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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-201272(P2020-201272A)
(43)【公開日】2020年12月17日
(54)【発明の名称】癌識別方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/00 20060101AFI20201120BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20201120BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20201120BHJP
   G01N 15/12 20060101ALI20201120BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20201120BHJP
【FI】
   G01N27/00 Z
   G01N33/48 M
   G01N33/483 E
   G01N15/12 F
   C12Q1/04
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2020-136366(P2020-136366)
(22)【出願日】2020年8月12日
(62)【分割の表示】特願2016-38204(P2016-38204)の分割
【原出願日】2016年2月29日
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】谷口 正輝
(72)【発明者】
【氏名】筒井 真楠
(72)【発明者】
【氏名】川合 知二
(72)【発明者】
【氏名】馬場 嘉信
(72)【発明者】
【氏名】安井 隆雄
(72)【発明者】
【氏名】落谷 孝広
(72)【発明者】
【氏名】龍崎 奏
(72)【発明者】
【氏名】玉田 薫
【テーマコード(参考)】
2G045
2G060
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045DA78
2G045FA34
2G045GC20
2G060AA05
2G060AA15
2G060AD06
2G060AG03
2G060AG11
2G060HC10
2G060KA09
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QS28
4B063QS39
4B063QX05
4B063QX10
(57)【要約】
【課題】患者への負担が少なく、がんの種類に応じた試薬が不要で、且つ1回の検査でがんの種類を特定できる装置及び方法を提供する。
【解決手段】サンプル中に含まれているエクソソームが通過する貫通孔を形成した基板、前記基板の一方の面側の少なくとも貫通孔を含む面とで電解液を充填する第1チャンバーを形成する第1チャンバー部材、前記基板の他方の面側の少なくとも貫通孔を含む面とで電解液を充填する第2チャンバーを形成する第2チャンバー部材、前記第1チャンバーに形成された第1電極、前記第2チャンバーに形成された第2電極、エクソソームが、前記貫通孔を通過する時のイオン電流を測定するための電流計、及び、前記電流計で測定したイオン電流からエクソソームの形状分布を解析する解析部、を少なくとも含み、前記貫通孔の長さが測定すべきエクソソームより短い、エクソソームの形状分布の解析装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1チャンバー部材内に形成され、電解液および前記電解液に懸濁したエクソソームが流通可能な第1チャンバーと、
第2チャンバー部材内に形成され、前記電解液が流通可能な第2チャンバーと、
前記第1チャンバーと前記第2チャンバーとの間を接続する貫通孔と、
前記第1チャンバー内で前記電解液と接する第1電極と、
前記第2チャンバー内で前記電解液と接する第2電極を有する微粒子分析装置を用いる癌識別方法であって、
第1の種類の癌由来であることが既知である第1エクソソームを含む前記電解液を前記第1チャンバーに導入し、
前記電解液を前記第2チャンバーに導入し、
前記第1電極および前記第2電極の間にバイアス電圧を印加し、
前記第1エクソソームが前記貫通孔を通過する際に前記第1電極および前記第2電極の間に生じる電流の第1イオン電流変化を計測し、
前記第1イオン電流変化より前記第1エクソソームの第1形状分布を推定する、
第1推定工程と、
第2の種類の癌由来であることが既知である第2エクソソームを含む前記電解液を前記第1チャンバーに導入し、
前記電解液を前記第2チャンバーに導入し、
前記第1電極および前記第2電極の間に前記バイアス電圧を印加し、
前記第2エクソソームが前記貫通孔を通過する際に前記第1電極および前記第2電極の間に生じる電流の第2イオン電流変化を計測し、
前記第2イオン電流変化より前記第2エクソソームの第2形状分布を推定する、
第2推定工程と、
未知癌が生成した第3エクソソームを含む前記電解液を前記第1チャンバーに導入し、
前記第1電極および前記第2電極の間に前記バイアス電圧を印加し、
前記第3エクソソームが前記貫通孔を通過する際に前記第1電極および前記第2電極の間に生じる電流の第3イオン電流変化を計測し、
前記第3イオン電流変化より前記第3エクソソームの第3形状分布を推定する、
第3推定工程と、
前記第3形状分布と前記第1形状分布、前記第3形状分布と前記第2形状分布を各々比較することによって、
前記未知癌が前記第1の種類の癌か、前記第2の種類の癌のどちらか、或いは、
第1および第2の種類の癌以外の癌である、
と識別する識別工程と、
を含むことを特徴とする癌識別方法。
【請求項2】
第1チャンバー部材内に形成され、電解液および前記電解液に懸濁したエクソソームが流通可能な第1チャンバーと、
第2チャンバー部材内に形成され、前記電解液が流通可能な第2チャンバーと、
前記第1チャンバーと前記第2チャンバーとの間を接続する貫通孔と、
前記第1チャンバー内で前記電解液と接する第1電極と、
前記第2チャンバー内で前記電解液と接する第2電極を有する微粒子分析装置を用いる癌識別方法であって、
癌由来である第1エクソソームを含む前記電解液を前記第1チャンバーに導入し、
前記電解液を前記第2チャンバーに導入し、
前記第1電極および前記第2電極の間にバイアス電圧を印加し、
前記第1エクソソームが前記貫通孔を通過する際に前記第1電極および前記第2電極の間に生じる電流の第1イオン電流の変化を計測し、
前記第1イオン電流の変化より前記第1エクソソームの第1形状分布を推定する、
第1推定工程と、
正常細胞由来である第2エクソソームを含む前記電解液を前記第1チャンバーに導入し、
前記電解液を前記第2チャンバーに導入し、
前記第1電極および前記第2電極の間にバイアス電圧を印加し、
前記第2エクソソームが前記貫通孔を通過する際に前記第1電極および前記第2電極の間に生じる電流の第2イオン電流変化を計測し、
前記第2イオン電流変化より前記第2エクソソームの第2形状分布を推定する、
第2推定工程と、
癌細胞由来か、正常細胞由来か不明である第3エクソソームを前記第1チャンバーに導入し、
前記第1電極および前記第2電極の間に前記バイアス電圧を印加し、
前記第3エクソソームが前記貫通孔を通過する際に前記第1電極および前記第2電極の間に生じる電流の第3イオン電流変化を計測し、
前記第3イオン電流変化より前記第3エクソソームの第3形状分布を推定する、
第3推定工程と、
前記第3形状分布と前記第1形状分布、前記第3形状分布と前記第2形状分布を各々比較することによって、前記第3エクソソームが癌細胞由来か正常細胞由来かを識別する識別工程と、
を含むことを特徴とする癌識別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本国において、がんは死因のトップに位置づけられる病気である。がんは、進行が進むほど治療が困難になり、死亡に至る。そのため、がん治療は、早期に患者が罹患したがんの種類を検査することが非常に重要である。
【0003】
がん検査は、様々な方法が知られている。具体的には、血液・尿・便等の生体サンプルに含まれているタンパク質や核酸を調べる方法が挙げられ、例えば、前立腺がんは、血中の特定タンパク質(PSA)や特定の核酸の発現量を調べている(特許文献1参照)。また、機器を用いて、生体外からがんの有無を検査する方法も知られており、例えば、PET検査、CT検査、MRI検査、乳がん用のマンモグラフィー等が挙げられる。更に、内視鏡等の機器を生体内に挿入することで、がんの有無を直接目視し、必要に応じて生体組織を採取して検査する方法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−39365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、マンモグラフィー、PET検査、CT検査、MRI検査、内視鏡等の機器を用いた検査は、患者が痛みや圧迫感を感じることがあり、また、CT検査やマンモグラフィーではX線の被ばくがある。そのため、患者への負担が非常に大きいという問題がある。
【0006】
また、生体サンプルに含まれている化学物質を調べる方法は、例えば、タンパク質に特異的に結合する抗体、核酸に特異的に結合するプローブ等、がんの種類に応じて試薬を準備する必要がある。更に、がんを早期に発見するためには、1〜2年毎に検査をする必要がある。しかしながら、全てのがん検査を1〜2年毎に行うことは現実的には不可能である。そのため、患者への負担が少なく、がんの種類に応じた試薬が不要で、且つ1回の検査でがんの種類を特定できる検査装置及び検査方法が望まれるが、現在のところ、そのような検査装置及び検査方法は知られていない。
【0007】
本発明は、上記従来の問題を解決するためになされた発明であり、鋭意研究を行ったところ、(1)測定すべきエクソソームより長さが短い貫通孔にエクソソームを通過させ、エクソソームが通過する時の電流値(イオン電流)を測定し、そして、測定したイオン電流の「変化時間(td)」及び「大きさに関する情報」をプロットすることでエクソソームの形状分布を解析できること、(2)そして、がん細胞が異なると解析したエクソソームの形状分布が異なること、を新たに見出した。
【0008】
更に、予め準備した既知のがん細胞由来のエクソソームが貫通孔を通過した時のイオン電流から解析したエクソソームの形状分布と、サンプル中のエクソソームを解析して得られた形状分布を比較することで、がんの種類を判別できること、も新たに見出した。
【0009】
すなわち、本発明の目的は、エクソソームの形状分布の解析装置、がん検査装置、エクソソームの形状分布の解析方法、及びがん検査方法を提供することである。また、本発明は、癌識別方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下に示す、エクソソームの形状分布の解析装置、がん検査装置、エクソソームの形状分布の解析方法、及びがん検査方法に関する。また、癌識別方法に関する。
【0011】
(1)サンプル中に含まれているエクソソームが通過する貫通孔を形成した基板、
前記基板の一方の面側の少なくとも貫通孔を含む面とで電解液を充填する第1チャンバーを形成する第1チャンバー部材、
前記基板の他方の面側の少なくとも貫通孔を含む面とで電解液を充填する第2チャンバーを形成する第2チャンバー部材、
前記第1チャンバーに形成された第1電極、
前記第2チャンバーに形成された第2電極、
エクソソームが、前記貫通孔を通過する時のイオン電流を測定するための電流計、及び、
前記電流計で測定したイオン電流からエクソソームの形状分布を解析する解析部、
を少なくとも含み、
前記貫通孔の長さが測定すべきエクソソームより短い、
エクソソームの形状分布の解析装置。
(2)前記貫通孔の長さが500nm以下である、上記(1)に記載のエクソソームの形状分布の解析装置。
(3)少なくともエクソソームの形状分布を表示できる表示部、
を更に含む上記(1)又は(2)に記載のエクソソームの形状分布の解析装置。
(4)上記(1)〜(3)の何れか一に記載のエクソソームの形状分布の解析装置、
予め準備した既知のがん細胞由来のエクソソームが貫通孔を通過した時のイオン電流から解析したエクソソームの形状分布を記憶する記憶部、及び、
サンプル中に含まれるエクソソームが前記貫通孔を通過した時のイオン電流から解析した形状分布を、前記記憶部に記憶されている形状分布と比較することで、がんの種類を判別する判別部、
を含むがん検査装置。
(5)サンプル中に含まれるエクソソームを基板に形成した貫通孔を通過させる工程、
前記エクソソームが前記貫通孔を通過する時のイオン電流を測定する工程、
測定したイオン電流からエクソソームの形状分布を解析する工程、
を少なくとも含み、
前記貫通孔の長さが測定すべきエクソソームより短い、
エクソソームの形状分布の解析方法。
(6)前記貫通孔の長さが500nm以下である、上記(5)に記載のエクソソームの形状分布の解析方法。
(7)上記(5)又は(6)に記載のエクソソームの形状分布の解析方法により解析したエクソソームの形状分布を、記憶部に記憶されている予め準備した既知のがん細胞由来のエクソソームが貫通孔を通過した時のイオン電流から解析したエクソソームの形状分布と比較することで、がんの種類を判別する工程、
を含むがんの検査方法。
(8)第1チャンバー部材内に形成され、電解液および前記電解液に懸濁したエクソソームが流通可能な第1チャンバーと、
第2チャンバー部材内に形成され、前記電解液が流通可能な第2チャンバーと、
前記第1チャンバーと前記第2チャンバーとの間を接続する貫通孔と、
前記第1チャンバー内で前記電解液と接する第1電極と、
前記第2チャンバー内で前記電解液と接する第2電極を有する微粒子分析装置を用いる癌識別方法であって、
第1の種類の癌由来であることが既知である第1エクソソームを含む前記電解液を前記第1チャンバーに導入し、
前記電解液を前記第2チャンバーに導入し、
前記第1電極および前記第2電極の間にバイアス電圧を印加し、
前記第1エクソソームが前記貫通孔を通過する際に前記第1電極および前記第2電極の間に生じる電流の第1イオン電流変化を計測し、
前記第1イオン電流変化より前記第1エクソソームの第1形状分布を推定する、
第1推定工程と、
第2の種類の癌由来であることが既知である第2エクソソームを含む前記電解液を前記第1チャンバーに導入し、
前記電解液を前記第2チャンバーに導入し、
前記第1電極および前記第2電極の間に前記バイアス電圧を印加し、
前記第2エクソソームが前記貫通孔を通過する際に前記第1電極および前記第2電極の間に生じる電流の第2イオン電流変化を計測し、
前記第2イオン電流変化より前記第2エクソソームの第2形状分布を推定する、
第2推定工程と、
未知癌が生成した第3エクソソームを含む前記電解液を前記第1チャンバーに導入し、
前記第1電極および前記第2電極の間に前記バイアス電圧を印加し、
前記第3エクソソームが前記貫通孔を通過する際に前記第1電極および前記第2電極の間に生じる電流の第3イオン電流変化を計測し、
前記第3イオン電流変化より前記第3エクソソームの第3形状分布を推定する、
第3推定工程と、
前記第3形状分布と前記第1形状分布、前記第3形状分布と前記第2形状分布を各々比較することによって、
前記未知癌が前記第1の種類の癌か、前記第2の種類の癌のどちらか、或いは、
第1および第2の種類の癌以外の癌である、
と識別する識別工程と、
を含むことを特徴とする癌識別方法。
(9)第1チャンバー部材内に形成され、電解液および前記電解液に懸濁したエクソソームが流通可能な第1チャンバーと、
第2チャンバー部材内に形成され、前記電解液が流通可能な第2チャンバーと、
前記第1チャンバーと前記第2チャンバーとの間を接続する貫通孔と、
前記第1チャンバー内で前記電解液と接する第1電極と、
前記第2チャンバー内で前記電解液と接する第2電極を有する微粒子分析装置を用いる癌識別方法であって、
癌由来である第1エクソソームを含む前記電解液を前記第1チャンバーに導入し、
前記電解液を前記第2チャンバーに導入し、
前記第1電極および前記第2電極の間にバイアス電圧を印加し、
前記第1エクソソームが前記貫通孔を通過する際に前記第1電極および前記第2電極の間に生じる電流の第1イオン電流の変化を計測し、
前記第1イオン電流の変化より前記第1エクソソームの第1形状分布を推定する、
第1推定工程と、
正常細胞由来である第2エクソソームを含む前記電解液を前記第1チャンバーに導入し、
前記電解液を前記第2チャンバーに導入し、
前記第1電極および前記第2電極の間にバイアス電圧を印加し、
前記第2エクソソームが前記貫通孔を通過する際に前記第1電極および前記第2電極の間に生じる電流の第2イオン電流変化を計測し、
前記第2イオン電流変化より前記第2エクソソームの第2形状分布を推定する、
第2推定工程と、
癌細胞由来か、正常細胞由来か不明である第3エクソソームを前記第1チャンバーに導入し、
前記第1電極および前記第2電極の間に前記バイアス電圧を印加し、
前記第3エクソソームが前記貫通孔を通過する際に前記第1電極および前記第2電極の間に生じる電流の第3イオン電流変化を計測し、
前記第3イオン電流変化より前記第3エクソソームの第3形状分布を推定する、
第3推定工程と、
前記第3形状分布と前記第1形状分布、前記第3形状分布と前記第2形状分布を各々比較することによって、前記第3エクソソームが癌細胞由来か正常細胞由来かを識別する識別工程と、
を含むことを特徴とする癌識別方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のエクソソームの形状分布の解析装置及びエクソソームの形状分布の解析方法により、患者への負担が少なく、がんの種類に応じた試薬が不要で、且つ1回の検査でがんの種類を特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の解析装置1の概略を示す図である。
図2図2は、本発明の検査装置1−1の概略を示す図である。
図3図3は、「変化時間(td)」及び「大きさに関する情報」を示すための図である。
図4図4(A)は、イオン電流の測定結果を示すチャートである。図4(B)は、エクソソームが通過した際の電流強度(Ip)をプロットしたヒストグラムである。
図5図5(A)は、図4(A)で測定した個々のエクソソームの測定値を、電流強度(Ip)から計算した粒径(nm)を横軸、「変化時間(td)」を縦軸にしてプロットした形状分布である。図5(B)は、実施例3で解析した形状分布である。図5(C)は、実施例4で解析した形状分布である。
図6図6(A)は参考例1で解析した形状分布である。図6(B)は実施例3で解析した形状分布である。
図7図7(A)は、実施例5で解析した形状分布である。図7(B)は、図面代用写真で、実施例5のエクソソームのTEM写真である。図7(C)は、実施例2で解析した形状分布である。図7(D)は、図面代用写真で、実施例2のエクソソームのTEM写真である。
図8図8(A)は比較例1で解析した形状分布である。図8(B)は比較例2で解析した形状分布である。図8(C)は比較例3で解析した形状分布である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、エクソソームの形状分布の解析装置(以下、単に「解析装置」と記載することがある。)、がん検査装置(以下、単に「検査装置」と記載することがある。)、エクソソームの形状分布の解析方法(以下、単に「解析方法」と記載することがある。)、及びがん検査方法(以下、単に「検査方法」と記載することがある。)について詳しく説明する。
【0015】
図1は、本発明の解析装置1の概略を示す図である。本発明の解析装置1は、基板2、基板2に形成されサンプル中に含まれているエクソソーム3が通過できる貫通孔4、基板2の一方の面側の少なくとも貫通孔4を含む面とで電解液を充填する第1チャンバー5を形成できる第1チャンバー部材51、基板2の他方の面側の少なくとも貫通孔4を含む面とで電解液を充填する第2チャンバー6を形成できる第2チャンバー部材61、第1チャンバー5内の電解液と接する箇所に形成された第1電極52、第2チャンバー6内の電解液と接する個所に形成された第2電極62、エクソソーム3が貫通孔4を通過する時のイオン電流を測定するための電流計7、電流計7で測定したイオン電流からエクソソーム3の形状分布を解析する解析部8を少なくとも含んでいる。
【0016】
また、解析装置1は、必要に応じて、解析部8が解析したエクソソーム3の形状分布を表示するための表示部9を含んでいてもよい。そして、解析装置1には、必要に応じて、予め解析部8や表示部9を機能させるためのプログラムを格納したプログラムメモリ10、プログラムメモリ10に格納されているこのプログラムを読み出し実行するための制御部11を含んでいてもよい。プログラムは、予めプログラムメモリ10に記憶しておいても良いし、記録媒体に記録され、インストール手段を用いてプログラムメモリ10に格納されるようにしてもよい。
【0017】
図2は、本発明の検査装置1−1の概略を示す図である。検査装置1−1は、解析装置1に加え、予め準備した既知のがん細胞由来のエクソソーム3が貫通孔4を通過した時のイオン電流から解析したエクソソーム3の形状分布を記憶する記憶部12、サンプル中に含まれるエクソソーム3が貫通孔4を通過した時の形状分布を記憶部12に記憶されている形状分布と比較することでがんの種類を判別する判別部13を更に含んでいる。
【0018】
以下に、解析装置1及び検査装置1−1の各構成について、より具体的に説明する。なお、以下の記載において、「解析装置1」及び「検査装置1−1」に共通する場合は、「装置1」と記載することもある。
【0019】
基板2は、半導体製造技術の分野で一般的に用いられている絶縁性の材料であれば特に制限は無い。例えば、Si、Ge、Se、Te、GaAs、GaP、GaN、InSb、InP、SiN等が挙げられる。また、基板2は、SiN、SiO2、HfO2等の材料を用い、固体メンブレンと呼ばれる薄膜状、または、グラフェン、酸化グラフェン、二酸化モリブデン(MoS2)、窒化ホウ素(BN)等の材料を用い、2次元材料と呼ばれるシート状に形成してもよい。なお、後述するとおり、貫通孔4はエクソソーム3の長さより短くする必要がある。したがって、貫通孔4を形成する基板2は薄い方が好ましく、500nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましく、50nm以下が特に好ましい。なお、例えば、グラフェンは1nm以下の膜厚の基板2の作製が可能である等、基板2として固体メンブレンまたは2次元材料を用いた場合は、膜厚を非常に薄くできる。したがって、貫通孔4の下限値は貫通孔4が形成できる範囲内であれば特に制限はない。しかしながら、基板2の膜厚が非常に薄いと、破損せずに取り扱うことが困難な場合がある。そのため、基板2は、上記の絶縁性の材料で形成した支持板の上に固体メンブレンまたは2次元材料を積層した積層構造としてもよい。積層構造にする場合は、貫通孔4より大きな孔を形成した支持板の上に固体メンブレンまたは2次元材料を積層し、固体メンブレンまたは2次元材料に貫通孔4を形成すればよい。
【0020】
本発明の装置1で形状分布を解析するエクソソームは、エクソソームであれば特に制限はないが、がん由来のエクソソームは、がんの種類に応じて形状が異なる。そのため、同じがん由来のエクソソームが貫通孔4を通過した時のイオン電流を多数計測し、形状分布を解析することで、がんの種類を判別することができる。したがって、本発明においては、がん由来のエクソソームの解析用として好適に用いることができる。
【0021】
がん由来のエクソソームは、血液、尿、唾液等の体液に含まれている。したがって、従来の装置を用いた検査方法とは異なり、非侵襲性のサンプルを使用することができる。なお、体液には、エクソソーム以外の生体成分が含まれている。それら成分は測定のノイズとなることから、例えば、後述する実施例に示すように、公知の手順によりサンプルからエクソソームを分離してもよい。
【0022】
がんの種類としては、エクソソームを分泌できるがんであれば特に制限はなく、例えば、大腸がん、乳がん、肝臓がん、前立腺がん、神経膠腫、神経膠芽腫、メラノーマ、腎がん、髄芽腫等が挙げられる。がんの種類により、分泌するエクソソームの形状が変わることは、例えば、「T. Ochiya et al.,“Comparative marker analysis of extracellular vesicles in different human cancer types”,Journal of Extracellular Vesicles 2013,2:20424」に記載されている。
【0023】
また、がんのステージが進行するにつれ、エクソソームの分泌量が変わることも知られている(Douglas D. Taylor et al.,“MicroRNA signatures of tumor−derived exosomes as diagnostic biomarkers of ovarian cancer”, Gynecologic Oncology 110 (2008) 13−21、参照。)。したがって、本発明の装置1を用いてエクソソームの形状分布を解析する際に、単位時間あたりに貫通孔4を通過するエクソソームの数をカウントすることで、がんのステージの進行を判別することもできる。
【0024】
貫通孔4は、基板2を貫通するように形成されている。イオン電流を検出する際には、貫通孔4の体積が小さいほど感度が高くなる。したがって、上記基板2を薄くする(貫通孔4の長さを短くする)とともに、貫通孔4の幅は、検出したいエクソソームの大きさよりは大きいが、大き過ぎないように適宜調整すればよく、例えば、800nm〜1000nm、好ましくは500nm〜800nm、より好ましくは100nm〜500nm程度にすればよい。なお、貫通孔4の断面形状が円形の場合、貫通孔4の幅は直径を意味する。また、貫通孔4の断面形状が円形でない場合、貫通孔4の幅は断面の中心を通る任意の2点を結んだ最も短い線の長さを意味する。貫通孔4は、後述する実施例に示すとおり、エッチング等により形成すればよい。なお、本発明において「貫通孔の長さが測定すべきエクソソームより短い」とは、エクソソームの任意の2点を結んだ最も長い線の長さより貫通孔4の長さが短いことを意味する。エクソソーム3の大きさは種類により異なるが、最大で500nm程度である。したがって、貫通孔4の長さは、500nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましく、50nm以下が特に好ましい。なお、基板2が均一の厚さの場合は、所期の貫通孔4の長さと同じ厚みの基板2を用いればよい。基板2の厚さが不均一の場合は、貫通孔4を形成する部分の厚さが所期の貫通孔4の長さとなる基板2を用いればよい。
【0025】
第1チャンバー部材51は、基板2の一方の面側の少なくとも貫通孔4を含む面とで、電解液を充填する第1チャンバー5を形成する。また、第2チャンバー部材61は、基板2の他方の面側の少なくとも貫通孔4を含む面とで、電解液を充填する第2チャンバー6を形成する。第1チャンバー部材51及び第2チャンバー部材61は、電気的および化学的に不活性な材料で形成することが好ましく、例えば、ガラス、サファイア、セラミック、樹脂、ゴム、エラストマー、SiO2、SiN、Al23などが挙げられる。
【0026】
第1チャンバー5及び第2チャンバー6は、貫通孔4を挟むように形成され、第1チャンバー5に投入したエクソソームが、貫通孔4を通り第2チャンバー6に移動できるように形成されていれば特に制限はない。例えば、図1及び2に示すように、第1チャンバー部材51及び第2チャンバー部材61を別々に作成し、基板2に液密となるように接着すればよい。又は、1つの面が解放状態の略直方体の箱部材を形成し、箱の中央に基板2を挿入・固定し、その後、解放状態の面を同一の材料で液密に封止してもよい。その場合、第1チャンバー部材51及び第2チャンバー部材61は別々の部材を意味するのではなく、基板2を境に分けた箱部材の一部を意味する。また、第1チャンバー部材51及び第2チャンバー部材61には、電解液及びサンプル液を充填・排出、電極及び/又はリードを挿入するための孔を必要に応じて形成してもよい。
【0027】
第1電極52及び第2電極62は、アルミニウム、銅、白金、金、銀、チタン等の公知の導電性金属で形成することができる。第1電極52及び第2電極62は、貫通孔4を挟むように形成し、直流電流を印加することで電解液中のイオンを輸送する。したがって、第1電極52は、第1チャンバー5内の電解液に接する場所に形成されていればよく、基板2の面上、第1チャンバー部材51の内面、又は第1チャンバー5内の空間にリード53を介して配置すればよい。第2電極62も第1電極51と同様に、第2チャンバー6内の電解液に接する場所に形成されていればよく、基板2の面上、第2チャンバー部材61の内面、又は第2チャンバー6内の空間にリード63を介して配置すればよい。
【0028】
第1電極52は、リード53を介して電源54、アース55に接続している。第2電極62は、リード63を介して電流計7、アース64に接続している。なお、図1及び図2に示す例では、電源54は第1電極52側に、電流計7は第2電極62側に接続しているが、電源54と電流計7は、同じ電極側に設けてもよい。
【0029】
電源54は、第1電極52及び第2電極62に直流電流を通電できるものであれば特に制限はない。電流計7は、第1電極52及び第2電極62に通電した際に、発生するイオン電流を経時的に測定できるものであれば特に制限はない。なお、図1及び2には図示していないが、必要に応じてノイズ除去回路や電圧安定化回路等を設けてもよい。
【0030】
本発明の装置1の貫通孔4にエクソソーム3が通過すると、貫通孔4を流れているイオン電流がエクソソーム3により遮断され、イオン電流が減少する。このイオン電流の減少量が貫通孔4内のエクソソームの体積に比例する。例えば、図1及び2に示すエクソソーム3aと3bが貫通孔4を通過する時、エクソソーム3bは中央がくびれた形状であることから、貫通孔4内の経時的なエクソソーム3a及び3bの体積変化は異なる。したがって、エクソソーム3が貫通孔4内を通過する際の連続的な断面積の情報がイオン電流に反映される。
【0031】
なお、貫通孔4が非常に大きく、エクソソーム3全体が貫通孔4の中に入ってしまうと、貫通孔4内のエクソソーム3の体積変化は起こらなくなる。また、同じ形状のエクソソーム(3、3a)であっても、図1及び2に示すように、貫通孔4を通過する際のエクソソームの向きによっては、エクソソーム3が貫通孔4の中に全て入り込んでしまう場合もある。したがって、貫通孔4の長さは、上記のとおり、エクソソーム3の任意の2点を結んだ最も長い線の長さより貫通孔4の長さが短いことが望ましいが、エクソソーム3の中心を通る任意の2点を結んだ最も短い線より貫通孔4の長さが短い方がより好ましい。
【0032】
解析部8は、電流計7で測定した多数のエクソソーム3のイオン電流の値を、「変化時間(td)」と「大きさに関する情報」でプロットすることで、エクソソームの形状分布を解析する。なお、「変化時間(td)」とは、図3に示すように、貫通孔4にエクソソーム3が入ってから出るまでの時間、つまり、測定したイオン電流が定常値から変化し再び定常値に戻るまでの時間を意味する。また、「大きさに関する情報」とは、図3に示す電流強度(Ip;イオン電流の変化量)、又は電流強度(Ip)から得られたエクソソームの粒径を意味する。
【0033】
上記のとおり、貫通孔4を通過する時のエクソソームの向きは必ずしも同じではない。したがって、同じ種類のがん由来で形状も同じであるエクソソームであっても、貫通孔4を通過する向きによっては測定したイオン電流の波形は異なる。したがって、単一のエクソソームのイオン電流の変化を比較しても、エクソソームの種類を判別することは困難である。しかしながら、本発明者らは、同じ種類のがんから分泌されたエクソソーム3が貫通孔4を通過した時のイオン電流の変化を多数測定し、それらの測定結果を「変化時間(td)」と「大きさに関する情報」でプロットした形状分布を解析した。そして、形状分布で比較した場合、がんの種類が異なれば解析した形状分布が異なり、がんの種類を判別できることは、本発明者らが新たに発見したものである。
【0034】
本発明の解析装置1を用いることで、サンプル中のエクソソーム3の形状分布を解析することができる。したがって、解析装置1で解析したエクソソームの形状分布を、予め準備した既知のがん細胞由来のエクソソームが貫通孔を通過した時のイオン電流から解析した形状分布と比較することで、がんの種類を判断することができる。解析装置1で解析した形状分布は、プリントアウトして既知の形状分布と比較すればよい。また、表示部9に解析した形状分布を表示することで、がんの種類を判断してもよい。表示部9は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイなど、公知の表示装置を用いればよい。
【0035】
本発明の解析装置1に、予め準備した既知のがん細胞由来のエクソソーム3が貫通孔4を通過した時のイオン電流から解析したエクソソーム3の形状分布を記憶する記憶部12、及び、サンプル中に含まれるエクソソーム3が貫通孔4を通過した時のイオン電流から解析した形状分布を記憶部12に記憶されている形状分布と比較することでがんの種類を判別する判別部13、を更に含むことで、検査装置1−1を作製することができる。検査装置1−1は、がんの種類を自動的に判別できるので、がんの検査に有用である。なお、本発明において、記憶部に記憶する「イオン電流から作成したエクソソームの形状分布」とは、「変化時間(td)」と「大きさに関する情報」をプロットして作成した形状分布図、及び、形状分布図を作成するために必要な「変化時間(td)」と「大きさに関する情報」のデータを意味する。
【0036】
ところで、貫通孔4のサイズが異なったり、第1電極52及び第2電極62に印加する電圧が異なると、「変化時間(td)」及び「大きさに関する情報」の値が異なる恐れがある。したがって、記憶部12には、同じ検査装置1−1を用い、同じ測定条件で得られたイオン電流の測定値から解析した形状分布であることが望ましい。また、記憶部12に記憶する形状分布は1種類に限らず、複数種類のがん細胞由来のエクソソームを解析した形状分布であってもよい。また、がん化していない正常細胞が分泌したエクソソームから解析した形状分布と、がん化した細胞が分泌したエクソソームから解析した形状分布を併せて記憶部12に記憶し、患者ががんに罹患しておらず、正常であることを確認できるようにしてもよい。
【0037】
次に、本発明の解析装置1及び検査装置1−1を用いた解析方法及び検査方法について説明する。先ず、解析装置1を用いた解析方法は、以下の手順で行うことができる。
(1)第1チャンバー5及び第2チャンバー6に、電解液を充填する。電解液は、第1電極52及び第2電極62が通電できれば特に制限は無く、TEバッファー、PBSバッファー、HEPESバッファー、KCl水溶液等を用いればよい。このとき、第1チャンバー5内と第2チャンバー6内との間は、貫通孔4を介して液絡が取れている。
(2)生体サンプルから分離したエクソソーム3を第1チャンバー5に添加する。
(3)第1電極52及び第2電極62に電源54により通電する。この通電により発生するイオン電流の値を電流計7で経時的に測定する。なお、エクソソームは表面電化(基本的にマイナスチャージ)を有する。したがって、第1電極52及び第2電極62に通電すると、通常の拡散に加え、第1チャンバー5に添加したエクソソーム3は電気泳動により基板2に形成した貫通孔4を通過し、第2チャンバー6に移動する。エクソソーム3が貫通孔4を通過する時、電流計7で測定されるイオン電流の値はエクソソーム3の大きさおよび形状に依存して低下する。なお、必要に応じて、エクソソームが分散している溶液にポンプ等で圧力を加え、水流によってエクソソームが貫通孔を通過するようにしてもよい。
(4)測定したイオン電流に基づき、「変化時間(td)」と「大きさに関する情報」をプロットすることで形状分布の解析を行う。
【0038】
以上の手順により、エクソソームの形状分布を解析することができる。解析した形状分布は、プリントアウト又は表示部に表示し、既知のがん由来のエクソソームを同様の手順で解析した形状分布と対比することで、どの種類のがんに罹患しているのか判断することができる。
【0039】
検査装置1−1を用いた検査方法の場合、上記(4)の手順の後に、
(5)検査装置1−1の記憶部に記憶されている予め準備した既知のがん細胞由来のエクソソームが貫通孔を通過した時のイオン電流から解析したエクソソームの形状分布と、上記(4)で解析した形状分布を比較することで、がんの種類を判別することができる。判別した結果は、印字手段により印字してもよいし、表示部に表示してもよい。
【0040】
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。
【実施例】
【0041】
〔解析装置1の作製〕
<実施例1>
1.基板2の作製
先ず、両表面に50nmの窒化シリコン膜を持つ面方位(100)のシリコンウエハー(E&M CO.,LTD)を29mm四方に切った。基板の一方の面に約500μm四方の領域の孔が形成されているエッチング防止用のメタルマスクをかぶせ、RIE装置(RIE−10NR、SAMCO CO.,Ltd)によって、孔が形成されている500μm四方の領域のみ窒化シリコン膜を除去し、シリコン表面をむき出しにした。その後、むき出しにした部分のシリコンのみを選択的に水酸化カリウム水溶液(和光純薬株式会社)によって、約3時間かけて125℃のホットプレート(Hot plate NINOS ND−1、As One CO.,Ltd)上でウェットエッチングを行った。この操作により、基板の他方の面の窒化シリコン膜に到達するまでシリコンをエッチングした。窒化シリコン膜に到達したシリコンの孔は約150μm四方であった。
【0042】
次に、上記約150μm四方のシリコンの孔を覆っている窒化シリコン膜のほぼ中央に、電子線描画法により貫通孔4のパターンの描画を行った。次いで、像液に浸して現像を行い、RIE装置によって反応性エッチングにより、窒化シリコン膜に直径約200nmの円筒状の貫通孔4を形成した。形成した貫通孔4のサイズは、直径約200nm、長さ約50nmであった。
【0043】
2.解析装置1の作製
次に、上記1.で作製した基板2の上下に、電極、電解液及びサンプル投入用の孔を設けたジメチルポリシロキサン(PDMS)製のポリマーブロック(TORAY社製)を液密に貼り付け、第1チャンバー5及び第2チャンバー6を作製した。第1チャンバー5及び第2チャンバー6の容量は、各々約10μlであった。第1電極52及び第2電極62には銀塩化銀電極を用い、ポリマーブロックに設けた孔から第1チャンバー5及び第2チャンバー6に挿入した。電源54として電池駆動のバイアス電源(アクシスネット)を用い、リードを介して第1電極52に接続した。電流計7には、電流アンプと1MHzの高時間分解能を持つデジタイザ(NI5922, National Instruments)を用いてデータの取得を行い、取得したデータは、RAIDドライブHDD(HDD−8263、National Instruments Co.)に格納した。
【0044】
〔エクソソームの形状分布の解析〕
<実施例2:肝臓がん由来のエクソソーム>
1.サンプル調整(超遠心)
(1)肝臓がん由来の細胞(HepG2(ヒト肝がん細胞);American Type Culture Collection Co.,Ltd.,America)の培養上清液を回収し、遠心分離機を用いて3000g、4℃条件下で15分遠心分離を行い、死細胞や細胞片を取り除いた。これを培養上清サンプルとした。
(2)培養上清サンプル20mLを超遠心機専用の遠心チューブに導入し、4℃条件下110000gで80分間遠心処理を行った。
(3)遠心処理で外側にあたるチューブの内壁にピペットが触れないよう注意し、上澄みを取り除き、0.22μmのフィルターでろ過した1mLのPBSを用い、遠心処理で外側にあたるチューブの内壁に付着物を複数回のピペッティングにより分散させた。
(4)PBSを19mL加え、再び4℃条件下110000gで80分間遠心処理を行った。
(5)遠心処理で外側にあたるチューブの内壁にピペットが触れないよう注意し、上澄みを取り除き、1mLのPBSで付着物をよく分散させた。
【0045】
2.イオン電流の測定
実施例1で作製した解析装置1の第2チャンバー6に、電解液(TEバッファー:ニッポンジーン社製TE(pH 8.0))を充填した。次に、上記1.で調整したサンプルをTEバッファーによって10倍に希釈した10μlの溶液を第1チャンバー5に加え、第1電極52及び第2電極62に800mVの電圧を印加し、イオン電流Iionを測定した。
【0046】
図4(A)は、イオン電流の測定結果を示すチャートである。イオン電流値が大幅に低下している部分(図中の矢印)は、エクソソームが貫通孔4を通過したことを示している。図4(B)は、エクソソームが通過した際の電流強度(Ip)をプロットしたヒストグラムである。エクソソームの大きさ(貫通孔4を通過する時の断面積のサイズ)は、電流強度(Ip)から求めることができる。図4(B)に示すとおり、実施例2で測定した肝臓がん由来のエクソソームの分布の中心は、約62.0nmであった。
【0047】
図5(A)は、図4(A)で測定した個々のエクソソームの測定値を、電流強度(Ip)から計算した粒径(nm)を横軸、「変化時間(td)」を縦軸にしてプロットした形状分布である。なお、図5(A)は、実施例2でエクソソームの粒径の分布を調べたため横軸を電流強度(Ip)から計算した粒径(nm)としているが、横軸を電流強度(Ip)としても同様の形状分布が得られる。
【0048】
<実施例3:乳がん由来のエクソソーム>
肝臓がん由来の細胞に代え、乳がん由来の細胞(MDA−MD−231(ヒト乳がん細胞)細胞株;American Type Culture Collection Co.,Ltd.,America)を用いた以外は、実施例2と同様の手順でサンプルを調整し、形状分布の解析を行った。図5(B)は、実施例3で作成した形状分布である。なお、実施例3で測定した乳がん由来のエクソソームの分布の中心は、約58.0nmであった。
【0049】
<実施例4:大腸がん由来のエクソソーム>
肝臓がん由来の細胞に代え、大腸がん由来の細胞(HTC116(ヒト大腸がん細胞);細胞株(American Type Culture Collection Co.,Ltd.,America)を用いた以外は、実施例2と同様の手順でサンプルを調整し、形状分布の解析を行った。図5(C)は、実施例4で作成した形状分布である。なお、実施例4で測定した乳がん由来のエクソソームの分布の中心は、約48.2nmであった。
【0050】
図5(A)〜(C)から明らかなように、がんの種類が異なると、分泌されたエクソソームの形状分布は全く異なっている。実施例2の肝臓がん由来のエクソソームの分布の中心は約62.0nmで、実施例3の乳がん由来のエクソソームの分布の中心は約58.0nmであったことから、粒径のみではがんの種類の判別をすることは困難である。しかしながら、エクソソーム3が貫通孔4を通過する時のイオン電流の測定値に基づき、「変化時間(td)」と粒径(電流強度(Ip))を指標にプロットした形状分布は、がんの種類に応じて全く異なることが明らかとなった。したがって、患者から抽出したサンプルを上記実施例2と同様の手順で形状分布の解析を行い、予め作成した各種がん由来のエクソソームから解析した形状分布と比較することで、患者のがんの種類を判別することができる。
【0051】
〔正常細胞との比較〕
<参考例1:乳腺細胞(正常細胞)由来のエクソソーム>
実施例3の乳がん由来の細胞に代え、正常な乳腺細胞(Hs 578Bst(ヒト正常乳腺細胞)細胞株;American Type Culture Collection Co.,Ltd.,America)を用いた以外は、実施例3と同様の手順でサンプルを調整し、形状分布の解析を行った。図6(A)は参考例1で解析した形状分布である。なお、参考例1で測定した乳腺細胞由来のエクソソームの分布の中心は、約45.6nmであった。また、比較のため、実施例3で作成した形状分布を図6(B)に示す。
【0052】
図6(A)及び(B)に示すように、がん化した細胞とがん化していない細胞由来のエクソソームから解析した形状分布は異なっていた。したがって、記憶部12に予め作成した各種がん由来のエクソソームから解析した形状分布以外に、がん化していない正常細胞のエクソソームから解析した形状分布を記憶しておくことで、患者ががんに罹患しておらず、正常であることを確認することもできる。
【0053】
〔サンプル調整方法とエクソソームの形状〕
<実施例5>
実施例2の超遠心によるエクソソームの調整に代え、サンプル中のエクソソームを濃縮するための濃縮試薬であるエキソクイック(ExoQuick−TC(System Biosciences,LLC))を用い、添付マニュアルにしたがってエクソソームの調整を行った以外は、実施例2と同様の手順で形状分布の解析を行った。図7(A)は、実施例5で解析した形状分布で、図7(B)は、エクソソームのTEM写真である。また、比較のため、実施例2で解析した形状分布を図7(C)に、実施例2のエクソソームのTEM写真を図7(D)に示す。
【0054】
図7(B)及び(D)に示すように、エクソソームの調整方法が異なると、調整後のエクソソームの形状に影響を与え、その結果、図7(A)及び(C)に示すように、解析した形状分布も異なる。したがって、予め記憶部に記憶するエクソソームの形状分布の解析手順と、サンプル中のエクソソームから形状分布を解析する手順は、同じ条件で行う必要がある。
【0055】
〔貫通孔4のサイズと測定したイオン電流の関係〕
<比較例1〜3>
実施例1で作製した解析装置1に代え、ナノ粒子の測定装置として市販されているqNano(メイワフォーシス株式会社製)を用いて、エクソソームのイオン電流を測定し、形状分布の解析を行った。なお、qNanoには、NP100フィルター(貫通孔の直径約100nm、長さ約1mm)をセットした。実施例2で用いた肝臓がん(HepG2)のエクソソームの形状分布を解析したものを比較例1、実施例4の大腸がん(HTC116)のエクソソームの形状分布を解析したものを比較例2、参考例1の正常な乳腺細胞(Hs 578Bst)のエクソソームの形状分布を解析したもの比較例3とした。
【0056】
図8(A)は比較例1の形状分布(分布の中心は約96nm)、図8(B)は比較例2の形状分布(分布の中心は約107nm)、図8(C)は比較例3の形状分布(分布の中心は約117nm)である。図8(A)〜(C)から明らかなように、エクソソームの大きさよりはるかに大きな貫通孔を通過させた時のイオン電流を解析した場合、がん細胞・正常細胞由来のエクソソームの何れも、有意な傾向は確認できなかった。
【0057】
以上の結果より、従来から微小な貫通孔を粒子が通過する際のイオン電流を測定することで、粒子のサイズを測定できることは知られていた。しかしながら、貫通孔の長さをエクソソームより短くし、且つ、測定したイオン電流の結果を「変化時間(td)」及び「電流強度(粒径)」を指標として形状分布の解析を行うことで、がんの種類を判別できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の装置1を用いることで、抗体や核酸等のがんの種類に応じた試薬を使用することなく、生体サンプルから、がんの種類を判別することができる。したがって、医療機器産業における装置の開発に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8