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特開2020-204057透明導電性酸化物膜の形成方法、スパッタ装置、および、太陽電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-204057(P2020-204057A)
(43)【公開日】2020年12月24日
(54)【発明の名称】透明導電性酸化物膜の形成方法、スパッタ装置、および、太陽電池
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/08 20060101AFI20201127BHJP
   H01L 31/0224 20060101ALI20201127BHJP
   H01L 31/0747 20120101ALI20201127BHJP
   H01L 21/28 20060101ALI20201127BHJP
   H01L 21/285 20060101ALI20201127BHJP
【FI】
   C23C14/08 D
   H01L31/04 266
   H01L31/06 455
   H01L21/28 301R
   H01L21/285 S
   H01L21/285 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2019-111241(P2019-111241)
(22)【出願日】2019年6月14日
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】松崎 淳介
【テーマコード(参考)】
4K029
4M104
5F151
【Fターム(参考)】
4K029AA06
4K029AA24
4K029BA45
4K029BB02
4K029BC09
4K029BD01
4K029CA05
4K029CA06
4K029DC05
4K029DC34
4K029DC35
4K029EA01
4K029EA05
4M104AA01
4M104AA07
4M104AA08
4M104AA10
4M104BB08
4M104BB36
4M104CC01
4M104DD28
4M104DD37
4M104DD41
4M104FF13
4M104FF31
4M104GG19
4M104HH12
5F151AA02
5F151AA05
5F151BA11
5F151CB15
5F151CB27
5F151CB29
5F151FA02
5F151FA04
5F151FA06
5F151FA14
5F151FA15
5F151FA18
5F151FA21
5F151FA24
5F151HA07
(57)【要約】
【課題】透明導電性酸化物膜が適用された太陽電池における内部抵抗を下げることを可能とした透明導電性酸化物膜の形成方法、スパッタ装置、および、太陽電池を提供する。
【解決手段】透明導電性金属酸化物を主成分とする第1ターゲット11aに高周波電圧を印加することによって第1ターゲット11aをスパッタして、成膜対象であるシリコン層の表面粗さSaを1nm以下として初期層を形成することと、水素が添加された環境において透明導電性金属酸化物を主成分とする第2ターゲット12aに直流電圧を印加することによって第2ターゲット12aをスパッタして初期層上にバルク層を積層することとを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電性金属酸化物を主成分とする第1ターゲットに高周波電圧を印加することによって前記第1ターゲットをスパッタして、成膜対象であるシリコン層の表面粗さSaを1nm以下として初期層を形成することと、
水素が添加された環境において前記透明導電性金属酸化物を主成分とする第2ターゲットに直流電圧を印加することによって前記第2ターゲットをスパッタして前記初期層上にバルク層を積層することと、を備える
透明導電性酸化物膜の形成方法。
【請求項2】
前記初期層を形成することは、5nm以上20nm以下の厚さを有した前記初期層を形成することを含む
請求項1に記載の透明導電性酸化物膜の形成方法。
【請求項3】
前記成膜対象の表面は、アモルファスシリコンによって形成されている
請求項1または2に記載の透明導電性酸化物膜の形成方法。
【請求項4】
透明導電性金属酸化物を主成分とする第1ターゲットに高周波電圧を印加することによって前記第1ターゲットをスパッタして成膜対象であるシリコン層の表面粗さSaを1nm以下として初期層を形成する第1ターゲット装置と、
水素が添加された環境において、前記透明導電性金属酸化物を主成分とする第2ターゲットに直流電圧を印加することによって前記第2ターゲットをスパッタして前記初期層にバルク層を積層する第2ターゲット装置と、を備える
スパッタ装置。
【請求項5】
表面を含むシリコン層と、
前記表面に位置する透明導電性酸化物膜と、を含み、
前記表面における表面粗さSaが1nm以下である
太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電性酸化物膜の形成方法、透明導電性酸化物膜の形成に用いられるスパッタ装置、および、透明導電性酸化物膜を備える太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン系太陽電池の1つとして、ヘテロ接合型太陽電池が知られている(例えば、特許文献1を参照)。ヘテロ接合型太陽電池は、例えば、n型の単結晶シリコンによって形成された基板と、基板の表面に形成された第1アモルファスシリコン層と、基板の裏面に形成された第2アモルファスシリコン層とを備えている。第1アモルファスシリコン層は、表面上に形成されたi型の層と、i型の層上に形成されたp型の層とから形成されている。第2アモルファスシリコン層は、裏面上に形成されたi型の層と、i型の層上に形成されたn型の層とから形成されている。
【0003】
第1アモルファスシリコン層には、第1導電層が積層され、第2アモルファスシリコン層には、第2導電層が積層されている。各導電層は、透明導電性酸化物によって形成されている。透明導電性酸化物は、例えば、酸化インジウムや酸化インジウムスズなどである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018−110228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、各導電層は、透明導電性酸化物のターゲットをスパッタすることによって、各アモルファスシリコン層上に形成される。この際に、所定の運動エネルギーを有したスパッタ粒子が各アモルファスシリコン層上に着弾し、これによって、アモルファスシリコン層の表面に、着弾に起因した性状の変化を生じさせる。こうしたアモルファスシリコン層の表面における性状の変化は、アモルファスシリコン層と導電層との界面におけるキャリアの移動を低下させ、結果として、太陽電池における内部抵抗が高まる。こうした課題は、導電層の下地がアモルファスシリコン層以外の層である太陽電池にも共通する。
【0006】
本発明は、透明導電性酸化物膜が適用された太陽電池の内部抵抗を下げることを可能とした透明導電性酸化物膜の形成方法、スパッタ装置、および、太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための透明導電性酸化物膜の形成方法は、透明導電性金属酸化物を主成分とする第1ターゲットに高周波電圧を印加することによって前記第1ターゲットをスパッタして、成膜対象であるシリコン層の表面粗さSaを1nm以下として初期層を形成することと、水素が添加された環境において前記透明導電性金属酸化物を主成分とする第2ターゲットに直流電圧を印加することによって前記第2ターゲットをスパッタして前記初期層上にバルク層を積層することと、を備える。
【0008】
上記課題を解決するためのスパッタ装置は、透明導電性金属酸化物を主成分とする第1ターゲットに高周波電圧を印加することによって前記第1ターゲットをスパッタして成膜対象であるシリコン層の表面粗さSaを1nm以下として初期層を形成する第1ターゲット装置と、水素が添加された環境において前記透明導電性金属酸化物を主成分とする第2ターゲットに直流電圧を印加することによって前記第2ターゲットをスパッタして前記初期層にバルク層を積層する第2ターゲット装置と、を備える。
【0009】
上記課題を解決するための太陽電池は、表面を含むシリコン層と、前記表面に位置する透明導電性酸化物膜と、を含み、前記表面における表面粗さSaが1nm以下である。
【0010】
上記各構成によれば、初期層とバルク層との両方をターゲットに対する直流電圧の印加によって形成する場合に比べて、透明導電性酸化物膜が形成される成膜対象の表面における性状の変化を抑えることが可能である。これにより、透明導電性酸化物膜が適用された太陽電池の内部抵抗を下げることが可能である。
【0011】
上記透明導電性酸化物膜の形成方法において、前記初期層を形成することは、5nm以上20nm以下の厚さを有した前記初期層を形成することを含んでもよい。この構成によれば、5nm以上の厚さを有した初期層を形成するため、成膜対象上に連続膜が形成される確実性が高まる。結果として、成膜対象の表面における性状の変化がより確実に抑えられる。また、20nm以下の厚さを有した初期層を形成するため、初期層の形成による効果を得つつ、より厚い初期層を形成する場合に比べて、透明導電性酸化物膜に占めるバルク層の割合を高めることで、透明導電性酸化物膜の形成に要する時間を短くすることが可能である。
【0012】
上記透明導電性酸化物膜の形成方法において、前記成膜対象の表面はアモルファスシリコンによって形成されてもよい。この構成によれば、シリコン層が、シリコン層に対するスパッタ粒子の着弾によって性状の変化しやすいアモルファスシリコンによって形成されているため、ターゲットに対する高周波電圧の印加によって初期層を形成することによる効果をより顕著に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態におけるスパッタ装置の構成を模式的に示す装置構成図。
図2】成膜対象を当該成膜対象に形成された透明導電性酸化物膜とともに示す断面図。
図3】成膜対象を当該成膜対象に形成された透明導電性酸化物膜とともに示し、成膜対象および透明導電性酸化物膜の一部が破断された斜視図。
図4】透明導電性酸化物膜を撮影したSEM画像。
図5】太陽電池の構造を模式的に示す断面図。
図6】試験例1の透明導電性酸化物膜を撮影したTEM画像。
図7】試験例2の透明導電性酸化物膜を撮影したTEM画像。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1から図7を参照して、透明導電性酸化物膜の形成方法、スパッタ装置、および、太陽電池の一実施形態を説明する。以下では、スパッタ装置の構成、透明導電性酸化物膜の形成方法、太陽電池の構成、および、試験例を説明する。
【0015】
[スパッタ装置の構成]
図1を参照して、スパッタ装置の構成を説明する。
図1が示すように、スパッタ装置10は、第1ターゲット装置11と第2ターゲット装置12とを備えている。第1ターゲット装置11は、水素が添加された環境において、透明導電性金属酸化物を主成分とする第1ターゲット11aに高周波電圧を印加することによって第1ターゲット11aをスパッタして、成膜対象であるシリコン層の表面粗さSaを1nm以下として初期層を形成する。
【0016】
第2ターゲット装置12は、水素が添加された環境において、透明導電性金属酸化物を主成分とする第2ターゲット12aに直流電圧を印加することによって第2ターゲット12aをスパッタして初期層にバルク層を積層する。
【0017】
第1ターゲット装置11は、第1ターゲット11a、第1バッキングプレート11b、および、高周波電源11cを備えている。第1ターゲット11aの主成分は、透明導電性金属酸化物(TCO)である。TCOは、例えば、酸化インジウム(In)、酸化インジウムスズ(ITO)、および、酸化亜鉛(ZnO)などである。本実施形態では、第1ターゲット11aの主成分はInであり、第1ターゲット11aは、90質量%以上のInを含んでいる。図1が示す例では、第1ターゲット11aは、平板状を有しているが、第1ターゲット11aは、円筒状を有してもよい。
【0018】
第1バッキングプレート11bは、金属製の板部材である。第1バッキングプレート11bは、第1ターゲット11aを支持している。高周波電源11cは、第1バッキングプレート11bに電気的に接続されている。高周波電源11cが第1バッキングプレート11bに高周波電圧を印加することによって、第1ターゲット11aに高周波電圧が印加される。高周波電源11cは、例えば、13.56Mzの周波数を有した高周波電圧を第1バッキングプレート11bに印加する。なお、第1ターゲット11aが円筒状を有する場合には、第1バッキングプレート11bも円筒状を有する。
【0019】
第2ターゲット装置12は、第2ターゲット12a、第2バッキングプレート12b、および、直流電源12cを備えている。第2ターゲット12aの主成分は、第1ターゲット11aの主成分と同一のTCOである。TCOは、例えば、In、ITO、および、ZnOなどである。本実施形態では、第2ターゲット12aの主成分はInであり、第2ターゲット12aは、90質量%以上のInを含んでいる。図1が示す例では、第2ターゲット12aは、平板状を有しているが、第2ターゲット12aは、円筒状を有してもよい。
【0020】
第2バッキングプレート12bは、金属製の板部材である。第2バッキングプレート12bは、第2ターゲット12aを支持している。直流電源12cは、第2バッキングプレート12bに電気的に接続されている。直流電源12cは、第2バッキングプレート12bに直流電圧を印加することによって、第2ターゲット12aに直流電圧を印加する。本実施形態において、直流電源12cが第2バッキングプレート12bに供給する電力量は、高周波電源11cが第1バッキングプレート11bに供給する電力量よりも大きい。なお、第2ターゲット12aが円筒状を有する場合には、第2バッキングプレート12bも円筒状を有する。
【0021】
スパッタ装置10は、さらに真空槽13、排気部14、および、スパッタガス供給部15を備えている。真空槽13は、成膜対象Sに対してTCO膜が形成される空間を区画している。真空槽13が区画する空間には、第1ターゲット11aの被スパッタ面、および、第2ターゲット12aの被スパッタ面が露出している。真空槽13は、第1ターゲット11aから第2ターゲット12aに向かう方向に沿って成膜対象Sを搬送する。スパッタ装置10では、真空槽13内において所定の速度で搬送されている成膜対象Sに対してTCO膜が形成される。
【0022】
排気部14は、真空槽13に接続されている。排気部14は、真空槽13が区画する空間内の気体を排気する。排気部14は、例えば、各種のバルブおよび各種のポンプなどを含んでいる。
【0023】
スパッタガス供給部15は、真空槽13が区画する空間内に水素含有ガスを供給する。水素含有ガスは、例えば、水素ガス、および、水などである。スパッタガス供給部15が真空槽13内に水素含有ガスを供給することによって、水素が添加された環境が形成される。スパッタガス供給部15は、水素含有ガスに加えて、例えば、酸素含有ガスおよび希ガスを水素含有ガスと同時に真空槽13内に供給する。酸素含有ガスは例えば酸素ガスであり、希ガスは例えばアルゴンガスである。
【0024】
なお、第1ターゲット11aが配置される空間には、水素含有ガスを供給しなくてもよい。第1ターゲット11aの近傍には水素含有ガスが供給されない一方で、第2ターゲット12aの近傍には水素ガスが供給されるように、第1ターゲット11aと第2ターゲット12aとの配置、真空槽13内においてスパッタガス供給部15から水素含有ガスが供給される位置、および、水素含有ガスの排気などを調整すればよい。あるいは、スパッタ装置10は、第1ターゲット11aが配置される第1真空槽と、第2ターゲット12aが配置される第2真空槽とを各別に備えてもよい。この場合には、第1ターゲット11aと第2ターゲット12aとの間に、気体の流通を遮断することが可能なゲートバルブを配置することによって、第1真空槽が区画する空間を第2真空槽が区画する空間から分離することが可能である。
【0025】
スパッタ装置10では、成膜対象Sが真空槽13内に配置された後に、排気部14が真空槽13内を所定の圧力まで減圧する。次いで、スパッタガス供給部15が真空槽13内に所定の流量でスパッタガスを供給する。この状態において、高周波電源11cが高周波電圧を第1バッキングプレート11bに印加している間は、第1ターゲット11aの近傍にプラズマが生成されることによって、第1ターゲット11aがスパッタされる。一方で、直流電源12cが直流電圧を第2バッキングプレート12bに印加している間は、第2ターゲット12aの近傍にプラズマが生成されることによって、第2ターゲット12aがスパッタされる。
【0026】
[透明導電性酸化物膜の形成方法]
図2から図5を参照して、透明導電性酸化物膜の形成方法を説明する。
透明導電性酸化物膜の形成方法は、初期層を形成することと、バルク層を形成することとを備えている。初期層を形成することでは、TCOを主成分とする第1ターゲット11aに高周波電圧を印加することによって第1ターゲット11aをスパッタして、成膜対象であるシリコン層の表面粗さSaを1nm以下として初期層を形成する。バルク層を形成することでは、水素が添加された環境においてTCOを主成分とする第2ターゲット12aに直流電圧を印加することによって第2ターゲット12aをスパッタして初期層上にバルク層を積層する。
【0027】
初期層とバルク層との両方をターゲットに対する直流電圧の印加によって形成する場合に比べて、TCO膜が形成される成膜対象の表面における性状の変化を抑えることが可能である。これにより、TCO膜が適用された太陽電池の電池性能を高めることが可能である。なお、直流電圧の印加によって形成されるバルク層の成膜速度は、高周波電圧の印加によって形成される初期層の成膜速度よりも高い。そのため、本実施形態によるように、高周波電圧の印加によって初期層を形成した後に、直流電圧の印加によってバルク層を形成することによって、高周波電圧の印加のみによってTCO膜を形成する場合に比べて、TCO膜の成膜速度を高めることが可能である。これにより、TCO膜が適用された太陽電池の製造に係る時間を短くすることができ、太陽電池の単位構造当たりにおけるコストを低くすることが可能でもある。
【0028】
以下、図面を参照して、透明導電性酸化物膜の形成方法を詳しく説明する。
図2が示すように、成膜対象Sは表面SFと裏面SRとを有している。成膜対象Sの表面SFに第1TCO膜21が形成され、成膜対象Sの裏面SRに第2TCO膜22が形成される。第1TCO膜21は、表面SFに接する初期層と、初期層に積層されたバルク層とから形成されている。第2TCO膜22は、裏面SRに接する初期層と、初期層に積層されたバルク層とから形成されている。本実施形態では、成膜対象Sにおける表面SFと裏面SRとの両方にTCO膜が形成されるが、表面SFおよび裏面SRの一方のみにTCOが形成されてもよい。
【0029】
成膜対象Sは、表面31Fと裏面31Rとを有したシリコン基板31を備えている。シリコン基板31は、n型の単結晶シリコンから形成されている。シリコン基板31の表面31Fには、i型シリコン層32が位置し、かつ、シリコン基板31の裏面31Rにも、i型シリコン層33が位置している。表面31Fに位置するi型シリコン層32上には、p型シリコン層34が位置している。p型シリコン層34において、i型シリコン層32に接する面とは反対側の面が、成膜対象Sの表面SFである。表面SFに位置する第1TCO膜21において、p型シリコン層34に接する面とは反対側の面が、表面21Fである。裏面31Rに位置するi型シリコン層33上には、n型シリコン層35が位置している。n型シリコン層35において、i型シリコン層33に接する面とは反対側の面が、成膜対象Sの裏面SRである。裏面SRに位置する第2TCO膜22において、n型シリコン層35に接する面とは反対側の面が、表面22Fである。本実施形態では、成膜対象Sは、複数のシリコン層から形成されているが、成膜対象Sは1層以上のシリコン層から形成されていればよい。
【0030】
初期層の厚さは、5nm以上20nm以下であってよい。すなわち、初期層を形成することは、5nm以上20nm以下の厚さを有した初期層を形成してもよい。この場合には、5nm以上の厚さを有した初期層を形成するため、成膜対象S上に連続膜が形成される確実性が高まる。結果として、成膜対象Sの表面全体においてスパッタ粒子の着弾が抑えられ、これによって、成膜対象Sの表面における性状の変化がより確実に抑えられる。また、20nm以下の厚さを有した初期層を形成するため、初期層の形成による効果を得つつ、より厚い初期層を形成する場合に比べて、TCO膜21,22に占めるバルク層の割合を高めることで、TCO膜21,22の形成に要する時間を短くすることが可能である。
【0031】
初期層は、成膜対象Sに形成された直後において、結晶化していてもよいし、アモルファスの状態でもよい。すなわち、初期層を形成する工程では、結晶化した初期層を形成してもよいし、アモルファスの状態を有した初期層を形成してもよい。結晶化した初期層は、各TCO膜21,22の下地層との電気的な接続において有利である点で好ましい。
【0032】
成膜前の成膜対象Sにおいて、初期層が形成される表面SFおよび裏面SRが、結晶化したシリコン製であってもよいし、アモルファスシリコン製であってもよい。言い換えれば、各シリコン層34,35は、結晶化していてもよいし、アモルファスの状態でもよい。
【0033】
各シリコン層34,35がアモルファスの状態である場合には、結晶化している場合に比べて、シリコン層34,35に対する初期層の形成によって、シリコン層34,35の表面における性状が変化しやすい。それゆえに、シリコン層34,35が結晶化している場合に比べて、シリコン層34,35がアモルファスの状態である場合に、初期層の形成に際して高周波電圧を印加することによる効果がより顕著である。こうした効果は、ターゲットに対して直流電圧を印加する場合に比べて、ターゲットに対して高周波電圧を印加することによって放電電圧を低減することができるために得ることができる。すなわち、ターゲットおよび成膜対象Sに対する入射エネルギーを低減することができるために上述の効果を得ることができる。
【0034】
なお、i型シリコン層32,33も、シリコン層34,35と同様、結晶化したシリコン製であってもよいし、アモルファスシリコン製でもよい。
【0035】
なお、各TCO膜21,22が形成された後に、TCO膜21,22のアニールが行われる。そのため、成膜対象SおよびTCO膜21,22を備える太陽電池では、各TCO膜21,22は、結晶化したTCOによって形成されている。
【0036】
図3が示すように、シリコン基板31は、シリコン基板31の表面31Fを形成するテクスチャー31Tを備えている。テクスチャー31Tは複数の四角錐によって形成されている。シリコン基板31の表面31Fがテクスチャー31Tを有することによって、表面31F上に形成された各層もテクスチャー31Tに追従した形状を有する。
【0037】
そのため、第1TCO膜21に入射した光は、第1TCO膜21の表面21Fにおいて透過および反射を繰り返し、結果として、第1TCO膜21が平坦である場合よりも多くの光を第1TCO膜21から成膜対象Sの内部に導くことが可能である。なお、図3では、シリコン基板31の表面31Fを形成するテクスチャー31Tについて説明したが、シリコン基板31は、シリコン基板31の裏面31Rを形成するテクスチャーを備えてもいる。
【0038】
図4は、第1TCO膜21を表面21Fと対向する方向から撮影した画像である。図4(a)および図4(b)は、インレンズ方式によって得られた二次電子による画像である。図4(c)は、EsB検出器によって得られた反射電子による画像である。図4(b)と図4(c)とは、第1TCO膜21の表面21Fにおける略同一の部分を同一の倍率で撮影した画像である。なお、図4が示す第1TCO膜21の主成分は、Inである。
【0039】
図4(a)が示すように、第1TCO膜21は、テクスチャー31Tを構成する四角錐が有する各側面上に位置する部分を含む。第1TCO膜21は、同一の四角錐に対応する4つの部分を含んでいる。4つの部分によって、1つの四角錐状の面が形成される。
【0040】
図4(b)が示すように、第1TCO膜21において、同一の四角錐に対応した4つの部分は、第1表面粗さSaを有する第1部分と、第2表面粗さSaを有する第2部分とを含んでいる。第2表面粗さSaは、第1表面粗さSaよりも大きい。そのため、4つの部部分が第1表面粗さSaを有した部分のみから形成される場合に比べて、4つの部分が第2表面粗さSaを有した面を含む分、第1TCO膜21と、第1TCO膜21に積層された層、例えば電極との密着性を高めることが可能である。すなわち、第2表面粗さSaを有する部分に起因する表面積の増大に伴うアンカー効果によって、第1TCO膜21と、第1TCO膜21に積層された層との密着性を高めることが可能である。本実施形態では、4つの部分において、3つの部分における表面粗さSaは略等しく、残りの1つの部分における表面粗さSaは、他の3つの面における表面粗さSaよりも小さい。
【0041】
第1表面粗さSa(R1)に対する第2表面粗さSa(R2)の比(R2/R1)は、1.3以上5.0以下であってよい。第1表面粗さSaに対する第2表面粗さSaの比が1.3以上であるため、第2表面粗さSaが、第1TCO膜21と第1TCO膜21に積層された層との密着性を高める効果をより確実に得ることが可能である。また、第1表面粗さSaに対する第2表面粗さSaの比が5.0以下であるため、第2表面粗さSaが大きすぎるために第2部分上に連続膜が形成されにくくなることが抑えられる。なお、第1表面粗さSaに対する第2表面粗さSaの比は、より好ましくは1.3以上2.0以下であってよい。
【0042】
第1表面粗さSaは1nm以下であり、第2表面粗さSaは1nmよりも大きくてもよい。第2表面粗さSaが1nmよりも大きい場合には、第2表面粗さSaが、第1TCO膜21と第1TCO膜21に積層された層との密着性を高める効果をより確実に得ることが可能である。各部分の表面粗さSa(算術平均粗さSa)は、ISO 25178に準拠する方法によって測定される。
【0043】
図4(c)が示すように、同一の四角錐に対応した4つの部分は、第1平均粒径を有する複数の結晶によって形成された第3部分と、第2平均粒径を有する複数の結晶によって形成された第4部分とを含んでいる。第2平均粒径は、第1平均粒径よりも大きい。4つの部分が第1平均粒径を有した複数の結晶によって形成された部分のみから形成される場合に比べて、4つの部分が第2平均粒径を有した複数の結晶によって形成された部分を備える分、第1TCO膜21が有する粒界を減らすことが可能である。結果として、4つの部分が第1平均粒径を有した複数の結晶から形成された部分のみから構成される場合に比べて、第1TCO膜21における電気伝導性を高めることが可能である。
【0044】
本実施形態では、4つの部分において、3つの部分における平均粒径は略等しく、残りの1つの部分における平均粒径は、他の3つの面における平均粒径よりも大きい。また、本実施形態において、第3部分は上述した第2部分と同一の部分であり、第4部分は上述した第1部分と同一の部分である。
【0045】
第1平均粒径(D1)に対する第2平均粒径(D2)の比(D2/D1)は、1.3以上10.0以下であってよい。第1平均粒径に対する第2平均粒径の比が1.3以上であるため、第2平均粒径が、第1TCO膜21における電気伝導性を高める効果をより確実に得ることが可能である。また、第1平均粒径に対する第2平均粒径の比が10.0以下であるため、第1平均粒径が第2平均粒径に対して小さすぎることが、第1TCO膜21の面内において粒界を増大させることを抑える。これによって、第1TCO膜21における電気伝導性の低下が抑えられる。第1平均粒径に対する第2平均粒径の比は、より好ましくは1.5以上2.0以下であってもよい。
【0046】
第1平均粒径は100nm未満であり、第2平均粒径は100nm以上であってよい。第2平均粒径が100nm以上である場合には、第2平均粒径が、第1TCO膜21における電気伝導性を高める効果をより確実に得ることが可能である。各部分における平均粒径は、SEM画像を用いて算出される。例えば、図4(c)が示す画像において、各部分について複数の結晶粒を特定し、当該結晶粒の粒径を測定する。複数の結晶粒における粒径の平均値を算出することによって、各部分における平均粒径が算出される。
【0047】
なお、TCO膜21,22のなかで、1つの四角錐に対応する部分における表面粗さの異方性、および、平均粒径の異方性は、成膜対象Sに対するTCO膜21,22の成膜速度と放電電圧によって実現される。TCO膜21,22の両方は、1つの四角錐に対応する部分において、表面粗さと平均粒径とに異方性を生じさせることが可能な程度に低い放電電圧で初期層が成膜された後、所望の膜厚とされる。
【0048】
[太陽電池の構成]
図5を参照して、太陽電池の構成を説明する。本実施形態の太陽電池は、ヘテロ接合型の太陽電池である。
【0049】
図5が示すように、太陽電池30は、表面SFおよび裏面SRを有した成膜対象Sと、表面SFおよび裏面SRに1層ずつ位置するTCO膜21,22とを含んでいる。本実施形態において、成膜対象Sがシリコン層の一例である。表面SFおよび裏面SRにおける表面粗さSaが、1nm以下である。
【0050】
太陽電池30は、図2を参照して先に説明した第1TCO膜21、および、第2TCO膜22を備えている。そのため、各TCO膜21,22において、テクスチャー31Tにおける同一の四角錐に対応する4つの部分は、第1表面粗さSaを有する第1部分と、第2表面粗さSaを有する第2部分とを含んでいる。また、テクスチャー31Tにおける同一の四角錐に対応する4つの部分は、第1平均粒径を有する複数の結晶によって形成された第3部分と、第2平均粒径を有する複数の結晶によって形成された第4部分とを含んでいる。
【0051】
太陽電池30は、さらに、第1TCO膜21の表面21Fに位置する複数の表面電極36、および、第2TCO膜22の表面22Fに位置する複数の裏面電極37を備えている。各表面電極36および各裏面電極37は、例えば金属と樹脂との混合物によって形成されている。金属は、例えば銀であってよい。また、樹脂は、例えばエポキシ樹脂であってよい。
【0052】
[試験例]
図6および図7を参照して、試験例を説明する。
[試験例1]
テクスチャーを有したシリコン基板上に、スパッタ装置を用いて以下の条件でTCO膜を形成した。
【0053】
・第1ターゲット In
・第2ターゲット In
・高周波電源の周波数 13.56MHz
・高周波電力 3kW(1.6W/cm、放電電圧70V)
・直流電力 7.6kW(4.8kW/m、放電電圧230V)
・アルゴンガスの流量 330sccm
・酸素ガスの流量 5sccm
・水の流量 5sccm
・真空槽内の圧力 0.7Pa
【0054】
まず、高周波電力を第1ターゲットに供給して平板状の第1ターゲットをスパッタすることにより、10nmの厚さを有した初期層を形成した。次いで、直流電力を円筒状の第2ターゲットに供給して第2ターゲットをスパッタすることにより、60nmの厚さを有したバルク層を形成した。これにより、成膜対象上に70nmの厚さを有したIn膜を形成した。なお、成膜対象の搬送速度を0.3m/min以上1.4m/min以下の範囲で調整することによって、初期層の膜厚およびバルク層の膜厚を実現した。搬送速度が1m/minである場合の成膜速度は、初期層において約6.5nmであり、バルク層において約42nm以上45nm以下であった。
【0055】
[試験例2]
試験例1において、第2ターゲットに直流電力を供給するのみによってIn膜を形成した以外は、試験例1と同様の方法によって、In膜を形成した。
【0056】
[評価結果]
試験例1のIn膜と、試験例2のIn膜とを透過型電子顕微鏡(TEM)と電子回折パターン(ARM200F、日本電子(株)製)を用いて撮影した。試験例1のIn膜の撮影によって得られた画像は、図6に示す通りであった。また、試験例2のIn膜の撮影によって得られた画像は、図7に示す通りであった。
【0057】
なお、図6(a)および図7(a)は、各In膜の厚さ方向における全体を撮影した画像である。図6(b)は図6(a)における領域bの電子回折パターンであり、図7(b)は図7(a)における領域bの電子回折パターンである。図6(b)および図7(b)は、各In膜において、成膜対象からの距離が5nmである位置を撮影した画像である。図6(c)は図6(a)における領域cの電子回折パターンであり、図7(c)は図7(a)における領域cの電子回折パターンである。図6(c)および図7(c)は、各In膜において、成膜対象における中央の位置を撮影した画像である。図6(d)は図6(a)における領域dの電子回折パターンであり、図7(d)は図7(a)における領域dの電子回折パターンである。図6(d)および図7(d)は、各In膜において、そのIn膜の表面からの距離が5nmである位置を撮影した画像である。
【0058】
図6(a)および図7(a)が示すように、試験例1のIn膜、および、試験例2のIn膜の両方において、成膜対象の表面にほぼ一様な厚さを有したIn膜が形成されていることが認められた。また、図6(b)から図6(d)が示すように、試験例1のIn膜では、In膜の厚さ方向における位置に関わらず、撮影によって得られた電子回折のパターンがほぼ同様であることが認められた。これに対して、図7(b)から図7(d)が示すように、試験例2のIn膜では、In膜の厚さ方向における位置が変わることによって、撮影によって得られる電子回折のパターンも変わることが認められた。
【0059】
すなわち、ターゲットに対する高周波電圧の印加によって形成された初期層と、ターゲットに対する直流電圧の印加によって形成されたバルク層とから形成されるIn膜では、In膜の厚さ方向における全体において、結晶方位のパターンがほぼ同一であることが認められた。これに対して、試験例2のInのように、ターゲットに対する直流電圧の印加のみによって形成されたIn膜では、In膜の厚さ方向において、結晶方位のパターンがばらつきを有することが認められた。
【0060】
[試験例3]
試験例1と同一の成膜条件によって、5nmの厚さを有する初期層を形成し、次いで、65nmの厚さを有するバルク層を形成した。そして、バルク層上に銀とエポキシ樹脂との混合物を用いて複数の電極を形成した。この際に、開口率が94.7%となるように、複数のバスバー電極と複数のフィンガー電極とをバルク層上に形成した。これにより、試験例3‐1の太陽電池を得た。また、試験例3‐1において、初期層の厚さを10nmに変更し、バルク層の厚さを60nmに変更した以外は、試験例3‐1と同様の方法によって、試験例3‐2の太陽電池を得た。さらに、試験例3‐1において、初期層の厚さを20nmに変更し、バルク層の厚さを50nmに変更した以外は、試験例3‐1と同様の方法によって、試験例3‐3の太陽電池を得た。
【0061】
[試験例4]
試験例3において、試験例2と同一の成膜条件によって、70nmの厚さを有したIn膜を形成した以外は、試験例3と同様の方法によって、試験例4の太陽電池を得た。
【0062】
[評価結果]
試験例3‐1、試験例3‐2、試験例3‐3、および、試験例4の太陽電池の各々について、開放電圧Voc、短絡電流Isc、曲線因子FF、および、変換効率Effを測定した。そして、試験例3‐1、試験例3‐2、および、試験例3‐3の各々について、開放電圧Voc、短絡電流Isc、曲線因子FF、および、変換効率Effの各々を試験例4の各値によって規格化した。規格化した値は、以下の表1に示す通りであった。
【0063】
【表1】
【0064】
表1が示すように、各太陽電池における開放電圧Vocは、試験例3‐1において100.27%であり、試験例3‐2において99.73%であり、試験例3‐3において99.73%であることが認められた。また、各太陽電池における短絡電流Iscは、試験例3‐1において100.78%であり、試験例3‐2において100.95%であり、試験例3‐3において101.20%であることが認められた。また、各太陽電池における曲線因子FFは、試験例3‐1において101.92%であり、試験例3‐2において102.33%であり、試験例3‐3において103.56%であることが認められた。また、各太陽電池における変換効率Effは、試験例3‐1において103.02%であり、試験例3‐2において103.07%であり、試験例3‐3において104.39%であることが認められた。
【0065】
このように、試験例3‐1から試験例3‐3の太陽電池によれば、試験例4の太陽電池に比べて、変換効率が高められることが認められた。また、試験例の開放電圧Vocを確認すると、試験例3‐1から試験例3‐3において試験例4に対して約±0.3%の範囲となっていることが確認できる一方で、短絡電流Iscは約+1.0%となっていることが確認できる。これは、各試験例を太陽電池として見た場合に、内部抵抗値(等価内部抵抗)が低下したことにより電流値が増大したことと同義である。本願発明者らは、上述した製法によりシリコン基板と初期層との界面において抵抗を改善することが可能であるために、本結果が得られたと推測している。なお、この効果は、当然のことながら最適動作点での出力時(最大出力)においても得られ、表1によれば、曲線因子FFが約+2〜3.5%向上しており、また、変換効率Effで評価しても約+3〜4%向上していることが確認できる。
【0066】
[試験例5]
シリコン基板、i型のアモルファスシリコン層、および、n型のアモルファスシリコン層が記載の順に積層された成膜対象を準備した。次いで、試験例1と同様の方法によって、成膜対象上にIn膜を形成した。その後、塩酸を用いてIn膜をエッチングして、成膜対象からIn膜を除去した。
【0067】
[試験例6]
試験例5と同様の成膜対象を準備した。次いで、試験例2と同様の方法によって、成膜対象上にIn膜を形成した。その後、試験例3と同様の方法で、In膜を成膜対象から除去した。
【0068】
[評価結果]
試験例5における成膜対象の表面、および、試験例6における成膜対象の表面が有する表面粗さSaを測定した。走査型プローブ顕微鏡(AFM5400L、日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、ISO 25178に準拠する方法によって、各表面の表面粗さSaを測定した。シリコンのテクスチャーがノイズとならないように、表面粗さSaを測定する範囲を限定した。すなわち、以下に記載の測定結果は、1μm四方における表面粗さSaの測定結果である。試験例1における表面粗さSaは0.543nmであることが認められ、試験例2における表面粗さSaは6.26nmであることが認められた。このように、高周波電圧の印加によって初期層を形成した後に、直流電圧の印加によってバルク層を形成する方法によれば、直流電圧の印加のみによってIn膜を形成する場合に比べて、成膜対象の表面における表面粗さSaが大幅に小さくなることが認められた。すなわち、高周波電圧の印加によって初期層を形成した後に、直流電圧の印加によってバルク層を形成する方法によれば、直流電圧の印加のみによってTCO膜を形成する場合に比べて、成膜対象の表面における性状の変化が抑えられることが認められた。
【0069】
[試験例7]
試験例5と同様の成膜対象を準備した。次いで、試験例1と同様の方法によって、成膜対象上にIn膜を形成した。
【0070】
[評価結果]
In膜において、シリコン基板のテクスチャーにおける1つの四角錐の各側面に対応する部分での表面粗さSaを測定した。各部分における表面粗さSaの測定は、試験例5,6の成膜対象における表面粗さSaを測定したときと同様の方法によって行った。1つの四角錐に対応する4つの部分のうち、第1部分の表面粗さSaが2.655nmであり、第2部分の表面粗さSaが2.826nmであり、第3部分の表面粗さSaが2.019nmであり、第4部分の表面粗さSaが2.687nmであることが認められた。すなわち、第3部分が第1表面粗さSaを有する部分であり、第1部分、第2部分、および、第4部分の各々が、第3部分に対して第2表面粗さSaを有する部分であることが認められた。
【0071】
また、試験例7のIn膜について、第2部分における平均粒径と、第3部分における平均粒径とを算出した。この際に、第2部分では、300個の結晶粒について粒径を測定した。一方で、第3部分では、226個の結晶粒について粒径を測定した。第2部分における平均粒径が90.4nmであり、第3部分における平均粒径が168.1nmであることが認められた。すなわち、第2部分が第1平均粒径を有した複数の結晶によって形成された部分であり、第3部分が、第2部分に対して第2平均粒径を有した複数の結晶によって形成された部分であることが認められた。なお、第1部分が有する結晶の平均粒径、および、第4部分が有する結晶の平均粒径は、第2部分が有する結晶の平均粒径にほぼ等しいことも認められた。
【0072】
ところで、平滑な表面を有したガラス基板を準備し、試験例1と同様の方法によって、In膜を形成した。このIn膜を形成する結晶の粒径を確認したところ、試験例7における第2部分と同等の平均粒径を有した部分と、試験例7における第3部分と同等の平均粒径を有した部分とが認められた。そして、このIn膜についてシート抵抗を測定したところ、第2部分と同等の平均粒径を有した部分でのシート抵抗が74.7Ω/□であり、かつ、第3部分と同等の平均粒径を有した部分でのシート抵抗が67.1Ω/□であることが認められた。さらに、In膜において、第2部分と同等の平均粒径を有した部分での電子移動度が68.2cm/Vsであり、かつ、第3部分と同等の平均粒径を有した部分での電子移動度が31.1cm/Vsであることが認められた。こうした結果から、第2平均粒径を有した部分では、第1平均粒径を有した部分に比べて、シート抵抗の値が同等であっても電子移動度が高められるといえる。
【0073】
以上説明したように、透明導電性酸化物膜の形成方法、スパッタ装置、および、太陽電池の一実施形態によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)初期層とバルク層との両方をターゲットに対する直流電圧の印加によって形成する場合に比べて、TCO膜21,22が形成される成膜対象Sの表面における性状の変化を抑えることが可能である。これにより、TCO膜21,22が適用された太陽電池30内部抵抗を下げることが可能である。
【0074】
(2)5nm以上の厚さを有した初期層を形成するため、成膜対象S上に連続膜が形成される確実性が高まる。結果として、成膜対象Sの表面における性状の変化がより確実に抑えられる。また、20nm以下の厚さを有した初期層を形成するため、初期層の形成による効果を得つつ、より厚い初期層を形成する場合に比べて、TCO膜21,22に占めるバルク層の割合を高めることで、TCO膜21,22の形成に要する時間を短くすることが可能である。
【0075】
(3)成膜対象Sの表面が、シリコン層に対するスパッタ粒子の着弾によって性状の変化しやすいアモルファスシリコンによって形成されているため、ターゲットに対する高周波電圧の印加によって初期層を形成することによる効果をより顕著に得ることができる。
【0076】
なお、上述した実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
[TCO膜]
・第1平均粒径は100nmよりも大きくてもよいし、第2平均粒径は100nm未満であってもよい。この場合であっても、TCO膜21,22が、第1平均粒径を有する複数の結晶によって形成された部分と、第2平均粒径を有する複数の結晶によって形成された部分とを含むことによって、TCO膜21,22における電気伝導性を高めることは可能である。
【0077】
・第1平均粒径に対する第2平均粒径の比は、1.5未満であってもよいし、10.0よりも大きくてもよい。この場合であっても、TCO膜21,22が、第1平均粒径を有する複数の結晶によって形成された部分と、第2平均粒径を有する複数の結晶によって形成された部分とを含むことによって、TCO膜21,22膜における電気伝導性を高めることはできる。
【0078】
・TCO膜21,22では、1つの四角錐に対応する4つの部分において、各部分を形成する結晶の平均粒径が互いにほぼ等しくてもよい。この場合であっても、TCO膜21,22が、第1ターゲット11aに対する高周波電圧の印加によって形成された初期層と、第2ターゲット12aに対する直流電圧の印加によって形成されたバルク層とを有することで、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。
【0079】
・第1表面粗さSaは1nmよりも大きくてもよいし、第2表面粗さSaは1nm以下であってもよい。この場合であっても、TCO膜21,22が、第1表面粗さSaを有する部分と、第2表面粗さSaを有する部分とを備えることによって、TCO膜21,22とTCO膜21,22上に積層された層との密着性を高めることは可能である。
【0080】
・第1表面粗さSaに対する第2表面粗さSaの比は、1.3未満であってもよいし、5.0よりも大きくてもよい。この場合であっても、TCO膜21,22が、第1表面粗さSaを有する部分と、第2表面粗さSaを有する部分とを備えることによって、TCO膜21,22とTCO膜21,22上に積層された層との密着性を高めることはできる。
【0081】
・TCO膜21,22では、1つの四角錐に対応する4つの部分において、各部分における表面粗さSaが互いにほぼ等しくてもよい。この場合であっても、TCO膜21,22が、第1ターゲット11aに対する高周波電圧の印加によって形成された初期層と、第2ターゲット12aに対する直流電圧の印加によって形成されたバルク層とを有することで、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。
【0082】
[スパッタ装置]
・スパッタ装置10は、1つのターゲットのみを備え、当該ターゲットに高周波電圧と直流電圧との両方が印加可能に構成されてもよい。この場合には、スパッタ装置10は、真空槽13内において静止した成膜対象Sに対して、初期層を形成した後に、バルク層を形成する。すなわち、スパッタ装置10は、ターゲットに対して高周波電圧の印加した後に、直流電圧を印加する。
【0083】
[太陽電池]
・太陽電池30は、ヘテロ接合型の太陽電池に限らず、他の太陽電池として具体化されてもよい。この場合であっても、太陽電池がTCO膜を備え、かつ、TCO膜が、シリコン層に対してスパッタ法により形成される場合に、TCO膜が初期層とバルク層とを備えることによって、上述した(1)に準じた効果を得ることは可能である。
【0084】
上記実施形態、および、変更例によれば、下記付記に記載の技術的思想が導き出される。
[付記1]
複数の四角錐から形成されるテクスチャーを備えたシリコン層の前記テクスチャー上に、透明導電性酸化物を主成分とするターゲットをスパッタして、前記四角錐の表面に追従した形状を有する透明導電性酸化物膜を形成することを含み、
前記透明導電性酸化物膜は、前記四角錐が有する各側面上に位置する部分を含み、同一の前記四角錐に対応した前記部分は、第1表面粗さSaを有する前記部分と、第2表面粗さSaを有する前記部分とを含み、前記第2表面粗さSaは、前記第1表面粗さSaよりも大きい
透明導電性酸化物膜の形成方法。
【0085】
シリコン層と、シリコン層上に位置する透明導電性酸化物膜を有した太陽電池では、透明導電性酸化物膜上に形成された層が透明導電性酸化物膜から剥がれることを抑えるために、透明導電性酸化物膜と、透明導電性酸化物膜上に形成された層との密着性を高めることが求められている。この点で、上記付記1によれば、同一の四角錐に対応する4つの部分が第1表面粗さSaを有した部分のみから形成される場合に比べて、4つの部分が第2表面粗さSaを有した部分を含む分、透明導電性酸化物膜と透明導電性酸化物膜に積層された層との密着性を高めることが可能である。
【0086】
[付記2]
前記第1表面粗さSa(R1)に対する前記第2表面粗さSa(R2)の比(R2/R1)は、1.3以上5.0以下である
付記1に記載の透明導電性酸化物膜の形成方法。
【0087】
上記付記2によれば、第1表面粗さSaに対する第2表面粗さSaの比が1.3以上であるため、第2表面粗さSaが、透明導電性酸化物膜と透明導電性酸化物膜に積層された層との密着性を高める効果をより確実に得ることが可能である。また、第1表面粗さSaに対する第2表面粗さSaの比が5.0以下であるため、第2表面粗さSaが大きすぎるために第2面上に連続膜が形成されにくくなることが抑えられる。
【0088】
[付記3]
前記第1表面粗さSaは1nm以下であり、前記第2表面粗さSaは1nmよりも大きい
付記1または2に記載の透明導電性酸化物膜の形成方法。
【0089】
上記付記3によれば、第2表面粗さSaが1nmよりも大きいため、第2表面粗さSaが、透明導電性酸化物膜と透明導電性酸化物膜に積層された層との密着性を高める効果をより確実に得ることが可能である。
【0090】
[付記4]
複数の四角錐から形成されるテクスチャーを備えたシリコン層の前記テクスチャー上に、透明導電性酸化物を主成分とするターゲットをスパッタして、前記四角錐の表面に追従した形状を有する透明導電性酸化物膜を形成することを含み、
前記透明導電性酸化物膜は、前記四角錐が有する各側面上に位置する部分を含み、同一の前記四角錐に対応した前記部分は、第1平均粒径を有する複数の結晶によって形成された前記部分と、第2平均粒径を有する複数の結晶によって形成された前記部分とを含み、前記第2平均粒径は、前記第1平均粒径よりも大きい
透明導電性酸化物膜の形成方法。
【0091】
シリコン層と、シリコン層上に位置する透明導電性酸化物膜を有した太陽電池では、太陽電池の電池性能を高めるために、透明導電性酸化物膜における電気伝導性を高めることが求められている。この点で、上記付記4によれば、同一の四角錐に対応する4つの部分が第1平均粒径を有した結晶によって形成された部分のみから形成される場合に比べて、4つの部分が第2平均粒径を有した結晶によって形成された部分を含む分、透明導電性酸化物膜が有する粒界を減らすことが可能である。結果として、4つの部分が第1平均粒径を有した結晶によって形成された部分のみである場合に比べて、透明導電性酸化物膜における電気伝導性を高めることが可能である。
【0092】
[付記5]
前記第1平均粒径(D1)に対する前記第2平均粒径(D2)の比(D2/D1)は、1.3以上10.0以下である
付記4に記載の透明導電性酸化物膜の形成方法。
【0093】
上記付記5によれば、第1平均粒径に対する第2平均粒径の比が1.3以上であるため、第2平均粒径が、透明導電性酸化物膜における電気伝導性を高める効果をより確実に得ることが可能である。また、第1平均粒径に対する第2平均粒径の比が10.0以下であるため、第1平均粒径が第2平均粒径に対して小さすぎることが、透明導電性酸化物膜の面内において粒界を増大させることが抑えられる。これによって、透明導電性酸化物膜における電気伝導性の低下が抑えられる。
【0094】
[付記6]
前記第1平均粒径は100nm未満であり、前記第2平均粒径は100nm以上である
付記5に記載の透明導電性酸化物膜の形成方法。
【0095】
上記付記6によれば、第2平均粒径が100nm以上であるため、第2平均粒径が、透明導電性酸化物膜における電気伝導性を高める効果をより確実に得ることが可能である。
【符号の説明】
【0096】
10…スパッタ装置、11…第1ターゲット装置、11a…第1ターゲット、11b…第1バッキングプレート、11c…高周波電源、12…第2ターゲット装置、12a…第2ターゲット、12b…第2バッキングプレート、12c…直流電源、13…真空槽、14…排気部、15…スパッタガス供給部、21…第1TCO膜、21F,22F,31F,SF…表面、22…第2TCO膜、30…太陽電池、31…シリコン基板、31R,SR…裏面、31T…テクスチャー、32,33…i型シリコン層、34…p型シリコン層、35…n型シリコン層、36…表面電極、37…裏面電極、S…成膜対象。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7