【実施例】
【0043】
[チタニア−ジルコニア複合酸化物からなる分離層を有する分離膜の製造]
(1)1wt%チタニア−ジルコニアゾルAの調製
500ml容量の三角フラスコに磁気回転子を設置し、ここにチタンテトライソプロポキシド2.13gを秤量した後、イソプロピルアルコール50g、水0.27g、35%塩酸0.05gの酸触媒溶液を加えて25℃で3時間撹拌し、予備加水分解を行った。この反応溶液に、ジルコニウムテトラブトキシド3.59g、イソプロピルアルコール60g、水0.456g、35%塩酸0.1gの混合溶液を滴下し、25℃で12時間撹拌し、共重合を行うことで、1wt%チタニア−ジルコニアゾルAを得た。該ゾルの平均粒子径は10nmであった。
【0044】
(2)1wt%チタニア−ジルコニアゾルBの調製
500ml容量の三角フラスコに磁気回転子を設置し、ここにチタンテトライソプロポキシド2.13gを秤量した後、イソプロピルアルコール50g、水0.27g、35%塩酸0.05gの酸触媒溶液を加えて25℃で3時間撹拌し、予備加水分解を行った。この反応溶液に、ジルコニウムテトラブトキシド3.59g、イソプロピルアルコール60g、水0.456g、35%塩酸0.1gの混合溶液を滴下し、25℃で12時間撹拌し、共重合を行った。ここに35%塩酸3.1gを滴下し、更に水を添加することでアルコキシドの総濃度を1wt%に保ちながら8時間煮沸撹拌し、コロイド粒子を成長させることで、1wt%チタニア−ジルコニアゾルBを得た。該ゾルの平均粒子径は40nmであった。
【0045】
(3)2wt%チタニア−ジルコニアゾルCの調製
500ml容量の三角フラスコに磁気回転子を設置し、ここにチタンテトライソプロポキシド4.34gを秤量した後、イソプロピルアルコール50g、水0.54g、35%塩酸0.05gの酸触媒溶液を加えて25℃で3時間撹拌し、予備加水分解を行った。この反応溶液に、ジルコニウムテトラブトキシド7.18g、イソプロピルアルコール60g、水0.912g、35%塩酸0.1gの混合溶液を滴下し、25℃で12時間撹拌し、共重合を行った。ここに35%塩酸3.1gを滴下し、更に水を添加することでアルコキシドの総濃度を1wt%に保ちながら8時間煮沸撹拌し、コロイド粒子を成長させることで、2wt%チタニア−ジルコニアゾルCを得た。該ゾルの平均粒子径は100nmであった。
【0046】
ここで、前記(1)〜(3)で調製したチタニア−ジルコニアゾルA〜Cの平均粒子径は、動的光散乱法による粒子径分析装置(装置名:ゼータサイザーナノZEN3600;マルバーン社製)を用い、散乱強度分布の平均値を求めることにより測定した。
【0047】
(4)支持体への中間層の形成
支持体として平均細孔径約2.1μmの多孔性α−アルミナ管(外径10mm;長さ100mm;多孔率50%;ニッカトー社製)を用意した。前記(3)で調製したゾルCにα−アルミナ微粒子(平均粒子径0.2μm;住友化学社製)を分散させた分散液(α−アルミナ微粒子濃度約10wt%)を、支持体の外表面に室温で塗布し、乾燥した。次いで、電気管状炉を用いて、空気中で、550℃、15分間の条件にて焼成した後、冷却した。その後、ゾルの塗布、乾燥、焼成及び冷却の上記工程を同一の条件で5回繰り返すことで中間層を形成した。
【0048】
(5)支持体への分離層の形成
前記(4)で中間層を形成した支持体を予め200℃に予熱し、その外表面に、前記(1)〜(3)で調製したゾルA〜Cのうちいずれかに水を加えて0.5wt%に希釈したゾル溶液を塗布し、乾燥した。次いで、電気管状炉を用いて、空気中で、550℃、15分間の条件にて焼成した後、冷却した。その後、ゾルの塗布、乾燥、焼成及び冷却の上記工程を同一の条件で10回繰り返すことにより、粒子層表面にチタニア−ジルコニア複合酸化物からなる分離層を形成した。
【0049】
前記(5)の工程において、(1)で調製したゾルA、(2)で調製したゾルB、(3)で調製したゾルCを用いることで、それぞれ分離層の平均細孔径が1.2nmの分離膜(試作品1)、同平均細孔径が1.8nmの分離膜(試作品2)、同平均細孔径が2.2nmの分離膜(試作品3)を得た。
【0050】
[グリセリンの分離(実施例1〜6及び比較例1〜2)]
前記分離膜(試作品1〜3)及び
図1に示す構成の膜分離装置を用いて実施例1〜6及び比較例1〜2のグリセリンの分離を行った。
【0051】
<実施例1>
グリセリン脂肪酸エステル(モノエステル体含有量が96質量%以上のグリセリンモノオレート)90質量部及びグリセリン10質量部からなる混合物を供給液として供給液タンクに貯留し、その供給液をポンプにより7MPaの加圧下で分離部内の分離膜(試作品1)に供給し、該分離膜を透過した透過液を、透過液排出管から回収した。この際、ヒーターにより分離部内の供給液を加熱し、供給温度を100℃に設定した。
透過液の回収は5回に分けて行い、1回目の回収は透過開始から15.1時間経過後、2回目の回収は1回目の回収から24.7時間経過後、3回目の回収は2回目の回収から25.7時間経過後、4回目の回収は3回目の回収から23.6時間経過後、5回目の回収は4回目の回収から24.2時間経過後に行った。
回収液のグリセリン濃度(%)をそれぞれ測定し、その平均値を求めた。また、全ての回収液の合計質量及び透過開始から最後の回収までに要した時間に基づき、平均透過流束〔kg/(m
2・s)〕を求めた。
【0052】
<実施例2>
供給温度を120℃に設定したこと、及び透過液の回収は以下の通り行ったこと以外は実施例1と同様に実施し、回収液の平均グリセリン濃度(%)及び平均透過流速〔kg/(m
2・s)〕を求めた。
透過液の回収は6回に分けて行い、1回目の回収は透過開始から16.3時間経過後、2回目の回収は1回目の回収から22.4時間経過後、3回目の回収は2回目の回収から27.3時間経過後、4回目の回収は3回目の回収から19.7時間経過後、5回目の回収は4回目の回収から21.0時間経過後、6回目の回収は5回目の回収から22.9時間経過後に行った。
【0053】
<実施例3>
供給温度を150℃に設定したこと、及び透過液の回収は以下の通り実施したこと以外は実施例1と同様に実施し、回収液の平均グリセリン濃度(%)及び平均透過流速〔kg/(m
2・s)〕を求めた。
透過液の回収は3回に分けて行い、1回目の回収は透過開始から3.6時間経過後、2回目の回収は1回目の回収から2.5時間経過後、3回目の回収は2回目の回収から2.8時間経過後に行った。
【0054】
<実施例4>
供給温度を175℃に設定したこと、及び透過液の回収は以下の通り行ったこと以外は実施例1と同様に実施し、回収液の平均グリセリン濃度(%)及び平均透過流速〔kg/(m
2・s)〕を求めた。
透過液の回収は3回に分けて行い、1回目の回収は透過開始から1.9時間経過後、2回目の回収は1回目の回収から2.4時間経過後、3回目の回収は2回目の回収から2.4時間経過後に行った。
【0055】
<実施例5>
分離膜(試作品2)を用いたこと、加圧条件を10MPaとしたこと、及び透過液の回収は以下の通り行ったこと以外は実施例1と同様に実施し、回収液の平均グリセリン濃度(%)及び平均透過流速〔kg/(m
2・s)〕を求めた。
透過液の回収は5回に分けて行い、1回目の回収は透過開始から216時間経過後、2回目の回収は1回目の回収から22.8時間経過後、3回目の回収は2回目の回収から24.5時間経過後、4回目の回収は3回目の回収から45.7時間経過後、5回目の回収は4回目の回収から24.5時間経過後に行った。
【0056】
<実施例6>
分離膜(試作品2)を用いたこと、供給温度を120℃に設定したこと、加圧条件を10MPaとしたこと、及び透過液の回収は以下の通り行ったこと以外は実施例1と同様に実施し、回収液の平均グリセリン濃度(%)及び平均透過流速〔kg/(m
2・s)〕を求めた。
透過液の回収は5回に分けて行い、1回目の回収は透過開始から23.3時間経過後、2回目の回収は1回目の回収から23.6時間経過後、3回目の回収は2回目の回収から23.6時間経過後、4回目の回収は3回目の回収から23.8時間経過後、5回目の回収は4回目の回収から23.8時間経過後に行った。
【0057】
<比較例1>
分離膜(試作品3)を用いたこと、加圧条件を以下の通り変化させたこと、及び透過液の回収は以下の通り行ったこと以外は実施例1と同様に実施し、回収液の平均グリセリン濃度(%)及び平均透過流速〔kg/(m
2・s)〕を求めた。
透過液の回収は6回に分けて行い、1回目の回収は透過開始から0.23時間経過後、2回目の回収は1回目の回収から0.30時間経過後、3回目の回収は2回目の回収から0.30時間経過後、4回目の回収は3回目の回収から0.13時間経過後、5回目の回収は4回目の回収から0.13時間経過後、6回目の回収は5回目の回収から0.13時間経過後に行った。これら回収液のうち、3回目及び6回目の回収液のみに基づき平均グリセリン濃度(%)を算出した。
加圧条件は、透過開始から3回目の回収までは6MPaとし、それ以後は10MPaとした。
【0058】
<比較例2>
分離膜(試作品3)を用いたこと、供給温度を120℃に設定したこと、加圧条件を以下の通り変化させたこと、及び透過液の回収は以下の通り行ったこと以外は実施例1と同様に実施し、回収液の平均グリセリン濃度(%)及び平均透過流速〔kg/(m
2・s)〕を求めた。
透過液の回収は6回に分けて行い、1回目の回収は透過開始から0.17時間経過後、2回目の回収は1回目の回収から0.17時間経過後、3回目の回収は2回目の回収から0.17時間経過後、4回目の回収は3回目の回収から0.13時間経過後、5回目の回収は4回目の回収から0.13時間経過後、6回目の回収は5回目の回収から0.13時間経過後に行った。これら回収液のうち、3回目及び6回目の回収液のみに基づき平均グリセリン濃度(%)を算出した。
加圧条件は、透過開始から3回目の回収までは6MPaとし、それ以後は10MPaとした。
【0059】
実施例1〜6及び比較例1〜2において測定された平均グリセリン濃度(%)及び平均透過流速〔kg/(m
2・s)〕を、これらの実施条件とともに表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1の結果から明らかなように、分離膜(試作品1及び2)を用いた実施例1〜6では、分離膜(試作品3)を用いた比較例1及び2に比べて平均グリセリン濃度が高いことから、チタニア−ジルコニア複合酸化物を主成分とし、平均細孔径が概ね1.0〜2.0nmの範囲にある分離層を有する分離膜を用いることにより、グリセリンを選択的に透過させ、グリセリンを分離できることが確認された。
【0062】
[シリカ−ジルコニア複合酸化物からなる分離層を有する分離膜の製造]
(1)1wt%シリカ−ジルコニアゾルAの調製
500ml容量の三角フラスコに磁気回転子を設置し、ここにオルトケイ酸テトラエチル3.56g、水0.304g、35%塩酸0.05g、エタノール50gを入れ、25℃で10分間撹拌し、予備加水分解を行った。この溶液に、ジルコニウムテトラブトキシド(80%1−ブタノール溶液)4.05g及びエタノール20gからなる混合溶液、並びに水0.304g、35%塩酸0.05g及びエタノール20gからなる混合溶液をそれぞれ滴下し、25℃で12時間撹拌し、加水分解を行った。この反応溶液に、水0.304g、35%塩酸0.05g及びエタノール20gからなる混合溶液を滴下し、25℃で10分間撹拌し、更に加水分解を行った。ここに35%塩酸2.1gを滴下し、更に水を添加することでアルコキシドの総濃度を1wt%に保ちながら8時間煮沸撹拌し、コロイド粒子を成長させることで、1wt%シリカ−ジルコニアゾルAを得た。該ゾルの平均粒子径は15nmであった。
【0063】
(2)2wt%シリカ−ジルコニアゾルBの調製
500ml容量の三角フラスコに磁気回転子を設置し、ここにオルトケイ酸テトラエチル3.56g、水0.304g、35%塩酸0.05g、エタノール50gを入れ、25℃で10分間撹拌し、予備加水分解を行った。この溶液に、ジルコニウムテトラブトキシド(80%1−ブタノール溶液)8.10g及びエタノール20gからなる混合溶液、並びに水0.304g、35%塩酸0.05g及びエタノール20gからなる混合溶液をそれぞれ滴下し、25℃で12時間撹拌し、加水分解を行った。この反応溶液に、水0.304g、35%塩酸0.05g及びエタノール20gからなる混合溶液を滴下し、25℃で10分間撹拌し、更に加水分解を行った。ここに35%塩酸2.7gを滴下し、更に水を添加することでアルコキシドの総濃度を2wt%に保ちながら8時間煮沸撹拌し、コロイド粒子を成長させることで、2wt%シリカ−ジルコニアゾルBを得た。該ゾルの平均粒子径は54nmであった。
【0064】
ここで、前記(1)及び(2)で調製したシリカ−ジルコニアゾルA及びBの平均粒子径は、動的光散乱法による粒子径分析装置(装置名:ゼータサイザーナノZEN3600;マルバーン社製)を用い、散乱強度分布の平均値を求めることにより測定した。
【0065】
(3)支持体への中間層の形成
支持体として平均細孔径約2.1μmの多孔性α−アルミナ管(外径10mm;長さ100mm;多孔率50%;ニッカトー社製)を用意した。前記(2)で調製したゾルBにα−アルミナ微粒子(平均粒子径0.2μm;住友化学社製)を分散させた分散液(α−アルミナ微粒子濃度約10wt%)を、支持体の外表面に室温で塗布し、乾燥した。次いで、電気管状炉を用いて、空気中で、550℃、15分間の条件にて焼成した後、冷却した。その後、ゾルの塗布、乾燥、焼成及び冷却の上記工程を同一の条件で5回繰り返すことで中間層を形成した。
【0066】
(4)支持体への分離層の形成
前記(3)で中間層を形成した支持体を予め200℃に予熱し、その外表面に、前記(1)で調製したゾルAに水を加えて0.5wt%に希釈したゾル溶液を塗布し、乾燥した。次いで、電気管状炉を用いて、空気中で、550℃、15分間の条件にて焼成した後、冷却した。その後、ゾルの塗布、乾燥、焼成及び冷却の上記工程を同一の条件で10回繰り返すことにより、粒子層表面にシリカ−ジルコニア複合酸化物からなる分離層を形成し、分離層の平均細孔径が1.3nmの分離膜(試作品4)を得た。
【0067】
[グリセリンの分離(実施例7)]
前記分離膜(試作品4)及び
図1に示す構成の膜分離装置を用いて実施例7のグリセリンの分離を行った。
【0068】
<実施例7>
グリセリン脂肪酸エステル(モノエステル体含有量が96質量%以上のグリセリンモノオレート)80質量部及びグリセリン20質量部からなる混合物を供給液として供給液タンクに貯留し、その供給液をポンプにより7MPaの加圧下で分離部内の分離膜(試作品4)に供給し、該分離膜を透過した透過液を、透過液排出管から回収した。この際、ヒーターにより分離部内の供給液を加熱し、供給温度を100℃、120℃、130℃の順に段階的に上昇させながら、透過液の回収を15回に分けて行った。
先ず、供給温度100℃で1〜3回目の回収を行った。1回目の回収は透過開始から12.2時間経過後、2回目の回収は1回目の回収から6.7時間経過後、3回目の回収は2回目の回収から4.6時間経過後に行った。3回目の回収後、供給温度を120℃に上昇させた。
次いで、供給温度120℃で4〜9回目の回収を行った。4回目の回収は3回目の回収から9.1時間経過後、5回目の回収は4回目の回収から5.5時間経過後、6回目の回収は5回目の回収から6.1時間経過後、7回目の回収は6回目の回収から7.8時間経過後、8回目の回収は7回目の回収から4.3時間経過後、9回目の回収は8回目の回収から11.0時間経過後に行った。9回目の回収後、供給温度を130℃に上昇させた。
更に、供給温度130℃で10〜15回目の回収を行った。10回目の回収は9回目の回収から4.9時間経過後、11回目の回収は10回目の回収から6.8時間経過後、12回目の回収は11回目の回収から6.6時間経過後、13回目の回収は12回目の回収から5.0時間経過後、14回目の回収は13回目の回収から6.3時間経過後、15回目の回収は14回目の回収から8.3時間経過後に行った。
回収液のグリセリン濃度(%)を測定し、1〜3回目、4〜9回目及び10〜15回目のそれぞれの回収液について、グリセリン濃度の平均値を求めた。また、1〜3回目、4〜9回目及び10〜15回目のそれぞれの回収液の合計質量並びに透過開始から3回目の回収まで、3回目の回収から9回目の回収まで及び9回目の回収から15回目の回収までに要したそれぞれの時間に基づき、1〜3回目、4〜9回目及び10〜15回目のそれぞれの回収液について、平均透過流束〔kg/(m
2・s)〕を求めた。
【0069】
実施例7において測定された平均グリセリン濃度(%)及び平均透過流速〔kg/(m
2・s)〕を、これらの実施条件とともに表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
表2の結果から明らかなように、分離膜(試作品4)を用いた実施例7では、前述の分離膜(試作品1及び2)を用いた実施例1〜6と同様に平均グリセリン濃度が高いことが分かった。このため、シリカ−ジルコニア複合酸化物を主成分とし、平均細孔径1.0〜2.0nmの範囲にある分離層を有する分離膜を用いることにより、グリセリンを選択的に透過させ、グリセリンを分離できることが確認された。