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特開2020-164616透明性を有する軟膏状のフィラー強化樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-164616(P2020-164616A)
(43)【公開日】2020年10月8日
(54)【発明の名称】透明性を有する軟膏状のフィラー強化樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20200911BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20200911BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20200911BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20200911BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08K3/01
   C08K3/36
   C08K5/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-65225(P2019-65225)
(22)【出願日】2019年3月29日
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】宮永 俊明
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA021
4J002BG041
4J002BG051
4J002CD001
4J002DJ017
4J002DL006
4J002EP008
4J002FA046
4J002FD016
4J002FD017
4J002FD208
4J002GL00
(57)【要約】
【課題】
本発明は、透明性を有する軟膏状のフィラー強化樹脂組成物に関するものであり、割れや欠け、き裂部に対して、硬化剤を添加した前記の透明性を有する軟膏状のフィラー強化樹脂組成物を塗工することによって、従来の樹脂組成物では実現できなかった、補修箇所が目立たずに、且つ充分な補修効果が得られるフィラー強化樹脂混合主剤を提供することを目的とする。
【手段】
本発明では、熱可塑性樹脂100重量部に対して、9重量部以下の無機フィラーと2重量部未満のアエロジルと、2重量部以下の揺変剤が配合された透明性を有する軟膏状のフィラー強化樹脂組成物を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無色透明または淡黄色透明な常温硬化型の熱硬化性樹脂100重量部に対して、9重量部以下の無機フィラーと2重量部以下のアエロジルと、2重量部以下の揺変剤が配合された、ヘイズ値が90以上、95未満で、透明性を有する軟膏状のフィラー強化樹脂組成物。
【請求項2】
前記無機フィラーが10mm長さ以下のチョップドガラスファイバーである請求項1に記載の透明性を有する軟膏状のフィラー強化樹脂組成物。
【請求項3】
前記揺変剤が、不飽和ポリカルボン酸ポリアミノアマイド溶液である請求項1又は2に記載の透明性を有する軟膏状のフィラー強化樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂が、ガードナー色数が3以下のエポキシ樹脂である請求項1から3のいずれか1項に記載の透明性を有する軟膏状のフィラー強化樹脂組成物。
【請求項5】
熱硬化性樹脂100重量部に対して、1重量部以上、9重量部以下のガラス繊維と0.5重量部以上、2重量部以下のアエロジルと、0.5重量部以上2重量部以下の不飽和ポリカルボン酸ポリアミノアマイド溶液が併用配合された主剤と硬化剤からなる請求項1から4のいずれか1項に記載の透明性を有する軟膏状のフィラー強化樹脂組成物。
【請求項6】
前記主剤に、アエロジル配合量の60wt%以上120wt%以下の不飽和ポリカルボン酸アミノアマイド溶液が配合されている請求項5に記載の透明性を有する軟膏状のフィラー強化樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性を有する軟膏状のフィラー強化樹脂組成物に関するものであり、割れや欠け、き裂部に対して、主剤と硬化剤からなる二液混合型の透明性を有する軟膏状のフィラー強化熱硬化性樹脂組成物を塗工することによって、従来の樹脂組成物では実現できなかった、補修箇所が目立たずに、且つ充分な補修効果が得られるフィラー強化樹脂組成物を提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂組成物は産業分野や民生分野のさまざまな場所で使用されている。特に、主剤と硬化剤を適切に選定して混合すれば、室温でも容易に硬化するため、特に、最小限の設備での現場施工が求められる補修や補強などでは、その簡便さゆえに、近年その使用がますます広がりつつある。
【0003】
そのために、エポキシ樹脂組成物を、き裂部の注入用材料や割れ部の塗工型補修材料、さらには強度が不足すると想定された箇所への補強材用の接着剤としての使用が増えてきており、これまでさまざまな提案がなされている。
【0004】
しかしながら、従来のエポキシ樹脂組成物は、き裂部への注入や強化剤の接着剤など、補修箇所では目に見えない場所に用いられることが多く、これまで透明性や意匠性などの外観が問題となることはなく、これらの機能は求められてこなかった。
【0005】
そのため、表面部や角部に発生した割れや欠け、き裂に対しては、補修や補強を行った後に、例えば、ペンキなどの塗料を塗って目立たなくするための追加工法がなされており、補強補修に要する費用や工期に要する日数面で課題を有していた。
【0006】
特に、表面や角部に発生した割れや欠け、き裂などを補強補修する場合、通常のエポキシ樹脂は粘性を有するために、養生テープや型枠、或いはパテなどで、エポキシ樹脂組成物が流れ落ちてくることを防止する必要があり、補強補修工法的には多大な手間を要することが問題となっていた。
【0007】
例えば、特許文献1では、エポキシ樹脂に対して、20μmのアルミナ粉や2μm以下の微粒子フィラーを併用したエポキシ樹脂組成物が提案されているが、これは注型用を目的としているため、室温上では流れ性を有し、補強補修部が表面部や角部である場合、必ずしも好ましい樹脂組成物とは言えない。
【0008】
また、特許文献2では、粘度をコントロールしたコンクリートひび割れ補修用注入組成物が提案されているが、これも流れ性を有する粘度域に留まっているため、軟膏状の性状を得るには至っていない。
【0009】
特許文献3では、エポキシ樹脂に対して、炭素繊維、ロックウール、アエロジルを併用することによって、ペースト状の樹脂組成物を実現したが、これらは炭素繊維やロックウールを使用しているため、この樹脂組成物は黒みがかった樹脂組成物となり、これを使用した補修補強では、その補修補強箇所が目立ってしまい、外観や意匠性という点では改善が求められていた。
【0010】
特許文献4では、チョップドガラス繊維を使用した樹脂組成物が提案されているが、これは疎水性及び耐電気的侵食性の改善を目的とするものであって、割れや欠け、き裂部の補強や補修という点では必ずしも好ましい樹脂組成物ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭63−234056号公報
【特許文献2】特許第3912302号公報
【特許文献3】特開2004−346290号公報
【特許文献4】特表2001−502470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
主剤と硬化剤からなる二液混合型のフィラー強化熱硬化性樹脂組成物は、その機能や利用の簡便さなどの点で広く普及している。また、主剤と硬化剤を適切に選定して混合すれば、室温でも容易に硬化するため、特に、最小限の設備での現場施工が求められる補修や補強などでは、その簡便さゆえに、近年その使用がますます広がりつつあるが、最近特に求められている補修や補強を目的として外観や意匠性を考慮した主剤と硬化剤からなる二液混合型のフィラー強化熱硬化性樹脂組成物の事例は見られない。
本発明の目的は、主剤と硬化剤からなる二液混合型のフィラー強化エポキシ樹脂組成物において、外観や意匠性に優れ、且つ補強や補修に容易に簡便に使用することが可能である主剤と硬化剤からなる二液混合型のフィラー強化熱硬化性樹脂混合主剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らはこれらの欠点を改善すべく鋭意検討した結果、熱硬化性樹脂組成物に対して、ある配合量の無機フィラーとアエロジル、揺変剤の3成分を適切な配合比率で混合することによって、透明性で軟膏状を有し、硬化剤を添加することによって垂直な壁や天井部にもそのまま塗工しての補修補強ができ、外観及び意匠性に優れるフィラー強化熱硬化性樹脂混合主剤を実現した。即ち、本発明の発明者は、熱硬化性樹脂100重量部に対して、9重量部未満の無機フィラーと2重量部未満のアエロジルと、2重量部未満の揺変剤を配合することによって、透明性を有する軟膏状のフィラー強化熱硬化性樹脂混合主剤を得ることにより、本発明を完成するに至ったのである。
【0014】
本発明は、以下の(1)〜(6)に存する。
(1) 無色透明または淡黄色透明な常温硬化型の熱硬化性樹脂100重量部に対して、9重量部以下の無機フィラーと2重量部以下のアエロジルと、2重量部以下の揺変剤が配合された、ヘイズ値が90以上、95未満で、透明性を有する軟膏状のフィラー強化樹脂組成物。
(2) 前記無機フィラーが10mm長さ以下のチョップドガラスファイバーである(1)に記載の透明性を有する軟膏状のフィラー強化樹脂組成物。
(3) 前記揺変剤が、不飽和ポリカルボン酸ポリアミノアマイド溶液である(1)又は(2)に記載の透明性を有する軟膏状のフィラー強化樹脂組成物。
(4) 前記熱硬化性樹脂が、ガードナー色数が3以下のエポキシ樹脂である(1)から((3)のいずれか1つに記載の透明性を有する軟膏状のフィラー強化樹脂組成物。
(5) 熱硬化性樹脂100重量部に対して、1重量部以上、9重量部以下のガラス繊維と0.5重量部以上、2重量部以下のアエロジルと、0.5重量部以上2重量部以下の不飽和ポリカルボン酸ポリアミノアマイド溶液が併用配合された主剤と硬化剤からなる(1)から(4)のいずれか1つに記載の透明性を有する軟膏状のフィラー強化樹脂組成物。
(6) 前記主剤に、アエロジル配合量の60wt%以上120wt%以下の不飽和ポリカルボン酸アミノアマイド溶液が配合されている(5)に記載の透明性を有する軟膏状のフィラー強化樹脂組成物。
【発明の効果】
【0015】
熱硬化性脂組成物に対して、無機フィラーとアエロジル、揺変剤の3成分を適切な配合比率で混合することによって、透明性で軟膏状を有し、硬化剤を添加することによって垂直な壁や天井部にもそのまま塗工して、室温で硬化する補修及び補強工事ができ、且つ、外観及び意匠性に優れるフィラー強化熱硬化性樹脂混合主剤を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、常温硬化が可能なエポキシ樹脂やアクリル樹脂のような熱硬化性樹脂100重量部に対して、9重量部未満の無機フィラーと2重量部未満のアエロジルと、2重量部未満の揺変剤が配合された透明性を有する軟膏状のフィラー強化樹脂組成物であり、熱硬化性樹脂、無機フィラー、アエロジルの3成分を一定範囲内の配合量で組み合わせて初めてその効果が発揮できる。
【0017】
無機フィラーの配合量は、好ましくは1〜9重量部の範囲とすることが好ましく、望ましくは2〜7重量部の範囲とすることが好ましい。無機フィラーの添加量が1重量部よりも少なくなると、補強効果が弱くなるだけでなく軟膏状のチクソ性も得られない。また逆に、無機フィラーの添加量が9重量部よりも多くなると、混合主剤は過度に白濁し、透明性は得られない。なお、以下において、配合量の重量部範囲は、特に記載する場合を除いて、以上、以下で表すものとする。
なお、本発明における「透明性」とは、マジックペンなどにより文字を書いた金属箔などの塗工基材に、フィラー強化エポキシ樹脂組成物を厚み5mm程度にならして塗工し、塗膜上から目視にて記載した文字を視認可能な程度までを「透明性がある」としており、文字が視認可能であれば樹脂組成物が白濁(半透明の状態)していても構わない。
【0018】
補強する樹脂組成物が透明〜半透明であれば、補修箇所の地色が外観として反映される。このため、補修箇所を目立たなくするように、塗装を行うといった、追加施工を要しない点で好ましい。
【0019】
アエロジルの配合量は、好ましくは0.5〜2重量部の範囲とすることが好ましく、望ましくは0.8〜1.5重量部の範囲とすることが好ましい。アエロジルの添加量が0.5重量部よりも少なくなると、軟膏状のチクソ性は得られない。また逆に、アエロジルの添加量が2重量部よりも多くなると、混合主剤は強く白濁し、透明性は得られない。
【0020】
揺変剤の配合量は、好ましくは0.5〜2重量部の範囲とすることが好ましく、望ましくは0.8〜1.5重量部の範囲とすることが好ましい。揺変剤の添加量が0.5重量部よりも少なくなると、軟膏状のチクソ性は得られない。また逆に、揺変剤の添加量が2重量部よりも多くなると、混合主剤は強く白濁し、透明性は得られない。
【0021】
本発明の透明性を有する樹脂組成物は垂直な面などに塗工されるため、樹脂組成物の状態がチクソ性を有する軟膏状もしくはパテ状であり、目安として粘度が15〜1000Pa・sの範囲にあることが好ましく、20〜500Pa・sであることがたれ防止と塗工性の面から好ましい。
また、チクソ性は後述する方法によって評価されるが、数値的な目安として建築補修用エポキシ樹脂の規格JIS A 6024:2008におけるチキソトロピックインデックスが、4以上、好ましくは5以上であると作業性や膜厚の維持の面で好ましい。
【0022】
[エポキシ樹脂]
本発明の透明性を有する樹脂組成物に使用される樹脂は、常温硬化な熱可塑性樹脂であれば特に限定されるものではなくエポキシ樹脂やアクリル樹脂などを使用できるが、様々な素材との接着性や強度、作業性などの面からエポキシ樹脂を用いることが好ましい。
前記エポキシ樹脂は、ガードナー色数が3以下の無色から淡黄色の液状であり、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物が好ましい。前記エポキシ樹脂は、例えば、ポリオールから得られるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、活性水素を複数有するアミンより得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、ポリカルボン酸より得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂や、分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化して得られるポリエポキシドなどが用いられる。かかるエポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂、トリグリシジル−p−アミノフェノール、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−メチレンジアニリンなどのグリシジルアミン型エポキシ樹脂、3‘,4‘−エポキシシクロヘキシルメチル3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートなどの脂環式エポキシ樹脂、レゾルシンジグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート等を挙げることができるが、性能並びに経済性上、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、クレゾールノボラック型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂等の2官能以上の液状エポキシ樹脂が好ましい。
【0023】
[無機フィラー]
本発明に係る無機フィラーは、不定形や球形の粒子状や板状、繊維状のいずれでも構わないが、補強効果が得られやすいことから板状もしくは繊維状のフィラーが好ましい。中でもガラス繊維は塗工物の透明性が得られやすく、補強効果が大きいという点でより好ましい無機フィラーであり、10mm以下の長さで、且つ1本あたりの繊維直径が30μm未満のガラス繊維のチョップドストランド繊維は樹脂組成物の透明性、補強効果、施工時のハンドリング性のバランスが良く、最も好ましい。
なお、ガラス繊維のガラスの種類は特に限定されることはなく、コストや用途に応じてEガラスやSガラスなどの建材用や繊維強化プラスチック用のガラス繊維を適宜選択して使用することができる。
また、ガラス繊維表面はマトリックス材料との親和性を向上させる表面処理、例えばエポキシ系樹脂サイジング等によるサイジング処理やシランカップリング剤等による表面処理が施されているとよい。
【0024】
[アエロジル]
本発明に係るアエロジルは、ケイ素塩化物を気化して高温の水素炎中において気相反応によって合成されるシリカ微粒子及び/又はフュームドシリカである。アエロジルは各種表面処理されているものもあるが、本発明では特に限定しない。また、本発明を限定するものではないが、エポキシ樹脂との混合の際、その工法の簡便さの点で、望ましくは比表面積80〜300m/gのものが好ましく、より望ましくは比表面積100〜250m/gであることが好ましい。アエロジルの比表面積が80m/gより小さくなると、エポキシ樹脂への分散が必ずも均一にならない場合があり好ましくなく、逆にアエロジルの比表面積が300m/gより大きくなると、アエロジルが非常に嵩高くなるために、混合の際の計量や撹拌等で作業が煩雑になり、好ましいとは言えなくなる。
【0025】
[揺変剤]
一般に揺変剤は有機系と無機系のものが存在する。本発明を限定するものではないが、本発明では無機フィラーやアエロジルを併用することから、本発明の目的である外観性や意匠性を向上させるための透明性という点で、これらのフィラー系成分を極力低減させたいという理由から、無機系よりも有機系の揺変剤の使用が好ましい。有機系揺変剤としては、代表的なものに、水素添加ひまし油系、アマイド系、酸化ポリエチレン系、植物油重合油系、界面活性剤系があり、又これらを2種以上併用した複合系があるが、本発明においては、無機フィラーやアエロジルとの少量添加でのゲル形成の促進という点で、アマイド系有機系揺変剤の使用が好ましい。アマイド系有機系揺変剤は、ポリアマイドやポリアミノアマイドおよび、これらのカルボン酸塩やエステル塩、脂肪酸アマイド等があげられる。中でも、不飽和ポリカルボン酸ポリアミノアマイド溶液は、無機フィラー及びアエロジルとの併用使用という点で、エポキシ樹脂混合物の透明性や、少量添加での軟膏性状の発現という点で非常に好ましい。
【0026】
本発明の透明性を有する樹脂組成物は、その透明性や機械特性、作業性等を損なわない範囲内で上記の無機フィラー、エアロジルの以外の炭素繊維やアラミド繊維、板状や球状のアルミナやシリカなどの強化充填材や屈折率調整剤などを配合してもよい。
また、屈折率や硬化物の物性の調整を目的に主剤以外の熱硬化性樹脂(例えば主剤とは異なるエポキシ樹脂など)や熱可塑性樹脂(例えばフェノキシ樹脂など)の添加や、接着性向上のためのシランカップリング材の添加、樹脂組成物粘度の調整のための反応性希釈剤の添加、耐侯性向上のためのベンゾトリアゾール系やトリアジン系などの紫外線吸収剤、ヒンダートアミン系などの光安定剤、酸化防止剤などの添加も可能である。
【0027】
ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤としては、2-(2-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-[5-クロロ-(2H)-ベンゾトリアゾール-2-イル]-4-メチル-6-(t-ブチル)フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)6-(1-メチル-1-フェニルエチル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾールの(共)重合体が例示される。
【0028】
トリアジン系の紫外線吸収剤としては、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシルオキシプロピル)オキシ]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジンと2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−トリデシルオキシプロピル)オキシ]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジンの1−メトキシ−2−プロパノール溶液、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−(2´エチル)ヘキシル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−(2ヒドロキシ−4−[1−オクチルカルボニルエトキシ]フェニル)−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジンが例示される。
【0029】
低分子量型のヒンダードアミン系光安定剤としては、2,4−ビス[N−ブチル−N−(1−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ]−6−(2−ヒドロキシエチルアミン)、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1−オクチロキシ−2,2,6,6テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル/トリデシル−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラート、{1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル/β,β,β’,β’−テトラメチル−3,9−[2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン]ジエチル}−1,2,3,4ブタンテトラカルボキシレートが例示される。
【0030】
高分子量型のヒンダードアミン系光安定剤としては、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン−2,4−ビス[N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4ピペリジル)アミノ]−6−クロロ−1,3,5−トリアジン縮合物、ポリ[[6−[(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ]−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)イミノ]]、ポリ[{6−(1,1,3−トリメチルペンチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジル)イミノ}オクタメチレン{(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジル)イミノ}]、ポリ[(6−モルフォリノ−S−トリアジン−2,4−ジ)[1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル]イミノ]−ヘキサメチレン[(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)イミノ]]、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジル)イミノ}]が例示される。
【0031】
[硬化剤]
硬化剤は、常温での硬化が可能であるものであれば特に制限されないが、現場での可使時間や環境等を考慮するとアミン系硬化剤が好ましい。アミン系硬化剤は、例えば、ジエチレントリアミンといった脂肪族ポリアミンやイソホロンジアミンといった脂環式ポリアミン、ジアミノジフェニルスルフォンといった芳香族アミン、およびこれらの変性物が挙げられるが、特に粘度が0.01〜2Pa・sの範囲にある液状の脂肪族もしくは脂環式ポリアミンおよびこれらの変性物が常温で短時間硬化が可能であり、硬化物の透明性が高く、実施工時に容易に混合できるため、より好ましく使用できる。また、硬化剤の配合比について特に制限はないが、主剤となるエポキシ樹脂の当量100部に対して、硬化剤の割合が20〜100部になるようなアミン価を有するものが好ましい。
【0032】
[製造方法]
本発明を限定するものではないが、本発明の透明性を有する樹脂組成物の製造においては、一般のヘリカルミキサーやヘンシェルミキサー、ダルトン型ミキサー、遠心分離ミキサー等の混合機を使用することが好ましい。これらの混合において減圧すると、混合物に内包される気泡が除去できるため、より好ましい。
【0033】
また、本発明を限定するものではないが、本発明の透明性を有する樹脂組成物は、野外の施工現場での塗工作業性の簡便さより、主剤と硬化剤を塗工作業直前に混合する2液型であることが好ましい。例えば、主剤として硬化剤を除いた本発明の透明性を有する軟膏状のフィラー強化エポキシ樹脂組成物と硬化剤を準備し、塗工作業直前にその必要量の主剤および硬化剤を計量して、充分に混合して使用する。
施工現場での混合方法については特に制限するものではないが、ドラム缶装着型の混合機や、ハンディタイプの混合機で混合する方法が、簡便で、施工時の作業負担が少ないという観点から好ましい。ドラム缶装着型の混合機の例としては、清建製マゼール等が、ハンディタイプの混合機の例としては、ハンディタイプの大塚刷毛製マザール等が挙げられる。
【0034】
このようにして得られる本発明の透明性を有する樹脂組成物は、透明性と軟膏状を有しているため、割れや欠け、き裂部に対して、硬化剤を添加して塗工使用することによって、従来の樹脂組成物では実現できなかった、補修箇所が目立たずに、且つ充分な補修効果が得られる材料として最適である。
【0035】
なお、本発明の透明性を有する樹脂組成物は溶剤を使用しないで配合されていることが望ましい。無溶剤系であることによりVOCの発生がなく、環境への負荷を抑えることができるだけでなく、施工現場における火災の発生などの危険性も大きく低下させることができる。
【実施例1】
【0036】
以下、本発明の透明性を有する樹脂組成物について実施例と比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0037】
[透明性の評価]
アルミ箔の上にマジック等で文字を書き、その上に作製したフィラー強化エポキシ樹脂混合主剤を置いて、厚み5mm程度にならして塗工して、その文字を塗工物の上から目視判断し、はっきりと見えた場合を「○」、見えなかった場合を「×」とした。
【0038】
[ヘイズ値の測定]
濁度計(日本電色工業株式会社製 濁度計)を使用し、JIS K 7136にそれぞれ準拠して、5mm厚のエポキシ樹脂組成物の硬化物のヘイズ値を測定した。
【0039】
エポキシ樹脂の固形分が40%のブチルカルビトール溶液の色相をJIS K 6901に準じたガードナー色数標準溶液と比較して色相を測定した。
【0040】
[粘度の測定]
東機産業(株)製B型粘度計、TVB−10を用いて25℃での粘度を測定した。
【0041】
[チクソ性の評価]
100ccのカップに作製した硬化剤を除いた透明性を有するフィラー強化エポキシ樹脂組成物を50g程度入れて上から軽く底に押し付けた後、カップをさかさまにして、入れた作製したフィラー強化エポキシ樹脂混合主剤が3分以上垂れることなく、そのままの軟膏形状を維持した場合を「○」、形状が変わったり、ワニス状に流れ出したりした場合を「×」とした。
【0042】
[実施例1〜2、比較例1〜6]
新日鉄住金化学株式会社製のエポキシ樹脂(商品名:YD−128、ガードナー色数=0.6)、日本電気硝子株式会社製の6mm長さのチョップドストランド状のガラス繊維(商品名:ECS06B−173)、日本アエロジル株式会社製アエロジル(商品名:#200)、ビックケミー・ジャパン株式会社製揺変剤(商品名:BYK−R 607 主成分:不飽和ポリカルボン酸のポリアミノアマイド 主溶剤:ソルベントナフサ 不揮発分75%)を各種で配合し、この硬化前混合物の透明性とチクソ性を評価した。表1に実施例と比較例を示す。
【0043】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、透明性を有する軟膏状のフィラー強化樹脂組成物が得られるので、これに、目的に応じた適切な硬化剤を適量添加すれば、割れや欠け、き裂が発生した箇所に自由に塗工して補修が可能となり、補修箇所が目立たずに、且つ充分な補強効果を得られるために、幅広い分野で利用することができる。