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特開2020-172445リポソーム及びリポソームの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-172445(P2020-172445A)
(43)【公開日】2020年10月22日
(54)【発明の名称】リポソーム及びリポソームの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/10 20060101AFI20200925BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20200925BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20200925BHJP
   C08G 77/42 20060101ALI20200925BHJP
【FI】
   C07F9/10 ZCSP
   A61K9/127
   A61K47/24
   C08G77/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-73596(P2019-73596)
(22)【出願日】2019年4月8日
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 篤志
【テーマコード(参考)】
4C076
4H050
4J246
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076DD63
4C076DD64
4C076GG50
4H050AA01
4H050AA02
4H050AA03
4H050AB99
4J246AA03
4J246AA19
4J246BA120
4J246BA12X
4J246BB020
4J246BB022
4J246BB02X
4J246CA260
4J246CA269
4J246CA26X
4J246EA28
4J246FA131
4J246FA421
4J246FA661
4J246FB051
4J246GB06
4J246GB24
4J246GD10
4J246HA52
(57)【要約】
【課題】シロキサン結合のネットワークを形成する市販の材料を脂質分子に添加し、容易に架橋反応を起こすことによって、脂質二重膜の安定性を制御した、実用的価値の高い、リポソームを提供することを目的とする。
【解決手段】脂質二重膜が形成されたリポソームであり、上記脂質二重膜の表面に、下記式(1)で表されるアルキルシランにより形成されたシロキサン結合のネットワークを有し、上記アルキルシランは、上記脂質二重膜を構成する脂質に対して20〜100mol%含まれる。
【化1】

(式中、Rはアルキル基であり、nは11〜17の整数を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質二重膜が形成されたリポソームであり、
上記脂質二重膜の表面に、下記式(1)で表されるアルキルシランにより形成されたシロキサン結合のネットワークを有し、
上記アルキルシランは、上記脂質二重膜を構成する脂質に対して20〜100mol%含まれることを特徴とするリポソーム。
【化1】
(式中、Rはアルキル基であり、nは11〜17の整数を表す。)
【請求項2】
上記脂質は、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DMPC)であることを特徴とする請求項1に記載のリポソーム。
【請求項3】
上記アルキルシランは、上記脂質に対して40〜100mol%含まれることを特徴とする請求項1または2に記載のリポソーム。
【請求項4】
脂質と、下記式(1)で表されるアルキルシランとを、該アルキルシランが該脂質に対して20〜100mol%の配合量となるように用意する工程と、
上記脂質及び上記アルキルシランを上記配合量で混合した状態で、該脂質によって脂質二重膜を形成する工程と、
上記脂質二重膜が形成された状態で、1.0〜50mMの酸又はアルカリを添加することによって上記アルキルシランを脱アルコール化し、該脂質二重膜の表面に、シロキサン結合のネットワークを形成する工程と、を有することを特徴とするリポソームの製造方法。
【化2】
(式中、Rはアルキル基であり、nは11〜17の整数を表す。)
【請求項5】
上記脂質は、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DMPC)であることを特徴とする請求項4に記載のリポソームの製造方法。
【請求項6】
上記アルキルシランは、上記脂質に対して40〜100mol%含まれることを特徴とする請求項4または5に記載のリポソームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リポソーム及びリポソームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リポソームは、リン脂質を主成分とする脂質二重膜構造を有する閉鎖小胞である。細胞膜と類似する構造を有するリポソームは、生体内において高い安全性を示し、生分解性を有することから、その小胞内に薬物を封入し、薬物送達システム(Drug Delivery System,DDS)として応用する研究は多くなされている。
【0003】
DDSは、標的部位に到達するまでは薬物を保持する必要があり、標的部位に到達すると、薬物を放出する必要があるため、リポソームの脂質二重膜の安定性の制御は重要な課題であった。
【0004】
非特許文献1には、内部架橋型として、ジアセチレン脂質分子の膜内で光架橋反応を用いたことが記載されており、非特許文献2には、表面架橋型として、膜表面でシロキサン結合のネットワークを形成するセラソームについて記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.,1982,104,305
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.,2002,124,2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1および非特許文献2に記載されているリポソームは、いずれも高度に設計された脂質分子が新たに合成されて用いられており、構成する脂質分子すべての間で架橋が行われている。このように、複雑な構造を有する脂質分子を合成して用いるのは、非常に煩雑であり、実用的とは言えない。
【0007】
そこで、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、シロキサン結合のネットワークを形成する市販の材料を脂質分子に加え、容易に架橋反応を起こすことによって、脂質二重膜の安定性を制御した、実用的価値の高い、リポソームを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のリポソームは、脂質二重膜が形成されたリポソームであり、上記脂質二重膜の表面に、下記式(1)で表されるアルキルシランにより形成されたシロキサン結合のネットワークを有し、上記アルキルシランは、上記脂質二重膜を構成する脂質に対して20〜100mol%含まれることを特徴とする。
【0009】
【化1】
(式中、Rはアルキル基であり、nは11〜17の整数を表す。)
【0010】
本発明のリポソームは、上記脂質が、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DMPC)であることが好ましい。
【0011】
また、本発明のリポソームは、上記アルキルシランが、上記脂質に対して40〜100mol%含まれることがより好ましい。
【0012】
そして、本発明のリポソームの製造方法は、脂質と、下記式(1)で表されるアルキルシランとを、該アルキルシランが該脂質に対して20〜100mol%の配合量となるように用意する工程と、上記脂質及び上記アルキルシランを上記配合量で混合した状態で、該脂質によって脂質二重膜を形成する工程と、上記脂質二重膜が形成された状態で、1.0〜50mMの酸又はアルカリを添加することによって上記アルキルシランを脱アルコール化し、該脂質二重膜の表面に、シロキサン結合のネットワークを形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
【化2】
(式中、Rはアルキル基であり、nは11〜17の整数を表す。)
【発明の効果】
【0014】
本発明のリポソームによれば、シロキサン結合のネットワークを形成する市販の材料を脂質分子に加え、容易に架橋反応を起こすことによって、脂質二重膜の安定性を制御した、実用的価値の高い、リポソームを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例に係るリポソームに界面活性剤を添加した際の光散乱強度を測定したグラフである。
図2】本発明の実施例に係るリポソームの加水分解の進行度を示すH NMRスペクトルデータである。
図3】添加する塩酸の濃度を変化させて光散乱強度を測定したグラフである。
図4】ドデシルトリエトキシシランの添加量を変化させて光散乱強度を測定したグラフである。
図5】オクタドデシルトリエトキシシランの添加量を変化させて光散乱強度を測定したグラフである。
図6】静置温度を変化させて光散乱強度を測定したグラフである。
図7】本発明の実施例に係るリポソームを電子顕微鏡で撮像した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態に係るリポソームは、脂質二重膜が形成されたリポソームであり、上記脂質二重膜の表面に、下記式(1)で表されるアルキルシランにより形成されたシロキサン結合のネットワークを有するものである。上記アルキルシランは、上記脂質二重膜を構成する脂質に対して20〜100mol%含まれ、好ましくは、40〜100mol%含まれる。
【0017】
【化3】
【0018】
上記脂質は、例えば1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DMPC)である。なお、リポソームを形成する脂質としては、DMPCに限定されることはなく、他のリン脂質を用いても良い。また、上記式(1)においてRは、例えばエチル基であるが、エチル基に限定されることはなく、他のアルキル基であってもよい。
【0019】
リポソームの製造を製造する場合、脂質と、上記式(1)で表されるアルキルシランとを、上記アルキルシランが上記脂質に対して20〜100mol%の配合量となるように用意し、それら脂質及びアルキルシランを上記配合量で混合した状態で、該脂質によって脂質二重膜を形成する。その後、上記脂質二重膜が形成された状態で、1.0〜50mMの酸又はアルカリを添加することによって上記アルキルシランを脱アルコール化し、該脂質二重膜の表面に、シロキサン結合のネットワークを形成する。シロキサン結合のネットワークを形成するために添加するものとして、例えば塩酸が用いられるが、他の酸またはアルカリを用いてもよい。
【実施例】
【0020】
以下に、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0021】
(実施例1)
(2mM DMPCリポソーム(20mol% ドデシルトリエトキシシラン)溶液の調製)
脂質として、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DMPC)を用いたリポソームに、アルキルシランとして、上記式(1)においてRをエチル基とし、n=11で表される市販のドデシルトリエトキシシラン(以下において、Dotsと示すことがある)を用いることにより、シロキサン結合のネットワークを形成したリポソームを生成した。
【0022】
具体的には、まず、50mMのDMPCクロロホルム溶液80μLと、10mMのドデシルトリエトキシシラン-クロロホルム溶液80μLとを用意した。なお、ドデシルトリエトキシシランはDMPCに対して20mol%の配合量である。そして、これらをガラス容器に入れ、窒素ガスを吹き付けることで溶媒を留去し薄膜を形成した。そして、一晩静置後、重水1.0mLを加え、ボルテックスミキサーで撹拌した。脂質二重膜を単層にするために、液体窒素および50℃の湯浴に交互に浸す凍結融解を7回繰り返した。その後、エクストルーダー(アベスチンフィルター;細孔径50nm)に11回通した。脂質二重膜が形成された状態で、この溶液に2.0mMの塩酸を1.0mL加え、1日静置することにより、ドデシルトリエトキシシランを脱エタノール化し、脂質二重膜の表面にシロキサン結合のネットワークを形成することで、最終脂質濃度が2mMのDMPCリポソーム(20mol% ドデシルトリエトキシシラン)溶液(最終塩酸濃度1mM)を得た。
【0023】
(実施例2)
(2mM DMPCリポソーム(20mol% オクタドデシルトリエトキシシラン)溶液の調製)
実施例1と同様の方法にて、上記式(1)においてRをエチル基とし、n=17で表される市販のオクタデシルトリエトキシシラン(以下において、Odtsと示すことがある)を用い、2mM DMPCリポソーム(20mol% オクタデシルトリエトキシシラン)溶液を得た。
【0024】
(比較例1乃至3)
実施例1と同様の方法にて、脂質として、DMPCを用いたリポソームに、アルキルシランとして、上記式(1)においてRをエチル基とし、n=5で表される市販のへキシルトリエトキシシラン(以下において、Htsと示すことがある)を用い、2mM DMPCリポソーム(20mol% へキシルトリエトキシシラン)溶液を調製して比較例1とした。
【0025】
また、上記式(1)においてRをエチル基とし、n=7で表される市販のオクチルトリエトキシシラン(以下において、Otsと示すことがある)を用い、2mM DMPCリポソーム(20mol% オクチルトリエトキシシラン)溶液を調製して比較例2とした。
【0026】
さらに、上記式(1)においてRをエチル基とし、n=9で表される市販のデシルトリエトキシシラン(以下において、Detsと示すことがある)を用い、2.0mM DMPCリポソーム(20mol% デシルトリエトキシシラン)溶液を調製して比較例3とした。
【0027】
(蛍光分光器を用いたリポソームの安定性評価)
実施例1および2、ならびに比較例1乃至3で得られた、DMPCリポソーム(20mol% アルキルトリエトキシシラン)溶液における、リポソームの構造安定性の評価を、界面活性剤であるトリトンX−100(TX−100)を添加することにより行った。蛍光分光器には、HITACHI製のF−2700を用いた。
【0028】
リポソームは、およそ100nmのサイズであるため、その溶液は若干白濁しており、光散乱している。そこで、400nmの光を照射したときの400nmの散乱光を蛍光分光器で測定することによって、リポソームの崩壊度を評価した。
【0029】
具体的には、TX−100を0%添加したときの散乱強度を100%として、TX−100の添加による散乱強度の減少によってリポソームの崩壊を確認した。なお、散乱強度が15%を切ったときをリポソームが完全に崩壊したと判断した。
【0030】
図1に、本発明の実施例及び比較例に係るリポソームに界面活性剤を添加した際の光散乱強度を測定したグラフを示す。図1中、アルキルシランを加えないDMPCリポソームのみの測定結果を○および灰一点鎖線で示す。また、Htsを加えたDMPCリポソーム(比較例1)を●および黒実線、Otsを加えたDMPCリポソーム(比較例2)を▲および灰実線、Detsを加えたDMPCリポソーム(比較例3)を■および黒点線、Dotsを加えたDMPCリポソーム(実施例1)を▼および灰点線、そして、Odtsを加えたDMPCリポソーム(実施例2)を◆および黒一点鎖線で示す。なお、これらは、DMPCに対して20mol%のアルキルシランを加えたDMPCリポソームであり、塩酸水溶液を加えた後、20℃で24時間静置後に測定を行った。
【0031】
DMPCのみからなるリポソームはTX−100を4当量添加することで、完全に崩壊した。同様に、Hts、Ots、Dets、及びOdtsを20mol%加えたDMPCリポソームでは、TX−100を4当量添加することで完全に崩壊したため、安定性の向上は見られなかった。これに対して、Dotsを20mol%加えたリポソームではTX−100を10当量添加しても安定であった。
【0032】
H NMRスペクトルによる加水分解の確認)
アルキルシランを加えたリポソームに、酸またはアルカリを加えると、水中においてアルキルシランは下記式(2)のように、まず水と反応して加水分解し、その後シロキサン結合のネットワークが形成される。加水分解する際にアルコールを発生させるため、本発明の実施例において、エタノールをH NMRスペクトルによって検出することによって、加水分解の進行度を決定した。核磁気共鳴測定装置には、Varian製、400−MRを用いた。
【0033】
【化4】
【0034】
図2に示すH NMRスペクトルにおいて、○で示したピークがエタノールに帰属されるものであり、基準物質として3mMとなるように加えたジメチルスルホキシド(DMSO)と積分値を比較することで、エタノール濃度を決定した。この結果を反応進行度として表1に示す。なお、図2(A)はHtsを加えたDMPCリポソーム(比較例1)、図2(B)はOtsを加えたDMPCリポソーム(比較例2)、図2(C)はDetsを加えたDMPCリポソーム(比較例3)、図2(D)はDotsを加えたDMPCリポソーム(実施例1)、および図2(E)はOdtsを加えたDMPCリポソーム(実施例2)を示す。なお、これらは、DMPCに対して20mol%のアルキルシランを加えたDMPCリポソームであり、塩酸水溶液を加えた後、20℃で24時間静置後に測定を行った。
【0035】
【表1】
【0036】
アルキル鎖が短いHts(比較例1)、Ots(比較例2)、およびDets(比較例3)では加水分解があまり起こっていないことがわかった。DMPCに対してアルキルトリエトキシシランのアルキル鎖が短いことでトリエトキシシランの部位がリポソームの脂質二重膜の中、つまり疎水場に存在することが示唆されており、このため、水と接触できず加水分解があまり進行しなかったものと考えられる。加水分解が進行していないため、この後のシロキサン結合ができる反応は進行せず、これらのアルキルトリエトキシシランでは安定性が向上しなかったことがわかった。
【0037】
これに対して、Dots(実施例1)とOdts(実施例2)はアルキル鎖が十分長く、トリエトキシシランの部位がバルク溶媒に接触できるため、加水分解が進行したものと考えられる。よって、上記式(1)において、n=11以上であることが好ましく、より好ましくはn=11〜17である。
【0038】
なお、加水分解が50%以下の値であるのは、リポソームの内膜に存在するDotsとOdtsは、内水相が中性条件であるため、加水分解が進行しなかったものと考えられる。
【0039】
(酸の濃度による安定性評価)
次に、シロキサン結合のネットワークを形成する際に添加する酸の濃度を変化させて、リポソームの安定性評価を行った。
【0040】
図3は、添加する塩酸の濃度を変化させて光散乱強度を測定したグラフである。測定の方法は図1において説明した方法と同じであり、DMPCに対して20mol%のDotsを加えたDMPCリポソームへ、所定の濃度の塩酸水溶液を加えた後、20℃で24時間静置後に測定を行った。
【0041】
図3中、0mMの塩酸水溶液を添加した場合を●および黒実線、0.5mMの塩酸水溶液を添加した場合を▲および灰実線、1.0mMの塩酸水溶液を添加した場合を■および黒点線、2.5mMの塩酸水溶液を添加した場合を▼および灰点線、5.0mMの塩酸水溶液を添加した場合を◆および黒一点鎖線、そして、50mMの塩酸水溶液を添加した場合を○および灰一点鎖線で示す。なお、0mMの塩酸水溶液の場合、加水分解が進行せず、シロキサン結合も形成されないため、安定性は全く変化しなかった。
【0042】
1.0mMの塩酸水溶液では、安定性の向上が確認できた。それ以上塩酸濃度の高い条件において、TX−100をDMPCに対して10当量加えたときの安定性を比較するとそれほど大きな違いは無かった。以上のことより、シロキサンネットワークを形成するためにはリポソーム溶液の最終塩酸濃度が1.0mM以上であればよく、1.0〜50mMの酸を添加することが好ましいことがわかった。なお、アルカリについても同様の効果が期待される。
【0043】
(Dotsの添加量の変化による安定性評価)
次に、Dotsの添加量を変化させて、リポソームの安定性評価を行った。図4は、本発明の実施例に係るリポソームに界面活性剤を添加した際の光散乱強度を測定したグラフである。測定の方法は図1において説明した方法と同じである。
【0044】
図4中、DotsをDMPCリポソームに対して10mol%加えたリポソーム(比較例4)を●および黒実線で示す。また、DotsをDMPCリポソームに対して20mol%加えたリポソーム(実施例1)を▲および灰実線、DotsをDMPCリポソームに対して40mol%加えたリポソーム(実施例3)を■および黒点線、DotsをDMPCリポソームに対して70mol%加えたリポソーム(実施例4)を▼および灰点線、そして、DotsをDMPCリポソームに対して100mol%加えたリポソーム(実施例5)を◆および黒一点鎖線で示す。20mol%の添加量においても、安定性は見られたが、40mol%以上の添加量でTX−100をDMPCに対して10当量加えたときの安定性がほぼ100%であることがわかった。以上のことから、Dotsの添加量は20mol%以上であることが好ましく、より好ましくは40〜100mol%である。
【0045】
(Odtsの添加量の変化による安定性評価)
図2において、Odts(実施例2)は、トリエトキシシリル基がバルク溶媒に大きく出ているため自由度が大きく、このあとのシロキサン結合のネットワークがうまく形成されなかったものと考えられる。しかしながら、Odtsの添加量を変化させることによりリポソームの安定性が向上した。
【0046】
図5は、本発明の実施例に係るリポソームに界面活性剤を添加した際の光散乱強度を測定したグラフである。測定の方法は図1において説明した方法と同じである。
【0047】
図5中、Odtsを加えないDMPCリポソームのみ(比較例5)を●および黒実線で示す。また、OdtsをDMPCリポソームに対して20mol%加えたリポソーム(実施例2)を▲および灰実線、OdtsをDMPCリポソームに対して40mol%加えたリポソーム(実施例6)を■および黒点線で示す。Odtsは、DMPCリポソームに対する添加量を40mol%に増やすことで安定性が向上した。この結果により、Odtsは脂質に対して40mol%以上の配合量とするのが好ましいことがわかった。
【0048】
(24時間静置する際の温度の影響による安定性評価)
本発明の実施例におけるリポソームは、脂質二重膜を形成させ、酸またはアルカリを添加した後、24時間静置することにより、シロキサン結合のネットワークを形成させる。そこで、24時間静置する際の温度によってリポソームの安定性に変化が見られるかを調べた。
【0049】
図6は、本発明の実施例に係るリポソームに塩酸を添加し、異なる温度で静置した際の光散乱強度を示すグラフである。測定の方法は図1において説明した方法と同じである。また、この評価は、DMPCリポソームに対して40mol%のDotsを添加したリポソームを、1mM塩酸溶液中にて、所定の温度で24時間静置後に測定することにより行った。
【0050】
図6中、静置温度を4℃とした場合を●および黒実線、20℃とした場合を▲および灰実線、80℃とした場合を■および黒点線で示す。
【0051】
その結果、4℃では安定性の向上が見られなかった。これは、温度が低いため加水分解が進行しなかったものと考えられる。一方、20℃と80℃では同じように安定性の向上が確認された。以上のことから、静置温度は20℃以上が好ましいことがわかった。
【0052】
(透過型電子顕微鏡によるリポソームの構造確認)
DMPCリポソームに対して40mol%のDotsを添加したリポソームについて、構造確認を行うため透過型電子顕微鏡測定を行った結果を図7に示す。透過型電子顕微鏡は日本電子社のJEM−1400を用いた。図7(A)に示すように、DMPCリポソームに対して40mol%のDotsを添加したリポソームは、球状構造をとっていることが確認された。また、このリポソームにTX−100を4当量添加した場合も、図7(B)に示されるように、球状構造は維持されており、リポソームが安定に存在していることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の活用例としては、製薬分野における薬物送達システムおよび有機合成化学分野におけるソフトマテリアルの開発に応用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7