【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において段落に分けて記載される個々の本発明の好ましい特徴を2つ以上組み合わせた形態も、本発明の好ましい形態である。
【0018】
1.ガス分離膜
本発明のガス分離膜は、ポリシロキサン化合物の焼成物である。該ポリシロキサン化合物は、上記式(1)で表される籠状シルセスキオキサン単位を有する。本明細書中、籠状構造には、不完全型籠状構造も含むものとする。
なお、ポリシロキサン化合物の構造は、
1H−NMR、
13C−NMR及び
29Si−NMRにより同定することができる。
【0019】
上記式(1)中、R
1〜R
3、R
5〜R
7は、同一又は異なって、置換基を有していてもよいノルボルネン骨格を表す。置換基を有していてもよいノルボルネン骨格は、ノルボルネン(別名:ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン)の隣接する2個の炭素原子のそれぞれから1個の水素原子が除かれており、更に、ノルボルネンが有する水素原子の1個以上が置換基で置換されていてもよい構造を有する2価の基であり、中でも、ノルボルネンの5位の炭素原子、6位の炭素原子のそれぞれから1個の水素原子が除かれた構造を有する2価の基であることが好ましい。R
4及びR
8は、同一又は異なって、置換基を有していてもよい芳香環骨格又は置換基を有していてもよいノルボルネン骨格を表す。
【0020】
上記芳香環骨格の炭素数は、特に限定されないが、成膜性を高める観点から、6〜15であることが好ましい。より好ましくは6〜10である。
上記芳香環骨格としては、例えば、ベンゼン骨格(フェニレン基等)、ナフタレン骨格(ナフチリデン基等)が好適である。
【0021】
なお、R
4及びR
8が置換基を有していてもよいノルボルネン骨格を表す場合、その好ましい態様は、R
1〜R
3、R
5〜R
7における置換基を有していてもよいノルボルネン骨格の場合と同様である。
【0022】
R
1〜R
3、R
5〜R
7における、ノルボルネン骨格が有していてもよい置換基や、R
4及びR
8における、芳香環骨格やノルボルネン骨格が有していてもよい置換基としては、特に限定されないが、例えば塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、メチル基、エチル基等の炭化水素基、クロロプロピル基等のハロゲン化炭化水素基等が好適なものとして挙げられる。
【0023】
X
1は、ヘテロ元素を有する連結基又は2価の有機基を表す。
ヘテロ元素を有する連結基としては、例えば、−O−、−S−、−S(=O)
2−等が好適であり、2価の有機基としては、例えば、炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、カルボニル基(−C(=O)−)、芳香環骨格、複素環骨格、脂環骨格等が好適である。炭化水素基及びハロゲン化炭化水素基の炭素数は1〜5が好ましく、より好ましくは1〜3である。芳香環骨格の炭素数は6〜20であることが好ましい。複素環骨格及び脂環骨格の炭素数は5〜20であることが好ましい。これらの中でも、X
1は、−O−、−S(=O)
2−、カルボニル基(−C(=O)−)、又は、炭素数1〜3の炭化水素基若しくはハロゲン化炭化水素基のいずれかであることが好適である。
【0024】
Y
1〜Y
8は、同一又は異なって、−(CH
2)
x−(NH)
y−(CH
2)
z−で示される基を表す。x及びzは、同一又は異なって、0〜5の整数であるが、この合計数(x+z)が3〜7であることが好ましい。より好ましくは3〜5であり、更に好ましくは3である。また、yは、0又は1であるが、0であることが好ましい。
【0025】
mは、0又は1である。nは、上記式(1)で表される単位(籠状シルセスキオキサン単位)の繰り返し数を表し、1〜100の整数である。100を超えると、合成中にゲル化して所望の化合物を得られないおそれがある。ポリシロキサン化合物の分子量が後述する範囲内となるようにnの範囲を設定することが好ましい。
【0026】
nが1である場合、mは0であり、R
4及びR
8は、同一又は異なって、置換基を有していてもよい芳香環骨格又は置換基を有していてもよいノルボルネン骨格を表す。なお、nが1である場合、置換基を有していてもよい芳香環骨格又は置換基を有していてもよいノルボルネン骨格は、カルボニル基の炭素原子2つと結合するため、2価の基である。nが2以上である場合、mは0又は1であり、R
4及びR
8は、同一又は異なって、置換基を有していてもよい芳香環骨格を表す。なお、nが2以上である場合、置換基を有していてもよい芳香環骨格は、2つのカルボニル基の炭素原子のみに結合するとき(末端であるとき)、2価の基であり、2つのカルボニル炭素、及び、他の繰り返し単位又は他の繰り返し単位との接合部位X
1に結合するとき、3価の基である。
【0027】
上記ポリシロキサン化合物に占める籠状シルセスキオキサン単位の含有割合は、ポリシロキサン化合物が有する全繰り返し単位(全構成単位)の総量100質量%に対し、50〜100質量%であることが好ましい。より好ましくは70〜100質量%であり、更に好ましくは90〜100質量%であり、特に好ましくは95〜100質量%である。
【0028】
上記ポリシロキサン化合物の重量平均分子量は、2000以上であることが好ましい。これにより、成膜性がより発揮され、膜材料として更に有用なものとなる。より好ましくは2万以上、更に好ましくは3万以上、特に好ましくは35000以上である。また、上限値は特に限定されないが、取扱い性を高める観点から、30万以下であることが好ましい。より好ましくは20万以下、更に好ましくは10万以下、特に好ましくは7万以下である。また、上記ポリシロキサン化合物の数平均分子量は、2000以上であることが好ましい。より好ましくは1万以上、更に好ましくは2万以上、更に好ましくは25000以上である。該数平均分子量は、15万以下であることが好ましい。より好ましくは10万以下であり、更に好ましくは5万以下である。
本明細書中、分子量は、後述する測定条件下、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定により求めることができる。
【0029】
本発明はまた、ポリシロキサン化合物の焼成物であるガス分離膜であって、該焼成物は、蛍光X線分析装置で測定したときの、炭素の含有割合(質量%)(A)と珪素の含有割合(質量%)(B)の質量比A/Bが1以上であるガス分離膜でもある。
本発明のガス分離膜において、上記質量比A/Bは、1.2以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、1.8以上であることが更に好ましく、2以上であることが特に好ましい。また、上記質量比A/Bは、10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、4以下であることが更に好ましく、3.5以下であることが特に好ましい。
上記質量比A/Bは、装置としてリガク社製蛍光X線装置ZSX PrimusIIを用い、管球としてRh管球 4kWを用いて測定されるものである。
【0030】
上記ポリシロキサン化合物を得るための方法は特に限定されないが、例えば、(I)アミノ基含有アルコキシシランと酸無水物とを反応させる工程と、(II)該工程(I)で得た生成物が有するアルコキシシリル基の加水分解・縮合工程とを含む製造方法を採用することが好ましい。この製造方法を採用することで、容易かつ簡便に本発明のポリシロキサン化合物を得ることができる。必要に応じ、1又は2以上のその他の操作を含んでもよく、その他の操作は特に限定されない。
以下、各工程について更に説明する。
【0031】
1)アミノ基含有アルコキシシランと酸無水物とを反応させる工程(I)
上記工程(I)は、アミノ基含有アルコキシシランと酸無水物とを反応させる工程である。各原料はそれぞれ1種又は2種以上使用することができる。
【0032】
アミノ基含有アルコキシシランは、アミノ基とアルコキシシリル基とを有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、ケイ素原子に、Yを介してアミノ基が結合した構造を有する化合物であることが好ましい(Yは、上記Y
1〜Y
8と同じである。)。具体的には、下記式(2)で表される化合物が好適である。
【0034】
式中、R
9は、同一又は異なって、炭素数1〜20のアルキル基、アシル基、アリル基及び不飽和脂肪族残基からなる群より選択される少なくとも1種の基を表し、置換基を有していてもよい。Yは、−(CH
2)
x−(NH)
y−(CH
2)
z−で示される基を表す。x、y及びzは、それぞれ上述した通りである。
【0035】
R
9は、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基である。x、y及びzは、上述したとおりであるが、中でも、y=0、x+z=3を満たす数であることが特に好ましい。
【0036】
上記アミノ基含有アルコキシシランとして特に好ましくは、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリプロポキシシラン、3−アミノプロピルトリ(イソプロポキシ)シラン、3−アミノプロピルトリブトキシシランである。
【0037】
酸無水物としては、置換基を有していてもよいノルボルネン骨格と酸無水物構造とを有する化合物、又は、該化合物及び置換基を有していてもよい芳香環骨格と酸無水物構造とを有する化合物の混合物を用いる。酸無水物は、中でも、カルボン酸無水物であることが好ましく、より好ましくは下記式(3)で表される化合物である。
【0039】
式中、R
10は、置換基を有していてもよいノルボルネン骨格又は置換基を有していてもよい芳香環骨格を表す。これらの好ましい形態は、上述した通りである。
【0040】
上記式(3)で表される化合物としては、例えば、以下の置換基を有していてもよいノルボルネン骨格を有する酸無水物、及び、置換基を有していてもよい芳香環骨格を有する酸無水物が挙げられ、これらをそれぞれ少なくとも1種ずつ用いるか、又は、置換基を有していてもよいノルボルネン骨格を有する酸無水物の少なくとも1種を用いることが好ましい。
上記置換基を有していてもよいノルボルネン骨格を有する酸無水物としては、無水ハイミック酸(別名:5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物)、無水メチルナジック酸(別名:メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物)、無水クロレンディック酸等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。中でも、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物が好ましい。
【0041】
上記置換基を有していてもよい芳香環骨格を有する酸無水物としては、無水フタル酸、テトラブロモ無水フタル酸、ジフェン酸無水物等の芳香環骨格を有する一官能性酸無水物;4,4’−オキシジフタル酸無水物、4,4’−メチレンジフタル酸無水物、無水ピロメリット酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、ビフェニルテトラカルボン酸無水物、ジフェニルエーテルテトラカルボン酸無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物等の芳香環骨格を有する二官能性酸無水物;無水トリメリット酸等の遊離酸を有する酸無水物、1,8−ナフタル酸無水物(別名:1,8−ナフタレンジカルボン酸無水物)、2,3−ナフタル酸無水物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。中でも、4,4’−オキシジフタル酸無水物、4,4’−メチレンジフタル酸無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、1,8−ナフタレンジカルボン酸無水物が好ましい。
【0042】
アミノ基含有アルコキシシランと酸無水物との反応において、酸無水物の添加量は、例えば、アミノ基含有アルコキシシラン100モル%に対し、50〜300モル%とすることが好ましい。より好ましくは100〜300モル%である。
【0043】
アミノ基含有アルコキシシランと酸無水物との反応は、溶媒の存在下で行うことが好ましい。溶媒としては特に限定されず、例えば、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、N,N’−ジメチルホルマミド、N,N’−ジメチルアセタミド、γ−ブチロラクトン、スルホラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等が挙げられる。中でも、N−メチルピロリドン、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒の存在下で行うことが好ましい。
【0044】
アミノ基含有アルコキシシランと酸無水物の反応条件は特に限定されないが、例えば、反応温度を室温〜250℃とすることが好ましい。より好ましくは室温〜200℃である。反応時間は、反応温度や反応組成等によって変わるものの、例えば5分〜24時間とすることが好ましい。
【0045】
2)加水分解・縮合工程(II)
上記製造方法では、上記工程(I)の後、アルコキシシリル基の加水分解・縮合反応を行う。加水分解反応により得られたシラノール基(Si(OH)
3)の縮合反応により、本発明のポリシロキサン化合物を好適に得ることができる。
【0046】
加水分解・縮合反応では、水を用いることが好ましい。水分濃度の管理は不要であるが、例えば、上記工程(I)で得た生成物中の固形分100質量部に対し、10〜2000質量部の水を用いることが好ましい。より好ましくは10〜500質量部の水を用いることである。
【0047】
加水分解・縮合反応ではまた、触媒を1種又は2種以上用いることが好ましい。触媒としては、Fe、Al、In、Zr、Co、Ni及びZnからなる群より選択される少なくとも1種を含む金属化合物が好適である。これにより、反応がより進行し、製造効率をより一層高めることができる。
【0048】
上記金属化合物は、上述した金属を含むものであれば特に限定されず、例えば、これらの金属の、ハロゲン化物、酸化物、水酸化物、炭酸塩、有機カルボン酸塩等が挙げられる。中でも、有機カルボン酸塩が好適である。
【0049】
上記金属化合物の使用量(存在量)は特に限定されないが、例えば、上記工程(I)で得た生成物1モルに対し、0.001〜0.2モルとすることが好ましい。より好ましくは0.002〜0.15モル%である。
【0050】
加水分解・縮合反応の条件は特に限定されないが、例えば、反応温度を、室温〜200℃とすることが好ましい。より好ましくは室温〜160℃である。また、副生物としてアルコールが生じる点から、アルコール、水及び溶媒の共沸還流下で保持することが好ましい。また、加水分解・縮合反応は、常圧下、加圧下、減圧下のいずれで行ってよいが、副生アルコールを効率よく反応系外へ留去することで反応が進行しやすい点で、常圧以下で行うことが好ましい。また、反応時間は、反応温度、反応組成によって変わるが、2〜48時間とすることが好適である。
【0051】
本発明のガス分離膜は、上記ポリシロキサン化合物を焼成して得られる。
焼成温度は、ガス分離性を充分に発揮させるために、上記式(1)で表される単位が有する有機鎖の一部が熱分解する温度であることが好ましく、例えば、250℃以上であることが好適である。これにより、ガスの透過性及び分離選択性に特に優れるガス分離膜を容易に得ることができる。このように上記ポリシロキサン化合物を250℃以上で焼成する工程を含むガス分離膜の製造方法は、本発明者らが見いだした発明の一つである。また、本発明のガス分離膜が、上記ポリシロキサン化合物を350℃以上で焼成してなる焼成物である形態は、本発明の特に好適な形態である。
【0052】
上記焼成工程において、焼成温度は、より好ましくは400℃以上、更に好ましくは450℃以上、特に好ましくは500℃以上である。また反応温度は、その上限は特に限定されないが、装置の都合上、1000℃以下であることが好ましい。
【0053】
焼成時間は特に限定されないが、例えば、5分〜24時間とすることが好ましい。より好ましくは30分〜2時間である。その他の焼成条件は特に限定されないが、例えば、不活性ガス雰囲気下で焼成を行うことが好適である。より好ましくは窒素ガス雰囲気下で焼成を行うことである。
【0054】
上記焼成工程として具体的には、例えば、ポリシロキサン化合物又はそれを含む組成物(これらを「ガス分離膜形成材料」とも総称する)を、支持体の表面に塗布した後、焼成工程を行うことが好適である。なお、実際の使用態様で支持体が不要であれば、仮の基材にガス分離膜形成材料を塗布し、焼成した後、該基材から剥離することによりガス分離膜のみを得ることができる。
【0055】
本発明のガス分離膜の厚みは特に限定されないが、例えば成膜性をより良好にする観点から、0.01〜10μmであることが好ましい。より好ましくは0.05〜5μmである。
【0056】
上記ガス分離膜は、炭酸ガスの透過性を示す透過率(25℃)が、1×10
−9mol/m
2・s・Pa以上であることが好ましい。この透過率が大きいほど、炭酸ガスを短時間で分離回収できるため炭酸ガスの分離選択性に優れることを意味する。より好ましくは5×10
−9mol/m
2・s・Pa以上、更に好ましくは1×10
−8mol/m
2・s・Pa以上、特に好ましくは1×10
−7mol/m
2・s・Pa以上である。
本明細書中、炭酸ガスの透過率は、JIS K7126−1(2006年)に従って25℃の温度条件下で測定することができる。
【0057】
上記ガス分離膜はまた、水素ガスと炭酸ガスとの分離選択性を示す透過係数(H
2/CO
2)が、1.5以上であることが好ましい。より好ましくは2以上である。
本明細書中、透過係数(H
2/CO
2)は、上記と同様に求めた水素ガスの透過率を、上記で求めた炭酸ガスの透過率で除することにより求めることができる。
【0058】
2.積層体
本発明では、上記ガス分離膜にガス透過性支持体を配置した積層体としての使用態様も好適である。このような積層体は、ガス分離膜単独よりも強度が高くすることができ、例えば膜表面積拡大のためにスパイラル状等の形状に変形してモジュールを作製することがより容易になる。このように上記ガス分離膜と、ガス透過性支持体とを有する積層体もまた、本発明の一つである。
【0059】
上記積層体では、分離対象となるガスが供給される側に、上記ガス分離膜を配置することが好ましい。言い替えれば、ガス分離膜の、分離されたガスが放出される側に、ガス透過性支持体を配置することが好ましい。ガス透過性支持体とガス分離膜との間には他の層が介在していてもよい。
【0060】
上記ガス透過性支持体は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、炭酸ガスの透過性を示す透過率(25℃)が、上述した好ましい範囲内であるものが好ましい。また、上記ガス透過性支持体は、多孔質基材であることが好ましい。ガス透過性を高める観点から、多孔質基材の平均細孔径は0.01〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.05〜5μmであり、更に好ましくは0.05〜1μmである。また、空隙率は20〜90体積%であることが好ましい。より好ましくは30〜80体積%である。
【0061】
上記多孔質基材の形状は特に限定されず、例えば、平板状、スパイラル状、管状、中空糸状等のいずれであってもよい。
【0062】
上記多孔質基材の材料は、有機材料、無機材料のいずれであってもよいが、焼成は高温で行われるので、好ましくは無機材料である。
上記無機材料としては特に限定されないが、例えば、アルミナ、ムライト、チタニア等の他、これらの複合物からなるセラミックス等を用いることが好ましい。
【0063】
ガス透過性支持体の厚みは特に限定されないが、例えば、1μm〜3mmであることが好ましい。より好ましくは5〜500μm、更に好ましくは5〜150μmである。
【0064】
上記積層体の製造方法としては特に限定されないが、例えば、上記ポリシロキサン化合物を含むガス分離膜形成材料を、ガス透過性支持体の表面(又は、支持体とガス分離膜との間に他の層を有する場合は、当該他の層の表面)に塗布し、乾燥又は硬化することにより形成する方法(塗布法又はコーティング法と称す);ガス透過性支持体に対して、ガス分離膜形成用材料から形成されたフィルムを熱圧着することにより形成する方法;練込法;等によってガス分離膜形成材料を支持体に積層した後、焼成する方法が挙げられる。これらの中でも、塗布法を採用することが好ましく、これによってガス分離膜と支持体等との密着性がより充分なものとなる。
【0065】
上記ガス分離膜形成材料は、上記ポリシロキサン化合物を含むものであればよいが、必要に応じて更に他の成分を含んでもよい。各含有成分はそれぞれ1種又は2種以上を使用することができる。
なお、ガス分離膜形成材料中のポリシロキサン化合物の含有割合は特に限定されないが、例えば、ガス分離膜形成材料の総量100質量%に対し、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。該含有割合は、例えば、50質量%以下であることが好ましい。
【0066】
他の成分としては特に限定されないが、例えば溶媒が好適である。この場合、溶液塗布法(例えばはけ塗りする方法、スピンコート法、キャスト法等)により容易に膜形成を行うことができるため、好ましい。溶媒としては特に限定されないが、有機溶媒であることが好ましい。具体的には、クロロホルム、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N’−ジメチルホルマミド等の非極性溶媒を用いることが好適である。溶媒の含有量は、例えば塗布容易化の観点では、組成物の総量100質量%に対し、1〜99質量%とすることが好ましい。より好ましくは50〜95質量%である。
【0067】
上記ガス分離膜形成材料の製造方法は特に限定されず、上述した成分を適宜混合することにより得ることができる。
【0068】
3.用途等
本発明のガス分離膜及びこれを含む積層体は、例えば、水素、ヘリウム、一酸化炭素、二酸化炭素、硫化水素、酸素、窒素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、六フッ化硫黄;メタン、エタン等の炭化水素;プロピレン等の不飽和炭化水素;テトラフルオロメタン、テトラフルオロエタンに代表されるパーフルオロ化合物等のガスを含有するガス混合物から、特定のガスを分離することができるものである。中でも、水素、ヘリウム、二酸化炭素(炭酸ガス)、窒素、メタン、テトラフルオロメタン及び六フッ化硫黄からなる群より選択される少なくとも2種以上を含むガス混合物から、その1種以上を選択的に分離する分離膜として特に有用である。このような本発明のガス分離膜を備えるガス分離モジュール及びガス分離装置もまた本発明に含まれ、これらは工業的に極めて有用である。
本発明のガス分離膜やこれを備えるガス分離モジュール及びガス分離装置は、例えば、天然ガスからの炭酸ガスの効率的な分離技術及び回収した炭酸ガスの貯留技術に極めて有用であり、環境負荷のない水素エネルギーを実現し、燃料電池自動車や水素インフラに多大な貢献をもたらす可能性が有る。
【実施例】
【0069】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「%」及び「wt%」は「質量%」を意味するものとする。なお、化合物物性の測定又は評価条件を以下に示す。
【0070】
1)NMR分析装置
1H−NMR:Varian Instruments社製、Unity Plus 400 MHz NMR system
13C−NMR:Varian Instruments社製、Unity Plus 400 MHz NMR system
29Si−NMR:Varian Instruments社製、Unity Plus 400 MHz NMR system
【0071】
2)GPC測定条件
計測機器:東ソー社製「HLC−8220GPC」
カラム:Shodex GF−7MHQを2本
展開液:10mMol/L LiBr添加N,N’−ジメチルホルムアミド
流速:0.6mL/分
温度:40℃
検量線:ポリスチレン標準サンプル(東ソー社製)を用いて作成。
【0072】
3)蛍光X線測定装置
装置名:リガク社製蛍光X線装置ZSX PrimusII
管球:Rh管球 4kW
【0073】
合成例1(化合物Aの作製)
攪拌装置、温度センサー、冷却管を備え付けた200mL4つ口フラスコに、予め蒸留により精製したN−メチルピロリドン68.1gと、3−アミノプロピルトリエトキシシラン15.5gを投入し、80℃に保持して攪拌しながら、4,4’−オキシジフタル酸無水物2.06gを投入し、4,4’−オキシジフタル酸無水物がフラスコ内部に確認できなくなるまで撹拌を維持した。引き続き5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物9.42gを30分かけて3分割投入した。投入終了後4時間で4,4’−オキシジフタル酸無水物および5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物が完全に消費されているのを高速液体クロマトグラフィで確認した。
続いて脱イオン水3.8gと2−エチルヘキサン酸亜鉛0.27gを一括投入し冷却管で副生エタノールの還流が掛かるように昇温し、95℃で10時間保持したのち、冷却管をパーシャルコンデンサーに付け替えて再び昇温を開始した。副生エタノール及び縮合水を回収しながら3時間かけて反応液温度を170℃に到達させ、同温度で2時間保持して室温まで冷却することで反応生成物Aを得た。
反応生成物Aは、不揮発分22.8%で濃褐色高粘度液体であり、GPCで分子量を測定したところ、数平均分子量は29300、重量平均分子量は40600であった。また、
1H−NMR、
13C−NMR及び
29Si−NMRを測定したところ、上記式(1)で表される籠状シルセスキオキサン単位を有するポリシロキサン化合物A(m=1。Y
1〜Y
8:プロピル基を表す。R
1〜R
3、R
5〜R
7:ノルボルネン骨格を表す。R
4、R
8:ベンゼン骨格を表す。X
1:−O−を表す。)を含有することを確認した。
【0074】
合成例2(化合物Bの作製)
攪拌装置、温度センサー、冷却管を備え付けた500mL4つ口フラスコに、予めモレキュラーシーブで乾燥したジグライム87.9gと、3−アミノプロピルトリメトキシシラン142.5gを投入し、攪拌しながら乾燥窒素流通下で100℃に昇温して系内の水分を除去した。次に100℃のまま反応液温度を維持しながら5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物131.8gを30分かけて4分割投入した。投入終了後9時間で5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物が完全に消費されているのを高速液体クロマトグラフィで確認した。続いて脱イオン水42.9gを一括投入し冷却管で副生メタノールの還流が掛かるように昇温し、95℃で10時間保持したのち、冷却管をパーシャルコンデンサーに付け替えて再び昇温を開始し、副生メタノールおよび縮合水を回収しながら3時間かけて反応液温度を120℃に到達させた。120℃到達時に炭酸セシウム0.65gを投入してそのまま昇温を開始し、縮合水を回収しながら3時間かけて160℃に到達、同温度で2時間保持して室温まで冷却することで反応生成物Bを得た。
反応生成物Bは不揮発分70.0%で濃褐色高粘度液体であり、GPCで分子量を測定したところ、数平均分子量は2340、重量平均分子量は2570であった。また、
1H−NMR、
13C−NMR及び
29Si−NMRを測定したところ、上記式(1)で表される籠状シルセスキオキサン単位を有するポリシロキサン化合物B(m=0。Y
1〜Y
8:プロピル基を表す。R
1〜R
8:ノルボルネン骨格を表す。)を含有することを確認した。
【0075】
合成例3(化合物Cの作製)
攪拌装置、温度センサー、冷却管を備え付けた200mL4つ口フラスコに、予め蒸留により精製したN−メチルピロリドン68.1gと、3−アミノプロピルトリエトキシシラン15.5gを投入し、80℃に保持して攪拌しながら乾燥窒素流通下で4,4’−オキシジフタル酸無水物2.06gを投入し、4,4’−オキシジフタル酸無水物がフラスコ内部に確認できなくなるまで撹拌を維持した。引き続き無水フタル酸8.50gを30分かけて3分割投入した。投入終了後4時間で4,4’−オキシジフタル酸無水物および無水フタル酸が完全に消費されているのを高速液体クロマトグラフィで確認した。
続いて脱イオン水3.8gと2−エチルヘキサン酸亜鉛0.27gを一括投入し冷却管で副生エタノールの還流が掛かるように昇温し、95℃で10時間保持したのち、冷却管をパーシャルコンデンサーに付け替えて再び昇温を開始した。副生エタノール及び縮合水を回収しながら3時間かけて反応液温度を170℃に到達させ、同温度で2時間保持して室温まで冷却することで反応生成物Cを得た。
反応生成物Cは、不揮発分20.0%で濃褐色高粘度液体であり、GPCで分子量を測定したところ、数平均分子量は27600、重量平均分子量は38100であった。また、
1H−NMR、
13C−NMR及び
29Si−NMRを測定したところ、上記式(1)で表される籠状シルセスキオキサン単位を有するポリシロキサン化合物C(m=0。X
1:エーテル結合を表す。Y
1〜Y
8:プロピル基を表す。R
1〜R
8:ベンゼン骨格を表す。)を含有することを確認した。
【0076】
製造例(分離膜の作製)
支持体として、平均細孔径約1μmの多孔性α−アルミナ管(三井研削砥石社製、外径10mm、長さ100mm、多孔率50%)を用意した。
その後、シリカ−ジルコニアゾル(平均粒径約50nm、濃度2wt%、参考文献:浅枝正司、外3名著、「Stability and performance of porous silica-zirconia composite membranes for pervaporation of aqueous organic solutions」、Journal of Membrane Science、2002年11月1日、第209巻、第1号、p.163−175)を蒸留水で4倍に希釈したものに、α−アルミナ微粒子(住友化学社製、平均粒径0.2μm)を分散させたゾル(α−アルミナ微粒子の濃度約10wt%)を、支持体の外表面に塗布し、乾燥した。次いで、電気管状炉(いすゞ製作所社製、「EKR−29K」)を用いて、空気中で、550℃、30分間の条件にて焼成した後、冷却した。その後、ゾルの塗布、乾燥、焼成及び冷却の上記工程を同一の条件で5回繰り返した。
【0077】
更に、シリカ−ジルコニアゾル(濃度1.5〜2wt%、平均粒径50〜100nm)を、外表面に塗布し、乾燥した。次いで、電気管状炉(いすゞ製作所社製、「EKR−29K」)を用いて、空気中で、550℃、30分間の条件にて焼成した後、冷却した。その後、ゾルの塗布、乾燥、焼成及び冷却の上記工程を同一の条件で5回繰り返すことにより、支持体表面に膜厚1μm程度の中間層(Si:Zr=1:1)を形成した。
次に、中間層が形成された支持体の外表面に、合成例1で作製した化合物A又は合成例3で作製した化合物Cを塗布し、乾燥した。次いで、電気管状炉(いすゞ製作所社製、「EKR−29K」)を用いて、N
2雰囲気下、下記表1に示した条件で60分間焼成して分離膜I〜IVを作製した。
【0078】
【表1】
【0079】
実施例1、2、比較例1、2
図1に示す通り、分離膜2(分離膜I〜IV)が、底部が開放された上部ガラス管(内径8mm)31と、両端側が開放された下部ガラス管(内径8mm)32との間に配設されるように、ガラスフリット4を用いて接合することにより、分離膜モジュール1(分離膜モジュールI〜IV)を作製した。なお、ガラスフリット4とは、日本電気硝子製のフリット(アルミナ側:GA−4(β=63×10
−7/℃)、ガラス側:BH−W/K(β=45×10
−7/℃))である。
【0080】
このようにして作製した分離膜モジュール1(分離膜モジュールI〜IV)に、N
2ガスを約100cc/minで供給しながら200℃に昇温し、3時間放置して、膜に吸着している水蒸気や有機物を除去した。その後、7種類の気体(He、H
2、CO
2、N
2、CH
4、CF
4、SF
6)について、JIS K7126−1(2006年)に従って、透過率の分子径依存性を調べた。結果を
図2に示す。
【0081】
図2に示されるように、化合物Cを高温で焼成して得た分離膜モジュールIVは、化合物Cを低温で焼成して得た分離膜モジュールIIIと比べて、グラフの傾きが小さくなり、分離性能が劣化するが、化合物Aを高温で焼成して得た分離膜モジュールIIは、化合物Aを低温で焼成して得た分離膜モジュールIと比べて、グラフの傾きが充分に大きく、良好な分離性能が維持されることが分かった。
【0082】
また分離選択性を示す指標として、Heの透過率とN
2の透過率の比である透過係数He/N
2、Heの透過率とSF
6の透過率の比である透過係数He/SF
6を下記表2に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
表2に示されるように、化合物Cを高温で焼成して得た分離膜モジュールIVは、化合物Cを低温で焼成して得た分離膜モジュールIIIと比べて、透過係数He/N
2、透過係数He/SF
6のいずれも低いものであった。また、化合物Aを高温で焼成して得た分離膜モジュールIIは、化合物Aを低温で焼成して得た分離膜モジュールIと比べて、透過係数He/N
2は同等に維持されており、透過係数He/SF
6は15000であるが、充分に高いものであった。
【0085】
ここで、製造例で得た分離膜I〜IVの化学構造を特定するために、化合物A、Cの加熱減量測定を行った。その結果を
図3に示す。
図3に示されるように、ノルボルネン骨格を持つ化合物Aは、ノルボルネン骨格を含まない化合物Cより高温での重量減少が少なく、高温熱処理後の有機分の残存が多いという結果であった。
【0086】
また化合物A及び化合物Cの赤外分光分析をおこなった。結果を
図4に示す。
図4に示されるように、化合物Aは550℃での焼成後においても、有機機C=Oが多く残っているが、化合物Cでは500℃での焼成後においてC=O、C=C、C−Nのピークが見えなくなっている。
【0087】
さらに、蛍光X線測定装置にて化合物Aの焼成物の炭素、酸素、珪素の含有割合を測定した。
250℃処理では炭素、酸素、珪素の各含有割合がそれぞれ50.7質量%/33.9質量%/15.4質量%、500℃処理では炭素、酸素、珪素の各含有割合がそれぞれ42.9質量%/36.5質量%/20.7質量%であった。
高温熱処理後の有機分の残存が多い結果、炭素の含有割合(質量%)(A)と珪素の含有割合(質量%)(B)の質量比A/Bが1以上であった。