(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-190008(P2020-190008A)
(43)【公開日】2020年11月26日
(54)【発明の名称】有機被覆銅系粉末、有機被覆銅系粉末を用いて形成された銅系材料からなる積層造形物および積層造形物の製造方法ならびに各種金属部品
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20060101AFI20201030BHJP
B22F 1/02 20060101ALI20201030BHJP
B22F 3/105 20060101ALI20201030BHJP
B22F 3/16 20060101ALI20201030BHJP
C22C 1/04 20060101ALI20201030BHJP
C22C 9/06 20060101ALI20201030BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20201030BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20201030BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20201030BHJP
【FI】
B22F1/00 L
B22F1/02 D
B22F3/105
B22F3/16
C22C1/04 A
C22C9/06
B22F1/02 B
B33Y70/00
B33Y10/00
B33Y80/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-95139(P2019-95139)
(22)【出願日】2019年5月21日
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】風間 吉則
(72)【発明者】
【氏名】西野 史香
(72)【発明者】
【氏名】吉田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】金子 昌充
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA03
4K018BA02
4K018BB04
4K018BB10
4K018BC13
4K018BC28
4K018BC29
4K018CA44
4K018EA51
4K018EA60
4K018FA02
4K018FA08
4K018KA02
4K018KA03
4K018KA05
4K018KA23
4K018KA37
4K018KA58
4K018KA63
4K018KA70
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、1.2μm以下の波長を有するレーザ光を照射して積層造形する際に、銅系粉末を、空隙率が小さくかつ高密度になるように敷き詰めて粉末層を形成し、かつレーザ照射部分で良好な溶融固化現象と銅系酸化物層の還元とを生じさせることができて、高密度かつ酸素含有量の小さい銅系材料からなる積層造形物を形成するのに適した、有機被覆銅系粉末、およびこの有機被覆銅系粉末を用いる積層造形物の製造方法、さらに、積層造形物を用いて形成される各種金属部品を提供する。
【解決手段】本発明の有機被覆銅系粉末は、1.2μm以下の波長を有するレーザ光を照射して積層造形される素材粉末として使用され、平均粒径が50μm以下である銅または銅合金から構成される銅系粉末と、前記銅系粉末の表面に、50%以上の被覆率で形成され、有機系材料から構成される有機被覆層とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.2μm以下の波長を有するレーザ光を照射して積層造形される素材粉末として使用され、
平均粒径が50μm以下である銅または銅合金から構成される銅系粉末と、
前記銅系粉末の表面に、50%以上の被覆率で形成され、有機系材料から構成される有機被覆層と、
を有することを特徴とする有機被覆銅系粉末。
【請求項2】
前記有機系材料は、炭素数が8〜16の炭化水素から構成される、請求項1に記載の有機被覆銅系粉末。
【請求項3】
前記銅系粉末の表面と前記有機被覆層との間に、膜厚が1.0〜100nmである銅系酸化物層をさらに有する、請求書1または2に記載の有機被覆銅系粉末。
【請求項4】
前記銅系粉末は、体積基準で測定して得られる積算粒度分布における、50%粒子径(d50)が10〜50μmであり、かつ10%粒子径(d10)が1〜30μmである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機被覆銅系粉末。
【請求項5】
前記銅系粉末は、体積基準で測定して得られる積算粒度分布における、90%粒子径(d90)が30〜70μmである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機被覆銅系粉末。
【請求項6】
前記銅系粉末は、銅および不可避的不純物からなる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機被覆銅系粉末。
【請求項7】
前記銅系粉末は、Niを0質量%超40.0質量%以下含有し、残部が銅および不可避的不純物である組成を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機被覆銅系粉末。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機被覆銅系粉末を用いて形成された銅系材料からなる積層造形物の製造方法であって、
前記有機被覆銅系粉末で粉末層を形成する第1工程と、
前記粉末層の所定領域に存在する前記有機被覆銅系粉末を溶融固化させて第1の造形層を形成する第2工程と、
を含み、
前記第1工程と前記第2工程とを交互に繰り返し、第1の造形層上に、第2以降の造形層を順次積層形成する、積層造形物の製造方法。
【請求項9】
前記造形層の繰り返し積層形成の終了後に、熱処理工程および鍛造処理工程の少なくとも一方の工程をさらに含む、請求項8に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機被覆銅系粉末を用いて形成された銅系材料からなる積層造形物であって、
酸素含有量が500ppm以下である、積層造形物。
【請求項11】
前記銅系材料の理論密度に対する空隙率が1%以下である、請求項10に記載の積層造形物。
【請求項12】
前記銅系材料は、銅および不可避的不純物からなる、請求項10または11に記載の積層造形物。
【請求項13】
前記銅系材料は、Niを0質量%超40.0質量%以下含有し、残部が銅および不可避的不純物である組成を有する、請求項10または11に記載の積層造形物。
【請求項14】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機被覆銅系粉末、または請求項10〜13のいずれか1項に記載の積層造形物を用いて形成された熱交換器。
【請求項15】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機被覆銅系粉末、または請求項10〜13のいずれか1項に記載の積層造形物を用いて形成されたモーターのブラシ。
【請求項16】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機被覆銅系粉末、または請求項10〜13のいずれか1項に記載の積層造形物を用いて形成されたブレーキパッド。
【請求項17】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機被覆銅系粉末、または請求項10〜13のいずれか1項に記載の積層造形物を用いて形成されたスリップリング。
【請求項18】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機被覆銅系粉末、または請求項10〜13のいずれか1項に記載の積層造形物を用いて形成された電極。
【請求項19】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機被覆銅系粉末、または請求項10〜13のいずれか1項に記載の積層造形物を用いて形成された軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1.2μm以下の波長を有するレーザ光を照射して、空隙率および酸素含有量が低く、耐疲労特性および耐食性に優れた、銅系材料からなる積層造形物を形成するのに適した、有機被覆銅系粉末、有機被覆銅系粉末を用いて形成された銅系材料からなる積層造形物および積層造形物の製造方法、さらには、有機被覆銅系粉末または積層造形物を用いて形成された各種金属部品に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば熱交換器、モーターのブラシ、ブレーキパッド、スリップリング、電極、軸受のような各種金属部品には、通常、銅系材料が用いられている。銅系材料は、鉄系材料やアルミニウム系材料に比べて、導電率や熱伝導率が高いことで知られている。しかしながら、このような各種金属部品は、小型であるか、あるいは複雑な形状をもつ場合、押出し・鍛造加工法や粉末冶金法のような従来の製造方法では、精度良く成形することは難しく、必ずしも要求特性を満足できない。
【0003】
そのため、近年では、製品を造形する造形・加工テーブルのベースプレート上に、素材としての金属粉末を、リコータによるスキージングによって0.05mm程度の厚さで敷き詰めて薄い粉末層を形成し、次いでCADデータに基づきレーザ光を照射し、粉末層の照射部分のみを溶融固化させ、さらに新たな粉末層の形成とレーザ光の照射とをレーザ積層造形装置(いわゆる3Dプリンタ)を用いて繰り返し行うことによって、各種金属部品を積層造形物として製造することができる、いわゆるレーザ積層造形技術が注目されている。
【0004】
しかし、素材の金属粉末(以下、単に「素材」または「素材粉末」という場合がある。)として銅系粉末を用いる場合、銅は、レーザ光の反射率が高く、光吸収率が低いため、造形物を製造するためには、高出力のレーザ装置を使用することが必要になり、また、銅は熱伝導性に優れているため、レーザ光の照射部分に発生した熱が、瞬時に照射部分以外の粉末層、および造形物、またはベースプレートの部分に拡散してしまうことから、健全な造形物を得るには至っていないのが現状である。そのため、銅系粉末を用いて健全な積層造形物を製造するには、銅系粉末の光吸収率を向上させて、レーザ光の照射時に照射部分で良好な溶融固化現象が生じるようにすることが必要とされる。
【0005】
銅系粉末にレーザ光を照射する工程を経て積層造形物を製造する公知技術としては、例えば特許文献1に、1.0μm前後の波長を有する近赤外レーザ光を照射して積層造形される素材粉末として、平均粒径D50が40μm程度である銅粉末が使用され、近赤外波長のレーザ光の吸収率を高めるため、銅粉末の表面に、膜厚がナノメートル(nm)オーダーの酸化膜を形成することが記載されている。
【0006】
ところで、銅系粉末にレーザ光を照射する工程を有する積層造形法において、酸化した銅を使用すると、銅系粉末のレーザ光の吸収率を高めることができ、特許文献1に記載の銅粉末のように、ナノメートル(nm)オーダーと薄い酸化膜を形成して、積層造形物内に残留する酸化物量を少なくしたとしても、積層造形物中には、酸化膜分の酸素が残留してしまうという課題がある。
また、銅系粉末にレーザ光を照射する工程を有する積層造形法において、銅系粉末をスキージングして粉末層を均一厚さに形成するには、銅系粉末が優れた流動性を有していることが望ましい。
【0007】
しかしながら、特許文献1では、銅粉末をスキージングして粉末層を形成する際の流動性については開示されておらず、かかる構成では、銅粉末をスキージングして粉末層を均一に敷き詰めることができない。
このため、特許文献1に記載の銅粉末を用いて積層造形物を形成した場合、空隙率および酸素含有量を十分に低くすることができず、耐疲労特性および耐食性に優れた積層造形物が安定して得られないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2017−141505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、1.2μm以下の波長を有するレーザ光を照射して積層造形される素材粉末として使用される銅系粉末の粒子サイズの適正化を図るとともに、その表面にレーザ光照射によって還元性および熱分解性を示す有機被覆層で被覆することにより、特に積層造形におけるスキージングの際の有機被覆銅系粉末の流動性を向上させて、粉末層を均一に敷き詰めて形成することを可能にするとともに、レーザ光の照射時に、有機被覆層が、例えば銅系粉末に形成されている自然酸化膜等の銅系酸化物層に対して還元性を示すと同時に、熱分解によりガス化して消失することで、レーザ照射部分で良好な溶融固化現象を生じさせることができ、空隙率および酸素含有量が低く、耐疲労特性および耐食性に優れ、銅系材料からなる積層造形物を形成するのに適した、有機被覆銅系粉末、有機被覆銅系粉末を用いて形成された銅系材料からなる積層造形物および積層造形物の製造方法、さらには、有機被覆銅系粉末または積層造形物を用いて形成された各種金属部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
(1)1.2μm以下の波長を有するレーザ光を照射して積層造形される素材粉末として使用され、平均粒径が50μm以下である銅または銅合金から構成される銅系粉末と、前記銅系粉末の表面に、50%以上の被覆率で形成され、有機系材料から構成される有機被覆層と、を有することを特徴とする有機被覆銅系粉末。
(2)前記有機系材料は、炭素数が8〜16の炭化水素から構成される、上記(1)に記載の有機被覆銅系粉末。
(3)前記銅系粉末の表面と前記有機被覆層との間に、膜厚が1.0〜100nmである銅系酸化物層をさらに有する、上記(1)または(2)に記載の有機被覆銅系粉末。
(4)前記銅系粉末は、体積基準で測定して得られる積算粒度分布における、50%粒子径(d50)が10〜50μmであり、かつ10%粒子径(d10)が1〜30μmである、上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の有機被覆銅系粉末。
(5)前記銅系粉末は、体積基準で測定して得られる積算粒度分布における、90%粒子径(d90)が30〜70μmである、上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の有機被覆銅系粉末。
(6)前記銅系粉末は、銅および不可避的不純物からなる、上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の有機被覆銅系粉末。
(7)前記銅系粉末は、Niを0質量%超40.0質量%以下含有し、残部が銅および不可避的不純物である組成を有する、上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の有機被覆銅系粉末。
(8)上記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の有機被覆銅系粉末を用いて形成された銅系材料からなる積層造形物の製造方法であって、前記有機被覆銅系粉末で粉末層を形成する第1工程と、前記粉末層の所定領域に存在する前記有機被覆銅系粉末を溶融固化させて第1の造形層を形成する第2工程と、を含み、前記第1工程と前記第2工程とを交互に繰り返し、第1の造形層上に、第2以降の造形層を順次積層形成する、積層造形物の製造方法。
(9)前記造形層の繰り返し積層形成の終了後に、熱処理工程および鍛造処理工程の少なくとも一方の工程をさらに含む、上記(8)に記載の積層造形物の製造方法。
(10)上記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の有機被覆銅系粉末を用いて形成された銅系材料からなる積層造形物であって、酸素含有量が500ppm以下である、積層造形物。
(11)前記銅系材料の理論密度に対する空隙率が1%以下である、上記(10)に記載の積層造形物。
(12)前記銅系材料は、銅および不可避的不純物からなる、上記(10)または(11)に記載の積層造形物。
(13)前記銅系材料は、Niを0質量%超40.0質量%以下含有し、残部が銅および不可避的不純物である組成を有する、上記(10)または(11)に記載の積層造形物。
(14)上記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の有機被覆銅系粉末、または上記(10)〜(13)のいずれか1項に記載の積層造形物を用いて形成された熱交換器。
(15)上記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の有機被覆銅系粉末、または上記(10)〜(13)のいずれか1項に記載の積層造形物を用いて形成されたモーターのブラシ。
(16)上記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の有機被覆銅系粉末、または上記(10)〜(13)のいずれか1項に記載の積層造形物を用いて形成されたブレーキパッド。
(17)上記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の有機被覆銅系粉末、または上記(10)〜(13)のいずれか1項に記載の積層造形物を用いて形成されたスリップリング。
(18)上記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の有機被覆銅系粉末、または上記(10)〜(13)のいずれか1項に記載の積層造形物を用いて形成された電極。
(19)上記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の有機被覆銅系粉末、または上記(10)〜(13)のいずれか1項に記載の積層造形物を用いて形成された軸受。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、1.2μm以下の波長を有するレーザ光を照射して積層造形される素材粉末として使用される銅系粉末の粒子サイズの適正化を図るとともに、その表面にレーザ光照射によって還元性および熱分解性を示す有機被覆層で被覆することにより、特に積層造形におけるスキージングの際の有機被覆銅系粉末の流動性を向上させて、粉末層を均一に敷き詰めて形成することを可能にするとともに、レーザ光の照射時に、有機被覆層が、例えば銅系粉末に形成されている自然酸化膜等の銅系酸化物層に対して還元性を示すと同時に、熱分解によりガス化して消失することで、レーザ照射部分で良好な溶融固化現象を生じさせることができ、空隙率および酸素含有量が低く、耐疲労特性および耐食性に優れ、銅系材料からなる積層造形物を形成するのに適した、有機被覆銅系粉末、有機被覆銅系粉末を用いて形成された銅系材料からなる積層造形物および積層造形物の製造方法、さらには、有機被覆銅系粉末または積層造形物を用いて形成された各種金属部品を提供することが可能になった。本発明の有機被覆銅系粉末を用いて形成された積層造形物は、種々の金属部品に適用することができ、特に熱交換器、モーターのブラシ、ブレーキパッド、スリップリング、電極、軸受等に使用するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に従う有機被覆銅系粉末の構造を模式的に示す断面図である。
【
図2】本発明に従う有機被覆銅系粉末の製造方法の一例を概念的に示す図である。
【
図3】本発明に従う積層造形物の製造方法の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
(第1の実施形態(有機被覆銅系粉末))
図1は、第1の実施形態の有機被覆銅系粉末の構造を模式的に示したものである。
図1に示す有機被覆銅系粉末1は、1.2μm以下の波長を有するレーザ光を照射して積層造形される素材粉末として使用され、平均粒径が50μm以下である銅または銅合金から構成される銅系粉末3と、前記銅系粉末3の表面に、50%以上の被覆率で形成され、有機系材料から構成される有機被覆層2とを有する。有機被覆層2は、後述のように、1.2μm以下の波長を有するレーザ光の照射による加熱条件下で、還元性および熱分解性を示す。
【0014】
一般に、金属の光吸収率は、例えば波長が10.6μmであるCO
2(炭酸ガス)レーザの場合には、いずれの金属とも光吸収率がほぼ一様に低いものの、波長が1.2μm以下であるレーザ、例えばYAGレーザ(波長1.06μm)やファイバーレーザ(波長1.065μm)の場合には、各金属の光吸収率は、CO
2(炭酸ガス)レーザの場合と比べると高くなるものの、光吸収率は、金属ごとに大きく異なっており、例えば銅は、1μm波長帯の光吸収率が4.6%程度と低いことから、健全な造形物を得るには至っていないのが現状である。
【0015】
そのため、本発明者らは、レーザ積層造形技術により、従来では健全な積層造形物を製造することが難しいとされていた銅系粉末を素材粉末とする検討を行ったところ、積層造形する際のレーザ光の波長を1.2μm以下に限定し、素材粉末として用いる銅系粉末の平均粒径を50μm以下とし、かつ、該レーザ光の波長を適切に吸収する材料として、銅系粉末の表面に存在する自然酸化膜等の銅系酸化物層を活用するとともに、レーザ光の照射時の熱分解反応により該銅系酸化物層を還元する有機系材料であって、材料それ自体は、該熱分解反応でガス化されて消失する有機系材料によって、50%以上の被覆率で銅系粉末の表面を被覆することによって、特に積層造形におけるスキージングの際の有機被覆銅系粉末の流動性を向上させて、粉末層を均一に敷き詰めて形成することを可能にするとともに、レーザ光の照射時に、有機被覆層が、例えば銅系粉末に形成されている自然酸化膜等の銅系酸化物層に対して還元性を示すと同時に、熱分解によりガス化して消失することで、レーザ照射部分で良好な溶融固化現象を生じさせることができ、空隙率および酸素含有量が低く、耐疲労特性および耐食性に優れた、銅系材料からなる積層造形物を形成するのに成功し、本発明を完成させるに至ったのである。
【0016】
<レーザ光の波長:1.2μm以下>
ここで、レーザ光の波長を1.2μm以下に限定した理由は、微細な積層造形を再現する上でビーム径を小さくすることで、造形精度および微細なポロシティ(空隙率)の低減に効果があるためである。ちなみに、シングルモードのレーザビームを、焦点距離fのレンズで集光した場合に得られる最小スポット径(直径)D
0の理論的限界は、レーザビームの波長をλ、入射ビーム直径をDとすると近似的に以下の式で示される。
D
0=(4×λ×f)/(π×D)
この式からも波長λを小さくすることでスポット径D
0を小さくでき、その結果、造形物の外形寸法精度の向上を図ることができる。最小スポット径D
0は、特に限定はしないが、例えば100μm以下にすることが好ましい。
【0017】
<銅系粉末の平均粒径:50μm以下>
また、本発明では、銅系粉末は、平均粒径を50μm以下とする。なお、ここでいう「平均粒径」は、体積平均径MV(Mean Volume Diameter)を意味する。本発明では、銅系粉末の平均粒径を50μm以下にすることによって、パウダー・ベッド方式における粉体の流動性、リコータによるスキージング性を確保することができ、それによって薄い粒子層を均一に敷き詰めやすくすることができる。一方、銅系粉末の平均粒径が50μmを超えると、現行のレーザのエネルギー密度では粉末が溶融しきらないという問題と、積層造形技術の特徴である微細な構造の作製ができないという問題が生じる。
【0018】
≪有機被覆層の被覆率:50%以上≫
また、本発明では、銅系粉末の表面に、1.2μm以下の波長を有するレーザ光の照射による加熱条件下で還元性および熱分解性を示す有機系材料から構成される有機被覆層を、50%以上の被覆率で形成する。
本発明では、銅系粉末の表面を、レーザ光の加熱条件下で銅系粉末に含まれる酸化物に対する還元性および熱分解性を示す有機系材料で構成される有機被覆層で被覆することにより、銅系粉末層の表面にレーザ光を照射すると、銅系粉末の表面に、自然酸化膜等の銅系酸化物層が存在することによって、レーザ光の吸収率が高まり、レーザ光照射部分の銅系粉末層が効果的に加熱されて溶融固化現象が生じるとともに、有機系材料による銅系酸化物層の還元と有機系材料の熱分解(ガス化)とが生じて、銅系粉末層の表面から銅系酸化物層と有機被覆層とが除去(消失)される。
ここで、有機被覆層による銅系粉末の被覆率を50%以上とした理由は、有機被覆層の被覆率が50%未満であると、銅系粉末表面のレーザ光の照射による加熱条件下で、還元されない領域が、還元される領域よりも多くなり、得られる積層造形物中の酸素含有量の低減化効果が小さくなるとともに、スキージング時の有機被覆銅系粉末の流動性も悪くなるからである。
また、有機被覆層の厚さは、好ましくは0.15nm以上20.0nm以下、より好ましくは0.20nm以上5.0nm以下の範囲内である。有機被覆層の厚さが上記範囲の下限値以上であると、銅系粉末に含まれる酸化物に対する還元性が十分である。有機被覆層の厚さが上記範囲の上限値以下であると、有機被覆層が銅系粉末層から十分に除去される。
【0019】
≪有機系材料≫
本発明で使用する有機系材料は、1.2μm以下の波長を有するレーザの照射による加熱条件下で還元性および熱分解性を示すものであればよい。このような有機系材料は、銅系粉末の表面への被覆性(濡れ性)、ハンドリング、コスト、および長期製造安定性の点で、炭素数が8〜16の炭化水素から構成されることが好ましい。炭素数が8〜16の炭化水素としては、例えば、C
8H
18(オクタン)、C
9H
20(ノナン)、C
10H
22(デカン)、C
12H
26(ドデカン)、C
15H
32(ペンタデカン)、C
16H
34(ヘキサデカン)等のアルカン(化学式:C
nH
2n+2(8≦n≦16))、C
8H
16(オクテン)、C
9H
18(ノネン)、C
10H
20(デセン)、C
12H
24(ドデセン)、C
16H
32(ヘキサデセン)等のアルケン(化学式:C
nH
2n(8≦n≦16))や、C
8H
14(オクチン)、C
9H
16(ノニン)、C
10H
18(デシン)、C
12H
22(ドデシン)、C
16H
30(ヘキサデシン)等のアルキン(化学式:C
nH
2n−2(8≦n≦16))、またはC
12H
24O
2(デカン酸エチル)等のエステル、C
12H
26O(5、9−ジメチル−1−デカノール)等のアルコールが挙げられる。これらの中で、銅系粉末の表面への被覆性、ハンドリング、コスト、および長期製造安定性の調和を考慮すると、有機系材料として、C
9H
20(ノナン)、C
12H
26(ドデカン)、C
15H
32(ペンタデカン)、C
12H
24O
2(デカン酸エチル)、C
12H
26O(5、9−ジメチル−1−デカノール)を用いることがより好ましい。
【0020】
また、本発明では、上述した有機系材料から構成される有機被覆層で銅系粉末の表面に被覆する際、有機被覆層を、50%以上の被覆率で銅系粉末の表面に被覆させるために、有機系材料を各種有機溶媒に溶解させた溶液を用いてもよい。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、2−ブタノール、ペンタノール、2−ペンタノール、シクロペンタノール、ヘキサノール、アリルアルコール等の各種アルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等の各種ケトン系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の各種芳香族系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジオキサン等の各種エーテル系溶媒、酢酸メチル、酢酸ブチル等の各種エステル系溶媒、ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン等の各種炭化水素系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド等の各種アミド系溶媒が挙げられる。溶媒は1種類を単独で、または2種類以上を組み合わせて、あるいは水を添加して用いることができる。
有機溶媒の沸点は、特に限定されないが、レーザ光の照射後に銅系材料の表面に残留せず、形成される有機被覆層の欠陥をより少なくし、銅系粉末に対する付着性をよくする点で、250℃未満であるものが好ましく、180℃未満であるものがより好ましい。
【0021】
本発明では、例えば、
図2に示すように、本発明の有機系材料、または本発明の有機系材料を上記した有機溶媒に均一に溶解させた溶液を、スターラー等の攪拌手段を備えた所定の容器に所定量投入した後、該容器内に本発明の銅系粉末を所定量投入し、続いて、銅系粉末が、有機系材料、または、有機系材料を有機溶媒に溶解させた溶液中、均一に分散し、かつ、銅系粉末表面に有機系材料が50%以上の被覆率で被覆するまで上記攪拌手段で攪拌を行って銅系粉末に有機被覆処理を施し、その後、有機被覆処理を施した有機被覆処理銅系粉末が分散している、有機系材料または有機系材料を有機溶媒に溶解させた溶液を、濾過手段に投入して、有機被覆処理銅系粉末と有機系材料または有機系材料を有機溶媒に溶解させた溶液とを濾別し、得られた有機被覆処理銅系粉末を、大気圧および常温の雰囲気、または、必要に応じて減圧および所定温度への加熱の雰囲気で、乾燥させ、
図1に示すような本発明の有機被覆銅系粉末を得ることができる。
【0022】
<銅系酸化物層:1.0〜100nm>
本発明では、銅系粉末の表面と前記有機被覆層との間に、膜厚が1.0〜100nmである銅系酸化物層をさらに有することが好ましい。銅系酸化物層を1.0nm以上の膜厚で形成することにより、銅系粉末に銅系酸化物を形成する処理を施していない未処理(自然酸化膜のみを有する銅系粉末)に比べて、1.2μm以下の波長のレーザの光吸収率を確実に向上させることができる。また、銅系酸化物の膜厚が100nmを超えると、レーザ光照射時の有機系材料による銅系酸化物層の還元が十分に行われず、一部の銅系酸化物層が残存することになるため好ましくない。
【0023】
<銅系粉末の積算粒度分布:d50(10〜50μm)、d10(1〜30μm)>
また、本発明では、銅系粉末は、体積基準で測定して得られる積算粒度分布の、50%粒子径d50を10〜50μm、かつ10%粒子径d10を1〜30μmとすることが好ましい。なお、ここでいう「50%粒子径d50」は、メジアン径ともいい、体積基準で測定して得られる積算粒度分布において、銅系粉末を小さい側から積算して50%体積となるときの粒子径を意味する。さらに、「10%粒子径d10」は、体積基準で測定して得られる積算粒度分布において、銅系粉末を小さい側から積算して10%体積となるときの粒子径を意味する。加えて、後述する「90%粒子径d90」は、体積基準で測定して得られる積算粒度分布において、銅系粉末を小さい側から積算して90%体積となるときの粒子径を意味する。
【0024】
加えて、体積基準で測定して得られる積算粒度分布の90%粒子径(d90)が30〜70μmであることが、粉末の流動性・スキージング性の確保と、現行のレーザのエネルギー密度では粉末が溶融すること、積層造形技術の特徴である微細な構造の作製をすること、等のバランスを取る点で好ましい。90%粒子径d90が30μm未満だと、粉末の流動性・スキージング性を確保する点と、大きな粒子を使うことによりできてしまう不可避な空隙を結果的に埋めることができないという問題が生じるおそれがあり、また、90%粒子径d90が70μm超えだと、現行のレーザのエネルギー密度では粉末が溶融しきらないという問題と、積層造形技術の特徴である微細な構造の作製ができないという問題が生じるおそれがあるからである。
【0025】
≪銅系粉末≫
また、有機被覆銅系粉末を構成する銅系粉末は、銅粉末か、あるいは、Niを0質量%超40.0質量%以下含有し、残部が銅および不可避的不純物である組成を有する銅合金粉末であることが好ましい。また、有機被覆銅系粉末を構成する銅系粉末は、銅粉末のみや銅合金粉末のみでもよく、銅粉末と銅合金粉末との混合粉末でもよい。
【0026】
<銅粉末>
銅粉末は、銅および不可避的不純物からなる。本発明の好ましい銅粉末としては、例えば、銅を99.0質量%以上含んでいることが好ましい。このような銅粉末は、熱伝導性、絞り性、耐食性、および耐候性に優れた素材であり、本発明の積層造形物である熱交換器、モーターのブラシ、ブレーキパッド、スリップリング、電極、および軸受等に好適な素材である。
【0027】
<銅合金粉末>
銅合金粉末は、Niを0質量%超40.0質量%以下含有し、残部が銅および不可避的不純物である組成を有することが好ましい。
【0028】
<Ni:0質量%超40.0質量%以下>
Ni(ニッケル)は、耐食性を向上させるだけではなく、1.2μm以下の波長を有するレーザ光、特に1.065μmの波長を有するファイバーレーザの光吸収率を少量で格段に高め、さらにスキージングの際の銅合金粉末の流動性を高める作用も有する重要な元素である。このため、銅合金粉末は、Niを0質量%超含有することが好ましい。さらに、かかる作用を十分に発揮させるため、Ni含有量は、0.5質量%以上であることがより好ましい。また、Ni含有量が40.0質量%を超えると、銅合金粉末の光吸収性が増加しすぎてしまい、その結果として急激に粉末が溶解し、局部的に沸点近傍まで昇温するおそれがある。そして、一部の溶融金属がプラズマ化してキーホールが生成し、溶融池中で生じる溶融金属の対流により気泡が溶融池中に巻き込まれる現象が起きやすくなる(例えば、溶接学会誌第78巻(2009)第2号、p.124〜138)。この現象が起きると、積層造形物の内部にポロシティ(空隙率)が形成され、このポロシティを1%以下にすることができなくなる。このため、Ni含有量は、0.5〜40.0質量%の範囲とすることがより一層好ましい。また、Niは、少量でもレーザの光吸収率を高めることが可能であるが、スキージングの際の素材粉末の流動性を重視する場合には、Ni含有量を3.0質量%以上とすることがさらにより一層好ましい。
【0029】
また、第1の実施形態の素材粉末(銅系粉末)に含まれる不可避的不純物とは、概ね素材粉末(銅系粉末)において、原料中に存在するものや、製造工程において不可避的に混入するもので、本来は不要なものであるが、微量であり、概ね1.00質量%以下である。不可避的不純物としては、例えば、酸素、リン、鉛、硫黄等の成分が挙げられ、各成分の含有量は、いずれも0.30質量%以下で、合計で1.00質量%以下であることが好ましい。
【0030】
(第2の実施形態(積層造形物))
第2の実施形態の積層造形物は、上述した有機被覆銅系粉末を用いて形成された銅系材料からなる積層造形物であって、酸素含有量が500ppm以下であって、好ましくは、銅系材料の理論密度に対する空隙率が1%以下である。
【0031】
<積層造形物の酸素含有量:500ppm以下>
本実施形態の積層造形物において、酸素含有量を500ppm以下に限定した理由は、従来の銅系粉末を用いて形成した、銅系材料から構成される積層造形物は、酸素含有量が500ppmより多くなって、強度等の機械的特性が、鋳造品(バルク)に比べて劣っていた。このため、本実施形態では、上述したように、レーザ光の照射による加熱条件下で、還元性および熱分解性を示す有機系材料から構成される有機被覆層を、銅系粉末の表面に、50%以上の被覆率で形成することにより、銅系粉末表面の酸化物層が効率よく還元されて、得られる積層造形物中の酸素含有量の低減化効果が大きくなり、積層造形物中の酸素含有量を500ppm以下と従来の積層造形物に比べて低減することができ、その結果、強度等の機械的特性が、鋳造品(バルク)と同等レベルである積層造形物を製造することができる。
【0032】
<積層造形物の空隙率:1%以下>
本実施形態の積層造形物において、銅系材料の理論密度に対する空隙率を0%以上1%以下に限定した理由は、従来の銅系粉末を用いて形成した、銅系材料から構成される積層造形物は、空隙率が1%よりも大きくなっていたが、本実施形態では、上述したように銅系粉末の粒径サイズおよび粒度分布の適正化を図ることによって、空隙率が1%以下である高密度の銅系材料で構成された積層造形物を形成することができたためである。なお、空隙率が0%である場合は、バルクの銅系材料の理論密度と同じであることを意味し、本実施形態の積層造形物は、銅系材料(バルク)と同等である高密度の銅系材料で構成することができる。
【0033】
(第3の実施形態(積層造形物の製造方法))
<レーザ積層造形装置>
第3の実施形態の積層造形物の製造方法は、例えば、
図3に示すようなパウダー・ベッド方式のレーザ積層造形装置20を用いて、上述した、素材粉末である有機被覆銅系粉末1で粉末層Aを形成する第1工程と、形成した粉末層Aの所定位置に存在する有機被覆銅系粉末を溶融させ、前記レーザ光の照射による加熱条件下で有機被覆銅系粉末を構成する銅系酸化物層や有機被覆層を還元や熱分解により消失させて実質的に銅系材料からなる溶融部11を生成した後、これを固化して造形層を形成する第2工程とを含み、第1工程と第2工程とを順次繰り返して造形層を積層することによって積層造形物12を製造することができる。より具体的には、昇降可能な造形・加工テーブル9のベースプレート8上に、有機被覆銅系粉末1等を含む素材粉末を、リコータからなるリコータープレート7を用いるスキージングによって例えば0.05mm程度の厚さで敷き詰めて薄い粉末層Aを形成し(第1工程)、次いでCADデータに基づきファイバーレーザの光を照射し、粉末層Aのレーザ光照射部分のみを溶融させて溶融部11を生成した後、これを固化させて造形層を形成し(第2工程)、さらに新たな粉末層Aの形成とファイバーレーザ10による光照射とをレーザ積層造形装置(いわゆる3Dプリンタ)20を用いて繰り返し行うことによって、積層造形物12を製造すればよい。
【0034】
また、用途に応じた要求特性を得るため、必要に応じて、造形層を繰り返し積層させて所定厚さの繰り返し積層を形成する、繰り返し積層工程が終了した後に、熱処理工程および鍛造処理工程の少なくとも一方の工程をさらに施すことが好ましい。
【0035】
さらに、素材粉末を均一にスキージングする際に、リコーターブレード7に5kHz以上の高周波を印可することが積層造形物12のポロシティ(空隙率)を小さくできる点でより好適である。これは、スキージングを行う際に使用するリコーターブレード7のブレードの表面にある極めて微細な表面傷(大きさ:〜10μm)に有機被覆銅系粉末1が固着して均一にスキージングできない現象に対して、振動を付与することで改善するものである。これにより有機被覆銅系粉末1がより均一に分散することで、比較的大きな粒子径をもつ素材粉末同士の空隙が均一になるとともに、この空隙に比較的小さな粒子径をもつ素材粉末が入り込みやすくなり、素材粉末間の熱抵抗が均一になることでファイバーレーザ10による光エネルギーが熱エネルギーに変換されたものがより均一に粉末層Aに拡散することで溶融部11の凝固後の空隙率が改善されるためである。
【0036】
(第4の実施形態(本発明の積層造形物の用途))
第4の実施形態の積層造形物は、広範な技術分野で用いられている種々の銅系材料の金属部品に適用することができる。その中で、特に好適な用途としては、熱交換器、モーターのブラシ、ブレーキパッド、スリップリング、電極、軸受等が挙げられる。
【0037】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例】
【0038】
次に、本発明の効果をさらに明確にするために、実施例および比較例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1〜13)
<銅系粉末の作製>
表1に示す銅系粉末の各成分組成となるように各成分を秤量し、秤量した成分を溶解炉内に投入して溶解し、銅系素材(インゴット)を作製した。作製した銅系素材(インゴット)を機械的に粉砕し、粉砕した銅系素材の粉砕物をガスアトマイズ装置にて溶解後に噴霧して
図1に示すような実施例1〜13の銅系粉末3を得た。なお、微細粉末を得るために、ガスアトマイズ装置の噴霧槽内は、85体積%N
2と15体積%H
2との混合ガス、もしくはHeガスを充填した雰囲気とした。回収された銅系粉末3(粒子)は、ふるいにかけて分粒を実施した。なお、分粒されたものの粒度分布は、レーザ回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製SALD-2300)で測定し、体積基準で測定して得られる積算粒度分布の、50%粒子径(d50)、10%粒子径(d10)および90%粒子径(d90)を求めた。また、平均粒径は、同様の方法で求めた。
【0040】
<有機被覆銅系粉末の作製>
次に、表1に示す、実施例1〜13の各有機系材料を秤量し、秤量した各有機系材料2を、
図2に示すような有機溶媒4が収容されている容器5に投入し、次いで、図示しない攪拌手段であるスターラーを介して有機溶媒4を攪拌し、有機系材料2を有機溶媒4に溶解させた、所定濃度の実施例1〜13の各有機系材料2の各有機系材料溶液(不図示)を調整した。続いて、これら各有機系材料溶液が収容されている各容器5に実施例1〜13の各銅系粉末3を投入し、図示しないスターラーを介して、常温下または80℃以下で有機系材料溶液を1〜360分攪拌した後、各有機系材料溶液を常温下または80℃以下で1〜120分間静置し、実施例1〜13の各有機系材料で表面に被覆処理を施した、図示しない各有機被覆銅系粉末が分散または沈殿してなる銅系粉末と有機系材料との混合溶液6を得た。
【0041】
続いて、銅系粉末と有機系材料との混合溶液6を、当該分野で従来公知の濾過手段に投入して、図示しない有機被覆処理銅系粉末と有機系材料とを濾別し、得られた有機被覆処理銅系粉末を、金属粉末の乾燥が可能な当該分野で従来公知の乾燥装置(ベーキング装置)に投入し、所定の温度および所定の圧力(大気圧または減圧)で有機被覆処理銅系粉末の乾燥処理を行って有機溶媒4および水分を除去し乾燥させ、表1に示す実施例1〜13の有機被覆銅系粉末1を得た。
【0042】
(比較例1〜2)
<銅系粉末の作製>
比較例1〜2についても、上述の実施例1〜13と同様にして、表1に示す銅系粉末を作製した。まず、
図1に示すような比較例1〜2の銅系粉末3を作製した後、微細粉末を得るための分粒を実施し、引き続き、分粒されたものの粒度分布について、レーザ回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製SALD-2300)で測定し、体積基準で測定して得られる積算粒度分布の、50%粒子径(d50)、10%粒子径(d10)および90%粒子径(d90)を求め、さらに、平均粒径を同様の方法で求めた。
【0043】
<有機被覆銅系粉末の作製>
続いて、比較例1では、有機系材料を有機溶媒に溶解させないこと以外、上述の実施例と同様にして、表1に示す比較例1の銅系粉末(有機系材料から構成される有機被覆層を形成しない「ブランク」とした)を得た。また、比較例2では、有機溶媒に溶解させる有機系材料の量を減らして有機系材料溶液中の有機系材料の濃度を低くしたこと以外、上述の実施例と同様にして、比較例2の有機被覆銅系粉末を得た。
【0044】
<性能評価>
なお、実施例1〜13および比較例2の各有機被覆銅系粉末、並びに、有機系材料を被覆しなかった比較例1のブランクの銅系粉末の流動性について、Carrの指数票による流動性評価(安息角、スパチュラ角、圧縮度、凝集度(または均一度)の測定による点数付け)を行ったところ、実施例1〜13および比較例2の各有機被覆銅系粉末は、比較例1のブランクに比べ、流動性が向上していることが確認された。
また、実施例1〜13および比較例2の各有機被覆銅系粉末の流動性を比較すると、実施例1〜13は、比較例2に比べ、流動性が優れていることが確認された。
また、実施例1〜13および比較例2の各有機被覆銅系粉末の有機被覆層の厚さをXPSで観察すると、厚さは0.60nm以上10.0nm以下の範囲内であることが確認された。
【0045】
次に、
図3に示すようなレーザ積層造形装置としてConcept Laser M2(波長1065nm、出力400W)のベースプレート8上に、リコーターブレード7を介して、所定量の有機被覆銅系粉末1からなる粉末層Aを形成する第1工程を行った。ベースプレート8は、昇降可能な造形・加工テーブル9を介して鉛直方向の任意の位置に設定できるようになっている。その後、粉末層Aの所定領域に存在する有機被覆銅系粉末1をファイバーレーザ10により溶融させて溶融部11を生成し、続いて溶融部11を固化させて第1の造形層を形成する第2工程を行い、その後第1工程と第2工程とを交互に繰り返し、第1の造形層上に、第2以降の造形層を順次積層形成することにより、サイズが130mm×20mm×9mmの積層造形物12(銅系部品)を作製し、表面の粉末の除去及び平滑面を確保すべく切削加工にて120mm×14mm×3mmのテストピースを作製した。作製した各造形物(銅系部品)を、アルキメデス法によって見掛け密度の測定を実施し、真密度(バルクの理論密度)との差異から以下の式を用いて空隙率(%)を試算した。
空隙率(%)=(真密度−見掛け密度)÷真密度×100
【0046】
積層造形物12(銅系部品)の素材として使用した各素材粉末の、平均粒径、d10、d50、d90および銅系酸化物層の膜厚、ならびに各積層造形物12(銅系部品)の空隙率(%)、酸素含有量および総合判定を表1に示す。なお、総合判定は、積層造形物12(銅系部品)中の空隙率、酸素含有量、耐疲労特性および耐食性のそれぞれの結果を踏まえて、以下に示す基準によって、「○」、「△」および「×」の3段階で総合的に判定し、「○」および「△」を合格レベルとした。
【0047】
造形物(銅系部品)中の酸素含有量は、500ppm以下である場合を合格レベルとし、500ppm超えである場合を不合格とした。
造形物(銅系部品)中の空隙率は、1%以下である場合を合格レベルとし、1%超えである場合を不合格とした。
耐疲労特性は、平面曲げ疲労試験機(東京衡機エンジニアリング社製)により疲労試験を行い、疲労破断回数を測定し、疲労寿命が5000回以上の場合を「○」とし、3000回以上5000回未満の場合を「△」とし、3000回未満を「×」とし、本実施例では、「○」を合格レベルとした。
耐食性は、JIS Z 2371:2015に準拠して塩水噴霧試験を行い、1000時間後のサンプル質量の変化率から0.1%未満の場合を「◎」、0.1%以上0.5%未満の場合を「○」とし、0.5%以上1.0%未満の場合を「△」とし、1.0%以上の場合を「×(不可)」とし、本実施例では、「◎」、「○」、「△」を合格レベルとした。
【0048】
<総合判定>
○:酸素含有量が500ppm以下であり、空隙率、耐疲労特性および耐食性のいずれもが合格レベルである場合。
△:酸素含有量が500ppm以下であり、空隙率が不合格、または耐疲労特性および耐食性のうちの少なくとも一つが「△」である場合。
×:酸素含有量が500ppm超である場合。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示す結果で、実施例1〜13はいずれも、銅系粉末における平均粒径および有機被覆層の被覆率が本発明の適正範囲内であるため、これらの有機被覆銅系粉末を用いて作製したテストピースの積層造形物で、酸素含有量が500ppm以下であり、総合判定が合格レベルであった。一方、比較例1は、有機被覆層を有しておらず、このため、酸素含有量が1900ppmと高く、総合判定が不合格レベルであった。比較例2は、有機被覆層の被覆率が30%と低いため、総合判定が不合格レベルであった。
【符号の説明】
【0051】
1 有機被覆銅系粉末
2 有機系材料
3 銅系粉末
4 有機溶媒
5 容器
6 混合溶液
7 リコーターブレード
8 ベースプレート
9 造形・加工テーブル
10 ファイバーレーザ
11 溶融部
12 積層造形物
20 レーザ積層造形装置
A 粉末層