【課題】シャワープレートに着膜した膜を除去する際に、シャワープレートに入射したクリーニングガスが反応して発生するパーティクルを抑制できる、プラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】本発明のプラズマ処理装置1は、チャンバ2内に配置される、シャワープレート5と基板10の支持部15との間に設けられた空間(成膜空間)2a内へ活性化されたクリーニングガスを導入するクリーニングガス供給手段8a、8bを含む。また、前記シャワープレートの外周支持部(43t:部位α)と前記基板の外周支持部(13t:部位β)とを各々検知可能な位置に放射温度計80au、80ad、80bu、80bdをさらに備える。
前記ユニットは、該ユニットを構成する1つ以上の放射温度計の計測情報に基づき、該ユニットを構成するクリーニングガス供給手段から放出されるクリーニングガスの条件を制御する手段を有する、
ことを特徴とする請求項2または3に記載のプラズマ処理装置。
【背景技術】
【0002】
Siやガラス、セラミックスなどの基板表面に各種の被膜をCVD法などにより形成するプラズマ処理装置では、成膜室内に成膜ガスを導入しプラズマを発生させて基板に被膜を形成する成膜工程が繰り返し行われる。このような成膜工程においては、成膜対象である基板のみならず、非成膜対象である基板以外の部分(たとえば、基板を載置する基板支持部や成膜室の内壁など)にも着膜し、成膜工程を繰り返す回数に比例して膜厚が徐々に増えてしまう。
【0003】
成膜対象である基板は、成膜工程(1バッチ)ごとに交換されるので、特定の基板上には所望の被膜が所定の膜厚だけ形成される。これに対して、非成膜対象である基板以外の部分は、成膜工程ごとに交換されない。ゆえに、たとえば100回の成膜工程が繰り返し行われた場合は、非成膜対象である基板以外の部分には、成膜工程1回分の100倍の着膜が生じ、100回分の膜厚が重なった状態となる。このため、非成膜対象である基板以外の部分においては、被膜の内部応力が高まり、被膜の密着性が低下するなどの不具合が生じやすく、ひいては非成膜対象以外の部分から膜ハガレが起こり、成膜室内の雰囲気が汚染される。
【0004】
このような事情から、従来のプラズマ処理装置においては、所定回数の成膜工程を実行した後、非成膜対象である基板以外の部分に対して定期的にクリーニング処理が行われ、上述した成膜室内の雰囲気が汚染される現象の発生を抑制する手法が採用されている。このクリーニング処理は、通常、フッ素(F)ガスを成膜室の内部空間に導入し、成膜室の内部でプラズマを発生することで活性化されたF(Fラジカル)を発生させて、Fラジカルに晒すことにより、クリーニングを行う。ただし、この手法1では各部品がプラズマによるダメージを受け、パーティクルの発生源となってしまう。
【0005】
このため、最近は、プラズマ源123a、123bを成膜室とは別の部屋を設けることで、プラズマによるダメージを防ぎ、結果としてパーティクルを抑制することが可能な手法2が採用されるようになっている(たとえば、
図5に示すプラズマ処理装置、特許文献1)。すなわち、手法2のクリーニング処理では、プラズマ処理装置の成膜室とは別に設けられたプラズマ源123a、123bの内部で予めクリーニングガス(たとえば、NF
3)を分解し、活性化されたフッ素(Fラジカル)として成膜室の内部空間へ導入する。
図5において、符号117は基板(不図示)を載置する支持台、符号117aは支持台の表面である。プラズマ源123a、123bから各々、支持台の表面117aの上方に延びる矢印が、成膜室の内部空間へ導入された活性化されたフッ素(Fラジカル)を表している。
【0006】
しかしながら、手法2のクリーニング処理においては、Fラジカルが成膜室の内部空間に十分に均一に広がらないため、電極表面や基板マスクの低温部にクリーニングされにくい箇所が存在してしまう。このような箇所を最後まで反応させて、クリーニングするためには、クリーニング時間を延長して、その箇所がクリーニングされるまで、長時間の処理を行うしかなかった(たとえば、特許文献2)。
【0007】
長時間にわたるクリーニング処理は、プラズマ処理装置の生産性を下げるだけではなく、非成膜対象である基板以外の部分(たとえば、電極表面や基板マスク表面など)のFラジカルによる腐食を促すことになり、結果としてパーティクルが大量に発生してしまう虞があった。パーティクルが発生した場合には、部品(電極や基板マスク)は交換することになり、装置を停止しなければならず、結果として生産性がさらに悪化することが懸念されていた。
【0008】
一方、成膜室の内部に着膜された膜がクリーニングされる際には、発光を伴った反応が起こることが知られている。従来のクリーニング処理では、成膜室に設けた覗き窓から成膜室の内部を2方向からのみ、その発光を観測することによって、「クリーニングの終点」を判断していた。
ここで、「クリーニングの終点」とは、クリーニングされにくい箇所のうちでも、クリーニング処理が最も遅れる傾向を示す箇所であり、最後にクリーニング処理される箇所及びそのタイミングを意味する。
しかしながら、この発光は必ずしも生じるものではなく、膜種によっては発光を伴わない反応の場合もある。このように発光を伴わない反応では、クリーニングの終点を判断することが難しかった(たとえば、特許文献3)。
【0009】
したがって、成膜室の内部に着膜された膜がクリーニングされる際に、発光を伴わない反応の場合であっても、クリーニングの終点を判断することが可能な、プラズマ処理装置及びそのクリーニング方法の開発が期待されていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、クリーニング時に発光を伴わない反応の場合であっても、クリーニングの終点を判断することが可能な、プラズマ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
プラズマ処理装置であって、
チャンバと、ガス導入口を有する電極フランジと、前記チャンバ及び前記電極フランジによって挟まれた絶縁フランジとから構成され、成膜空間(反応室)を有する処理室と、
前記成膜空間内に収容され、処理面を有する基板が載置され、前記基板の温度を制御する機能を有する支持部と、
前記成膜空間内に収容され、前記処理面に対向するように配置され、前記基板に向けてプロセスガスを供給する複数の小孔を有するシャワープレートと、
前記シャワープレートと前記支持部との間に電圧を印加し、前記プロセスガスのプラズマを生成する電圧印加部と、
前記シャワープレートと前記支持部との間に設けられた空間内へ活性化(ラジカル化)されたクリーニングガスを導入するクリーニングガス供給手段と、
を含み、
前記シャワープレートの外周部と接触する部位αと前記基板の外周部と接触する部位βとを各々検知可能な位置に放射温度計をさらに備えた、
ことを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、
前記クリーニングガス供給手段と、その上下に重なる位置に設けられた前記放射温度計とを備え、
前記放射温度計の一方が前記部位αの温度を検知可能な位置に、前記放射温度計の他方が前記部位βの温度を検知可能な位置に、それぞれ配置されている、
ことを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項2において、
前記クリーニングガス供給手段と、その上下に重なる位置に設けられた前記放射温度計とが1組のユニットを構成しており、
前記チャンバは、複数の前記ユニットを備え、各ユニットが前記基板を載置する支持部を取り囲むように、互いに離間して配置されている、
ことを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項2または3において、
前記ユニットは、該ユニットを構成する1つ以上の放射温度計の計測情報に基づき、該ユニットを構成するクリーニングガス供給手段から放出されるクリーニングガスの条件(たとえば、流量や流速、放出角度(上下左右)、温度など)を制御する手段を有する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明(プラズマ処理装置)は、基板の支持部とシャワープレートとの間の空間に、クリーニングガスを導入する手段を備え、かつ、シャワープレートの外周部と接触する部位αと基板の外周部と接触する部位βとを、各々検知可能な位置に放射温度計を備えている。
部位αと部位βは、電極表面や基板マスクの低温部であり、クリーニングされにくい箇所であり、着膜された膜が最後まで残存しやすい箇所であること、及び、クリーニング処理を行っている最中でも、放射温度計を用いて部位αと部位βの温度を逐次入手できることを本発明者らは、後述する予備実験の結果(a1)〜(a6)により初めて見出した。
これにより、本発明は、クリーニング時に発光を伴わない反応の場合であっても、クリーニングの終点を判断することが可能な、プラズマ処理装置の提供に貢献する。
【0017】
以下は、本発明者らが獲得した予備実験の結果(a1)〜(a6)である。
(a1)クリーニング処理時、発光を伴った反応の他に発熱を伴った反応が起こること。
(a2)上記(a1)の発熱を伴った反応は、発光を伴った反応の有無に関わらず、放射温度計を用いることにより、検知可能であること。
(a3)放射温度計による測定された温度情報は、クリーニング処理を行っている最中に、逐次入手が可能であること。
(a4)この温度情報から、クリーニングされにくい箇所のうちでも、クリーニング処理の程度が遅れている箇所を特定できること。
(a5)上記(a4)のクリーニング処理の程度が遅れている箇所は、シャワープレートの外周部と接触する部位αと基板の外周部と接触する部位βであり、電極表面や基板マスクの低温部であること。
(a6)放射温度計を用いることにより、上記(a4)の低温部をなす部位αと部位βは、その低温部に比較してより高温を示す近傍の部位と識別可能であること。
【0018】
このような予備実験の結果に基づき、本発明らは請求項1に記載の発明を考案した。
すなわち、請求項1に記載の発明は、
成膜空間内において、シャワープレートの外周部と接触する部位αと基板の外周部と接触する部位βとを各々検知可能な位置に放射温度計を備えたことにより、クリーニング時に発光を伴わない反応の場合であっても、クリーニングの終点を判断することが可能な、プラズマ処理装置の提供に貢献する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<実施形態1>
(プラズマ処理装置)
本発明の実施形態1に係るプラズマ処理装置を
図1〜
図4に基づいて説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0021】
図1は、本実施形態のプラズマ処理装置の構成を示す概略断面図であり、
図2は、
図1のプラズマ処理装置における要部を拡大して示す概略断面図である。
図3と
図4は各々、
図1のプラズマ処理装置を上方から見た異なる構成例を示す概略平面図である。
プラズマ処理装置の一例として、プラズマCVD法を実施する成膜装置1に、本発明を適用した構成に基づき、以下では詳細に説明する。
【0022】
図1に示すように、プラズマCVD法を実施する成膜装置1は、成膜室として構成される真空チャンバ2を有している。真空チャンバ2は接地されている。真空チャンバ2の下部には、真空チャンバ2の底部11を挿通するように支柱25が配置されており、支柱25の先端(真空チャンバ2内)は、板状のヒータベース3の底面12と接続されている。真空チャンバ2の上部には、絶縁フランジ43を介して電極フランジ4が取り付けられている。また、真空チャンバ2の底部11には、排気管27が接続されており、その先端には、真空ポンプ28が設けられ、真空チャンバ2内を排気したり、真空状態にすることができるように構成されている。
【0023】
また、支柱25は、真空チャンバ2の外部に設けられた図示しない昇降機構に接続されており、上下方向に移動可能に構成されている。つまり、支柱25の先端に接続されているヒータベース3およびヒータ15を上下方向に昇降可能に構成されている。このように構成することで、基板20の出し入れを容易にすることができる。なお、真空チャンバ2の外部において、支柱25の周縁を覆うようにベローズ26が設けられている。
【0024】
また、ヒータ15は、ヒータベース3と同様に表面が平坦に形成された平面視矩形の板状の部材であり、その上面に基板20が載置される。ヒータ15は、例えばアルミニウム合金で形成されている。ヒータ15は接地電極として機能するため、導電性を有するものが採用される。基板20をヒータ15上に配置すると、基板20と後述するシャワープレート5とは互いに近接して「平行」に位置するように構成されている。ヒータ15上に基板10を配置した状態で、シャワープレート5に形成されたガス噴出口6から成膜ガスを噴出させると、その成膜ガスは基板10の表面に吹き付けられる。
【0025】
また、ヒータ15は、その内部にヒータ線16が内包されており、温度調節可能に構成されている。ヒータ線16は、ヒータ15の平面視略中央部の底面17から突出されており、ヒータベース3の平面視略中央部に形成された貫通孔18および支柱25の内部を挿通して、真空チャンバ2の外部へと導かれている。そして、ヒータ線16は真空チャンバ2の外部にて図示しない電源と接続され、温度調節がなされるように構成されている。このヒータベース3とヒータ15とで基板支持部を構成する。
【0026】
電極フランジ4は、真空チャンバ2を閉塞するように蓋状に形成され、その周縁部が絶縁フランジ43に当接するように配置されている。また、電極フランジ4における真空チャンバ2の内側に面した側にはシャワープレート5が設けられている。したがって、シャワープレート5と電極フランジ4との間に空間24が形成されている。
【0027】
電極フランジ4にはガス導入管7が接続されており、真空チャンバ2の外部に設けられた成膜ガス供給部21から空間24に原料ガス(例えば、SiH4)を供給するように構成されている。また、原料ガスを供給する際にアルゴンガスまたは窒素ガスからなるキャリアガスが併せて供給されるように構成されている。このキャリアガスも成膜ガス供給部21から空間24に供給されるようになっている。さらに、シャワープレート5には多数のガス噴出口6が設けられており、空間24内に導入された成膜ガスはガス噴出口6から真空チャンバ2内に略均等に噴出されるように構成されている。
【0028】
なお、
図1に示すように、電極フランジ4の周壁43においては、上壁41とシャワープレート5との間に、圧力調整プレート51が設けられる構成としてもよい。この圧力調整プレート51によって、ガス導入口42側に形成される第一空間24aとシャワープレート5側に形成される第二空間24bとに、空間24が分けられている。
圧力調整プレート51が設けられる構成とした場合、圧力調整プレート51は、電極フランジ4と同様に導電材で板状に形成されている。圧力調整プレート51には、複数のガス噴出口61(第一ガス噴出口)が形成されている。
【0029】
即ち、プロセスガス供給部21からガス導入管7及びガス導入口42を通じて第一空間24aに導入されたプロセスガスは、圧力調整プレート51のガス噴出口61を通じて第二空間24bに噴出される。その後、第二空間24b内のプロセスガスは、シャワープレート5のガス噴出口6を通じて、真空チャンバ2内に噴出される。
このことから、第一空間24aは圧力調整プレート51の上流側の空間であり、第二空間24bは圧力調整プレート51の下流側の空間である。
また、第二空間24bはシャワープレート5の上流側の空間であり、真空チャンバ2内はシャワープレート5の下流側の空間である。
【0030】
第一空間24aと第二空間24bとの間に圧力調整プレート51が設けられ、第二空間24bと真空チャンバ2内の成膜空間2aとの間にシャワープレート5が設けられた場合には、第一空間24aの圧力P1よりも第二空間24bの圧力P2が低く、第二空間24bの圧力P2よりも成膜空間2aの圧力Peが低い。即ち、上流側から下流側に向けて徐々に圧力が低くなるように構成される。
【0031】
また、電極フランジ4とシャワープレート5とは、ともに例えばアルミニウムなどの導電材で構成されている。なお、アルミニウムの表面に陽極酸化した皮膜が形成されていてもよい。さらに、電極フランジ4は真空チャンバ2の外部に設けられたRF電源(高周波電源)9に接続されている。
【0032】
そして、真空チャンバ2の側壁2s(2sa、2sb)にはクリーニングガス導入管8(8a、8b)が接続されている。クリーニングガス導入管8(8a、8b)には各々、クリーニングガス供給部(
図1では「クリーニングガス」と表示)22(22a、22b)とラジカル源23(23a、23b)とが設けられている。
【0033】
これにより、クリーニングガスとして、たとえばフッ素ガスを用いた場合には、クリーニングガス供給部22から供給されたフッ素ガスをラジカル源23で活性化し、これによって得られるフッ素ラジカルを、真空チャンバ2内の成膜空間に供給するように構成されている。なお、クリーニングガス供給部22からは、フッ素ガスに限られず、NF
3などのフッ素を含むガスを供給してもよい。
【0034】
図2に示すように、真空チャンバ2の側壁2saには、クリーニングガス導入管8aの上下位置に各々、放射温度計80au、80adが設けられている。一方の放射温度計80auはシャワープレート5の外周部と接触する部位α(43t)を検知可能な位置に配置されており、他方の放射温度計80adは基板10の外周部と接触する部位β(13t)を検知可能な位置に配置される。
【0035】
ここで、部位α(43t)は、電極フランジ4の周壁43の最内縁部であり、シャワープレート5の外周部と接触してシャワープレート5を下方から支持している。部位β(13t)は、基板10を載置するヒータ15の露呈部を覆うマスク13の最内縁部であり、基板10の外周部と接触している。
【0036】
同様に、真空チャンバ2の側壁2sbには、クリーニングガス導入管8bの上下位置に各々、放射温度計80bu、80bdが設けられている。一方の放射温度計80buはシャワープレート5の外周部と接触する部位α(43t)を検知可能な位置に配置されており、他方の放射温度計80bdは基板10の外周部と接触する部位β(13t)を検知可能な位置に配置される。
【0037】
このような配置に放射温度計を設けることにより、本発明のプラズマ処理装置は、電極表面や基板マスクの低温部であり、クリーニングされにくい箇所であり、着膜された膜が最後まで残存しやすい箇所である部位αと部位βの温度を、クリーニング処理を行っている最中でも、放射温度計を用いて逐次入手できる。ゆえに、本発明のプラズマ処理装置は、クリーニング時に発光を伴わない反応の場合であっても、クリーニングの終点を判断することが可能となる。
【0038】
なお、本発明においては、このような放射温度計の配置は、両方[たとえば、一方の放射温度計80au、他方の放射温度計80ad]を備える構成に限定されるものではなく、いずれか一方の放射温度計を設ける構成としてもよい。また、クリーニングガス導入管8aと、その上下位置に各々設けられる放射温度計80au、80adとは、必ずしも一組のユニットを構成しなくてもよい。
【0039】
図1のプラズマ処理装置では、クリーニングガス導入管8aの上下位置に各々、放射温度計80au、80adが設けられた構成を示している。この上下位置の関係にある、一方の放射温度計80auによって検知された部位α(43t)に関する温度情報と、他方の放射温度計80adによって検知された部位β(13t)に関する温度情報とは、各々独立に管理されてもよい。すなわち、2つの温度情報は必ずしも連動する必要はなく、各々独立に管理され、個別の温度情報に基づいて、クリーニングガス導入管8aから導入されるクリーニングガスの条件(たとえば、流量や流速)を制御してもよい。
【0040】
また、本発明のプラズマ処理装置においては、クリーニングガス供給手段と上下に重なる位置に設けられた放射温度計とが1組のユニットを構成することにより、部位α(43t)の温度情報と部位β(13t)の温度情報とを、逐次入手し、両者を比較しながら、管理することも可能である。この構成によれば、たとえば、次のような3条件(c1)〜(c3)を適宜選択し、運用することができる。
(c1)ユニットごとに得られた温度情報に基づき、部位α(43t)に向けて積極的にクリーニングガス導入管8aからクリーニングガスが照射される条件を採用する。
(c2)部位β(13t)に向けて積極的にクリーニングガス導入管8aからクリーニングガスが照射される条件を採用する。
(c3)部位α(43t)と部位β(13t)の両方に向けて均等にクリーニングガス導入管8aからクリーニングガスが照射される条件を採用する。
このような運用を行うことにより、クリーニング処理に要する時間の短縮を図ることができる。
【0041】
図3は、
図1のプラズマ処理装置を上方から見た一構成例を示す概略平面図であり、成膜室として構成される真空チャンバ2の内部空間が、正方形の場合を示している。すなわち、
図3の場合は、正方形の基板に対してクリーニング処理する際に好適である。
図3における符号は、2が真空チャンバを、8a〜8hがクリーニングガス導入管を、10が基板を、10aが基板10の表面を、13がマスクを、13tが部位βを、それぞれ表している。
【0042】
図3の場合は、正方形の真空チャンバ2において、複数のクリーニングガス導入管が設けられており、ヒータ15に載置された基板10の表面10aを取り囲む位置に、各々のクリーニングガス導入管が互いに離間して配される。すなわち、複数のクリーニングガス導入管は、分散配置されている。これにより、基板10の表面10aに着膜した膜に対して、多角的な方向からクリーニングガスを導入可能となる。ゆえに、クリーニングガスは、基板の表面に着膜した膜に沿って、基板の周縁部から中央部に進行する。したがって、基板の表面に着膜した膜は均一にクリーニングガスに晒される状態が得られる。
【0043】
前述した
図2に示した断面図が、
図3に示したX−X方向の断面に相当する。すなわち、
図3には示さないが、1本のクリーニングガス導入管8aごとに、その上下位置(
図3においては、紙面の手前位置と紙面の奥行き位置)に各々、放射温度計80au、80adが設けられた構成が、本発明である。
【0044】
図3には、8本のクリーニングガス導入管8a〜8hを配置した構成例を示している。より詳細には、真空チャンバ2のコーナー部に4本のクリーニングガス導入管(8a〜8d)が配置されるとともに、真空チャンバ2のコーナー部に4本のクリーニングガス導入管(8e〜8h)が配置された一例である。
【0045】
図3においては、隣り合う位置にあるクリーニングガス導入管(たとえば、8aと8e、8aと8h)どうしの配置された状態が、45度づつ異なるようにレイアウトされているが、本発明は45度に限定されるものではない。この角度が可変に制御できるように、各々のクリーニングガス導入管が、
図3の紙面内(基板面内)において首振り可能な機構を備えることが好ましい。これにより、特定のクリーニングガス導入管から放出されるクリーニングガスの方向を可変制御することが可能となる。
【0046】
このような運用を行うことにより、基板面内方向において、部位α(43t)又は部位β(13t)の中でも、クリーニング処理が遅れている箇所がある場合、その遅れている箇所に対して積極的にクリーニング処理を行うことができるので、クリーニング処理に要する時間の短縮を図ることが可能となる。
【0047】
図1や
図2においては、クリーニングガス導入管(たとえば、8a)の放出方向が、部位α(43t)と部位β(13t)の各表面に対して「平行」をなすように構成されているが、この構成についても「平行」に限定されるものはない。たとえば、クリーニングガス導入管(たとえば、8a)の放出方向は、放射温度計80auが表面温度を検知する部位α(43t)の方向へ傾斜させたり、逆に放射温度計80adが表面温度を検知する部位β(13t)の方向へ傾斜させることが可能な機構を備えることが好ましい。これにより、部位α(43t)又は部位β(13t)の何れか一方を積極的にクリーニング処理することが可能となる。
【0048】
このような運用を行うことにより、部位α(43t)又は部位β(13t)の何れか一方のクリーニング処理が遅れている場合、その遅れている方の部位に対して積極的にクリーニング処理を行うことができるので、クリーニング処理に要する時間の短縮を図ることが可能となる。
なお、本発明においては、クリーニングガス導入管の数は、8本に限定されるものではなく、2本以上あれば構わない。
【0049】
図4は、
図1のプラズマ処理装置を上方から見た他の一構成例を示す概略平面図であり、真空チャンバ2の内部空間が長方形である点のみ、
図3の構成例と異なっている。すなわち、
図4の場合は、長方形の基板に対してクリーニング処理する際に好適である。
図4における符号は、102が真空チャンバを、8a〜8hがクリーニングガス導入管を、110が基板を、110aが基板110の表面を、113がマスクを、113tが部位βを、それぞれ表している。
【0050】
前述した
図2に示した断面図が、
図4に示したY−Y方向の断面に相当する。すなわち、
図4には示さないが、1本のクリーニングガス導入管8aごとに、その上下位置(
図4においては、紙面の手前位置と紙面の奥行き位置)に各々、放射温度計80au、80adが設けられた構成が、本発明である。
【0051】
図4には、8本のクリーニングガス導入管8a〜8hを配置した構成例を示している。より詳細には、真空チャンバ2のコーナー部に4本のクリーニングガス導入管(8a〜8d)が配置されるとともに、真空チャンバ2のコーナー部に4本のクリーニングガス導入管(8e〜8h)が配置された一例である。
図4における符号は、102が真空チャンバを、8a〜8hがクリーニングガス導入管を、110が基板を、110aが基板110の表面を、113がマスクを、113tが部位βを、それぞれ表している。
【0052】
図4におけるクリーニングガス導入管8a〜8hを配置した構成例は、基本的に、上述した
図3の構成例と同様であるが、その可変のさせ方についても同様とすることができる。ただし、
図4の場合は、長方形の基板に対してプラズマ処理するため、この基板を収納する真空チャンバ2も長方形となる。このため、長辺の位置に配置されるクリーニングガス導入管8e、8gにおいては、一工夫を施すことが求められる。
【0053】
たとえば、1つの長辺あたりに設けるクリーニングガス導入管の数を増やす方策が挙げられる。これに加えて、1つの長辺に設けたクリーニングガス導入管に、
図4の紙面内(基板110の表面110aの面内)において首振り可能な機構を備えることが好ましい。これにより、特定のクリーニングガス導入管から放出されるクリーニングガスの方向を可変制御することが可能となる。あるいは、長辺に配置するクリーニングガス導入管の先端を広角にする、等の工夫を凝らすことが好ましい。
【0054】
図4の場合においても、このような運用を行うことにより、基板面内方向において、部位α(43t)又は部位β(13t)の中でも、クリーニング処理が遅れている箇所がある場合、その遅れている箇所に対して積極的にクリーニング処理を行うことができるので、クリーニング処理に要する時間の短縮を図ることが可能となる。
【0055】
(実験例1)
以下では、
図5に示す従来のプラズマ処理装置を用い、基板の支持体上の異なる位置における処理時間と温度との関係を評価した結果について述べる。
前述したとおり、チャンバー内部に着膜された膜がクリーニングされる際には発光を伴った反応が起こる。ただし、膜種によっては発光を伴わない反応の場合もある。既存技術では覗き窓からチャンバー内部の2方向のみの発光ををモニターしクリーニングの終点を判断していた。ゆえに、従来のプラズマ処理装置では、発光を伴わない反応の場合、クリーニングの終点を判断することが難しかった。
【0056】
そこで、本発明者らは、反応の熱によるクリーニングの終点判断を検討した。以下では、その実験方法および実験結果について説明する。
クリーニング処理時の反応と反応時の熱は、以下のような実験により確かめた。
(e1)ヒーターを内蔵した基板の支持体117上にアルミのブロック(不図示)を設置し、ブロックに熱電対(不図示)を取り付け、温度測定が可能な構成とする。
(e2)この状態で成膜放電を実施し、チャンバーの内部が着膜された状態にする。
(e3)その後、クリーニング処理を実施するとチャンバーの内部のうち、クリーニングされやすいところからクリーニングの反応が進む。
【0057】
(e4)
図7の符号M1、M2、M3は、ヒーターを内蔵した基板の支持体117の上面117aに置いた各ブロックの位置を表している。符号M1、M2、M3は支持体117の上面117aにおいて異なる位置にブロックが配置されたことを示す。
ここで、M1は、支持体117の上面において中央域にブロックが配置された場合である。M2は、支持体117の上面において短辺近傍の中央域にブロックが配置された場合である。M3は、支持体117の上面において長辺近傍の中央域にブロックが配置された場合である。
【0058】
(e5)異なる位置M1、M2、M3に置いたブロックは、
図6のグラフのような温度変化を示した。
図6において、横軸はクリーニング処理の時間[sec]であり、縦軸は各ブロックに接続された熱電対によって計測された温度[℃]である。
図6のグラフにおいて、温度が上昇し始める点(15sec付近)は、クリーニングの反応が始まる瞬間である。温度指示がピークを示す点(M1:30sec付近、M2:50sec付近、M3:135sec付近)は、クリーニングが終了したことを示す。
【0059】
ブロックM3のクリーニング終了までクリーニング処理した場合、M1のブロックにとって、温度指示がピークを示す点の差分(M3−M1=135−30=105sec)が、OverEtchingであり、M1のブロックはこの差分の時間だけ、Damageを受けることになる。
図6のグラフから、異なる位置M1、M2、M3に置いたブロックは、クリーニングが始まる時間により温度指示値がずれているのがわかる。この位置的なずれは、Fをチャンバー外部から導入する方法をとる限り発生してしまう。
【0060】
このように、反応時の熱を測定する場合、その計測手段として熱電対を用いると、不都合が発生する虞がある。特に、高周波(たとえば、RF)が印加されている箇所に熱電対を取り付けるには、フィルター回路などが必要になる。また、電極のプラズマ発生側に熱電対を取り付けた場合には、プラズマの外乱の要因になる。チャンバー内部を多点で測定しようとした場合、熱電対に繋がる配線などが複雑になり、装置トラブルのリスクとなってしまう虞もある。
【0061】
(実験例2)
以下では、
図5に示す従来のプラズマ処理装置を用い、シャワープレート(SWP)5側のクリーニング進行状況を確認した。
図8A〜
図8Eは順に、
図5の装置(従来)においてシャワープレート5側のクリーニング進行状況を示す第一乃至第五平面図である。ここで、符号5はシャワープレートであり、符号123a、123bは対向して配置されたラジカル源である。シャワープレート5において、白地領域はクリーニング処理により被膜が除去された部分を、メッシュ領域はクリーニング処理により被膜が未だ除去されていない部分を、おのおの表している。白地領域とメッシュ領域の境界に交差する矢印は、その矢印の方向にクリーニング処理が進行することを意味する。
【0062】
図8Aは、クリーニング処理の初期段階では、シャワープレート5の中央付近が、十字状に被膜が除去される。対向配置されたラジカル源123a、123bを結ぶ方向(
図8Aにおいて左右方向)よりも、この方向に交差する方向(
図8Aにおいて上下方向)にクリーニング処理が進行することを示している。
図8Bは、クリーニング処理の進行に連れて、
図8Aの傾向が顕著となることを示す。すなわち、対向配置されたラジカル源123a、123bを結ぶ方向(
図8Bにおいて左右方向)よりも、この方向に交差する方向(
図8Bにおいて上下方向)にクリーニング処理が優先的に進行することを示している。
図8Cは、
図8Bの傾向がさらに進み、シャワープレート5の短辺付近の被膜が全て除去された後、中央付近に残された被膜の除去が始まることを示す。
図8Dは、
図8Cの傾向がさらに進み、シャワープレート5のほぼ全域に亘って被膜が除去され、対向配置されたラジカル源123a、123bの近傍に各々2箇所(合計4箇所)にのみ被膜が残存することを示している。
図8Eは、
図8Dの傾向がさらに進み、シャワープレート5のほぼ全域に亘って被膜が除去される。しかし、対向配置されたラジカル源123a、123bの近傍に各々2箇所(合計4箇所)には、島状に局在した被膜(EP)が残存することを示している。
【0063】
(実験例3)
以下では、
図1に示す本発明のプラズマ処理装置を用い、シャワープレート(SWP)5側のクリーニング進行状況を確認した。
図9A〜
図9Dは順に、
図1の装置(本発明)においてシャワープレート5側のクリーニング進行状況を示す第一乃至第四平面図である。ここで、符号5はシャワープレートであり、符号23a、23bは対向して配置されたラジカル源である。シャワープレート5において、白地領域はクリーニング処理により被膜が除去された部分を、メッシュ領域はクリーニング処理により被膜が未だ除去されていない部分を、おのおの表している。白地領域とメッシュ領域の境界に交差する矢印は、その矢印の方向にクリーニング処理が進行することを意味する。
【0064】
図9Aは、クリーニング処理の初期段階では、シャワープレート5の短手方向(
図9Aにおいて左右方向)の中央付近において、シャワープレート5の長手方向(
図9Aにおいて上下方向)に互いに離間した局所的な2箇所の領域と、この2箇所の領域と各ラジカル源23a、23bをつなぐ所定の幅をもった直線状の領域において、優先的に被膜が除去される。
図9Aにおける矢印は、この2箇所の領域が、シャワープレート5の長手方向(
図9Aにおいて上下方向)にクリーニング処理が進行することを示している。
【0065】
図9Bは、クリーニング処理の進行に連れて、シャワープレート5の短辺付近の中央域にある被膜が全て除去された後、
図9Aにおける局所的な2箇所の領域が、シャワープレート5の長手方向(
図9Bにおいて上下方向)の中央域と、シャワープレート5の短手方向(
図9において左右方向)の両方とに向けて、クリーニング処理が優先的に進行することを示している(
図9Bに示した矢印の意味)。
【0066】
図9Cは、
図9Bの傾向がさらに進み、シャワープレート5の被膜がほぼ全域に亘って除去されるが、対向配置されたラジカル源123a、123bの近傍に各々2箇所(合計4箇所)にのみ被膜が残存することを示している。
図9Dは、
図9Cの傾向がさらに進み、
図9Cにおいて、対向配置されたラジカル源123a、123bの近傍に各々2箇所(合計4箇所)のみに残存した被膜のうち、1箇所だけが島状に局在した被膜(EP)が残存することを示している。その後、
図9Eに示すように、島状に局在した被膜(EP)は無くなった状態となる。
このように、本発明によれば、島状に局在した被膜(EP)が消滅する前に、
図9Dに示すように、残存する島状に局在した被膜(EP)は、1箇所に絞り込むことができるので、上述した「実験1」で確認された課題(OverEtching→Damage)が解消される。
【0067】
したがって、本発明によれば、熱を電極表面や基板マスク表面の各箇所において、温度計で測定することにより、逐次クリーニングの進行具合を把握することが可能になる。その際、放射温度計を利用することにより、安価で非接触な測定システムを利用することが可能になるので、クリーニング処理や成膜処理に影響を与えることのない、プラズマ処理装置の提供に本発明は貢献する。
【0068】
また、本発明によれば、各点の温度測定の結果からクリーニングが終了したことを確認することが可能である。これにより、すべての測定点がクリーニング終了となった時点で、クリーニングの終点と判断することができる。
さらに、本発明によれば、クリーニングが終了していない箇所を優先的にクリーニングするような条件に逐次変更しながらクリーニング処理をすることが可能である。
【0069】
本発明は、電極表面や基板マスク表面の温度を多点で測定することで、クリーニングの進行具合を詳細に把握することができる。
本発明においては、クリーニングの進行具合によってフッ素(F)ラジカルの導入方法を途中で変更し、その時点ごとに最適な条件を都度変更しながらクリーニングを実施することで、クリーニングの時間を短縮することも可能となる。
【0070】
従来のプラズマ処理装置では、最後までクリーニングされずに残ってしまう箇所(EP)をクリーニングするために長時間同じ条件で実施し続けることで、すでにクリーニングされてしまった部品が過剰にフッ素(F)ラジカルに晒されることになる。クリーニングされた箇所が長時間、フッ素(F)ラジカルに晒されてしまうと部品が、フッ素(F)ラジカルによるダメージを受けて腐食し、パーティクル発生の原因となっていた。
これに対して、本発明のプラズマ処理装置を適用することで、結果として装置としての生産性が向上、部材がFにより腐食することが原因で発生するパーティクルを低減することが可能になり、装置のメンテナンスサイクルも飛躍的に延ばすことが可能になった。
【0071】
なお、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な材料や構成等は一例にすぎず、適宜変更が可能である。
たとえば、本実施形態において、フッ素(F)ラジカルを用いた例により説明したが、本発明は他のラジカル[塩素(Cl)等]を用いた場合にも適用することができる。
【0072】
また、本実施形態では矩形状の基板への成膜処理を行う矩形状の真空チャンバを例にして説明したが、半導体ウエハなどの円形状の基板への成膜処理を行う円形状や多角形状の真空チャンバに本発明を適用することも可能である。