【課題】成膜空間内でのアーク、特に成膜対象の重量を支持する一連の部材の近傍におけるアークを抑えることを可能としたスパッタ用基板支持装置、および、スパッタシステムを提供する。
【解決手段】接地電位に接続されるトレイ21と、トレイ21に支持された状態で基板Sを保持するためのサブトレイ22と、を備える。トレイ21は、サブトレイ22を支持する支持部21Aを含む。支持部21Aは、サブトレイ22を浮遊電位にするための絶縁体である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、透明導電性酸化物膜を形成する際には、ターゲットに高周波電圧を印加することが可能である。ターゲットに高周波電圧を印加した場合には、プラズマに含まれる粒子のうち、電子は高周波電圧の変動に追従することが可能である一方で、正イオンは高周波電圧の変動に追従することができない。そのため、ターゲットに対向しているトレイに対して、プラズマ中の電子が衝突する一方で、正イオンが衝突しない。これによって、トレイにはマイナスの電荷が蓄積し、結果として、トレイとトレイを取り囲む部材との間においてアークが生じる場合がある。あるいは、トレイとトレイに保持すなわち支持された成膜対象との間でアークが生じる場合がある。これら成膜空間において生じるアークは、成膜空間において形成された透明導電性酸化物の薄膜の膜質を低下や、製品不具合による歩留まりの低下を引き起こすため、成膜空間におけるアークを抑えることが求められている。
【0005】
なお、こうした課題は、スパッタ装置において形成される薄膜が、シリコン系太陽電池の電極として用いられる透明導電性酸化膜である場合に限らず、ターゲットに対して高周波電圧が印加されることによって薄膜がトレイに保持された基板に形成される場合に共通する。
【0006】
本発明は、成膜空間内でのアーク、特に成膜対象の重量を支持する一連の部材の近傍におけるアークを抑えることを可能としたスパッタ用基板支持装置、および、スパッタシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためのスパッタ用基板支持装置は、接地電位に接続されるトレイと、前記トレイに支持された状態で基板を保持するためのサブトレイと、を備える。前記トレイは、前記サブトレイを支持する支持部を含み、前記支持部は、前記サブトレイを浮遊電位にするための絶縁体である。
【0008】
上記課題を解決するためのスパッタシステムは、スパッタ用基板支持装置と、高周波電源に接続された第1ターゲットと、直流電源に接続された第2ターゲットと、前記第1ターゲットの被スパッタ面と、前記第2ターゲットの被スパッタ面とが露出する成膜空間を区画する真空槽と、前記スパッタ用基板支持装置に前記真空槽を通過させる搬送部と、を備える。
【0009】
上記構成によれば、接地電位に接続されたトレイに支持されるサブトレイが浮遊電位であることによって、トレイとトレイを取り囲む部材との間でのアーク、および、トレイとトレイに支持される基板との間でのアークが抑えられる。結果として、スパッタ用基板支持装置が位置する成膜空間内でのアークを抑えることが可能である。
【0010】
上記スパッタ用基板支持装置において、前記支持部は、接地電位に接続された前記トレイに対する着脱が可能な絶縁部材であってもよい。
【0011】
スパッタシステムでは、基板に対して成膜処理が行われることによって、基板を支持するサブトレイにも成膜物が堆積する。サブトレイに蓄積した成膜物がサブトレイから脱離した場合には、成膜空間にパーティクルが生じ、結果として、パーティクルによって基板が汚染される場合がある。そのため、成膜物が堆積したサブトレイは、新しいサブトレイへの交換、または、洗浄が可能であることが求められる。この点で、上記構成によれば、サブトレイを支持する支持部がトレイに対する着脱が可能であることによって、支持部とともにサブトレイもトレイに対する着脱が可能になる。これによって、サブトレイの交換や洗浄が可能になる。
【0012】
上記スパッタ用基板支持装置において、前記支持部は、前記サブトレイの厚さ方向において、前記サブトレイの一部を挟む挟持部を有し、前記サブトレイの厚さ方向に沿う断面において、前記挟持部はコ字状を有してもよい。この構成によれば、支持部がサブトレイの一部を挟むことによって、挟持部の一部に対する着膜がサブトレイによって抑えられる。これによって、支持部の絶縁性が担保されやすくなる。
【0013】
上記スパッタ用基板支持装置において、前記サブトレイから離間して前記サブトレイを囲む絶縁体である除電部と、前記除電部に接続されたキャパシタと、を備え、前記除電部は、前記サブトレイに堆積した電荷の一部を前記サブトレイが配置される成膜空間中のプラズマを介して除去してもよい。
【0014】
上記構成によれば、サブトレイに蓄積した電荷の一部が除電部によって除去されるため、接地電位に接続されたトレイとサブトレイとの間におけるアークを抑えることが可能である。これにより、スパッタ用基板支持装置が位置する成膜空間内でのアークを抑える確実性が高まる。
【0015】
上記スパッタ用基板支持装置において、前記第1ターゲットの主成分と前記第2ターゲットの主成分とが、同一の材料であってもよい。この構成によれば、第1ターゲットに対する高周波電圧の印加によって形成された第1部分と、第2ターゲットに対する直流電圧の印加によって形成された第2部分とを有した薄膜を形成することが可能である。
【0016】
上記スパッタ用基板支持装置において、前記第1ターゲットの主成分と前記第2ターゲットの主成分とは、酸化インジウムであってもよい。この構成によれば、酸化インジウム膜の形成において成膜空間でのアークが抑えられるため、アークに起因して酸化インジウム膜の膜質が低下することが抑えられる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1から
図6を参照して、スパッタ用基板支持装置、および、スパッタシステムの一実施形態を説明する。以下では、スパッタシステムの構成、スパッタ用基板支持装置の構成、および、スパッタシステムの作用を順に説明する。
【0019】
[スパッタシステムの構成]
図1を参照してスパッタシステムの構成を説明する。
図1が示すように、スパッタシステム10は、スパッタ用基板支持装置20、第1ターゲット11、第2ターゲット12、真空槽13C、および、搬送部14を備えている。第1ターゲット11は、高周波電源15に接続されている。第2ターゲット12は、直流電源16に接続されている。真空槽13Cは、第1ターゲット11の被スパッタ面11Sと、第2ターゲット12の被スパッタ面12Sとが露出する成膜空間13Sを区画する。搬送部14は、スパッタ用基板支持装置20に真空槽13Cを通過させる。
【0020】
スパッタシステム10は、成膜装置13を備えている。加えて、スパッタシステム10は、搬入装置31、前処理装置32、後処理装置33、および、搬出装置34を備えている。スパッタシステム10において、搬入装置31、前処理装置32、成膜装置13、後処理装置33、および、搬出装置34が、配列方向に沿って記載の順に並んでいる。スパッタシステム10は、2つのゲートバルブ35を備えている。2つのゲートバルブ35のうち、一方のゲートバルブ35が搬入装置31と前処理装置32との間に位置し、他方のゲートバルブ35が後処理装置33と搬出装置34との間に位置している。
【0021】
搬送部14は、搬入装置31から搬出装置34までにわたって配列方向に沿って延びている。搬送部14は、スパッタ用基板支持装置20に接した状態で、スパッタ用基板支持装置20を配列方向に沿って搬送する。搬送部14は、同一のタイミングにおいて、1つのスパッタ用基板支持装置20のみを搬送してもよいし、複数のスパッタ用基板支持装置20を搬送してもよい。搬送部14は、スパッタ用基板支持装置20が支持する基板をほぼ鉛直方向に沿う平面に位置させた状態で、スパッタ用基板支持装置20を搬送する。本実施形態では、搬送部14は、例えば、配列方向に沿って延びる支持部と、支持部上に位置する複数のローラーとを含んでいる。
【0022】
成膜装置13は、第1カソードC1と第2カソードC2とを備えている。第1カソードC1は、第1ターゲット11を含んでいる。第1カソードC1は、第1ターゲット11に加えて、例えば、第1ターゲット11に接続されるバッキングプレート、および、被スパッタ面11Sに漏洩磁場を形成する磁気回路を含んでいる。第2カソードC2は、第2ターゲット12を含んでいる。第2カソードC2は、第2ターゲット12に加えて、例えば、第2ターゲット12に接続されるバッキングプレート、および、被スパッタ面12Sに漏洩磁場を形成する磁気回路を含んでいる。
【0023】
高周波電源15は、第1ターゲット11に接続されるバッキングプレートを介して第1ターゲット11に高周波電圧を印加する。直流電源16は、第2ターゲット12に接続されるバッキングプレートを介して第2ターゲット12に直流電圧を印加する。本実施形態では、高周波電源15が第1ターゲット11に印加する電圧の大きさは、直流電源16が第2ターゲット12に印加する電圧と異なっている。本実施形態では、例えば、高周波電源15が第1ターゲット11に印加する電圧が、直流電源16が第2ターゲット12に印加する電圧よりも低い。なお、高周波電源15が第1ターゲット11に印加する電圧の大きさは、直流電源16が第2ターゲット12に印加する電圧の大きさと同一であってもよい。
【0024】
成膜装置13には、第1ターゲット11と第2ターゲット12とが配置され、かつ、第1ターゲット11に印加される電圧の大きさと、第2ターゲット12に印加される電圧の大きさとが互いに異なっている。そのため、スパッタ用基板支持装置20が成膜装置13を通過する際には、第1ターゲット11の近傍に形成されたプラズマに由来する電子と、第2ターゲット12の近傍に形成されたプラズマに起因する電子とが同時に到達するタイミングが生じる。上述したように、2つのターゲット11,12に印加される電圧の大きさが互いに異なるため、電圧の大きさが異なることに起因して、スパッタ用基板支持装置20には、相対的に多くの電子が衝突する部分と、相対的に少ない電子が衝突する部分とが生じる。これにより、スパッタ用基板支持装置20には、蓄積された電荷の量が互いに異なる部分が生じ、結果として、アークが生じやすくなる。
【0025】
第1ターゲット11の主成分と第2ターゲット12の主成分とは、同一の材料であってもよい。これによれば、第1ターゲット11に対する高周波電圧の印加によって形成された第1部分と、第2ターゲット12に対する直流電圧の印加によって形成された第2部分とを有した薄膜を形成することが可能である。
【0026】
当該材料は、酸化スズをドープした酸化インジウム(ITO)であってよい。これにより、ITO膜の形成において成膜空間13Sでのアークが抑えられるため、アークに起因してITO膜の膜質が低下することが抑えられる。本実施形態では、例えば、各ターゲット11,12が、90質量%以上のITOを含んでいる。この場合には、スパッタシステム10は、例えば、シリコン系太陽電池が備える電極を形成するために用いられる。
【0027】
ITO膜のなかで基板に接する第1部分を第1ターゲット11に対する高周波電圧の印加によって形成することによって、第1部分をターゲットに対する直流電圧の印加によって形成する場合に比べて、基板にスパッタ粒子が着弾することに起因して基板の表面における性状が変化することが抑えられる。また、第2部分を第2ターゲット12に対する直流電圧の印加によって形成することによって、ITO膜の全体をターゲットに対する高周波電圧の印加によって形成する場合に比べて、所定の厚さを有したITO膜の形成に要する時間を短くすることが可能である。
【0028】
なお、第1ターゲット11の主成分および第2ターゲット12の主成分は、ITO以外の材料であってもよい。例えば、各ターゲット11,12の主成分は、ITO以外の導電性金属酸化物(TCO)であってもよいし、銅やアルミニウムなどの金属であってもよい。また、第1ターゲット11の主成分と、第2ターゲット12の主成分とは互いに異なる材料でもよい。
【0029】
スパッタシステム10は、各処理装置13,31,32,33,34に接続された排気部13V,31V,32V,33V,34Vを備えている。各排気部13V,32V,33V,34Vは、その排気部13V,32V,33V,34Vが接続された処理装置13,31,32,33,34内を減圧する。
【0030】
成膜装置13には、真空槽13Cが区画する成膜空間13S内にスパッタガスを供給するガス供給部13Gが接続されている。ガス供給部13Gは、成膜空間13S内にプラズマを生成するためのスパッタガスを供給する。スパッタガスは、例えば希ガスである。なお、ガス供給部13Gは、成膜空間13S内において反応性スパッタを行うための反応性ガスをスパッタガスとともに成膜空間13S内に供給してもよい。
【0031】
搬入装置31は、成膜前の基板をスパッタ用基板支持装置20とともにスパッタシステム10内に搬入する。前処理装置32は、成膜前の基板に対して所定の処理を行う。前処理装置32は、例えば、成膜前の基板を加熱することによって基板から所定のガスを放出させる脱ガス処理を行う装置であってよい。後処理装置33は、成膜後の基板に対して所定の処理を行う。搬出装置34は、成膜後の基板をスパッタ用基板支持装置20とともにスパッタシステム10外に搬出する。なお、前処理装置32、および、後処理装置33は、基板に対して所定の処理を行う装置でなくてもよく、スパッタ用基板支持装置20を基板とともに通過させる装置でもよい。また、スパッタシステム10は、前処理装置32および後処理装置33を備えなくてもよい。
【0032】
[スパッタ用基板支持装置の構成]
図2および
図3を参照して、スパッタ用基板支持装置20の構成を説明する。
図2は、スパッタ用基板支持装置20が広がる平面と対向する方向から見たスパッタ用基板支持装置20の平面構造を、スパッタ用基板支持装置20の側面構造とともに示している。なお、
図2には、説明の便宜上、搬送部14が備えるローラーおよび支持部が、スパッタ用基板支持装置20とともに図示されている。また、
図2では、サブトレイが保持する基板の位置をわかりやすくする便宜上、基板にハッチングが付されている。また、
図2では、サブトレイの形状を説明する便宜上、サブトレイの一部にのみ基板が図示されている。
【0033】
図2が示すように、スパッタ用基板支持装置20は、トレイ21とサブトレイ22とを備えている。トレイ21は、接地電位に接続される。サブトレイ22は、トレイ21に支持された状態で基板Sを保持するための部材である。トレイ21は、サブトレイ22を支持する支持部21Aを含んでいる。支持部21Aは、サブトレイ22を浮遊電位にするための絶縁体である。なお、トレイ21およびサブトレイ22が、成膜対象である基板Sの重量を支持する一連の部材である。
【0034】
スパッタ用基板支持装置20によれば、接地電位に接続されたトレイ21に支持されるサブトレイ22が浮遊電位であることによって、トレイ21とトレイ21を取り囲む部材との間でのアーク、および、トレイ21とトレイ21に支持される基板Sとの間でのアークが抑えられる。結果として、スパッタ用基板支持装置20が位置する成膜空間13S内でのアークを抑えることが可能である。
【0035】
トレイ21は、本体部21Bを備えている。本体部21Bは、金属製の板部材である。本体部21Bは、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、および、チタンなどによって形成される。成膜空間13S内において、本体部21Bは、鉛直方向における両端部において、本体部21Bを支持する部材に接している。上述した搬送部14は、複数のローラー14Rと、ローラー14Rが回転可能な状態でローラー14Rを支持する支持部14Sとを備えている。例えば、ローラー14Rと支持部14Sとは金属製であり、かつ、支持部14Sは、接地電位に接続された真空槽13Cに接続されている。本体部21Bは、鉛直方向での下端において、ローラー14Rに接し、これによってトレイ21は接地電位に接続されている。なお、本体部21Bは、鉛直方向の上端において、上述した配列方向に沿う移動が可能な状態で支持部に支持されてもよい。
【0036】
本実施形態において、サブトレイ22は、トレイ21が広がる平面と対向する方向から見て、複数の貫通孔22Aを取り囲む正方格子状を有している。サブトレイ22は、複数の貫通孔22Aを取り囲む正方格子状を有したリブ22Rを備えている。各貫通孔22Aは、リブ22Rの一部によって全周を取り囲まれている。サブトレイ22には、1つの貫通孔22Aを1つの基板Sによって覆うように基板Sが配置される。リブ22Rの厚さは、サブトレイ22に配置される基板Sの厚さよりも厚い。そのため、リブ22Rは、サブトレイ22に配置された各基板Sが、その基板Sが隣り合う基板Sに接することを抑える。
【0037】
このように、サブトレイ22は、一度に複数の基板Sを支持することが可能である。しかしながら、サブトレイ22は、一度に1つの基板Sのみを支持することが可能な形状および大きさを有してもよい。
【0038】
サブトレイ22は、トレイ21の本体部21Bと同様、金属製である。サブトレイ22は、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、および、チタンなどによって形成される。サブトレイ22を形成する材料は、トレイ21を形成する材料と同じであってもよいし、トレイ21を形成する材料と異なってもよい。
【0039】
トレイ21は、複数の支持部21Aを備えている。トレイ21が広がる平面と対向する方向から見て、複数の支持部21Aは、サブトレイ22によって囲まれる領域内に分散して配置されている。また、サブトレイ22の四隅の各々には、支持部21Aが1つずつ配置されている。上述したように、支持部21Aは絶縁体である。支持部21Aは、例えば、セラミックス、および、合成樹脂などによって形成される。セラミックスは、例えば、アルミナ(Al
2O
3)、および、ジルコニア(ZrO
2)などであってよい。合成樹脂は、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、および、ポリイミドなどであってよい。
【0040】
支持部21Aを形成する材料の体積固有抵抗(体積抵抗率)は、本体部21Bを形成する材料の体積固有抵抗、および、サブトレイ22を形成する材料の体積固有抵抗よりも高い。先に例示した材料での体積固有抵抗は、アルミナにおいて1×10
14Ω・cm以上であり、ジルコニアにおいて1×10
12Ω・cm以上である。また、体積固有抵抗は、PEEKにおいて4.9×10
16Ω・cmであり、PTFEにおいて1×10
18Ω・cm以上であり、PPSにおいて1×10
16Ω・cmであり、ポリイミドにおいて1×10
13Ω・cmである。
【0041】
なお、本体部21Bを形成する材料、および、サブトレイ22を形成する材料として先に例示した材料での体積固有抵抗は、以下に列挙する通りである。体積固有抵抗は、アルミニウムにおいて2.8×10
−6Ω・cmであり、ステンレス鋼の一例であるSUS304において72×10
−6Ω・cmであり、チタンにおいて53×10
−6Ω・cmである。このように、トレイ21を形成する材料での体積固有抵抗、および、サブトレイ22を形成する材料での体積固有抵抗は、支持部21Aを形成する材料での体積固有抵抗よりも大幅に小さい。
【0042】
上述したように、スパッタ用基板支持装置20は、シリコン系太陽電池が備える透明電極を形成するためのスパッタシステム10に適用されることがある。この場合には、サブトレイ22に配置される基板Sは、結晶化したシリコン層、および、アモルファス状のシリコン層の少なくとも一方を含む。シリコン層の体積固有抵抗は、1Ω・cm以上10Ω・cm以下である。シリコン層の体積固有抵抗は、本体部21Bを形成する材料での体積固有抵抗、および、サブトレイ22を形成する材料での体積固有抵抗よりも大幅に高い。
【0043】
支持部21Aの形成に用いられる材料での耐電圧(絶縁耐力)は、アルミナにおいて14kV/mmであり、ジルコニアにおいて11kV/mmである。また、耐電圧は、PEEKにおいて19kV/mmであり、PTFEにおいて19kV/mmであり、PPSにおいて12kV/mmであり、ポリイミドにおいて22kV/mmである。
【0044】
スパッタ用基板支持装置20は、除電部23をさらに備えている。除電部23は、トレイ21が広がる平面と対向する方向から見て、サブトレイ22を取り囲む枠状を有している。除電部23は、サブトレイ22から離間している。除電部23は、絶縁体である。除電部23を形成する材料は、支持部21Aを形成することが可能な材料であってよい。すなわち、除電部23は、例えば、セラミックス、および、合成樹脂などによって形成される。セラミックスは、例えば、アルミナ、および、ジルコニアなどであってよい。合成樹脂は、例えば、PEEK、PTFE、PPS、および、ポリイミドなどであってよい。除電部23を形成する材料は、支持部21Aを形成する材料と同じであってもよいし、支持部21Aを形成する材料と異なってもよい。
【0045】
除電部23はキャパシタCに接続されている。キャパシタCは、除電部23に配置され、これによって除電部23とともにスパッタ用基板支持装置20の一部としてスパッタシステム10内を移動可能であってもよい。あるいは、キャパシタCはスパッタシステム10の内部または外部に固定され、かつ、除電部23に接続されていてもよい。なお、除電部23は、サブトレイ22と同様、図示されない支持部によって、トレイ21に支持されている。除電部23を支持する支持部も、トレイ21が備えている。これにより、除電部23は、除電部23の厚さ方向において、トレイ21から離間している。除電部23を支持する支持部は、サブトレイ22を支持する支持部21A、および、除電部23と同等の絶縁性を有している。
【0046】
基板Sに対する成膜処理が行われている間、スパッタ用基板支持装置20は、スパッタガスから生成されたプラズマに曝される。プラズマは、正イオンおよび電子を含んでいる。第2ターゲット12には高周波電圧が印加されているため、高周波電圧の変動に追従可能な大きさを有する電子は、高周波電圧の変動に応じてスパッタ用基板支持装置20に衝突する。一方で、正イオンは、高周波電圧の変動に追従可能な大きさを有しない。そのため、スパッタ用基板支持装置20には、マイナスの電荷が蓄積する。
【0047】
スパッタ用基板支持装置20のなかで、除電部23はキャパシタCに接続されているため、除電部23は、除電部23に蓄積した電荷をキャパシタCに逃がすことが可能である。これにより、サブトレイ22と除電部23との間には電位差が生じるため、サブトレイ22に蓄積した電荷がプラズマを通じて除電部23に逃がされる。すなわち、除電部23は、サブトレイ22に蓄積した電荷の一部をサブトレイ22が配置される成膜空間13S中のプラズマを介して除去することが可能である。このように、サブトレイ22を取り囲む除電部23によれば、サブトレイ22に蓄積した電荷が除電部23を通じてキャパシタCに逃がされることによって、サブトレイ22とトレイ21との間においてアークが生じることがより抑えられる。
【0048】
図3は、スパッタ用基板支持装置20のなかで、1つの支持部21Aを含む部分の断面構造を示している。
図3は、
図2のIII‐III線に沿う断面構造を示している。
図3が示すように、本体部21Bは、貫通孔21B1を有している。貫通孔21B1は、本体部21Bの厚さ方向に沿って本体部21Bを貫通している。貫通孔21B1は、サブトレイ22をトレイ21に取り付けるために用いられる。サブトレイ22は、貫通孔22Bを有している。貫通孔22Bは、サブトレイ22の厚さ方向に沿ってサブトレイ22を貫通している。貫通孔22Bは、サブトレイ22をトレイ21に取り付けるために用いられる。サブトレイ22がトレイ21に取り付けられた場合に、サブトレイ22の厚さ方向から見て、サブトレイ22の貫通孔22Bと、トレイ21の貫通孔21B1とが重なっている。
【0049】
支持部21Aは、接地電位に接続されたトレイ21に対する着脱が可能な絶縁部材である。スパッタシステム10では、基板Sに対して成膜処理が行われることによって、基板Sを支持するサブトレイ22にも成膜物が堆積する。サブトレイ22に蓄積した成膜物がサブトレイ22から脱離した場合には、成膜空間13Sにパーティクルが生じ、結果として、パーティクルによって基板Sが汚染される場合がある。そのため、成膜物が堆積したサブトレイ22は、新しいサブトレイ22への交換、または、洗浄が可能であることが求められる。この点で、サブトレイ22を支持する支持部21Aがトレイ21に対する着脱が可能であることによって、支持部21Aとともにサブトレイ22もトレイ21に対する着脱が可能になる。これによって、サブトレイ22の交換や洗浄が可能になる。
【0050】
本実施形態では、支持部21Aは、固定リング21A1と固定ピン21A2とを備えている。固定リング21A1は、トレイ21の厚さ方向において、トレイ21とサブトレイ22との間に位置するように、本体部21Bに固定される。固定リング21A1は、トレイ21の厚さ方向から見て、本体部21Bの貫通孔21B1と固定リング21A1の孔とが重なるように、本体部21Bに固定される。トレイ21の厚さ方向から見て、固定リング21A1は、サブトレイ22に向けて本体部21Bよりも突き出ている。
【0051】
サブトレイ22は、サブトレイ22の貫通孔22Bが固定リング21A1上に位置するように、トレイ21に重ねられる。上述したように、固定リング21A1は、サブトレイ22に向けて本体部21Bよりも突き出ているため、固定リング21A1が突き出た距離Dの分だけ、サブトレイ22の厚さ方向から見て、サブトレイ22は本体部21Bから離間する。サブトレイ22の厚さ方向から見て、本体部21Bとサブトレイ22との間の距離Dは、例えば2ミリである。この距離Dは、パッシェンの法則に基づいて決めることができる。
【0052】
固定リング21A1と固定ピン21A2とは、サブトレイ22の厚さ方向において、サブトレイ22の一部を挟む挟持部を構成している。サブトレイ22の厚さ方向に沿う断面において、挟持部はコ字状を有している。
【0053】
固定ピン21A2は、サブトレイ22の厚さ方向から見て、サブトレイ22の貫通孔22B、および、当該貫通孔21B1に重なる固定リング21A1の孔に通される。これにより、固定ピン21A2は、その固定ピン21A2が通された固定リング21A1とともに、サブトレイ22をトレイ21に固定する。なお、支持部21Aをトレイ21から取り外す場合には、まず、固定リング21A1に固定された固定ピン21A2を取り外す。次いで、トレイ21からサブトレイ22を取り外した後に、固定リング21A1をトレイ21から取り外す。
【0054】
固定リング21A1が本体部21Bより突き出ているため、固定リング21A1が本体部21Bから突き出た距離は空間距離として、電気的絶縁をもたらしている。ここで、固定リング21A1におけるサブトレイ22から本体部21Bに至る表面、特に最短距離となる表面経路については、沿面距離と呼ばれる電気的絶縁機能をも果たしている。つまり空間距離と沿面距離の双方が確保されてサブトレイ22と本体部21Bは求める絶縁性能を得られる。
【0055】
しかし、スパッタ粒子に晒される成膜装置13においては、成膜空間13Sに露出した部分が成膜されてしまうことから、固定リング21A1におけるサブトレイ22から本体部21Bに至る表面、つまり沿面距離を成す部分についても成膜される場合がある。この膜が導電性であれば、当然絶縁性能は成膜されるに応じて劣化し、最終的には沿面放電により絶縁破壊、つまりアークが発生する。
【0056】
そこで、固定ピン21A2と固定リング21A1とは、サブトレイ22の厚さ方向においてサブトレイ22の一部を挟み込む構造を有する。そのため、本体部21Bとの距離を保ち、かつ、固定ピン21A2によって挟まれた構造物、すなわちサブトレイ22の一部は、同時にスパッタ粒子が固定リング21A1の沿面部に着弾することを阻害する機能を兼ねている。これにより、サブトレイ22の一部は、沿面部への汚染、すなわちスパッタ粒子の着弾による着膜現象を防ぐため、絶縁性能が劣化しない機能を果たす。
【0057】
本実施形態では、上部投影視において固定ピン21A2と固定リング21A1は同一となる、具体的には同一円形形状を有しているが、上記機能を果たすのであれば特にその形状に制限はない。これらの形状は、スパッタ粒子の飛行指向性などに従って設計することが可能である。なお、支持部21Aに汎用性を持たせたい場合や、スパッタ粒子が散乱して飛行する場合などであれば、支持部21Aが、固定ピン21A2の上部投影視が固定リング21A1の投影視よりも大きい形状を有することが好ましい。
【0058】
このように、サブトレイ22は、絶縁部材である支持部21Aによって、本体部21Bから離間した状態でトレイ21に固定される。そのため、トレイ21は接地電位に接続される一方で、サブトレイ22は浮遊電位である。
【0059】
[スパッタシステムの作用]
図4から
図6を参照して、スパッタシステム10の作用を説明する。
図4が示すように、スパッタ用基板支持装置20では、接地電位に接続されたトレイ21によって、浮遊電位のサブトレイ22が支持されている。スパッタ用基板支持装置20が成膜空間13S内に配置されている間において、プラズマP中の正イオンIは、第2ターゲット12に印加される高周波電圧の変動に追従することができない。そのため、正イオンIは、サブトレイ22に到達しにくい。一方で、プラズマP中の電子Eは、第2ターゲット12に印加される高周波電圧の変動に追従し、これによって、電子Eがサブトレイ22に到達する。そのため、サブトレイ22には、電子Eに起因するマイナスの電荷が蓄積する。
【0060】
しかしながら、サブトレイ22は、サブトレイ22の近傍に位置し、かつ、接地電位に接続されたトレイ21に支持されている。これによって、サブトレイ22に蓄積したマイナスの電荷は、スパッタ用基板支持装置20の近傍に位置し、かつ、接地電位に接続された真空槽13Cと、トレイ21との双方に逃がされる。結果として、サブトレイ22がトレイ21によって支持されない場合に比べて、スパッタ用基板支持装置20に蓄積したマイナスの電荷が、真空槽13Cに対して集中することによって、アークが生じることが抑えられる。なお、スパッタ用基板支持装置20に蓄積した電荷が逃がされる部材として真空槽13Cを例示したが、電荷が逃がされる部材は、スパッタ用基板支持装置20の近傍に位置し、かつ、接地電位に接続された部材であって、真空槽13C以外の部材である場合もある。
【0061】
これに対して、
図5が示す例では、トレイTがキャパシタCに接続され、トレイTが浮遊電位である。基板Sは、トレイTに支持されている。この場合には、プラズマP中の正イオンIは、上述したようにトレイTに到達しにくい。一方で、トレイTには、電子Eに起因するマイナスの電荷が蓄積する。結果として、トレイTとトレイTの周りに位置する真空槽13Cとの間において、アークARが生じてしまう。
【0062】
また、
図6が示す例では、トレイTが接地電位に接続されている。基板Sは、トレイTに支持されている。この場合には、トレイTに到達した電子Eに起因するマイナスの電荷は、トレイTが接地電位に接続されていることによって除電される。そのため、トレイTと真空槽13Cとの間におけるアークは抑えられる。一方で、トレイTに支持された基板Sは、トレイTよりも高い抵抗を有するため、基板Sには、基板Sに到達した電子Eに起因するマイナスの電荷が蓄積する。結果として、トレイTと基板Sとの間において、アークARが生じてしまう。
【0063】
以上説明したように、スパッタ用基板支持装置、および、スパッタシステムの一実施形態によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)接地電位に接続されたトレイ21に支持されるサブトレイ22が浮遊電位であることによって、トレイ21とトレイ21を取り囲む部材との間でのアーク、および、トレイ21とトレイ21に支持される基板Sとの間でのアークが抑えられる。結果として、スパッタ用基板支持装置20が位置する成膜空間13S内でのアークを抑えることが可能である。
【0064】
(2)サブトレイ22を支持する支持部21Aがトレイ21に対する着脱が可能であることによって、支持部21Aとともにサブトレイ22もトレイ21に対する着脱が可能になる。これによって、サブトレイ22の交換や洗浄が可能になる。
【0065】
(3)支持部21Aがサブトレイ22の一部を挟むことによって、挟持部の一部に対する着膜がサブトレイ22によって抑えられる。これによって、支持部21Aの絶縁性が担保されやすくなる。
【0066】
(4)サブトレイ22に蓄積した電荷の一部が除電部23によって除去されるため、接地電位に接続されたトレイ21とサブトレイ22との間におけるアークを抑えることが可能である。これにより、スパッタ用基板支持装置20が位置する成膜空間13S内でのアークを抑える確実性が高まる。
【0067】
(5)第1ターゲット11に対する高周波電圧の印加によって形成された第1部分と、第2ターゲット12に対する直流電圧の印加によって形成された第2部分とを有した薄膜を形成することが可能である。
【0068】
(6)ITO膜の形成において成膜空間13Sでのアークが抑えられるため、アークに起因して酸化インジウム膜の膜質が低下することが抑えられる。
【0069】
なお、上述した実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
[処理装置]
・スパッタシステム10は、搬入装置31および搬出装置34の機能を有した1つの搬出入装置を備えてもよい。この場合には、搬送部14は、搬出入装置から成膜装置13にスパッタ用基板支持装置20を搬送することと、成膜装置13から搬出入装置にスパッタ用基板支持装置20を搬送することとが可能であればよい。
【0070】
[除電部]
・スパッタ用基板支持装置20は、除電部23を備えなくてもよい。この場合であっても、スパッタ用基板支持装置20が、トレイ21とサブトレイ22とを備え、トレイ21が有する支持部21Aによってサブトレイ22が支持されていれば、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。
【0071】
[支持部]
・トレイ21に対する支持部21Aの取り付けが可能である一方で、トレイ21からの支持部21Aの取り外しができなくてもよい。この場合であっても、サブトレイ22はトレイ21が有する支持部21Aによって支持されることから、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。
【0072】
・支持部21Aは、固定リング21A1と固定ピン21A2とを備える構成に限らない。支持部21Aは、例えば、サブトレイ22の縁を支持する枠状を有してもよい。この場合には、支持部21Aは、本体部21Bとサブトレイ22との間に位置して、サブトレイ22の縁を支持する。また、支持部21Aは、例えば、本体部21Bとサブトレイ22との間に位置する板部材であってもよい。いずれの場合であっても、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。