【課題】信号電極の幅を増大させながら信号電極が光導波路や接地電極に実質的に近接することを抑制し、広帯域および低損失の特性の向上と小型化が図られる光導波路素子および光導波路素子を備えた光変調器を提供する。
【解決手段】光導波路30を有する基板11と、光導波路30を伝搬する光波に変調信号を印加する信号電極50および接地電極60とを備えた光導波路素子10であって、光導波路30は、並行する一対の直線光導波路33a、33bを有する光変調部36を有し、信号電極50は、直線光導波路33a、33bの間に配置された帯状の電極本体部51を有する。電極本体部51の幅を20μm以上とし、電極本体部51の幅をWs、電極本体部51と基板11との間に設けられた下地層100における第1の金属層101の幅をW1、第2の金属層102の幅をW2とした場合、Ws≧W1>W2とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年の光変調器には、より一層の高速・大容量の光通信を可能とする上でさらなる広帯域および低損失を実現することに加え、小型化が要求されている。そこで光導波路素子にあっては、信号電極の幅を大きくして断面積を広くすることは広帯域化につながり、また、信号電極と接地電極との間の間隔を狭くすることは小型化を可能とする。
【0007】
しかし、特許文献1に開示されるような基板がXカット型であり、光導波路を間に挟むように配置される電極に特許文献2に開示されるような電極を適用した場合において、信号電極の幅を増大させると、下地層が光導波路に近接する。金属は、光の波長の領域においては複素屈折率を有する物質として振る舞うため、金属からなる下地層が光導波路に近接すると光導波路を伝搬する光が下地層に吸収され、光損失を招くという問題が生じる。
【0008】
そこで本発明は、信号電極の幅を増大させながら信号電極が光導波路や接地電極に実質的に近接することを抑制することができ、結果として広帯域および低損失の特性の向上と小型化が図られる光導波路素子および光導波路素子を備えた光変調器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る光導波路素子は、(1)電気光学効果を有し、光波が伝搬するよう形成された光導波路を有する基板と、前記基板に形成され、前記光導波路を伝搬する光波に変調信号を印加する制御電極と、を備え、前記光導波路は、前記変調信号が印加される並行する一対の直線光導波路を有する少なくとも1つの光変調部を有し、前記制御電極は、信号電極と、前記信号電極の両側にそれぞれ配置された接地電極と、を有し、前記信号電極は、前記一対の直線光導波路の間に配置された帯状の電極本体部を有し、前記直線光導波路は、前記電極本体部と、前記接地電極との間に当たる位置に配置されている光導波路素子において、前記信号電極および前記接地電極は、それぞれ前記基板上に、前記基板の表面に形成された第2の金属層と、前記第2の金属層と前記信号電極および前記接地電極に接合する第1の金属層とを有する下地層を介して形成されており、前記信号電極における少なくとも前記電極本体部は、20μm以上の幅を有し、前記電極本体部の幅をWs、前記電極本体部と前記基板との間に設けられた前記下地層における前記第1の金属層の幅をW1、前記第2の金属層の幅をW2とした場合、Ws≧W1>W2であることを特徴とする。
【0010】
この構成により、本発明に係る光導波路素子は、信号電極の電極本体部の幅が従来よりも大きい20μm以上であるため、それに伴い信号電極の電極本体部の断面積を従来の信号電極よりも大きくすることができる。このため本発明の光導波路素子は、従来よりも広帯域の特性を向上させることができる。なお、信号電極の電極本体部の幅をむやみに大きくすることは光導波路素子の小型化を阻害することになる。したがって本発明では、広帯域化と小型化とをバランスよく両立させる観点から、信号電極の電極本体部の幅は30〜40μm程度を好ましい範囲とする。
【0011】
また、本発明に係る光導波路素子は、信号電極の電極本体部の下地層を構成する第2の金属層の幅W2が電極本体部の幅Wsよりも小さいため、電極本体部の幅Wsを増大させても第2の金属層が光導波路の直線光導波路に近接することを抑制することができる。このため、信号電極の電極本体部の下地層を構成する第2の金属層によって直線光導波路を伝搬する光波が吸収されることを抑制することができる。その結果、本発明に係る光導波路素子は、広帯域および低損失の特性をともに向上させることができる。
【0012】
また、本発明に係る光導波路素子は、信号電極の電極本体部を隣接する接地電極に近付けても、信号電極の電極本体部の下地層を構成する第2の金属層が、隣接する接地電極に近接することを抑制することができる。このため、本発明に係る光導波路素子では、信号電極の電極本体部を隣接する接地電極に近付けることができ、その結果、光導波路素子の小型化を図ることができる。
【0013】
また、本発明に係る光導波路素子は、上述のように信号電極の電極本体部が直線光導波路を伝搬する光波を吸収することを抑制することができるため、下地層と基板との間に、光波の吸収を抑制するバッファ層を必要としない構成とすることが可能である。このため、本発明に係る光導波路素子は、バッファ層を設ける場合と比べると製造コストの低減を図ることができる。
【0014】
また、本発明に係る光導波路素子は、信号電極の電極本体部の幅が従来よりも大きいことにより、基板に対する信号電極の電極本体部の接合面積が従来よりも大きくなる。このため、信号電極の電極本体部が内部応力による歪み発生に起因して基板から剥離することを抑制することができる。
【0015】
本発明に係る光導波路素子は、(2)前記Ws、前記W1、前記W2が、Ws>W1>W2であって、前記電極本体部および前記電極本体部に接合する前記第1の金属層は、それぞれ前記基板側に露出する角部を有する横断面形状を有し、前記電極本体部の前記角部は、R状の横断面形状に形成されていることを特徴とする。
【0016】
この構成により、本発明に係る光導波路素子は、R状の横断面形状に形成された信号電極の電極本体部の角部は、横断面形状が直角形状の場合と比べると、エッジ効果すなわち電界強度の増大に伴う電界集中が起こりにくい。このため、本発明に係る光導波路素子は、導電損失を抑制することができる。
【0017】
また、本発明に係る光導波路素子は、信号電極の電極本体部の角部がR状の横断面形状に形成されていることにより、その電極本体部においては内部応力による歪みの発生が低減する。このため、信号電極の電極本体部が第1の金属層から剥離することを抑制することができる。
【0018】
本発明に係る光導波路素子は、(3)前記Ws、前記W1、前記W2が、Ws>W1>W2であって、前記電極本体部および前記電極本体部に接合する前記第1の金属層は、それぞれ前記基板側に露出する角部を有する横断面形状を有し、前記第1の金属層の前記角部は、R状の横断面形状に形成されていることを特徴とする。
【0019】
この構成により、本発明に係る光導波路素子は、R状の横断面形状に形成された第1の金属層の角部は、横断面形状が直角形状の場合と比べると、上述のエッジ効果が起こりにくい。このため、本発明に係る光導波路素子は、導電損失を抑制することができる。
【0020】
また、本発明に係る光導波路素子は、第1の金属層の角部がR状の横断面形状に形成されていることにより、第1の金属層から第2の金属層にわたる部分が連続的に接合したような形状に形成することができる。このため、第1の金属層においては内部応力による歪みの発生が低減し、その結果、第1の金属層が第2の金属層から剥離することを抑制することができる。
【0021】
本発明に係る光導波路素子は、(4)前記Ws、前記W1、前記W2が、Ws>W1>W2であって、前記電極本体部および前記電極本体部に接合する前記第1の金属層は、それぞれ前記基板側に露出する角部を有する横断面形状を有し、前記電極本体部の前記角部および前記第1の金属層の前記角部は、R状の横断面形状に形成されていることを特徴とする。
【0022】
この構成により、本発明に係る光導波路素子は、R状の横断面形状に形成された信号電極の電極本体部の角部と第1の金属層の角部は、横断面形状が直角形状の場合と比べると、上述のエッジ効果が起こりにくい。このため、本発明に係る光導波路素子は、導電損失を抑制することができる。
【0023】
また、本発明に係る光導波路素子では、信号電極の電極本体部から第1の金属層を経て第2の金属層にわたる部分が連続的に接合したような形状に形成することができる。このため、本発明に係る光導波路素子は、信号電極の電極本体部と第1の金属層においては内部応力による歪みの発生が低減する。その結果、信号電極の電極本体部が第1の金属層から剥離したり第1の金属層が第2の金属層から剥離したりすることを抑制することができる。
【0024】
本発明に係る光導波路素子は、(5)前記Ws、前記W1、前記W2が、Ws=W1>W2であって、前記第1の金属層は、前記基板側に露出する角部を有する横断面形状を有し、前記角部は、R状の横断面形状に形成されていることを特徴とする。
【0025】
この構成により、本発明に係る光導波路素子は、信号電極の電極本体部と第1の金属層の幅が同じであるため、信号電極の電極本体部の基板側の角部は露出せず、基板側に露出する角部は第1の金属層の角部のみである。そしてその第1の金属層の角部がR状の横断面形状に形成されている。このため、内部応力による歪み発生に起因して信号電極の電極本体部が第1の金属層から剥離することを抑制することができるとともに、第1の金属層の角部にエッジ効果が起こりにくく、導電損失を抑制することができる。
【0026】
本発明に係る光導波路素子は、(6)前記Wsと前記W2との差(Ws−W2)が、1〜2μmであることを特徴とする。
【0027】
この構成により、本実施形態に係る光導波路素子では、信号電極の電極本体部の幅Wsと第2の金属層の幅W2との幅の差が大きく相違しない。このため、信号電極の電極本体部から第2の金属層にわたる幅の変位量が僅かであり、連続的な接合形状が得られる。したがって、本発明に係る光導波路素子では、内部応力による歪み発生に起因して信号電極の電極本体部が第1の金属層から剥離したり第1の金属層が第2の金属層から剥離したりすることを抑制することができる。
【0028】
また、第2の金属層の幅が信号電極の電極本体部の幅よりも僅かに小さいため、第2の金属層が基板に接合する面積を十分に確保することができる。このため、基板に対する下地層全体の接合強度を確保することができ、その結果、信号電極の電極本体部が基板から剥離することを抑制することができる。
【0029】
本発明に係る光導波路素子は、(7)前記信号電極および前記接地電極は、電気抵抗率が2.44〜1.59×10
−8Ωmの金属からなり、前記下地層の前記第1の金属層は、電気抵抗率が2.44〜1.59×10
−8Ωmの金属からなり、前記下地層の前記第2の金属層は、電気抵抗率が2.82×10
−8〜4.27×10
−7Ωmの遷移金属からなることを特徴とする。
【0030】
この構成により、本発明に係る光導波路素子では、第1の金属層は信号電極および接地電極と同種のため、信号電極および接地電極に対する第1の金属層の接合強度が高い。一方、第2の金属層は第1の金属層と基板の双方への接合強度が高く、信号電極および接地電極を基板に接合させる糊の機能を好適に果たす。このため、下地層により基板に対する信号電極および接地電極の接合強度を向上させることができる。その結果、本発明に係る光導波路素子では、信号電極および接地電極が基板から剥離することを抑制することができる。
【0031】
本発明に係る光変調器は、(8)上述の本発明に係る光導波路素子と、前記光導波路素子を収納する筐体と、前記光導波路素子に光学的に接続され、前記光導波路素子の前記光導波路に光波を入力する入力側の光伝送手段および前記光導波路から光波を出力する出力側の光伝送手段と、を備えることを特徴とする。
【0032】
この構成により、本発明に係る光変調器は、広帯域および低損失の特性の向上と小型化が図られる光導波路素子を備えた光変調器を提供することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、信号電極の幅を増大させながら信号電極が光導波路や接地電極に実質的に近接することを抑制することができることから、広帯域および低損失の特性の向上と小型化が図られる光導波路素子および光導波路素子を備えた光変調器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態に係る光導波路素子および光導波路素子を備えた光変調器について、図面を参照しつつ説明する。
【0036】
(実施形態)
まず、構成について説明する。
【0037】
図1に示すように、本実施形態に係る光変調器1は、光導波路素子10と、光導波路素子10を収納する筐体20と、を備えている。また、本実施形態に係る光変調器1は、光導波路素子10の後述する光導波路30に光波を入力する入力側の光ファイバ81と、光導波路30から光波を出力する出力側の光ファイバ82と、を備えている。入力側の光ファイバ81は本発明の入力側の光伝送手段を構成し、出力側の光ファイバ82は本発明の出力側の光伝送手段を構成する。
【0038】
筐体20は、ステンレス等の金属からなる直方体状の金属製ケースで構成されている。光導波路素子10は、筐体20内に収納され、図示せぬ蓋体が筐体20に装着されて筐体20内に密封されるようになっている。
【0039】
図2に示すように、本実施形態に係る光導波路素子10は、電気光学効果を有し、光波が伝搬するよう形成された光導波路30を有する基板11と、基板11に形成され、光導波路30を伝搬する光波に変調信号を印加する制御電極40と、を備えている。
【0040】
本実施形態に係る基板11は、平面視が略長方形状の薄板で構成されている。基板11を構成する薄板は、例えば、ニオブ酸リチウム(LiNbO
3)、タンタル酸リチウム(LiTaO
3)、PLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)等の電気光学効果を有する材料を単独、または石英系材料と組み合わせて構成されている。とりわけ、ニオブ酸リチウムの結晶を用いたいわゆるLN基板は、高い電気光学効果を示すことから好適に用いられる。
【0041】
ここで、
図1においてL、Wは、それぞれ光変調器1および光導波路素子10の長手方向および幅方向を示している。以下の説明での長手方向および幅方向は、それぞれこれらL、Wで示す方向をいう。
【0042】
図2に示すように、基板11は、長手方向に延在する一対の側面11a、11bと、側面11a、11bに略直交する一対の端面11c、11dと、を有する。
【0043】
本実施形態に係る基板11は、結晶のZ軸方向が幅方向に沿って延びるXカット型である。
【0044】
本実施形態に係る光導波路30は、並行光導波路33を備えたマッハツェンダ型の配線構造を有する。光導波路30は、ニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウム等の電気光学効果を有する材料ではTi等の熱拡散法やプロトン交換法等で基板11内の表面近傍に形成されている。
【0045】
図2に示すように、本実施形態に係る光導波路30は、制御電極40により変調信号が印加される並行する一対の直線光導波路33a、33bを有する光変調部36を有する。
【0046】
図2に示すように、光導波路30は、入力側光導波路31と、入力側光導波路31に接続された入力側分岐光導波路32と、入力側分岐光導波路32と接続された並行光導波路33と、並行光導波路33に接続された出力側分岐光導波路34と、出力側分岐光導波路34に接続された出力側光導波路35と、を有する。入力側光導波路31、並行光導波路33および出力側光導波路35は、それぞれ長手方向に延在している。
【0047】
入力側分岐光導波路32は、2本の分岐光導波路32a、32bを有する。また、出力側分岐光導波路34は、2本の分岐光導波路34a、34bを有する。
【0048】
並行光導波路33は、一対の直線光導波路33a、33bを有する。一方の直線光導波路33aは、入力側分岐光導波路32の分岐光導波路32aと出力側分岐光導波路34の分岐光導波路34aとに接続している。また、他方の直線光導波路33bは、入力側分岐光導波路32の分岐光導波路32bと出力側分岐光導波路34の分岐光導波路34bとに接続している。
【0049】
本実施形態では、上述した入力側分岐光導波路32、並行光導波路33および出力側分岐光導波路34により、光変調部36が構成されている。
【0050】
本実施形態に係る制御電極40は、信号電極50と、信号電極50の両側にそれぞれ配置された接地電極60とを有する。
【0051】
信号電極50および接地電極60は、電気抵抗率が2.44〜1.59×10
−8Ωmの金属をメッキ等の方法で成膜することにより形成されている。信号電極50および接地電極60を構成する金属としては、例えばAuが好適に用いられる。
【0052】
図2に示すように、信号電極50は、上述の一対の直線光導波路33a、33bの間に配置された長尺な帯状の電極本体部51と、電極本体部51の両端にそれぞれ接続された短尺な2つの電極端部52、53と、を有する。
【0053】
信号電極50の電極本体部51は、一対の直線光導波路33a、33bに沿って延在している。2つの電極端部52、53のうち、一方の電極端部52は基板11の側面11aに向かって幅方向に延在し、他方の電極端部53は基板11の側面11bに向かって幅方向に延在している。
【0054】
各電極端部52、53は、その末端に端子52a、53aをそれぞれ有する。これら端子52a、53aには、信号電極50に変調信号を供給する図示せぬ変調信号供給手段が接続されるようになっている。
【0055】
図2に示すように基板11を平面視した場合において、電極端部52は入力側分岐光導波路32の分岐光導波路32aを横断し、電極端部53は出力側分岐光導波路34の分岐光導波路34bを横断するように形成されている。これら電極端部52、53の幅は、各分岐光導波路32a、34bを伝搬する光波が各電極端部52、53によって吸収されることを抑えるため、電極本体部51の幅よりも小さくなるように設定されている。
【0056】
接地電極60は、側面11a側に配置された第1の接地電極60Aと、側面11b側に配置された第2の接地電極60Bとを有する。
【0057】
第1の接地電極60Aおよび第2の接地電極60Bは同一の構成および形状を有する。すなわち第1の接地電極60Aおよび第2の接地電極60Bは、それぞれ、信号電極50の電極本体部51に沿った長尺な帯状の電極本体部61と、電極本体部の一端に形成された短尺な電極端部62とを有する略L字状に形成されている。第1の接地電極60Aおよび第2の接地電極60Bは、
図2に示すように基板11を平面視した場合において、基板11の中心を対称中心とした点対称に形成されている。
【0058】
各接地電極60A、60Bにおいて、一方の接地電極60Aの電極端部62は出力側光導波路35を間に挟んで分断するように形成され、他方の接地電極60Bの電極端部62は入力側光導波路31を間に挟んで分断するように形成されている。
【0059】
図3(a)に示すように、上述の光導波路30における並行光導波路33の一方の直線光導波路33aは、信号電極50の電極本体部51と、第1の接地電極60Aの電極本体部61との間に当たる位置に配置されている。また、他方の直線光導波路33bは、信号電極50の電極本体部51と、第2の接地電極60Aの電極本体部61との間に当たる位置に配置されている。
【0060】
図3(a)に示すように、本実施形態に係る信号電極50は、基板11上に下地層100を介して形成されている。下地層100は、基板11の表面に形成された第2の金属層102と、第2の金属層102と信号電極50に接合する第1の金属層101とを有する。
【0061】
また、
図3(a)に示すように、本実施形態に係る各接地電極60A、60Bは、それぞれ基板11上に下地層200を介して形成されている。下地層200は、基板11の表面に形成された第2の金属層202と、第2の金属層202と各接地電極60A、60Bに接合する第1の金属層201とを有する。
【0062】
本実施形態においては、下地層100の第1の金属層101および下地層200の第1の金属層201は、それぞれ、信号電極50および各接地電極60A、60Bと同様の金属であって電気抵抗率が2.44〜1.59×10
−8Ωmの金属で構成されている。そのような金属としては、例えばAuが好適に用いられる。
【0063】
また、本実施形態においては、下地層100の第2の金属層102および下地層200の第2の金属層202は、それぞれ、電気抵抗率が2.82×10
−8〜4.27×10
−7Ωmの遷移金属で構成されている。そのような金属としては、例えばCr、Ti、Ni等が好適に用いられる。
【0064】
図3(b)に示すように、本実施形態においては、信号電極50の電極本体部51の幅をWs、信号電極50の電極本体部51の下地層100における第1の金属層101の幅をW1、第2の金属層102の幅をW2とした場合、Ws>W1>W2に設定されている。
【0065】
すなわち、信号電極50の電極本体部51から第1の金属層101、第2の金属層102の順にそれらの幅が段階的に狭くなっている。したがって信号電極50の電極本体部51は、
図3(b)に示すように、基板11側に露出する角部51aが両側に形成された横断面形状を有している。また、第1の金属層101は基板11側に露出する角部101aが両側に形成された横断面形状を有する。
【0066】
信号電極50の電極本体部51の幅Wsは、20μm以上に設定されている。また、第1の金属層101の幅W1は、例えば19μm以上に設定され、第2の金属層の幅W2は、例えば18μm以上に設定されている。
【0067】
また、信号電極50の電極本体部51の厚さは、40μm以上に設定されている。また、第1の金属層101の厚さは、例えば300Åに設定され、第2の金属層の厚さは、例えば1000Åに設定されている。
【0068】
なお、本実施形態では、信号電極50の電極端部52の下地層100を構成する各金属層101、102の幅は、電極本体部51の下地層100と同様に段階的に幅が狭くなっていてもよく、また、電極端部52と同じ幅であってもよい。
【0069】
一方、第1の接地電極60Aおよび第2の接地電極60Bにおける下地層200の第1の金属層201および第2の金属層202の幅は、それぞれ第1の接地電極60Aおよび第2の接地電極60Bの幅と同じ幅に設定されている。
【0070】
ここで、上述の信号電極50および各接地電極60A、60Bを基板11上に形成する方法の一例を、
図4を参照しつつ説明する。
【0071】
図4(a)は、光導波路30が形成された基板11を示し、次の
図4(b)の工程で、基板11の表面に、各第2の金属層102、202を構成する金属層M2を、蒸着等の方法で形成する。次いで、
図4(c)に示すように、各第1の金属層101、201を構成する金属層M1を、蒸着等の方法で形成する。
【0072】
次いで、
図4(d)に示すように、信号電極50、第1の接地電極60Aおよび第2の接地電極60Bの形成領域を残して金属層M1の表面にレジスト膜Rを形成する。次いで、
図4(e)に示すように、レジスト膜Rで覆われていない金属層M1の表面に、信号電極50、第1の接地電極60Aおよび第2の接地電極60Bを構成する電極金属層Eを、メッキ等の方法で形成する。
【0073】
次いで、
図4(f)に示すようにレジスト膜Rを除去して、金属層M1を露出させる。この工程により、電極金属層Eは、信号電極50、第1の接地電極60Aおよび第2の接地電極60Bに形成される。この後、
図4(g)に示すように、金属層M1の露出部分をエッチングして各第1の金属層101、201を形成し、次いで
図4(h)に示すように金属層M2の露出部分をエッチングして各第2の金属層102、202を形成する。
【0074】
図1に示すように、本実施形態に係る光変調器1においては、光導波路素子10に、筐体20を貫通する入力側の光ファイバ81と出力側の光ファイバ82が光学的に接続されている。入力側の光ファイバ81は光導波路30の入力側光導波路31に接続され、出力側の光ファイバ82は光導波路30の出力側光導波路35に接続されている。
【0075】
本実施形態に係る光変調器1では、入力側の光ファイバ81から光導波路素子10の入力側光導波路31に光波が入力されるようになっている。入力側光導波路31に入力した光波は、入力側分岐光導波路32により並行光導波路33を構成する一対の直線光導波路33a、33bに分波し、次いで出力側分岐光導波路34を経て出力側光導波路35に合波するようになっている。そして出力側光導波路35を伝搬する光波が、出力側の光ファイバ82から出力されるようになっている。
【0076】
上述のようにして光導波路30を伝搬する光波においては、光変調部36、すなわち入力側分岐光導波路32、並行光導波路33および出力側分岐光導波路34を伝搬する間に、信号電極50および各接地電極60A、60Bから電界が印加される。これにより光変調部36を伝搬する光波が変調されるようになっている。光波の変調方式としては、例えば強度変調や位相変調等がある。
【0077】
図5は、信号電極50の電極本体部51から電気力線41が基板11内を通過して第1の接地電極60Aおよび第2の接地電極60Bの各電極本体部61にかかり、光導波路30の各直線光導波路33a、33bに電界が印加されている状態を示している。同図に示すように本実施形態では、基板11の結晶のZ軸方向にほぼ沿って電気力線41が通過する位置、すなわち信号電極50の電極本体部51と各接地電極60A、60Bの各電極本体部61との間に、各直線光導波路33a、33bがそれぞれ配置されている。このような配置により印加電界が各直線光導波路33a、33bに有効に作用し、これにより光変調器1の変調を効率的にできるようになっている。
【0079】
本実施形態に係る光導波路素子10は、信号電極50の電極本体部51の幅が従来よりも大きい20μm以上であるため、それに伴い電極本体部51の断面積を従来の信号電極よりも大きくすることができる。このため本実施形態に係る光導波路素子10は、従来よりも広帯域の特性を向上させることができる。
【0080】
なお、信号電極50電極本体部51の幅をむやみに大きくすることは光導波路素子10の小型化を阻害することになる。したがって本実施形態では、広帯域化と小型化とをバランスよく両立させる観点から、電極本体部51の幅は30〜40μm程度を好ましい範囲とする。
【0081】
また、本実施形態に係る光導波路素子10は、信号電極50の電極本体部51の下地層100を構成する第2の金属層102の幅W2が電極本体部51の幅Wsよりも小さい。このため、電極本体部51の幅Wsを増大させても第2の金属層102が各直線光導波路30a、30bに近接することを抑制することができる。したがって第2の金属層102によって各直線光導波路30a、30bを伝搬する光波が吸収されることを抑制することができる。その結果、本実施形態に係る光導波路素子10は、広帯域および低損失の特性をともに向上させることができる。
【0082】
また、本実施形態に係る光導波路素子10は、信号電極50の電極本体部51を隣接する各接地電極60A、60Bの各電極本体部61に近付けても、第2の金属層102がそれら各電極本体部61に近接することを抑制することができる。このため、本実施形態に係る光導波路素子10では、信号電極50の電極本体部51を隣接する各接地電極60A、60Bの各電極本体部61に近付けることができ、その結果、光導波路素子10の小型化を図ることができる。
【0083】
また、本実施形態に係る光導波路素子10は、上述のように信号電極50の電極本体部51が各直線光導波路33a、33bを伝搬する光波を吸収することを抑制することができる。このため、各下地層100、200と基板11との間に、光波の吸収を抑制するバッファ層を必要としない構成とすることが可能である。このため、本実施形態に係る光導波路素子10は、バッファ層を設ける場合と比べると製造コストの低減を図ることができる。
【0084】
また、本実施形態に係る光導波路素子10は、信号電極50の電極本体部51の幅が従来よりも大きいことにより、基板11に対する信号電極50の電極本体部51の接合面積が従来よりも大きくなる。このため、信号電極50の電極本体部51が内部応力による歪み発生に起因して基板11から剥離することを抑制することができる。
【0085】
また、本実施形態に係る光導波路素子10は、信号電極50および接地電極60は、電気抵抗率が2.44〜1.59×10
−8Ωmの金属からなる。そして、各下地層100、200の各第1の金属層101、201は、電気抵抗率が2.44〜1.59×10
−8Ωmの金属からなり、各第2の金属層102、202は、電気抵抗率が2.82×10
−8〜4.27×10
−7Ωmの遷移金属からなる。
【0086】
この構成により、各第1の金属層101、201は、それぞれ信号電極50および接地電極60と同種のため、信号電極50および接地電極60に対する接合強度が高い。一方、各第2の金属層102、202は、それぞれ各第1の金属層101、201と基板11に対する接合強度がともに高く、信号電極50および接地電極60を基板11に接合させる糊の機能を好適に果たす。このため、本実施形態に係る光導波路素子10にあっては、下地層100により基板11に対する信号電極50および接地電極60の接合強度を向上させることができる。その結果、信号電極50および接地電極60が基板11から剥離することを抑制することができる。
【0087】
(変形例)
以下、上述した実施形態において信号電極50の電極本体部51や下地層100の横断面形状を異ならせた光導波路素子10の変形例を説明する。この変形例において、上述した構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付してそれらの説明は省略し、相違点のみを説明する。
【0088】
(変形例1)
図6(a)に示す変形例1では、信号電極50の電極本体部51の幅Wsと、下地層100における第1の金属層101の幅W1と、第2の金属層の幅W2との関係は、上述の実施形態と同様にWs>W1>W2に設定されている。そしてこの変形例1では、信号電極50の電極本体部51の基板11側に露出する両側の角部51aが、それぞれR状の横断面形状に形成されている。電極本体部51の角部51aをR状に形成する方法としては、例えばエッチングで角部51aを選択的に浸食させる方法などが挙げられる。
【0089】
この変形例1では、信号電極50の電極本体部51の角部51aは、横断面形状が直角形状の場合と比べると、エッジ効果すなわち電界強度の増大に伴う放電集中が起こりにくい。このため、この変形例1に係る光導波路素子10は、導電損失を抑制することができる。
【0090】
また、この変形例1では、信号電極50の電極本体部51の角部51aがR状の横断面形状に形成されていることにより、信号電極50の電極本体部51においては内部応力による歪みの発生が低減する。このため、信号電極50の電極本体部51が第1の金属層101から剥離することを抑制することができる。
【0091】
(変形例2)
図6(b)に示す変形例2では、信号電極50の電極本体部51の幅Wsと、下地層100における第1の金属層101の幅W1と、第2の金属層102の幅W2との関係は、上述の実施形態と同様にWs>W1>W2に設定されている。そしてこの変形例2では、第1の金属層101の基板11側に露出する両側の角部101aが、それぞれR状の横断面形状に形成されている。第1の金属層101の角部101aをR状に形成する方法としては、例えば
図4(h)で示した第2の金属層102をエッチングにより形成する工程において、角部101aがR状に形成されるようにエッチングで浸食させる方法などが挙げられる。
【0092】
この変形例2では、第1の金属層101の角部101aは、横断面形状が直角形状の場合と比べると、上述のエッジ効果が起こりにくい。このため、この変形例2に係る光導波路素子10は、導電損失を抑制することができる。
【0093】
また、この変形例2では、第1の金属層101の角部101aがR状の横断面形状に形成されていることにより、第1の金属層101から第2の金属層102にわたる部分が連続的に接合したような形状に形成することができる。このため、第1の金属層101においては内部応力による歪みの発生が低減し、その結果、第1の金属層101が第2の金属層102から剥離することを抑制することができる。
【0094】
(変形例3)
図6(c)に示す変形例3では、信号電極50の電極本体部51の幅Wsと、下地層100における第1の金属層101の幅W1と、第2の金属層102の幅W2との関係は、上述の実施形態と同様にWs>W1>W2に設定されている。そしてこの変形例3では、信号電極50の電極本体部51の基板11側に露出する両側の角部51aと、基板11側に露出する第1の金属層101の両側の角部101aの双方が、R状の横断面形状に形成されている。
【0095】
この変形例3では、信号電極50の電極本体部51の角部51aと第1の金属層101の角部101aの双方がR状の横断面形状を有するため、これら角部51a、101aでのエッジ効果が起こりにくい。このため、この変形例3に係る光導波路素子10は、上述の変形例1、2と比べると、導電損失をより抑制することができる。
【0096】
また、この変形例3では、信号電極50の電極本体部51から第1の金属層101を経て第2の金属層102にわたる部分が連続的に接合したような形状に形成することができる。このため、信号電極50の電極本体部51と第1の金属層101においては内部応力による歪みの発生が低減する。その結果、信号電極50の電極本体部51が第1の金属層101から剥離したり第1の金属層101が第2の金属層102から剥離したりすることを抑制することができる。
【0097】
(変形例4)
図6(d)に示す変形例4では、信号電極50の電極本体部51の幅Wsと、下地層100における第1の金属層101の幅W1と、第2の金属層102の幅W2との関係は、上述の実施形態と異なりWs=W1>W2に設定されている。すなわち、信号電極50の電極本体部51と第1の金属層101の幅は同じであり、第2の金属層102の幅のみが、電極本体部51および第1の金属層101の幅より小さいものとなっている。そしてこの変形例4では、第1の金属層101の基板11側に露出する両側の角部101aが、R状の横断面形状に形成されている。
【0098】
この変形例4では、信号電極50の電極本体部51と第1の金属層101の幅が同じであるため、電極本体部51の基板11側の角部51aは露出せず、基板11側に露出する角部は第1の金属層101の角部101aのみである。そしてその第1の金属層101の角部101aがR状の横断面形状に形成されている。このため、信号電極50の電極本体部51が内部応力による歪み発生に起因して第1の金属層101から剥離することを抑制することができるとともに、第1の金属層101の角部101aにエッジ効果が起こりにくく、導電損失を抑制することができる。
【0099】
(変形例5)
図7に示す変形例5では、信号電極50の電極本体部51の幅Wsと、下地層100における第1の金属層の幅W1と、第2の金属層の幅W2との関係は、上述の実施形態と同様にWs>W1>W2に設定されている。そしてこの変形例5では、電極本体部51の幅Wsと第2の金属層102の幅W2との差(Ws−W2)が、1〜2μm程度に設定されている。
【0100】
この変形例5では、信号電極50の電極本体部51の幅Wsと第2の金属層102の幅W2との幅の差が大きく相違しない。このため、電極本体部51から第2の金属層102にわたる幅の変位量が僅かであり、連続的な接合形状が得られる。このため、この変形例5では、信号電極50の電極本体部51が内部応力による歪み発生に起因して第1の金属層101から剥離したり第1の金属層101が第2の金属層102から剥離したりすることを抑制することができる。
【0101】
また、第2の金属層102の幅は電極本体部51の幅よりも僅かに小さいものであるため、第2の金属層102が基板11に接合する面積を十分に確保することができる。このため、基板11に対する下地層100全体の接合強度を確保することができるので、信号電極50の電極本体部51が基板11から剥離することを抑制することができる。
【0102】
なお、上記各実施形態の光導波路素子10は、光変調部36が1つであったが、本発明はこれに限定されず、入力側光導波路31および出力側光導波路35に対して接続される光変調部36を2つ以上備えた構成の光導波路素子であってもよい。