【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「タンパク質構造の合理的安定化手法の開発:βグルコシダーゼの耐熱化」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【解決手段】 配列番号1のアミノ酸配列からなる野生型βグルコシダーゼ1Aの変異体であって、配列番号1のアミノ酸配列における、97位のグリシンのプロリンへの置換、111位のバリンのロイシンへの置換、233位のロイシンのフェニルアラニンへの置換、240位のアスパラギン酸のプロリンへの置換、及び325位のアラニンのプロリンへの置換が少なくとも導入されたアミノ酸配列を有する、耐熱性βグルコシダーゼ。
配列番号1のアミノ酸配列からなる野生型βグルコシダーゼ1Aの変異体であって、配列番号1のアミノ酸配列における、65位のバリン、111位のバリン、148位のトレオニン、233位のロイシン、402位のバリン、113位のグルタミン酸、162位のバリン、220位のグルタミン、250位のメチオニン、288位のロイシン、361位のバリン、407位のアラニン、459位のヒスチジン、97位のグリシン、240位のアスパラギン酸、325位のアラニン、140位のリジン、238位のアスパラギン酸、276位のアスパラギン酸、320位のトレオニン、337位のグリシン、72位のグリシン、114位のグリシン、221位のグリシン、291位のグリシン、及び74位のリジンからなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有する、耐熱性βグルコシダーゼ。
前記配列番号1のアミノ酸配列における、65位のバリン、111位のバリン、148位のトレオニン、233位のロイシン、402位のバリン、113位のグルタミン酸、162位のバリン、220位のグルタミン、250位のメチオニン、288位のロイシン、361位のバリン、407位のアラニン、及び459位のヒスチジンからなる群より選択される少なくとも1つが別のアミノ酸に置換されており、その置換により、側鎖の炭素原子の数が増えている、請求項1に記載の耐熱性βグルコシダーゼ。
前記配列番号1のアミノ酸配列における、97位のグリシン、240位のアスパラギン酸、325位のアラニン、140位のリジン、238位のアスパラギン酸、276位のアスパラギン酸、及び320位のトレオニン、337位のグリシンからなる群より選択される少なくとも1つがプロリンに置換されている、請求項1又は2に記載の耐熱性βグルコシダーゼ。
前記配列番号1のアミノ酸配列における、72位のグリシン、114位のグリシン、221位のグリシン、及び291位のグリシンからなる群より選択される少なくとも1つが、アスパラギン、アスパラギン酸、又はセリンに置換されている、請求項1〜3の何れか一項に記載の耐熱性βグルコシダーゼ。
配列番号1のアミノ酸配列からなる野生型βグルコシダーゼ1Aの変異体であって、配列番号1のアミノ酸配列における、97位のグリシンのプロリンへの置換、111位のバリンのロイシンへの置換、233位のロイシンのフェニルアラニンへの置換、240位のアスパラギン酸のプロリンへの置換、及び325位のアラニンのプロリンへの置換が少なくとも導入されたアミノ酸配列を有する、耐熱性βグルコシダーゼ。
さらに、前記配列番号1のアミノ酸配列における、113位のグルタミン酸のロイシン、フェニルアラニン、又はチロシンへの置換、162位のバリンのイソロイシン、又はロイシンへの置換、220位のグルタミンのチロシンへの置換、250位のメチオニンのロイシンへの置換、288位のロイシンのフェニルアラニンへの置換、407位のアラニンのバリンへの置換、459位のヒスチジンのフェニルアラニン、又はチロシンへの置換、140位のリジンのプロリンへの置換、238位のアスパラギン酸のプロリンへの置換、
276位のアスパラギン酸のプロリンへの置換、320位のトレオニンのプロリンへの置換、337位のグリシンのプロリンへの置換、72位のグリシンのアスパラギンへの置換、114位のグリシンのアスパラギンへの置換、221位のグリシンのアスパラギンへの置換、291位のグリシンのアスパラギンへの置換、及び74位のリジンのアスパラギン酸への置換、からなる群より選択される少なくとも1つの置換が導入されている、請求項6に記載の耐熱性βグルコシダーゼ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪耐熱性βグルコシダーゼ≫
配列番号1は、木材白色腐朽菌(Phanerochaete chrysosporium)に由来するβグルコシダーゼ1Aのアミノ酸配列である。以下、配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質を野生型βグルコシダーゼといい、耐熱性を付与するための変異を導入した本発明のβグルコシダーゼを耐熱性βグルコシダーゼという。
【0012】
耐熱性βグルコシダーゼの第一実施形態は、配列番号1のアミノ酸配列における、65位のバリン、111位のバリン、148位のトレオニン、233位のロイシン、402位のバリン、113位のグルタミン酸、162位のバリン、220位のグルタミン、250位のメチオニン、288位のロイシン、361位のバリン、407位のアラニン、459位のヒスチジン、97位のグリシン、240位のアスパラギン酸、325位のアラニン、140位のリジン、238位のアスパラギン酸、276位のアスパラギン酸、320位のトレオニン、337位のグリシン、72位のグリシン、114位のグリシン、221位のグリシン、291位のグリシン、及び74位のリジンからなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有する。
【0013】
個々のアミノ酸置換(変異)は、それぞれ独立に、野生型βグルコシダーゼの耐熱性の向上に資する。よって、上記アミノ酸置換のうち1つ以上の変異を野生型βグルコシダーゼに導入することにより、耐熱性βグルコシダーゼが得られる。
【0014】
上記の変異のうち、配列番号1のアミノ酸配列における、65位のバリン、111位のバリン、148位のトレオニン、233位のロイシン、402位のバリン、113位のグルタミン酸、162位のバリン、220位のグルタミン、250位のメチオニン、288位のロイシン、361位のバリン、407位のアラニン、及び459位のヒスチジンからなる群より選択される少なくとも1つが別のアミノ酸に置換されている場合、側鎖の炭素原子の数が増えていることが好ましい。これらの変異があると、変異箇所における疎水性を強化することができると考えられ、耐熱性を向上させることが容易になる。
【0015】
上記の変異のうち、配列番号1のアミノ酸配列における、97位のグリシン、240位のアスパラギン酸、325位のアラニン、140位のリジン、238位のアスパラギン酸、276位のアスパラギン酸、及び320位のトレオニン、337位のグリシンからなる群より選択される少なくとも1つがプロリンに置換されていることが好ましい。これらの変異があると、変異箇所における変性状態の構造空間を制限することができると考えられ、耐熱性を向上させることが容易になる。
【0016】
上記の変異のうち、前記配列番号1のアミノ酸配列における、72位のグリシン、114位のグリシン、221位のグリシン、及び291位のグリシンからなる群より選択される少なくとも1つが、アスパラギン、アスパラギン酸、又はセリンに置換されていることが好ましい。これらの変異があると、変異箇所における変性状態の構造空間を制限することができると考えられ、耐熱性を向上させることが容易になる。
【0017】
上記の変異のうち、前記配列番号1のアミノ酸配列における、74位のリジンがアスパラギン酸に置換されていることが好ましい。この変異があると、74位における主鎖と側鎖間の水素結合を安定化することができると考えられ、耐熱性を向上させることが容易になる。
【0018】
本発明の第二実施形態の耐熱性βグルコシダーゼは、配列番号1のアミノ酸配列からなる野生型βグルコシダーゼ1Aの変異体であって、配列番号1のアミノ酸配列における、97位のグリシンのプロリンへの置換、111位のバリンのロイシンへの置換、233位のロイシンのフェニルアラニンへの置換、240位のアスパラギン酸のプロリンへの置換、及び325位のアラニンのプロリンへの置換が少なくとも導入されたアミノ酸配列を有する、多重変異体である。上記の5箇所の変異を有する多重変異体は、後述するように、野生型と比べてその耐熱性が4℃程度向上し得る。
【0019】
上記の多重変異体は、さらに、前記配列番号1のアミノ酸配列における、113位のグルタミン酸のロイシン、フェニルアラニン、又はチロシンへの置換、162位のバリンのイソロイシン、又はロイシンへの置換、220位のグルタミンのチロシンへの置換、250位のメチオニンのロイシンへの置換、288位のロイシンのフェニルアラニンへの置換、407位のアラニンのバリンへの置換、及び459位のヒスチジンのフェニルアラニン、又はチロシンへの置換、からなる群より選択される少なくとも1つの置換が導入されていてもよい。
これらの変異があると、変異箇所における疎水性を強化することができると考えられ、多重変異体の耐熱性をさらに向上させることができる。
【0020】
上記の多重変異体は、さらに、前記配列番号1のアミノ酸配列における、140位のリジンのプロリンへの置換、238位のアスパラギン酸のプロリンへの置換、276位のアスパラギン酸のプロリンへの置換、及び320位のトレオニンのプロリンへの置換、337位のグリシンのプロリンへの置換、からなる群より選択される少なくとも1つの置換が導入されていてもよい。
これらの変異があると、変異箇所における変性状態の構造空間を制限することができると考えられ、多重変異体の耐熱性をさらに向上させることができる。
【0021】
上記の多重変異体は、さらに、前記配列番号1のアミノ酸配列における、72位のグリシンのアスパラギンへの置換、114位のグリシンのアスパラギンへの置換、221位のグリシンのアスパラギンへの置換、及び291位のグリシンのアスパラギンへの置換からなる群より選択される少なくとも1つの置換が導入されていてもよい。
これらの変異があると、変異箇所における変性状態の構造空間を制限することができると考えられ、多重変異体の耐熱性をさらに向上させることができる。
【0022】
上記の多重変異体は、さらに、前記配列番号1のアミノ酸配列における、74位のリジンのアスパラギン酸への置換が導入されていてもよい。
この変異があると、74位における主鎖と側鎖間の水素結合を安定化することができると考えられ、多重変異体の耐熱性をさらに向上させることができる。
【0023】
野生型βグルコシダーゼに導入する変異は、次に説明する分子設計の手法に基づいて選定した。まず、前記配列番号1の野生型βグルコシダーゼの各アミノ酸残基について、その位置の埋もれ度と、主鎖2面角のパターンとで表される「環境」を計算した。次いで、似た「環境」を有するアミノ酸残基を天然のタンパク質構造データベース内から探索し、抽出された複数の天然構造のうち、出現頻度の高いアミノ酸を変異の候補とした。変異の候補が、実際に耐熱性の向上に寄与する程度を、円二色性(CD)による熱安定性解析及び温度上昇後の残存活性試験のうち、少なくともCDを用いて評価した。
【0024】
野生型βグルコシダーゼについて、円二色性(CD)による熱安定性解析を後述する方法で行って算出した変性中点温度T
mは、60.19℃であった。
耐熱性βグルコシダーゼについて、同様にCDによる熱安定性解析を行うことにより算出される変性中点温度T
mは、野生型よりも高く、61.00℃以上が好ましく、62.00℃以上がより好ましく、63.00℃以上がさらに好ましく、64.00℃以上が特に好ましい。この上限値は特に制限されず、例えば100℃程度が目安となる。
【0025】
野生型βグルコシダーゼについて、温度を上昇させたときの残存活性試験を後述する方法で行って算出した変性中点温度T
mは、52.6℃であった。
耐熱性βグルコシダーゼについて、同様に残存活性試験を行うことにより算出される変性中点温度T
mは、野生型よりも高く、54.0℃以上が好ましく、55.0℃以上がより好ましく、56.0℃以上がさらに好ましく、56.5℃以上が特に好ましい。この上限値は特に制限されず、例えば100℃程度が目安となる。
【0026】
また、耐熱性βグルコシダーゼは、野生型βグルコシダーゼの37℃におけるβグルコシダーゼ活性の活性値を100として、温度を上昇させたときの残存活性試験を後述する方法で行い、50℃の高温環境に置かれた後で37℃に戻されたとき、100以上の活性値を維持していることが好ましい。同様に、53℃の高温環境に置かれた後で37℃に戻されたとき、90以上の活性値を示すことが好ましい。
【0027】
また、耐熱性βグルコシダーゼの37℃におけるβグルコシダーゼ活性は、野生型βグルコシダーゼの37℃におけるβグルコシダーゼ活性の活性値を100として、70以上であることが好ましく、80以上であることがより好ましく、90以上であることがさらに好ましく、100以上であることが特に好ましく、110以上であることが最も好ましい。この上限値は特に制限されず、例えば150程度が目安となる。
【0028】
耐熱性βグルコシダーゼの、配列番号1のアミノ酸配列に対する配列同一性は、酵素活性を充分に維持する観点から、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。
ここで、アミノ酸配列同士の配列同一性(相同性)は、2つのアミノ酸配列を、対応するアミノ酸が最も多く一致するように、挿入及び欠失に当たる部分にギャップを入れながら並置し、得られたアラインメント中のギャップを除くアミノ酸配列全体に対する一致したアミノ酸の割合として求められる。アミノ酸配列同士の配列同一性は、当該技術分野で公知の各種相同性検索ソフトウェア、例えばBLASTPにより得られたアライメントを元にした計算によって得られる。
【0029】
耐熱性βグルコシダーゼには、その耐熱性及び酵素活性に影響を与えることが少ない、1若しくは数個(例えば1〜20個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個)の任意のアミノ酸が、欠失(除去)又は付加(挿入)されていてもよい。このような欠失又は付加としては、例えば、N末端又はC末端に対する各種の機能性タグ又は各種のシグナルペプチドの付加、3次構造のループ領域における1若しくは数個の欠失又は付加等が挙げられる。また、セルロース結合ドメイン等の別のドメインや、別のドメインを連結するリンカー領域が耐熱性βグルコシダーゼのN末端側又はC末端側に付加されていても構わない。
【0030】
野生型βグルコシダーゼは、37℃、pH5.0〜5.5付近の条件下で、p−ニトロフェニル−β−D−グルコピラノシド(PNPG)を基質とした加水分解活性を示す。加水分解によって生じたp−ニトロフェノールの量は吸光度の変化量として測定される。
耐熱性βグルコシダーゼは、野生型と同様に37℃、pH5.0〜5.5付近の条件下で、PNPGを基質とした加水分解活性(βグルコシダーゼ活性)を有する。
耐熱性βグルコシダーゼの至適温度は、pH5.0〜5.5付近の条件下で、20〜70℃の範囲内にあることが好ましく、30〜65℃の範囲内にあることがより好ましく、40〜60℃の範囲内にあることがさらに好ましい。
耐熱性βグルコシダーゼの至適pHは、pH5.0〜6.5の範囲内にあることが好ましく、少なくともpH5.0〜6.0の範囲内においてβグルコシダーゼ活性を示すことが好ましい。
【0031】
耐熱性βグルコシダーゼは、βグルコシダーゼ活性以外のセルロース加水分解活性を有していてもよい。その他のセルロース加水分解活性としては、βガラクトシダーゼ活性、キシラナーゼ活性、エンドグルカナーゼ活性、キシロシダーゼ活性、又はセロビオハイドロラーゼ活性等が挙げられる。
【0032】
≪耐熱性βグルコシダーゼの製造等≫
耐熱性βグルコシダーゼの製造方法としては、例えば、そのアミノ酸配列に基づいて化学的に合成する方法、後述のDNAや発現ベクターを用いて、タンパク質発現系によって生産する方法が挙げられる。
タンパク質発現系を用いる方法としては、例えば、野生型βグルコシダーゼルシフェラーゼのDNA配列をベクターに組み込んだプラスミド(テンプレートDNA)を鋳型として、目的の変異を導入したプライマーを用いてPCRを行い、制限酵素等を用いた常法により、目的の変異が導入された耐熱性βグルコシダーゼをコードするDNAを得て、このDNAを含むプラスミドを宿主に形質転換し、培地で培養することにより、耐熱性βグルコシダーゼを得ることができる。
変異の導入は、例えば、Quikchange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene社製)、KOD-plus mutagenesis kit(東洋紡社製)等を用いて常法により行うことができる。
【0033】
本発明のDNAは、本発明の耐熱性βグルコシダーゼをコードする。本発明のDNAは、耐熱性βグルコシダーゼをコードする領域のみを有するものであってもよく、当該領域に加えて、セルロース結合ドメイン、リンカー配列、各種シグナルペプチド、各種タグ等をコードする領域を有していてもよい。
【0034】
本発明の組換えベクターは、本発明の耐熱性βグルコシダーゼをコードするDNAを含む。本発明の組換えベクターとしては、例えば組換えタンパク質を発現するための発現ベクターが挙げられる。
前記発現ベクターは、宿主細胞において、本発明の耐熱性βグルコシダーゼを発現し得る状態で組込まれた組換えベクターである。具体的には、例えば、上流から、プロモーター配列、耐熱性βグルコシダーゼをコードする領域、及びターミネーター配列を有するDNAからなる発現カセットが組込まれている。
前記発現ベクターは、大腸菌等の原核細胞へ導入されるものであってもよく、酵母、糸状菌、昆虫培養細胞、哺乳培養細胞、又は植物細胞等の真核細胞へ導入されるものであってもよい。
前記発現ベクターは、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ビアラホス耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子が組込まれた発現ベクターであることが好ましい。
【0035】
本発明の形質転換体は、本発明の組換えベクターを含み、発現ベクターとして導入されているものが好ましい。この形質転換体中では、耐熱性βグルコシダーゼを発現させ得る。発現ベクターを導入する宿主としては、大腸菌等の原核細胞であってもよく、酵母、糸状菌、昆虫培養細胞、哺乳培養細胞、又は植物細胞等の真核細胞であってもよい。大腸菌の形質転換体を培養することにより、本発明に係る耐熱性βグルコシダーゼを、より簡便かつ大量に生産することができる。一方で、真核細胞内ではタンパク質に糖鎖修飾が施されるため、真核細胞の形質転換体を用いることにより、原核細胞の形質転換体を用いた場合よりも、より耐熱性に優れた耐熱性βグルコシダーゼを生産し得る。また、酵母を用いることにより、耐熱性βグルコシダーゼを培養液中に分泌させ得る。一般に、菌体内に生産される酵素を精製するよりも、菌体外に分泌される酵素を精製する方が容易である。発現ベクターを用いて形質転換体を作製する方法、及び形質転換体を培養する方法は、常法により行うことができる。
【0036】
本発明の耐熱性βグルコシダーゼの製造方法は、前記形質転換体を培養すること(工程)を含む。前記形質転換体内において、耐熱性βグルコシダーゼを恒常的に発現していてもよく、特定の化合物や温度条件等によって発現を誘導してもよい。
前記形質転換体によって生産された耐熱性βグルコシダーゼは、当該形質転換体内に留めた状態で使用してもよく、当該形質転換体から抽出・精製してもよい。
【0037】
前記形質転換体から耐熱性βグルコシダーゼを抽出又は精製する方法は、特に制限されず、常法により行うことができる。例えば、形質転換体を適当な抽出バッファーに浸し、耐熱性βグルコシダーゼを抽出した後、濾過法、遠心分離法等により抽出液と固形残渣に分離する方法が挙げられる。抽出液中の耐熱性βグルコシダーゼは、塩析法、限外濾過法、又はクロマトグラフィー法等の公知の精製方法を用いて精製することができる。
耐熱性βグルコシダーゼを、形質転換体内で分泌型シグナルペプチドを有する状態で発現させた場合には、当該形質転換体の培養液の上清を回収して容易に耐熱性βグルコシダーゼを含む溶液を得ることができる。
【実施例】
【0038】
<耐熱性βグルコシダーゼ遺伝子を含む組換えベクター及び組換え大腸菌の作製>
木材白色腐朽菌(Phanerochaete chrysosporium)に由来するβグルコシダーゼ1Aの変異体を大腸菌において発現させた。
まず、配列番号1のアミノ酸配列をコードするDNAをベースとして、Quik Change法により、V65Iの変異(65位のバリンをイソロイシンに置換)を導入した組換えDNAを得た。この組換えDNAを発現ベクター(pET28a)に組み込み、この発現ベクターを大腸菌BL21Star(DE3)株又は大腸菌Rosetta(DE3)株に導入した形質転換体を常法により得た。
次いで、形質転換した大腸菌を1mLで前培養した後、カナマイシンを加えた250mLのAuto Induction Media又はOvernight Express
TM Autoinduction Instant TB mediaを用い、37℃で6時間、さらに18℃で16時間の条件で本培養を行った。
本培養で得られた菌体から常法によりタンパク質成分を含む抽出液を得て、Niアフィニティカラムを用いた精製法により、目的のアミノ酸置換(V65I)がなされた耐熱性βグルコシダーゼを得た。発現及び精製した耐熱性βグルコシダーゼ(V65I)は、462位のグルタミン酸(E462)のC末端に、さらにLVPRGSHHHHHHのヒスチジンタグが付加されたものである。
【0039】
<円二色性(CD)による熱安定性解析>
緩衝液(1×PBS、pH7.4)に、耐熱性βグルコシダーゼ(V65I)が0.2mg/mL濃度で含まれる試料溶液400μLを準備した。
下記の装置及び条件により、円二色性スペクトルを測定し、装置に付属のソフトウェアを用いて、30〜70℃の範囲(第1転移点)を切り出し、変性領域(例えば54.5〜65℃)を指定して、耐熱性βグルコシダーゼの変性中点温度T
mを算出した。
・測定装置:JASCO J-1500KS CD spectrometer
・測定温度範囲:20℃〜95℃ (温度上昇速度2℃/min)
・測定波長 CD 222 nm
・20℃と95℃時のCDスペクトル測定(積算4回)
・解析ソフトウェア:JASCOスペクトルマネージャ
【0040】
野生型βグルコシダーゼについても同様のCD測定を行い、変性中点温度T
mを求めた。
耐熱性βグルコシダーゼの変性中点温度から野生型βグルコシダーゼの変性中点温度を引いた差△T
mを算出した。△T
mが大きいほど、野生型βグルコシダーゼに比べて耐熱性βグルコシダーゼの耐熱性が向上していると評価した。この結果を表1に示す。
【0041】
<βグルコシダーゼ活性の測定方法>
TOYOBO ENZYMES β-glucosidase from sweet almondを参考に、下記方法で行った。
試薬A:0.1M 酢酸緩衝液(pH5.0)
試薬B:20mM PNPG水溶液
試薬C:0.2M Na
2CO
3水溶液
酵素溶液:100nM耐熱性βグルコシダーゼ(溶媒:1×PBS,pH7.4)
1)試薬A50μLと試薬B25μLの混合液を、37℃、5分間で予備加熱する。
2)酵素溶液25μLを予備加熱した混合液に添加する(反応時の酵素濃度は25nM)。
3)37℃、15分間で酵素反応を行った後、試薬C100μLを反応液に添加してよく混ぜる。
4)反応液の波長405nmの吸光度Aを測定する。
ブランク測定を次のように行う。
5)試薬A50μLと試薬B25μLの混合液を、37℃、5分間で予備加熱する。
6)さらに、混合液を37℃、15分間で保温した後、試薬C100μLを混合液に添加してよく混ぜる。
7)酵素溶液25μLを混合液に添加する(添加後の酵素濃度は25nM)。
8)混合液の波長405nmの吸光度Bを測定する。
上記で測定した吸光度Aから吸光度Bを引いた差を酵素活性値とした。
【0042】
<野生型βグルコシダーゼに対する耐熱性βグルコシダーゼの活性比>
上記の測定方法により37℃で測定した野生型βグルコシダーゼの活性値を1として、耐熱性βグルコシダーゼ(V65I)の活性値を算出した。その結果を表1に示す。
【0043】
[他の単一アミノ酸変異体]
耐熱性βグルコシダーゼ(V65I)の場合と同様にして、G97P、V111L、T148L、L233F、D240P、A325P、V361I、V402Y、の各アミノ酸置換を1つ導入した耐熱性βグルコシダーゼを作製し、その変性中点温度T
mと△T
m等を算出した。その結果を表1に示す。
【0044】
[5重変異体]
耐熱性βグルコシダーゼ(V65I)の場合と同様にして、G97P+V111L+L233F+D240P+A325Pの5つのアミノ酸置換を全て導入した耐熱性βグルコシダーゼ(5重変異体)を作製した。
5重変異体について、上記のCD測定を行い、変性中点温度T
mと、5重変異体の変性中点温度から野生型βグルコシダーゼの変性中点温度を引いた差△T
mを算出した。その結果を表2と、
図1,2に示す。
【0045】
<温度を上昇させた後、常温における酵素活性の残存率を調べる残存活性試験>
緩衝液(1×PBS、pH7.4)に、野生型βグルコシダーゼ又は耐熱性βグルコシダーゼ(5重変異体)が濃度100nMで含まれる試料溶液30μLをそれぞれ準備した。
まず、37℃、pH5.0〜5.5の条件下における野生型βグルコシダーゼ活性(酵素活性値X)を後述の方法で測定した。
次いで、ブロックバスを用いて、耐熱性βグルコシダーゼ(5重変異体)の試料溶液を45.0℃、45.9℃、47.3℃、49.0℃、51.3℃、53.1℃、54.5℃、55.0℃、56.0℃、57.3℃、59.0℃、61.3℃、63.1℃、64.5℃、又は65.0℃まで上昇させ1時間静置した後、常温まで自然に放冷した加熱試料溶液を得た。各加熱試料溶液のβグルコシダーゼ活性(酵素活性値Y)を後述の方法で測定した。
測定後、(酵素活性値Y/酵素活性値X)×100%=残存活性として、横軸に上昇させた温度、縦軸に残存活性率をとり、15点をプロットして結んだグラフを作成し、変性中点温度T
mを求めた。
【0046】
野生型βグルコシダーゼについても同様の測定を行い、上記のグラフに併記して、変性中点温度T
mを求めた。
耐熱性βグルコシダーゼの変性中点温度から野生型βグルコシダーゼの変性中点温度を引いた差△T
mを算出した。△T
mが大きいほど、野生型βグルコシダーゼに比べて耐熱性βグルコシダーゼ(5重変異体)の耐熱性が向上していると評価した。この結果を表2に示す。
【0047】
[6重変異体]
上記の5重変異体(G97P+V111L+L233F+D240P+A325P)をベースとして、さらに下記に示す何れか1つのアミノ酸置換を導入した耐熱性βグルコシダーゼ(6重変異体)を作製し、上記のCD測定を行い、変性中点温度T
mと、6重変異体の変性中点温度から5重変異体の変性中点温度を引いた差△T
mを算出した。その結果を表3に示す。
<さらに導入した6番目のアミノ酸置換>
E113L、E113F、E113Y、V162I、V162L、Q220Y、M250L、L288F、A407V、H459F、H459Y、K140P、D238P、D276PT320P、G337P、G72N、G114N、G221N、G291N、K74D
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
【表4】
【0052】
以上の結果から、本発明にかかる耐熱性βグルコシダーゼは、野生型βグルコシダーゼに比べて何れも△T
mが上昇しており、耐熱性が向上したことが明らかである。