【課題】磁性材料からなるターゲットを用いてマグネトロンスパッタリングを行う成膜装置において、ターゲット表面の磁場強度を一定に保つことによってターゲットの消費初期から最終段まで安定した膜厚分布の成膜を行うことができる技術を提供する。
【解決手段】本発明のスパッタ成膜装置1は、成膜室2内においてバッキングプレート8に保持された磁性材料からなるターゲット7と、バッキングプレート8の基板6に対して背面側に設けられたマグネトロン放電用の磁石装置10と、磁石装置10によるターゲット7表面の磁場強度を測定する磁場測定子15と、ターゲット7と磁石装置10との間の相対距離を変化させる移動機構13と、磁場測定子15における測定結果に基づいて磁石装置10によるターゲット7表面の磁場強度を変化させて一定に保つように移動機構13の動作を制御する。
前記磁場測定子が、前記成膜室内へ前記基板を搬入し、かつ、前記成膜室から前記基板を搬出するための基板搬送機構に設けられている請求項1又は2のいずれか1項記載のスパッタ成膜装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明に係るスパッタ成膜装置の実施の形態の内部を示す概略構成図であり、デポダウンで成膜を行うものである。
【0013】
本実施の形態のスパッタ成膜装置1は、マグネトロンスパッタリング方式のもので、接地電位にされた成膜室2を有している。
【0014】
成膜室2は、その内部の真空排気を行う真空排気装置3に接続されるとともに、成膜室2内にアルゴン(Ar)ガス等のスパッタガスを導入可能なスパッタガス源4に接続されている。
【0015】
成膜室2内には、ステージ5上に基板6が載置され、この基板6と対向するように、例えばニッケル(Ni)やコバルト(Co)等の磁性材料からなるターゲット7が、バッキングプレート8に取り付けられている。
【0016】
バッキングプレート8はスパッタ電源9に電気的に接続され、バッキングプレート8を介してターゲット7に所定の電力(電圧)を供給するように構成されている。
【0017】
ターゲット7に供給する電力の種類は特に限定されるものではなく、直流、交流(高周波、パルス状のものも含む)のいずれであってもよい。
【0018】
成膜室2内においてバッキングプレート8のターゲット7に対して反対側(背面側)には、複数の磁石装置10が設けられている。
【0019】
本実施の形態の磁石装置10は、ターゲット7のスパッタ面側に磁場を発生させるよう支持板11の下面にそれぞれ取り付けられている。
【0020】
各磁石装置10は、ヨーク上にそれぞれ設置された、中心磁石と、中心磁石の周囲に連続的な環形状で設けられた外周磁石とを有している。
【0021】
なお、外周磁石は、必ずしも一つの継ぎ目のない環形状であることを意味しない。すなわち、中心磁石の周囲を取り囲む形状であれば、複数の部品から構成されていてもよい。
【0022】
磁石装置10が取り付けられた支持板11は移動機構13に連結され、この移動機構13を動作させて支持板11を上下方向に移動させることにより、各磁石装置10とターゲット7との間の相対距離(例えば各磁石装置10と掘れる前のターゲット7表面との距離)を変化させるように構成されている。
【0023】
本実施の形態では、磁石装置10による成膜室2内の磁場を測定する磁場測定子15を有し、磁場測定子15において得られた結果に基づいてターゲット7と磁石装置10との間の相対距離を変化させる。
【0024】
この場合、磁場測定子15は、基板6を昇降させる複数の昇降ピン16のそれぞれに設けられている。各昇降ピン16は、ステージ5内においてフレーム18に鉛直方向に向けて固定され、昇降機構17によって上方及び下方に移動するように構成されている。
【0025】
磁場測定子15は、磁石装置10によって形成される磁場の強度を検出して電気信号に変換するもので、例えばホール素子等の磁気センサを用いることができる。
【0026】
そして、各磁場測定子15は、配線19を介して制御部14に電気的に接続され、制御部14は、磁場測定子15からの信号に基づいて移動機構13に命令を送出し、移動機構13は、制御部14からの命令に基づいて支持板11(磁石装置10)を上下方向に移動させるように構成されている。
【0027】
なお、上述した配線19、制御部14を設ける機構部分は、必要に応じてベローズ等を用いて成膜室2内の真空雰囲気が維持されるように構成することが好ましい。
【0028】
本実施の形態では、次のように移動機構13の動作を制御する。
【0029】
まず、磁場測定子15によって磁石装置10による成膜室2内の磁場を所定のタイミングで測定する。
【0030】
この場合、磁石装置10による成膜室2内の磁場強度を磁場測定子15によって測定するタイミングは、例えばスパッタプロセスを開始する直前など任意に設定することができる。
【0031】
そして、例えば各磁場測定子15における測定結果が予め定めた基準値(範囲)と異なった場合に、制御部14からの命令によって移動機構13を動作させることにより、各磁石装置10を上昇又は下降させてターゲット7との間の距離を変化させ、磁場測定子15によって磁石装置10による磁場(特にターゲット7に対して垂直方向の磁場)を測定する。
【0032】
この場合、例えば磁場測定子15を連続的にオンにし、磁場測定子15にて得られた磁場強度が例えば前回のスパッタプロセスと同等となるまで各磁石装置10の上昇又は下降を継続する。
【0033】
そして、磁場測定子15にて得られた磁場強度が前回のスパッタプロセスと同等の値となった時点で移動機構13の動作を停止し、基板6を成膜室2内に搬入して、スパッタプロセスを開始する。
【0034】
以上述べた本実施の形態にあっては、磁石装置10によるターゲット7表面の磁場強度を測定する磁場測定子15を設け、磁場測定子15における測定結果に基づいて磁性材料からなるターゲット7と磁石装置10との間の相対距離を変化させるように移動機構13の動作を制御し、磁石装置10によるターゲット7表面の磁場強度を変化させるようにしたことから、ターゲット7の消費に伴う磁場強度の変化を補正して例えば一定にすることによって、スパッタの際のプラズマの放電条件の変動を抑えることができる。
【0035】
その結果、本実施の形態によれば、ターゲット7の消費初期から最終段まで安定した膜厚分布の成膜を行うことができる。
【0036】
また、本実施の形態によれば、上方及び下方に移動する昇降ピン16に磁場測定子15が設けられていることから、新たな機構を設けることなくターゲット7表面に対して直交する方向の磁場強度の変化を測定することができる。
【0037】
図2は、本発明の他の実施の形態の内部を示す概略構成図である。
【0038】
以下、上記実施の形態と対応する部分には同一の符号を付しその詳細な説明を省略する。
【0039】
図2に示すように、本実施の形態のスパッタ成膜装置1Aは、磁場測定子15が、成膜室2内へ基板6を搬入し、かつ、成膜室2から基板6を搬出するための基板搬送用アーム(基板搬送機構)20に設けられている。
【0040】
この基板搬送用アーム20は、例えばゲートバルブ21を介して成膜室2に接続された搬送室2A内に設けられた搬送ロボット(図示せず)によって駆動され、上下方向並びに水平方向に移動できるように構成されている。
【0041】
本実施の形態では、1個又は複数個の磁場測定子15を基板搬送用アーム20に設けることができる。基板搬送用アーム20の磁場測定子15を設ける位置は特に限定されず、より正確に磁石装置10の磁場強度を測定できる位置に設ければよい。
【0042】
そして、磁場測定子15は、上記実施の形態と同様に、配線19を介して制御部14に電気的に接続されている。
【0043】
本実施の形態では、成膜室2内において基板搬送用アーム20を上下方向並びに水平方向に移動させ、所定の位置で磁場測定子15をオンにして磁石装置10による磁場強度を測定することができるように構成されている。
【0044】
この場合、基板搬送用アーム20によって基板6を保持したまま磁場強度の測定を行うこともできる。
【0045】
磁石装置10による成膜室2内の磁場強度を磁場測定子15によって測定するタイミングは、例えばスパッタプロセスを開始する直前など上記実施の形態と同様に任意に設定することができる。
【0046】
このような構成を有する本実施の形態は、ステージ5とターゲット7との上下関係を逆にしても不都合が生じないので、デポダウン又はデポアップのいずれの方式のスパッタ成膜装置に適用することができる。
【0047】
そして、本実施の形態によれば、上下方向並びに水平方向に移動可能な基板搬送用アーム20に磁場測定子15が設けられていることから、ターゲット7表面の磁場強度の変化を広範囲にわたって正確に測定することができ、また1個の磁場測定子15によってターゲット7表面の各部分の磁場強度の変化を測定することも可能になる。
【0048】
図3は、本発明の他の実施の形態の内部を示す概略構成図である。
【0049】
以下、上記実施の形態と対応する部分には同一の符号を付しその詳細な説明を省略する。
【0050】
図3に示すように、本実施の形態のスパッタ成膜装置1Bは、磁場測定子15が、ターゲット7と基板6との間に配置された、基板6へのスパッタ粒子の飛翔を制御するシャッター22に設けられている。
【0051】
このシャッター22としては、例えばターゲット7表面に対して直交する方向に延びる軸23を中心としてターゲット7表面と平行な面内を回転可能な平板状の部材であって、ターゲット7表面を全面的に覆うことができるものを好適に用いることができる。
【0052】
そして、シャッター22には、複数の磁場測定子15を設けることができる。
【0053】
シャッター22に複数の磁場測定子15を設けることによってターゲット7表面の各部分の磁場強度を測定することができる。
【0054】
なお、本発明の場合、磁場測定子15をシャッター22に設ける位置は特に限定されることはないが、ターゲット7の材料の磁場測定子15に対する付着を防止する観点からは、例えばシャッター22のターゲット7と対向しない側の面に設けることが好ましい。
【0055】
そして、磁場測定子15は、上記実施の形態と同様に、配線19を介して制御部14に電気的に接続されている。
【0056】
本実施の形態において磁石装置10による成膜室2内の磁場強度を磁場測定子15によって測定するタイミングは、上記実施の形態と同様に例えばスパッタプロセスを開始する直前など任意に設定することができる。
【0057】
このような構成を有する本実施の形態は、ステージ5とターゲット7との上下関係を逆にしても不都合が生じないので、デポダウン又はデポアップのいずれの方式のスパッタ成膜装置に適用することができる。
【0058】
また、本実施の形態によれば、ターゲット7表面と平行な面内を回転可能なシャッター22に磁場測定子15が設けられていることから、新たな機構を設けることなくターゲット7表面に対して平行な方向の磁場強度の変化を測定することができる。
【0059】
なお、本発明は上述の実施の形態に限られることなく、種々の変更を行うことができる。
【0060】
例えば、上記実施の形態においては、磁場測定子15を、昇降ピン16、基板搬送用アーム20又はシャッター22に設ける場合を例にとって説明したが、本発明はこれに限られず、成膜室2内に単独の機構として設けることもできる。
【0061】
ただし、上記実施の形態のように昇降ピン16、基板搬送用アーム20又はシャッター22に磁場測定子15を設けるようにすれば、新たな機構を設けることなく既存の構成を流用することができるので、構成の簡素化及びコストダウンを図ることができる。
【0062】
さらに、上記実施の形態では、配線19によって磁場測定子15を制御部14に電気的に接続するようにしたが、無線によって磁場測定子15を制御部14に電気的に接続することもできる。
【0063】
また、
図1〜3に示す実施の形態の構成は一例であり、本発明の範囲内であれば、種々の変更をすることができるものである。
【0064】
この変更例の一つとして、昇降ピン16の上昇位置を複数設けることが考えられる。
【0065】
例えば、上昇位置の一つを通常位置とし、もう一つを測定位置とする構成である。
【0066】
ここで通常位置とは、昇降ピン16の本来の機能である基板6の搬入および搬出を行う位置を指し、測定位置とは、磁場強度を測定する位置で通常位置からターゲット7表面までの範囲であって、通常位置より上方に設けられた位置を指すものとする。
【0067】
この変更例によれば、磁場測定子15をターゲット7表面へ更に近づけることが可能となり、その結果、磁場測定子15によって測定された磁場強度の信号値が大きくなるので、S/N比を改善させることができる。
【0068】
例えば測定位置を、ターゲット7表面に昇降ピン16を接触又は接触する近傍の位置に設定すれば、測定した磁場強度の信号値を最大とすることができる。
【0069】
このように昇降ピン16の上昇位置を2つ設ける構成は、磁場測定子15を基板搬送用アーム20又はシャッター22に設ける実施の形態であっても、双方の駆動導入部に公知の昇降機構あるいはチルト機構を付加することで実現でき、各機構に付随する検出手段の位置検出方法に応じて測定位置を任意の位置に設定することができる。
【0070】
そして、上記いずれの構成においても、S/N比を改善させることができる。
【0071】
また上述した変更例においては、通常位置よりターゲット7表面に近い測定位置において磁場測定子15による磁場強度を測定することとしたが、これに加え、通常位置においても磁場測定子15によって磁場強度を測定することもできる。
【0072】
このように二つ以上の複数位置にて磁場強度を測定することは、測定位置における平面に加えて通常位置における平面、つまり二つ以上の複数平面における磁場強度の信号値を制御部14にて取得できることを意味する。
【0073】
これら複数平面における各点の磁場強度の信号値を、制御部14内部の演算器内で用意された二次元あるいは三次元空間内にプロットし、予め準備された磁気回路モデルに対してプロットされた磁場強度の信号値を適用すれば、ターゲット7表面における磁場強度についての推定値を得ることも可能になる。
【0074】
この推定値を求める方法は公知の数値演算手法を用いればよく、最も単純な例としては2点の磁場強度の信号値を取得し、その距離の2乗に反比例することを利用する方法(二次近似手法)など、測定点数や求める精度に応じた公知の演算手法を用いれば良い。