【解決手段】被溶融物を収容する内部空間を備えた炉本体と、炉本体の天井壁から内部空間に垂下した複数の電極とを有し、天井壁の垂直上方から見た場合に、複数の電極が同一円周上に配置されている電気抵抗式溶融炉の、複数の電極の配置のシミュレーション方法であって、
被溶融物を収容する内部空間を備えた炉本体と、前記炉本体の天井壁から前記内部空間に垂下した複数の電極とを有し、前記天井壁の垂直上方から見た場合に、複数の前記電極が同一の円周上に配置されている電気抵抗式溶融炉の、複数の前記電極の配置のシミュレーション方法であって、
前記円周上の複数の前記電極の初期位置を設定する電極初期位置設定工程と、
複数の前記電極の前記初期位置に基いて、前記被溶融物の温度分布を算出する温度分布算出工程と、
複数の前記電極を、前記円周上であって、前記初期位置とは異なる位置に設定し、設定した複数の前記電極の位置に基いて、前記被溶融物の温度分布を算出する繰り返し工程と、
前記温度分布算出工程、および前記繰り返し工程で得られた、前記被溶融物の温度分布から、複数の前記電極の位置を選択する選択工程と、を有するシミュレーション方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[シミュレーション方法]
本実施形態のシミュレーション方法は、電気抵抗式溶融炉の、複数の電極の配置のシミュレーション方法に関し、以下の工程を有することができる。
【0011】
なお、電気抵抗式溶融炉は、被溶融物を収容する内部空間を備えた炉本体と、該炉本体の天井壁から内部空間に垂下した複数の電極とを有し、天井壁の垂直上方から見た場合に、複数の電極が同一の円周上に配置された構成を有することができる。
【0012】
上記円周上の複数の電極の初期位置を設定する電極初期位置設定工程。
複数の電極の初期位置に基いて、被溶融物の温度分布を算出する温度分布算出工程。
複数の電極を、上記円周上であって、初期位置とは異なる位置に設定し、設定した複数の電極の位置に基いて、被溶融物の温度分布を算出する繰り返し工程。
温度分布算出工程、および繰り返し工程で得られた、被溶融物の温度分布から、複数の電極の位置を選択する選択工程。
(電気抵抗式溶融炉)
ここまず、
図1、
図2を用いて、本実施形態のシミュレーション方法が適用される電気抵抗式溶融炉の構成例について説明する。
【0013】
図1は、電気抵抗式溶融炉10の上面図を模式的に示している。
図2は電気抵抗式溶融炉10の断面図であり、
図1のA−A´線での断面図に当たる。なお、同じ部材には同じ番号を付け、説明を省略する。
【0014】
図1、
図2に示すように、本実施形態の電気抵抗式溶融炉10は、炉本体11を有しており、炉本体11は、天井壁111と、側壁112と、底壁113とを有している。天井壁111と、側壁112と、底壁113との一部または全部は一体の部材とすることもできる。そして、炉本体11はその内部に内部空間114を有することができる。内部空間114は、内部に被溶融物21を収容するように構成することができる。内部空間114の形状は特に限定されないが、被溶融物21が十分に撹拌されるように例えば円柱形状の空間とすることができる。また、炉本体11についても内部空間114の形状にあわせて円筒形状を有することができる。
【0015】
炉本体11の材料は特に限定されないが、炉本体11は加熱された被溶融物21と接することになるため、グラファイトや、各種セラミック等の耐熱性の絶縁材料により構成することが好ましい。
【0016】
電気抵抗式溶融炉10は、炉本体11の天井壁111から、内部空間114に向かって垂下した、複数の電極121、122、123を有することができる。複数の電極121、122、123は、被溶融物21に対して電圧を印加し、ジュール熱により被溶融物21を加熱、溶融することができる。複数の電極121、122、123の本数は特に限定されないが、例えば
図1、
図2に示すように3本とすることができる。
【0017】
複数の電極121、122、123は、炉本体11の天井壁111の垂直上方から見た場合、すなわち
図1に示したように見た場合に、同一の円周C1上に配置された構成を有することができる。このように配置することで、内部空間114で加熱される被溶融物21内の温度をより均一にすることができる。
【0018】
なお、被溶融物21内の温度を特に均一にする観点から、
図1に示すように、複数の電極121、122、123は、円周C1上において等間隔で配置することが好ましい。
【0019】
複数の電極121、122、123の高さ方向の位置は特に限定されず、例えば
図2に示したように、底壁113と、複数の電極121、122、123との間に隙間が形成されるように離して配置することもできる。また、複数の電極121、122、123と、底壁113とが接するように、複数の電極121、122、123を配置することもできる。
【0020】
本実施形態の電気抵抗式溶融炉10は、上記炉本体11、および複数の電極121、122、123以外に任意の部材を有することができる。
【0021】
例えば、炉本体11には、被溶融物の供給口1111を設けておくこともできる。被溶融物21の供給口1111の設置場所は特に限定されないが、供給口1111から被溶融物21が流出しないように、例えば天井壁111に設けることが好ましい。
【0022】
また、排出口13を設けておくことができる。排出口13は、例えば被溶融物21がオーバーフローで流出するように、底壁113から離隔して設けることができる。また、底壁113近傍に配置し、一定の被溶融物21を加熱、溶融させた後、排出口13に設けた図示しない栓を開き、被溶融物21を排出できるように構成することもできる。
【0023】
被溶融物21の温度を測定できるように、温度測定手段141、142を設けることもできる。温度測定手段141、142としては、特に限定されないが、例えば熱電対や、放射温度計等を用いることができる。設置する温度測定手段の数は特に限定されず、任意の数を、任意の場所に設けることができる。
【0024】
また、電気抵抗式溶融炉10は、
図2に示すように、制御装置22や、電源装置25等を有することもできる。
【0025】
制御装置22は、例えばCPU221と、メモリやハードディスク等の記憶装置222と、を有しており、記憶装置222に記憶されていた制御プログラムをCPU221により実行させることで、電気抵抗式溶融炉10の各種制御を実施できる。
【0026】
制御装置22は、温度測定手段141、142や、複数の電極121、122、123に電力を供給する電源装置25と、入力インターフェース223や、出力インターフェース224等を介して接続しておくことができる。このため、例えば温度測定手段141、142から入力インターフェース223を介して入力された被溶融物21の温度情報に基づいて、出力インターフェース224から、複数の電極121、122、123に接続された電源装置25に対して出力を変更する旨の指令を出すこともできる。
【0027】
また、制御装置22はキーボード等の操作装置23や、ディスプレイ等の表示装置24と接続しておくことができ、制御、運転条件を操作装置23から入力し、表示装置24に運転条件等を表示させることもできる。
(シミュレーション装置)
本実施形態のシミュレーション方法は、例えばシミュレーション装置を用いて実施することができる。このため、ここではまずシミュレーション装置の構成例について説明する。
【0028】
図3に、本実施形態のシミュレーション装置30の機能ブロック図を示す。
【0029】
本実施形態のシミュレーション装置30は、被溶融物を収容する内部空間を備えた炉本体と、炉本体の天井壁から内部空間に垂下した複数の電極とを有し、天井壁の垂直上方から見た場合に、複数の電極が同一の円周上に配置されている電気抵抗式溶融炉の、複数の電極の配置に関するシュミレーション装置である。
【0030】
そして、
図3に示すように、シミュレーション装置30は、電極初期位置設定部31、温度分布算出部32、繰り返し部33、および選択部34を有することができる。これらの各部は、シミュレーション装置30が有するCPU、記憶装置、各種インターフェース等を備えたパーソナルコンピューター等の情報処理装置において、CPUが予め記憶されているシミュレーション方法や、シミュレーションプログラムを実行することでソフトウェアおよびハードウェアが協働して実現される。
【0031】
電極初期位置設定部31では、電気抵抗式溶融炉の円周C1上の複数の電極121、122、123の初期位置を設定することができる。なお、ここでいう円周とは、
図1に示したように、天井壁111の垂直上方から見た場合に、複数の電極121、122、123が配置される円周C1を意味する。電極初期位置設定部31は、複数の電極121、122、123を上記円周C1上の任意の位置に配置することができるため、例えばシミュレーション装置30が有するCPUにより予め設定しておいた円周C1上に該複数の電極をランダムに配置させることができる。
【0032】
ただし、電極初期位置設定部31は、複数の電極121、122、123を隣接する電極間の距離が等しくなるように円周C1上に配置することが好ましい。
【0033】
また、電極初期位置設定部31が、複数の電極121、122、123の初期位置を設定する際、該複数の電極の高さ方向の位置についても併せて設定することもできる。
【0034】
温度分布算出部32は、電極初期位置設定部31が設定した複数の電極121、122、123の初期位置に基いて、被溶融物の温度分布を算出することができる。
【0035】
温度分布算出部32が、被溶融物の温度分布を算出する具体的な方法は特に限定されない。例えば、複数の電極121、122、123から被溶融物に加えられる単位時間当たりの熱量、供給口1111からの被溶融物21の単位時間当たりの供給量、排出口13からの被溶融物21の単位時間当たりの排出量、被溶融物21の熱伝導度、壁面や被溶融物21表面からの熱放射等に基いて、被溶融物21の温度分布を算出できる。なお、被溶融物21の温度分布の算出に当たって用いるパラメータは上記パラメータに限定されず、運転条件等に応じてさらにパラメータを追加したり、除外したりすることもできる。具体的には例えば、本実施形態のシミュレーション装置30の補助記憶装置に記憶させておいた、被溶融物の熱伝導度や熱量等の物性や、入力手段により入力された供給口1111からの被溶融物21の単位時間当たりの供給量等の運転条件に基いて、被溶融物21の温度分布を算出できる。なお、被溶融物21内の温度分布としては、例えば定常状態となった際の温度分布を用いることもできる。
【0036】
そして、算出した被溶融物21の温度分布は、本実施形態のシミュレーション装置の記憶装置に一時的に記憶させておくこともできる。
【0037】
繰り返し部33では、複数の電極121、122、123を、上記円周上であって、既述の初期位置とは異なる位置に設定し、設定した該複数の電極の位置に基いて、被溶融物21の温度分布を算出することができる。繰り返し部33は、例えば円周C1の周方向に沿って、複数の電極121、122、123をその間隔を維持したまま、
図1の矢印Bに沿って任意の距離移動させ、移動後の位置を新たな複数の電極121、122、123の位置とすることができる。そして、該位置に複数の電極121、122、123を配置した場合の、被溶融物の温度分布を温度分布算出部32と同様にして算出することができる。算出した結果は、温度分布算出部32の場合と同様に、本実施形態のシミュレーション装置の記憶装置に一時的に記憶させておくことができる。
【0038】
繰り返し部33が複数の電極121、122、123の新たな位置を設定する際、該複数の電極の高さ方向の位置について併せて設定することもできる。
【0039】
繰り返し部33では、上記複数の電極の位置の設定、および被溶融物の温度分布の算出を1回実施するのみでも良いが、予め定めた複数回実施することもできる。また、算出される被溶融物の温度分布が予め設定した条件に達するまで繰り返し実施することもできる。このため、繰り返し部33では、予め設定した計算回数、もしくは予め設定した条件に達したかを判定し、達していない場合には、上記複数の電極の位置の設定や、被溶融物の温度分布の算出を再度実施できる。
【0040】
繰り返し部33では、既に被溶融物の温度分布を算出した際の複数の電極121、122、123の位置と重複しないように、該複数の電極の位置を設定、選択することが好ましい。
【0041】
選択部34では、温度分布算出部32、および繰り返し部33で得られた、被溶融物の温度分布から、複数の電極121、122、123の位置を選択することができる。選択部34において、該複数の電極の位置を選択する具体的な基準は特に限定されない。選択部34では、例えば被溶融物21の温度が最も低くなる、被溶融物21の表面(上面)における温度分布において、被溶融物の温度が、被溶融物の融点以下となる領域の面積割合が50%以下となる複数の電極121、122、123の位置を、該複数の電極の位置として選択することが好ましい。特に上記面積割合が40%以下となる複数の電極121、122、123の位置を、該複数の電極の位置として選択することがより好ましい。
【0042】
なお、ここまで
図1、
図2に示した電気抵抗式溶融炉10を基に説明したため、複数の電極として、電極が3つの場合を例に説明したが、既述の様に電極の数は特に限定されず、任意の数の電極に関して同様にシミュレーションを行うことができる。
【0043】
次に、シミュレーション装置のハードウェア構成の一例について説明する。
図4は、シミュレーション装置30のハードウェア構成図である。
図4に示すように、シミュレーション装置30は、例えば、情報処理装置(コンピューター)で構成され、物理的には、演算処理部であるCPU(Central Processing Unit:プロセッサ)41と、主記憶装置であるRAM(Random Access Memory)42やROM(Read Only Memory)43と、補助記憶装置44と、入出力インタフェース45と、出力装置である表示装置46等を含むコンピュータシステムとして構成することができる。これらは、バス47で相互に接続されている。なお、補助記憶装置44および表示装置46は、外部に設けられていてもよい。
【0044】
CPU41は、シミュレーション装置30の全体の動作を制御し、各種の情報処理を行う。CPU41は、ROM43または補助記憶装置44に格納されたシミュレーション方法や、シュミレーションプログラムを実行して、測定収録画面と解析画面の表示動作を制御する。
【0045】
RAM42は、CPU41のワークエリアとして用いられ、主要な制御パラメータや情報を記憶する不揮発RAMを含んでもよい。
【0046】
ROM43は、シミュレーションプログラム等を記憶することができる。
【0047】
補助記憶装置44は、SSD(Solid State Drive)や、HDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置であり、シミュレーション装置の動作に必要な各種のデータ、ファイル等を格納する。
【0048】
入出力インタフェース45は、タッチパネル、キーボード、表示画面、操作ボタン等のユーザインタフェースと、外部のデータ収録サーバ等からの情報を取り込み、他の電子機器に解析情報を出力する通信インタフェースとの双方を含む。
【0049】
表示装置46は、モニタディスプレイ等である。表示装置46では、解析画面が表示され、入出力インタフェース45を介した入出力操作に応じて画面が更新される。
【0050】
図3に示したシミュレーション装置30の各機能は、例えばRAM42やROM43等の主記憶装置または補助記憶装置44からシミュレーションプログラム等を読み込ませ、CPU41により実行することにより、RAM42等におけるデータの読み出しおよび書き込みを行うと共に、入出力インタフェース45および表示装置46を動作させることで実現できる。
【0051】
上記シミュレーションプログラムは、被溶融物を収容する内部空間を備えた炉本体と、炉本体の天井壁から内部空間に垂下した複数の電極とを有し、天井壁の垂直上方から見た場合に、複数の電極が同一の円周上に配置されている電気抵抗式溶融炉の、複数の電極の配置のシミュレーションプログラムに関する。そして、係るシミュレーションプログラムは、以下のステップを順にコンピューターに実行させることができる。
【0052】
上記円周上の複数の電極の初期位置を設定する電極初期位置設定ステップ。
複数の電極の上記初期位置に基いて、被溶融物の温度分布を算出する温度分布算出ステップ。
【0053】
複数の電極を上記円周上であって、初期位置とは異なる位置に設定し、設定した複数の電極の位置に基いて、被溶融物の温度分布を算出する繰り返しステップ。
温度分布算出ステップ、および繰り返しステップで得られた、被溶融物の温度分布から、複数の電極の位置を選択する選択ステップ。
(シミュレーション方法)
次に、本実施形態のシミュレーション方法について説明する。
【0054】
本実施形態のシミュレーション方法では、
図1、
図2に示した既述の電気抵抗式溶融炉10において、炉本体11内の炉壁、すなわち内部空間114を囲む内壁等に、付着物が発生することを抑制できるように、複数の電極121、122、123の位置を選択できる。このため、本実施形態のシミュレーション方法は、電気抵抗式溶融炉における複数の電極の配置の選択方法と言い換えることもできる。
【0055】
図5は、本実施形態に係るシミュレーション方法を説明するフローチャートである。
図5に示すようにまず、円周上の複数の電極121、122、123の初期位置を設定することができる(電極初期位置設定工程:S1)。なお、ここでいう円周とは、
図1に示したように、天井壁111の垂直上方から見た場合に、複数の電極121、122、123が配置される円周C1を意味する。この際、複数の電極121、122、123を円周C1上の任意の位置に配置することができ、例えばランダムに設定することができる。ただし、複数の電極121、122、123は、隣接する電極間の距離が等しくなるように、円周C1上に配置することが好ましい。
【0056】
また、電極初期位置設定工程(S1)において、複数の電極121、122、123の初期位置を設定する際、該複数の電極の高さ方向の位置についても併せて設定することもできる。
【0057】
そして、S1で設定した複数の電極121、122、123の初期位置に基いて、被溶融物の温度分布を算出することができる(温度分布算出工程:S2)。温度分布算出工程(S2)において、被溶融物の温度分布を算出する具体的な方法は特に限定されない。例えば、複数の電極121、122、123から被溶融物に加えられる単位時間当たりの熱量、供給口1111からの被溶融物21の単位時間当たりの供給量、排出口13からの被溶融物21の単位時間当たりの排出量、被溶融物21の熱伝導度、壁面や被溶融物21表面からの熱放射等に基いて、被溶融物21の温度分布を算出できる。なお、被溶融物21の温度分布の算出に当たって用いるパラメータは上記パラメータに限定されず、運転条件等に応じてさらにパラメータを追加したり、除外したりすることもできる。また、被溶融物21の温度分布としては、例えば定常状態となった際の温度分布を用いることもできる。
【0058】
次いで、複数の電極121、122、123を、円周C1上であって、初期位置とは異なる位置に設定し、設定した複数の電極121、122、123の位置に基いて、被溶融物の温度分布を算出することができる(繰り返し工程:S3)。繰り返し工程(S3)では、例えば円周C1の周方向に沿って、複数の電極121、122、123をその間隔を維持したまま、
図1の矢印Bに沿って任意の距離移動させ、移動後の位置を新たな電極の設定位置とすることができる。そして、該位置に複数の電極121、122、123を配置した場合の、被溶融物の温度分布を温度分布算出工程(S2)の場合と同様にして算出することができる。
【0059】
繰り返し工程(S3)において、複数の電極121、122、123の新たな位置を設定する際、該複数の電極の高さ方向の位置について併せて設定することもできる。
【0060】
繰り返し工程(S3)は1回実施するのみでも良いが、予め定めた複数回実施することもできる。また、算出される被溶融物の温度分布が予め設定した条件に達するまで繰り返し実施することもできる。このため、必要に応じて、繰り返し工程(S3)について、予め設定した計算回数、もしくは予め設定した条件に達したかを判定することができる(繰り返し判定工程:S4)。そして、繰り返し判定工程がNoの場合には、再度繰り返し工程(S3)を実施できる。Yesの場合には以下の選択工程(S5)を実施できる。
【0061】
なお、繰り返し工程(S3)を実施する際、既に被溶融物の温度分布を算出した際の複数の電極121、122、123の位置と重複しないように、複数の電極121、122、123の位置を設定、選択することが好ましい。
【0062】
そして、温度分布算出工程(S2)、および繰り返し工程(S3)において得られた被溶融物21の温度分布から、複数の電極121、122、123の位置を選択することができる(選択工程:S5)。選択工程において、複数の電極121、122、123の位置を選択する具体的な基準は特に限定されない。選択工程(S5)では、例えば被溶融物21の温度が最も低くなる、被溶融物21の表面(上面)における温度分布において、被溶融物21の温度が、被溶融物の融点以下となる領域の面積割合が50%以下となる複数の電極121、122、123の位置を、該複数の電極の位置として選択することが好ましい。特に上記面積割合が40%以下となる複数の電極121、122、123の位置を、該複数の電極の位置として選択することがより好ましい。
【0063】
以上に説明した本実施形態のシミュレーション方法は、電気抵抗式溶融炉において、炉本体の天井壁の垂直上方から見た場合に同一円周上に配置された複数の電極の位置を、該円周に沿って移動させることで、被溶融物の温度分布が変化するという本発明の発明者による新たな知見に基づくものである。そして、本実施形態のシミュレーション方法によれば、複数の電極の位置を該円周上で変化させ、被溶融物の温度分布を算出することで、容易に電気抵抗式溶融炉における複数の電極の位置を選択することができる。
[電気抵抗式溶融炉]
次に本実施形態の電気抵抗式溶融炉の構成例について説明する。電気抵抗式溶融炉の構成については、既に
図1、
図2を用いて説明したため、重複する説明は一部省略する。
(第1の実施形態)
本実施形態の電気抵抗式溶融炉は、被溶融物を収容する内部空間を備えた炉本体と、炉本体の天井壁から前記内部空間に垂下した複数の電極とを有することができる。
【0064】
そして、複数の電極が、既述のシミュレーション方法の選択工程で選択された位置に配置されている。
【0065】
本実施形態の電気抵抗式溶融炉は、
図1、
図2を用いて説明したように、被溶融物を収容する内部空間114を備えた、炉本体11と、炉本体11の天井壁111から内部空間114に向かって垂下した複数の電極121、122、123を有することができる。
【0066】
複数の電極121、122、123は、
図1に示したように、天井壁111の垂直方向上方から見た場合に、同一の円周C1上に配置されているが、係る円周C1内において、既述のシミュレーション方法の選択工程で選択した位置に配置されている。
【0067】
このように複数の電極121、122、123を配置することで、本実施形態の電気抵抗式溶融炉を運転した際に、被溶融物21内に温度勾配が生じることを抑制し、炉本体11の炉壁、すなわち内壁に付着物等が生じることを抑制することができる。
【0068】
なお、既述の様に本実施形態の電気抵抗式溶融炉10はさらに被溶融物21を供給する供給口1111や、排出口13、複数の電極121、122、123に電圧を印加するための電源装置25や、制御装置22等を有することもできるが、既に説明したため、ここでは説明を省略する。
(第2の実施形態)
本実施形態の電気抵抗式溶融炉は、以下の各部材を有することができる。
【0069】
被溶融物を収容する内部空間を備えた炉本体。
炉本体の天井壁から内部空間に垂下し、天井壁の垂直上方から見た場合に同一の円周上に配置された複数の電極。
円周上で複数の電極の位置を変化させる電極移動手段。
【0070】
被溶融物の温度を測定する温度測定手段。
【0071】
温度測定手段で測定した被溶融物の温度に基いて、電極移動手段により複数の電極の位置を変化させる制御装置。
【0072】
本実施形態の電気抵抗式溶融炉10は、上述のように炉本体11、複数の電極121、122、123を有することができる。
【0073】
そして、さらに、天井壁111の垂直上方から見た場合に複数の電極121、122、123が配置されている同一の円周C1上で複数の電極121、122、123の位置を変化させる電極移動手段1112を有することができる。
【0074】
電極移動手段1112の具体的な構成は特に限定されないが、例えば
図1、
図2に示したように、天井壁111に設けられ、複数の電極121、122、123を保持している円板形状の板とすることができる。この場合、係る円板形状の板を回転させることで、円周C1上で複数の電極121、122、123の位置を変化させることができる。なお、係る形態に限定されるものではなく複数の電極121、122、123の位置を水平方向に移動させることができる手段であれば良い。
【0075】
そして、本実施形態の電気抵抗式溶融炉10は、さらに温度測定手段141、142で測定した被溶融物21の温度、もしくは温度分布に基いて、制御装置22からの指令に基づいて上記電極移動手段1112により、複数の電極121、122、123の位置を変化させるように構成することもできる。
【0076】
既述の様に制御装置22は、例えばCPU221と、メモリやハードディスク等の記憶装置222と、を有しており、記憶装置222に記憶されていた制御プログラムをCPU221により実行させることで、電気抵抗式溶融炉10の各種制御を実施できる。そして、例えば温度測定手段141、142からの被溶融物21の温度情報を、入力インターフェース223で受信し、出力インターフェース224から電極移動手段1112に対して、複数の電極121、122、123の位置を変化させるように指令を出すことができる。
【0077】
例えば既述のシミュレーション方法により、被溶融物の種類等に応じた複数の電極121、122、123の位置を求めていた場合には、例えばキーボード等の操作装置23から入力された被溶融物の種類の情報等に基いて、記憶装置222が記憶していた、係るシミュレーション結果に基づく位置に、該複数の電極を移動させることもできる。
【0078】
また、例えば温度測定手段141、142からの情報に基づいて、複数の電極121、122、123の位置を少しずつ移動させ、最適位置を探索することもできる。
【0079】
制御装置22は、ディスプレイ等の表示装置24と接続されており、温度測定手段141、142により測定された温度や、制御の状態を表示させることもできる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
図1、
図2に示した電気抵抗式溶融炉10における、複数の電極121、122、123の位置を
図1に示した円周C1上で変化させ、その際の被溶融物21の温度分布の変化をシミュレーションした。
(電極初期位置設定工程)
天井壁111の垂直上方から見た場合に、
図1に示した円周C1上において、電極121が、排出口13、供給口1111と同一直線上に配置し、電極122、電極123を、円周C1上に電極間の距離が等しくなるように配置した。
(温度分布算出工程)
電極初期位置設定工程で設定した複数の電極121、122、123の位置に基いて、被溶融物の温度分布を算出した。
【0081】
なお、被溶融物21としては銅の溶融体物性値を用い、電気抵抗式溶融炉10の内部空間のサイズは半径5m、深さ2mの円筒状の形状として設定した。炉本体11は耐火物により製造されており、複数の電極121、122、123からは単位時間当たり750kW/平米の熱量が供給され、溶融炉壁面から10kW/平米、溶融体表面から20kW/平米で熱放射があるとして計算を行った。
【0082】
被溶融物21の上面、すなわち天井壁111側の温度分布を
図6に示す。
図6中、1570Kより高温の第1領域61と、1570K以下の第2領域62とに分けて示す。図中には、複数の電極121、122、123、供給口1111、排出口13の位置も併せて示す。また、表1に第2領域の面積割合を示す。
(繰り返し工程)
(1)第1繰り返し工程
円周C1上で、初期位置設定工程で設定した複数の電極121、122、123の位置から、
図1中の矢印Bの方向、すなわち反時計回りに該複数の電極の位置を20度回転させた位置を複数の電極121、122、123の位置として設定した。なお、上記複数の電極を回転させた角度を以下回転角度と記載する。
【0083】
そして、複数の電極121、122、123を上記位置に変化させた点以外は、温度分布算出工程の場合と同様にして、被溶融物21の温度分布を算出した。
【0084】
被溶融物21の上面、すなわち天井壁111側の温度分布を
図7に示す。
図7中、1570Kより高温の第1領域71と、1570K以下の第2領域72とに分けて示す。図中には、複数の電極121、122、123、供給口1111、排出口13の位置も併せて示す。また、表1に回転角度と、第2領域の面積割合を示す。
(2)第2繰り返し工程
円周C1上で、初期位置設定工程で設定した複数の電極121、122、123の位置から、
図1中の矢印Bの方向、すなわち反時計回りに該複数の電極の位置を40度回転させた位置を複数の電極121、122、123の位置として設定した。
【0085】
そして、複数の電極121、122、123を上記位置に変化させた点以外は、温度分布算出工程の場合と同様にして、被溶融物21の温度分布を算出した。
【0086】
被溶融物21の上面、すなわち天井壁111側の温度分布を
図8に示す。
図8中、1570Kより高温の第1領域81と、1570K以下の第2領域82とに分けて示す。図中には、複数の電極121、122、123、供給口1111、排出口13の位置も併せて示す。また、表1に回転角度と、第2領域の面積割合を示す。
(3)第3繰り返し工程
円周C1上で、初期位置設定工程で設定した複数の電極121、122、123の位置から、
図1中の矢印Bの方向、すなわち反時計回りに該複数の電極の位置を60度回転させた位置を複数の電極121、122、123の位置として設定した。
【0087】
そして、複数の電極121、122、123を上記位置に変化させた点以外は、温度分布算出工程の場合と同様にして、被溶融物21の温度分布を算出した。
【0088】
被溶融物21の上面、すなわち天井壁111側の温度分布を
図9に示す。
図9中、1570Kより高温の第1領域91と、1570K以下の第2領域92とに分けて示す。図中には、複数の電極121、122、123、供給口1111、排出口13の位置も併せて示す。また、表1に回転角度と、第2領域の面積割合を示す。
(選択工程)
表1に示すように、複数の電極121、122、123を円周C1上でその位置を変化させるだけで、被溶融物21の表面の温度分布が大きく変化することを確認できた。
【0089】
【表1】
そして、表1に示した結果から、被溶融物の融点である1570K以下となる第2領域の面積が50%以下である位置、すなわち初期設定位置、もしくは初期設定位置からの回転角度が40度までの範囲が、好適な複数の電極の位置であることを確認できた。このため、係る複数の電極の位置を選択した。