【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、アルミナ分散強化銅からなる第1部材と、被接合金属からなる第2部材とをろう付接合する接合方法であって、
前記被接合金属は、フェライト相およびマルテンサイト相の一方または双方を含む鉄鋼またはイリジウムであり、
(a) リンを含有するろう材を用意する工程と、
(b) 前記第1部材、第2部材で前記ろう材を挟み込み、所定の熱処理温度で所定時間加熱する熱処理工程と、
(c) 前記熱処理工程の後、接合された前記第1部材および第2部材を冷却する工程と、を備え、
前記熱処理温度は、銅の融点よりも低く、リンと銅との共晶反応により低下した銅の融点よりも高い範囲で設定されている接合方法として構成することができる。
【0006】
発明者は、第1に、アルミナ分散強化銅とフェライト相およびマルテンサイト相の一方または双方を含む鉄鋼(融点約1,500℃)との間でろう付接合の実験を試みた結果、上記工程および熱処理温度によればろう付接合が可能であることを見いだした。ろう付接合が可能となる原理は、必ずしも明らかにはなっていないが、リンを含有するろう材を用いることにより、ろう材と接触するアルミナ分散強化銅の極表面の融点がリンとの共晶反応によって若干、低下し、接合面で被接合金属との間で拡散が生じるということであろうと考えられる。熱処理温度は、銅の融点よりも低いため、第1部材は、接合部分以外では溶融しない。従って、接合部分のみで溶融が生じ、第1部材、第2部材のろう付接合が実現されるのである。
実験で確認されたのは、アルミナ分散強化銅とフェライト相およびマルテンサイト相の双方を含む鉄鋼であるが、フェライト相およびマルテンサイト相の一方のみを含む鉄鋼とのろう付接合も同様の原理によって実現されていたものと考えられる。
また、発明者は、アルミナ分散強化銅とイリジウム(融点2466℃)との間でも、ろう付接合の実験を試みた結果、上記工程および熱処理温度によればろう付接合が可能であることを見いだした。
【0007】
本発明において、ろう材のリンの含有量は、任意に決めることができるが、実験では、11%の含有量のニッケル合金、具体的にはBNi−6を用いた。
熱処理の時間は、被接合金属の種類、接合の結果を踏まえ実験的に設定することができる。実験では、10分としたが、さらに短くしても良い。
また第1部材、第2部材の形状や寸法は問わない。
アルミナ分散強化銅としては、GlidCop(登録商標)を用いることができる。
【0008】
本発明において、
前記熱処理温度は、960℃である接合方法としてもよい。
もっとも、かかる温度に限定されるものではない。
【0009】
本発明では、
(d) 前記熱処理工程に先だって、前記第1部材と第2部材の接合される表面を、それぞれ微鏡面に表面仕上げする工程を備え、
前記熱処理工程における前記ろう材は、1〜100マイクロメートルの厚さとしてもよい。
【0010】
ろう付の際の表面仕上げおよびろう材の厚さは、任意に決定することができるが、上記態様のように設定することにより、密着性に優れるろう付接合を実現できることが分かった。厚さは、38〜76マイクロメートルとすることがより好ましく、さらに約38マイクロメートルとすることがより好ましい。
【0011】
また、本発明においては、
前記熱処理工程において、前記第1部材と第2部材に対して、両者が接合される方向に圧力を加えるものとしてもよい。
【0012】
こうすることにより、さらに接合部分の密着性を向上させることが可能となる。
圧力を加える方法は、種々の方法をとることができる。
例えば、ホットプレス、即ち熱処理炉の中に備えられたプレス機によって、第1部材、第2部材を挟んでプレスする方法としてもよい。かかる方法をとるときは、プレス機の熱容量を加味して熱処理工程を設定することが好ましい。
また別の方法として、熱間等方圧加圧(HIP:Hot Isostatic Pressing)という方法をとってもよい。熱間等方圧加圧は、圧力を等方的に掛けることができるため、複数方向に接合する必要がある場合などに有用である。
【0013】
圧力を加える方法は、例えば、
相互に締結された第1、第2の端プレートと、両者間に配置される中央プレートを用意し、
前記第1の端プレートと中央プレートによって、前記第1部材と第2部材を挟み、
前記第2の端プレートと中央プレート間に弾性体を介在させることにより、第1の端プレートと中央プレート間に配置された前記第1部材および第2部材に圧力を加えるものとしてもよい。
【0014】
かかる方法によれば、板状の第1、第2の端プレートおよび中央プレートを介して圧力を加えるため、第1部材、第2部材に比較的均一に圧力を加えやすい利点がある。また、比較的、低コストで圧力を加えることができ、ホットプレスや熱間等方圧加圧のように特別な装置を使用する必要がない点で、比較的適用しやすいという利点もある。
プレートの素材は任意に選択できるが、剛性の高い素材を選択することが好ましい。
また弾性体も種々の選択が可能であるが、熱処理工程においても弾性力を加え得る素材であることが好ましく、例えば、カーボンばねを利用することができる。
圧力の大きさも任意に決定可能であるが、有意な効果が得られる圧力として、例えば、0.54MPaとすることができる。
【0015】
また、上記態様の場合、
前記第1、第2の端プレートおよび中央プレートは、前記第1部材および第2部材にかかる圧力分布が略均一となる厚さを有しているものとすることが好ましい。
【0016】
こうすることにより、第1部材、第2部材に均一に圧力を加えることができ、偏りのない接合を実現することができる。
第1、第2の端プレートおよび中央プレートの具体的な厚さは、これらの素材および圧力の大きさによって実験的または解析的に定めることができる。
【0017】
本発明において、
前記工程(c)は、自然冷却としてもよい。
【0018】
熱処理温度が非常に高温であるため、自然冷却の場合、数時間〜48時間など非常な長時間をかけて第1部材、第2部材は冷却されることになる。このように長時間をかけて冷却することにより、熱処理によって生じた熱応力を緩和することが可能となる利点がある。冷却にかける時間は、被接合金属の種類に応じて決定できる。例えば、アルミナ分散強化銅と熱膨張係数が比較的近い金属の場合には、8時間程度の冷却時間でも問題ないことが確認されている。
自然冷却によって100℃など、両部材の熱膨張が十分に緩和されたと考えられる程度の温度まで冷却された後は、冷媒を用いた強制冷却を施しても良い。
【0019】
本発明は、接合相手となる被接合金属が一種類の場合のみならず、複数種類存在する場合も適用可能である。かかる場合に、どのような順序で接合するかは任意に決定できるが、
例えば、
複数種類の金属からなる複数の前記第2部材が存在するとき、
前記第1部材を形成する前記アルミナ分散強化銅に熱膨張係数が近い金属で形成された第2部材から順に接合するものとしてもよい。
【0020】
複数種類の被接合金属を順次、接合する場合、最初に接合された金属には、繰り返し熱処理が施されることになる。第1部材、第2部材間の熱応力は、部材間の熱膨張係数の差によって生じるから、上記態様のように熱膨張係数が近い順に接合するものとすれば、繰り返し施される熱処理によって生じる熱応力を緩和することができる。
【0021】
複数種類の被接合金属の具体例としては、例えば、
複数の前記第2部材は、それぞれアルミナ分散強化銅、ステンレス鋼、並びに、フェライト相およびマルテンサイト相の一方若しくは双方を含む鉄鋼またはイリジウムでそれぞれ形成されており、
前記第1部材を、前記アルミナ分散強化銅、ステンレス鋼、並びに、フェライト相およびマルテンサイト相の一方若しくは双方を含む鉄鋼またはイリジウムで形成された第2部材の順に接合してもよい。
【0022】
本発明は、種々の構造体を製造するために利用可能であるが、
例えば、
前記第1部材は、アルミナ分散強化銅で形成され熱除去器の冷媒の流路が形成された部材であり、
前記第2部材は、フェライト相およびマルテンサイト相の一方または双方を含む鉄鋼で形成され前記流路に蓋をする部材であるものとできる。
【0023】
かかる方法によれば、本発明の接合方法を用いて、熱除去器内部に冷媒の流路を形成することができる。
上記態様において、流路の形状は不問である。
上記態様において、更に種々の部材を接合してもよい。例えば、ステンレス鋼を接合し、流路に冷媒を供給する供給部、流路から排出する排出部を構成してもよい。
【0024】
以上で説明した本発明の種々の特徴は、必ずしも全てを備えている必要はなく、本発明は、適宜、その一部を省略したり、組み合わせたりして構成してもよい。
また、本発明は、接合方法としての構成のみならず、かかる接合方法を踏まえた構造体として構成してもよい。