【解決手段】撚線導体10は、アルミニウム系素線からなる中心導体線11の周りに、単層または複数の層を形成するように複数のアルミニウム系素線121、122を撚り合わせて形成してなる撚線導体10であって、前記アルミニウム系素線121、122の0.2%耐力が50〜120MPaであり、前記中心導体線11の仮想中心線を含む前記撚線導体10の長手方向断面で見て、前記単層または複数の層に位置するアルミニウム系素線は、前記撚線導体の径方向寸法に対する長手方向寸法の比であるアスペクト比の平均値が4.2〜13.0の範囲である単位断面部を有する。
前記複数のアルミニウム系素線は複数の層を形成し、前記撚線導体の長手方向断面で見て、前記撚線導体の半径の50%に相当する位置を結んだ2本の仮想中間線を境界線として、前記長手方向断面を、前記2本の仮想中間線で区画された撚線導体の内層側領域と、前記2本の仮想中間線のそれぞれと前記撚線導体の外周面とで区画された撚線導体の外層側領域とに区分するとき、前記内層側領域に位置するアルミニウム系素線の前記単位断面部のアスペクト比の平均値が、前記外層側領域に位置するアルミニウム系素線の前記単位断面部のアスペクト比の平均値よりも大きい、請求項1に記載の撚線導体。
前記撚線導体の長手方向断面で見て、前記複数の層を形成する前記複数のアルミニウム系素線のうち、前記撚線導体の径方向内外で隣接する2層にそれぞれ位置するアルミニウム系素線同士は、径方向内側に位置するアルミニウム系素線の1つの第1単位断面部に対して、径方向外側に位置するアルミニウム系素線の2つ以上の第2単位断面部が重なり合う位置関係にあり、かつ、前記2つ以上の第2単位断面部のうち、前記第1単位断面部との長手方向の重なり割合が最も大きい第2単位断面部の長手方向中心位置が、前記第1単位断面部の長手方向中心位置から、前記第1単位断面部の長手方向寸法の35%に相当する寸法の範囲内にある、請求項2に記載の撚線導体。
前記撚線導体は、接続部材が圧着される被圧着部分の外周面を形成する、最外層に位置する最外層アルミニウム系素線の表面部分に、算術平均高さ(Sa)が0.4μm以上500μm以下の粗面化領域を有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の撚線導体。
前記最外層アルミニウム系素線は、丸線または扁平線であり、かつ前記被圧着部分の最小線径に対する最大線径の比が、平均で1.1以上2.0以下である、請求項4に記載の撚線導体。
円筒形の巻き付け冶具に対し、前記撚線導体に荷重を負荷して巻き付けてから除荷したときに、前記撚線導体に曲率半径110mmの曲げ癖を付けるのに必要な荷重が、前記撚線導体の横断面積をα[mm2]としたときに、0.025α[N]以下である、請求項1から5のいずれか1項に記載の撚線導体。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0014】
<撚線導体>
本実施形態の撚線導体は、アルミニウム系素線からなる中心導体線の周りに、単層または複数の層を形成するように複数のアルミニウム系素線を撚り合わせて形成してなる撚線導体であって、前記アルミニウム系素線の0.2%耐力が50〜120MPaであり、中心導体線の仮想中心線を含む前記撚線導体の長手方向断面で見て、前記単層または複数の層に位置するアルミニウム系素線は、撚線導体の径方向寸法に対する長手方向寸法の比であるアスペクト比の平均値が4.2〜13.0の範囲である単位断面部を有する。
【0015】
本実施形態に係る撚線導体では、撚線導体の中心導体線の周りに形成される、単層または複数の層に位置するアルミニウム系素線について、撚線導体の径方向寸法に対する長手方向寸法の比であるアスペクト比の平均値が所定範囲内にある単位断面部を有するように構成することで、反力が撚線導体の全体で緩和され、また、アルミニウム系素線同士のかみ合いが発生し易くなるため、0.2%耐力の大きなアルミニウム系素線を用いた場合であっても、撚線導体に曲げ癖を付け易くすることができ、かつ端子やコネクタなどの接続部材との間での接続信頼性を高めることができる。
【0016】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0017】
<撚線導体についての実施形態>
図1(a)、(b)は、本実施形態に係る撚線導体10を有する被覆電線1の構成の一例を示すものであって、
図1(a)が正面図、
図1(b)が
図1(a)に示す被覆電線をI−I線上で切断したときの断面図、
図1(c)が
図1(b)に示す被覆電線をII−II線上で切断したときの断面図である。本実施形態に係る撚線導体10は、アルミニウム系素線からなる中心導体線11の周りに、単層または複数の層を形成するように複数のアルミニウム系素線121、122を撚り合わせて形成してなるものであり、中心導体線11の仮想中心線Oを含む撚線導体10の長手方向Eについての断面である長手方向断面で見て、これら単層または複数の層に位置するアルミニウム系素線121、122は、撚線導体の径方向Dについての寸法W(W
1、W
2、W
3、・・・)に対する長手方向Eについての寸法X(X
1、X
2、X
3、・・・)の比であるアスペクト比の平均値が4.2〜13.0の範囲である単位断面部(第1単位断面部123、第2単位断面部124)をそれぞれ有する。以下では、
図1に示す二層撚り構造の撚線導体10を有する被覆電線1を例にして説明するが、本発明では、かかる構成だけには限定されず、例えば、素線を単層または三層以上の撚り構造の撚線導体を有していてもよい。
【0018】
[アルミニウム系素線とその単位断面部]
撚線導体10を構成するアルミニウム系素線としては、純アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる素線が挙げられる。このうち、アルミニウム合金としては、アルミニウム−マンガン系合金、アルミニウム−マグネシウム系合金、アルミニウム−マグネシウム−ケイ素系合金、アルミニウム−亜鉛−マグネシウム系合金、アルミニウム−銅−マグネシウム系合金等を用いることができる。
【0019】
ここで、アルミニウム系素線としては、0.2%耐力が50〜120MPaのものを用いることができる。本発明の撚線導体10は、0.2%耐力が大きく、塑性変形させることが難しいアルミニウム系素線を用いた場合であっても、容易に所望の曲げ癖を付けることができる。ここで、アルミニウム系素線としては、0.2%耐力が50〜115MPaのものを用いることがより好ましい。
【0020】
本実施形態に係る撚線導体10を構成するアルミニウム系素線は、中心となる中心導体線11と、中心導体線11の周囲に単層または複数の層を形成するように複数のアルミニウム系素線121、122を撚り合わせて形成される外周素線12に大別される。
【0021】
ここで、撚線導体10に複数の層が形成されている場合、外周素線12は、中心導体線11の中心線である仮想中心線Oを含む撚線導体の長手方向断面で見て、撚線導体の半径rの50%((1/2)r)に相当する位置を結んだ2本の仮想中間線C(
図1(c))を境界線として、外周素線12を構成する複数の層を、内層側領域15と外層側領域16に区分して考えることができる。具体的には、中心導体線11の仮想中心線Oを含む撚線導体10の長手方向断面で見て、撚線導体10の長手方向断面を、2本の仮想中間線Cで区画される内層側領域15と、前記2本の仮想中間線のそれぞれと前記撚線導体の外周面とで区画された撚線導体の外層側領域16とに区分することができる。ここで、内層側領域15は、撚線導体10の径方向Dについて内側の領域であり、外層側領域16は、撚線導体10の径方向Dについて外側の領域であり、内層側領域15の外側に隣接する。なお、
図1(c)に示す単位断面部123のように、仮想中間線Cが単位断面部の内部を横切る場合、仮想中間線Cが横切っている単位断面部は、内層側領域15に含まれる(内層側領域15に位置するともいう)ものとする。また、撚線導体10の外周素線12が単層である場合も、外周素線12によって形成される単位断面部は、内層側領域15に含まれる(内層側領域15に位置するともいう)ものとする。
【0022】
このうち、撚線導体10の内層側領域15は、内層を構成する複数本の内層アルミニウム系素線121を有しており、各内層アルミニウム系素線121は、中心導体線11の仮想中心線Oを含む撚線導体10の長手方向断面で見たとき、複数の第1単位断面部123が撚線導体10の長手方向Eに沿って整列した状態で構成されているように見える。また、外層側領域16は、外層を構成する複数本の外層アルミニウム系素線122を有しており、各外層アルミニウム系素線122は、中心導体線11の仮想中心線Oを含む撚線導体10の長手方向断面で見たとき、複数の第2単位断面部124が撚線導体10の長手方向Eに沿って整列した状態で構成されているように見える。
【0023】
ここでいう「単位断面部」とは、撚線導体10を構成する、中心導体線以外の撚り合された各アルミニウム系素線を、撚線導体10の長手方向に切断したときの断面部を意味し、素線の線径、撚りピッチ、撚り方向等によって断面形状や相対位置等を適宜設定することができる。
【0024】
本実施形態に係る撚線導体10では、単層または複数の層に位置するアルミニウム系素線、すなわち外周素線12は、径方向寸法W(W
1、W
2、W
3・・・)に対する長手方向寸法X(X
1、X
2、X
3・・・)の比であるアスペクト比X/W(X
1/W
1、X
2/W
2、X
3/W
3・・・)の平均値が4.2〜13.0の範囲である単位断面部を有する。より好ましくは、内層アルミニウム系素線121によって形成される単位断面部(例えば
図1(c)の第1単位断面部123)のアスペクト比(X
1/W
1)の平均値が、4.2〜13.0の範囲となるように構成される。アスペクト比が上記範囲内であることで、撚線導体に曲げ癖を付け易くすることができるとともに、接続部材との接続信頼性を向上させることができる。
【0025】
本発明におけるアスペクト比X/Wの平均値は、中心導体線11の周囲に複数の層を形成するように複数の外周素線12であるアルミニウム系素線121、122が撚り合わせられているとき、外層側領域16に位置するアルミニウム系素線によって構成される単位断面部(例えば
図1(c)の第2単位断面部124a、124b)のアスペクト比の平均値(U)と、内層側領域15に位置するアルミニウム系素線によって構成される単位断面部(例えば
図1(c)の第1単位断面部123)のアスペクト比の平均値(I)をそれぞれ求めたときの、これらの算術平均((U+I)/2)とする。他方で、中心導体線11の周囲に単層を形成するように複数のアルミニウム系素線が撚り合わせられた撚線導体(図示せず)では、撚り合わせられたアルミニウム系素線(内層側領域15に位置するアルミニウム系素線)によって構成される単位断面部のアスペクト比の平均値とする。なお、上述の平均値(U)および平均値(I)は、それぞれ5個のサンプル断面についての平均値を用いることができる。
【0026】
また、本実施形態に係る撚線導体10は、反力を撚線導体の全体で緩和させるとともに、素線同士のかみ合いを発生し易くすることで曲げ癖を付け易くするため、外層側領域16に位置するアルミニウム系素線によって構成される単位断面部(例えば
図1(c)の第2単位断面部124a、124b)のアスペクト比の平均値(U)と、内層側領域15に位置するアルミニウム系素線によって構成される単位断面部(例えば
図1(c)の第1単位断面部123)のアスペクト比の平均値(I)との割合(アスペクト比の平均値(I)/アスペクト比の平均値(U))は、0.8以上1.5以下が好ましい。さらには、内層側領域15に位置するアルミニウム系素線の単位断面部のアスペクト比の平均値Iが、外層側領域16に位置するアルミニウム系素線の単位断面部のアスペクト比の平均値Uよりも大きいことが好ましい。
【0027】
本実施形態に係る撚線導体10における、内層側領域15と外層側領域16の双方に位置するアルミニウム系素線によって構成される単位断面部のアスペクト比の平均値の下限値は、反力を撚線導体の全体で緩和させるとともに、素線同士のかみ合いを発生し易くすることで曲げ癖を付け易くするため、4.2以上であり、好ましくは4.5以上である。他方で、本実施形態に係る撚線導体10における、内層側領域15と外層側領域16に位置するアルミニウム系素線によって構成される単位断面部のアスペクト比の平均値の上限値は、隣接する素線同士が擦れ合うことで酸化被膜を破壊され易くして素線抵抗値のばらつきを抑えるため、13.0以下であり、好ましくは10.0以下である。
【0028】
また、本実施形態に係る撚線導体10における、内層側領域15に位置するアルミニウム系素線によって構成される単位断面部のアスペクト比の平均値の下限値は、反力を撚り線全体で緩和させ、また、素線同士のかみ合いを発生しやすくすることで曲げ癖を付け易くするため、好ましくは4.5以上であり、より好ましくは5.0以上である。他方で、本実施形態に係る撚線導体10における、内層側領域15に位置するアルミニウム系素線によって構成される単位断面部のアスペクト比の平均値の上限値は、隣接する素線同士が擦れ合うことで酸化被膜を破壊され易くして素線抵抗値のばらつきを抑えるため、好ましくは12.0以下であり、より好ましくは10.0以下である。
【0029】
本実施形態に係る撚線導体10のうち、長手方向断面で見て、複数の層を形成する複数のアルミニウム系素線121、122のうち、撚線導体10の径方向Dの内外で隣接する内層側領域15と外層側領域16を構成する隣接する2層にそれぞれ位置するアルミニウム系素線同士、例えば内層アルミニウム系素線121と外層アルミニウム系素線122同士は、径方向内側に位置する内層アルミニウム系素線121の1つの第1単位断面部123に対して、径方向外側に位置する外層アルミニウム系素線122の2つ以上の第2単位断面部(
図1(c)では、2つの第2単位断面部124a、124b)が重なり合う位置関係にあることが好ましい。このとき、外層側に位置するアルミニウム系素線の2つ以上の第2単位断面部のうち、第1単位断面部123との長手方向Eの重なり割合が最も大きい第2単位断面部(
図1(c)では第2単位断面部124a)の長手方向中心位置P2が、第1単位断面部123の長手方向中心位置P1から、第1単位断面部123の長手方向寸法X
1の35%に相当する寸法0.35X
1の位置Pまでの範囲内にあることが好ましい。このように、第1単位断面部123の長手方向中心位置P1から第2単位断面部124aの長手方向中心位置P2までの寸法dが、第1単位断面部123の長手方向中心位置P1から寸法位置Pまでの範囲内にあることで、内層側と外層側の素線の接触した部分が互いに擦れ合って酸化被膜が破壊され易くなるため、接続部材との接続信頼性を向上させることができる。
【0030】
内層側領域15に位置するアルミニウム系素線の単位断面部(例えば
図1(c)の第1単位断面部123)のアスペクト比の平均値や、外層側領域16に位置するアルミニウム系素線の単位断面部(例えば
図1(c)の第2単位断面部124a、124b)のアスペクト比の平均値、第1単位断面部123の長手方向中心位置P1から第2単位断面部124の長手方向中心位置P2までの寸法dについては、アルミニウム系素線の撚りの強さや、撚り合わせたアルミニウム系素線を圧縮して撚線導体10を得る際の撚線圧縮率を調整することで、適切な値に調整することができる。
【0031】
[粗面化領域]
本実施形態に係る撚線導体10の外層アルミニウム系素線122のうち、最外層にある最外層アルミニウム系素線126は、端子30(
図4参照)、分岐コネクタ41(
図5参照)、延長コネクタ52(
図6参照)等の接続部材が圧着される被圧着部分の外周面を形成するため、その被圧着部分を含む表面部分に、算術平均高さ(Sa)が0.4μm以上500μm以下の粗面化領域2を有することが好ましい。このような数値範囲の算術平均高さ(Sa)を備える粗面化領域2を有することで、粗面化領域2を構成する凹凸形状の中で凸になっている部分の多くが接続部材(図示せず)と圧着する際に変形し、その変形した多くの部分が大気と接触せずに接続部材と電気的に接続されるため、圧着後の最外層アルミニウム系素線126と接続部材との間の接続部分における不動態皮膜の形成が大幅に抑制され、撚線導体10と接続部材との間における電気抵抗の上昇を大幅に抑えることができる。すなわち、撚線導体10が上記数値範囲の算術平均高さ(Sa)を備える粗面化領域2を有すると、曲げ癖容易性および接続部材との高い接続信頼性に加えて、接続部材との接続部分における電気抵抗の上昇を大幅に抑制できるため、曲げ癖が付与された撚線導体であっても、接続部分の導電性の低下を大幅に抑制することができる。
【0032】
ここで、最外層アルミニウム系素線126の粗面化領域2の算術平均高さ(Sa)は、最外層アルミニウム系素線126の1本のうち、撚線導体10の外面を構成している素線表面について、素線の線径の3分の1の長さを一辺とした正方形の領域を基準面として測定される、粗面化領域2の算術平均高さ(Sa)である。撚線導体10と接続部材との電気抵抗の上昇を抑える観点から、この算術平均高さ(Sa)の下限は、6.0μmがより好ましく、9.0μmがさらに好ましく、他方でこの算術平均高さ(Sa)の上限は、350μmがより好ましく、50μmがさらに好ましい。
【0033】
また、この粗面化領域2は、撚線導体10の長手方向Eについての寸法である長手方向寸法Zが、接続部材と接触する接続部分の全体について電気抵抗の上昇を抑えるため、接続部材の長手方向寸法以上であることが好ましい。ここで、接続部材の長手方向寸法とは、撚線導体10の長手方向Eに対応して延在する方向の寸法である。より具体的には、粗面化領域2の長手方向寸法Zは、例えば10mm以上300mm以下の範囲にすることが好ましい。
【0034】
特に、撚線導体10が圧縮を施してなる圧縮撚線導体である場合には、外周素線12、例えば最外層アルミニウム系素線126の断面は、
図2に示すように、接続部材と接触する部分が圧縮されていることが好ましく、また、(圧着前の)被圧着部分の最小線径L1に対する最大線径L2の比(最大線径L2/最小線径L1)が、素線ごとの算術平均で1.1以上2.0以下であることが好ましい。ここで、最外層アルミニウム系素線126の断面について、被圧着部分の最小線径L1に対する最大線径L2の比を、平均で1.1以上2.0以下の範囲にすることで、最外層アルミニウム系素線126と接続部材との接触面積が増加するとともに、上述の算術平均高さ(Sa)によって、撚線導体10と接続部材との電気的な接続をさらに図ることができるため、接続部材との間における接続信頼性をより高めることができる。
【0035】
撚線導体10に粗面化領域2を形成する方法は、特に限定されないが、例えば中心導体線11を中心にアルミニウム系素線を撚り合わせて単層または2層以上の外周素線12を形成した後、最外層アルミニウム系素線126のうち、接続部材が圧着される部分、すなわち被圧着部分について、ステンレスブラシなどの粗面化部材を用いて手動で粗面化領域2を形成し、または、この粗面化部材を備えた粗面化機械を用いて粗面化領域2を形成することができる。
【0036】
ここで、粗面化領域2の算術平均高さ(Sa)は、粗面化領域2を形成する際の条件を調整することで、適切な値に調整することができる。例えば、ステンレスブラシを用いて粗面化領域2を形成する場合には、ブラシの素線直径や素線密度、最外層アルミニウム系素線126を擦る際の荷重や回数を調整することができる。
【0037】
また、最外層アルミニウム系素線126の断面における最小線径に対する最大線径の比については、アルミニウム系素線の扁平率(素線扁平率)や形状、撚り合わせたアルミニウム系素線を圧縮して撚線導体10を得る際の撚線圧縮率を調整することで、適切な値に調整することができる。
【0038】
[アルミニウム系素線の形状等]
内層アルミニウム系素線121および外層アルミニウム系素線122は、接続部材との接触部分を安定して形成できるとともに、撚線導体10が屈曲し易くなるため、丸線や扁平線であることが好ましい。
【0039】
内層アルミニウム系素線121と外層アルミニウム系素線122の線径は、特に限定されないが、その下限値は、摩耗などによる断線を防ぐ観点から、1.0mmが好ましく、1.5mmがより好ましい。他方で、内層アルミニウム系素線121と外層アルミニウム系素線122の線径の上限値は、所望の曲げ加工性を持たせる観点から、3.2mmが好ましく、3.0mmがより好ましく、2.5mmがさらに好ましい。
【0040】
なお、本明細書において、扁平線のように断面が円形でないアルミニウム系素線の線径(素線径)は、断面積が等しい丸線の断面積から線径を換算して求めることとする。また、圧縮を施された圧縮撚線導体における最外層アルミニウム系素線126の線径についても、同様に、断面積が等しい丸線の断面積から線径を換算して求めることとする。
【0041】
ここで、内層アルミニウム系素線121の線径は、外層アルミニウム系素線122の線径と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0042】
本実施形態に係る撚線導体10では、撚線導体の径方向Dについて内外に隣接した層(例えば、
図1の内層アルミニウム系素線121と外層アルミニウム系素線122)にそれぞれ位置するアルミニウム系素線同士は、互いに撚り方向が交差する方向になるような配置関係を有していることが好ましい。このとき、隣接した層の撚り方向を交差させることで、点接触した素線同士の部分が互いに強く擦れ合って動き難くなるため、撚線導体10に曲げ癖を付け易くすることができる。また、隣接した層の撚り方向を交差させることで、撚線導体10はより円形に近い径方向の断面を有し、接続部材に安定して圧着される撚線導体10を得ることができる。また、隣接した層の撚り方向を交差させることで、最外層を構成するアルミニウム系素線と、隣接する内層を構成するアルミニウム系素線とが互いに点接触するように配置されているため、点接触した素線同士の部分が互いに擦れ合って酸化被膜が破壊されやすくなる結果、接続安定性を向上させることができる。
【0043】
ここで、撚り方向が交差する方向になるような配置関係としては、例えば
図3に示す撚線導体10のように、隣接した層にそれぞれ位置するアルミニウム系素線同士、例えば
図3の外層アルミニウム系素線122と内層アルミニウム系素線121同士の撚り方向が、互いに交差する方向(逆向き)になるような配置関係(逆巻き)が好ましいが、このほか、隣接する層に位置するアルミニウム系素線の撚りに強弱の差をつけることで、撚り方向を交差させてもよい。また、隣接した層にそれぞれ位置するアルミニウム系素線同士の撚り方向が、互いに同じ方向(略平行方向)になるような配置関係(平行巻き)にしてもよい。
【0044】
本実施形態に係る撚線導体10を構成する中心導体線11は、
図1では、1本の素線によって構成されている場合を示しているが、中心導体線11に代わって、複数の素線で構成してもよい。ここで、中心導体線11を複数の素線を撚り合わせた中心撚線で構成する場合、複数の素線を撚り合わせた中心撚線の中心軸を、中心導体線の仮想中心線Oとすることができる。また、中心撚線は、隣接した外側の層に位置する素線とは、上述のように撚り方向を互いに交差させることが好ましい。
【0045】
本実施形態に係る撚線導体10は、円筒形の巻き付け冶具に対し、前記撚線導体に荷重を負荷して巻き付けてから除荷したときに、曲率半径110mmの曲げ癖を付けるのに必要な荷重が、撚線導体10の横断面積をα[mm
2]としたときに、0.025α[N]以下であることが好ましい。このような撚線導体10は、曲げ方向に力を加えると元の形状に戻り難く、曲げ癖を付け易いものである。特に、本実施形態に係る撚線導体10では、0.2%耐力の大きなアルミニウム系素線を用いた場合であっても、曲げ癖を付け易くすることができる。ここで、撚線導体10における、曲率半径110mmの曲げ癖を付けるのに必要な荷重は、0.010α[N]以下であることがより好ましい。なお、円筒形の巻き付け冶具の半径は、撚線導体10に曲げ癖を容易に付ける観点から、例えば50〜109mmとすることができる。
【0046】
<被覆電線についての実施形態>
本実施形態に係る被覆電線1は、例えば
図1に示されるように、上述の撚線導体10と、撚線導体10の外周面部分に形成された絶縁被覆13とを有する。ここで、撚線導体10と接続部材との接続信頼性を向上する観点から、被覆電線1は、撚線導体10と、粗面化領域2を除く撚線導体10の外周面部分に形成された絶縁被覆13とを有することが好ましい。より具体的には、撚線導体10の外周に、少なくとも絶縁被覆13が積層され、より好ましくはその外周に最外層としてシース14が積層されたものとすることができる。
【0047】
ここで、絶縁被覆13としては、公知の材料を用いることができ、例えばポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンや、ポリ塩化ビニルなどを用いることができる。また、粗面化領域2による絶縁被覆13の破損を防ぐため、絶縁被覆13は、粗面化領域2を除く撚線導体10の外周面部分に形成されていることが好ましい。
【0048】
<端子付き被覆電線、分岐被覆電線、補線付き被覆電線についての実施形態>
本実施形態に係る被覆電線1は、撚線導体10に、端子、分岐コネクタ、延長コネクタ等の接続部材が圧着されることが好ましく、それにより端子付き被覆電線、分岐被覆電線、補線付き被覆電線を構成することが好ましい。撚線導体10と接続部材との接続信頼性を向上する観点から、被覆電線1は、少なくとも粗面化領域2に、接続部材が圧着されることがより好ましい。以下では、各種の接続部材が被覆電線1の粗面化領域2に圧着される例を示すが、接続部材が粗面化領域2を具備しない被覆電線1に圧着されてもよい。
【0049】
このとき、撚線導体10を構成する各々のアルミニウム系素線と接続部材との間における抵抗値の標準偏差σは、抵抗値の平均の25%以下であることが好ましい。これにより、アルミニウム系素線の各々と接続部材とが、撚線導体の表面に形成された不働態皮膜の大部分が破壊されることで、不働態皮膜による電気抵抗の上昇が起こり難くなるため、撚線導体10と接続部材との間で高い接続信頼性を得ることができる。ここで、各々のアルミニウム系素線と接続部材との間における抵抗値の標準偏差σは、抵抗値の平均の10%以下であることがより好ましい。
【0050】
(端子付き被覆電線)
このうち、端子付き被覆電線3は、例えば
図4に示すように、上述した被覆電線1と、この被覆電線1の一端または両端に形成した粗面化領域2に圧着固定した端子30とを有する。
【0051】
ここで、端子30は、上述のアルミニウム系素線と同様に純アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、筒状の内部空間31を有する部材である。この端子30には、被覆電線1のうち撚線導体10の粗面化領域2が内部空間31に挿入された状態でカシメ加工が施されており、それにより形成される係止部32によって、端子30が被覆電線1の粗面化領域2で圧着される。
【0052】
(分岐被覆電線)
分岐被覆電線4は、例えば
図5に示すように、幹線としての上述の被覆電線である第1被覆電線1と、分岐線としての他の被覆電線である第2被覆電線40と、分岐コネクタ41とを備え、この分岐コネクタ41の第1圧着部42で、第1被覆電線1に形成した粗面化領域2に圧着固定するとともに、分岐コネクタ41の第2圧着部43で、第2被覆電線40の皮剥ぎした一端に圧着固定したものである。
【0053】
ここで、第2被覆電線40の導体材料は、上述のアルミニウム系素線と同様に純アルミニウムまたはアルミニウム合金からなっていてもよく、また、銅やステンレス鋼(SUS)のように、被覆電線1の撚線導体10の構成材料とは異なる材料からなってもよい。
【0054】
また、分岐コネクタ41は、上述のアルミニウム系素線と同様に純アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、両側が開いた筒状の内部空間を有する第1圧着部42と、片側が開いた筒状の内部空間を有する第2圧着部43と、を有する部材である。この分岐コネクタ41は、被覆電線1のうち撚線導体10の粗面化領域2が第1圧着部42内に位置し、かつ第2被覆電線40の皮剥ぎした端部が第2圧着部43の内部空間に挿入された状態で圧潰されており、それにより第1圧着部42が被覆電線1の粗面化領域2に圧着固定されるとともに、第2圧着部43が第2被覆電線40の皮剥ぎした一端に圧着固定されることによって、分岐被覆電線4を得ることができる。
【0055】
(補線付き被覆電線)
補線付き被覆電線5は、例えば
図6に示すように、上述の被覆電線である第1被覆電線1と、第1被覆電線1を延長する補線である別の被覆電線である第3被覆電線50と、延長コネクタ52とを備え、この延長コネクタ52の第3圧着部53で、第1被覆電線1に形成されている粗面化領域2に圧着固定するとともに、延長コネクタ52の第4圧着部54で、第3被覆電線50の皮剥ぎした一端に圧着固定することで得ることができる。
【0056】
ここで、第3被覆電線50の導体材料は、アルミニウム系素線よりも電気抵抗の大きい不動態皮膜を形成し難い材料であることが好ましく、例えば銅やステンレス鋼(SUS)などが挙げられる。
【0057】
また、延長コネクタ52は、上述のアルミニウム系素線と同様に純アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、筒状の内部空間を有する第3圧着部53および第4圧着部54を有する部材である。この延長コネクタ52は、被覆電線1のうち撚線導体10の粗面化領域2が第3圧着部53に挿入され、かつ第3被覆電線50の皮剥ぎした端部が第4圧着部54の内部空間に挿入された状態で圧潰されており、それにより第3圧着部53が被覆電線1の粗面化領域2に圧着固定されるとともに、第4圧着部54が第3被覆電線50の皮剥ぎした一端に圧着固定されることによって、被覆電線1が延長された補線付き被覆電線5を得ることができる。
【0058】
(複数の接続部材を有する構造)
本実施形態では、端子30、分岐コネクタ41および延長コネクタ52のうち2種以上を組み合わせてもよく、また、端子30、分岐コネクタ41および延長コネクタ52のうち1種以上を複数用いてもよい。
【0059】
例えば、
図7に示すように、上述の被覆電線である第1被覆電線1を用い、第1被覆電線1と、分岐線としての他の被覆電線である第2被覆電線40と、分岐コネクタ41と、端子30、30´を備えた、端子付き分岐被覆電線6を構成することができる。この端子付き分岐被覆電線6では、分岐コネクタ41の第1圧着部42で、第1被覆電線1に形成されている粗面化領域2が圧着固定されるとともに、分岐コネクタ41の第2圧着部43が第2被覆電線40の皮剥ぎした一端に圧着固定される。他方で、上述の第1被覆電線1の一方の端に粗面化領域2´が形成され、この粗面化領域2´に端子30が圧着固定される。また、上述の第1被覆電線1の他方の端に粗面化領域2´´が形成され、この粗面化領域2´´に端子30´が圧着固定される。
【0060】
また、
図8に示すように、上述の被覆電線である第1被覆電線1を用い、第1被覆電線1と、分岐線としての他の被覆電線である第2被覆電線40と、分岐コネクタ41と、第1被覆電線1を延長する補線である別の被覆電線である第3被覆電線50、50´と、延長コネクタ52、52´とを備えた、補線付き分岐被覆電線7を構成することもできる。この補線付き分岐被覆電線7では、分岐コネクタ41の第1圧着部42で、第1被覆電線1に形成されている粗面化領域2が圧着固定されるとともに、分岐コネクタ41の第2圧着部43で、第2被覆電線40の皮剥ぎした一端が圧着固定される。他方で、上述の第1被覆電線1の一方の端に粗面化領域2´が形成され、この延長コネクタ52の第3圧着部53で、第1被覆電線1に形成されている粗面化領域2´が圧着固定されるとともに、延長コネクタ52の第4圧着部54に第3被覆電線50の皮剥ぎした一端が圧着固定される。また、上述の第1被覆電線1の他方の端に粗面化領域2´´が形成され、この延長コネクタ52´の第3圧着部53´で、第1被覆電線1に形成されている粗面化領域2´´が圧着固定されるとともに、延長コネクタ52´の第4圧着部54´に第3被覆電線50´の皮剥ぎした一端が圧着固定される。
【実施例】
【0061】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0062】
(1)撚線導体および被覆電線の作製
[本発明例1]
アルミニウム系素線として、素線径1.6mmの丸線(素線扁平率=1)の材料種A1070、調質記号H11(0.2%耐力(表中には「耐力」と記載):50(N))の純アルミニウム導体線を19本用い、1本の中心導体線の周囲に6本の素線を撚り合わせて内層アルミニウム系素線を形成し、その周囲に、12本の素線を撚り合わせて外層アルミニウム系素線(最外層アルミニウム系素線)を形成して、1+6+12の撚り構造を有する撚線導体を作製した。このとき、外層アルミニウム系素線は、隣接している内層アルミニウム系素線と逆方向に撚り合わせた(逆巻き)。この撚線の全体について、圧縮率(撚線圧縮率)が2%となる力で圧縮を施し、圧縮撚線導体を得た。得られた圧縮撚線導体の撚線断面積(撚線導体の横断面積)は38mm
2である。
【0063】
この撚線導体の端から50mmの範囲について、素線直径0.6mm、素線密度1本/mm
2のステンレスブラシを用い、撚線導体の粗面化領域を形成する部分に位置する最外層のアルミニウム系素線の外周面に対して、5Nの負荷荷重を作用させたステンレスブラシを、撚線導体の長手方向Eに沿って5回移動させる(擦る)ことで、撚線導体の最外層に位置する外層アルミニウム系素線の表面部分に、撚線導体の長手方向Eに沿った寸法Zが50mmの粗面化領域を形成した。形成された粗面化領域について、キーエンス製VK−X250を用いて、撚線導体の最外層に位置する外層アルミニウム系素線の1本のうち、撚線導体の外面を構成している素線表面について、素線の線径の3分の1の長さを一辺とした正方形の領域を基準面としたときの算術平均高さ(Sa)を倍率400倍で測定したところ、9.7μmであった。
【0064】
また、この撚線導体について、倒立金属顕微鏡(装置名GX71、OLYMPUS社製)を用いて長手方向断面を観察するとともに、得られる画像から、内層側領域にある第1単位断面部123のアスペクト比について、5個のサンプル断面についての平均値を求めたところ、4.5と求められた。また、外層側領域にある第2単位断面部124のアスペクト比について、5個のサンプル断面についての平均値を求めたところ、4.0と求められた。また、内層側領域にある第1単位断面部123のアスペクト比と、外層側領域にある第2単位断面部124のアスペクト比の単純平均は、4.25と求められた。さらに、第1単位断面部123と、この第1単位断面部123との長手方向の重なり割合が最も大きい第2単位断面部124aについて、第1単位断面部123の長手方向寸法X
1の35%に相当する寸法0.35X
1に対する、第1単位断面部123の長手方向中心位置P1から第2単位断面部124aの長手方向中心位置P2までの寸法dの割合(d/0.35X
1)を求めたところ、0.9と求められた。
【0065】
また、この撚線導体について、倒立金属顕微鏡(装置名GX71、OLYMPUS社製)を用いて撚線導体の長手方向に垂直な断面を観察するとともに、得られる画像から、最外層に位置する外層アルミニウム系素線の最小線径L1に対する最大線径L2の比を求めたところ、素線ごとの算術平均で1.1と求められた。
【0066】
この撚線導体に接続するアルミニウム系端子として、純アルミニウム端子の内表面と外表面に、それぞれ、厚さ3μmのニッケル層と厚さ10μmのスズ層を上記順序で積層させた表面被覆を形成させたアルミニウム系端子を用いた。このアルミニウム系端子の導体圧着部位の長手方向寸法は8mmである。このアルミニウム系端子内に、撚線導体の粗面化領域を差し込み、減面率5〜15%となる圧着領域の面積が、撚線導体の断面積の1〜2倍となるような圧着条件にて、かしめにより撚線導体をアルミニウム系端子に圧着した。
【0067】
[本発明例2〜11および比較例1〜3]
表1の記載に基づいて条件を調整した以外は本発明例1と同様にして、粗面化領域の形成された圧縮撚線導体を得た。得られた圧縮撚線導体の粗面化領域の算術平均高さ(Sa)、前記寸法0.35X
1に対する前記寸法dの割合(d/0.35X
1)、最外層アルミニウム系素線の最小線径に対する最大線径の比(L2/L1比)の測定結果を、表1に示す。
【0068】
また、本発明例3において得られた圧縮撚線導体について、倒立金属顕微鏡(装置名GX71、OLYMPUS社製)を用いて観察される長手方向断面の顕微鏡写真を、
図9に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
(2)曲げ癖を付けるのに必要な力に関する評価
得られた撚線導体に、厚さ2.0mmの架橋ポリエチレンからなる絶縁被覆と、厚さ1.5mmの塩化ビニルからなるシースを設けた被覆電線1について、曲げ癖を付けるのに必要な力を評価した。評価対象となる被覆電線1について、
図10(a)に示されるように一端を固定用冶具8に固定した後、50〜109mmの半径を有する円筒形の巻き付け冶具9を、巻き付け冶具9の円筒形の中心軸が、被覆電線1の中心軸に対して、上面投影図で見て直角に交差するような位置関係になるように配置するとともに、巻き付け冶具9が被覆電線1を上側から押さえるように固定して設けた。次に、巻き付け冶具9から0.5m離れた位置で、被覆電線1に下側から0.1[N]〜10[N]の範囲の荷重を掛け、
図10(b)に示されるように、被覆電線1が巻き付け冶具9に巻き付けるように曲げ癖を付け、曲げ癖を付けた部分における除荷後の曲率半径を測定した。測定される曲率半径の値に応じて、曲率半径が110mmになるように荷重を調整し、被覆電線1に曲げ癖を付けて除荷した後の曲率半径を再度測定することで、曲率半径110mmの曲げ癖を付けるときに必要となる荷重を求めた。その結果について、以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
◎:半径110mmの曲率の曲げ癖を付けるために必要な荷重が、前記撚線導体の横断面積をα[mm
2]としたときに、0.010α[N]以下である
〇:半径110mmの曲率の曲げ癖を付けるために必要な荷重が、前記撚線導体の横断面積をα[mm
2]としたときに、0.010α[N]超0.025α[N]以下である
×:半径110mmの曲率の曲げ癖を付けるために必要な荷重が、前記撚線導体の横断面積をα[mm
2]としたときに、0.025α[N]超である
【0071】
(3)撚線導体を構成する素線間における抵抗のばらつきに関する評価
アルミニウム系端子に圧着された撚線導体について、アルミニウム系端子への圧着を保つように撚線導体の撚りを解いて素線ごとに分けた後、全ての素線とアルミニウム系端子との間の電気抵抗値を、3560ACミリオームハイテスタ(HIOKI社製)を用いて4端子抵抗測定法にて測定し、測定した電気抵抗値から、電線部分の抵抗値を除いた電気抵抗値の平均値と標準偏差を算出して、下記基準で評価した。結果を表2に示す。
【0072】
ここで、全ての素線とアルミニウム系端子間の電気抵抗値の標準偏差が平均値の10%以内であったものを、使用初期において接続部材との接続信頼性が優れていると判定して「◎」とし、全ての素線とアルミニウム系端子間の電気抵抗値の標準偏差が平均値の10%超25%以内であったものを、使用初期において接続部材との接続信頼性が良好であると判定して「○」とした。他方で、全ての素線とアルミニウム系端子間の電気抵抗値の標準偏差が平均値の25%超であったものを、使用初期において接続部材との接続信頼性が劣る(不可)と判定して「×」とした。
【0073】
(4)総合判定評価方法
曲げ癖を付けるのに必要な力に関する評価結果と、素線間における抵抗のばらつきに関する評価結果に基づく総合判定について、以下の評価基準により判定した。結果を表2に示す。
【0074】
ここで、曲げ癖を付けるのに必要な力に関する評価結果と、素線間における抵抗のばらつきに関する評価結果がいずれも「◎」評価であったものを、曲げ癖の付け易さと、接続部材との間での高い接続信頼性の両方において優れていると判定して「◎」とした。また、曲げ癖を付けるのに必要な力に関する評価結果と、素線間における抵抗のばらつきに関する評価結果がいずれも「○」評価以上であり、かつ、いずれかの評価結果が「◎」評価であったものを、曲げ癖の付け易さと、接続部材との間での高い接続信頼性の両方において良好であると判定して「○」とした。他方で、曲げ癖を付けるのに必要な力に関する評価結果と、素線間における抵抗のばらつきに関する評価結果のいずれかで「×」評価であったものを、曲げ癖の付け易さと、接続部材との間での高い接続信頼性の少なくともいずれかにおいて劣る(不可)と判定して「×」とした。
【0075】
【表2】
【0076】
表1〜2から明らかなように、0.2%耐力が50〜120MPaであるアルミニウム系素線を用いるとともに、アルミニウム系素線の単位断面部のアスペクト比の平均値が4.2〜13.0の範囲となる撚線導体(本発明例1〜11)では、曲げ癖を付けるのに必要な力に関する評価結果と、素線間における抵抗のばらつきに関する評価結果がいずれも「○」評価以上であり、かつ、いずれかの評価結果が「◎」評価であったため、曲げ癖の付け易さと、接続部材との間での高い接続信頼性の両方において良好であることが分かった。
【0077】
他方で、アルミニウム系素線の単位断面部のアスペクト比の平均値が2.5と小さい比較例1の撚線導体では、素線間における抵抗のばらつきに関する評価結果は「〇」であったものの、曲げ癖を付けるのに必要な力に関する評価結果が「×」であり、曲げ癖の付け易さにおいて劣るものであった。また、アルミニウム系素線の単位断面部のアスペクト比の平均値が19.5と大きい比較例2の撚線導体では、曲げ癖を付けるのに必要な力に関する評価結果は「〇」であったものの、素線間における抵抗のばらつきに関する評価結果が「×」であり、接続部材との間での接続信頼性において劣るものであった。また、撚線導体を構成するアルミニウム系素線の0.2%耐力が275MPaと大きい比較例3の撚線導体では、素線間における抵抗のばらつきに関する評価結果は「〇」であったものの、曲げ癖を付けるのに必要な力に関する評価結果が「×」であり、曲げ癖の付け易さにおいて劣るものであった。
【0078】
上記結果より、0.2%耐力が50〜120MPaであるアルミニウム系素線を用いるとともに、アルミニウム系素線の単位断面部のアスペクト比の平均値が4.2〜13.0の範囲となる撚線導体(本発明例1〜11)では、比較例1〜3の撚線導体と比較して、曲げ癖の付け易さと、接続部材との間での高い接続信頼性の両方において良好であることが分かった。