【解決手段】本発明の一形態に係るPZT膜の成膜方法は、化学量論組成のチタン酸ジルコン酸鉛100原子%に対して、鉛と置換可能な金属元素の酸化物である第1の金属酸化物と、ジルコニウム又はチタンと置換可能な金属元素の酸化物である第2の金属酸化物とをそれぞれ0.5原子%以上ドープしたPZTターゲットを準備することを含む。前記ターゲット材料をスパッタすることで、前記バッファ層上にPZT膜が形成される。
化学量論組成のチタン酸ジルコン酸鉛100原子%に対して、鉛と置換可能な金属元素の酸化物である第1の金属酸化物と、ジルコニウム又はチタンと置換可能な金属元素の酸化物である第2の金属酸化物とをそれぞれ0.5原子%以上ドープしたPZTターゲットを準備し、
前記PZTターゲットをスパッタすることで、基板上にPZT膜を形成する
PZT膜の成膜方法。
【背景技術】
【0002】
優れた圧電性、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O
3)(以下、PZTともいう)からなる薄膜は、その強誘電性を生かし、不揮発性メモリ(FeRAM)等のメモリ素子、インクジェットヘッドや加速度センサ等のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術に応用されている。
【0003】
近年、スパッタリングによってPZT膜を形成する場合、下地層として白金電極層とPZT薄膜との間にLaNiO
3からなるバッファ層を形成することによって、圧電定数及び絶縁耐圧を向上させることが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
また、ニッケルを含有する金属をドープしたPZTターゲットを用い、500℃未満の温度下において、LaNiO3からなるバッファ層上にスパッタリングによってPZT薄膜層を形成することで、PZT薄膜の絶縁耐圧を向上させる技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようなPZT膜は、絶縁耐圧だけでなく、高温環境下においても安定した圧電特性が求められている。そこで本発明の目的は、高温安定性及び絶縁耐圧を向上させることができるPZT膜の成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るPZT膜の成膜方法は、化学量論組成のチタン酸ジルコン酸鉛100原子%に対して、鉛と置換可能な金属元素の酸化物である第1の金属酸化物と、ジルコニウム又はチタンと置換可能な金属元素の酸化物である第2の金属酸化物とをそれぞれ0.5原子%以上ドープしたPZTターゲットを準備することを含む。
前記ターゲット材料をスパッタすることで、前記バッファ層上にPZT膜が形成される。
【0008】
上記成膜方法において、第1の金属酸化物は、PZTターゲット中の酸素イオンの空孔の発生を抑制し、第2の金属酸化物は、PZTターゲット中の鉛イオンの空孔の発生を抑制する。第1の金属酸化物及び第2の金属酸化物がそれぞれ所定量以上ドープされたPZTターゲットをスパッタすることで形成されたPZT膜は、内部欠陥が少なく、化学量論組成のPZTターゲットをスパッタすることで形成される膜と比較して、高温安定性及び絶縁耐圧に優れる。
【0009】
前記第1の金属酸化物は、例えば、ランタン酸化物であり、前記第2の金属酸化物は、例えば、ニッケル酸化物である。
【0010】
前記第1の金属酸化物及び前記第2の金属酸化物の含有量は、それぞれ、1原子%以上3原子%以下であってもよい。これにより、PZT膜の高温安定性及び絶縁耐圧の更なる向上を図ることができる。
【0011】
前記PZT薄膜を形成する工程は、0.03Pa以上0.5Pa以下のアルゴンガス雰囲気中で前記PZTターゲットをスパッタしてもよい。このように比較的低圧の雰囲気でPZTターゲットをスパッタすることで、高温安定性及び絶縁耐圧に優れたPZT膜を安定に形成することができる。
【0012】
前記成膜方法は、前記PZT膜を形成する前に、前記基板上に、金属チタン又はチタン酸化物からなる白金密着層を介して設けられた白金電極層と、前記白金電極層上に設けられたLaNiO
3からなるバッファ層とを形成し、前記バッファ層上に前記PZT膜を形成するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、PZT膜の高温安定性及び絶縁耐圧を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0016】
[PZT薄膜積層体]
図1は、本発明の一実施形態に係るPZT薄膜積層体100の一構成例を示す概略断面図である。
【0017】
PZT薄膜積層体100は、基板1上に、酸化シリコン層2、密着層3、白金層4、バッファ層5及びPZT層6を順に積層することで構成される。
【0018】
基板1は、典型的には、Si基板等の半導体基板である。これ以外にも、ガラス基板等の他の材料で構成された基板が採用されてもよい。基板1の厚みは特に限定されず、例えば、725μmである。
【0019】
酸化シリコン層2は、基板1の表面に形成された自然酸化膜(熱酸化膜)でもよいし、基板1の表面にスパッタ法やCVD法などで形成されたスパッタ膜や蒸着膜などであってもよい。酸化シリコン層2の厚みは特に限定されず、例えば、100nmである。
【0020】
密着層3は、酸化シリコン層2と白金層4との間の密着性を高めるためのもので、例えば、酸化チタンあるいは金属チタンで構成される。密着層3は例えばスパッタ法で形成される。密着層3の厚みは特に限定されず、例えば、35nmである。
【0021】
白金層4は、下部電極として構成される導体層であり、例えば、スパッタ法で密着層3の上に形成される。白金層4の厚みは特に限定されず、例えば、100nmである。
【0022】
バッファ層5は、PZT層6の下地層を構成し、PZT層6と同様にペロブスカイト構造を有する。バッファ層5は、ランタン(La)とニッケル(Ni)と酸素(O)を含む材料(LNO:LaNiO
3)で構成される。バッファ層5は、例えば、スパッタ法で白金層4の上の形成される。バッファ層5の厚みは特に限定されず、例えば、100nm以下である。バッファ層5の厚みを100nm以下とすることで、パイロクロア相などの異相のない、ペロブスカイト単相構造の膜を安定に形成することができる。また、PZT層6の下地層としてバッファ層5が形成されることにより、結晶性の高いPZT層6を安定に形成することができる。
【0023】
PZT層6は、ペロブスカイト構造を有するPZT膜である。PZT層6は、化学量論組成のチタン酸ジルコン酸鉛(ここでは、Pb
1.30Zr
0.52Ti
0.48O
3(以下、「PurePZT」ともいう))に対して、第1の金属酸化物及び第2の金属酸化物がそれぞれ所定量ずつドープされたPZTターゲットをスパッタすることで形成される。PZT層6の厚みは特に限定されず、例えば、1μmである。
【0024】
第1の金属酸化物は、PZTターゲット中の鉛(Pb)と置換可能な金属元素の酸化物である。このような金属元素は、酸素イオンの空孔を抑制するソフト系ドーパントとしての効果を発揮する元素(イオン)であり、本実施形態では、ランタン(La
3+)である。これ以外にも、ネオジウム(Nd
3+)、ビスマス(Bi
3+)、アンチモン(Sb
3+)などが適用可能である。第1の金属酸化物としては、これらの金属の酸化物のうちいずれか1つが適用されるが、これらの金属の酸化物のうち2つ以上の組み合わせが適用されてもよい。
【0025】
第2の金属酸化物は、PZTターゲット中のジルコニウム(Zr)又はチタン(Ti)と置換可能な金属元素の酸化物である。このような金属元素は、鉛イオンの空孔を抑制するハード系ドーパントとしての効果を発揮する元素(イオン)であり、本実施形態では、ニッケル(Ni
2+)である。これ以外にも、マグネシウム(Mg
2+)、マンガン(Mn
2+、Mn
3+)、アルミニウム(Al
3+)、鉄(Fe
3+)、イッテルビウム(Yb
3+)、コバルト(Co
3+)、クロム(Cr
3+)などが適用可能である。第2の金属酸化物としては、これらの金属の酸化物のうちいずれか1つが適用されるが、これらの金属の酸化物のうち2つ以上の組み合わせが適用されてもよい。
【0026】
第1の金属酸化物の添加量は、PurePZT100原子%に対して、0.5原子%以上であり、好ましくは、1原子%以上3原子%以下である。
第2の金属酸化物の添加量も同様に、PurePZT100原子%に対して、0.5原子%以上であり、好ましくは、1原子%以上3原子%以下である。第2の金属酸化物の添加量は、第1の金属酸化物の添加量と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0027】
なお図示せずとも、PZT薄膜積層体100は、上部電極として、PZT膜6の上に形成された導体層をさらに有する。上部電極は、下部電極(白金層)と同様な導体層で構成されてもよい。
【0028】
[PZT膜の成膜方法]
続いて、PZT層6の成膜方法について説明する。
【0029】
PZT層6は、上述のようにスパッタ法で成膜される。ターゲット材料には、上述のように、PurePZTに対して、第1の金属酸化物及び第2の金属酸化物がそれぞれ所定量ずつドープされた焼結体からなるPZTターゲットが用いられる。本実施形態では、第1の金属酸化物としてLaO
3が、第2の金属酸化物としてNiOがそれぞれ用いられる。PZTターゲットは、図示しない真空チャンバに設置される。
【0030】
酸化シリコン層2、密着層3、白金層4及びバッファ層5が順に積層された基板1は、減圧雰囲気に維持された真空チャンバの内部に搬入され、PZTターゲットに対向配置されたステージ上に載置される。真空チャンバの内部にアルゴンガスが導入され、所定の圧力下においてPZTターゲットをスパッタすることで、基板1のバッファ層5上にPZT層6が成膜される。
【0031】
放電方式としては、典型的には、高周波電力(例えば、13.56MHz)を用いたマグネトロンRF放電方式が採用される。成膜圧力(スパッタ成膜時における真空チャンバの内圧)は、典型的には、0.5Pa以下であり、好ましくは、0.03Pa以上0.1Pa以下である。成膜圧力が低いほど、高温安定性、絶縁耐圧に優れたPZT膜を形成することができる。
【0032】
基板温度は、500℃以下が好ましく、例えば、430℃以上485℃以下である。基板温度を500℃以下にすることで、PZTの粒成長が抑制され、PZT層6の表面ラフネスを小さくすることができる。
【0033】
真空チャンバ内において基板1を支持するステージは、典型的にはフローティング電位に接続される。これに限られず、ステージは、グランド電位との間のインピーダンスを制御可能に構成されてもよい。これにより、スパッタ時における基板1の電位を任意に調整することが可能となり、プラズマ中のイオンによる基板表面への逆スパッタを制御することで、内部欠陥の少ないPZT層6を形成することができる。
【0034】
PurePZT100原子%に対して、第1の金属酸化物としてLaO
3及び第2の金属酸化物としてNiOがそれぞれ0.5原子%以上ドープされたPZTターゲットをスパッタすることで形成されるPZT層6は、LaO
3により酸素イオンの空孔の発生が抑制され、NiOにより鉛イオンの空孔の発生が抑制されるため、欠陥が抑制されたペロブスカイト構造のPZT結晶を安定に形成することができる。これにより、PZT層6の絶縁耐圧及び高温安定性を向上させることができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0036】
(実施例1)
厚み100nmのSiO
2層(酸化シリコン層2)が形成された直径8インチのSi基板(基板1)上に、スパッタ法により、厚み35nmのTiO
x層(密着層3)と、厚み100nmのPt層(白金層4)とをこの順序で形成した。
【0037】
続いて、RFマグネトロンスパッタ法により、Pt層の表面に、厚み100nmのLaNiO
3層からなるバッファ層(バッファ層5)を形成した。なお、スパッタリングターゲットとしてLiNiO
3ターゲットを用い、0.1Paのアルゴンガス雰囲気中でスパッタした。また、このときの基板温度は485℃とした。
【0038】
続いて、RFマグネトロンスパッタ法により、バッファ層の表面に、厚み1μmのPZT薄膜(PZT層6)を形成した。スパッタリングターゲットには、PurePZT100原子%に対して、LaO
3(第1の金属酸化物)を0.5原子%、NiO(第2の金属酸化物)を0.5原子%それぞれドープしたPZTターゲットを用い、0.03Paのアルゴンガス雰囲気中で当該PZTターゲットをスパッタした。基板温度は、485℃とした。
【0039】
成膜したPZT膜の絶縁耐圧を以下のようにして測定した。成膜したPZT膜上に、上部電極としてPt層を形成し、超高抵抗/超低電流測定用電位計(ケースレー社製 6514型)を用いてI−V測定を行うことにより、絶縁耐圧を測定した。その結果、絶縁耐圧は、46V/−79Vであった。
【0040】
さらに、成膜したPZT膜の高温安定性を評価した。高温安定性の評価とは、低電界における経時破壊現象TDDB(Time Dependent Dielectric Breakdown)の評価をいい、上記上部電極が形成されたPZT膜の平均故障寿命(MTTF:Mean Time to Failure)を測定した。MTTF(単位;時間(h))は、ワイブル分布(Weibll distribution)を用いて計算した。MTTFは、85℃の高温環境下において、+40Vの電圧をPZT膜に印加し続けたときの絶縁破壊に至るまでの時間とした。ここでは、直径500μmの上部電極に1μAを超えるリーク電流を検出しことをもってPZT膜の絶縁破壊と定義した。測定値は、ワイブル分布モデルを用いて10回以上の測定結果から算出した。測定の結果、MTTFは、3000時間であった。
【0041】
(実施例2)
PZTターゲットとして、PurePZT100原子%に対してLaO
3及びNiOをそれぞれ1原子%ドープしたターゲットを用いたこと以外は実施例1と同一の条件でPZT膜を成膜し、その絶縁耐圧及び高温安定性(MTTF)を測定した。測定の結果、絶縁耐圧は、44V/−65V、MTTFは、20000時間であった。
【0042】
(実施例3)
PZTターゲットとして、PurePZT100原子%に対してLaO
3及びNiOをそれぞれ3原子%ドープしたターゲットを用いたこと以外は実施例1と同一の条件でPZT膜を成膜し、その絶縁耐圧及び高温安定性(MTTF)を測定した。測定の結果、絶縁耐圧は、190V/−180V、MTTFは、30000時間であった。
【0043】
(比較例1)
PZTターゲットとして、PurePZTを用いたこと以外は実施例1と同一の条件でPZT膜を成膜し、その絶縁耐圧及び高温安定性(MTTF)を測定した。測定の結果、絶縁耐圧は、46V/−58V、MTTFは、0.3時間であった。
【0044】
(比較例2)
PZTターゲットとして、PurePZT100原子%に対してNiOのみを0.5原子%ドープしたターゲットを用いたこと以外は実施例1と同一の条件でPZT膜を成膜し、その絶縁耐圧及び高温安定性(MTTF)を測定した。測定の結果、絶縁耐圧は、54V/−62V、MTTFは、120時間であった。
【0045】
(比較例2)
PZTターゲットとして、PurePZT100原子%に対してLaO
3のみを3原子%ドープしたターゲットを用いたこと以外は実施例1と同一の条件でPZT膜を成膜し、その絶縁耐圧及び高温安定性(MTTF)を測定した。測定の結果、絶縁耐圧は、〜20V/〜−20V、MTTFは、5時間であった。
【0046】
実施例1〜3及び比較例1〜3におけるPZTターゲット組成及びPZT膜の評価結果を表1にまとめて示す。
【0047】
【表1】
【0048】
実施例1〜3によれば、比較例1よりも耐電圧及び高温安定性がいずれも向上し、特に高温安定性が顕著に向上することが確認された。また、実施例1〜3によれば、LaO
3及びNiOのドープ量が高いほど、絶縁耐圧及び高温安定性が向上することが確認された。
【0049】
また、LaO
3及びNiOのドープ量がいずれも1原子%である実施例2によれば、高温安定性が飛躍的に向上し、LaO
3及びNiOのドープ量がいずれも1原子%である実施例2によれば、絶縁耐圧が飛躍的に向上する。このことから、LaO
3及びNiOのドープ量をそれぞれ1原子%以上3原子%以下ドープすることで、PZT膜の絶縁耐圧及び高温安定性の双方を大幅に向上させることができる。
図2は、実施例1〜3及び比較例1,2について測定した試験温度とMTTFとの関係を示す実験結果である。
【0050】
さらに、実施例3によれば、比較例1〜3よりも絶縁耐圧及び高温安定性の双方について顕著な改善が認められた。なお、実施例3に係るPZT膜と比較例1に係るPZT膜についての圧電定数(−e
31)を測定したところ、比較例1では、14C/m
2であったのに対し、実施例3では、13.5C/m
2であった。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0052】
例えば以上の実施形態では、PurePZT100原子%に対する第1の金属酸化物及び第2の金属酸化物のドープ量を0.5原子%以上3原子%以下としたが、これに限られず、所望とする圧電特性、絶縁耐圧、及び高温安定性が得られる限りにおいて、3原子%を超える量の第1の金属酸化物及び第2の金属酸化物がドープされてもよい。この場合、第1の金属酸化物及び第2の金属酸化物の双方が3原子%を超えてドープされる例に限られず、いずれか一方が3原子%を超える量でドープされてもよい。