(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-196905(P2020-196905A)
(43)【公開日】2020年12月10日
(54)【発明の名称】金属めっき材の製造方法、金属めっき材、電子部品ならびに、電子機器又は装置
(51)【国際特許分類】
C25D 7/00 20060101AFI20201113BHJP
C25D 5/10 20060101ALI20201113BHJP
H01R 13/03 20060101ALI20201113BHJP
H01R 43/16 20060101ALI20201113BHJP
【FI】
C25D7/00 H
C25D5/10
H01R13/03 D
H01R43/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-101641(P2019-101641)
(22)【出願日】2019年5月30日
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 智
【テーマコード(参考)】
4K024
5E063
【Fターム(参考)】
4K024AA05
4K024AA07
4K024AA21
4K024AB01
4K024AB02
4K024AB15
4K024AB17
4K024BA04
4K024BA09
4K024BB09
4K024BB10
4K024BC10
4K024CA01
4K024CA04
4K024CA06
4K024DA01
4K024DA08
4K024DA10
4K024DB01
4K024GA03
4K024GA04
4K024GA16
5E063GA08
(57)【要約】
【課題】金属材料のプレス破面に簡便にめっき処理を施すことができる金属めっき材の製造方法、金属めっき材、電子部品ならびに、電子機器又は装置を提供する。
【解決手段】金属基材にめっき処理を施すめっき工程と、前記めっき工程でめっき処理が施された金属基材に対してプレス加工を施し、プレス破面を有する金属材料を得るプレス工程と、前記金属材料に対し、めっき金属を含む脱脂液中で電解脱脂を行うことにより、前記プレス破面を有する前記金属材料に、脱脂処理とともに、前記めっき金属によるめっき処理を施す電解工程を含み、電解工程で、めっき金属による前記プレス破面の被覆率が、プレス破面の表面観察にて85%以上である金属めっき材を得るというものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材にめっき処理を施すめっき工程と、前記めっき工程でめっき処理が施された金属基材に対してプレス加工を施し、プレス破面を有する金属材料を得るプレス工程と、前記金属材料に対し、めっき金属を含む脱脂液中で電解脱脂を行うことにより、前記プレス破面を有する前記金属材料に、脱脂処理とともに、前記めっき金属によるめっき処理を施す電解工程を含み、
電解工程で、めっき金属による前記プレス破面の被覆率が、プレス破面の表面観察にて85%以上である金属めっき材を得る、金属めっき材の製造方法。
【請求項2】
前記金属めっき材の前記プレス破面の前記被覆率が、プレス破面の表面観察にて95%以上である、請求項1に記載の金属めっき材の製造方法。
【請求項3】
電解工程で、前記脱脂液がめっき金属としてSnを含む、請求項1又は2に記載の金属めっき材の製造方法。
【請求項4】
電解工程で、前記めっき金属がSnである請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属めっき材の製造方法。
【請求項5】
電解工程で、アルカリ性の脱脂液を用いる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属めっき材の製造方法。
【請求項6】
前記金属めっき材の前記プレス破面以外の表面部分上の金属めっき層の厚みが、0.5μm〜4.0μmである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の金属めっき材の製造方法。
【請求項7】
前記金属めっき材の前記プレス破面上の金属めっき層の厚みが、0.2μm以下である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の金属めっき材の製造方法。
【請求項8】
前記金属めっき材の前記プレス破面上の金属めっき層の厚みが、0.01μm〜0.2μmである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の金属めっき材の製造方法。
【請求項9】
前記金属めっき材の前記プレス破面上の金属めっき層の厚みが、0.01μm〜0.15μmである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の金属めっき材の製造方法。
【請求項10】
前記金属めっき材の前記プレス破面上の金属めっき層の厚みが、0.02μm〜0.08μmである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の金属めっき材の製造方法。
【請求項11】
表面に、プレス破面と、前記プレス破面以外の表面部分とを有し、
前記プレス破面の少なくとも一部及び、前記表面部分に、金属めっき層が形成されてなり、
前記プレス破面上の金属めっき層の厚みが、0.2μm以下であり、前記表面部分上の金属めっき層の厚みが、0.5μm〜4.0μmであり、
金属めっき層による前記プレス破面の被覆率が、プレス破面の表面観察で85%以上である金属めっき材。
【請求項12】
前記プレス破面の前記被覆率が、プレス破面の表面観察で95%以上である請求項11に記載の金属めっき材。
【請求項13】
前記プレス破面上の金属めっき層の厚みが、0.01μm〜0.2μmである請求項11又は12に記載の金属めっき材。
【請求項14】
前記プレス破面上の金属めっき層の厚みが、0.01μm〜0.15μmである請求項11又は12に記載の金属めっき材。
【請求項15】
前記プレス破面上の金属めっき層の厚みが、0.02μm〜0.08μmである請求項11又は12に記載の金属めっき材。
【請求項16】
前記プレス破面及び前記表面部分上の金属めっき層が、Snを含有する請求項11〜15のいずれか一項に記載の金属めっき材。
【請求項17】
請求項11〜16のいずれか一項に記載の金属めっき材を備える電子部品。
【請求項18】
請求項17に記載の電子部品を備える電子機器又は装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書は、金属めっき材の製造方法、金属めっき材、電子部品ならびに、電子機器又は装置に関する技術を開示するものである。
【背景技術】
【0002】
金属材料は通常、それまでの製造工程で使用された油分等による表面の汚れを除去するため、たとえば仕上げの洗浄として電解脱脂等の脱脂処理が施される。
電解脱脂では、脱脂液中で金属材料を陰極又は陽極として通電する。これにより、陰極又は陽極から発生する酸素ガス又は水素ガスがもたらす金属材料の表面の攪拌作用ならびに、陰極還元作用ないし陽極酸化作用で、当該表面が洗浄されて汚れが除去される。
【0003】
脱脂処理を施す金属材料は、その後めっき処理が行われることがある。めっき処理では、耐食性やはんだ濡れ性等を向上させる目的で、たとえば、金属板もしくは金属条を、その全面的、又はストライプ状等に部分的に、めっき金属で被覆する。
脱脂処理とめっき処理は順に行われ、脱脂槽、めっき槽が別に設けられる。
なお、このような脱脂処理やめっき処理に関する技術としては、たとえば特許文献1、2に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−236028号公報
【特許文献2】特開2007−92104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、たとえば、コネクタその他の電子部品等に用いられる金属材料を、プレス加工により成形する場合では、金属板もしくは金属条等の金属基材に対し、めっき処理を施した後にプレス加工を行うことがある。これは、前めっきと称されることがある。なお、これとは逆に、金属板もしくは金属条に対してプレス加工を行った後に、めっき処理を施すことは、後めっきと称され得る。
【0006】
前めっきでは、めっき処理を比較的平らな金属板もしくは金属条に対して施すことが多いので、後めっきに比して、金属板もしくは金属条の表面を被覆するめっき金属が均一な厚さになりやすいという利点がある。但し、前めっきによると、めっき処理後のプレス加工で形成されたプレス破面は、めっき金属で被覆されないことになる。
【0007】
このようにプレス破面がめっき金属で被覆されてない金属材料は、そのめっき金属で被覆されないプレス破面で、耐食性、はんだ濡れ性が劣るものとなり、この点で改善が望まれている。
【0008】
この明細書では、プレス破面を有する金属材料に簡便にめっき処理を施すことができる金属めっき材の製造方法、金属めっき材、電子部品ならびに、電子機器又は装置を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この明細書で開示する金属めっき材の製造方法は、金属基材にめっき処理を施すめっき工程と、前記めっき工程でめっき処理が施された金属基材に対してプレス加工を施し、プレス破面を有する金属材料を得るプレス工程と、前記金属材料に対し、めっき金属を含む脱脂液中で電解脱脂を行うことにより、前記プレス破面を有する前記金属材料に、脱脂処理とともに、前記めっき金属によるめっき処理を施す電解工程を含み、電解工程で、めっき金属による前記プレス破面の被覆率が、プレス破面の表面観察にて85%以上である金属めっき材を得るというものである。
【0010】
この明細書で開示する金属めっき材は、表面に、プレス破面と、前記プレス破面以外の表面部分とを有し、前記プレス破面の少なくとも一部及び、前記表面部分に、金属めっき層が形成されてなり、前記プレス破面上の金属めっき層の厚みが、0.2μm以下であり、前記表面部分上の金属めっき層の厚みが、0.5μm〜4.0μmであり、金属めっき層による前記プレス破面の被覆率が、プレス破面の表面観察で85%以上であるものである。
【0011】
この明細書で開示する電子部品は、上記の金属めっき材を備えるものである。また、この明細書で開示する電子機器又は装置は、上記の電子部品を備えるものである。
【発明の効果】
【0012】
上述した金属めっき材の製造方法によれば、プレス破面を有する金属材料に簡便にめっき処理を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一の実施形態に係る金属めっき材の製造方法を示すフロー図である。
【
図2】金属めっき材のプレス破面上とプレス破面以外の表面部分上の金属めっき層を模式的に示す、金属めっき材の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、金属めっき材の製造方法の実施の形態について詳細に説明する。
一の実施形態に係る金属めっき材の製造方法は、
図1に示すように、めっき工程、プレス工程及び電解工程をこの順序で含むものである。図示のめっき工程及びプレス工程は、めっき処理を施した後にプレス加工を行うので、先述した前めっきに相当する。
【0015】
より詳細には、めっき工程では、金属板もしくは金属条等の金属基材にめっき処理を施す。次いで、プレス工程では、めっき処理が施された金属基材に対してプレス加工を施す。プレス工程では、プレス加工により、プレス破面を有する金属材料が得られる。その後の電解工程では、プレス破面を有する金属材料に対し、めっき金属を含む脱脂液中で電解脱脂を行う。この電解脱脂により、プレス破面を有する金属材料に、脱脂処理とともに、脱脂液に含まれるめっき金属によるめっき処理が施される。これにより、プレス破面の少なくとも一部が、めっき金属で被覆される。電解工程では、めっき金属によるプレス破面の被覆率が、プレス破面の表面観察にて85%以上である金属めっき材を得る。
【0016】
(金属基材)
対象とする金属基材としては、たとえば、金属板もしくは金属条等の形態をなすとともに、CuもしくはCu合金、ステンレスからなるものを挙げることができるが、これらに限らない。なお、Cu合金の具体例としては、黄銅、りん青銅等がある。
【0017】
金属基材は、後述するプレス工程のプレス加工で所定の形状に成形されて、プレス破面を有する金属材料になる。この金属材料は、具体的には、オスもしくはメス端子その他の端子状、プレスフィット端子等の形状を有することがある。金属基材の厚みは、たとえば0.01mm〜2.0mm、典型的には0.2mm〜0.8mmである場合がある。
【0018】
(めっき工程)
めっき工程では、たとえば上述した金属基材としての金属板もしくは金属条等に対して、めっき処理を施す。めっき工程では、当該金属板もしくは金属条の表面を所定のめっき金属で被覆して、当該表面に金属めっき層を形成する。
【0019】
ここでは、電気めっきもしくは無電解めっき等の湿式めっき又は、スパッタリングもしくはイオンプレーティング等の乾式めっき、あるいはそれらの組合せを用いることができる。このようなめっき法の具体的な態様は公知である。
製造しようとする金属めっき材の所定の用途で求められる所要の特性や、製造コスト等の観点から、湿式めっきを採用することが好ましい。湿式めっきのなかでも、特に電気めっきは、無電解めっきと比較して、全面にわたって均一な金属めっき層を形成しやすいことから好ましい。
【0020】
電気めっきによる場合、所定のめっき液の組成、めっき温度及び電流密度その他の条件の下で、電極間への電圧の印加により、上記の金属板もしくは金属条の表面に、所定のめっき金属を電着させる。
【0021】
めっき工程で用いるめっき金属は、たとえばSn及びZnからなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有するものとすることができる。なかでも、Snは、はんだ濡れ性、導電性、潤滑性、耐食性の点で好ましい。Snを含むめっき金属で電気めっきを行った場合、金属板もしくは金属条の表面のほぼ全体に、当該めっき金属が電着して、Snを含む金属めっき層が形成される。めっき工程でのめっき金属は、実質的にSn単独とすることがある。
【0022】
なお、たとえば、電極のめっき金属を変更して複数回にわたって電気めっきを行うこと等により、金属板もしくは金属条の表面に、複数層の異なる金属からなる金属めっき層を積層させて形成することもできる。複数層の金属めっき層としては、たとえば、Ni、Cu等の下地めっき上にSn等をめっきする場合、また、基材側である内側の、Ni、Cr、Mn、Fe、Co及びCuからなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有する金属めっき層と、中間の、Ni、Cr、Mn、Fe、Co及びCuからなる群から選択される少なくとも一種の金属とSn及びInからなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有する金属めっき層と、露出する外側の、Sn、Inからなる群がら選択される少なくとも一種の金属とAg、Au、Pt、Pd、Ru、Rh、Os及びIrからなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有する金属めっき層とを含むものを挙げることができる。なお、複数層の金属めっき層が形成されている場合、後述する金属めっき層の厚みは、それらの複数層の金属めっき層の厚みの合計を意味する。
【0023】
めっき工程により、金属板もしくは金属条の表面に、たとえば0.5μm〜4.0μm、典型的には0.8μm〜2.0μmの金属めっき層が形成されることがある。
このような前めっきでは、比較的平らな金属板もしくは金属条にめっき処理が施されたことにより、金属板もしくは金属条の表面の金属めっき層の厚みは、その表面の全体にわたって均一になりやすい。一方、後めっきは、ここでの詳細な説明は省略するが、プレス工程で所定の立体的な形状に成形されたものに対して、めっき処理を施すことから、金属めっき層の厚みが不均一になることがある。
【0024】
(プレス工程)
上記のめっき工程でめっき処理が施された金属板もしくは金属条に対しては、プレス工程を行うことができる。
プレス工程では、めっき処理後の金属板もしくは金属条に対し、たとえば順送金型等を用いて、対をなすパンチ及びダイによる一回又は複数回のプレス加工を施す。これにより、当該金属板もしくは金属条は、上述したような所定の形状の金属材料に成形される。
【0025】
プレス工程で得られる金属材料には、パンチ及びダイの間に挟まれて打ち抜かれた結果として、プレス破面が形成される。プレス破面は一般に、剪断面領域及び破断面領域を含んで構成される。剪断面領域は、プレス加工によって金属板もしくは金属条が厚み方向に引き伸ばされた際にパンチ又はダイに擦れることによって形成されるものと考えられ、厚み方向に若干の線状模様の入った平滑面となる。一方、破断面領域は、プレス加工で引き伸ばされた後に、排出されるスクラップから引きちぎられることによって生じるものと考えられ、剪断面領域とは明確に異なり、凹凸が存在するディンプル状の面となる。プレス破面は典型的には、剪断面領域及び破断面領域が、金属材料の厚み方向に直交する方向に並んで延びる形態になる。
【0026】
そして、金属材料は、めっき工程後にめっき処理が施された金属板もしくは金属条に、プレス工程でプレス加工を行って形成されたことにより、金属材料のプレス破面は、金属めっき層が存在せず、金属基材が露出したものになる。つまり、めっき工程及びプレス工程をこの順序で行って得られたこの金属材料は、プレス工程で形成されたプレス破面を有し、プレス破面を除くその表面部分が、めっき工程でのめっき金属で被覆されたものになる。
【0027】
金属めっき層が存在しないプレス破面を有する金属材料では、その金属めっき層の存在しないプレス破面で、金属めっき層による耐食性及びはんだ濡れ性等の性能が低下し又は該性能が得られない。
これに対処するため、この実施形態では次に述べる電解工程を行う。
【0028】
(電解工程)
電解工程では、上述したようなプレス破面を有する金属材料に対して電解脱脂を行う。電解脱脂は通常、金属材料を陰極又は陽極として、それらの電極間に電圧を印加する。電圧の印加により、陰極又は陽極から発生する酸素ガス又は水素ガスで、金属材料の表面付近が攪拌される。それにより、陰極還元作用又は陽極酸化作用とも相俟って、金属材料に脱脂処理が施される。
【0029】
ここでは、電解脱脂で、めっき金属を含ませた脱脂液を用いる。このことによれば、脱脂液中のめっき金属が、電圧の印加により、金属材料のプレス破面を含む表面に電着して金属めっき層を形成する。したがって、この電解脱脂では、金属材料のプレス破面を含む表面に、上記の脱脂処理とともに、脱脂液中のめっき金属によるめっき処理を、実質的に同じタイミングで施すことができる。その結果として、プレス破面の少なくとも一部にも金属めっき層が形成された金属めっき材を製造することができる。
【0030】
プレス破面に金属めっき層が存在しない金属材料を電解工程に供することにより、電解工程を経た後の金属めっき材1は、
図2に模式的に示すように、金属基材2の、金属材料のときに金属めっき層が存在していた表面部分(プレス破面3以外の表面部分4)がさらに、脱脂液中のめっき金属で被覆されて、該表面部分4に、厚みが相対的に厚い金属めっき層5aが形成される。また、金属めっき材1では、金属基材2の、金属材料のときに金属めっき層が存在していなかったプレス破面3の少なくとも一部が、当該めっき金属で被覆されて、当該プレス破面3の少なくとも一部に、プレス破面3以外の表面部分4に比して相対的に厚みが薄い金属めっき層5bが形成される。つまり、この電解工程では、金属材料のプレス破面を含む表面にめっき処理が施されて、金属めっき材1が得られる。したがって、金属めっき材1では、上記の金属材料に比して、耐食性及びはんだ濡れ性等の性能を向上させることができる。
なお、本電解工程で金属基材2のプレス破面3を覆う金属めっき層5bは、必ずしもそのプレス破面3の全面を被覆していることまでは要しない。プレス破面3の表面観察で金属基材2のプレス破面3の面積の85%以上が被覆されていれば、耐食性、はんだ濡れ性は向上する。ここでは、金属基材2のプレス破面3のうち、金属めっき層5bないしめっき金属によって覆われている表面領域の割合を、金属めっき層5bないしめっき金属によるプレス破面3の被覆率又は、プレス破面3のめっき被覆率という。プレス破面3のめっき被覆率は95%以上であることが好ましい。この被覆率は、キーエンス製マイクロスコープVHX−6000により、プレス破面3上の任意の10箇所を倍率×1000で表面観察して、それらの平均値として算出する。なお、多くの場合、プレス破面3のめっき被覆率は100%以下、典型的には98%以下になる。
【0031】
またこの場合、金属材料の金属めっき層が存在していなかったプレス破面に、めっき処理を施すための別途の設備及び工程を要しない。それ故に、プレス破面を有する金属材料に簡便にめっき処理を施すことができて、製造コスト及び工数を削減することができる。また、電解工程では比較的薄い金属めっき層5bが形成されるので、プレスフィット端子での挿入時の粉の発生を低減することもできる。
【0032】
電解工程では、該電解工程で金属材料の表面に形成しようとする金属めっき層に対応する所定のめっき金属を含む脱脂液を用いる。めっき金属は、脱脂液中で金属イオンの形態で存在させる。脱脂液に含ませるめっき金属は、たとえばSn及びZnからなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有するものとすることができる。脱脂液に含ませるめっき金属は、金属材料の表面に形成されている金属めっき層と同種のものとすることができる。特に脱脂液は、めっき金属としてSnを含むことが好ましい。脱脂液中のめっき金属は、実質的にSn単独とすることがある。先述のめっき工程でのめっき金属及び、電解工程でのめっき金属をいずれもSnとすれば、金属めっき材1の金属基材2におけるプレス破面3上とプレス破面3以外の表面部分4上には、同種のSnによる金属めっき層5b、5aが形成されるとともに、プレス破面3以外の表面部分4上には、Snの金属めっき層5aが厚く形成される。
【0033】
また、電解工程では、めっき金属濃度を5g/L〜30g/Lとすることが好ましい。めっき金属濃度が低すぎる場合は、金属イオンが低下しめっきの付きが悪くなり、めっき焼け等の外観不良となるおそれがある。一方、めっき金属濃度が高すぎる場合は、液の粘性が高くなり皮膜に欠陥が生じやすくなることが懸念される。
【0034】
また、電解時間は、10秒〜60秒、さらに10秒〜45秒とすることが好適である。電解時間が短いと、プレス破面3がめっき金属で十分に被覆されないことが懸念される。一方、電解時間が長すぎると、めっきが厚くなり挿入力が悪化する可能性がある。
【0035】
その他は、一般的な公知のものと同様の条件とすることができるが、めっき処理が有効に施されるように条件を適宜変更してもよい。たとえば、電解工程では、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ性の脱脂液を用いることができる。脱脂電解時の浴温は40℃〜60℃、電流密度は2A/dm
2〜8A/dm
2とすることができるなお、電解脱脂後は一般に、金属めっき材を、水等で洗浄する。
【0036】
以上に述べた電解工程を経て製造された金属めっき材1では、金属基材2のプレス破面3以外の表面部分4上の金属めっき層5aの厚みTrが、たとえば0.5μm〜4.0μm、典型的には0.8μm〜2.0μmになることがある。
これに対し、金属めっき材1における金属基材2のプレス破面3上の金属めっき層5bの厚みTpは、好ましくは0.2μm以下、より好ましくは0.01μm〜0.2μm、さらに好ましくは0.01μm〜0.15μm、特に好ましくは0.02μm〜0.08μmである。
【0037】
なお、金属めっき層5a、5bがSnを含む場合、必要に応じて、ウィスカの発生抑制、耐久性向上等の観点から、金属めっき材1に熱処理を施すことができる。熱処理では、金属めっき材1を、たとえば、150℃〜200℃の温度で1時間〜2時間にわたって加熱することができる。
【0038】
(用途)
このようにして製造された金属めっき材1は、たとえばコネクタ端子、コネクタ及び電子部品に備えられることがある。当該金属めっき材1は、所定の電子機器又は装置が有する該電子部品に好適に用いることができる。
【実施例】
【0039】
次に、上述したような金属めっき材を試作し、その性能を評価したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0040】
表1に示す厚み及び材質の金属板に対してめっき工程及びプレス工程をこの順に行い、
図3に示すようなオス端子形状の金属材料を得た。この金属材料を電解工程に供し、金属めっき材を作製した。めっき工程ではSnめっき及びZnめっきを行い、その条件は次のとおりである。
(1)Snめっき条件
表面処理方法:電気めっき
めっき液:メタンスルホン酸Snめっき液
めっき温度:40℃
電流密度:0.5〜4A/dm
2
(2)Znめっき条件
表面処理方法:電気めっき
めっき液:ジンケート浴(酸化亜鉛、水酸化ナトリウム)
めっき温度:30℃
電流密度:0.5〜4A/dm
2
【0041】
また、電解工程の条件は下記のとおりである。電解時間を下記の範囲内で変更し、表1に示すように破面めっき厚みの異なる実施例1〜8及び比較例3〜6の金属めっき材を得た。実施例1〜3、6〜8及び比較例3〜6では、Sn酸カリウム3水和物を用いた。実施例4及び5では、酸化亜鉛を用いた。比較例1及び2では、電解工程を行わなかった。
(脱脂液成分)
・パクナ105−N(ユケン工業製):35g/L
・Sn酸カリウム3水和物:5〜35g/L、酸化亜鉛:20g/L
・残り純水
(電解条件)
・浴温:60℃
・電流密度:4A/dm
2
・電解時間:5〜45秒
【0042】
実施例1〜8及び比較例3〜6の各金属めっき材について、プレス破面上の金属めっき層の厚み(破面めっき厚さ)及び、プレス破面以外の表面部分上の金属めっき層の厚み(表面めっき厚さ)のそれぞれの最大値及び最小値を測定した。金属めっき層の厚みは、蛍光X線膜厚計(Seiko Instruments製 SEA5100、コリメータ0.1mmΦ)を用いて、任意の10点測定した値の平均とした。プレス破面の金属めっき層の被覆率は、キーエンス製マイクロスコープVHX−6000を用いて、プレス破面上の任意の10箇所を倍率×1000で観察し、それらの平均値を求め、該平均値をめっき被覆率とした。
【0043】
また、実施例1〜8及び比較例3〜6の各金属めっき材で、電解工程でのめっき直後のサンプルについて、はんだ濡れ性を評価した。比較例1、2の金属材料は、プレス工程後のサンプルについて、はんだ濡れ性を評価した。ここでは、ソルダーチェッカ(レスカ社製SAT−5200)を使用し、フラックスとして市販のULF−300R(タムラ製作所)を用い、メニスコグラフ法にてはんだ濡れ時間を測定した。はんだはSn−3Ag−0.5Cu(250℃)を用いた。
【0044】
また、実施例1〜8及び比較例1〜6の各金属めっき材ないし金属材料について、耐食性として、85℃、85%RH、96h暴露試験を行った。ここでは、エタック製の低温恒温恒湿器(FX−410N)を使用した。暴露後の破面について顕微鏡で変色の有無を観察した。
それらの結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示すところから、実施例1〜8では、金属基材のプレス破面の85%以上が金属めっき層で被覆されており、それにより耐食性が良好であったことが解かる。これに対し、比較例1〜6は、プレス破面が金属めっき層で被覆されておらず、又は、表面の被覆率が低かったことから、耐食性が悪化した。
【符号の説明】
【0047】
1 金属めっき材
2 金属基材
3 プレス破面
4 プレス破面以外の表面部分
5a、5b 金属めっき層
Tr プレス破面以外の表面部分上の金属めっき層の厚み
Tp プレス破面上の金属めっき層の厚み