【解決手段】電力取引約定計算装置2は、必要となる需給調整力の量の入札に対して、供出可能な需給調整力の量、需給調整力の希望単価および発動調整電力量の希望単価を応札する電力取引の約定計算を行う。電力取引約定計算装置2の複数価値約定計算実行部24cは、入札者端末装置4から取得した入札の情報および応札者端末装置5から取得した応札の情報に基づいて、需給調整力の調達費用および発動調整電力量の運用費用との合計を表す目的関数を最小化する最適化問題を解くことによって、需給調整力の約定単価および発動調整電力量の約定単価を決定する。
必要となる需給調整力の量の入札に対して、供出可能な前記需給調整力の量、前記需給調整力の希望単価および発動調整電力量の希望単価を応札する電力取引の約定計算を行う電力取引約定計算装置であって、
必要となる前記需給調整力の量の入札データ、ならびに、供出可能な前記需給調整力の量、前記需給調整力の希望単価および発動調整電力量の希望単価の応札データとに基づいて、前記需給調整力の調達費用と前記発動調整電力量の運用費用との合計を表す目的関数を最小化する最適化問題を解くことによって、前記需給調整力の約定単価および前記発動調整電力量の約定単価を決定する複数価値約定計算実行部を備える、
電力取引約定計算装置。
前記複数価値約定計算実行部が前記最適化問題を解いた結果算出されたエリア間の連系線の潮流量が当該連系線の空き容量を超過した場合に、前記電力取引の対象となるエリアを当該連系線の部分で分断し、当該連系線の潮流量を当該連系線の空き容量以下に設定した上で、分断されたエリアごとに改めて最適化問題を定式化する市場分断処理を行う市場分断処理部をさらに備え、
前記複数価値約定計算実行部は、前記市場分断処理が行われた場合、分断されたエリア毎の前記最適化問題を解くことによって、前記需給調整力の約定単価および前記発動調整電力量の約定単価を決定する、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の電力取引約定計算装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施の形態1>
太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの利用増加に伴い、将来的に需給調整力(単に「調整力」ということもある)が不足することが懸念されている。現在、送配電事業者は、需給調整力の調達を公募によって行っているが、需給調整力の確保を効率化することを目的に、2021年には需給調整市場が開設される予定である。
【0013】
需給調整市場は、電力の安定供給のために需給調整力を取引する市場である。需給調整市場においては、送配電事業者が、必要となる需給調整力の量(ΔkW量:kWを変化させる能力)を入札し、それに対して、発電事業者、VPP(Virtual Power Plant)事業者、小売電気事業者など需給調整力を供出できる事業者(以下「調整力供出事業者」という)が、供出可能な需給調整力の量(ΔkW量)、需給調整力の希望単価(ΔkW単価(円/ΔkW))、実際に需給調整力が発動されたときに取引される電力の量である発動調整電力量(kWh量)の希望単価(kWh単価(円/kWh))を応札する(「入札」と言う場合もあるが、送配電事業者の入札と区別するために、ここでは「応札」と呼ぶこととする)、という仕組みが構築される見込みである。
【0014】
図1に示す表は、需給調整市場における、入札の対象、応札の対象、およびそれらの対象が決定するタイミングをまとめたものである。
図1の表において、「○」は入札または応札の対象であることを表しており、「−」は非対象であることを表している。発動調整電力量(kWh量)の応札は、特に量を指定する必要はないが、0〜ΔkW量の範囲で値が決定するため、
図1では「(0〜ΔkW量)」と表記している。
【0015】
また、
図1の表では、ΔkW量、ΔkW単価およびkWh単価の決定タイミングは「調達時」であり、これは、ΔkW量、ΔkW単価およびkWh単価が、調達時すなわち取引が成立するタイミングで決定することを意味する。また、kWh量の決定タイミングは「運用時」であり、これは、kWh量が、取引が成立した後の運用時すなわち需給調整力が発動されるタイミングで決定することを意味する。送配電事業者は、調整力供出事業者に対して、需給調整力(ΔkW)の調達に対する費用(調達費用)と、需給調整力が発動されたときの発動調整電力量(kWh)の運用に対する費用(運用費用)という2つの費用を、需給調整市場を介して支払うこととなる。
【0016】
調整力供出事業者が応札する需給調整力の量(ΔkW量)の合計が、送配電事業者が入札する需給調整力の量(ΔkW量)よりも大きい場合、何らかの約定ロジックにより落札者を決める必要がある。例えば、発動調整電力量の希望単価(円/kWh)を一律とした場合、需給調整力の希望単価(円/ΔkW)の安いものから約定させていけばよいが、実際は調整力供出事業者毎に発動調整電力量の希望単価(価値)は異なるため、単純に需給調整力の希望単価の安いものから約定させるのは必ずしも適切ではない。しかし、上述のように発動調整電力量は0から応札した需給調整力の量までの範囲には収まるものの、どの程度の値になるのかは、実際に需給調整力が発動されて需給調整力が運用される段階になるまで明らかにはならないため、一意に約定させることはできない。
【0017】
そこで、本実施の形態では、有用かつ妥当で理解の得られやすい約定の方法として、発動調整電力量の実績値や推測値に基づいて発動調整電力量がどの程度の値になるのかを表す確率密度関数を用いて、需給調整市場における取引を成立させる約定ロジックを導入し、当該約定ロジックを用いた約定計算を行う電力取引約定計算装置を提案する。
【0018】
図2は、本発明の実施の形態1に係る電力取引約定計算システムの構成例を示した図である。
図2に示すように、電力取引約定計算システム1は、電力取引約定計算装置2、通信ネットワーク3、複数台の入札者端末装置4および複数台の応札者端末装置5を備えている。
【0019】
入札者端末装置4は、需給調整市場の入札者である送配電事業者が自社の事務所等に備えたパソコン等の情報端末装置である。応札者端末装置5は、需給調整市場の応札者である調整力供出事業者が自社の事務所等に備えたパソコン等の情報端末装置である。入札者端末装置4および応札者端末装置5は、光回線やLAN(Local Area Network)等の通信ネットワーク3を介して電力取引約定計算装置2と相互にデータ通信を行うことができる。
【0020】
電力取引約定計算装置2は、需給調整市場の運営者(例えば送配電事業者の代表者など)がその事務所等に備えたサーバ等の情報端末装置である。
図2に示すように、電力取引約定計算装置2は、インターフェース部21、記憶部22、通信部23および演算部24を備えている。
【0021】
通信部23は、通信ネットワーク3を介して、入札者端末装置4および応札者端末装置5と相互にデータ通信を行う手段であり、例えば、スイッチングハブやルーター、パソコンやサーバが備える通信機能等で構成される。
【0022】
インターフェース部21は、入力部21aおよび出力部21bを備えている。入力部21aは、需給調整市場の運営者が、取引に必要なデータをキーボードやマウスを使って入力するための手段である。出力部21bは、取引における入札に関する情報、応札に関する情報および落札に関する情報を、ディスプレイ装置などに出力するための手段である。
【0023】
記憶部22は、入札に関する情報(入札データ)、応札に関する情報(応札データ)、落札に関する情報(約定結果データ)、需給調整力の発動実績データなどを記憶する手段であり、例えば、ハードディスク等の記憶装置で構成される。入札データは、通信部23が通信ネットワーク3を介して入札者端末装置4から受信したものである。応札データは、通信部23が通信ネットワーク3を介して応札者端末装置5から受信したものである。約定結果データは、演算部24が決定した約定結果のデータである。需給調整力の発動実績データは、例えば、送配電事業者が入札者端末装置4を用いて電力取引約定計算装置2へ送信したものでもよいし、需給調整市場の運営者がインターフェース部21の入力部21aから入力されたものでもよい。あるいは、全国大で発動調整電力量を管理するような外部システム(不図示)から、通信部23が発動実績データを取得してもよい。
【0024】
なお、発動実績データには、発動された需給調整力の量(発動調整電力量)および発動された日時(調整力の受け渡し日時)のデータの他、発動された日時の特徴データ(季節、曜日、天気予報、予想気温、イベント情報(例えば、送配電事業者が管轄する地域での催しの有無やその規模など))が含まれていてもよい。
【0025】
演算部24は、確率密度関数作成部24a、入札・応札データ集約部24b、複数価値約定計算実行部24cおよび約定計算結果集約部24dを備えている。演算部24は、CPU(Central Processing Unit)やメモリ等からなる演算処理装置で構成されており、確率密度関数作成部24a、入札・応札データ集約部24b、複数価値約定計算実行部24cおよび約定計算結果集約部24dの各機能は、CPUがメモリ等に記憶されたプログラムを実行することによって実現される。
【0026】
確率密度関数作成部24aは、発動調整電力量の発生確率を確率密度関数として定式化する演算を行う。記憶部22に調整力の発動実績データが存在する場合、確率密度関数作成部24aは、その発動実績データに基づいて、発動調整電力量とその発生確率との関係を表す確率密度関数を算出する。確率密度関数の算出方法としては、例えば、発動実績データと近似関数との誤差の二乗の総和が最小となるように近似関数のパラメータを決定する最小二乗法などの近似法を用いることができる。近似関数としては、例えば平均をμ、標準偏差をσとする有界な定義域[A,B]を持つ切断正規分布TN(μ,σ,A,B)に従う関数を用いることができる。なお、近似法で用いられる発動実績データは、過去の全データである必要はなく、例えば、需要調整力の発動される日時の特徴データと類似する(類似度が一定値以上である)特徴データを持つ過去の日時を抽出し、抽出された過去の日時の発動実績データのみが用いられてもよい。
【0027】
記憶部22に調整力の発動実績データが存在しない場合、確率密度関数作成部24aは、例えば、需給調整市場の運営者がインターフェース部21の入力部21aを用いて設定した任意の関数を、確率密度関数として出力するものとする。例えば、平均をμ、標準偏差をσとする有界な定義域[A,B]を持つ切断正規分布TN(μ,σ,A,B)に従う関数を、確率密度関数として用いてもよい。
【0028】
入札・応札データ集約部24bは、送配電事業者からの入札データおよび調整力供出事業者からの応札データの集約を行う。具体的には、入札・応札データ集約部24bは、入札データ(必要となる需給調整力の量(ΔkW))を集約することで、全送配電事業者が必要とする需給調整力の量を合計する。また、入札・応札データ集約部24bは、応札データ(供出可能な需給調整力の量(ΔkW)、需給調整力の希望単価(円/ΔkW)、発動調整電力量の希望単価(円/kWh))を集約して、需給調整力の希望単価と供出可能な需給調整力の量との関係を表す供給カーブ(階段関数)を算出する。
【0029】
複数価値約定計算実行部24cは、確率密度関数作成部24aが作成した発動調整電力量と発生確率との関係性を表す確率密度関数と、入札・応札データ集約部24bが算出した必要となる需給調整力の量(合計)および需給調整力の希望単価と供出可能量との関係性を表す供給カーブ(階段関数)とを用いての約定計算を行う。すなわち、複数価値約定計算実行部24cは、上記の確率密度関数、必要となる需給調整力の量および供給カーブに基づいて、需給調整力(ΔkW)の調達費用と発動調整電力量(kWh)の運用費用との2つの費用の合計が最小となるように、需給調整力の約定単価(円/ΔkW)、調整力供出事業者毎の需給調整力の約定量(ΔkW)、発動調整電力量の約定単価(円/kWh)を決定する。
【0030】
約定計算結果集約部24dは、複数価値約定計算実行部24cが決定した最終的な約定結果を集約する。また、約定計算結果集約部24dは、集約した約定結果を、約定結果データとして記憶部22に保存するとともに、当該約定結果データを通信部23および通信ネットワーク3を介して入札者端末装置4および応札者端末装置5に送信する。
【0031】
このように、電力取引約定計算装置2は、需要調整市場において、送配電事業者からの需要調整力の量の入札に対し、調整力供出事業者からの需要調整力の希望単価、発動調整電力量の希望単価および供出可能量の応札を、需給調整力の単価および発動調整電力量の単価という2つの価値を同時に考慮して、需給調整力の約定単価(円/ΔkW)、調整力供出事業者毎の需給調整力の約定量(ΔkW)、発動調整電力量の約定単価(円/kWh)を決定することができる。
【0032】
図3は、実施の形態1に係る電力取引約定計算装置2の動作を示すフローチャートである。以下、
図3のフローチャートを参照しつつ、電力取引約定計算装置2の動作を説明する。
【0033】
まず、ステップS1において、電力取引約定計算装置2が、需給調整力の過去の発動実績データを収集して記憶部22に保存する。電力取引約定計算装置2が収集する需給調整力の発動実績データは、例えば、送配電事業者が入札者端末装置4を用いて送信したものでもよいし、需給調整市場の運営者がインターフェース部21の入力部21aから入力されたものでもよいし、通信部23が外部システム(不図示)から取得したものでもよい。また、発動実績データには、需給調整力が発動された日時の特徴データ(季節、曜日、天気予報、予想気温、イベント情報(送配電事業者が管轄する地域での催しの有無や規模など))が含まれているものとする。
【0034】
次に、ステップS2において、電力取引約定計算装置2が、送配電事業者からの需要調整力の量の入札、ならびに、調整力供出事業者からの需要調整力の希望単価、発動調整電力量の希望単価および供出可能量の応札を受け付ける。
【0035】
本実施の形態では、需給調整力の商品が、需給調整力が発動されてからの応動時間および需給調整力の供出の継続時間別に、予め用意されており、商品毎、および受け渡し日時毎に、予め定められた日時になると取引が開始されるものとする。取引の開始日時になると、送配電事業者は、入札者端末装置4を使って必要となる需給調整力の量を入札し、調整力供出事業者は、応札者端末装置5を使って供出可能な需給調整力の量、需給調整力の希望単価および発動調整電力量の希望単価を応札する。また、取引は、需給調整力の商品毎、およびその受け渡し日時毎に、予め定められた日時になると終了される。
【0036】
取引が終了すると、ステップS3において、入札・応札データ集約部24bが、入札された必要となる需給調整力の量を示す入札データを集約するとともに、応札された供出可能な需給調整力の量、需給調整力の希望単価および発動調整電力量の希望単価を示す応札データを集約する。そして、入札データおよび応札データの集約結果に基づいて、入札・応札データ集約部24bは、必要となる需給調整力の量の合計と、需給調整力に関する供給カーブ(階段関数)とを算出する。また、入札・応札データ集約部24bは、集約前の入札データおよび応札データ、ならびに、集約後の入札データおよび応札データを、記憶部22に保存する。
【0037】
次に、ステップS4において、確率密度関数作成部24aが、発動調整電力量の発生確率を表す確率密度関数を作成する。発動実績データが記憶部22に存在する場合、確率密度関数作成部24aは、調整力の受け渡し日時と類似する特徴データを持つ過去の日時の発動実績データを、1サンプルあるいは複数サンプル抽出す。また、抽出した発動実績データを、横軸に発動調整電力量、縦軸に度数をとったグラフで表し、この分布を、例えば、平均をμ、標準偏差をσとする有界な定義域[A,B]を持つ切断正規分布TN(μ,σ,A,B)に従う関数に対して最小二乗法などの近似法を使って近似することで、切断正規分布TNに従う関数のパラメータを決定し、確率密度関数を作成する。
【0038】
一方、発動実績データが記憶部22に存在しない場合や、調整力の受け渡し日時と類似する特徴データを持つ発動実績データが存在しない場合には、確率密度関数作成部24aは、例えば、需給調整市場の運営者により直接的に指定されたパラメータを用いて、切断正規分布TN(μ,σ,A,B)に従う確率密度関数を作成する。
【0039】
次に、ステップS5では、複数価値約定計算実行部24cが、ステップS4で作成された確率密度関数と、ステップS3で算出された必要となる需給調整力の量の合計および供給カーブ(階段関数)とを用いて、需給調整力(ΔkW)の調達費用と、発動調整電力量(kWh)の運用費用の2つの費用の合計が最小となるように、需給調整力の約定単価(円/ΔkW)、調整力供出事業者毎の需給調整力の約定量(ΔkW)、発動調整電力量の約定単価(円/kWh)を決定する。
【0040】
本実施の形態では、複数価値約定計算実行部24cが、これらの約定量および約定単価を決定する問題を最適化問題として定式化し、需給調整力の調達費用と発動調整電力量の運用費用との合計が最小となるように最適化問題を解くことで、それぞれの約定量および約定単価を決定する。
【0041】
本実施の形態における最適化問題は、最終的には、発動調整電力量を確率変数とする確率密度関数を用いた最適化問題として定式化されるが、ここでは、定式化の過程を段階的に説明するために、その元となる確定計画問題の定式化について説明する。確定計画問題は、例えば、以下の式(1a)〜(1n)のように定式化することができる。
【0043】
式(1a)〜(1n)で扱う記号のうち、定数を表すものを以下のように定義する。すなわち、Tを時間tの集合とする。d
t+、d
t−を時間tで必要となる需給調整力の量[ΔkW]とする。ただし、+は上げ調整力、−は下げ調整力を意味し、d
t+、d
t−は非負の実数とする。r
tを時間tでの発動調整電力量[kWh]とする。ただし、r
tは、−d
t−/2とd
t+/2との間の値をとるものとする。I
+、I
−を応札iの集合とする。c
iを応札iの供出可能な需給調整力の量[ΔkW]とする。p
iを応札iの需給調整力の単価[円/ΔkW]とする。q
iを応札iの発動調整電力量の単価[円/kWh]とする。c
i、p
i、q
iはいずれも非負の実数とする。b
iを応札iの開始時間とする。e
iを応札iの終了時間とする。b
i、e
iは集合Tの要素である。応札iの開始時間と終了時間が同じ、すなわち、b
i=e
iである場合は、単断面(単時間)に対する応札であることを意味する。応札iの開始時刻と終了時刻が異なる、すなわちb
i<e
iである場合は、連続する複数断面(複数商品)に対するブロック応札(連続する複数商品に対して、同じc
i、p
i、q
iで応札すること)であることを意味する。M
qを十分大きな数とする。具体的には、M
qは集合I
−の応札iのうち、q
iの最大値以上としておけばよい。
【0044】
また、式(1a)〜(1n)で扱う記号のうち、変数(最適化問題における決定変数)を表すものを以下のように定義する。x
iを0か1をとるバイナリ変数とし、1であれば応札iが一部あるいは全て落札され、0であれば応札iは落札されないことを表すものとする。y
itを応札iに対する時間tでの発動調整電力量[kWh]とする。y
itは非負の実数とする。fを需給調整力の費用[円]とする。νを発動調整電力量の費用[円]とする。p
t+、p
t−を時間tの需給調整力の約定単価[円/ΔkW]とする。q
t+、q
t−を時間tの発動調整電力量の約定単価[円/kWh]とする。r
t+、r
t−を時間tでの発動調整電力量[kWh]とする。p
t+、p
t−、q
t+、q
t−、r
t+、r
t−はいずれも非負の実数とする。
【0045】
式(1a)は目的関数であり、需給調整力の調達費用と発動調整電力量の運用費用の合計を表しており、この費用の合計を最小化することをこの最適化問題の目的とする。式(1b)は、需給調整力の調達に関する費用の計算式である。式(1c)は、発動調整電力量の運用に関する費用の計算式である。式(1d)は、発動調整電力量の計算式である。式(1e)は、正の需給調整力の制約式である。式(1f)は、負の需給調整力の制約式である。式(1g)は、時間tにおける正の発動調整電力量の落札者への割当を表す制約式である。式(1h)は、時間tにおける負の発動調整電力量の落札者への割当を表す制約式である。式(1i)は、応札で指定した時間範囲外については、発動調整電力量を0とする制約式である。式(1j)は、落札者以外の発動調整電力量を0とする制約式である。式(1k)は上げ調整力に関して、落札者の需給調整力の希望単価の最大値で約定単価を決定するための制約式である。式(1l)は下げ調整力に関して、落札者の需給調整力の希望単価の最大値で約定単価を決定するための制約式である。式(1m)は上げ調整力に関して、落札者の発動調整電力量の希望単価の最大値で約定単価を決定するための制約式である。式(1n)は下げ調整力に関して、落札者の発動調整電力量の希望単価の最大値で約定単価を決定するための制約式である。
【0046】
式(1g)および式(1h)は最適化計算の結果、Σ
i∈I+y
it=r
t+、Σ
i∈I−y
it=r
t−となるので、y
itを上記の確定計画問題から除去すると、確定計画問題を以下の式(2a)〜(2l)のように変形することができる。
【0048】
式(2c)におけるε>0は、r
t−=0のときにq
t−=0となることを防ぐために入れてある。式(2e)および式(2f)は、r
t+、r
t−が大きくなり、目的関数値が−∞になることを防ぐために入れてある。
【0049】
さらに、時間tにおいて、
【数3】
が成り立つ場合に、
【数4】
が成り立つように需給調整力c
i’≦c
iを配分すると仮定する。すると、需給調整力の費用fから決定変数x
iを除去でき、確定計画問題をさらに以下の式(3a)〜(3l)のように変形することができる。
【0051】
発動調整電力量r
tが確率変数r
〜t(「
〜」はその前の文字に付されたチルダ記号を表している)であるとして、上記の確定計画問題を確率最適化問題に書き換える。ここでは、r
〜t,t∈Tが切断正規分布TN(μ,σ,A,B)に従うとする。TN(μ,σ,A,B)は、平均をμ、標準偏差をσとする有界な定義域[A,B]をもつ正規分布である。
図4に、切断正規分布の例を示す。
【0052】
標準正規分布N(0,1)の確率密度関数は、次のように与えられる。
【0054】
また、標準正規分布N(0,1)の累積分布関数は、次のように与えられる。
【0056】
これらを用いると、切断正規分布TN(μ,σ,A,B)の確率密度関数ψ(x)は、次のように表される。
【0058】
本実施の形態の電力取引約定計算装置2においては、切断正規分布は各時間t∈T毎に存在する。時間tに関する切断正規分布をTN
t(μ
t,σ
t,A
t,B
t)とする。上げ調整力、下げ調整力ともに発動しなければ、発動調整電力量は0となるので、パラメータのうち、平均μ
tは0にするのが適当と考えられる。定義域の上下限値については、A
t=−d
t−/2、B
t=d
t+/2となる。ただし、d
t−≧0なので負号を付しており、r
tは30分毎の電力量なので2で除している。よって、以下では、μ
t=0、A
t=−d
t−/2、B
t=d
t+/2とする。
【0059】
上記の式(3a)〜(3l)で表した最適化問題の実行可能解をx、時間tに関する部分解をx
tとする。xを固定するとp
t+、p
t−、q
t+、q
t−が決まるので、目的関数のうち需給調整力の費用fはxの元で定数となり、発動調整電力量の費用νは発動調整電力量r
tに比例する。よって、時間tにおける全体費用(需給調整力の費用と発動調整電力量の費用と合計)は、実行可能解x
t、発動調整電力量r
tの関数F(x
t,r
t)となり、次式で表される。
【0061】
ただし、r
t=r
t+−r
t−であり、r
t≧0ならばr
t−=0、r
t≦0ならばr
t+=0となる。
【0062】
発動調整電力量が平均0、標準偏差σ
tの切断正規分布に従うとすると、実行可能解xに対する全体費用の期待値Ex
r[F(x,r
〜)]は次式で求められる。
【0064】
ここで、C
t、D
tは確率分布から計算可能なので定数となる。よって、発動調整電力量を切断正規分布に従う確率変数とし、全体費用の期待値を最小化する場合、上で定式化した確率最適化問題は、以下の式(6a)〜式(6g)のような確定混合整数計画問題(確定0−1整数計画問題)となる。
【0066】
複数価値約定計算実行部24cは、式(6a)〜(6g)で表した最適化問題を、例えば、分枝限定法などの混合整数計画法により解く。最適化計算の結果、式(6b)および式(6c)に関して、いずれかの左辺と右辺の関係が等号とはならず左辺の方が右辺よりも大きくなる場合は、全落札者の需給調整力の約定量のうち、上げ調整力に関する需給調整力の希望単価の最も高い落札者iの約定量、あるいは、下げ調整力に関する需給調整力の希望単価の最も安い落札者iの約定量を、等号が成立するように、供出可能な需給調整力の量c
iから減少させて調整する。それ以外の落札者iの需給調整力の約定量は供出可能な需給調整力の量c
iと同じ値とする。
【0067】
図3のフローチャートに戻り、ステップS6においては、約定計算結果集約部24dが、複数価値約定計算実行部24cによる最適化計算の結果である、落札の有無を表すx
i、需給調整力の約定量、上げ調整力の需給調整力の約定単価を表すp
t+、下げ調整力の需給調整力の約定単価を表すp
t−、上げ調整力の発動調整電力量の約定単価を表すq
t+、下げ調整力の発動調整電力量の約定単価を表すq
t−、式(6a)から得られる目的関数の値を、約定結果データとして記憶部22に保存する。また、通信部23は、当該約定結果データを、通信ネットワーク3を介して入札者端末装置4および応札者端末装置5へ送信する。
【0068】
図5に、入札データを、上げ調整力の必要となる需給調整力の量d
t+=10、下げ調整力の必要となる需給調整力の量d
t−=10とした場合の、応札データの例を示す。
図5の応札データは、3者の応札者(a,b,c)による上げ調整力の応札と、3者の応札者(d,e,f)による下げ調整力の応札とを表している。ここでは説明を簡単にするために、全ての応札をb
i=e
i、すなわち単断面(単時間)での応札とし、入札量(d
t+、d
t−)と応札者iの応札量(c
i)とを同じ値とした。
【0069】
図6は、上述した入札データと
図5に示した応札データとに基づいて、応札者別の全体費用(需給調整力の費用と発動調整電力量の費用と合計)を示したグラフである。このグラフの横軸は発動調整電力量r、縦軸は全体費用Fを表している。
図6のように、上げ調整力に関しては、発動調整電力量が0から0.5までの範囲では応札者a、発動調整電力量が0.5から1.5までの範囲では応札者b、発動調整電力量が1.5以上の範囲では応札者c、がそれぞれ約定する場合に、全体費用が最も安くなる。また、下げ調整力に関して、発動調整電力量が−1.5以下の範囲では応札者f、発動調整電力量が−1.5から−0.5までの範囲では応札者e、発動調整電力量が−0.5から0までの範囲では応札者d、がそれぞれ約定する場合に、全体費用が最も安くなる。
【0070】
この例において、μ
t=0、A
t=−d
t−/2、B
t=d
t+/2とする切断正規分布TN
t(μ
t,σ
t,A
t,B
t)を、式(6a)〜(6g)で表した最適化問題に適用すると、σ=1の場合、C
t=−0.398、D
t=0.398となり、上げ調整力に関しては、需給調整力の約定量は10.0、需給調整力の約定単価は10.0、発動調整電力量の約定単価は110.0となり、下げ調整力に関しては、需給調整力の約定量は10.0、需給調整力の約定単価は10.0、発動調整電力量の約定単価は70.0となり、応札者aと応札者dが落札することになる。また、σ=10の場合、C
t=−1.223、D
t=1.224となり、上げ調整力に関しては、需給調整力の約定量は10.0、需給調整力の約定単価は11.0、発動調整電力量の約定単価は90.0となり、下げ調整力に関しては、需給調整力の約定量は10.0、需給調整力の約定単価は11.0、発動調整電力量の約定単価は90.0となり、応札者bと応札者eが落札することになる。このように、切断正規分布のパラメータσを適切に設定することにより、全体費用を最小とする約定結果を得ることが可能となる。
【0071】
以上の構成および処理フローにより、これまで実現が困難であった、需給調整力の単価(ΔkW単価)と発動調整電力量の単価(kWh単価)という複数の価値を同時に考慮して双方を単一価格で約定させることが可能になる。
【0072】
<実施の形態2>
電力取引約定計算システム1に、複数の送配電事業者が入札者として参入する場合、各送配電事業者は他の送配電事業者の管轄エリアに所属する調整力供出事業者から、需給調整力を調達することも可能である。ただし、通常、送配電事業者が管轄するエリアの間には連系線が存在する。連系線の空き容量に十分な余裕がある状況では、実施の形態1の複数価値約定計算実行部24cは、最適化計算の実行において特に制約を受けない。しかし、連系線の空き容量に十分な余裕がない状況では、実施の形態1の複数価値約定計算実行部24cは、複数価値約定計算実行部24cは実行可能解を算出できない恐れがある。そこで、実施の形態2では、連系線の空き容量に十分な余裕がない状況でも、実行可能解が算出されるように、複数価値約定計算実行部24cが最適化計算を実行する上での対策を施す。
【0073】
図7は、複数の送配電事業者が入札者として参入した電力取引約定計算システム1が管轄するエリア(すなわち、電力取引約定計算システム1による電力取引の対象となるエリア)を概念的に示す図である。電力取引約定計算システム1に複数の送配電事業者が参入した場合、電力取引約定計算システム1が管轄するエリアには、送配電事業者のそれぞれが管轄する複数のエリアが含まれ、各エリアの間に連結線が存在する。
【0074】
実施の形態2では、各エリアに識別番号としてのエリア番号(例えば、1,2,3,・・・)を定め、入札者および応札者のそれぞれに、所属するエリアに対応するエリア番号を付与する。また、
図7のように、エリアmとエリアnとの間の連系線を、連系線mnと定義する(m≠n)。連系線mnには、流れる方向があり、ここではエリアmからエリアnの方向を順方向、エリアnからエリアmの方向を逆方向とする。連系線mnの空き容量は、順方向と逆方向のそれぞれに設定される。
【0075】
連系線mnの潮流量(エリア間で融通する需給調整力の量)は、当該連系線mnに設定された空き容量を超えないように決定される必要がある。例えば、
図7のように、連系線mnの順方向(エリアmからエリアnの方向)の空き容量が100[MW]である場合に、実施の形態1の複数価値約定計算実行部24cの最適化計算により、連系線mnの順方向の潮流量が120[ΔMW]と算出されたとしても、実際にはそのような電気を流せないため、そのまま約定させることは適切でない。そこで、実施の形態2では、連系線mnの潮流量の算出結果が、その連系線の空き容量を超過した場合に、
図8のように電力取引約定計算システム1が管轄するエリアを、連系線mnの部分で分断する「市場分断処理」を行う。
【0076】
図9は、実施の形態2に係る電力取引約定計算装置2が備える演算部24の構成を示す。
図9の演算部24は、
図2に示した演算部24の構成に対し、市場分断処理部24eを追加したものである。演算部24以外の電力取引約定計算装置2の構成は、
図2に示したものと同様であるため、それらの図示および説明は省略する。
【0077】
市場分断処理部24eは、複数価値約定計算実行部24cの最適化計算により算出された連系線の潮流量が、当該連系線の空き容量を超過しているかどうかを判定し、超過していれば、市場分断処理を行う。すなわち、市場分断処理部24eは、算出された連系線の潮流量が当該連系線の空き容量を超過した場合に、電力取引の対象となるエリアを当該連系線の部分で分断し、当該連系線の潮流量を当該連系線の空き容量以下に設定した上で、分断されたエリアごとに改めて最適化問題を定式化する。
【0078】
例えば
図7の例において、複数価値約定計算実行部24cの最適化計算により算出された連系線mnの順方向の潮流量が、その空き容量である100[ΔMW]を超過していた場合、市場分断処理部24eは、
図8のように、連系線mnの順方向の潮流量をその空き容量に相当する100[ΔMW]とする(すなわち、エリアmからエリアnへ融通する需給調整力の量を100[ΔMW]に固定する)前提で、エリアmとエリアnとの間を分断し、分断されたエリアごとに改めて最適化問題を定式化する。この場合、エリアmは見かけ上必要となる需給調整力の量が100[ΔMW]増え、エリアnは見かけ上必要となる需給調整力の量が100[ΔMW]減ることになる。
【0079】
市場分断処理が行われると、見かけ上、エリアmを含むエリアグループと、エリアnを含むエリアグループでそれぞれ市場が形成されることになる。市場分断処理が完了した後は、複数価値約定計算実行部24cが、分断されたエリア毎に、改めて最適化計算を行う。
【0080】
図10は、実施の形態2に係る電力取引約定計算装置2の動作を示すフローチャートである。
図10のフローは、実施の形態1で示した
図3のフローに、ステップS7およびステップS8を追加したものである。そのためここでは、ステップS7およびステップS8に関連する処理についてのみ説明を行う。
【0081】
実施の形態2では、ステップS5の約定計算(複数価値約定計算実行部24cによる最適化計算)が完了すると、ステップS7が実行される。ステップS7においては、市場分断処理部24eが、ステップS5で算出された連系線の潮流量が、当該連系線の空き容量を超過しているどうか判定する。算出された連系線の潮流量が空き容量を超過していなければ(ステップS7でNO)、実施の形態1と同様にステップS6へ移行する。しかし、算出された連系線の潮流量が空き容量を超過していれば(ステップS7でYES)、ステップS8へ移行する。
【0082】
ステップS8においては、市場分断処理部24eが、電力取引約定計算システム1が管轄するエリアを、算出された潮流量が空き容量を超過している連系線の部分で分断し、分断されたエリアごとに改めて最適化問題を定式化する、市場分断処理を行う。このとき、市場分断処理部24eは、新たに作成する最適化問題において、分断されたエリア間の連系線の潮流量をその空き容量の値に設定する(すなわち、分断されたエリア間で融通する需給調整力の量を、連系線の空き容量の値に固定する)。
【0083】
ステップS8の市場分断処理が完了すると、ステップS3へ戻る。市場分断処理が行われた後においては、ステップS3では、入札・応札データ集約部24bが、分断されたエリア毎に入札データと応札データを集約する。また、ステップS4では、確率密度関数作成部24aが、分断されたエリア毎に確率密度関数を作成する。さらに、ステップS5では、複数価値約定計算実行部24cが、分断されたエリア毎に、最適化計算を実行する。
【0084】
以上のように、実施の形態2に係る電力取引約定計算装置2によれば、複数の送配電事業者が管轄する各エリア間の連系線に十分な空き容量がない場合でも、市場分断処理を行うことで、需給調整力の単価(ΔkW単価)および発動調整電力量の単価(kWh単価)という複数の価値を同時に考慮して、双方を単一価格で約定させることができる。
【0085】
なお、本発明は、その発明の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略したりすることが可能である。