E01-MCS(セルフリーサイエンス)のマルチクローニングサイトに、Glutathione S-transferase(GST)をコードするポリヌクレオチド(配列番号28)、細胞透過性ペプチド(NTP。アミノ酸配列RIFIHFRIGCからなる)をコードするポリヌクレオチド(配列番号4)、TEVプロテアーゼの標的ペプチド(以下、「TEV」と表記する)をコードするポリヌクレオチド(配列番号32)を5’側から順に挿入した。
【0071】
具体的には、pGEX-6P-1(GE ヘルスケア)を鋳型としてPCR反応によりポリヌクレオチドの5’末端に制限酵素EcoRVサイトを、3’末端に制限酵素BamHIサイトをそれぞれ付加したポリヌクレオチドを合成した。
EcoRV及びBamHIを用いて発現プラスミドpEU-E01-MCSに上記ポリヌクレオチドを挿入することにより、発現プラスミドpEU-E01-GSTを作製した。
次に、5’末端側から順にBamHIサイト配列、NTPをコードする塩基配列、TEVをコードする塩基配列、XhoIサイト配列、制限酵素SgfIサイト配列、制限酵素PmeIサイト配列、NotIサイト配列、及び制限酵素SalIサイト配列を含むポリヌクレオチド(但し、XhoIサイトとSgfIサイトの間にはコードするアミノ酸配列のフレームを合わせるためにシトシンを挿入した)を作製した。
BamHI及びSalIを用いて、前記ポリヌクレオチドを発現プラスミドpEU-E01-GSTに挿入した。
その後、配列番号40及び41に示される塩基配列からなるプライマーを用いてインバースPCRを行い、発現プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEVを作製した。
【0072】
(2)
プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEV-ΔTALE-VP64Vの作製
配列番号42に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド[TALEの一部をコードする塩基配列及びVP64をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド(ΔTALE-VP64と称する。VP64のC末端にバリンが付加されている)]を、(1)で作製した発現プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEVの、TEVをコードする塩基配列の直後にIn-Fusion(登録商標) HD Cloning Plus kitにより組み込むことで、プラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEV-ΔTALE−VP64Vを得た。VP64のC末端にバリンが付加されているため末尾にVを付けた名称とした。
【0073】
(3)
ヒトETV2遺伝子を標的とするTALEの作製
ETV2遺伝子プロモーター領域の周辺配列を公知のデータベースであるEnsembl genome browserで検索し、エンハンサーとして作用することが予想される当該遺伝子の転写開始点から下流の遺伝子領域から、TALEの標的塩基配列を選択した。選択した標的塩基配列(配列番号7)の位置を
図1に示す。
公知の方法(例えば、Platinum Gate TALEN construction protocol(Yamamoto lab)(https://www.addgene.org/static/cms/filer_public/b0/52/b0527900-3204-471a-992d-189679e2ede0/platinum-gate-protocol.pdf)を参照。)により、選択した標的塩基配列に特異的に結合するようにDNA結合ペプチド(
図1中「C17」と表記)を設計し、当該DNA結合ペプチド(配列番号15)をコードする塩基配列(配列番号14)を含むポリヌクレオチドを作製した。
T4 DNA Ligase(Quick Ligation Kit:New England BioLabs)を用いて、(2)で作製したプラスミドpEU-E01-GST-NTP-TEV-ΔTALE-VP64Vに含まれる一部の塩基配列を、上述のDNA結合ペプチドをコードするポリヌクレオチドに置換した。これにより、配列番号15に示されるアミノ酸配列からなるDNA結合ペプチド(C17)をコードする塩基配列(配列番号14)からなるポリヌクレオチドを含むプラスミドを取得した。当該プラスミドをpEU−E01-GST-NTP-TEV-TALE-VP64Vと称する。
【0074】
2.
ETV2遺伝子を標的とするNTP-ATF(ETV2標的NTP-ATF)の発現と精製
(1)
NTP-TALE-Activatorの作製
上記1.(3)で作製した各種NTP-TALE-Activatorをコードする発現プラスミド(pEU-E01-GST-NTP-TEV-TALE-VPR)を鋳型として、WEPRO7240G Expression KitによりNTP-TALE-Activatorを作製し、精製した。
【0075】
WEPRO7240G Expression Kitを用いて、上記1.(3)で作製したNTP-TALE-Activatorの発現プラスミド1μgを用いて反応液量0.29mLになるスケールで各蛋白質を作製した。作製後、反応液量に対して0.1%のEmpigenを添加した。さらに、リン酸緩衝生理食塩水で飽和したGlutathione Sepharose 4Bを60μL加えて4℃で2時間振盪した。遠心分離によりGlutathione Sepharoseを回収し、氷冷したリン酸緩衝生理食塩水1mLに懸濁した。再度、遠心分離する作業を2回繰り返した。回収したGlutathione Sepharoseを150mM塩化ナトリウム含有リン酸緩衝生理食塩水1mLに懸濁した。再度、遠心分離によりGlutathione Sepharoseを分離した。
【0076】
次に、Glutathione Sepharoseに結合したNTP-TALE-Activatorを抽出するために、以下の操作を行った。すなわち、30mMの還元型グルタチオン(和光)を含む50mMトリス塩酸緩衝液(pH 8.0)60μLを上述のGlutathione Sepharoseに添加した。室温1分間振盪した後、遠心分離により上清を回収した。同じ作業を2回繰り返した。上清を回収することにより、NTP-TALE-Activatorを取得した。回収した上清中に含まれるNTP-TALE-Activator蛋白質濃度を、SDSポリアクリルアミド電気泳動法とクマシーブリリアントブルー染色法を用いて、並行して泳動したBSAとの比較から算定した。
【実施例2】
【0077】
ETV2標的NTP-ATFによる血管内皮細胞様細胞の誘導
実施例1で作製したETV2標的NTP-ATFが、間葉系幹細胞を血管内皮細胞様細胞に誘導できるかどうかについて、以下のように試験した。
まず、作製したNTP-TALE-Activator(NTP-TALE-VPR)を微量透析カラム(トミー)でOPTIMEM培地(サーモフィッシャーサイエンティフィック)に対して4℃で3時間透析した。精製後の濃度は50nMであった。
ETV2遺伝子を標的とするNTP-ATFタンパク質、またはコントロールタンパク質を2日に1回、最終濃度0.25nMで3週間持続的に臍帯由来間葉系幹細胞の培養液中へ添加した。
PBS 1mLで2回洗浄したのちAccutase(Millipore)で細胞を剥離し、1000rpmで10分遠心し回収した。ペレットはPBSで1回洗浄したのち、PBSへ懸濁し3x10
5の細胞を尾静脈より投与した。その際、一部の細胞を取り分け、qRT-PCRで解析した(THUNDERBIRD SYBR Mix(東洋紡))。RNAを抽出するため、取り分けた細胞のペレットをDNase入り細胞溶解液で懸濁し室温で3分放置した。その後にRNaseインヒビターを含む反応停止液を加え室温で3分放置した(SuperPrep Cell Lysis & RT Kit (東洋紡))。反応液の一部を逆転写反応に用い、cDNAを得た。得られたcDNAを用いてqRT-PCRを行い、内在性ETV2遺伝子に加えて、血管内皮細胞マーカーであるCD31のmRNAの相対的発現量を指標に評価した。内在性コントロールにはGAPDHを用いた。
本試験に用いたプライマーを下記に示す。
ETV2 Forward: AACACCAGCTGGGACTGTTC(配列番号43)
ETV2 Reverse: GAGGTTTGAGTTTGACCGGGAATTTT(配列番号44)
CD31 Forward: ATTGCAGTGGTTATCATCGGAGTG(配列番号45)
CD31 Reverse: CTCGTTGTTGGAGTTCAGAAGTGG(配列番号46)
GAPDH Forward:GTCTCCTCTGACTTCAACAGCG(配列番号47)
GAPDH Reverse: ACCACCCTGTTGCTGTAGCCAA(配列番号48)
その結果、内在性ETV2遺伝子及びCD31 mRNAの発現がコントロールと比較して顕著に増加したことが示された(
図2)。
この結果から、本発明の融合ポリペプチドが、間葉系幹細胞において内在性ETV2遺伝子の発現を顕著に増加させること、及び、間葉系幹細胞から血管内皮細胞様細胞を誘導することができたことが示された。
【実施例3】
【0078】
ETV2標的NTP-ATFを用いて作製した細胞の機能性評価
本実施例では、実施例2で作製した血管内皮細胞様細胞(ETV2標的NTP-ATFを用いて作製した細胞)の生体内における機能を評価した。
本実施例において、マウス下肢虚血モデルは、下肢大腿動脈の近位(体幹に近い部位)又は遠位(膝関節に近い部位)で結紮することにより作製した。
また、下記の機能性評価は、上記結紮後の下肢虚血モデルマウスに実施例2で作製した細胞を3x10
5個筋肉注射した後に行った。
【0079】
(1)
ドップラーエコーによる拍動係数の評価
本発明の細胞により、末梢への血液の行きやすさが改善されるかどうかを、以下の方法により評価した。
右大腿動脈の遠位結紮によって作出した下肢障害マウスにおいて、末梢血管抵抗を評価する指標として、拍動係数(PI : Pulsatility index)を用いた。PIとは、収縮期最大速度と拡張末期血流速度の差を時間平均最大血流速度で除した値で、低値であるほど、測定した動脈から末梢に血液が行きやすいことを示す。拍動係数は、超音波装置(小動物用超音波高解像度イメージングシステムVevo(登録商標)2100、プライムテック社)を用いて計測した。
その結果、術後三週間のSCR細胞投与群(n=5)およびETV細胞投与群(n=4)において、未処理の左下肢では、細胞投与でPI値に差は見られなかったのに対し、遠位結紮術を実施した右下肢では、ETV細胞投与によってPI値が優位に低下し(P = 0.037)、末梢へ血流が行きやすくなっていることが示された(
図3)。
この結果から、本発明の細胞を用いることにより、末梢における血流が改善したことが示された。
【0080】
(2)
壊死出現頻度の把握
右大腿動脈の近位結紮によって作出した下肢障害マウスに実施例2で作製した細胞を投与し、下肢壊死の有無について調査した。
その結果、術後一週間において、未投与群(n=9)ではおよそ7割の個体で重度の壊死が確認され、SCR細胞投与群(n=3)では全ての個体で軽度〜重度の壊死が確認されたが、ETV細胞投与群(n=3)では壊死が発生しなかった(
図4)。
この結果から、本発明のETV細胞は、壊死の治療又は予防に有効であり、閉塞性動脈硬化症、糖尿病性足病変(足潰瘍、足壊疽)の治療又は予防にも有効であることが示された。
【0081】
(3)
ローターロッド試験
右大腿動脈の近位結紮によって作出した下肢障害マウスに実施例2で作製した細胞を投与し、運動機能障害の改善の有無について調査した。
運動機能の評価には、ローターロッド試験(LE8200、Panlab社)を実施した。回転する円柱の上にマウスを歩行させ、徐々に回転数を上げてマウスが落下するまでの時間を計測し、マウス下肢の運動機能を評価した。当該試験は、右下肢の麻痺が回復し始めてきた術後二週間および三週間のマウスを用いて行った。
その結果、ETV細胞投与によって運動機能の障害が改善されることが明らかとなった(
図5)。
この結果から、本発明のETV細胞は、下肢虚血による運動障害の治療に有効であることが示された。
【0082】
(4)
CTスキャン検査
近位結紮によって作出した下肢障害マウスに実施例2で作製した細胞を投与し(SCR細胞投与n=5、ETV細胞投与n=5)、投与したマウスの血管について、CT解析を行った。具体的には、造影剤eXIA160XL(bintino)を尾静注にてマウスに投与し、CT撮影をFOVサイズ36にて2分間行った。結紮マーカーは、シリコンリング(内径0.5mm、外形1mm、厚さ約0.5mm)を用い、手術時に結紮部に糸でリングを結び付けた。術後二週間のマウスについて、CT画像を比較した。
その結果、ETV2細胞移植群では、全てのマウスにおいて、結紮部周辺や末梢部位での顕著な血管新生が認められた(
図6)。本発明の細胞が、実際に生体内において生着し、機能して顕著に血管新生を誘導することは、驚くべき結果であった。
この結果から、本発明の細胞は、血管新生作用を有する細胞であることが示された。また、この細胞を含む組成物は、血管新生誘導用組成物又は下肢虚血に関する疾患の治療若しくは予防用医薬組成物として有効であることが示された。