特開2020-204070(P2020-204070A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アルバックの特許一覧
<>
  • 特開2020204070-真空蒸着装置 図000003
  • 特開2020204070-真空蒸着装置 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-204070(P2020-204070A)
(43)【公開日】2020年12月24日
(54)【発明の名称】真空蒸着装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20201127BHJP
   C23C 14/54 20060101ALI20201127BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20201127BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20201127BHJP
【FI】
   C23C14/24 U
   C23C14/54 A
   C23C14/24 B
   H05B33/14 A
   H05B33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-111992(P2019-111992)
(22)【出願日】2019年6月17日
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】北沢 僚也
【テーマコード(参考)】
3K107
4K029
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC45
3K107GG04
3K107GG28
3K107GG32
4K029AA09
4K029AA24
4K029BA62
4K029BD01
4K029CA01
4K029DB06
4K029DB11
4K029DB14
4K029DB17
4K029EA02
4K029EA03
(57)【要約】
【課題】蒸着材料を適切な昇温プロファイルで加熱して蒸着できる真空蒸着装置を提供する。
【解決手段】真空蒸着装置DMは、収容箱Dsと加熱手段43a,43bとを備える真空チャンバ1と同一または他の真空チャンバ内に配置される基準収容箱Bsを有し、真空雰囲気中で空の基準収容箱と蒸着材料Omを充填した収容箱とを所定の昇温速度で夫々加熱したときの温度差を測定する温度差測定手段47a,47bと、昇華または気化に伴う蒸着材料の重量変化を測定する熱重量測定手段46とを備える。蒸着材料が昇華または気化を開始するまでの間、温度差測定手段で測定した温度差を基に基準収容箱と収容箱とを夫々加熱する加熱手段が制御され、熱重量測定手段で測定した重量変化で蒸着材料の昇華または気化を特定し、その後は、蒸着レートから定まる単位時間当たりの重量変化量を基に、収容箱を加熱する加熱手段が制御される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内に配置されて固体の蒸着材料を収容する収容箱と、この収容箱内の蒸着材料を加熱する加熱手段とを備え、真空雰囲気の真空チャンバ内で、収容箱の蒸着材料を加熱してこの蒸着材料を昇華または気化させ、この昇華または気化した蒸着材料を収容箱の放出開口から放出させて真空チャンバ内に存する被蒸着物に対して予め設定される蒸着レートで蒸着する真空蒸着装置において、
真空雰囲気中にて、加熱手段により蒸着材料を充填した収容箱を所定の昇温速度で加熱したときの温度を、同等の真空雰囲気中にて空の基準収容箱を同等の昇温速度で加熱したときの温度と比較してその温度差を測定する温度差測定手段と、収容箱内での蒸着材料の昇華または気化に伴う蒸着材料の重量変化を測定する熱重量測定手段とを更に備え、
収容箱内の蒸着材料が昇華または気化を開始するまでの間、温度差測定手段で測定した温度差を基に、収容箱を加熱する加熱手段が制御され、
熱重量測定手段で測定した重量変化で収容箱内での蒸着材料の昇華または気化を特定し、その後は、蒸着レートから定まる単位時間当たりの重量変化量を基に、収容箱を加熱する加熱手段が制御されるように構成したことを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項2】
前記収容箱内の蒸着材料が気化を開始するまでの間、前記温度差測定手段で測定した温度差に加えて、前記熱重量測定手段で測定した重量変化を基に前記加熱手段が制御されるように構成したことを特徴とする請求項1記載の真空蒸着装置。
【請求項3】
前記真空チャンバが真空計を更に備え、前記収容箱内の前記蒸着材料が昇華または気化を開始するまでの間、この真空計で測定した圧力を基に、前記基準収容箱と前記収容箱とを夫々加熱する加熱手段が制御されるように構成したことを特徴とする請求項1または請求項2記載の真空蒸着装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の真空蒸着装置であって、前記加熱手段が、蒸着材料が充填された収容箱の部分を加熱する第1の加熱手段と、収容箱の放出開口を加熱する第2の加熱手段とを有するものにおいて、
被蒸着物に対する蒸着を停止する場合、熱重量測定手段で測定した単位時間当たりの重量変化量を基に、第1の加熱手段を制御して収容箱を所定の降温速度で降温させ、この重量変化量が所定値に達すると、第1及び第2の各加熱手段が停止されるように構成したことを特徴とする真空蒸着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着装置に関し、より詳しくは、適切な昇温プロファイルで蒸着材料を加熱し、蒸着材料を安定して気化または昇華させて蒸着できるようにしたものに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば有機EL素子の製造工程においては、真空雰囲気中にて、被蒸着物としてのガラス基板などの基板表面に、有機材料を昇華または気化させて所定の薄膜を蒸着する工程があり、この蒸着工程には真空蒸着装置が広く利用されている(例えば、特許文献1参照)。このような真空蒸着装置は、真空チャンバを備え、その上部空間を基板が一方向に所定速度で移動するようになっている。そして、基板の移動方向をX軸方向、X軸方向に直交する基板の幅方向をY軸方向として、X軸方向に移動する基板に対向させて真空チャンバの下部には蒸着源が設けられている。
【0003】
蒸着源は、固体(例えば、粉末状)の蒸着材料(有機材料)を収容する収容箱を有し、基板に対向する収容箱の上面には、その外方に突出させて、昇華または気化した蒸着材料を放出する筒状の放出開口(噴射ノズル)がY軸方向に間隔を存して複数本列設されている(所謂リニアソース)。そして、真空雰囲気の真空チャンバ内で、収容箱に組み付けたシースヒータやハロゲンヒータ等の加熱手段で収容箱を加熱することで、収容箱からの伝熱やその壁面からの輻射熱で蒸着材料を加熱して昇華または気化させ、この昇華または気化した蒸着材料を各放出開口から所定の余弦則に従い放出させ、蒸着源に対してX軸方向に相対移動する基板に付着、堆積させることで所定の薄膜が蒸着される。
【0004】
ところで、有機EL素子は、液晶表示素子と比較して視認性や省電力化に優れるなどの利点があることから、日々改良が進められており、これに伴って新規な有機材料も次々と開発されている。このような新規な有機材料を上記従来例の真空蒸着装置を用いて蒸着する場合、その分解温度や気化温度または昇華温度が不明な場合が多く、そもそも固相から液相を経て気相に転移する気化性の有機材料か、または、固相から気相へ転移する昇華性の有機材料かが不明な場合がある。このとき、加熱開始から、所定の蒸着レートで基板表面に蒸着できる状態までの間の蒸着材料の昇温過程にて、必要以上の熱が蒸着材料に加えられると、蒸着材料が昇華性の有機材料であるような場合には、例えば収容箱内にて有機材料が分解または熱劣化して、素子の性能を決める所望の膜質を持つ薄膜を蒸着できないといった不具合が生じる。他方で、気化性の有機材料であるような場合には、例えば突沸が発生して蒸着材料が無駄に消費され、または、溶解むらが生じて蒸着レートが不安定になるといった不具合が生じる。
【0005】
従来では、作業者の経験を基に、収容箱に対する加熱温度を段階的かつ徐々に高め、真空チャンバ内に設けた膜厚モニタの測定結果で蒸着材料の昇華または気化を推測(特定)し、その後は、膜厚モニタの測定結果を基に、所定の蒸着レートが得られるように加熱手段により加熱温度を制御していた。このため、昇温過程にて適切な昇温プロファイルで蒸着材料を加熱するのに多大な労力と時間を要していた。このことから、次々と開発される有機材料を適切な昇温プロファイルで加熱し、蒸着材料を安定して気化または昇華させて蒸着できる真空蒸着装置の早期の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−77193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、蒸着材料を適切な昇温プロファイルで加熱して蒸着できる構成を有する真空蒸着装置を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、真空チャンバ内に配置されて固体の蒸着材料を収容する収容箱と、この収容箱内の蒸着材料を加熱する加熱手段とを備え、真空雰囲気の真空チャンバ内で、収容箱の蒸着材料を加熱してこの蒸着材料を昇華または気化させ、この昇華または気化した蒸着材料を収容箱の放出開口から放出させて真空チャンバ内に存する被蒸着物に対して予め設定される蒸着レートで蒸着する真空蒸着装置において、真空雰囲気中にて、加熱手段により蒸着材料を充填した収容箱を所定の昇温速度で加熱したときの温度を、同等の真空雰囲気中にて空の基準収容箱を同等の昇温速度で加熱したときの温度と比較してその温度差を測定する温度差測定手段と、収容箱内での蒸着材料の昇華または気化に伴う蒸着材料の重量変化を測定する熱重量測定手段とを更に備え、収容箱内の蒸着材料が昇華または気化を開始するまでの間、温度差測定手段で測定した温度差を基に、収容箱を加熱する加熱手段が制御され、熱重量測定手段で測定した重量変化で収容箱内での蒸着材料の昇華または気化を特定し、その後は、蒸着レートから定まる単位時間当たりの重量変化量を基に、収容箱を加熱する加熱手段が制御されるように構成したことを特徴とする。この場合、前記収容箱内の蒸着材料が気化を開始するまでの間、前記温度差測定手段で測定した温度差に加えて、前記熱重量測定手段で測定した重量変化を基に前記加熱手段が制御される構成を採用してもよい。
【0009】
また、本発明においては、前記真空チャンバが真空計を更に備え、前記収容箱内の前記蒸着材料が昇華または気化を開始するまでの間、この真空計で測定した圧力を基に、前記基準収容箱と前記収容箱とを夫々加熱する加熱手段が制御される構成を採用してもよい。
【0010】
以上によれば、真空チャンバ内に収容箱に加えてこれと同一構造の基準収容箱が配置される場合を例に説明すると(このとき、基準収容箱は、蒸着時に昇華または気化した蒸着材料が付着しないように真空チャンバ内に設置されるが、別の真空チャンバに配置することもできる)、先ず、大気雰囲気の真空チャンバ内にて収容箱内に被蒸着物表面に蒸着しようとする蒸着材料を所定の充填率で充填する。一方、基準収容箱には蒸着材料を充填せずに、空の状態とする。そして、真空チャンバを真空排気し、真空チャンバ内が所定圧力(例えば1×10−5Pa)に達すると、例えば収容箱の周囲に配置される加熱手段を作動させて収容箱の加熱を開始し、その加熱温度を所定の昇温速度(例えば一定の温度勾配)で高めていく(つまり、加熱手段により収容箱に加える熱量を一定の温度勾配で増加させる)。これにより、収容箱からの伝熱やその壁面からの輻射熱で蒸着材料が加熱される。これと同時に、基準収容箱についても、上記と同一構成の加熱手段により、収容箱の加熱を開始し、同等の昇温速度で加熱温度を高める。
【0011】
加熱温度を高めていくと、収容箱の壁面に付着したガスやこれに充填された蒸着材料に含まれるガスが先ず放出される。このため、真空計で測定した圧力が所定範囲を超えて変化すると、昇温を一旦停止し、そのときの加熱温度(つまり、加熱手段により収容箱に加える熱量を一定に保持した状態)で蒸着材料の加熱を継続する。このとき、基準収容箱についても、昇温を一旦停止する。そして、単位時間当たりの圧力変化量が所定範囲内になると、収容箱の加熱を再開し、上記と同等の昇温速度で加熱温度を高める。これと同時に、基準収容箱についても加熱を再開する。これにより、基板表面に蒸着した膜に不純物が混入して膜質を劣化させるといったことが抑制できる。
【0012】
次に、更に加熱温度を一定の昇温速度で高めていく際、温度差測定手段により収容箱と基準収容箱との温度差が連続してまたは定期的に測定される。このように測定した温度差からは、収容箱内の蒸着材料の加熱に伴う、赤熱、転移(気化性の蒸着材料の場合のメルト温度)、分解、融解や酸化などで生じる吸熱、発熱といった熱変化量が測定できる(即ち、吸熱、発熱の挙動がデータとして取得される)。例えば、昇温中に、温度差測定手段で測定した温度差が所定の範囲を超えて大きくなったような場合には、加熱手段により収容箱を介して蒸着材料に加えられる熱が蒸着材料の相転移に利用されたがことが判断できるため、蒸着材料が気化性の材料であることが特定できる。このとき、温度差測定手段での温度差の測定に加えて、熱重量測定手段での重量変化をも測定する構成を採用すれば、例えば、突沸が発生して蒸着材料が無駄に消費され、または、蒸着材料に必要以上の熱負荷が加えられる前に加熱手段を制御して、加熱温度を下げたり、または、加熱温度の昇温を一旦停止したりすることができる。例えば、加熱手段により収容箱に加える熱量を所定温度勾配で高めた後、その熱量で一定時間保持し、熱変化量が許容範囲内に維持されているような場合には、収容箱に加える熱量を所定温度勾配で更に高め、その熱量で一定時間保持するという操作を少なくとも1回以上実施して、蒸着材料を加熱していく。その後、熱変化量と重量変化量とを測定しながら、加熱温度を徐々に昇温していけば、収容箱内の蒸着材料に溶解むらが生じたりすることも防止できる。
【0013】
他方で、例えば、昇温中の所定時間内に、常に温度差測定手段で測定した温度差が所定の範囲内に維持される場合には、相転移がないことで蒸着材料が昇華性の材料であることが特定できる。このような場合には、加熱温度を一定の昇温速度で高めることができる一方で、熱変化量が、蒸着材料の劣化等を招来しない許容範囲を超えて変化したような場合には、収容箱を加熱する加熱手段が制御される(上記と同様に、蒸着材料を加熱していく)。これにより、作業者の経験によらず、自動で収容箱、ひいては蒸着材料を一定の昇温速度で加熱することができ、このような昇温過程にて必要以上の熱が蒸着材料に加えられることが防止できる。
【0014】
次に、更に加熱温度を一定の昇温速度で高め、ある温度に達すると、収容箱内の蒸着材料が昇華または気化し始める。このとき、収容箱内の蒸着材料の重量が減少する。このことから、熱重量測定手段で測定した重量変化から、収容箱内での蒸着材料の昇華または気化が特定される。蒸着材料が昇華または気化した後は、単位時間当たりの重量減少量を基に、収容箱を加熱する加熱手段が制御される(つまり、基板表面に蒸着しようとする膜の厚さ及び蒸着時間を基に単位時間当たりの重量減少量を特定し、重量減少量が所定値になるように加熱温度を設定すれば、一定の蒸着レートで蒸着できる)。このとき、重量測定手段での重量変化の測定に加えて、温度差測定手段での温度差の測定をも測定する構成を採用すれば、蒸着材料の分解や熱劣化が防止される、加熱手段により蒸着材料に加える熱量の上限(言い換えると、蒸着材料に応じて蒸着レート)が特定でき、これに応じて、例えば、基板の相対移動速度を制御したりすることができる。
【0015】
このように本発明では、蒸着材料の昇温過程において、温度差測定手段により収容箱と基準収容箱との温度差と、熱重量測定手段により収容箱内の蒸着材料の重量変化を測定することで、作業者の経験に依らず、また、収容箱への蒸着材料の充填率に関係なく、蒸着材料の昇華または気化する温度を確実に把握しながら、蒸着材料を適切な昇温プロファイルで加熱して蒸着することが可能になる。ここで、(同一の蒸着材料を利用して蒸着する場合の)収容箱に対する蒸着材料の充填率の差異や、収容箱に蒸着材料を同等の充填率で追加充填した場合でも、上記昇温プロファイルは変化する虞があるが、このような場合でも、適切な昇温プロファイルで蒸着材料を加熱して蒸着することが可能になる。
【0016】
ところで、蒸着源として、収容箱の上面に筒状の放出開口(噴射ノズル)が複数本列設されたものを利用する場合、蒸着中、放出開口もまた、気化または昇華温度と同等の温度に加熱されていないと、放出開口を通過する蒸着材料が付着して固化し、ノズル詰まりを招来するといった不具合が生じる。このため、蒸着材料が充填された収容箱の部分を加熱する第1の加熱手段と、収容箱の放出開口を加熱する第2の加熱手段とを有する場合において、生産終了に伴い、被蒸着物に対する蒸着を停止する場合、熱重量測定手段で測定した単位時間当たりの重量変化量を基に、第1の加熱手段を制御して収容箱を所定の降温速度で降温させ、この重量変化量が所定値に達すると、第1及び第2の各加熱手段が停止される構成を採用することができる。これにより、生産終了時のノズル詰まりを回避でき、有利である。
【0017】
収容箱に蒸着材料が残っているような状態で生産を終了する場合に、上記のように第1及び第2の各加熱手段の作動を停止すると、蒸着材料によっては、急峻に固化して、材料劣化する虞がある。このため、降温過程において、温度差測定手段により測定した温度差を基に、第1及び第2の各加熱温度が徐々に低下するように制御することが好ましい。このとき、蒸着材料が気化性の材料の場合、温度差測定手段での温度差の測定をも測定しておけば、液相から固相への相転移を特定できるため、蒸着材料をむらなく固相に戻すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】(a)は、本発明の実施形態の真空蒸着装置を説明する、一部を断面視とした部分斜視図、(b)は、真空蒸着装置を正面側からみた部分断面図。
図2】蒸着材料の加熱開始から加熱停止までの昇温及び降温のプロファイルを説明するグラフであり、(a)は、蒸着材料が気化性の材料、(b)は、蒸着材料が昇華性の材料の場合である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、被蒸着物を矩形の輪郭を持つ所定厚さのガラス基板(以下、「基板Sw」という)、蒸着材料を高分子の有機材料Omとし、基板Swの片面に有機膜を蒸着(成膜)する場合を例に本発明の真空蒸着方法の実施形態を説明する。以下においては、「上」、「下」といった方向を指す用語は、図1に示す真空蒸着装置の姿勢を基準とする。
【0020】
図1を参照して、DMは、本実施形態の真空蒸着装置である。真空蒸着装置DMは、真空チャンバ1を備え、真空チャンバ1には、特に図示して説明しないが、排気管を介して真空ポンプが接続され、所定圧力(真空度)に真空排気して保持できるようになっている。真空チャンバ1の所定位置には、その内部の圧力を測定するピラニ真空計、電離真空計、ペニング真空計などの真空計Vgが設けられている。真空チャンバ1の上部にはまた、基板搬送装置2が設けられている。基板搬送装置2は、蒸着面としての下面を開放した状態で基板Swを保持するキャリア21を有し、図外の駆動装置によってキャリア21、ひいては基板Swを真空チャンバ1内の一方向に所定速度で移動するようになっている。基板搬送装置2としては公知のものが利用できるため、これ以上の説明は省略する。また、以下においては、後述の蒸着源Dsに対する基板Swの相対移動方向をX軸方向、X軸方向に直交する基板Swの幅方向をY軸方向とする。
【0021】
基板搬送装置2によって搬送される基板Swと蒸着源Dsとの間には、板状のマスクプレート3が設けられている。本実施形態では、マスクプレート3は、基板Swと一体に取り付けられて基板Swと共に基板搬送装置2によって搬送される。なお、マスクプレート3は、真空チャンバ1に予め固定配置しておくこともできる。マスクプレート3には、板厚方向に貫通する複数の開口31が形成され、これら開口31がない位置にて有機材料Omの基板Swに対する付着範囲が制限されることで所定のパターンで基板Swに蒸着される。マスクプレート3としては、インバー、アルミ、アルミナやステンレス等の金属製の他、ポリイミド等の樹脂製のものが用いられる。そして、真空チャンバ1の底面には、X軸方向に移動される基板Swに対向させて、蒸着源としての収容箱Dsが設けられている。
【0022】
収容箱Dsは、外容器41と、外容器41内に設置される、上面を開口した内容器42とを備え、内容器42に粉末状(固体)の有機材料Omが収容される。外容器41内には、内容器42の壁面を囲うようにしてシースヒータ等の第1の加熱手段43aが設けられている。第1の加熱手段43aにより内容器42を加熱すると、内容器42の壁面からの伝熱や外容器41の上面(基板Swとの対向面)41aから輻射で有機材料Omが加熱されて昇華または気化する。外容器41の上面41aにはまた、所定高さの筒体で構成される放出開口(噴射ノズル)44がY軸方向に所定の間隔で複数本(本実施形態では6本)列設され、外容器41内で昇華または気化した蒸着材料Omが所定の余弦則に従い真空チャンバ1内の空間に放出される。また、外容器41の上面(基板Swとの対向面)41aは、各放出開口44が挿通する開口45aが形成された遮蔽板45で覆われ、外容器41と遮蔽板45との間には、シースヒータ等の第2の加熱手段43bが設けられている。第2の加熱手段43bにより各放出開口44が主として加熱され、蒸着時に、放出開口44を通過する有機材料Omが付着して固化し、ノズル詰まりを発生させることを防止している。
【0023】
外容器41の底面には、電子天秤などで構成される重量測定器46が設けられ、実質的に内容器42に収容された有機材料Omの昇華または気化に伴う重量変化(単位時間当たりの重量減少量)を測定できるようにしている。内容器42の側壁には、熱電対などで構成される温度測定器47aが設けられている。真空チャンバ1の底面にはまた、X軸方向に移動される基板Swに対してY軸方向にオフセットさせて収容箱Dsと同一の構成を持つ基準収容箱Bsが設けられ、上記収容箱Dsと同様、内容器42の側壁には熱電対などで構成される温度測定器47bが設けられている。この場合、基準収容箱Bsの周囲には、収容箱Dsの放出開口44から放出された有機材料Omが付着しないように、防着板5が設けられている。
【0024】
上記真空蒸着装置DMは、マイクロコンピュータ、記憶素子やシーケンサ等を備えた公知の制御ユニットCuを備える。そして、制御ユニットCuが、真空ポンプ(図示せず)や、基板搬送装置2などの各部品の制御を統括して行う。制御ユニットCuにはまた、真空計Vg、重量測定器46や、温度測定器47a,47bから出力を受け、これを基に、収容箱Dsと基準収容箱Bsとに夫々設けた第1及び第2の両加熱手段43a,43bの作動を制御するようになっている。この場合、重量測定器46、温度測定器47a,47b及び制御ユニットCuが本実施形態の温度差測定手段と熱重量測定手段とを構成する。以下に、図2(a)及び(b)も参照しつつ、上記真空蒸着装置DMを用いた基板Swへの蒸着(成膜)方法を説明する。
【0025】
大気雰囲気中の真空チャンバ1内にて収容箱Dsの内容器42に有機材料Omを所定の充填率で充填する。このとき、基準収容箱Bsの内容器42には有機材料Omを充填せずに、空の状態とする。有機材料Omが充填されると、真空ポンプにより真空チャンバ1を真空排気し、真空チャンバ1内が所定圧力(例えば1×10−5Pa)に達すると、収容箱Ds及び基準収容箱Bsの第1及び第2の各加熱手段43a,43bを作動させて収容箱Ds及び基準収容箱Bsの加熱を開始し、加熱温度を所定の昇温速度(一定の温度勾配)で高めながら(つまり、収容箱Ds及び基準収容箱Bsに対して第1及び第2の各加熱手段43a,43bにより加える熱量を一定の温度勾配で増加させながら)、収容箱Ds及び基準収容箱Bsを加熱する。このとき、収容箱Dsでは、内容器42の側壁からの伝熱や、外容器41の上壁からの輻射熱で有機材料Omが加熱される。
【0026】
加熱温度を高めていくと、収容箱Dsの壁面に付着したガスや、収容箱Dsに充填された有機材料Omに含まれるガスが放出される。制御ユニットCuは、真空計Vgで測定した圧力が所定範囲を超えて変化すると、収容箱Ds及び基準収容箱Bsの第1及び第2の各加熱手段43a,43bによる昇温を一旦停止し、そのときの加熱温度(つまり、収容箱Ds及び基準収容箱Bsに夫々加える熱量を一定に保持した状態)で有機材料Omの加熱を継続する(図2中、区間Aで示す脱ガス工程)。そして、単位時間当たりの圧力変化量が所定範囲内になると、第1及び第2の各加熱手段43a,43bによる収容箱Ds及び基準収容箱Bsの加熱を再開し、上記と同等の昇温速度で加熱温度を高める。これにより、基板Sw表面に蒸着した膜に不純物が混入して膜質を劣化させるといったことが抑制できる。
【0027】
次に、更に加熱温度を一定の昇温速度で高めていく際、制御ユニットCuは、温度測定器47a,47bから受ける出力を基に収容箱Dsの内容器42と基準収容箱Bsの内容器42との温度差を連続してまたは定期的に測定すると共に、重量測定器46から受ける出力を基に収容箱Ds、ひいては、内容器42に充填された有機材料Omの重量変化を連続してまたは定期的に測定する。このように測定した温度差からは、収容箱Ds内の有機材料Omの加熱に伴う、赤熱、転移(気化性の有機材料の場合のメルト温度)、分解、融解や酸化などで生じる吸熱、発熱といった熱変化量が測定できる(即ち、吸熱、発熱の挙動がデータとして取得される)。また、測定した温度差からは、収容箱Ds内の有機材料Omの加熱に伴う脱水の特定できるため、このような場合には、上記脱ガス工程を再度実施してもよい。そして、例えば、昇温中に、温度測定器47a,47bで夫々測定した温度差が所定の範囲を超えて大きくなったような場合には、第1及び第2の各加熱手段43a,43bにより収容箱Dsを介して有機材料Omに加えられる熱が相転移に利用されたことが判断できるため、有機材料Omが気化性の材料であることが判断(特定)できる。
【0028】
気化性の材料と判断されると、制御ユニットCuは、有機材料Omの重量変化をも連続してまたは定期的に測定し、例えば、突沸が発生して有機材料Omが無駄に消費され、または、有機材料Omに必要以上の熱負荷が加えられるように、第1の加熱手段43aを制御する。例えば、図2(a)中、区間Bで示す昇温工程のように、第1及び第2の各加熱手段43a,43bにより収容箱Dsに加える熱量を所定温度勾配で高めた後、その熱量で一定時間保持し、熱変化量が許容範囲内に維持されているような場合には、収容箱Dsに加える熱量を所定温度勾配で更に高め、その熱量で一定時間保持するという操作を少なくとも1回以上実施して、有機材料Omを加熱していく。これに併せて、基準収容箱Bsを加熱する第1及び第2の各加熱手段43a,43bが同様に制御される。このように加熱温度を徐々に昇温していけば、昇温工程時に、収容箱Ds内の有機材料Omに溶解むらが生じたりすることも防止できる。
【0029】
他方で、例えば、昇温中の所定時間内に、常に温度測定器47a,47bで夫々測定した温度差が所定の範囲内に維持される場合には、相転移がないことで有機材料Omが昇華性の材料であることが特定できる。このような場合には、例えば、図2(b)中、区間Bで示す昇温工程のように、加熱温度を一定の昇温速度で高めることができる。仮に、温度差が所定の範囲を超えて変化したような場合には、例えば、昇温が可及的速やかに一旦中断され、所定時間経過後に、上記より遅い昇温速度で加熱が再開される。これに併せて、基準収容箱Bsを加熱する第1及び第2の各加熱手段43a,43bが同様に制御される。この場合の許容範囲は、例えば実験的に適宜設定される。また、図2(b)中、区間Bで示す昇温工程においても、その熱変化量が、有機材料Omの劣化等を招来しない許容範囲内に維持されるように、例えば、上記同様、第1及び第2の各加熱手段43a,43bにより収容箱Dsに加える熱量を所定温度勾配で高めた後、その熱量で一定時間保持し、熱変化量が許容範囲内に維持されているような場合には、収容箱Dsに加える熱量を所定温度勾配で更に高め、その熱量で一定時間保持するという操作を少なくとも一回以上実施して、有機材料Omを加熱していくことができる。これにより、作業者の経験に依らず、自動で収容箱Ds、ひいては有機材料Omを一定の昇温速度で加熱することができ、このような昇温過程にて必要以上の熱が有機材料Omに加えられることが防止できる。
【0030】
更に加熱温度を一定の昇温速度で高め、ある温度に達すると、内容器42内の有機材料Omが昇華または気化し始める。このとき、有機材料Omの重量が減少することから、制御ユニットCuは、有機材料Omの昇華または気化を特定し、蒸着材料が昇華または気化した後は、重量変化(即ち、単位時間当たりの重量減少量)を基に、予め設定された蒸着レートとなるように収容箱Ds及び基準収容箱Bsの第1及び第2の各加熱手段43a,43bを制御する(図2中、区間Cで示す蒸着工程)。予め設定された蒸着レートになると、基板搬送装置2によって一枚の基板SwがX軸方向に搬送される。これにより、蒸着源Dsに対してX軸方向に相対移動する基板Swの下面に、各放出開口44から所定の余弦則に従い放出された有機材料Omが付着、堆積して所定の薄膜が蒸着される。このようにして複数枚の基板Swに対して蒸着する間、蒸着レートが常時同等になるように、重量変化を基に、収容箱Ds及び基準収容箱Bsの第1及び第2の各加熱手段43a,43bが適宜制御される。このとき、温度測定器47a,47bで夫々測定した温度差から、有機材料Omの分解等が判断できるため、有機材料Omに加える熱量の上限(言い換えると、蒸着レートの上限)が特定できる。このため、蒸着レートが、基板Swへの蒸着の際に求められる蒸着レートに満たないような場合には、これに応じて、例えば、基板Swの相対移動速度を制御したりすることができる。
【0031】
複数枚の基板Swに対する蒸着が終了(生産終了)し、収容箱Dsに有機材料Omが残っている状態で収容箱Ds及び基準収容箱Bsの第1及び第2の各加熱手段43a,43bを停止する場合には、先ず、一定の降温速度で収容箱Ds及び基準収容箱Bsに対する第1の加熱手段43aによる加熱温度を下げる(このとき、第2の加熱手段43bはそのまま維持する)。ここで、有機材料Omが気化性の材料である場合、降温中、温度測定器47a,47bで夫々測定した温度差からは、有機材料Omの一部が液相から固相に相転移したことが判断できるため、図2(a)中、区間Dで示すように、第1の加熱手段43aによる加熱温度の低下を一旦停止し、所定時間保持する。その後、加熱温度の一定の降温速度で下げ、このとき、重量測定器46から受ける出力を基に、有機材料Omの単位時間当たりの重量減少量を測定し、重量減少がなくなると、第1及び第2の各加熱手段43a,43bを完全に停止する。これにより、有機材料Omが急峻に固化することを防止しつつ、むらなく有機材料Omを固相に戻すことができる。
【0032】
他方、有機材料Omが昇華性の材料である場合、急峻に固化して材料劣化することを防止するために、図2(b)中、区間Dで示すように、第1の加熱手段43aによる加熱温度が段階的に降下され、このとき、重量測定器46から受ける出力を基に、有機材料Omの単位時間当たりの重量減少量を測定し、重量減少がなくなると、第1及び第2の各加熱手段43a,43bを完全に停止する。なお、上記のようにして有機材料Omを加熱して蒸着を行い、加熱を停止して終了するまでの第1及び第2の加熱手段43a,43bの昇温及び降温のプロファイルは、制御ユニットCuの記憶部に記憶されるようにしてもよく、内容器42に同一の有機材料Omを充填して再度蒸着するような場合には、記憶されたプロファイルに基づいて、第1及び第2の加熱手段43a,43bの作動を制御してもよい。
【0033】
以上の実施形態によれば、有機材料Omの昇温過程において、収容箱Dsと基準収容箱Bsとの温度差と、収容箱Ds内の有機材料Omの重量を測定することで、作業者の経験に依らず、また、収容箱Dsへの有機材料Omの充填率に関係なく、有機材料Omの昇華または気化する温度を確実に把握しながら、有機材料Omを適切な昇温プロファイル及び降温プロファイルで加熱または降温させて、基板Sw表面に所定の有機膜を蒸着する生産工程を実施することができる。しかも、降温時に、放出開口44を通過する有機材料Omが付着して固化し、ノズル詰まりを招来し、または、急峻に固化することで材料劣化するといった不具合が生じることを確実に防止できる。なお、従来の真空蒸着装置では、真空チャンバ内に水晶振動子を用いた膜厚モニタにより蒸着レートを監視していたが、本実施形態では、重量変化(即ち、単位時間当たりの重量減少量)を基に、予め設定された蒸着レートとなるように収容箱Ds及び基準収容箱Bsの第1及び第2の各加熱手段43a,43bを制御できるため、特段、膜厚モニタを必要とせず、有利である。
【0034】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、被蒸着物をガラス基板Swとし、基板搬送装置2によりガラス基板Swを一定の速度で搬送しながら蒸着するものを例に説明したが、基板搬送装置2の構成は、上記のものに限定されるものではない。例えば、被蒸着物をシート状の基材とし、駆動ローラと巻取りローラとの間で一定の速度で基材を移動させながら基材の片面に蒸着するような装置にも本発明は適用できる。また、上記実施形態では、蒸着源の収容箱Dsとして外容器41内に内容器42を配置したものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、上面を開口した坩堝にも本発明は適用することができ、この場合、基準収容箱Bsもまた同一形態の坩堝が用いられる。また、蒸着材料も有機材料Omに限られるものではない。
【0035】
更に、上記実施形態では、収容箱Dsに単一の重量測定器46を設けて実質的に有機材料Omの重量変化を測定するものを例に説明したが、例えば、収容箱Dsに重量測定器46を複数設け、複数箇所にて重量変化を測定してもよい。このような場合、特に図示して説明しないが、収容箱Ds内に設けられる加熱手段としてのシースヒータに対する通電経路を複数のブロックに分け、各重量測定器46で夫々測定した単位時間当たりの重量減少量に応じて、各ブロックのシースヒータを制御することもできる。これにより、収容箱Dsの容積が大きいような場合でも、収容箱Dsに充填された有機材料Omをその上面から略均等に昇華または気化させることができ(言い換えると、収容箱Ds内で有機材料Omが片減りすることを防止でき)、有利である。
【0036】
また、上記実施形態では、真空チャンバ1内に収容箱Dsに加えてこれと同一構造の基準収容箱Bsが配置される場合を例に説明したが、これに限定されるものではく、基準収容箱Bsが他の真空チャンバに設けられているものでもよく、また、第1及び第2の加熱手段43a,43bにより加熱したときの温度変化の校正が取れているものであれば、基準収容箱Bsは、収容箱Dsと同一構造である必要はなく、更に、温度の測定位置も上記に限定されるものではない。この場合、真空雰囲気中にて、空の収容箱Dsを第1及び第2の加熱手段43a,43bにより加熱し、このときの温度変化を予め実験的に求め、これを事前に制御ユニットCuに記憶させておき、この記憶させたものとの比較で温度差を測定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0037】
Bs…基準収容箱、DM…真空蒸着装置、Ds…収容箱,蒸着源、Om…有機材料(蒸着材料)、Sw…基板(被蒸着物)、Vg…真空計、1…真空チャンバ、43a…第1の加熱手段、43b…第2の加熱手段、44…放出開口、46…重量測定器(熱重量測定手段)、47a,47b…温度測定器(温度差測定手段)、Cu…制御ユニット(熱重量測定手段,温度差測定手段)。
図1
図2