【解決手段】クレーン用荷振れ角度推定装置50は、所定の方向に沿って配置された音波受信器M1〜3と、吊り荷支持部又は吊り荷支持部に支持された吊り荷で発生した音を各音波受信器M1〜3が受信するタイミングのずれである時間差ΔT1、ΔT2を算出する時間差算出部51と、音の発生位置から各音波受信器M1〜3までの距離同士の差である距離差ΔD1、ΔD2を、荷振れ角度θをパラメータとする関数F1(θ)、F2(θ)で表す距離差算出部52と、音の音速を未知数Vとして、距離差ΔD1、ΔD2について成り立つ「V×ΔT1=F1(θ)」、及び、「V×ΔT2=F2(θ)」を用いて、荷振れ角度θを算出する荷振れ角度算出部53とを備える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、視覚センサを利用した荷振れ角度測定には、荷振れ角度を画像として取得できる位置に視覚センサを配置しなければならないという制約があるうえに、導入やメンテナンスにもコストがかかってしまうという問題がある。
【0008】
また、GNSSによる吊り荷位置測定については、GNSSの利用可能地域に関する制約に加えて、都市部のビル等の狭間でクレーンによる作業が行われる場合に衛星測位が不十分となって測定精度が悪くなるという問題がある。また、電波による吊り荷位置測定についても法規制等の問題がある。
【0009】
また、非特許文献1に記載の方法では、音速が既知であるという条件が必要となる。一般に、音速は、音が伝搬する空気の気温に依存すると共に,風外乱の影響を大きく受ける。さらに、厳密には、音速の算出には湿度や気圧等の影響も考慮しなければならない。
【0010】
しかし、屋外の気温は計測場所によって大きく異なる。例えば、直射日光の当たる場所と、そうではない日陰の場所とでは、気温の計測結果は大きく異なる。従って、温度センサをクレーンの機体上に設置した場合、音源とマイクロホンとの間の気温を正確に計測することは困難である。風速についても同様であり、クレーンの機体上に設置された風速計を用いて、音源とマイクロホンとの間の風速を正確に推定することは難しい。
【0011】
以上のように、屋外で非特許文献1に記載の方法を実施する場合、気温、風速等から音速を正確に求めることは困難であるため、荷振れ角度の推定精度が悪くなるという問題がある。
【0012】
前記に鑑み、本発明は、迅速且つ正確に低コストでクレーンの荷振れ角度を求めることを可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の目的を達成するために、本発明に係るクレーン用荷振れ角度推定装置は、吊り荷支持部と、吊り荷支持部を吊り下げる吊り下げ部と、吊り下げ部が取り付けられた支持部とを備えたクレーンに用いられる荷振れ角度推定装置であって、所定の方向に沿って配置された第1音波受信器、第2音波受信器及び第3音波受信器と、吊り荷支持部又は吊り荷支持部に支持された吊り荷で発生した音を第1音波受信器が受信するタイミングと前記音を第2音波受信器が受信するタイミングとの差である第1時間差ΔT1、及び、前記音を第1音波受信器又は第2音波受信器が受信するタイミングと前記音を第3音波受信器が受信するタイミングとの差である第2時間差ΔT2を算出する時間差算出部と、前記音の発生位置から第1音波受信器までの距離と前記音の発生位置から第2音波受信器までの距離との差である第1距離差ΔD1を、所定の方向における荷振れ角度θをパラメータとする第1関数F1(θ)で表すと共に、前記音の発生位置から第1音波受信器又は第2音波受信器までの距離と前記音の発生位置から第3音波受信器までの距離との差である第2距離差ΔD2を、荷振れ角度θをパラメータとする第2関数F2(θ)で表す距離差算出部と、前記音の音速を未知数Vとして、第1距離差ΔD1について成り立つ音速V×第1時間差ΔT1=第1関数F1(θ)、及び、第2距離差ΔD2について成り立つ音速V×第2時間差ΔT2=第2関数F2(θ)を用いて、荷振れ角度θを算出する荷振れ角度算出部とを備える。
【0014】
本発明に係るクレーン用荷振れ角度推定装置によると、吊り荷支持部又は吊り荷で発生した音を、3つの音波受信器で受信することによって、当該音を各音波受信器が受信するタイミングのずれ(音波到来時間差)を2つ求める。また、音の発生位置から各音波受信器までの距離同士の差を、荷振れ角度θをパラメータとする関数で表すと共に、当該距離差が、音波到来時間差と音速V(未知数)との積に等しいことを利用して、音速の測定(つまり気温、風速等の測定)を行うことなく、荷振れ角度θを算出する。すなわち、3つの音波受信器を用いて求めた2つの音波到来時間差のそれぞれについて、音波到来時間差と音速Vとの積と、荷振れ角度θをパラメータとする関数とが等しいという関係を利用して、音速測定の必要なく、荷振れ角度θを算出することができる。このため、迅速且つ正確に荷振れ角度θを求めることができる。ここで、荷振れ角度θと共に音速Vも算出可能である。
【0015】
また、本発明に係るクレーン用荷振れ角度推定装置によると、吊り荷支持部又は吊り荷で発生した音を用いて荷振れ角度推定を行うため、地形的制約や法規制等の制約を受けにくく、音波受信器として指向性マイク等を用いれば、騒音等の周囲環境の影響も受けにくくなる。さらに、音波受信器として例えば指向性マイクを用いたとしても、従来の視覚センサを用いた場合と比較して、低コストで荷振れ角度を算出することができる。また、音速の算出のために温度や風速等の環境条件の計測を行う必要がないため、温度計や風速計等の計測器が不要となるので、さらなる低コスト化を達成できる。
【0016】
以上のように、本発明に係るクレーン用荷振れ角度推定装置によると、迅速且つ正確に低コストでクレーンの荷振れ角度を算出することができる。
【0017】
尚、本発明に係るクレーン用荷振れ角度推定装置において、音波受信器は4つ以上配置されていてもよい。このようにすると、故障に対する冗長性が得られるのみならず、4つ以上の音波受信器の中から選択される3つの音波受信器の組み合わせが複数存在するので、各組み合わせ毎に荷振れ角度を算出し、その平均や多数決を取ること等によって、得られる荷振れ角度の精度を向上させることができる。
【0018】
また、本発明に係るクレーン用荷振れ角度推定装置において、各音波受信器は、例えばジブクレーンのジブや本体部等、クレーン自体に取り付けてもよいし、或いは、天井クレーンのような固定クレーンであれば、音波受信器の一部をクレーン外部の所定位置に設置してもよい。また、「所定の方向に沿って音波受信器が配置される」とは、ジブクレーンであれば、例えば、クレーンを上から見たときに「ジブ」の延びる方向に沿って各音波受信器が配置されることを意味し、必ずしも、全ての音波受信器が3次元における同一直線上に配置されることまでは必要としない。言い換えると、クレーンを上から見たときに「ジブ」の延びる方向に沿って全ての音波受信器が配置されていれば、クレーンを横(「ジブ」の延びる方向に対して垂直な方向)から見たときに各音波受信器が同一直線上に配置されていなくてもよい。
【0019】
また、本発明に係るクレーン用荷振れ角度推定装置において、荷振れ角度θの算出には、複数の音波到来時間差に基づいて非線形方程式を解く必要がある。この非線形方程式は、陽に解くことができないので、例えばニュートン法や二分法をはじめとする繰り返し計算等を利用して、荷振れ角度θを算出してもよい。この場合、非線形関数は微分可能であるので、勾配関数(勾配ベクトル)を積極的に利用することにより、演算の高速化を図ることもできる。
【0020】
また、本発明に係るクレーン用荷振れ角度推定装置において、音の発生源として、吊り荷支持部に装着された音波発信器をさらに備えてもよい。
【0021】
このようにすると、音波発信に指向性を持たせたり、音波発信のタイミングや音波帯域を調整することが可能となる。このため、吊り荷支持部等で自然発生する音、例えば、吊り荷に掛け渡されたロープと当該ロープを支持するフックとの間に生じる「きしみ音」、フックと吊り具との可動接合部に生じる「摩擦音」などを用いる場合と比べて、周囲の騒音の影響を受けにくい状態で荷振れ角度を推定することができる。この場合、音波発信器は、可聴帯域又は非可聴帯域の音波を発信してもよいが、可聴帯域の音波を発信すると、周辺の人間に吊り荷又は吊り荷支持部の接近を知らせて安全性を確保することができる。また、音波発信器は、オン/オフをリモートで制御できると、荷振れ角度推定が必要なときのみ、音波を発信することができるので、騒音対策になる。
【0022】
また、本発明に係るクレーン用荷振れ角度推定装置において、第1音波受信器、第2音波受信器及び第3音波受信器は、指向性を有してもよい。
【0023】
このようにすると、周囲の騒音の影響を受けにくい状態で荷振れ角度を推定することができる。
【0024】
また、本発明に係るクレーン用荷振れ角度推定装置において、クレーンは、支持部であるジブと、ジブを支持する本体部とを備えるジブクレーンであり、第1音波受信器、第2音波受信器及び第3音波受信器は、ジブに配置されてもよい。
【0025】
このようにすると、ジブクレーンにおいて、「ジブ」の延びる方向に沿った荷振れ角度を推定することができる。従って、得られた荷振れ角度に基づいてジブの起伏角を制御することにより、荷振れの発生を防止することができる。例えば、地切りの前に、得られた荷振れ角度に基づいてジブの起伏角を制御することにより、ジブ先端と吊り荷重心とを鉛直線上に位置合わせしておけば、地切りの際に荷振れが発生することを防止することができる。
【0026】
尚、本発明に係るクレーン用荷振れ角度推定装置において、所定の方向(以下、第1の方向ということもある)に対して垂直な第2の方向に沿って3つの他の音波受信器を配置し、当該他の音波受信器に対応して、前述の時間差算出部、距離差算出部及び荷振れ角度算出部をそれぞれ設けてもよい。このようにすると、第2の方向における荷振れ角度を算出できるので、吊り荷の正確な位置を立体的に把握することができる。
【0027】
ここで、「第1の方向に対して垂直な第2の方向に沿って他の音波受信器が配置される」とは、ジブクレーンであれば、例えば、クレーンを上から見たときに「ジブ」の延びる方向に対して垂直な方向に沿って他の音波受信器が配置されることを意味し、必ずしも、全ての他の音波受信器が3次元における同一直線上に配置されることまでは必要としない。言い換えると、クレーンを上から見たときに「ジブ」の延びる方向に対して垂直な方向に沿って全ての他の音波受信器が配置されていれば、クレーンを正面(「ジブ」の延びる方向)から見たときに全ての他の音波受信器が同一直線上に配置されていなくてもよい。
【0028】
また、「第1の方向に沿って配置された第1音波受信器、第2音波受信器及び第3音波受信器」のうちの1つの音波受信器と、「第2の方向に沿って配置された3つの他の音波受信器」のうちの1つの音波受信器とは、第1の方向と第2の方向とが交差する箇所に配置された共通の音波受信器であってもよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によると、迅速且つ正確に低コストでクレーンの荷振れ角度を推定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(実施形態1)
以下、実施形態1に係るクレーン用荷振れ角度推定装置について、図面を参照しながら説明する。
【0032】
図1は、本実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置によってジブクレーンの荷振れ角度を推定している様子の一例を示す図である。
図1に示すジブクレーンは、吊り荷1の支持部(吊り荷1と一体的に図示)と、当該支持部を吊り下げるワイヤー2と、ワイヤー2が一端Qに取り付けられたジブ3と、ジブ3の他端Oを支持する本体部10とを備えている。吊り荷1は、位置Pに重心を有する。ワイヤー2は、例えばシーブ(図示省略)を介して巻上げ/巻下げ可能にジブ3の一端Qに取り付けられている。
【0033】
本実施形態では、ジブ3は起伏角(ジブ3の延びる方向が地平面となす角度)φで持ち上げられている。吊り荷1は、ジブ3の延びる方向に沿って荷振れを生じており、荷振れ角度はθである。荷振れ角度θは、ジブ3の一端Qと吊り荷1の重心位置Pとを結ぶ線が鉛直方向(重力方向)となす角度であり、本実施形態での推定対象である。
【0034】
以下、簡単のため、本実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置で用いられる音の発生源が吊り荷1の重心位置Pにあるものとして説明するが、ジブ3の一端Qと吊り荷1の重心位置Pとを結ぶ線上に音の発生源があれば、得られる荷振れ角度θは同じになる。
【0035】
図2は、本実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置のブロック図である。
図2に示すように、クレーン用荷振れ角度推定装置50は、3つの音波受信器M1、M2、M3と、時間差算出部51と、距離差算出部52と、荷振れ角度算出部53とを備える。
【0036】
3つの音波受信器M1、M2、M3は、本実施形態ではジブ3に配置される。具体的には、
図1に示すように、ジブ3の一端Qに音波受信器M1、音波受信器M1から距離X1離れた箇所に音波受信器M2、音波受信器M2から距離X2離れた箇所に音波受信器M3がそれぞれ配置される。ここで、吊り荷1の重心位置Pから音波受信器M1、M2、M3のそれぞれまでの距離は、L、L+ΔD1、L+ΔD2である。音波受信器M1、M2、M3としては、一般的なマイクロホンが使用可能であるが、集音器等の指向性を持つ音波受信器を使用すると、騒音等の周囲環境の影響を受けにくくなる。
【0037】
図3は、本実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置による荷振れ角度推定方法のフローチャートである。
【0038】
図3に示すように、まず、ステップS1において、音源(例えば吊り荷1の重心位置Pに位置する)から発生した音を音波受信器M1、M2、M3で受信する。ここで、
図1に示すように、時刻t=0に音源で音が発生し、当該音を音波受信器M1、M2、M3がそれぞれ時刻t=T、T+ΔT1、T+ΔT2に受信したものとする。
【0039】
次に、ステップS2において、時間差算出部51は、音波受信器M1が音を受信したタイミング(t=T)と音波受信器M2が音を受信したタイミング(t=T+ΔT1)との差である第1時間差ΔT1、及び、音波受信器M1が音を受信したタイミング(t=T)と音波受信器M3が音を受信したタイミング(t=T+ΔT2)との差である第2時間差ΔT2を算出する。ΔT1、ΔT2の算出は、例えば、対象とする2つの音波受信器の受信信号の相関関数に基づいて行う。
【0040】
次に、ステップS3において、距離差算出部52は、音源位置(本実施形態では吊り荷1の重心位置P)から音波受信器M1までの距離(L)と音源位置から音波受信器M2までの距離(L+ΔD1)との差である第1距離差ΔD1を、荷振れ角度θをパラメータとする第1関数F1(θ)で表すと共に、音源位置から音波受信器M1までの距離(L)と音源位置から音波受信器M3までの距離(L+ΔD2)との差である第2距離差ΔD2を、荷振れ角度θをパラメータとする第2関数F2(θ)で表す。
【0041】
例えば、距離X1、X2は固定で予め既知であり、ジブ3の起伏角φ、距離L(ワイヤー2の繰り出し長さ)もクレーンの操作情報として特定可能であるとして、
図1に示す△PM1M2、△PM1M3に余弦定理を用いると、F1(θ)、F2(θ)はそれぞれ次のように表される。
【0042】
ΔD1=(L
2 +X1
2 +2L・X1・sin(θ−φ))
0.5 −L=F1(θ)
ΔD2=(L
2 +(X1+X2)
2 +2L・(X1+X2)・sin(θ−φ))
0.5 −L=F2(θ)
【0043】
次に、ステップS4において、荷振れ角度算出部53は、音源から発生した音の音速を未知数Vとして、第1距離差ΔD1について成り立つ「ΔD1=V×ΔT1=F1(θ)」、及び、第2距離差ΔD2について成り立つ「ΔD2=V×ΔT2=F2(θ)」を用いて、荷振れ角度θを算出する。すなわち、荷振れ角度θ及び音速Vを未知数とする2つの連立方程式を解くことによって、荷振れ角度θ及び音速Vを求めることが可能である。ここで、F1(θ)、F2(θ)は非線形であるので、例えばニュートン法や二分法をはじめとする繰り返し計算等を利用して、荷振れ角度θを算出してもよい。この場合、非線形関数は微分可能であるので、勾配関数(勾配ベクトル)を積極的に利用することにより、演算の高速化を図ることもできる。
【0044】
荷振れ角度θが得られれば、当該荷振れ角度θに基づいてジブ3の起伏角φを制御することにより、ジブ3の一端Qと吊り荷1の重心位置Pとを鉛直線上に位置合わせすることができるので、荷振れの発生を防止することができる。
【0045】
以上に説明したように、本実施形態によると、例えば吊り荷1で発生した音を、3つの音波受信器M1、M2、M3で受信することによって、当該音を各音波受信器M1、M2、M3が受信するタイミングのずれを2つ(音波到来時間差ΔT1、ΔT2)求める。また、音の発生位置から各音波受信器M1、M2、M3までの距離同士の差ΔD1、ΔD2を、荷振れ角度θをパラメータとする関数F1(θ)、F2(θ)で表すと共に、当該距離差ΔD1、ΔD2が、音波到来時間差ΔT1、ΔT2と音速V(未知数)との積に等しいことを利用して、音速の測定(つまり気温、風速等の測定)を行うことなく、荷振れ角度θを算出する。すなわち、3つの音波受信器M1、M2、M3を用いて求めた2つの音波到来時間差ΔT1、ΔT2のそれぞれについて、音波到来時間差ΔT1、ΔT2と音速Vとの積が、荷振れ角度θをパラメータとする関数F1(θ)、F2(θ)と等しいという関係を利用して、音速測定の必要なく、荷振れ角度θを算出することができる。また、荷振れ角度θと共に音速Vも算出可能である。
【0046】
ここで、気温や風速等を正確に計測することが困難な屋外等の環境においては、音速を推定することは困難であるので、音速を用いて荷振れ角度を推定すると、荷振れ角度の推定精度が低下する。それに対して、本実施形態では、気温や風速等から音速を計算する必要がないので,屋外等の環境においても荷振れ角度θの推定精度が向上する。すなわち、迅速且つ正確に荷振れ角度θを求めることができる。
【0047】
また、本実施形態によると、例えば吊り荷1で発生した音を用いて荷振れ角度推定を行うため、地形的制約や法規制等の制約を受けにくく、音波受信器M1、M2、M3として指向性マイク等を用いれば、騒音等の周囲環境の影響も受けにくくなる。さらに、音波受信器M1、M2、M3として例えば指向性マイクを用いたとしても、従来の視覚センサを用いた場合と比較して、低コストで荷振れ角度を算出することができる。また、音速の算出のために温度や風速等の環境条件の計測を行う必要がないため、温度計や風速計等の計測器が不要となるので、さらなる低コスト化を達成できる。
【0048】
以上のように、本実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置50によると、迅速且つ正確に低コストでクレーンの荷振れ角度を算出することができる。
【0049】
図4は、本実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置50で用いられる音の発生源の一例、具体的には、吊り荷1の支持部(以下、吊り荷支持部という)101を示す図である。
図4に示すように、吊り荷支持部101は、ワイヤー2の先端(下端)に取り付けられた吊り具102と、吊り具102に可動接合されたフック103と、フック103により支持され且つ吊り荷1に掛け渡されるロープ104とを有する。
【0050】
例えば、吊り荷支持部101が吊り荷1と共に揺動する場合、音の発生源として、ロープ104とフック103との間に生じる「きしみ音」、又は、フック103と吊り具102との可動接合部に生じる「摩擦音」などの自然発生音を利用してもよい。或いは、吊り荷支持部101の揺動によって能動的に音を発生させる部材、例えば、風鈴、チャイム、金属パイプ等を吊り具102やフック103に装着してもよい。
【0051】
また、吊り荷1が静止状態にあるときでも音が発生するように、例えば
図4に示すように、音波発信器105を吊り具102に装着してもよい。音波発信器105は、フック103又は吊り荷1に装着してもよい。音波発信器105は、
図5に示すように、クレーン用荷振れ角度推定装置50の構成要素の1つとなる。音波発信器105を用いることにより、音波発信に指向性を持たせたり、音波発信のタイミングや音波帯域を調整することが可能となる。このため、吊り荷支持部101で自然発生する音を用いる場合と比べて、周囲の騒音の影響を受けにくい状態で荷振れ角度推定を行うことができる。この場合、音波発信器105が可聴帯域の音波を発信すると、周辺の人間に吊り荷1又は吊り荷支持部101の接近を知らせて安全性を確保することができる。また、音波発信器105のオン/オフをリモートで制御できると、荷振れ角度推定が必要なときのみ、音波を発信することができるので、騒音対策になる。
【0052】
尚、本実施形態の荷振れ角度θの算出において、以上に述べた各種の音の発生源(音波発信器105を含む)は、ジブ3の一端Qと吊り荷1の重心位置Pとを結ぶ線上に位置させてもよい。このようにすると、荷振れ角度θの精度を向上させることができる。
【0053】
また、本実施形態において、クレーン用荷振れ角度推定装置50のうち時間差算出部51、距離差算出部52及び荷振れ角度算出部53は、例えば、クレーン(本体部10)の運転室内に制御装置(専用装置又は既存装置の一部)として搭載してもよい。また、当該制御装置は、コンピュータを備えており、当該コンピュータがプログラムを実行することによって、時間差算出部51、距離差算出部52及び荷振れ角度算出部53の各機能が実施される。コンピュータは、プログラムに従って動作するプロセッサ、プログラムの実行に必要なデータ(音波受信器の位置情報等)を記憶するメモリ等を主なハードウェア構成として備える。プロセッサは、プログラムを実行することによって機能を実現することができれば、その種類は問わないが、例えば半導体集積回路(IC)又はLSI(large scale integration)を含む一つ又は複数の電子回路により構成されていてもよい。複数の電子回路は、一つのチップに集積されてもよいし、複数のチップに設けられてもよい。複数のチップは一つの装置に集約されていてもよいし、複数の装置に備えられていてもよい。プログラムやデータは、コンピュータが読み取り可能なROM、光ディスク、ハードディスクドライブなどの非一時的記録媒体に記録される。プログラムやデータは、記録媒体に予め格納されていてもよいし、インターネット等を含む広域通信網を介して記録媒体に供給されてもよい。
【0054】
また、本実施形態において、時間差算出部51は、音波受信器M1が音を受信したタイミングと音波受信器M3が音を受信したタイミングとの差である第2時間差ΔT2に代えて、音波受信器M2が音を受信したタイミングと音波受信器M3が音を受信したタイミングとの差である時間差を算出してもよい。この場合、距離差算出部52は、音源位置から音波受信器M1までの距離と音源位置から音波受信器M3までの距離との差である第2距離差ΔD2に代えて、音源位置から音波受信器M2までの距離と音源位置から音波受信器M3までの距離との差である距離差を、荷振れ角度θをパラメータとする関数で表してもよい。
【0055】
(実施形態2)
以下、実施形態2に係るクレーン用荷振れ角度推定装置について、図面を参照しながら説明する。
【0056】
図6は、本実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置によって水平ジブクレーンの荷振れ角度を推定している様子の一例を示す図である。尚、
図6において、
図1に示すジブクレーン(実施形態1)と同じ構成要素には同じ符号を付す。
【0057】
本実施形態が
図1に示す第1の実施形態と異なっている点は、
図6に示すように、ジブ3が、地平面に対して水平に支柱15によって固定されている点である。また、ワイヤー2は、ジブ3に沿って移動可能なトロリー4に巻上げ/巻下げ可能に取り付けられている。さらに、ジブ3におけるトロリー4が配置されていない側には、カウンタウェイト16が設けられていると共に、支柱15の上部には、ジブ3の両側を支持するアーム17が設けられている。
【0058】
本実施形態では、吊り荷1は、ジブ3の延びる方向に沿って荷振れを生じており、荷振れ角度はθである。荷振れ角度θは、トロリー4(ジブ3の位置Qに配置)と吊り荷1の重心位置Pとを結ぶ線が鉛直方向(重力方向)となす角度であり、本実施形態での推定対象である。
【0059】
また、本実施形態では、3つの音波受信器M1、M2、M3のうち音波受信器M1はトロリー4に配置され、音波受信器M2、M3はジブ3に配置される。具体的には、
図6に示すように、音波受信器M1から距離X1離れた箇所に音波受信器M2、音波受信器M2から距離X2離れた箇所に音波受信器M3がそれぞれ配置される。ここで、吊り荷1の重心位置Pから音波受信器M1、M2、M3のそれぞれまでの距離は、L、L+ΔD1、L+ΔD2である。
【0060】
すなわち、本実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置が実施形態1と異なっている点は、音波受信器M1、M2、M3の取り付け位置、並びに、距離差算出部52及び荷振れ角度算出部53で用いる、荷振れ角度θをパラメータとする関数F1(θ)、F2(θ)の内容である。言い換えると、本実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置の構成は、
図2又は
図5に示す実施形態1又はその変形例のクレーン用荷振れ角度推定装置50と基本的に同じであり、本実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置による荷振れ角度推定方法も、
図3に示す実施形態1のフローチャートと基本的に同じである。
【0061】
具体的には、本実施形態においても、まず、ステップS1において、音源(例えば吊り荷1の重心位置Pに位置する)から発生した音を音波受信器M1、M2、M3で受信する。ここで、
図6に示すように、時刻t=0に音源で音が発生し、当該音を音波受信器M1、M2、M3がそれぞれ時刻t=T、T+ΔT1、T+ΔT2に受信したものとする。
【0062】
次に、ステップS2において、時間差算出部51は、音波受信器M1が音を受信したタイミング(t=T)と音波受信器M2が音を受信したタイミング(t=T+ΔT1)との差である第1時間差ΔT1、及び、音波受信器M1が音を受信したタイミング(t=T)と音波受信器M3が音を受信したタイミング(t=T+ΔT2)との差である第2時間差ΔT2を算出する。ΔT1、ΔT2の算出は、例えば、対象とする2つの音波受信器の受信信号の相関関数に基づいて行う。
【0063】
次に、ステップS3において、距離差算出部52は、音源位置(本実施形態では吊り荷1の重心位置P)から音波受信器M1までの距離(L)と音源位置から音波受信器M2までの距離(L+ΔD1)との差である第1距離差ΔD1を、荷振れ角度θをパラメータとする第1関数F1(θ)で表すと共に、音源位置から音波受信器M1までの距離(L)と音源位置から音波受信器M3までの距離(L+ΔD2)との差である第2距離差ΔD2を、荷振れ角度θをパラメータとする第2関数F2(θ)で表す。
【0064】
例えば、距離X2は固定で予め既知であり、距離X1(トロリー4の配置位置)、距離L(ワイヤー2の繰り出し長さ)もクレーンの操作情報として特定可能であるとして、
図6に示す△PM1M2、△PM1M3に余弦定理を用いると、F1(θ)、F2(θ)はそれぞれ次のように表される。
【0065】
ΔD1=(L
2 +X1
2 +2L・X1・sin(θ))
0.5 −L=F1(θ)
ΔD2=(L
2 +(X1+X2)
2 +2L・(X1+X2)・sin(θ))
0.5 −L
=F2(θ)
【0066】
次に、ステップS4において、荷振れ角度算出部53は、音源から発生した音の音速を未知数Vとして、第1距離差ΔD1について成り立つ「ΔD1=V×ΔT1=F1(θ)」、及び、第2距離差ΔD2について成り立つ「ΔD2=V×ΔT2=F2(θ)」を用いて、荷振れ角度θを算出する。すなわち、荷振れ角度θ及び音速Vを未知数とする2つの連立方程式を解くことによって、荷振れ角度θ及び音速Vを求めることが可能である。ここで、F1(θ)、F2(θ)は非線形であるので、例えばニュートン法や二分法をはじめとする繰り返し計算等を利用して、荷振れ角度θを算出してもよい。この場合、非線形関数は微分可能であるので、勾配関数(勾配ベクトル)を積極的に利用することにより、演算の高速化を図ることもできる。
【0067】
荷振れ角度θが得られれば、当該荷振れ角度θに基づいてトロリー4の位置を制御することにより、トロリー4(ワイヤー2の取付箇所)と吊り荷1の重心位置Pとを鉛直線上に位置合わせすることができるので、荷振れの発生を防止することができる。
【0068】
以上に説明した本実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置においても実施形態1と同様の効果を得ることができる。
【0069】
以上、本発明についての実施形態を説明したが、本発明は前述の実施形態のみに限定されず、発明の範囲内で種々の変更が可能である。すなわち、前述の各実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0070】
例えば、前述の各実施形態では、ジブクレーン(水平ジブクレーンを含む)を例として本発明について説明したが、吊り荷支持部と、吊り荷支持部を吊り下げる吊り下げ部と、吊り下げ部が取り付けられた支持部とを備えた他のタイプのクレーン、例えば天井クレーン、橋形クレーン等にも本発明は広く適用可能である。
【0071】
また、前述の各実施形態では、所定の方向に沿った音波受信器の設置数を3つとしたが、4つ以上にしてもよい。このようにすると、故障に対する冗長性が得られるのみならず、4つ以上の音波受信器の中から選択される3つの音波受信器の組み合わせが複数存在するので、各組み合わせ毎に荷振れ角度を算出し、その平均や多数決を取ること等によって、得られる荷振れ角度の精度を向上させることもできる。
【0072】
また、前述の各実施形態では、音源位置(例えば吊り荷1の重心位置P)から音波受信器M1までの距離Lが、ワイヤー2の繰り出し長さに等しいとして、2つの音波到来時間差ΔT1、ΔT2、及び、2つの関数F1(θ)、F2(θ)を用いて、荷振れ角度θを算出した。しかし、例えば、ワイヤー2にたるみが生じており、音源位置から音波受信器M1までの距離Lが未知数となる場合、所定の方向に沿った音波受信器の設置数を4つとして、3つの音波到来時間差ΔT1、ΔT2、ΔT3、及び、3つの関数F1(θ)、F2(θ)、F3(θ)を用いて、荷振れ角度θを算出してもよい。
【0073】
また、前述の各実施形態では、吊り荷支持部として、フック及び吊り具を例示したが、吊り荷を支持できれば、吊り荷支持部の種類は特に限定されない。また、吊り下げ部として、ワイヤーを例示したが、吊り荷を吊り下げられれば、吊り下げ部の種類は特に限定されず、例えば、ロープやチェーン等であってもよい。
【0074】
また、前述の各実施形態のクレーン用荷振れ角度推定装置で用いられる音、つまり、吊り荷支持部又は吊り荷で発生した音(吊り荷支持部又は吊り荷に装着された音波発信器が発生する音を含む)は、可聴音であってもよいし、或いは、超音波等の非可聴音であってもよい。
【0075】
また、前述の各実施形態では、全ての音波受信器をジブ3に設けたが、所定の方向に沿った設置位置であれば、少なくとも一部の音波受信器を例えばクレーンの本体部等に設置してもよい。また、天井クレーンのような固定タイプのクレーンであれば、音波受信器の少なくとも一部をクレーンの外部に設置してもよい。ここで、「所定の方向に沿って音波受信器が配置される」とは、ジブクレーンであれば、例えば、クレーンを上から見たときに「ジブ」の延びる方向に沿って各音波受信器が配置されることを意味し、必ずしも、全ての音波受信器が3次元における同一直線上に配置されることまでは必要としない。言い換えると、クレーンを上から見たときに「ジブ」の延びる方向に沿って全ての音波受信器が配置されていれば、クレーンを横(「ジブ」の延びる方向に対して垂直な方向)から見たときに各音波受信器が同一直線上に配置されていなくてもよい。
【0076】
また、前述の各実施形態において、所定の方向(以下、第1の方向という)に対して垂直な第2の方向に沿って3つの他の音波受信器を配置し、当該他の音波受信器に対応して、前述の時間差算出部51、距離差算出部52及び荷振れ角度算出部53と同様の機能部をそれぞれ設けてもよい。このようにすると、第2の方向における荷振れ角度を算出できるので、吊り荷の正確な位置を立体的に把握することができる。
【0077】
ここで、「第1の方向に対して垂直な第2の方向に沿って他の音波受信器が配置される」とは、ジブクレーンであれば、例えば、クレーンを上から見たときに「ジブ」の延びる方向に対して垂直な方向に沿って他の音波受信器が配置されることを意味し、必ずしも、全ての他の音波受信器が3次元における同一直線上に配置されることまでは必要としない。言い換えると、クレーンを上から見たときに「ジブ」の延びる方向に対して垂直な方向に沿って全ての他の音波受信器が配置されていれば、クレーンを正面(「ジブ」の延びる方向)から見たときに全ての他の音波受信器が同一直線上に配置されていなくてもよい。
【0078】
また、「第1の方向に沿って配置された3つの音波受信器」のうちの1つの音波受信器と、「第2の方向に沿って配置された3つの他の音波受信器」のうちの1つの音波受信器とは、第1の方向と第2の方向とが交差する箇所に配置された共通の音波受信器であってもよい。