【課題】放電容量及び入出力特性に優れるとともに、サイクル充放電における抵抗の増加が抑制され、サイクル特性にも優れたリチウムイオン電池を得ることができる電極材料、該電極材料の製造方法、該電極材料を用いてなる電極、及び該電極からなる正極を備えたリチウムイオン電池を提供する。
【解決手段】電極活物質の一次粒子及び該一次粒子の集合体である二次粒子と、前記電極活物質の一次粒子及び該一次粒子の集合体である二次粒子を被覆する炭素質被膜とを有する炭素質被覆電極活物質を含む電極材料であって、
前記電極材料を、電子顕微鏡を用いて倍率10万倍で180nm×180nmの視野を任意で10視野観察した際に、遊離カーボンが3個以下であり、かつ、炭素質被膜の厚さの2倍以上の突起が3個以下であることを特徴とする電極材料。
電極活物質の一次粒子及び該一次粒子の集合体である二次粒子と、前記電極活物質の一次粒子及び該一次粒子の集合体である二次粒子を被覆する炭素質被膜とを有する炭素質被覆電極活物質を含む電極材料であって、
前記電極材料を、電子顕微鏡を用いて倍率10万倍で180nm×180nmの視野を任意で10視野観察した際に、遊離カーボンが3個以下であり、かつ、炭素質被膜の厚さの2倍以上の突起が3個以下であることを特徴とする電極材料。
炭素源としてイオン性有機物と、電極活物質及び電極活物質前駆体から選ばれる1種以上と、溶媒とを混合したスラリーを、スプレードライヤーを用いて乾燥、造粒する第一工程と、
前記第一工程で得られた造粒物を非酸化性雰囲気下、600℃以上1000℃以下で熱処理する第二工程とを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電極材料の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[電極材料]
本実施形態の電極材料は、電極活物質の一次粒子及び該一次粒子の集合体である二次粒子と、前記電極活物質の一次粒子及び該一次粒子の集合体である二次粒子を被覆する炭素質被膜とを有する炭素質被覆電極活物質を含む電極材料であって、
前記電極材料を、電子顕微鏡を用いて倍率10万倍で180nm×180nmの視野を任意で10視野観察した際に、遊離カーボンが3個以下であり、かつ、炭素質被膜の厚さの2倍以上の突起が3個以下であることを特徴とする。
【0013】
本実施形態で用いられる電極活物質は、一次粒子及び該一次粒子の集合体である二次粒子で構成される。電極活物質粒子の形状は、特に制限されないが、球状、特に真球状であることが好ましい。電極活物質粒子が球状であることで、電極の充填性が向上し、より密度の高い電極が得やすくなる。また、顆粒体とすることで、本実施形態の電極材料を用いて電極形成用ペーストを調製する際の溶媒量を低減させることができるとともに、電極形成用ペーストの集電体への塗工も容易となる。なお、電極形成用ペーストは、例えば、本実施形態の電極材料と、バインダー樹脂(結着剤)と、溶媒とを混合して調製することができる。
【0014】
本実施形態の電極材料で用いられる電極活物質は、下記一般式(1)で表される電極活物質であることが、高放電容量、高エネルギー密度、安全性及びサイクル安定性の観点から好ましい。
Li
aA
xM
yBO
z (1)
(式中、AはMn、Fe、Co、及びNiからなる群より選択される少なくとも1種、MはNa、K、Mg、Ca、Al、Ga、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo及び希土類元素からなる群より選択される少なくとも一種、BはB、P、Si、及びSからなる群より選択される少なくとも1種、0≦a<4、0<x<1.5、0≦y<1、0<z≦4である。)
【0015】
式中、AはMn、Fe、Co、及びNiからなる群より選択される少なくとも1種であり、中でも、Mn、及びFeが好ましく、Feがより好ましい。
MはNa、K、Mg、Ca、Al、Ga、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo及び希土類元素からなる群より選択される少なくとも一種であり、中でも、Mg、Ca、Al、Tiが好ましい。
BはB、P、Si、及びSからなる群より選択される少なくとも1種であり、中でも、安全性及びサイクル特性に優れる観点から、Pが好ましい。
aは、0以上4未満であり、好ましくは0.5以上3以下、より好ましくは0.5以上2以下であり、特に1が好ましい。xは、0より大きく1.5未満であり、好ましくは0.5以上1以下であり、中でも1が好ましい。yは0以上1未満であり、好ましくは0以上0.1以下が好ましい。zは0より大きく4以下であり、Bの組成により選択される。例えば、Bがリン(P)の場合は、zは4が好ましく、Bがホウ素(B)の場合は、zは3が好ましい。
【0016】
前記一般式(1)で表される電極活物質は、オリビン構造を有することが好ましく、下記一般式(2)で表される電極活物質であることがより好ましく、LiFePO
4や該LiFePO
4において、Feの一部がMnで置換されたLi(Fe
x1Mn
1−x1)PO
4(但し、0<x1<1)であることがさらに好ましい。
Li
aA
xM
yPO
4 (2)
(式中、A、M、a、x、及びyは前記のとおりである。)
【0017】
一般式(1)で表される電極活物質(Li
aA
xM
yBO
z)は、固相法、液相法、気相法等の従来の方法により製造したものを用いることができる。
Li
aA
xM
yBO
zは、例えば、Li源と、A源と、M源と、B源と、水と、を混合して得られるスラリー状の混合物を水熱合成し、得られた沈殿物を水洗して得られる。また、水熱合成により電極活物質前駆体を生成し、さらに電極活物質前駆体を焼成することでも同様の電極活物質が得られる。水熱合成には耐圧密閉容器を用いることが好ましい。
ここで、Li源としては、酢酸リチウム(LiCH
3COO)、塩化リチウム(LiCl)等のリチウム塩及び水酸化リチウム(LiOH)等が挙げられ、酢酸リチウム、塩化リチウム及び水酸化リチウムからなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
A源としては、Mn、Fe、Co、及びNiからなる群より選択される少なくとも1種を含む塩化物、カルボン酸塩、硫酸塩等が挙げられる。例えば、A源がFeである場合、Fe源としては、塩化鉄(II)(FeCl
2)、酢酸鉄(II)(Fe(CH
3COO)
2)、硫酸鉄(II)(FeSO
4)等の2価の鉄塩が挙げられ、塩化鉄(II)、酢酸鉄(II)、及び硫酸鉄(II)からなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
M源としては、同様にNa、K、Mg、Ca、Al、Ga、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo及び希土類元素の塩化物、カルボン酸塩、硫酸塩等を用いることができる。
B源としては、B、P、Si、及びSからなる群より選択される少なくとも1種を含む化合物が挙げられる。例えば、B源がPである場合、P源としては、リン酸(H
3PO
4)、リン酸二水素アンモニウム(NH
4H
2PO
4)、リン酸水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)等のリン酸化合物が挙げられ、リン酸、リン酸二水素アンモニウム、及びリン酸水素二アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0018】
Li源、A源、M源及びB源の物質量比(Li:A:M:B)は、所望する電極活物質が得られ、不純物の生成が無いよう、適宜選択される。
【0019】
電極活物質の結晶子径は、好ましくは30nm以上250nm以下、より好ましくは35nm以上250nm以下、さらに好ましくは40nm以上200nm以下である。結晶子径が30nm以上であると電極活物質表面を炭素質被膜で十分に被覆するために必要な炭素量が抑えられ、また結着剤の量を抑えることができるため、電極中の電極活物質量を増やすことができ、電池の容量を高めることができる。同様に結着力不足による膜剥離を生じにくくすることができる。一方、結晶子径が250nm以下であると電極活物質の内部抵抗が抑えられ、電池を形成した場合に、高速充放電レートにおける放電容量を高めることができる。
なお、前記結晶子径は、X線回折装置(例えば、RINT2000、RIGAKU製)により測定し、得られる粉末X線回折図形の(020)面の回折ピークの半値幅、及び回折角(2θ)を用い、シェラーの式により算出することができる。
【0020】
電極活物質の一次粒子及び該一次粒子の集合体である二次粒子を被覆する炭素質被膜は、該炭素質被膜の原料となる有機物を炭化することにより得られるが、所望の効果を発現するためには、電極活物質粒子表面への吸着能に優れ、電荷反発、立体障害による電極活物質粒子同士の接近を抑制可能なイオン性を有する有機物(イオン性有機物)を用いる。イオン性有機物は、電極活物質粒子の表面に炭素質被膜を形成することができれば特に限定されず、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、カルボン酸変性ポリビニルアルコールの塩、スルホン酸変性ポリビニルアルコールの塩、ポリカルボン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩等が挙げられる。また、市販のイオン性界面活性剤も好適に用いることができる。
【0021】
また、イオン性有機物が有する対イオンの種類は特に限定されないが、不要な金属不純物の混入を避けるため、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオン、ピリジニウムイオンなどが好ましい。また、組成を調整する目的でLiイオンを用いることも可能である。
同様の理由から、アニリン塩、ポリアニリン塩等のポリアミン塩に代表される陽イオン性有機物も好適に用いることができる。また、炭素源として用いる際の対イオンとしては、酢酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン等が好ましい。
【0022】
所望の吸着能を得るために、イオン性有機物のイオン化率は適宜調整すればよい。例えば、ポリカルボン酸塩等の酸性有機物をアルカリ性物質で中和することができる。中和率は、好ましくは30mol%以上である。上限値は特に限定されない。
中和は、アンモニア、有機アミン、アルカリ金属水酸化物等のアルカリを用いて行うことができる。中でも取扱の容易さや、不要な金属の残留するおそれのない点で、アンモニアが好ましい。
同様に、ポリアニリン等の塩基性有機物を酢酸等の酸性物質で中和することも可能である。
【0023】
イオン性有機物と電極活物質粒子との混合が容易で、均一な炭素質被膜の被覆を得るためには、用いるイオン性有機物は溶媒可溶性であることが好ましく、イオンへの解離、取扱いの容易さ、安全性、価格等の点で水溶性であることがより好ましい。
これらのイオン性有機物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0024】
炭素質被膜で被覆された電極活物質(炭素質被覆電極活物質)の一次粒子の平均粒子径は、好ましくは30nm以上250nm以下、より好ましくは50nm以上200nm以下、さらに好ましくは50nm以上150nm以下、よりさらに好ましくは60nm以上100nm以下である。平均粒子径が30nm以上であると、電極作成のために必要な結着剤の量を低減することができ、電極中の電極活物質量を増加させ、電池の容量を高めることができる。また、結着力不足による膜剥離を抑制することができる。一方、平均粒子径が250nm以下であると、十分な高速充放電性能を得ることができる。
ここで、一次粒子の平均粒子径とは、個数平均粒子径のことである。前記一次粒子の平均粒子径は、走査電子顕微鏡(SEM)観察により測定した200個以上の粒子の粒子径を個数平均することにより求めることができる。
【0025】
前記炭素質被覆電極活物質の二次粒子の平均粒子径は、好ましくは0.5μm以上200μm以下、より好ましくは1μm以上150μm以下、さらに好ましくは3μm以上100μm以下である。二次粒子の平均粒子径が0.5μm以上であると電極材料と導電助剤とバインダー樹脂(結着剤)と溶剤とを混合して電極材料ペーストを調製する際、導電助剤及び結着剤が多量に必要となることを抑制できる。これによりリチウムイオン電池の電池容量を高くすることができる。一方、200μm以下であるとリチウムイオン電池の高速充放電における放電容量を高くすることができる。
ここで、二次粒子の平均粒子径とは、体積平均粒子径のことである。前記二次粒子の平均粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置等を用いて測定することができる。
【0026】
前記電極活物質粒子を被覆する炭素質被膜の厚さ(平均値)は、好ましくは0.5nm以上6nm以下、より好ましくは0.8nm以上5nm以下、さらに好ましくは0.8nm以上3nm以下である。炭素質被膜の厚さが0.5nm以上であると炭素質被膜中の電子の移動抵抗の総和が高くなることを抑制できる。これによりリチウムイオン電池の内部抵抗の上昇を抑制でき、高速充放電レートにおける電圧低下を防止することができる。一方、6nm以下であるとリチウムイオンが炭素質被膜中を拡散することを妨害する立体障害の形成を抑制することができ、これによりリチウムイオンの移動抵抗が低くなる。その結果、電池の内部抵抗の上昇が抑えられ、高速充放電レートにおける電圧低下を防止することができる。
なお、前記炭素質被膜の厚さは、透過型電子顕微鏡(TEM)又は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて炭素質被覆電極活物質を撮影し、得られた断面の画像から炭素質被膜の厚さを100箇所測定し、その平均値から求めることができる。
【0027】
前記電極活物質粒子に対する炭素質被膜の被覆率は60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。炭素質被膜の被覆率が60%以上であることで、炭素質被膜の被覆効果が十分に得られる。
なお、前記炭素質被膜の被覆率は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)、エネルギー分散型X線分析装置(Energy Dispersive X−ray microanalyzer、EDX)等を用いて炭素質被覆電極活物質を観察し、電極活物質表面を覆っている部分の割合を算出し、その平均値から求めることができる。
【0028】
炭素質被膜の密度は、好ましくは0.2g/cm
3以上2g/cm
3以下、より好ましくは0.5g/cm
3以上1.5g/cm
3以下である。炭素質被膜の密度とは、炭素質被膜の単位体積当たりの質量である。
炭素質被膜の密度が0.2g/cm
3以上であると炭素質被膜が十分な電子伝導性を示すことができる。一方、2g/cm
3以下であると炭素質被膜中に層状構造からなる黒鉛の結晶が少量であるため、リチウムイオンが炭素質被膜中を拡散する際に黒鉛の微結晶による立体障害が生じない。これにより、リチウムイオン移動抵抗が高くなることがない。その結果、リチウムイオン電池の内部抵抗が上昇することがなく、リチウムイオン電池の高速充放電レートにおける電圧低下が生じない。
【0029】
本実施形態の電極材料に含まれる炭素含有量は、好ましくは0.5質量%以上3.5質量%以下、より好ましくは0.8質量%以上2.5質量%以下、さらに好ましくは0.8質量%以上2.0質量%以下である。炭素含有量が0.5質量%以上であると、電子伝導性を十分に高めることができる。一方、炭素含有量が3.5質量%以下であると、電極密度を高めることができる。
なお、前記炭素含有量は、炭素分析計(例えば、株式会社堀場製作所製、炭素硫黄分析装置:EMIA−810W)を用いて測定することができる。
【0030】
本実施形態の電極材料の比表面積は、好ましくは10m
2/g以上30m
2/g以下、より好ましくは12m
2/g以上28m
2/g以下、さらに好ましくは15m
2/g以上27m
2/g以下である。比表面積が10m
2/g以上であると、十分な高速充放電性能を発現することができる。一方、30m
2/g以下であると、結着剤と導電助剤を多量に含むことなく電極を構成できるため、電池の容量低下を抑制できる。
なお、前記比表面積は、比表面積計(例えば、株式会社マウンテック製、商品名:Macsorb HM model−1208)を用いて窒素(N
2)吸着によるBET1点法により測定することができる。
【0031】
本実施形態の電極材料は、電子顕微鏡を用いて倍率10万倍で180nm×180nmの視野を任意で10視野観察した際に、遊離カーボンが3個以下である。遊離カーボンが3個より多いと電極活物質粒子の被覆に寄与しない低炭素質の炭化物が増えることになり、電池を形成した場合に、該炭化物がサイクル充放電時に分解し、高抵抗化、容量低下を招くおそれがある。このような観点から、遊離カーボンは好ましくは2個以下、より好ましくは1個以下、特に好ましくは0個である。
電子顕微鏡としては、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いることができる。加速電圧は好ましくは10〜200kVである。
なお、遊離カーボンとは、炭素質被覆電極活物質から遊離した不定形の炭素質塊のことをいう。遊離カーボン数は、電極材料を前記条件により電子顕微鏡で観察し、炭素質被覆電極活物質から遊離した不定形の炭素質塊を数えることにより求めることができる。なお、遊離カーボンは、200kVの加速電圧による電子線照射中に変形が観測されるため、炭素質被膜から遊離していない炭素と容易に区別することができる。
【0032】
また、本実施形態の電極材料は、電子顕微鏡を用いて倍率10万倍で180nm×180nmの視野を任意で10視野観察した際に、炭素質被膜の厚さの2倍以上の突起が3個以下である。炭素質被膜の厚さの2倍以上の突起が3個より多いと、電極活物質粒子表面に電子供給に必要以上の炭化物(余剰炭化物)が存在することになり、電池を形成した場合に、該余剰炭化物がサイクル充放電時に分解し、高抵抗化、容量低下を招くおそれがある。このような観点から、炭素質被膜の厚さの2倍以上の突起は好ましくは2個以下、より好ましくは1個以下、特に好ましくは0個である。
なお、炭素質被膜の厚さの2倍以上の突起とは、厚さが炭素質被膜の厚さ(平均膜厚)の2倍以上大きく、その領域の大きさが、突起の厚さの3倍以下のものをいう。
炭素質被膜の厚さの2倍以上の突起数は、電極材料を前記条件により電子顕微鏡で観察し、前記の定義を満たす形状の突起を数えることにより求めることができる。
【0033】
[電極材料の製造方法]
本実施形態の電極材料の製造方法は、炭素源としてイオン性有機物と、電極活物質及び電極活物質前駆体から選ばれる1種以上と、溶媒とを混合したスラリーを、スプレードライヤーを用いて乾燥、造粒する第一工程と、前記第一工程で得られた造粒物を非酸化性雰囲気下、600℃以上1000℃以下で熱処理する第二工程とを有することを特徴とする。
【0034】
(第一工程)
本工程は、炭素源としてイオン性有機物と、電極活物質及び電極活物質前駆体から選ばれる1種以上と、溶媒とを混合したスラリーを、スプレードライヤーを用いて乾燥、造粒する工程である。
イオン性有機物、電極活物質及び/又は電極活物質前駆体としては、それぞれ前記[電極材料]の項で説明したものを用いることができる。
【0035】
炭素源としてイオン性有機物を用いることにより、イオン性有機物と、電極活物質及び電極活物質前駆体から選ばれる1種以上と、溶媒とを混合したスラリーの乾燥、造粒中、及び後述する熱処理中に有機物の移動を抑制することができ、炭素質被膜から有機物(炭化物)が遊離することがなく、炭素質被膜の被覆率を向上させることができる。これにより、被覆に寄与しない、低炭素質の有機物(炭化物)の生成がなく、電極活物質粒子表面に過不足なく有機物(炭化物)が被覆され、良質な炭素質被膜を形成することができる。
また、イオン性有機物の電荷反発と立体障害により、電極活物質粒子同士の接近を抑制し、高温による電極活物質の粒子成長及び焼結が起こりにくくなり、良質な炭素質被膜で被覆された微細な電極活物質粒子が得られる。
【0036】
まず、イオン性有機物と、電極活物質及び電極活物質前駆体から選ばれる1種以上とを溶媒に溶解又は分散させて、混合物を調製する。イオン性有機物と、電極活物質及び電極活物質前駆体から選ばれる1種以上とを溶媒に溶解又は分散させる方法としては、特に限定されないが、例えば、遊星ボールミル、振動ボールミル、ビーズミル、ペイントシェーカー、アトライタ等の分散装置を用いることができる。
【0037】
前記溶媒としては、たとえば、水;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノールおよびジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートおよびγ−ブチロラクトン等のエステル類;ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテルおよびジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトンおよびシクロヘキサノン等のケトン類;ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミドおよびN−メチルピロリドン等のアミド類;ならびにエチレングリコール、ジエチレングリコールおよびプロピレングリコール等のグリコール類等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの溶媒の中で、好ましい溶媒は水である。
なお、必要に応じて分散剤を添加してもよい。
【0038】
イオン性有機物と、電極活物質及び電極活物質前駆体から選ばれる1種以上との配合比は、電極活物質及び電極活物質前駆体から選ばれる1種以上から得られる活物質100質量部に対して、イオン性有機物から得られる炭素質量で、好ましくは0.5質量部以上10質量部以下である。実際の配合量は加熱炭化による炭化量(炭素源の種類や炭化条件)により異なるが、おおむね1質量部から8質量部程度である。
【0039】
また、イオン性有機物と、電極活物質及び電極活物質前駆体から選ばれる1種以上とを溶媒に溶解又は分散する際には、電極活物質及び電極活物質前駆体から選ばれる1種以上を溶媒に分散させた後、イオン性有機物を添加し撹拌することが好ましい。
【0040】
次いで、得られたスラリーを、スプレードライヤーを用いて乾燥、造粒することで、造粒物を得ることができる。
【0041】
(第二工程)
本工程は、第一工程で得られた造粒物を非酸化性雰囲気下、600℃以上1000℃以下で熱処理する工程である。
非酸化性雰囲気としては、窒素(N
2)、アルゴン(Ar)等の不活性雰囲気が好ましく、より酸化を抑えたい場合には水素(H
2)等の還元性ガスを数体積%程度含む還元性雰囲気が好ましい。また、熱処理時に非酸化性雰囲気中に蒸発した有機分を除去する目的で、酸素(O
2)等の支燃性または可燃性ガスを不活性雰囲気中に導入してもよい。
【0042】
熱処理は、600℃以上1000℃以下、好ましくは700℃以上900℃以下、より好ましくは720℃以上900℃以下、さらに好ましくは725℃以上850℃以下の範囲内の温度で、1〜24時間、好ましくは1〜12時間、より好ましくは1〜8時間、さらに好ましくは2〜4時間行う。
熱処理温度が600℃未満では、イオン性有機物の炭化が不十分となり、電子伝導性を高めることができないおそれがあり、1000℃超過では、電極活物質粒子の分解が生じたり、粒子成長を抑制できないおそれがある。
【0043】
本実施形態の製造方法によれば、粒子表面への吸着能に優れたイオン性有機物を炭素質被膜の前駆体として用いることで、被覆性が高くなる。また、電荷反発と、立体障害により、電極活物質粒子同士の接近を抑制することができるため、高温炭化することが可能であり、炭素を過剰に含むことなく、より高電子伝導性の炭素質で被覆された微細で高反応性の電極材料を容易に得ることができるばかりではなく、低炭素質の炭化物を低減させ、サイクル充放電時の低炭素質炭化物の分解による抵抗増加を抑制しうる、優れた炭素質被膜を実現することができる。さらに、ペースト化が容易で塗工性に優れた、顆粒状の電極材料とすることで、サイクル特性に優れたリチウムイオン電池を得ることができる。
【0044】
本実施形態の製造方法は、電極活物質の種類によらず適応可能であるが、低コスト、低環境負荷で、電子伝導性の低いオリビン型リン酸塩系電極材料の製造方法として特に有効である。
【0045】
[電極]
本実施形態の電極は、本実施形態の電極材料を用いてなる。
本実施形態の電極を作製するには、上述の電極材料と、バインダー樹脂からなる結着剤と、溶媒とを混合して、電極形成用塗料又は電極形成用ペーストを調製する。この際、必要に応じてカーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、ケッチェンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛等の導電助剤を添加してもよい。
結着剤、すなわちバインダー樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂、フッ素ゴム等が好適に用いられる。
電極材料とバインダー樹脂との配合比は、特に限定されないが、例えば、電極材料100質量部に対してバインダー樹脂を1質量部以上30質量部以下、好ましくは3質量部以上20質量部以下とする。
【0046】
電極形成用塗料又は電極形成用ペーストに用いる溶媒としては、バインダー樹脂の性質に合わせて適宜選択すればよい。
例えば、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミド、N−メチルピロリドン(NMP)等のアミド類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類等を挙げることができる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0047】
次いで、電極形成用塗料又は電極形成用ペーストを、金属箔の一方の面に塗布し、その後、乾燥し、上述の電極材料とバインダー樹脂との混合物からなる塗膜が一方の面に形成された金属箔を得る。
次いで、塗膜を加圧圧着し、乾燥して、金属箔の一方の面に電極材料層を有する集電体(電極)を作製する。
このようにして、直流抵抗を低下させ、放電容量及び入出力特性に優れるとともに、サイクル充放電における抵抗の増加が抑制され、サイクル特性にも優れたリチウムイオン電池を得ることができる電極を作製することができる。
【0048】
[リチウムイオン電池]
本実施形態のリチウムイオン電池は、本実施形態の電極からなる正極を備える。したがって、本実施形態のリチウムイオン電池は、直流抵抗を低下させ、放電容量及び入出力特性に優れるとともに、サイクル充放電における抵抗の増加が抑制され、サイクル特性にも優れる。
本実施形態のリチウムイオン電池では、負極、電解液、セパレーター等は特に限定されない。例えば、負極としては、金属Li、炭素材料、Li合金、Li
4Ti
5O
12等の負極材料を用いることができる。また、電解液とセパレーターの代わりに、固体電解質を用いてもよい。
【実施例】
【0049】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、実施例に記載の形態に限定されるものではない。
例えば、本実施例では、導電助剤としてアセチレンブラックを用いているが、カーボンブラック、グラファイト、ケッチェンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛などの炭素材料を用いてもよい。また、対極に天然黒鉛を用いた電池で評価しているが、当然ながら人造黒鉛、コークスのような他の炭素材料、Li金属やLi合金等の金属負極、Li
4Ti
5O
12の様な酸化物系負極材料を用いてもよい。また、非水電解液(非水電解質溶液)として1mol/LのLiPF
6を含む、炭酸エチレンと炭酸エチルメチルを体積%で3:7に混合したものを用いているが、LiPF
6の代わりにLiBF
4やLiClO
4、炭酸エチレンの代わりに炭酸プロピレンや炭酸ジエチルを用いてもよい。また、電解液とセパレーターの代わりに固体電解質を用いてもよい。
【0050】
<製造例1:電極活物質(LiFePO
4)の製造>
LiFePO
4の合成は以下のようにして水熱合成で行った。
Li源としてLiOH、P源(B源)としてNH
4H
2PO
4、Fe源(A源)としてFeSO
4・7H
2Oを用い、これらを物質量比でLi:Fe:P=3:1:1となるように純水に混合して200mLの均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量500mLの耐圧密閉容器に入れ、170℃で12時間、水熱合成を行った。この反応後に室温(25℃)になるまで冷却して、沈殿しているケーキ状態の反応生成物を得た。この沈殿物を蒸留水で複数回、十分に水洗し、乾燥しないように含水率30%に保持しケーキ状物質とした。このケーキ状物質を若干量採取し、70℃で2時間真空乾燥させて得られた粉末をX線回折装置(製品名:RINT2000、RIGAKU製)で測定したところ、単相のLiFePO
4が形成されていることが確認された。
【0051】
<製造例2:電極活物質(LiMnPO
4)の製造>
Fe源として、FeSO
4・7H
2Oの代わりにMnSO
4・H
2Oを用い、反応を150℃で12時間の水熱合成とした他は、製造例1と同様にしてLiMnPO
4を合成した。
【0052】
<製造例3:電極活物質(Li[Fe
0.25Mn
0.75]PO
4)の製造>
Fe源として、FeSO
4・7H
2O:MnSO
4・H
2O=25:75(物質量比)の混合物を用いた以外は、製造例2と同様にしてLi[Fe
0.25Mn
0.75]PO
4を合成した。
【0053】
<実施例1>
製造例1で得られたLiFePO
4(電極活物質)20gと、炭素源としてドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム1gとを水に混合し、5mmφのジルコニアボール150gとともにボールミルで粉砕混合して、スラリー(混合物)を得た。
次いで、得られたスラリーを、二流体ノズル型スプレードライヤーを用いて乾燥、造粒した。その後、得られた造粒物を温度750℃で4時間、熱処理を行い、炭素質被覆電極活物質からなる電極材料を得た。
【0054】
<実施例2>
製造例2で得られたLiMnPO
4(電極活物質)19gと、炭化触媒としてLiFePO
4 1g相当の炭酸Li−酢酸鉄(II)−リン酸(Li:Fe:P=1:1:1)混合溶液と、炭素源としてドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム2.5gとを水に混合し、5mmφのジルコニアボール150gとともにボールミルで粉砕混合して、スラリー(混合物)を得た。
次いで、得られたスラリーを、二流体ノズル型スプレードライヤーを用いて乾燥、造粒した。その後、得られた造粒物を温度750℃で4時間、熱処理を行い、炭素質被覆電極活物質からなる電極材料を得た。
【0055】
<実施例3>
製造例3で得られたLi[Fe
0.25Mn
0.75]PO
4(電極活物質)20gと、炭素源としてカルボン酸変性ポリビニルアルコール(クラレ株式会社製、商品名:KL−318)1.2gとを水に混合し、アンモニア水を用いてカルボン酸変性ポリビニルアルコールのカルボキシル基の中和率が100mol%となるように中和した。その後、5mmφのジルコニアボール150gとともにボールミルで粉砕混合して、スラリー(混合物)を得た。
次いで、得られたスラリーを、二流体ノズル型スプレードライヤーを用いて乾燥、造粒した。その後、得られた造粒物を温度750℃で4時間、熱処理を行い、炭素質被覆電極活物質からなる電極材料を得た。
【0056】
<実施例4>
カルボン酸変性ポリビニルアルコール(クラレ株式会社製、商品名:KL−318)のカルボキシル基の中和率を50mol%となるように中和した以外は実施例3と同様にして、炭素質被覆電極活物質からなる電極材料を得た。
【0057】
<実施例5>
製造例3で得られたLi[Fe
0.25Mn
0.75]PO
4(電極活物質)20gと、炭素源としてカルボン酸アンモニウム系界面活性剤(東亜合成株式会社製、商品名:アロンA−6114)1.2gとを水に混合した。その後、5mmφのジルコニアボール150gとともにボールミルで粉砕混合して、スラリー(混合物)を得た。
次いで、得られたスラリーを、二流体ノズル型スプレードライヤーを用いて乾燥、造粒した。その後、得られた造粒物を温度780℃で4時間、熱処理を行い、炭素質被覆電極活物質からなる電極材料を得た。
【0058】
<比較例1>
炭素源としてドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム2.5gの代わりに、ショ糖2.5gを用いた以外は実施例2と同様にして、比較例1の炭素質被覆電極活物質からなる電極材料を得た。
【0059】
<比較例2>
カルボン酸変性ポリビニルアルコール(クラレ株式会社製、商品名:KL−318)を中和せずに用いた以外は実施例3と同様にして、比較例2の炭素質被覆電極活物質からなる電極材料を得た。
【0060】
<比較例3>
カルボン酸変性ポリビニルアルコール(クラレ株式会社製、商品名:KL−318)の代わりに未変性のポリビニルアルコールを用いた以外は実施例3と同様にして比較例3の炭素質被覆電極活物質からなる電極材料を得た。
【0061】
<リチウムイオン電池の作製>
実施例及び比較例で得られた電極材料と、導電助剤としてアセチレンブラック(AB)と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂とを、電極材料:AB:PVdF=90:5:5の重量比で、N−メチルピロリドン(NMP)に混合し、正極材料ペーストとした。得られたペーストを、厚さ30μmのアルミニウム箔上に塗布、乾燥後、所定の密度となるように圧着して電極板とした。
得られた電極板を塗布面の面積が3×3cm
2でその周りにタブしろを有する板状に打ち抜き、タブを溶接して試験電極を作製した。
一方、対極には天然黒鉛を塗布した塗布電極を用いた。セパレーターとしては、多孔質ポリプロピレン膜を採用した。また、非水電解液(非水電解質溶液)として1mol/Lのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)溶液を用いた。なお、このLiPF
6溶液に用いられる溶媒としては、炭酸エチレンと炭酸エチルメチルを体積%で3:7に混合し、添加剤として炭酸ビニレン2%を加えたものを用いた。
そして、以上のようにして作製した試験電極、対極および非水電解液を用いて、ラミネート型のセルを作製し、実施例及び比較例の電池とした。
【0062】
〔電極材料の評価〕
実施例及び比較例で得られた電極材料、及び該電極材料が含む成分について物性を評価した。評価方法は、以下の通りである。なお、結果を表1に示す。
【0063】
(1)電極材料の炭素量
炭素分析計(株式会社堀場製作所製、炭素硫黄分析装置:EMIA−810W)を用いて、電極材料の炭素量(質量%)を測定した。
【0064】
(2)電極材料の比表面積
全自動比表面積測定装置(株式会社マウンテック製、商品名:Macsorb HM model−1208)を用いて、窒素(N
2)吸着によるBET1点法により測定した。
【0065】
(3)電極活物質の結晶子径
X線回折装置(製品名:RINT2000、RIGAKU製)により測定した粉末X線回折図形の(020)面の回折ピークの半値幅、及び回折角(2θ)を用い、シェラーの式により算出した。
【0066】
(4)電極材料の炭素質被膜評価
透過型電子顕微鏡(TEM;(株)日立ハイテクノロジーズ製、型番:HF2000)を用いて加速電圧200kV、倍率10万倍で電極材料を撮影した。得られた断面の画像において、180nm×180nmの視野を任意で10視野観察し、炭素質被膜から遊離した不定形の炭素質塊の数を数え、これを遊離カーボン数とした。
また、同様に、得られた断面の画像において、180nm×180nmの視野を任意で10視野観察し、炭素質被膜の厚さを100箇所測定し、その平均値を炭素質被膜の厚さとした。さらに、得られた断面の画像において、180nm×180nmの視野を任意で10視野観察し、厚さ(T)が前記炭素質被膜の厚さの2倍以上大きく、その領域の大きさがTの3倍以下の突起を数え、これを炭素質被膜の厚さの2倍以上の突起数とした。
なお、実施例3の電極材料を透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影し、得られた断面の画像を
図1に、比較例2の電極材料を透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影し、得られた断面の画像を
図2に示す。
【0067】
〔電極及びリチウムイオン電池の評価〕
実施例及び比較例で得られたリチウムイオン電池を用いて放電容量と充放電の直流抵抗(DCR)を測定した。結果を表1に示す。
【0068】
(1)放電容量
環境温度30℃にて、実施例1のリチウムイオン電池では、カットオフ電圧を2.5−4.1V(vs天然黒鉛)とし、実施例2〜5、及び比較例1〜3のリチウムイオン電池では、カットオフ電圧を2.5−4.2V(vs天然黒鉛)とし、充電電流を1C、放電電流を5Cとして定電流充放電により放電容量を測定した。
【0069】
(2)充放電の直流抵抗(DCR)
リチウムイオン電池について、環境温度25℃にて0.1Cの電流で5時間充電し、充電深度を調整した(充電率(SOC)50%)。SOC50%に調整した電池に、第1サイクルとして「1C充電を10秒→休止10分→1C放電を10秒→休止10分」、第2サイクルとして「3C充電を10秒→休止10分→3C放電を10秒→休止10分」、第3サイクルとして「5C充電を10秒→休止10分→5C放電を10秒→休止10分」、第4サイクルとして「10C充電を10秒→休止10分→10C放電を10秒→休止10分」を、この順で実施し、その際の各充電、放電時10秒後の電圧を測定した。各電流値を横軸に、10秒後の電圧を縦軸にプロットして近似直線を描き、近似直線における傾きをそれぞれ充電時の直流抵抗(充電DCR)、放電時の直流抵抗(放電DCR)とした。
同様に、サイクル試験後のDCR測定を環境温度25℃で実施した。
【0070】
(3)充放電サイクル試験
放電容量、DCRを測定した後、環境温度45℃で、充電及び放電電流を2Cとして300サイクル充放電を実施した。カットオフ電圧は、前記(1)の放電容量測定時と同一とした。
300サイクル後の放電容量及び2サイクル目の放電容量から、下記式(i)によりサイクル維持率を算出した。
サイクル維持率(%)=(300回目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100・・・(i)
【0071】
【表1】
【0072】
(結果のまとめ)
実施例では、炭素質被膜の前駆体として、粒子表面への吸着能に優れ、電荷反発と立体障害により、電極活物質粒子同士の接近を抑制可能なイオン性有機物を用いたことで、高温による電極活物質の粒子成長及び焼結が起こりにくくなり、良質な炭素質被膜で被覆された微細な電極活物質粒子が得られただけでなく、さらに噴霧乾燥により球状の顆粒体を得る際にも、該電極活物質粒子同士の接近を抑制し、粒子成長を起こさずに、微細な粒子からなる電極材料が得られた。
また、
図1に示す実施例3の電極材料を透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影し(倍率10万倍)、得られた断面の画像から、該電極材料では、有機物(炭化物)の遊離がなく、炭素質被膜の厚さの2倍以上の突起も確認されないことが分かる。このように、実施例の電極材料では、有機物(炭化物)の遊離がなく被覆率が向上したことで、被覆に寄与しない、低炭素質の有機物(炭化物)の生成がなく、充放電により分解・高抵抗化することが抑制された。
上記の効果により、炭素質被膜の電子伝導性は十分に向上し、放電容量が増加するとともに、サイクル特性も向上したことが確認できた。
一方、比較例の電極材料は、熱処理に伴う粒子の成長が起こるとともに、噴霧乾燥により球状の顆粒体を得る際にも、有機物(炭化物)の遊離が生じ、電子伝導に寄与しない、低炭素質の有機物(炭化物)が残留し、充放電に伴い分解する。その結果、放電容量が低下するだけでなく、サイクル特性の悪化も見られた。
なお、
図2は比較例2の電極材料を透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影し(倍率10万倍)、得られた断面の画像であるが、該電極材料では、有機物(炭化物)が遊離しており、炭素質被膜の厚さの2倍以上の突起も確認された。