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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-200495(P2020-200495A)
(43)【公開日】2020年12月17日
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット機構
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/35 20060101AFI20201120BHJP
【FI】
   C23C14/35 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2019-106855(P2019-106855)
(22)【出願日】2019年6月7日
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【弁理士】
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】須田 具和
(72)【発明者】
【氏名】太田 淳
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA09
4K029AA24
4K029CA05
4K029DC16
4K029DC43
4K029DC46
4K029KA03
(57)【要約】
【課題】ターゲットに形成されるエロージョンがターゲット全域においてより均一な深さで形成される。
【解決手段】スパッタリングターゲット機構は、ターゲットに対する磁気回路部の相対位置が移動可能に構成されたスパッタリングターゲット機構である。上記スパッタリングターゲット機構は、ターゲットと、磁気回路部とを具備する。上記ターゲットは、一軸方向に延在する。上記磁気回路部は、上記一軸方向に延在し、上記ターゲットの表面に磁場を漏洩させ、一部が上記ターゲットの中心から離れるつれターゲットからより離れていく。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットに対する磁気回路部の相対位置が移動可能に構成されたスパッタリングターゲット機構であって、
一軸方向に延在するターゲットと、
前記一軸方向に延在し、前記ターゲットの表面に磁場を漏洩させ、一部が前記ターゲットの中心から離れるつれ前記ターゲットからより離れていく磁気回路部と
を具備するスパッタリングターゲット機構。
【請求項2】
請求項1に記載のスパッタリングターゲット機構であって、
前記磁気回路部は、第1磁気回路ユニットと、前記一軸方向において前記第1磁気回路ユニットの両側に配置された一対の第2磁気回路ユニットを有し、
前記一対の第2磁気回路ユニットのそれぞれが前記第1磁気回路ユニットから離れるにつれ、前記一対の第2磁気回路ユニットのそれぞれと前記ターゲットとの距離が長くなる
スパッタリングターゲット機構。
【請求項3】
請求項1または2に記載のスパッタリングターゲット機構であって、
前記ターゲットは、プレーナ型であり、
前記ターゲットが前記一軸方向と交差する方向に揺動する
スパッタリングターゲット機構。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載のスパッタリングターゲット機構であって、
前記磁気回路部を前記ターゲットに投影した場合、前記磁気回路部は、前記ターゲットの内側に収まっている
スパッタリングターゲット機構。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載のスパッタリングターゲット機構であって、
前記一対の第2磁気回路ユニットのそれぞれの法線と、前記ターゲットの前記表面とがなす角度は、15°以上40°以下である
スパッタリングターゲット機構。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載のスパッタリングターゲット機構であって、
前記第1磁気回路ユニットの厚みと、前記一対の第2磁気回路ユニットの厚みとが同じである
スパッタリングターゲット機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングターゲット機構に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に膜を形成する方法として、スパッタリング法がある。スパッタリング法では、基板にスパッタリングターゲット(以下、ターゲット)を対向させて、ターゲット表面から放出されるスパッタリング粒子を基板に堆積させる。スパッタリング法では、ターゲット表面におけるプラズマ密度を高くするために、ターゲット裏面からターゲット表面に磁場を漏洩させてプラズマをターゲット表面で拘束するマグネトロンスパッタリング法がある。例えば、マグネトロンスパッタリング法の1つとして、ターゲット裏面で磁石を環状に配置する技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、マグネトロンスパッタリング法を採用した場合、ターゲット表面においてプラズマ密度が高い部分でターゲットが彫れるエロージョンが発生する。このエロージョンの形状を緩和するために、ターゲットと磁気回路との相対位置を揺動する技術がある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−102384号公報
【特許文献2】特開2015−214715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような揺動しても、ターゲット表面に形成されるエロージョンは、部分的に深くなる場合がある。ターゲットを効率よく使用するには、ターゲット全域において、エロージョンがより均一な深さで形成されることが望ましい。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、ターゲットに形成されるエロージョンがターゲット全域においてより均一な深さで形成されるスパッタリングターゲット機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るスパッタリングターゲット機構は、ターゲットに対する磁気回路部の相対位置が移動可能に構成されたスパッタリングターゲット機構である。上記スパッタリングターゲット機構は、ターゲットと、磁気回路部とを具備する。
上記ターゲットは、一軸方向に延在する。
上記磁気回路部は、上記一軸方向に延在し、上記ターゲットの表面に磁場を漏洩させ、一部が上記ターゲットの中心から離れるつれターゲットからより離れていく。
【0008】
このようなスパッタリングターゲット機構によれば、ターゲットの表面に磁場を漏洩させる磁気回路部の一部がターゲットの中心から離れるつれターゲットからより離れていくため、ターゲットに形成されるエロージョンがターゲット全域においてより均一な深さで形成される。
【0009】
上記スパッタリングターゲット機構においては、上記磁気回路部は、第1磁気回路ユニットと、上記一軸方向において上記第1磁気回路ユニットの両側に配置された一対の第2磁気回路ユニットを有し、上記一対の第2磁気回路ユニットのそれぞれが上記第1磁気回路ユニットから離れるにつれ、上記一対の第2磁気回路ユニットのそれぞれと上記ターゲットとの距離が長くなってもよい。
【0010】
このようなスパッタリングターゲット機構によれば、第1磁気回路ユニットの両側に配置された一対の第2磁気回路ユニットのそれぞれが第1磁気回路ユニットから離れるにつれ、一対の第2磁気回路ユニットのそれぞれとターゲットとの距離が長くなるため、ターゲットに形成されるエロージョンがターゲット全域においてより均一な深さで形成される。
【0011】
上記スパッタリングターゲット機構においては、上記ターゲットは、プレーナ型であり、上記ターゲットが上記一軸方向と交差する方向に揺動してもよい。
【0012】
このようなスパッタリングターゲット機構によれば、ターゲットがプレーナ型で、ターゲットが一軸方向と交差する方向に揺動しても、ターゲットに形成されるエロージョンがターゲット全域においてより均一な深さで形成される。
【0013】
上記スパッタリングターゲット機構においては、上記磁気回路部を上記ターゲットに投影した場合、上記磁気回路部は、上記ターゲットの内側に収まってもよい。
【0014】
このようなスパッタリングターゲット機構によれば、磁気回路部をターゲットに投影した場合、磁気回路部がターゲットの内側に収まっているため、ターゲットに形成されるエロージョンがターゲット全域においてより均一な深さで形成される。
【0015】
上記スパッタリングターゲット機構においては、上記一対の第2磁気回路ユニットのそれぞれの法線と、上記ターゲットの上記表面とがなす角度は、15°以上40°以下であってもよい。
【0016】
このようなスパッタリングターゲット機構によれば、一対の第2磁気回路ユニットのそれぞれの法線と、ターゲットの表面とがなす角度は、15°以上40°以下に設定されるので、ターゲットに形成されるエロージョンがターゲット全域においてより均一な深さで形成される。
【0017】
上記スパッタリングターゲット機構においては、上記第1磁気回路ユニットの厚みと、上記一対の第2磁気回路ユニットの厚みとが同じであってもよい。
【0018】
このようなスパッタリングターゲット機構によれば、第1磁気回路ユニットの厚みと、一対の第2磁気回路ユニットの厚みとが同じであっても、ターゲットに形成されるエロージョンがターゲット全域においてより均一な深さで形成される。
【発明の効果】
【0019】
以上述べたように、本発明によれば、ターゲットに形成されるエロージョンがターゲット全域においてより均一な深さで形成されるスパッタリングターゲット機構が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態のターゲット機構を有する成膜装置の模式的断面図である。
図2】図(a)は、本実施形態のターゲット機構の模式的平面図である。図(b)は、本実施形態のターゲット機構の模式的断面図である。
図3】本実施形態のターゲット機構の表面近傍に形成されるプラズマを示す模式的平面図である。
図4】比較例に係るターゲット機構の構造及び揺動を示す模式的平面図である。
図5】比較例におけるターゲットの彫れ率の一例を示すマップ図である。
図6】本実施形態のターゲットのエロージョン形成の様子を示す模式的断面図である。
図7】本実施形態のターゲット機構の変形例を示す模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。各図面には、XYZ軸座標が導入される場合がある。また、同一の部材または同一の機能を有する部材には同一の符号を付す場合があり、その部材を説明した後には適宜説明を省略する場合がある。
【0022】
図1は、本実施形態のターゲット機構を有する成膜装置の模式的断面図である。
【0023】
図1に示す成膜装置101は、真空容器10と、基板搬送機構20と、スパッタリングターゲット機構31と、電源35と、ガス供給源70とを具備する。本実施形態では、"スパッタリングターゲット"を"ターゲット"と呼び、"スパッタリングターゲット機構"を"ターゲット機構"と呼ぶ場合がある。また、スパッタリングターゲット機構31と、電源35とを含めて成膜源30とする。
【0024】
真空容器10は、真空室11、12、13を有する。図1では、真空室12、13のそれぞれの一部が示されている。また、真空室の数は、3つとは限らず、2個以下、あるいは、4個以上でもよい。
【0025】
真空室11、真空室12、及び真空室13のそれぞれは、減圧状態を維持することができる真空容器である。例えば、真空室11内のガスは、排気口10dを通じてターボ分子ポンプ等の排気機構によって外部に排気される。真空室12及び真空室13のそれぞれについても、排気機構によって減圧状態が維持される。
【0026】
図1の例では、成膜装置101が連続式(例えば、インライン式)の成膜装置になっている。例えば、真空室12は、真空室11に減圧状態で連結可能になり、真空室13は、真空室11に減圧状態で連結可能になっている。また、側壁10waには、バルブ15が設けられ、側壁10wbには、バルブ16が設けられている。
【0027】
例えば、バルブ15が開状態になると、真空室12と真空室11との間に開口が形成され、バルブ15が閉状態になると、真空室12と真空室11との間の開口が閉じられる。バルブ16が開状態になると、真空室11と真空室13との間に開口が形成され、バルブ16が閉状態になると、真空室11と真空室13との間の開口が閉じられる。
【0028】
真空室11、12、13の中、真空室11は、成膜可能な処理室として機能する。例えば、バルブ15が開状態となり、基板21及び基板21を支持するキャリア(基板ホルダ)22が真空室12から開口を介して真空室11に搬入される。バルブ15が閉状態となると、真空室11で基板21にスパッタリング成膜がなされる。スパッタリング成膜が終了すると、バルブ16が開状態になり、基板21及びキャリア22が真空室11から開口を介して真空室13に搬出される。
【0029】
基板21は、例えば、平面形状が矩形の大型ガラス基板である。基板21が成膜源30に対向する面は、成膜面21dである。
【0030】
基板搬送機構20は、真空容器10内で基板21を搬送する。基板搬送機構20は、ローラ回転機構20r及びフレーム部20fを有する。ローラ回転機構20rは、フレーム部20fによって支持されている。ローラ回転機構20r上に、基板21及びキャリア22が載置されると、ローラ回転機構20rが自転することにより、基板21及びキャリア22がバルブ15からバルブ16に向けてスライド移送される。これにより、基板21が真空室11内に搬入されたり、真空室11外に搬出されたりする。真空室11における基板21の搬入出は、例えば、自動的に行われる。
【0031】
成膜装置101で成膜処理がなされる基板の枚数は、一枚とは限らない。例えば、成膜装置101に仕込まれた複数の基板21が真空室11で定期的に一枚ずつ成膜処理がなされる。この際、バルブ15、16は、定期的に開閉する。
【0032】
成膜源30は、図1の例では、例えば、2つの成膜源30を有する。2つの成膜源30は、基板21が搬送される方向Tに並ぶ。2つの成膜源30のそれぞれは、スパッタリングターゲット機構31及び電源35を有する。成膜源30の数は、2つに限らず、1つでもよく、3つ以上でもよい。
【0033】
ターゲット機構31は、ターゲット32、バッキングプレート33、及び磁気回路部34を有する。
【0034】
ターゲット32は、基板21に対向している。ここで「対向」とは、直接的に何らかの部材に向かい合う意味でもよく、あるいは他の部材を介して何らかの部材に向かい合う意味で用いられる。例えば、ターゲット32は、ITO(酸化インジウムスズ)、金属等を含む。
【0035】
ターゲット32は、バッキングプレート33に支持される。ターゲット32及びバッキングプレート33のそれぞれは、プレーナ型である。ターゲット32及びバッキングプレート33のそれぞれは、搬送方向Tに直交する方向(例えば、X軸方向)に延在する。バッキングプレート33の内部には、冷却媒体が流れる流路が設けられてもよい。
【0036】
また、ターゲット機構31においては、ターゲット32に対する磁気回路部34の相対位置が移動可能に構成されている。例えば、ターゲット32が搬送方向Tに沿って揺動する。図1では、揺動する方向が矢印M1で表されている。揺動する方向M1は、搬送方向Tと平行である。
【0037】
ここで、「ある方向に沿って揺動する」とは、ある方向と同じ方向に移動する動作、ある方向と逆方向に移動する動作が交互に繰り返されることを意味する。
【0038】
磁気回路部34は、基板21とは反対側のターゲット32の裏面側に配置されている。ターゲット32の表面に磁力線が漏洩することにより、ターゲット32の表面における磁束密度がターゲット32と基板21との間で高くなる。これにより、ターゲット32の表面近傍におけるプラズマ密度が高くなる。
【0039】
また、磁気回路部34は、真空室11内で固定されている。すなわち、真空室11内での磁気回路部34の位置は、固定され、磁気回路部34上で、ターゲット32が搬送方向Tに沿って揺動する。
【0040】
成膜装置101では、真空容器10内に放電用ガスが導入され、ターゲット32に電源35から電圧が印加されると、ターゲット32とアース部(真空容器10、基板搬送機構20、キャリア22及び防着板10p等)との間で放電用ガスが電離し、ターゲット32とアース部との間にプラズマが発生する。
【0041】
ターゲット32に供給される電圧は、直流電圧または交流電圧である。交流電圧の場合、その周波数は、10kHz以上300MHz以下(例えば、13.56MHz)である。
【0042】
ターゲット32からスパッタリングされたスパッタリング粒子S1は、基板21の成膜面21dに到達する。これにより、成膜面21dにスパッタリング粒子S1が堆積して、膜が形成される。
【0043】
ガス供給源70は、流量調整器71及びガスノズル72を有する。流量調整器71及びガスノズル72のそれぞれの数は、図示された数に限らない。なお、基板搬送機構20と成膜源30との間には、防着板10pが設けられている。
【0044】
ターゲット機構31について詳細に説明する。
【0045】
図2(a)は、本実施形態のターゲット機構の模式的平面図である。図2(b)は、本実施形態のターゲット機構の模式的断面図である。図2(b)には、図2(a)のA1−A2線に沿った断面が示されている。
【0046】
図2(a)に示すように、ターゲット機構31は、ターゲット32と、バッキングプレート33と、磁気回路部34とを有する。
【0047】
ターゲット32は、一軸方向(X軸方向)に延在する。ターゲット32のX−Y軸平面における平面形状は、例えば、X軸方向を長手方向とし、Y軸方向を短手方向とする長方形である。長手方向は、搬送方向Tと直交する方向である。すなわち、ターゲット32は、所謂プレーナ型のターゲットである。ターゲット32のX軸方向における長さは、基板21のX軸方向の幅に応じて適宜設定される。
【0048】
バッキングプレート33は、ターゲット32を支持する。バッキングプレート33のX−Y軸平面における平面形状は、X軸方向を長手方向とし、Y軸方向を短手方向とする長方形である。バッキングプレート33のサイズは、ターゲット32のサイズに応じて適宜設定される。例えば、バッキングプレート33の面積は、ターゲット32の面積よりも大きく設定される。ターゲット32及びバッキングプレート33は、X軸方向と交差する方向に揺動する。
【0049】
磁気回路部34は、Z軸方向から上面視した場合、X軸方向に延在する。磁気回路部34は、基板21とは反対側のターゲット32の背面側に配置される。例えば、バッキングプレート33は、磁気回路部34とターゲット32とによって挟まれる。また、Z軸方向から上面視した場合、磁気回路部34は、ターゲット32の領域内に位置する。例えば、Z軸方向において、磁気回路部34をターゲット32に投影した場合、磁気回路部34は、ターゲット32の内側に収まっている。磁気回路部34は、ターゲット32の表面に磁場を漏洩させる。
【0050】
磁気回路部34は、磁気回路ユニット34a(第1磁気回路ユニット)と、X軸方向において、磁気回路ユニット34aの両側に配置された一対の磁気回路ユニット34b(第2磁気回路ユニット)とを有する。
【0051】
磁気回路ユニット34aは、X軸方向に延在する。磁気回路ユニット34aは、磁石部341aと、Y軸方向において、磁石部341aの両側に配置された一対の磁石部342aと、ヨーク部345aとを有する。磁石部341aは、ターゲット32の背面に向かってS極が臨んでいる。磁石部342aは、ターゲット32の背面に向かってN極が臨んでいる。
【0052】
一対の磁気回路ユニット34bのそれぞれは、X軸方向に延在するとともに、ターゲット32に対して斜めに配置される。一対の磁気回路ユニット34bのそれぞれは、磁気回路ユニット34aと連続的に配置されている。すなわち、磁気回路部34では、X軸方向において、一方の磁気回路ユニット34bと、磁気回路ユニット34aと、他方の磁気回路ユニット34bとが連続的に並んでいる。
【0053】
また、一対の磁気回路ユニット34bのそれぞれは、磁石部341bと、磁石部341bを囲む磁石部342bと、ヨーク部345bとを有する。
【0054】
磁石部341bは、磁石部341aと連続的に配置されている。磁石部342bは、磁石部341aの両側に配置された磁石部342aのそれぞれと連続的に配置されている。磁石部341bは、ターゲット32の背面に向かってS極が臨んでいる。磁石部342bは、ターゲット32の背面に向かってN極が臨んでいる。
【0055】
これにより、Z軸方向から上面視した場合、磁気回路部34では、一軸方向に延在するS極の磁石がN極の磁石に囲まれた構成をしている。なお、磁石部のそれぞれでは、例えば、複数のブロック状磁石が列状に並んでいる。
【0056】
また、図2(b)に示すように、磁気回路部34の中心部は、ターゲット32に沿って配置されている。磁気回路部34の中心部を除いた磁気回路部34の一部は、ターゲット32と交差するように構成されている。例えば、磁気回路部34の一部は、ターゲット32の中心から離れるにつれ、ターゲットからより離れていくように構成されている。
【0057】
例えば、一対の磁気回路ユニット34bのそれぞれは、ターゲット32と交差するように配置されている。例えば、一対の磁気回路ユニット34bのそれぞれは、X軸方向において磁気回路ユニット34aから離れるにつれ、一対の磁気回路ユニット34bのそれぞれとターゲットと32とのの距離が長くなっている。
【0058】
なお、磁石部341a、342aは、ヨーク部345aに支持され、磁石部341b、342bは、ヨーク部345bに支持される。また、磁気回路ユニット34aの厚みは、一対の磁気回路ユニット34bのそれぞれの厚みと同じである。例えば、磁気回路ユニット34aに含まれる磁石部341a、342aの厚みは、磁気回路ユニット34bに含まれる磁石部341b、342bの厚みと同じである。また、磁気回路ユニット34a、34bのサイズ、磁気回路ユニット34bの角度は、適宜変更される。
【0059】
図3は、本実施形態のターゲット機構の表面近傍に形成されるプラズマを示す模式的平面図である。
【0060】
図3には、磁気回路部34によってプラズマが拘束されて形成される高密度プラズマ領域346(濃いプラズマ領域)がドットで示されている。高密度プラズマ領域346は、ターゲット32の表面に形成される。高密度プラズマ領域346は、X軸方向に平行に延びた2つの領域を含むストレート領域346sと、ストレート領域346sの端をU字状に折り返す2つのコーナ領域346cとにより構成される。
【0061】
また、図3には、ターゲット32の揺動方向が示されている。ターゲット32は、揺動幅M11で搬送方向Tに沿って揺動する。ターゲット32を揺動することで、エロージョンが局部的にターゲット32に形成されにくく、ターゲット32が全体的に彫り下げられていく。この際、磁気回路部34は、真空容器10内で固定されている。
【0062】
本実施形態のターゲット機構31の作用を説明する前に、磁気回路ユニット34bのようなターゲット32に対して斜めに配置される磁気回路ユニットを持たない磁気回路部を用いた場合に起き得る現象を説明する。
【0063】
図4(a)、(b)は、比較例に係るターゲット機構の構造及び揺動を示す模式的平面図である。
【0064】
図4(a)に示すように、磁気回路部34は、ターゲット32に対して斜めに配置される磁気回路ユニットを持たず、全体がプレーナ状になっている。すなわち、磁気回路部34の全域は、ターゲット32と平行に配置されている。
【0065】
図4(a)、(b)に示すように、ターゲット32は、磁気回路部34が固定された状態で、搬送方向Tに沿って揺動幅M11で揺動する。
【0066】
例えば、図4(a)では、ターゲット32が磁気回路部34に対して最も左側に移動した状態が示され、図4(b)には、ターゲット32が磁気回路部34に対して最も右側に移動した状態が示されている。この左右に示す状態が交互に繰り返されることで、高密度プラズマ領域346がターゲット32の局所部分に晒されることが回避され、ターゲット32におけるエロージョン形成が緩和される。しかし、この場合、以下に説明する現象が起きる。
【0067】
例えば、ターゲット32を高密度プラズマ領域346のストレート領域346s下を揺動するストレート部32sと、高密度プラズマ領域346のコーナ領域346c下を揺動する端部32eとに分ける。
【0068】
ストレート部32sは、高密度プラズマ領域346のストレート領域346sに対して、Y軸方向に沿って揺動する。このため、ストレート部32sの全域が高密度プラズマ領域346のストレート領域346sに満遍なく晒される。これにより、ストレート部32sにおけるターゲットの彫れ率(%)は、略均一になる。
【0069】
ここで、ターゲットの「彫れ率」とは、任意の位置におけるターゲットの使用開始前の厚みをtとし、その位置におけるターゲットの使用後の厚みをtとした場合、(1−(t−t)/t)×100(%)で定義される。
【0070】
一方、端部32eは、U字状の高密度プラズマ領域346のコーナ領域346cに対して、Y軸方向に沿って揺動する。ここで、U字状のコーナ領域346cには、揺動方向と同じ方向に延在する領域346eが含まれている。このため、端部32eの中心付近は、揺動の際、領域346eに晒される。従って、端部32eの中心付近の彫れ率は、ストレート部32sの彫れ率に比べて相対的に大きくなる。このことを確認するために、ターゲット32の彫れ率の面内分布をシミュレーションにより求めた。
【0071】
図5は、比較例におけるターゲットの彫れ率の一例を示すマップ図である。
【0072】
図5のグリッド部における縦横の寸法の単位は、ミリメートル(mm)である。このマップ図では、色が濃くなるほど、彫れ率(%)が高くなることを意味している。色の濃さと彫れ率との対応は、マップ図の左に示されている。
【0073】
図5には、ターゲット32において、Y軸方向に沿った揺動幅M11が50mm(搬送方向と同方向に25mm、搬送方向と逆方向に25mm)のときの掘れ率が2次元状に示されている。ターゲット32のY軸方向における幅は、145mmである。なお、ターゲット32は、X軸方向に対称であるため、残りの約半分については略されている。
【0074】
図5に示すように、ターゲット32をY軸方向に沿って揺動した場合には、ストレート部32sにおいて彫れ率が略均一になるものの、端部32eには、彫れ率がストレート部32sに比べて大きくなる部分が存在している。例えば、ストレート部32sにおける彫れ率は、40%弱(37%)であるのに対し、端部32eの中心における彫れ率は、100%になっている。
【0075】
このように、比較例では、ターゲット32の端部32eの中心部において局所的な彫れ率の低下が見られた。換言すれば、端部32eにおける掘れ速度がストレート部32sにおける掘れ速度よりも速くなり、端部32eでの彫れがターゲット使用効率の律速になってしまう。
【0076】
図6(a)、(b)は、本実施形態のターゲットのエロージョン形成の様子を示す模式的断面図である。
【0077】
図6(b)は、図6(a)からスパッタリング時間がある程度経過した後の状態が示されている。例えば、図6(a)に比べて、図6(b)では、ターゲット32全体の厚みが薄くなっている。
【0078】
ここで、ターゲット機構31の磁気回路ユニット34aにおいては、ターゲット32と平行に配置されているため、ターゲット32のストレート部32sにおける掘れ率は、比較例と略同じになる。
【0079】
一方、磁気回路ユニット34bは、磁気回路ユニット34aから離れるにつれ、ターゲット32の端部32eから離れるように構成されている。このため、磁気回路ユニット34bの法線34nは、端部32eに対して斜めに交わる。例えば、法線34nとターゲット32の表面320とがなす角度θは、15°以上40°以下に設定される。
【0080】
従って、高密度プラズマ領域346のコーナ領域346cは、時間経過とともに徐々にターゲット32のストレート部32sに近づく。これは、磁気回路ユニット34bの法線34nが端部32eに対して斜めに交わっているため、端部32eの彫れに応じて、コーナ領域346cの表面に漏れ出る磁力線が磁気回路ユニット34aに近づくためである。例えば、図6(a)に比べて、図6(b)では、高密度プラズマ領域346のコーナ領域346cがターゲット32のストレート部32sの側に寄っている。換言すれば、スパッタリングにより端部32eの厚みが薄くなるにつれ、高密度プラズマ領域346のコーナ領域346cがX軸方向に移動する。
【0081】
このように、ターゲット機構31を用いれば、比較例に比べて、ターゲット32の端部32eの彫れ速度を鈍化させることができる。これにより、角度θを調整することにより、ターゲット32の端部32eにおける彫れ率と、ターゲット32のストレート部32sにおける彫れ率とを略同じ値にすることができる。
【0082】
【表1】
【0083】
表1に、法線34nとターゲット32の表面320とがなす角度θと、R比との関係が示されている。ここで、R比とは、本実施形態の端部32eの中心における彫れ率(%)に対する比較例の端部32eの中心における彫れ率(100%)の比で定義される。
【0084】
例えば、角度が90°では、磁気回路ユニット34bは、ターゲット32の表面320と平行になるため、比較例と同じ構成になる。従って、それぞれの彫れ率は、同じになり、R比は「1」になる。角度θを徐々に下げていくと、R比は、上昇し、例えば、20°で2.9になる。このとき、彫れ率は、100%/2.9で34%となり、ストレート部32sの彫れ率37%と均衡する。例えば、角度θが15°以上40°以下に設定されれば、ストレート部32sにおける彫れ率と、端部32eにおける彫れ率とが均衡し、スパッタリング時には、ターゲット32全域において均一にターゲット表面が彫れていく。
【0085】
(変形例)
【0086】
図7は、本実施形態のターゲット機構の変形例を示す模式的斜視図である。
【0087】
図7に示すように、磁気回路部34は、バッキングチューブ37を介して、円筒状のターゲット36内に収容されてもよい。ターゲット36は、磁気回路部34の周りを回転することができる。このようなターゲット機構(ロータリターゲット機構)においても、スパッタリング時には、ターゲット36全域において均一にターゲット表面が彫れていくことになる。
【0088】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。各実施形態は、独立の形態とは限らず、技術的に可能な限り複合することができる。
【符号の説明】
【0089】
10…真空容器
10d…排気口
10w…側壁
10p…防着板
11、12、13…真空室
15、16…バルブ
20…基板搬送機構
20r…ローラ回転機構
20f…フレーム部
21…基板
21d…成膜面
22…キャリア
30…成膜源
31…ターゲット機構(スパッタリングターゲット機構)
32、36…ターゲット
32s…ストレート部
32e…端部
33…バッキングプレート
34…磁気回路部
34a、34b…磁気回路ユニット
34n…法線
35…電源
37…バッキングチューブ
70…ガス供給源
71…流量調整器
72…ガスノズル
101…成膜装置
320…表面
341a、341b、342a、342b…磁石部
345a、345b…ヨーク部
346…高密度プラズマ領域
346s…ストレート領域
346c…コーナ領域
346e…領域
S1…スパッタリング粒子
M11…揺動幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7