【解決手段】本発明のコーティング用水性組成物は、水溶性アクリル樹脂を50重量%以上含むバインダーと、D90が1μm以下であるフィラーとを含む樹脂製多孔フィルムであって、前記水溶性アクリル樹脂が、ヒドロキシル基含有単量体単位を40〜45重量%含み、アセチル基含有単量体を8〜12重量%含む、樹脂製多孔フィルムのコーティング用水性組成物である。
水溶性アクリル樹脂を50重量%以上含むバインダーと、D90が1μm以下であるフィラーとを含む樹脂製多孔フィルムのコーティング用水性組成物であって、前記水溶性アクリル樹脂が、ヒドロキシル基含有単量体単位を40〜45重量%含み、アセチル基含有単量体を8〜12重量%含む、樹脂製多孔フィルムのコーティング用水性組成物。
前記水溶性アクリル樹脂が、1重量%濃度水溶液におけるpHが6〜9であり、15重量%濃度水溶液の25℃における粘度が4〜8Pa・sである、請求項1〜5のいずれか一項に記載のコーティング用水性組成物。
【背景技術】
【0002】
近年、車両や携帯端末に適した、エネルギー密度が高く、高出力で、耐久性や安全性の高い蓄電池が求められており、リチウムイオン電池は、その特性から広く使用され、研究開発も盛んに行われている。
【0003】
リチウムイオン電池では、電解質層を介してポリオレフィン系微多孔膜からなる電池セパレータフィルム(以下、単にセパレータと称する。)とシート状電極とが、電池本体内部に積層または旋回された状態で本体内部に配置される構造などがある。セパレータは、正負極間の直接的な接触を防ぎ、かつ多孔性基材中に保持した電解液を通じてイオンを透過させる機能を有する。セパレータのイオン透過性は、その充放電能力に直接関係する性質である。
【0004】
電池内部の温度が高くなると、シャットダウンするポリオレフィンの溶融温度よりも低い温度で、イオン透過性(イオン抵抗性)が悪化してしまう場合があり、従来からセパレータには優れた耐熱性が望まれていた。
【0005】
近年は、電池の耐熱性をさらに高めるために、セパレータに無機粒子層を被覆した多層耐熱セパレータ材の開発が進んでいる。多層耐熱セパレータ材は、ポリオレフィン微多孔膜などの基材フィルムに無機粒子とバインダーを含む耐熱層材を塗布及び乾燥することにより製造することができる。
【0006】
特許文献1には、ポリオレフィン樹脂多孔膜の少なくとも片面に、無機フィラーと樹脂バインダーとを含む多孔層を備え、前記ポリオレフィン樹脂多孔膜の熱収縮応力の最大値を10g以下にすることにより、耐熱性と透過性とに優れた多層多孔膜を製造することができるとの記載がある。
【0007】
また、特許文献2及び3には、樹脂バインダーとしてアクリル系重合体、含フッ素樹脂及びポリアミドから選択される少なくとも1つを用いることで、電池の機械的安定性を向上させるとの記載がある。特許文献2及び3においては、樹脂バインダーの形態として、樹脂製ラテックス(エマルジョンタイプ)が好ましいとされている。しかし、エマルジョンタイプの樹脂では、粒子の結着が主体となり、分子鎖が絡んだ状態と比較して密着性が低い点が問題となっている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について説明するが、本発明は本発明の趣旨を逸脱しない限り、発明を実施するための形態に記載された具体例や実施例に限定されるものではない。
【0014】
<コーティング用水性組成物>
本発明のコーティング用水性組成物は、水溶性アクリル樹脂を50重量%以上を含むバインダーと、フィラーを含むものである。
【0015】
(バインダー)
本発明のコーティング用水性組成物に含まれるバインダーは、フィラーを結着できるものであって、前記水溶性アクリル樹脂が、ヒドロキシル基含有単量体単位を40〜45重量%含み、アセチル基含有単量体を8〜12重量%含む、水溶性アクリル樹脂を含むものである。水溶性アクリル樹脂は、水に可溶なアクリル樹脂であることが特徴である。水溶性アクリル樹脂をコーティング用水性組成物に用いることにより、コーティング用水性組成物の固形分で構成されたコーティング膜の基材に対する密着性が向上する。
【0016】
本発明に用いることができる水溶性アクリル樹脂は、水溶性アクリル樹脂の1重量%濃度水溶液におけるpHが6〜9であることが好ましい。上記範囲であれば、フィラーの溶媒への分散性が向上する。
【0017】
水溶性アクリル樹脂は、水溶性アクリル樹脂の25℃における15重量%濃度水溶液の粘度が4〜8Pa・sであることが好ましい。上記範囲であれば、コーティング用水性組成物を安定的に保存できる。
【0018】
水溶性アクリル樹脂は、ヒドロキシル基含有単量体単位40〜45重量%を含む。上記範囲であれば、コーティング用水性組成物の固形分で構成されたコーティング膜の基材に対する密着性が向上する。
【0019】
水溶性アクリル樹脂は、アセチル基含有単量体8〜12重量%を含む。上記範囲であれば、コーティング用水性組成物の固形分で構成されたコーティング膜の基材に対する密着性が向上する。
【0020】
上記モノマーにより重合した後、水溶性アクリル樹脂は、水に対する溶解性を調整するために、中和処理を行ってもよい。
【0021】
バインダーは、バインダーを構成する樹脂全体に対して、水溶性アクリル樹脂を50重量%以上含む。50重量%以上含むことで、密着性向上の効果が発現しやすくなる。バインダーを構成する樹脂全体に対して、水溶性アクリル樹脂は、好ましくは60重量%以上である。バインダーを構成する樹脂全体に対して、水溶性アクリル樹脂の含有量の上限は特にないが、90重量%以下が好ましい。
【0022】
バインダーは、水溶性アクリル樹脂以外の樹脂を含むことができる。含むことができる樹脂は、例えば、PVDF、PMMA、エマルジョンタイプのアクリル樹脂などが挙げられる。
【0023】
コーティング膜、特に、蓄電デバイス用セパレータフィルムに使用するコーティング膜としては、従来からエマルジョンタイプのアクリル樹脂が用いられてきた。エマルジョンタイプのアクリル樹脂は、単体では水に不溶な樹脂であることから、界面活性剤を用いることにより、水に分散させることができる。本発明のコーティング水性組成物に用いるバインダーには、基材との密着性の観点から、エマルジョンタイプのアクリル樹脂のような、水に不溶な樹脂の使用量を低減させることが好ましい。バインダーに含まれる水に不溶な樹脂は、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下、特に好ましくは0重量%である。すなわち、本発明のコーティング用水性組成物に含まれるバインダーは、水に不溶な樹脂を実質的に含まないことが好適である。ここで、「水に不溶な樹脂を実質的に含まない」とは、水に不溶な樹脂を積極的に含有させないことを意味し、当該樹脂が不可避的不純物レベル(バインダーを構成する樹脂全体に対して、例えば当該樹脂が0.1重量%以下の含有量)で含まれることを許容するものである。
【0024】
<フィラー>
本発明のコーティング用水性組成物は、コーティングの対象となる基材の耐熱性を高めるために用いる。コーティング用水性組成物には上記課題を解決するために、フィラーを用いる。フィラーは上記目的を達成できるものであれば、特に限定されるものではない。
【0025】
コーティング用水性組成物に使用できるフィラーとしては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、チタン酸バリウム等の酸化物系セラミックスや、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の水酸化物系セラミックス、窒化珪素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス、またはベーマイト、タルク、カオリン、ゼオライト、アパタイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム等の鉱物資源由来物質などが挙げられる。耐熱性や化学的安定性などの観点から、アルミナが好ましい。
【0026】
コーティング用水性組成物に使用するフィラーは、従来からコーティングに使用されてきたフィラーよりも粒径が小さいものが好ましい。具体的には、フィラーのD90が、1μm以下であることが好ましく、0.6μm以下であることがより好ましく、0.4μm以下であることがさらに好ましい。さらには、フィラーの80%以上の粒子が、50〜700nmの範囲内にあることが好ましい。
【0027】
更に詳細には、フィラーを構成する粒子の平均粒子径が、50〜500nmであることが好ましく、100〜400nmであることがより好ましく、150〜250nmであることがさらに好ましい。また、フィラーのD90、フィラーの粒子径の分布、及び/又は平均粒子径を上記範囲とすることで、セパレータの閉塞を抑え、通気性を維持することが可能となり、セパレータとの密着性に優れたコーティング膜を得ることができる。
【0028】
<その他の成分>
本発明のコーティング用水性組成物は、分散剤を含むことができる。分散剤を含むことにより、フィラーの溶媒への分散性向上と、コーティング用水性組成物を安定的に保存することができ、偏りなく、均質なコーティング膜を形成することができる。
【0029】
コーティング用水性組成物に使用できる分散剤は、上記分散剤の効果を奏することができれば特に限定されるものではないが、分散剤の具体例としては、ポリアルキルエーテル、ポリアクリル酸アンモニウム、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。
【0030】
本発明のコーティング用水性組成物は、基材に塗布しやすくする観点から、水を含むことができる。本発明で使用する水には、他の成分が混入してしまうことを妨げないが、好ましくは水に含まれる他の成分が10重量%以下であり、より好ましくは3重量%以下であり、さらに好ましくは1重量%以下であり、特に好ましくは0.1重量%以下である。
【0031】
本発明のコーティング用水性組成物は、用途に応じて、他の成分をコーティング用水性組成物に含ませることができる。コーティング用水性組成物が含むことができる成分としては、抗菌剤、防カビ剤、濡れ剤、増粘剤、湿潤剤、またはpH調整剤などが挙げられる。
【0032】
<成分比率>
本発明のコーティング用水性組成物は、バインダーとフィラーとを含むが、その成分比率について説明する。
バインダーは、コーティング用水性組成物の固形分全体に対して(コーティング用水性組成物の固形分全体を100%とした場合)、下限としては、好ましくは2.5重量%以上、より好ましくは2.7重量%以上、さらに好ましくは3.0重量%以上含む。
また、バインダーは、コーティング用水性組成物の固形分全体に対して、上限としては、好ましくは5.0重量%以下、より好ましくは4.5重量%以下、さらに好ましくは4.0重量%以下含む。
【0033】
フィラーは、コーティング用水性組成物の固形分全体に対して、下限としては、好ましくは92重量%以上、より好ましくは93重量%以上、さらに好ましくは94重量%以上含む。
また、フィラーは、コーティング用水性組成物の固形分全体に対して、上限としては、好ましくは97重量%以下、より好ましくは96重量%以下、さらに好ましくは95重量%以下含む。
【0034】
本発明のコーティング用水性組成物が分散剤を含む場合、コーティング用水性組成物の固形分全体に対して、下限としては、好ましくは1.0重量%以上、より好ましくは1.5重量%以上、さらに好ましくは2.0重量%以上である。また、上限としては、好ましくは4.0重量%以下、より好ましくは3.0重量%以下、さらに好ましくは2.5重量%以下である。
コーティング用水性組成物の固形分中のバインダー、フィラー、分散剤の含有割合(組成)を、上記範囲とすることで、コーティング膜とセパレータとの密着性と、コーティング膜の通気性とのバランスが取れたコーティング膜が得られる。なお、固形分とは、コーティング用水性組成物のうち、水などの溶媒を除いた成分のことをいう。
【0035】
本発明のコーティング用水性組成物の固形分は、コーティング用水性組成物全体に対して好ましくは20〜50重量%、より好ましくは25〜35重量%である。
【0036】
本発明のコーティング用水性組成物が消泡剤、抗菌剤、防カビ剤等の他の成分を含む場合、固形分全体に対して、上限としては、好ましくは1.0重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、さらに好ましくは0重量%である。
【0037】
<粘性>
本発明のコーティング用水性組成物の粘性は、25℃において0.01〜0.1Pa・sであることが好ましい。
【0038】
<コーティング用水性組成物の製造方法>
本発明のコーティング用水性組成物は、水溶性アクリル樹脂を50重量%以上含むバインダーと、フィラーと、分散剤や水等のその他の成分とを分散することによって調製することができる。分散は、従来の方法で行うことができ、分散装置の例としては、遊星式攪拌装置、プロペラ攪拌機、ホモディスパー、ビーズミル、超音波分散装置などが挙げられる。
【0039】
コーティング用水性組成物の均一性の観点から、コーティング用水性組成物を分散した後、さらに二次分散処理を行うことが好ましい。分散処理を行うための装置の例としては、湿式ジェットミル装置などが挙げられる。
【0040】
<セパレータ>
(コーティング膜)
本発明のコーティング用水性組成物は、塗布することにより、コーティング膜を形成することができる。塗布方法としては、グラビアコーター法、マイクログラビアコーター法、ダイコーター法、ナイフコーター法、スクリーン印刷法、マイヤーバー法、リバースロールコーター法、インクジェット法、スプレー法、ロールコーター法などが挙げられる。なお、塗布後、乾燥することにより、水分を除去することができる。乾燥温度は、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、さらに好ましくは70℃以上である。
【0041】
コーティング膜としては、コーティング膜の特性を発揮することができる膜厚であれば特に限定されるものではなく、例えば、0.5〜10μmにすることができ、好ましくは、1.5〜5μmにすることができる。
【0042】
コーティング膜は、蓄電デバイス用セパレータフィルムに用いる場合は、蓄電容量の観点から目付けは、0.1〜50g/m
2にすることができ、好ましくは、0.1〜30g/m
2、より好ましくは、0.1〜10g/m
2にすることができる。
【0043】
コーティング膜の単位厚みあたりの通気度は、蓄電デバイス用セパレータフィルムに用いる場合は、イオンを透過させる観点から、1〜100sec/μmにすることができ、好ましくは、1〜70sec/μm、より好ましくは、1〜30sec/μmにすることができる。
【0044】
(基材)
本発明のコーティング用水性組成物から形成されたコーティング膜は、基材の上に配置して、セパレータとして用いることができる。基材は、特に限定されるものではないが、セパレータとして用いる場合、イオンを透過させる必要があるので、樹脂製多孔フィルム(樹脂製微多孔膜)が好ましい。樹脂製多孔フィルムの材料としては、ポリオレフィンが好ましい。
【0045】
ポリオレフィン製の基材(又はポリオレフィン製多孔フィルム)の材料としては、特に限定されるものではないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンなどが挙げられる。
【0046】
ポリオレフィン製基材には、必要により、表面処理を行うことができる。表面処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、電子線処理、放射線処理、フッ素処理、紫外線法、架橋処理法、酸処理法などが挙げられる。上記処理をすることで、コーティング用水性組成物の均一な浸透を促進し、コーティング膜とセパレータの密着性を向上させることができる。
【0047】
セパレータ用のポリオレフィン製基材の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、基材がポリプロピレンの場合、下記の工程1〜6を経て製造する。すなわち、まず、原料ポリプロピレンを溶融混練する(工程1)。次に単軸押出機を用いてTダイから押出し、所定の厚さの原反フィルムを製造する(工程2)。次に、原反フィルムを所定の温度(100〜170℃)で熱処理する(工程3)。工程3を経た原反フィルムを所定の温度(15〜30℃)で長さ方向に冷延伸する(工程4)。工程4を経た延伸フィルムを所定の温度(100〜170℃)で長さ方向に温延伸する(工程5)。工程5を経た延伸フィルムの長さが所定の長さになるように、所定の温度(100〜150℃)で弛緩させる(工程6)。こうして最終厚みが所定の厚みのポリプロピレン製多孔フィルムを得ることができる。
【0048】
(蓄電デバイス用セパレータフィルム(リチウムイオン電池用セパレータフィルム))
本発明のコーティング用水性組成物から形成されたコーティング膜は様々な用途に使用することができ、代表的なものとして、蓄電デバイスのセパレータフィルムのコーティング膜、具体的には、リチウムイオン電池のセパレータフィルムのコーティング膜として、用いることができる。
【0049】
本発明のコーティング用水性組成物から形成されたコーティング膜を備える蓄電デバイス用セパレータフィルム(リチウムイオン電池用セパレータフィルム)は、特徴の一つとして、膜抵抗率が低いことが挙げられる。コーティング後の膜抵抗上昇率(Rr)は、1.5以下であることが好ましく、1.4以下であることがさらに好ましく、1.3以下であることが特に好ましい。
膜抵抗上昇率(Rr)=(コーティング後の膜抵抗)/(コーティング前の膜抵抗)
【0050】
本発明のコーティング用水性組成物から形成されたコーティング膜を備える蓄電デバイス用セパレータ(リチウムイオン電池用セパレータ)は、特徴の一つとして、コーティング膜が基材に対して密着性が高いことが挙げられる。密着性は、例えば、テープ剥離強度として測定することができる。テープ剥離強度は、2cm(TD)×7cm(MD)にカットした基材の片面のコーティング膜上に、幅10mm×長さ20mmの両面粘着テープ(スリーエムジャパン株式会社製、Scotch PREMIER GOLD(商品名))を貼り付け、幅2cm×長さ7cmにカットしたクラフト紙を両面粘着テープの片側面に貼り付け、コーティング膜およびクラフト紙の端をそれぞれチャックで挟み、引張り速度500mm/分でコーティング膜と基材との界面を剥がすときの力を、基材と基材に形成されたコーティング膜との界面剥離強度(gf)として測定することができる。
引張試験機を用いて測定したときの値が、1000gf以上が好ましく、1500gf以上がより好ましくは、2000gf以上がさらに好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
(フィラーの種類)
表1には、実施例で製造するコーティング用水性組成物に含まれるフィラー1,2,3(いずれもアルミナ)の粒子特性を示した。
【0053】
(バインダーの種類)
表に記載のバインダー1は、松本油脂製薬株式会社製の水溶性アクリル樹脂であり、ヒドロキシル基含有単量体単位を40〜45重量%含み、アセチル基含有単量体を8〜12重量%含むものであった。(バインダー1は松本油脂製薬株式会社製マーポリブAQ−2Cのバインダーとして使用されている。)
表に記載のバインダー2は、アクリルエマルジョンタイプのバインダーで、非水溶性アクリル樹脂であり、平均粒子径が1μm以下であった。
【0054】
(実施例1〜15、比較例1〜3)
(1)コーティング用水性組成物の調製
所定量のビーカーの中に、固形分の各成分(バインダー、フィラー、分散剤(ポリアルキルエーテル)であり、表2〜7には固形分中の割合を記載した。)及び水を、コーティング用水性組成物全体に対して、固形分が約30重量%となるように投入し、スターラーで攪拌した。外観上おおよそ均一になったところで、攪拌された原料を、遊星式攪拌装置マゼルスター(商品名、クラボウ社製、自転1340rpm、公転1340rpm、攪拌時間10分)で混合を行った。次に得られた混合物を、湿式ジェットミル装置ナノヴェイタ(商品名、吉田機械興業社製、処理圧力100MPa、処理回数3回)で分散処理した。得られた混合物をコーティング用水性組成物(実施例1〜15、比較例1〜3)とした。
【0055】
(2)ポリプロピレン製多孔フィルムの製造
原料ポリプロピレンとして、MFR(JIS K6758(230℃、21.18N)に準拠して測定)が0.50g/10分、Mw/Mnが8.1、融点が163℃のプロピレン系重合体を使用した。上記原料ポリプロピレンを溶融混練し、単軸押出機を用いてTダイから押出し、厚さ17μmの原反フィルムを製造した。次に、原反フィルムを145℃で熱処理し、原反フィルムを25℃で長さ方向に1.02倍に冷延伸した。そして、延伸フィルムを150℃で長さ方向に3.31倍に温延伸し、延伸フィルムの長さが0.75倍になるように150℃で弛緩させることにより、最終厚みが14μmのポリプロピレン製多孔フィルムを得た。
【0056】
(3)リチウムイオン電池用セパレータフィルムの製造
上記(1)で得たコーティング用水性組成物を用いて、上記(2)のポリプロピレ製多孔フィルムに対して、塗工装置μコータ(康井精機社製)により、ライン速度2m/min、乾燥温度80℃の条件で片面にコーティング用水性組成物を塗布し、コーティング膜を形成した。得られたリチウムイオン用セパレータフィルムの特性を表2〜7に示す。なお、表6の参考例1、2、3は、それぞれ、実施例12、13、14のコーティング膜を形成していない状態の測定値である。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
【表5】
【0062】
【表6】
【0063】
【表7】
【0064】
(4)評価条件
コーティング用水性組成物、ポリプロピレン製多孔フィルム、リチウムイオン用セパレータフィルムを下記条件で特性を評価した。
【0065】
A.粒度分布(平均粒子径、D10、D50、D90)
分散処理したフィラーの粒度分布を、コーティング用水性組成物を純水で1000倍希釈し、HORIBA製 LA−950V2により測定した。
【0066】
B.膜厚
得られたコーティング膜及びリチウムイオン電池用セパレータフィルムを直径72mmの円形に切抜き、株式会社フジワーク製HKT−1240(R30球面超硬測定子、測定荷重0.14N)を用いて、コーティング膜の任意の15ヶ所について厚みを測定し、その15ヶ所の値の平均値を膜厚とした。
【0067】
C.目付け
得られたコーティング膜及びリチウムイオン電池用セパレータフィルムを直径72mmの円形状にカットして試料を得た。その試料を電子天秤で重さを量ることで、目付けの値(g/m
2)を得た。
【0068】
D.通気度
得られたリチウムイオン電池用セパレータフィルムをガーレー式デンソメーター(東洋精機製作所社製)を用いて、JIS P 8117に準拠し、100mLの空気が透過する時間(sec)を測定した。またコーティング後の通気度とコーティング前のフィルムの通気度の差をコーティング膜通気度として算出した。更にコーティング膜通気度をコーティング膜厚で除することによって、コーティング膜の単位厚みあたりの通気度(sec/μm)を算出した。
【0069】
E.膜抵抗
エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの等容量混合溶媒中、LiPF
6を1モル/Lの割合で溶解した電解液を調製した。この電解液中にアルミ製正・負極および該正・負極間に得られたコーティング膜及びリチウムイオン電池用セパレータフィルムを配置し、LCRメーターを用いて、複素インピーダンス法にてコール・コールプロットを測定し、100,000Hzでのインピーダンスの実部を求め膜抵抗の指標とした。測定は、恒温槽中、30℃において行った。表には、上記測定方法によって得られた膜抵抗から、膜抵抗上昇率を算出し、それを記載した。
【0070】
F.熱収縮
得られたリチウムイオン電池用セパレータフィルムのMD方向に5cm間隔の印をつけ、荷重を掛けない状態で恒温槽(オーブン)を使用し150℃で2時間加温した。加温後の印間の長さを測定し、収縮率として算出した。表中では、熱収縮として表記した。
【0071】
G.テープ剥離強度
図4を参考にしながら説明する。コーティング膜2を備える樹脂製多孔フィルム1(得られたリチウムイオン電池用セパレータフィルム)を2cm(TD)×7cm(MD)にカットし、同じく長さ2cmにカットした両面粘着テープ3(スリーエムジャパン株式会社製、Scotch PREMIER GOLD(商品名))をコーティング膜2の上に貼り付けた。その後、幅2cm×長さ7cmにカットしたクラフト紙4を両面粘着テープ3の片側面に貼り付け、コーティング膜2および紙4の端をそれぞれチャックで挟み、引張り速度500mm/minでコーティング層2/樹脂製多孔フィルム1の界面剥離強度(gf)を測定した。表では、テープ剥離強度として表記した。
【0072】
[符号の説明]
1.樹脂製多孔フィルム
2.コーティング膜
3.両面粘着テープ
4.クラフト紙