特開2020-194033(P2020-194033A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-194033(P2020-194033A)
(43)【公開日】2020年12月3日
(54)【発明の名称】光ファイバ
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/036 20060101AFI20201106BHJP
   G02B 6/44 20060101ALI20201106BHJP
【FI】
   G02B6/036
   G02B6/44 331
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-98406(P2019-98406)
(22)【出願日】2019年5月27日
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武笠 和則
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャルフィ タマーシュ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァーラヤイ ゾルターン
【テーマコード(参考)】
2H150
【Fターム(参考)】
2H150AB03
2H150AB04
2H150AB05
2H150AB10
2H150AD03
2H150AD04
2H150AD12
2H150AD16
2H150AD17
2H150AD20
2H150AD25
2H150AD32
2H150AE28
2H150AE45
2H150AE46
2H150AE47
2H150AE54
2H150AH09
2H150AH22
2H150BB05
2H150BB07
2H150BB14
2H150BB33
2H150BC02
2H150BD17
2H150BD18
(57)【要約】      (修正有)
【課題】細径であるとともに良好な曲げ特性を有する光ファイバを提供すること。
【解決手段】光ファイバは、石英系ガラスからなるコア部1aと、コア部の外周を覆い、コア部の最大屈折率よりも低い屈折率を有する石英系ガラスからなるクラッド部1bと、クラッド部の外周を覆うコーティング部1cと、を備え、クラッド部の外径は120μm以下であり、波長1310nmにおけるモードフィールド径が8.6μm以上9.2μm以下であり、実効カットオフ波長が1260μm以下であり、直径20mmで曲げた場合の波長1550nmにおける曲げ損失が0.75dB/turn以下であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英系ガラスからなるコア部と、
前記コア部の外周を覆い、前記コア部の最大屈折率よりも低い屈折率を有する石英系ガラスからなるクラッド部と、
前記クラッド部の外周を覆うコーティング部と、
を備え、
前記クラッド部の外径は120μm以下であり、
波長1310nmにおけるモードフィールド径が8.6μm以上9.2μm以下であり、
実効カットオフ波長が1260μm以下であり、
直径20mmで曲げた場合の波長1550nmにおける曲げ損失が0.75dB/turn以下であることを特徴とする光ファイバ。
【請求項2】
前記曲げ損失が0.10dB/turn以下であることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項3】
前記コア部の比屈折率差Δ1が0.3%以上0.5%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバ。
【請求項4】
零分散波長が1300nm以上1324nm以下あり、前記零分散波長での分散スロープが0.092ps/nm/km以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の光ファイバ。
【請求項5】
波長1550nmにおけるマイクロベンド損失が、ITU−T G.652で定義される規格に準拠する特性を有しかつクラッド部の外周に厚さが62.5μmの樹脂コーティング部を有する標準光ファイバの波長1550nmにおけるマイクロベンド損失の20倍以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の光ファイバ。
【請求項6】
前記マイクロベンド損失は、研磨紙法またはワイヤメッシュ法にて測定した値であることを特徴とする請求項5に記載の光ファイバ。
【請求項7】
前記コア部は、実効カットオフ波長が1000nm以上1260nm以下になるように設定されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の光ファイバ。
【請求項8】
前記コア部は、中心コア部と、前記中心コア部の外周に形成された中間層と、前記中間層の外周に形成されたトレンチ層とを有しており、
トレンチ型の屈折率プロファイルを有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の光ファイバ。
【請求項9】
前記クラッド部に対する前記トレンチ層の比屈折率差をΔ3とすると、Δ3が−0.26%以上−0.10%以下であることを特徴とする請求項8に記載の光ファイバ。
【請求項10】
前記クラッド部に対する前記中間層の比屈折率差をΔ2とすると、Δ2が−0.05%以上0.04%以下であることを特徴とする請求項8または9に記載の光ファイバ。
【請求項11】
前記中心コア部のコア径を2a、前記トレンチ層の内径を2b、外径を2cとしたときに、b/aが1.8以上3.6以下であり、c/aが3.4以上5.2以下であることを特徴とする請求項8〜10のいずれか一つに記載の光ファイバ。
【請求項12】
前記コア部は、中心コア部と、前記中心コア部の外周に形成されたディプレスト層とを有しており、
W型の屈折率プロファイルを有し、
前記クラッド部に対する前記ディプレスト層の比屈折率差をΔ2とすると、Δ2が−0.20%以上−0.01%以下であり、
前記中心コア部のコア径を2a、前記ディプレスト層の外径を2bとしたときに、b/aが1.5以上6以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の光ファイバ。
【請求項13】
ステップ型の屈折率プロファイルを有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の光ファイバ。
【請求項14】
前記コーティング部を含む当該光ファイバの外径が210μm以下であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一つに記載の光ファイバ。
【請求項15】
前記コーティング部は、前記クラッド部側に位置するプライマリコーティング層と、前記プライマリコーティング層の外周側に位置するセカンダリコーティング層とを有し、前記プライマリコーティング層の厚さが20μm以上であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか一つに記載の光ファイバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
データコムやテレコムの分野において、高密度光ファイバケーブルを実現する光ファイバとして、細径の光ファイバが注目されている。ここで、細径光ファイバとは、主に光ファイバのガラスからなる部分を細径化したものであり、クラッド径が細径のものである。ただし、クラッド径が細径化されたことによって、クラッド部の外周を覆うように形成されたコーティング部を含む外径が細径化されたものも細径光ファイバに含まれる。
【0003】
従来、細径の光ファイバとして、クラッド部に対するコア部の比屈折率差を高くした構成が開示されている(非特許文献1)。非特許文献1の光ファイバは、比屈折率差を高くしているので、その特性が、ITU−T(国際電気通信連合)G.652で定義される標準的なシングルモード光ファイバの規格(以下、G.652規格)に準拠するものではない。また、細径の光ファイバとして、比屈折率差が−0.08%以上のトレンチ層を設けた構成が開示されている(特許文献1)。特許文献1の光ファイバは、G.652規格に準拠するものであり、そのクラッド径(ファイバ径)は100μm〜125μm程度である。また、細径の光ファイバとして、プライマリコート層とセカンダリコート層とをコーティング部として有し、セカンダリコーティング層を25μm以下にした構成が開示されている(特許文献2)。特許文献2の光ファイバは、ファイバ径は125μmであるが、コーティング厚を小さくすることによって細径化を実現している。
【0004】
また、特許文献3には、有効コア断面積(Aeff)が130μm以上と比較的大きい光ファイバにて、マイクロベンド損失を抑制する構成が開示されている。特許文献3の光ファイバは、プライマリコーティング層の外径が185μm以上220μm以下であり、セカンダリコーティング層の外径が225μm以上260μm以下である。
【0005】
また、特許文献4、5には、曲げ特性を考慮したトレンチ型光ファイバの構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2016/190297号
【特許文献2】特開平5−19144号公報
【特許文献3】特開2015−219271号公報
【特許文献4】特開2010−181641号公報
【特許文献5】特開2013−242545号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】村瀬 他、「細径クラッドファイバの開発」、昭和電線レビュー、vol.53、N0.1(2003)、pp.32−36
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
G.652規格よりも曲げ特性に対する要求が厳しい、ITU−T G.657で定義されるシングルモード光ファイバの規格(以下、G.657規格)に準拠し、かつ細径の光ファイバについては開示されていなかった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、細径であるとともに良好な曲げ特性を有する光ファイバを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る光ファイバは、石英系ガラスからなるコア部と、前記コア部の外周を覆い、前記コア部の最大屈折率よりも低い屈折率を有する石英系ガラスからなるクラッド部と、前記クラッド部の外周を覆うコーティング部と、を備え、前記クラッド部の外径は120μm以下であり、波長1310nmにおけるモードフィールド径が8.6μm以上9.2μm以下であり、実効カットオフ波長が1260μm以下であり、直径20mmで曲げた場合の波長1550nmにおける曲げ損失が0.75dB/turn以下である。
【0011】
本発明の一態様に係る光ファイバにおいて、前記曲げ損失が0.10dB/turn以下でもよい。
【0012】
本発明の一態様に係る光ファイバにおいて、前記コア部の比屈折率差Δ1が0.3%以上0.5%以下でもよい。
【0013】
本発明の一態様に係る光ファイバにおいて、零分散波長が1300nm以上1324nm以下あり、前記零分散波長での分散スロープが0.092ps/nm/km以下でもよい。
【0014】
本発明の一態様に係る光ファイバにおいて、波長1550nmにおけるマイクロベンド損失が、ITU−T G.652で定義される規格に準拠する特性を有しかつクラッド部の外周に厚さが62.5μmの樹脂コーティング部を有する標準光ファイバの波長1550nmにおけるマイクロベンド損失の20倍以下でもよい。
【0015】
本発明の一態様に係る光ファイバにおいて、前記マイクロベンド損失は、研磨紙法またはワイヤメッシュ法にて測定した値でもよい。
【0016】
本発明の一態様に係る光ファイバにおいて、前記コア部は、実効カットオフ波長が1000nm以上1260nm以下になるように設定されていてもよい。
【0017】
本発明の一態様に係る光ファイバにおいて、前記コア部は、中心コア部と、前記中心コア部の外周に形成された中間層と、前記中間層の外周に形成されたトレンチ層とを有しており、トレンチ型の屈折率プロファイルを有してもよい。
【0018】
本発明の一態様に係る光ファイバにおいて、前記クラッド部に対する前記トレンチ層の比屈折率差をΔ3とすると、Δ3が−0.26%以上−0.10%以下でもよい。
【0019】
本発明の一態様に係る光ファイバにおいて、前記クラッド部に対する前記中間層の比屈折率差をΔ2とすると、Δ2が−0.05%以上0.04%以下でもよい。
【0020】
本発明の一態様に係る光ファイバにおいて、前記中心コア部のコア径を2a、前記トレンチ層の内径を2b、外径を2cとしたときに、b/aが1.8以上3.6以下であり、c/aが3.4以上5.2以下でもよい。
【0021】
本発明の一態様に係る光ファイバにおいて、前記コア部は、中心コア部と、前記中心コア部の外周に形成されたディプレスト層とを有しており、W型の屈折率プロファイルを有し、前記クラッド部に対する前記ディプレスト層の比屈折率差をΔ2とすると、Δ2が−0.20%以上−0.01%以下であり、前記中心コア部のコア径を2a、前記ディプレスト層の外径を2bとしたときに、b/aが1.5以上6以下でもよい。
【0022】
本発明の一態様に係る光ファイバにおいて、ステップ型の屈折率プロファイルを有してもよい。
【0023】
本発明の一態様に係る光ファイバにおいて、前記コーティング部を含む当該光ファイバの外径が210μm以下でもよい。
【0024】
本発明の一態様に係る光ファイバにおいて、前記コーティング部は、前記クラッド部側に位置するプライマリコーティング層と、前記プライマリコーティング層の外周側に位置するセカンダリコーティング層とを有し、前記プライマリコーティング層の厚さが20μm以上でもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれは、細径化に適するとともに良好な曲げ特性を有する光ファイバを実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、実施形態に係る光ファイバの模式的な断面図である。
図2図2は、実施形態に係る光ファイバにおいて用いることができる屈折率プロファイルの模式図である。
図3図3は、Δ1と、曲げ損失との関係の一例を示す図である。
図4図4は、Δ1と、規格化マイクロベンド損失との関係の一例を示す図である。
図5図5は、Δ3と、規格化マイクロベンド損失または限界ファイバ径との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する構成要素には適宜同一の符号を付している。また、本明細書においては、カットオフ波長または実効カットオフ波長とは、ITU−T G.650.1で定義するケーブルカットオフ波長をいう。また、その他、本明細書で特に定義しない用語についてはG.650.1およびG.650.2における定義、測定方法に従うものとする。
【0028】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る光ファイバの模式的な断面図である。光ファイバ1は、略中心に位置するコア部1aと、コア部1aの外周を覆うクラッド部1bと、クラッド部1bの外周を覆うコーティング部1cとを備えている。
【0029】
コア部1aとクラッド部1bとは、いずれも石英系ガラスからなる。たとえば、コア部1aは、ゲルマニウム(Ge)やフッ素(F)などの屈折率調整用のドーパントが添加された石英ガラスからなる。クラッド部1bは、コア部1aの最大屈折率よりも低い屈折率を有する。クラッド部1bは、たとえば屈折率調整用のドーパントを含まない純石英ガラスからなる。
【0030】
クラッド部1bの外径(クラッド径)は、120μm以下、好ましくは100μm未満であり、G.652規格に準拠するシングルモード光ファイバのクラッド径である約125μmよりも細径化されている。なお、クラッド径は85μm以下であることが細径化の観点からはより好ましく、82μm以下がさらに好ましい。以下、G.652規格に準拠するシングルモード光ファイバを標準光ファイバとして標準SMFと記載する場合がある。このような標準SMFは、通常はクラッド部の外周に厚さが約62.5μmの樹脂コーティング部を有している。樹脂コーティング部は、たとえば2層構造の場合は、厚さが約37.5μmのプライマリコーティング層と、プライマリコーティング層の外周側に位置し厚さが約25μmのセカンダリコーティング層とからなる。したがって、樹脂コーティング部の外径は約250μmとなる。
【0031】
光ファイバ1は、たとえば図2に示すような屈折率プロファイルを有する。図2(a)、(b)、(c)は、いずれも、光ファイバ1のコア部1aの中心軸から半径方向における屈折率プロファイルを示している。
【0032】
図2(a)は、ステップ型の屈折率プロファイルを示している。図2(a)において、プロファイルP11がコア部1aの屈折率プロファイルを示し、プロファイルP12がクラッド部1bの屈折率プロファイルを示す。なお、屈折率プロファイルは、クラッド部1bに対する比屈折率差で示している。ステップ型の屈折率プロファイルでは、コア部1aの直径(コア径)は2aであり、クラッド部1bに対するコア部1aの比屈折率差はΔ1である。Δ1はたとえば0.3%以上0.5%以下が好ましく、0.33%以上0.40%以下がより好ましい。
【0033】
図2(b)は、いわゆるW型の屈折率プロファイルを示している。図2(b)において、プロファイルP21がコア部1aの屈折率プロファイルを示し、プロファイルP22がクラッド部1bの屈折率プロファイルを示す。W型の屈折率プロファイルでは、コア部1aは、直径が2aの中心コア部と、中心コア部の外周を囲むように形成されており、屈折率がクラッド部の屈折率よりも小さく内径が2aで外径が2bのディプレスト層とで構成されている。クラッド部1bに対する中心コア部の比屈折率差はΔ1である。クラッド部1bに対するディプレスト層の比屈折率差はΔ2である。Δ1はたとえば0.3%以上0.5%以下が好ましい。Δ2はたとえば−0.20%以上−0.01%以下が好ましい。b/aはたとえば1.5以上6以下が好ましい。
【0034】
図2(c)は、いわゆるトレンチ型の屈折率プロファイルを示している。図2(c)において、プロファイルP31がコア部1aの屈折率プロファイルを示し、プロファイルP32がクラッド部1bの屈折率プロファイルを示す。トレンチ型の屈折率プロファイルでは、コア部1aは、直径が2aの中心コア部と、中心コア部の外周を囲むように形成されており、屈折率が中心コア部の屈折率よりも小さく内径が2aで外径が2bの中間層と、中間層の外周を囲むように形成されており、屈折率がクラッド部の屈折率よりも小さく内径が2bで外径が2cのトレンチ層とで構成されている。中間層に対する中心コア部の比屈折率差はΔ1である。クラッド部1bに対する中間層の比屈折率差はΔ2である。なお、Δ2は、通常は0%またはその近傍に設定される。クラッド部1bに対するトレンチ層の比屈折率差はΔ3である。
【0035】
Δ1はたとえば0.3%以上0.5%以下が好ましく、0.33%以上0.40%以下がより好ましい。Δ3はたとえば−0.26%以上−0.10%以下が好ましい。また、たとえばb/aが1.8以上3.6以下であり、c/aが3.4以上5.2以下であることが好ましい。
【0036】
図1に戻って、コーティング部1cは、たとえば樹脂からなり、光ファイバ1のガラス部分を保護する機能を有する。コーティング部1cは、たとえばUV硬化樹脂等からなり、1層または2層以上の層構造を有する。コーティング部1cが2層構造の場合、コーティング部1cは、クラッド部側に位置するプライマリコーティング層と、プライマリコーティング層の外周側に位置するセカンダリコーティング層とからなる。コーティング部1cに用いられるUV硬化樹脂としては、たとえばウレタンアクリレート系、ポリブタジエンアクリレート系、エポキシアクリレート系、シリコーンアクリレート系、ポリエステルアクリレート系などがあるが、光ファイバのコーティングに使用されるものであれば特に限定されない。
【0037】
コーティング部1cは、1層構造の場合は、ヤング率が10〜800MPaの程度であり、本実施形態では200MPaである。一方、コーティング部1cが2層構造の場合は、プライマリコーティング層のヤング率は0.2〜1.5MPaの程度であり、本実施形態では0.5MPaである。セカンダリコーティング層のヤング率は500〜2000MPaの程度であり、本実施形態では1000MPaである。
【0038】
コーティング部1cを含む光ファイバ1の外径は、たとえば210μm以下である。コーティング部1cが2層構造の場合、プライマリコーティング層の厚さは、たとえば20μm以上である。
【0039】
本実施形態に係る光ファイバ1は、波長1310nmにおけるモードフィールド径(MFD)が8.6μm以上9.2μm以下であり、実効カットオフ波長(λcc)が1260nm以下であり、直径20mmで曲げた場合の波長1550nmにおける曲げ損失(以下、適宜マクロベンド損失と記載する)が0.75dB/turn以下であるという特性を有する。これにより、光ファイバ1は、MFD、λcc、マクロベンド損失について、G.657規格の一種であるG.657A1規格に準拠し、良好な曲げ特性の光ファイバである。
【0040】
また、光ファイバ1は、零分散波長が1300nm以上1324nm以下あり、零分散波長での分散スロープが0.092ps/nm/km以下という特性を満たすのが好ましく、分散スロープが0.073ps/nm/km以上という特性を満たすのがより好ましい。
【0041】
さらに、光ファイバ1は、クラッド径が120μm以下と、標準SMFのクラッド径である約125μmよりも細径化されている。その結果、光ファイバ1は、細径であるとともに良好な曲げ特性を有する。したがって、光ファイバ1は、高密度光ファイバケーブルを実現するのに適する。
【0042】
また、マクロベンド損失が0.10dB/turn以下であるという特性を満たせば、G.657規格の一種であり、G.657A1規格よりも曲げ損失対する要求が厳しいG.657A2規格に準拠し、より良好な曲げ特性の光ファイバである。
【0043】
また、上記実効カットオフを実現するために、実効カットオフ波長が1260nm以下になるようにコア部1aが設定されていることが好ましいが、特に実効カットオフ波長が1260nm以下になるように直径2aが設定されていることが好ましい。また、実効カットオフ波長が1000nm以上になるようにコア部1a、特に直径2aが設定されていれば、マクロベンド損失を低減できるので好ましい。
【0044】
また、コーティング部1cを含む光ファイバ1の外径が210μm以下であれば、標準SMFの樹脂コーティング部を含む外径である約250μmよりも細径とできる。
【0045】
ここで、光ファイバにおいて、ガラスからなる部分の外径、たとえばクラッド径を縮小すると、マイクロベンド損失(側圧損失とも呼ばれる)が増大する。通常、光ファイバの伝送損失は、光ファイバケーブルとされた状態では増加する。このときの伝送損失の増加量は、マイクロベンド損失と密接な関係があり、マイクロベンド損失が大きいと増加量も大きい。
【0046】
本実施形態に係る光ファイバ1において、標準SMFの波長1550nmにおけるマイクロベンド損失の20倍以下のマイクロベンド損失とすれば、実用的な程度のマイクロベンド損失とできる。なお、マイクロベンド損失を標準SMFにおけるマイクロベンド損失で規格化した値を規格化マイクロベンド損失と規定すると、本実施形態に係る光ファイバ1の規格化マイクロベンド損失は20以下が好ましく、さらに10以下が好ましい。マイクロベンド損失の抑制のためには、コーティング部1cが2層構造の場合、プライマリコーティング層の厚さが20μm以上であることが好ましい。
【0047】
なお、マイクロベンド損失は、JIS C6823:2010_10で規定された固定径ドラム法(研磨紙法の一種)で測定された値や、研磨紙法の一種である伸長ドラム法で測定された値を用いることができる。また、マイクロベンド損失は、ワイヤメッシュ法や、さらにその他の測定方法(たとえば斜め巻付け法)で測定された値でもよい。
【0048】
また、光ファイバにおいて、ガラスからなる部分の外径、たとえばクラッド径を縮小すると、光ファイバを伝搬する光がガラスからなる部分からリークアウトすることに起因するリーケージ損失が発生する場合がある。そこで、本実施形態に係る光ファイバ1は、波長1625nmにおけるリーケージ損失が0.001dB/km以下とすることが好ましい。
【0049】
以下、実施形態に係る光ファイバについて、シミュレーション計算の結果を参照して説明する。
【0050】
まず、図2に示すステップ型、W型、トレンチ型の屈折率プロファイルを有する光ファイバについて、Δ1、Δ2、Δ3、2a、2b、2cなどの構造パラメータを様々な値に網羅的に変化させて組み合わせ、直径20mmで曲げた場合の波長1550nmにおける曲げ損失を計算した。そして、これらの結果から、Δ1と、曲げ損失との関係を調査した。その一部を図3に示す。
【0051】
図3にもその一部を示すように、いずれの屈折率プロファイルについても、Δ1が0.33%以上0.40%以下の場合に、曲げ損失を0.75dB/turn以下、さらには0.10dB/turn以下とできる場合が多数あることが確認された。
【0052】
なお、本調査によれば、トレンチ型の屈折率プロファイルを採用すると、曲げ損失を低減しやすいことが確認された。また、Δ1が小さい方が、光ファイバの製造の際に屈折率を高めるドーパントであるGeの使用量を抑制できるので、製造コストを抑制でき、かつ製造し易い。また、W型におけるΔ2の絶対値またはトレンチ型におけるΔ3の絶対値が小さい方が、屈折率を低めるドーパントの使用量を抑制できるので、製造コストを抑制でき、かつ製造し易い。
【0053】
つづいて、上記調査において、曲げ損失が0.75dB/turn以下とでき、かつ、Δ1が0.33%以上0.40%以下の場合の構造パラメータの組み合わせを選択した。そして、選択した組み合わせについて、コーティング部のプライマリコーティング層の厚さ(以下、適宜プライマリ厚とする)を20μm、セカンダリコーティング層の厚さ(以下、適宜セカンダリ厚とする)を15μmに設定し、標準SMFに対する規格化マイクロベンド損失を計算した。このとき、クラッド径(ファイバ径)を80μm、90μm、100μm、110μm、または120μmに設定した。そして、これらの結果から、Δ1と、規格化マイクロベンド損失との関係を調査した。その一部を図4に示す。
【0054】
図4にもその一部を示すように、ファイバ径と規格化マイクロベンド損失との間には密接な関係があることが確認された。いずれの屈折率プロファイルについても、またいずれのクラッド径についても、Δ1が0.33%以上0.40%以下の場合に、規格化マイクロベンド損失を20以下とできる場合が多数あることが確認された。また、ファイバ径が100μm、110μmおよび120μmの場合は、規格化マイクロベンド損失を10以下とできる場合が多数あることが確認された。なお、プライマリコーティング層の厚さが20μmという条件は、マイクロベンド損失の低減のためには比較的厳しい条件である。しかしながら、その条件でも、120μm以下の細径のファイバ径において、G.657A1規格またはG.657A2規格のマクロベンド損失だけでなく、規格化マイクロベンド損失が20以下または10以下程度にマイクロベンド損失の増大を抑制できることが確認された。
【0055】
また、上記計算においては、波長1625nmにおいて0.001dB/km以下のリーケージ損失を得るのに必要な最低限のファイバ径(限界ファイバ径)も計算した。すると、計算した組み合わせにおいては、限界ファイバ径はいずれも100μm以下であり、また多くの組み合わせで80μm以下であった。すなわち、120μm以下の細径のファイバ径、またさらに細径のたとえば80μm程度までのファイバ径においても、過剰なリーケージ損失が発生しないことが確認された。
【0056】
なお、コーティング部を含む光ファイバの外径については、クラッド径を120μm以下とすれば、プライマリ厚を25μm以下、セカンダリ厚を20μm以下とすることで、210μm以下とできる。また、当該光ファイバの外径をさらに小さくするには、クラッド径をさらに小さくするとともに、プライマリ厚やセカンダリ厚を小さくすることが好まし。たとえば、上記計算に基づき、クラッド径を80μm程度とし、プライマリ厚を25μm以下、セカンダリ厚を20μm以下とすることで、当該光ファイバの外径を170μm以下とできる。
【0057】
つづいて、上記調査において、ステップ型、W型、トレンチ型の屈折率プロファイルのうち、トレンチ型であり、かつ、Δ1が0.33%以上0.40%以下の場合の構造パラメータの組み合わせを選択した。そして、選択した組み合わせについて、クラッド径を80μm、プライマリコーティング層の外径(以下、適宜プライマリ径とする)を129μm、セカンダリコーティング層の外径(以下、適宜セカンダリ径とする)を167μmに設定し、Δ3と、規格化マイクロベンド損失または限界ファイバ径との関係を調査した。その一部を図5に示す。
【0058】
図5にもその一部を示すように、Δ3の減少に応じて、規格化マイクロベンド損失および限界ファイバ径のいずれも直線状に減少する傾向がみられた。このことからΔ3の低減は規格化マイクロベンド損失および限界ファイバ径の低減の上で効果的である。ただし、図5からも解るように、Δ3が同じ値であっても、組み合わせる構造パラメータに応じて規格化マイクロベンド損失および限界ファイバ径は異なるので、要求仕様等に応じて構造パラメータの組み合わせを選択するのが好ましい。
【0059】
表1、2は、計算例1〜59として、計算に用いたトレンチ型の構造パラメータであるΔ1、Δ2、Δ3、b/a、c/a、2aの組み合わせと、各組み合わせの場合の光ファイバの特性について示している。なお、マクロベンド損失については、単位を[dB/m]で示している。[dB/m]と[dB/turn]とは、0.1dB/turnがほぼ1.59dB/mと等しいとして換算できる。また、規格化マイクロベンド損失は、ファイバ径を80μm、プライマリ径を129μm、セカンダリ径を167μmに設定し、標準SMFに対する規格化マイクロベンド損失を計算したものである。このとき、プライマリ厚は24.5μmであり、セカンダリ厚は19μmである。
【0060】
表1、2に示すように、計算例1〜59のいずれも、限界ファイバ径が120μm以下、さらには82μm以下であり、また殆どが80μm以下であったので、リーケージ損失を0.001dB/km以下としながらファイバ径を120μm以下、さらには82μm以下であり、また殆どが80μm以下とできるものであった。また、計算例1〜59のいずれも、波長1310nmにおけるMFDが8.6μm以上9.2μm以下であり、λccが1000nm以上1260μm以下であり、波長1550nmにおける規格化マイクロベンド損失が20以下であった。また、計算例1〜59のいずれも、波長1550nmにおけるマクロベンド損失が1.59dB/m以下、すなわち0.1dB/turn以下であった。また、表1と表2とに記載の計算例1〜59の光ファイバはいずれも、零分散波長が1300nm以上1324nm以下であり、零分散波長での分散スロープが0.092ps/nm/km以下という特性を満たしていた。
【0061】
つづいて、上記調査におけるW型の構造パラメータの組み合わせを選択した。表3は、計算例60として、選択したW型の構造パラメータであるΔ1、Δ2、b/a、2aの組み合わせと、各組み合わせの場合の光ファイバの特性について示している。なお、規格化マイクロベンド損失は、ファイバ径を80μm、プライマリ径を135μm、セカンダリ径を175μmに設定し、標準SMFに対する規格化マイクロベンド損失を計算したものである。
【0062】
表3に示すように、計算例60では、限界ファイバ径が80μm以下であったので、リーケージ損失を0.001dB/km以下としながらファイバ径を80μm以下とできるものであった。また、波長1310nmにおけるMFDが8.6μm以上9.2μm以下であり、λccが1000nm以上1260μm以下であり、波長1550nmにおける規格化マイクロベンド損失が20以下であった。また、波長1550nmにおけるマクロベンド損失が1.59dB/m以下、すなわち0.1dB/turn以下であった。なお、零分散波長は1292nmであり、零分散波長での分散スロープは0.092ps/nm/kmであった。
【0063】
すなわち、計算例1〜60によれば、G.657A1規格やG.657A2規格に相当するMFD、λcc、マクロベンド損失と、120μm以下のファイバ径を実現できるので、細径であるとともに良好な曲げ特性を有する光ファイバを実現できる。なお、規格化マイクロベンド損失については、ファイバ径やプライマリ径やセカンダリ径を上記の設定した値よりも大きく設定すれば、マイクロベンド損失をさらに低減し、規格化マイクロベンド損失を10以下にすることは容易に可能である。
【表1】
【表2】
【表3】
【0064】
なお、上記実施形態では、屈折率プロファイルとしてステップ型、W型、トレンチ型を例示しているが、セグメントコア型やW+サイドコア型などのその他の屈折率プロファイルについても適用できる。
【0065】
また、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 光ファイバ
1a コア部
1b クラッド部
1c コーティング部
P11、P12、P21、P22、P31、P32 プロファイル
図1
図2
図3
図4
図5