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特開2020-190016電子部品用金属材料、接続用部品、コネクタ端子及び電子部品
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  • 特開2020190016-電子部品用金属材料、接続用部品、コネクタ端子及び電子部品 図000031
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-190016(P2020-190016A)
(43)【公開日】2020年11月26日
(54)【発明の名称】電子部品用金属材料、接続用部品、コネクタ端子及び電子部品
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/12 20060101AFI20201030BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20201030BHJP
   C25D 5/48 20060101ALI20201030BHJP
   H01R 13/03 20060101ALI20201030BHJP
【FI】
   C25D5/12
   C25D7/00 H
   C25D5/48
   H01R13/03 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2019-96315(P2019-96315)
(22)【出願日】2019年5月22日
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】児玉 篤志
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 智
【テーマコード(参考)】
4K024
【Fターム(参考)】
4K024AA03
4K024AA07
4K024AA09
4K024AA11
4K024AA12
4K024AA14
4K024AB04
4K024BA09
4K024BB10
4K024CA04
4K024CA06
4K024DB01
4K024DB03
4K024GA03
4K024GA16
(57)【要約】
【課題】低ウィスカ性、低凝着磨耗性及び高耐久性を有する電子部品用金属材料、それを備えた接続用部品、コネクタ端子及び電子部品を提供する。
【解決手段】基材と、基材上に形成された、Ni、Cr、Mn、Fe、Co、P及びCuからなる群であるA構成元素群から選択された1種又は2種以上で構成された下層と、下層上に形成された、A構成元素群から選択された1種又は2種以上と、Sn及びInからなる群であるB構成元素群から選択された1種又は2種との合金で構成された中層と、中層上に形成された、B構成元素群から選択された1種又は2種と、Ag、Au、Pt、Ru、Rh、Os及びIrからなる群であるC構成元素群から選択された1種又は2種以上との合金で構成された上層と、上層上に形成された、B構成元素群から選択された1種又は2種と、Ni及びCoからなる群であるD構成元素群から選択された1種又は2種との合金で構成された最表層とを備えた電子部品用金属材料。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に形成された、Ni、Cr、Mn、Fe、Co、P及びCuからなる群であるA構成元素群から選択された1種又は2種以上で構成された下層と、
前記下層上に形成された、前記A構成元素群から選択された1種又は2種以上と、Sn及びInからなる群であるB構成元素群から選択された1種又は2種との合金で構成された中層と、
前記中層上に形成された、前記B構成元素群から選択された1種又は2種と、Ag、Au、Pt、Ru、Rh、Os及びIrからなる群であるC構成元素群から選択された1種又は2種以上との合金で構成された上層と、
前記上層上に形成された、前記B構成元素群から選択された1種又は2種と、Ni及びCoからなる群であるD構成元素群から選択された1種又は2種との合金で構成された最表層と、
を備えた電子部品用金属材料。
【請求項2】
前記下層の平均厚みが0.05μm以上5.00μm未満であり、
前記中層の平均厚みが0.01μm以上0.40μm未満であり、
前記上層の平均厚みが0.02μm以上1.00μm未満であり、
前記最表層の平均厚みが0.02μm以上0.2μm未満である請求項1に記載の電子部品用金属材料。
【請求項3】
前記最表層の被覆率が50%以上である請求項1又は2に記載の電子部品用金属材料。
【請求項4】
前記上層が、前記B構成元素群の金属を10〜50at%含有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の電子部品用金属材料。
【請求項5】
前記最表層が、前記B構成元素群の金属を35at%以上含有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の電子部品用金属材料。
【請求項6】
前記中層が、前記B構成元素群の金属を35at%以上含有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の電子部品用金属材料。
【請求項7】
超微小硬さ試験により、前記最表層の表面に荷重1mNで打痕を打って測定して得られた硬度である、前記最表層の表面の押し込み硬さが1000MPa以上10000MPa以下である請求項1〜6のいずれか一項に記載の電子部品用金属材料。
【請求項8】
前記最表層の表面の算術平均高さ(Ra)が0.3μm以下である請求項1〜7のいずれか一項に記載の電子部品用金属材料。
【請求項9】
前記最表層の表面の最大高さ(Rz)が3μm以下である請求項1〜8のいずれか一項に記載の電子部品用金属材料。
【請求項10】
前記下層の断面のビッカース硬さがHv300以上、1000以下である請求項1〜9のいずれか一項に記載の電子部品用金属材料。
【請求項11】
前記最表層上に、
下記一般式〔1〕または〔2〕で表される化合物と、
下記一般式〔3〕で表される化合物と、
下記一般式〔4〕〜〔8〕で表されるE構成化合物群から選択された1種又は2種以上と、
を有する請求項1〜10のいずれか一項に記載の電子部品用金属材料。
【化1】
【化2】
(式〔1〕、〔2〕において、R1及びR2は、それぞれアルキル又は置換アルキルを表し、M1は水素又はアルカリ金属を表す。)
【化3】
(式〔3〕において、R3は水素又はアルカリ金属を表す。)
【化4】
(式〔4〕において、R4及びR5は、それぞれアルキル又は置換アルキルを表し、M2はアルカリ金属又はアルカリ土類金属を表し、nは整数を表す。)
【化5】
(式〔5〕において、R6は水素、アルキル又は置換アルキルを表し、R7はアルカリ金属、水素、アルキル又は置換アルキルを表す。)
【化6】
(式〔6〕において、n及びmは、それぞれ整数を表す。)
【化7】
(式〔7〕において、R8はアルキル又は置換アルキルを表す。)
【化8】
(式〔8〕において、R9及びR10は、それぞれアルキル又は置換アルキルを表す。)
【請求項12】
前記E構成化合物群の付着量が、合計で0.005〜10.0μg/mm2である請求項11に記載の電子部品用金属材料。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の電子部品用金属材料を備えた接続用部品。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の電子部品用金属材料を備えたコネクタ端子。
【請求項15】
ハウジングに取り付ける装着部の一方側にメス端子接続部が、他方側に基板接続部がそれぞれ設けられ、前記基板接続部を基板に形成されたスルーホールに圧入して前記基板に取り付ける圧入型端子に、請求項1〜12のいずれか一項に記載の電子部品用金属材料を備えた電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品用金属材料、接続用部品、コネクタ端子及び電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
民生用及び車載用電子機器用接続用部品であるコネクタには、黄銅やリン青銅の表面にNiやCuの下地めっきを施し、さらにその上にSn又はSn合金めっきを施した材料が使用されている。Sn又はSn合金めっきは、一般的に低接触抵抗及び高はんだ濡れ性という特性が求められ、更に近年めっき材をプレス加工で成形したオス端子及びメス端子勘合時の挿入力の低減化も求められている。また、製造工程でめっき表面に、短絡等の問題を引き起こす針状結晶であるウィスカが発生することがあり、このウィスカを良好に抑制する必要もある。
【0003】
これに対し、特許文献1には、接点基材と、前記接点基材の表面に形成されたNiもしくはCoまたは両者の合金から成る下地層と、前記下地層の表面に形成されたAg−Sn合金層とを備え、前記Ag−Sn合金層におけるSnの平均濃度は10質量%未満であり、かつ前記Ag−Sn合金層におけるSnの濃度は前記下地層との界面から前記Ag−Sn合金層の表層部にかけて増大する濃度勾配で変化していることを特徴とする電気接点材料が開示されている。そしてこれによれば、耐摩耗性、耐食性、加工性が優れている電気接点材料を極めて安価に製造することができると記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、少なくとも表面がCuまたはCu合金から成る基体の前記表面に、NiまたはNi合金層から成る中間層を介して、いずれもAg3Sn(ε相)化合物を含有する厚み0.5〜20μmのSn層またはSn合金層から成る表面層が形成されていることを特徴とする電気・電子部品用材料が開示されている。そしてこれによれば、表面層はSnより低融点であり、はんだ付け性に優れ、またウィスカの発生もなく、はんだ付け後に形成された接合部の接合強度が高いと同時に、その接合強度の高温下における経時的な低下も起こりづらいのでリード材料として好適であり、また高温環境下で使用したときでも接触抵抗の上昇が抑制され、相手材との間で接続信頼性の低下を招くこともないためコンタクト材料としても好適な電気・電子部品用材料とその製造方法、およびその材料を用いた電気・電子部品の提供を目的とすることが記載されている。
【0005】
また特許文献3には、導電性を有する基材と、前記基材に形成された被覆層とを備えた被覆材において、前記被覆層は少なくとも表面側に、Snと、貴金属との金属間化合物を含むことを特徴とする被覆材が開示されている。そしてこれによれば、接触抵抗が低く、低摩擦係数を有して挿入力の低減に有効であって、かつ、耐酸化性に優れて長期に亘って安定した特性を有する被覆材、及びその製造方法の提供を目的とすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−370613号公報
【特許文献2】特開平11−350189号公報
【特許文献3】特開2005−126763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、近年求められている挿入力の低減化やウィスカ発生の有無との関係が明らかになっていない。またAg−Sn合金層におけるSnの平均濃度は10質量%未満であり、Ag−Sn合金層中のAgの割合がかなり多いため本発明者らの評価では、塩素ガス、亜硫酸ガス、硫化水素等のガスに対する耐ガス腐食性が十分ではなかった。
【0008】
また、特許文献2に記載の技術は、Ag3Sn(ε相)化合物を含有する厚み0.5〜20μmのSn層またはSn合金層から成る表面層であり、本発明者らの評価では、この表面層厚みでは十分に挿入力を下げることはできない領域が存在した。更にSn層またはSn合金層から成る表面層のAg3Sn(ε相)の含有量が、Ag換算にして0.5〜5質量%であるとも記載されており、Sn層またはSn合金層から成る表面層におけるSnの割合が多く、Sn層またはSn合金層から成る表面層の厚みも厚いために本発明者らの評価ではウィスカが発生し、耐微摺動磨耗性が十分ではなかった。耐熱性やはんだ濡れ性も十分ではなかった。
【0009】
また、特許文献3に記載の技術では、被覆層がSnと、貴金属との金属間化合物を含んでいるが、Snと貴金属との金属間化合物(Ag3Sn)の厚みが好ましくは1μm以上3μm以下となっている。本発明者らの評価では、この厚みでは、十分に挿入力を下げることができなかった。
【0010】
このように、従来のSn−Ag合金/Ni下地めっき構造を有する電子部品用金属材料にはまだ十分に挿入力を下げることができず、またウィスカが発生するという問題が残されていた。また耐久性(耐熱性、はんだ濡れ性、耐微摺動磨耗性及び耐ガス腐食性)についても十分満足できる仕様とすることは困難であり、明らかになっていない。
【0011】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、低ウィスカ性、低凝着磨耗性及び高耐久性を有する電子部品用金属材料、それを備えた接続用部品、コネクタ端子及び電子部品を提供することを課題とする。なお、凝着磨耗とは固体間の真実接触面積を構成する凝着部分が、摩擦運動によりせん断されることに基因して生ずる摩耗現象のことをいう。この凝着磨耗が大きくなると、オス端子とメス端子を勘合した時の挿入力が高くなる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討の結果、基材上に下層と中層と上層と最表層とを順に設け、下層と中層と上層と最表層とに所定の金属を用いることで、低ウィスカ性、低凝着磨耗性及び高耐久性を有する電子部品用金属材料を作製することができることを見出した。
【0013】
以上の知見を基礎として完成した本発明の実施形態は一側面において、基材と、前記基材上に形成された、Ni、Cr、Mn、Fe、Co、P及びCuからなる群であるA構成元素群から選択された1種又は2種以上で構成された下層と、前記下層上に形成された、前記A構成元素群から選択された1種又は2種以上と、Sn及びInからなる群であるB構成元素群から選択された1種又は2種との合金で構成された中層と、前記中層上に形成された、前記B構成元素群から選択された1種又は2種と、Ag、Au、Pt、Ru、Rh、Os及びIrからなる群であるC構成元素群から選択された1種又は2種以上との合金で構成された上層と、前記上層上に形成された、前記B構成元素群から選択された1種又は2種と、Ni及びCoからなる群であるD構成元素群から選択された1種又は2種との合金で構成された最表層とを備えた電子部品用金属材料である。
【0014】
本発明の電子部品用金属材料は一実施形態において、前記下層の平均厚みが0.05μm以上5.00μm未満であり、前記中層の平均厚みが0.01μm以上0.40μm未満であり、前記上層の平均厚みが0.02μm以上1.00μm未満であり、前記最表層の平均厚みが0.02μm以上0.2μm未満である。
【0015】
本発明の電子部品用金属材料は別の一実施形態において、前記最表層の被覆率が50%以上である。
【0016】
本発明の電子部品用金属材料は更に別の一実施形態において、前記上層が、前記B構成元素群の金属を10〜50at%含有する。
【0017】
本発明の電子部品用金属材料は更に別の一実施形態において、前記最表層が、前記B構成元素群の金属を35at%以上含有する。
【0018】
本発明の電子部品用金属材料は更に別の一実施形態において、前記中層が、前記B構成元素群の金属を35at%以上含有する。
【0019】
本発明の電子部品用金属材料は更に別の一実施形態において、超微小硬さ試験により、前記最表層の表面に荷重1mNで打痕を打って測定して得られた硬度である、前記最表層の表面の押し込み硬さが1000MPa以上10000MPa以下である。
【0020】
本発明の電子部品用金属材料は更に別の一実施形態において、前記最表層の表面の算術平均高さ(Ra)が0.3μm以下である。
【0021】
本発明の電子部品用金属材料は更に別の一実施形態において、前記最表層の表面の最大高さ(Rz)が3μm以下である。
【0022】
本発明の電子部品用金属材料は更に別の一実施形態において、前記下層の断面のビッカース硬さがHv300以上、1000以下である。
【0023】
本発明の電子部品用金属材料は更に別の一実施形態において、前記最表層上に、下記一般式〔1〕または〔2〕で表される化合物と、下記一般式〔3〕で表される化合物と、下記一般式〔4〕〜〔8〕で表されるE構成化合物群から選択された1種又は2種以上とを有する。
【化1】
【化2】
(式〔1〕、〔2〕において、R1及びR2は、それぞれアルキル又は置換アルキルを表し、M1は水素又はアルカリ金属を表す。)
【化3】
(式〔3〕において、R3は水素又はアルカリ金属を表す。)
【化4】
(式〔4〕において、R4及びR5は、それぞれアルキル又は置換アルキルを表し、M2はアルカリ金属又はアルカリ土類金属を表し、nは整数を表す。)
【化5】
(式〔5〕において、R6は水素、アルキル又は置換アルキルを表し、R7はアルカリ金属、水素、アルキル又は置換アルキルを表す。)
【化6】
(式〔6〕において、n及びmは、それぞれ整数を表す。)
【化7】
(式〔7〕において、R8はアルキル又は置換アルキルを表す。)
【化8】
(式〔8〕において、R9及びR10は、それぞれアルキル又は置換アルキルを表す。)
【0024】
本発明の電子部品用金属材料は更に別の一実施形態において、前記E構成化合物群の付着量が、合計で0.005〜10.0μg/mm2である。
【0025】
本発明の実施形態は別の一側面において、本発明の実施形態に係る電子部品用金属材料を備えた接続用部品である。
【0026】
本発明の実施形態は更に別の一側面において、本発明の実施形態に係る電子部品用金属材料を備えたコネクタ端子である。
【0027】
本発明の実施形態は更に別の一側面において、ハウジングに取り付ける装着部の一方側にメス端子接続部が、他方側に基板接続部がそれぞれ設けられ、前記基板接続部を基板に形成されたスルーホールに圧入して前記基板に取り付ける圧入型端子に、本発明の実施形態に係る電子部品用金属材料を備えた電子部品である。
【発明の効果】
【0028】
本発明の実施形態によれば、低ウィスカ性、低凝着磨耗性及び高耐久性を有する電子部品用金属材料、それを備えた接続用部品、コネクタ端子及び電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の実施形態に係る電子部品用金属材料の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の電子部品用金属材料、それを備えた接続用部品、コネクタ端子及び電子部品の実施形態について説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0031】
<電子部品用金属材料の構成>
図1に示すように、本発明の実施形態に係る電子部品用金属材料10は、基材11上に下層12が形成され、下層12上に中層13が形成され、中層13上に上層14が形成され、上層14上に最表層15が形成されている。
【0032】
(基材)
基材11としては、特に限定されないが、例えば、銅及び銅合金、Fe系材、ステンレス、チタン及びチタン合金、アルミニウム及びアルミニウム合金などの金属基材を用いることができる。また、金属基材に樹脂層を複合させたものであっても良い。金属基材に樹脂層を複合させたものとは、例としてFPCまたはFFC基材上の電極部分などがある。
【0033】
(下層)
下層12は、基材11上に形成されており、Ni、Cr、Mn、Fe、Co、P及びCuからなる群であるA構成元素群から選択された1種又は2種以上で構成されている。Ni、Cr、Mn、Fe、Co、P及びCuからなる群であるA構成元素群から選択された1種又は2種以上の金属を用いて下層12を形成することで、硬い下層12により薄膜潤滑効果が向上して凝着磨耗が低下し、下層12は基材11の構成金属が上層14に拡散するのを防止して耐熱性やはんだ濡れ性などを向上させる。
【0034】
下層12の平均厚みは0.05μm以上であることが好ましい。下層12の平均厚みが0.05μm未満であると、硬い下層による薄膜潤滑効果が低下して凝着磨耗が大きくなることがある。一方、下層12の平均厚みは5.00μm未満であることが好ましい。下層12の平均厚みが5.00μm以上であると曲げ加工性が悪くなることがある。
【0035】
下層12の断面のビッカース硬さはHv300以上、1000以下であることが好ましい。下層断面のビッカース硬さがHv300未満では凝着摩擦が大きくなりやすく、一方硬さがHv1000を超えると曲げ加工性が悪くなることがある。
【0036】
(中層)
中層13は、下層12上に形成されており、A構成元素群から選択された1種又は2種以上と、Sn及びInからなる群であるB構成元素群から選択された1種又は2種との合金で構成されている。Sn及びInは塩素ガス、亜硫酸ガス、硫化水素ガス等のガスに対する耐ガス腐食性に優れ、例えば、下層12に耐ガス腐食性に劣るNi、基材11に耐ガス腐食性に劣る銅及び銅合金を用いた場合には、電子部品用金属材料10の耐ガス腐食性を向上させる働きがある。Ni、Cr、Mn、Fe、Co、P及びCuは、SnやInと比較して皮膜が硬いために凝着磨耗が生じにくく、基材11の構成金属が上層14に拡散するのを防止し、耐熱性試験やはんだ濡れ性劣化を抑制するなどの耐久性を向上させる。
【0037】
中層13の平均厚みは0.01μm以上0.40μm未満であるのが好ましい。中層13の平均厚みが0.01μm未満であると耐熱性が低下する場合がある。一方中層13の平均厚みが0.40μm以上であると曲げ加工性が低下し、めっき削れが発生する場合もある。
【0038】
中層13は、B構成元素群の金属を35at%以上含有することが好ましい。B構成元素群の金属が35at%未満であると、めっきの耐熱性が低下するという問題が生じるおそれがある。
【0039】
(上層)
上層14は、中層13上に形成されており、B構成元素群から選択された1種又は2種と、Ag、Au、Pt、Ru、Rh、Os及びIrからなる群であるC構成元素群から選択された1種又は2種以上との合金で構成されている。
Sn及びInは、酸化性を有する金属ではあるが、金属の中では比較的柔らかいという特徴がある。よって、Sn及びIn表面に酸化膜が形成されていても、例えば電子部品用金属材料を接点材料としてオス端子とメス端子を勘合する時に、容易に酸化膜が削られ、接点が金属同士となるため、低接触抵抗が得られる。
Ag、Au、Pt、Ru、Rh、Os、Irは、金属の中では比較的耐熱性を有するという特徴がある。よって基材11、下層12及び中層13の組成が上層14側に拡散するのを抑制して耐熱性を向上させる。また、これら金属は、上層14のSnやInと化合物を形成してSnやInの酸化膜形成を抑制し、はんだ濡れ性を向上させる。なお、Ag、Au、Pt、Ru、Rh、Os、Irの中では、導電率の観点でAgがより望ましい。Agは導電率が高い。例えば高周波の信号用途にAgを用いた場合、表皮効果により、インピーダンス抵抗が低くなる。
【0040】
上層14の平均厚みは0.02μm以上1.00μm未満であることが好ましい。上層14の厚みが0.02μm未満であると、基材11や下層12の組成が上層14側に拡散しやすくなって耐熱性やはんだ濡れ性が悪くなりやすい。一方、上層14の厚みが1.00μm以上であると、耐熱性などの効果が飽和する一方で製造コストの上昇などの問題が生じるおそれがある。
【0041】
上層14は、B構成元素群の金属を10〜50at%含有することが好ましい。B構成元素群の金属が10at%未満であると、例えばC構成元素群の金属がAgの場合、耐ガス腐食性が悪く、ガス腐食試験を行うと外観が変色する場合がある。一方、B構成元素群の金属が50at%を超えると、上層14におけるB構成元素群の金属の割合が大きくなって接触抵抗が高めになる場合がある。
【0042】
(最表層)
最表層15は、上層14上に形成されており、B構成元素群から選択された1種又は2種と、Ni及びCoからなる群であるD構成元素群から選択された1種又は2種との合金で構成されている。このような合金で構成された最表層15は、耐食性が良好であり、ウィスカが発生しない。さらに皮膜が硬いため低凝着磨耗性でかつ高耐久性を有する。
最表層15の平均厚みは、0.02μm以上0.2μm未満であることが好ましい。最表層の平均厚みが0.02μm未満では耐食性が不足することがあり、最表層の平均厚みが0.2μm以上では接触抵抗が高くなることがある。
【0043】
最表層15の被覆率は50%以上であることが好ましい。被覆率とは、最表層15のめっき面積/電子部品用金属材料10の表面の算術面積(電子部品用金属材料における対象のエリアの縦×横で計算される面積)で定義された値である。最表層15の被覆率が50%未満では、耐食性が不十分になる傾向がある。最表層15の厚さにより最適被覆率が定まり、最表層15が薄い場合には被覆率が高い方が良く、最表層15が厚い場合には被覆率が低めの方が耐食性と接触抵抗のバランスが良くなる。
【0044】
最表層15は、B構成元素群の金属を35at%以上含有することが好ましい。B構成元素の含有量が35at%未満では、接触抵抗が高めになる場合がある。
【0045】
超微小硬さ試験により、最表層15の表面に荷重1mNで打痕を打って測定して得られた硬度である最表層15の表面の押し込み硬さが1000MPa以上10000MPa以下であることが好ましい。最表層15の表面の押し込み硬さが1000MPa未満では凝着摩擦が大きめになることがあり、10000MPaを超えると曲げ加工の際に最表層が割れやすくなることがある。
【0046】
最表層15の表面の算術平均高さ(Ra)は0.3μm以下であることが好ましい。最表層15の表面のRaが0.3μmを超えると凝着摩擦が大きくなる傾向がある。
【0047】
最表層15の表面の最大高さ(Rz)は3μm以下であることが好ましい。最表層15の表面のRzが3μmを超えると凝着摩擦が大きくなる傾向がある。
【0048】
(後処理)
最表層15上に、または上層14上に熱処理を施した後に、更に凝着磨耗を低下させ、また低ウィスカ性及び耐久性も向上させる目的で後処理を施しても良い。後処理によって潤滑性が向上し、更に耐食性も向上し、また最表層15の酸化が抑制されて、耐熱性やはんだ濡れ性等の耐久性を向上させることができる。具体的な後処理としてはインヒビターとリン酸化合物を用いた防錆処理、有機化合物を用いた潤滑処理等がある。
【0049】
後処理は、最表層15の表面に対し、1種又は2種以上のリン酸エステルと、メルカプトベンゾチアゾール系化合物、さらにE構成化合物群(潤滑、防錆剤)を含有する液(以下後処理液と呼ぶ)を用いて行う。
当該後処理液の必須成分の一つであるリン酸エステルは、めっきの酸化防止剤および潤滑剤としての機能を果たす。本発明の実施形態で使用されるリン酸エステルは、一般式〔1〕または〔2〕で表される。一般式〔1〕で表される化合物のうち好ましいものを挙げると、ラウリル酸性リン酸モノエステルなどがある。一般式〔2〕で表される化合物のうち好ましいものを挙げると、ラウリル酸性ジリン酸エステルなどがある。
【化9】

【化10】

(式〔1〕、〔2〕において、R1及びR2は、それぞれアルキル又は置換アルキルを表し、M1は水素又はアルカリ金属を表す。)
【0050】
後処理液のもう一つの必須成分であるメルカプトベンゾチアゾール系化合物は、めっきの酸化防止、腐食防止としての機能を果たす。本発明の実施形態で使用されるメルカプトベンゾチアゾール系化合物のうち好ましいものを挙げると、一般式〔3〕で示されるように、例えばメルカプトベンゾチアゾール、メルカプトベンゾチアゾールのNa塩、メルカプトベンゾチアゾールのK塩などがある。
【化11】
(式〔3〕において、R3は水素又はアルカリ金属を表す。)
【0051】
後処理液に添加されるE構成化合物群は、潤滑、腐食防止としての機能を果たす。本発明の実施形態で使用されるE構成化合物群を一般式〔4〕〜〔8〕で表し、本発明の実施形態ではこれらの中から1種もしくは2種以上が選択され、後処理液に添加される。
一般式〔4〕で表される化合物のなかで好ましいものを挙げると、ジノニルナフタレンスルフォン酸バリウム、ジノニルナフタレンスルフォン酸カルシウム、ジノニルナフタレンスルフォン酸亜鉛、ジノニルナフタレンスルフォン酸ナトリウム、ジノニルナフタレンスルフォン酸リチウムなどがある。
一般式〔5〕で表される化合物のなかで好ましいものを挙げると、ベンゾトリアゾール、ベンゾトリアゾールのNa塩などがある。
一般式〔6〕で表される化合物のなかで好ましいものを挙げると、パラフィンワックス、白色ワセリンなどがある。
一般式〔7〕で表される化合物のなかで好ましいものを挙げると、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、ラウリン酸アミドなどがある。
一般式〔8〕で表される化合物のなかで好ましいものを挙げると、プロピレングリコールt-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどがある。
【化12】
(式〔4〕において、R4及びR5は、それぞれアルキル又は置換アルキルを表し、M2はアルカリ金属又はアルカリ土類金属を表し、nは整数を表す。)
【化13】
(式〔5〕において、R6は水素、アルキル又は置換アルキルを表し、R7はアルカリ金属、水素、アルキル又は置換アルキルを表す。)
【化14】
(式〔6〕において、n及びmは、それぞれ整数を表す。)
【化15】
(式〔7〕において、R8はアルキル又は置換アルキルを表す。)
【化16】
(式〔8〕において、R9及びR10は、それぞれアルキル又は置換アルキルを表す。)
【0052】
E構成化合物群の付着量が、合計で0.005〜10.0μg/mm2であると、潤滑性が良好で、耐食性もより良好になるため好ましい。E構成化合物群の付着量が0.005μg/mm2未満ではめっき材の潤滑性が不充分となるおそれがあり、E構成化合物群の付着量が10.0μg/mm2を超えると外観悪化や接触抵抗が高くなるという不具合が発生することがある。
【0053】
最表層15表面におけるE構成化合物群の上述の付着量を得るために、めっきを拡散または熱処理した後に後処理液中に浸漬処理、または後処理液中で電解処理、あるいは後処理液の塗布などを行う。さらに電解処理のあとに塗布を行うなどの組合せも可能である。
後処理液は、各成分を水中でエマルジョンにしたものや、メタノールなどの有機溶剤に各成分を溶解させたものなどが利用できる。
最表層15表面におけるE構成化合物群の上述の付着量を得るためのリン酸エステルの濃度は、後処理液全体の体積に対して、0.1〜10g/L、好ましくは0.5〜5g/Lである。一方ベンゾチアゾール系化合物濃度は、後処理液全体の体積に対して、0.01〜1.0g/L、好ましくは0.05〜0.6g/Lである。またE構成化合物濃度は、後処理液全体の体積に対して、0.1〜50g/L、好ましくは0.5〜10g/Lである。
後処理に時間的制約は特にないが、工業的観点からは一連の工程で行うのが好ましい。
【0054】
<電子部品用金属材料の製造方法>
本発明の実施形態に係る電子部品用金属材料10の製造方法としては、基材11上に、下層12、中層13、上層14、最表層15をそれぞれめっきで形成することができる。当該めっきとしては、湿式(電気、無電解)めっき、乾式(スパッタ、イオンプレーティング等)めっき等を用いることができる。
【0055】
<電子部品用金属材料の用途>
本発明の電子部品用金属材料の用途は特に限定しないが、例えば電子部品用金属材料を接点部分に備えたコネクタ端子、電子部品用金属材料を接点部分に備えたFFC端子またはFPC端子、電子部品用金属材料を外部接続用電極に備えた電子部品などが挙げられる。なお、端子については、圧着端子、はんだ付け端子、プレスフィット端子等、配線側との接合方法によらない。外部接続用電極には、タブに表面処理を施した接続用部品や半導体のアンダーバンプメタル用に表面処理を施した材料などがある。
【0056】
また、このように形成されたコネクタ端子を用いてコネクタを作製しても良く、FFC端子またはFPC端子を用いてFFCまたはFPCを作製しても良い。
【0057】
また本発明の電子部品用金属材料は、ハウジングに取り付ける装着部の一方側にメス端子接続部が、他方側に基板接続部がそれぞれ設けられ、該基板接続部を基板に形成されたスルーホールに圧入して該基板に取り付ける圧入型端子に用いても良い。
【0058】
コネクタはオス端子とメス端子の両方が本発明の電子部品用金属材料であっても良いし、オス端子またはメス端子の片方だけであっても良い。なおオス端子とメス端子の両方を本発明の電子部品用金属材料にすることで、更に低凝着磨耗性が向上する。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の実施例と比較例を共に示すが、これらは本発明をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0060】
<電子部品用金属材料の作製>
実施例及び比較例として、下記の素材に対し、電解脱脂、酸洗をこの順で行った。次に、表1に示す条件で、第1めっき、第2めっき、第3めっき、第4めっき、及び、熱処理、後処理の順に実施し、電子部品用金属材料のサンプルを製造した。
【0061】
(素材)
(1)板材:厚み0.30mm、幅30mm、成分Cu−30Zn
(2)オス端子:厚み0.64mm、幅2.3mm、成分Cu−30Zn
(3)圧入型端子:常盤商行製、プレスフィット端子PCBコネクタ、R800
【0062】
(第1めっき条件)
1−1:半光沢Niめっき
めっき方法:電気めっき
めっき液:スルファミン酸Niめっき液+サッカリン
めっき温度:55℃
電流密度:0.5〜4A/dm2
【0063】
1−2:光沢Niめっき
めっき方法:電気めっき
めっき液:スルファミン酸Niめっき液+サッカリン+添加剤
めっき温度:55℃
電流密度:0.5〜4A/dm2
【0064】
1−3:無光沢Niめっき
めっき方法:電気めっき
めっき液:スルファミン酸Niめっき液
めっき温度:55℃
電流密度:0.5〜4A/dm2
【0065】
1−4:Ni−Pめっき
めっき方法:電気めっき
めっき液:スルファミン酸Niめっき液+亜リン酸塩
めっき温度:55℃
電流密度:0.5〜4A/dm2
【0066】
1−5:Cuめっき
めっき方法:電気めっき
めっき液:硫酸銅めっき液
めっき温度:30℃
電流密度:0.5〜4A/dm2
【0067】
1−6:Coめっき
めっき方法:電気めっき
めっき液:硫酸コバルトめっき液
めっき温度:55℃
電流密度:0.5〜4A/dm2
【0068】
(第2めっき条件)
2−1:Snめっき
めっき方法:電気めっき
めっき液:硫酸Snめっき液
めっき温度:40℃
電流密度:0.2〜4A/dm2
【0069】
2−2:Inめっき
めっき方法:電気めっき
めっき液:硫酸Inめっき液
めっき温度:30℃
電流密度:0.5〜2A/dm2
【0070】
(第3めっき条件)
3−1:Agめっき条件
めっき方法:電気めっき
めっき液:シアン化Agめっき液
めっき温度:40℃
電流密度:0.5〜4A/dm2
【0071】
3−2:Auめっき条件
めっき方法:電気めっき
めっき液:シアン化Auめっき液
めっき温度:30℃
電流密度:0.5〜2A/dm2
【0072】
3−3:Rhめっき条件
めっき方法:電気めっき
めっき液:硫酸ロジウムめっき液
めっき温度:45℃
電流密度:1〜3A/dm2
【0073】
(第4めっき条件)
4−1:無光沢Niめっき
めっき方法:電気めっき
めっき液:スルファミン酸Niめっき液
めっき温度:55℃
電流密度:0.5〜4A/dm2
【0074】
4−2:半光沢Coめっき
めっき方法:電気めっき
めっき液:硫酸Coめっき液
めっき温度:55℃
電流密度:0.5〜4A/dm2
【0075】
(熱処理)
熱処理はホットプレートにサンプルを置き、ホットプレートの表面が所定の温度(250〜400℃)になったことを確認して実施した。
【0076】
(後処理)
表面処理液として表1に示す各成分(リン酸エステル、メルカプトベンゾチアゾール系化合物、E構成化合物)をイソパラフィン(C10〜C12)に溶解させ、この液を熱処理後のめっき材表面にスプレー噴射して塗布し、さらに温風により乾燥した。めっき表面に付着したE構成化合物の量は、まずめっき材表面の付着物をメタノールに溶解させ、次にLC−QMS分析装置(Waters社製ACQUITY UPLC H-CLASS,ACQUITY QDa検出器)を用いて測定した。
当該後処理で用いた、表1に記載の、上記リン酸エステル、メルカプトベンゾチアゾール系化合物、E構成化合物を以下に示す。
P1:ラウリル酸性リン酸モノエステル
P2:ラウリル酸性リン酸ジエステル
M1:メルカプトベンゾチアゾール
M2:メルカプトベンゾチアゾールのNa塩
D11:ジノニルナフタレンスルフォン酸バリウム
D12:ジノニルナフタレンスルフォン酸カルシウム
D21:ベンゾトリアゾール
D22:ベンゾトリアゾールのNa塩
D31:パラフィンワックス
D32:白色ワセリン
D41:オレイン酸アミド
D42:ステアリン酸アミド
D51:プロピレングリコールt−ブチルエーテル
D52:プロピレングリコールモノメチルエーテル
【0077】
(最表層、上層、中層、下層の構造[組成]の決定及び厚み測定)
得られた試料の最表層、上層、中層の構造の決定及び厚み測定は、STEM(走査型電子顕微鏡)分析による線分析で行った。分析した元素は、最表層、上層、中層及び下層の組成と、C、S及びOである。これら元素を指定元素とする。また、指定元素の合計を100%として、各元素の濃度(at%)を分析した。平均厚みは、線分析(または面分析)から求めた距離に対応する。STEM装置は、日本電子株式会社製JEM−2100Fを用いた。本装置の加速電圧は200kVである。
得られた試料の最表層、上層及び中層の構造の決定及び厚み測定は、任意の10点について評価を行って平均化した。
【0078】
(下層の厚み測定)
下層の厚みは、蛍光X線膜厚計(Seiko Instruments製 SFT9550X、コリメータ0.1mmΦ)で測定した。
下層の厚み測定は、任意の10点について評価を行って平均化した。
【0079】
(被覆率)
最表層のめっき面積と、電子部品用金属材料の表面の算術面積(電子部品用金属材料における対象のエリアの縦×横で計算される面積)とをそれぞれSEM(走査電子顕微鏡)を用いた成分マッピング像をもとに測定した。次に、最表層のめっき面積/電子部品用金属材料の表面の算術面積(%)を算出し、最表層の被覆率とした。
【0080】
<評価>
A.凝着磨耗
凝着磨耗は、市販のSnリフローめっきメス端子(090型住友TS/矢崎090IIシリーズメス端子非防水/F090−SMTS)を用いてめっきを施したオス端子と挿抜試験することによって評価した。
試験に用いた測定装置は、アイコーエンジニアリング製1311NRであり、オスピンの摺動距離5mmで評価した。サンプル数は5個とし、凝着磨耗は挿入力を用いて評価した。挿入力は、各サンプルの最大値を平均した値(最大挿入力)を採用し、最大挿入力/比較例5の最大挿入力(%)を算出した。
【0081】
B.ウィスカ
ウィスカは、JEITA RC−5241の荷重試験(球圧子法)にて評価した。すなわち、各サンプルに対して荷重試験を行い、荷重試験を終えたサンプルをSEM(JEOL社製、型式JSM−5410)にて100〜10000倍の倍率で観察して、長さ10μm以上のウィスカの本数を測定した。荷重試験条件を以下に示す。
球圧子の直径:Φ1mm±0.1mm
試験荷重:3N±0.2N
試験時間:120時間
サンプル数:10個
目標とする特性は、長さ20μm以上のウィスカが発生しないことであるが、最大の目標としては、どの長さのウィスカも1本も発生しないことである。
【0082】
C.接触抵抗
接触抵抗は、山崎精機研究所製接点シミュレーターCRS−113−Au型を使用し、接点荷重50gの条件で4端子法にて測定した。サンプル数は5個とし、各サンプルの最小値から最大値の範囲を採用した。目標とする特性は、接触抵抗10mΩ以下である。
【0083】
D.耐熱性
耐熱性は、大気加熱(180℃×1000h)試験後のサンプルの接触抵抗を測定し、評価した。目標とする特性は、接触抵抗10mΩ以下であるが、最大の目標としては、接触抵抗が、耐熱性試験前後で変化が無い(同等である)こととした。
【0084】
E.耐ガス腐食性
耐ガス腐食性は、下記の試験環境で評価した。耐ガス腐食性の評価は、環境試験を終えた試験後のサンプルの外観である。なお、目標とする特性は、外観が変色していないことか、実用上問題のない若干の変色である。
(硫化水素ガス腐食試験)
硫化水素濃度:10ppm
温度:40℃
湿度:80%RH
曝露時間:96h
サンプル数:5個
【0085】
F.機械的耐久性
機械的耐久性は、スルーホール(基板厚2mm、スルーホールΦ1mm)に挿入した圧入型端子をスルーホールから抜き出し、圧入型端子断面をSEM(JEOL社製、型式JSM−5410)にて100〜10000倍の倍率で観察して、粉の発生状況を確認した。粉の直径が5μm未満であるものを○とし、5〜10μm未満であるものを△とし、10μm以上のものを×とした。
【0086】
G.曲げ加工性
曲げ加工性は、W字型の金型を用いて試料の板厚と曲げ半径の比が1となる条件で90°曲げで評価した。評価は曲げ加工部表面を光学顕微鏡で観察し、クラックが観察されない場合の実用上問題ないと判断した場合には○とし、クラックが認められた場合を×とした。なお○と×との区別がつかない場合には△とした。
【0087】
H.押し込み硬さ
最表層の押し込み硬さは、超微小硬さ試験(エリオニクス製ENT−2100)により、サンプル表面に荷重1mNで打痕を打って測定した。
また、下層の押し込み硬さ(ビッカース硬さ)は、下層断面より荷重10mN(Hv0.1)、荷重保持時間15秒で打痕を打って測定した。
【0088】
I.表面粗さ
表面粗さ(算術平均高さ(Ra)及び最大高さ(Rz))の測定は、JIS B 0601に準拠し、非接触式三次元測定装置(三鷹光器社製、形式NH−3)を用いて行った。カットオフは0.25mm、測定長さは1.50mmで、1試料当たり5回測定した。
試験条件及び評価結果を表1〜4に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
【表3】
【0092】
【表4】
【0093】
実施例1〜32は、低ウィスカ性、低凝着磨耗性(低挿入力)、低接触抵抗、高耐久性(高耐熱性、高耐ガス腐食性)を有する電子部品用金属材料であった。
比較例1は下層が無いものであり、挿入力が高めであり、また加熱後の接触抵抗が高くなり耐熱性が劣っていた。
比較例2は上層が無いものであり、加熱後の接触抵抗が高くなり、耐熱性が劣っていた。
比較例3は中層が無いものであり、挿入力が高めで耐ガス腐食性が劣っていた。
比較例4は最表層が無いものであり、耐ガス腐食性がやや劣っていた。
比較例5は従来のリフローSnめっきであり、ウィスカが発生し、加熱後の接触抵抗が高くなり耐熱性が劣っていた。
【符号の説明】
【0094】
10 電子部品用金属材料
11 基材
12 下層
13 中層
14 上層
15 最表層
図1