【解決手段】結晶性樹脂と、セルロースとを含む接着用樹脂組成物である。また、結晶性樹脂及びセルロースを含む樹脂組成物からなる成形品と、他の部材とが接着剤により接着されてなる複合成形品である。いずれも、結晶性樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート樹脂が好ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものである。そして、その課題は、結晶性樹脂を含む樹脂組成物でありながら、十分な接着性を有する接着用樹脂組成物、該接着用樹脂組成物からなる成形品と他の部材とが接着剤により接着されてなる複合成形品、結晶性樹脂の接着性向上方法、及び結晶性樹脂の印刷・塗装性向上方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
(1)結晶性樹脂と、セルロースとを含む接着用樹脂組成物。
【0008】
(2)前記結晶性樹脂が、ポリブチレンテレフタレート樹脂である前記(1)に記載の接着用樹脂組成物。
【0009】
(3)結晶性樹脂及びセルロースを含む樹脂組成物からなる成形品と、他の部材とが接着剤により接着されてなる複合成形品。
【0010】
(4)前記結晶性樹脂が、ポリブチレンテレフタレート樹脂である前記(3)に記載の複合成形品。
【0011】
(5)前記接着剤が水系接着剤である前記(3)又は(4)に記載の複合成形品。
【0012】
(6)結晶性樹脂に対してセルロースを添加することにより、接着剤による接着性を向上させる、結晶性樹脂の接着性向上方法。
【0013】
(7)前記結晶性樹脂が、ポリブチレンテレフタレート樹脂である前記(6)に記載の結晶性樹脂の接着性向上方法。
【0014】
(8)前記接着剤が水系接着剤である前記(6)又は(7)に記載の結晶性樹脂の接着性向上方法。
【0015】
(9)結晶性樹脂に対してセルロースを添加することにより、インキ又は塗料による塗装性を向上させる、結晶性樹脂の印刷・塗装性向上方法。
【0016】
(10)前記インキが水系インキであり、前記塗料が水系塗料である前記(9)に記載の結晶性樹脂の印刷・塗装性向上方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、結晶性樹脂を含む樹脂組成物でありながら、十分な接着性を有する接着用樹脂組成物、該接着用樹脂組成物からなる成形品と他の部材とが接着剤により接着されてなる複合成形品、結晶性樹脂の接着性向上方法、及び結晶性樹脂の印刷・塗装性向上方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<接着用樹脂組成物>
本実施形態の接着用樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」とも呼ぶ。)は、結晶性樹脂と、セルロースとを含むことを特徴としている。上述の通り、結晶性樹脂は、接着剤による接着性に乏しく、結晶性樹脂同士及び他の部材との接着において十分な接着強度を得ることが困難である。本実施形態の接着用樹脂組成物は、結晶性樹脂に対してセルロースを添加することにより接着剤による接着性の向上を図っている。特に、結晶性樹脂は、一般に水に対する濡れ性が低いため、水系接着剤を用いた場合の接着性に乏しいが、本実施形態の接着用樹脂組成物は、セルロースの存在により水に対する濡れ性が向上し、水系接着剤を用いても十分な接着強度を得ることができる。
以下に、本実施形態の接着用樹脂組成物中の各成分について説明する。
【0020】
[結晶性樹脂]
本実施形態に係る結晶性樹脂は、併用するセルロースの熱分解温度よりも融点が低い結晶性樹脂を用いることが好ましい。セルロースの熱分解温度よりも融点が高い樹脂を用いると、加工温度がセルロースの耐熱温度を超え、セルロースが劣化、変色するといった問題が生じるからである。当該結晶性樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、「PBT樹脂」とも呼ぶ。)、ポリアセタール樹脂(以下、「POM樹脂」とも呼ぶ。)、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。以下に、PBT樹脂及びPOM樹脂を挙げて説明するが、本実施形態においてはそれらに限定されるものではない。
【0021】
(ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂))
PBT樹脂は、少なくともテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(C1−6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物等)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素原子数4のアルキレングリコール(1,4−ブタンジオール)又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を含むグリコール成分とを重縮合して得られる樹脂である。PBT樹脂は、ホモポリブチレンテレフタレートに限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上(特に75モル%以上95モル%以下)含有する共重合体であってもよい。
【0022】
PBT樹脂の末端カルボキシル基量は、本実施形態における効果を阻害しない限り特に限定されない。PBT樹脂の末端カルボキシル基量は、30meq/kg以下が好ましく、25meq/kg以下がより好ましい。
【0023】
PBT樹脂の固有粘度(IV)は、0.65〜1.20dL/gであることが好ましい。かかる範囲の固有粘度のPBT樹脂を用いる場合には、得られる樹脂組成物が特に機械的特性と流動性に優れたものとなる。逆に固有粘度0.65dL/g未満では優れた機械的特性が得られず、1.20dL/gを超えると優れた流動性が得られないことがある。
また、固有粘度が上記範囲のPBT樹脂は、異なる固有粘度を有するPBT樹脂をブレンドして、固有粘度を調整することもできる。例えば、固有粘度0.9dL/gのPBT樹脂と固有粘度0.7dL/gのPBT樹脂とをブレンドすることにより、固有粘度0.8dL/gのPBT樹脂を調製することができる。PBT樹脂の固有粘度(IV)は、例えば、o−クロロフェノール中で温度35℃の条件で測定することができる。
【0024】
PBT樹脂において、テレフタル酸及びそのエステル形成性誘導体以外のジカルボン酸成分(コモノマー成分)としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシジフェニルエーテル等のC8−14の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC4−16のアルカンジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等のC5−10のシクロアルカンジカルボン酸;これらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体(C1−6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物等)が挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0025】
これらのジカルボン酸成分の中では、イソフタル酸等のC8−12の芳香族ジカルボン酸、及び、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC6−12のアルカンジカルボン酸がより好ましい。
【0026】
PBT樹脂において、1,4−ブタンジオール以外のグリコール成分(コモノマー成分)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−オクタンジオール等のC2−10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等の、ビスフェノールAのC2−4のアルキレンオキサイド付加体;又はこれらのグリコールのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)が挙げられる。これらのグリコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0027】
これらのグリコール成分の中では、エチレングリコール、トリメチレングリコール等のC2−6のアルキレングリコール、ジエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール、又は、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール等がより好ましい。
【0028】
ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に使用できるコモノマー成分としては、例えば、4−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4−カルボキシ−4’−ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(ε−カプロラクトン等)等のC3−12ラクトン;これらのコモノマー成分のエステル形成性誘導体(C1−6のアルキルエステル誘導体、酸ハロゲン化物、アセチル化物等)が挙げられる。
【0029】
(ポリアセタール樹脂(POM樹脂))
ポリアセタール樹脂は、オキシメチレン基(−CH
2O−)を主たる構成単位とする高分子化合物であり、ポリオキシメチレンホモポリマー、オキシメチレンコポリマーがあり、これらのいずれでもよい。オキシメチレンコポリマーはオキシメチレン基を主たる繰り返し単位とし、これ以外に他の構成単位、例えばエチレンオキサイド、1,3−ジオキソラン、1,4−ブタンジオールホルマール等のコモノマー単位を少量含有する。また、これ以外のポリマーとしてターポリマー、ブロックポリマーも存在するが、これらのいずれでもよい。また、ポリアセタール樹脂は、分子が線状のみならず分岐、架橋構造を有するものであってもよく、他の有機基を導入した公知の変性ポリオキシメチレンであってもよい。また、ポリアセタール樹脂は、その重合度に関しても特に制限はなく、溶融成形加工性を有するもの(例えば、190℃、2160g荷重下でのメルトフロー値(MFR)が1.0g/10分以上100g/10分以下)であればよい。
ポリアセタール樹脂は公知の製造方法によって製造される。
【0030】
[セルロース]
本実施形態の接着用樹脂組成物においては、上述の通り、接着剤による接着性の向上のためにセルロースを含有する。セルロースを含有することにより、水系接着剤及び有機溶剤系接着剤を問わず接着性が向上するが、水系接着剤に対する接着性向上の効果の方が顕著である。特に、結晶性樹脂としてPBT樹脂を用いた場合、セルロースを含有させることで、水系接着剤に対する接着性が顕著に向上する。
【0031】
本実施形態においては、セルロースの形状は特に制限はないが、例えば、粉体、繊維状等の形状が挙げられる。また、セルロースのサイズや表面処理についても特に制限はなく、接着性向上の効果を考慮して適宜設定することができる。また、樹脂組成物中において、接着性向上の観点から、セルロースは均一に分散していることが好ましい。さらに、本実施形態の接着用樹脂組成物を成形品にした場合にその表面が粗くなるようにセルロースを含有することで、アンカー効果により接着力が向上すると考えられる。
【0032】
本実施形態の接着用樹脂組成物において、セルロースの含有量は、接着性向上の観点から、1〜50質量%とすることが好ましく、3〜45質量%とすることがより好ましく、5〜40質量%とすることがさらに好ましく、10〜35質量%とすることが特に好ましい。
【0033】
[他の成分]
本実施形態においては、その効果を害さない範囲で、上記各成分の他、一般に結晶性樹脂に添加される公知の添加剤、即ち、バリ抑制剤、離型剤、潤滑剤、可塑剤、難燃剤、染料や顔料等の着色剤、結晶化促進剤、結晶核剤、各種酸化防止剤、熱安定剤、耐候性安定剤、腐食防止剤、耐加水分解性向上剤、流動性改良剤、靱性改良剤等を配合してもよい。
【0034】
本実施形態の接着用樹脂組成物を用いて成形品を得る方法としては特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、本実施形態の接着用樹脂組成物を押出機に投入して溶融混練してペレット化し、このペレットを所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで成形品を作製することができる。
【0035】
本実施形態の接着用樹脂組成物からなる成形品の接着に使用する接着剤については後述する。
【0036】
<複合成形品>
本実施形態の複合成形品は、結晶性樹脂及びセルロースを含む樹脂組成物からなる成形品と、他の部材とが接着剤により接着されてなることを特徴としている。本実施形態の複合成形品において、結晶性樹脂及びセルロースを含む樹脂組成物は、上述の本実施形態の接着用樹脂組成物に相当する。そのため、当該樹脂組成物からなる成形品は接着性に優れ、他の部材と接着することで、十分な接着強度を有する複合成形品を製造することができる。
【0037】
本実施形態の複合成形品において、結晶性樹脂及びセルロースを含む樹脂組成物は、上述の本実施形態の接着用樹脂組成物に相当するため、ここではその説明を省略する。当該樹脂組成物において、各成分の例示や好ましい態様は本実施形態の接着用樹脂組成物で説明した内容と同様である。
【0038】
本実施形態における成形品の接着対象となる他の部材としては、接着剤により接着されるものであれば制限はない。他の部材の材質としては、例えば、前記成形品と同一又は異種の結晶性樹脂、非晶性樹脂、熱硬化性樹脂、木材、ガラス、金属、セラミック、及びこれらを組み合わせてなる組成物等が挙げられる。
【0039】
[接着剤]
本実施形態の複合成形品において、成形品と他の部材との接着に使用する接着剤としては、接着する対象物たる他の部材の材料により選択すればよく、例えば、水系接着剤、有機溶剤系接着剤、無溶剤系接着剤、固体系接着剤等が挙げられる。特に、本実施形態の接着用樹脂組成物においては、従来において結晶性樹脂を十分に接着することができなかった水系接着剤を用いても十分な接着強度を得ることができる。
【0040】
<結晶樹脂の接着性向上方法>
本実施形態の結晶性樹脂の接着性向上方法は、結晶性樹脂に対してセルロースを添加することにより、接着剤による接着性を向上させることを特徴としている。本実施形態においては、結晶性樹脂に対してセルロースを添加することにより、一般に接着剤による接着性に乏しい結晶性樹脂の接着性の向上を図ることができる。
【0041】
本実施形態において、添加するセルロースは、接着性向上の効果を発揮することができる程度に添加すればよく、上述の本実施形態の接着用樹脂組成物におけるセルロースと好ましい形態、量は同様である。
【0042】
本実施形態において、結晶性樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート樹脂を使用することができ、その場合、水系接着剤による接着強度を顕著に向上させることができる。
【0043】
<結晶性樹脂の印刷・塗装性向上方法>
本実施形態の結晶性樹脂の印刷・塗装性向上方法は、結晶性樹脂に対してセルロースを添加することにより、インキ又は塗料による印刷・塗装性を向上させることを特徴としている。上述の通り、結晶性樹脂からなる成形品の表面は十分な印刷・塗装性を有しないことがあるが、本実施形態においては、セルロースを添加することで印刷・塗装性の向上を図ることができる。本実施形態の印刷・塗装性向上方法は、特に、水系インキ又は水系塗料であっても優れた塗装性を付与することができる。
【0044】
本実施形態において、添加するセルロースは、印刷・塗装性向上の効果を発揮することができる程度に添加すればよく、上述の本実施形態の接着用樹脂組成物におけるセルロースと好ましい形態、量は同様である。
【0045】
[インキ、塗料]
本実施形態の印刷・塗装性向上方法において使用するインキ、塗料としては特に制限はない。インキとしては、一般に成形品表面に対する印刷に使用されるインキを使用することができる。また、本実施形態においては、結晶性樹脂にセルロースを添加することで、水系インキを使用しても好適に印刷することができる。
一方、塗料としては、目的別には、防水、防食、防腐、防汚、殺菌、耐火等の性能を付与し、対象物を保護するための塗料、光沢、彩色、模様、意匠、景観創出、平滑化の付与等の美観を付与するための塗料が挙げられる。塗料の成分としては、通常、樹脂等の塗膜形成成分、溶剤、有色の場合には顔料又は染料、及びその他の添加剤等が挙げられる。そして、本実施形態においては、溶剤が水系の場合の水系塗料であっても十分塗装することができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本実施形態を更に詳しく説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0047】
[実施例1〜11、比較例1〜8]
各実施例・比較例において、表1及び表2に示す比率(質量%)で、POM樹脂、PBT樹脂、又はPE樹脂と、セルロース又はガラス繊維とを32mmφの2軸押出機((株)日本製鋼所製、TEX30α)を用いて溶融混練して押出し、樹脂組成物(接着用樹脂組成物)からなるペレットを得た。溶融混練時の加工条件は、吐出量15kg/h、スクリュ回転数200rpmで、シリンダ温度は原料供給部からダイ先端部に向かって、POM樹脂の場合190℃−200℃−200℃−200℃、PBT樹脂の場合220℃−255℃−205℃−260℃、PE樹脂の場合190℃−220℃−220℃−220℃とした。なお、比較例1、3〜5、7及び8においては、セルロースもガラス繊維も添加していないため本来は樹脂組成物とは言えないが、便宜上、樹脂組成物と呼ぶ。表1及び表2に示す各成分の詳細を以下に示す。
POM樹脂:ポリプラスチックス(株)製、MFR9.0g/10分のポリアセタール樹脂
PBT樹脂:ウィンテックポリマー(株)製、固有粘度0.8dl/g、CEG=28meq/kgのポリブチレンテレフタレート樹脂
PE樹脂:(株)プライムポリマー製、ハイゼックス6203B
セルロース1:旭化成(株)製、CEOLUS ST−100
セルロース2:JRS Pharma製、VIVAPUR 105
ガラス繊維(GF)1:日本電気硝子(株)製、ECS03T−651G(φ9μm)
ガラス繊維(GF)2:日本電気硝子(株)製、ECS03T−187(φ13μm)
【0048】
[評価]
上記のようにして得られた、各実施例・比較例の樹脂組成物を、射出成形機(東芝機械製、EC40)に投入して、シリンダ温度をPOM樹脂は200℃、PBT樹脂は260℃、PE樹脂は220℃として、金型温度をPOM樹脂は90℃、PBT樹脂は80℃、PE樹脂は55℃にて、ISO3167に準拠し、厚み4mmtの1A型引張試験片を成形した。次いで、各実施例・比較例において、成形した引張試験片を長手方向中央部で切断した。そして、
図1(a)に示すように、当該切断した試験片を、それぞれ標線間部(幅10mmの部位)同士が直角に交差するように重ね、交差部の100mm
2(10mm×10mm)の面(
図1(a)のハッチング領域)に、表1及び表2に示す接着剤を塗布した。次いで、クリップで固定した状態で23℃・50%RHにて6日間静置して接着した後、交差部(接合部)からはみ出た接着剤のバリを除去して、接合強度評価用の試験片を得た。なお、表1及び表2に示す接着剤は以下の通りである。
水系:セメダイン木工用(速乾)
有機溶剤系:セメダインC(セルロース:20%、酢酸ビニル樹脂5%、有機溶剤(アセトン、エタノール、イソプロノール、酢酸ブチル):75%)
エポキシ系:セメダインスーパーXG(ゴールド)スーパー速乾クリア 強力型
【0049】
接着した試験片について、オリエンテック製万能試験機テンシロンRTM−100を用いて、
図1(b)に示すように、支点間距離30mm、試験速度1mm/minの条件で押圧し、接合部の押し剥がし強度を接合強度として測定した。測定結果を表1及び表2に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
表1、表2より、POM樹脂、PBT樹脂、及びPE樹脂のいずれの結晶性樹脂を用いた場合でも、接着剤種を問わず、セルロースの添加量が多くなるほど接合強度が大きくなることが分かる。また、セルロースの代わりにガラス繊維を添加した比較例2及び6の結果から、ガラス繊維を添加しても、セルロースほどの接着性向上が見られないことが分かる。例えば、POM樹脂を用いた樹脂組成物において、実施例2(セルロース:10質量%)及び比較例2(ガラス繊維:25質量%)は接着強度が同程度である。また、PBT樹脂を用いた樹脂組成物において、実施例2(セルロース:10質量%)よりも比較例6(ガラス繊維:47質量%)よりも接着強度が大きい。これらの例から、ガラス繊維よりもセルロースの方が接着強度向上の効果が大きいことが分かる。
一方、PBT樹脂を用いた樹脂組成物において、セルロースを添加しない場合、エポキシ系接着剤により接着した実施例10の方が水系接着剤を使用した実施例9よりも接合強度が大きいが、セルロースを30質量%添加すると実施例9と実施例10とで接合強度が逆転している。つまり、PBT樹脂を用いた樹脂組成物においては、水系接着剤を用いた場合、接合強度の向上において顕著な効果が見られる。
【0053】
[実施例12〜13、比較例9〜10]
実施例2〜3、比較例1〜2と同様にして、表3に示すように、POM樹脂にセルロースを10質量%及び30質量%添加した樹脂組成物、充填剤を添加していないPOM樹脂の樹脂組成物、POM樹脂にガラス繊維を25質量%添加した樹脂組成物をそれぞれ得た。その後、それぞれの樹脂組成物を用いて、ISO3167に準拠し、厚み4mmtの1A型引張試験片を成形した。得られた引張試験片の端部の幅広部において、200mm
2(20mm×10mm)の面積のスリット状の領域が露出するようにマスキングした後、当該露出部に水性塗料として(株)カインズのホワイティカラーズ ミントグリーン(製造元:ニッペホームプロダクツ(株))を塗布し、常温で24時間静置した。次いで、塗布部をエタノール:純粋=50:50(体積%)の溶液中で超音波洗浄し、剥落せずに塗布部に残った塗料の面積を測定した。結果を表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
表3より、セルロースを添加した実施例12及び13の樹脂組成物は、セルロースを添加しない比較例9の樹脂組成物やガラス繊維を添加した比較例10の樹脂組成物に比べ塗料の残存面積が大きい。すなわち、セルロースの添加量を多くすることで、超音波洗浄後も塗料が剥落しにくくなることが確認された。よって、セルロースの添加により、樹脂組成物の塗装性を向上させることができる。