【解決手段】プロセッサは、入力設計パラメータを取得し、少なくとも2つの応力−ひずみ曲線を表すSSデータを記憶装置から読み出し、SSカーブの形状を特徴付ける少なくとも1つの形状パラメータを含む特徴量をSSデータ毎に決定し、特徴量に基づいて少なくとも2つのSSデータをk個(kは2以上の整数)の類似群のうちの1つに割り当て、k個の類似群のそれぞれにおいて、各類似群に割り当てられた少なくとも2つのSSデータの中から、入力設計パラメータが規定する設計範囲を満足する材料特性パラメータを有するターゲットの材料を検索し、k個の類似群の中で、ターゲットのSSデータを検索できたl個(lはk以下の整数)の類似群のうちの、ユーザによって選択された類似群に割り当てられたSSデータに対応する材料を検索する。
前記少なくとも1つの形状パラメータは、応力−ひずみ曲線の、形状の面積、曲率、長さ、傾きによってそれぞれ規定される複数の形状パラメータのうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項2に記載の類似材料検索システム。
前記プロセッサは、検索した材料の組成、製造条件、材料試験の条件、前記試験データに含まれるSSデータによって表される応力−ひずみ曲線に基づいて決定される力学特性、および前記材料が良品であるか否かを示す良品情報のうちの少なくとも1つを含む検索結果を表示装置に出力して表示させる表示ステップをさらに実行する、請求項1から4のいずれかに記載の類似材料検索システム。
複数の材料特性パラメータの中から適宜選択される少なくとも1つの材料特性パラメータを、設計範囲を規定するための入力設計パラメータとして取得する取得ステップと、
それぞれが、材料に関連付けられており、応力−ひずみ曲線を表すSSデータを含む、複数の試験データを記憶した記憶装置から、前記複数の試験データのうちの少なくとも2つの試験データに含まれる少なくとも2つのSSデータを読み出すリードステップと、
前記少なくとも2つのSSデータのそれぞれによって表される応力−ひずみ曲線の形状を特徴付ける少なくとも1つの形状パラメータを含む、機械学習に用いる特徴量をSSデータ毎に決定する前処理ステップと、
機械学習法を用いて、前記特徴量に基づいて前記少なくとも2つのSSデータをk個(kは2以上の整数)の類似群のうちの1つに割り当てることと、
前記k個の類似群のそれぞれにおいて、各類似群に割り当てられた少なくとも2つのSSデータの中から、前記入力設計パラメータが規定する前記設計範囲を満足する前記材料特性パラメータを有するターゲットの材料を検索することと、
を含むプレ検索ステップと、
前記k個の類似群の中で、前記ターゲットの材料を検索できたl個(lはk以下の整数)の類似群のうちの、ユーザによって選択された類似群に割り当てられたSSデータに対応する材料を検索する検索ステップと、
をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム。
【発明を実施するための形態】
【0014】
アルミ合金などの材料の開発過程において、多くの試作品が製造され、その材料特性が評価される。それぞれが、材料に関連付けられており、応力−ひずみ曲線を表すデータを含む、多数の試験データ(または評価データ)が、多くの試作品から取得される。例えば、多数の試験データは、社内のデータベースに一元管理される。本明細書において、応力−ひずみ(Stress−Strain)曲線を「SSカーブ」と記載し、応力−ひずみ曲線を表すデータを「SSデータ」と記載する場合がある。SSデータは、典型的には、「ひずみ」を示す数値の列に属する個々の数値に、「応力」を示す数値を関連づけた多数の数値配列またはテーブルのデータであり得る。ひずみを示すx軸および応力を示すy軸の2つの軸によって規定される2次元平面内にSSデータをプロットすることにより、SSカーブをディスプレイまたは紙面上に描画することができる。
【0015】
実際に製造されたアルミ合金の引張試験を行うことによって取得された多数の試験データが、製品ロット毎に存在し、それらは、試作品と同様に、データベースに一元管理され得る。このように、データベースは膨大な試験データを蓄積し、開発部門、製造部門および品質保証部門などに属する人々に利用可能となり得る。データベースに蓄積された膨大な試験データのそれぞれは、SSデータ以外にも、試験データに関連付けられた材料の組成、製造条件および引張試験の条件などを含み得る。
【0016】
本願発明者の検討によれば、特に開発部門における個々の試験データの管理は、新たな材料を開発する研究者および開発者、技術者の個人管理に委ねられていることが多く、材料の組成、製造条件、引張試験の条件などの情報は、横並びに比較できる様式によってデータベース内に一元管理されているとは言えない。また、材料の組成、製造条件、引張試験の条件などの情報が一元管理されたとしても、組成および製造条件の組み合わせの種類が異なり得るために、全ての材料を横並びに完全に比較することは困難である。
【0017】
このような課題に鑑み、本願発明者は、SSカーブの形状そのものに何らかの潜在的な物理的意味が含まれていると仮説を立て、SSカーブの形状を特徴付ける幾つかの形状パラメータが材料特性の識別に寄与することを見出すに至った。
【0018】
本開示による類似材料検索システムによれば、最適材料の選択または新規な材料の開発に加え、最適材料に相当する相当材料または最適材料を代替する代替材料を一緒に検討することが可能となる。
【0019】
以下、添付の図面を参照しながら、本開示の類似材料検索システム、試験装置およびコンピュータプログラムを詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明および実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0020】
以下の実施形態は例示であり、本開示による類似材料検索システムおよび試験装置は、以下の実施形態に限定されない。例えば、以下の実施形態で示される数値、形状、材料、ステップ、そのステップの順序などは、あくまでも一例であり、技術的に矛盾が生じない限りにおいて種々の改変が可能である。また、技術的に矛盾が生じない限りにおいて、一の態様と他の態様とを組み合わせることが可能である。
【0021】
図1は、本開示の類似材料検索システムの概要を説明するためのブロック図である。類似材料検索システム(以降、「検索システム」と表記する。)1000は、複数の試験データを記憶したデータベース100およびデータ処理装置200を備える。類似材料検索システム1000は、データベース100に蓄積された膨大な試験データにアクセスして、所望の材料特性に類似する材料特性を有する最適材料、最適材料に相当する相当材料、または最適材料を代替する代替材料を検討するために用いられる設計支援ツールである。
【0022】
データベース100は、半導体メモリ、磁気記憶装置または光学記憶装置などの記憶装置である。試験データは、SSカーブを表すSSデータを取得することが可能な試験機を用いて材料試験を行うことにより得られるSSデータを含む。本明細書において、材料は、主として金属材料を指す用語である。材料試験は、引張試験、曲げ試験または圧縮試験を含む用語である。引張試験は、破断に至るまでのひずみを試験片に与えることによって力学特性を決定する材料試験である。試験片は規格によって規定される。本明細書中の実施形態では、金属材料としてアルミ合金を用い、材料試験として引張試験を例示する。SSカーブは、アルミ合金のSSカーブである。アルミ合金のSSカーブは、公称応力−公称ひずみ曲線であってもよいし、真応力−真ひずみ曲線であってもよい。
【0023】
個々の試験データは、材料に関連付けられている。試験データは、例えば、材料の組成、製造プロセス、製造条件および材料試験の条件などを含む材料の付随情報に関連付けられ得る。または、材料の付随情報は、試験データに関連付けられた状態で、試験データを蓄積するデータベースとは異なる別のデータベースに蓄積され得る。
【0024】
データベース100は、例えば数年、10年、20年またはそれ以上の長い年月の間、設計、開発および製造の段階で取得された膨大な試験データを蓄積し得る。もし、材料メーカまたは試験装置メーカなどから構成されるコンソーシアムが設立され、多くの企業がデータベース100にアクセスできれば、多くの企業から収集される膨大な試験データの集合はビッグデータとして管理され得る。
【0025】
データ処理装置200は、データ処理装置の本体201および表示装置220を備える。例えば、データベース100に蓄積された膨大な試験データの中から、所望の材料特性に類似する材料特性を有する最適材料に関連付けされた試験データを検索するために利用されるソフトウェア(またはファームウェア)が、データ処理装置の本体201に実装されている。そのようなソフトウェアは、例えば光ディスクなど、コンピュータが読み取り可能な記録媒体に記録され、パッケージソフトウェアとして販売され、または、インターネットを介して提供され得る。
【0026】
表示装置220は、例えば液晶ディスプレイまたは有機ELディスプレイである。表示装置220は、本体201から出力される出力データに基づいて検索結果を表示する。
【0027】
データ処理装置200の典型例は、パーソナルコンピュータである。または、データ処理装置200は、最適材料を検索するための設計支援ツールとして機能する専用の装置であり得る。
【0028】
図2は、データ処理装置200のハードウェア構成例を示すブロック図である。データ処理装置200は、入力装置210、表示装置220、通信I/F230、記憶装置240、プロセッサ250、ROM(Read Only Memory)260およびRAM(Random Access Memory)270を備える。これらの構成要素は、バス280を介して相互に接続される。
【0029】
入力装置210は、ユーザからの指示をデータに変換してコンピュータに入力するための装置である。入力装置210は、例えばキーボード、マウスまたはタッチパネルである。
【0030】
通信I/F230は、データ処理装置200とデータベース100との間でデータ通信を行うためのインタフェースである。SSデータが転送可能であればその形態、プロトコルは限定されない。例えば、通信I/F230は、USB、IEEE1394(登録商標)、またはイーサネット(登録商標)などに準拠した有線通信を行うことができる。通信I/F230は、Bluetooth(登録商標)規格および/またはWi−Fi(登録商標)規格に準拠した無線通信を行うことができる。いずれの規格も、2.4GHz帯の周波数を利用した無線通信規格を含む。
【0031】
記憶装置240は、例えば磁気記憶装置、光学記憶装置またはそれらの組み合わせである。光学記憶装置の例は、光ディスクドライブまたは光磁気ディスク(MD)ドライブなどである。磁気記憶装置の例は、ハードディスクドライブ(HDD)、フロッピーディスク(FD)ドライブまたは磁気テープレコーダである。
【0032】
プロセッサ250は、半導体集積回路であり、中央演算処理装置(CPU)またはマイクロプロセッサとも称される。プロセッサ250は、ROM260に格納された、最適材料を検索するための命令群を記述したコンピュータプログラムを逐次実行し、所望の処理を実現する。プロセッサ250は、CPUを搭載したFPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)またはASSP(Application Specific Standard Product)を含む用語として広く解釈される。
【0033】
ROM260は、例えば、書き込み可能なメモリ(例えばPROM)、書き換え可能なメモリ(例えばフラッシュメモリ)、または読み出し専用のメモリである。ROM260は、プロセッサの動作を制御するプログラムを記憶している。ROM260は、単一の記録媒体である必要はなく、複数の記録媒体の集合であり得る。複数の集合体の一部は取り外し可能なメモリであってもよい。
【0034】
RAM270は、ROM260に格納された制御プログラムをブート時に一旦展開するための作業領域を提供する。RAM270は、単一の記録媒体である必要はなく、複数の記録媒体の集合であり得る。
【0035】
以下、本開示の検索システム1000の代表的な構成例を幾つか説明する。
【0036】
第1の構成例において、検索システム1000は、
図1に示すデータベース100およびデータ処理装置200を備える。データベース100は、データ処理装置200とは異なる別のハードウェアである。または、膨大な試験データを記憶した光ディスクなどの記憶媒体をデータ処理装置の本体201に読み込むことによって、データベース100の代わりに記憶媒体にアクセスして膨大な試験データを読み出すことが可能となる。
【0037】
第2の構成例において、検索システム1000は、記憶装置240およびプロセッサ250を有するデータ処理装置200である。その場合において、膨大な試験データは、HDDなど記憶装置240に予め格納されている。
【0038】
図3は、膨大な試験データを格納したデータベース340を有するクラウドサーバー300の構成例を示すハードウェアブロック図である。
【0039】
第3の構成例において、検索システム1000は、
図3に示すように、少なくとも1つのデータ処理装置200およびクラウドサーバー300のデータベース340を備える。クラウドサーバー300は、プロセッサ310、メモリ320、通信I/F330およびデータベース340を有する。膨大な試験データは、クラウドサーバー300上のデータベース340に格納され得る。例えば、複数のデータ処理装置200は、社内に構築されたローカルエリアネットワーク(LAN)400を介して接続され得る。ローカルエリアネットワーク400は、インターネットプロバイダサービス(IPS)を介してインターネット500に接続される。個々のデータ処理装置200は、インターネット500を経由してクラウドサーバー300のデータベース340にアクセス可能となる。
【0040】
さらに、検索システム1000は、少なくとも1つのデータ処理装置200およびクラウドサーバー300を備え得る。その場合において、データ処理装置200が備えるプロセッサ250に代えて、あるいはプロセッサ250と協働して、クラウドサーバー300が備えるプロセッサ310は、最適材料を検索するための命令群を記述したコンピュータプログラムを逐次実行する。または、例えば、同一のLAN400に接続された複数のデータ処理装置200が、最適材料を検索するための命令群を記述したコンピュータプログラムを協働して実行してもよい。このように複数のプロセッサに分散処理をさせることにより、個々のプロセッサに対する演算負荷を低減することが可能となる。
【0041】
図4は、プロセッサ250の機能を機能ブロック単位で示す機能ブロック図である。プロセッサ250は、入力部251、前処理部252、類似度算出部253、検索部254および出力部255を有する。典型的には、それぞれの部に相当する機能ブロックの処理(またはタスク)は、ソフトウェアのモジュール単位でコンピュータプログラムに記述される。ただし、FPGAなどを用いる場合、これらの機能ブロックの全部または一部は、ハードウェア・アクセラレータとして実装され得る。
【0042】
入力部251は、複数の試験データのうちの少なくとも2つの試験データに含まれる少なくとも2つのSSデータをデータベース100から読み出す。また、入力部251は、所望の材料特性を有するターゲットのSSカーブを表す入力データまたはユーザによって指定された設計目標を示す入力データを取得することができる。
【0043】
前処理部252は、オプショナルな機能ブロックであり必須ではない。前処理部252は、SSデータによって表されるSSカーブの形状に基づいて少なくとも1つの形状パラメータを決定する。形状パラメータの詳細については後で詳しく説明する。
【0044】
類似度算出部253は、ターゲットのSSカーブの形状と、データベース100から読み出した少なくとも2つのSSデータの個々のSSデータが表すSSカーブの形状との間の類似度を算出する。または、類似度算出部253は、少なくとも2つのSSデータの個々のSSデータ間の類似度を算出する。例えば、類似度算出部253は、平均二乗誤差(MSE)、平均平方二乗誤差(RMSE)または平均絶対誤差(MAE)などに基づいて類似度を算出することができる。さらに、類似度算出部253は、教師なし学習であるクラスタリングを実行し、n個(nは2以上の整数)の特徴量によって規定されるn次元の特徴量空間における2つのデータ点の間の距離に基づいて類似度を算出することができる。
【0045】
検索部254は、読み込んだ少なくとも2つの試験データの中から、ターゲットのSSカーブの形状に類似する形状を有するSSカーブを表すSSデータを含む試験データに対応する材料を検索する。
【0046】
出力部255は、表示装置220の専用ドライバまたはコントローラ(不図示)に検索結果を出力して表示装置220に表示させる。例えば、算出された類似度、少なくとも1つの形状パラメータ、試験データに関連付けられた材料の組成、製造条件、材料試験の条件などを含む検索結果が表示装置220に表示される。材料の開発者は、設計支援ツールが出力する検索結果に基づいて、新規の材料、相当材料または代替材料を検討することが可能となる。
【0047】
(実施形態1)
本開示の類似材料検索システムは、様々な処理手順(つまり、アルゴリズム)に従って動作することが可能である。以下、アルゴリズムの第1から第3の実装例を説明する。そのようなアルゴリズムを記述した命令群を含むコンピュータプログラムは、例えば、インターネットを介して配信され、または、パッケージソフトウェアとして販売され得る。
【0048】
[第1の実装例]
図5は、第1の実装例による処理手順を示すフローチャートである。
【0049】
第1の実装例による処理フローは、入力データを取得する取得ステップS100、データベース100から試験データに含まれるSSデータを読み出すリードステップS200、2つのSSカーブの形状の間の類似度を算出する算出ステップS300、および最適材料を検索する検索ステップS400を含む。本明細書では、データ処理装置200のプロセッサ250を、各処理を実行する主体として説明する。ただし、上述したように、実行主体は、例えば
図3に示すクラウドサーバー300のプロセッサ310または複数のデータ処理装置200が有する複数のプロセッサ250であり得る。
【0050】
(取得ステップS100)
プロセッサ250は、所望の材料特性を有するターゲットのSSカーブを表す入力データを取得する。以下、入力データを「ターゲットSSデータ」と記載する場合がある。所望の材料特性は、例えば、所望の引張強さ(MPa)、耐力(MPa)、伸び(%)などの所望の力学特性である。
【0051】
(リードステップS200)
プロセッサ250は、複数の試験データのうちの少なくとも2つの試験データに含まれる少なくとも2つのSSデータをデータベース100から読み出す。例えば、データベース100に蓄積された膨大な試験データの個々の試験データに、合金系統、製造プロセス、調質等のタグが付されている。読み出す対象となる試験データは、ユーザによって指定され得る。例えばアルミ合金の材料を検索する場合、ユーザは、表示装置220に表示されるGUI(Graphical User Interface:
図11を参照)およびマウスを使って、A1000系、A2000系、A3000系、A4000系、A5000系、A6000系、A7000系の複数の合金系統の中から、少なくとも2種類のアルミ合金にタグ付けされた試験データを選択することができる。
【0052】
(算出ステップS300)
プロセッサ250は、ターゲットSSデータが表すターゲットのSSカーブの形状と、読み込んだ少なくとも2つのSSデータの個々のSSデータが表すSSカーブの形状との間の類似度を算出する。例えば、プロセッサ250は、公知の計算式によって平均二乗誤差(MSE)、平均平方二乗誤差(RMSE)または平均絶対誤差(MAE)などに基づいて類似度を算出することができる。ここで、応力σおよびひずみεの2軸を規定する2次元座標系において、ターゲットSSデータを構成する各データ点の座標をDt(tε
k,tσ
k)と表現し、個々のSSデータを構成する各データ点の座標をDd(ε
k,σ
k)と表現する。SSデータに含まれるデータ点の数をn(nは1以上の整数)とする。例えば、プロセッサ250は、2次元座標系における応力の軸に平行な方向において、tε
kとε
kとが等しいときのtσ
kおよびσ
kの2つの応力を比較する。または、プロセッサ250は、2次元座標系におけるひずみの軸に平行な方向において、tσ
kとσ
kとが等しいときのtε
kおよびε
kのひずみを比較し得る。
【0053】
類似度は、例えば、2つの閾値を用いて3つのクラスのいずれかに割り当てられ得る。3つのクラスは、「高」、「中」、「低」である。誤差が第1閾値よりも小さければ、類似度は「高」に割り当てられる。誤差が第1閾値以上であり、かつ、第2閾値よりも小さいときは、類似度は「中」に割り当てられる。誤差が第2閾値以上であるときは、類似度は「低」に割り当てられる。第2閾値は第1閾値よりも大きい。使用する閾値の数を増やすことにより、類似度をより多くのクラスに割り当てることが可能である。
【0054】
(検索ステップS400)
プロセッサ250は、読み出した少なくとも2つの試験データの中から、ターゲットのSSカーブの形状に類似する形状を有するSSカーブを表すSSデータを含む試験データを類似度に基づいて検索する。例えば、プロセッサ250は、「高」のクラスに割り当てられたSSデータを、算出した誤差が小さいSSデータから順番にソートする。例えば、プロセッサ250は、同一のクラス内において上位m番目(mは2以上の整数)までにランク付されたSSデータを含むm個の試験データに付与されたID、合金系統の番号または試験データに関連付けられた材料の付随情報を含むリストを生成することができる。プロセッサ250は、表示装置220にそのリストを出力して表示させることができる。リストの表示については後で詳しく説明する。
【0055】
図6は、第1の実装例によるさらなる処理手順を示すフローチャートである。第1の実装例による処理フローは、オプションとして、前処理ステップS500、表示ステップS600および格納ステップS700のうちの少なくとも1つのステップをさらに含み得る。
【0056】
(前処理ステップS500)
プロセッサ250は、ターゲットのSSカーブに基づいて、ターゲットSSデータについての少なくとも1つの形状パラメータを決定する。プロセッサ250は、さらに、読み出した少なくとも2つのSSデータのそれぞれによって表されるSSカーブの形状に基づいて、少なくとも1つの形状パラメータをSSデータ毎に決定する。形状パラメータはSSカーブの形状を特徴付けるパラメータである。
【0057】
図7Aおよび
図7Bは、一般的なSSカーブの形状の例を模式的に示す図である。
図7Aには、軟鋼の引張試験によって取得されるSSデータが表す代表的なSSカーブを示し、
図7Bにはアルミ合金の引張試験によって取得されるSSデータが表す代表的なSSカーブを示している。ひずみεに対し応力σが直線的に変化する弾性域および弾性域よりもひずみεに応じた応力σの増大量が小さくなる塑性域がSSカーブに存在する。軟鋼のSSカーブにおいては、変曲点(または特異点)として上降伏点および下降伏点が明確に存在する。その上降伏点における応力を、降伏応力YSと呼ぶこととする。
【0058】
これに対し、例えばアルミ合金、銅合金のSSカーブにおいては、明確な降伏点は存在しない。そのため、降伏応力に代えて耐力が一般に用いられる。重荷を除いた後に残存する塑性ひずみが0.2%となるときの応力を、0.2%耐力として定義する。本明細書では、降伏応力YSを示すデータ点を「YS点」と呼び、0.2%耐力を示すデータ点を「0.2%YS点」と呼ぶ。また、重荷を除いた後に残存する塑性ひずみが0.2%、0.5%となるときの応力をそれぞれ0.2%耐力、0.5%耐力として定義する。0.1%耐力を示すデータ点を「0.1%YS点」と呼び、0.5%耐力を示すデータ点を「0.5%YS点」と呼ぶ。また、SSカーブにおける最大応力を示すデータ点を「TS点」と呼び、その最大応力を示す引張強さTSと呼ぶこととする。
【0059】
SSカーブの形状を特徴付ける形状パラメータは、力学特性とは区別される材料特性である。力学特性は、例えば降伏応力YS、耐力、引張強さTS、伸び、弾性係数(ヤング率)、ポアソン比またはYS/TS比(降伏比)などである。
【0060】
材料の組成、製造プロセス、製造条件の違いに起因して、SSカーブの形状が変化し、その結果、その違いがSSカーブの形状に現れる。従って、SSカーブは、従来の力学特性以外に様々な情報を含んでいると考えられる。そこで、先ず、本願発明者は、SSカーブの形状を特徴付ける形状因子(形状パラメータに相当)を見出すことに努めた。有効な形状因子とは、SSカーブの形状を効果的に特徴付ける指標であり、膨大なSSデータを効果的に分類することができる指標である。有効な形状因子を見出すことができれば、今までなかった視点で材料開発を促進できる可能性がある。
【0061】
少なくとも1つの形状パラメータは、SSカーブの形状の重心によって規定される重心パラメータを含む。少なくとも1つの形状パラメータは、SSカーブの、形状の面積、曲率、長さ、傾きによってそれぞれ規定される複数の形状パラメータのうちの少なくとも1つをさらに含み得る。本願発明者が鋭意検討した結果見出した、SSカーブの形状を特徴付けるそれぞれの形状パラメータを以下の通りに定義する。
【0062】
<SSカーブの形状>
TS点までのSSカーブの下側の領域の形状をSSカーブの形状と定義する。例えば、SSカーブの形状は、ひずみεを示す横軸と、原点からTS点までのSSカーブの曲線と、TS点から横軸に下した垂線と、によって境界付けられる領域の形状によって規定される。あるいは、SSカーブの形状は、原点と、0.2%YS点と、TS点と、TS点から横軸に下した垂線の足と、原点と、を結ぶことによって画定される台形領域の形状によって規定することができる。
【0063】
<重心パラメータ>
重心パラメータは、SSカーブの形状の重心によって規定される。例えば、重心パラメータは、重心点伸びε
g(%)および重心点応力σ
g(MPa)を用いて重心位置の座標(ε
g,σ
g)によって表される。または、重心パラメータは、重心位置の円座標(r、θ)によって表すことができる。円座標は、オイラーの公式(re
iθ)を利用して表される。rは原点と重心位置との間の距離であり、θは偏角である。その場合において、重心パラメータは偏角θだけを用いて表すことができる。
【0064】
<面積パラメータ>
面積パラメータは、SSカーブの形状の面積によって規定される。面積パラメータは、TS点までのSSカーブの下側の領域の面積を表す。
【0065】
<長さパラメータ>
長さパラメータは、SSカーブの長さによって規定される。例えば、長さパラメータは、TS点までのSSカーブの曲線の長さを表す。
【0066】
<曲率パラメータ>
曲率パラメータは、YS点からTS点までのSSカーブの曲率によって規定される。具体的に、曲率パラメータは、YS点またはTS点の特異点周辺におけるSSカーブの曲率を表す。例えば、特異点周辺におけるSSカーブの曲率は、TS点と、TS点近傍の前後に位置する、SSカーブ上の2点と、を通る円の曲率によって規定される。または、特異点周辺におけるSSカーブの曲率は、SSカーブ上の0.1%YS点、0.2%YS点および0.5%YS点の3点を通る円の曲率によって規定される。
【0067】
<傾きパラメータ>
傾きパラメータは、SSカーブの傾きによって規定される。例えば、傾きパラメータは、YS点とTS点とを結ぶ線分の傾きを表す。
【0068】
プロセッサ250は、算出ステップS300において、SSカーブの形状を特徴付ける少なくとも1つの形状パラメータに基づいて類似度を算出してもよい。例えば、少なくとも1つの形状パラメータは、重心パラメータおよび面積パラメータを含んでいるとする。その場合において、プロセッサ250は、ターゲットSSデータについての重心パラメータと、データベース100から読み出した少なくとも2つのSSデータのそれぞれによって表されるSSカーブの形状に基づいて決定される重心パラメータとの差分を算出する。プロセッサ250は、重心パラメータと同様に、ターゲットSSデータについての面積パラメータと、データベース100から読み出した少なくとも2つのSSデータのそれぞれによって表されるSSカーブの形状に基づいて決定される面積パラメータとの差分を算出する。プロセッサ250は、重心パラメータの誤差および面積パラメータの誤差に基づいて類似度を決定する。既に説明したように、例えば、類似度を、2つの閾値を用いて3つのクラスのいずれかに割り当てられ得る。
【0069】
上述した例に限られず、プロセッサ250は、重心パラメータの誤差だけに基づいて類似度を決定してもよいし、3つ以上の形状パラメータの誤差に基づいて類似度を決定してもよい。
【0070】
(表示ステップS600)
プロセッサ250は、ターゲットのSSカーブの形状に類似する形状を有するSSカーブを表すSSデータを含む試験データに関連付けられた付随情報および/または試験データに含まれるSSデータによって表されるSSカーブに基づいて決定される力学特性を含む検索結果を表示装置220に出力して表示させる。付随情報は、材料の組成、製造条件、材料試験の条件、および材料が良品であるか否かを示す良品情報のうちの少なくとも1つを含む。プロセッサ250は、ターゲットSSデータと、読み出した少なくとも2つのSSデータの個々のSSデータとの間の類似度、ターゲットのSSカーブの形状を特徴付ける少なくとも1つの形状パラメータ、ターゲットのSSカーブから決定されるターゲットの力学特性および少なくとも2つのSSデータのそれぞれによって表されるSSカーブの形状を特徴付ける少なくとも1つの形状パラメータのうちの少なくとも1つをさらに表示装置220に出力して表示させることができる。
【0071】
図8は、表示装置220に表示された検索結果の表示例(表示フォーマット)を示す模式図である。例えば、表示装置220は、ターゲットの力学特性および形状パラメータを含むターゲット情報、ターゲットのSSカーブ、合金系統、類似度、組成、製造条件、材料試験の条件、個々のSSデータによって表されるSSカーブに基づいて決定される、力学特性、形状パラメータ、および良品情報を含む検索結果を表示する。力学特性は、引張強さ、耐力および伸びを含み、形状パラメータは、曲率パラメータ、面積パラメータおよび重心パラメータを含む。検索結果は、類似度が高い順番でリストとして表示される。図中の「H」は、類似度が高いことを表し、「M」は、類似度が「中間」であることを表している。
【0072】
組成の情報は、Al、Si、Fe、Cu、Mn、Mg、Cr、Zn、Ti、その他の合金元素の含有率(質量%)を含む。製造条件は、熱間圧延、冷間圧延などの製造工程における温度条件、処理時間などを含む。引張試験の条件は、応力増加速度、ひずみ速度などの試験速度および荷重を含む。良品情報は、材料が良品であるか否かを示す情報を含む。
【0073】
(格納ステップS700)
プロセッサ250は、検索結果、および試験データに関連付けられた材料の付随情報をデータベース100に書き込むことができる。データベース100に書き込む対象は、上述した表示装置220に表示させる対象と同じであり得る。
【0074】
プロセッサ250は、ターゲットのSSカーブの形状を特徴付ける少なくとも1つの形状パラメータおよび/または検索対象の試験データに含まれるSSデータによって表されるSSカーブに基づいて決定される少なくとも1つの形状パラメータを、データベース100またはデータベース100とは異なる別のデータベースに書き込むことができる。検索結果を格納することにより、重心パラメータ、面積パラメータ、曲率パラメータなどの形状パラメータを予め格納したデータベースを構築することができる。
【0075】
これらの形状パラメータは、材料および試験データに関連付けられて、試験データを蓄積したデータベースとは別のデータベースに蓄積され得る。または、それらは、試験データを蓄積したデータベースと同じデータベースに蓄積され得る。その場合、試験データは、SSデータに加えて、そのSSデータが表すSSカーブの形状に基づいて決定された形状パラメータをさらに含み得る。
【0076】
試験データに含まれるSSデータの代わりにSSデータに関連付けされた少なくとも1つの形状パラメータを読み出すことにより、少なくとも1つの形状パラメータを決定する前処理ステップを省略することが可能となる。このように、検索結果を蓄積したデータベースを有効活用することによって、コンピュータの演算負荷を低減し、かつ、メモリサイズを縮小することが可能となる。
【0077】
プロセッサ250は、さらに、ターゲットSSデータと、読み出した少なくとも2つのSSデータの個々のSSデータとの間の類似度、ターゲットのSSカーブの形状に類似する形状を有するSSカーブを表すSSデータを含む試験データに関連付けられた材料の付随情報、ターゲットのSSカーブの形状に類似する形状を有するSSカーブに基づいて決定される力学特性、および材料が良品であるか否かを示す良品情報のうちの少なくとも1つをデータベース100に書き込むことができる。
【0078】
機械部品または構造部品を設計する際、部材の初期の機械的特性、長期の機械的特性(疲労特性)、加工性、耐食性、外観における環境負荷などの各要素が総合的に検討される。材料設計を着手するとき、要求規格を満足する類似材料を予め把握することは、材料開発および材料選定の効率化に繋がる。
【0079】
大量生産が見込まれる部材には、年次原価低減および環境負荷などを考慮することが要求され得る。基礎の材料特性に対する要求を満たすことは当然であるとして、コスト、供給安定性、製品寿命なども念頭に置いて材料選定を行う必要がある。材料を設計・開発するとき、ゼロからの出発はまれであり、通常、要求規格を満たしそうな既存材料を改良することにより開発された新規の材料を上市することが多い。また、コスト優位性も重要視される。さらに、設計・開発の段階から、相当材料あるいは代替材料を把握しておくことが事業継続計画(BCP)の観点から重要視されることがある。
【0080】
第1の実装例によれば、材料の組成、製造条件など材料の素性が明らかではない試験データを蓄積したデータベースを有効活用することができ、これにより、材料についての未知の知見を得ることができる。材料の素性が明らかではない場合であっても、SSカーブの形状に着目することにより、多数の応力−ひずみ曲線を蓄積したデータベースを、最適なデータ解析アルゴリズムを用いて検索することが可能となる。例えば、最適材料の選択に加え、最適材料に相当する相当材料または最適材料を代替する代替材料を一緒に検討することが可能となる。また、不具合品における変化点の発見(不具合要因の解析)が容易になる。例えば、製品ロット間の不具合要因の解析が容易になる。さらに、既存の類似材料を統廃合することが可能となる。
【0081】
[第2の実装例]
第2の実装例は、機械学習法を用いて類似度を算出する点において第1の実装例とは相違する。以下、第1の実装例との相違点を主として説明する。
【0082】
プロセッサ250は、
図6に示す処理フローに従ってステップS100、S200およびS500を実行することにより、ターゲットSSデータを取得し、少なくとも2つのSSデータをデータベース100から読み出し、かつ、ターゲットSSデータおよび個々のSSデータについての少なくとも1つの形状パラメータを決定する。
【0083】
図9は、第2の実装例による算出ステップS300の中の処理の具体例を示すフローチャートである。算出ステップS300は、機械学習法を用いて、少なくとも1つの形状パラメータを含む特徴量に基づいて、ターゲットSSデータおよび少なくとも2つのSSデータのデータ群をk個(kは2以上の整数)の類似群のうちの1つに割り当てること(ステップS310)と、ターゲットSSデータと、ターゲットSSデータが割り当てられた類似群と同一の類似群に属する少なくとも1つのSSデータの個々のSSデータとの間の距離に基づいて類似度を算出すること(ステップS320)と、を含む。
【0084】
機械学習法として、例えば、教師なし学習であるクラスタリングを用いることができる。クラスタリングの例は、k−means法、c−means法、混合ガウス分布(GMM)、デンドログラム法、スペクトラルクラスタリングまたは確率的潜在意味解析法(PLSAまたはPLSI)などである。ただし、クラスタリング以外にも、ロジスティック回帰、ランダムフォレスト、ニューラルネットワークまたはデシジョンジャングルなど、教師あり学習である多項分類を用いることができる。本実装例では、機械学習法としてクラスタリングのk−means法またはGMMを利用する。
【0085】
(ステップS310)
プロセッサ250は、クラスタリングを行うことにより、少なくとも1つの形状パラメータを含む特徴量に基づいて、ターゲットSSデータおよび少なくとも2つのSSデータのデータ群をk個(例えば4個)の類似群(クラスタ)のうちの1つに割り当てる。プロセッサ250は、n個(nは2以上の整数)の特徴量を用いてクラスタリングを行う。特徴量は、形状パラメータとして、例えば重心パラメータ、面積パラメータおよび曲率パラメータを含む。特徴量は、引張強さ、耐力および伸びなどの力学特性を示す力学パラメータをさらに含み得る。さらに、材料のコスト、供給安定性、製品寿命などを特徴量に追加することができる。
【0086】
以下、k−means法およびGMMのそれぞれの代表的なアルゴリズムを簡単に説明する。これらのアルゴリズムは、比較的簡易にデータ処理装置200に実装することができる。
【0087】
<k−means法>
k−means法は、その手法が比較的簡潔であり、また、比較的に大きなデータに適用可能であるために、データ分析において広く利用されている。
(i)複数のデータ点の中から、適当な点をクラスタの数だけ選択して、それらを各クラスタの重心(または代表点)に指定する。データは「レコード」とも称される。
(ii)各データ点と各クラスタの重心との間の距離を算出し、クラスタ数だけ存在する重心の中から、距離が最も近い重心のクラスタを、そのデータ点が属するクラスタとする。
(iii)クラスタ毎に、各クラスタに属する複数のデータ点の平均値を算出し、平均値を示すデータ点を各クラスタの新たな重心とする。
(iv)クラスタ間における全てのデータ点の移動が収束するか、あるいは、計算ステップ数の上限に達するまで、(ii)および(iii)を繰り返し実行する。
【0088】
<混合ガウス分布>
混合ガウス分布(GMM)は、確率分布に基づく解析法であり、複数のガウス分布の線形結合として表現されるモデルである。モデルは例えば最尤法によってフィッティングされる。特に、データ群の中に複数のまとまりがある場合、混合ガウス分布を用いることにより、クラスタリングを行うことができる。GMMでは、与えられたデータ点から、複数のガウス分布のそれぞれの平均値および分散を算出する。
(i)各ガウス分布の平均値および分散を初期化する。
(ii)データ点に与える重みをクラスタ毎に算出する。
(iii)(ii)によって算出された重みに基づいて、各ガウス分布の平均値および分散を更新する。
(iv)(iii)によって更新された各ガウス分布の平均値の変化が十分に小さくなるまで(ii)および(iii)を繰り返して実行する。
【0089】
(ステップS320)
プロセッサ250は、ターゲットSSデータと、ターゲットSSデータが割り当てられた類似群と同一の類似群に属する少なくとも1つのSSデータの個々のSSデータとの間の距離に基づいて類似度を算出する。分類に用いる対象の2つのデータ間の距離は、n次元特徴量によって規定されるn次元特徴量空間における2つのデータ点の間の距離で表される。n次元特徴量は、n次元特徴量空間においてn次元ベクトルとして表される。距離の典型例は、ユークリッド距離である。ユークリッド距離d(x,y)は、2つのデータ点をX(x
1,x
2,・・・,x
n)、Y(y
1,y
2,・・・,y
n)とすると、[数1]の数式によって表される。
[数1]
d(x,y)=[(x
1−y
1)
2+(x
2−y
2)
2+・・・+(x
n−y
n)
2]
1/2
ただし、ユークリッド距離の他に、例えば、標準化ユークリッド距離、マハラノビス距離、マンハッタン距離、チェビシェフ距離、ミンコフスキー距離、またはベクトルの内積を用いて表されるコサイン類似度などが挙げられる。
【0090】
プロセッサ250は、算出した距離を類似度としてそのまま利用することができる。または、プロセッサ250は、既に説明したとおり、例えば、2つの閾値を用いて、類似度を3つのクラスのいずれかに割り当てることができる。距離が第1閾値よりも小さければ、類似度は「高」に割り当てられる。距離が第1閾値以上であり、かつ第2閾値よりも小さいときは、類似度は「中」に割り当てられる。距離が第2閾値以上であるときは、類似度は「低」に割り当てられる。
【0091】
図6に示される検索ステップS400において、プロセッサ250は、クラスタリングを行った結果、ターゲットSSデータが割り当てられた類似群と同一の類似群に属する少なくとも1つのSSデータの中から、ターゲットのSSカーブの形状に類似する形状を有するSSカーブを表すSSデータを類似度に基づいて検索する。プロセッサ250は、さらに、
図6に示される表示ステップS600および/または格納ステップS700を実行してもよい。
【0092】
クラスタリングを逐次実行する代わりに、学習済みモデルを利用することが可能である。学習済みモデルは、データベース100に蓄積された複数の試験データの全部または一部のそれぞれに含まれるSSデータによって表されるSSカーブの形状を特徴付ける少なくとも1つの形状パラメータを含む特徴量を用いてトレーニングされたモデルである。特徴量は、形状パラメータとして、例えば重心パラメータ、面積パラメータおよび曲率パラメータを含む。特徴量は、引張強さ、耐力および伸びなどの力学パラメータをさらに含み得る。さらに、材料のコスト、供給安定性、製品寿命などを特徴量に追加することができる。学習済みモデルの例は分類モデルである。学習済みモデルは、複数の試験データの全部または一部をk個(kは2以上の整数)の類似群のうちの1つに分類する。
【0093】
第2の実装例によれば、材料特性のうちの、SSカーブの形状を特徴付ける形状パラメータに着目することにより、形状パラメータを含む特徴量に基づく教師なし学習が可能となる。それぞれがSSカーブを表す膨大なデータ群を蓄積したデータベースの検索に、最適なデータ解析アルゴリズムを適用することにより、最適材料の選択または新規な材料の開発を支援することが可能となる。
【0094】
[第3の実装例]
第3の実装例は、ターゲットSSデータの代わりに、設計範囲を規定するための入力設計パラメータを入力設計データとして検索システムに入力する点において、第1または第2の実装例とは相違する。以下、第1または第2の実装例との相違点を主として説明する。
【0095】
図10は、第3の実装例による処理手順を示すフローチャートである。
図11は、表示装置220に表示されるGUI800の表示例を示す図である。
【0096】
第3の実装例による処理フローは、リードステップ、取得ステップ、前処理ステップ、プレ検索ステップおよび検索ステップを含む。
【0097】
(リードステップ)
リードステップは、
図6に示されるステップS200に相当する。プロセッサ250は、複数の試験データのうちの少なくとも2つの試験データに含まれる少なくとも2つのSSデータをデータベース100から読み出す。
図11に示されるGUI800は、例えば、データベース(DB)を選択するためのDBウィンドウ810、特徴量を指定するための特徴量ウィンドウ811、クラスタリング手法の種類を指定するためのクラスタリング手法ウィンドウ812、およびクラスタ数を指定するためのクラスタ数ウィンドウ813を含んでいる。データベース100は、例えば合金系統、製造条件、製造プロセスまたは試験条件ごとに複数のグループに区分けされた試験データを格納し得る。ユーザは、マウスを用いてDBウィンドウ810を介して、読み出し対象のグループを複数のグループの中から選択することができる。
【0098】
(取得ステップ)
取得ステップは、設計目標を設定するステップS700、クラスタリングに使用する特徴量を選択するステップS710を含む。
【0099】
ステップS700において、プロセッサ250は、複数の材料特性パラメータの中からユーザによって適宜選択される少なくとも1つの材料特性パラメータを、設計規格の範囲(以下、「設計範囲」と表記する。)を規定するための入力設計パラメータとして取得する。複数の材料特性パラメータは、強度、伸びなどの力学パラメータに限定されず、重心、曲率などの形状パラメータを含み得る。例えば、形状パラメータの設計範囲を指定することが可能である場合、つまり、形状パラメータの設計目標値が既に分かっている場合において、複数の材料特性パラメータは、力学パラメータおよび形状パラメータを含み得る。複数の材料特性パラメータは、データベース100が試験データに関連付けて記憶しているパラメータであってもよいし、プロセッサ250がSSカーブから導出した力学特性のパラメータであってもよい。
【0100】
ユーザは、GUI800上の特徴量ウィンドウ811を介して、例えば強度および伸びの設計範囲を指定することによって、入力設計パラメータをデータ処理装置200に与える。ユーザは、設計範囲の上限値maxおよび下限値minを指定することができる。
【0101】
ステップ710において、ユーザは、クラスタリングに使用する特徴量を、マウスを用いて特徴量ウィンドウ811を介して選択する。特徴量ウィンドウ811は、重心パラメータ、面積パラメータおよび曲率パラメータなどの形状パラメータの範囲の上限値maxおよび下限値minをユーザが指定するための入力ボックスを含む。特徴量ウィンドウ811は、強度および伸び以外の耐力などの力学パラメータの範囲の上限値maxおよび下限値minをユーザが指定するための入力ボックスを含み得る。さらに、特徴量ウィンドウ811は、材料コストなどの範囲の上限値maxおよび下限値minをユーザが指定するための入力ボックスを含み得る。
【0102】
(前処理ステップ)
前処理ステップは、
図6に示されるステップS500に相当する。プロセッサ250は、ユーザによって指定された特徴量をSSデータ毎に決定する。ユーザは、GUI800上の特徴量ウィンドウ811を介して、機械学習に用いる少なくとも1つの特徴量を指定する。例えば、ユーザによって指定された特徴量は、力学パラメータとして引張強さ、伸びを含み、形状パラメータとして重心パラメータ、面積パラメータおよび曲率パラメータを含む。
【0103】
(プレ検索ステップ)
プレ検索ステップは、指定された手法を用いてクラスリングを行うステップS720、同一のクラスタに属する材料に関連付けられた複数の材料特性パラメータの統計量をクラスタ毎に算出するステップS730、および設計規格の中心を包含するターゲットSSデータを含むクラスタを統計量に基づいて抽出・有効化するステップS740を含む。
【0104】
ステップS720において、ユーザは、クラスタリングに使用する手法を、マウスを用いてクラスタリング手法ウィンドウ812を介して指定する。プロセッサ250は、ユーザが指定したクラスタリングに使用する手法に従ってクラスタリングを行う。例えば、クラスタリング手法ウィンドウ812は、k−means法、GMMおよびスペクトラルクラスタリングの項目を指定するボックスを含む。ユーザは、4つの項目の中から1つを指定する。ユーザは、さらに、クラスタ数および統計モデルの良さを評価するための指標を、マウスを用いてクラスタ数ウィンドウ813を介して指定することができる。クラスタ数ウィンドウ813は、統計モデルの良さを評価するための指標として用いられる、赤池情報量基準(AIC)またはベイズ情報量基準(BIC)を指定するためのボックス、およびクラスタ数kを入力するための入力ボックスを含む。ユーザは、赤池情報量基準(AIC)またはベイズ情報量基準(BIC)を指定することによりクラスタ数kを自動で算出することができ、さらに、任意のクラスタ数kを手動で入力することもできる。
【0105】
プロセッサ250は、指定された手法を用いて、選択された特徴量に基づいて少なくとも2つのSSデータをk個の類似群(クラスタ)のうちの1つに割り当てる。例えば、プロセッサ250は、k−means法を用いて、ユーザによって選択された、引張強さ、伸び、重心パラメータ、面積パラメータおよび曲率パラメータを含む特徴量に基づいて、少なくとも2つのSSデータを4個のクラスタのうちの1つに割り当てる。
【0106】
ステップS730において、プロセッサ250は、同一のクラスタに割り当てられた材料の複数の材料特性パラメータの統計量(平均、最大値、最小値、分散、標準偏差など)をクラスタ毎に算出する。例えばプロセッサ250は、引張強さの平均値、分散値、標準偏差、伸びの平均値、分散値、標準偏差をクラスタ毎に算出する。
【0107】
ステップS740において、プロセッサ250は、k個のクラスタのそれぞれにおいて、各クラスタに割り当てられた少なくとも1つのSSデータの中から、設計規格の中心から距離が近いSSデータを、算出した統計量に基づいて検索する。例えば、プロセッサ250は、4個のクラスタのそれぞれにおいて、算出した平均値、分散値を伴う引張強さの正規分布が、設計規格の中心を包含するか否かを判定する。設計規格の中心は、ユーザによって指定された設計範囲の下限値minおよび上限値maxの平均値によって規定される。プロセッサ250は、引張強さと同様に、4個のクラスタのそれぞれにおいて、算出した平均値、分散値を伴う伸びの正規分布が、設計規格の中心を包含するか否かを判定する。例えば、設計規格の中心を包含するか否かの判定基準として、標準偏差σを用いることができる。プロセッサ250は、設計規格の中心が±kσ(kは1以上の正数)の範囲内にあるか否かを判定する。
【0108】
引張強さおよび伸びの正規分布のそれぞれが、設計規格の中心を包含するとき、プロセッサ250は、各クラスタに割り当てられた少なくとも1つのSSデータの中から、設計規格の中心から距離が近いSSデータを抽出する。設計規格の中心から距離が近いSSデータは、設計範囲を満足する材料特性を有するSSカーブを表す。ここで、設計規格の中心から距離が近いSSデータによって表されるSSカーブに基づいて決定される引張強さと、目標の引張強さとの誤差は、クラスタの中で最小かつ閾値以下の値を示す。さらに、設計規格の中心から距離が近いSSデータによって表されるSSカーブに基づいて決定される伸びと、目標の伸びとの誤差は、クラスタの中で最小かつ閾値以下の値を示す。プロセッサ250は、k個のクラスタの中から、設計規格の中心から距離が近いSSデータが抽出されたl個(lはk以下の整数)のクラスタを有効化する。
【0109】
第3の実装例では、第1または第2の実装例におけるターゲットのSSデータの代わりに、設計目標の強度および伸び等を示す入力設計パラメータが入力される。プレ検索ステップにおいて、ターゲットのSSデータに相当する、設計規格の中心から距離が近いSSデータが、入力設計パラメータに基づいて検索される。設計規格の中心から距離が近いSSデータによって表されるSSカーブは、設計範囲を満足する材料特性を有し、第1または第2の実装例におけるターゲットのSSカーブに相当する。
【0110】
(検索ステップ)
検索ステップは、クラスタを選択するステップS750、選択したクラスタに割り当てられたSSデータに対応する材料を検索するステップS760を含む。
【0111】
ステップS750において、プロセッサ250は、ステップS740で有効化されたl個のクラスタの情報を表示装置220に出力して表示させる。ユーザは、k個のクラスタのうちの、有効化されたl個のクラスタの中から検索対象のクラスタを選択する。ユーザは、1つまたはそれ以上のクラスタを検索対象のクラスタとして選択することができる。プロセッサ250は、ユーザが選択した検索対象のクラスタを示す情報を取得する。
【0112】
ステップS760において、プロセッサ250は、k個のクラスタの中で、ターゲットのSSデータを検索できたl個のクラスタのうちの、ユーザによって選択されたクラスタに割り当てられたSSデータに対応する材料を検索する。
【0113】
ある一態様において、プロセッサ250は、材料特性パラメータによって規定される設計範囲空間における設計中心の座標と、選択された類似群に属する材料の材料特性パラメータの座標との間の距離に基づいて、選択された類似群にSSデータが割り当てられた材料のそれぞれについて理想度を算出する。理想度は、設計中心に近い材料特性パラメータを有する材料であるほど大きくなる値であり、当該距離が小さい材料ほど大きくなる値である。例えば、入力設計パラメータとして強度、耐力、伸びの3つの力学パラメータを与えた場合、3つの力学パラメータによって、3次元の設計範囲空間が規定される。その距離は、3次元の設計範囲空間におけるユークリッド距離で表され得る。
【0114】
距離は、また、3つの力学パラメータのうちの1つまた2つの力学パラメータによって規定される設計範囲空間における2つのデータ点の間の距離で表され得る。例えば、入力設計パラメータとして強度、耐力、伸びの3つの力学パラメータを与えた場合、強度、耐力の2つの力学パラメータによって、2次元平面が規定される。その距離は、その平面における2つのデータ点の間のユークリッド距離で表され得る。また、強度だけを距離の演算に用いることもできる。例えば、プロセッサ250は、2つの閾値を用いて、理想度を3つのクラスのいずれか1個にランク付けしてもよい。
【0115】
プロセッサ250は、選択されたクラスタに属する材料の中から、理想度の大きい材料を検索する。理想度の大きい材料とは、理想度が閾値以上の材料であってもよいし、理想度が上位規定数(例えば3)以内の材料であってもよい。
【0116】
ある他の一態様において、プロセッサ250は、選択された類似群において、設計規格の中心から距離が近いSSデータ(ターゲットのSSデータ)と、選択された類似群に属する、ターゲットのSSデータ以外の少なくとも1つのSSデータの個々のSSデータと、の間の距離に基づいて2つのデータ間の類似度を算出する。ここで、距離は、クラスタリングに用いたn次元特徴量によって規定されるn次元特徴量空間における2つのデータ点の間の距離で表される。その距離は、例えばユークリッド距離である。
【0117】
プロセッサ250は、選択されたクラスタに属する少なくとも1つのSSデータの中から、設計範囲を満足する材料特性を有するSSカーブの形状に類似する形状を有するSSカーブを表すSSデータを、n次元特徴量空間における類似度に基づいて検索する。プロセッサ250は、算出した距離を類似度としてそのまま利用することができる。または、例えば、プロセッサ250は、既に説明したとおり、2つの閾値を用いて、類似度を3つのクラスのいずれかに割り当てることができる。
【0118】
ステップS770において、プロセッサ250は、検索結果を表示装置220に出力して表示してもよい。
図11に示されるGUIは、例えば主成分分析の結果814を含む。GUIはさらに、力学特性の統計量(例えば平均μ、標準偏差σ、最大値max、最小値min)、および、引張強さ、伸びについての設計規格の中心と、検索されたSSデータによって表されるSSカーブに基づいて決定される引張強さ、伸びと、のそれぞれの誤差(または距離)、その誤差に基づいて決定されるSSデータの理想度や類似度のランキングなどを、選択したクラスタ毎に表すリスト815を含み得る。さらに、プロセッサ250は、
図8に示される、組成、製造条件などのSSデータの付随情報を表示装置220に出力して表示させることができる。
【0119】
主成分分析の結果814は、クラスタリングした結果であるn次元特徴量空間におけるデータ点の分布を、多変量解析の1手法である主成分分析を行うことによって2次元に圧縮した結果を示す。これにより、ユーザは、各データ間の相関または特徴量空間におけるデータ点の分布状況を目視で直感的に把握することができる。
【0120】
プロセッサ250は、選択されたクラスタの数だけ、ステップS750からS770までの処理を繰り返し実行することができる(ステップS780)。また、ユーザが、クラスタリングに利用する特徴量を変更する毎に、ステップS710からS780までの処理を繰り返し実行することができる(ステップS790)。
【0121】
第3の実装例は、設計支援ツールに好適に利用される最適な実装例の1つである。ユーザがGUIを介して材料特性の設計範囲を指定し、入力設計パラメータを検索システムに与えることにより、新規の材料、相当材料または代替材料を検討することが可能となる。
【0122】
[実施例]
本願発明者は、第3の実装例の吟味を行った。吟味に用いたそれぞれの試験データは、材料の組成、製造条件が明らかではないアルミ合金のSSデータを含む。試験データの総数は、3115個である。クラスタリングの手法としてGMMを利用し、最尤法によってモデルをフィッティングした。
【0123】
図12は、実施例に用いた特徴量のリスト例を示す図である。本実施例では、重心パラメータ(重心点伸び、重心点応力)、曲率パラメータ、ヤング率、引張強さ、最大応力点(YS点)伸び、0.1%耐力、0.1%耐力点(0.1%YS点)伸び、0.2%耐力、0.2%耐力点(0.2%YS点)伸び、0.5%耐力、0.5%耐力点(0.5%YS点)伸び、破断伸び、降伏比を含む総数14個の特徴量をクラスタリングに使用した。
【0124】
データベースに蓄積された試験データは教師なしデータ群であるために、クラスタリングにおけるクラスタ数は自明ではない。そのため、AICやBICのような情報量基準に基づきクラスタ数を指定することもできるし、プログラム使用者の意図に基づき任意のクラスタ数を試行することもできる。3115個のSSデータに対して14個の特徴量を設け、クラスタ数をk=3としてk−means法によるクラスタリングを実施した。
【0125】
図13は、14次元のクラスタリング結果を主成分分析により2次元圧縮表示したものである。横軸は第1主成分を示し、縦軸は第2主成分を示す。主成分分析に先立ち、各特徴量を標準化した。主成分分析の結果としては、第1主成分および第2主成分の両方について、14個の特徴量のうち重心パラメータに相当する特徴量に対する重み係数が大きく、クラスタリング結果に強く影響するものと考えられる。また、L1ノルムスパース推定によりクラスタリング結果に寄与する変数を推定した。その結果においても、重心パラメータがクラスタリング結果に大きく寄与することが分かった。
【0126】
本実施例の吟味結果は、従来の単独の力学特性のみでは捉えられていなかったSSカーブそのものの定量化という視点において、形状パラメータ(従来の力学特性とは異なるパラメータ)、とりわけ、重心パラメータがクラスタリング結果に大きく寄与することを意味する。
【0127】
[第4の実装例]
第4の実装例は、ターゲットの入力データまたは入力パラメータをデータ処理装置200に入力しない点において、第1から第3の実装例とは相違する。以下、第1から第3の実装例との相違点を主に説明する。
【0128】
図14は、第4の実装例による処理手順を示すフローチャートである。
【0129】
ステップS200において、プロセッサ250は、複数の試験データのうちの少なくとも2つの試験データに含まれる少なくとも2つのSSデータをデータベース100から読み出す。
【0130】
ステップS500において、プロセッサ250は、少なくとも2つのSSデータのそれぞれによって表されるSSカーブの形状に基づいて、形状を特徴付ける少なくとも1つの形状パラメータをSSデータ毎に決定する。
【0131】
ステップS310において、プロセッサ250は、機械学習法を用いて、少なくとも1つの形状パラメータを含む特徴量に基づいて少なくとも2つのSSデータをk個(kは2以上の整数)の類似群のうちの1つに割り当てる。機械学習法の例はクラスタリングである。
【0132】
ステップS320において、プロセッサ250は、割り当てを行った結果、同一の類似群に属する少なくとも2つのSSデータの個々のSSデータ間の距離に基づいて個々のSSデータ間の類似度を算出する。クラスタリングに用いる対象の2つのデータ間の距離は、n次元特徴量によって規定されるn次元特徴量空間における2つのデータ点の間の距離で表される。距離の例は、ユークリッド距離である。
【0133】
ステップS400において、プロセッサ250は、同一の類似群に属する少なくとも2つのSSデータの中から、互いに類似する2つのSSデータを含む2つの試験データを類似度に基づいて検索する。このとき、例えば、ユーザは、
図11に示されるGUI800の特徴量ウィンドウ811のボックスに引張強さまたは重心パラメータの設計範囲を入力してもよい。プロセッサ250はその情報を受け取り、設計範囲内にあるSSデータを含む試験データに検索対象をさらに絞り込むことができる。第1または第2の実装例と同様に、プロセッサ250は、さらに、
図6に示される表示ステップS600および/または格納ステップS700を実行してもよい。
【0134】
図15は、表示装置220に表示される検索結果の表示例を示す図である。この表示例は、組成および製造条件が互いに異なる2つの材料(破線で囲まれた1番および3番の材料)に関連付けられた2つの試験データに含まれる2つのSSデータが、n次元特徴量空間において近い距離に位置していることを示している。ユーザはこの検索結果の表示を見ることにより、2つの材料は、n次元特徴量空間において類似している材料であることを視覚的に把握できる。ユーザは、各特徴量に基づいて材料特性を横並びに比較することができる。
【0135】
(実施形態2)
図16および
図17を参照して、本実施形態に係る試験装置600を説明する。
【0136】
図16は、実施形態2に係る試験装置600の構成例を示す模式図である。
図17は、データ処理装置700に表示される測定結果の表示例を示す図である。
【0137】
試験装置600は、試験機610およびデータ処理装置700を備える。試験機610は、SSカーブを表すSSデータを取得することが可能な試験機である。試験機610は、引張試験、曲げ試験または圧縮試験に用いられる。データ処理装置700は、試験機610から出力されるSSデータを処理する。データ処理装置700は、試験機610から出力されるSSデータを処理するための専用のソフトウェアを実装したパーソナルコンピュータまたは専用の測定装置であり得る。
【0138】
試験機610およびデータ処理装置700のセットとして試験装置600は販売され得る。または、試験機610および専用のパッケージソフトウェアのセットとして試験装置600は販売され得る。
【0139】
試験機610は、試験片611の掴み治具612および通信I/F(不図示)を備える。通信I/Fは、試験機610とデータ処理装置700との間でデータ通信を行うためのインタフェースである。SSデータが転送可能であればその形態、プロトコルは限定されない。例えば、通信I/Fは、USB、IEEE1394(登録商標)、またはイーサネット(登録商標)などに準拠した有線通信を行うことができる。通信I/Fは、Bluetooth(登録商標)規格および/またはWi−Fi(登録商標)規格に準拠した無線通信を行うことができる。いずれの規格も、2.4GHz帯の周波数を利用した無線通信規格を含む。
【0140】
データ処理装置700は、プロセッサ250と、プロセッサの動作を制御するプログラムを記憶するメモリと、試験機610とデータ処理装置700との間でデータ通信を行うための通信I/F230と、表示装置220と、を備える(
図2を参照)。メモリは、ROM260および/またはRAM270を含み、単一の記録媒体である必要はなく、複数の記録媒体の集合であり得る。
【0141】
データ処理装置700のプロセッサ250は、メモリに格納されたプログラムに従って、試験機610から出力されるSSデータを取得し、SSデータによって表されるSSカーブの形状に基づいて、形状を特徴付ける少なくとも1つの形状パラメータを決定する。プロセッサ250は、さらに、SSデータおよび少なくとも1つの形状パラメータをメモリに書き込む。形状を特徴付ける少なくとも1つの形状パラメータは、実施形態1において説明した種々の形状パラメータであり得る。
【0142】
データ処理装置700のプロセッサ250は、メモリからSSデータおよび少なくとも1つの形状パラメータを読み出し、少なくとも1つの形状パラメータ、およびSSデータによって表されるSSカーブを表示装置220に表示させる。
図17に示されるように、例えば、表示装置220に表示される測定結果の表示900は、SSカーブを示す引張試験結果、解析項目、および決定された力学パラメータおよび形状パラメータを含むリストを含む。解析項目は、各種の力学パラメータおよび形状パラメータを選択するボックスを含み、ユーザが解析対象に選択した項目のパラメータがリストに表示される。測定結果の表示は、さらに、SSデータが得られた、材料試験の条件、材料の組成、製造条件などの付随情報を含んでいてもよい。
【0143】
データ処理装置700は、外部の記憶装置(不図示)に通信可能に接続することができる。例えば、外部の記憶装置は、膨大な試験データを蓄積したデータベース100またはデータベース100とは異なる他のデータベースであり得る。データ処理装置700のプロセッサ250は、決定した少なくとも1つの形状パラメータを外部の記憶装置に書き込んでもよい。プロセッサ250は、さらに、SSデータが得られた、材料試験の条件、材料の組成、製造条件、およびSSカーブの形状に基づいて決定される力学特性のうちの少なくとも1つを外部の記憶装置に格納し得る。例えば、材料試験を行うたびに取得される、それぞれが形状パラメータの情報を含む、多数の測定結果をデータベースに蓄積することが可能である。そのようなデータベースは、実施形態1に係る検索システム1000のデータベース100として有効活用され、またはデータベース100と共に有効活用され得る。
【0144】
本実施形態に係る試験装置は、SSカーブを含む従来の引張試験結果と共に、SSカーブの形状を特徴付ける形状パラメータの情報をユーザに提供し、これにより、新規の材料の設計・開発を支援することが可能となる。