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特開2020-196911電気接点用材料およびその製造方法、コネクタ端子、コネクタならびに電子部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-196911(P2020-196911A)
(43)【公開日】2020年12月10日
(54)【発明の名称】電気接点用材料およびその製造方法、コネクタ端子、コネクタならびに電子部品
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/00 20060101AFI20201113BHJP
   C25D 5/10 20060101ALI20201113BHJP
   C25D 5/50 20060101ALI20201113BHJP
【FI】
   C25D7/00 H
   C25D5/10
   C25D5/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-102172(P2019-102172)
(22)【出願日】2019年5月31日
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】北河 秀一
(72)【発明者】
【氏名】菊池 伸
(72)【発明者】
【氏名】中津川 達也
(72)【発明者】
【氏名】川田 紳悟
(72)【発明者】
【氏名】葛原 颯己
【テーマコード(参考)】
4K024
【Fターム(参考)】
4K024AA03
4K024AA07
4K024AA10
4K024AB03
4K024BA09
4K024BB10
4K024DB01
4K024GA03
4K024GA16
(57)【要約】
【課題】高電圧大電流を印加した場合であっても、十分な耐性レベルをもつ低い接触抵抗値を有するとともに、動摩擦係数も低い電気接点用材料、およびその製造方法、コネクタ端子、コネクタならびに電子部品を提供すること。
【解決手段】本発明の電気接点用材料は、銅(Cu)を主成分として含有する導電性基材の少なくとも片面に、ニッケル(Ni)を主成分として含有する下地層、ならびに銀(Ag)および錫(Sn)を主成分として含有する表層をこの順で積層形成し、前記表層をX線回折法で測定したとき、2θ=38〜41°の範囲に現れる全てのピークのX線強度の合計面積に対する、2θ=39.7〜40.3°の範囲に現れるピークのX線強度の面積の比率が50%以上であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅(Cu)を主成分として含有する導電性基材の少なくとも片面に、
ニッケル(Ni)を主成分として含有する下地層、ならびに
銀(Ag)および錫(Sn)を主成分として含有する表層
をこの順で積層形成し、
前記表層をX線回折法で測定したとき、2θ=38〜41°の範囲に現れる全てのピークのX線強度の合計面積に対する、2θ=39.7〜40.3°の範囲に現れるピークのX線強度の面積の比率が50%以上であることを特徴とする電気接点用材料。
【請求項2】
前記下地層と前記表層の間に、NiSn系化合物が存在することを特徴とする請求項1に記載の電気接点用材料。
【請求項3】
前記表層は、多数の粒状析出物を有し、前記表層の表面に存在する前記粒状析出物の平均粒径が、0.01〜10μmの範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の電気接点用材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の電気接点用材料を用いたコネクタ端子。
【請求項5】
請求項4に記載のコネクタ端子を有するコネクタ。
【請求項6】
請求項5に記載のコネクタを有する電子部品。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の電気接点用材料を製造する方法であって、
Cuを主成分として含有する導電性基材の少なくとも片面に、Niを主成分として含有する下地層を積層形成し、その後、前記下地層上に、Agを主成分として含有する層およびSnを主成分として含有する層を順不同で積層形成するか、または、AgおよびSnを主成分として含有する層を積層形成し、次いで、231〜900℃の加熱温度で熱処理を施すことを特徴とする電気接点用材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気接点用材料およびその製造方法、コネクタ端子、コネクタならびに電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
民生用および車載用の電子部品、例えばコネクタの電気接点部を構成するコネクタ端子には、黄銅やリン青銅、コルソン合金などの銅(Cu)を主成分として含有する導電性基材の表面に、ニッケル(Ni)や銅(Cu)の下地めっきを施し、さらにその上に錫(Sn)やSn合金のめっきを施した電気接点用材料が使用されている。
【0003】
近年、省燃費化の達成のため車両駆動方式の電動化が進行し、例えば、電池−インバータ−モータ間の接続部品には高電圧大電流への耐性が求められるようになり、SnやSn合金のめっきに代わって、銀(Ag)やAg合金のめっきを使用する例が増えている。
【0004】
一方で、このような用途では車両の組み立て性の向上を目的として、従来、ボルト締めであった接続部が、篏合方式のコネクタに代わりつつある。そのため、コネクタ、特にコネクタ端子の表面に形成されるめっきは、接触抵抗値が低く、かつコネクタを嵌合(接続)した際の挿入力が低いことが求められている。しかしながら、Agめっきは、金属とのなじみがよく、凝集を起こしやすいため、動摩擦係数が高まり挿入力が増大する傾向がある。
【0005】
例えば、特許文献1には、銅合金基材上に、Ni層(下層)、Ag層(中層)、ε−AgSn層(上層)およびSn層(最表層)を形成し、低ウィスカ性、低凝着磨耗性及び高耐久性を有する電子部品用金属材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−29007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の電子部品用金属材料は、最表層にSn層を有し、接触抵抗値がAg層に比べて高いことから、高電圧大電流への耐性を必要とするコネクタには適用できない。
【0008】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、導電性基材上に積層形成される各層の組成、および表層(特に表面)に存在する金属間化合物の適正化を図ることにより、高電圧大電流を印加した場合であっても、十分な耐性レベルをもつ低い接触抵抗値を有するとともに、動摩擦係数も低い電気接点用材料、およびその製造方法、コネクタ端子、コネクタならびに電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述した目的を達成するため、鋭意検討を重ねた結果、電気接点用材料が、銅(Cu)を主成分として含有する導電性基材の少なくとも片面に、ニッケル(Ni)を主成分として含有する下地層、ならびに銀(Ag)および錫(Sn)を主成分として含有する表層をこの順で積層形成し、前記表層をX線回折法で測定したとき、2θ=38〜41°の範囲に現れる全てのピークのX線強度の合計面積に対する、2θ=39.7〜40.3°の範囲に現れるピークのX線強度の面積の比率が50%以上であることによって、高電圧大電流を印加した場合であっても、十分な耐性レベルをもつ低い接触抵抗値を有するとともに、動摩擦係数も低い電気接点用材料を提供でき、そして、そのような電気接点材料は、Cuを主成分として含有する導電性基材の少なくとも片面に、Niを主成分として含有する下地層を積層形成し、その後、前記下地層上に、Agを主成分として含有する層およびSnを主成分として含有する層を順不同で積層形成するか、または、AgおよびSnを主成分として含有する層を積層形成し、次いで、231〜900℃の加熱温度で熱処理を施すことによって製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1)銅(Cu)を主成分として含有する導電性基材の少なくとも片面に、ニッケル(Ni)を主成分として含有する下地層、ならびに銀(Ag)および錫(Sn)を主成分として含有する表層をこの順で積層形成し、前記表層をX線回折法で測定したとき、2θ=38〜41°の範囲に現れる全てのピークのX線強度の合計面積に対する、2θ=39.7〜40.3°の範囲に現れるピークのX線強度の面積の比率が50%以上であることを特徴とする電気接点用材料。
(2)前記下地層と前記表層の間に、NiSn系化合物が存在することを特徴とする上記(1)に記載の電気接点用材料。
(3)前記表層は、多数の粒状析出物を有し、前記表層の表面に存在する前記粒状析出物の平均粒径が、0.01〜10μmの範囲であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の電気接点用材料。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の電気接点用材料を用いたコネクタ端子。
(5)上記(4)に記載のコネクタ端子を有するコネクタ。
(6)上記(5)に記載のコネクタを有する電子部品。
(7)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の電気接点用材料を製造する方法であって、Cuを主成分として含有する導電性基材の少なくとも片面に、Niを主成分として含有する下地層を積層形成し、その後、前記下地層上に、Agを主成分として含有する層およびSnを主成分として含有する層を順不同で積層形成するか、または、AgおよびSnを主成分として含有する層を積層形成し、次いで、231〜900℃の加熱温度で熱処理を施すことを特徴とする電気接点用材料の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高電圧大電流を印加した場合であっても、十分な耐性レベルをもつ低い接触抵抗値を有するとともに、動摩擦係数も低く、さらに、銅合金基材上への各層の積層形成後に施される熱処理における加熱後の耐熱密着性にも優れた電気接点用材料およびその製造方法、コネクタ端子、コネクタならびに電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の電気接点用材料の断面模式図である。
図2】本発明の電気接点用材料の断面模式図の変形例である。
図3】本発明の電気接点用材料の表層のX線回折パターンの一例である。
図4】本発明の電気接点用材料の表層(の表面)のSEM写真の一例である。
図5】従来のめっきにより形成した電気接点用材料の表面のSEM写真の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0014】
なお、本発明において「Mを主成分として含有する」(Mは一種類の金属元素の場合)とは、基材または各層に含まれる全金属元素に占める金属元素Mの含有量が50at%以上であることをいう。
【0015】
1.電気接点用材料
本発明の電気接点材料は、銅(Cu)を主成分として含有する導電性基材の少なくとも片面に、ニッケル(Ni)を主成分として含有する下地層、ならびに銀(Ag)および錫(Sn)を主成分として含有する表層をこの順で積層形成し、表層をX線回折法で測定したとき、2θ=38〜41°の範囲に現れる全てのピークのX線強度の合計面積に対する、2θ=39.7〜40.3°の範囲に現れるピークのX線強度の面積の比率が50%以上であることを特徴とするものである。
【0016】
図1は、一の実施形態の電気接点用材料の断面を模式的に示したものである。図1に示す電気接点用材料1Aは、銅(Cu)を主成分として含有する導電性基材11の少なくとも片面に、ニッケル(Ni)を主成分として含有する下地層12、ならびに銀(Ag)および錫(Sn)を主成分として含有する表層13をこの順で積層形成し、前記表層13をX線回折法で測定したとき、2θ=38〜41°の範囲に現れる全てのピークのX線強度の合計面積に対する、2θ=39.7〜40.3°の範囲に現れるピークのX線強度の面積の比率が50%以上である。
【0017】
以下、本発明の電気接点用材料の各部について詳細に説明する。
【0018】
(導電性基材)
導電性基材11は、銅を主成分として含有するものである。
【0019】
具体的に、導電性基材11は、(純)銅または銅合金の銅系材料で構成されている。銅合金としては、特に限定されないが、例えばCu−Zn系、Cu−Ni−Si系、Cu−Sn−Ni系、Cu−Cr−Mg系、Cu−Ni−Si−Zn−Sn−Mg系などが挙げられる。
【0020】
導電性基材11の形状としては、特に限定されず、用途に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは条材もしくは板材であり、棒材や線材とすることもできる。
【0021】
導電性基材11の導電率としては、特に限定されないが、20%IACS以上であることが好ましく、40%IACS以上であることがより好ましい。これにより、導電材全体として優れた導電性を有することができる。ここで、導電率(IACS;International Annealed Copper Standard)は、四端子法を用いて、20℃(±1℃)に管理された恒温槽中で測定することにより求めることができる。
【0022】
(下地層)
下地層12は、ニッケル(Ni)を主成分として含有するものである。この下地層は、導電性基材11中のCuが、後述する表層13に拡散することによって生じる電気接点用材料1Aの導電性の劣化を防止することができる。
【0023】
具体的に、下地層12は、金属ニッケルまたはニッケル合金のニッケル系材料で構成されている。ニッケル合金としては、特に限定されないが、例えばNi−P系、Ni−Fe系などが挙げられる。
【0024】
下地層12の厚さとしては、特に限定されないが、例えば0.1〜3.0μmであることが好ましく、0.3〜2.0μmであることがより好ましい。なお、下地層の厚さの算出方法は後述する。
【0025】
なお、下地層12には、ニッケル系材料で構成されたNi含有層の代わりに、コバルト(Co)含有層または鉄(Fe)含有層を用いても、Ni含有層と同様の効果が得られる。
【0026】
(表層)
表層13は、銀(Ag)および錫(Sn)を主成分として含有するものである。なお、「銀(Ag)および錫(Sn)を主成分として含有する」とは、表層13に含まれる全金属元素に占める、銀の含有量が40at%以上、かつ錫の含有量が10at%以上であって、さらに銀および錫の合計含有量が50at%以上であることをいう。
【0027】
そしてこのような表層13は、X線回折法で測定したとき、2θ=38〜41°の範囲に現れる全てのピークのX線強度の合計面積に対する、2θ=39.7〜40.3°の範囲に現れるピークのX線強度の面積の比率が50%以上である。
【0028】
図2は、本実施形態の電気接点用材料の表層(の表面)のX線回折パターンの一例である。銀(Ag)および錫(Sn)を主成分として含有する化合物のうち、2θ=39.7〜40.3°の範囲にピークを示す化合物は、ζ−AgSnである。一方で、2θ=38〜41°の範囲には、AgSn(ε−AgSn)など、他の化合物のピークも現れる。したがって、表層13についてX線回折法で測定したとき、2θ=38〜41°の範囲に現れる全てのピークのX線強度の合計面積に対する、2θ=39.7〜40.3°の範囲に現れるピークのX線強度の面積の比率が50%以上であることは、表層13が、特定量以上のζ−AgSn相を有するものであることを意味する。ここで、ζ−AgSnとは、Agに対するSnの原子数比(Sn/Ag)が0.13〜0.30の範囲にあって、AgSnを主成分とするAgとSnの金属間化合物の相を意味する。ζ−AgSnは、硬度が高いため、ζ−AgSnで表層13の表面を形成することにより、動摩擦係数を低下させることができる。また、ζ−AgSnは、導電性に優れるため、接触抵抗を低くすることもできる。さらに、ζ−AgSnは加熱しても下地層に存在するNiがその内部に拡散しにくいため、Niが表層の表面までに拡散し、外気と接触して酸化することにより生じる導電性の低下を抑制することができる。
【0029】
2θ=38〜41°の範囲に現れる全てのピークのX線強度の合計面積に対する、2θ=39.7〜40.3°の範囲に現れるピークのX線強度の面積の比率としては、50%以上であれば特に限定されないが、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、75%以上であることがさらに好ましい。
【0030】
また、表層13において、2θ=39.7〜40.3°の範囲にピークを示す化合物のAgに対するSnの原子数比(Sn/Ag)としては、特に限定されないが、0.15〜0.28であることが好ましく、0.20〜0.27であることがより好ましく、0.22〜0.26であることがさらに好ましく、0.245〜0.255であることが特に好ましい。
【0031】
一実施形態において、2θ=39.7〜40.3°の範囲にピークを示す化合物は、AgSnであることが好ましい。AgSnの含有量が多いほど、より低い接触抵抗および動摩擦係数を示し、電気接点用材料として有用である。
【0032】
表層13の厚さとしては、特に限定されないが、例えば0.1〜30.0μmであることが好ましく、0.5〜10.0μmであることがより好ましく、1.0〜5.0μmであることがさらに好ましい。表層13がこのような厚さを有することにより、より優れた導電性を有し、また、優れた曲げ加工性を示すものとなる。
【0033】
前記表層13は、多数の粒状析出物を有し、前記表層13の表面に存在する前記粒状析出物の平均粒径が、0.01〜10μmの範囲であることが好ましい。これにより、当該電気接点用材料1Aは、動摩擦係数が低く、また優れた曲げ加工性を示すものとなる。なお、「多数の粒状析出物」は、走査型電子顕微鏡で観察したときに、例えば図4に示すような像が得られる。図4は、本発明の電気接点用材料を、表層(の表面)のSEM写真の一例を示したものである。一方で、図5は、従来のめっきにより形成した電気接点用材料の表面の走査型電子顕微鏡図の一例である。このように、粒状析出物は、通常のめっきにより形成されるめっきとは異なるものである。粒状析出物の平均粒径は、試料の表面を走査型電子顕微鏡で観察し、切片法にて求めることができる。具体的に、矩形の視野範囲に、縦横一辺あたりにそれぞれ20個以上(合計で400個以上)の粒状析出物が入るように設定し、この状態で対角線を引き、引いた対角線が通過する粒状析出物の数を測定し、測定した粒状析出物の数で、対角線長さを割ることにより、粒状析出物の平均粒径を算出する。
【0034】
(NiSn系化合物)
また、図2は、他の実施形態の電気接点用材料の断面を模式的に示したものである。電気接点用材料1Bは、図2に示すように、前記下地層12と表層13の間に、NiSn系化合物14が存在していてもよい。このようなNiSn系化合物14を下地層12と表層13との間に形成させることにより、形成させない場合と比べて使用環境において加熱などを受けた場合においても下地層12に存在するNiが、表層13に拡散するのを防止することができる。なお、図2においては、NiSn系化合物14が下地層12に一部置換されるような形で形成された例を示しているが、NiSn系化合物14はこのような形に限られず、表層13に一部置換されるような形で形成されてもよいし、下地層12と表層13の間に層を形成していてもよい。
【0035】
具体的に、このNiSn系化合物14としては、NiおよびSnから構成される金属間化合物であれば特に限定されないが、主として、NiSn、NiSn、NiSnからなるものであってよい。
【0036】
NiSn系化合物は、下地層12および表層13を構成する全金属元素に対し、0.1at%以上存在することが好ましい。なお、NiSn系化合物14は、断面X線光電子分光法(XPS)またはSEM−EDX分析またはその両方を用いて確認できる。具体的に、XPSによってNi及びSnの結合状態から、NiSn、NiSn、NiSnの判別及び定量評価を行うことができる。また、断面のSEM−EDXの成分分析によって、NiおよびSnを含む粒子または層を検出することができる。
【0037】
以上のように構成した電気接点用材料1A,1Bは、高電圧大電流を印加した場合であっても、十分な耐性レベルをもつ低い接触抵抗値を有するとともに、動摩擦係数も低い。そして、このような電気接点用材料は、コネクタ端子に用いることができる。このようなコネクタ端子は表面の動摩擦係数が低く、挿入力が低いものであるから、車両などの組み立て性を向上させるコネクタに用いることができる。さらにこのようなコネクタは、各種電子部品に用いることができる。なお、本発明では、導電性基材上に積層形成される各層の形成は、導電性基材の少なくとも片面に形成されていればよい。例えば、導電性基材上に積層形成される各層の形成は、コネクタの接続(嵌合)時に、相手側コネクタの端子に対して摺動接触して電気接続される電気接点部に設ければよく、導電性基材の片面または両面に形成することができる。
【0038】
2.電気接点用材料の製造方法
本発明の電気接点用材料の製造方法は、上述した電気接点用材料を製造する方法であって、Cuを主成分として含有する導電性基材の少なくとも片面に、Niを主成分として含有する下地層を積層形成し、その後、前記下地層上に、Agを主成分として含有する層およびSnを主成分として含有する層を順不同で積層形成するか、または、AgおよびSnを主成分として含有する層を積層形成し、次いで、231〜900℃の加熱温度で熱処理を施すことを特徴とするものである。
【0039】
より具体的に電気接点用材料の製造方法について説明する。まず、導電性基材上に、めっきにより、Niを主成分として含有する下地層を積層形成する。その後、下地層上に、めっきによりAgを主成分として含有する層およびSnを主成分として含有する層を順不同で積層形成する(すなわち、Agを主成分として含有する層を形成した後、Snを主成分として含有する層を形成するか、または、Snを主成分として含有する層を形成した後、Agを主成分として含有する層を形成する)か、または、AgおよびSnを主成分として含有する層(例えば、Ag−Sn共析層)を積層形成する。次いで、231℃(Snの融点)〜900℃で加熱処理を施す。その後、冷却して、電気接点用材料を得る。加熱処理の際に、めっきにより形成されたSnを主成分として含有する層におけるSnおよびAgを主成分として含有する層におけるAgが、相互の層にそれぞれ拡散することで、AgおよびSnを主成分として含有し、かつX線回折法で測定したときの2θ=38〜41°の範囲に現れる全てのピークのX線強度の合計面積に対する、2θ=39.7〜40.3°の範囲に現れるピークのX線強度の面積の比率が50%以上である表層が得られる。
【0040】
各層を形成するためのめっき法としては、特に限定されないが、例えば電解めっきや無電解めっきのような湿式めっき、蒸着やスパッタのような乾式めっき等を用いることができる。これらの中でも、湿式めっきを用いることが好ましく、電解めっきを用いることがより好ましい。この際、めっき条件としては、めっき方法や、めっき層の種類やその厚さ、その後の熱処理の温度や保持時間などに応じて適宜調整すればよい。
【0041】
Agを主成分として含有する層およびSnを主成分として含有する層をそれぞれ異なる層として形成する場合、Snを主成分として含有する層の厚さに対する、Agを主成分として含有する層の厚さの比(Ag/Sn比)としては、2.1〜7.0であることが好ましく、2.8〜5.0であることがより好ましい。このような比が2.1〜7.0であることにより、AgおよびSnを主成分として含有し、かつX線回折法で測定したときの2θ=38〜41°の範囲に現れる全てのピークのX線強度の合計面積に対する、2θ=39.7〜40.3°の範囲に現れるピークのX線強度の面積の比率が50%以上である表層が得られやすくなり、このような電気接点用材料は、接触抵抗および動摩擦係数が低く、優れたものとなる。
【0042】
導電性基材に上記各層を積層形成した後に施される熱処理は、加熱温度が、231℃(錫の融点)〜900℃であればよく、特に250〜700℃であることが好ましい。
【0043】
前記熱処理は、加熱時間が5秒以上8時間以下であることが好ましい。なお、前記熱処理では、加熱温度によって加熱時間を上記の範囲内で変化させることが好ましい。具体的には、例えば250℃では10分以上3時間以下であることが好ましく、700℃では5秒以上10分以下であることが好ましい。
【0044】
前記熱処理は、不活性ガス雰囲気下または還元ガス雰囲気下で行うことが好ましい。具体的に、不活性ガスとしては、N、Ar、Heなどを用いることができる。また、還元ガスとしては、H、CO、CH、H+COなどを用いることができる。不活性ガス雰囲気下または還元ガス雰囲気下で熱処理を施すことにより、各層の金属の酸化を防止することができる。
【0045】
なお、下地層と表層の間にNiSn系化合物を形成しようとする場合、下地層上に積層形成される、Agを主成分として含有する層およびSnを主成分として含有する層との2層、または、AgおよびSnを主成分として含有する単層の全体に占める、Sn含有量に対するAg含有量(例えば前者では、Snを主成分として含有する層の厚さに対する、Agを主成分として含有する層の厚さの比(Ag厚さ/Sn厚さの比))を小さくするか、加熱温度を高くするか、加熱時間を長くする。これにより、Snが拡散しやすくなり、拡散されたSnがNiと反応して、NiSn系化合物が形成される。
【実施例】
【0046】
次に、本発明の効果をさらに明確にするために、実施例および比較例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
以下に示す製造方法A〜Fのいずれかにより、実施例1〜24の試料を作製した。また、以下に示す製造方法G〜Kのいずれかにより、比較例1〜6の試料を作製した。作製した試料について、その構造および特性について評価し、その製造条件とともに表1に示した。
【0048】
(加熱前のAg層、加熱前のSn層、下地層の厚さの測定)
JIS H8501:1999の蛍光X線式試験方法にしたがい、作製した各試料の表面から蛍光X線分析を行い測定した。また、各層の厚さの確認のため、断面について画像解析法によっても厚さの測定を行った。画像解析法はJIS H8501:1999の走査型電子顕微鏡試験方法にしたがい行った。
【0049】
(加熱前のAg−Sn共析層、表層の厚さの測定)
JIS H8501:1999の電解式試験方法により測定した。また、上記下地層の厚さの測定と同様に、画像解析法によっても厚さの測定を行った。
【0050】
(NiSn系化合物の存在の確認)
各試料の断面に対し断面X線光電子分光法(XPS)を用いて、NiSn系化合物の存在について確認した。具体的に、Ni及びSnの結合状態から、NiSn、NiSn、NiSnの判別を行った。
【0051】
(ピークのX線強度面積の比率の測定方法)
各試料の表層の表面を、X線回折法を用いて分析し、2θ=38〜41°の範囲に現れる全てのピークのX線強度の合計面積に対する、2θ=39.7〜40.3°の範囲に現れるピークのX線強度の面積の比率を算出した。X線回折測定は、以下の条件で行った。
試料の大きさ:15mm×15mm
測定装置:リガク株式会社 Geigerflex RAD−A
N数:n=10
【0052】
(粒状析出物の平均粒径の測定方法)
試料の表面を走査型電子顕微鏡で観察し、切片法にて平均粒径を求めた。具体的に、矩形の視野範囲に、縦横一辺あたりにそれぞれ20個以上(合計で400個以上)の粒状析出物が入るように設定し、この状態で対角線を引き、引いた対角線が通過する粒状析出物の数を測定し、測定した粒状析出物の数で、対角線長さを割ることにより、粒状析出物の平均粒径を算出した。
【0053】
(接触抵抗値の測定)
導電材(各k資料)と、Ag表面被覆張り出し加工材(表層に膜厚3μmのAg層を有する無酸素銅C1020、張り出し加工部の曲率半径が5mm)との間の接触抵抗を、四端子法により測定して求めた。DC電流源として株式会社TFF ケースレーインスツルメンツ社製 6220型DC電流ソースを用い、電気抵抗の測定には電流測定器(同社製 2182A型ナノボルトメータ)を用いた。任意の5箇所における接触抵抗値を測定し、各々平均値(n=5)を算出し、以下の基準で評価した。
◎:10mΩ未満
〇:10mΩ以上20mΩ未満
×:20mΩ以上
【0054】
(動摩擦係数の測定)
表面性測定機(新東科学株式会社製、TYPE:14)を用い、各試料の表層を形成した表面を、Ag表面被覆張り出し加工材(表層に膜厚3μmのAg層を有する無酸素銅C1020、張り出し加工部の曲率半径が5mm)に対し、移動速度100mm/min、摺動距離5mm、接触荷重を5Nで、導電材を15回往復摺動させ、15回目の摺動時の数値を動摩擦係数として測定し、以下の基準で評価した。
◎:0.5未満
〇:0.5以上0.8未満
×:0.8以上
【0055】
(耐熱試験)
各試料を大気雰囲気下において150℃で1000時間加熱した。加熱後、上記接触抵抗値の測定の方法にしたがい、加熱後の接触抵抗値を求めた。評価基準も同様とした。
【0056】
[実施例1〜4:製造方法A]
無酸素銅C1020を電解脱脂、酸洗浄した後に、スルファミン酸浴によってニッケルめっき、アルカリシアン銀浴にて銀めっき、硫酸錫浴にて錫めっきをこの順にそれぞれ所定の厚さとなるように施した。次いで、不活性または還元雰囲気下、設定温度250〜300℃の熱処理炉中で、10分〜6時間加熱して、前記銀めっきと前記錫めっきを合金化し、その後、冷却することで、表層としてのAg−Sn合金層を形成した。
【0057】
[実施例5〜8:製造方法B]
無酸素銅C1020を電解脱脂、酸洗浄した後に、スルファミン酸浴によってニッケルめっき、アルカリシアン銀浴にて銀めっき、硫酸錫浴にて錫めっきをこの順にそれぞれ所定の厚さとなるように施した。次いで、不活性または還元雰囲気下、設定温度400〜700℃の熱処理炉中で、5秒〜300秒間加熱して、前記銀めっきと前記錫めっきを合金化し、その後、冷却することで、表層としてのAg−Sn合金層を形成した。
【0058】
[実施例9〜12:製造方法C]
無酸素銅C1020を電解脱脂、酸洗浄した後に、スルファミン酸浴によってニッケルめっき、アルカリシアン銀浴にて銀めっき、硫酸錫浴にて錫めっきこの順にそれぞれ所定の厚さとなるように施した。次いで、不活性または還元雰囲気下、設定温度250〜300℃の熱処理炉中で、10分〜6時間加熱して、前記銀めっきと前記錫めっきを合金化し、その後、冷却することで、表層としてのAg−Sn合金層を形成した。
【0059】
[実施例13〜16:製造方法D]
無酸素銅C1020を電解脱脂、酸洗浄した後に、スルファミン酸浴によってニッケルめっき、アルカリシアン銀浴にて銀めっき、硫酸錫浴にて錫めっきをこの順にそれぞれ所定の厚さとなるように施した。次いで、不活性または還元雰囲気下、設定温度400〜700℃の熱処理炉中で、5秒〜300秒間加熱して、前記銀めっきと前記錫めっきを合金化し、その後、冷却することで、表層としてのAg−Sn合金層を形成した。
【0060】
[実施例17〜20:製造方法E]
無酸素銅C1020を電解脱脂、酸洗浄した後に、ニッケル−リン合金めっき、アルカリシアン銀浴にて銀めっき、硫酸錫浴にて錫めっきをこの順にそれぞれ所定の厚さとなるように施した。次いで、不活性または還元雰囲気下、設定温度400〜700℃の熱処理炉中で、5秒〜300秒間加熱して、前記銀めっきと前記錫めっきを合金化し、その後、冷却することで、表層としてのAg−Sn合金層を形成した。
【0061】
[実施例21〜24:製造方法F]
無酸素銅C1020を電解脱脂、酸洗浄した後に、スルファミン酸浴によってニッケルめっき、そこに銀と錫の共析めっきをこの順にそれぞれ所定の厚さとなるように施した。熱処理は行っていない。
【0062】
[比較例1:製造方法G]
無酸素銅C1020を電解脱脂、酸洗浄した後に、アルカリシアン銀浴にて銀めっき、硫酸錫浴にて錫めっきをこの順にそれぞれ所定の厚さとなるように施した。次いで、還元雰囲気下、設定温度250℃の熱処理炉中で、60分間加熱した後、冷却した。ニッケルめっき(下地層)は形成していない。
【0063】
[比較例2:製造方法H]
無酸素銅C1020を電解脱脂、酸洗浄した後に、スルファミン酸浴によってニッケルめっき、硫酸錫浴にて錫めっきをこの順にそれぞれ所定の厚さとなるように施した後、還元雰囲気下、設定温度400℃の熱処理炉中で、20秒間加熱した後、冷却した。Agめっきは形成していない。
【0064】
[比較例3:製造方法I]
無酸素銅C1020を電解脱脂、酸洗浄した後に、スルファミン酸浴によってニッケルめっき、アルカリシアン銀浴にて銀めっきをこの順にそれぞれ所定の厚さとなるように施した。Snめっきは形成せず、また、熱処理も行っていない。
【0065】
[比較例4〜5:製造方法J]
無酸素銅C1020を電解脱脂、酸洗浄した後に、スルファミン酸浴によってニッケルめっき、アルカリシアン銀浴にて銀めっき、硫酸錫浴にて錫めっきをこの順にそれぞれ所定の厚さとなるように施した後、不活性雰囲気下、設定温度を200℃の低温にした熱処理炉中で、60秒間加熱した後、冷却した。
【0066】
【表1】
【0067】
上記表1から分かるように、銅(Cu)を主成分として含有する導電性基材の少なくとも片面に、ニッケル(Ni)を主成分として含有する下地層、ならびに銀(Ag)および錫(Sn)を主成分として含有する表層をこの順で積層形成し、前記表層をX線回折法で測定したとき、2θ=38〜41°の範囲に現れる全てのピークのX線強度の合計面積に対する、2θ=39.7〜40.3°の範囲に現れるピークのX線強度の面積の比率が50%以上である、実施例1〜24の試料は、接触抵抗値および動摩擦係数が低かった。加えて、実施例1〜24の試料は、加熱後の接触抵抗も、加熱前の接触抵抗と変わらず、低いままであった。
【0068】
これに対し、Ni層(下地層)を備えない比較例1の試料は、加熱後の接触抵抗が高かった。
【0069】
錫(Sn)のみにより表層を形成した比較例2の試料は、加熱処理前後のいずれの接触抵抗も高かった。
【0070】
銀(Ag)のみにより表層を形成し、かつその製造工程において熱処理を施さなかった比較例3の試料は、動摩擦係数が高く、加熱後の接触抵抗が高かった。
【0071】
熱処理における加熱温度が低く、かつ表層をX線回折法で測定したとき、2θ=38〜41°の範囲に現れる全てのピークのX線強度の合計面積に対する、2θ=39.7〜40.3°の範囲に現れるピークのX線強度の面積の比率が50%未満である比較例4および5の試料は、加熱処理前後のいずれにおいても接触抵抗が高いことが分かった。また、比較例5の試料においては、動摩擦係数も高かった。
【符号の説明】
【0072】
1A,1B 電気接点用材料
11 導電性基材
12 下地層
13 表層
14 NiSn系化合物
図1
図2
図3
図4
図5