【課題】親油性、耐熱性に優れた硬化被膜を形成し得るヒンダートエステル基を含有する(加水分解性)オルガノシラン化合物、該化合物及び/又はその部分(加水分解)縮合物を含む表面処理剤、並びに該表面処理剤で表面処理された物品等を提供する。
(式中、Wは独立に炭素数1〜30のアルキル基、炭素数6〜30のアリール基又は炭素数7〜30のアラルキル基であり、Yは独立に2価の有機基であり、Xは独立に水酸基又は加水分解性基であり、Rは独立に炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であり、qは1〜4の整数であり、rは0〜3の整数であり、q+rは1〜4の整数であり、nは1〜3の整数である。)
  前記式(1)又は(2)において、Xがそれぞれ独立に、水酸基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜10のアルコキシ置換アルコキシ基、炭素数1〜10のアシロキシ基、炭素数2〜10のアルケニルオキシ基、ハロゲン原子、オキシム基、イソシアネート基、及びシアネート基からなる群より選ばれるものである請求項1〜3のいずれか1項に記載のエステル基含有(加水分解性)オルガノシラン化合物。
  請求項1〜4のいずれか1項に記載のエステル基含有(加水分解性)オルガノシラン化合物の少なくとも1種類及び/又はその部分(加水分解)縮合物を含有する表面処理剤。
【発明を実施するための形態】
【0013】
  本発明の分子内にヒンダートエステル基を含有する(加水分解性)オルガノシラン化合物は、下記一般式(1)で表されるものであり、混合物でもよい。
【化3】
(式中、Wは独立に炭素数1〜30のアルキル基、炭素数6〜30のアリール基又は炭素数7〜30のアラルキル基であり、Yは独立に2価の有機基であり、Xは独立に水酸基又は加水分解性基であり、Rは独立に炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であり、qは1〜4の整数であり、rは0〜3の整数であり、q+rは1〜4の整数であり、nは1〜3の整数である。)
 
【0014】
  本発明のヒンダートエステル基含有(加水分解性)オルガノシラン化合物は、親油性及び耐熱性に優れるヒンダードエステル基と、好ましくは複数のアルコキシシリル基等の加水分解性シリル基あるいは水酸基含有シリル基とを含有し、親油性、耐熱性、基材密着性に優れることを特徴としている。
 
【0015】
  上記式(1)において、Wは独立に炭素数1〜30のアルキル基、炭素数6〜30のアリール基又は炭素数7〜30のアラルキル基であり、アルキル基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、またこれらの組み合わせでもよい。好ましくは炭素数1〜8の直鎖状のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜4の直鎖状のアルキル基である。
  Wとして、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ネオペンチル基、テキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロヘキシルメチル基、ノルボルニル基、デカヒドロナフチル基、アダマンチル基、アダマンチルメチル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基などが挙げられる。Wとして、好ましくはメチル基、エチル基である。
 
【0016】
  上記式(1)において、Xは互いに異なっていてよい水酸基又は加水分解性基である。このようなXとしては、水酸基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基などの炭素数1〜10のアルコキシ基、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基などの炭素数2〜10のアルコキシ置換アルコキシ基、アセトキシ基などの炭素数1〜10のアシロキシ基、イソプロペノキシ基などの炭素数2〜10のアルケニルオキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子、オキシム基、イソシアネート基、シアネート基などが挙げられる。中でもメトキシ基、エトキシ基、イソプロペノキシ基、塩素原子が好適である。
 
【0017】
  上記式(1)において、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基、又はフェニル基であり、中でもメチル基が好適である。
 
【0018】
  上記式(1)において、Yは2価の有機基であり、−O−、−S−、−NR
1−、−C(=O)−、−C(=O)NR
1−(R
1は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であり、上記Rと同様のものが例示できる)、シルアルキレン基、シルアリーレン基、ケイ素原子数2〜10個の直鎖状、分岐状又は環状の2価のオルガノポリシロキサン残基から選ばれる2価の基を含んでいてもよく、また炭素数6〜20のアリーレン基を含んでいてもよい炭素数2〜30、特に炭素数2〜20のアルキレン基であることが好ましく、より好ましくは下記式(a)で表される2価の基である。
【化4】
 
【0019】
  上記式(a)において、R
2は独立に2価の炭化水素基であり、具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキサメチレン基等の炭素数1〜30のアルキレン基、フェニレン基等の炭素数6〜20のアリーレン基を含む炭素数7〜30のアルキレン基が挙げられ、好ましくは炭素数1〜20のアルキレン基である。なお、これらR
2の炭素数の合計は2〜30である。
 
【0020】
  上記式(a)において、Zは単結合、又は−O−、−S−、−NR
1−、−C(=O)−、−C(=O)NR
1−、シルアルキレン基、シルアリーレン基、及びケイ素原子数2〜10個、好ましくは2〜5個の直鎖状、分岐状もしくは環状の2価のオルガノポリシロキサン残基から選ばれる2価の基であり、R
1は上記と同じである。
 
【0021】
  ここで、シルアルキレン基、シルアリーレン基としては、下記に示すものが例示できる。
【化5】
(式中、R
3はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基等の炭素数6〜10のアリール基であり、R
3は同一でも異なっていてもよい。R
4は炭素数1〜12のアルキレン基、フェニレン基等の炭素数6〜12のアリーレン基である。)
 
【0022】
  また、ケイ素原子数2〜10個、好ましくは2〜5個の直鎖状、分岐状又は環状の2価のオルガノポリシロキサン残基としては、下記に示すものが例示できる。
【化6】
(式中、R
3は上記と同じである。gは1〜9、好ましくは1〜4の整数であり、hは1〜8、好ましくは1〜3の整数である。)
 
【0023】
  Yの具体例としては、例えば、下記の基が挙げられる。
【化7】
 
【0030】
  上記式(1)において、qは1〜4の整数であり、rは0〜3の整数であり、q+rは1〜4の整数であり、nは1〜3の整数である。好ましくは、qは2、3又は4であり、rは0又は1であり、q+rは3又は4であり、nは2又は3であり、より好ましくは、qは4、rは0、nは3である。
 
【0031】
  上記式(1)で表されるヒンダートエステル基含有(加水分解性)オルガノシラン化合物としては、下記式で表されるものが例示できる。
【化14】
 
【0040】
  本発明の上記式(1)で表されるヒンダートエステル基含有(加水分解性)オルガノシラン化合物として、更に好ましくは下記一般式(2)で表されるものである。
【化23】
(式中、Qは単結合、又はシルアルキレン基、シルアリーレン基、及びケイ素原子数2〜10個の直鎖状、分岐状もしくは環状の2価のオルガノポリシロキサン残基から選ばれる2価の基であり、mはそれぞれ独立に1〜20の整数で、Qに連結する2つのmの合計は2〜30であり、q、W及びXは上記と同じである。)
 
【0041】
  上記式(2)において、Qは単結合、又はシルアルキレン基、シルアリーレン基、及びケイ素原子数2〜10個、好ましくは2〜5個の直鎖状、分岐状もしくは環状の2価のオルガノポリシロキサン残基から選ばれる2価の基である。
 
【0042】
  ここで、シルアルキレン基、シルアリーレン基、ケイ素原子数2〜10個、好ましくは2〜5個の直鎖状、分岐状もしくは環状の2価のオルガノポリシロキサン残基は、上述した式(a)のZ中のシルアルキレン基、シルアリーレン基、もしくはケイ素原子数2〜10個、好ましくは2〜5個の直鎖状、分岐状又は環状の2価のオルガノポリシロキサン残基として例示したものと同様のものが例示できる。
 
【0043】
  mはそれぞれ独立に1〜20の整数、好ましくは2〜10の整数であり、Qに連結する2つのmの合計は2〜30である。
 
【0044】
  上記式(2)で表されるヒンダートエステル基含有(加水分解性)オルガノシラン化合物として、具体的には、下記式で表されるものが例示できる。
【化24】
 
【0056】
  上記式(1)で表されるヒンダートエステル基含有(加水分解性)オルガノシラン化合物、特にYが炭素数2〜30のアルキレン基であり、rが0であるヒンダートエステル基含有加水分解性オルガノシラン化合物の調製方法としては、例えば、下記のような方法が挙げられる。
 
【0057】
  ヒンダートエステル基及びオレフィン部位(例えば、アルケニル基)をそれぞれ有する化合物を40〜120℃、好ましくは60〜100℃、より好ましくは約80℃の温度で加熱撹拌し、ヒドロシリル化反応触媒、例えば塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液を添加する。続いて、分子鎖末端に加水分解性シリル基とSiH基をそれぞれ有するシラン化合物を滴下し、40〜120℃、好ましくは60〜100℃、より好ましくは約80℃の温度で、10分〜12時間、好ましくは1〜6時間、より好ましくは約3時間熟成させる。また、反応を行う際、有機溶剤で希釈してもよい。
 
【0058】
  ヒンダートエステル基及びオレフィン部位をそれぞれ有する化合物としては、下記一般式(3)で表される化合物が例示できる。
【化36】
(式中、Vは単結合又は炭素数1〜28のアルキレン基であり、W、qは上記と同じである。)
 
【0059】
  上記式(3)において、Vは単結合、又は炭素数1〜28、好ましくは炭素数1〜14のアルキレン基であり、アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基(トリメチレン基、メチルエチレン基、ジメチルメチレン基)、ブチレン基(テトラメチレン基、メチルプロピレン基)、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基等が例示できる。
 
【0060】
  式(3)で表される化合物として、具体的には、下記一般式(b)〜(e)で表される化合物が例示できる。
【化37】
【化38】
【化39】
【化40】
(式中、V、Wは上記と同じである。)
 
【0061】
  式(b)で表される化合物として、具体的には、下記に示すものが例示できる。
【化41】
 
【0062】
  式(c)で表される化合物として、具体的には、下記に示すものが例示できる。
【化42】
 
【0063】
  式(d)で表される化合物として、具体的には、下記に示すものが例示できる。
【化43】
 
【0064】
  式(e)で表される化合物として、具体的には、下記に示すものが例示できる。
【化44】
 
【0065】
  上記式(3)、特に式(b)〜(e)で表されるヒンダートエステル基及びオレフィン部位をそれぞれ有する化合物の調製方法としては、β炭素に水素原子が結合していないアルコール基を有する化合物(例えば、ペンタエリトリトール(別名:ペンタエリスリトール))を0〜40℃、より好ましくは20〜30℃の温度で撹拌し、脱水縮合触媒を添加する。続いて、カルボキシル基及びオレフィン部位をそれぞれ有する化合物を滴下し、0〜40℃、より好ましくは20〜30℃の温度で、10分〜12時間、好ましくは1〜6時間熟成させて脱水縮合反応を行う。また、反応を行う際、有機溶剤で希釈してもよい。
 
【0066】
  ここで、β炭素に水素原子が結合していないアルコール基(特に1級アルコール基)を有する化合物としては、下記一般式(4)で表される化合物が例示できる。
【化45】
(式中、W、qは上記と同じである。)
 
【0067】
  式(4)で表される化合物として、具体的には、下記に示すものが挙げられる。
【化46】
 
【0071】
  また、カルボキシル基及びオレフィン部位をそれぞれ有する化合物として、具体的には、下記に示すものが挙げられる。
【化50】
 
【0072】
  上記式(3)、特に式(b)〜(e)で表されるヒンダートエステル基及びオレフィン部位をそれぞれ有する化合物の調製において、カルボキシル基及びオレフィン部位をそれぞれ有する化合物の使用量は、β炭素に水素原子が結合していないアルコール基を有する化合物中のアルコール1当量に対して1.0〜1.4当量、より好ましくは1.1〜1.3当量用いることができる。
 
【0073】
  上記式(3)、特に式(b)〜(e)で表されるヒンダートエステル基及びオレフィン部位をそれぞれ有する化合物の調製において、脱水縮合触媒としては、例えば、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’−カルボニルジイミダゾール、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド、1−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]−3−エチルカルボジイミド、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩、ジフェニルリン酸アジド、BOP試薬、メタンスルホン酸、塩酸、硫酸、リン酸などが挙げられる。これらの中では、カルボジイミド化合物が好ましい。
  脱水縮合触媒の使用量は、β炭素に水素原子が結合していないアルコール基を有する化合物中のアルコール1当量に対して1.0〜1.4当量、より好ましくは1.1〜1.3当量用いることができる。
 
【0074】
  上記式(3)、特に式(b)〜(e)で表されるヒンダートエステル基及びオレフィン部位をそれぞれ有する化合物の調製には有機溶剤を用いてもよい。用いられる有機溶剤としては、エーテル系溶剤(ジブチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなど)、炭化水素系溶剤(石油ベンジン、トルエン、キシレンなど)、ハロゲン化炭化水素溶剤(ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン)等を例示することができる。これらの中では特にジクロロエタンが好ましい。
  有機溶剤の使用量は、β炭素に水素原子が結合していないアルコール基を有する化合物100質量部に対して、50〜2,000質量部、好ましくは100〜1,500質量部用いることができる。
 
【0075】
  続いて、反応を停止し、溶剤及び未反応成分を留去することで、上記式(3)、特に式(b)〜(e)で表されるヒンダートエステル基及びオレフィン部位をそれぞれ有する化合物が得られる。
 
【0076】
  式(1)で表されるヒンダートエステル基含有(加水分解性)オルガノシラン化合物の調製において、分子鎖末端に加水分解性シリル基とSiH基をそれぞれ有するシラン化合物として、具体的には、下記に示すものが例示できる。
【化51】
【化52】
 
【0077】
  分子鎖末端に加水分解性シリル基とSiH基をそれぞれ有するシラン化合物の使用量は、上記ヒンダートエステル基及びオレフィン部位をそれぞれ有する化合物中のオレフィン1当量に対して1〜8当量、より好ましくは2〜6当量用いることができる。
 
【0078】
  上記式(1)で表されるヒンダートエステル基含有(加水分解性)オルガノシラン化合物の調製において、ヒドロシリル化反応触媒としては、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール変性物、塩化白金酸とオレフィン、アルデヒド、ビニルシロキサン、アセチレンアルコール類等との錯体等、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム等の白金族金属系触媒が挙げられる。好ましくはビニルシロキサン配位化合物等の白金系化合物である。
  ヒドロシリル化反応触媒の使用量は、上記ヒンダートエステル基及びオレフィン部位をそれぞれ有する化合物の質量に対して、遷移金属換算(質量)で0.1〜1,000ppm、好ましくは1〜500ppmとなる量で使用する。
 
【0079】
  上記式(1)で表されるヒンダートエステル基含有(加水分解性)オルガノシラン化合物の調製には有機溶剤を用いてもよい。用いられる有機溶剤としては、エーテル系溶剤(ジブチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなど)、炭化水素系溶剤(石油ベンジン、トルエン、キシレンなど)を例示することができる。これらの中では特にトルエンが好ましい。
  有機溶剤の使用量は、ヒンダートエステル基及びオレフィン部位をそれぞれ有する化合物100質量部に対して、10〜300質量部、好ましくは50〜150質量部用いることができる。
 
【0080】
  続いて、反応を停止し、溶剤及び未反応成分を留去することで、上記式(1)で表されるヒンダートエステル基含有(加水分解性)オルガノシラン化合物が得られる。
 
【0081】
  例えば、ヒンダートエステル基及びオレフィン部位をそれぞれ有する化合物として、下記式で表される化合物
【化53】
を使用し、分子鎖末端に加水分解性シリル基とSiH基をそれぞれ有するシラン化合物として、下記式で表される化合物
【化54】
を使用した場合には、下記式で表される化合物が得られる。
【化55】
 
【0082】
  以上のような反応で得られる一般式(1)で表されるヒンダートエステル基含有(加水分解性)オルガノシラン化合物は、濃縮、カラム精製、蒸留、抽出等の精製単離操作を行い、また反応溶液をそのまま一般式(1)で表されるヒンダートエステル基含有(加水分解性)オルガノシラン化合物を含む混合物として、あるいは有機溶剤等で更に希釈して使用することもできる。
 
【0083】
  以上のようにして得られる本発明のヒンダートエステル基含有(加水分解性)オルガノシラン化合物は、例えば、各種基材の表面保護のための表面処理剤として用いることで、基材表面に親油性を与えることができ、これによって、基材表面は指紋が目立ちづらくなる。このため、本発明のヒンダートエステル基含有(加水分解性)オルガノシラン化合物は、人体が触れて人脂、化粧品等により汚される可能性のある物品の表面に施与される塗装膜もしくは保護膜を形成するための表面処理剤として特に有用である。
 
【0084】
  本発明は、更に上記ヒンダートエステル基含有(加水分解性)オルガノシラン化合物を含有する表面処理剤を提供する。該表面処理剤は、該ヒンダートエステル基含有(加水分解性)オルガノシラン化合物を1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよく、また、該ヒンダートエステル基含有オルガノシラン化合物の水酸基を部分的に縮合させて得られる部分縮合物、又は該ヒンダートエステル基含有加水分解性オルガノシラン化合物の末端加水分解性基を予め公知の方法により部分的に加水分解した水酸基を縮合させて得られる部分加水分解縮合物を含んでいてもよい。
 
【0085】
  該表面処理剤は、適当な溶剤を含んでもよい。このような溶剤としては、アルコール系溶剤(プロピレングリコールモノメチルエーテル、ブタノール、イソプロパノールなど)、エーテル系溶剤(ジブチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなど)、炭化水素系溶剤(石油ベンジン、トルエン、キシレンなど)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)を例示することができる。これらの中では、溶解性、濡れ性などの点で、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤が望ましく、特には、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジブチルエーテルが好ましい。
 
【0086】
  上記溶剤は、その2種以上を混合してもよく、ヒンダートエステル基含有(加水分解性)オルガノシラン化合物及びその部分(加水分解)縮合物を均一に溶解させることが好ましい。なお、溶剤に溶解させるヒンダートエステル基含有(加水分解性)オルガノシラン化合物及びその部分(加水分解)縮合物の最適濃度は、処理方法により異なり、秤量し易い量であればよいが、直接塗工する場合は、溶剤及びヒンダートエステル基含有(加水分解性)オルガノシラン化合物(及びその部分(加水分解)縮合物)の合計100質量部に対して0.01〜10質量部、特に0.05〜5質量部であることが好ましく、蒸着処理をする場合は、溶剤及びヒンダートエステル基含有(加水分解性)オルガノシラン化合物(及びその部分(加水分解)縮合物)の合計100質量部に対して1〜100質量部、特に3〜30質量部であることが好ましく、ウェット処理する場合は、溶剤及びヒンダートエステル基含有(加水分解性)オルガノシラン化合物(及びその部分(加水分解)縮合物)の合計100質量部に対して0.01〜10質量部、特に0.05〜1質量部であることが好ましい。
 
【0087】
  表面処理剤には、加水分解縮合触媒、例えば、有機錫化合物(ジブチル錫ジメトキシド、ジラウリン酸ジブチル錫など)、有機チタン化合物(テトラn−ブチルチタネートなど)、有機酸(酢酸、メタンスルホン酸など)、無機酸(塩酸、硫酸、リン酸など)を添加してもよい。これらの中では、特に酢酸、テトラn−ブチルチタネート、ジラウリン酸ジブチル錫などが望ましい。
  加水分解縮合触媒を使用する場合の添加量は、ヒンダートエステル基含有(加水分解性)オルガノシラン化合物及び/又はその部分(加水分解)縮合物100質量部に対して0.1〜150質量部、特に25〜125質量部であることが好ましく、更に50〜110質量部であることが好ましい。
 
【0088】
  本発明の表面処理剤は、刷毛塗り、ディッピング、スプレー、蒸着処理など公知の方法で基材に施与することができる。蒸着処理時の加熱方法は、抵抗加熱方式でも、電子ビーム加熱方式のどちらでもよく、特に限定されるものではない。また、硬化温度は、硬化方法によって異なるが、例えば、直接塗工(刷毛塗り、ディッピング、スプレー等)の場合は、25〜200℃、特に25〜150℃にて15分〜36時間、特に30分〜24時間とすることが好ましい。加湿下で硬化させてもよい。また、蒸着処理で施与する場合は、20〜200℃の範囲が望ましい。加湿下で硬化させてもよい。硬化被膜の膜厚は、基材の種類により適宜選定されるが、通常0.1〜100nm、特に1〜20nmである。また、例えばスプレー塗工では予め水分を添加した有機溶剤に希釈し、加水分解、つまりSi−OHを生成させた後にスプレー塗工すると塗工後の硬化が速い。
 
【0089】
  本発明の表面処理剤は、接触角計Drop  Master(協和界面科学社製)を用いて測定した、25℃、相対湿度40%におけるオレイン酸に対する接触角が、好ましくは30°以下、より好ましくは25°以下である硬化被膜を形成することができる。従って、皮脂が付着した場合、接触角が小さく、視認性が低くなり、指紋が目立たない。なお、オレイン酸に対する接触角を上記値とするためには、表面処理剤中のヒンダートエステル基含有(加水分解性)オルガノシラン化合物において、ヒンダートエステル基を1分子中に2個以上有すること(q+rが2〜4の整数であること)が好ましい。
 
【0090】
  本発明の表面処理剤は、1kg荷重で皮脂を付着させた際の、ヘーズメーターNDH5000(日本電色工業社製)を用いて測定したヘーズが10以下、より好ましくは7以下である硬化被膜を形成することができる。従って、皮脂が付着した場合、ヘーズが小さく、視認性が低くなり、指紋が目立たない。なお、上記ヘーズ値とするためには、表面処理剤中のヒンダートエステル基含有(加水分解性)オルガノシラン化合物において、形成される硬化被膜の親油性を高めるために、ヒンダートエステル基を1分子中に2個以上有すること(q+rが2〜4の整数であること)が好ましい。
 
【0091】
  本発明の表面処理剤で処理される基材は特に制限されず、紙、布、金属及びその酸化物、ガラス、プラスチック、セラミック、石英など各種材質のものであってよい。本発明の表面処理剤は、前記基材に親油性を付与することができる。特に、SiO
2処理されたガラスやフイルムの表面処理剤として好適に使用することができる。
 
【0092】
  本発明の表面処理剤で処理される物品としては、カーナビゲーション、携帯電話、スマートフォン、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、PDA、ポータブルオーディオプレーヤー、カーオーディオ、ゲーム機器、眼鏡レンズ、カメラレンズ、レンズフィルター、サングラス、胃カメラ等の医療用器機、複写機、PC、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、タッチパネルディスプレイ、保護フイルム、反射防止フイルムなどの光学物品が挙げられる。本発明の表面処理剤は、前記物品に指紋及び皮脂が付着しても視認しづらく、特にタッチパネルディスプレイ、反射防止フイルムなどの親油層として有用である。
 
【実施例】
【0093】
  以下、合成例、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記実施例によって限定されるものではない。
【0094】
  [合成例1]
  反応容器に入れたペンタエリスリトール10.0g(7.34×10
-2mol)、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩63.4g(3.31×10
-1mol)、及びジクロロエタン100gを室温(23℃±3℃、以下同じ)で混合した。続いて、ペンテン酸33.1g(3.31×10
-1mol)を添加した後、室温で3時間撹拌した。その後、水100gを添加した後、分液操作により有機層を回収し、溶剤及び未反応物を減圧留去することで、下記式(A)
【化56】
で示される化合物を40.1g得た。
【0095】
1H−NMR
δ2.0(CH
2=CH−C
H2−)8H
δ2.3(−OC(=O)−C
H2−)8H
δ4.1(−C(=O)O−C
H2−)8H
δ5.0(C
H2=CH−)8H
δ5.8(CH
2=C
H−)4H
【0096】
  [実施例1]
  反応容器に入れた、上記で得られた下記式(A)
【化57】
で表される化合物5.0g(1.08×10
-2mol)、トリメトキシシラン21.0g(1.72×10
-1mol)、及びトルエン5.0gを80℃まで加熱した。続いて、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液5.0×10
-3g(Pt単体として1.5×10
-8molを含有)を添加した後、80℃にて3時間加熱撹拌した。その後、溶剤及び未反応物を減圧留去することで、下記式(B)
【化58】
で示される生成物(エステル基含有加水分解性オルガノシラン化合物1)を5.5g得た。
【0097】
1H−NMR
δ0.5(−C
H2−Si−)8H
δ1.2−1.5(−(C
H2)
2−)16H
δ2.3(−OC(=O)−C
H2−)8H
δ3.6(−Si(OC
H3)
3)36H
δ4.1(−C(=O)O−C
H2−)8H
【0098】
  [合成例2]
  反応容器に入れたペンタエリスリトール10.0g(7.34×10
-2mol)、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩63.4g(3.31×10
-1mol)、及びジクロロエタン100gを室温で混合した。続いて、ウンデセン酸59.5g(3.23×10
-1mol)を添加した後、室温で3時間撹拌した。その後、水100gを添加した後、分液操作により有機層を回収し、溶剤及び未反応物を減圧留去することで、下記式(C)
【化59】
で示される化合物を54.1g得た。
【0099】
1H−NMR
δ1.2−1.5(−(C
H2)
6−)48H
δ2.0(CH
2=CH−C
H2−)8H
δ2.3(−OC(=O)−C
H2−)8H
δ4.1(−C(=O)O−C
H2−)8H
δ5.0(C
H2=CH−)8H
δ5.8(CH
2=C
H−)4H
【0100】
  [実施例2]
  反応容器に入れた、上記で得られた下記式(C)
【化60】
で表される化合物5.0g(6.24×10
-3mol)、トリメトキシシラン12.2.g(9.99×10
-2mol)、及びトルエン5.0gを80℃まで加熱した。続いて、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液5.0×10
-3g(Pt単体として1.5×10
-8molを含有)を添加した後、80℃にて3時間加熱撹拌した。その後、溶剤及び未反応物を減圧留去することで、下記式(D)
【化61】
で示される生成物(エステル基含有加水分解性オルガノシラン化合物2)を5.0g得た。
【0101】
1H−NMR
δ0.5(−C
H2−Si−)8H
δ1.2−1.5(−(C
H2)
8−)64H
δ2.3(−OC(=O)−C
H2−)8H
δ3.6(−Si(OC
H3)
3)36H
δ4.1(−C(=O)O−C
H2−)8H
【0102】
  [合成例3]
  反応容器に入れたトリメチロールプロパン10.0g(7.45×10
-2mol)、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩50.7g(2.64×10
-1mol)、及びジクロロエタン100gを室温で混合した。続いて、ペンテン酸26.5g(2.64×10
-1mol)を添加した後、室温で3時間撹拌した。その後、水100gを添加した後、分液操作により有機層を回収し、溶剤及び未反応物を減圧留去することで、下記式(E)
【化62】
で示される化合物を33.7g得た。
【0103】
1H−NMR
δ1.2−1.5(−C
2H5)5H
δ2.0(CH
2=CH−C
H2−)6H
δ2.3(−OC(=O)−C
H2−)6H
δ4.1(−C(=O)O−C
H2−)6H
δ5.0(C
H2=CH−)6H
δ5.8(CH
2=C
H−)3H
【0104】
  [実施例3]
  反応容器に入れた、上記で得られた下記式(E)
【化63】
で表される化合物5.0g(1.31×10
-2mol)、トリメトキシシラン19.3g(1.58×10
-1mol)、及びトルエン5.0gを80℃まで加熱した。続いて、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液5.0×10
-3g(Pt単体として1.5×10
-8molを含有)を添加した後、80℃にて3時間加熱撹拌した。その後、溶剤及び未反応物を減圧留去することで、下記式(F)
【化64】
で示される生成物(エステル基含有加水分解性オルガノシラン化合物3)を4.8g得た。
【0105】
1H−NMR
δ0.5(−C
H2−Si−)6H
δ1.2−1.5(−(C
H2)
2−,−C
2H5)17H
δ2.3(−OC(=O)−C
H2−)6H
δ3.6(−Si(OC
H3)
3)27H
δ4.1(−C(=O)O−C
H2−)6H
【0106】
  [合成例4]
  反応容器に入れたトリメチロールエタン10.0g(8.32×10
-2mol)、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩57.4g(3.00×10
-1mol)、及びジクロロエタン100gを室温で混合した。続いて、ペンテン酸30.0g(3.00×10
-1mol)を添加した後、室温で3時間撹拌した。その後、水100gを添加した後、分液操作により有機層を回収し、溶剤及び未反応物を減圧留去することで、下記式(G)
【化65】
で示される化合物を37.5g得た。
【0107】
1H−NMR
δ1.2−1.5(−C
H3)3H
δ2.0(CH
2=CH−C
H2−)6H
δ2.3(−OC(=O)−C
H2−)6H
δ4.1(−C(=O)O−C
H2−)6H
δ5.0(C
H2=CH−)6H
δ5.8(CH
2=C
H−)3H
【0108】
  [実施例4]
  反応容器に入れた、上記で得られた下記式(G)
【化66】
で表される化合物5.0g(1.36×10
-2mol)、トリメトキシシラン20.0g(1.64×10
-1mol)、及びトルエン5.0gを80℃まで加熱した。続いて、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液5.0×10
-3g(Pt単体として1.5×10
-8molを含有)を添加した後、80℃にて3時間加熱撹拌した。その後、溶剤及び未反応物を減圧留去することで、下記式(H)
【化67】
で示される生成物(エステル基含有加水分解性オルガノシラン化合物4)を5.1g得た。
【0109】
1H−NMR
δ0.5(−C
H2−Si−)6H
δ1.2−1.5(−(C
H2)
2−,−C
H3)15H
δ2.3(−OC(=O)−C
H2−)6H
δ3.6(−Si(OC
H3)
3)27H
δ4.1(−C(=O)O−C
H2−)6H
【0110】
  [合成例5]
  反応容器に入れた2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール10.0g(9.60×10
-2mol)、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩44.2g(2.30×10
-1mol)、及びジクロロエタン100gを室温で混合した。続いて、ペンテン酸23.1g(2.30×10
-1mol)を添加した後、室温で3時間撹拌した。その後、水100gを添加した後、分液操作により有機層を回収し、溶剤及び未反応物を減圧留去することで、下記式(I)
【化68】
で示される化合物を30.3g得た。
【0111】
1H−NMR
δ1.2−1.5(−C
H3)6H
δ2.0(CH
2=CH−C
H2−)4H
δ2.3(−OC(=O)−C
H2−)4H
δ4.1(−C(=O)O−C
H2−)4H
δ5.0(C
H2=CH−)4H
δ5.8(CH
2=C
H−)2H
【0112】
  [実施例5]
  反応容器に入れた、上記で得られた下記式(I)
【化69】
で表される化合物5.0g(1.86×10
-2mol)、トリメトキシシラン18.2g(1.49×10
-1mol)、及びトルエン5.0gを80℃まで加熱した。続いて、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液5.0×10
-3g(Pt単体として1.5×10
-8molを含有)を添加した後、80℃にて3時間加熱撹拌した。その後、溶剤及び未反応物を減圧留去することで、下記式(J)
【化70】
で示される生成物(エステル基含有加水分解性オルガノシラン化合物5)を5.2g得た。
【0113】
1H−NMR
δ0.5(−C
H2−Si−)4H
δ1.2−1.5(−(C
H2)
2−,−C
H3)14H
δ2.3(−OC(=O)−C
H2−)4H
δ3.6(−Si(OC
H3)
3)18H
δ4.1(−C(=O)O−C
H2−)4H
【0114】
  [合成例6]
  反応容器に入れた2,2−ジメチル−1−プロパノール10.0g(1.13×10
-1mol)、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩26.1g(1.36×10
-1mol)、及びジクロロエタン100gを室温で混合した。続いて、ペンテン酸13.6g(1.36×10
-1mol)を添加した後、室温で3時間撹拌した。その後、水100gを添加した後、分液操作により有機層を回収し、溶剤及び未反応物を減圧留去することで、下記式(K)
【化71】
で示される化合物を21.2g得た。
【0115】
1H−NMR
δ1.2−1.5(−C
H3)9H
δ2.0(CH
2=CH−C
H2−)2H
δ2.3(−OC(=O)−C
H2−)2H
δ4.1(−C(=O)O−C
H2−)2H
δ5.0(C
H2=CH−)2H
δ5.8(CH
2=C
H−)1H
【0116】
  [実施例6]
  反応容器に入れた、上記で得られた下記式(K)
【化72】
で表される化合物5.0g(2.94×10
-2mol)、トリメトキシシラン14.4g(1.17×10
-1mol)、及びトルエン5.0gを80℃まで加熱した。続いて、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液5.0×10
-3g(Pt単体として1.5×10
-8molを含有)を添加した後、80℃にて3時間加熱撹拌した。その後、溶剤及び未反応物を減圧留去することで、下記式(L)
【化73】
で示される生成物(エステル基含有加水分解性オルガノシラン化合物6)を5.0g得た。
【0117】
1H−NMR
δ0.5(−C
H2−Si−)2H
δ1.2−1.5(−(C
H2)
2−,−C
H3)13H
δ2.3(−OC(=O)−C
H2−)2H
δ3.6(−Si(OC
H3)
3)9H
δ4.1(−C(=O)O−C
H2−)2H
【0118】
  [比較例1]
  反応容器に入れた、ペンテン酸エチル5.0g(3.90×10
-2mol)、トリメトキシシラン19.1g(1.56×10
-1mol)、及びトルエン5.0gを80℃まで加熱した。続いて、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液5.0×10
-3g(Pt単体として1.5×10
-8molを含有)を添加した後、80℃にて3時間加熱撹拌した。その後、溶剤及び未反応物を減圧留去することで、下記式(M)
【化74】
で示される生成物(エステル基含有加水分解性オルガノシラン化合物7)を4.8g得た。
【0119】
1H−NMR
δ0.5(−C
H2−Si−)2H
δ1.2−1.5(−(C
H2)
2−,−C
H3)7H
δ2.3(−OC(=O)−C
H2−)2H
δ3.6(−Si(OC
H3)
3)9H
δ4.1(−C(=O)O−C
H2−)2H
【0120】
表面処理剤の調製及び硬化被膜の形成
  実施例1〜6で得られた式(B)、(D)、(F)、(H)、(J)、(L)で示されるエステル基含有加水分解性オルガノシラン化合物1〜6、及び比較例1の式(M)で示されるエステル基含有加水分解性オルガノシラン化合物7を、濃度20質量%になるようにプロピレングリコールモノメチルエーテルに溶解させて表面処理剤を調製した。最表面にSiO
2を10nm処理したガラス(コーニング社製  Gorilla)に、各表面処理剤5μLを真空蒸着し(処理条件は、圧力:2.0×10
-2Pa、加熱温度:700℃)、25℃、相対湿度40%の雰囲気下で12時間硬化させ、厚さ2〜10nmの硬化被膜を作製した。
【0121】
指紋低視認性の評価
[指紋視認性の評価]
  上記にて作製した硬化被膜を形成したガラスに1kg荷重で皮脂を付着させ、その視認性について以下4段階にて目視による官能評価を行った。結果を表1に示す。
4:指紋がほとんど見えない
3:指紋がわずかに見える
2:指紋が薄いがはっきり見える
1:指紋がはっきり見える
【0122】
[ヘーズの評価]
  上記にて作製した硬化被膜を形成したガラスに1kg荷重で皮脂を付着させ、ヘーズメーターNDH5000(日本電色工業社製)を用いてヘーズ(HAZE)を測定した。結果を表1に示す。
【0123】
[初期親油性の評価]
  上記にて作製した硬化被膜を形成したガラスについて、接触角計Drop  Master(協和界面科学社製)を用いて、硬化被膜のオレイン酸に対する接触角(親油性)を測定した(液滴:2μl、温度:25℃、相対湿度:40%)。結果(初期オレイン酸接触角)を表1に示す。
【0124】
耐熱性の評価
[耐熱試験後の親油性の評価]
  上記にて作製した硬化被膜を形成したガラスを95℃の雰囲気下に10日間置いた。その後、接触角計Drop  Master(協和界面科学社製)を用いて、硬化被膜のオレイン酸に対する接触角(耐熱試験後の親油性)を測定した(液滴:2μl、温度:25℃、相対湿度:40%)。結果(耐熱試験後オレイン酸接触角)を表1に示す。
【0125】
【表1】
【0126】
  本発明のエステル基含有加水分解性オルガノシラン化合物を用いた実施例1〜6は、いずれにおいても指紋が全く見えず、更に耐熱試験後もオレイン酸接触角の変化が少なく、高い耐熱性が確認された。一方、エステル基のβ炭素に水素原子を有する、ヒンダートエステルではないエステル基を含有する加水分解性オルガノシラン化合物を用いた比較例1は、指紋は目立たないものの、耐熱性が低かった。
  ヘーズメーターによるヘーズの測定では、実施例はいずれもヘーズの値が低く、官能評価の結果と良い相関となった。