【課題】 イミド化触媒などを用いる化学イミド化工程を経ることなく、基材からからゲルフィルムを剥がしやすく、透明性や着色、誘電特性等のフィルム特性に優れたポリイミドフィルムを製造する方法を提供する。
【解決手段】 ジアミンに由来する構造単位と酸二無水物に由来する構造単位とを有するポリイミド前駆体を基材に塗布、乾燥させて得られるゲルフィルムを基材から剥離するゲルフィルム製造工程、及び前記ゲルフィルムを最高温度280℃以上で熱処理してポリイミドフィルムにするポリイミドフィルム製造工程を含み、前記ゲルフィルム製造工程において、ゲルフィルムのイミド化率が80%未満であり、揮発成分割合が2%〜40%であり、前記ポリイミドフィルム製造工程において、イミド化触媒を使用しないことを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
ジアミンに由来する構造単位と酸二無水物に由来する構造単位とを有するポリイミド前駆体を金属又はガラス基材に塗布、乾燥させて得られるゲルフィルムを金属又はガラス基材から剥離するゲルフィルム製造工程、及び前記ゲルフィルムを最高温度280℃以上で熱処理してポリイミドフィルムにするポリイミドフィルム製造工程を含み、前記ゲルフィルム製造工程において、ゲルフィルムのイミド化率が80%未満であり、揮発成分割合が2%〜40%であり、前記ポリイミドフィルム製造工程において、イミド化触媒を使用しないことを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
ジアミンに由来する構造単位と酸二無水物に由来する構造単位とを有するポリイミドフィルムであって、前記ジアミンに由来する構造単位のうち、フッ素原子を含有するジアミンに由来する構造単位が50モル%以上であり、厚みが10μmのときの熱膨張係数が80ppm/K以下であり、誘電率が3.5未満であり、厚み方向のリタデーションが250nm以下であり、面内リタデーションが3nm以上10nm以下であることを特徴とするポリイミドフィルム。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法において、使用するポリイミド前駆体組成物は、少なくとも、ジアミンに由来する構造単位と、酸二無水物に由来する構造単位とを有するポリイミド前駆体であって、ポリイミドフィルムにした場合において前記の透明性や誘電特性などの要求特性を満たす限り、限定されるものではないが、好ましくは、ジアミンの構造単位としては、フッ素原子を含有する芳香族ジアミンを用いることがよい。また、酸二無水物としては、好ましくは以下の式(1)に示される芳香族酸二無水物を用いることがよい。
【化2】
〔式(1)中、XはC(CF
3)
2、O、C=O、又はSO
2である。〕
【0015】
ジアミンとして、フッ素原子を含有する芳香族ジアミンを、透明性、耐熱性、ゲルフィルムの基材からの剥離性の観点から、ジアミンに由来する全構造単位のうち、好ましくは50モル%以上用いることがよく、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。このようなフッ素原子を有する芳香族ジアミンとしては、例えば、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、4,4'-ジアミノオクタフルオロビフェニル、4,4'-ビス(2-(トリフルオロメチル)-4-アミノフェノキシ)ビフェニル、2-トリフルオロメチル-4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス(4-(2-(トリフルオロメチル)-4-アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4'-ビス(3-(トリフルオロメチル)-4-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,5-ジアミノジベンゾトリフルオライド、p-ビス(2-トリフルオロメチル)-4-アミノフェノキシ)ベンゼン を挙げることができ、透明性、耐熱性、ゲルフィルムの基材からの剥離性の観点から、このうち、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノジフェニルエーテルが好ましい。
【0016】
ジアミンとして、フッ素原子を含有する芳香族ジアミン以外の他のジアミンを用いることができ、ジアミンに由来する全構造単位のうち50モル%未満で用いることが好ましい。他のジアミンとしては、芳香族環を1個以上有するジアミンを好ましく用いることができる。例えば、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(別名;2,2’-ジメチル-ベンジジン)、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,6-ジメチル-m-フェニレンジアミン、2,5-ジメチル-p-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノメシチレン、4,4'-メチレンジ-o-トルイジン、4,4'-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4'-メチレン-2, 6-ジエチルアニリン、2,4-トルエンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4'-ジアミノジフェニルプロパン、3,3'-ジアミノジフェニルプロパン、4,4'-ジアミノジフェニルエタン、3,3'-ジアミノジフェニルエタン、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、3,3'-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン4,4'-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3'-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、3,3'-ジアミノジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3'-ジアミノジフェニルエーテル、ベンジジン、3,3' -ジアミノビフェニル、3,3' -ジメチル- 4,4'-ジアミノビフェニル、3,3'-ジメトキシベンジジン、4,4'-ジアミノ-p-テルフェニル、3,3'-ジアミノ-p-テルフェニル、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン、5-アミノ-2-(4-アミノフェニル)ベンゾイミダゾールなどが挙げられ、好ましくは、反応が速く、高透明性であるという観点から、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,6−ジメチル−m−フェニレンジアミン、2,5−ジメチル−p−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノメシチレン、2,4−トルエンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、5−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンゾイミダゾール又はp−フェニレンジアミンである。
【0017】
一方、酸二無水物として、前記式(1)で表される芳香族酸二無水物を、透明性、耐熱性、ゲルフィルムの基材からの剥離性の観点から、酸二無水物に由来する全構造単位のうち、好ましくは50モル%以上用いることがよく、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。このうち、透明性、耐熱性、高温時の黄色度の観点から、4,4'- (ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、4,4'-オキシジフタル酸無水物が特に好ましい。
【0018】
酸二無水物として、式(1)で表される芳香族酸二無水物以外の他の酸二無水物を用いることができ、酸二無水物に由来する全構造単位のうち50モル%未満で用いることが好ましい。他の酸二無水物としては、公知の酸二無水物を好ましく用いることができる。例えば、ナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,2,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,2,6,7−テトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3, 3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,2,6,7−テトラカルボン酸二無水物、4,8−ジメチル−1,2,3,5,6,7−ヘキサヒドロナフタレン−1,2,5,6−テトラカルボン酸二無水物、4,8−ジメチル−1,2,3,5,6,7−ヘキサヒドロナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸二無水物、2,6−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,7−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−テトラクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−テトラクロロナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’’,4,4’’−p−テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’’,3,3’’−p−テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’’,4’’−p−テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)‐プロパン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3.4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ペリレン−2,3,8,9−テトラカルボン酸二無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ペリレン−4,5,10,11−テトラカルボン酸二無水物、ペリレン−5,6,11,12−テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン−1,2,7,8−テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン−1,2,6,7−テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン−1,2,9,10−テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ピラジン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、チオフェン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス{(4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル}ヘキサフルオロプロパン二無水物などが挙げられる。また、これらは単独で使用してもよく又は2種以上併用することもできる。好ましくは、ポリイミドフィルムに強度と柔軟性を与えることが可能な、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、また耐熱性、透明性に優れ、CTEを適切な範囲に制御できる1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物である。
【0019】
本発明の製造方法において使用するポリイミド前駆体は、酸二無水物とジアミンとを好ましくは0.900〜1.100、より好ましくは0.960〜1.040のモル比(酸二無水物/ジアミン)で使用し、公知の有機極性溶媒中で重合する公知の方法によって製造することができる。例えば、窒素気流下N,N−ジメチルアセトアミド、N-メチル−2−ピロリドンなどの非プロトン性アミド系溶媒にジアミンを溶解させた後、酸二無水物を加えて、室温で3〜20時間程度反応させることにより得られる。速く反応をさせるために、40℃〜80℃の温度で15分〜5時間加熱してもよい。この際、分子末端は芳香族モノアミン又は芳香族モノカルボン酸二無水物で封止してもよい。溶媒としては、他にジメチルホルムアミド、2-ブタノン、ジグライム、キシレン、γ-ブチロラクトン等が挙げられ、1種若しくは2種以上併用して使用することもできる。溶解性を高めるために、キシレン、ヘキサンなど追加することもできる。
【0020】
ポリイミド前駆体の好ましい重合度は、ポリイミド前駆体溶液のE型粘度計による粘度として1,000〜300,000cPであり、好ましくは3,000〜300,000cPの範囲である。ポリイミド前駆体の分子量はGPC法によって求めることができる。ポリイミド前駆体の好ましい分子量範囲(ポリスチレン換算)は、数平均分子量で15,000〜250,000、重量平均分子量で30,000〜800,000の範囲であることが望ましいが、これらは目安であり、この範囲外でも許容できる場合がある。ポリイミドの好ましい分子量も、その前駆体の分子量と同等の範囲にある。
【0021】
ポリイミド前駆体組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲でフィラーを添加しても良い。これにより、ゲルフィルムの自己支持性を高めることができ、ポリイミドフィルムの熱膨張係数(CTE)を下げることができる。
【0022】
フィラーは、特に限定されないが、具体的にはアルミニウム、銅、ニッケル、シリカ、ダイヤモンド、アルミナ、マグネシア、ベリリア、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素が挙げられ、これらのフィラー形状は球状、板状の物のほか、針状など特に限定されるものではない。これらの中でも、シリカ、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素及びマグネシアから選ばれる少なくとも1種類以上のフィラーが好ましい。
【0023】
次に、前記ポリイミド前駆体組成物に使用されるフィラー(粒子)は、透明性、耐熱性の付与の観点から、その平均粒子径が1〜1000nmのものを用いることが好ましく、より好ましくは5〜500nm、さらに好ましくは10〜300nmである。平均粒子径については、動的光散乱法により測定される重量(個数)平均粒子径として表すことができる。このようなナノ粒子については、公知のものを好ましく使用することができるが、有機溶媒にコロイダルシリカが分散されてなるコロイド溶液を好適に使用することができ、これを前記で得られたポリイミド前駆体の溶液等と混合して本発明の組成物とすることができる。平均粒子径が1nm未満だとポリイミド前駆体の溶液等と混合した際に凝集を起こす恐れがあること、また、1000nmを超えるとフィルムの透明性や耐熱性を悪化させる恐れがある。
【0024】
フィラー(ナノ粒子)は、ポリイミド前駆体との混合性や分散性等の観点から、例えば、表面処理や官能基修飾が施されたものであってもよく、例えば、シランカプリング剤、アミノ基やカルボン酸等の官能基によって予め処理されたものを用いることもできる。なお、前記ポリイミド前駆体組成物は、当該ナノ粒子以外のフィラーを添加することもできる。
【0025】
フィラー(ナノ粒子)は、ポリイミド前駆体100質量部に対して60質量部以下、好ましくは、5〜50質量部含有することがよい。ナノシリカ粒子がポリイミド前駆体100質量部に対して60質量部を超えると、ゲルフィルムの自己支持性が十分でなく、基材から剥離する際等にフィルムが破れてしまうおそれがある。
【0026】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、ポリイミド前駆体を金属又はガラス基材に塗布してなる塗膜を乾燥させて得られるゲルフィルムを基材から剥離する工程(ゲルフィルム製造工程)、及びゲルフィルムを最高温度280℃以上で熱処理してポリイミドフィルムにする工程(ポリイミドフィルム製造工程)を含む。以下、ゲルフィルム製造工程、ポリイミドフィルム製造工程を、各々、詳細に説明する。
【0027】
ゲルフィルム製造工程は、金属又はガラス基材に塗布してなる塗膜を加熱し、溶媒を蒸発させる工程であり、乾燥工程ともいう。乾燥手段は特に制限されず、例えば、熱風、赤外線、加熱ローラー、マイクロ波等を用いることができる。簡便さの観点からは、千鳥状に配置したローラーでフィルムを搬送しながら、熱風等で乾燥を行うことが好ましい。乾燥温度は、残留溶媒量及び搬送における伸縮率等を考慮して、30〜200℃の範囲が好ましい。
【0028】
赤外線を使用する場合、例えば公知の赤外線ヒーターを使用してもよい。赤外線ヒーターとしては、例えば、フィラメントを内管が囲むように形成されたヒーター本体が外管によって覆われ、ヒーター本体と外管との間に冷却流体が流通可能に構成されたものが用いられる。フィラメントは、700〜1200℃に通電加熱され、波長が3μm付近にピークを持つ赤外線を放射する。内管及び外管は、石英ガラスやホウケイ酸クラウンガラス等で作製されており、3.5μm以下の波長の赤外線を通過し、3.5μmを超える波長の赤外線を吸収するフィルタとして機能する。このような赤外線ヒーターは、フィラメントから波長が3μm付近にピークを持つ赤外線が放射されると、そのうち3.5μm以下の波長の赤外線を内管や外管を通過してフィルムに照射する。この波長の赤外線が照射されることにより、フィルム内の混合溶媒を効率的に蒸発させることができるとともに、フィルム内のポリアミド酸をイミド化することができる。なお、内管や外管は、3.5μmを超える波長の赤外線を吸収するが、流路を流れる冷却流体によって冷却されるため、フィルムから蒸発する混合溶媒の着火点未満の温度に維持することが可能である。
【0029】
ゲルフィルム製造工程では、ポリイミド前駆体を基材に塗布した後、熱処理によりその一部をイミド化してもよい。イミド化は、熱イミド化法により行う。熱イミド化は、ガラス、金属、樹脂などの任意の基材上に、ポリイミド前駆体溶液を、アプリケーターを用いて塗布し、200℃以下の温度で2〜60分予備乾燥した後、溶剤除去、イミド化制御のために通常、室温〜360℃程度の温度で2分〜180分間程度熱処理することにより行われる。熱イミド化は、加熱温度や、酸二無水物やジアミンの種類、溶剤の種類の組み合わせを選択すれば、イミド化が比較的短時間で完了し、予備加熱を含め熱処理は60分間以内で行うことも可能である。
【0030】
基材は、例えば、金属ドラム、エンドレスベルト、ロール状に巻かれた長尺基材等を挙げることができる。なかでも、生産性の観点からエンドレスベルト又はロール状に巻かれた長尺基材を用いるのがよい。このうち、ロール状に巻かれた長尺基材の場合、MD側に長いほど、より長尺のポリイミド積層体が得られるため望ましいが、生産性等の観点から、好ましくは、(MD側の長さ)/(TD側の長さ)が50以上であるのがよく、より好ましくは、2000以上であるのがよい。また、エンドレスベルトの場合、MD側に長いほど、生産性に優れるが、一方で装置が高価になり、装置の大きさや重量が増す。これらのバランスから、エンドレスベルトの長さは10〜50m程度であるのが好ましい。
【0031】
ゲルフィルムに含まれる揮発成分はゲルフィルム100質量部に対して2.0質量部〜40質量部(2〜40%)、好ましくは、3.0〜30質量部含有することがよい。ゲルフィルムに含まれる揮発成分がゲルフィルム100質量部に対して40質量部を超えると、フィルムの自己支持性が十分でなく、2.0質量部未満になると基材からの剥離が困難になり、基材からフィルムを剥離する際にフィルムが破れてしまうおそれがある。
【0032】
ゲルフィルムのイミド化率は80%未満とする。好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下である。ゲルフィルムのイミド化率が80%を超えると、基材にゲルフィルムが密着しやすく、基材からの剥離が困難になり、基材からフィルムを剥離する際にフィルムが破れてしまうおそれがある。
【0033】
ゲルフィルムの厚みは、厚み3〜200μmが好ましく、より好ましくは5μm〜125μmである。ゲルフィルムの厚みが3μ未満になるとゲルフィルムの自己支持性に乏しく、フィルムが破れてしまうおそれがあり、厚みが200μmを超えると揮発成分量やイミド化率を制御するのが難しくなる。
【0034】
ゲルフィルム製造工程で得られるゲルフィルムは、ゲルフィルム基材からの剥離性に優れる。ここで、剥離性に優れるとは、基材を取り除いてもゲルフィルムがフィルムの形態を保つことをいい、例えば基材を取り除く際に、フィルムが破れずに所望の形状のフィルムが得られる状態をいう。
【0035】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法においては、ゲルフィルム製造工程の後、ポリイミドフィルム製造工程を行う。ポリイミドフィルム製造工程は、ゲルフィルム製造工程の直後又は連続的に行ってもよいし、期間を空けて行うこともできる。
【0036】
ポリイミドフィルム製造工程では、ゲルフィルム製造工程で得られたゲルフィルムを、更に高温下で乾燥熱処理することによりイミド化する熱閉環法で行う。
熱閉環法においては、例えば熱風、赤外線、加熱ローラー、マイクロ波等を用いることにより熱処理を行うことができる。
【0037】
ポリイミドフィルム製造工程では、ゲルフィルム製造工程で得られたゲルフィルムを加熱処理しながら延伸する工程(延伸工程)、得られたポリイミドフィルムを巻き取る工程(巻取り工程)等により行われることが好ましい。
【0038】
延伸工程及び続く巻取り工程では、例えば、基材から剥離して得られるゲルフィルムの幅方向の両端を、幅方向の端部を把持する機構で挟み、幅方向端部を固定もしくは幅方向に引張りながら送り方向にフィルムを搬送する。幅方向端部を固定もしくは幅方向に引張る装置としては、公知のテンター装置が使用できる。幅方向の端部を固定するとは、延伸はしないが、保持力又は引張り力を加えて、支持基材に張力又は端部の位置(例えば、水平位置)を一定に保つ力を与えることをいう。幅方向に引張るとは、幅方向に延伸することを含む。
テンターを使用することにより、ポリイミド層のCTEを小さくできるだけでなく、ポリイミドフィルムの引っ張り強度を大きくすることができる。
なお、端部を把持する機構や形状は特に制限しないが、両端部を把持するクリップや両端部を突き刺すピンなどを例示できる。
【0039】
長さ方向の延伸は、巻き取りロールと送り出しロールの速度を調整することにより可能である。これにより、ポリイミドフィルムを一軸延伸又は二軸延伸フィルムとなるように延伸することもできる。そのためには、延伸率としては1倍を超え、1.2倍の範囲が好ましい。
【0040】
続いて乾燥装置のロール群で搬送し乾燥を終了して巻き取り機で所定の長さに巻き取る。テンターとロール群の乾燥装置との組み合わせはその目的により適宜選択できる。
【0041】
ポリイミドフィルムの厚みは、好ましくは3〜200μm、より好ましくは5μm〜125μmである。厚みが3μ未満になると取扱いが難しく、フィルムが破れてしまうおそれがあり、厚みが200μmを超えると巻き取りが困難となる。
【0042】
ポリイミドフィルムの製造方法により得られるポリイミドフィルムは、厚みが10μmのときの熱膨張係数(以下、「CTE10」ともいう。)が、20ppm/K以上80ppm/K以下であり、誘電率(Dk)が3.5未満であり、厚み方向のリタデーション(Rth)が1nm以上250nm以下であり、面内リタデーション(Re)が3nm以上10nm以下である。ここで、CTE10が80ppm/Kを超えると寸法安定性が悪く、例えば、本ポリイミドフィルムを有期EL表示装置用基板として用いた場合、映し出される表示が歪むという不都合がある。好ましい上限は50ppm/Kであり、より好ましくは30ppm/Kである。また、Dkが3.5以上だと伝送特性が悪化するという不都合がある。好ましくは3.2未満である。また、Rthが250nmを超えると表示が歪むという不都合がある。好ましい上限は200nmであり、より好ましくは150nmである。
【0043】
ポリイミドフィルムは、Hazeが1.0以下であることが好ましい。1.0以上だと表示した画像が見えにくいという不都合が生じる傾向にある。より好ましくは0.8以下である。
【0044】
本発明の製造方法によって得られるポリイミドフィルムは、機能層付ポリイミドフィルムとして適する。この場合のポリイミドフィルムは、複数層のポリイミドからなるようにしてもよい。単層の場合には、3μm〜200μmの厚みを有するようにするのがよい。一方、複数層の場合においては、主たるポリイミド層が上記の厚みを有するポリイミドフィルムであれば良い。ここで主たるポリイミド層とは、複数層のポリイミドの中で、厚みが最も大きな比率を占めるポリイミド層を指し、本発明のポリイミドからなる層であり、好適にはその厚みを3μm〜125μmにするのがよく、更に好ましくは4μm〜100μmである。
【0045】
ポリイミドフィルムは、そのポリイミド層上に、各種の機能を有する素子層等(機能層)を形成して、積層体にすることができる。機能層の例を挙げると、液晶表示装置、有機EL表示装置、タッチパネル、カラーフィルター、電子ペーパーをはじめとする表示装置、あるいはこれらの構成部品が挙げられる。導電性フィルム、タッチパネル用フィルム、ガスバリアフィルム、フレキシブル回路基板など、表示装置に付随して使用される各種機能装置も包含される。すなわち、機能層とは、液晶表示装置、有機EL表示装置、及びカラーフィルター等の構成部品のみならず、有機EL照明装置、タッチパネル装置、有機EL表示装置の電極層もしくは発光層、ガスバリアフィルム、接着フィルム、薄膜トランジスタ(TFT)、液晶表示装置の配線層もしくは透明導電層等の1種又は2種以上を組み合わせたものも含む。
【0046】
本発明の製造方法によって得られるポリイミドフィルムを適用できるフレキシブルデバイスの一例として、機能層としてボトムエミッション構造の有機EL表示装置の製造方法の概略を以下説明する。
【0047】
ポリイミドフィルム上に、ガスバリア層を設けて水分や酸素の透湿を阻止できる構造にする。次に、ガスバリア層の上面に、薄膜トランジスタ(TFT)を含む回路構成層を形成する。有機EL表示装置においては、薄膜トランジスタとして動作速度が速いLTPS−TFTが主に選択される。この回路構成層には、その上面にマトリックス状に複数配置された画素領域のそれぞれに対して、例えばITO(Indium Tin Oxide)の透明導電膜からなるアノード電極を形成して構成する。アノード電極の上面には有機EL発光層を形成し、この発光層の上面にはカソード電極を形成する。カソード電極は各画素領域に共通に形成される。カソード電極の面を被うようにして、再度ガスバリア層を形成し、最表面には、表面保護のため封止基板を設置する。封止基板のカソード電極側の面にも水分や酸素の透湿を阻止するガスバリア層を積層しておくのが信頼性の観点より望ましい。有機EL発光層は、正孔注入層−正孔輸送層−発光層−電子輸送層等の多層膜(アノード電極−発光層−カソード電極)で形成されるが、有機EL発光層は水分や酸素により劣化するため真空蒸着で形成され、電極形成も含めて真空中で連続形成されるのが一般的である。
【0048】
有機EL表示装置の発光層から出る光の波長が主に440nmから780nmであることから、有機EL表示装置に用いられる透明樹脂フィルム基板としては、この波長領域での平均透過率が少なくとも80%以上であることが求められる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの内容に制限されるものではない。
【0050】
実施例及び比較例で使用する材料の略号及び評価方法を示す。
(酸二無水物)
・ODPA:4,4'-オキシジフタル酸無水物
・6FDA: 4,4'-(2,2'-ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物
・PMDA:ピロメリット酸二無水物
(ジアミン)
・TFMB: 2,2'-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン
(溶剤)
・DMAc:N,N−ジメチルアセトアミド
[粘度の測定]
粘度の測定は、E型粘度計(ブルックフィールド社製、商品名;DV−II+Pro)
を用いて、25℃における粘度を測定した。トルクが10%〜90%になるよう回転数を
設定し、測定を開始してから2分経過後、粘度が安定した時の値を読み取った。
【0051】
[揮発成分割合の測定]
揮発成分割合は、乾燥後のゲルフィルムのTG−DTAを30℃〜500℃の範囲、10℃/分の昇温速度で測定し、100℃のフィルム重量を100%としたのに対し、100℃〜360℃までの重量減少率を揮発成分割合とした。
【0052】
[イミド化率の評価]
ゲルフィルムのイミド化率は、フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光社製、商品名FT/IR)を用い、一回反射ATR法にてゲルフィルムの状態での赤外線吸収スペクトルを測定することによって、1009cm
−1のベンゼン環炭素水素結合を基準とし、1778cm
−1のイミド基由来の吸光度から算出した。なお、ポリイミド前駆体樹脂やポリイミド樹脂を120℃から360℃までの段階的な熱処理を行い、360℃熱処理後の得られたポリイミドフィルムのイミド化率を100%とし、その相対比較としてイミド化率を算出した。
【0053】
[剥離性]
基材上に形成されたゲルフィルムを基材から剥離したとき、フィルムが破けずに100mm×100mmのフィルムを得ることができるものを○、フイルムを得ることはできるが剥離に相当の注意を払う必要があったものを△、基材に密着したり、フィルムの形態を保つことが難しく100mm×100mmのフィルムが得られないものを×とした。
【0054】
[熱膨張係数の測定]
3mm×15mmのサイズのポリイミドフィルム(厚み:10μm)を、サーモメカニカルアナライザー(Bruker社製、4000SA)を用い、5.0gの荷重を加えながら一定の昇温速度で30℃から280℃まで昇温させ、その後5℃/分の速度で冷却し、250℃から100℃までの平均熱膨張係数を求めた。
【0055】
[誘電率(Dk)の測定]
誘電率は、空洞共振器摂動法誘電率評価装置(Agilent社製、ベクトルネットワークアナライザE8363C)及びスプリットポスト誘電体共振器(SPDR共振器)を用いて、周波数10GHzにおける樹脂シート(又は絶縁樹脂層に樹脂シートが積層した絶縁層)の誘電率を測定した。なお、測定に使用したフィルムは、温度;24〜26℃、湿度;45〜55%の条件下で、24時間放置したものである。
【0056】
[面内リタデーション(Re)の測定]
複屈折率計(フォトニックラティス社製、商品名;ワイドレンジ複屈折評価システムWPA−100、測定エリア;MD:200mm×TD:150mm)を用いて、所定のサンプルの面内方向のリタデーション(nm)を求めた。なお、入射角は0°、測定波長は543nmである。
【0057】
[厚さ方向のリタデーション(Rth)の測定]
ポリイミド層について、ウルトラミクロトームによる厚さ0.5μmの薄膜切片作製を実施し、厚さ方向のリタデーション(nm)測定を実施した。この際、複屈折率計(フォトニックラティス社製、商品名;顕微鏡取付用複屈折分布観察カメラPI−micro)を用いた。なお、測定波長は520nm、入射角は0°である。
【0058】
[Haze及び全光線透過率]
ポリイミドフィルム(50mm×50mm)を日本電色工業株式会社のHAZE METER NDH500にて、Haze及び全光線透過率を測定した。
【0059】
[YI]
ポリイミドフィルム(50mm×50mm、厚み:10μm)を、SHIMADZU UV-3600分光光度計および下記の計算式に基づいてYI(黄色度)を算出した。
YI=100×(1.2879X−1.0592Z)/Y
ここで、X、Y、Zは試験片の三刺激値、JIS Z 8722に規定する。
【0060】
合成例1
窒素気流下で、2000mlのセパラブルフラスコの中に、62.87gのTFMBを、600gのDMAcに溶解させた。次いで、この溶液に、87.13gの6FDAを加えた。なお、酸二無水物(a)とジアミン(b)のモル比(a/b)は、1.000とした。この溶液を、40℃で20分間加熱し、内容物を溶解させ、その後、200gのDMAcを加え、溶液を室温で4時間攪拌を続けて重合反応を行い、更に50gのDMAcを加え、粘度22,300cPのポリイミド前駆体Aを得た。
【0061】
合成例2
表1に示すように、6FDAをODPAに変えたこと以外は、合成例1と同様に重合反応を行い、粘度32,000cPのポリイミド前駆体Bを得た。
【0062】
合成例3
表1に示すように、合成例1で調整した酸二無水物(a)とジアミン(b)との配合溶液に、イミド化触媒としてピリジンを93.02g(イミド化触媒/ポリアミック酸中アミド基のモル比=3)添加して、完全に分散させる。分散させた溶液中に無水酢酸を1分間に2gの速度で40.02g(脱水剤/ポリアミック酸中アミド基のモル比=1.2)を添加してさらに30分間撹拌した。撹拌後に内部温度を100℃に上昇させて5時間加熱撹拌を行い、ポリイミド溶液Cを得た。
【0063】
【表1】
【0064】
ポリイミド前駆体A、B、ポリイミド溶液Cを用いて、下記方法によりポリイミドフィルムを作製した。
【0065】
実施例1
無端ベルト流延装置を用い、ポリイミド前駆体Aを温度30℃、250mm幅でステンレスベルト支持体上に均一に流延した。均一に流延したフィルムポリイミド前駆体Aを、5分間で30℃〜180℃まで段階的に昇温して乾燥させ、揮発成分割合が16.2質量%、イミド化率が9.0%となるゲルフィルムを得た。40℃に温度保持したステンレス製エンドレスベルト基材上で、ゲルフィルムを剥離張力180N/mで、ステンレスベルト基材上から剥離した。剥離したポリイミドフィルムを、40℃〜360℃まで段階的に熱をかけながらMD方向(長手方向)に1.1倍、及びクリップ式テンターを用いてTD方向(幅手方向)に1.1倍延伸して、ポリイミドフィルム1を得た。
【0066】
実施例2、比較例1
表2に示すとおり、ポリイミド前駆体B、ポリイミド溶液Cを使用し、ゲルフィルムの揮発成分割合、イミド化率を調整した以外は、実施例1と同様にフィルムを作製し、ポリイミドフィルム2、3を得た。
【0067】
比較例2
表2に示すとおり、ポリイミド前駆体Aを使用し、基材をステンレス製エンドレスベルトからカプトンH(ポリイミドフィルム)に変えた以外は、実施例1と同様にフィルムを作製したが、ゲルフィルムを基材からの剥離するのが困難であった。
【0068】
【表2】