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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-25510(P2020-25510A)
(43)【公開日】2020年2月20日
(54)【発明の名称】電極及びその製造方法、並びに積層体
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20200124BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20200124BHJP
   C12N 11/04 20060101ALI20200124BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20200124BHJP
   C12N 5/0793 20100101ALN20200124BHJP
   A61L 27/38 20060101ALN20200124BHJP
   A61L 27/40 20060101ALN20200124BHJP
   A61L 27/18 20060101ALN20200124BHJP
   A61L 27/08 20060101ALN20200124BHJP
【FI】
   C12M1/34 A
   C12M1/00 A
   C12N11/04
   B32B7/02 104
   C12N5/0793
   A61L27/38 100
   A61L27/40
   A61L27/18
   A61L27/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2018-152585(P2018-152585)
(22)【出願日】2018年8月14日
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 洸児
(72)【発明者】
【氏名】手島 哲彦
(72)【発明者】
【氏名】上野 祐子
(72)【発明者】
【氏名】中島 寛
【テーマコード(参考)】
4B029
4B033
4B065
4C081
4F100
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB11
4B029CC02
4B029CC05
4B029CC12
4B029FA15
4B033NA16
4B033NB13
4B033NB15
4B033NB22
4B033NB23
4B033NB25
4B033NB33
4B033NB48
4B033NB64
4B033NB65
4B033NB70
4B033NC06
4B033ND16
4B065AA91X
4B065AC12
4B065BC41
4B065BC42
4B065BD50
4B065CA44
4B065CA46
4C081AB18
4C081BB03
4C081BB09
4C081CA151
4C081CD34
4C081CF161
4C081DA01
4C081DC04
4F100AA37C
4F100AG00A
4F100AH10B
4F100AK01D
4F100AK80D
4F100AR00B
4F100AR00C
4F100AT00A
4F100BA04
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10D
4F100EH46
4F100EH66
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4F100EJ15
4F100EJ54
4F100EJ61
4F100GB66
4F100JG01C
4F100JM10B
4F100JN01C
4F100JN01D
(57)【要約】
【課題】細胞を内包化させることができ、生体内に埋植することが可能な電極、及びその製造方法、並びに当該電極の製造に用いる積層体を提供する。
【解決手段】内部空間を有する電極であって、前記内部空間は、導電性材料を含む層(導電層)を有する膜により形成されている、電極。また、(a)高分子化合物を含む層(高分子化合物層)と、導電性材料を含む層(導電層)と、を有する膜を形成する工程と、(b)前記膜の厚み方向の歪みの勾配を駆動力として、前記膜に、自己組織的に筒型の形状を形成させる工程と、を有することを特徴とする、電極の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間を有する電極であって、
前記電極は、導電性材料を含む層(導電層)を有する膜を含み、
前記内部空間は、前記膜が湾曲することにより形成されている、
電極。
【請求項2】
前記内部空間に細胞が存在していることを特徴とする、
請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記膜は、前記内部空間と前記電極の外部空間とを連通する孔を有することを特徴とする、
請求項1または2に記載の電極。
【請求項4】
前記電極の形状が筒状であることを特徴とする、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の電極。
【請求項5】
前記筒状の形状は、前記筒の片端又は両端が、閉鎖されていることを特徴とする、
請求項4に記載の電極。
【請求項6】
前記膜は、高分子化合物を含む層(高分子化合物層)をさらに有することを特徴とする、
請求項1〜5のいずれか一項に記載の電極。
【請求項7】
前記高分子化合物層及び前記導電層が、光透過性を有する材料で構成されることを特徴とする、請求項6に記載の電極。
【請求項8】
前記導電性材料が、導電性炭素材料であることを特徴とする、
請求項1〜7のいずれか一項に記載の電極。
【請求項9】
電極の製造方法であって、
(a)高分子化合物を含む層(高分子化合物層)と、導電性材料を含む層(導電層)と、を有する膜を形成する工程と、
(b)前記膜の厚み方向の歪みの勾配を駆動力として、前記膜に、自己組織的に三次元湾曲形状を形成させる工程と、
を有することを特徴とする、電極の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の電極の製造方法であって、さらに、前記工程(a)の後かつ前記工程(b)の前に、
(c)前記膜の表面に、細胞を存在させる工程を有することを特徴とする、
電極の製造方法。
【請求項11】
基板と、前記基板上に積層された犠牲層と、前記犠牲層上に積層された導電性材料を含む層(導電層)と、前記導電層上に積層された高分子化合物を含む層(高分子化合物層)と、を含む積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極及びその製造方法、並びに積層体に関する。特に、本発明は、細胞の内包が可能な電極及びその製造方法、並びに前記電極の製造に利用可能な積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
脊髄損傷や脳梗塞に代表される回復の困難な中枢神経系の損傷に対する治療方法として、生体組織を移植する再生治療への期待が高まっている。中枢神経系の機能を適切に回復させるためには神経細胞を素子とする複雑なネットワークの再建が必須であり、欠落した素子を補填するための神経細胞、および神経細胞の活動を支持するグリア細胞が、移植組織を構成する主要な細胞である。移植ソースとなる細胞においては、幹細胞の樹立・分化技術の著しい発展により、ヒト由来の神経系細胞を多様かつ選択的に作製することが可能になっている。さらに、生体内と同様の細胞活性の獲得、および細胞の配置や配分比率の制御を目的として、培養細胞を三次元的に組み立てる技術が盛んに研究されており、移植組織の細胞組成や構造をデザインする技術が確立されつつある。
【0003】
一方、移植後の組織の状態をモニタリングする技術は十分に開発されておらず、とりわけ移植組織とホスト組織(移植先の生体(ホスト)が内生的に有する組織)との間で適切な神経ネットワークが再建されているかはほとんど明らかになっていない。移植組織とホスト組織を構成する神経細胞間の結合形成を検証した例として、光遺伝学的手法により光応答性を付加した細胞をモデル動物に移植する技術は存在するものの(非特許文献1)、ネットワークの機能を担う神経細胞ごとの電気活動を十分な時空間分解能で取得することは難しい。また、非特許文献1の技術は、遺伝子操作を含むため、ヒトのホスト組織に適用することは困難である。
【0004】
より時空間的な情報を精密に取得するためには、細胞に接触させた電極から電気刺激印可および電気活動計測を行う電気生理的な手法が適する。電気生理的な手法は、イメージングによる観察手法と比べると時間分解能が高く、さらに電極を多点化することで空間情報を把握することも可能であり、ネットワークの機能を評価する目的に適している。そのため、脳や脊髄への電極の埋植に向けて、従来の金属電極と比べて生体適合性の高い電極・基板素材を用いた種々の計測デバイスの開発が精力的に進められている。近年では、イメージングと併せた評価に向けた素材として、生体適合性と導電性に加えて光透過性の高いグラフェンにより構成された電極が注目されている(非特許文献2)。非特許文献2には、芳香環を多く有する高分子材料であるポリパラキシレン(パリレン)にグラフェンを転写して作製された電極素子が開示されている。非特許文献2では、前記のような電極素子を生体内に埋め込むことで、生体組織の電気信号を計測することが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. P. Weick et al., Human embryonic stem cell-derived neurons adopt and regulate the activity of an established neural network. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2011, 108, 20189-20194
【非特許文献2】D. W. Park, et al., Graphene-based carbon-layered electrode array technology for neural imaging and optogenetic applications. Nat. Comm. 2014, 5, 5258-1-22.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献2に記載の技術では、生体組織の移植と両立する場合、組織移植の後に電極を埋植するために生体への侵襲性が高いことに加えて、移植組織とホスト組織とをそれぞれ狙って選択的に電極を組織に接着させることが技術的に不可能であるという課題がある。特に、移植組織を構成する神経細胞が遊走性を有する場合、移植組織と電極との接触を維持することが困難であり、移植組織とホスト組織との結合形成の過程を経時的に評価することができない。
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、細胞を内包化させることができ、生体内に埋植することが可能な電極、及びその製造方法、並びに当該電極の製造に用いる積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、内部空間を有する電極であって、前記電極は導電性材料を含む層(導電層)を有する膜を含み、前記内部空間は、前記膜が湾曲することにより形成されている、電極である。
本発明の一態様は、上記の電極であって、前記内部空間に細胞が存在していることを特徴とする。
本発明の一態様は、上記の電極であって、前記膜は、前記内部空間と前記電極の外部空間とを連通する孔を有することを特徴とする。
本発明の一態様は、上記の電極であって、前記電極の形状が筒状であることを特徴とする。
本発明の一態様は、上記の電極であって、前記筒状の形状は、前記筒の片端又は両端が、閉鎖されていることを特徴とする。
本発明の一態様は、上記の電極であって、前記膜は、高分子化合物を含む層(高分子化合物層)をさらに有することを特徴とする。
本発明の一態様は、上記の電極であって、前記高分子化合物層及び前記導電層が、光透過性を有する材料で構成されることを特徴とする。
本発明の一態様は、上記の電極であって、前記導電性材料が、導電性炭素材料であることを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様は、電極の製造方法であって、(a)高分子化合物を含む層(高分子化合物層)と、導電性材料を含む層(導電層)と、を有する膜を形成する工程と、(b)前記膜の厚み方向の歪みの勾配を駆動力として、前記膜に、自己組織的に三次元湾曲形状を形成させる工程と、を有することを特徴とする、電極の製造方法である。
本発明の一態様は、上記の電極の製造方法であって、さらに、前記工程(a)の後かつ前記工程(b)の前に、(c)前記膜の表面に、細胞を存在させる工程を有することを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様は、基板と、前記基板上に積層された犠牲層と、前記犠牲層上に積層された導電性材料を含む層(導電層)と、前記導電層上に積層された高分子化合物を含む層(高分子化合物層)と、を有する積層体である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、細胞を内包化させることができ、生体内に埋植することが可能な電極、及びその製造方法、並びに当該電極の製造に用いる積層体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一態様に係る電極の一例を示す斜視図である。(a)は、筒状の電極(筒状電極)の内部空間に細胞が内包化された状態を示す斜視図である。(b)は、細胞を内包する筒状電極(細胞内包化筒状電極)が、複数個アセンブリされた構造体を示す。細胞内包化電極間で、神経突起21を介した三次元的な神経ネットワークが形成されている例である。(c)は、細胞内包化筒状電極をヒト脳組織に移植した例を示す概略図である。
図2】本発明の一態様に係る電極の製造方法の一例を説明する概略図である。図2は、細胞内包化筒状電極の製造方法の一例を説明するものである。
図3】グラフェン層(導電層)上にパリレン層(高分子化合物層)が積層された積層構造を有する膜(グラフェン−パリレン電極膜)の位相差顕微鏡像である。膜は、縦600μm×横300μmの長方形パターンに加工されている。(a)は孔なし、(b)は直径8μmの孔が50μm間隔で形成されたもの、(c)は直径8μmの孔が25μm間隔で形成されたもの、(d)は直径15μmの孔が50μm間隔で形成されたものである。
図4】グラフェン−パリレン電極膜の自己組織的な湾曲に伴う初代培養神経細胞の内包化過程を示す位相差顕微鏡像である。EDTA添加後から0秒後(t=0s)、4秒後(t=4s)、8秒後(t=8s)、12秒後(t=12s)、16秒後(t=16s)、20秒後(t=20s)の位相差顕微鏡像を示す。
図5】グラフェン−パリレン電極膜により形成される筒状電極に細胞が内包化された細胞内包化筒状電極をタイムラプス撮影した位相差顕微鏡像である。(a)は孔を有さない電極であり、(b)は直径8μmの孔を有する電極である。図中の矢尻は、代表的な神経突起を示す。
図6】筒状電極の自己組立て前後の電気的特性の変化を示す図である。(1)〜(4)は、本発明の一態様である電極の作製プロセスを示す。(5)は、(1)〜(4)のプロセスにより作製された電極について、自己組立て前(乾燥状態、水中)、及び自己組立て後(EDTA溶液添加後、純水に置換後)のI−V曲線を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一又は対応する符号を付し、重複する説明は省略する。なお、各図における寸法比は、説明のため誇張している部分があり、必ずしも実際の寸法比とは一致しない。
【0014】
<電極>
本発明の一態様に係る電極は、内部空間を有する電極であって、前記電極は、導電性材料を含む層(導電層)を有する膜を含み、前記内部空間は、前記膜が湾曲することにより形成されている、電極である。
以下に、本発明の好ましい一態様を示す図面を挙げ、本態様に係る電極について説明する。
【0015】
図1(a)は、本発明の一態様にかかる電極の一例を示す斜視図である。電極100は、導電性材料を含む層(導電層10)を有する膜101(以下、「電極膜101」という。)により構成されている、電極膜101は、三次元湾曲形状を有し、電極膜101が湾曲することにより、電極100の内部空間が形成されている。図1(a)の例では、電極100の内部空間内には細胞2が存在しており、電極100は、細胞が内包化された電極(以下、「細胞内包化電極」という場合がある。)となっている。
【0016】
≪電極≫
電極100は、導電層10を有する電極膜101から構成されている。電極膜101は、三次元湾曲形状を有しており、それにより電極100には内部空間が形成されている。図1(a)の例では、電極膜101は、導電層10に加えて、高分子化合物層11を含む。図1(a)に示すように、電極膜101は、導電層10に、高分子化合物層11が積層された構造となっている。すなわち、導電層10が外側に、高分子化合物層11が内側に配置されている。
図1(a)に示す電極100では、電極膜101において、導電層10と高分子化合物層11とが、隣接して配置されている。本態様にかかる電極において、導電層10と高分子化合物層11とは、必ずしも隣接している必要はないが、少なくとも三次元湾曲形状を形成する部分では、導電層10と高分子化合物層11とが隣接していることが好ましい。導電層10と高分子化合物層11とは、3次元湾曲形を形成する部分において密着していることがより好ましい。
【0017】
図1(a)に示す電極膜101は、導電層10及び高分子化合物層11をそれぞれ1層ずつ有しているが、本態様にかかる電極膜は、図1(a)の例に限定されない。例えば、図1(c)に示す電極膜201のように、2つの導電層10a及び導電層10bの間に高分子化合物層11が配置される構成であってもよい。
【0018】
電極100は、三次元湾曲形状を有している。ここで、電極が「三次元湾曲形状を有する」とは、電極の構造の少なくとも一部が、三次元的に湾曲した形状となっていることをいう。例えば、図1(a)の例では、電極100は、構造全体が、筒状に湾曲した形状(筒状形状)となっている。筒状形状は、電極100が有し得る三次元湾曲形状の好ましい例である。しかしながら、電極100が有し得る三次元湾曲形状は、図1(a)の例に限定されず、例えば、構造の一部のみが三次元的に湾曲した形状をとるものでもあってもよい。また、例えば、生体組織様構造など様々な三次元湾曲形状とすることができる。電極100は、導電層10及び高分子化合物層11の厚さ及び形状を変化させることで、様々な三次元湾曲形状を有するものを設計することができる。三次元湾曲形状の例としては、例えば、球状、回転楕円体等が挙げられるが、これらに限定されない。また、筒状形状は、円形状の横断面を有するものに限定されず、楕円形状、多角形状(三角形状、四角形状、五角形状、六角形状など)等の横断面を有するものであってもよい。電極100が有する内部空間の形状は、前記三次元湾曲形状に応じて変化し、例えば、円柱状、球状、回転楕円形状、多角柱形状、多角錐形状、円錐形状等が例示される。
【0019】
電極100の大きさは、特に限定されず、電極100の用途に応じて適宜設定することができる。例えば、電極100に細胞2を内包化する場合であって、細胞2の短軸方向の長さが10μmである場合、電極100の横断面の内径は10μmよりも大きいことが好ましく、20μm以上であることがより好ましい。電極100の横断面の内径としては、例えば、20〜200μm、20〜100μm、又は20〜70μm等が例示される。
電極100の長さ方向の大きさは、特に限定されず、電極100の用途に応じて適宜設定することができる。例えば、電極100に細胞2を内包化する場合、細胞2を内包可能な大きさであればよく、細胞2の長軸方向の長さ以上であることが好ましい。電極100の長さ方向の大きさとしては、例えば、20〜10000μm、20〜2000μm、又は200〜2000μm等が例示される。
電極100の大きさは、電極100の用途に応じて適宜設計することができる。電極100の内部空間に細胞2を存在させる場合には、細胞2の大きさ及び細胞数に応じて、適宜、電極100の形状及びサイズを設計することができる。また、内部空間に細胞2を存在させた電極100を移植用組織として用いる場合には、当該移植用組織の目的に応じて、適宜、電極100の形状及びサイズを設計することができる。
【0020】
電極100の形状が筒状である場合、当該筒の片端又は両端は閉鎖されていてもよい。筒の片端又は両端を閉鎖する方法は、特に限定されず、例えば、適切な材料を用いて筒の開口端に栓をして閉鎖してもよい。電極100の内部空間に細胞2を入れ、電極100の片端又は両端を閉鎖することにより、電極100の内部空間から外部空間への細胞2の移動を抑制することができる。
【0021】
(導電層)
導電層10は、導電性材料を含む層である。導電層10に用いられる導電性材料は、導電性を有するものであれば特に限定されないが、薄膜形状に加工が可能なナノマテリアル(少なくとも一次元が100nm以下の材料)であることが好ましい。また、溶液中に浸漬された際に大きな体積変化を誘導しない材料が好ましく、光透過性及び生体適合性の高い材料であることがより好ましい。さらに、導電性材料は、高分子化合物層11に含まれる高分子化合物と、π−π相互作用をする物質であることが好ましい。そのような物質を選択することにより、導電層10と高分子化合物層11との密着性を高めることができる。
導電性材料としては、例えば、グラフェンやカーボンナノチューブなどの導電性炭素材料や二硫化モリブデンなどの平面状物質等が挙げられる。その中でも、導電性材料は、導電性炭素材料を含むことが好ましく、グラフェンを含むことがより好ましい。導電層10に含まれる導電性材料は、1種であってもよく、2種以上であってもよいが、1種であることが好ましい。好ましい態様において、導電層10は、グラフェンから構成されてもよく、カーボンナノチューブをシート状に加工したバッキーペーパーから構成されてもよい。
【0022】
導電層10は、単層又は複数層の導電性材料から構成されていてもよい。導電層10が複数層の導電性材料から構成される場合、導電性材料の層数は、特に限定されないが、例えば、2〜30層、2〜20層、2〜10層又は2〜5層等が例示される。導電層10は、1〜30層の導電性炭素材料から構成されることが好ましく、電極膜101の透明性を保つためには、導電層10は、1〜4層の導電性炭素材料から構成されることがより好ましい。導電層10は、1〜30層のグラフェンから構成されることがさらに好ましく、電極膜101の透明性を保つためには、導電層10は、1〜4層のグラフェンから構成されることが特に好ましい。導電層10がグラフェンから構成される場合、多結晶グラフェンであっても単結晶グラフェンであってもよいが、湾曲形状の方向制御の観点から、単結晶グラフェンが好ましい。
【0023】
中でも、導電性材料としては、グラフェンが好ましい。グラフェンは、生体適合性が高いため、電極100を生体内に埋植した場合に、埋植後の炎症を引き起こしにくい。また、透明性が高いため、イメージングを併せた評価も可能となる。グラフェンの光透過率は97.7%であり、金、銀、銅などの導電性金属材料と比較して、高い光透過性を有する。
【0024】
導電層10の厚みは、0.3〜10nmであることが好ましい。導電層10が複数層の導電性材料から構成される場合、それら複数層を合計した厚みが、導電層10の厚みとなる。導電層10の厚みを前記範囲内とし、高分子化合物層11の厚みを後述する所定の範囲内とすることにより、電極膜101に、自己組織的に三次元湾曲形状を形成させることができる。安定な三次元湾曲形状形成の観点から、導電層10の厚みは、0.3〜7nmであることが好ましく、0.3〜5nmであることがより好ましく、0.3〜1.2nmであることがさらに好ましい。前記範囲内で、高分子化合物層11の厚みに対する導電層10の厚みの比率を制御することにより、任意の三次元湾曲形状を有する電極100を得ることができる。例えば、高分子化合物層11の厚みに対する導電層10の厚みを増すことにより、三次元湾曲形状の曲率半径を小さくすることができる。
【0025】
電極膜が、図1(c)に示す電極膜201のように、2つの導電層10a,10bの間に高分子化合物層11が配置された構成を有する場合、外側の導電層10aの厚みは、0.3〜7nmであることが好ましく、0.3〜1.2nmであることがより好ましい。内側の導電層10bの厚みは、0.3〜7nmであることが好ましく、0.3〜1.2nmであることがより好ましい。
外側の導電層10aと内側の導電層10bとの厚みの比率(導電層10aの厚み/導電層10bの厚み)は、1〜10の範囲であることが好ましく、2〜4の範囲であることがより好ましい。
【0026】
(高分子化合物層)
電極膜101は、前記導電層10に加えて、高分子化合物層11を有することが好ましい。高分子化合物層11は、芳香環を有する高分子化合物を含む層であることが好ましい。高分子化合物層11に用いられる高分子化合物は、分子内に芳香環を多く有し、導電層10に含まれる導電性材料とπ−π相互作用をするものが好ましい。そのような高分子化合物を用いることにより、高分子化合物層11の導電層10に対する密着性が高くなる。また、高分子化合物層11は、光透過性が高く、生体適合性の高い材料で構成されることが好ましく、細胞毒性のない高分子化合物を用いることがより好ましい。そのような高分子化合物としては、例えば、ポリパラキシレン又はその誘導体等が挙げられる。ポリパラキシレンの誘導体としては、例えば、ハロゲン化パラキシレン(クロロパラキシレン、フルオロパラキシレンなど)のポリマー等が挙げられる。
【0027】
中でも、高分子化合物としては、ポリパラキシレンが好ましい。ポリパラキシレンは、生体適合性が高いため、電極100を生体内に埋植した場合に、埋植後の炎症を引き起こしにくい。また、透明性が高いため、イメージングを併せた評価も可能となる。また、ポリパラキシレンの薄膜は、柔軟かつ堅牢であるため、ナノメートルレベルの薄膜であっても、電極100の三次元湾曲構造を維持することができる。
加えて、ポリパラキシレンは、絶縁性が高いため、図1(c)に示すように、2つの導電層10a,10bの間に高分子化合物層11を配置する構成とした場合に、導電層10a及び導電層10bにおける導通を防ぐことができる。そのため、図1(c)において、電極200に内包された細胞2及びホスト組織3の電気活動をそれぞれ選択的に計測することができるとともに、細胞2及びホスト組織3にそれぞれ選択的に電気刺激を与えることができる。
ポリパラキシレンは、グラフェンとの密着性が高いため、導電層10の導電性材料としてグラフェンを用いた場合に特に好適に用いることができる。導電層10にグラフェンを用い、高分子化合物層11にポリパラキシレンを用いることにより、剥離や断裂が生じにくくなり、導通性を失うことなく所望の三次元湾曲形状を形成することができる。
【0028】
高分子化合物層11に含まれる高分子化合物は、1種であってもよく、2種以上であってもよいが、1種であることが好ましい。
【0029】
高分子化合物層11の厚みは、10〜900nmであることが好ましい。高分子化合物層11が複数層の薄膜から構成される場合、それら複数層の薄膜を合計した厚みが、高分子化合物層11の厚みとなる。高分子化合物層11の厚みを前記範囲内とし、導電層10の厚みを上述の所定の範囲内とすることにより、電極膜101に、自己組織的に三次元湾曲形状を形成させることができる。安定な三次元湾曲形状形成の観点から、高分子化合物層11の厚みは、40〜400nmであることが好ましく、50〜250nmであるであることがより好ましい。前記範囲内で、導電層10の厚さに対する高分子化合物層11の厚さの比率を制御することにより、任意の三次元湾曲形状を有する電極100を得ることができる。例えば、導電層10の厚みに対する高分子化合物層11の厚みを増すことにより、三次元湾曲形状の曲率半径を大きくすることができる。
【0030】
導電層10と高分子化合物層11との厚みの比率(導電層10の厚み/高分子化合物層11の厚み)は、1/3000〜1/1の範囲であれば特に限定されないが、1/1200〜1/4であることがより好ましい。導電層10と高分子化合物層11との厚みの比率を前記範囲内とすることにより、安定した三次元湾曲形状を形成することができる。
【0031】
電極膜が、図1(c)に示す電極膜201のように、2つの導電層10a,10bの間に高分子化合物層11が配置された構成を有する場合、高分子化合物層11の厚みは、40〜400nmであることが好ましく、50〜250nmであることがより好ましい。
外側の導電層10aと高分子化合物層11との厚みの比率(導電層10aの厚み/高分子化合物層11の厚み)は、1/3000〜1/1の範囲であることが好ましく、1/1200〜1/4の範囲であることがより好ましい。内側の導電層10bと高分子化合物層11との厚みの比率(導電層10bの厚み/高分子化合物層11の厚み)は、1/3000〜1/1の範囲であることが好ましく、1/1200〜1/4の範囲であることがより好ましい。
【0032】
(孔)
電極膜101は、電極100の内部空間と電極100の外部空間とを連通する孔12を有していてもよい。電極膜101が孔12を有する場合、孔12は、電極膜101を貫通する孔である。電極膜101が孔12を有することにより、電極100の内部空間と外部空間との間の物質交換が可能となる。また、電極100の内部空間に細胞2が内包されている場合、細胞2は、孔12を介して、外部空間にアクセスすることができる。電極100の内部空間に存在する細胞が電極の外部空間にアクセスするとは、前記細胞が、該孔を介して、電極の外部空間(外部環境)に作用すること又は外部空間(外部環境)の影響を受けることを意味する。細胞2が電極100の外部空間にアクセスすることの具体例としては、例えば、細胞2が、該孔12を介して、電極100の外部空間から物質を取り込むこと、外部空間に物質を排出すること、外部空間の物質と接触すること、外部空間の細胞と相互作用すること、神経突起等の細胞の一部を外部空間まで伸長させること等が挙げられる。
【0033】
図1(a)に示す電極100は、導電層10及び高分子化合物層11を貫通する孔12を有している。電極100に内包される細胞2は、細胞体20及び神経突起21を備え、神経突起21が孔12を通過して電極100の外部に伸長している。
【0034】
孔12の形状は、特に限定されず、任意の形状とすることができる。孔12の横断面形状としては、例えば、円形状、楕円形状、多角形状(三角形、四角形、六角形など)等が挙げられるがこれらに限定されない。孔12としては、形成の容易性等から、円形状又は楕円形状が好ましい。
孔12の内径は特に限定されず、目的に応じて適宜設定することができる。孔12の内径は、孔12を通過させたい物体よりも大きいことが好ましく、孔12を通過させたくない物体よりも小さいことが好ましい。例えば、電極膜101が細胞2を内包する場合、孔12の内径は、細胞2の短軸方向の長さよりも小さいことが好ましい。例えば、細胞2の細胞体20の短軸方向の長さが約10μmである場合、孔12の内径は10μm未満とすることが好ましい。また、直径0.1〜2μmの神経突起21が孔12を通過するようにする場合、孔12の内径は1μm以上とすることが好ましく、3μm以上とすることがより好ましい。孔12の内径としては、例えば、1〜15μm、1〜10μm、又は3〜8μm等が挙げられる。
孔12は、電極膜101の厚み方向の形状又は大きさを変化させてもよい。例えば、孔12は円錐形状としてもよい。例えば、電極100の内部空間から外部空間に向かって孔12の形状をテーパー形状とすれば、電極100の外部空間への神経突起21の伸長を誘導することができる。
例えば、孔12が、電極100の内側から外側方向に窄んだ穴(内側方向の内径>外側方向の内径)である場合には、内側から外側へと神経突起21が伸長しやすくなる。また、孔12の大きさを調整することで、孔12を通過する神経突起21の本数の割合を制御することができる。電極100の内外へ伸長する神経突起21の本数のバランスを介して、電極100の内外の神経組織間を伝わる興奮伝播の割合を調整することができる。
【0035】
孔12の配置は、電極100が三次元湾曲形状を維持することができる限り特に限定されない。孔12の配置は、格子状であってもよく、千鳥状であってもよい。孔12の間隔としては、電極100の三次元湾曲形状を好適に維持する観点から、例えば、隣接する孔12どうしの中心間距離が25〜500μm程度となる間隔が挙げられる。なお、電極100の三次元湾曲形状が維持される限り、電極100がメッシュ状になるように孔12を形成してもよい。
【0036】
電極100が細胞2を内包する場合、電極100が孔12を有することにより、細胞2は、孔12を介して、神経突起21等を外部環境に伸長できる。また、電極100に内包された細胞は、孔12を介して、電極100の外部環境に一酸化窒素やカリウムなどの物質を排出することができ、あるいは酸素や糖分などの物質を外部環境から取り入れることが可能となる。そのため、電極100に内包された状態で、細胞2を長期間培養することができる。
【0037】
≪細胞≫
電極100は、その内部空間に、細胞2が存在していることが好ましい。すなわち、電極100は細胞内包化電極であることが好ましい。細胞内包化電極は、生体への移植組織として用いることができ、かつ生体内で移植組織及びホスト組織の電気活動をモニタリングすることができる。
【0038】
図1(a)に記載の電極100は、細胞2を内包している。図1(a)の例では、細胞2は、細胞体20及び神経突起21を有する神経細胞である。神経突起21は、神経細胞の樹状突起及び軸索のいずれであってもよい。図1(a)の例では、細胞2は神経細胞であるが、細胞2は神経細胞に限定されず、他の種類の細胞であってもよい。
細胞2は、動物細胞であってもよく、植物細胞であってもよいが、動物細胞であることが好ましい。動物細胞としては、哺乳類細胞が好ましい。哺乳類細胞としては、ヒト細胞、ヒト以外の哺乳類の細胞が挙げられる。ヒト以外の哺乳類の細胞としては、霊長類細胞(チンパンジー、ゴリラ、サルなど)、家畜動物の細胞(ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマなど)、げっ歯類の細胞(マウス、ラット、モルモット、ハムスターなど)、ペット類の細胞(イヌ、ネコ、ウサギなど)が挙げられる。
細胞2の細胞種は特に限定されず、生体内のいかなる細胞であってもよいが、例えば、神経細胞、グリア細胞、心筋細胞、線維芽細胞、血管上皮細胞等が例示される。本実施形態の電極100に細胞を内包化し、移植用の神経組織とする場合、細胞2の好ましい例としては、神経細胞及びグリア細胞が挙げられる。細胞2は、1種類の細胞であってよく、複数種類の細胞の混合物であってもよい。細胞の混合物としては、例えば、神経細胞及びグリア細胞の混合物が好ましく例示される。
【0039】
電極100の三次元湾曲形状の内部空間に内包される細胞2の数は、特に限定されず、電極100の三次元湾曲形状の内部空間の大きさに応じた任意の数であってよい。細胞2は、電極100に内包されたまま培養可能であり、電極100の内部空間内で増殖し得る。そのため、最初に内包される細胞2の数に関わらず、培養を続けることにより、電極100の内部空間を適正な数の細胞2で満たすことができる。
【0040】
細胞2は、電極100の内部空間に存在している。「細胞が電極の内部空間に存在している」とは、電極膜によって形成される三次元湾曲形状の内部空間に、細胞の少なくとも一部が存在していることを意味し、細胞全体が前記内部空間に存在している必要はない。例えば、図1(a)に示すように、細胞体20が電極100の内部空間に存在し、神経突起21が電極100の外部環境に伸長している状態も、「細胞が電極の内部空間に存在している」状態に包含される。
【0041】
(その他の構成)
電極100は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記導電層10、及び高分子化合物層11に加えて、その他の構成を有していてもよい。その他の構成としては、例えば、タンパク質層、金属層等が挙げられる。
【0042】
・タンパク質層
電極100は、タンパク質層を備えていてもよい。タンパク質層とは、タンパク質を主成分として含む層である。タンパク質層は、電極100において、例えば、最内層及び最外層のいずれか又は両方に配置されてもよい。
タンパク質層を構成するタンパク質としては、例えば、フィブロネクチン、コラーゲン、ラミニンなどの細胞外マトリクスが挙げられるがこれらに限定されず、電極100の用途、細胞2の種類、移植先のホスト組織に応じて、適宜選択すればよい。タンパク質層を設けることにより、電極100に任意の機能を付与することができる。例えば、タンパク質として、前記のような細胞外マトリクスを用いた場合、細胞2又はホスト組織の細胞と電極100との接着性を向上させることができる。
【0043】
・金属層
電極100は、金属層を備えていてもよい。金属層は、金属元素を含む層である。電極100の電気的な特性を評価する際、特にプローブを用いて端点に導通を取る場合に、導電層10としてグラフェン単層膜等を用いると導電層10に直接プローブの先端を密着させることが難しい。電極100が金属層を有することで、プローブによる剥離に耐え得る機械的強度を電極100に付与することができ、電極の形状を保存することができる。金属層に含まれる金属元素は、金属電極として通常用いられるものであれば特に限定されないが、例えば、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、イリジウムなどの貴金属等が挙げられる。金属層の厚みは、特に限定されないが、例えば、10nm〜100μmであることが好ましい。電極100が金属層を含む場合、金属層は、三次元湾曲形状を有しない部分に配置されることが好ましい。
【0044】
電極100において、三次元湾曲形状を有する部分の電極膜101全体の厚み(導電層10、高分子化合物層11を合わせた合計の厚み)は、後述する製造工程における屈曲を妨げないようにするために、10〜500nm程度であることが好ましい。
電極100の好ましい具体例としては、導電層10がグラフェンから構成され、高分子化合物層11がポリパラキシレン又はその誘導体から構成されており、かつ導電層10と高分子化合物層11とが隣接しているものが挙げられる。グラフェンとポリパレキシレン又はその誘導体とは、特に密着性が高いため、前記のような構成とすることで、三次元湾曲形状部分においても、剥離や横滑り、断線等の発生を抑制することができる。また、電極100の好ましい具体例としては、その内部空間に細胞2が存在しているものが挙げられ、中でも、細胞2は、神経細胞、グリア細胞又は神経細胞及びグリア細胞の混合物であることが好ましい。さらに、電極膜101が孔12を有していることが好ましい。
【0045】
≪使用例≫
図1(b)は、複数の筒状の電極100a〜100cがアセンブリされた構造体を示す。電極100a〜100cの内部空間には、それぞれ、神経細胞である細胞2a〜2cが存在している。複数の電極100a〜100cをアセンブリすることで、電極100a〜100cにそれぞれ内包される細胞2a〜2cの間で三次元的なネットワークを形成させることができる。図1(b)では、電極100a〜100cの孔12a〜12cから、神経突起21a〜21cが伸長して相互に連結し、三次元的な神経ネットワークが形成されている。
【0046】
図1(c)は、細胞内包化電極をヒト脳組織に移植した例を示す概略図である。図1(c)に示す細胞内包化電極200は、2つの導電層10a,10bとその間に挟まれた高分子化合物層11とからなる電極膜201に、細胞2が内包された構成となっている(図1(c)右図参照)。ヒト脳組織(ホスト組織3)に移植された細胞内包化電極200に内包される細胞2は、電極膜201に形成された孔12を介して、神経突起21をホスト組織3に伸長している。ホスト組織3内の神経細胞30もまた、孔12を介して、細胞内包化電極200の内部空間に神経突起32を伸長している。そして、神経突起21,32を介して、細胞2とホスト組織3の神経細胞30との間でシナプス結合が形成されている。ホスト組織3の電気活動は、外側の導電層10aにより計測することができ、細胞内包化電極200に内包される細胞2の電気活動は内側の導電層10bにより計測することができる。導電層10a及び導電層10bでそれぞれ計測された電気信号を、増幅してA/D変換し、外部記録装置で計測データを記録するようにしてもよい。
【0047】
本実施態様にかかる電極では、移植組織を構成する細胞を電極に内包させることで、当該細胞内包化電極を生体内に移植した場合に、移植組織の電気活動の計測及び移植組織への電気刺激の両方が可能となる。さらに、電極膜を2つの導電層で高分子化合物層を挟んだ構成とすることで、移植組織及びホスト組織のそれぞれに電極を接触させることができ、移植組織及びホスト組織の電気活動の計測、及び移植組織及びホスト組織の電気刺激をそれぞれ選択的に行うことが可能となる。
【0048】
本実施態様にかかる電極では、移植細胞を電極の内部空間に内包させることで、細胞の遊走による細胞−電極間接触の消失を抑制することができる。そのため、移植細胞の活動を長期間に亘って安定的に計測することができる。これにより、移植組織がホスト組織に結合して組織を回復する過程を長期間に亘ってモニタリングし、評価することが可能となる。
さらに、移植組織と電極とを別々に埋植する必要がないため、埋植の手術が1度で済み、結果として侵襲性が低減される。また、光遺伝学的手法等の遺伝子操作を伴うイメージング技術と異なり、遺伝子操作の必要がないため、ヒトに対しても適用可能である。
【0049】
本実施態様にかかる電極では、電極の内部空間に存在する液体中での物質拡散が低減される。神経細胞の電気活動により生じる細胞外の電位変化を電極により計測する場合、物質が拡散しにくい環境下ではイオン電流の漏出が防がれるため振幅の大きな信号を得ることができる。加えて、本実施態様にかかる電極では、電極の内部空間に細胞を内包させた状態でホスト組織に移植することができるため、電極と細胞の接触状態が良好である。そのため、本実施態様の電極では、典型的な挿入型の電極を用いた場合と比べて、S/N比の高い信号を得ることができる。
【0050】
本実施態様にかかる電極は、三次元的な組織を組み立てる足場としても使用することができる。機能的な移植組織を構築するためには、多種類の神経系細胞により構成される三次元組織を組み立てるための足場が必要である。本実施態様の電極は、マイクロマニュピレータにより操作が可能であるため、複数の細胞内包化電極をアセンブリする(組み立てる)ことで、多様なデザインの移植組織を構築することができる。特に、本実施態様にかかる細胞内包化電極として、孔を有するものを用いることにより、複数の細胞内包化電極を組み合わせて任意の構造の神経ネットワークを持つ三次元的な移植組織を形成することができる。
【0051】
本実施態様にかかる細胞内包化電極が孔を有するものである場合、電極に内包された細胞は、前記孔を介して、外部環境にアクセスすることができる。例えば、孔を介して、神経突起の伸長、グリア細胞の遊走、及び電極の内部環境と外部環境との物質交換が可能となるとともに、電極の壁面により神経細胞の遊走を阻むことができる。そのため、例えば、内包細胞が神経細胞である場合、神経細胞を電極の内部空間に留めたまま、孔を介して、神経突起を外部環境に伸長させることができる。また、外部環境中の神経細胞も、孔を介して、電極の内部空間に神経突起を伸長させることができる。これにより、電極の内外の組織におけるシナプス形成を実現できる。また、電極に内包される細胞の壊死等を抑制することができる。
【0052】
また、電極膜に存在する孔の大きさを制御することにより、細胞内包化電極に内包された細胞の遊走、神経突起伸長、電極の内外での物質交換(物質の放出・取り込み)といった条件を制御することができる。そのため、本実施態様の電極は、移植組織としての応用だけではなく、移植の効果を評価するための実験系としての応用も可能である。細胞移植による生体への効果は、移植細胞が放出するサイトカイン、及び移植細胞とホスト組織の細胞との接触を介する相互作用に大きく分けられるが、それぞれの影響の大きさはほとんど分かっていない。 本実施態様の細胞内包化電極において孔の大きさを種々変化させることによりは、移植細胞が生体に与える影響を評価するための実験系としての適用が可能である。
【0053】
本実施態様の電極において、導電層をグラフェンで構成し、高分子化合物層をポリパラキシレンで構成した場合、グラフェン及びポリパラキシレンは生体適合性の高い材料であるため、生体内に埋植しても炎症反応を起こしにくい。従来の金属電極では、生体内に埋植した場合、炎症反応により電極周囲に形成されるグリア瘢痕が電極と細胞との接触を阻み、電極による計測シグナルを消失させることが問題となっていた。本実施態様の電極では、特にグラフェン及びポリパラキシレンを用いることにより、生体内に埋植した後の炎症反応を抑制することができ、電極と細胞との接触が維持される。そのため、生体内に埋植後も、長期的に、移植細胞の電気活動を計測することができる。
【0054】
<電極の製造方法>
本発明の一態様にかかる電極の製造方法は、(a)高分子化合物を含む層(高分子化合物層)と、導電性材料を含む層(導電層)と、を有する膜を形成する工程と、(b)前記膜の厚み方向の歪みの勾配を駆動力として、前記膜に、自己組織的に三次元湾曲形状を形成させる工程と、を有する。本実施態様の伝教の製造方法は、さらに、前記工程(a)の後かつ前記工程(b)の前に、(c)前記膜の表面に、細胞を存在させる工程を有することが好ましい。以下に、本発明の好ましい一態様を示す図面を挙げ、本発明の電極の製造方法について説明する。
【0055】
図2は、本発明の一態様に係る電極の製造方法の概略を示す図である。
まず、導電層10と高分子化合物層11とを含む膜302(以下、「電極膜302」という)を形成する(図2(a)〜(g):工程(a))。図2(a)〜(g)の例では、基板14上に犠牲層13を形成し、犠牲層13上に導電層10および高分子化合物層11を積層して電極膜302を形成している。
次いで、電極膜302の表面に、細胞2を存在させる(図2(h):工程(c))。
次いで、電極膜302の厚み方向の歪みの勾配を駆動力として、電極膜302に、自己組織的に三次元湾曲形状を形成させる(図2(i)〜(j):工程(b))。図2(i)〜(j)の例では、導電層10と高分子化合物層11とが互いに密着、接合することにより、電極膜302の厚み方向に応力分布が形成されており、犠牲層13を分解して電極膜302を基板14から遊離させることで、電極膜302の面内方向に歪みの勾配が形成される(図2(i))。この歪みの勾配を駆動力として、導電層10及び高分子化合物層11が互いに密着したまま屈曲し(図2(i))、三次元湾曲形状が自己組織的に組み立てられる(図2(j))。屈曲時に、電極膜302は、表面に存在する細胞2を内包しながら三次元湾曲形状を形成するため、三次元湾曲形状の内部空間に細胞2が内包された電極300を得ることができる。
以下、本実施態様に係る電極の製造方法の各工程について説明する。
【0056】
[工程(a)]
工程(a)は、高分子化合物層と、導電層と、を有する膜(積層体)を形成する工程である。
【0057】
高分子化合物層と導電層とを有する膜を形成する方法は、特に限定されないが、例えば、基板及び犠牲層を利用する方法が挙げられる。図2(a)〜(g)の例では、基板14上に犠牲層13を形成し(図2(a)〜(b))、次いで犠牲層13上に導電層10を形成し(図2(c))、次いで導電層10上に高分子化合物層11を形成することにより(図2(d))、電極膜302を形成している。基板14及び犠牲層13上に電極膜302を形成することで、二次元平面構造を維持した状態で電極膜302を形成することができる。
【0058】
(基板)
基板14は、電極膜302の形成の便宜のために用いられるものであり、材質は特に限定されない。基板14の材料としては、表面の平坦性が高いものが好ましい。また、本実施態様の方法で製造される電極を基板上に保持したまま細胞を内包させて蛍光顕微鏡等による観察を行う場合には、蛍光顕微鏡による細胞の蛍光強度観察を妨げないものや、光学特性として波長の吸収帯が導電層10に重複しないものが好ましい。
基板14の材料としては、例えば、シリコン、ソーダガラス、石英、酸化マグネシウム、及びサファイア等が挙げられる。
基板14の厚みは、特に限定されないが、50〜200μm程度が好ましい。
基板14の具体例としては、例えば、100μm程度の厚みを有するガラス基板等が挙げられる。
【0059】
(犠牲層)
犠牲層13は、上記導電層10及び高分子化合物層11からなる電極膜302を、基板14から遊離するための一時的な接着層としての役割を有する。犠牲層13を構成する材料は、化学物質、温度変化、及び光照射などの外部からの刺激に応答して溶解する性質を有する材料であれば、特に限定されない。犠牲層13としては、例えば、物理ゲルの1種であるアルギン酸カルシウムゲルなどが利用可能である。アルギン酸カルシウムゲルは、クエン酸ナトリウムやエチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのキレート剤、又はアルギナーゼと呼ばれる酵素などを添加することで、アルギン酸カルシウムゲルがゲルからゾルへ転移して溶解する。犠牲層13が外部刺激に応答して溶解する性質を有することで、後述する工程(c)において、犠牲層13を溶解することにより基板14から電極膜302を遊離させ、電極膜302に自己組織的に三次元湾曲形状を形成させることができる。前記クエン酸ナトリウムやエチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのキレート剤は、細胞などの生体試料に対して毒性を示さないため、犠牲層13の溶解作業の直前に目的の細胞を懸濁することで細胞の内包化が可能となる。
【0060】
その他にも、犠牲層13としては、外部刺激に応答して溶解する性質を有する材料であれば、合成高分子や生体高分子などの種類に限定されず利用が可能である。例えば、エッチング液により溶解可能な金属薄膜、温度変化によりゲル−ゾル転移を誘導できるポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、及び紫外線照射によりゲル−ゾル転移を誘導できるフォトレジスト類などが好適に挙げられる。
【0061】
犠牲層13の厚みは、特に制限されない。犠牲層13の厚みは、例えば、速やかに溶解させる観点から、20〜1000nmとすることができる。
基板14上に犠牲層13を形成する方法は、特に限定されず、犠牲層13の材料に応じて、薄膜形成に一般的に用いられる方法を適宜選択することができる。犠牲層13の形成方法としては、例えば、化学蒸着(CVD)、スピンコーティング、インクジェットプリンティング、蒸着法、エレクトロスプレイ法等が挙げられる。
【0062】
(導電層、高分子化合物層)
導電層10及び高分子化合物層11は、上記「<電極>」の項で記載したものと同様である。
図2(c)及び(d)の例では、犠牲層13上に、導電層10を形成し、前記導電層10上に、高分子化合物層11を形成しているが、形成順序は逆であってもよい。すなわち、犠牲層13上に、高分子化合物層11を形成し、前記高分子化合物層11上に導電層10を形成してもよい。
ここで形成される導電層10の厚みは0.3〜10nmであることが好ましく、0.3〜7nmであることが好ましく、0.3〜1.2nmであることがより好ましい。高分子化合物層11の厚みは10〜900nmであることが好ましく、40〜400nmであることが好ましく、50〜250nmであることがより好ましい。導電層10及び高分子化合物層11の厚みを前記範囲内とすることにより、電極膜302の厚み方向に歪みの勾配を発生させることができる。前記範囲内で導電層10の厚みを大きくすれば、後述の工程(c)で形成される三次元湾曲形状の曲率半径を小さくすることができる。一方。前記範囲内で高分子化合物層11の厚みを大きくすれば、後述の工程(c)で形成される三次元湾曲形状の曲率半径を大きくすることができる。
【0063】
導電層10の形成方法は特に限定されず、水面を用いた転写法、化学気層成長法(CVD)、スピンコーティング、インクジェットプリンティング、熱蒸着法、エレクトロスプレイ法などが利用可能である。例えば、導電層10がグラフェンから構成される場合、銅箔などの金属膜の表面にCVDを用いてグラフェン単層膜を形成し、前記金属膜を溶解して水面上で洗浄を繰り返したのち、前記グラフェン単層膜を犠牲層13又は高分子化合物層11の表面に転写することにより、導電層10を形成することができる。さらに、前記操作を繰り返すことで、複数層のグラフェンからなる導電層10を形成することができる。
【0064】
高分子化合物層11の形成方法は特に限定されず、CVD、スピンコーティングやインクジェットプリンティング、蒸着法、エレクトロスプレイ法などが利用可能である。例えば、高分子化合物層11がポリパラキシレン又はその誘導体から構成される場合、パラキシレン又はその誘導体のダイマをCVDにより成長していくことで、高分子化合物層11を形成することができる。
【0065】
電極が、図1(c)に示す細胞内包化電極200のように、2つの導電層10a,10bの間に高分子化合物層11が挟まれた構成を有する場合、犠牲層13上に導電層10aを形成し、次いで前記導電層10a上に高分子化合物層11を形成した後、前記高分子化合物層11上に導電層10bを形成すればよい。この場合、導電層10aの厚みは0.3〜10nmとすることができ、0.3〜7nmであることが好ましく、0.3〜1.2nmであることがより好ましい。高分子化合物層11の厚みは10〜900nmとすることができ、40〜400nmであることが好ましく、50〜250nmであることがより好ましい。導電層10bの厚みは0.3〜10nmとすることができ、0.3〜7nmであることが好ましく、0.3〜1.2nmであることがより好ましい。
【0066】
(その他の構成)
本工程において形成する電極膜302は、前記導電層10及び前記高分子化合物層11に加えて、その他の構成を含んでいてもよい。その他の構成は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。電極膜302は、その他の構成として、例えば、導電層10及び高分子化合物層11以外のその他の層を含んでいてもよい。その他の層は、当該層を構成する材料に応じて、適宜、厚み及び形成方法等を選択可能である。その他の層としては、例えば、タンパク質層、及び金属層等が挙げられる。
【0067】
電極膜302がタンパク質層を含む場合、前記タンパク質層は、電極膜302の最上層に形成することが好ましい。すなわち、図2の例では、高分子化合物層11上にタンパク質層を形成することが好ましい。タンパク質層を構成するタンパク質としては、上記「<電極>」の項で挙げたものと同様のものが挙げられる。
タンパク質層を形成する方法は特に限定されないが、例えば、タンパク質溶解液又はタンパク質懸濁液に、電極膜302を浸漬する方法等が挙げられる。
【0068】
電極膜302が金属層を含む場合、金属層の厚みは、例えば、10nm〜100μmとすることができる。金属層は、導電層10に隣接して設けることができ、犠牲層13上に導電層10を形成した後、前記導電層10上に金属層を形成してもよい。あるいは、犠牲層13上に高分子化合物層11を形成した後、前記高分子化合物層11上に金属層を形成し、次いで前記金属層上に導電層10を形成してもよい。この場合、後述の工程(b)において三次元湾曲形状を形成させる部分には、金属層を形成しないことが好ましい。
金属層の形成方法は特に限定されず、蒸着法、スパッタ法、直接塗布(例えば、銀ペーストの直接塗布)などの方法が利用可能である。
【0069】
[工程(b)]
工程(b)は、膜の厚み方向の歪みの勾配を駆動力として、前記膜に、自己組織的に三次元湾曲形状を形成させる工程である。
【0070】
膜の厚み方向の歪みの勾配は、それぞれ所定の厚みを有する導電層10と高分子化合物層11とを密着、接合することにより得ることができる。図2の例では、犠牲層13上に、導電層10及び高分子化合物層11を形成することで、電極膜302の厚み方向に歪みの勾配が発生する。ここで、犠牲層13を溶解することにより(図2(i))、前記歪みの勾配を駆動力として、電極膜302に、自己組織的に三次元湾曲形状を形成させることができる(図2(j))。
【0071】
犠牲層13の溶解は、犠牲層13の材料に応じて、適宜行うことができる。例えば、犠牲層13がアルギン酸カルシウムゲルで構成される場合には、クエン酸ナトリウムやエチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのキレート剤、又はアルギナーゼと呼ばれる酵素などを添加することで、犠牲層13を溶解することができる。また、犠牲層13が、エッチング液により溶解可能な金属薄膜であればエッチング液により溶解することができ、温度変化によりゲル−ゾル転移を誘導できるポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)であれば温度変化により溶解することができ、紫外線照射によりゲル−ゾル転移を誘導できるフォトレジスト類であれば紫外線照射により溶解することができる。
【0072】
[工程(c)]
本実施態様にかかる製造方法は、前記工程(a)の後かつ前記工程(b)の前に、(c)前記積層体の表面に、細胞を存在させる工程を有していることが好ましい。
【0073】
図2(h)は、電極膜302の表面に、細胞2を存在させた状態を示す概略図である。細胞2は、電極膜302の表面の垂直位置上のいずれかの位置に存在していればよく、電極膜302の表面上に浮遊していてもよく、電極膜302の表面に接着していてもよい。前記工程(b)により自己組織的に組み立てられる電極300の内部空間に細胞2を内包させるために、電極膜302の表面から細胞2までの距離は、電極膜302の短軸方向の長さの1/2よりも小さいことが好ましい。細胞2は、上記「<電極>」の項で記載したものと同様である。
電極膜302の表面に細胞2を存在させる方法は特に限定されず、任意の方法と用いることができる。電極膜302の表面に細胞2を存在させる方法としては、例えば、細胞2の培養液又は懸濁液を電極膜302の表面に滴下する方法、電極膜302を細胞2の培養液又は懸濁液に浸漬する方法等が挙げられる。
電極膜302の表面に存在させる細胞2の数は、前記細胞2の培養液又は懸濁液中の細胞2の濃度により制御することができる。
【0074】
上記のようにして、電極300を製造することができる。
【0075】
一実施形態において、本実施態様に係る製造方法は、基板上に、犠牲層を形成する工程と、前記犠牲層上に、導電層及び高分子化合物層11を含む膜(積層体)を形成する工程と、前記膜(積層体)の表面に細胞2を存在させる工程と、前記犠牲層を溶解して、前記膜(積層体)の厚み方向の歪みの勾配を駆動力として、前記膜(積層体)に、自己組織的に三次元湾曲形状を形成させる工程を含むものであってもよい。前記の膜(積層体)を形成する工程は、犠牲層上に、高分子化合物層を形成し、前記高分子化合物層上に導電層を形成する工程であってもよく;犠牲層上に、導電層を形成し、前記導電層上に高分子化合物層を形成する工程であってもよく;犠牲層上に、第1の導電層を形成し、前記導電層上に高分子化合物層を形成し、前記高分子化合物層上に第2の導電層を形成する工程であってもよい。
【0076】
[他の工程]
本実施態様に係る製造方法は、上記工程(a)〜(c)に加えて、他の工程を含んでいてもよい。他の工程は特に限定されないが、他の工程としては、例えば、電極膜302をパターニングする工程(パターニング工程)、細胞を培養する工程(培養工程)等が挙げられる。
【0077】
(パターニング工程)
本実施態様の方法は、パターニング工程を含むことが好ましい。パターニング工程は、前記工程(a)の後、前記工程(b)の前に行うことが好ましい。電極膜302をパターニングする方法は特に限定されず、公知のパターニング方法を用いることができる。パターニング方法としては、例えば、フォトリソグラフィ法、電子ビームリソグラフィ法、及びドライエッチング法等の微細加工技術を適用することが可能である。
【0078】
図2(e)〜(f)は、電極膜302のパターニング工程の一例を説明する図であり、レジスト層15を用いて電極膜302のパターニングを行っている。図2(e)では、電極膜302上にレジスト層15を形成した状態を示している。レジスト層15の形成方法は特に限定されず、スピンコート法等の公知の方法を用いることができる。レジスト層15を、任意の形状のフォトマスクを通して露光し、現像液を用いて現像することにより、任意の形状のレジストパターンを得ることができる。前記レジストパターンを物理マスクとして、電極膜302及び犠牲層13をエッチングすることにより、任意の形状にパターニングされた電極膜302を得ることができる(図2(f))。前記のパターニングにおいて、犠牲層13は、電極膜302とともにパターニングしてもよいし、パターニングしなくてもよいが、パターニングの容易性及び犠牲層13の分解性等の観点から、電極膜302とともにパターニングすることが好ましい。
【0079】
微細な構造のパターニングを行う場合には、電極膜302が二次元平面形状を有していることが好ましいが、基板14及び犠牲層13上に電極膜302を形成することにより、電極膜302は二次元平面形状を維持することができる。
【0080】
パターニングにより形成するパターン形状は特に限定されないが、パターニングにより電極膜302に孔を形成することが好ましい。したがって、電極膜302をパターニングする工程は、電極膜302に孔を形成する工程であってもよい。孔の形状、大きさ及び配置は、上記「<電極>」の項で例示したものと同様のものが例示される。
【0081】
また、パターニングにより、電極膜302を任意の二次元形状及び大きさとしてもよい。したがって、電極膜302をパターニングする工程は、電極膜302を任意の二次元形状及び大きさにパターニングする工程であってもよい。例えば、筒状の電極300を得る場合には、電極膜302は長方形状にパターニングすることが好ましい。前記長方形の大きさは、内包する細胞の大きさ、及び電極300の使用目的等に応じて適宜選択すればよく、例えば、縦400〜4000μm、横20〜400μm等とすることができる。
【0082】
電極膜302のパターニングにおいて、孔の形成と二次元形状の形成とを行う場合、孔の形成と二次元形状の形成は同時に行ってもよく、複数回のパターニングで別々に行ってもよい。
【0083】
(培養工程)
本実施態様の方法は、培養工程を含んでいてもよい。培養工程は、工程(c)の後かつ工程(b)の前に行ってもよく、工程(b)の後に行ってもよい。細胞が接着性を有する細胞である場合、工程(c)の後かつ工程(b)の前に培養工程を行うことで、電極膜302に細胞を接着させることができる。そのため、工程(b)において、電極膜302に三次元湾曲形状を形成させる際に、三次元湾曲形状の内部空間に細胞を確実に内包させることができる。
また、工程(b)の後に培養工程を行うことで、電極300の三次元湾曲形状に沿って細胞を増殖させることができる。
培養条件は、細胞の種類に応じて、当該細胞の培養に一般的に用いられる条件を用いることができる。
【0084】
本実施態様の方法では、三次元湾曲形状の形成とともに当該三次元湾曲形状の内部空間に細胞を内包させるため、任意の三次元形状を有する電極の内部空間に細胞を内包させることができる。従来の金属電極では、微細な三次元生体組織の形状に沿って金属層を含む多層薄膜を張り付けることは困難であり、薄膜の部分的な剥離により電極の性能が著しく低下してしまうという問題があった。しかしながら、本実施態様の方法では、それぞれ所定の厚みを有する導電層及び高分子化合物層を含む積層体に、自己組織的に三次元湾曲形状を形成させると同時に、内部空間に細胞を内包させるため、任意の三次元生体組織の形状を有する電極を形成することができる。特に、導電層及び高分子化合物層に互いに密着性の高い材料を用いることで、三次元形状への構造変化に伴う剥離や横滑り、及び断線等を抑制することができる。また、電極膜の形状を任意の形状及び大きさに設計することで、任意の三次元形状及び大きさを有する電極を得ることができる。
また、基板及び犠牲層上に電極膜を形成することで、電極膜を平面状態に維持することができ、任意のタイミングで電極膜を基板から剥離させ、三次元湾曲形状の形成を開始させることができる。
【0085】
<積層体>
本発明の一態様にかかる積層体は、基板と、前記基板上に積層された犠牲層と、前記犠牲層上に積層された導電性材料を含む層(導電層)と、前記導電層上に積層された高分子化合物を含む層(高分子化合物層)と、を含む。
【0086】
本実施態様にかかる積層体の具体例としては、図2(g)に例示される積層体303が挙げられる。
基板14、犠牲層13、導電層10、及び高分子化合物層11は、上記「<電極の製造方法>」の項で説明したものと同様である。本実施態様の積層体303は、導電層10及び高分子化合物層11を貫通する孔を有していることが好ましい。孔としては、上記「<電極>」の項で例示したものと同様のものが例示される。
【0087】
本実施態様にかかる積層体は、前記実施態様にかかる電極の製造に用いることができる。
【0088】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【実施例】
【0089】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0090】
[実施例1]電極膜の作製例
図2(a)〜(g)のプロセスに従い、積層体303を作製した。
基板14として、ガラス基板を用いた。ガラス基板上で、アルギン酸ナトリウム溶液をスピンコーティングし、その後100mMの塩化カルシウム溶液の中に浸漬することでアルギン酸カルシウムゲルの犠牲層を形成した。犠牲層の厚みはアルギン酸ナトリウム溶液の濃度とスピンコーティングの速度を変化させることで制御可能である。本実施例では、2wt%のアルギン酸ナトリウム溶液を3000rpmでスピンコーティングすることで40nmのゲル層を形成した。
【0091】
次に、犠牲層13の表面に、導電層10を転写した。本実施例では、導電層10として、銅箔の表面にCVDを用いて作製された単層のグラフェンを用いた。銅箔は塩化第二鉄溶液により溶解され、水面上で洗浄を繰り返した後、グラフェン単層(導電層10)を犠牲層13の表面に転写した。本作業を繰り返すことで、複数層のグラフェンを犠牲層13の表面に積層することも可能となる。
次に、パラキシレンダイマーをCVDにより成長していくことで、導電層10上にポリパラキシレン(パリレン)からなる高分子化合物層11を形成した。高分子化合物層11の厚みは、CVD成長の原料となるパラキシレンダイマーの重量により制御可能である。本実施例では、50mgのパラキシレンダイマーを、CVD法を用いて導電層10上に成長させることで、50nmの高分子化合物層11を形成した。
【0092】
次に、高分子化合物層11上に、フォトレジストをスピンコーティングし、レジスト層15を形成した。任意の形状のフォトマスクを通してレジスト層15に紫外光を照射し、任意の形状の物理マスクをパターニングした。その後、酸素プラズマにより、高分子化合物層11、導電層10及び犠牲層13をエッチングした。エッチングは、基板14上に成膜した犠牲層13に届くまで行った。最後に、アセトンによりレジスト層15を除去して高分子化合物層11を上面として露出させて、電極膜302を得た。
【0093】
図3に、パターニング後の電極膜の位相差顕微鏡像を示す。図3(a)〜3(d)に示す二次元電極は、縦600μm、横300μmの長方形状にパターニングしたものである。(a)は孔なし、(b)は直径8μmの孔が50μm間隔で形成されたもの、(c)は直径8μmの孔が25μm間隔で形成されたもの、(d)は直径15μmの孔が50μm間隔で形成されたものである。なお、前記の孔の間隔は、隣接する孔どうしの中心間距離を意味する。
【0094】
[実施例2]電極の作製
図2(h)〜(j)のプロセスに従い、電極を作製した。
ラットの海馬組織から単離した初代培養神経細胞の細胞培養液を電極膜302上に播種し、電極膜302の表面上に神経細胞を存在させた。
基板14、犠牲層13および電極膜302からなる積層体303に、キレート剤であるEDTA溶液を添加することで、犠牲層13を溶解した。EDTA溶液の添加後、軸方向への電極膜302の屈曲が誘導されることが観察された。これにより長軸方向の長さを維持した状態の筒状の電極が得られた。EDTA溶液を添加してから筒状の電極が完成するまでの時間は、添加するEDTA溶液の最終濃度と基板を浸漬している溶液の種類により制御が可能である。
図4は、電極膜302の湾曲に伴う初代培養神経細胞の内包化過程を示す位相差顕微鏡像である。EDTA添加後から0秒後(t=0s)、4秒後(t=4s)、8秒後(t=8s)、12秒後(t=12s)、16秒後(t=16s)、20秒後(t=20s)の位相差顕微鏡像を示す。電極膜の湾曲に伴って、培養液中に浮遊した細胞が、電極膜により形成される三次元湾曲形状の内部空間内に内包される過程を観察することができた。導電層10及び高分子化合物層11からなる電極膜302が自己組織的に湾曲可能であること、及び湾曲の過程で細胞が内包化されることを確認することができた。
【0095】
[実施例3]細胞内包化電極における神経突起の誘導
上記のように作製した細胞内包化電極を培養皿上で培養し、電極に内包された細胞が、外部環境に神経突起を伸長できるか否かを確認した。
図5は、細胞内包化電極に内包化された細胞をタイムラプス撮影した位相差顕微鏡像である。(a)は電極表面に孔を有さない電極であり、(b)は電極表面に直径8μmの孔を有する電極である。
孔の有無にかかわらず、培養後5日間の観察期間中、電極に内包化された細胞が維持された。孔のない電極においては、培養日数の経過により筒状の電極の筒端部から神経突起の伸長する様子が観察されたが、筒壁面から神経突起の伸長する様子は観察されなかった(図5(a))。一方、直径8μmの孔を形成した電極では、孔から神経突起が伸長し、培養皿上の広範囲に神経突起が伸展する様子が観察された。
また本実施例では、電極の両端が開口している場合を示している。一方、電極の片端あるいは両端が閉じられているもよい。電極の片端が閉じられている場合は、細胞の電極内外へ移動を開口端に限定することが可能になる。電極の両端が閉じられているときは、細胞の電極内外の移動を抑制することが可能になる。
【0096】
[実施例4]自己組立て前後の電気的特性の変化
図6(1)〜(4)に示すプロセスに従って、三次元湾曲形状を有する電極を作製した。
基板14上に、犠牲層13を形成し、その表面に導電層10を転写した(図6(1))。基板14、犠牲層13及び導電層10は、実施例1と同様のものを用いた。次に、その導電層10の両末端に金電極(金属層16)を蒸着した(図6(2))。その後、パリレン層(高分子化合物層11)を蒸着し、その表面をパターニングした(図6(3))。そして、EDTA溶液の添加により凹型に構造変化した電極400を得た(図6(4))。
【0097】
上記に示す、自己組立て前後の電極400のI−V曲線を図6(5)に示す。
図6(1)に示す結果から、構造変化に伴う抵抗の変化は観察されたものの、三次元湾曲形状を形成しても断線することなく、安定した導電性が保持されていることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明によれば、細胞を内包化させることができ、生体内に埋植することが可能な電極、及びその製造方法、並びに当該電極の製造に用いる積層体が提供される。前記電極は、細胞を内包化させることにより移植組織として使用することができる。生体内に移植された細胞内包化電極では、移植組織と電極との接触が固定化されるため、生体内で移植組織の活動を長期間に亘って計測することが可能である。
【符号の説明】
【0099】
2…細胞、ホスト組織…3、10,10a,10b…導電層10…高分子化合物層11…孔、13…犠牲層、14…基板、15…レジスト層、16…金属層、20…細胞体、21…神経突起、30…ホスト組織の神経細胞、31…ホスト組織の神経細胞の細胞体、32…ホスト組織の神経細胞の神経突起、100,200,300…電極、101,201,302…電極膜、303…積層体
図1
図2
図3
図4
図5
図6