特開2020-164514(P2020-164514A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特開2020164514-グリセリンの分離方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-164514(P2020-164514A)
(43)【公開日】2020年10月8日
(54)【発明の名称】グリセリンの分離方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/76 20060101AFI20200911BHJP
   B01D 61/14 20060101ALI20200911BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20200911BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20200911BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20200911BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20200911BHJP
   C07C 31/22 20060101ALI20200911BHJP
   C04B 41/85 20060101ALI20200911BHJP
【FI】
   C07C29/76
   B01D61/14 500
   B01D69/00
   B01D69/10
   B01D69/12
   B01D71/02
   C07C31/22
   C04B41/85 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2020-52747(P2020-52747)
(22)【出願日】2020年3月24日
(31)【優先権主張番号】特願2019-67396(P2019-67396)
(32)【優先日】2019年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390010674
【氏名又は名称】理研ビタミン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(72)【発明者】
【氏名】清水 一行
(72)【発明者】
【氏名】小杉 直哉
(72)【発明者】
【氏名】阪上 高行
(72)【発明者】
【氏名】都留 稔了
(72)【発明者】
【氏名】金指 正言
(72)【発明者】
【氏名】長澤 寛規
【テーマコード(参考)】
4D006
4H006
【Fターム(参考)】
4D006GA06
4D006HA28
4D006JA53Z
4D006JA65Z
4D006JA67Z
4D006JA70Z
4D006KE07Q
4D006KE16R
4D006MA02
4D006MA03
4D006MA06
4D006MA21
4D006MA22
4D006MC01X
4D006MC03X
4D006NA39
4D006NA46
4D006PA01
4D006PB13
4D006PB32
4D006PC11
4H006AA02
4H006AD19
4H006BC51
4H006BC52
4H006BD82
4H006FE11
4H006FG30
(57)【要約】
【課題】グリセリンを含む混合物から無機膜を用いてグリセリンを分離する方法を提供する。
【解決手段】グリセリンを含む混合物から分離膜を用いてグリセリンを分離する方法であって、該分離膜は、支持体と該支持体の上に形成された分離層とを有し、該分離層は、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、メチル化シリカ、炭化ケイ素から選ばれる一種以上を主成分とし、且つ平均細孔径が1.0〜2.0nmの多孔質構造である、グリセリンの分離方法。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリンを含む混合物から分離膜を用いてグリセリンを分離する方法であって、
該分離膜は、支持体と該支持体の上に形成された分離層とを有し、
該分離層は、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、メチル化シリカ、炭化ケイ素から選ばれる一種以上を主成分とし、且つ平均細孔径が1.0〜2.0nmの多孔質構造である、グリセリンの分離方法。
【請求項2】
グリセリンを含む混合物から分離膜を用いてグリセリンを分離する方法であって、
該分離膜は、支持体と該支持体の上に形成された分離層とを有し、
該分離層は、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニアから選ばれる二種以上の成分からなる複合酸化物を主成分とし、且つ平均細孔径が1.0〜2.0nmの多孔質構造である、グリセリンの分離方法。
【請求項3】
前記混合物がグリセリン脂肪酸エステルを含む、請求項1又は2に記載のグリセリンの分離方法。
【請求項4】
前記混合物を温度100〜170℃で前記分離膜に供給する、請求項1〜3のいずれかに記載のグリセリンの分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリセリンの分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンと脂肪酸のエステルであり、食品用乳化剤等に広く利用されている。グリセリン脂肪酸エステルの工業的製法としては、主にグリセリンと脂肪酸の直接エステル化、グリセリンと油脂のエステル交換法がある。しかし、いずれの方法にせよ、目的とするグリセリン脂肪酸エステルのみを高純度で作ることはできず、その反応生成物は未反応のグリセリンを含む混合物である。
【0003】
このような混合物からグリセリンを分離・除去し、目的とするグリセリン脂肪酸エステルを抽出するために分子蒸留が行われるが、分子蒸留は高温・高真空下で行われるため多くのエネルギーを必要としている。そこで、省エネルギーな分離方法である膜分離をグリセリンの分離に用いることができれば、使用エネルギーが削減でき、環境負荷やコスト面において有利である。
【0004】
一方、優れた機械的強度を有し、分離選択性に優れる無機膜を用いる膜分離方法の研究開発が近年大いに進展しており、例えば膜の細孔径が4nm未満である二酸化チタン多孔性膜を用いた水処理方法(特許文献1)、二酸化チタンの分子の一部または全部が、第8族に属する金属を担持しているナノ多孔性酸化チタン膜を用いて揮発性有機化合物を処理する方法(特許文献2)、セラミック基材にシリカ含有層が積層されている気体分離膜を用いて、水素、窒素及びアンモニアの少なくとも1成分を分離する膜分離工程を含むことを特徴とするアンモニアの分離方法(特許文献3)、Heガス透過流量FHeとSFガス透過流量FSF6が特定の範囲内にある無機材質膜を用いた、液体からの水分除去方法(特許文献4)等が知られている。
【0005】
しかしながら、グリセリン含む混合物のように比較的粘度の高い液体を無機膜により分離する方法は、これまでほとんど検討がなされていなかったのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−066278号公報
【特許文献2】特開2006−326530号公報
【特許文献3】特開2008−247654号公報
【特許文献4】特開2010−194438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、グリセリンを含む混合物から無機膜を用いてグリセリンを分離する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討を行った結果、特定の平均細孔径を有する無機多孔質膜を分離膜として用いることにより、上記課題が解決されることを見出し、この知見に基づいて本発明を成すに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記の(1)〜(4)からなっている。
(1)グリセリンを含む混合物から分離膜を用いてグリセリンを分離する方法であって、
該分離膜は、支持体と該支持体の上に形成された分離層とを有し、
該分離層は、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、メチル化シリカ、炭化ケイ素から選ばれる一種以上を主成分とし、且つ平均細孔径が1.0〜2.0nmの多孔質構造である、グリセリンの分離方法。
(2)グリセリンを含む混合物から分離膜を用いてグリセリンを分離する方法であって、
該分離膜は、支持体と該支持体の上に形成された分離層とを有し、
該分離層は、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニアから選ばれる二種以上の成分からなる複合酸化物を主成分とし、且つ平均細孔径が1.0〜2.0nmの多孔質構造である、グリセリンの分離方法。
(3)前記混合物がグリセリン脂肪酸エステルを含む、前記(1)又は(2)に記載のグリセリンの分離方法。
(4)前記混合物を温度100〜170℃で前記分離膜に供給する、前記(1)〜(3)のいずれかに記載のグリセリンの分離方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、グリセリンを含む混合物からグリセリンを分離できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、グリセリンの分離に用いる膜分離装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に用いられる分離膜における支持体に特に制限はないが、例えば無機多孔体や有機多孔体等を用いることができ、工業的な使用に耐え得る強度を有するものが好ましい。また、膜の透過性の観点からは、支持体の細孔径及び空隙率が比較的大きい無機多孔体が好ましい。
【0013】
前記無機多孔体としては、例えばα−アルミナ(α−Al)、ムライト、γ−アルミナ(γ−Al)、ジルコニア、チタニア又はこれらの複合物からなるセラミックス等が挙げられる。これらの中でも、安価且つ入手が容易であり、化学的耐性、耐熱性、強度において優れるα−アルミナを主成分とするセラミックスが好ましい。
【0014】
前記支持体の形状は特に限定されないが、円筒状や板状であることが好ましい。該支持体の平均細孔径は、2〜10μm程度が好ましく、より好ましくは2〜5μm、更に好ましくは2〜3μmである。この平均細孔径が上記の範囲内である場合には、分離層の平均細孔径との差が大きくなり過ぎず、十分な透過性能を得ることができる。
【0015】
本発明に用いられる分離膜において、支持体の上に形成される分離層は、アルミナ(Al;例えば、α−アルミナ、γ−アルミナ等)、シリカ(SiO)、チタニア(TiO)、ジルコニア(ZrO)、メチル化シリカ(MeSiO)、炭化ケイ素(SiC)から選ばれる一種以上を主成分とし、好ましくはアルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニアから選ばれる二種以上の成分からなる複合酸化物を主成分とし、より好ましくはチタニアとジルコニアの複合酸化物(即ち、Ti−O−Zr結合を有する化合物。以下、「チタニア−ジルコニア複合酸化物」という。)又はシリカとジルコニアの複合酸化物(即ち、Si−O−Zr結合を有する化合物。以下、「シリカ−ジルコニア複合酸化物」という。)を主成分とする。また、該分離層は、平均細孔径が1.0〜2.0nm(好ましくは1.0〜1.5nm)の多孔質構造を有する。
【0016】
また、本発明に用いられる分離膜においては、支持体と分離層との間に多孔質の中間層を設けることが好ましい。この中間層は、支持体の平均細孔径より小さく、分離層の平均細孔径より大きい平均細孔径を有するものを用いる。この中間層の材質は特に限定されないが、支持体を構成する物質と分離層を構成する物質を共に含むものを用いることができる。この中間層により、後述の工程(B)又は工程(E)において支持体の多孔質内部へのチタニア−ジルコニアゾル又はシリカ−ジルコニアゾルの浸透を抑制できると共に、分離層の膜厚が不均一になることを防ぐことができる。
【0017】
ここで、分離層及び中間層の平均細孔径は、下記の文献に記載されているナノパームポロメトリー(Nanopermporometry)法によって求めることができる。該方法においては、非凝縮性ガス(例えばNガス)と凝縮性ガス(例えば水蒸気)の混合ガスを、測定試料膜へ供給し、膜透過する非凝縮性ガスの透過流量を計測する。
「膜学実験法 人工膜編」、日本膜学会、2007年、PP.302−310(都留稔了著、「ナノパームポロメトリー」)
【0018】
ナノパームポロメトリー法の手順を以下に説明する。
膜へ供給するガスの温度を一定に保ち、凝縮性ガスの相対蒸気圧(=蒸気分圧P/飽和蒸気圧Ps)を0(非凝縮性ガスのみに相当する)〜0.9程度の範囲で徐々に増加させながら、ガスを膜の一次側へ供給する。細孔直径が1〜100nmの範囲のとき、凝縮性ガスは、Kelvin式にしたがって毛管凝縮を起こす。即ち、相対蒸気圧で定まった細孔直径まで凝縮性ガスによって満たされ、相対蒸気圧を増加させていくと、徐々に大きな細孔にまで凝縮性ガスの毛管凝縮が起こる。相対蒸気圧=0〜0.9に対して、透過した非凝縮性ガスの透過流量をプロットすると、相対蒸気圧の増加とともに非凝縮性ガスの透過流量は減少し、やがて透過流量が0となり、膜の細孔が凝縮性ガスで完全に充填される状況にまで至る。この透過流量の変化曲線において、相対蒸気圧=0での非凝縮性ガス透過流量に対して、透過流量が50%となる相対蒸気圧を求める。この相対蒸気圧を、下記のKelvin式によってKelvin diameter dに変換した値を、平均細孔径と定義する。
【0019】
【数1】
【0020】
式中、dは、毛管凝縮を生じる細孔直径であり、νは、凝縮蒸気のモル体積(m・mol−1)であり、σは、凝縮液体の表面張力(N・m−1)であり、θは、水接触角であり、Rは、気体定数であり、Tは、温度(K)である。
【0021】
本発明に用いられる分離膜は、自体公知の方法により製造することができるが、例えばチタニア−ジルコニア複合酸化物を主成分とする分離層を有する分離膜は、以下の工程(A)〜(C)により製造することができる。
【0022】
[工程(A)]
工程(A)は、水を含む溶媒中で、チタニア源とジルコニア源を混合及び反応させてチタニア−ジルコニアゾルを得る工程である。チタニア源及びジルコニア源としては、それぞれTi(OR)及びZr(OR)で表される化合物を用いることができる。ここで、Rはアルキル基を表し、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。チタニア源の具体的としては、チタンテトライソプロポキシド、ジルコニア源の具体的としては、ジルコニウムテトラブトキシドが挙げられる。
【0023】
チタニア源とジルコニア源を混合及び反応させることで、チタニア源及びジルコニア源のアルコキシ基(OR)が加水分解されて水酸基になるとともに、脱水縮合(縮重合)によって隣接する化合物同士がTi−O−Zr結合で重合してなるポリマー粒子を含むチタニア−ジルコニアゾルが形成される。
【0024】
より具体的には、前記チタニア源及びジルコニア源を、水を含む溶媒(例えばイソプロピルエーテル、イソプロピルアルコール等)に溶解し、触媒として酸(例えば塩酸等)を添加して、撹拌し、加水分解及び縮重合反応に充分な時間攪拌する。その後、水を注ぎながら煮沸・攪拌することによりコロイド粒子を成長させ、チタニア−ジルコニアゾルを得る。チタニア−ジルコニアゾルの平均粒子径は、出発溶液のアルコキシド濃度〔即ち、チタニア源及びジルコニア源として、それぞれTi(OR)及びZr(OR)で表される化合物を用いた場合のこれらの濃度〕及び酸濃度並びに煮沸時間を適宜設定することにより調整可能であり、この平均粒子径を調整することにより、分離層の平均細孔径を調整することができる。
【0025】
[工程(B)]
工程(B)では、上述のように調製したチタニア−ジルコニアゾルを支持体に塗布する。チタニア−ジルコニアゾルの塗布は、スピンコーティング法、ディップコーティング法の他、不織布をチタニア−ジルコニアゾルに浸して塗布する等の方法を実施できる。
【0026】
[工程(C)]
工程(C)では、塗布したチタニア−ジルコニアゾルを乾燥してゲル化させた後、焼成を行い、支持体上に分離層を形成する。焼成を行うことにより、チタニア−ジルコニア粒子間の脱水縮合が進行し、粒子同士が癒着した強固な分離層が形成される。焼成温度は、100〜600℃であることが好ましい。焼成温度が100℃未満であると、粒子同士の癒着が十分ではないため好ましくない。また、焼成温度が600℃を超えると、チタニア−ジルコニア複合酸化物が相分離を起こし、チタニア及びジルコニアの結晶相が形成され、細孔の閉塞や粗大化が起こるため好ましくない。
【0027】
分離層を均一に形成するため、工程(B)及び(C)の塗布・焼成は複数回繰り返すことが好ましい。
【0028】
支持体と分離層との間に中間層を設ける場合、工程(B)及び(C)を実施する前に、支持体上に中間層を形成する。具体的には、α−アルミナを主成分とするセラミックスを支持体として用いる場合、工程(A)と同様に調製したチタニア−ジルコニアゾルにα−アルミナ微粒子を分散させたものを支持体に塗布し、乾燥してゲル化させた後、焼成を行う。塗布及び焼成は、工程(B)及び(C)と同様に実施することができる。
【0029】
また、シリカ−ジルコニア複合酸化物を主成分とする分離層を有する分離膜は、以下の工程(D)〜(F)により製造することができる。
【0030】
[工程(D)]
工程(D)は、水を含む溶媒中で、シリカ源とジルコニア源を混合及び反応させてシリカ−ジルコニアゾルを得る工程である。シリカ源及びジルコニア源としては、それぞれSi(OR)及びZr(OR)で表される化合物を用いることができる。ここで、Rはアルキル基を表し、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。シリカ源の具体的としては、オルトケイ酸テトラエチル、ジルコニア源の具体的としては、ジルコニウムテトラブトキシドが挙げられる。
【0031】
シリカ源とジルコニア源を混合及び反応させることで、シリカ源及びジルコニア源のアルコキシ基(OR)が加水分解されて水酸基になるとともに、脱水縮合(縮重合)によって隣接する化合物同士がSi−O−Zr結合で重合してなるポリマー粒子を含むシリカ−ジルコニアゾルが形成される。
【0032】
より具体的には、前記シリカ源及びジルコニア源(例えばジルコニウムテトラブトキシドの1−ブタノール溶液)を、水を含む溶媒(例えばエタノール等)に溶解し、触媒として酸(例えば塩酸等)を添加して、撹拌し、加水分解及び縮重合反応に充分な時間攪拌する。その後、水を注ぎながら煮沸・攪拌することによりコロイド粒子を成長させ、シリカ−ジルコニアゾルを得る。シリカ−ジルコニアゾルの平均粒子径は、出発溶液のアルコキシド濃度〔即ち、シリカ源及びジルコニア源として、それぞれSi(OR)及びZr(OR)で表される化合物を用いた場合のこれらの濃度〕及び酸濃度並びに煮沸時間を適宜設定することにより調整可能であり、この平均粒子径を調整することにより、分離層の平均細孔径を調整することができる。
【0033】
[工程(E)]
工程(E)では、上述のように調製したシリカ−ジルコニアゾルを支持体に塗布する。シリカ−ジルコニアゾルの塗布は、スピンコーティング法、ディップコーティング法の他、不織布をシリカ−ジルコニアゾルに浸して塗布する等の方法を実施できる。
【0034】
[工程(F)]
工程(F)では、塗布したシリカ−ジルコニアゾルを乾燥してゲル化させた後、焼成を行い、支持体上に分離層を形成する。焼成を行うことにより、シリカ−ジルコニア粒子間の脱水縮合が進行し、粒子同士が癒着した強固な分離層が形成される。焼成温度は、100〜600℃であることが好ましい。焼成温度が100℃未満であると、粒子同士の癒着が十分ではないため好ましくない。また、焼成温度が600℃を超えると、シリカ−ジルコニア複合酸化物が相分離を起こし、シリカ及びジルコニアの結晶相が形成され、細孔の閉塞や粗大化が起こるため好ましくない。
【0035】
分離層を均一に形成するため、工程(E)及び(F)の塗布・焼成は複数回繰り返すことが好ましい。
【0036】
支持体と分離層との間に中間層を設ける場合、工程(E)及び(F)を実施する前に、支持体上に中間層を形成する。具体的には、α−アルミナを主成分とするセラミックスを支持体として用いる場合、工程(D)と同様に調製したシリカ−ジルコニアゾルにα−アルミナ微粒子を分散させたものを支持体に塗布し、乾燥してゲル化させた後、焼成を行う。塗布及び焼成は、工程(E)及び(F)と同様に実施することができる。
【0037】
本発明のグリセリンの分離方法は、以上のようにして製造される分離膜(以下、単に「分離膜」という。)にグリセリンを含む混合物を供給することにより実施することができる。即ち、分離膜は、グリセリン等を透過する一方で、その他の物質の透過を阻止することから、グリセリンを含む混合物からグリセリンが選択的に分離・除去される。グリセリンを含む混合物を分離膜に供給する際、該混合物の温度は、好ましくは100〜170℃、より好ましくは100〜140℃であり、供給圧力は、好ましくは3〜10MPa、より好ましくは6〜10MPaである。
【0038】
分離膜に供給されるグリセリンを含む混合物に特に制限はないが、グリセリンを除去する工業的需要が高いことから、グリセリン脂肪酸エステルとグリセリンとの混合物であることが好ましい。該混合物としては、グリセリン脂肪酸エステルの工業的製法、即ちグリセリンと脂肪酸の直接エステル化、グリセリンと油脂のエステル交換法等により生成される混合物が挙げられる。
【0039】
本発明の実施は、より具体的には、例えば図1に示すような構成の膜分離装置1を用い、グリセリンを含む混合物を供給液として供給液タンク2に貯留し、その供給液をポンプ3により分離部4に供給し、分離膜4bを透過した透過液を、透過液排出管4aを介して排出すれば良い。尚、分離部4には、ヒーター4cが設置され、分離部4内の供給液を加熱する。また、分離部4に設けられたスターラー4eによりスターラーバー4dが回転し、分離部4内の供給液を攪拌する。また、背圧弁5により、分離部4内の圧力を調整する。また、圧力計6により、分離部4内の圧力を測定する。
【0040】
本発明に用いられる分離膜の分離性能は、該分離膜の透過液の組成をGC(ガスクロマトグラフィー)で分析し、該透過液中のグリセリン濃度を求めることにより評価することができる。具体的には、以下に示す分析条件にて透過液を分析し、分析後、データ処理装置によりクロマトグラム上に記録された被検試料の各成分に対応するピークについて、積分計を用いてピーク面積を測定する。測定されたピーク面積に基づいて、面積百分率としてグリセリン濃度を求めることができる。GC分析条件を以下に示す。
【0041】
<GC分析条件>
装置:ガスクロマトグラム(型式:GC−2010 plus;島津製作所社製)
データ処理装置(型式:Lab Solutions;島津製作所社製)
カラム(型式:Ultra ALLOY―TRG;フロンティアラボ社製)
カラムオーブン条件
初期温度 100℃(1分間)
昇温速度 15℃/分
最終温度 365℃(11分間)
検出器温度 365℃
注入口温度 360℃
試料注入量 1μL
検出機 FID(水素炎イオン化検出器)
キャリアガス 窒素 200kPa
スプリット比 1:80
【0042】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
[チタニア−ジルコニア複合酸化物からなる分離層を有する分離膜の製造]
(1)1wt%チタニア−ジルコニアゾルAの調製
500ml容量の三角フラスコに磁気回転子を設置し、ここにチタンテトライソプロポキシド2.13gを秤量した後、イソプロピルアルコール50g、水0.27g、35%塩酸0.05gの酸触媒溶液を加えて25℃で3時間撹拌し、予備加水分解を行った。この反応溶液に、ジルコニウムテトラブトキシド3.59g、イソプロピルアルコール60g、水0.456g、35%塩酸0.1gの混合溶液を滴下し、25℃で12時間撹拌し、共重合を行うことで、1wt%チタニア−ジルコニアゾルAを得た。該ゾルの平均粒子径は10nmであった。
【0044】
(2)1wt%チタニア−ジルコニアゾルBの調製
500ml容量の三角フラスコに磁気回転子を設置し、ここにチタンテトライソプロポキシド2.13gを秤量した後、イソプロピルアルコール50g、水0.27g、35%塩酸0.05gの酸触媒溶液を加えて25℃で3時間撹拌し、予備加水分解を行った。この反応溶液に、ジルコニウムテトラブトキシド3.59g、イソプロピルアルコール60g、水0.456g、35%塩酸0.1gの混合溶液を滴下し、25℃で12時間撹拌し、共重合を行った。ここに35%塩酸3.1gを滴下し、更に水を添加することでアルコキシドの総濃度を1wt%に保ちながら8時間煮沸撹拌し、コロイド粒子を成長させることで、1wt%チタニア−ジルコニアゾルBを得た。該ゾルの平均粒子径は40nmであった。
【0045】
(3)2wt%チタニア−ジルコニアゾルCの調製
500ml容量の三角フラスコに磁気回転子を設置し、ここにチタンテトライソプロポキシド4.34gを秤量した後、イソプロピルアルコール50g、水0.54g、35%塩酸0.05gの酸触媒溶液を加えて25℃で3時間撹拌し、予備加水分解を行った。この反応溶液に、ジルコニウムテトラブトキシド7.18g、イソプロピルアルコール60g、水0.912g、35%塩酸0.1gの混合溶液を滴下し、25℃で12時間撹拌し、共重合を行った。ここに35%塩酸3.1gを滴下し、更に水を添加することでアルコキシドの総濃度を1wt%に保ちながら8時間煮沸撹拌し、コロイド粒子を成長させることで、2wt%チタニア−ジルコニアゾルCを得た。該ゾルの平均粒子径は100nmであった。
【0046】
ここで、前記(1)〜(3)で調製したチタニア−ジルコニアゾルA〜Cの平均粒子径は、動的光散乱法による粒子径分析装置(装置名:ゼータサイザーナノZEN3600;マルバーン社製)を用い、散乱強度分布の平均値を求めることにより測定した。
【0047】
(4)支持体への中間層の形成
支持体として平均細孔径約2.1μmの多孔性α−アルミナ管(外径10mm;長さ100mm;多孔率50%;ニッカトー社製)を用意した。前記(3)で調製したゾルCにα−アルミナ微粒子(平均粒子径0.2μm;住友化学社製)を分散させた分散液(α−アルミナ微粒子濃度約10wt%)を、支持体の外表面に室温で塗布し、乾燥した。次いで、電気管状炉を用いて、空気中で、550℃、15分間の条件にて焼成した後、冷却した。その後、ゾルの塗布、乾燥、焼成及び冷却の上記工程を同一の条件で5回繰り返すことで中間層を形成した。
【0048】
(5)支持体への分離層の形成
前記(4)で中間層を形成した支持体を予め200℃に予熱し、その外表面に、前記(1)〜(3)で調製したゾルA〜Cのうちいずれかに水を加えて0.5wt%に希釈したゾル溶液を塗布し、乾燥した。次いで、電気管状炉を用いて、空気中で、550℃、15分間の条件にて焼成した後、冷却した。その後、ゾルの塗布、乾燥、焼成及び冷却の上記工程を同一の条件で10回繰り返すことにより、粒子層表面にチタニア−ジルコニア複合酸化物からなる分離層を形成した。
【0049】
前記(5)の工程において、(1)で調製したゾルA、(2)で調製したゾルB、(3)で調製したゾルCを用いることで、それぞれ分離層の平均細孔径が1.2nmの分離膜(試作品1)、同平均細孔径が1.8nmの分離膜(試作品2)、同平均細孔径が2.2nmの分離膜(試作品3)を得た。
【0050】
[グリセリンの分離(実施例1〜6及び比較例1〜2)]
前記分離膜(試作品1〜3)及び図1に示す構成の膜分離装置を用いて実施例1〜6及び比較例1〜2のグリセリンの分離を行った。
【0051】
<実施例1>
グリセリン脂肪酸エステル(モノエステル体含有量が96質量%以上のグリセリンモノオレート)90質量部及びグリセリン10質量部からなる混合物を供給液として供給液タンクに貯留し、その供給液をポンプにより7MPaの加圧下で分離部内の分離膜(試作品1)に供給し、該分離膜を透過した透過液を、透過液排出管から回収した。この際、ヒーターにより分離部内の供給液を加熱し、供給温度を100℃に設定した。
透過液の回収は5回に分けて行い、1回目の回収は透過開始から15.1時間経過後、2回目の回収は1回目の回収から24.7時間経過後、3回目の回収は2回目の回収から25.7時間経過後、4回目の回収は3回目の回収から23.6時間経過後、5回目の回収は4回目の回収から24.2時間経過後に行った。
回収液のグリセリン濃度(%)をそれぞれ測定し、その平均値を求めた。また、全ての回収液の合計質量及び透過開始から最後の回収までに要した時間に基づき、平均透過流束〔kg/(m・s)〕を求めた。
【0052】
<実施例2>
供給温度を120℃に設定したこと、及び透過液の回収は以下の通り行ったこと以外は実施例1と同様に実施し、回収液の平均グリセリン濃度(%)及び平均透過流速〔kg/(m・s)〕を求めた。
透過液の回収は6回に分けて行い、1回目の回収は透過開始から16.3時間経過後、2回目の回収は1回目の回収から22.4時間経過後、3回目の回収は2回目の回収から27.3時間経過後、4回目の回収は3回目の回収から19.7時間経過後、5回目の回収は4回目の回収から21.0時間経過後、6回目の回収は5回目の回収から22.9時間経過後に行った。
【0053】
<実施例3>
供給温度を150℃に設定したこと、及び透過液の回収は以下の通り実施したこと以外は実施例1と同様に実施し、回収液の平均グリセリン濃度(%)及び平均透過流速〔kg/(m・s)〕を求めた。
透過液の回収は3回に分けて行い、1回目の回収は透過開始から3.6時間経過後、2回目の回収は1回目の回収から2.5時間経過後、3回目の回収は2回目の回収から2.8時間経過後に行った。
【0054】
<実施例4>
供給温度を175℃に設定したこと、及び透過液の回収は以下の通り行ったこと以外は実施例1と同様に実施し、回収液の平均グリセリン濃度(%)及び平均透過流速〔kg/(m・s)〕を求めた。
透過液の回収は3回に分けて行い、1回目の回収は透過開始から1.9時間経過後、2回目の回収は1回目の回収から2.4時間経過後、3回目の回収は2回目の回収から2.4時間経過後に行った。
【0055】
<実施例5>
分離膜(試作品2)を用いたこと、加圧条件を10MPaとしたこと、及び透過液の回収は以下の通り行ったこと以外は実施例1と同様に実施し、回収液の平均グリセリン濃度(%)及び平均透過流速〔kg/(m・s)〕を求めた。
透過液の回収は5回に分けて行い、1回目の回収は透過開始から216時間経過後、2回目の回収は1回目の回収から22.8時間経過後、3回目の回収は2回目の回収から24.5時間経過後、4回目の回収は3回目の回収から45.7時間経過後、5回目の回収は4回目の回収から24.5時間経過後に行った。
【0056】
<実施例6>
分離膜(試作品2)を用いたこと、供給温度を120℃に設定したこと、加圧条件を10MPaとしたこと、及び透過液の回収は以下の通り行ったこと以外は実施例1と同様に実施し、回収液の平均グリセリン濃度(%)及び平均透過流速〔kg/(m・s)〕を求めた。
透過液の回収は5回に分けて行い、1回目の回収は透過開始から23.3時間経過後、2回目の回収は1回目の回収から23.6時間経過後、3回目の回収は2回目の回収から23.6時間経過後、4回目の回収は3回目の回収から23.8時間経過後、5回目の回収は4回目の回収から23.8時間経過後に行った。
【0057】
<比較例1>
分離膜(試作品3)を用いたこと、加圧条件を以下の通り変化させたこと、及び透過液の回収は以下の通り行ったこと以外は実施例1と同様に実施し、回収液の平均グリセリン濃度(%)及び平均透過流速〔kg/(m・s)〕を求めた。
透過液の回収は6回に分けて行い、1回目の回収は透過開始から0.23時間経過後、2回目の回収は1回目の回収から0.30時間経過後、3回目の回収は2回目の回収から0.30時間経過後、4回目の回収は3回目の回収から0.13時間経過後、5回目の回収は4回目の回収から0.13時間経過後、6回目の回収は5回目の回収から0.13時間経過後に行った。これら回収液のうち、3回目及び6回目の回収液のみに基づき平均グリセリン濃度(%)を算出した。
加圧条件は、透過開始から3回目の回収までは6MPaとし、それ以後は10MPaとした。
【0058】
<比較例2>
分離膜(試作品3)を用いたこと、供給温度を120℃に設定したこと、加圧条件を以下の通り変化させたこと、及び透過液の回収は以下の通り行ったこと以外は実施例1と同様に実施し、回収液の平均グリセリン濃度(%)及び平均透過流速〔kg/(m・s)〕を求めた。
透過液の回収は6回に分けて行い、1回目の回収は透過開始から0.17時間経過後、2回目の回収は1回目の回収から0.17時間経過後、3回目の回収は2回目の回収から0.17時間経過後、4回目の回収は3回目の回収から0.13時間経過後、5回目の回収は4回目の回収から0.13時間経過後、6回目の回収は5回目の回収から0.13時間経過後に行った。これら回収液のうち、3回目及び6回目の回収液のみに基づき平均グリセリン濃度(%)を算出した。
加圧条件は、透過開始から3回目の回収までは6MPaとし、それ以後は10MPaとした。
【0059】
実施例1〜6及び比較例1〜2において測定された平均グリセリン濃度(%)及び平均透過流速〔kg/(m・s)〕を、これらの実施条件とともに表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1の結果から明らかなように、分離膜(試作品1及び2)を用いた実施例1〜6では、分離膜(試作品3)を用いた比較例1及び2に比べて平均グリセリン濃度が高いことから、チタニア−ジルコニア複合酸化物を主成分とし、平均細孔径が概ね1.0〜2.0nmの範囲にある分離層を有する分離膜を用いることにより、グリセリンを選択的に透過させ、グリセリンを分離できることが確認された。
【0062】
[シリカ−ジルコニア複合酸化物からなる分離層を有する分離膜の製造]
(1)1wt%シリカ−ジルコニアゾルAの調製
500ml容量の三角フラスコに磁気回転子を設置し、ここにオルトケイ酸テトラエチル3.56g、水0.304g、35%塩酸0.05g、エタノール50gを入れ、25℃で10分間撹拌し、予備加水分解を行った。この溶液に、ジルコニウムテトラブトキシド(80%1−ブタノール溶液)4.05g及びエタノール20gからなる混合溶液、並びに水0.304g、35%塩酸0.05g及びエタノール20gからなる混合溶液をそれぞれ滴下し、25℃で12時間撹拌し、加水分解を行った。この反応溶液に、水0.304g、35%塩酸0.05g及びエタノール20gからなる混合溶液を滴下し、25℃で10分間撹拌し、更に加水分解を行った。ここに35%塩酸2.1gを滴下し、更に水を添加することでアルコキシドの総濃度を1wt%に保ちながら8時間煮沸撹拌し、コロイド粒子を成長させることで、1wt%シリカ−ジルコニアゾルAを得た。該ゾルの平均粒子径は15nmであった。
【0063】
(2)2wt%シリカ−ジルコニアゾルBの調製
500ml容量の三角フラスコに磁気回転子を設置し、ここにオルトケイ酸テトラエチル3.56g、水0.304g、35%塩酸0.05g、エタノール50gを入れ、25℃で10分間撹拌し、予備加水分解を行った。この溶液に、ジルコニウムテトラブトキシド(80%1−ブタノール溶液)8.10g及びエタノール20gからなる混合溶液、並びに水0.304g、35%塩酸0.05g及びエタノール20gからなる混合溶液をそれぞれ滴下し、25℃で12時間撹拌し、加水分解を行った。この反応溶液に、水0.304g、35%塩酸0.05g及びエタノール20gからなる混合溶液を滴下し、25℃で10分間撹拌し、更に加水分解を行った。ここに35%塩酸2.7gを滴下し、更に水を添加することでアルコキシドの総濃度を2wt%に保ちながら8時間煮沸撹拌し、コロイド粒子を成長させることで、2wt%シリカ−ジルコニアゾルBを得た。該ゾルの平均粒子径は54nmであった。
【0064】
ここで、前記(1)及び(2)で調製したシリカ−ジルコニアゾルA及びBの平均粒子径は、動的光散乱法による粒子径分析装置(装置名:ゼータサイザーナノZEN3600;マルバーン社製)を用い、散乱強度分布の平均値を求めることにより測定した。
【0065】
(3)支持体への中間層の形成
支持体として平均細孔径約2.1μmの多孔性α−アルミナ管(外径10mm;長さ100mm;多孔率50%;ニッカトー社製)を用意した。前記(2)で調製したゾルBにα−アルミナ微粒子(平均粒子径0.2μm;住友化学社製)を分散させた分散液(α−アルミナ微粒子濃度約10wt%)を、支持体の外表面に室温で塗布し、乾燥した。次いで、電気管状炉を用いて、空気中で、550℃、15分間の条件にて焼成した後、冷却した。その後、ゾルの塗布、乾燥、焼成及び冷却の上記工程を同一の条件で5回繰り返すことで中間層を形成した。
【0066】
(4)支持体への分離層の形成
前記(3)で中間層を形成した支持体を予め200℃に予熱し、その外表面に、前記(1)で調製したゾルAに水を加えて0.5wt%に希釈したゾル溶液を塗布し、乾燥した。次いで、電気管状炉を用いて、空気中で、550℃、15分間の条件にて焼成した後、冷却した。その後、ゾルの塗布、乾燥、焼成及び冷却の上記工程を同一の条件で10回繰り返すことにより、粒子層表面にシリカ−ジルコニア複合酸化物からなる分離層を形成し、分離層の平均細孔径が1.3nmの分離膜(試作品4)を得た。
【0067】
[グリセリンの分離(実施例7)]
前記分離膜(試作品4)及び図1に示す構成の膜分離装置を用いて実施例7のグリセリンの分離を行った。
【0068】
<実施例7>
グリセリン脂肪酸エステル(モノエステル体含有量が96質量%以上のグリセリンモノオレート)80質量部及びグリセリン20質量部からなる混合物を供給液として供給液タンクに貯留し、その供給液をポンプにより7MPaの加圧下で分離部内の分離膜(試作品4)に供給し、該分離膜を透過した透過液を、透過液排出管から回収した。この際、ヒーターにより分離部内の供給液を加熱し、供給温度を100℃、120℃、130℃の順に段階的に上昇させながら、透過液の回収を15回に分けて行った。
先ず、供給温度100℃で1〜3回目の回収を行った。1回目の回収は透過開始から12.2時間経過後、2回目の回収は1回目の回収から6.7時間経過後、3回目の回収は2回目の回収から4.6時間経過後に行った。3回目の回収後、供給温度を120℃に上昇させた。
次いで、供給温度120℃で4〜9回目の回収を行った。4回目の回収は3回目の回収から9.1時間経過後、5回目の回収は4回目の回収から5.5時間経過後、6回目の回収は5回目の回収から6.1時間経過後、7回目の回収は6回目の回収から7.8時間経過後、8回目の回収は7回目の回収から4.3時間経過後、9回目の回収は8回目の回収から11.0時間経過後に行った。9回目の回収後、供給温度を130℃に上昇させた。
更に、供給温度130℃で10〜15回目の回収を行った。10回目の回収は9回目の回収から4.9時間経過後、11回目の回収は10回目の回収から6.8時間経過後、12回目の回収は11回目の回収から6.6時間経過後、13回目の回収は12回目の回収から5.0時間経過後、14回目の回収は13回目の回収から6.3時間経過後、15回目の回収は14回目の回収から8.3時間経過後に行った。
回収液のグリセリン濃度(%)を測定し、1〜3回目、4〜9回目及び10〜15回目のそれぞれの回収液について、グリセリン濃度の平均値を求めた。また、1〜3回目、4〜9回目及び10〜15回目のそれぞれの回収液の合計質量並びに透過開始から3回目の回収まで、3回目の回収から9回目の回収まで及び9回目の回収から15回目の回収までに要したそれぞれの時間に基づき、1〜3回目、4〜9回目及び10〜15回目のそれぞれの回収液について、平均透過流束〔kg/(m・s)〕を求めた。
【0069】
実施例7において測定された平均グリセリン濃度(%)及び平均透過流速〔kg/(m・s)〕を、これらの実施条件とともに表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
表2の結果から明らかなように、分離膜(試作品4)を用いた実施例7では、前述の分離膜(試作品1及び2)を用いた実施例1〜6と同様に平均グリセリン濃度が高いことが分かった。このため、シリカ−ジルコニア複合酸化物を主成分とし、平均細孔径1.0〜2.0nmの範囲にある分離層を有する分離膜を用いることにより、グリセリンを選択的に透過させ、グリセリンを分離できることが確認された。
【符号の説明】
【0072】
1 膜分離装置
2 供給液タンク
3 ポンプ
4 分離部
4a 透過液排出管
4b 分離膜
4c ヒーター
4d スターラーバー
4e スターラー
5 背圧弁
6 圧力計
図1