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特開2020-194739リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-194739(P2020-194739A)
(43)【公開日】2020年12月3日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0568 20100101AFI20201106BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20201106BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20201106BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20201106BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20201106BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20201106BHJP
   H01M 4/1393 20100101ALI20201106BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20201106BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20201106BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20201106BHJP
【FI】
   H01M10/0568
   H01M4/133
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M4/131
   H01M10/058
   H01M4/1393
   H01M4/1391
   H01M10/0525
   H01M10/0567
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-100658(P2019-100658)
(22)【出願日】2019年5月29日
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 拓也
(72)【発明者】
【氏名】児島 克典
(72)【発明者】
【氏名】石川 正司
(72)【発明者】
【氏名】福田 祐己
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AM09
5H029CJ02
5H029CJ13
5H029HJ10
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050GA02
5H050GA13
5H050HA10
(57)【要約】
【課題】充放電サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビスオキサレートボラート及びリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレートの少なくとも一方、並びにリチウム塩を含む電解質と、を備えるリチウムイオン二次電池。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビスオキサレートボラート及びリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレートの少なくとも一方、並びにリチウム塩を含む電解質と、を備えるリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記負極活物質が黒鉛を含む請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記正極活物質が層状型リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物を含む請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビスオキサレートボラート及びリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレートの少なくとも一方、並びにリチウム塩を含む電解質と、を電池容器に収容する工程を有するリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記正極及び前記負極の少なくとも一方の電極を1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビスオキサレートボラート及びリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレートの少なくとも一方、並びにリチウム塩を含む電解質に浸漬させる工程と、
浸漬させた後の前記電極を熱処理する工程と、
を有し、前記電極の熱処理後に、熱処理した前記電極を用いて前記電池容器に収容する工程を行う請求項4に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項6】
前記正極、前記負極及び前記電解質が収容された前記電池容器を熱処理する工程をさらに有する請求項4に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項7】
前記浸漬させる工程にて用いる前記電解質のリチウム塩濃度が0.5mol/kg〜2.5mol/kgである請求項5に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項8】
前記電池容器に収容される前記電解質のリチウム塩濃度が0.5mol/kg〜2.5mol/kgである請求項4〜請求項7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項9】
前記負極活物質が黒鉛を含む請求項4〜請求項8のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項10】
前記正極活物質が層状型リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物を含む請求項4〜請求項9のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、軽量で高エネルギー密度の二次電池であり、その特性を活かして、ノートパソコン、携帯電話等のポータブル機器の電源に使用されている。
近年では、リチウムイオン二次電池は、ポータブル機器等の民生用途にとどまらず、車載用途、太陽光発電、風力発電等といった自然エネルギー向け大規模蓄電システム用途などとしても展開されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の電解質としては、有機溶媒にリチウム塩を溶解した電解液が一般的に用いられている。また、有機溶媒は揮発しやすいため、有機溶媒の代わりに不揮発性のイオン液体を用い、イオン液体にリチウム塩を溶解した電解質をリチウムイオン二次電池に用いる場合がある。
ここでイオン液体とは、カチオンとアニオンから構成され、比較的低温、例えば25℃程度にて液体状態となる塩をいう。
【0004】
しかしながら、イオン液体を電解質に用いたリチウムイオン二次電池では、十分な充放電サイクル特性が得られないという問題がある。そこで、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、常温溶融塩を含有する非水電解質とを備える非水電解質二次電池において、前記非水電解質を注入した後、初回充電前に、電位走査により、前記負極の電位を前記常温溶融塩のカチオンが還元分解する電位以下まで掃引した非水電解質二次電池が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。常温溶融塩(イオン液体)のカチオンを還元分解させることにより、負極表面に安定な被膜を形成することができ、これにより、その後の充電による常温溶融塩のカチオンの分解が抑制され、充放電サイクル特性に優れた非水電解質二次電池となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−230899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、特許文献1に記載されている方法以外にもリチウムイオン二次電池の充放電サイクル特性を高めることができるリチウムイオン二次電池、及びその製造方法が求められている。
【0007】
本開示の一形態は上記従来の事情に鑑みてなされたものであり、充放電サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビスオキサレートボラート及びリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレートの少なくとも一方、並びにリチウム塩を含む電解質と、を備えるリチウムイオン二次電池。
<2> 前記負極活物質が黒鉛を含む前記<1>に記載のリチウムイオン二次電池。
<3> 前記正極活物質が層状型リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物を含む前記<1>又は<2>に記載のリチウムイオン二次電池。
【0009】
<4> 正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビスオキサレートボラート及びリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレートの少なくとも一方、並びにリチウム塩を含む電解質と、を電池容器に収容する工程を有するリチウムイオン二次電池の製造方法。
<5> 前記正極及び前記負極の少なくとも一方の電極を1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビスオキサレートボラート及びリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレートの少なくとも一方、並びにリチウム塩を含む電解質に浸漬させる工程と、浸漬させた後の前記電極を熱処理する工程と、を有し、前記電極の熱処理後に、熱処理した前記電極を用いて前記電池容器に収容する工程を行う前記<4>に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
<6> 前記正極、前記負極及び前記電解質が収容された前記電池容器を熱処理する工程をさらに有する前記<4>に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
<7> 前記浸漬させる工程にて用いる前記電解質のリチウム塩濃度が0.5mol/kg〜2.5mol/kgである前記<5>に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
<8> 前記電池容器に収容される前記電解質のリチウム塩濃度が0.5mol/kg〜2.5mol/kgである前記<4>〜<7>のいずれか1つに記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
<9> 前記負極活物質が黒鉛を含む前記<4>〜<8>のいずれか1つに記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
<10> 前記正極活物質が層状型リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物を含む前記<4>〜<9>のいずれか1つに記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一形態によれば、充放電サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。また、本開示中の技術的思想の範囲内において、当業者による様々な変更及び修正が可能である。
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「〜」を用いて示された数値範囲には、「〜」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率は、特に断らない限り、当該複数種の物質の合計の含有率を意味する。
本開示において各成分に該当する粒子は複数種含んでいてもよい。各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒子径は、特に断らない限り、当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本開示において「層」又は「膜」との語には、当該層又は膜が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
本開示において、正極合剤又は負極合剤の「固形分」とは、正極合剤のスラリー又は負極合剤のスラリーから有機溶剤等の揮発性成分を除いた残りの成分を意味する。
本開示において、リチウム塩は、リチウムビスオキサレートボラート及びリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート以外のリチウム塩を意味する。
【0012】
<リチウムイオン二次電池>
本開示のリチウムイオン二次電池は、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(以下、「EMI−FSI」とも称する。)、リチウムビスオキサレートボラート(以下、「LiBOB」とも称する。)及びリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(以下、「LiDFOB」とも称する。)の少なくとも一方、並びにリチウム塩を含む電解質と、を備える。
本開示のリチウムイオン二次電池では、前述の電解質を用いることにより、充放電サイクル特性に優れる。
【0013】
本開示のリチウムイオン二次電池にて用いる正極、負極及び電解質の好ましい構成について以下に説明する。
【0014】
(正極)
本開示のリチウムイオン二次電池は、正極活物質を含む正極を備える。正極活物質を含む正極としては、リチウムイオン二次電池に適用可能な正極であれば特に限定されない。例えば、正極は、正極集電体及びその表面に配置され、かつ正極活物質を含む正極合剤層を有する構成であってもよい。
【0015】
正極活物質としては、層状型リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(以下、「NMC」とも称する。)を含むことが好ましい。NMCは、高容量であり、且つ安全性にも優れる傾向にある。
NMCの含有率は、電池の高容量化の観点から、正極合剤層全量に対して65質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。
【0016】
NMCとしては、以下の組成式(化1)で表されるものを用いることが好ましい。
Li(1+δ)MnNiCo(1−x−y−z)・・・(化1)
組成式(化1)において、(1+δ)はLi(リチウム)の組成比を、xはMn(マンガン)の組成比を、yはNi(ニッケル)の組成比を、(1−x−y−z)はCo(コバルト)の組成比を、各々示す。zは、元素Mの組成比を示す。O(酸素)の組成比は2である。
元素Mは、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Al(アルミニウム)、Si(シリコン)、Ga(ガリウム)、Ge(ゲルマニウム)及びSn(錫)からなる群より選択される少なくとも1種の元素であることが好ましい。
また、−0.15<δ<0.15、0.1<x≦0.5、0.6<x+y+z<1.0、0≦z≦0.1である。
【0017】
また、正極活物質としては、NMC以外のものを用いてもよい。
NMC以外の正極活物質としては、この分野で常用されるものを使用でき、スピネル型リチウムマンガン複合酸化物(sp−Mn)、NMC及びsp−Mn以外のリチウム含有複合金属酸化物、オリビン型リチウム塩、カルコゲン化合物、二酸化マンガン等が挙げられる。
正極活物質は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
次に、正極合剤層及び正極集電体について詳細に説明する。正極合剤層は、正極活物質、結着剤等を含有し、正極集電体上に配置される。正極合剤層の形成方法に制限はなく、例えば、次のように形成される。正極活物質、結着剤及び必要に応じて用いられる導電剤、増粘剤等の他の材料を乾式で混合してシート状にし、これを正極集電体に圧着する(乾式法)ことで正極合剤層を形成することができる。また、正極活物質、結着剤及び必要に応じて用いられる導電剤、増粘剤等の他の材料を分散溶媒に溶解又は分散させて正極合剤のスラリーとし、これを正極集電体に塗布し、乾燥する(湿式法)ことで正極合剤層を形成することができる。
正極活物質としては、前述したように、層状型リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(NMC)が用いられることが好ましい。正極活物質は、粉状(粒状)で用いられ、混合される。
NMC等の正極活物質の粒子としては、塊状、多面体状、球状、楕円球状、板状、針状、柱状等の形状を有するものを用いることができる。
NMC等の正極活物質の粒子の平均粒子径(d50)(一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には二次粒子の平均粒子径(d50))は、タップ密度(充填性)、電極の形成の際における他の材料との混合性の観点から、1μm〜30μmであることが好ましく、3μm〜25μmであることがより好ましく、5μm〜15μmであることがさらに好ましい。正極活物質の粒子の平均粒子径(d50)は、例えば、レーザー光散乱法を利用した粒子径分布測定装置(SALD−3000、株式会社島津製作所)を用いて体積基準の粒度分布を測定し、d50(メジアン径)として求められる体積平均粒子径である。
【0019】
NMC等の正極活物質の粒子の77Kでの窒素吸着測定より求められる比表面積(以下、単に「比表面積」とも称する。)の範囲は、0.2m/g〜4.0m/gであることが好ましく、0.3m/g〜2.5m/gであることがより好ましく、0.4m/g〜1.5m/gであることがさらに好ましい。
正極活物質の粒子の比表面積が0.2m/g以上であれば、優れた電池性能が得られる傾向にある。また、正極活物質の粒子の比表面積が4.0m/g以下であると、タップ密度が上がりやすく、結着剤、導電剤等の他の材料との混合性が良好になる傾向にある。比表面積は、JIS Z 8830:2013に準じて窒素吸着能から測定することができる。比表面積の測定を行う際には、試料表面及び構造中に吸着している水分がガス吸着能に影響を及ぼすと考えられることから、まず、加熱による水分除去の前処理を行うことが好ましい。
前処理では、0.05gの測定試料を投入した測定用セルを、真空ポンプで10Pa以下に減圧した後、110℃で加熱し、3時間以上保持した後、減圧した状態を保ったまま常温(25℃)まで自然冷却する。この前処理を行った後、評価温度を77Kとし、評価圧力範囲を相対圧(飽和蒸気圧に対する平衡圧力)にて1未満として測定する。窒素吸着を多点法で測定し、BET法により比表面積を算出する。
【0020】
正極用の導電剤としては、銅、ニッケル等の金属材料;天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト);アセチレンブラック等のカーボンブラック;ニードルコークス等の無定形炭素等の炭素材料などが挙げられる。なお、正極用の導電剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
正極合剤層の質量に対する導電剤の含有率は、0.01質量%〜50質量%であることが好ましく、0.1質量%〜30質量%であることがより好ましく、1質量%〜15質量%であることがさらに好ましい。導電剤の含有率が0.01質量%以上であると充分な導電性を得やすい傾向にある。導電剤の含有率が50質量%以下であれば、電池容量の低下を抑制することができる傾向にある。
【0021】
正極用の結着剤としては、特に限定されず、湿式法により正極合剤層を形成する場合には、分散溶媒に対する溶解性又は分散性が良好な材料が選択される。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、セルロース等の樹脂系高分子;SBR(スチレン−ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)等のゴム状高分子、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン−フッ化ビニリデン共重合体、フッ素化ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系高分子;アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物などが挙げられる。なお、正極用の結着剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
正極の安定性の観点から、結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン−フッ化ビニリデン共重合体等のフッ素系高分子を用いることが好ましい。
正極合剤層の質量に対する結着剤の含有率は、0.1質量%〜60質量%であることが好ましく、1質量%〜40質量%であることがより好ましく、3質量%〜10質量%であることがさらに好ましい。
結着剤の含有率が0.1質量%以上であると、正極活物質を充分に結着でき、充分な正極合剤層の機械的強度が得られ、サイクル特性等の電池性能が向上する傾向にある。結着剤の含有率が60質量%以下であると、充分な電池容量及び導電性が得られる傾向にある。
【0022】
湿式法又は乾式法を用いて正極集電体上に形成された正極合剤層は、正極活物質の充填密度を向上させるため、ハンドプレス又はローラープレス等により圧密化することが好ましい。
圧密化した正極合剤層の密度は、入出力特性及び安全性のさらなる向上の観点から、2.0g/cm〜3.5g/cmの範囲であることが好ましく、2.3g/cm〜3.2g/cmの範囲であることがより好ましく、2.5g/cm〜3.0g/cmの範囲であることがさらに好ましい。
また、正極合剤層を形成する際の正極合剤のスラリーの正極集電体への片面塗布量は、エネルギー密度及び入出力特性の観点から、正極合剤の固形分として、30g/m〜170g/mであることが好ましく、40g/m〜160g/mであることがより好ましく、40g/m〜150g/mであることがさらに好ましい。
【0023】
正極集電体の材質としては特に制限はなく、中でも金属材料が好ましく、アルミニウムがより好ましい。正極集電体の形状としては特に制限はなく、種々の形状に加工された材料を用いることができる。金属材料については、金属箔、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル等が挙げられ、中でも、金属薄膜を用いることが好ましい。なお、薄膜は適宜メッシュ状に形成してもよい。
正極集電体の平均厚みは特に限定されるものではなく、正極集電体として必要な強度及び良好な可とう性が得られる観点から、1μm〜1mmであることが好ましく、3μm〜100μmであることがより好ましく、5μm〜100μmであることがさらに好ましい。
【0024】
(負極)
本開示のリチウムイオン二次電池は、負極活物質を含む負極を備える。負極活物質を含む負極としては、リチウムイオン二次電池に適用可能な負極であれば特に限定されない。例えば、負極は、負極集電体及びその表面に配置され、かつ負極活物質を含む負極合剤層を有する構成であってもよい。
【0025】
負極活物質としては、黒鉛、低結晶性炭素、メゾフェーズカーボン等の炭素材料が挙げられ、充放電容量を大きくしやすいことから、黒鉛が好ましい。黒鉛としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化メゾフェーズカーボン、黒鉛化炭素繊維等が挙げられ、黒鉛の形状としては、鱗片状、球状、塊状等が挙げられる。
負極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
炭素材料、好ましくは黒鉛の平均粒子径は、2μm〜30μmであることが好ましく、2.5μm〜25μmであることがより好ましく、3μm〜20μmであることがさらに好ましく、5μm〜20μmであることが特に好ましい。平均粒子径が30μm以下であると、放電容量及び放電特性が向上する傾向にある。平均粒子径が2μm以上であると、初回充放電効率が向上する傾向にある。
なお、平均粒子径(d50)は、前述の正極活物質の場合と同様にして測定することができる。
【0027】
炭素材料、好ましくは黒鉛の比表面積の範囲は、0.5m/g〜10m/gであることが好ましく、0.8m/g〜8m/gであることがより好ましく、1m/g〜7m/gであることがさらに好ましく、1.5m/g〜6m/gであることが特に好ましい。
比表面積が0.5m/g以上であると、優れた電池性能が得られる傾向にある。また、比表面積が10m/g以下であると、タップ密度が上がりやすく、結着剤、導電剤等のほかの材料との混合性が良好になる傾向にある。
比表面積は、前述の正極活物質の場合と同様にして測定することができる。
【0028】
炭素材料、好ましくは黒鉛の含有率は、電池の高容量化の観点から、負極合剤層全量に対して80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
【0029】
次に、負極合剤層及び負極集電体について詳細に説明する。負極合剤層は、負極活物質、結着剤等を含有し、負極集電体上に配置される。負極合剤層の形成方法に制限はなく、例えば、次のように形成される。負極活物質、結着剤及び必要に応じて用いられる導電剤、増粘剤等の他の材料を分散溶媒に溶解又は分散させて負極合剤のスラリーとし、これを負極集電体に塗布し、乾燥する(湿式法)ことで負極合剤層を形成することができる。
【0030】
負極用の導電剤としては、アセチレンブラック等のカーボンブラック、ニードルコークス等の無定形炭素などを用いることができる。負極用の導電剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。このように、負極合剤に導電剤を添加することにより、電極の抵抗を低減する等の効果が得られる傾向にある。
【0031】
負極合剤層の質量に対する導電剤の含有率は、導電性の向上及び初期不可逆容量の低減の観点から、1質量%〜45質量%であることが好ましく、2質量%〜42質量%であることがより好ましく、3質量%〜40質量%であることがさらに好ましい。導電剤の含有率が1質量%以上であると充分な導電性を得やすい傾向にある。導電剤の含有率が45質量%以下であると電池容量の低下を抑制することができる傾向にある。
【0032】
負極用の結着剤としては、非水電解液又は電極の形成の際に用いる分散溶媒に対して安定な材料であれば、特に制限はない。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂系高分子;SBR(スチレン−ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)等のゴム状高分子;ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系高分子;アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物などが挙げられる。なお、負極用の結着剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、SBR、ポリフッ化ビニリデンに代表されるフッ素系高分子等を用いることが好ましい。
【0033】
負極合剤層の質量に対する結着剤の含有率は、0.1質量%〜20質量%であることが好ましく、0.5質量%〜15質量%であることがより好ましく、0.6質量%〜10質量%であることがさらに好ましい。
結着剤の含有率が0.1質量%以上であると、負極活物質を充分に結着でき、充分な負極合剤層の機械的強度が得られる傾向にある。結着剤の含有率が20質量%以下であると、充分な電池容量及び導電性が得られる傾向にある。
【0034】
なお、結着剤として、ポリフッ化ビニリデンに代表されるフッ素系高分子を主要成分として用いる場合の負極合剤層の質量に対する結着剤の含有率は、1質量%〜15質量%であることが好ましく、2質量%〜10質量%であることがより好ましく、3質量%〜8質量%であることがさらに好ましい。
【0035】
増粘剤は、スラリーの粘度を調整するために使用される。増粘剤としては、特に制限はなく、具体的には、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン及びこれらの塩が挙げられる。増粘剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
負極合剤層の質量に対する増粘剤の含有率は、入出力特性及び電池容量の観点から、0.1質量%〜5質量%であることが好ましく、0.5質量%〜3質量%であることがより好ましく、0.6質量%〜2質量%であることがさらに好ましい。
【0037】
スラリーを形成するための分散溶媒としては、負極活物質、結着剤、及び必要に応じて用いられる導電剤、増粘剤等を溶解又は分散することが可能な溶媒であれば、その種類に制限はなく、水系溶媒又は有機系溶媒のどちらを用いてもよい。水系溶媒の例としては、水、アルコール、水とアルコールとの混合溶媒等が挙げられる。有機系溶媒の例としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、アセトン、ジエチルエーテル、ジメチルスルホキシド、ベンゼン、キシレン、ヘキサン等が挙げられる。特に水系溶媒を用いる場合、増粘剤を用いることが好ましい。
【0038】
負極合剤層の密度は、0.7g/cm〜2g/cmであることが好ましく、0.8g/cm〜1.9g/cmであることがより好ましく、0.9g/cm〜1.8g/cmであることがさらに好ましい。
負極合剤層の密度が0.7g/cm以上であると、負極活物質間の導電性が向上し電池抵抗の増加を抑制することができ、単位容積あたりの容量を向上できる傾向にある。負極合剤層の密度が2g/cm以下であると、初期不可逆容量の増加及び負極集電体と負極活物質との界面付近への非水電解液の浸透性の低下による放電特性の劣化を招くおそれが少なくなる傾向にある。
また、負極合剤層を形成する際の負極合剤のスラリーの負極集電体への片面塗布量は、エネルギー密度及び入出力特性の観点から、負極合剤の固形分として、30g/m〜150g/mであることが好ましく、40g/m〜140g/mであることがより好ましく、45g/m〜130g/mであることがさらに好ましい。
【0039】
負極集電体の材質としては特に制限はなく、具体例としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属材料が挙げられる。中でも、加工のし易さとコストの観点から銅が好ましい。
【0040】
負極集電体の形状としては特に制限はなく、種々の形状に加工された材料を用いることができる。具体例としては、金属箔、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル等が挙げられる。中でも、金属箔が好ましく、銅箔がより好ましい。銅箔には、圧延法により形成された圧延銅箔と、電解法により形成された電解銅箔とがあり、どちらも負極集電体として好適である。
負極集電体の平均厚みは特に限定されるものではない。例えば、5μm〜50μmであることが好ましく、8μm〜40μmであることがより好ましく、9μm〜30μmであることがさらに好ましい。
なお、負極集電体の平均厚みが25μm未満の場合、純銅よりも強銅合金(リン青銅、チタン銅、コルソン合金、Cu−Cr−Zr合金等)を用いることでその強度を向上させることができる。
【0041】
本開示のリチウムイオン二次電池が備える正極及び負極の少なくとも一方の電極は、電極表面に被膜を備えていてもよく、ホウ素を含む被膜を備えていてもよい。これにより、その後の充放電による電解質中の成分の分解、活物質の劣化等がより抑制され、充放電サイクル特性により優れるリチウムイオン二次電池が得られる。電極表面に被膜を形成する方法としては、EMI−FSI、LiBOB及びLiDFOB並びにリチウム塩を含む電解質に電極を浸漬させて熱処理する方法が挙げられる。
【0042】
(電解質)
本開示のリチウムイオン二次電池は、EMI−FSI、LiBOB及びLiDFOBの少なくとも一方、並びにリチウム塩を含む電解質を備える。EMI−FSI、LiBOB及びLiDFOBの少なくとも一方、並びにリチウム塩を含む電解質(以下、単に「電解質」とも称する。)は、LiBOB及びLiDFOBの少なくとも一方並びにリチウム塩をEMI−FSIに溶解させることにより調製すればよい。
【0043】
電解質は、LiBOB及びLiDFOBの少なくとも一方を含んでいればよく、LiBOB及びLiDFOBのどちらか一方を含んでいてもよく、LiBOB及びLiDFOBの両方を含んでいてもよい。
【0044】
電池容器に収容される電解質のLiBOB及びLiDFOBの合計濃度は、電解質の全量に対して0.1質量%〜5質量%であることが好ましく、0.2質量%〜3質量%であることがより好ましく、0.3質量%〜1.5質量%であることがさらに好ましい。
【0045】
リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiFSI(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)、LiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)、LiClO、LiB(C、LiCHSO、LiCFSO、LiN(SOCFCF等が挙げられる。リチウム塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
電池容器に収容される電解質のリチウム塩濃度は、例えば、電気伝導度の観点から、0.5mol/kg〜2.5mol/kgであることが好ましく、0.8mol/kg〜2.0mol/kgであることがより好ましく、1.0mol/kg〜1.8mol/kgであることがさらに好ましい。
【0047】
(セパレータ)
本開示のリチウムイオン二次電池は、正極と負極との間に正極及び負極間を絶縁するセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、正極及び負極間を絶縁しつつ、イオン透過性を有し、かつ、正極側における酸化性及び負極側における還元性に対する耐性を備えるものであれば特に制限はない。このような特性を満たすセパレータの材料(材質)としては、樹脂、無機物等が用いられる。
樹脂としては、オレフィン系高分子、フッ素系高分子、セルロース系高分子、ポリイミド、ナイロン等が用いられる。中でも、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを原料とする多孔性シート又は不織布などを用いることが好ましい。
無機物としては、アルミナ、二酸化ケイ素等の酸化物類、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物類、ガラスなどが用いられる。例えば、繊維形状又は粒子形状の上記無機物を、不織布としたもの、織布としたもの又は微多孔性フィルム等の薄膜形状の基材に付着させたものをセパレータとして用いることができる。薄膜形状の基材としては、孔径が0.01μm〜1μmであり、平均厚みが5μm〜50μmのものが好適に用いられる。また、繊維形状又は粒子形状の上記無機物を、樹脂等の結着剤を用いて複合多孔層としたものをセパレータとして用いることもできる。また、この複合多孔層を他のセパレータの表面に形成し、多層セパレータとしてもよい。さらに、この複合多孔層を、正極又は負極の表面に形成し、セパレータとしてもよい。
【0048】
<リチウムイオン二次電池の製造方法>
本開示のリチウムイオン二次電池の製造方法は、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビスオキサレートボラート及びリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレートの少なくとも一方、並びにリチウム塩を含む電解質と、を電池容器に収容する工程を有する。
本開示のリチウムイオン二次電池の製造方法では、前述の電解質を電池容器に収容することにより、充放電サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を製造可能である。
【0049】
(収容工程)
本開示の製造方法は、正極と、負極と、EMI−FSI、LiBOB及びLiDFOBの少なくとも一方、並びにリチウム塩を含む電解質と、を電池容器に収容する工程(収容工程)を有する。この工程では、リチウムイオン二次電池の各構成部材が電池容器に収容される。また、正極と負極との間に正極及び負極間を絶縁するセパレータが配置されるように、セパレータを電池容器に収容してもよい。
【0050】
例えば、正極及び負極、並びに必要に応じて正極と負極との間にセパレータを電池容器内に配置した状態にて、電池容器内にEMI−FSI、LiBOB及びLiDFOBの少なくとも一方、並びにリチウム塩を含む電解質を供給してもよい。
【0051】
以下、本開示のリチウムイオン二次電池の製造方法の好ましい態様である第一実施形態及び第二実施形態について説明する。
【0052】
[第一実施形態]
本開示の第一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法は、正極活物質を含む正極及び負極活物質を含む負極の少なくとも一方の電極をEMI−FSI、LiBOB及びLiDFOBの少なくとも一方、並びにリチウム塩を含む電解質に浸漬させる工程と、浸漬させた後の電極を熱処理する工程と、を有し、電極の熱処理後に、熱処理した電極を用いて電池容器に収容する工程、を行う。
本実施形態の製造方法では、EMI−FSI、LiBOB及びLiDFOBの少なくとも一方、並びにリチウム塩を含む電解質に電極を浸漬させて熱処理することにより、電極表面に被膜を形成することができる。これにより、その後の充放電による電解質中の成分の分解、活物質の劣化等が抑制され、充放電サイクル特性により優れるリチウムイオン二次電池が得られる。
また、本実施形態の製造方法では、電池反応を行わずに、簡易な方法にて充放電サイクル特性により優れるリチウムイオン二次電池が得られる。
【0053】
(浸漬工程)
本実施形態の製造方法は、正極活物質を含む正極及び負極活物質を含む負極の少なくとも一方の電極を、EMI−FSI、LiBOB及びLiDFOBの少なくとも一方、並びにリチウム塩を含む電解質に浸漬させる工程(浸漬工程)を有する。本工程では、例えば、容器内にリチウム塩であるリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを1.2mol/kgの濃度でEMI−FSIに溶解し、かつ、電解質の全量に対して0.5質量%となるようにLiBOB又はLiDFOBをEMI−FSIに添加して調製した電解質を充填し、正極及び負極の少なくとも一方の電極を容器内の電解質に浸漬させてもよい。
なお、浸漬工程にて用いる電解質のリチウム塩の濃度は、0.5mol/kg〜2.5mol/kgであることが好ましく、0.8mol/kg〜2.0mol/kgであることがより好ましく、1.0mol/kg〜1.8mol/kgであることがさらに好ましい。
また、浸漬工程にて用いる電解質のLiBOB及びLiDFOBの合計濃度は、電解質の全量に対して0.1質量%〜5質量%であることが好ましく、0.2質量%〜3質量%であることがより好ましく、0.3質量%〜1.5質量%であることがさらに好ましい。
また、リチウム塩の具体例としては、電池容器に収容される電解質に含まれるリチウム塩の具体例と同様である。
【0054】
ここで、電極及び電解質が大気、水分等と接触しない条件下で電極を電解質に浸漬させることが好ましく、例えば、不活性ガス雰囲気下で電極を電解質に浸漬させることが好ましい。
また、電極を電解質に浸漬させる際、後述の電極熱処理工程にて電極表面に被膜を好適に形成する観点から、液体状態の電解質に電極を浸漬させることが好ましく、例えば、25℃にて電解質に電極を浸漬させてもよい。
【0055】
なお、本実施形態の製造方法では、正極及び負極の少なくとも一方の電極を、電解質に浸漬させればよく、電解質に浸漬させた電極について、後述の電極熱処理工程にて熱処理を行えばよい。すなわち、本実施形態の製造方法では、正極及び負極の両方の電極を電解質に浸漬し、電解質に浸漬させた両方の電極に熱処理を行う構成であってもよく、正極及び負極の一方の電極を電解質に浸漬し、電解質に浸漬させた一方の電極に熱処理を行う構成であってもよい。
【0056】
(電極熱処理工程)
本実施形態の製造方法は、浸漬させた後の電極を熱処理する工程(電極熱処理工程)を有する。電極を熱処理する条件としては、電解質中の成分が熱分解して電極表面に被膜が形成される条件であればよい。
【0057】
例えば、熱処理の温度としては、35℃〜100℃であってもよく、40℃〜80℃であってもよく、45℃〜60℃であってもよい。熱処理の温度が35℃以上であることにより、電解質中の成分の熱分解による被膜が形成しやすい傾向にあり、熱処理の温度が100℃以下であることにより、過剰な熱分解反応を抑制できる傾向にある。
なお、熱処理の温度とは、電極を熱処理するときの雰囲気の温度を指す。
【0058】
また、熱処理の時間としては、2時間〜24時間であってもよく、3時間〜18時間であってもよく、5時間〜12時間であってもよく、6時間〜8時間であってもよい。熱処理の時間が2時間以上であることにより、電解質中の成分の熱分解による被膜が形成しやすい傾向にあり、熱処理の時間が24時間以下であることにより、リチウムイオン二次電池の製造効率及び放電負荷特性に優れる傾向にある。
【0059】
また、熱処理の雰囲気としては、熱処理の際に大気、水分等が侵入しないことが好ましく、例えば、減圧雰囲気又は不活性ガス雰囲気が好ましい。
【0060】
(熱処理後収容工程)
本実施形態の製造方法は、電極の熱処理後に、正極と、負極と、EMI−FSI、LiBOB及びLiDFOBの少なくとも一方、並びにリチウム塩を含む電解質と、を電池容器に収容する工程(熱処理後収容工程)を有する。この工程では、リチウムイオン二次電池の各構成部材が電池容器に収容される。また、正極と負極との間に正極及び負極間を絶縁するセパレータが配置されるように、セパレータを電池容器に収容してもよい。
【0061】
例えば、電極の熱処理後に、正極及び負極、並びに必要に応じて正極と負極との間にセパレータを電池容器内に配置した状態にて、電池容器内にEMI−FSI、LiBOB及びLiDFOBの少なくとも一方、並びにリチウム塩を含む電解質を供給してもよい。
【0062】
[第二実施形態]
本開示の第二実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法は、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、EMI−FSI、LiBOB及びLiDFOBの少なくとも一方、並びにリチウム塩を含む電解質と、を電池容器に収容する工程と、前記正極、前記負極及び前記電解質が収容された前記電池容器を熱処理する工程と、を有する。第二実施形態の製造方法では、正極、負極及び電解質を電池容器に収容した後に、電池容器を熱処理する点で、前述の第一実施形態の製造方法と異なる。
本実施形態の製造方法では、正極と、負極と、EMI−FSI、LiBOB及びLiDFOBの少なくとも一方、並びにリチウム塩を含む電解質と、を電池容器に収容した後に電池容器を熱処理することにより、正極及び負極の表面に被膜を形成することができ、これにより、その後の充放電による電解質中の成分の分解、活物質の劣化等が抑制され、充放電サイクル特性により優れるリチウムイオン二次電池が得られる。
また、本実施形態の製造方法では、電池反応を行わずに、簡易な方法にて充放電サイクル特性により優れるリチウムイオン二次電池が得られる。
なお、正極、負極及び電解質の好ましい構成、並びに製造されるリチウムイオン二次電池の好ましい構成については、前述の第一実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0063】
(熱処理前収容工程)
本実施形態の製造方法は、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、EMI−FSI、LiBOB及びLiDFOBの少なくとも一方、並びにリチウム塩を含む電解質と、を電池容器に収容する工程(熱処理前収容工程)を有する。この工程では、リチウムイオン二次電池の各構成部材が電池容器に収容される。また、正極と負極との間に正極及び負極間を絶縁するセパレータが配置されるように、セパレータを電池容器に収容してもよい。
【0064】
(電池熱処理工程)
本実施形態の製造方法は、正極、負極及び電解質が収容された前記電池容器を熱処理する工程を有する。電池容器を熱処理する条件としては、電解質中の成分が熱分解して正極及び負極の表面に被膜が形成される条件であればよい。
【0065】
例えば、熱処理の温度としては、35℃〜100℃であってもよく、40℃〜80℃であってもよく、45℃〜60℃であってもよい。熱処理の温度が35℃以上であることにより、電解質中の成分の熱分解による被膜が形成しやすい傾向にあり、熱処理の温度が100℃以下であることにより、過剰な熱分解反応を抑制できる傾向にある。
なお、熱処理の温度とは、電池容器を熱処理するときの雰囲気の温度を指す。
【0066】
また、熱処理の時間としては、2時間〜24時間であってもよく、3時間〜18時間であってもよく、5時間〜12時間であってもよく、6時間〜8時間であってもよい。熱処理の時間が2時間以上であることにより、電解質中の成分の熱分解による被膜が形成しやすい傾向にあり、熱処理の時間が24時間以下であることにより、放電負荷特性に優れる傾向にある。
【0067】
また、熱処理の雰囲気としては、熱処理の際に大気、水分等が侵入しないことが好ましく、例えば、減圧雰囲気又は不活性ガス雰囲気が好ましい。また電池容器を封止した後に熱処理を行うことが好ましい。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
<正極の作製>
層状型リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(正極活物質)90質量部、アセチレンブラック(導電剤)5質量部、ポリフッ化ビニリデン(結着剤)5質量部、を加えて混合し正極合剤を調製した。正極合剤を分散媒としてのN−メチル−2−ピロリドンに分散し、スラリー状としたものを厚さ20μmのアルミニウム箔上に、分散媒の乾燥後の塗工量が100g/mになるように塗工して100℃で1時間乾燥し、正極合剤層を形成した。乾燥後、プレスすることにより、正極合剤層の密度を2.6g/cmに調整した。なお、正極合剤層の密度は、式:正極合剤層の密度=(正極の質量−正極集電体[アルミニウム箔]の質量)/(正極合剤層の厚み×正極合剤層の面積)から算出した。これを直径12mmに打ち抜き、正極とした。
【0070】
<負極の作製>
黒鉛(負極活物質、日立化成株式会社)95質量部、アセチレンブラック(導電剤)3質量部、スチレンブタジエンゴム(結着剤)1質量部、及びカルボキシメチルセルロース(増粘剤)1質量部を加えて混合し負極合剤を調製した。負極合剤を分散媒としての水に分散し、スラリー状としたものを厚さ20μmの銅箔上に、分散媒の乾燥後の塗工量が54g/mになるように塗工して80℃で1時間乾燥し、負極合剤層を形成した。乾燥後、プレスすることにより、負極合剤層の密度を1.6g/cmに調整した。なお、負極合剤層の密度は、式:負極合剤層の密度=(負極の質量−集電体[銅箔]の質量)/(負極合剤層の厚み×負極合剤層の主面の面積)から算出した。これを直径12mmに打ち抜き、負極とした。
【0071】
[実施例1]
<評価用セルの作製>
正極、直径14mmに打ち抜いたポリエチレン系微多孔膜セパレータ、負極及び3極式HSセル(宝泉株式会社)を用いて評価用セルを作製した。負極及びセパレータを重ねた後、1.2mol/kgとなるようにリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)を1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(EMI−FSI)に溶解させ、さらに、電解質の全量に対して0.5質量%となるようにリチウムビスオキサレートボラート(LiBOB)をEMI−FSIに添加して調製した電解質を3極式HSセルに注液し、その後負極と対向するように正極を重ねてセル内に配置した。
評価用セルは、露点−80℃以下で、アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で作製した。
【0072】
<評価用セルの熱処理>
熱処理として、評価用セルを50℃に設定した恒温槽内に6時間静置した。その後、評価用セルを取り出し、室温で12時間静置した。
【0073】
<サイクル試験>
熱処理後の評価用セルについて、充放電装置を用いて、以下の充放電条件の下で測定した。
(1)初回サイクルは電流値0.1Cで、終止電圧4.2Vまで充電し、その後、定電圧で電流値が設定電流値の1/10になるまで充電する定電流定電圧(CCCV)充電を行った。その後、電流値0.1Cで、終止電圧3.0Vまで定電流(CC)放電を行った。なお、Cとは「電流値(A)/電池容量(Ah)」を意味する。
(2)次いで、電流値1Cで、終止電圧4.2Vまで充電し、その後、定電圧で電流値が設定電流値の1/10になるまでCCCV充電を行った。その後、電流値1Cで、終止電圧3.0VまでCC放電を行った。このサイクルを200サイクル行った。
サイクル試験の結果から、下記式を用いてクーロン効率(%)及び容量維持率(%)を算出した。クーロン効率及び容量維持率は、その値が大きいほど電池として優れているといえる。
クーロン効率(%)=[(2)で得られた10サイクル目の放電容量/(2)の10サイクル目の充電容量]×100
容量維持率(%)=[(2)で得られた200サイクル目の放電容量/(2)の1サイクル目の放電容量]×100
【0074】
[実施例2]
リチウム塩濃度を表1に示す条件に変更した以外は実施例1と同様にして評価用セルの作製を行い、熱処理を行わずに評価用セルを用いてサイクル試験を行った。
【0075】
[実施例3]
リチウム塩濃度を表1に示す条件に変更し、評価用セルの熱処理の条件を50℃、12時間に変更した以外は実施例1と同様にして評価用セルの作製及び評価用セルの熱処理を行い、熱処理をした評価用セルを用いてサイクル試験を行った。
【0076】
[実施例4]
添加剤をLiBOBからリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(LiDFOB)に変更した以外は実施例3と同様にして評価用セルの作製及び評価用セルの熱処理を行い、熱処理をした評価用セルを用いてサイクル試験を行った。
【0077】
[実施例5]
添加剤として、LiBOB及びLiDFOBを電解質の全量に対してそれぞれ0.5質量%用いた以外は実施例3と同様にして評価用セルの作製を行い、熱処理を行わずに評価用セルを用いてサイクル試験を行った。
【0078】
[実施例6]
添加剤として、LiBOB及びLiDFOBを電解質の全量に対してそれぞれ0.5質量%用いた以外は実施例3と同様にして評価用セルの作製を行い、熱処理をした評価用セルを用いてサイクル試験を行った。
【0079】
[比較例1]
添加剤であるLiBOBを用いなかった以外は実施例1と同様にして評価用セルの作製を行い、熱処理を行わずに評価用セルを用いてサイクル試験を行った。
【0080】
[比較例2]
添加剤であるLiBOBを用いなかった以外は実施例2と同様にして評価用セルの作製を行い、熱処理を行わずに評価用セルを用いてサイクル試験を行った。
【0081】
各実施例及び各比較例におけるクーロン効率(%)及び容量維持率(%)の結果を表1に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
実施例1〜実施例6では、比較例1及び2と比較してクーロン効率(%)及び容量維持率に優れており、充放電サイクル特性に優れることが確認された。
【0084】
また、実施例2と実施例3とを比較すると、評価用セルの熱処理を行った実施例3は、評価用セルの熱処理を行っていない実施例2よりも、容量維持率に優れていた。
さらに、実施例5と実施例6とを比較すると、評価用セルの熱処理を行った実施例6は、評価用セルの熱処理を行っていない実施例5よりも、容量維持率に優れていた。