【解決手段】成膜装置は、スパッタリングターゲット機構と、遮蔽板とを具備する。上記スパッタリングターゲット機構は、一軸方向に延在し、上記一軸方向を中心に回転可能な筒状のターゲットと、上記ターゲットの内部に設けられ、上記ターゲットの表面から漏洩する磁場を発生させる複数の磁石ユニットを有し、上記複数の磁石ユニットが上記一軸方向に分割配置され、上記複数の磁石ユニットのそれぞれが上記一軸方向を中心に独立して回転することが可能な磁場発生機構とを有する。上記遮蔽板は、上記ターゲットに対向し、上記ターゲットから放出されるスパッタリング粒子を通過させる隙間部が形成され、上記隙間部が上記一軸方向に延在する。
一軸方向に延在し、前記一軸方向を中心に回転可能な筒状のターゲットと、前記ターゲットの内部に設けられ、前記ターゲットの表面から漏洩する磁場を発生させる複数の磁石ユニットを有し、前記複数の磁石ユニットが前記一軸方向に分割配置され、前記複数の磁石ユニットのそれぞれが前記一軸方向を中心に独立して回転することが可能な磁場発生機構とを有するスパッタリングターゲット機構と、
前記ターゲットに対向し、前記ターゲットから放出されるスパッタリング粒子を通過させる隙間部が形成され、前記隙間部が前記一軸方向に延在した遮蔽板と
を具備する成膜装置。
一軸方向に延在し、前記一軸方向を中心に回転可能な筒状のターゲットと、前記ターゲットの内部に設けられ、前記ターゲットの表面から漏洩する磁場を発生させる複数の磁石ユニットを有し、前記複数の磁石ユニットが前記一軸方向に分割配置され、前記複数の磁石ユニットのそれぞれが前記一軸方向を中心に独立して回転することが可能な磁場発生機構とを有するスパッタリングターゲット機構を用い、
前記ターゲットから放出されるスパッタリング粒子を通過させる隙間部が形成され、前記隙間部が前記一軸方向に延在した遮蔽板を前記ターゲットに対向させて基板に膜を形成する成膜方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、成膜時間の進行に応じて、ロータリーターゲットの厚みが薄くなると、ロータリーターゲットの場所(例えば、ロータリーターゲット端部)によっては、該場所に対向する遮蔽板付近での放電が優位になる場合がある。このような現象が起きると、ターゲット表面におけるプラズマ密度が場所によって異なり、ターゲットから放出されるスパッタリング粒子の量がばらついて、基板に形成される膜の厚みが不均一になる場合がある。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、ロータリーターゲットから放出され、基板に到達するスパッタリング粒子の量のばらつきを抑え、基板に形成される膜の厚みがより均一になる成膜装置、スパッタリングターゲット機構及び成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る成膜装置は、スパッタリングターゲット機構と、遮蔽板とを具備する。
上記スパッタリングターゲット機構は、一軸方向に延在し、上記一軸方向を中心に回転可能な筒状のターゲットと、上記ターゲットの内部に設けられ、上記ターゲットの表面から漏洩する磁場を発生させる複数の磁石ユニットを有し、上記複数の磁石ユニットが上記一軸方向に分割配置され、上記複数の磁石ユニットのそれぞれが上記一軸方向を中心に独立して回転することが可能な磁場発生機構とを有する。
上記遮蔽板は、上記ターゲットに対向し、上記ターゲットから放出されるスパッタリング粒子を通過させる隙間部が形成され、上記隙間部が上記一軸方向に延在する。
【0009】
このような成膜装置によれば、ターゲットの内部に配置された複数の磁石ユニットが一軸方向に分割配置され、複数の磁石ユニットのそれぞれが一軸方向を中心に独立して回転するため、ロータリーターゲットから放出され基板に到達するスパッタリング粒子の量のばらつきが抑えられ、基板に均一な厚みの膜が形成される。
【0010】
上記成膜装置においては、上記遮蔽板の電位は、グランド電位でもよい。
【0011】
このような成膜装置によれば、ターゲットに対向する遮蔽板の電位がグランド電位であるため、ターゲットと遮蔽板との間で安定した放電が維持する。
【0012】
上記成膜装置においては、上記複数の磁石ユニットは、第1磁石ユニットと、上記一軸方向において、上記第1磁石ユニットの両側に配置された一対の第2磁石ユニットと、上記一軸方向において、上記第1磁石ユニットとは反対側に設けられた上記一対の第2磁石ユニットのそれぞれの横に設けられた一対の第3磁石ユニットと、を有し、上記一軸方向において、上記第1磁石ユニットの長さが上記一対の第2磁石ユニットのそれぞれの長さ及び上記一対の第3磁石ユニットのそれぞれの長さよりも長くてもよい。
成膜装置。
【0013】
このような成膜装置によれば、このような成膜装置によれば、ターゲットの内部に配置された第1、第2及び第3の磁石ユニットが一軸方向に分割配置され、第1、第2及び第3の磁石ユニットのそれぞれが一軸方向を中心に独立して回転するため、ロータリーターゲットから放出され基板に到達するスパッタリング粒子の量のばらつきが抑えられ、基板に均一な厚みの膜が形成される。
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るスパッタリングターゲット機構は、筒状のターゲットと、磁場発生機構とを具備する。
上記ターゲットは、軸方向に延在した隙間部を有する遮蔽板に対向し、上記一軸方向に延在し、上記一軸方向を中心に回転可能になっている。
磁場発生機構は、上記ターゲットの内部に設けられ、上記ターゲットの表面から漏洩する磁場を発生させる複数の磁石ユニットを有し、上記複数の磁石ユニットが上記一軸方向に分割配置され、上記複数の磁石ユニットのそれぞれが上記一軸方向を中心に独立して回転することが可能になっている。
【0015】
このようなスパッタリングターゲット機構によれば、ターゲットの内部に配置された複数の磁石ユニットが一軸方向に分割配置され、複数の磁石ユニットのそれぞれが一軸方向を中心に独立して回転するため、ロータリーターゲットから放出され基板に到達するスパッタリング粒子の量のばらつきが抑えられ、基板に均一な厚みの膜が形成される。
【0016】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る成膜方法では、上記スパッタリングターゲット機構を用い、上記ターゲットから放出されるスパッタリング粒子を通過させる隙間部が形成され、上記隙間部が上記一軸方向に延在した遮蔽板を上記ターゲットに対向させて基板に膜が形成される。
【0017】
このような成膜方法によれば、ターゲットの内部に配置された複数の磁石ユニットが一軸方向に分割配置され、複数の磁石ユニットのそれぞれが一軸方向を中心に独立して回転するため、ロータリーターゲットから放出され基板に到達するスパッタリング粒子の量のばらつきが抑えられ、基板に均一な厚みの膜が形成される。
【0018】
上記成膜方法においては、上記複数の磁石ユニットのそれぞれを上記一軸方向を中心に独立して回転することにより、上記ターゲットの表面におけるプラズマ密度を選択的に変化させて、上記基板に形成される上記膜の膜厚分布を均一にしてもよい。
【0019】
このような成膜方法によれば、ターゲットの表面におけるプラズマ密度が選択的に変化させることができるため、ロータリーターゲットから放出され基板に到達するスパッタリング粒子の量のばらつきが抑えられ、基板に均一な厚みの膜が形成される。
【0020】
上記成膜方法においては、上記複数の磁石ユニットのそれぞれを上記一軸方向を中心に独立して回転することにより、上記ターゲットから放出されるスパッタリング粒子を選択的に上記遮蔽板に付着させて、上記基板に形成される上記膜の膜厚分布を均一にしてもよい。
【0021】
このような成膜方法によれば、ターゲットから放出されるスパッタリング粒子を選択的に遮蔽板に付着させることができるため、ロータリーターゲットから放出され基板に到達するスパッタリング粒子の量のばらつきが抑えられ、基板に均一な厚みの膜が形成される。
【発明の効果】
【0022】
以上述べたように、本発明によれば、ロータリーターゲットから放出され、基板に到達するスパッタリング粒子の量のばらつきを抑え、基板に形成される膜の厚みをより均一にする成膜装置、スパッタリングターゲット機構及び成膜方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。各図面には、XYZ軸座標が導入される場合がある。また、同一の部材または同一の機能を有する部材には同一の符号を付す場合があり、その部材を説明した後には適宜説明を省略する場合がある。
【0025】
まず、本実施形態に係るスパッタリングターゲット機構が設置される成膜装置について説明する。
【0026】
図1(a)は、本実施形態に係る成膜装置を示す模式的断面図である。
図1(b)は、本実施形態に係る成膜装置の一部を示す模式的上面図である。
図1(b)では、真空容器10内に設置された基板21、その下の遮蔽板40、スパッタリングターゲット機構30が上面視されている。
【0027】
図1(a)、(b)に示す成膜装置101は、例えば、スパッタリング成膜装置であり、真空容器10と、基板搬送機構20と、スパッタリングターゲット機構30と、遮蔽板40と、電源50と、制御部60と、ガス供給源70とを具備する。
【0028】
真空容器10は、減圧状態を維持することが可能な容器である。真空容器10内のガスは、排気口10dを通じて、例えば、ターボ分子ポンプ等の排気機構によって外部に排気される。成膜装置101は、バッチ式の成膜装置でもよく、連続式の成膜装置でもよい。
【0029】
成膜装置101が連続式(例えば、インライン式)の成膜装置である場合、真空容器10は、成膜装置101における1つの処理室として機能する。例えば、真空容器10には、基板搬入部10aと基板搬出部10bとが設けられている。そして、基板21が基板搬入部10aから真空容器10内に搬入されると、真空容器10内で基板21にスパッタリング成膜等の処理がなされ、この後、基板21は、基板搬出部10bを通して真空容器10外に搬出される。
図1(a)、(b)では、Y軸方向が基板21の搬送方向に対応している。
【0030】
基板21は、例えば、平面形状が矩形のガラス基板を含む。
図1(a)の例では、基板21がターゲット31に対向する面が成膜面21dになっている。なお、成膜装置101は、インライン式の成膜装置に限らず、ロール・トゥ・ロール式の成膜装置であってもよい。この場合、基板21は、長尺のフィルムとなる。
【0031】
基板搬送機構20は、基板21を真空容器10内で搬送することができる。例えば、基板搬送機構20は、ローラ回転機構20rと、フレーム部20fとを有する。ローラ回転機構20rは、フレーム部20fによって支持されている。そして、ローラ回転機構20r上に、基板21及び基板ホルダ22が載置されると、ローラ回転機構20rが自転することにより、基板21及び基板21を支持する基板ホルダ22が基板搬入部10aから基板搬出部10bに向けてスライド移送される。
【0032】
スパッタリングターゲット機構30は、成膜装置101の成膜源であり、筒状のターゲット31と、バッキングチューブ32と、磁場発生機構(磁気回路)33とを有する。スパッタリングターゲット機構30は、1つに限らず、複数配置されてもよい。この場合、複数のスパッタリングターゲット機構30が基板21に対向するようにY軸方向に並設される。
【0033】
バッキングチューブ32は、スパッタリングターゲット機構30の基材であり、ターゲット31を支持する。ターゲット31及びバッキングチューブ32のそれぞれは、筒状であり、例えば、円筒状をしている。バッキングチューブ32とターゲット31とは、同心状に配置される。このため、ターゲット31の中心軸31cは、バッキングチューブ32の中心軸でもあり、さらにはスパッタリングターゲット機構30の中心軸でもある。バッキングチューブ32の内部には、冷却媒体が流れる流路(不図示)が設けられてもよい。
【0034】
ターゲット31は、基板21に対向する。ターゲット31は、一軸方向に延在する。一軸方向とは、例えば、ターゲット31の中心軸31cである。ターゲット31は、中心軸31cを中心に回転する。すなわち、ターゲット31は、ロータリーターゲットである。ターゲット31の中心軸31cは、基板21の搬送方向に対して交差している。例えば、ターゲット31の中心軸31cは、Y軸方向に対して直交し、X軸方向に延在する。
【0035】
ターゲット31の材料は、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化ニオブ、タンタル、チタン、モリブデン、ガリウム、銅、ニッケル、クロム、ニッケルクロム合金(NiCr)、銅ニッケル合金(CuNi)、シリコン等の少なくとも1つを含む。
【0036】
磁場発生機構33は、例えば、バッキングチューブ32内に配置される。磁場発生機構33については、別の図を用いて説明する。
【0037】
遮蔽板40は、基板搬送機構20とスパッタリングターゲット機構30との間に設けられている。遮蔽板40は、ターゲット31に対向する。遮蔽板40には、ターゲット31から放出されるスパッタリング粒子S1が通過する隙間部401が形成されている。隙間部401は、ターゲット31の中心軸31cの方向に延在している。
【0038】
ターゲット31に電力を印加してターゲット31の表面付近に放電プラズマを発生させる場合、ターゲット31近傍に配置された部材がチャージアップすると、放電が不安定になる場合がある。このため、遮蔽板40の電位は、例えば、グランド電位に設定している。これにより、ターゲット31と遮蔽板40との間で安定したプラズマ放電が持続する。
【0039】
電源50は、ターゲット31に、直流電圧または交流電圧を供給する。交流電圧としては、例えば、LF領域の交流電圧、VHF領域の交流電圧、RF領域の交流電圧、またはパルス状の矩形波交流電圧があげられる。
【0040】
制御部60は、電源50が供給する電力を制御したり、磁場発生機構33のそれぞれの磁石ユニットの回転角度を制御したりする。
【0041】
ガス供給源70は、流量調整器71とガスノズル72とを有する。ガス供給源70によって真空容器10内に放電ガスが供給される。放電ガスは、例えば、アルゴン、ヘリウム等の希ガス、窒素、酸素等である。
【0042】
本実施形態では、スパッタリングターゲット機構30を用いて、基板21に薄膜が形成される。例えば、成膜装置101において、真空容器10内に放電ガスが導入され、ターゲット31と遮蔽板40との間に電圧が印加されると、例えば、ターゲット31と遮蔽板40との間で放電ガスが電離し、ターゲット31と遮蔽板40との間にプラズマが発生する。
【0043】
ターゲット31から放出されるスパッタリング粒子S1は、隙間部401を通過して、基板21の成膜面21dに到達する。これにより、成膜面21dには、ターゲット31からスパッタリングされたスパッタリング粒子S1が堆積した層が形成される。
【0044】
ターゲット31内に設置された磁場発生機構33について詳細に説明する。
【0045】
図2は、本実施形態に係る磁場発生機構の模式的斜視図である。
図2では、ターゲット31内に配置された磁場発生機構33を明確にするために、バッキングチューブ32を示していない。また、ターゲット31の外形が破線で示されている。また、
図2においては、磁場発生機構33の中央部から一方の端までの部分が主に示さている。
【0046】
磁場発生機構33は、ターゲット31の内部に設けられる。磁場発生機構33は、ターゲット31の表面から漏洩する磁場を発生させる複数の磁石ユニットと、複数の磁石ユニットのそれぞれを回動駆動するモータと、磁石ユニット及びモータを軸支する軸部338とを有する。
【0047】
例えば、複数の磁石ユニットのそれぞれは、中心軸31cの方向に分割配置される。複数の磁石ユニットのそれぞれは、中心軸31cを中心に独立して回転することができる。例えば、
図2の例では、複数の磁石ユニットは、磁石ユニット331(第1磁石ユニット)と、磁石ユニット332(第2磁石ユニット)と、磁石ユニット333(第3磁石ユニット)とを有する。
【0048】
モータ335は、磁石ユニット331を回動駆動する。モータ336は、磁石ユニット332を回動駆動する。モータ337は、磁石ユニット333を回動駆動する。モータ335、336、337のそれぞれは、制御部60により制御され、磁石ユニット331、磁石ユニット332、及び磁石ユニット333のそれぞれの回転角度を制御する。
【0049】
例えば、磁場発生機構33は、磁石ユニット331と、一対の磁石ユニット332と、一対の磁石ユニット333を有する。磁石ユニット331は、中心軸31cの方向において、磁場発生機構33の中央部に配置される。磁石ユニット332は、中心軸31cの方向において、磁石ユニット331の両側に配置されている。また、磁石ユニット333は、中心軸31cの方向において、磁石ユニット331とは反対側の一対の磁石ユニット332のそれぞれの横に設けられている。
【0050】
磁石ユニット331、モータ335、磁石ユニット332、モータ336、磁石ユニット333、及びモータ337は、列状に並び、軸部338に軸支されている。軸部338の中心軸は、中心軸31cと一致する。また、中心軸31cの方向において、磁石ユニット331の長さは、一対の磁石ユニット332のそれぞれの長さ及び一対の磁石ユニット333のそれぞれの長さよりも長くなっている。さらに、ターゲット31のサイズによってターゲット31の端部に向かうほど、膜厚変動が大きくなった場合は、一対の磁石ユニット333のそれぞれの長さは、一対の磁石ユニット332のそれぞれの長さよりも短くしてもよい。
【0051】
磁石ユニット331は、支持台であるヨーク部331yと、磁場を発生する磁石部331mとを有する。磁石ユニット332は、支持台であるヨーク部332yと、磁場を発生する磁石部332mとを有する。磁石ユニット333は、支持台であるヨーク部333yと、磁場を発生する磁石部333mとを有する。
【0052】
磁場発生機構33において、磁石ユニット331は、中心軸31cを軸に回転可能に構成され、磁石ユニット332は、中心軸31cを軸に回転可能に構成され、磁石ユニット333は、中心軸31cを軸に回転可能に構成されている。磁石ユニット331の磁石部331mがターゲット31の内壁に対向する向きD1、磁石ユニット332の磁石部332mがターゲット31内壁に向かう向きD2、及び磁石ユニット333の磁石部333mがターゲット31の内壁に対向する向きD3のそれぞれは、独立してそれぞれの方向が変わるように制御される。
【0053】
この結果、磁石部331mからターゲット31の表面に漏洩する磁力線(ターゲット31の表面に沿って形成される磁場)の位置、磁石部332mからターゲット31の表面に漏洩する磁力線の位置、及び磁石部333mからターゲット31の表面に漏洩する磁力線の位置のそれぞれが中心軸31cを中心に独立して移動することができる。これにより、磁石部331mから放出された磁力線に捕捉されるプラズマの位置、磁石部332mから放出された磁力線に捕捉されるプラズマの位置、及び磁石部333mから放出された磁力線に捕捉されるプラズマの位置のそれぞれを独立して移動することができる。
【0054】
図3は、本実施形態に係る磁場発生機構の磁石配置の一例を示す模式的平面図である。
図3では、磁石ユニット331、332、333のそれぞれがX−Y軸平面に対して平行に並んだ状態が示されている。また、
図3における、「S」、「N」は、磁石を表し、「S」、「N」は、各ヨーク部とは反対側に露出した磁極(S極、N極)に対応している。
【0055】
例えば、Z軸方向から見た場合、磁石部331m、332m、333mのそれぞれは、例えば、磁石S、N(永久磁石)によって構成されている。
【0056】
磁石部331m、332mにおいては、磁石Sが中心軸31cと直行する方向において磁石Nに挟まれている。また、磁石部333mにおいては、磁石Sの一端を除き、残りの部分が磁石Nに囲まれるように構成されている。磁石部331m、332m、333mのそれぞれにおける磁石S、Nは、ブロック状の磁石が連続的に並べられたものでもよく、棒状またはU字状に一体的に構成されたものでもよい。
【0057】
これにより、磁場発生機構30では、磁石Sが中心軸31cに沿って配置され、磁石Nが磁石Sを取り囲むように配置されている。すなわち、磁場発生機構30では、中心軸31cに延びる磁石Sが磁石N極に囲まれることでN極からS極に向かう磁力線のループが構成されている。
【0058】
スパッタリングターゲット機構30を用いた場合の作用を説明する前に、分割構造を持たない磁場発生機構をターゲット31の内部に配置した場合の作用を説明する。
【0059】
図4は、比較例に係る磁場発生機構を示す模式的平面図である。
【0060】
図4に示す磁場発生機構は、分割構造を持たず、磁場発生機構が単独の磁石ユニット334により構成されている。磁石ユニット334の磁石部334mは、中心軸31cの方向に延在する磁石Sと、磁石Sを取り囲む磁石Nとにより構成されている。
【0061】
このような磁石ユニット334をターゲット31内に配置して放電ガスを放電すると、ターゲット31の表面では、電子のドリフト運動により、磁石Sと磁石Nとの間の間隙334sに沿ってプラズマ密度が高くなって、間隙334sに沿ったループ状の放電プラズマが観測される。しかしながら、ターゲット31に対向して遮蔽板40が配置されると、ループ状放電プラズマの一部が変形する場合がある。
【0062】
図5は、比較例に係るプラズマ放電の様子を示す模式的斜視図である。
図5では、プラズマ密度の高いプラズマ領域がプラズマ80として示されている。
【0063】
比較例の磁石部334mは、回転することなくヨーク部334yに固定され、磁石部334mの向きD1が遮蔽板40に対して垂直になるように配置される。ターゲット31に対向して遮蔽板40が配置されると、ループ磁場を利用したマグネトロンスパッタリングでは、遮蔽板40とターゲット31との間で局部的な放電が優位になる場合がある。
【0064】
例えば、
図5に示すように、磁石ユニット334の端部では、プラズマ80の一部が左側の遮蔽板40に寄るオーバーラン現象(プラズマ中の電荷がグランド電位である遮蔽板40に優先的に流れ落ちる現象)が起きる。なお、磁石ユニット334のもう一方の端部では、プラズマ80の一部が右側の遮蔽板40に寄る現象が起きる。これは、磁石部334mにおける磁石の配置の対称性に基づく。
【0065】
さらに、ターゲット31のスパッタリングが進行して、ターゲット31の肉厚が薄くなると、ターゲット31の表面に漏れる磁力線が増加して、プラズマ中の電荷の遮蔽板40への流れ込みが益々助長される。これにより、ターゲット31の両端部では、遮蔽板40の隙間部401で露出されたターゲット31の表面におけるプラズマ密度が相対的に減少し、遮蔽板40の近傍でのプラズマ密度が相対的に高くなる。
【0066】
図6は、比較例における基板に形成される被膜の厚み分布を示すグラフ図である。横軸は、ターゲット31の中心軸31cにおける長さに対応し、Aの位置がターゲット31の一方の端の位置、Bの位置がターゲット31の他方の端の位置に対応している。縦軸は、膜厚の規格値(n.u.)である。
【0067】
比較例では、ターゲット31の両端部では、遮蔽板40の近傍でのプラズマ密度が相対的に高くなる。このため、隙間部401に露出したターゲット31の両端部から放出されるスパッタリング粒子S1の量が減るとともに、ターゲット31の両端部からスパッタリング粒子S1が放出されたとしても、その一部が遮蔽板40によって遮蔽される。
【0068】
これにより、比較例では、ターゲット31の両端部に対向する基板21に到達するスパッタリング粒子S1の量が相対的に減少する。この結果、基板21に堆積した被膜の厚みは、ターゲット31の両端部A、Bに対応する位置で相対的に薄くなる。
【0069】
これに対し、
図7は、本実施形態のスパッタリングターゲット機構の作用を示す模式的斜視図である。
【0070】
本実施形態では、比較例のような現象が発生した場合は、例えば、
図7に示すように、磁石ユニット332の磁石部332mの向きD2を右側の遮蔽板40に向け、さらに、磁石ユニット333の磁石部333mの向きD3を向きD2よりもさらに右側の遮蔽板40に向ける。
【0071】
図8は、本実施形態に係るプラズマ放電の様子を示す模式的斜視図である。
【0072】
このような複数の磁石ユニットのそれぞれの角度調整により、ターゲット31の表面に漏れる磁場は、中心軸31cを中心に選択的に移動して、例えば、比較例で左側の遮蔽板40に寄っていたプラズマ80の一部が遮蔽板40から遠ざかり、右側の遮蔽板40の側に寄せることができる。このような修正は、磁場発生機構30のもう一方の端部でも実行される。
【0073】
これにより、隙間部401に露出されたターゲット31の両端部の表面におけるプラズマ密度が相対的に増加してターゲット31の両端部から放出されるスパッタリング粒子S1の量が増えるとともに、遮蔽板40による遮蔽効果が抑制されて、ターゲット31の両端部及び中央部のそれぞれから放出されるスパッタリング粒子S1の量が均衡する。
【0074】
図9(a)、(b)は、本実施形態における基板に形成される被膜の厚み分布を示すグラフ図である。
【0075】
本実施形態では、比較例に比べて、ターゲット31の両端部の表面におけるプラズマ密度が相対的に増加し、両端部における遮蔽板40の遮蔽効果も低減する。このため、基板21に堆積した被膜の厚みは、ターゲット31の両端部A、Bに対応する位置で相対的に厚くなる。これにより、基板21の全域における膜厚分布がより均一になる。
【0076】
また、比較例のようにターゲット31の中央部に対応する位置で膜厚が相対的に厚くなった場合は、磁場発生機構33の中央部に配置した磁石ユニット331の磁石部331mの向きD1を隙間部401から逸らして遮蔽板40に向けてもよい。これにより、隙間部401に露出されたターゲット31の中央部の表面近傍のプラズマ密度が下がり、あるいは、ターゲット31の中央部から放出されるスパッタリング粒子S1の一部が強制的に遮蔽板40に付着して、ターゲット31の中央部に対応する位置での基板21に堆積する被膜の厚みが相対的に薄くなる。
図10には、その様子が示されている。このような方法によっても、基板21の全域における膜厚分布がより均一になる。
【0077】
このように、本実施形態では、複数の磁石ユニット331、332、333のそれぞれを中心軸31cを中心に独立して回転することにより、ターゲット31の表面におけるプラズマ80を選択的に移動させて、基板21に形成される膜の膜厚分布を調整する。あるいは、複数の磁石ユニット331、332、333のそれぞれを中心軸31cを中心に独立して回転することにより、ターゲット31から放出されるスパッタリング粒子S1を選択的に遮蔽板40に付着させて、基板21に形成される膜の膜厚分布を調整する。
【0078】
また、本実施形態によれば、基板21として、ダミー基板を用い、ダミー基板における膜厚分布を予め認知することで、次からの成膜装置101に投与する基板21の膜厚分布を帰還制御により均一にすることができる。この場合、磁石ユニット331、332、333のそれぞれの角度は、制御部60によって自動的に調整されるため、成膜装置101を大気開放する必要がない。また、大気開放をしての遮蔽板40の隙間部401の間隔の調整、遮蔽板40の形状の調整も要しない。
【0079】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。各実施形態は、独立の形態とは限らず、技術的に可能な限り複合することができる。