【課題】吊り具に設けられた音源から発振される音を起伏体に設けられたマイクユニットによって正確に受信し、吊り具の位置を精度良く算出することが可能なクレーンを提供する。
【解決手段】クレーン10は、ブーム16に配置された複数のマイクユニット80と、フック55に配置されたスピーカーユニット60と、第1フック位置取得部701と、スピーカー角度演算部702と、第2フック位置取得部703と、を備える。スピーカー角度演算部702は、第1フック位置取得部701が取得する旋回角度(基準位置情報)に応じてスピーカーユニット60の可聴領域にマイクユニット80の受信部Mが含まれるように、スピーカーユニット60およびマイクユニット80の相対姿勢を調整する。第2フック位置取得部703は、複数のマイクユニット80が受信する音の時間差に応じてフック55の位置を算出する。
前記相対姿勢調整部は、前記指向性スピーカーの前記可聴領域に前記複数のマイクユニットの前記受信部がそれぞれ含まれるように、前記複数のマイクユニットおよび前記指向性スピーカーのうちの少なくとも一方の姿勢を変更する、請求項1に記載のクレーン。
前記複数のマイクユニットは、それぞれが複数のマイクユニットを含む複数組のマイクユニットであって、前記起伏体基端部と前記起伏体先端部とを結ぶ方向である起伏体長手方向に沿って互いに間隔をおいて配置された複数組のマイクユニットを含み、
前記相対姿勢調整部は、前記指向性スピーカーの前記可聴領域に応じて前記複数組のマイクユニットから少なくとも一組の特定マイクユニットを選択することで、前記複数のマイクユニットおよび前記指向性スピーカーの相対姿勢を調整し、
前記位置算出部は、前記特定マイクユニットが選択された状態で前記指向性スピーカーから発振された音波が前記特定マイクユニットの前記複数のマイクユニットの前記受信部にそれぞれ到達する時間差に基づいて、前記機体に対する前記吊り部の相対位置を算出する、請求項1に記載のクレーン。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照しつつ、本発明の各実施形態について説明する。本発明では、後記の詳細な各実施形態が、
図1のクレーン10Aまたは
図2のクレーン10Bに適用される。
図1は、本発明の一実施形態に係るクレーン10A(10)の側面図である。なお、以後、各図には、「上」、「下」、「前」および「後」の方向が示されているが、当該方向は、各実施形態に係るクレーンの構造および組立方法を説明するために便宜上示すものであり、本発明に係るクレーンの移動方向や使用態様などを限定するものではない。また、以後の一部の図には、地面Gが図示されている。
【0035】
クレーン10Aは、機体に相当する上部旋回体12および上部旋回体12を旋回可能に支持する下部走行体14と、起伏体として機能するブーム16と、ブーム起伏用部材であるラチスマスト17およびマスト20と、を備える。上部旋回体12の前端部には、作業者が搭乗するキャブ15が配置されている。
【0036】
ブーム16は、前記機体に水平な回転中心軸回りに起伏方向に回動可能に支持されたブーム基端部16S(起伏体基端部)(
図3参照)と、ブーム基端部16Sとは反対側に配置されたブーム先端部16T(起伏体先端部)とを有する。なお、
図1に示されるブーム16は、いわゆるラチス型であり、基端側部材と、一または複数(図例では2個)の中間部材と、先端側部材とから構成される。基端側部材は、上部旋回体12の前部に起伏方向に回動可能となるように連結される。中間部材は、基端側部材の先端側に着脱可能に継ぎ足される。先端側部材は中間部材の先端側に着脱可能に継ぎ足される。
【0037】
ただし、本発明ではブームの具体的な構造は限定されない。例えば、当該ブームの中間部材の数は、上記とは異なるものでもよい。また、ブームは、単一の部材で構成されたものでもよい。更に、ブームは伸縮式の形態からなるものでもよい。
【0038】
ラチスマスト17は、マスト基端部と、マスト先端部と、を備える。マスト基端部は、ブーム16の後側の位置でブーム16の回動軸と平行な回動軸回りに上部旋回体12に回動可能に支持される。すなわち、ラチスマスト17もブーム16の起伏方向と同方向に回動可能である。マスト先端部は、長手方向においてマスト基端部とは反対側に配置された、ラチスマスト17の先端部である。ラチスマスト17は、ブーム16の回動における支柱となる。
【0039】
更に、クレーン10は、下部スプレッダ19Aと、上部スプレッダ19Bと、ガイライン28と、起伏用ロープ44と、起伏用ウインチ32と、を備える。
【0040】
下部スプレッダ19Aは、ラチスマスト17のマスト先端部に回動可能に支持される。下部スプレッダ19Aは、シーブブロック191を備える。シーブブロック191には、複数のシーブが幅方向(左右方向)に配列されている。
【0041】
上部スプレッダ19Bは、下部スプレッダ19Aの前方に所定の間隔をおいて配置される。上部スプレッダ19Bは、ガイライン28を介してブーム16のブーム先端部16Tに着脱可能に接続される。上部スプレッダ19Bは、シーブブロック192を備える。シーブブロック192には、複数のシーブが幅方向(左右方向)に配列されている。
【0042】
ガイライン28は、
図1の紙面と直交する左右方向に一対配置されている。ガイライン28の後端部は、上部スプレッダ19Bに接続され、ガイライン28の前端部は、ブーム先端部16Tに着脱可能に接続される。ガイライン28は、ガイリンク(金属製の板材)、ガイロープ、ガイワイヤ(金属製の線材)などを含む。
【0043】
起伏用ロープ44は、起伏用ウインチ32から引き出され、ラチスマスト17の先端部のシーブに掛けられた後、シーブブロック191とシーブブロック192との間で複数回掛け回される。
【0044】
起伏用ウインチ32は、ブーム16を起伏させるためのものであり、ラチスマスト17の基端部に配置される。起伏用ウインチ32は、起伏用ロープ44の巻き取りおよび繰り出しを行うことで下部スプレッダ19Aのシーブブロック191と上部スプレッダ19Bのシーブブロック192との間の距離を変化させ、ブーム16をラチスマスト17に対して相対的に回動させながらブーム16を起伏させる。
【0045】
マスト20は、基端及び回動端(先端)を有し、ラチスマスト17の後側で上部旋回体12に回動可能に連結される。マスト20は、断面視で矩形形状からなる。マスト20の回動軸は、ブーム16の回動軸と平行でかつラチスマスト17の回動軸とほぼ同じ位置に配置されている。すなわち、このマスト20もブーム16の起伏方向と同方向に回動可能である。
【0046】
更に、クレーン10は、ガイライン24と、起伏用ロープ38と、起伏用ウインチ30と、を備える。
【0047】
ガイライン24は、
図1の紙面と直交する左右方向に一対配置されている。ガイライン24は、ラチスマスト17の先端部とマスト20の回動端部とを接続する。この接続は、ラチスマスト17の回動とマスト20の回動とを連携させる。
【0048】
起伏用ロープ38は、上部旋回体12に配置され複数のシーブが幅方向に配列されたたシーブブロック42と、マスト20の回動端部に配置され複数のシーブが幅方向に配列されたシーブブロック40との間で複数回掛け回される。
【0049】
起伏用ウインチ30は、マスト20の基端部側に配置される。起伏用ウインチ30は、起伏用ロープ38の巻き取りおよび繰り出しを行う。起伏用ウインチ30の巻き取り、繰り出し動作によって、マスト20の先端部のシーブブロック40と上部旋回体12の後端部のシーブブロック42との間の距離が変化し、上部旋回体12に対してマスト20およびラチスマスト17が一体的に回動しながら、ラチスマスト17が起伏する。なお、ラチスマスト17およびマスト20の回動は、主にクレーン10Aの組立分解時に行われ、クレーン10Aの使用時にはラチスマスト17およびマスト20の位置(対地角)はほぼ固定されている。
【0050】
クレーン10Aには、前述の起伏用ウインチ30および起伏用ウインチ32以外に、吊り荷の巻上げ及び巻下げを行うための主巻用ウインチ34及び補巻用ウインチ36が搭載される。本実施形態に係るクレーン10Aでは、主巻用ウインチ34及び補巻用ウインチ36がいずれもブーム16の基端側部材に据え付けられる。クレーン10Aのウインチ34,36は上部旋回体12に搭載されていてもよい。
【0051】
主巻用ウインチ34(吊りウインチ)は、主巻ロープ51(
図1)による吊り荷の巻き上げ及び巻き下げを行う。この主巻について、ブーム16のブーム先端部16Tには不図示の主巻用ガイドシーブが回転可能に設けられ、さらに主巻用ガイドシーブに隣接する位置に複数の主巻用ポイントシーブが幅方向に配列されたシーブブロック54が設けられている。ブーム先端部16Tのシーブブロック54から垂下された主巻ロープ51には、吊り荷を吊り上げ可能なフック55(吊り部)が連結されている。そして、主巻用ウインチ34から引き出された主巻ロープ51が主巻用ガイドシーブに順に掛けられ、かつ、シーブブロック54のシーブと、フック55に設けられたシーブブロック56のシーブとの間に掛け渡される。従って、主巻用ウインチ34が主巻ロープ51の巻き取りや繰り出しを行うと、フック55の巻上げ及び巻下げ(昇降)が行われる。
【0052】
同様にして、補巻用ウインチ36は、補巻ロープ52による吊り荷の巻き上げ及び巻き下げを行う。この補巻については、上記の主巻と同様の不図示の構造が備えられている。そして、補巻用ウインチ36が補巻ロープ52の巻き取りや繰り出しを行うと、補巻ロープ52の末端に連結された図略の吊荷用の補フックが巻き上げられ、または巻き下げられる。
【0053】
なお、クレーン10Aでは、ラチスマスト17、下部スプレッダ19A、上部スプレッダ19B、マスト20、ガイライン24、ガイライン28、起伏用ウインチ30、起伏用ロープ38、シーブブロック40およびシーブブロック42が、ブーム16を起伏させるブーム駆動部(起伏体駆動部)として機能する。
【0054】
図2は、本発明の他の実施形態に係るクレーン10B(10)の側面図である。以下では、クレーン10Bと前述のクレーン10Aとの相違点について説明する。クレーン10Bでは、マスト20、ガイライン24、起伏用ウインチ30、起伏用ロープ38、シーブブロック40、シーブブロック42が、ブーム16を起伏させるブーム駆動部(起伏体駆動部)として機能する。
【0055】
一方、クレーン10Bは、ジブ18を備える。ジブ18は、ブーム16の先端部に水平な回転中心軸回りに起伏方向に回動可能に支持されている。更に、クレーン10Bは、起伏用ウインチ32と、起伏用ロープ44と、リヤストラット21と、フロントストラット22と、ガイライン28と、を備える。これらの部材は、ジブ18を起伏させるジブ駆動部(起伏体駆動部)として機能する。
【0056】
リヤストラット21およびフロントストラット22は、ブーム16の先端部に回動可能に支持されている。起伏用ウインチ32から引き出された起伏用ロープ44は、シーブ46を介してリヤストラット21およびフロントストラット22の先端部にそれぞれ配置されたシーブブロック間に掛け渡される。フロントストラット22の先端部は、ガイライン28によってジブ18の先端部に接続されている。
【0057】
起伏用ウインチ32による起伏用ロープ44の巻き取り、繰り出し動作によって、リヤストラット21の先端部のシーブブロックとフロントストラット22の先端部のシーブブロックとの間の距離が変化し、ブーム16に対してフロントストラット22およびジブ18が一体的に回動しながら、ジブ18が起伏する。
【0058】
また、本実施形態では、主巻用ウインチ34および補巻用ウインチ36から引き出された主巻ロープ51および補巻ロープ52が、クレーン10Aと同様の構造をもってジブ18の先端部から垂下され、フック55および不図示の補フックに連結される。
【0059】
図3は、本発明の第1実施形態に係るクレーン10Aにおいて複数のマイク受信部M(マイクユニット80)の配置を示す側面図である。
図3では、
図1のクレーン10Aの一部を模式的に示している。
図4は、本実施形態に係るクレーンのフック55(吊り部)に設けられたスピーカー発振部603を含むスピーカーユニット60(指向性スピーカー)を示す拡大側面図である。
図5は、本実施形態に係るクレーン10Aにおいてブーム16に設けられたマイク受信部Mを含むマイクユニット80を示す拡大側面図である。
図6は、本実施形態に係るクレーン10Aの上部旋回体12が旋回する様子を示す平面図である。
図7は、本実施形態に係るクレーン10Aの制御部70のブロック図である。
図8は、本実施形態に係るクレーンにおいてフック55の上昇に伴ってスピーカー発振部603の姿勢が変更される様子を示す模式図である。
【0060】
図3および
図4を参照して、本実施形態では、クレーン10Aが、それぞれマイク受信部M(左右一対の第1マイク受信部M1、左右一対の第2マイク受信部M2、左右一対の第3マイク受信部M3)を含む複数のマイクユニット80およびスピーカーユニット60を有する。なお、以後の説明では、説明の容易性を考慮して、マイクユニット80または、当該マイクユニット80のうちのマイク受信部Mによって、その位置などを説明する。
【0061】
それぞれ左右一対の、第1マイク受信部M1、第2マイク受信部M2および第3マイク受信部M3は、ブーム16の前側に配置されたメインパイプ161に装着(固定)されている。なお、
図3、
図5では、紙面手前の各マイク受信部Mのみが現れているが、紙面と直交する方向(左右方向)において間隔をおいてもう1つのマイク受信部Mがそれぞれ装着されている。本実施形態では、各マイク受信部Mは、同じ構造からなるマイクユニット80(
図5)によって構成されており、音波を受け入れ可能とされている。なお、本実施形態では、
図5に示すように、各マイクユニット80のマイク受信部Mはブーム16上において音の受信方向が固定されている。
【0062】
図4を参照して、スピーカー発振部603を有するスピーカーユニット60は、フック55に装着され、特定の指向方向に向かって形成された可聴領域に音波を発振可能な指向性スピーカーからなる。具体的に、フック55は、フック支持部551と、フック本体552と、を有する。フック本体552は、フック支持部551の下端部に装着されており、吊り荷に接続される。フック支持部551は、内部にシーブブロック56を有する。また、フック支持部551の上端部には、スピーカーユニット60が装着されている。スピーカーユニット60は、第1支持部601と、第2支持部602と、上記のスピーカー発振部603(発振部)と、を有する。
【0063】
第1支持部601(スピーカー支持部)は、スピーカー発振部603を支持するための部材であって、フック支持部551の上面部に固定されている。第2支持部602は、第1支持部601に支持されている。詳しくは、第2支持部602(スピーカー支持部)は、スピーカー発振部603を左右方向(水平方向)に延びるスピーカー第1軸部60S(スピーカー第1回転中心軸)回りに回転可能(揺動可能)に支持するとともに、上下方向に延びるスピーカー第2軸部60T(スピーカー第2回転中心軸)回りに回転可能(揺動可能)なように第1支持部601に支持されている。スピーカー発振部603は、前記指向方向に向かって音波を発振可能とされている。
【0064】
更に、
図7を参照して、本実施形態に係るクレーン10Aは、制御部70と、旋回角度計711(基準位置情報取得部)と、繰り出し量検出部712(基準位置情報取得部)と、スピーカー第1モーター713と、スピーカー第2モーター714と、表示部715と、を有する。
【0065】
旋回角度計711は、上部旋回体12が下部走行体14に対して旋回動作を行うための不図示の旋回モーターに備えられている。旋回角度計711は、上部旋回体12の下部走行体14に対する旋回角度を検出し、当該検出角度に応じた信号を制御部70に入力する。換言すれば、旋回角度計711は、基準位置情報として、上部旋回体12の下部走行体14に対する旋回角度を取得する。
【0066】
繰り出し量検出部712は、主巻用ウインチ34の不図示の減速機に備えられており、主巻用ウインチ34による主巻ロープ51の繰り出し量および巻き取り量(長さ)を検出し、当該繰り出し量および巻き取り量に応じた信号を制御部70に入力する。この信号によって、フック55の上下位置(揚程)が算出可能とされる。換言すれば、繰り出し量検出部712は、フック55の昇降によって変化するフック55の地上高度に関する情報である高さ情報を基準位置情報として取得する。
【0067】
スピーカー第1モーター713(第1スピーカー駆動部)は、第2支持部602内に配置され、スピーカー発振部603を前記第1スピーカー回転中心軸回りに揺動させることが可能な駆動力を発生する。
【0068】
スピーカー第2モーター714(第2スピーカー駆動部)は、第1支持部601内に配置され、スピーカー発振部603を前記第2スピーカー回転中心軸回りに揺動させることが可能な駆動力を発生する。
【0069】
表示部715は、キャブ15内に配置され、旋回角度計711、繰り出し量検出部712の検出結果を数値または映像で表示するとともに、スピーカー第1モーター713およびスピーカー第2モーター714によって駆動されるスピーカー発振部603の姿勢を数値または映像によって表示する。
【0070】
制御部70は、クレーン10Aの作動に応じて、複数のマイクユニット80(マイク受信部M)およびスピーカーユニット60(スピーカー発振部603)を制御する。
【0071】
制御部70は、CPU(Central Processing Unit)、制御プログラムを記憶するROM(Read Only Memory)、CPUの作業領域として使用されるRAM(Random Access Memory)等から構成されている。制御部70には、旋回角度計711(基準位置情報取得部)、繰り出し量検出部712(基準位置情報取得部)、複数のマイク受信部M、スピーカー発振部603、スピーカー第1モーター713、スピーカー第2モーター714および表示部715などが電気的に接続されている。
【0072】
制御部70は、前記CPUがROMに記憶された制御プログラムを実行することにより、駆動制御部700(相対姿勢調整部、スピーカー駆動制御部、マイク駆動制御部)、第1フック位置取得部701(基準位置情報取得部)、スピーカー角度演算部702(相対姿勢調整部)、第2フック位置取得部703(位置算出部)および記憶部704を備えるように機能する。
【0073】
駆動制御部700は、スピーカー第1モーター713およびスピーカー第2モーター714に対する駆動指令信号を出力する。駆動制御部700によって、スピーカー第1モーター713およびスピーカー第2モーター714がそれぞれ所定の時間回転駆動され、スピーカー発振部603の前記第1スピーカー回転中心軸回りおよび前記第2スピーカー回転中心軸回りの姿勢がそれぞれ設定される。
【0074】
第1フック位置取得部701(基準位置情報取得部)は、旋回角度計711から入力される情報(旋回角度)を取得し、当該情報をスピーカー角度演算部702に入力する。第1フック位置取得部701が旋回角度計711から取得する当該情報は、マイクユニット80のマイク受信部Mおよびスピーカーユニット60のスピーカー発振部603の相対姿勢を調整するための情報であって、上部旋回体12に対するフック55の相対位置に関する情報である基準位置情報に相当する。
【0075】
また、第1フック位置取得部701は、繰り出し量検出部712から入力される情報(主巻ロープ51の繰り出し量、巻き取り量)を受け取り、当該情報をスピーカー角度演算部702に入力する。第1フック位置取得部701が取得するこれらの情報も、上部旋回体12に対するフック55の相対位置に関する情報である基準位置情報(高さ情報)に相当する。
【0076】
スピーカー角度演算部702は、第1フック位置取得部701が取得した基準位置情報に応じて、スピーカー第1モーター713およびスピーカー第2モーター714を制御するためのスピーカー発振部603の角度(姿勢)を後記のとおり演算する。この際、スピーカー角度演算部702は、第1フック位置取得部701によって取得された前記基準位置情報に基づいて、スピーカー発振部603の前記可聴領域に各マイク受信部Mがそれぞれ含まれるように、スピーカー発振部603の角度を演算する。なお、スピーカー角度演算部702、スピーカー第1モーター713およびスピーカー第2モーター714は、本発明の相対姿勢調整部を構成する。相対姿勢調整部は、スピーカー発振部603の前記可聴領域に各マイク受信部Mの前記受信部がそれぞれ含まれるように、スピーカー発振部603の姿勢を変更する。
【0077】
第2フック位置取得部703(位置算出部)は、スピーカー発振部603の姿勢が調整された状態で、スピーカー発振部603から発振された音波が各マイク受信部Mにそれぞれ到達する時間差に基づいて、上部旋回体12に対するマイク受信部Mの相対位置を算出する。なお、第2フック位置取得部703による当該位置の算出方法については、後記でまとめて説明する。
【0078】
記憶部704は、スピーカー角度演算部702、第2フック位置取得部703の演算において参照される各種の定数、変数および数式などを格納している。
【0079】
次に、本実施形態におけるスピーカーユニット60のスピーカー発振部603の姿勢変更制御について説明する。
図6を参照して、ブーム16の先端部から垂下されたフック55に不図示の吊り荷が接続され吊り上げられている場合、フック55上のスピーカー発振部603はその指向方向が旋回中心軸12Cに向かうように配置されている(矢印D61)。また、
図3に示すように、スピーカー発振部603の指向方向CSが第1マイク受信部M1、第2マイク受信部M2および第3マイク受信部M3の中央部(第2マイク受信部M2)を向くように、スピーカー発振部603の初期姿勢が設定されている。このため、フック55(吊り荷)が前後方向に揺れた場合であっても、いずれかのマイク受信部M(左右一対のマイクユニット)がスピーカー発振部603の音波を受信することができる。
【0080】
このような状態で、上部旋回体12が下部走行体14(
図1)に対して角度θSだけ旋回すると、フック55および吊り荷の重量が大きいことに起因して、フック55上のスピーカー発振部603はその指向方向が前述の矢印D61と平行な方向に向かうように配置される(矢印D62)。この場合、スピーカー発振部603の指向方向には複数のマイク受信部Mが配置されていないため、スピーカー発振部603が発振する音波を複数のマイク受信部Mが正確に受信することができない。したがって、本実施形態では、第1フック位置取得部701が旋回角度計711から出力された旋回角度θSを取得すると、スピーカー角度演算部702がスピーカー発振部603の揺動角度をθSに設定する。そして、駆動制御部700がスピーカー第2モーター714を制御して、スピーカー発振部603をスピーカー第2軸部60T回りに角度θSだけ揺動させる。この際、上部旋回体12の旋回方向とは逆方向にスピーカー発振部603が揺動される。この結果、スピーカー発振部603の指向方向が旋回中心軸12Cを向かうように調整され(矢印D63)。スピーカー発振部603が発振する音波を複数のマイク受信部Mが正確に受信することができる。
【0081】
このように、本実施形態では、スピーカー発振部603を含むスピーカーユニット60が指向性スピーカーから構成されることで、必要最小限の範囲に音波が発振され、クレーン10Aの作業現場における騒音を低減することができる。一方、このような指向性スピーカーでは、可聴範囲が限られているため、クレーン10Aの姿勢によっては、複数のマイク受信部Mによって正確に音波を受信することが困難になる。上記のように、クレーン10Aの旋回動作に応じて、スピーカー角度演算部702がスピーカー発振部603の揺動角度を上部旋回体12の旋回角度と等しい角度に設定する。したがって、複数のマイク受信部Mがスピーカー発振部603の音波を正確に受信することが可能となり、後記のように第2フック位置取得部703がフック55の位置を正確に算出することが可能となる。
【0082】
換言すれば、本実施形態では、駆動制御部700およびスピーカー角度演算部702(相対姿勢調整部)は、旋回角度計711によって取得された前記旋回角度に応じて、スピーカー発振部603の前記可聴領域に複数のマイク受信部Mがそれぞれ含まれるように、スピーカー発振部603の姿勢を変更する。
【0083】
更に、
図8を参照して、ブーム16のブーム基端部16Sとブーム先端部16Tとを結ぶ直線をブーム中心線CBと定義し、ブーム基端部16Sと同じ高さに位置するフック55が揚程Hの高さまで吊り上げられると仮定する。この場合、揚程Hは、繰り出し量検出部712によって検出可能である。なお、説明のため、ブーム基端部16Sの位置を点S、ブーム先端部16Tの位置を点T、フック55の位置を点F、第2マイク受信部M2の位置を点Bによって示している。また、ブーム16の長さがLB、ブーム基端部16Sから第2マイク受信部M2までの距離がL2、後記のブーム角度計721によって検出されるブーム16の起伏角度がθB、鉛直方向に対するスピーカー発振部603の角度が仰角βで定義される。以下では、スピーカー角度演算部702が演算するスピーカー発振部603の仰角βについて説明する。
【0084】
まず、余弦定理から、距離FBについて以下の式1、式2が導出される。
FB
2=(LB×cosθB)
2−2×LB×cosθB×L2×cosθB ・・・(式1)
FB=((LB
2−2×LB×L2)×(cosθB)
2+L2
2)
1/2 ・・・(式2)
また、初期仰角βは、以下の式3で表される。
β=cos
−1(L2×sinθB/FB) ・・・(式3)
また、高さHだけ揚程が増大された場合の仰角β’は、以下の式4によって算出される。
β’=tan
−1(FB×cosβ/(L2×sinθB−H)) ・・・(式4)
すなわち、揚程Hだけ上昇した場合、スピーカー角度演算部702(スピーカー駆動制御部)の演算結果に応じて、スピーカー発振部603の仰角をβからβ’に変化させるように、駆動制御部700(スピーカー駆動制御部)がスピーカー第1モーター713を制御してスピーカー発振部603を前記第1スピーカー回転中心軸回りに揺動させることで、スピーカー発振部603が第2マイク受信部M2を向く状態を維持することができる。なお、
図8においてブーム16の起伏角θBが変化しても、その度に上記の演算を行うことが可能である。
【0085】
このように、本実施形態では、ブーム16の起伏、起伏用ウインチ32による主巻ロープ51の巻き取り、繰りだし動作に応じてフック55の高さが変化した場合であっても、フック55の昇降に応じて、スピーカー発振部603の向き(仰角)を調整することが可能となるため、第2マイク受信部M2およびその周囲の複数のマイク受信部Mがスピーカー発振部603の音波を正確に受信することが可能となり、後記のように第2フック位置取得部703がフック55の位置を正確に算出することが可能となる。
【0086】
換言すれば、本実施形態では、スピーカー角度演算部702および駆動制御部700が、スピーカー発振部603の可聴領域に複数のマイクユニット80のマイク受信部Mがそれぞれ含まれるように、スピーカー第1モーター713を制御してスピーカー発振部603を前記第1スピーカー回転中心軸回りに揺動させる。
【0087】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
図9は、本実施形態に係るクレーン10Aの制御部70のブロック図である。
図10は、本実施形態に係るクレーン10Aにおいてブーム16に設けられたマイクユニット80のマイク受信部Mを示す拡大側面図である。
図11は、本実施形態に係るクレーン10Aにおいてフック55の上昇に伴ってスピーカー発振部603およびマイク受信部Mの姿勢が変更される様子を示す模式図である。以下では、本実施形態と先の第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0088】
本実施形態では、
図9に示すように、クレーン10Aが、マイク第1モーター716(第1マイク駆動部)を更に備える。また、
図10に示すように、マイクユニット80は、マイク受信部Mをマイク第1軸部801(第1マイク回転中心軸)回りに揺動可能に支持するマイク支持部800を有する。マイク支持部800は、ブーム16のメインパイプ161に固定されている。マイク第1モーター716は、各マイク受信部Mをマイク第1軸部801回りにそれぞれ独立して揺動させることが可能な回転駆動力を発生する。マイク第1モーター716は、駆動制御部700によって制御される。
【0089】
また、制御部70はマイク角度演算部705(相対姿勢調整部)を有するように機能する。マイク角度演算部705は、スピーカー発振部603の可聴領域に複数のマイクユニット80のマイク受信部Mがそれぞれ含まれるように、マイク第1モーター716を制御してマイク受信部Mを前記第1マイク回転中心軸回りにそれぞれ揺動させる。
【0090】
図11を参照して、先の第1実施形態における
図8と同様に、フック55が揚程Hだけ上昇されたと仮定する。この場合、先の式1〜式4によって、フック55の仰角β’が算出される。ここで、マイク受信部M(第2マイク受信部M2)の俯角αは、以下の式5によって導出される。
α=90°―β ・・・(式5)
このため、フック55がHだけ吊り上げられた場合には、マイク受信部Mの俯角α’は式5のβをβ’に置き換えることで算出される。したがって、マイク角度演算部705がα’を算出し駆動制御部700に入力すると、マイク第1モーター716が前記第1マイク回転中心軸回りにマイク受信部Mを揺動させることで、マイク受信部Mをフック55のスピーカー発振部603に向けることができる。この結果、複数のマイク受信部Mがスピーカー発振部603の音波を正確に受信することが可能となり、後記のように第2フック位置取得部703がフック55(吊り荷)の位置を正確に算出することが可能となる。なお、フック55のスピーカー発振部603の仰角βを調整することなく、マイク受信部Mの俯角αのみを調整する態様でもよい。
【0091】
このように、本実施形態では、マイク角度演算部705の算出結果に応じて、スピーカー発振部603の前記可聴領域に各マイク受信部Mがそれぞれ含まれるように、駆動制御部700が、マイク第1モーター716を制御して各マイク受信部Mをマイク第1軸部801回りにそれぞれ揺動させる。
【0092】
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
図12は、本発明の第3実施形態に係るクレーン10Bにおいて複数のマイク受信部Mの配置を示す側面図である。
図13および
図14は、本実施形態に係るクレーン10Bにおいてフック55の上昇に伴って各マイク受信部Mの姿勢が変更される様子を示す模式図である。以下では、本実施形態と先の第2実施形態との相違点を中心に説明する。
【0093】
図12に示すように、本実施形態では、ブーム16の先端部にジブ18が起伏方向に回動可能に支持されている(
図2のクレーン10B)。当該クレーン10Bでは、ブーム16の先端部から主巻ロープ51が垂下される場合や、ジブ18の先端部から主巻ロープ51が垂下される場合がある。このため、
図12に示すように、ブーム16に第1マイク受信部M1、第2マイク受信部M2および第3マイク受信部M3がそれぞれ左右一対ずつ配置されていることに加えて、ジブ18には第5マイク受信部M5、第6マイク受信部M6、第7マイク受信部M7、第8マイク受信部M8がそれぞれ左右一対ずつ配置されている。なお、たとえば、第6マイク受信部M6、第7マイク受信部M7および第8マイク受信部M8の角度がブーム16側に設定されることで、第1マイク受信部M1、第2マイク受信部M2および第3マイク受信部M3に加えて、当該第6マイク受信部M6、第7マイク受信部M7および第8マイク受信部M8が、ブーム16の先端部から垂下されたフック55上のスピーカー発振部603の音を受信してもよい。
【0094】
このような構成では、各マイク受信部Mの向きをフック55上のスピーカー発振部603に向けることで、後記のとおり、第2フック位置取得部703がフック55の位置を正確に算出することが可能となる。特に、フック55の昇降に応じて各マイク受信部Mの向きがスピーカー発振部603に追従することで、複数のマイク受信部Mによってスピーカー発振部603の音を正確に受信することができる。以下に、本実施形態における各マイク受信部Mの姿勢変更について更に詳述する。
【0095】
図13では、フック55の揚程(位置)が第1マイク受信部M1、第2マイク受信部M2よりも低い場合における、各マイク受信部Mの俯角θ1、θ2について説明される。一方、
図14では、フック55の揚程が第1マイク受信部M1、第2マイク受信部M2よりも高い場合における、各マイク受信部Mの俯角θ1、θ2について説明される。いずれの場合も、マイク角度演算部705(
図8)が以下の演算を行うことで、各マイク受信部Mの俯角θ1、2が算出される。
【0096】
本実施形態では、初期設定として、第1マイク受信部M1、第2マイク受信部M2の向きは、ブーム中心線CBと直交するように配置されている(
図13の矢印参照)。第1マイク受信部M1および第2マイク受信部M2の位置をそれぞれ点A、点Bとし、ブーム基端部16S(点S)から第1マイク受信部M1までの距離がL1(AS)、ブーム基端部16Sから第2マイク受信部M2までの距離がL2(BS)と定義される。
【0097】
本実施形態では、マイク角度演算部705が常に距離TFを演算している。距離TFは、ブーム先端部16Tの高さ(ポイント高さ)からフック55の揚程を引いた差によって算出される。更に、マイク角度演算部705は、以下の式6、式7によって、距離TS、距離SFを算出する。
TS=TF/sinθB ・・・(式6)
SF=TS×cosθB ・・・(式7)
【0098】
また、第1マイク受信部M1の俯角θ1の算出に関して、まず、以下の式8、式9および式10が演算される。なお、距離TAは予め記憶部704に記憶されている。
AS=TS−TA ・・・(式8)
AF
2=AS
2+SF
2−2×AS×SF×cosθB ・・・(式9)
AF=(AF
2)
1/2 ・・・(式10)
更に、
図13、
図14の角度θ1’について以下の式11、式12が満たされる。
cosθ1’=(AS
2+AF
2−SF
2)/(2×AS×AF) ・・・(式11)
θ1’=acos(cosθ1’) ・・・(式12)
上記のθ1’を用いて式13から俯角θ1が算出される。
θ1=90°−θ1’ ・・・(式13)
【0099】
一方、第2マイク受信部M2の俯角θ2の算出に関して、以下の式14、式15および式16が演算される。なお、距離TBは予め記憶部704に記憶されている。
BS=TS−TB ・・・(式14)
BF
2=BS
2+SF
2−2×BS×SF×cosθB ・・・(式15)
BF=(BF
2)
1/2 ・・・(式16)
更に、
図13、
図14の角度θ2’について以下に式17、式18が満たされる。
cosθ2’=(BS
2+BF
2−SF
2)/(2×BS×AF) ・・・(式17)
θ2’=acos(cosθ2’) ・・・(式18)
上記のθ2’を用いて式19から俯角θ2が算出される。
θ2=90°−θ2’ ・・・(式19)
【0100】
したがって、フック55の昇降に伴って、上記の演算に基づいてマイク角度演算部705が各マイク受信部Mの俯角θ1、θ2を決定し、駆動制御部700がマイク第1モーター716を制御することで、各マイク受信部Mをフック55上のスピーカー発振部603に向けることが可能となる。
【0101】
なお、
図12に示すように、ジブ18に配置された第4マイク受信部M4から第8マイク受信部M8の姿勢変更についても上記と同様である。この場合、クレーン10Bが後記のジブ角度計722(
図15)を有し、
図12のジブ起伏角θJを検出することで、上記の起伏角θBを置き換えて、各俯角を算出することができる。なお、本実施形態においても、後記の実施形態のように、第1マイク受信部M1から第8マイク受信部M8の中からスピーカー発振部603からの音を受信するために望ましい一部のマイク受信部Mが選択される態様でも良い。なお、本実施形態において、第2フック位置取得部703が後記のように上下方向および前後方向を含む面内におけるフック55の振れ角度(フック55の位置)を算出する場合には、
図12に示される各マイク受信部M(M1〜M8)は1つずつ配置されてもよい。
【0102】
次に、本発明の第4実施形態について説明する。
図15は、本実施形態に係るクレーン10Bの制御部70のブロック図である。
図16および
図17は、本実施形態に係るクレーン10Bにおいてフック55の上昇に伴って一部のマイク受信部Mが選択される様子を示す模式図である。
図18は、本実施形態に係るクレーンにおいてフック55の上昇に伴って選択されるマイク受信部Mの位置を示す模式図である。以下では、本実施形態と先の第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0103】
図15を参照して、本実施形態では、クレーン10Bが、ブーム角度計721(基準位置情報取得部)と、ジブ角度計722(基準位置情報取得部)と、を更に備える。ブーム角度計721はブーム16の対地角を検出し、ジブ角度計722はジブ18の対地角を検出する。換言すれば、ブーム角度計721およびジブ角度計722は、基準位置情報として、前記ブーム駆動部および前記ジブ駆動部によって回動されるブーム16およびジブ18の起伏角を取得する。
【0104】
本実施形態では、
図16に示すように、ブーム16上に第1マイク受信部M1、第2マイク受信部M2、第3マイク受信部M3、第9マイク受信部M9、第10マイク受信部M10、第11マイク受信部M11、第12マイク受信部M12が備えられており、ジブ18上に第4マイク受信部M4、第5マイク受信部M5、第6マイク受信部M6、第7マイク受信部M7および第8マイク受信部M8が備えられている。これらの各マイク受信部Mは、それぞれ左右一対配置されている。換言すれば、ブーム16およびジブ18には、それぞれ左右一対配置されたマイクユニット80(マイク受信部M)が複数組配置されている。また、ジブ18の先端部から主巻ロープ51が垂下され、その先端部にフック55が配置されている。フック55に備えられたスピーカー発振部603の指向方向は後方を向くように予め設定されている。なお、他の実施形態と同様に、スピーカー発振部603の指向方向が変化するようにスピーカー発振部603が揺動可能に支持される態様でもよい。
【0105】
また、制御部70は、マイク選定部706(相対姿勢調整部)を有するように機能する。マイク選定部706は、複数組のマイクユニット80から少なくとも一組の特定マイクユニット80を選択することで、複数組のマイクユニット80およびスピーカー発振部603の相対姿勢を調整する。
【0106】
本実施形態では主巻用ウインチ34によって主巻ロープ51の巻き上げ、繰り出しが行われると、フック55が昇降する。当該フック55の昇降量は繰り出し量検出部712によって検出される。また、ブーム16およびジブ18が起伏すると、フック55が昇降および前後に移動する。当該フック55の移動量は、ブーム角度計721およびジブ角度計722によって検出される角度に加え、予め記憶部704に格納されたブーム16およびジブ18の長さなどから第1フック位置取得部701が演算することができる。
【0107】
図16に示すように、フック55の地面Gに対する高さが上下の破線の間に含まれる場合、マイク選定部706は、スピーカー発振部603から発振される音波の受信先として第9マイク受信部M9、第10マイク受信部M10および第11マイク受信部M11を選択する。一方、
図17に示すように、フック55の地面Gに対する高さが上下の破線の間に含まれる場合、マイク選定部706は、スピーカー発振部603から発振される音波の受信先として第1マイク受信部M1、第2マイク受信部M2および第3マイク受信部M3を選択する。
【0108】
このように、本実施形態では、マイク選定部706(相対姿勢調整部)は、それぞれ少なくとも左右一対のマイクユニット80から構成されブーム16またはジブ18の長手方向に沿って間隔をおいて配置される複数組のマイクユニット80の中から、スピーカー発振部603の可聴領域に応じて、少なくとも一組の特定マイクユニット80を選択することで、複数のマイクユニット80のマイク受信部Mおよびスピーカーユニット60のスピーカー発振部603の相対姿勢を調整する。そして、後記の第2フック位置取得部703は、前記特定マイクユニット80が選択された状態でスピーカー発振部603から発振された音波が前記特定マイクユニット80のマイク受信部Mにそれぞれ到達する時間差に基づいて、上部旋回体12に対するフック55の相対位置を算出する。
【0109】
なお、
図18を参照して、マイク選定部706(
図15)は、他のマイク受信部Mよりもフック55から近い位置に配置される特定のマイク受信部Mを選択する。ブーム16上のマイク受信部Mが選択される様子を具体的に説明するために、ブーム先端部16Tから第1マイク受信部M1、第2マイク受信部M2、第3マイク受信部M3および第4マイク受信部M4までの距離が、それぞれX1、X2、X3およびX4と定義される。ここで、フック55からブーム16上の最短の位置Nとブーム先端部16Tとの距離LNは、以下の式20によって算出される。なお、Hは、ブーム先端部16Tとフック55との距離である。
LN=H×sinθB ・・・(式20)
したがって、第1マイク受信部M1、第2マイク受信部M2、第3マイク受信部M3および第4マイク受信部M4のブーム先端部16Tに対する距離X1、X2、X3およびX4と上記のLNとの大小関係を比較することで、フック55に最も近い位置に配置されるマイク受信部Mとして、第2マイク受信部M2および第3マイク受信部M3を選択することができる。
【0110】
このように、本実施形態では、スピーカー発振部603から発振される音の集音に適したマイクユニット80(マイク受信部M)が選択されることで、精度良く上記音を集音し、後記のように第2フック位置取得部703がフック55の位置を正確に算出することが可能となる。特に、音が届きにくい位置に配置されたマイクユニット80の集音を停止するまたはその音のデータを取り除くことによって、ノイズの影響を抑止することができる。なお、本実施形態において、第2フック位置取得部703が後記のように上下方向および前後方向を含む面内におけるフック55の振れ角度(フック55の位置)を算出する場合には、
図17に示される各マイク受信部M(M1〜M12)は1つずつ配置されてもよい。
【0111】
次に、本発明の第5実施形態について説明する。
図19は、本実施形態に係るクレーンにおいてブームに設けられたマイクユニット80を示す拡大側面図である。
図20は、本実施形態に係るクレーン10Aの制御部70のブロック図である。
図21および
図22は、本実施形態に係るクレーン10Aにおいてフック55の上昇に伴ってマイク受信部Mの姿勢が変更される様子を示す模式図である。
図23は、本実施形態に係るクレーン10Aにおいてフック55の前後振れに伴ってマイク受信部Mの姿勢が変更される様子を示す模式図である。
図24および
図25は、本実施形態に係るクレーン10Aにおいてフック55の左右振れに伴ってマイク受信部Mの姿勢が変更される様子を示す模式的な平面図および正面図である。
【0112】
図19を参照して、本実施形態では、マイクユニット80が、マイク受信部Mと、マイク支持部800と、ベース部802(マイク支持部)と、を有する。マイク支持部800はマイク受信部Mを水平なマイク第1軸部801(第1マイク回転中心軸)回りに揺動可能に支持する。また、ベース部802は、マイク支持部800を介してマイク受信部Mをマイク第2軸部803(第2マイク回転中心軸)回りに揺動可能に支持する。本実施形態では、マイク第2軸部803は、ブーム16のメインパイプ161(ブーム中心線CB)と平行に延びている。このため、クレーン10Aの通常の使用状態において、ブーム16が起立している場合には、マイク第2軸部803は少なくとも上下方向に沿って延びている。
【0113】
図20を参照して、クレーン10Aは、更に、ワイヤ角度計723(基準位置情報取得部)と、マイク第2モーター717(第2マイク駆動部)と、を有する。
【0114】
ワイヤ角度計723(振れ情報検出部)は、ブーム16のブーム先端部16Tに備えられており、鉛直方向に対する主巻ロープ51の振れ量(振れ角度)を検出する。特に、本実施形態では、ワイヤ角度計723は、主巻ロープ51の前後方向(ブーム16の起立面と平行かつ水平な方向)および左右方向(ブーム16の回転中心軸と平行な方向)のそれぞれにおける振れ量を検出する。換言すれば、ワイヤ角度計723は、基準位置情報として、ブーム先端部16Tを支点とするフック55の前後方向および左右方向の振れ量に関する情報である振れ情報を取得する。
【0115】
マイク第2モーター717は、マイク受信部Mを前記第2マイク回転中心軸回りにそれぞれ揺動させることが可能な回転駆動力を発生する。マイク第2モーター717は、ベース部802内に配置されている。なお、マイク第1モーター716は、前述のようにマイク支持部800内に配置され、マイク受信部Mを前記第1マイク回転中心軸回りにそれぞれ揺動させることが可能な回転駆動力を発生する。
【0116】
本実施形態では、スピーカー発振部603の前記可聴領域にマイク受信部M(左右一対の第2マイク受信部M2)の受信部がそれぞれ含まれるように、マイク角度演算部705および駆動制御部700が、ワイヤ角度計723によって取得された前記振れ情報に応じて、マイク第1モーター716を制御してマイク受信部Mを前記第1マイク回転中心軸回りにそれぞれ揺動させる一方、マイク第2モーター717を制御してマイク受信部Mを前記第2マイク回転中心軸回りにそれぞれ揺動させる。
【0117】
以下では、本実施形態におけるブーム16上の複数のマイク受信部Mのうち第2マイク受信部M2を例にして、その角度(姿勢)の調整手順について説明する。
図21を参照して、クレーン10Aの作業が開始されるに先立って、予めマイク受信部Mの角度が調整される(基準調整)。具体的に、フック55をブーム先端部16T(ブームポイント)の直下に移動させ、フック55を地面Gに接地させた状態とする。この状態で、第2マイク受信部M2とフック55上のスピーカー発振部603とが互いに向き合うように、第2マイク受信部M2およびスピーカー発振部603の姿勢を調整する。以後では、この状態の第2マイク受信部M2の水平方向に対する角度θMを基準角度と定義する。
【0118】
通常、クレーン10Aでは、地面Gを上下方向における基準(ゼロ点)とすることが多い。このため、
図21のように地面Gにフック55を接地させることで、第2マイク受信部M2およびスピーカー発振部603の基準設定を容易に行うことができる。なお、他の実施形態において、公知のレーザー変位計などを用いて、フック55と地面Gとの距離を正確に測定することが可能であれば、フック55を地面Gから所定の高さに配置した状態で第2マイク受信部M2の基準角度θMを設定してもよい。
【0119】
図21に示す状態において、ブーム先端部16Tから垂下される主巻ロープ51の長さLWは、以下の式21で算出される。
ロープ長さLW=ブーム先端部16Tの高さ(ブームポイント高さ)−フック55の高さK ・・・(式21)
ここで、ブームポイント高さは、ブームの起伏角θBに応じて予め記憶部704に格納されてもよいし、以下の式22によって算出されてもよい。
ブームポイント高さ=ブーム長さLB×sinθB+ブームフット高さJ ・・・(式22)
なお、ブーム長さLB、フック高さKおよびブームフット高さJは、予め記憶部704に格納されている。
【0120】
図21から
図22に示すように、フック55の揚程がΔHだけ変化したと仮定する。この場合、先の各実施形態と同様に、第2マイク受信部M2の俯角が調整される。具体的に、第2マイク受信部M2の補正俯角をθNと定義し、ブーム先端部16Tと第2マイク受信部M2との距離をLMと定義し、第2マイク受信部M2とフック55との距離をLXと定義すると、
図21の状態では、余弦定理から以下の式23が満たされる。
LX
2=LM
2+LW
2−2×LM×LW×cos(90−θB) ・・・(式23)
次に、
図22の状態で第2マイク受信部M2とフック55との距離をLX’と定義し、ブーム先端部16Tからフック55との距離をLW’と定義すると、以下の式24、式25が満たされる。
LX’
2=LM
2+LW’
2−2×LM×LW’×cos(90−θB) ・・・(式24)
LW’=LW−ΔH ・・・(式25)
なお、ΔHは、主巻用ウインチ34の回転量、主巻用ウインチ34の1回転あたりの巻き取り量およびブーム先端部16Tとフック55との間の主巻ロープ51の掛け数から公知の算出方法に基づいて算出されることが可能である。
式23、式24および式25および余弦定理から、以下の式26が導出される。
cosθN=(LX
2+LX’
2−ΔH
2)/(2×LX×LX’) ・・・(式26)
したがって、マイク角度演算部705が上記のθNを算出することで、駆動制御部700がスピーカー第1モーター713を制御して、マイク受信部Mの俯角をθMからθM−θNに調整することができる。
【0121】
ここでフック55は、ブーム先端部16Tから垂下された主巻ロープ51に接続されているため、振り子構造を有している。このため、吊り荷の吊り上げ時にフック55に振れが発生することがある。本実施形態では、当該振れを加味して第2マイク受信部M2の俯角が更に補正される。
【0122】
図22の状態で、主巻ロープ51に前後方向の振れが発生している場合を説明する。なお、前述のように、ワイヤ角度計723は主巻ロープ51(フック55)の前後方向の振れ角度θF(
図23)を検出することができる。また、ワイヤ角度計723は、公知の角度センサから構成されるが、他の実施形態において公知のIMU(Inertial Measurement Unit)やジャイロセンサなどから構成されてもよい。主巻ロープ51の左右方向の振れがゼロであると仮定し、
図23の第2マイク受信部M2とフック55との距離がLYと定義すると、以下の式27が満たされる。
LY
2=LM
2+LW’
2−2×LM×LW’×cos(90−θB+θF) ・・・(式27)
また、前後方向の振れに伴うフック55の移動量をLTと定義すると、余弦定理から以下の式28が満たされる。
LT
2=LW’
2+LW’
2−2×LW’×LW’×cosθF
=2×LW’
2×(1−cosθF) ・・・(式28)
したがって、式27、式28および余弦定理から角度θGについて式29が導出される。
cosθG=(LX’
2+LY
2−LT
2)/(2×LX’×LY) ・・・(式29)
したがって、
図22の状態に対して、更に補正角度θGだけ第2マイク受信部M2を姿勢変更することで、第2マイク受信部M2をフック55に追従させることができる。なお、フック55の振れ量は随時変化するため、上記の演算を繰り返しながら、第2マイク受信部M2の角度が調整されることが望ましい。
【0123】
次に、
図22の状態で、主巻ロープ51に左右方向の振れが発生している場合を説明する。
図25を参照して、ワイヤ角度計723は主巻ロープ51(フック55)の左右方向の振れ角度θQを検出することができる。このとき、クレーン10Aを上方から見た場合、
図24に示すように、フック55および第2マイク受信部M2を結ぶ直線とブーム中心線CBとは角度θPを形成している。また、ブーム先端部16Tとフック55との左右方向における距離がLZ、第2マイク受信部M2とブーム先端部16Tとの前後方向における距離がLPと定義される。また、
図23に示されるように、ブーム先端部16Tと第2マイク受信部M2との距離がLMで示される。
【0124】
この場合、以下の式30、式31が満たされる。
LP=LM×cosθB ・・・(式30)
LZ=LW’×sinθQ ・・・(式31)
図24から式32が成立する。
tanθP=LZ/LP ・・・(式32)
したがって、マイク角度演算部705(
図20)が式30、式31および式32から上記の角度θPを演算し、マイク第2モーター717を制御してマイク受信部Mを角度θPだけ揺動させることで、
図24、
図25に示すように、第2マイク受信部M2をフック55に向けて姿勢変更することができる。
【0125】
また、上記の前後方向および左右方向の振れに対する制御を同時に行うことで、フック55が前後方向、左右方向に同時に振れた場合でも、第2マイク受信部M2をフック55に向けて、スピーカー発振部603から発振される音を第2マイク受信部M2によって受信することができる。したがって、スピーカー発振部603から大きな出力で音波を発振する必要が低減する。なお、他のマイク受信部Mについても同様の制御が可能である。
【0126】
次に、上記の各実施形態において、第2フック位置取得部703によるフック55の位置検出動作について説明する。
図26は、本発明の各実施形態において、第2フック位置取得部703(位置算出部)が前後方向および上下方向を含む面内におけるフック55(吊り荷)の位置を算出する様子を示す模式図である。なお、当該説明では、基準マイク受信部M0をブーム16の先端に設けているが、基準マイク受信部M0に代えて第3マイク受信部M3が用いられてもよく、互いに隣接する3つのマイク受信部Mであれば同様にフック55の位置を算出可能である。
【0127】
第2フック位置取得部703は、フック55上のスピーカー発振部603が発振した音波を、基準マイク受信部M0、第1マイク受信部M1および第2マイク受信部M2のそれぞれが受信するタイミングのずれに基づいて、スピーカー発振部603から基準マイク受信部M0、第1マイク受信部M1および第2マイク受信部M2のそれぞれまでの距離の差分を算出する。具体的に、スピーカー発振部603がフック55の重心位置Fにあるとした場合、フック55の重心位置Fから基準マイク受信部M0までの距離をα(未知)とすると、第2フック位置取得部703は、フック55の重心位置Fから第1マイク受信部M1までの距離と距離αとの差分d1、及び、フック55の重心位置Fから第2マイク受信部M2までの距離と距離αとの差分d2を算出する。これらの距離の差分の算出は、例えば、対象とする2つのマイクの受信信号の相関関数に基づいて受信タイミングのずれ( 時間差)を計算し、当該時間差に音速を乗じることにより行ってもよい。
【0128】
第2フック位置取得部703は、基準マイク受信部M0、第1マイク受信部M1および第2マイク受信部M2のそれぞれの位置情報(基準マイク受信部M0と第1マイク受信部M1との距離X1、第1マイク受信部M1と第2マイク受信部M2との距離X2)、及び、上記のように算出された差分d1、d2に基づいて、上下方向および前後方向を含む面内におけるフック55の振れ角度θRを算出する。
【0129】
以下、距離X1、X2、差分d1、d2、及び、ブーム16の起伏角θBが既知または検出済みであるとして、振れ角度θRを算出する方法について説明する。
【0130】
第1マイク受信部M1とブーム先端部16Tとを結ぶ線分と、ブーム先端部16Tとフック55とを結ぶ線分とがなす角度を含む三角形、ならびに、第2マイク受信部M2とブーム先端部16Tとを結ぶ線分と、ブーム先端部16Tとフック55とを結ぶ線分とがなす角度を含む三角的にそれぞれ余弦定理を用いると、下記の式33、式34が導出される。
(α+d1)
2=α
2+X1
2−2×α×X1×cos(π/2+θR−θB)
=α
2+X1
2+2×α×X1×sin(θR−θB) ・・・(式33)
(α+d2)
2=α
2+(X1+X2)
2−2×α×(X1+X2)×cos(π/2+θR−θB)
=α
2+(X1+X2)
2+2×α×(X1+X2)×sin(θR−θB) ・・・(式34)
これらより、距離αに関し、下記の式35、式36が導出される。
α=(X1
2−d1
2)/(2×d1−2×X1×sin(θR−θB) ・・・(式35)
α=((X1+X2)
2−d2
2)/(2×d2−2×(X1+X2)×sin(θR−θB)) ・・・(式36)
従って、上記の式35および式36から距離αを消去すれば、振れ角度θRに関して下記の式37が導出される。
sin(θR−θB)=((X1+X2)
2×d1+d1×d2×(d1−d2)−X1
2×d2)/(X1×X2×(X1+X2)−X1×d2
2+(X1+X2)×d1
2) ・・・(式37)
したがって、式37に逆三角関数を適用した後、角度θBを足すことで、振れ角度θR(但し−π/2<θR<π/2)を算出することができる。
【0131】
振れ角度θRが得られれば、当該振れ角度θRに基づいてブーム16の起伏角θBを制御することにより、ブーム16のブーム先端部16Tとフック55(吊り荷)の重心位置Fとを鉛直線上に位置合わせすることができるため、荷振れの発生を防止することができる。なお、
図26のように、上下方向および前後方向を含む面内におけるフック55の振れ角度θR(フック55の位置)を算出するためには、
図26に示す側面視において複数のマイク受信部M(マイクユニット80)が配置されればよい。
【0132】
一方、
図27は、本発明の各実施形態において、第2フック位置取得部703(位置算出部)が前後方向および左右方向を含む面内におけるフック55(吊り荷)の位置を算出する様子を示す模式図である。
図27に示すように、3つのマイク受信部M2A、マイク受信部M2Bおよびマイク受信部M2Cが、クレーン10Aを上方から見てブーム16が延びる方向(
図27の前後方向)と直交する方向(
図27の左右方向)に沿って互いに間隔をおいて配置されている。具体的は、ブーム16の幅方向の中央部にマイク受信部M2A、ブーム16の幅方向の左端部にマイク受信部M2B、ブーム16の幅方向の右端部にマイク受信部M2Cがそれぞれ配置される。ここで、マイク受信部M2Aからマイク受信部M2B、マイク受信部M2Cのそれぞれまでの距離は共に同じ距離xである。
【0133】
すなわち、
図27が
図26と異なっている点は、3つのマイク受信部Mの取り付け位置、及び、第2フック位置取得部703が参照する後述の荷振れ角度θXの算出式である。当該荷振れ角度θXは、
図27に示すようにクレーン10Aを上から見てブーム16が延びる方向(
図27の前後方向)に対するフック55の角度である。換言すれば、荷振れ角度θXは、
図27において、フック55(吊り荷)の重心位置Fとブーム16におけるマイク受信部M2Aの位置Bとを結ぶ線が、ブーム16の延びる方向(直線SB)となす角度として表される。
【0134】
以下、
図26の場合と同様に、距離x、差分d1、d2が既知であるとして、荷振れ角度θXを算出する方法について説明する。
【0135】
マイク受信部M2Bとマイク受信部M2Aとを結ぶ線分と、マイク受信部M2Aとフック55とを結ぶ線分とがなす角度を含む三角形、ならびに、マイク受信部M2Aとマイク受信部M2Cとを結ぶ線分と、マイク受信部M2Cとフック55とを結ぶ線分とがなす角度を含む三角的にそれぞれ余弦定理を用いると、下記の式38、式39が導出される。
(α+d1)
2=α
2+x
2−2×α×x×cos(π/2−θX)
=α
2+x
2−2×α×x×sin(θX) ・・・(式38)
(α+d2)
2=α
2+x
2−2×α×x×cos(π/2+θX)
=α
2+x
2+2×α×x×sin(θX) ・・・(式39)
式38、式39より、距離αに関し、下記の式40が導出される。
α=(2×x
2−d1
2−d2
2)/2×(d1+d2) ・・・(式40)
【0136】
一方、式38、式39から下記の式41を導出することができる。
sin(θX)=(−d1
2+d2
2−2×α(d1−d2)))/(4α×x) ・・・(式41)
式41を式40に代入して逆三角関数を適用すれば、荷振れ角度θX(但し−π/2<θX<π/2)を算出することができる。
【0137】
荷振れ角度θXが得られれば、当該荷振れ角度θXに基づいて、クレーン10Aの上部旋回体12の旋回角度を制御することにより、クレーン10Aを上から見てブーム16が延びる方向(
図27の前後方向)に対して垂直な方向(
図27の左右方向)における荷振れの発生を防止することができる。なお、
図27のように、左右方向および前後方向を含む面内におけるフック55の振れ角度θX(フック55の位置)を算出するためには、
図27に示す平面視において複数のマイク受信部M(マイクユニット80)が配置されればよい。
【0138】
なお、上記のように第2フック位置取得部703が取得するフック55の位置情報は、前述の旋回角度計711、繰り出し量検出部712、ブーム角度計721、ジブ角度計722、ワイヤ角度計723などから取得されるフック55の位置情報よりも高い精度で検出される。一例として、ブーム角度計721およびジブ角度計722によって検出される起伏角度とブーム16およびジブ18の長さから算出されるフック55の位置には、ブーム16およびジブ18のたわみが加味されていない。一方、第2フック位置取得部703が算出する位置情報は、スピーカー発振部603から発振される音波の時間差に基づいているため、上記のようなブーム16およびジブ18のたわみの影響を除外することができる。
【0139】
また、第2フック位置取得部703は各マイク受信部Mに到達する音の時間差によってフック55の位置を算出するため、荷振れによってフック55の位置が刻々と変化する場合であっても、フック55の移動に追従するようにフック55の位置を算出することが可能となる。
【0140】
また、第2フック位置取得部703によって取得されるフック55(吊り荷)の位置情報は、上記のような荷振れ制御に限定して利用されるものではない。フック55によって吊り上げられた不図示の第1部材に開口されたボルト穴と、地上に載置された不図示の第2部材に開口されたボルト穴との位置を合わせるような作業においても、フック55の位置を正確に算出することによって、上記のボルト穴同士を精度よく位置合わせすることができる。
【0141】
以上、本発明の一実施形態に係るクレーン10(10A、10B)について説明した。なお、本発明はこれらの形態に限定されるものではない。本発明では、以下のような変形実施形態が可能である。
【0142】
(1)上記の各実施形態において、マイクユニット80のマイク受信部Mの姿勢変更およびスピーカーユニット60のスピーカー発振部603の姿勢変更は、少なくとも何れか一方が実行されればよい。また、複数のマイクユニット80のマイク受信部Mの姿勢が変更される場合には、フック55の位置に応じて、各マイク受信部Mの姿勢がそれぞれ調整されることが望ましい。この場合、前述のマイク第1軸部801およびマイク第2軸部803のうちの少なくとも一方の軸部回りに、各マイク受信部Mが個別に姿勢変更されてもよいし、その他の方向に延びる軸部回りにマイク受信部Mが姿勢変更されてもよい。
【0143】
(2)上記の各実施形態において、マイク受信部M(マイクユニット80)の数は特に限定されるものではない。第2フック位置取得部703が音波の時間差を用いてフック55の位置を算出するために、少なくとも2つのマイク受信部Mが配置されればよい。
【0144】
(3)また、第2フック位置取得部703がフック55の位置を算出する方法は上記に限定されるものではない。Journal of Robotics, Networking and Artificial Life, Vol.4, No. 4, March 2018, p.322-325に開示されているように、2つのマイクユニットが音源の音響信号をそれぞれ受信し、その2つの音響信号の到達時間差を求めた上で、この到達時間差と荷振れ角度との関係を非線形方程式で表し、計算処理によって荷振れ角度を算出する方法が適用されてもよい。この場合も、上下方向および前後方向を含む面内におけるフック55の振れ角度(フック55の位置)を算出するためには、
図26に示すような側面視において複数のマイク受信部M(マイクユニット80)が配置されればよい。また、左右方向および前後方向を含む面内におけるフック55の振れ角度(フック55の位置)を算出するためには、
図27に示すような平面視において複数のマイク受信部M(マイクユニット80)が配置されればよい。
【0145】
(4)また、本発明に係るクレーンは、上記のクレーン10(10A、10B)に限定されるものではなく、機体および起伏体を備える他の構造からなるクレーンであってもよい。