【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業 CREST「炭素系ナノエレクトロニクスに基づく革新的な生体磁気計測システムの創出」、「超高感度磁気センサナノアレイデバイスを使った生物試料への応用」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【課題】(i)励起光L1を暴露されることによって検体(18)が受けるダメージを低減し、(ii)検体(18)から生じる磁場の強度を高い位置解像度で検出する撮像装置を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係る撮像装置(100)は、窒素−空孔複合体中心を含有する第1領域(11)と、励起光(L1)を反射する反射領域(12)と、を備えるダイヤモンド基板(10)を備え;反射領域(12)は、(i)検体(18)に到達する励起光(L1)の光量を、第1割合以下に減衰させ、(ii)マイクロ波部(40)から第1領域(11)に照射されるマイクロ波を、第2割合以上通過させる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態の一例について詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されない。
【0021】
本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0022】
〔ダイヤモンド基板および反射層〕
まず、本発明の一実施形態に係る撮像装置に用いられるダイヤモンド基板について、特に反射層の構成の差異に着目しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る撮像装置100の概要を説明する模式図である。
【0023】
撮像装置100において、ダイヤモンド基板10は、第1領域11および反射領域12を備えている。また、ダイヤモンド基板10の第2表面S2には、検体保持部15が設けられている。検体保持部15は、検体18を保持する箇所であり、その周囲を培養液などで満たされていてもよい。ダイヤモンド基板10の第1表面S1側から入射された励起光L1は、反射領域12で反射し、反射光L1’として再び第1表面S1側に戻ってくる。第1領域11で発生した蛍光L2も、第1表面S1側から観測する。
【0024】
本発明の一実施形態に係る撮像装置100においては、第1表面S1側から入射された励起光L1の大部分は、反射領域12で反射して、反射光L1’として第1表面S1側に戻ってくる。反射領域12を通過して第2表面S2の外部に漏洩する励起光L1は、エバネセント光Eよりも遥かに小さい。それゆえ、長時間(例えば、1時間〜数日間)の観察を続けても、検体18が受けるダメージを低減することができる。
【0025】
また、反射領域12における反射は、屈折率の違いにより生じる全反射ではないので、励起光L1の入射角は、比較的自由に選択できる。その結果、光学系をより小型化する余地が生まれる。例えば、励起光L1を、通常の落射式照明により入射させることもできる。
【0026】
さらに、撮像装置100におけるダイヤモンド基板10の反射領域12は、厚みが非常に薄く、ダイヤモンド基板10上に直接設けられている。それゆえ、従来技術よりも高い位置解像度で検体の磁場を検出することができる。
【0027】
第1領域11は、窒素−空孔複合体中心(NV中心)を含有している領域である。第1領域11に励起光L1を照射することにより、第1領域11から蛍光L2が放射される。第1領域11の厚さは、検体18の厚さと同程度以下にすることが好ましい(例えば、10μm以下とすることができる)。このような厚みであれば、第1領域11に到達する磁場の減衰(距離の3乗に比例)を抑えつつ、第1領域11に含まれているNV中心の絶対数も充分に確保できる。第1領域11は、例えば、化学気相成長(Chemical Vapor Deposition;CVD)によって作製することができる。
【0028】
反射領域12は、第1領域11と第2表面S2との間に設けられている。反射領域12と第2表面S2との間に、他の層を設けてもよい(例えば、生体親和性の膜13)。
【0029】
撮像装置100において、励起光L1は、ダイヤモンド基板10の第1表面S1側から照射され、反射領域12にて反射される。それゆえ、第2表面S2側にある検体保持部15に到達する励起光L1の光量は、第1割合以下に減衰する。検体保持部15に到達する励起光L1の光量は、小さければ小さいほど好ましい。一例を挙げると、検体保持部15に到達する励起光L1の光量は、第1領域11に照射される励起光L1の光量の、10
−3以下であることが好ましく、10
−3.5以下であることがより好ましく、10
−4以下であることがさらに好ましい。
【0030】
なお、前記の説明における「第1割合」とは、「検体保持部15に到達する励起光L1の光量/第1領域11に照射される励起光L1の光量」の比の値である。「検体保持部15に到達する励起光L1の光量」は、反射領域12内を励起光L1が通過する際の光路長と、導体中を電磁波が進行する際の減衰率とから、計算することができる。
【0031】
また、反射領域12は、マイクロ波部40から照射されるマイクロ波を、第2割合以上通過させる。反射領域12を通過するマイクロ波は、大きければ大きいほど好ましい。一例を挙げると、反射領域12を通過するマイクロ波は、マイクロ波部40から照射されるマイクロ波の、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。
【0032】
なお、前記の説明における「第2割合」とは、第2表面S2側から反射領域12にマイクロ波を照射した際における、「反射領域12を通過した直後のマイクロ波の強さ/反射領域12を通過する直前のマイクロ波の強さ」の比の値である。この比は、反射領域12の厚さおよび導電率に基づいて計算することができる。
【0033】
ここで、撮像装置100においては、第1表面S1側から第1領域11へとマイクロ波を照射することも可能ではある。しかし、
図2、3に示されているような光学系を採用する場合は、油浸対物レンズ23が第1表面S1に近接して配置されることになる。すると、第1表面S1側から照射されるマイクロ波は、油浸対物レンズ23の金属枠部に吸収されてしまい、強度が小さくなる。このため、前記のような光学系において、第1領域11に効率よくマイクロ波を照射するためには、第2表面S2側から第1領域11へとマイクロ波を照射することが好ましい。
【0034】
以上に説明したように、反射領域12は、励起光L1を第1割合以下に減衰させ、マイクロ波を第2割合以上通過させる。このような構成を達成するためには、反射領域12の厚さを、所定の範囲に収めることが好ましい。
【0035】
一実施形態において、反射領域12の少なくとも一部の厚さをdとすると、好ましくは(3×β)<d<(α/3)であり、より好ましくは(5×β)<d<(α/5)であり、さらに好ましくは(10×β)<d<(α/10)である。ここで、αは、反射領域12を形成する物質に対するマイクロ波の侵入長である。βは、反射領域12を形成する物質に対する励起光L1の侵入長である。反射領域の厚みが前記の条件を満たすならば、検体保持部15に到達する励起光L1の光量を第1割合以下に減衰させ、かつ、第2表面S2を経て第1領域11に照射されるマイクロ波を第2割合以上通過させることができる。
【0036】
なお、侵入長とは、(2ρ/ωμ)
1/2で表される値である(ρは導体の電気抵抗率、ωは電磁波の角周波数(=2π×周波数)、μは導体の絶対透磁率である)。侵入長とは、電磁波が導体中に侵入できる深さを表している。表面からの深さが侵入長である地点における電流密度は、導体表面の電流密度の1/eになる(eは自然対数の底)。
【0037】
他の実施形態において、前記反射領域の少なくとも一部の厚さをd1とし、d2=(α×β)
1/2とすると、好ましくは(1/10)<(d1/d2)<10であり、より好ましくは(1/5)<(d1/d2)<5であり、さらに好ましくは(1/3)<(d1/d2)<3である。なお、d2とは、「反射領域12に対する励起光L1の侵入長とマイクロ波の侵入長との相乗平均」を表している。
【0038】
以上を鑑みると、反射領域12の少なくとも一部の厚さは、材質にも左右されるが、900nm以下、800nm以下、700nm以下、600nm以下、500nm以下、400nm以下、300nm以下、または200nm以下とすることができる。同様に反射領域12の厚さは、10nm以上、30nm以上、50nm以上、80nm以上、または100nm以上とすることができる。例えば、反射領域12をチタン膜で実装する場合には、厚さを100〜900nmとすることができる。反射領域12を白金膜で実装する場合には、厚さを50〜450nmとすることができる。反射領域12を金膜で実装する場合には、厚さを25〜225nmとすることができる。反射領域12を銀膜で実装する場合には、厚さを20〜180nmとすることができる。反射領域12を銅膜で実装する場合には、厚さを20〜180nmとすることができる。反射領域12をアルミニウム膜で実装する場合には、厚さを25〜225nmとすることができる。
【0039】
反射領域12の少なくとも一部が前述した程度の厚さであるならば、励起光L1の大部分を反射し、マイクロ波の大部分を通過させることができる。さらに、反射領域12が前述した程度の厚さであるならば、検体18と第1領域11との距離が充分に小さくなり、検体18に由来する磁場を充分に透過させられる点においても好ましい。
【0040】
一実施形態において、反射領域12の少なくとも一部は、厚みが均一に形成されている。反射領域の厚みが均一であるならば、検体18から生じる磁場をより高感度で検知することができる。これは、第1領域11内のNV中心の光検出磁気共鳴特性が、励起光の強度およびマイクロ波磁場の強度によって差異を生じるためである。このような差異が生じると、最適な感度を得る条件に差異が生じてしまう(もっとも、ある程度の差異ならば、視野内の座標点ごとの校正で補正が可能である)。例えば、反射領域12の少なくとも一部における膜厚の最大値および最小値は、反射領域12の少なくとも一部の厚さの平均値に対して、±30%の範囲に収まっていることが好ましく、±25%の範囲に収まっていることがより好ましく、±20%の範囲に収まっていることがさらに好ましい。
【0041】
なお、前述した反射領域12の厚さに関する議論において、「反射領域12の少なくとも一部」とは、例えば、励起光L1が照射される部分でありうる。あるいは、「反射領域12の少なくとも一部」とは、基準位置領域12a(後述)以外の部分でありうる。あるいは、「反射領域12の少なくとも一部」とは、検体保持部15が設けられる部分でありうる。好ましくは、「反射領域12の少なくとも一部」とは、油浸対物レンズ23の視野内に含まれている反射領域12の一部であって、検体18の観測範囲の少なくとも一部を包含している。
【0042】
反射領域12の材料は、特に限定されない。一実施形態において、反射領域12は、金属層である。これは、金属は加工性に優れ、均一な膜厚を達成しやすいからである。一実施形態において、反射領域12は、金、白金、アルミニウムまたはチタンを含む金属層である。他の実施形態において、反射領域12は、金、白金、アルミニウムまたはチタンからなる金属層である。これらの金属は、生物に対する毒性が低いため、反射領域12との接触により検体18に与えられるダメージを軽減できる。なお、後述する生体親和性を有する膜13を設ける場合には、反射領域12の材料として、生物に対する毒性が相対的に高い物質(銀、銅など)を用いてもよい。
【0043】
一実施形態において、ダイヤモンド基板10の第2表面S2には、生体親和性を有する膜13が設けられている。このような構成によれば、検体18は、生体親和性を有する膜13と接触することになる。それゆえ、ダイヤモンド基板10(第1領域11)との接触により検体18に与えられるダメージを低減することができる。
【0044】
生体親和性を有する膜13の材料として利用可能な物質の具体例としては、コラーゲン、ポリリジン、フォトレジストが挙げられる。検体18から生じる磁場の二次元的な解像度を高めるためには、生体親和性を有する膜13の厚さは、生体親和性を維持する範囲で薄ければ薄いほどよい。一例を挙げると、生体親和性を有する膜13の厚さは、100nm以下、50nm以下、30nm以下、または10nm以下とすることができる。なお、生体親和性を有する膜13としてコラーゲンを塗布する場合、塗布液が弱酸性になることがあるので、反射領域12は、酸に比較的強い物質であることが好ましい。具体的には、反射領域12がチタンおよび金を含む方が、アルミニウムを含むよりも好ましい。
【0045】
ダイヤモンド基板10全体の厚さは、例えば、0.3mm程度とすることができる。この程度の厚さならば、ピンセットなどでの取扱が容易であり、かつ、充分な機械的強度を有していると言える。
【0046】
〔撮像装置〕
次に、撮像装置100の一実施形態について、
図2、3を参照しながら説明する。
図2は、本発明の一態様に係る撮像装置100の全体構成を表す模式図である。
図3は、撮像装置100の主要部(ダイヤモンド基板10の近傍)を表す模式図である。
【0047】
撮像装置100には、光源部20と、蛍光画像取得部30と、マイクロ波部40が備えられている。撮像装置100は、任意構成として、明視野画像取得部50を備えていてもよい。
【0048】
光源部20は、ダイヤモンド基板10の第1領域11に、励起光L1を照射する。光源部20は、例えば、波長532nm前後の励起光L1を放射する、レーザ光源である。光源部20から照射された励起光L1は、広視野照明用レンズ21、ダイクロイックミラー22、油浸対物レンズ23を経由して、第1領域11に照射される。第1領域11で発生した蛍光L2は、反射領域12を超えて第2表面S2側へは進行できないので、油浸対物レンズ23、ダイクロイックミラー22、ノッチフィルタ24、蛍光フィルタ25、および結像レンズ26を経由して、蛍光画像取得部30に到達する。
【0049】
油浸対物レンズ23は、開口数(Numerical Aperture;NA)ができる限り大きいものを用いることが好ましい。開口数が大きければ、蛍光L2の集光効率が高まり、それゆえ、磁場検出の感度が高くなる。ただし、一般的に、開口数の大きい対物レンズは、作動長(Working Distance;WD)が短い。市販されている対物レンズの中では、作動長:0.3mm、開口数:1.30、倍率:60倍の対物レンズがバランスに優れていて好ましい。この観点からは、ダイヤモンド基板10の厚さを0.3mm以下とすることが好ましい。
【0050】
蛍光画像取得部30は、第1領域11から生じる蛍光L2を検知し、蛍光L2の強度の二次元的な分布を蛍光画像として取得する。第1領域11にマイクロ波を照射しその周波数を掃引すると、検体18から生じた磁場の強さに対応した特定の周波数において、蛍光L2が減弱する。蛍光画像取得部30は、顕微鏡の視野内の二次元的な位置と、当該位置において蛍光L2が減弱する特定の周波数とを関連付けたデータ(蛍光画像)を生成する。このようなデータは、例えば、プロセッサ、マイクロ波発信機(マイクロ波部40)、およびイメージセンサを組み合わせれば、得ることができる。その後、蛍光画像をさらに加工して、他のデータを生成してもよい。このようなデータの例としては、磁場の強さを二次元的に知覚できるようにしたデータが挙げられる(本明細書では、このデータを「磁場分布画像」と称する)。
【0051】
マイクロ波部40は、第1領域11にマイクロ波を照射する。
図2、3に示した例では、マイクロ波コイルとして、マイクロ波部を実装している。マイクロ波コイルは、2層プリント基板上に形成されているループコイルであって、当該2層プリント基板に垂直な面内に電流が流れるように構成されている(
図3に即すると、上下方向に電流が流れるように構成されている)。その結果、ダイヤモンド基板10に垂直な方向にマイクロ波が照射される。このとき、マイクロ波は電磁波であるから、ダイヤモンド基板10の面内方向にマイクロ波の磁場が生成される(
図3に即すると、マイクロ波部40の間に、左右方向にマイクロ波の磁場が生成される)。
【0052】
図3のように、マイクロ波部40をダイヤモンド基板10の両側面に配する構成とすれば、マイクロ波を第1領域11の近くから照射できるので、より高感度な測定が可能となる。さらに、
図3の構成では、反射領域12がマイクロ波部40を兼ねていない。そのため、反射領域12を薄くすることができ、その結果、第1領域11と検体18との距離も近くなる。このことによっても、より高感度な測定が可能となる。
【0053】
なお、このようにダイヤモンド基板10の面内方向にマイクロ波の磁場を生成させる場合は、第1領域11の表面が(111)面となっており、かつ、NV中心の軸が全て[111]方向(すなわち(111)面に垂直な方向)に配向しているときに、最も高感度に磁場を検出することができる。このような結晶構造の第1領域11であれば、NV中心の軸がマイクロ波の磁場の生成方向と直交する。その結果、磁場の強さに応じた蛍光L2の変化が大きくなり、磁場の検知感度が上昇する。
【0054】
撮像装置100は、静磁場コイル45を備えていてもよい。静磁場コイル45は、ダイヤモンド基板10に垂直な方向に静磁場を与える。このような静磁場を与えることにより、検体18から生じる磁場がより検出しやすくなる。
【0055】
ダイヤモンド基板10をカバーグラス43上に固定する際には、ダイヤモンド基板10の端部のみを接着剤で固定することが好ましい。カバーグラス43の底面とダイヤモンド基板10とを接着剤で固定した場合、カバーグラス43とダイヤモンド基板10との間に接着剤の層が形成される。接着剤の層が形成されると、油浸対物レンズ23からダイヤモンド基板10までの距離が増加し、油浸対物レンズ23の作動長に第1領域11を収めきれなくなるおそれがあるため、ダイヤモンド基板10の端部のみを接着剤で固定することが好ましい。
【0056】
図3において、検体18は、液体48(培養液など)に液浸した状態になっている。このように液体48中に検体18を配置する場合は、液体48が流出しないように、外壁47を設ける。また、マイクロ波コイル(マイクロ波部40)の配線層およびスルーホール(表側配線層と裏側配線層とを接続する構造)は、表面を撥水材で被覆しておくことが好ましい。もちろん、検体18を、液体中以外(空気中など)に配置してもよい。
【0057】
撮像装置100は、任意構成で、明視野画像取得部50を備えていてもよい。明視野画像取得部50は、明視野による検体18の画像を取得する。明視野画像取得部50は、例えば、CCDカメラである。
図2の例においては、明視野光源部51(LEDなど)から照射された明視野用照明光L3は、広視野照明用レンズ52、ダイクロイックミラー53、および水浸対物レンズ54を経由して、検体18に到達する。その後、検体18により反射されたり散乱されたりした光L4は、水浸対物レンズ54、ダイクロイックミラー53、結像レンズ55を経由して、明視野画像取得部50に到達する。明視野画像取得部50は、検出した光から、明視野画像を生成する。
【0058】
なお、明視野用照明光L3は、励起光L1よりも桁違いに微弱な光である。また、明視野用照明光L3は、検体18に対する影響が最小となる波長を選ぶことができる。さらに、明視野用照明光L3は、観察が必要となる瞬間のみ照射すればよい。それゆえ、通常は、明視野用照明光L3が検体18にダメージを及ぼすことはない。
【0059】
明視野画像取得部50が取得する明視野画像は、第2表面S2側の画像を取得することが好ましい。つまり、
図2、3の水浸対物レンズ54のように、明視野画像を取得するための対物レンズは、第2表面S2側に設置することが好ましい。これは、第2表面S2側からならば、反射領域12によって、明視野画像の取得が妨げられないためである。逆に、第1表面S1側から明視野画像を取得しようとしても、反射領域12がほとんど光を透過しないため、明視野画像を取得することは難しい。
【0060】
図2、3のように、第1表面S1側に蛍光画像取得用の対物レンズ(油浸対物レンズ23)を配置し、第2表面S2側に明視野画像取得用の対物レンズ(水浸対物レンズ54)を配置することによって、検体18の明視野画像と蛍光画像とを同時的に取得できる。
【0061】
このように、撮像装置100に明視野画像取得部50を設ける場合は、反射領域12の中に、基準位置領域12aを1箇所以上設けることが好ましい(
図4を参照)。基準位置領域12aは、反射領域12の中でも、反射領域12を構成する材料の厚さが他の部分よりも薄く設けられている領域である。このような構成とすると、基準位置領域12aにおいては、より多くの励起光L1が反射領域12を透過する。したがって、明視野画像取得部50が取得する明視野画像には、励起光L1がより多く透過して見える領域が含まれるようになる。明視野画像おける励起光L1がより多く透過して見える領域は、基準位置領域12aに対応しているから、蛍光画像における位置と明視野画像における位置とを容易に対応付けることができる。
【0062】
なお、蛍光画像における基準位置領域12aの位置は、例えば、検体保持部15に、第2表面S2側から、位置合わせ用長波長光(蛍光フィルタ25のカットオフ波長よりも長波長である赤色光)を照射することにより検出できる。位置合わせ用長波長光の照射は、同じ光量の励起光L1の照射よりは、検体18に及ぼすダメージは少ない。しかし、基準位置領域12aを透過できるだけの光量が必要になるため、明視野用照明光L3よりは光量が大きい。それゆえ、位置合わせ用長波長光を長時間照射し続けると、やはり、検体18にダメージを及ぼす場合がある。したがって、位置合わせ用長波長光は、位置合わせ時のみ、短時間だけ照射することが好ましい。この位置合わせは、
図1の装置の装着後、一度のみ行えば充分である。位置合わせ用長波長光の光源および光路は、明視野用照明光と共通であってもよい。
【0063】
〔撮像方法〕
本発明の一態様は、ダイヤモンド基板10を利用した撮像方法である。以下、
図5を参照しながら、前記撮像方法について説明する。
【0064】
(S10:設置工程)
S10では、ダイヤモンド基板10にある検体保持部15に、検体18を設置する。例えば、ダイヤモンド基板10の上で観察対象となる細胞を培養することにより、設置工程は実施できる。あるいは、単に、検体保持部15に検体18を載置してもよい。
【0065】
(S20:光照射工程)
S20では、ダイヤモンド基板10の第1表面S1側から、第1領域11に励起光L1を照射する。前述した通り、ダイヤモンド基板10は反射領域12を備えているので、励起光L1はほとんど反射され、検体保持部15には第1割合以下しか到達できない。
【0066】
(S30:マイクロ波照射工程)
S30では、ダイヤモンド基板10の第1領域11に、マイクロ波部40からマイクロ波を照射する。照射するマイクロ波の周波数を掃引すると、特定の周波数において蛍光L2が大きく減弱するので、磁場の強さが検出できる。
【0067】
(S40:蛍光画像取得工程)
S40では、検体18から生じる磁場の強度に応じて変化する蛍光L2の強度の二次元的な分布を、蛍光画像として取得する。S30においては、マイクロ波をダイヤモンド基板10の全体に照射しているので、二次元的な蛍光画像が取得できる。なお通常は、S40においても、励起光およびマイクロ波は照射されている。
【0068】
本発明の一実施形態に係る撮像方法によれば、検体保持部15に到達する励起光L1の光量を、従来よりも低減することができる。それゆえ、前記撮像方法は、光によりダメージを受ける検体の撮像に有利である。例えば、撮像対象が、細胞、タンパク質、細胞内小組織、DNAなどの生物検体である場合に有利である。同様の理由によって、長時間にわたる観察(例えば、1時間以上、10時間以上、1日以上、場合によっては1週間以上)にも、前記撮像方法は有利に用いられる。
【0069】
〔まとめ〕
本発明は、以下の構成を包含している。
【0070】
<1>
窒素−空孔複合体中心を含有する第1領域11を備えるダイヤモンド基板10と、
前記ダイヤモンド基板10の第1表面S1側から該ダイヤモンド基板10の前記第1領域11に励起光L1を照射する光源部20と、
前記ダイヤモンド基板10の第1表面S1と対向する第2表面S2側に検体を保持する検体保持部15と、
前記励起光L1を照射された前記第1領域11から生じる蛍光L2であって、前記検体18から生じる磁場の強度に応じて変化する蛍光L2の強度の二次元的な分布を蛍光画像として取得する蛍光画像取得部30と、
所定の周波数のマイクロ波を、前記第1領域に照射するマイクロ波部40と、
を備え、
前記ダイヤモンド基板10は、前記励起光L1を反射する反射領域12をさらに備え、
前記反射領域12は、
前記第1領域11と前記第2表面S2との間に設けられており、
前記第2表面S2から前記検体保持部15に保持されている前記検体18に到達する前記励起光L1の光量を、第1割合以下に減衰させ、
前記マイクロ波部40から前記第2表面S2を経て前記第1領域11に照射される前記マイクロ波を、第2割合以上通過させる、
ことを特徴とする撮像装置100。
【0071】
前記構成によれば、検体18に到達する励起光L1を低減できる。それゆえ、励起光L1を暴露されることによって検体18が受けるダメージを低減できる。また、前記構成によれば、第1領域11へのマイクロ波の到達が妨げられない。それゆえ、充分な強さのマイクロ波が、マイクロ波部40から第1領域11に到達できる。したがって、検体18から生じる磁場の強度に応じて変化する蛍光L2を、高い位置解像度で測定することができる。
【0072】
<2>
前記反射領域12の少なくとも一部の厚さをdとすると、(3×β)<d<(α/3)である、
ことを特徴とする<1>に記載の撮像装置100。
(ここで、αは前記反射領域12を形成する物質に対する前記マイクロ波の侵入長であり;βは前記反射領域12を形成する物質に対する前記励起光の侵入長である)。
【0073】
前記構成によれば、反射領域12は、検体18に到達する励起光L1をより充分に低減する。また、前記構成によれば、反射領域12は、より充分な強さのマイクロ波を、マイクロ波部40から第1領域11に到達させる。
【0074】
<3>
前記反射領域の少なくとも一部の厚さをd1とし、d2=(α×β)
1/2とすると、(1/10)<(d1/d2)<10である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の撮像装置。
【0075】
(ここで、αは前記反射領域を形成する物質に対する前記マイクロ波の侵入長であり;βは前記反射領域を形成する物質に対する前記励起光の侵入長である)。
【0076】
前記構成によれば、<2>と同様の効果が得られる。
【0077】
<4>
前記ダイヤモンド基板10の前記第2表面S2には、生体親和性を有する膜13が設けられており、
前記反射領域12は、前記膜13を介して前記検体18と接している、
ことを特徴とする、<1>から<3>の何れかに記載の撮像装置100。
【0078】
前記構成によれば、検体18は、生体親和性を有する膜13と接触することになる。それゆえ、反射領域12が生物に対する毒性が相対的に高い物質(銀、銅など)で構成されていたとしても、反射領域12との接触により検体18が受けるダメージを低減することができる。
【0079】
<5>
前記検体18の明視野画像を取得する明視野画像取得部50をさらに備える、
ことを特徴とする<1>から<4>の何れかに記載の撮像装置100。
【0080】
前記構成によれば、検体18から生じる磁場の強度を画像化した蛍光画像に加えて、検体18の明視野画像をも取得することができる。
【0081】
<6>
前記明視野画像取得部50は、前記ダイヤモンド基板10の前記第2表面S2側の明視野画像を取得する、
ことを特徴とする<5>に記載の撮像装置100。
【0082】
前記構成によれば、検体18から生じる磁場の強度を画像化した蛍光画像と、検体18の明視野画像とを、同時的に取得することができる。それゆえ、検体18から生じる磁場の強度の測定と、検体18の明視野観察とを、同時的に行うことができる。
【0083】
<7>
前記反射領域12は、厚さが他の部分よりも薄く設けられた基準位置領域12aを1つ以上備える、
ことを特徴とする<6>に記載の撮像装置100。
【0084】
前記構成によれば、基準位置領域12aは、励起光L1をより多く第2表面S2側に透過させる。同様に、基準位置領域12aは、位置合わせ用長波長光をより多く第1表面S1側に透過させる。それゆえ、基準位置領域12aを利用して、検体18から生じる磁場の強度を画像化した蛍光画像と、検体18の明視野画像との間の位置合わせが可能になる。
【0085】
<8>
前記反射領域12は、金属層である、
ことを特徴とする<1>から<7>の何れかに記載の撮像装置100。
【0086】
前記構成によれば、反射領域12を容易に形成することができる。
【0087】
<9>
前記反射領域12の少なくとも一部は、厚みが均一に形成されている、
ことを特徴とする<1>から<8>の何れかに記載の撮像装置100。
【0088】
前記構成によれば、検体18から生じる磁場をより高感度で検知することができる。
【0089】
<10>
窒素−空孔複合体中心を含有する第1領域11を備えるダイヤモンド基板10に、検体18を設置する設置工程S10と、
前記第1領域11に励起光L1を照射する光照射工程S20と、
前記第1領域11に、マイクロ波部40からマイクロ波を照射するマイクロ波照射工程S30と、
前記励起光L1を照射された前記第1領域11から生じる蛍光L2であって、前記検体18から生じる磁場の強度に応じて変化する蛍光L2の強度の二次元的な分布を蛍光画像として取得する蛍光画像取得工程S40と、
を含み、
前記ダイヤモンド基板10は、前記励起光L1が入射する第1表面S1と、前記検体18が設置される第2表面S2とを有しており、該第1表面S1と該第2表面S2とは対向しており、
前記第1領域11と前記第2表面S2との間には、前記励起光L1を反射する反射領域12が設けられており、
前記反射領域12は、
前記第2表面S2から前記検体18に到達する前記励起光L1の光量を、第1割合以下に減衰させ、
前記マイクロ波部40から前記第2表面S2を経て前記第1領域11に照射される前記マイクロ波を、第2割合以上通過させる、
ことを特徴とする、撮像方法。
【0090】
前記構成によれば、<1>と同様の効果が得られる。
【0091】
前記各項目で記載した内容は、他の項目においても適宜援用できる。本発明は前述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。したがって、異なる実施形態にそれぞれ開示されている技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0092】
本明細書中に記載された学術文献および特許文献のすべてが、本明細書中において参考文献として援用される。
【実施例】
【0093】
本発明の一実施形態に係る撮像装置により、検体から生じる磁場の強度を観測した。具体的には、培養液内に1μm径の超常磁性粒子を撤布して、
図2に示す構成の撮像装置により磁場分布画像および明視野像を取得した。この磁場分布画像とは、磁場の強度の二次元的な分布を画像化したものであり、蛍光画像を処理して得られる。具体的な処理の方法としては、[Y.Hatano et al.:Phys.Status Solidi A,215,1800254 (2018)]に開示されている方法を採用した。
【0094】
観測結果を
図6に示す。
図6の(a)〜(d)は、それぞれ、観察開始直後、観察開始から3時間後、観察開始から6時間後、観察開始から12時間後における、磁場分布画像である。また、
図6の(e)は、観察開始から8分後における、明視野像(上)および磁場分布画像(下)である。同図において、明視野像において四角い枠で囲った部分が、磁場分布画像の視野に該当する。このように、明視野像および磁場分布像を組み合わせた観察も、本発明の一実施形態に係る撮像装置によれば可能となる。これらの図から、以下のことが示唆される。
【0095】
図6の(a)〜(d)によると、観察開始時においては培養液中に分散していた超常磁性粒子が、時間経過につれて徐々に沈降し、ダイヤモンド基板表面上の磁場としてはっきりと観察されることがわかる。本実施例で使用した反射領域は厚さが薄いため(100nmのチタン膜)、磁場の強度の二次元的な分布をこのように鮮明に画像化することができる。
【0096】
また、
図6の(e)上部の明視野像には、励起光がほとんど表れていない。つまり、第1領域に照射された励起光は、反射領域で反射され、検体保持部にはほとんど到達していない。したがって、細胞または細菌を観察対象とした際にも、励起光を曝露されたことに起因するダメージを軽減することが可能である。
【0097】
本実施例で観察しているのは超常磁性粒子であるが、この観察は細胞および細菌などにも応用可能である。例えば、プローブを介して超常磁性粒子を生体分子に結合させれば、当該生体分子の動態を追跡することができる。