(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-166048(P2020-166048A)
(43)【公開日】2020年10月8日
(54)【発明の名称】光変調器
(51)【国際特許分類】
G02F 1/065 20060101AFI20200911BHJP
G02B 6/30 20060101ALI20200911BHJP
【FI】
G02F1/065
G02B6/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-64314(P2019-64314)
(22)【出願日】2019年3月28日
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】高野 真悟
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 孝知
【テーマコード(参考)】
2H137
2K102
【Fターム(参考)】
2H137AA05
2H137AB08
2H137BA01
2H137BA32
2H137BA55
2H137BC02
2H137BC44
2H137BC50
2H137BC53
2H137BC55
2H137BC72
2H137CA62
2K102AA21
2K102BA03
2K102BB04
2K102BC04
2K102BD01
2K102CA20
2K102DA04
2K102DC08
2K102DD01
2K102EA02
2K102EA18
2K102EB01
2K102EB10
2K102EB11
(57)【要約】
【課題】
EOポリマーを用いた場合でも光損失が少なく、装置全体を小型化可能な光変調器を提供すること。
【解決手段】
EOポリマーで構成されたコア層と該コア層の上下に配置したクラッド層で形成される光導波路10と、該光導波路に電界を印加する制御電極(11,12)とを備えた光変調素子1を有する光変調器において、該光導波路10は、分岐部又は合波部を有しない光導波路部分を複数並列に配置して構成され、該光変調素子の光波の入力側には、一つの光波を複数に分岐し、該光導波路部分の各々に入力するよう構成された多分岐手段5を備え、該多分岐手段は、反射率が異なる多層積層膜52を所定の間隔で積み重ねて構成されていることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
EOポリマーで構成されたコア層と該コア層の上下に配置したクラッド層で形成される光導波路と、該光導波路に電界を印加する制御電極とを備えた光変調素子を有する光変調器において、
該光導波路は、分岐部又は合波部を有しない光導波路部分を複数並列に配置して構成され、
該光変調素子の光波の入力側には、一つの光波を複数に分岐し、該光導波路部分の各々に入力するよう構成された多分岐手段を備え、
該多分岐手段は、反射率が異なる多層積層膜を所定の間隔で積み重ねて構成されていることを特徴とする光変調器。
【請求項2】
請求項1に記載の光変調器において、該光変調素子の光波の出力側には、該光導波路部分から出力される各光波を合波する合波手段が配置されていることを特徴とする光変調器。
【請求項3】
請求項2に記載の光変調器において、該光変調素子の光波の出力側には、さらに、偏波回転手段や偏波合成手段が配置されていることを特徴とする光変調器。
【請求項4】
請求項1乃至3に記載の光変調器において、該光変調素子が複数の光変調ブロックを並列に配置した構成を備えていることを特徴とする光変調器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光変調器に関し、特に、コア層の上下にクラッド層を配置し、該コア層が有機電気光学高分子(以下、「EOポリマー」と言う。)で構成された光変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、I成分(In−phase components)とQ成分(Quadrature components)を用いた変調器や、直交振幅変調(QAM:Quadrature Amplitude Modulation)などにおいて、マッハツェンダー型光導波路を用いた干渉計が多用されている。例えば、DQPSK(Differential Quadrature Phase−Shift−Keying)では、4個のマッハツェンダー型光導波路が並列で配置されている。
【0003】
複数のマッハツェンダー型光導波路を並列に配置する場合には、多くのY分岐構造が必要となり、光損失が増大し易くなる。このため、Y分岐構造における分岐角度を小さくすることで光分岐部位の散乱による光損失の低減が可能となるが、分岐に要する長さが長くなる。このため、特許文献1では、Y分岐構造の一部を平面光導波路(PLC)を用いて構成し、分岐に要する長さを短縮することが提案されている。また、特許文献2のように、ビームスプリッターを複数組み合わせた光分岐部も提案されている。
【0004】
他方、特許文献3のように、EOポリマーを用いた光変調器が提案されている。EOポリマーは、光吸収性を有するため、光導波路の長さをできるだけ短く構成することが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−094988号公報
【特許文献2】特開2013−246325号公報
【特許文献3】特表2015−501945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、EOポリマーを用いた場合でも光損失が少なく、装置全体を小型化可能な光変調器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の光変調器は、以下の技術的特徴を有する。
(1) EOポリマーで構成されたコア層と該コア層の上下に配置したクラッド層で形成される光導波路と、該光導波路に電界を印加する制御電極とを備えた光変調素子を有する光変調器において、該光導波路は、分岐部又は合波部を有しない光導波路部分を複数並列に配置して構成され、該光変調素子の光波の入力側には、一つの光波を複数に分岐し、該光導波路部分の各々に入力するよう構成された多分岐手段を備え、該多分岐手段は、反射率が異なる多層積層膜を所定の間隔で積み重ねて構成されていることを特徴とする。
【0008】
(2) 上記(1)に記載の光変調器において、該光変調素子の光波の出力側には、該光導波路部分から出力される各光波を合波する合波手段が配置されていることを特徴とする。
【0009】
(3) 上記(2)に記載の光変調器において、該光変調素子の光波の出力側には、さらに、偏波回転手段や偏波合成手段が配置されていることを特徴とする。
【0010】
(4) 上記(1)乃至(3)に記載の光変調器において、該光変調素子が複数の光変調ブロックを並列に配置した構成を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、EOポリマーで構成されたコア層と該コア層の上下に配置したクラッド層で形成される光導波路と、該光導波路に電界を印加する制御電極とを備えた光変調素子を有する光変調器において、該光導波路は、分岐部又は合波部を有しない光導波路部分を複数並列に配置して構成され、該光変調素子の光波の入力側には、一つの光波を複数に分岐し、該光導波路部分の各々に入力するよう構成された多分岐手段を備え、該多分岐手段は、反射率が異なる多層積層膜を所定の間隔で積み重ねて構成されているため、EOポリマーでの光損失を低減すると共に、装置全体を小型化することが可能な光変調器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の光変調器に係る第1の実施例を示す図である。
【
図2】本発明の光変調器に利用される多分岐手段の製造方法を説明する図である。
【
図3】本発明の光変調器に利用される多分岐手段の構造を説明する図である。
【
図4】本発明の光変調器に係る第2の実施例を示す図である。
【
図5】本発明の光変調器に係る第3の実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の光変調器について、好適例を用いて詳細に説明する。
本発明の光変調器は、
図1に示すように、EOポリマーで構成されたコア層と該コア層の上下に配置したクラッド層で形成される光導波路10と、該光導波路に電界を印加する制御電極(11,12)とを備えた光変調素子1を有する光変調器において、該光導波路10は、分岐部又は合波部を有しない光導波路部分を複数並列に配置して構成され、該光変調素子の光波の入力側には、一つの光波を複数に分岐し、該光導波路部分の各々に入力するよう構成された多分岐手段5を備え、該多分岐手段は、反射率が異なる多層積層膜52を所定の間隔で積み重ねて構成されていることを特徴とする。
【0014】
なお、本発明において「所定の間隔」とは、一定の間隔のみを意味するのではなく、反射する位置が、光変調素子の光導波路の入口に合わせて配置されているということを意味している。
【0015】
EOポリマーとしては、例えば、基本骨格樹脂としてPMMAを用い、EO分子としてDisperse Red1を基本骨格樹脂の側鎖に重合したPMMA−DR1が好適に使用可能である。
【0016】
クラッド層の材料としては、例えば、アルコキシアクリレートとアルコキシシラン及び重合開始剤を混合した塗布液を用い、塗布、乾燥後にUV照射、加熱することで共重合した有機無機ハイブリッド樹脂を用いることができる。
【0017】
図1に示すように、本発明の光変調器では、EOポリマーを用いた光導波路10を、分岐部や合波部を有しない、ほぼ直線状の導波路として形成している。そして、これらの直線状光導波路10を並列に配置し、光変調素子1自体をコンパクトに構成している。
【0018】
光変調素子1に形成された光導波路10には、変調信号を印加する制御電極(変調電極11)や位相調整用のDCバイアス電圧を印加する制御電極(位相調整電極12)が配置されている。各制御電極は、光導波路を形成する樹脂層(コア層とそれを上下から挟むクラッド層)を上下から挟むような電極で構成されている。
【0019】
図1の符号2は、変調電極11に変調信号を伝搬するための中継基板であり、符号4は、変調信号を吸収するための終端抵抗を備えた終端基板である。
また、符号3は、位相調整電極12にDCバイアス電圧を印加するための中継基板である。
【0020】
光変調素子1の入力側には、入力光を所定の数の光波に分岐する多分岐手段5が配置され、分岐された光波は、光導波路10に各々入射される。多分岐手段を作成するには、まず、
図2に示すような、ガラス、石英等の透明基板53上に、所定間隔で多層積層膜52を形成した光学ブロック50を作成する。多層積層膜52と他の多層積層膜との間のスペースは、薄い透明基板が配置される。薄い透明基板に上に多層積層膜を形成したものを積層して構成しても良い。また、透明基板の厚さは、多層積層膜の配置間隔に応じて、適宜設定される。
【0021】
光学ブロック50から、
図2の点線に示すように、45度の角度で切り出すと、多分岐手段を構成することができる。切り出した光学部品の端部は、反射手段として使用できるため、必要な角度に研磨され、反射膜が付着される。
【0022】
図1の光変調器を、DP−QPSK(偏波多重(Dual Polarizaion)QPSK)変調器として構成する場合には、多分岐手段5では、入力光を8分の1の等しい光強度で分岐する必要がある。このためには、
図3に示すように、入力光の光強度Ioを、第1の多層積層膜52で12.5%反射し、その他は通過させる。第2の多層積層膜では14.3%、第3の多層積層膜では16.7%、第4の多層積層膜では20.0%、第5の多層積層膜では25.0%、第6の多層積層膜では33.3%、第7の多層積層膜では50.0%、そして第8の多層積層膜では100%となるように、各々の反射率が設定されている。なお、本設計値は多層積層膜および薄い透明基板の吸収がないと仮定したものであり、実際にはその吸収損失を考慮して等強度の光に分けることとなる。
【0023】
図1の多分岐手段5に入射する光波は、入力用光ファイバ60及び、コリメータレンズ61による入力側光学系6を介して導入される。多分岐手段5に入射した光波は、多層積層膜52で反射され、光導波路10に入射する。光導波路素子1(チップ)内の入射側に、スポットサイズコンバーター(コアのサイズをテーパ状に広げていき、徐々にEOポリマー導波路のシングルモード伝搬条件にあうモード径に調整する部分)等の光学変換部位を設けてEOポリマー導波路へ入射するなどの方法で結合損低減を図ることができる。また、後述するように、多分岐手段5の一部にレンズを配置することも可能である。
【0024】
光変調素子1で変調された光波は、合波手段、偏波回転手段、偏波合成手段等を組み合わせた合波用光学部品7に入力され、コリメータレンズ70を介して出射し、出力側光学系8を構成する集光レンズ81及び光ファイバ80に入射する。
【0025】
図4及び
図5は、本発明の光変調器の他の例を示す図である。
図4及び
図5では、複数の光導波路10を、例えば、4本ずつの2つの組合せに分けて、複数の光変調ブロック(1Aと1B)に組み込んだ例を示している。また、光変調ブロック1Aと光変調ブロック1Bの光導波路方向に沿った長さは同じであるが、長さを変えたものを採用することも可能である。これらの光変調ブロックは、
図4及び5が示すように、互いに並列に配置されている。なお、
図4及び5において、制御電極については、図を簡略化するため記載を省略している。
【0026】
図4の光変調素子(光変調ブロック1A,1B)の出力側には、上述した多分岐手段と同様な構成を備えた、合波手段(9A,9B)が配置されている。合波手段(9A,9B)の内部形成される反射膜52は、多分岐手段と同様な多層積層膜で構成されている。
【0027】
光変調ブロック1Aの出力側には、偏波回転手段7Aが配置され、4本の光導波路10から出射した光波の偏波面を90度回転している。偏波回転手段7Aを通過した光波は、合波手段9Cにより一つの光波に合成される。合波手段9Aで光波を合波する様子は、
図3に示す多分岐手段5を通過する光波(点線の矢印)を逆向きに遡る様子と同じである。また、光変調ブロック1Bの4本の光導波路10から出射する光波も、合波手段9Bによって1つの光波に合成される。
【0028】
合波手段9Aから出射した光波は、合波手段9Aと偏光ビームスプリッター72Aと間隔を規定するスペーサー(ガラス材料の長方形ブロック等)71を経て、偏波合成手段である偏光ビームスプリッター72Aに入射し、合波手段9Bからの光波と合成され、出力側光学系8に向けて出力される。なお、偏波回転手段7Aの代わりに、スペーサーを配置し(又は光変調ブロック1Aの長さを長くする方法もある。)、スペーサー71Aの代わりに偏波回転手段を配置することも可能である。
【0029】
図5では、多分岐手段5の出射側に集光レンズ101を配置し、光変調素子(チップ)(1A,1B)内のスポットサイズコンバーターを省略し、集光した光波をEOポリマー導波路10に直接入射するよう構成されている。光導波路10から出射した光波は、コリメータレンズ102により平行光に変換され、合波手段(9A,9B)に入射する。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上説明したように、本発明によれば、EOポリマーを用いた場合でも光損失が少なく、装置全体を小型化可能な光変調器を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0031】
1 光変調素子
1A,1B 光変調ブロック(光変調素子)
5 多分岐手段
6 入力側光学系
7A 偏波回転手段
71A スペーサー
72A 偏波合成手段
8 出力側光学系
9A,9B 合波手段