(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-200493(P2020-200493A)
(43)【公開日】2020年12月17日
(54)【発明の名称】真空蒸着装置用の蒸着源
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20201120BHJP
【FI】
C23C14/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2019-106770(P2019-106770)
(22)【出願日】2019年6月7日
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】山本 晃平
(72)【発明者】
【氏名】北沢 僚也
(72)【発明者】
【氏名】山本 拓司
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029DB12
(57)【要約】
【課題】被蒸着物に対する蒸着に伴って収容箱内で蒸着材料が減少しても、収容箱内での単位時間当たりの昇華量または気化量を常時同等に保持することができる簡単な構成の真空蒸着装置用の蒸着源を提供する。
【解決手段】真空チャンバ1内に配置されて被蒸着物Swに対して蒸着するための本発明の真空蒸着装置Dm用の蒸着源DSは、固体の蒸着材料4を収容する収容箱5とこの蒸着材料を加熱する加熱手段53とを備え、被蒸着物に対向する収容箱の面51aに、昇華または気化した蒸着材料Mvを放出する放出開口54が設けられ、収容箱内に蒸着材料を収容箱の底面から所定高さ位置まで充填した場合を初期状態とし、蒸着材料の昇華または気化により蒸着材料の上層部分Mpの底面からの高さ位置が初期状態より低くなると、これに伴って上層部分の表面積が増加するように収容箱を構成した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内に配置されて被蒸着物に対して蒸着するための真空蒸着装置用の蒸着源であって、固体の蒸着材料を収容する収容箱とこの蒸着材料を加熱する加熱手段とを備え、被蒸着物に対向する収容箱の面に、昇華または気化した蒸着材料を放出する放出開口が設けられるものにおいて、
収容箱内に蒸着材料を収容箱の底面から所定高さ位置まで充填した場合を初期状態とし、蒸着材料の昇華または気化により蒸着材料の上層部分の底面からの高さ位置が初期状態より低くなると、これに伴って上層部分の表面積が増加するように収容箱を構成したことを特徴とする真空蒸着装置用の蒸着源。
【請求項2】
前記収容箱のいずれか1つの内側壁面が、収容箱の底面側に向けて末広がりのテーパ面であることを特徴とする請求項1記載の真空蒸着装置用の蒸着源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着装置用の蒸着源に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の蒸着源を備えた真空蒸着装置は例えば特許文献1で知られている。このものでは、被蒸着物を矩形のガラス基板(以下、「基板」という)、基板の蒸着源に対する相対移動方向をX軸方向、X軸方向に直交する基板の幅方向をY軸方向として、蒸着源は、蒸着材料を収容する収容箱と、収容箱の囲うように設けられた加熱手段とを有し、収容箱の基板との対向面(上面)には、筒状の放出開口(噴射ノズル)がY軸方向に間隔を存して列設されている(所謂ラインソース)。蒸着材料としては、固相から液相を経て気相に転移する気化性の材料や、固相から気相へ転移する昇華性の材料が広く利用される。
【0003】
真空チャンバ内でガラス基板に対して所定の薄膜を蒸着する場合には、真空チャンバ内を大気雰囲気とした状態で、収容箱にその底面から所定の高さ位置まで例えば粉末状の蒸着材料を充填し(初期状態)、その後に、真空チャンバ内を所定圧力まで真空排気する。そして、真空雰囲気の真空チャンバ内で、収容箱に収容された蒸着材料を加熱手段により加熱して昇華または気化させ、この昇華または気化した蒸着材料を各放出ノズルから放出させ、所定の余弦則に従い各放出開口から放出された蒸着材料を、蒸着源に対してX軸方向に相対移動する基板に付着、堆積させて所定の薄膜が蒸着される。
【0004】
ここで、粉末状の蒸着材料が充填された収容箱を加熱手段により加熱すると、主として収容箱の壁面から伝熱で蒸着材料が昇華または気化するが、このとき、充填された蒸着材料の上層部分からしか、昇華または気化した蒸着材料が収容箱の空間に放出されない。そして、収容箱内の蒸着材料が減少してくると、即ち、蒸着材料の上層部分の底面からの高さ位置が初期状態から低くなると、収容箱に残る蒸着材料に対する収容箱の壁面からの伝熱面積が減少し、蒸着材料に対する入熱量が低下する。このため、収容箱内での単位時間当たりの昇華量または気化量が少なくなり、これでは、一定の蒸着レートで被蒸着物表面に所定の薄膜を形成することができない。このような場合、収容箱の加熱温度を高くして入熱量を増加させればよいが、第2収容箱内での蒸着材料の減少に伴って熱容量が小さくなることで、蒸着材料が受ける熱負荷が大きくなって蒸着材料(特に、蒸着材料が有機材料であるような場合)が劣化する虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−77193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、被蒸着物に対する蒸着に伴って収容箱内で蒸着材料が減少しても、収容箱内での単位時間当たりの昇華量または気化量を常時同等に保持することができる簡単な構成の真空蒸着装置用の蒸着源を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、真空チャンバ内に配置されて被蒸着物に対して蒸着するための本発明の真空蒸着装置用の蒸着源は、固体の蒸着材料を収容する収容箱とこの蒸着材料を加熱する加熱手段とを備え、被蒸着物に対向する収容箱の面に、昇華または気化した蒸着材料を放出する放出開口が設けられ、収容箱内に蒸着材料を収容箱の底面から所定高さ位置まで充填した場合を初期状態とし、蒸着材料の昇華または気化により蒸着材料の上層部分の底面からの高さ位置が初期状態より低くなると、これに伴って上層部分の表面積が増加するように収容箱を構成したことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、被蒸着物に対する蒸着に伴って収容箱内で蒸着材料が減少することで、蒸着材料の上層部分の底面からの高さ位置が初期状態から低くなると、これに伴って、昇華または気化した蒸着材料が収容箱の空間に放出される上層部分の表面積が増加する構成を採用したため、蒸着材料に対する入熱量を殊更増加させることなく、しかも、収容箱の面に設けられる放出開口の形状や収容箱内に設けられることのある分散板に依らず、収容箱内での単位時間当たりの昇華量または気化量を常時同等に保持することができる。
【0009】
本発明においては、前記収容箱のいずれか1つの内側壁面が、収容箱の底面側に向けて末広がりのテーパ面であれば、簡単な構成で上層部分の表面積が増加することが実現でき、有利である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(a)は、本発明の実施形態の蒸着源を備える真空蒸着装置を説明する、一部を断面視とした部分斜視図、(b)は、真空蒸着装置を正面側からみた部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、被蒸着物を矩形の輪郭を持つ所定厚さのガラス基板(以下、「基板Sw」という)とし、基板Swの片面に所定の薄膜を蒸着する場合を例に本発明の真空蒸着装置用の蒸着源DSの実施形態を説明する。以下においては、「上」、「下」といった方向を示す用語は
図1を基準として説明する。
【0012】
図1(a)及び(b)を参照して、Dmは、本実施形態の蒸着源DSを備える真空蒸着装置である。真空蒸着装置Dmは、真空チャンバ1を備え、真空チャンバ1には、特に図示して説明しないが、排気管を介して真空ポンプが接続され、所定圧力(真空度)に真空排気して保持できるようになっている。また、真空チャンバ1の上部には基板搬送装置2が設けられている。基板搬送装置2は、蒸着面としての下面を開放した状態で基板Swを保持するキャリア21を有し、図外の駆動装置によってキャリア21、ひいては基板Swが真空チャンバ1内の一方向に所定速度で移動するようになっている。基板搬送装置2としては公知のものが利用できるため、これ以上の説明は省略する。また、以下においては、蒸着源DSに対する基板Swの相対移動方向をX軸方向、X軸方向に直交する基板Swの幅方向をY軸方向とする。
【0013】
基板搬送装置2によって搬送される基板Swと後述の蒸着源DSとの間には、板状のマスクプレート3が設けられている。本実施形態では、マスクプレート3は、基板Swと一体に取り付けられて基板Swと共に基板搬送装置2によって搬送されるようになっている。なお、マスクプレート3は、真空チャンバ1に予め固定配置しておくこともできる。マスクプレート3には、板厚方向に貫通する複数の開口31が形成され、これら開口31がない位置にて蒸着材料の基板Swに対する付着範囲が制限されることで所定のパターンで基板Swに蒸着されるようになっている。マスクプレート3としては、インバー、アルミ、アルミナやステンレス等の金属製の他、ポリイミド等の樹脂製のものが用いられる。そして、真空チャンバ1の底面には、X軸方向に移動される基板Swに対向させて本実施形態の蒸着源DSが設けられている。
【0014】
蒸着源DSは収容箱5を有する。収容箱5は、外容器51と、外容器51内に設置される内容器52とを備え、外容器51内には、内容器52の壁面をその全体に亘って覆うようにシースヒータ等の加熱手段53が設けられている。外容器51の上面(基板Swとの対向面)51aには、所定高さの筒体で構成される放出開口54がY軸方向に所定の間隔で複数本(本実施形態では、6本)列設され、各放出開口54から、昇華または気化した蒸着材料Mvを所定の余弦則に従い、放出できるようにしている。
【0015】
内容器52は、
図2に示すように、その上面が開口された切頭四角錐状のものである。即ち、内容器52の各側壁52a,52b(その内壁面を含む)が、その矩形の底面に向けて末広がりのテーパ面となっている。内容器52には、真空チャンバ1内での基板Swに対する蒸着に先立って、粉末状や顆粒状の固体の蒸着材料4が収容される。そして、真空チャンバ1を真空排気した後、加熱手段53を作動させると、主として各側壁52a,52bからの伝熱や、外容器51の上面51aからの輻射で蒸着材料4が加熱され、蒸着材料4が昇華または気化するようになっている。蒸着材料4としては、基板Sw表面に蒸着しようとする薄膜に応じて選択され、固相から液相を経て気相に転移する気化性の材料や、固相から気相に転移する昇華性の材料が利用される。
【0016】
上記真空蒸着装置Dmにより基板Swの下面に所定の薄膜を蒸着するのに際しては、真空チャンバ1内の大気雰囲気中にて内容器52に固体の蒸着材料4をその底面から所定高さ位置まで充填した後、図外の真空ポンプにより所定圧力まで真空排気する。次に、加熱手段53を作動させて蒸着材料4を加熱すると、蒸着材料4が昇華または気化して外容器51内に昇華雰囲気または気化雰囲気が形成され、真空チャンバ1内との圧力差で各放出開口54から所定の余弦則に従い放出される。これに併せて、基板搬送装置2によって一枚の基板SwがX軸方向に搬送される。これにより、収容箱5に対してX軸方向に相対移動する基板Swの下面に、各放出開口54から所定の余弦則に従い放出された蒸着材料Mvが付着、堆積して所定の薄膜が蒸着される。
【0017】
ここで、蒸着材料4が昇華または気化するとき、内容器52に充填された蒸着材料4の上層部分Mpからしか、昇華または気化した蒸着材料Mvが外容器51内の空間に放出されない。そして、内容器52内の蒸着材料4が減少してくると、即ち、蒸着材料4の上層部分Mpの底面からの高さ位置が初期状態から低くなると、充填された蒸着材料4に対する内容器52の壁面からの伝熱面積が減少することに加えて、外容器51の上面51aからの距離も長くなることで、蒸着材料4に対する入熱量が低下する。このため、外容器51内での単位時間当たりの昇華量または気化量が少なくなり、これでは、一定の蒸着レートで基板Sw表面に所定の薄膜を蒸着することができない。
【0018】
それに対して、上記実施形態では、蒸着材料4が昇華または気化することで、蒸着材料4の上層部分Mpの底面からの高さ位置が初期状態から低くなると、これに伴って、内容器52の各側壁52a,52bが末広がりのテーパ面となっているため、上層部分Mpの表面積が増加する。その結果、蒸着材料4に対する入熱量を殊更増加させることなく、しかも、外容器51の放出開口54の形状や、この外容器51内に、各放出開口54から蒸着材料Mvを略均等に放出されるために設けられることのある分散板(図示せず)に依らず、外容器51内での単位時間当たりの昇華量または気化量を常時同等に保持することができる。その上、簡単な構成で上層部分Mpの表面積が増加することが実現でき、有利である。
【0019】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、被蒸着物をガラス基板とし、基板搬送装置2によりガラス基板を一定の速度で搬送しながら蒸着するものを例に説明したが、真空蒸着装置Dmの構成は、上記のものに限定されるものではない。例えば、被蒸着物をシート状の基材とし、駆動ローラと巻取りローラとの間で一定の速度で基材を移動させながら基材の片面に蒸着するような装置にも本発明は適用できる。また、真空チャンバ1内に基板Swとマスクプレート3を一体として固定し、蒸着源DSに公知の構造を持つ駆動手段を付設して、基板Swに対して蒸着源を相対移動させながら蒸着するような装置にも本発明は適用できる。即ち、基板Swと蒸着源DSを相対的に移動させれば、基板Swと蒸着源DSのいずれか、もしくは両方を移動させてもよい。更に、外容器51に放出開口54を一列で設けたものを例に説明したが、複数例設けることもできる。
【0020】
また、上記実施形態では、収容箱5を外容器51と内容器52とで構成したものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、上面を開口した坩堝に対して本発明を適用することができる。また、内容器52を切頭四角錐状のもので構成したものを例に説明したが、全ての側壁をテーパ面とする必要はなく、蒸着材料の昇華または気化に伴って、上層部分Mpの表面積が連続してまたは段階的に増加すれば、その形状は問わない。
【符号の説明】
【0021】
Dm…真空蒸着装置、DS…真空蒸着装置用の蒸着源、Sw…基板(被蒸着物)、1…真空チャンバ、4…蒸着材料、Mp…蒸着材料4の上層部分、Mv…昇華または気化した蒸着材料、5…収容箱、51a…被蒸着物に対向する収容箱5の面(外容器51の上面)、52a,52b…収容箱5の内側壁面、54…放出開口。