【課題】高抵抗の上記透明導電層をスパッタリング法で基板に成膜する場合、スパッタリング時の放電を安定して継続させる透明導電膜の製造方法、並びに、この方法で形成される透明導電膜、及び、この方法で用いられるスパッタリングターゲットを提供する。
Ω/sq.以上の透明導電層をターゲット材とするスパッタリングターゲットが用いられる。放電ガスとして水蒸気が含まれる放電ガスが用いられる。上記放電ガス中の水分圧を調整しながら、上記スパッタリングターゲットをスパッタリングして、基板に上記透明導電層の成分を含む透明導電膜が形成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、高抵抗の上記透明導電層をスパッタリング法で基板に成膜する場合、透明導電層の抵抗率の高さから、スパッタリング時の放電が不安定になる場合がある。これにより、所望の成膜速度、膜質が得られなくなる場合がある。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、高抵抗の上記透明導電層をスパッタリング法で基板に成膜する場合、スパッタリング時の放電を安定して継続させる透明導電膜の製造方法、並びに、この方法で形成される透明導電膜、及び、この方法で用いられるスパッタリングターゲットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る透明導電膜の製造方法では、シート抵抗が1×10
10Ω/sq.以上の透明導電層をターゲット材とするスパッタリングターゲットが用いられる。
放電ガスとして水蒸気が含まれる放電ガスが用いられる。
上記放電ガス中の水分圧を調整しながら、上記スパッタリングターゲットをスパッタリングして、基板に上記透明導電層の成分を含む透明導電膜が形成される。
【0008】
このような透明導電膜の製造方法によれば、高抵抗の透明導電層をターゲット材とするスパッタリングターゲットを用いても、スパッタリング時の放電が安定して継続し、透明導電膜が安定して製造される。
【0009】
上記の透明導電膜の製造方法においては、上記基板に、シート抵抗が1×10
10Ω/sq.以上の上記透明導電膜が形成されてもよい。
【0010】
このような透明導電膜の製造方法によれば、高抵抗の透明導電層をターゲット材とするスパッタリングターゲットにより、基板に、シート抵抗が1×10
10Ω/sq.以上の上記透明導電膜が形成される。
【0011】
上記の透明導電膜の製造方法においては、上記水分圧が2×10
−3Pa以上に調整されてもよい。
【0012】
このような透明導電膜の製造方法によれば、水分圧が2×10
−3Pa以上に調整され、高抵抗の透明導電層をターゲット材とするスパッタリングターゲットを用いても、スパッタリング時の放電が安定して継続し、透明導電膜が安定して製造される。
【0013】
上記の透明導電膜の製造方法においては、上記透明導電層は、主成分である酸化インジウムスズと、副成分である酸化ケイ素とを含む透明導電層、または、主成分である酸化スズと、副成分である酸化ニオブとを含む透明導電層でもよい。
【0014】
このような透明導電膜の製造方法によれば、スパッタリング時の放電が安定して継続し、透明導電膜が安定して製造される。
【0015】
上記の透明導電膜の製造方法においては、上記透明導電層に上記副成分が15wt%以上含まれてもよい。
【0016】
このような透明導電膜の製造方法によれば、透明導電層に副成分が15wt%以上含まれるターゲット材を用いても、スパッタリング時の放電が安定して継続し、透明導電膜が安定して製造される。
【0017】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る透明導電膜は、基板に形成され、シート抵抗が1×10
10Ω/sq.以上であり、主成分である酸化インジウムスズと、副成分である酸化ケイ素とを含むか、または、主成分である酸化スズと、副成分である酸化ニオブとを含む。
【0018】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るスパッタリングターゲットは、基体と、上記基体に形成され、シート抵抗が1×10
10Ω/sq.以上であり、主成分である酸化インジウムスズと、副成分である酸化ケイ素とを有する透明導電層、または、主成分である酸化スズと、副成分である酸化ニオブとを含む透明導電層とを具備する。
【発明の効果】
【0019】
以上述べたように、本発明によれば、高抵抗の上記透明導電層をスパッタリング法で基板に成膜する場合、スパッタリング時の放電を安定して継続させる透明導電膜の製造方法、並びに、この方法で形成される透明導電膜、及び、この方法で用いられるスパッタリングターゲットが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。各図面には、XYZ軸座標が導入される場合がある。また、同一の部材または同一の機能を有する部材には同一の符号を付す場合があり、その部材を説明した後には適宜説明を省略する場合がある。
【0022】
まず、本実施形態の透明導電膜の製造方法で製造される透明導電膜が滴用されるデバイスについて説明する。
【0023】
本実施形態では、一例として、FFS方式を採用したインセル型のタッチパネル機能付きの液晶パネルを例示する。例えば、本実施形態に係る液晶パネルは、IPS方式の液晶パネルにも適用でき、液晶パネルを構成する一対の基板のうち、一方の基板に液晶駆動用電子回路及び感知センサ用電極が設けられ、他方の基板には電極が形成されずカラーフィルタが形成された構成にも適用可能である。
【0025】
図1は、本実施形態に係る透明導電膜を含む液晶パネルを示す模式的断面図である。
【0026】
液晶パネル1は、画像を表示する機能と、タッチパネル機能とを兼ね備える。液晶パネル1は、透明導電膜付き基板10と、対向基板20と、液晶40と、偏光板50と、カバーガラス60と、偏光板51とを具備する。
図1の例では、Z軸方向において、偏光板51、対向基板20、液晶40、透明導電膜付き基板10、偏光板50及びカバーガラス60がこの順に積層されている。液晶40内には、スペーサ41が設けられている。
【0027】
液晶パネル1において、偏光板51にバックライトが入射する。また、液晶パネル1において、カバーガラス60を通して画像が視認される。また、液晶パネル1においては、カバーガラス60を指70等でタッチすることにより、タッチ操作を行うことができる。以下に、液晶パネル1における各部材の構成について詳細に説明する。
【0028】
透明導電膜付き基板10は、透明導電膜12と、カラーフィルタ基板14とを有する。カラーフィルタ基板14は、透明基板11と、カラーフィルタ15とを含む。透明基板11は、透明導電膜12とカラーフィルタ15との間に設けられている。透明基板11は、例えば、ガラス基板である。透明導電膜12は、液晶パネル1において、例えば、帯電防止層として機能する。
【0029】
透明導電膜12は、透明基板11の表面11a上に設けられている。例えば、透明導電膜12は、主成分である酸化インジウムスズ(ITO)と、副成分である酸化ケイ素(SiO
2)とを含む。そのほか、透明導電膜12は、主成分である酸化スズ(SnO
2)と、副成分である、酸化ニオブ(Nb
2O
3、またはNb
2O
5)、酸化タンタル(Ta
2O
3、またはTa
2O
5)及び酸化アンチモン(Sb
2O
3、またはSb
2O
5)の少なくともいずれかを含むものでもよい。
【0030】
ここで、透明導電膜12には、ターゲット材の製造過程において導入される、微量なアルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)等の元素が含まれる場合がある。透明導電膜12に、微量元素(Al、Zr等)が含まれたり、含まれなかったりしても、本実施形態では、実質的に同じ効果が得られる。なお、副成分としては、上記の酸化物のほか、第3族元素のいずれかの酸化物であってもよい。
【0031】
また、透明導電膜12において、酸化ケイ素、酸化ニオブ等の副成分の含有率は、15wt%以上25%wt以下である。副成分の含有率が15wt%より小さくなると、例えば、透明導電膜12の抵抗が低くなり好ましくない。一方、副成分の含有率が25wt%より大きくなると、例えば、透明導電膜12のシート抵抗が高くなり好ましくない。
【0032】
このような酸化物で構成される透明導電膜12のシート抵抗は、例えば、1×10
10(Ω/sq.)以上1×10
14(Ω/sq.)以下であり、好ましくは、1×10
12(Ω/sq.)以上1×10
13(Ω/sq.)以下である。透明導電膜12のシート抵抗が1×10
10(Ω/sq.)より小さくなると、例えば、タッチ操作時のタッチ信号が透明導電膜12により遮蔽され好ましくない。一方、透明導電膜12のシート抵抗が1×10
14(Ω/sq.)より大きくなると、例えば、透明導電膜12の除電機能が低下し好ましくない。
【0033】
透明導電膜12のシート抵抗は、透明導電膜12に含まれる酸化ケイ素の含有率を変化させることで調整することができる。あるいは、シート抵抗は、成膜時に透明導電膜12に導入する水蒸気、酸素等の量を変化させることで調整することができる。
【0034】
透明導電膜12が設けられた液晶パネル1においては、透明導電膜12の抵抗が高抵抗であるため、タッチ操作時のタッチ感知が安定し、カラーフィルタ15の帯電が抑制される。さらに、液晶パネル1においては、透明導電膜12による光の透過性から、液晶パネル1における画像がより鮮明に視認できる。すなわち、液晶パネル1の動作信頼性は、より向上する。
【0035】
また、透明導電膜12の厚さは、5nm以上25nm以下である。透明導電膜12の厚さが5nmより小さくなると、例えば、透明導電膜12のシート抵抗が上記の範囲よりも高くなり、透明導電膜12の除電機能が低減するので好ましくない。透明導電膜12の厚さが25nmよりも大きくなると、例えば、透明導電膜12の透過率が低下するので好ましくない。
【0036】
また、透明導電膜12には、窒素(N)が含有されてもよい。窒素は、例えば、不純物元素として、透明導電膜12に含有されている。透明導電膜12のシート抵抗は、例えば、窒素の添加量を変化させることで調整することができる。例えば、透明導電膜12の成膜時には、成膜時に導入する酸素の割合を透明導電膜12が還元しない程度に調整し、透明導電膜12のシート抵抗を成膜時に導入する窒素の割合を酸素の割合とは独立して制御することにより調整することができる。
【0037】
カラーフィルタ15は、透明基板11の表面11bに形成される。カラーフィルタ15は、黒色樹脂などで格子状に形成されたブラックマトリクスと、ブラックマトリクスの開口部を埋めるように、例えば、ストライプ状に形成された赤色着色層、緑色着色層、青色着色層とからなる。カラーフィルタ15上には図示しない配向膜が形成されている。
【0038】
格子状のブラックマトリックスにより形成される開口部はサブ画素に対応し、1つの画素は、赤色サブ画素、緑色サブ画素及び青色サブ画素の3つのサブ画素によって構成される。対向基板20は、透明基板21(第2の透明基板)と、感知センサ用電極及び液晶駆動用電子回路を備える機能層22を有する。透明基板21は、例えば、ガラス基板である。
【0039】
透明基板21は、表面21aと、表面21bを有する。機能層22は、透明基板21の表面21b上に設けられている。また、機能層22上には図示しない配向膜が形成されている。液晶駆動用電子回路は、液晶40を駆動するものである。感知センサ用電極は、感知センサの一部を構成し、カバーガラス60表面上でのタッチ操作を感知するものである。
【0040】
機能層22は、画素電極と、TFT(Thin Film Transistor)と、ゲートラインと、信号ラインと、共通電極と、共通電極駆動用ラインと、感知センサ用駆動ラインと、感知センサ用検出ラインとを有する。
【0041】
液晶駆動用電子回路は、画素電極と、TFTと、ゲートラインと、信号ラインと、共通電極と、共通電極駆動用ラインからなる。これら液晶駆動用電子回路は、液晶パネルに電気的に接続する図示しない駆動回路基板に設けられる駆動制御回路によって駆動制御される。
【0042】
感知センサ用電極は、感知センサ用駆動ラインと、感知センサ用検出ラインと、共通電極からなる。感知センサは、これら感知センサ用電極とタッチ位置検出制御回路とからなり、タッチ位置検出制御回路は液晶パネルに電気的に接続する図示しない駆動回路基板に設けられる。感知センサを設けることにより、液晶パネルはタッチパネル機能を備える。液晶駆動用に用いられる共通電極は感知センサ用電極としても機能する。
【0043】
このように対向基板20には、液晶パネル1の表示画面に表示する画像を生成する液晶駆動用電子回路と、液晶パネル1の表面上の指70やタッチペン等の器具によるタッチを感知する感知センサの一部が設けられている。
【0044】
透明基板21の水平面をXY平面とすると、ゲートラインと信号ラインとは層間絶縁膜を介してそれぞれX軸方向、Y軸方向に設けられ、その交差部毎にTFT及び櫛歯状の画素電極が設けられる。TFTを構成するゲート電極はゲートラインと電気的に接続され、TFTを構成するソース、ドレインはそれぞれ信号ラインと画素電極に電気的に接続される。
【0045】
共通電極は、1画素毎に対応して島状に複数形成される。TFT、共通電極、画素電極は、それぞれ透明基板21側からTFT、層間絶縁膜、共通電極、層間絶縁膜、画素電極の順に積層された構成となっている。
【0046】
共通駆動用ラインは、共通電極と電気的に接続し、信号ライン、ソース及びドレインと同じ層で形成される。
【0047】
感知センサ用駆動ラインは、ゲート電極及びゲートラインと同じ層でX軸方向に複数形成される。感知センサ用駆動ラインは、一部の共通電極と電気的に接続し、感知センサ用駆動電極に接続された共通電極は、感知センサの駆動電極として機能する。感知センサ用駆動電極は、図示しないタッチ位置検出制御回路に接続されており、このタッチ位置検出制御回路は、タッチ位置検出用の駆動信号を出力する。
【0048】
感知センサ用検出ラインは、ソース及び信号ラインと同じ層でY軸方向に複数形成される。感知センサ用検出ラインは、感知センサ用駆動ラインと電気的に接続していない他の共通電極と電気的に接続し、感知センサ用検出ラインに接続された共通電極は、感知センサの検出電極として機能する。感知センサ用駆動ラインは、図示しないタッチ位置検出制御回路に接続されており、このタッチ位置検出制御回路は、感知センサ用検出ラインから送られてきた検出信号を受信する。そして、受信した検出信号を解析することによってタッチ位置の座標を算出する。
【0049】
液晶パネル1において、表示段階では、液晶駆動用電子回路により横電界が形成されて液晶40が駆動し、液晶パネル1に画像を表示させる。タッチ段階では、指が表示面に近づくことにより、感知センサの駆動電極と検出電極との間の容量が減少するので、この容量の変化を感知センサによって検出することにより指のタッチ位置を特定する。
【0050】
液晶40は、透明導電膜付き基板10のカラーフィルタ15と対向基板20との間に設けられている。カラーフィルタ15と対向基板20との間隙は、スペーサ41によって保持される。カラーフィルタ15が形成されている透明基板11の表面11bは、対向基板20の機能層22が設けられた透明基板21の表面21bに対向している。液晶40の駆動は、液晶駆動用電子回路によって制御される。また、カバーガラス60は、図示しない粘着層によって偏光板50と固定されている。
【0052】
液晶パネル1の構成要素である透明導電層付き基板10の製造方法について、
図1を参照しながら説明する。
【0053】
例えば、ブラックマトリクス、赤色着色層、緑色着色層及び青色着色層からなるカラーフィルタ15が透明基板11の表面11bに形成されたカラーフィルタ基板14が準備される。
【0054】
次に、カラーフィルタ15が形成されていない透明基板11の表面11aに透明導電膜12が形成される。
【0055】
透明導電膜12の製造では、基体と、基体に形成されターゲット材である透明導電層とを有するスパッタリングターゲットが用いられる。スパッタリングターゲットの透明導電層のシート抵抗は、例えば、1×10
10(Ω/sq.)以上1×10
14(Ω/sq.)以下であり、好ましくは、1×10
12(Ω/sq.)以上1×10
13(Ω/sq.)以下である。
【0056】
放電ガスとしては、水蒸気が含まれる放電ガスが用いられる。放電ガス中の水分圧を調整しながら、スパッタリングターゲットをスパッタリングして、透明導電層の成分を含む透明導電膜12が基板10に形成される。
【0057】
透明導電膜12は、例えば、DC(直流)スパッタリング法、AC(交流)スパッタリング法、RFスパッタリング法等で形成される。DCスパッタリング法としては、マグネトロンDCスパッタリング方式が採用されてもよい。ACスパッタリング法としては、マグネトロンACスパッタリング方式が採用されてもよい。この場合の磁束密度は、スパッタリングターゲットの表面で800G(ガウス)以上1100G以下に設定される。800Gよりも小さいと、放電電力及び放電電圧の変動が大きくなる。また、1100Gよりも大きい磁束密度は、装置設計が煩雑になる。
【0058】
ACスパッタリング法によれば、高抵抗状態の透明導電膜12を形成(反応性スパッタリング)する際に、カソード電位に対するアノード電位が安定に確保できて、放電が長時間にわたり安定して継続する。これにより、生産性に優れる。
【0059】
また、ACスパッタリング法(または、マグネトロンACスパッタリング方式)は、RFスパッタリング法よりも成膜速度が高い。さらに、ACスパッタリング法(または、マグネトロンACスパッタリング方式)は、RFスパッタリング法よりも表皮効果が抑制されて、電力がスパッタリングターゲット全域に行き渡る。ACスパッタリング法(または、マグネトロンACスパッタリング方式)が採用された場合、スパッタリングターゲットには、例えば、周波数が20kHz以上60kHz以下の交流電圧が印加される。周波数が20kHzよりも小さいと、DC放電に近づくため、長時間にわたり放電を継続すると、放電が不安定になる場合がある。一方、周波数が60kHzよりも大きくなると、周波数がRF放電に近づくため成膜速度が低下する場合がある。
【0060】
なお、スパッタリングターゲットは、プレーナ型ターゲットでもよく、チューブ型のターゲットでもよい。プレーナ型ターゲットの基体は、バッキングプレートであり、チューブ型ターゲットの基体は、バッキングチューブである。
【0061】
ターゲット材(透明導電層)は、主成分である酸化インジウムスズ(ITO)と、副成分である酸化ケイ素(SiO
2)とを含む。そのほか、ターゲット材は、主成分である酸化スズ(SnO
2)と、副成分である、酸化ニオブ(Nb
2O
3、またはNb
2O
5)、酸化タンタル(Ta
2O
3、またはTa
2O
5)及び酸化アンチモン(Sb
2O
3、またはSb
2O
5)の少なくともいずれかを含むものでもよい。ターゲット材における酸化ケイ素、酸化ニオブ等の副成分の含有率は、15wt%以上25%wt以下である。ターゲット材には、ターゲット材の製造過程において、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)等の微量の元素が導入される場合がある。ターゲット材に、微量元素(Al、Zr等)が含まれたり、含まれなかったりしても、本実施形態では実質的に同じ効果が得られる。
【0062】
酸化インジウムスズ/酸化ケイ素をターゲット材としたときの成膜条件の一例は、以下の通りである。例えば、ACスパッタリング装置内で、透明基板11の表面11aに透明導電膜12が形成される。透明導電膜12の厚さは、例えば、20nmである。成膜直後の透明導電膜12は、非晶質膜である。また、透明導電膜12は、ターゲット材の成分以外に水を極微量に含む。
【0063】
ターゲット材:酸化インジウムスズ/酸化ケイ素(18wt%)
放電ガス:アルゴン(Ar)/水蒸気(H
2O)
放電電力:11〜12kW(交流)
周波数:50kHz、61.3kHz
ガス全圧:0.1Pa以上1.0Pa以下、好ましくは、0.2Pa
水蒸気分圧:1×10
−3Pa以上1×10
−2Pa以下、好ましくは、2×10
−3Pa以上1×10
−2Pa以下、より好ましくは、2×10
−3Pa
基板温度:25℃設定
【0064】
仮に、ターゲット材として、酸化ケイ素の含有率が15wt%よりも小さいターゲット材を用いた場合、基板10に形成される透明導電膜12のシート抵抗が1×10
10(Ω/sq.)以下となり、所望の高抵抗の透明導電膜が得られない。
【0065】
一方、ターゲット材として、酸化ケイ素の含有率が15wt%以上のターゲット材を用いた場合には、次のような現象が起き得る。
【0066】
例えば、成膜中にターゲット表面にターゲット成分の再付着等によって酸化ケイ素粒が析出すると、プラズマ中の電荷(例えば、Arイオン等のカチオン)が酸化ケイ素粒に帯電する。これは、SiO
2の絶縁性のためである。
【0067】
このような現象が起きると、カソード(スパッタリングターゲット)の電位が不安定になって、プラズマ密度が減少したり、放電が停止したりする現象が起きる。あるいは、スパッタリングターゲット上で酸化ケイ素粒が絶縁破壊して、スパッタリングターゲット上にプラズマアークが発生する場合がある。
【0068】
本実施形態では、酸化インジウムスズ/酸化ケイ素を含むターゲット材であって、酸化ケイ素の含有率が15wt%以上25%wt以下であるターゲット材を用いた場合、放電の不安定さを解消するために、放電ガス中に水蒸気を含有させて成膜を進行させる。
【0069】
このような方法によれば、ITO/SiO
2ターゲットを例にあげると、放電ガスに含まれるHイオン、水酸基イオン等により、絶縁性を呈す化学量論比SiO
2、あるいはSiO
2に近い酸化ケイ素がSiO
x(0<x<2)に還元されて、酸化ケイ素粒の絶縁性が低下する。これにより、スパッタリング時には、酸化ケイ素粒における帯電が緩和されて、安定した放電が持続する。
【0070】
または、酸化ケイ素粒における帯電を緩和する別の手法として、交流電圧の周波数をより高周波にする手法がある。
【0071】
図2(a)は、水蒸気の蒸気圧と、放電電力の変動幅との関係を示すグラフ図である。
図2(b)は、水蒸気の蒸気圧と、放電電圧の変動幅との関係を示すグラフ図である。
【0072】
図2(a)に示すように、放電電力の変動幅は、水蒸気の分圧の上昇とともに減少する。特に、水蒸気の分圧が1×10
−3Pa以上になると、放電電力の変動幅が略0になる。さらに、交流電圧の周波数を上昇させることで、放電電力の変動幅が下がることが確認されている。
【0073】
図2(b)に示すように、放電電圧の変動幅は、水蒸気の分圧の上昇とともに減少する。特に、水蒸気の分圧が2×10
−3Paになると、放電電圧の変動幅が略0になる。さらに、交流電圧の周波数を上昇させることで、放電電圧の変動幅が下がることが確認されている。
【0074】
これらの結果は、放電ガスに水蒸気を含有させたり、周波数をより高く設定したりすることで、安定した放電が持続することを意味する。
【0075】
図3は、ターゲット材中の副成分の濃度(wt%)と透明導電膜の比抵抗(Ω/sq.)との関係を示すグラフ図である。
【0076】
ITO/酸化ケイ素を含むターゲットを用いた場合においては、酸化ケイ素の濃度が増加するにつれ、透明導電膜12のシート抵抗が増加する。これは、酸化ケイ素の濃度の増加とともに、ターゲット材のシート抵抗が増加するからである。ここで、スパッタリング時には、水蒸気の分圧が2×10
−4Pa〜2×10
−3Paに調整されることで、安定した放電が持続する。このように、水蒸気分圧を調整することで安定したプラズマ放電が継続する。
【0077】
また、図中には、酸化スズ/酸化ニオブを含むターゲットを用いた場合の結果が示されている。酸化ニオブの濃度が増加するにつれ、透明導電膜12のシート抵抗が増加する。特に、酸化スズ/酸化ニオブを含むターゲットを用いた場合には、酸化ニオブの含有率を15%以上、好ましくは、17wt%以上25%wt以下に設定することで、1×10
10(Ω/sq.)以上1×10
14(Ω/sq.)以下のシート抵抗が得られる。
【0078】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。各実施形態は、独立の形態とは限らず、技術的に可能な限り複合することができる。